ここでは、実践例として技術家庭科の家庭分野の C 消費生活・環境(1)金銭の管理と購入単元の 1 校時ずつの授業展開のヒントを付けていますが、それぞれのブログ ラムのための事例や生徒用の解説資料などの支援ツールは、1校時で使用するよりは多くなっていますので、単元全体の中で活用ください。また、それ以外の科目等でも幅広く ご活用ください。
「中学生を対象とした消費者教育プログラム」
指導者用解説書 ①
プログラム①契約編「買物のトラブルはなぜ起こる」
はじめに
消費者庁では、令和2年度の事業として、中学生を対象とした消費者教育プログラム開発に関する検討会1を開催し、次の二つのプログラムを作成いたしました。
プログラム①契約編「買物のトラブルはなぜ起こる」
プログラム➁批判的思考力編「事実とは異なる情報に惑わされないために」
このプログラムは、実際に中学生が巻き込まれた買物トラブルや、インターネット上の事実とは異なる情報に関するトラブルを紹介し、その事例をヒントに生徒たち自らが、なぜそのようなトラブルが起こるのかを自分事として考え、話し合うことで、自分がトラブルに遭わないためにどうす
ればよいかを考えるように構成しています。その答えを先に示すならば、①契約の仕組みやその重
う の
要性を理解することと、②情報を鵜呑みにしない批判的思考力を身に付けることが必要だというこ
とで、プログラムの①と②がそれぞれに対応しています。
本プログラムを通じて、生徒が消費生活を送る上の知識と技能(上記①と➁)を身に付け、それに従って行動できるようになることを願っています。
ここでは、実践例として技術家庭科の家庭分野の C 消費生活・環境(1)金銭の管理と購入単元の 1 校時ずつの授業展開のヒントを付けていますが、それぞれのブログラムのための事例や生徒用の解説資料などの支援ツールは、1校時で使用するよりは多くなっていますので、単元全体の中で活用ください。また、それ以外の科目等でも幅広くご活用ください。
1 令和 2 年 9 月から 3 年 3 月までに委員会 4 回、ワーキング 2 回、検証 (授業等)5 回開催。座長:xxxx弁護士。委員名簿は最終ページ(奥付)参照。
プログラム①契約編
「買物のトラブルはなぜ起こる ~どうすれば消費者トラブルを未然に防ぐことがで
きるのだろうか~」
1.本プログラムについて
【趣旨・目的】
このプログラムは、契約の重要性、注意点やトラブルを未然に防ぐ方法を理解することを狙いとしています。ご承知のとおり、改正民法が施行される 2022 年4月1日から、xx年齢が引き下げられ、18 歳になれば契約も一人で結ぶことができるようになります。自主的かつ合理的に社会の一員として行動する「自立した消費者」の育成に効果的な消費者教育は喫緊の課題であり、契約の基本的な考え方を身に付けることは、若年者の消費者被害を未然に防止し、または被害に遭った場合の救済策を示すための重要課題と言えます。
このプログラムでは、まずは買物の方法が多様化していることを挙げながら、「買物も契約である」、「契約は口頭でも成立する」という小学校で学んだ事項を確認します。そして、
① 買主及び売主の合意の必要性
② 消費者の一方的都合では取り消せないこと
③ 未xx・xxの法律上の責任の違いを理解することができるようにします。
さらに、最近の中学生に起こった消費者トラブルの事例を通して、自分事としてそのトラブルに遭わないようにするにはどうすればよいかを考えることができるようにします。
【資料の構成とそれぞれの内容】
このプログラムは、①指導案、➁支援ツール、➂実践例がセットになっています。全体像は次のとおりです。①指導案と③実践例は授業を組み立てるに当たってのご参考としてご利用ください。支援ツールは授業の組み立てに応じて必要な部分をご利用ください。①指導案と③実践例は、この解説書の中に記載していますが、②の支援ツールはパワーポイント、学習プリントとも別のファイルとなります。
■本プログラムの全体像
内容の説明 | ||
①指導案 | ||
➁支援ツール | <パワーポイント> 買物のイメージ①~⑥ | 生徒の発言に対応して示す |
<パワーポイント> 買物のトラブル事例①~④ ※事例②には補足事例が2つあるため合計6事例 | 事例の紹介として使用する ※生徒の実態に応じて補足事例も使用する | |
<パワーポイント> 生徒用解説 契約編 | 適宜必要に応じて使用する | |
学習プリント | ||
