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最近の裁判例から
⑴−停止条件付売買契約−
借地権譲渡承諾の停止条件は成就しなかったとして、買主が売主に対し求めた建物引渡し等の請求が棄却された事例
(東京地判 令 2・2・14 ウエストロー・ジャパン) xx x
借地権の譲渡承諾を停止条件とする借地権付建物売買において、買主が売主に対し、主位的に、停止条件が成就し売買契約が成立したとして建物の引渡し等を求め、予備的に、売主の表明保証特約違反の債務不履行による違約金等の支払いを求めた事案において、停止条件の不成就により契約は成立しておらず、売主に債務不履行もないとして、買主の請求が全て棄却された事例(東京地裁 令和 2年2月14日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
売主Y(被告)は、ビルの1階部分の一部を成す借地権(敷地賃貸人C)付き区分所有建物(本件建物)を所有していた。なお、本件建物は隣接マンションと通路によって接続していたが、接続部分の一部は隣接マンションの敷地に越境(越境部分)していた。
平成27年8月25日、Yは、X(原告)との間で、売買金額2億2000万円、残金日を同年 10月30日とする売買契約を締結した。
なお、契約書には、売主は同年10月30日の借地権譲渡承諾書取得期限(承諾期限)までにCの書面等による承諾を得なければならず、同承諾が得られた場合、本契約は締結日に遡って効力を生ずるものとする停止条件の記載があり、また、特約として①承諾期限までに、売主が承諾を得られない場合は、同期限を同年12月22日まで延長する。②売主は、賃借人を含む第三者と係争がないことを表明保証する旨の記載があった。
同年9月30日、Y側の媒介業者からの借地権の譲渡承諾の要望に対し、Cは、承諾料 1500万円の支払いと引換えに承諾すること等の条項が記された借地権譲渡承諾契約書の案文をメールで返信した。
同年10月1日、Xから、隣接マンションの管理組合の総会議事録に、越境部分に関する明渡し請求等の決議がされた旨の記載があり、調査等の必要があるとの申し出により、残金日は同年12月22日に延期された。
同年12月7日、Xは、管理組合が越境部分に関して訴訟提起を準備していることが、表明保証特約違反に当たるとして、Yに売買代金の10%減額を求めたが、Yは、同特約違反の事実はないとして、Xの求めに応じられない旨回答し、協議は物別れに終わった。その後も、Ⅹは、売買代金の減額等を求め、Yと複数回の協議を行ったが進展はなかった。
平成29年11月24日、Yは、Xに対し、契約はCの承諾が得らぬまま承諾期限を経過したことで終了すると考えられる旨指摘し、Yの違約を前提とする協議に応じる意向はないとして、本件契約の白紙解除を求めた。
平成30年1月、Xは、Yに対し、契約に従った内容の決済を提案したが、Yが提案を拒否したため、Xは、本件建物の引渡し等を求める訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全て棄却した。
(借地権の譲渡承諾は得られたかについて) Cが作成した借地権譲渡承諾契約書案によ
ると、Cの承諾は同契約書の取り交わしと承諾料の支払いにより、初めて得られるものであったと認められるが、これら事実がないから、借地権譲渡の承諾は、平成27年12月22日の承諾期限には得られていなかったと認めざるを得ない。
Xは、同日以降、期限の定めなく承諾期限を延長する旨を黙示的に合意したとも主張するが、同日が経過した当時、Xは、Yの表明保証特約違反等に基づき、契約は解除されたと主張しており、契約存続を前提に承諾期限を延長する意思を有していたと認めることはできず、XとY間で承諾期限延長の意思の合致が黙示的にすらあったとは認められない。
以上のとおり、平成27年12月22日の時点で、借地権の譲渡承諾は得られていなかったから、契約は、停止条件特約に従い、同日の経過により、効力を生じないことが確定したと認めることができる。
(民法130条による停止条件成就について) Xは、Yが、Cからの承諾の取得を一方的
に打ち切り、停止条件の成就を妨げたから、停止条件は成就したものとみなされると主張するが、民法130条に基づき、停止条件が成就したとみなすことができるためには、Yの行為がxxxに反すると認められる必要があると解される。
Yが借地権の譲渡承諾を得るに至らなかったのは、Xが、越境部分に関して管理組合との間に係争があることが、Yの表明保証特約違反に当たるとして、契約を解除する旨の意思表示をしたことが発端であると認められる。
しかし、Xの指摘する管理組合の決議は、 Yと管理組合との間の越境部分に関する係争の存在を裏付けるものではなく、契約締結当時、Yが、越境部分に関して管理組合との間
で係争関係にあったとは認められない。 Yには表明保証特約違反があったとは認め
らないにもかかわらず、Xは、同特約違反があると指摘した上、Yに対し契約解除の意思表示を行い、売買代金の減額を求めるなどした結果、Yは、借地権の譲渡承諾を得ることを見合わせるに至ったと言え、Yが同承諾を得られなかったことにxxxに反する事情があったとは認められないから、民法第130条に基づき停止条件が成就したものとみなすことはできない。
契約は、停止条件の不成就により、その効力が生じないことが確定しており、停止条件の成就を擬制すべき事情もあるとはいえないから、契約が存続していることを理由とする引渡し等の主位的請求と、契約の債務不履行を理由とする違約金支払い等の予備的請求は、いずれも理由がない。
3 まとめ
本件は借地権譲渡承諾を停止条件とする契約において、表明保証特約の違反についての疑義により、売主が同承諾取得の手続きを停止する中、同承諾の取得期限日を経過し紛争となった事例であるが、裁判所は、底地権者作成の譲渡承諾契約書案を停止条件が成就しなかったとの判断材料としていることから、不動産取引において、第三者の承諾を停止条件とする契約では、第三者の承諾条件を明記した書面等が重要であること示唆した判決として参考とされたい。
