法律上,一方的な意思表示によって契約を終了させる権利が当事者に与えられている。これを解約申入れという(ex.617条,627条)。
第4章 契約の解除
第1節 契約の終了
第1 単発的契約
1回限りの履行のみを目的とする契約(単発的契約)では,履行が完了すれば契約は終了する。
第2 継続的契約
契約に存続期間があり,その間契約が継続的になされる契約(継続的契約)は,存続期間をあらかじめ定めているか否かにより終了原因が異なる。
1 存続期間の定めがある場合
期間の満了により終了する。更新によってさらに契約関係が継続する場合もある。
更新が常態となっている場合には,更新拒絶が終了原因として意識されることになる。
2 存続期間の定めがない場合
法律上,一方的な意思表示によって契約を終了させる権利が当事者に与えられている。これを解約申入れという(ex.617条,627条)。
第3 その他の終了原因
1 解除
2 告知
継続的契約における解除を指す。講学上の概念である。
3 合意解除
当事者間における契約解消の合意である。
第2節 解除
第1 解除の意義
契約が締結された後に,その一方当事者の意思表示によって,その契約がはじめから存在しなかったと同様の状態に戻す効果を生じさせる制度
解除権が認められるのは以下の場合である。
1 契約で解除権を留保した場合(約定解除権)
⑴ 契約で解除権の発生原因について定めている場合
⑵ ある種の契約があると解除権の留保があるものと法律上認める場合 ex.手付の授受
2 法律の規定で定められている場合(法定解除権)
⑴ 各所で個別的に解除権を認めている場合(561条~568条,570条,635条等)
※ 改正法においては,売主が買主に権利の全部を移転できない場合, 売主は権利移転義務(改正法561条)の不履行という債務不履行状態にあるため,債務不履行の一般規定により処理される。そのため現行561条は削除。
改正法561条が,他人物売買の売主に,権利を取得して買主に移転さ せる義務を負わせているところ,現行562条における他人物売買の善意の売主に解除権を認める規定は,これと矛盾するため削除された。
売主が買主に目的物を引き渡し,又は,権利を移転したが,それが 契約の内容に適合しない場合について,「第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。」とし,買主の解除を認める。まず,目的物の不適合の場合を規定し(改正法564条),これを権利の不適合の場合に準用している(改正法565条)。
請負人の担保責任について,改正法559条を介して改正法564条の規 定が準用されるため,改めて請負で解除を規定する必要がなく,また,判例によれば,建築請負の目的物に重大な瑕疵があるために建て替えざるを得ない場合には,注文者は建替費用相当額の損害賠償請求ができることから解除の制限をする必要がなく,現行635条ただし書は合理性がないため,現行635条は削除された。
⑵ 相手方の債務不履行を理由とする場合(541条~543条等)
第2 解除に類似した制度
1 合意解除(解除契約)
契約の効力発生後に,両当事者の合意で契約の効力を消滅させるもの
2 解除条件・失権約款
一定の事実が発生したときに契約の効力がなくなる旨の特約
条件とされた事実が実現することにより,解除の意思表示を要せず,当然に契約の効力が消滅する。
3 告知
継続的契約(賃貸借・雇用・委任・組合など)は,一方当事者の債務不履行を理由としてその契約関係を解消させる場合にも,遡及効を生ぜず,将来に向かって消滅(終了)するだけである。この場合の解除を,講学上,告知という。
4 解約申入れ
継続的契約関係において,期間の定めのない契約を将来に向かって終了させる意思表示
これは,期間の定めのない継続的契約における通常の(本来の)終了原因である。
5 取消し
意思表示の瑕疵や制限行為能力を理由として,遡及的に効力を消滅させること
6 撤回
終局的な法律効果を生じていない法律行為や意思表示の効力を,そのまま将来発生しないように阻止すること
第3 解除し得る契約の範囲
1 約定解除の場合
約定解除の場合には,その対象となる契約に限定はない。
2 法定解除の場合
⑴ 贈与または消費寄託(預金契約について大判昭8.4.8)のような片務契約にも認められる。
⑵ 継続的契約の解除
継続的契約にも解除規定(とくに 541 条)の適用がある。ただし,継続的契約である賃貸借,雇用,委任,請負等には,解除につきいくつかの特則がある。
ア 賃貸借,雇用,委任,組合においては,解除の効果が遡及しないこととされている(620条,630条,652条,684条)。
これらの規定を根拠に,一般に,継続的契約においては契約の遡及効を否定すべきと解されている。
※ 賃貸借の場合,信頼関係破壊の法理により修正されている。
イ また,請負契約,委任契約には,契約の特殊性に対応した特別の解除権が規定されている。
⑶ 契約の効果が,その締結と同時に完結して,履行という問題を残さないもの
このような契約では,一般的な法定解除権を生じる余地はない。
第3節 法定解除
Ⅰ 法定解除権の成立要件
現行(履行遅滞等による解除権)
第 541 条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。
(定期行為の履行遅滞による解除権)
第 542 条 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなけ れば契約をした目的を達することができない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,前条の催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる。