➂実践例 | 教員によるもの |
■➁支援ツールの詳細
買物のイメージ (パワーポイント) | ①店舗等(コンビニ)でお菓子を買う |
➁自動販売機で飲み物を買う | |
➂インターネット上でゲームを買う | |
④漫画アプリで漫画を買う | |
⑤インターネット通販(オンラインショップ)で財布を買う | |
⑥フリーマーケット(フリマ)アプリでキャラクターグッズを買う | |
買物のトラブル事例 (パワーポイント) | ①レビューの評価が高かったのに… |
➁かっこいい色だと思ったのに… | |
➁-2 試さず靴を購入したらサイズが合わなかった | |
➁-3 無料と思い漫画アプリに登録したが | |
➂お試しだけだと思っていたのに… | |
④あと少しで勝てると思ったのに… | |
生徒用解説 (パワーポイント) | ①契約の成立(店舗) |
➁契約の成立(インターネット) | |
➂契約の仕組み | |
④クーリング・オフ | |
⑤未xx者取消し | |
⑥xx年齢引下げ | |
➆通信販売広告規制 | |
⑧返品についての特約 | |
➈定期購入のトラブルとは | |
➉支払方法について | |
➃現金払いとキャッシュレス払いの比較 | |
⑫クレジットカード取引の仕組み | |
⑬188 消費者ホットライン・消費生活センター | |
⑭中学生の消費生活相談の件数の多いもの | |
学習プリント (ワード) |
2.指導案
中学校学習指導要領【技術・家庭科(家庭分野)】
Ⅽ消費生活・環境(1)金銭の管理と購入 ア(イ)売買契約の仕組み、消費者被害の背景とその対応について理解し、物資・サービスの選択に必要な情報の収集・整理が適切にできること。
※関連的な指導:特別活動、総合的な学習の時間、社会科(公民的分野)
(1)小題材名 売買契約の仕組みと物資・サービスの選択・購入
(2)本時の狙い
消費者トラブルの事例とその対応策についての話合い活動を通して、契約の重要性、注意点、トラブルを未然に防ぐ方法を理解することができる。
(3)学習活動(本時の指導)前時までに店舗販売・無店舗販売の学習をしていると想定。
時間 | 学習内容 | 指導上の留意点 | 支援ツール |
10 分 | 1 本時の学習課題を確認する。 | ・物資・サービスの購入も契約であること(小学校の復習)と、売買契約の成立とルールについて確認する。 ・店舗販売、無店舗販売の学習からつなげて店舗での購入だけでなく、インターネットでの購入も契約であることを確認する。 ・購入で何か失敗した経験があるか尋ねる。 | ・「買物のイメージ」 ・「契約の成立」などのパワーポイント |
自分が買物のトラブルに遭わないためにどうすればいいだろうか。 | |||
30 分 | 2 最近の中学生の消費者相談事 例を知る。 | ・準備した事例の中から、生徒の環境に応じた事例を複数紹介し、生徒自身に類似の経験がある かを想起するよう促す。 | ・「買物のトラ ブル事例」 |
・「中学生の消 | |||
3 事例の問題点について考え、学習プリント に記入する。 | ・事例のどこにどのような問題があったのか、どのようにすればよかったのかを各自で考え、学習プリントに記入するよう促す。 | 費生活相談の件数の多いもの」 のパワーポイン | |
ト | |||
4 各自で考えたことをグルー プで話し合う。 | ・自由に発言できるよう雰囲気作りをし、自分の意見を基にグループで話し合うよう促す。 | ・「学習プリント」 | |
5 グループで話し合った内容を全 体 で 発 表 する。 | ・狙いに気付くことができるように意図的にグループでの話合いを取り上げ、問題点と良いアイデアをきちんと分けて整理する。 |
・困ったことがあったときには身近な大人に相談する、などについても触れるとよい。 | |||
10 分 | 6 本時を振り返り、分かったことを自分の言葉でまとめる。 | ・学習プリントに、契約するまでの情報収集の重要性、契約に際しての留意点などについて整理させることにより、契約の重要性に気付くことができるようにする。 | |
・今後、自分が買物のトラブルに遭わないために何に気を付けたいと思うか、まとめる。 | |||
・クーリング・オフ、消費生活センター等の救済制度についても説明し、相談することが消費者市民社会の形成に参画する第一歩となることも伝えてもよい。 | |||