また、建築条件付土地売買契約において停止条件の成就を争った事例(東京地判 平28・ 11・25)もあるので、こちらも参考とされたい。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑵−売買契約及び手付解除期限条項の有効性−
売主業者の売買契約の手付解除期限条項がxx業法違反により無効とされた事例
(東京地判 令 2・1・30 ウエストロー・ジャパン) xx xx
分譲マンションの地下駐車場を保有している売主業者が、買主であるマンション管理会社に対し、残代金支払期限を徒過したとして違約金等を求めたが、売買契約は無権代理により無効であり、仮に有効でも手付解除期限条項はxx業法違反により無効として、その請求を棄却した事例(東京地裁 令和2年1月30日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成21年3月、Ⅹ(原告:xx業者)は、 Y(被告:管理組合法人)が管理する共同住宅(本件マンション)の地下駐車場部分(本件駐車場)の共有持分17分の16とP号室を前所有者より購入した。
Xは、同年10月に、本件駐車場の区分所有権に基づいて、Yに対し、①契約者以外の本件駐車場への立ち入りの禁止、②契約者以外の者が事故に遭遇した場合、Yの責任で解決する義務があることの確認、③不法行為に基づく損害賠償請求等の支払を求める訴訟を提起したが、いずれも却下された。
Y代表者は、平成29年11月頃、本件駐車場が売りに出ていることを知り、新買主とトラブルになることを恐れ、Yにおいて本件駐車場を購入することを考えて、Yの理事2人に連絡したが、同意は得られず、理事会も開催されなかった。
Y代表者は、同年11月28日に、Xに本件駐車場の購入希望を伝えると、別の不動産業者が購入の意向を示しており、決済が12月の予
定であるとのことだった。
そこで、翌日の11月29日に、Y代表者は、 Xを訪れ、本件駐車場の売買代金を9,980万円とすることに合意し、Y代表者の個人資金 100万円を手付金としてYに交付し、売買契約(本契約)を締結した。その際、Yは、Xから重要事項説明書の交付を受けておらず、その説明も行われなかった。
<本契約の概要>
・売買代金:9,980万円( 外税)、手付金: 100万円、残金決済日:12月末日限り
・手付解除期間:契約締結日から5日間
・違約金:売買代金総額の20% Y代表者は、同年12月5日、Yの理事を招
集し、経緯を説明した上で本契約締結について承諾を得ようとしたが、本件マンションの管理費の積立金が9,000万円前後で売買代金に満たず、ローン条項がないため、理事会として認められないとの指摘を受けた。
Y代表者は、ローン条項について、Xとの間で覚書を交わそうと考え、弁護士に相談して覚書案を作成し、Xに相談したが、覚書の締結を断られた。その後、Y代表者は、金融機関7行を回ったが、いずれも融資を断られ、 Xから通知書が届いたため、他の理事と相談して、YからXに対して、手付放棄による契約解除の通知を行った。
Xは、Yに対し、売買契約について理由なく残代金支払期限を徒過したとして、違約金及び遅延損害金の支払を求め、本訴を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。
(本契約の有効性) Yの理事会や総会において本契約の締結に
ついて承認決議がなされたと認めるに足りる証拠はなく、Y代表者は、理事会や総会の決議を経ずに、本契約を締結していることからすれば、本契約は、権限を有しないY代表者により締結されたものとして、無権代理により本契約は無効である。
Xは、xx業者であるから、本契約の締結にあたっては高度の注意義務が課されているといえ、本契約の締結にあたり、Yの理事会決議や総会決議の有無について、Y代表者の発言を漫然と信じたということであれば、過失があるといわざるを得ない。
したがって、Y代表者が本契約を締結するについて権限があると信ずべき正当な理由が Xにあったとは認められず、表見代理は成立しない。
(手付解除の有効性)
xx業者は、自らが売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄して契約の解除をすることができる(xx業法39条2項)が、同条2項の規定に反する特約で買主に不利なものは無効とされている。そして、Xはxx業者であり、契約日から5日以内と限定した本契約の手付解除期限条項は、買主に不利な条項であるから、無効である。Xは、5日間という期間は、Y代表者も納得していたと主張するが、xx業法の定めは買主保護の観点から、特にxx業者が売主の場合、手付解除期間を短くする合意があったとしてもそれを無効とする規定であるから、仮にY代表
者が納得していたとしても有効となるものではない。
そして、Yは、平成29年12月28日付の内容証明郵便により、手付金100万円を放棄して本契約を解除する旨の意思表示をしているから、この時点で、本契約は手付解除されたものと認めることができる。Xは、12月28日の手付放棄解除の時点で、Xが「履行の着手」をしていたと主張するが、本契約のように制限物権のない物件の売買においては、予め制限物権を解除しておくといったような準備行為自体しえないことから、Xの主張は採用できない。
3 まとめ
本判決では、売主がxx業者であるにもかかわらず、契約日から5日以内と限定した契約の手付解除期限条項が、xx業法第39条第 3項により、無効と判断されている。
裁判所の判示にあるように、xx業法は、買主保護の観点から、xx業者が売主の場合、手付解除期間を短くする合意があったとしても、それを無効とする規定なので、買主が納得していたとしても有効ではないと判断されることになる。
xx業者は、自らが売主となる取引においては、xx業法の定めに従い、買主保護を念頭に置いて、不動産取引の条項等の取り決めを行うことが重要である。
また、手付解除期限条項を設けたxx業者
(売主・媒介)に対する行政庁の処分事例も見られるので、参考にされたい。
同様に、売主業者の手付解除期限特約がxx業法違反により無効とされた事例として東京地裁 平28.10.11 RETIO117-116がある。