(履行不能による解除権)
第543 条 履行の全部又は一部が不能となったときは,債権者は,契約の解除をすることができる。 ただし,その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
●改正法(催告による解除)
第541 条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。ただし,その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らし て軽微であるときは,この限りでない。
(催告によらない解除)
第542 条 次に掲げる場合には,債権者は,前条の催告をすることなく,直ちに契約の解除をする ことができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明 確に表示した場合において,残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ 契約をした目的を達することができない場合において,債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか,債務者がその債務の履行をせず,債権者が前条の催告をしても 契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には,債権者は,前条の催告をすることなく,直ちに契約の一部の解除をする ことができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
第543 条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,債権者は,前2条の規定による契約の解除をすることができない。
第1 現行における取扱い
1 履行遅滞による解除の要件(541条)
①債務者の責めに帰すべき事由による履行遅滞があること,②債権者が相当の期間を定めて催告すること,③債務者が催告期間内に履行しないこと,が必要である。
⑴ 債務者の責めに帰すべき事由による履行遅滞があること(要件①)履行遅滞を生ずる要件として,⑴履行が可能なこと,⑵履行期を徒 過したこと,⑶債務者の帰責事由があること,⑷履行しないことが違
法であること,が必要である。
ア 履行が可能なこと
履行が不能であれば,543 条の問題となる。
イ 履行期を徒過したこと
(ア)履行期の徒過
本来の期限より遅れていること
(イ)履行期(412条)
ⅰ 確定期限あるとき………期限到来時
ⅱ 不確定期限あるとき…債務者がその期限の到来を知ったとき
※ 改正法では,「債務の履行について不確定期限があるときは, 債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。」(改正法412条2項)とし,現行下で通説とされていた同条項前段部分が明文化されている。
ⅲ期限の定めのないとき…履行の請求を受けたとき
ウ 債務者の帰責事由があること
規定上は明らかではないが,543 条と同様これを要件とするのが大判大 9.1.29・通説である。
※ 改正法では,債務者の帰責事由を解除の要件としていない。
エ 履行しないことが違法であること
債務者が同時履行の抗弁権を有するときは債権者は自己の負担する債務につき,履行の提供をしなければならない。
しかし,この履行の提供の時期と程度を厳格に解すると不誠実な債務者に履行を拒む口実を与えることになる。そこで判例(大判大 10.11.9,最判昭 34.8.28 等)は,xxxに従い提供の時期と程度を緩和している。
(ア)確定期限の定めのある債務については債権者がその期限に提供すれば債権者がその後催告するにあたり,提供を必要としない(大判昭3.10.30)。
(イ)期限の定めのない債務(確定期限の定めのある債務につき,当事者双方がその期限に履行の提供をしない場合も同様)については,催告と同時に提供すれば足りる(大判大10.6.30)。
(ウ)催告に示された履行期が一定の日時である場合,その日時に提供すればよく,その期日を徒過すれば,債務者は遅滞に陥る。これにより解除権が発生し,債権者はその後提供を継続する必要はない。
※ 綿糸の売買で,売主が11月10日に11月23日午前までに売主の店舗で綿糸と引換に代金を支払えと催告して,催告期間である 11月10日から23日までの間は綿糸を自分の倉庫に準備しておいたが,その後は他に処分してしまったという場合に,売主の履行の提供の継続があったとされ,解除を有効とした(大判昭 3.5.31)。
※ 催告の時でなく,催告に示した相手方の履行すべき時期でもよい(最判昭36.6.22)。
⑵ 債権者が相当の期間を定めて催告すること(要件②)ア 催告
債務者に対して債務の履行を請求する意思の通知
催告は,履行を求める債務の同一性を判断することができる程度に明確になされることを必要とするが,過大・過小であっても,債務の同一性が認められる限りで有効である。
イ 相当の期間
相当の期間というのは債務者が履行期までに履行の準備をしてい ることを前提に,その後の履行を完了するのに必要な猶予期間である。
論点01 | ||
では,期間が相当でない場合の催告は無効となってしまうのか。 |
A 有効説(最判昭44.4.15・通説)
催告期間が相当でなくても,相当期間の経過によって解除権が発生する。
(理由)
① 541条が催告を必要としたのは債務者に債務の履行を促す趣旨である。そして,期間の不相当な催告であっても,債務者に債務の履行を促すことができる。とするならば,期間が相当でない催告であっても,催告から客観
的に相当な期間の経過によって解除権が発生すると解すべきである。