・次の時間に、まとめたことを共有したり、「生徒用解説」の中のいくつかの項目(「未xx者取消権」、「通信販売広告規制」、「返品についての特約」、「クレジットカード取引の仕組み」など)の解説をするなどしてもよい。 |
3.支援ツール「買物のイメージ」
いずれも中学生になじみのある買物を示しています。生徒からの発言に対応させて示すなどご利用ください。
①のようなコンビニ、スーパー等のお店での買物だけでなく、➁の自動販売機の利用や、➂以下にあるような身近なインターネット通販等も買物(売買契約)であることを確認します。
スライド | 内容 |
・イメージ① 店舗等(コンビニ)でお菓子を買う | 売り手と買い手の「売ります」、「買います」という意思表示がされて、それが合致すれば契約は成立。 |
・イメージ➁ 自動販売機で飲み物を買う | 販売機は「売ります」との意思を示していると考えられ、販売機のボタンを押したところで「買います」との意思が表示され契約は成立。 |
・イメージ➂ インターネット上でゲームを買う | インターネット通販では、消費者が購入の意思表示として「購入」のボタンを押し、その後相手方からの承諾(「購入完了」などの表示)が示されたところで契約は成立。 |
・イメージ④ 漫画アプリで漫画を買う | 消費者が購入の意思表示として「購入」のボタンを押し、その後相手方からの承諾 (「購入完了」などの表示)が示されたところで契約は成立。 |
・イメージ⑤ インターネット通販(オンラインショップ)で財布を買う | 消費者が購入の意思表示として「購入」のボタンを押し、その後相手方からの承諾 (「購入完了」などの表示)が示されたところで契約は成立。 |
・イメージ⑥ フリーマーケット(フリマ)アプリでキャラクターグッズを買う | 消費者の購入の意思表示がプラットフォーム事業者を通じて売り手に伝わり、売り手が承諾したことが買い手に伝わったところで契約は成立。 |
4.各トラブル事例の内容
中学生でも関わりそうな事例をいくつか準備しています。授業で必要なものを適宜ご紹介ください。
・事例①レビューの評価が高かったのに…
高評価のレビューだけを読んで、低評価のレビューに注意を払わなかった。
・事例➁カッコいい色だと思ったのに…
広告のカラー写真の色合いと現物の色合いが微妙に違っていた。画面の下の方に返品・交換不可と書かれているのを確認していなかった。
※インターネット通販の事例を複数紹介したい場合は補足事例もご利用ください。
・補足事例②-2試さず靴を購入したらサイズが合わなかった
現物を見ないで選択するため、靴のサイズが合わない。交換を希望したが断られた。画面の下の方に返品・交換不可と書かれているのを確認していなかった。
・事例②-3無料と思いマンガアプリに登録したが…
無料で漫画が読めるアプリであると思って父親のスマホで登録したが、実は無料は初回の一か月のみだった。そのことは画面上に記載されていたが、その部分をよく確認していなかったため代金が発生し、自動決済されていた。
・事例③お試しだけだと思ったのに…
ダイエットサプリが 100 円との表記をみて早速注文している。実はサイト上には定期購入であることが記載されているが、内容をほとんど読んでいない。後日、請求書が届き、定期購入と知り驚いている。
・事例④あと少しで勝てると思ったのに…
オンラインゲームに夢中になりアイテムを大量に購入してしまい、親のクレジットカードで決済され請求書が届いた。
5.生徒用解説の内容
生徒に事例を紹介し、話合いをすると、1校時で全ての解説をする時間は確保しがたいと考えられます。単元の中で、それぞれ必要な部分をご利用ください。
(1)契約について
(生徒用解説①、➁、③)
ここでは小学校で既に履修した売買契約について確認します。生徒にはインターネット
(パソコンやスマホ)でも売買契約を行えるという点について理解を促したいところです。
売買契約は、売り手と買い手の意思が合致す れば成立し、法的な拘束力が生じる約束であり、一旦成立すると、法律で定められた一部の例外 を除き、一方的な事情でやめること(契約をな しにすること)はできないということをまずは 押さえます。だからこそ、「契約する」という意 思表示をするまでに(「買います」と言うまでに、あるいは OK のクリックをするまでに)、そのx xや条件について十分確認し、理解しておかな ければならないということがポイントです。
「よく考えずに同意しない」「安易にクリックしない」という話ですが、事例を通じても考えます。
■契約の成立(店舗)