(元調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑶−瑕疵担保責任特約条項−
取り壊し予定の建物に存する石綿が隠れた瑕疵に当たるとして瑕疵担保責任に基づく賠償請求が認められた事例
(東京地判 令 2・3・27 ウエストロー・ジャパン) xx xxx
中高層建物を開発・分譲する目的で土地建物を購入した不動産業者が、取壊し予定の建物から石綿が発見されたとして、瑕疵担保責任特約に基づき、売主個人に対してその除去費用の支払いを求めた事案において、本件特約の解釈上、隠れた瑕疵に当たるとして請求金額全額が認容された事例(東京地裁 令和 2年3月27日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主X(原告・xx業者)は、平成27年7月21日、中高層建物を開発・分譲する目的で、本件土地及び建物(本物件)を2億7000万円で個人Aから買い受ける売買契約を締結し、平成28年3月30日に引渡しを受けた。
(本件売買契約特約)
・Aは本物件を現状有姿にてXに引き渡す。
・本物件に地中障害物、土壌汚染物質による汚染、産業廃棄物等の隠れた瑕疵(原告が本物件を購入する目的を達成するために除去する必要のある地中杭等の地中埋設物、土壌汚染対策法等の法令に定める有害物質等を含むが、これに限られない。)の存在が明らかになった場合は、AはXの損害を補填する。
・商法第526条及び民法第570条が準用する同法第566条3項の規定は適用しない。
平成29年4月25日、Xが本件建物の解体を行うために本件建物の石綿建材分析調査を実施したところ、飛散性が最も高い「レベル1」の石綿含有建材が検出された。
Aは、平成29年5月19日に死亡した。 Xは、平成30年6月1日以降、Aの相続人
Yら(被告・5人)に本件瑕疵担保責任に基づく損害賠償として本件石綿除去費用658万円余の支払いを求めたが、Yらは、「①本件瑕疵担保責任条項は、地中障害物の存在による瑕疵に限定して定めたものであり、建物については、現状有姿による引渡しにより完結する。②Xの請求は、石綿の存在を知ってから1年以上経過しており、除斥期間が経過している。」などと主張して支払いを拒否したため、Xが提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全額認容した。
(石綿が瑕疵に当たるか)
本件瑕疵担保責任特約条項は、本件土地と本件建物を併せて「本物件」と定義しており、 Xが本物件を購入する目的、すなわち、本物件及びその近接土地上において、共同住宅等の中高層建物を建設し、分譲等を行う目的を達成するために除去する必要がある障害が存在する場合には、本件土地に限らず担保責任を負う趣旨であると文理上も解され、建物を敢えて本件瑕疵担保責任の範囲から外すこととすべき実質的理由は認められないし、例示についても、あくまで具体的かつ一般的に想定できるものを列挙したに過ぎない。
石綿含有建材が発見された以上は、一定の費用をかけてでも石綿の飛散防止や除去等の
対策を講じなければならないものであり、本件瑕疵担保責任における瑕疵と認められる。
(本件瑕疵が「隠れた」ものであるか)
本件売買契約の重要事項説明書においては
「石綿使用調査結果の記録の有無」欄に「不明」と記載されており、Xが本件契約締結前に石綿の含有を具体的に予見することは困難であり、これを前提として、本件建物に石綿を含有する建材が使用されている危険は本件瑕疵担保責任により担保するものとして合意されたと見るのが相当である。
また、売買の対象となる個々の建物に実際に石綿含有建材が用いられているか否かは、外観から明らかになるものではなく、Xはxx業者ではあるものの、石綿については専門的・具体的な調査が可能な業者であるとは認められないし、本件売買契約締結前に特別な努力と方法を必要とする検査を実施すべき立場にあったとはいえないから、本件は「隠れた」瑕疵であるといえる。
(瑕疵担保責任の除斥期間について)
本件売買契約では民法第570条が準用する同法第566条3項を適用除外するとの特約がある。同項は任意規定であると解されることから、この特約は有効であり、同項が定める 1年の除斥期間を経過した後の請求であっても本件損害賠償請求権が失われることはない。
(損害額)
Xは、本件石綿含有建材を除去するための費用として工事業者に658万円余を支払っており、この費用は本件瑕疵担保責任における損害と認められる。
(結論)
以上により、亡Aの地位を相続したYらは、本件瑕疵担保責任に基づき、Xに対し、それぞれ各法定相続分である5分の1の範囲で当該損害を賠償する義務を負う。
3 まとめ
石綿の存在の有無は、外観調査では困難で、専門家の調査によらないと判明しないことが多いことから、取引実務では本事例のように
「石綿の存在については不明」として取引されることが多いが、建物に石綿(特に、飛散性の高い吹付アスベスト等)が使用されている場合、建物解体時に必要となる除去費用は、地中に土壌汚染物質が発見された場合と同様、多額のものとなることがある。
このため、本件のように、除去費用を請求された売主が「瑕疵担保責任特約には石綿について例示記載がないから瑕疵に当たらない」と主張して紛争が起きる場合があるが、本件裁判所の判示のとおり、あくまで具体的かつ一般的に想定できるものを列挙したに過ぎず、これだけで瑕疵に当たらないという根拠にはならない。
しかし、本件のような紛争回避の観点からは、瑕疵があった場合のリスク分配に関して土壌汚染のみならず、石綿の除去費用に関しても、売主・買主どちらが負担するのかを明示しておいた方が望ましいと考えられる。
なお、本件同様、解体予定建物に石綿が存していたことについて、売主に瑕疵担保責任を認めた事例として、東京高判R1・5・16ウエストロージャパン、大津地判H26・9・18判例秘書がある。
(調査研究部xx調整役)
最近の裁判例から
⑷−建物瑕疵−
買主による売主と媒介業者に漏水についての説明義務違反があったとする不法行為に基づく損害賠償請求が棄却された事例
(東京地判 令元・12・26 ウエストロー・ジャパン) xx x