② 無効とすると,期間の不相当な催告を何回繰り返しても解除権を生じないことになり,履行しない債務者と比べて催告をした債権者に余りにも不利益である。
B 無効説
催告期間が相当でないときは催告自体が無効である。
(理由)
有効とすると期間が相当か否かを債務者が判断しなければならないことになり,債務者に酷である。
ウ 催告の不要な場合
(ア)定期行為(542条)
契約の性質または当事者の意思表示によって,一定の日時または一定の期間内に履行をなすのでなければ,契約の目的を達することができないもの
ex.買主である商人が客に暑中見舞いの進物とするためのうちわの売買(大判大 9.11.15)
(イ)催告を不要とする旨の特約のある場合(大判昭7.9.1)
(ウ)一方当事者に著しい背信行為のある場合
ex.賃貸借の当事者の一方が賃貸借関係の継続を困難ならしめるような背信行為をした場合(最判昭 27.4.25)
※ しかし,債務者に履行の意思がないことが明らかである場合にもなお催告は必要とされる(大判大 11.11.25)。催告によってその意思を翻し,履行する場合も考えられるからである。
⑶ 債務者が催告期間内に履行しないこと(要件③)
本来的債務の不履行のことをいう。
履行せずに期間が満了したとき,または期間内に履行拒絶の意思表示によって履行しないことが明確となったときに,解除権が発生する。
2 履行不能による解除の要件(543条)
①履行期に,②履行が不能となり,③その履行不能が債務者の責めに帰すべき事由によって生じることが必要である。履行が不能である以上,催告は不要である。
⑴ 履行期に履行が不能となること(要件①)ア 後発的不能
契約の解除はすでに契約が成立していることを前提とするものであるから,履行不能は,契約成立時に履行が可能であってその後に不能となる場合(後発的不能)に限られる(通説)。
イ 解除権の発生時期
現在は不能でも履行期に履行可能であれば解除は問題とならないが,履行期前でも,履行期に不能となることが客観的に確実になれば,履行期を待たずに解除できる。また,履行期後に不能となった場合も,その時から催告なしに解除することができる。
⑵ 履行が不能となること(要件②)
不能であるかどうかは,社会の取引観念によって決定する。
例えば,売主が目的物を二重に譲渡して移転登記してしまった場合は原則として履行不能となったといえる(最判昭35.4.21)。
⑶ 履行不能が債務者の責めに帰すべき事由によって生じること(要件③)
債務者の帰責性は,履行遅滞の場合と同様である。
債務者が履行遅滞の状態にある間に不能となれば,たとえそれが不可抗力による場合でも,原則として債務者の責めに帰すべき履行不能とされる。ただし,債務者に同時履行の抗弁がある場合は債務者の責めに帰すべき履行不能とはならない。
※ 改正法においては,債務者の帰責事由を解除の要件としていない。
⑷ 催告不要
本条の解除権は催告を要せず,履行不能の事実のみによって直ちに発生する。
もっとも,履行不能であるかどうかは社会の取引観念によって決定するため客観的にはっきりしない。そのため,債権者が念のためにという意味で催告することは差し支えなく,この場合には催告期間満了のときに解除権が発生する(大判昭9.12.21)。
3 不完全履行による解除の要件
⑴ 総説
債務者の行った給付が不完全な場合を不完全履行という。
これは,究極的には履行遅滞,履行不能に解消されることも多い(ex.買ったスーツに虫食いがあったが取り替え可能である場合)。
しかし,行為債務の中には,これら二者に解消しきれない類型があり,不完全履行という概念はそれなりの存在意義をもつ(ex.医者と医療契約を結んだが,不完全な施術により後遺障害が生じた場合)。
不完全履行の要件は,追完を許す場合と,許さない場合により異なる。
⑵ 履行が可能であり,それにより契約をした目的を達成することができる場合(追完を許す場合)
履行遅滞に準じ,債権者は相当の期間を定めて完全履行を催告し,その期間内に追完がなければ契約を解除できる。
⑶ 完全履行が不可能か,またはこれをしても契約をした目的を達成することができない場合
履行不能に準じ,債権者は催告をすることなく直ちに解除できる。
第2 改正法における取扱い
1 概観
⑴ 改正法においては,解除権発生要件という観点から,催告による解 除(改正法541条)と催告によらない解除(改正法542条)に分けて規定され,不履行の態様はその下位類型と位置付けられる。
⑵ 債務不履行を理由とする解除は,債務不履行をされた債権者を「契 約の拘束力」から解放するための制度であるという理解に立っており,債務不履行により債権者が契約を維持する利益ないし期待を失っているときに,債権者に認められるものであると考えられている。
そのため,債務不履行をした債務者に対する責任追及手段として立 案されている損害賠償制度と異なり,債務者の帰責事由を解除の要件としていない。
⑶ ただし,「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるもの であるときは,債権者は,前2条の規定による契約の解除をすること ができない。」(改正法543条)とし,解除権の発生障害事由を定めている。
この場合は,債務不履行について帰責事由のある債権者がリスクを 負担すべきであり,債務不履行を理由に「契約の拘束力」から離脱する権利を債権者に与える必要がないからである。
2 催告による解除
⑴ 改正法541条本文
改正法541条本文は,「当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間 内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。」とし,現行541条と同じ文言である。よって,上述した現行541条の下での解釈論は,改正法下でも妥当するとされている。