売買契約は、売り手と買い手の意思が合致したところで成立します。
契約書の作成、押印などがなくても口頭だけで成立することをしっかり理解するよう促します。
契約は、法的な拘束力を持った約束であり、一旦成立すると自分の都合で取り消すことはできません。
■契約の仕組み契約の成立(インターネット)
インターネット通販の場合は、消費者が購入 の意思表示として「購入」のボタンを押し、そ の後相手方からの承諾(「購入完了」などの表示)が示されたところで契約が成立します。
なお、電子消費者契約法により、パソコンやスマートフォン、携帯電話の画面を介して行われる契約(電子消費者契約)に関しては、事業者が、消費者の操作ミスを防止する策を講じていなければ、たとえ消費者に重過失があっても契約はなかったことにできるとされています。
■契約の仕組み
売買契約が成立すると、売り手には代金を受け取る権利と商品を渡す義務が生じ、買い手には商品を受け取る権利と代金を支払う義務が生じます。
(2)クーリング・オフ
(生徒用解説④)
契約は法的な拘束力を持った約束であり、一旦成立すると権利と義務が生じるため、一方的に離脱することはできないという前提をまずは理解することが重要です。ただし、消費者トラブルが生じやすい特定の取引で契約を締結した場合は、消費者を保護するために契約から離脱できる方法が定められています。そのうちの代表的な場合がクーリング・オフ制度です。その紹介をしているのが次の2枚のスライドです。
「クーリング・オフ」とは、「頭を冷やす」という意味です。
例えば、突然自宅に来た販売員から商品の購入等を勧められた場合、消費者にとっては「不意打ち」になり、購入の必要性や価格等についてきちんと吟味できないままに、「買う」という意思表示をし、契約を締結してしまう可能性があります。このような訪問販売等においては、売り手には、一定の必要事項が記載された契約書面を消費者に渡すことを義務付けていますが、買い手となる消費者は不備のない契約書面を受け取った日から一定の期間内(訪問販売であれば8日間、その他取引形態によって異なります)であれば、無条件で契約の解除を行うことができます。これがクーリング・オフという制度です。また、訪問販売以外にも特定商取引法で、クーリング・オフができる取引類型が定められています。
詳 し く は 特 定 商 取 引 法 ガ イ ド
( xxxxx://xxx.xx-xxxxxxx.xxx.xx.xx/)を参照してください。
その他、他の取引でも約款(個別の契約のルール)によってクーリング・オフができる場合もあります。
(3)未xx者取消権とxx年齢引下げ
(生徒用解説⑤、⑥)
■未xx者取消権
民法では、未xx者(2021 年4月時点で、民法第4条で 20 歳をxxとしていますので 20 歳未満の者です)が親権者等の法定代理人の同意を得ずに締結した契約は、事業者の行為の不当性の有無にかかわらず、取り消すことができます。これを未xx者取消権といい、民法第5条第1項及び第2項で定めています。
ただし、未xx者でも、結婚している場合はxxに達したものとみなされます(民法第 753条)。
また、法定代理人から処分を許された財産
(小遣い)の範囲で契約した場合(民法第5条第3項)や、xxに達してから代金を支払うなどの追認行為をした場合は取り消すことはできませんし(民法第 122 条)、未xx者が詐術を用いて契約した(xx者であると偽ったり、法定代理人の同意を得ているとうそをつくなどして契約した)場合も、その契約を取り消すことはできません(民法第 21 条)。その他も民法上の細かい規定がありますが、生徒用解説のスライドには未xx者取消権ができなくなる場合として、それらの要件から抜粋して説明しています。
未xx者取消権については、①契約をしても取消しが容易であること(後戻りのための黄金の橋)と、それゆえ②悪質業者が勧誘して来ないという抑止力があること(防波堤)の2つの意味があります。そのため、次に説明するxx年齢の引下げで、18 歳、19 歳に未xx者取消権がなくなることの意味を理解しておく必要があります。
■xx年齢引下げ
民法の改正により、2022 年4月1日からxx年齢が 20 歳から 18 歳に引き下げられます。これによって、2022 年4月1日に 18 歳、19 歳の方は同日にxxに達します。また、xx年齢と、男女とも婚姻ができる年齢とがいずれも 18 歳になるため、先ほど述べた「結婚している場合にxxに達したものとみなされる」との規定はなくなります。