中古分譲マンションの買主が、購入の約3年後に発生した専有部分内での天井崩落事故に関して、その原因と見られる漏水について、売主はこれを認識していたものの告げずに売却したため売買契約を解除した、媒介業者はその調査説明を怠ったとして、売主及び媒介業者に売買代金相当額等の支払いを求めた事案において、売買契約締結当時、係る漏水が発生していた証拠はないとして、請求が棄却された事例(東京地裁 令和元年12月26日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成25年10月頃、Y1(被告・個人)は、セカンドハウスとして使用していた分譲マンションの一室(本物件)ついて、クロスの汚れ等が目に付くようになり、工事業者に修繕の見積りを依頼したところ、その工事業者から、汚れが雨漏りにより生じたものである可能性もあるので、マンション管理組合に照会するよう助言を受け、同年11月にY1は、管理組合に調査の依頼を申入れた。
これに対して管理組合は、同年12月と翌月の理事会でこれを取上げるとともに、2回にわたり管理会社にその調査を依頼した。管理会社による調査の結果、雨漏りではなく換気不足による結露によって生じた汚れであるとの見解が、管理組合に回答されるとともに、 Y1に示された。その後Y1は、自らの費用負担でクロスxxxの工事を行った。
平成26年2月、Y1は自らの健康状態に不
安を覚えたことから、本物件の売却を検討するようになり、Y社(被告・xx業者)に売却先の探索を依頼した。
同年3月、Y社の媒介により、Y1とX(原告・個人) との間で、売買金額:2550万円、売主は引渡しから3か月間に限り雨漏り等の瑕疵担保責任を負う等の条件で売買契約(本件売買契約)が締結され、同年5月に引渡しがなされた。
Xは、本物件をセカンドハウスとして使用していたところ、平成29年3月頃、台所部分の天井の一部が崩落していることを発見した。
同年5月、Xは住宅診断会社に調査を依頼したところ、xxの崩落は屋上からの漏水による可能性が高いとの報告を受けた。これを受けてXは、管理組合との協議を行ったが、その中で、平成25年11月から翌年1月にかけて、前記の通り、雨漏りの可能性について Y1と管理会社がやり取りをしていた理事会議事録等を入手し、Y1が雨漏りを隠ぺいして売却したのではないか、との疑念を持つようになった。
同年6月、XはY1に対応を求めたものの Y1はこれに応じず、同年9月にY1に本件売買契約を解除または取消す旨を通知した後、Y1とY社に、売買代金と媒介手数料等計2676万円余の支払いを求めて本訴を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を全て棄却した。
(Y1の詐欺の有無)
事実関係から、Y1は、工事業者の示唆によって本物件に漏水が生じている可能性があると認識し、管理組合に問合せたものの、本件売買契約締結当時には、管理組合及び管理会社からの回答によって、本物件のクロスの汚れ等は、漏水ではなく、換気不足による結露に起因するものと認識していたと認められる。したがって、Y1が本物件の漏水を知った上で、これを隠ぺいし、Xを欺いたとの事実は認められないから、本件売買契約の詐欺取消し及びXに対する不法行為のいずれも成立せず、XのY1に対する請求はいずれも理由がない。
(Y社の調査説明義務違反の有無) Y社は、本件売買契約締結に先立ち、Y1
から本物件に漏水やカビなどが発生した事実は聞いたことがないこと、管理会社や管理人から本物件について特にトラブルが生じていないと聴取していたことが認められる。これらの事実からすると、Y社は必要な調査は尽くしていたといえ、xx業者としての説明義務に違反したとはいえない。
またXは、管理組合の理事会議事録から、 Y1が強硬に漏水の事実を主張していたことを把握することができ、漏水の事実を知ることができたから、この点でY社の調査義務違反がある旨主張する。しかし、そもそも議事録の記載からXが主張するような事実を推認することができない上、Y社は、本件売買契約締結に先立ち、管理会社に議事録の開示を求めたものの、個人名等が入っているとの理由で拒絶されたこと、Y1にも議事録の交付を求めたが、Y1がこれを持っていなかった
ことが認められ、これらの事実からすると、 Y社としては、必要な手段を尽くしたもののこれを得られなかったといわざるを得ず、この点からしても、原告が主張する調査義務違反を認めることはできない。
(結論)
よって、Xの請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
3 まとめ
売主や媒介業者の説明義務について判示されたものの一つとして、本事例を紹介するものである。
本事例では、買主は、売買契約締結直前の売主と管理組合とのやり取りの記録や、天井崩落後の住宅診断会社の調査結果等から、売買契約締結時点で既に雨漏りが生じていたとの認識を持つに至ったようであるが、これらによって直ちに売買契約締結以前に雨漏りが生じていたと推認することはできないと判断されている。
また、媒介業者は売主や管理会社への聴取や理事会議事録の入手に努めたことにより、xx業者として必要な調査を尽くした、とされている。そもそもxx業者は建物や設備の専門家ではなく、売買契約締結以前に発生していた雨漏りであれば、建物状況調査が行われていれば、これが発見されていた可能性もあったことから、中古住宅の売買にあたっては、その利用を検討することも考えられる。
「買主が取得後2年以上経過した後に、売主に対して雨漏りの対応工事費用の支払いを求めた事案で、引渡し時点で係る雨漏りがあったとは認められないとして、請求が棄却された事例」(東京地判 平28・8・23 RETIO113-122)も見られることから、併せて参考にしていただきたい。
(調査研究部xx研究員)
最近の裁判例から
⑸−売主の説明義務違反−
転売物件の調査が不十分であったとして、売主業者の説明義務違反による損害賠償が一部認められた事例
(東京地判 令元・10・23 ウエストロー・ジャパン) xx xx