⑵ 改正法541条ただし書
ア 解除権発生の障害事由の新設
催告後相当「期間を経過した時における債務の不履行がその契約
及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は,債権者は契約 を解除できない(改正法541条ただし書の新設)。これにより,債務者としては,債務不履行が軽微なものであることを主張立証すれば,契約の解除を阻止できることとなる。
この場合には当該債務不履行により債権者が契約を維持する利益 ないし期待を失っていないため,解除権が否定されるのである。
イ 軽微性の判定時期
解除権発生の障害となるかという観点から,催告期間経過時にお ける不履行が軽微であるか否かを判断すれば足りる。
ウ 軽微性の判定基準
催告期間経過時における債務不履行が軽微であるか否かは,「そ の契約及び取引上の社会通念に照らして」判断される。
ex.数量的にわずかな部分の不履行でも,その不履行がその契約に とって極めて重大な意味を持つときには,軽微でないと判断されることがある。
3 無催告解除
⑴ 総論
改正法542条1項柱書は,「次に掲げる場合には,債権者は,前条の 催告をすることなく,直ちに契約の解除をすることができる。」とし, 無催告解除について規定している。
同条項各号はいずれも,債務不履行によって契約目的の達成が不可 能になり,その結果として,当該債務不履行により債権者が契約を維持する利益ないし期待を失っていると評価できる場合であるとされている。
⑵ 無催告による契約の全部解除が認められる場面(改正法542条1項)
ア 債務の全部の履行が不能であるとき(1号)
現行543条に対応する規定であり,債権者が契約をした目的を達す ることのできない場合の典型例である。
イ 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示した とき(2号)
債務者による履行拒絶が履行期前にされたか,履行期後にされた かは問わない。
また,債務者による履行拒絶は確定的なものである必要がある。
ウ 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部 の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において,残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき(3号)
エ 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場 合において,債務者が履行をしないでその時期を経過したとき(4号)
現行542条と同様の規定であり,定期行為について催告によらない 解除を認めるものである。
オ 前各号に掲げる場合のほか,債務者がその債務の履行をせず,債 権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行 がされる見込みがないことが明らかであるとき(5号)
契約目的達成不能を理由とする解除の受け皿となる規定である。 とりわけ役務提供型の契約においては,債務の履行が不能であると評価されることは多くないため,重要な意味を持ってくると考えられている。
4 催告解除と無催告解除の関係
改正法は,契約をした目的の達成の可否が基準となる無催告解除(改 xx542条)と,不履行が軽微であるか否かが基準となる催告解除(改正法541条)を並列させる構造を採用している。これを前提とすると,契約目的達成不能とはいえない程度の不履行に直面した債権者としては,改正法542条による無催告解除ができなくても,債務の不履行が軽微でない限り,催告をすることによって改正法541条に基づく契約の解除をすることができる。
5 無催告による契約の一部解除(改正法542条2項)
改正法は,契約の一部解除に関して独立の規定を設けて,「債務の一部 の履行が不能であるとき」(1号),および,「債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」(2号),債権者は,催告をすることなく,直ちに契約の一部の解除をすることができるとしている。
債務の内容が数量的に可分である場合,債権者は不能となった部分に ついてのみ契約の解除ができるという現行下での解釈論を確認した規定である。なお,売買契約の目的物である機械の部品に故障があり,当該部分を修理することが不可能である場合など,質的な一部不能の場合には,改正法542条2項が適用されることは想定されていない。この場合は,代金減額請求(改正法563条2項1号)によってほぼ同様の結果を導くことができる。
Ⅱ 解除権の行使
現行(解除権の行使)
第 540 条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは,その解除は,相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は,撤回することができない。
(解除権の不可分性)
第 544 条 当事者の一方がxxある場合には,契約の解除は,その全員から又はその全員に対してのみ,することができる。
2 前項の場合において,解除権が当事者のうちの1人について消滅したときは,他の者についても消滅する。
第1 解除権行使の方法
1 解除は相手方に対する意思表示によってなされる(540条1項)。
⑴ 相手方
相手方は,契約の当事者もしくはその地位の承継者である。
⑵ 解除の法的性質
解除は単独行為である。単独行為に条件を付すると相手方を著しく不利益な立場に陥れるから,解除の意思表示に条件を付することは許されないのが原則である。もっとも,催告と同時に,催告期間内に適法な履行のなされないことを停止条件とする解除の意思表示をすることは許される。相手方を著しく不利益な立場に陥れるものではないからである。