近年、憲法改正国民投票の投票権年齢や公職選挙法の選挙権年齢を 18 歳と定めるなど、18歳、19 歳の若者にもxxの重要な判断に参加してもらうための政策が進められてきました。こうした中で、市民生活に関する基本法である民法でも、18 歳以上を大人として扱うのが適当ではないかという議論がなされ、xx年齢が18 歳に引き下げられることになりました。なお、世界的にもxx年齢を 18 歳とするのが主流となっています。
法務省:民法(xx年齢関係)改正 Q&A (xxx.xx.xx)
18 歳から“大人”に!xx年齢引き下げで変 わること、変わらないこと。 | 暮らしに役立つ 情報 | 政府広報オンライン (gov- xxxxxx.xx.xx)
20 歳になった若者(xx者)に注目すると、消費生活相談件数は未xx者と比べて多くなっており、また、その契約金額も高額になる傾向があります。それらの相談の中には、未xx者取消権による保護がなくなる満 20 歳を迎えた直後に、悪質な事業者のターゲットとなった事例もみられます。
民法のxx年齢引下げに伴い、これまで未xx者取消権で保護されていた 18 歳、19 歳の若者が保護の対象から外れることになるため、消費者被害の拡大を防止すべく万全を期する必要があります。
(4)インターネット通販に関して知ってお
きたいこと
(生徒用解説⑦、⑧、⑨)
■通信販売の広告として表示が義務付けられている事項
特定商取引法で、インターネット通販も含めて通信販売をする事業者が広告に表示しなければならない事項が定められています。 詳しくは特定商取引法ガイド
(xxxxx://xxx.xx- xxxxxxx.xxx.xx.xx/xxxx/xxxxxxxxx/)を参照のこと。
■返品についての特約
インターネット通販を含めて通信販売は、消費者自らがカタログや広告の表示を見て購入を決めますので、特別な消費者保護のためのクーリング・オフ制度は設けられていません。
その代わり、広告に「返品」に関する特約が記載されていれば、その特約に従って返品を行うこととされています。その特約の記載がない場合、商品が届いてから8日以内であれば、消費者は送料を負担し返品することができます。
■定期購入トラブルに関して知っておきたいこと
ホームページ等で「1回目 90%OFF」「初回実質0円(送料のみ)」など通常価格より低価格で購入できることを広告する一方で、実際には数か月間の定期購入が条件となっている健康食品や飲料、化粧品の通信販売に関する相談が全国の消費生活センター等に多く寄せられています。
具体的な事例としては、
・『ダイエット効果のあるサプリメント、お試し 500 円』という広告を見て注文した。最近、初回の商品と同じ商品が届き、商品代金約 6,500 円の請求書が同梱されていた。驚いて事業者に問い合わせると、『5回の商品購入が条件の契約だ』と言われた。
・定期購入が条件だがいつでも解約できるとなっていた美容液をインターネットで注文した。数日後、初回の商品が届き、コンビニで商品代金約 4,000 円を支払った。2
回目以降の価格は約1万 2000 円だった。
2回目を解約しようと思い事業者に電話をすると、『解約は次回発送予定日の7日前までに連絡が必要。次回の発送は2日後なので今は解約できない』と言われた。
など、定期購入の条件に期間・回数が定められ ている場合や、消費者が契約内容を認識しにく い場合などがあります。国民生活センターでは、定期購入の相談が増加していることを受け、契 約内容や解約条件をしっかり確認するよう消 費者に注意喚起を行っています。資料にあると おり、定期購入に関する消費生活相談件数は、
近年急激に増加しています。2020 年も対前年比で約 26 ポイント増加しており、2015 年と比べると約 14 倍に増加しています。また、2020 年の定期購入に関する相談件数の9割以上が、インターネット通販によるものです。中学生が契約者となっている事例も報告されています。
(5)クレジット決済に関して知っておきた
いこと
(生徒用解説⑩、➃、⑫)
■支払方法について
このプログラムで取り上げている売買に関するトラブルは、いずれもインターネット通販に関わっています。
代金の支払方法について、商品との引き換えで支払う代引きや、商品の到着後にコンビニや金融機関等から振り込む方法もありますが、多くはキャッシュレス決済の利用となっています。
キャッシュレス決済は上記のような種類があります。