買主に賃貸用共同住宅の転売物件の紹介と物件説明を行い、売主債務を重畳的に引き受けた事実上の売主(xx業者)に対し、レントロール記載の共用部電力使用料金の説明が事実と異なっていたことから、買主が損害賠償を求めた事案において、調査が不十分であり、説明義務違反はあったとして、損害賠償請求の一部が認められた事例。(東京地裁 令和元年10月23日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
投資用不動産の購入検討をしていたX(原告)は、平成29年10月、Y(被告・xx業者)から賃貸用共同住宅の紹介を受けた。そのレントロールには、「電気(想定)」という表題で、共用部電力使用料金「月額4000円」、「年額4万8000円」の記載と、収支計算は想定を含む試算であり、経費は一部概算を含むこと、実際の経費が異なる場合がある旨記載がされていた。
Xは、空室率10%で大規模修繕等を考慮すると、収支がマイナスになる可能性があり、想定利回り9%の確保のために売買価格を1億6600万円から1億6000万円に下げられないか、また投資前に最大限リスクを軽減したいとして、レントロールと賃貸借契約書記載に齟齬のある貸室賃料の確認をYに求めたところ、Yは、レントロール記載よりも同室の賃料は4320円安いこと、売買価格を1億6200万円に下げる旨回答した。
その後、Yが売買契約書案をXに送付した
際、売主がAである理由をXが質問したところ、Yは、融資銀行からのローン本数を超えたためであり、実質的な売主はYである旨を回答した。
同年10月20日の売買契約締結に当たり、X、 Y及びAの三者間にて、「Yは、本件売買契約におけるAが負う債務の重畳的引受をし、当該債務についてXからの問い合わせ等一切の窓口業務を行う」旨の合意を行い、同月31日、本件不動産の所有権は、B→C→Y→A
→Xに移転した。(登記記録上はB→C→Xに所有権移転登記がされた。)
その後、Xは、Yより、共用部電力使用料金は概ね月額4000円と説明を受けたが、現実には月額1万8000円程度であり、Yに調査・説明義務違反があったとして、①平成30年1月から同年10月までの実際の共用部電力使用料金額と想定された額との差額13万円余の支払い、②ローン期間中である平成30年11月以降令和33年12月までに発生する将来の損害賠償として、差額分である毎月1万4000円の支払い、③精神的損害につき、慰謝料30万円等の支払いを求め、訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を一部認容した。
(Yの説明義務違反の有無)
認定事実によれば、Yは、Xに対し、自ら売主になると告げ、売主の契約上の債務を重畳的に引き受けたこと等が認められる。xx
業者であるYは、売買契約締結直前まで、事実上売主として振る舞い、XもYが売主であると信じ売買取引に臨んでおり、Yは、売主であった場合と同様の説明義務を負う。
本件不動産で発生する経費は、購入前のXが調査・予測することは容易ではないが、Yは、xx業者かつ投資用不動産の取扱業者として、専門的な知識を有し、管理業者に問い合わせをする等、容易に調査を行える立場にあった。Xは、賃料額の齟齬を指摘する等、収支や投資リスクに高い関心があり、経費の額に齟齬があれば、関心を寄せていたと推認され、それをYも当然認識しており、xx業者であるYは、経費の一部である共用部電力使用料金についても、適切な調査を行い、Xに正確な情報を説明する義務を負う。
Yは、転売案件では、Cへ問い合わせをすることで調査は十分であり、これに基づく説明により説明義務違反はない、レントロールには想定を含み、実際と異なる可能性があることを予め断っており、説明不足はない旨主張するが、xx業者である売主は、所有者であれば当然知っているべき情報について正確な情報を提供すべき義務を負い、その義務の程度は、転売事案か否かによって左右されず、 Yは、投資判断の参考としてXに提供するレントロール作成の際には、改めて所有者ないし管理業者に直接問い合わせる等正確な情報を調査すべきである。また、レントロールには正確性について断り書きがあるが、当初から十分な調査をせず、その結果、通常生ずる変動幅とは評価できない程度の乖離を生じ、かつ、そもそも調査結果とも異なる記載をしていた場合にまで、買主がその乖離を受け入れなければならないものではなく、本件不動産の売買で、共用部電力使用料金の誤った情報を提供したことについて、Yには説明義務違反があったと認められる。
(Xの損害の有無及び額)
将来の共用部電力使用料金は、入居者の設備使用状況等で変動し得るものであり、将来給付の訴えが認められるための要件である賠償内容の確定性の要件を充足するものではなく、本件口頭弁論終結日以降に生ずる損害部分は、訴えを却下すべきものである。
Xは、本件不動産の共用部電力使用料金の差額が損害であると主張するが、Yの説明義務違反の有無にかかわらず、その設備状況から、現時点の同料金が月平均で1万8000円程度であり、X主張の損害は、説明義務違反との因果関係を欠く。また、差額分である月額 1万4000円は、売買価格と比較すると軽微であり、著しく不動産経営に影響を及ぼすとまではいえず、仮にYが正しい情報をXに提供していたとしても、購入自体の取りやめや売買価格減額が確実であるとまで認めることもできないが、本件不動産の経費は、少なくとも適正な投資額としての売買価格決定に影響を与え得る事実ではあり、Xは、正確な情報に基づく意思決定機会を失い、予想していなかった経費負担増が生じたこと、ただしその増額の程度が本件不動産の収支に及ぼす影響は必ずしも大きいとはいえないことを総合考慮すると、慰謝料は10万円と認められる。
3 まとめ
本事例の判示にあるように、xx業者である売主は、買主に対し、正確な情報を提供して適切に説明すべき業務上の注意義務があるが、転売案件であってもそれを理由にその義務が軽減されることはないと考えられる。
他に、収益物件の収支に関する説明義務違反により慰謝料が認められた事例として、東京地判 平30・7・11 RETIO112-108があるので参考にされたい。
(元調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑹−調査・告知義務違反−