2 いったんした解除の意思表示は撤回することができない(540条2項)。
相手方の承諾があれば撤回できるが,その効果は第三者に及ばない。もっとも,制限行為能力・詐欺・強迫を理由とする取消しはできる。
第2 当事者の一方がxxある場合
1 解除権不可分の原則(544条1項)
⑴ 意義
契約の一方または双方の当事者が複数あるときは,その全員からまた全員に対して,解除の意思表示をしなければならない。これを解除不可分の原則という。契約の当事者が複数の場合,各自の負担部分に応じた解除を認めると法律関係が複雑になるからである。
⑵ 行使
解除の意思表示は全員同時にする必要はなく,最後の者の意思表示によって解除の効力が生じる(大判大 12.6.1)。
⑶ 適用範囲
初めから当事者が複数のときだけでなく,共同相続によって当事者が複数になった場合にも適用がある(大判大 11.11.24)。
共有者が共有物を目的とする賃貸借契約を解除するときは,252 条本文により共有者の過半数で解除でき,本条の適用はない(最判昭 39.2.25)。
本条は強行規定ではなく,当事者全員で各自別々に解除できる旨の特約をすることはできる。
2 消滅における不可分性(544条2項)
当事者の中の1人について解除権が消滅したときは,他の者についても消滅する。一部の当事者についてのみ解除の効果を認めると,法律関係が複雑になるからである。
複数の解除権者の1人がもつ解除権が消滅した場合の他,複数の相手方の1人に対する解除権が消滅した場合にも適用される。
解除権の消滅原因は何であってもよい。例えば,複数の解除権者の1人が解除権を放棄すれば,全員について解除権は消滅する。
Ⅲ 解除の効果
現行(解除の効果)
第 545 条 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし,第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならない。
3 解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げない。
(契約の解除と同時履行)
第546 条 第533 条の規定は,前条の場合について準用する。
●改正法(解除の効果) 第545 条 〔略〕
2 〔略〕
3 第1項本文の場合において,金銭以外の物を返還するときは,その受領の時以後に生じた果実 をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げない。
第1 総説
1 解除の効果
⑴ 未履行の給付は履行しなくてもよい(545条1項の前提)。
⑵ 既履行の給付は返還しなければならない(原状回復義務・545条1項)。金銭を返還すべき場合には,受領のときから利息を付けなければな
らない(545条2項)。
※ 改正法は,解除によって金銭以外の物を返還する際は果実を返還し なければならない旨を新設した(改正法545条3項)。
⑶ 解除の原因となった債務不履行に基づく損害については,その賠償を請求できる(545条3項)。
2 解除の法的性質
論点02 | ||
解除の法的性質については,民法に直接これを規定する条文は存在 | ||
しない。そこで,解除の法的構成をいかに解するかについて争いがある。 |
A 直接効果説(判例・通説)
解除によって契約は当初から存在しなかったことになり,契約から生じた効果は遡及的に消滅する。その結果,未履行の債務は消滅し,既履行の給付は法律上の原因を失う。したがって,原状回復義務は不当利得返還義務にほかならない。ただ,返還義務の範囲が現存利益の返還(703条)から原状回復にまで拡大されているにすぎない。
この見解の特徴をまとめると以下のとおりである。
① 未履行債務については当然にその履行義務を免れる。
② 既履行債務は,契約上の債権・債務の遡及的消滅によって法律上の原因を欠く給付となり,受領者は不当利得の性質をもつ原状回復義務を負う。
③ 545条は,解除制度の目的に適合するように,返還義務の範囲を現存利益の返還(703条)ではなく原状回復義務にまで拡大し(545条1項本文),また,第三者を保護するため(545条1項ただし書)および損害賠償を併存させるため(545条3項),遡及効を制限した特則である。
(理由)
① 解除の目的が債権者を契約の拘束力から解放するところにあることからして,端的に,解除によって契約は初めから存在しなかったことになり,契約から生じた効果は遡及的に消滅すると考えるべきである。
② 545条1項ただし書は,解除に遡及効あることを前提として,特に第三者保護のために,解除の遡及効を制限した規定と解される。他説によるならば,ことさらこのような規定を設ける必要はなく,ただし書はその意義を失うことになってしまう。
③ 賃貸借のような継続的契約関係の場合は,解除に遡及効が否定されているが(620条等),これは継続的契約関係を簡易に解決するための特別規定であり,逆にいえば,一般に解除の場合には遡及効のあることが原則である。
B 間接効果説
解除は,その直接の効果として契約を遡及的に消滅させるのではなく,ただ,契約が初めから存在しなかったと同様の状態(原状)に戻す義務(原状回復の債権・債務関係)を発生させるにすぎない。その原状回復義務が履行
されることによって初めて契約関係は消滅する。
この見解の特徴をまとめると以下のとおりである。
① 未履行債務については履行拒絶の抗弁権を生ずる。
② 既履行の給付については解除時から返還債務が生ずる。
③ 解除の直接の効果は遡及的消滅ではなくて原状回復義務の発生であり, 545条1項ただし書や3項は当然のことを注意的に規定したにすぎない。解除による原状回復は直接効果説と異なって,不当利得とは何ら関係のないことになる。