■現金払いとキャッシュレス払いの比較
現金払いとキャッシュレス決済とを比較した資料が上記です。
特に後払いの場合には、支払の感覚が薄くなり、つい使い過ぎてしまう、買物したことを忘れがちといった問題があります。
■三者間契約
クレジットカードを持っていると、現金がなくても買物ができる、ということから「魔法のカード」のような印象を持つ生徒もいるかもしれません。
しかし、実際にはクレジットカードを発行する会社と消費者との間にあらかじめカード会員契約が結ばれています。その契約の際にクレジットカード会社は、その消費者の支払能力を審査して、その能力があると判断したことでカード会員として契約します。「クレジット」という言葉は「信用」を意味しており、支払能力があることを信用したということです。
そしてこのクレジットカード会社と加盟店契約をしている販売会社で消費者が買物した際、その代金をクレジットカード会社が立替払してくれます。
消費者は後日その代金をクレジットカード会社に支払うことになります。
(6)契約トラブルに遭遇した場合の対応
(生徒用解説⑬、⑭)
■188 消費者ホットラインの仕組みと各地の消費生活センター
もし買物などの消費生活上のトラブルに巻き込まれそうになったり、トラブルに遭ったりした場合、一人で悩まず、身近な大人に相談することが大切です。
その上で更に専門家に相談したい場合は 188に電話して相談しましょう。
188 は全国共通の番号で、最寄りの消費生活センター等の相談窓口につながります(相談窓口が閉所している時間にかけた場合は、開所している時間と電話番号が流れます)。消費生活センターは、都道府県や市町村などの地方公共団体が運営している機関で、無料で相談できます(通話料は相談する側の負担となります)。
■中学生の消費生活相談の件数の多いもの
PIO-NET(パイオネット 全国消費生活相談者ネットワークシステム)に登録された、2019年度受付の契約当事者が中学生のデータにより作成(2020 年 12 月 13 日までの登録分)
中学生の 2019 年度の消費生活相談件数は年
間 4,600 件程度。商品・サービス別で順位を示すと男性はオンラインゲームがダントツで一位。続けて化粧品(脱毛剤など)、アダルト情報サイトの相談となります。女性は健康食品、続いてオンラインゲームやアダルト情報サイトを含めたデジタルコンテンツ一般、化粧品となります。
○その他、消費生活相談に関する情報は下記のようなサイトをご参照ください。
・国民生活センター xxxx://xxx.xxxxxxx.xx.xx/
・消費者庁(消費者白書) xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxxx/xxxxxx/xxx sumer_research/white_paper/#white_paper_2 020
6.実践例
準備(授業開始前)
4名程度のグループを編成し、話合いが円滑に行えるよう指示する。ツール「学習プリント」を配布する。
導入(10 分)
※契約について既に扱っている場合は導入を短くし、展開に時間をかけると良い。
◎教師からの発問
皆さんは 18 歳で成人、つまり大人になることになります。大人になると自分でクレジットカードを作ったりアパートを借りたりすることもできますが、その時に注意しないとトラブルに遭うこともあります。まず、今日は、買物の基本的な仕組みやルール、そして注意点について学びましょう。
皆さんは買物をすると思いますがどこでどんなものを買いますか?
普段、〇〇はどこで買物しますか。(必需品、娯楽し好品を具体的に挙げて、購入先に店舗販売、ネット通販などの無店舗販売の違いがあることに気付くようにする)
(3名程度の生徒に話を聞く。)ツール「買物のイメージ」
・コンビニでお菓子を買う。
・自動販売機で飲み物を買う。
・インターネット上でゲームを買う。
・漫画アプリで漫画を買う。
・インターネット通販で財布を買う。
・フリーマーケット(フリマ)アプリでキャラクターグッズを買う。
◎解説
今はインターネットがありますので、買物の方法がとても幅広くなりました。
例えば、インターネットの通販サイトで商品を買ったり、フリマアプリで買物をしたり、ゲームで課金をするためにお金を払うのも買物になります。
■「契約の説明」
◎教師からの発問
そのような買物ですが、法律で保護された約束(法律行為)になります。このことをなんと言いましたか?
