また、「工事契約に関する会計基準(案)」30.において、企業会計原則第二3の F ただし書きを適用しない旨が記載されているが、29.の引渡しの作業に要する原価 は、売上原価ではなく販売費及び一般管理費に計上すべきことを明記すべきである。これまで、上記のただし書きの存在のために、工事完成基準適用物件の販売直接費は販売費 及び一般管理費に計上されているにも関わらず、工事進行基準適用物件の販売直接費は売上原価に計上されうるという矛盾が起こっていた。引渡し作業に要する原価を工事原価...
【コメント1】
工事進行基準の計算スタート時点を明確にする必要がある。
【理由1】
工事契約に関しては、実務上契約書締結前から作業をスタートしているケースが多い。これは、工事契約内容の詳細及び契約金額の合意に至るまでに相当の時間がかかるが、完成時期はあらかじめ決まっているために、作業を先にスタートする必要があるためである。
作業をスタートした時点では、日本のビジネス慣行から失注の可能性は低いが、工事契約内容の詳細及び契約金額について合意していないため、「工事契約に関する会計基準(案)」
7.(1)(2)に記載された工事収益総額及び工事原価総額について証跡をもって合理的に第三者に説明できないと考えられる。
適切な期間損益計算の観点からは、作業をスタートした時点から収益を計上するのが望ましいと考えられるが、計上すべき収益金額を合理的に証明できない以上、収益計上はできないと考えるべきである。
そもそもの問題は、契約社会でない日本のビジネス慣行に起因しているが、なんらかの明確なルールを設けなければ、企業ごとに収益計上スタート時点が異なることとなり、適切な企業間比較ができなくなるため、計算スタート時点を契約締結日にする等、具体的に明記すべきと考えられる。
【コメント2】
工事原価の範囲を明確にする必要がある。また、工事原価に含めた費用がすべて売上原価に計上されるものではないことを明示すべきである。
【理由2】
「工事契約に関する会計基準(案)」29.に「~、その引渡しの作業に要する原価も含まれる。」と記載されているが、引渡しの作業に要する原価の内容が不明確であるため、具体例を例示列挙すべきと考えられる。販売直接費には、輸送費、口銭、保険料など多種多様のものがあり限定列挙することは困難であるため、現在のビジネス環境で考えうるものについて、例示列挙し企業間比較が適切に行えるようにすべきである。
また、「工事契約に関する会計基準(案)」30.において、企業会計原則第二3の F ただし書きを適用しない旨が記載されているが、29.の引渡しの作業に要する原価は、売上原価ではなく販売費及び一般管理費に計上すべきことを明記すべきである。これまで、上記のただし書きの存在のために、工事完成基準適用物件の販売直接費は販売費及び一般管理費に計上されているにも関わらず、工事進行基準適用物件の販売直接費は売上原価に計上されうるという矛盾が起こっていた。引渡し作業に要する原価を工事原価に含めて工事進捗度を計算することは、問題ないと考えられるが、工事原価に含めたからといって、販売直接費まで売上原
価に計上するのではなく、販売費及び一般管理費に計上すべきである。そうしなければ、工事進行基準が原則的方法として採用されると、販売管理費及び一般管理費から販売直接費が消え、すべて売上原価に計上されることになり、適切に経営成績を表示することができなくなる。
【コメント3】
工事損失引当金の計上の要否に関する重要性基準値を明示すべきである。また、工事完成基準適用物件について工事損失が見込まれた場合、工事損失引当金を計上するのか、棚卸資産の簿価の切下げを行うのかを明確に規定すべきである。
【理由3】
これまで実務上は、工事損失引当金の計上の要否について、企業ごとに重要性基準値を設けているが、重要性基準値について何か明確な論拠が有るわけではなく、各監査法人の監査上の重要性基準値の枠内におさまるように設定されているのが実態である。監査法人の監査上の重要性は外部には公表しないものであり、企業側でも重要性基準値をどのように設定していいかがわからず、監査人の表情を読み取って決定しているのが実態である。このような状態は、経営者が自らの責任において財務諸表を作成するという二重責任の原則を十分に果たしうる状態であるとは言いがたいと考えられる。したがって、重要性基準値について明確な基準を明示し、経営者が主体的に財務諸表を作成しうる環境を整備すべきであると考える。
また、企業会計原則注解【注1】(3)に「引当金のうち、重要性の乏しいものについては、これを計上しないことができる。」と記載されているため、工事損失引当金についてはこのような対応を取ってきていたが、企業会計基準第 9 号「棚卸資産の評価に関する基準」においては、重要性の観点はないため、工事損失が見込まれた場合、工事損失引当金を計上するのか、棚卸資産の簿価の切下げを行うのかで、損失計上額に差が出るという矛盾が生じる可能性がある。したがって、このような矛盾を回避するために、どちらを適用すべきかを明確に規定する必要があると考えられる。
【コメント4】
引渡し時点について明確に規定すべきである。
【理由4】
日本のビジネス慣行においては、引渡し時点が明確でないケースが数多く見られるため、どの時点を引き渡し時点と考えるかについて明確に規定すべきである。一般的には、検収書等を入手した時点を引き渡し時点と考えるケースが多いが、検収書を入手した後も残工事が残っていたり、特に官公庁向け物件において実質的には作業が完成していないにもかかわらず、官公庁の予算の都合で先に検収をしたり、逆に検収を遅らせることが横行しているという問題
がある。本来民間の手本になるべき官公庁の予算主義の弊害により、民間の適正な期間損益計算を歪めているという実態を認識した上で、どの時点を引き渡し時点と考えるかについて明確に規定する必要があると考える。