(理由)
① 解除の目的たる契約関係からの解放・原状回復に照らせば,契約の遡及的消滅までは不要である。
② 545条3項の存在。
C 折衷説
解除は将来に向かって債権・債務を消滅させる(非遡及効)。この見解の特徴をまとめると以下のとおりである。
① 未履行債務は解除時に,将来に向かって消滅する(非遡及効)。
② 既履行の給付については解除時から返還債務が生ずる(間接効果説と同じ)。
③ 545条1項ただし書や3項は当然のことを注意的に規定したにすぎない。解除による原状回復は直接効果説と異なって,不当利得とは何ら関係のないことになる(間接効果説と同じ)。
(理由)
未履行債務につき,あえて履行拒絶の抗弁権と構成する必要はない。
※ B説とC説の違いは,未履行債務が消滅せず履行拒絶の抗弁権が生じるか(B説),将来的に消滅するか(C説)の点にある。
※ 未履行の給付については履行請求が認められず,既履行のものはもとに戻す義務があり,さらに損害があれば損害賠償も請求できるという解除の具体的な効果自体については,どの説からも異論はなく,大差ない。結局,各説の対立は,理論構成の仕方の違いである。
直接効果説 | 間接効果説 | 折衷説 | ||
545 条1項 本 文 (原状回復義務) | 未履行債務 | 当然に履行の義務を免れる | 履行拒絶の抗弁権を生じる(消滅しない) | 将来に向かって消滅 |
既履行債務 | 不当利得返還義務を生じる(返還義務の範囲を拡大した不当利得の特 則) | 新たな返還義務(原状回復義務)を生じる | 同左 | |
545 条1項ただし書 (第三者の保護) | 解除の遡及効によって害される第三者の保護 規定 | 当然のことを規定した注意規定 | 同左 | |
545 条3項の損害賠償請求権 | 債権者保護のため遡及 効に制限を加えて損害賠償が存続するとした | 当然のことを規定した注意規定 | 同左 |
※ 以下の解説は,判例・通説である直接効果説を前提とする。
第2 解除の遡及効
1 契約の遡及的失効
解除された契約自体から生じた法律効果は,解除によって遡及的に消滅する。
⑴ 契約によって生じた債権・債務は解除によって消滅する(大判昭 3.2.28)。
⑵ 契約によって物権等の権利の移転が生じたときは,相手方は解除までの間目的物を使用収益して得た利益を償還すべき義務を負う(最判昭34.9.22)。
⑶ 解除された契約によって消滅した権利(例えば,賃貸土地の売買に伴い,混同により消滅した賃借権)も,原則として復活する(大判昭 8.11.1)。
2 相殺と解除
解除によって消滅する債権が解除以前に相殺に用いられた場合,契約が解除されるとその債権は初めから存在しなかったことになるから,相殺は無効となり,反対債権は消滅しなかったこととなる(大判大9.4.7)。
3 更改契約の解除
第3 原状回復義務(545条1項本文)
1 主体
解除の効果が及ぶ者全員であり,契約上の債権の譲受人も含まれる。
論点03 | ||
では,保証人の原状回復義務に対する責任も認められるか。契約の | ||
解除により,債権債務関係は遡及的に消滅し,保証債務もその付従性によ り(448 条)消滅してしまうとも思われるので問題となる。 |
→ 肯定説(最大判昭40.6.30 百選Ⅱ№22・通説)
保証人の原状回復義務に対する責任も認められる。
(理由)
当事者の合理的意思解釈として,保証人が債務者の負担する一切の債務を保証し,その契約の不履行によって相手方に損失を被らせない意思で保証契約を締結したといえる。
□判例 最大判昭 40.6.30 百選Ⅱ№22
「特定物の売買契約における売主のための保証においては,通常その契約から生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりもむしろ,売主の債務不履行に起因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから,保証人は債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん,特に反対の意思表示のないかぎり,売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務
についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。」
2 範囲
⑴ 原則
原物返還が原則であり,すでになされた登記の抹消,復帰する債権についての通知など,原状回復に必要な行為はすべてなすべきである。
⑵ 代替物
代替物は,同種・同等・同量のものを返還すればよい。
⑶ 金銭
金銭が給付された場合には,受領のときから利息を付して返還することを要する(545 条2項)。
これとの均衡から,給付された物または権利から生じた果実・使用利益も返還すべきである。
※ 改正法 545 条3項は,解除によって金銭以外の物を返還する際は果 実を返還しなければならない旨を新設した。なお,使用利益の返還についてはxx規定を置かず,解釈に委ねている。
論点04 | ||
他人物売買による解除(561 条)の場合に買主が売主に原状回復義 | ||
務の内容として使用利益を返還すべきか。他人物売主には使用権能がない ことから問題となる。 |
※ 改正法においては,売主が買主に権利の全部を移転できない場合,売主 は権利移転義務(改正法 561 条)の不履行という債務不履行状態にあるため,債務不履行の一般規定により処理される。そのため現行 561 条は削除されている。
A 使用利益返還肯定説(最判昭51.2.13 百選Ⅱ№45)
(理由)
① 解除による契約の巻戻しという観点からは,使用利益を売主へ返還させる必要がある。