(「契約」については既に小学校で学習していますが、もう一度確認しましょう。)
◎契約について確認する
契約は、契約書などの書面でやり取りしないと成立しないと思いがちですが、口頭での合意のみでも成立します。買物の『契約』は、売る側の「こんな特徴を持つ商品を〇〇円で売ります。」という意思と、買う側の「その商品を〇〇円で買います。」という意思が合致することによって成立します。
そして、一度成立すると、両者は対等の立場となり、法律で決められた一部の例外を除き、契約は守らなければなりません。買った後に、原則としては気に入らないから商品を返したい、ということは認められません。
お店や売る人によっては、「○日以内なら返品も大丈夫です」ということもありますが、基本的には、双方の合意が成立したら、一方的な都合で契約をなしにすることはできません。それが買物での契約(売買契約)で、皆さんも契約をしているのです。
今は未xxですが、大人になると法律上の責任が重くなることに注意が必要です。
ツール「契約の成立」「契約の仕組み」を適宜使用する。
◎教師からの発問
買物で失敗したな、間違ったな、などの経験はありますか。
(3名程度の生徒に話を聞く。ただ、失敗経験を話したがらない生徒は多いので、深追いをしないよう留意が必要。)
展開Ⅰ 「買物でのトラブル事例の紹介」(8分)
◎教師から事例の紹介
安易な気持ちで買物をしてしまうことで、トラブルになってしまうことがあります。
中学生や高校生からの無店舗販売、インターネット取引に関する相談事例をいくつか紹介します。ツール「買物のトラブル事例」
1校時で全ての事例を解説することは時間的に難しいと考えられるので4事例を扱う場合を想定。
【事例】
①通販サイトで財布を購入。★5のユーザーレビューが多かったが、届いた物は期待に反したもの。高評価は事実ではないようだ。
②インターネット広告を見て、腕時計を購入。届いた物は広告写真と色味が違ったが返品不可のようだ。
②-2 インターネット通販で靴を注文。サイズは合っていたが横幅が狭すぎて履けない。
②-3 無料のマンガ閲覧アプリに登録。無料期間は最初の1か月だけで、それ以降は有料と気付かず数か月使用してしまった。
③インターネットでサプリが 100 円で購入できるとの広告を見て注文。実は定期購入だったため翌月も商品が届いてしまい、高額請求があった。
④親のスマホを借りてゲームで課金。10 万円近い高額請求があった。
◎解説
ちなみに、10 代の“買物トラブル相談”の上位3つは、このようになっています。男性:オンラインゲーム、化粧品(脱毛剤など)、アダルト情報サイト。
女性:健康食品、デジタルコンテンツ一般(オンラインゲーム、アダルト情報サイトなど含む、
化粧品
ツール「中学生の消費生活相談の件数の多いもの」の資料を提示
展開Ⅱ 「トラブル事例の問題点について考える(個人で考え、次に話合い)」(17 分)
◎教師からの発問
これまで、契約のことやトラブル事例について話をしてきました。トラブルはなぜ起きたのでしょうか。
まずは個人で、「学習プリント」にメモをしながら考えてみましょう。その後、グループで話合いをしてみたいと思います。
個人で考える時間は、2分間です。
「1.事例について、気付いたこと、気になったこと」の欄に気付いたことや気になったことを書いてみてください。
(2分後)
はい、2分が経ちました。
ここからは、考えたことをグループ内で紹介する時間です。何番の事例について、どんなことが気になったか、何が失敗だと思ったかなど、他の生徒に紹介してみましょう。
各自の考えたことの紹介が終わったら、気になったことを「それはなぜ?」と質問をしてみてください。そうすると考えが深まっていきます。他の生徒の意見や気付いたことがあれば、学習プリントの「2.グループの話し合いで気付いたこと。」の欄にメモしておきましょう。
話合いの時間は 10 分間です。では始めましょう。
ツール「学習プリント」にメモを記入。
「全体共有」(5分)
◎教師からの発問
では、どんな意見があったのか、グループごとに聞いてみたいと思います。グループの中で出た意見を1つ教えてもらえますか。
そして、トラブルに遭わないための良いアイデアが出ていたら、それを教えてください。
◎留意事項
時間の関係により代表のグループによる発表にしてもよい。なお、ここで困ったときには身近な大人に相談することも生徒に伝える。