媒介業者に雨漏り等の調査・告知義務違反があったとした、買主の媒介手数料相当額の賠償請求が棄却された事例
(東京地判 平30・3・28 ウエストロー・ジャパン) xx xx
不動産媒介業者から紹介を受けたビルに関し、書類の交付確認、雨漏り調査及び特約の説明において、調査・告知義務等の違反により損害を被ったと主張する買主が、媒介業者に対して損害賠償を請求したが、調査・告知義務等の違反はなかったとされ、請求が棄却された事例。(東京地裁 平成30年3月28日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主X(原告、不動産会社)は、投資目的で不動産購入を検討していたところ、媒介業者Y(被告)から本件ビルの紹介を受けた。平成28年2月、X及びYはビル1階の料理
店で会食をし、料理店の経営者と話をしたが、その際、過去にビルで雨漏りがあった旨の話は出なかった。
その後、X及びYは、ビルの各階と廊下・階段を内覧した。xxは昭和39年築で、X及びYは状態を注意深くチェックしたが、廊下や階段はきれいに塗装されており、雨漏りの痕を見つけることもなかった。後日、Yはビルを再訪し、5階及び7階の賃借人に会い、雨漏り等の不具合の有無を確認したが、特に問題ないとの回答であった。
同年3月、X及びYは、売主Aの媒介業者 Bから売買契約書及び重要事項説明書について説明を受け、ビルに雨漏りはないこと、古い建物で図面がなく、土地の境界が不明確であるが境界トラブルはないことの説明も受けた上で、1億3,500万円で売買契約を締結し
た。売買契約書には「売主は、本ビルの状況について別添「物件状況確認書」にて買主に告知するものとする。」との条項があったが、 Bは、書類引き渡しの際、物件状況確認書のコピーを作成するのを失念した。
平成28年8月、1階料理店において漏水が発生した。その際に、Xは物件状況確認書をもらっていないとBに伝えた。Bは、コピーがなかったので、売主Aに必要事項を記入してもらい、Xに送付した。確認書には、ビルに雨漏りや設計図書がないこと、土地の境界未確定だが紛争はないことの記載があった。翌月、再度、料理店で漏水が発生した。業
者による調査を受け、平成29年1月、X、Y、 A、Bの4者で協議し、Aが防水塗装等の工事を行い、漏水調査費を負担する内容の合意書を取り交わした。しかし、Aが漏水調査費を支払わなかったため、Xが訴訟を提起し、最終的にはAが調査費を支払う内容の和解が成立した。なお、平成29年にXは本件ビルを 1億5,000万円で第三者に売却した。
Xは、Yが①物件状況確認書の交付確認を怠り、内容を説明しなかった、②1階の賃借人への雨漏り聞き取り調査を怠った、③境界明示義務免除特約の意味及びリスクを説明しなかったと主張し、443万円余(媒介手数料相当額)の損害賠償請求訴訟を提起した。
これに対しYは、①交付はAの義務で、説明はBが十分にしている、②可能な限度で十分な雨漏り調査を実施した、③XはBから説明を受けており、説明義務はないと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。
(物件状況確認書の交付要求義務の有無) Xは、売買契約の締結日に、物件状況確認
書の交付及び説明がなかったことから、Yの交付義務の懈怠を主張する。しかし、売主Aが、媒介業者Bに依頼され、物件状況確認書を再作成した際、記入項目について逐一尋ねるのではなく、包括的に「前と同じでいいですか。」と尋ねて自ら記入したことに特段不自然な点がないことを考えると、売買契約の締結当時、契約書記載のとおり、「別添」の物件状況確認書をもとに本件ビルの状況を告知し、契約書及び重要事項説明書とともにXに交付したものと推認することができる。
Bが手元に確認書を置くことなく書面に記載されている説明を行ったとは考えがたく、もし、Bが書面の交付を失念したのであれば、書面がBに残り、後に再作成する必要もない。
(雨漏りの調査確認業務の程度、履行の有無) Xは、Yが平成27年に雨漏りがあった1階
の賃借人への聞き取り調査を怠ったと主張するが、平成28年2月、1階料理店でYとともに経営者と話をしており、その際に雨漏りの話はでていなかった。
Yは、媒介業者Bからの情報提供に頼るのみならず、自らも内覧を行い、賃借人に可能な限度での聴取等を行っているのであり、Xの媒介業者として果たすべき調査確認義務を尽くしたものと評価するのが相当である。
(境界明示義務免除特約の説明義務の有無) Xは、本件ビルを投資目的で購入しようと
考えており、そのことはYも知っていた。XはBから境界明示義務免除特約があることの説明を受けたが、そのリスクに関する質問はしなかった。一方、瑕疵担保責任免除特約に
ついては、XもYもその意味とリスクを承知して、ビルの瑕疵の有無を慎重にチェックしたと認めることができる。
Yが、境界明示説明義務免除特約の説明についてXから質問がなかったので、リスクについて承知したものと考え、これを改めて説明しなかったとしても、それが媒介業者としての説明義務違反となるものではない。
Xは会社経営者であり、投資目的による不動産購入を検討する行動を自ら選択した人物であって、瑕疵担保責任免除特約と同様、境界明示義務免除特約についても、その意味やリスクを相当程度理解していてしかるべきだからである。また、本件ビルの転売によりXは、1,500万円の利益を得ているのであり、リスク説明をしなかったことにより損害を被ったということもできない。
3 まとめ
本件では、物件状況確認書の交付、雨漏り調査、特約のリスク説明の3点について買主側媒介業者に調査・告示義務違反はないとされた。この3点については、トラブルが発生すれば、まず、買主から売主やその媒介業者への責任追求が考えられるところであるが、本件では漏水に伴う和解が成立し買主から売主側への責任追求が困難なためか、買主側媒介業者に追求が及んだものと考えられる。
この点、買主側媒介業者は、買主と共にビルの内覧を行い、さらに、業者単独で雨漏り調査も行っていたため、調査確認義務を尽くしたと認められている。
媒介業者にとって、依頼者の意向や物件の状況に応じ、どこまで調査・告示を行っておいた方がよいかを考える上で参考となる事例と考えられる。