② 買主が代金の利息を返還請求できることとの均衡から,使用利益の返還を認めることがxxである。
B 使用利益返還否定説
(理由)
① 使用利益の返還を受け得るのは使用権能が売主に帰属する場合であって,使用権能のない他人物売買の場合は売主には損失がないため返還請求を認 めるべきではない。
② 買主に売主への使用利益の返還を認めると,真の所有者からの返還請求に対して二重払いの危険を負うことになる。
□判例 最判昭 51.2.13 百選Ⅱ№45
「売買契約が解除された場合に,目的物の引渡を受けていた買主は,原状回復義務の内容として,解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり,この理は,他人の権利の売買契約において,売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず,民法 561 条の規定により該契約が解除された場合についても同様であると解すべきである。けだし,解除によって売買契約が遡及的に効力を失う結果として,契約当事者に該契約に基づく給付がなかったと同一の財産状態を回復させるためには,買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要があるのであり,売主が,目的物につき使用権限を取得しえず,したがって,買主から返還された使用利益を究極的には正当な権利者からの請求により保有しえないこととなる立場にあったとしても,このことは右の結論を左右するものではないと解するのが,相当だからである。
そうすると,他人の権利の売主には,買主の目的物使用による利得に対応する損失がないとの理由のみをもって,被上告人が本件自動車の使用利益の返還義務を負わないとした原審の判断は,解除の効果に関する法令の解釈適用を誤ったもの」である。
⑷ 返還義務者が必要費・有益費を支出していた場合
返還義務者が目的物について必要費・有益費を支出していたときは,その返還を請求できる。
3 原物の滅失・損傷
⑴ 受領者の責めに帰すべき事由による返還不能
受領者の責めに帰すべき事由によって原物が滅失・損傷して返還不能 となった場合,解除時の評価による目的物の価額を返還することになる。
⑵ 給付者の責めに帰すべき事由による返還不能
給付者の責めに帰すべき事由によって返還が不能となった場合には,受領者は価格償還義務を負わない(最判昭 51.2.13 百選Ⅱ№45)。
⑶ 不可抗力による返還不能
論点05 | ||
不可抗力によって返還が不能となった場合には,いかなる処理をす | ||
べきか。 |
A 受領者の価格返還義務を認めない(xx)。
(理由)
受領者の責めに帰すべからざる事由についてまで受領者に責任を負わせるのはxxでない。
B 受領者の価格返還義務を認める(xx)。
(理由)
価格返還義務は原状回復義務の一環であり,給付受領者の保管義務違反というような帰責に基づくものではない。
C 536条を類推して,反対の償還義務も消滅する。
第4 解除と第三者(545条1項ただし書)
1 「第三者」の範囲
⑴ 解除前と解除後
「第三者」とは,解除された契約から生じた法律効果を基礎として,解除前に新たな権利を取得した者を指す。
解除されるまでは契約は有効であることから,第三者が解除前に解除された契約を基礎として新たな利害関係を取得してしまうのも無理からぬものがある。そこで,解除による契約の遡及的消滅によって第三者が不測の損害を被るのを防ぐ趣旨から 545 条1項ただし書が規定されたのである。
ア 具体例
契約に基づく給付の目的たる物または権利の譲受人,給付の目的物上の抵当権者,質権者,賃借人等が該当する。
イ 解除された契約上の債権の取得者
論点06 | ||
解除された契約上の債権の取得者は,第三者にあたるか。 |
→ 第三者にはあたらない。
(理由)
545条1項ただし書は,契約の遡及的消滅によって第三者が不測の損害を
被ることを防ぐために遡及効を制限したものであり,第三者は財貨の存在を前提にその帰属を争う者であると解すべきであるが,解除された契約上の債権の取得者は財貨の存在自体を争う者であり,これにはあたらない。
⑵ 第三者の保護要件
論点07 | ||
「第三者」(545 条1項ただし書)としての保護を受けるためには,善 | ||
意であることが必要か。また,登記の具備は必要か。 |
→ 善意は要求されないが,権利資格保護要件として登記が必要である(通説)。
(理由)
債務不履行があっても解除されるとは限らないから,第三者の主観的要件である善意は要求されない。もっとも,何ら帰責性のない解除権者を犠牲にしてまでも第三者を保護するためには,権利資格保護要件としての登記を要求すべきである(最判昭33.6.14は対抗要件とする)。
論点08 | ||
登記が要求されるとする場合,第三者はいつまで登記を具備しなけ | ||
ればならないか。 |
→ 通説は,解除後に登記を得た第三者が解除権者に負けるのは不当だとして,結局,両者を対抗関係に立たせるような処理をする。
すなわち,第三者は必ずしも解除時に登記を取得する必要はなく,解除権者が登記を具備するよりも先に取得すれば保護されるとする。
2 解除後の第三者
解除後に現れた第三者との関係は対抗問題である(大判昭14.7.7・通説)。直接効果説に立ち,遡及効を前提とすれば,解除後の第三者は無権利
者から権利を取得した者であり,94条2項による保護がなされ得るにすぎないようにも思える。
しかし,解除の場合,契約は完全に成立しており,遡及効は原状回復の実現のための擬制という性格が,詐欺等の瑕疵ある意思表示の場合よりも一層強い。
そこで,解除後の第三者との関係は,対抗関係で処理する方法が通説となっている。
※ 直接効果説と間接効果説からの第三者の処理
解除前の第三者 | 解除後の第三者 | |