「本当に欲しいモノは、お店に行って買った方がよい」
「インターネットで買物をする時は、返品の条件をしっかり確認すべきだと思った」
「上手い話には、必ず裏があると思っておく。疑いの気持ちをどこかで持っておく」
「初回は無料、2回目からは有料というケースは良くある。気を付けたい」
「よく分からないときは信用できる大人に相談する」
まとめにつなげやすいように、発表された内容を教員が問題点に整理する。教師向け参考情報 予想される中学生のコメント
まとめ 「振り返りと大切な情報の確認」(10 分)
最後に、本日の授業の振り返りです。
ものやサービスなどを購入するという買物は、『契約』という行為で口頭での合意のみでも成立するということを復習しました。
一度合意をしたら、原則は一方的にやめることはできません。例外的に、法律で認められた場合には、契約をなしにすることが認められています。
そのため、買うことを決める前に、しっかり情報を確認し、判断することが必要です。
消費者トラブルに遭わないためにも例えば、その商品がどのようなものか、価格はいくらかだけでなく、返品や支払いの条件などの契約のルールも確認するようにしましょう。
インターネットで買物をする際は、特に注意して確認する必要があります。
ツール取り扱う事例の数を絞り、その事例に応じて、生徒用解説(「未xx者取消し」、「xx年齢引下げ」、「定期購入のトラブルとは」、「支払方法」、「現金払いとキャッシュレス払いの比較」、
「クレジットカード取引の仕組み」)を使って、特に注意すべき事項等の解説をしても良い。 生徒から、インターネットで買物をした場合、クーリング・オフができるのではないかなど、クーリング・オフに関する発言があった場合には、「クーリング・オフ」、「通信販売広告規制」、「返品についての特約」について解説すると良い。
なお、次の時間でこれらについて解説するように構成しても良い。
仮に、契約に関してトラブルになった、あるいは何かよく分からなくて困った場合などは、一人で悩まずにまずは周りの大人に相談しましょう。さらに、188 に電話をして消費生活センターなどに相談することも大切です。消費生活センターなどに相談することで自分の被害を防ぐことができたり、解決のために力になってもらえたりするだけでなく、皆さんからの情報で、同じような被害に遭う人を少なくすることもでき、皆さんの行動が社会を変えることができるのです。相談することを諦めてしまうと、一人だけでなく、多くの人が被害に遭ってしまう可能性があります。より良い消費生活を送るために、自分の問題の解決が社会を変える力にもなることを知っておいてくださ
い。
ツール「188 消費者ホットライン・消費生活センター」
◎振り返り
最後に、本日の授業のまとめとして「学習プリント」に記入してください。空欄を埋めるほか、プリントの一番下の、「4.自分が買物のトラブルに遭わないためには何に気を付けたいと思います
か」という欄に、授業を振り返り、自分が注意したいことを、書いてください。
ツール「学習プリント」
プリントに書いたことを次の時間に共有してもよい。
「中学生を対象とした教育プログラム」指導者用解説書
制作・著作 消費者庁(令和3年3月)
x000-0000 xxxxxxxxxx 0-0-0 消費者庁 消費者教育推進課 TEL 00-0000-0000 FAX 00-0000-0000
中学生を対象とした消費者教育プログラム開発に関する検討会 委員名簿
x | x | x | 埼玉県立総合教育センター所長 | |
(前埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課課長) | ||||
x | x | x | x | 株式会社博報堂 CSR グループ CSR プロデューサー |
x | x | x | x | 公益社団法人全国消費生活相談員協会理事 |
(九州支部支部長) | ||||
x | x | x | x | xx大学 客員教授(元 府中市立府中第三中学校校長) |
x | x | x | x | 弁護士 |
xxx x x 横浜国立大学 教育学部教授
以上6名(五十xx、敬称略)令和2年4月1日現在
協力校 世田谷区立芦花中学校
町田市立真光寺中学校町田市立第三中学校