(調査研究部次長)
最近の裁判例から
⑺−直接取引と媒介報酬請求権−
媒介業者を排除して第三者のためにする契約を行った売主と買主等に対する媒介業者の賠償請求が認められた事例
(東京地判 平30・11・29 ウエストロー・ジャパン) xx xx
土地建物売買の媒介業者が、当該媒介業者を排除して第三者のためにする契約を行った売主と買主及びその関連会社(最終買主)に対し、停止条件付媒介契約の条件成就を妨害したとして、媒介契約に基づく媒介報酬の支払ないし不法行為に基づく損害賠償の支払を請求し、その請求が認められた事例(東京地裁 平成30年11月29日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成28年10月28日、売主Y1(被告・xx業者)は、転売目的で取得した土地建物(本物件)を売り出すことにし、その情報をレインズに、売出価格3680万円、媒介報酬「〈売主〉 3%+6万円」として登録した。
11月初旬、媒介業者X(原告・xx業者)は、レインズを見て、Y1に本物件が売却済みか否かを問合せ、未売却であることを確認した。
Xは、上記問合せと同時に、Y1に対し、一般消費者向けの不動産情報サイトへの本物件の広告掲載許可を求め、数種のサイトに有償で広告を掲載した。本物件の広告を見た買主Y2(被告・xx業者)は、11月13日にXに連絡し、本物件の内覧を希望し、翌11月14日、買主Y3(被告・Y2の関連会社)を同行してXを訪問し、Y3名義で本物件の購入を相談する趣旨の受付表を作成し、代金を現金で支払うとの意向を示した。同日、Y2及びY3は、Xと共に本物件を内覧した。Y2は、11月15日、Xに本物件を購入したい旨を
伝え、Y3と共にXを訪れた。この連絡を受けたXは、Y1に購入希望者がいることを伝え、契約締結予定日の打合せを行った。そして、Xは、Y2及びY3に対し、本物件の価格が3680万円であること、諸費用が媒介報酬額125万円を含めて約180万円であることを説明した。
これを受けたY2は、Y2名義で、購入申込価格を3600万円、売買契約希望日を11月19日、融資を利用しない条件で購入申込書を作成し、Xが、この書面をY1にファックスで送付し、Y1はこの申込書を確認した。
Xは、Y1と交渉し、売買代金を3600万円に減額する同意を得て、申込書の通り、11月 19日にY1、Y2間で売買契約書を交わし、その際、Y1、Y2とXの間で売却、買受双方の媒介契約書を交わすことになった。
しかし、Y2は、11月17日、Xに対し、現金を用意できないとして売買契約をキャンセルすると連絡した。そこで、XがY1にそのことを伝えたところ、Y1は、2番手で現金購入の申込が入ったので構わないと述べて難なくキャンセルに応じた。Xは経緯に不審を感じ、Y2に連絡したが応答がなかったため、 Y2の代表者に対し2番手の申込者がY2でないかの確認を行ったが返答はなかった。
他方、Y 2 は、11月18日、Y 1 に対し、 Y3が本物件を購入する旨の買付証明書をファックスで送信した。Y1は、同月22日、この購入申込みに応じ、Y2の媒介により、 Y3に対し、本物件を3600万円で売却した。
Y1は、12月22日、Y2に対し、上記売買契約の媒介報酬として123万1200円を支払った。
上記売買契約には、本物件の売主のY1は、同物件の所有権を、買主であるY3の指定する者に対し直接移転する旨の第三者のためにする契約に関する特約が付されており、これにより、同日売買を原因として、Y1から Y3に対し、所有権移転登記が行われた。その後、Y2は、自社のHPに本物件を貸店舗、貸マンション等として掲載した。
その後、Xは、平成29年2月21日到達の書面で、Y1に媒介報酬の支払を請求し、Yらに本訴を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を一部認容した。
(買受媒介契約の成否)
認定事実から判断すると、11月15日、X、 Y2間に、本物件の売買契約成立を条件とする買受媒介契約が成立したと認められる。これに対しY2は、購入申込書の作成は、Y3の代表者個人で相談したもの、Xから価格や媒介報酬等の説明等を受けていないと主張するが、上記申込書はY2名義であり、Y2の代表者個人で相談したものではないため、 Y2の主張はいずれも失当である。
(買受媒介契約のY2の条件成就妨害の有無)
Y2は、一連の経緯を通じ、Y3の名義を利用して自ら本物件を購入したのと同じ効果を取得した一方、Xに対する媒介報酬の支払を免れたばかりか、Y1からは、免れたのとほぼ同額の媒介報酬を取得し、いわば二重の利益を得た。また、Y3の代表者は、Y2の取締役を兼務しており、両社は関連会社であること等から、密接な関連性があったといえる。以上の事情等によれば、Y2は、Y3が
Y1との間で本物件の売買契約を締結した時点で、X、Y2間の買受媒介契約の成就を妨害し、Y3はこれに加担したということができる。
(売却媒介契約の成否)
遅くともXがY1の代表取締役に電話で購入希望者がいることを伝えた11月15日の時点において、双方の間に、本物件の売買契約成立を停止条件とする売却媒介契約が成立したと認められる。
(売却媒介契約のY1の条件成就妨害の有無)
認定事実に照らせば、Y2及びY3が共謀してXに対する妨害に加担したことは明らかである。
(結論)
Y1は、レインズ登録にあたり、売却媒介報酬を「〈売主〉3%+6万円」と表示し、Xは媒介委託業務を履行したから、媒介報酬は 122万1480円である。また、Xは、Y2及び Y3の共同不法行為により、上記と同額の媒介報酬を取得できなかったので、Xが被った損害額は122万1480円である。
3 まとめ
xx業法では、宅地建物の売買・交換について媒介契約書の作成・交付が義務付けられているが、本事案では、Xは、売買契約締結前に、売主であるY1及び買主であるY2との間で媒介契約を締結していない。
本事案では、YらによるXの媒介行為の妨害が認められたが、媒介業者は、本事案のような係争を未然に防ぐという意味でも、xx業法を遵守し、媒介契約が成立した時点において、当事者双方間で書面を交付することが必要である。
