Point
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⑩ 有期契約労働者の期間途中解雇
(個別)
(1 ) 労xxは、「使用者は、期間の定めのある労働契約 について、やむを得ない事由がある場合でなければ、 その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」( 17 条 1 項) と規定している。
(2 ) 「やむを得ない事由」とは、一般的にいえば、当該契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由ということと
なる。
事件の概要
1 申請者 : ○1 労 2使 3双方 4その他
2 調整申請に至るまでの経過
労働者Xはデパートの衣料品売場のパート労働者として、半年毎の契約を繰り返し更新し、 Y会社に 10 年以上勤務してきた。契約期間を数か月残したある日、突然店長から解雇を告げられ、有給休暇を消化するよう指示があった。解雇理由証明書の発行を求めたところ、勤務態度不良による解雇とのことであった。解雇理由にxxがいかないので、Xは、あっせんを申請した。
3 主な争点と労使の主張
争点 有期契約労働者の期間途中解雇
労働側主張 | 使用者側主張 |
・勤務態度について、これまできちんとした注意を受けておらず、解雇理由に納得がいかない。不当解雇だ。 ・復職を求める気持ちはないが、残りの契約 期間の賃金に相当する解決金の支払いを求める。 | ・直近の契約更新の際、店長が勤務態度について指導し、契約更新後も勤務態度が改善されない場合には、辞めてもらうと話してあった。契約更新後も、改善されない面があったので、解雇を告げた。 ・ある程度の解決金なら支払う意思がある。 |
4 調整開始より終結に至るまでの経過(用いた調整手法)
あっせんにおいて労使双方から事情を聴取したところ、Xは、「直近の契約更新の際、勤務態度について店長から指導があったが、解雇に至るほどの内容とは思えなかったし、自分としては気をつけて勤務していた。」と主張した。Y会社からは、Xの勤務態度や指導の経過について説明を受けるととともに、Y会社に対して、有期契約労働者の期間途中解雇に当たっては、通常の解雇以上に、当該契約期間は雇用するという約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるをえないような特別の重大なやむを得ない事由が必要であることを説いた。
労使双方とも、解決金による解決を望んだことから、金額を調整し合意に至ったが、Xから、 Y会社からの謝罪の意も和解協定書に盛り込んでほしいとの話があった。最終的には、Y会社からの遺憾の意の表明及び解決金の支払いを内容とする協定書案に双方が合意し、本事件は解決した。
5 あっせん案の要旨及び案を決めた背景・理由
(あっせん案の要旨)
① Y会社は、Xに対し、今時の解雇に当たり誠意ある対応を怠ったことについて遺憾の意を表する。
② Y会社は、Xに対し、本件の解決金として金○○万円を○年○月○日までに支払う。
解 説
(1) 本事件は、有期契約労働者の契約期間途中における解雇をめぐる事案であり、労xx 17 条 1項の適用が焦点となる。
労xxは、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」(17条 1 項)と規定している。
労xxの前提である一般法たる民法は 628 条で、雇用契約の当事者が契約期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときには、各当事者は直ちに契約の解除をすることができることしている。同条は、そもそも、有期雇用(労働)契約においては、その契約期間を設定した契約意思から、期間中は原則として契約の両当事者は解約することができず、つまり、使用者は解雇できず、労働者は退職できないこととされ、ただ、「やむを得ない事由」がある場合にのみ解約できることを定めたものと解されている。そして、「やむを得ない事由」とは、相手方の強度の不誠実な行動などにより期間満了まで労働契約関係を維持することが不当と認められるほどの重大な事由を意味するものと解されてきた。
労xx 17 条 1 項は、民法 628 条の趣旨をあらためて確認し、特に、契約期間中の使用者からの解雇についてのみ規定したものであり、「やむを得ない事由」が存在しない場合の使用者による契約期間中の解雇を一切認めず、解雇は無効となると定めた強行規定と解される。
労xx 17 条 1 項の「やむを得ない事由」とは、民法 628 条の「やむを得ない事由」と同様の
内容と解され、一般的にいえば、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ない ような特別の重大な事由と解されている。また、同条は、契約期間内は「やむを得ない事由」 がない限り解雇されないという形で労働者に期間内の雇用を保障する強行規定であることから、契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意し た場合の特約の法的効力をも否定したものと解されている。同条の制定は、有期労働契約にお ける解約特約の効力に関する裁判例の混乱に決着をつけた意義をもつものと評価されている。
さらに、同条のxxが「やむを得ない事由がある場合でなければ」としていること及び立法経緯をふまえて、「やむを得ない事由がある」ことの主張立証は使用者がしなければならないと解されている。
労xx 17 条の施行前の裁判例ではあるが、xx電機八幡工場(仮処分)事件(xxx判平
14・9・18 労判 840 号 52 頁)判決は、民法 628 条の強行規定性を認めたうえで、「やむを得ない事由」を厳格に解して、事業の縮小その他のやむを得ない事由が発生したときは契約期間中といえども解雇する旨定めた就業規則の解釈にあたっては、解雇が雇用期間の中途でなさなければならないほどのやむを得ない事由の発生が必要であるというべきと判示している。また、モーブッサン・ジャパン事件(東京地判平 15・4・28 労判 854 号 49 頁)においては、有期契約労働の契約期間中においていつでも 30 日前の書面による予告のうえ本件契約を終了できる旨を記載した労働契約書により契約を締結した者に対する契約期間中の解雇について、解雇の理由がやむを得ない事由(民法 628 条)に当たるとは認められないため無効と判示されている。
(2) 本事件は、勤務態度不良を理由とした有期契約労働者の契約期間途中の解雇をめぐる事案である。労使双方とも、解決金による解決を望んだことから、Y会社からの遺憾の意の表明及び解決金の支払いを内容とする協定書案に双方が合意し、解決した事例である。
(参照すべき法令)
民法
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
労働契約法
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
(略)
(参考となる判例・命令)
・xx電機八幡工場(仮処分)事件―xxx判平 14・9・18 労判 840 号 52 頁
・xx電機八幡工場(本訴)事件―福岡地xxx判平 16・5・11 労判 879 号 71 頁
・モーブッサン・ジャパン事件―東京地判平 15・4・28 労判 854 号 49 頁
・ネスレコンフェクショナリー関西支店事件―大阪地判平 17・3・30 労判 892 号 5 頁
・角川文化振興財団事件―東京地決平 11・11・29 労判 780 号 67 頁