(元調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑻−海外不動産の業法適用可否−
海外不動産取引にxx業法は適用されないとして、保証協会に対する認証請求が棄却された事例
(東京地判 平29・9・11 ウエストロー・ジャパン) xx xxx
海外の不動産売買取引に関して、xx業者の行為により被った損害について買主が保証協会の認証を求めて訴えた事案において、海外不動産には宅地建物取引業法の適用はなく、保証協会が行う弁済業務の対象にならないとして棄却された事例(東京地裁 平成29年9月11日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主X(原告・個人)は、平成20年3月、xx業者A社の代表者Bからハワイのコンドミニアム(邦貨換算約2億円)の購入を勧められ、エスクロー口座開設費用等800万円を購入関連資金の一部としてBに預けたが、その後、Bと連絡がとれなくなった。
同年12月、Xが漸くBに会えたところ、Bは、本件購入案件が作り話であったことを認め、Xが預けた金員を平成21年1月末までに返還する旨約した。しかし、上記期限を過ぎてもBはこれを返還しなかった。
Xは、本件取引においてBがした行為について、A社に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有するとして、平成22年1月13日、 A社が加盟する宅地建物取引業保証協会Yに対し、本件取引につき苦情解決の申出をした上、平成27年9月15日、xx業法第64条の8第2項に基づき認証の申出をした。
しかし、Yは、平成28年5月25日、海外不動産取引に係る損害賠償請求権は、同法に基づく認証対象債権に該当しないとして上記認証を拒否したため、Xが上記債権の認証を求
めて提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。
宅地建物取引業法(以下、法という。)は、国内における住宅政策の一環として制定されたもので、法第2条1項の「宅地」とは、まず「建物の敷地に供せられる土地」をいうと定めているところ、国内法の効力は、外国の領土に対しても適用することを明示的に定めている場合を除き、原則としてその領土外の地域に及ばないから、「宅地」とは日本国内に所在するものをいい、海外物件を含まないものと解される(xxxxxx大学不動産学部教授「グローバル化と日本の不動産業・不動産市場」)。
すなわち、法は、宅地建物取引業者に免許制度を採用し(第2章)、宅地建物の営業(3条)に免許を要件とし、宅地建物の取引に関し専門的知識を有するとされる宅地建物取引士に資格試験や登録制度を採用し(第3章)、無免許営業・名義貸しを禁止することによって(第12、第13条)、宅地建物取引業の不適格者を排除している。この免許制度は、「宅地建物」が国民の生活・経済活動の基盤であることから、宅地建物取引業を営むにふさわしいかどうかを審査し、専門業者としての質の向上を図るものであり、このような審査を受けた者に取引を限定し、もって、業務の適正な運営と宅地及び建物の取引のxxとを確
保しようとしたものである。
宅地建物の取引に関し専門的知識が求められるxxxの資格取得には試験制度が採用されているところ(第16条)、法が海外物件に係る取引についても適用されるのであれば、当該試験についても当然外国の法令に関する知識の習得が求められるはずである。
しかるに、そこで試される法令の知識は、我が国の「宅地」「建物」に関するもので、外国の法令は予定されていない。この観点からも法が海外物件に適用されることは整合性を欠く。
さらに法は「第5章 業務」として多くの規制条項を設けているところ、宅地建物取引士の義務とされる重要事項の説明等(法第35条)については、我が国の宅地建物に関する法令(建築基準法、都市計画法、建物の区分所有等に関する法律等)が対象となっている。
これらのことからすれば、法の趣旨・目的である規制の対象は、我が国の領土の宅地建物であると解するべきである。
このように、国内法の効力は原則としてその領土外の地域に及ばないこと、法が免許制度を採用し、宅地建物取引業に対し必要な規制を行っている国内法であることから、法における「宅地」すなわち「敷地に供せられる土地」(法第2条1号)とは、我が国の領土の宅地であると解するべきである。(東京高裁昭和61年10月15日判決・判タ637号140頁) Xは、法が購入者等の利益の保護を究極的 な目的と定めていること、法における弁済業務保証金制度の趣旨は、xx業者が関与する場合には、適切かつxxな取引がされると信頼して取引に入った相手方が被った損害を補てんすることからして、取引の相手方を保護する必要性は、海外物件に係る取引と国内の宅地建物の取引とで何ら異ならないと主張す
るが、法が免許制度を採用し、宅地建物取引 業の規制を図っている規程内容からすれば、当然我が国の領土の宅地建物を対象としているものと解するほかなく、購入者等の利益の保護については、これらの取引の規制を通じ、かつ、その範囲において行うこととしたものというべきである。海外物件にもその適用があるとすることは、法の内容と整合しない。また、Xは、国土交通省の通達(注.平成 25年12月26日付・国土動指第71号「海外の宅地建物を本邦内において取引する際の購入者の保護等の推進について」)も、宅地建物取引業者に対し、海外の物件を日本国内で取り扱う場合には、購入者の保護等に努めるよう要請していることを主張するが、同通達は、法の対象が国内に所在する宅地建物に限定され、海外の物件の取引には適用がないことを前提にした上で、法の適用がない海外物件を取り扱う場合に購入者の保護等のために留意すべき点を周知させようとしたものである。以上のとおり、海外物件を取引の目的とす
る本件取引に法の適用はなく、Yが行う弁済業務の対象とはならない。
3 まとめ
本件裁判例は、海外不動産の取引にxx業法の適用がない旨の一事例としてご紹介するものである。なお、前掲東京高判昭和61年10月15日はRETIO 07-018でも紹介しているので参考にして頂きたい。
(調査研究部xx調整役)