直接効果説 | 545 条1項ただし書 | 対抗問題(177 条) |
間接効果説 | 対抗問題(177 条) | 対抗問題(177 条) |
3 被解除者と第三者との関係
論点09 | ||
解除によって契約関係が消滅し,第三者が登記を備えていなかった | ||
場合,被解除者と第三者はどのような関係に立つか。 |
A 直接効果説
第三者は他人物売買であることを理由として,契約を解除でき,善意であれば損害賠償請求をなし得る(561条)。
B 間接効果説
第三者は履行不能を理由として,契約を解除し得る(543条)。
第5 損害賠償請求権(545条3項)
論点10 | ||
損害賠償の範囲が問題となる。 |
A 履行利益の賠償(最判昭28.12.18 百選Ⅱ№8・通説)
(理由)
(直接効果説から)545条3項は解除権者保護のため,解除の遡及効を制限して債務不履行による損害賠償請求権を存続させた規定である。
(間接効果説から)解除に遡及効はなく,すでに発生している債務不履行に基づく損害賠償請求権を存続させたのが545条3項である。
B 信頼利益の賠償(少数説)
(理由)
(直接効果説から)解除の遡及効の徹底。
第6 解除と同時履行(546条)
元の契約が双務契約の場合,同時履行関係を解除後にも貫くことがxxと考えられることから,原状回復の債権債務も同時履行の関係に立つことを規定した。
Ⅳ 解除権の消滅
現行(催告による解除権の消滅)
第 547 条 解除権の行使について期間の定めがないときは,相手方は,解除権を有する者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,その期間内に解除の通知を受けないときは,解除権は,消滅する。
(解除権者の行為等による解除権の消滅)
第 548 条 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し,若
しくは返還することができなくなったとき,又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,消滅する。
2 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し,又は損傷したときは, 解除権は,消滅しない。
●改正法(解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅)
第548 条 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還することができなくなったとき,又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,消滅する。ただし,解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは,この限りでない。
第1 相手方の催告による消滅(547条)
解除権について期間の定めがないと,相手方はいつまでも解除されるかどうかわからない不安定な状態に置かれることになる。そこで547条は,約定解除・法定解除を問わず相手方を保護するため,催告による解除権の消滅を定めた。
第2 解除権者による目的物の滅失・損傷(548条)
548条は,原物が返還不能な場合でも価格による返還は可能であるが,解除権を有する者が自らの故意・過失により原物を返還不能にしておきながら,解除権を行使することはxxxに反するため解除権が消滅するとしたものである。
※ 改正法では,現行548条1項にただし書が追加され「ただし,解除権を有 する者がその解除権を有することを知らなかったときは,この限りでない。」(改正法548条1項ただし書)とする。また,「自己の行為」を「故意」と改め,確認的規定である現行548条2項は削除された。
第3 解除権の消滅時効
解除権は,解除権の生じた時(債務不履行による解除権の場合は不履行の時)から起算される(大判大6.11.14)。
解除による原状回復請求権は,解除により新たに発生した債権であるから,その時効の起算点は解除の時であり,その期間は原則として10年である(大判大7.4.13)。
※ 改正法の下では,一般的には,解除権は,債務不履行時から5年間でx x消滅し,その期間内に解除されると,原状回復請求権及び損害賠償請求権(原状回復義務の履行不能による)は,解除時から5年間で時効消滅する(改正法166条1項1号)。
第4節 約定解除
第1 意義
契約によって一方の当事者または双方の当事者が解除権を留保し,その解除権行使によって契約関係を消滅せしめること
第2 適用
法定解除とは,主にその解除権の発生原因が異なるだけであり,541~543条以外は約定解除にも適用される。
第5節 合意解除(解除契約)
第1 意義
既存の契約を解消して,契約がなかったと同一の状態を作ろうとする契約
第2 効果
1 原状回復義務・損害賠償責任
当事者が特に決めれば別であるが,545条による原状回復義務や損害賠償義務は当然には生じない。合意解除においては,不当利得返還義務の問題となり,703条以下によって解決すべきものとされる。
受領した金銭を返還するに際し,利息をつける必要はない(大判大 8.9.15)。545条2項の適用が当然にはないからである。
2 第三者の地位
合意解除によって第三者に影響を及ぼすことはできない。合意解除と第三者の地位について,545条1項ただし書が適用される。
□判例 最判昭 33.6.14,最判昭 58.7.5
法定解除であれ合意解除であれ 545 条1項ただし書により第三者の権利を侵害することはできないが,その第三者が不動産の所有権を取得したときは,その所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであって,もし登記を経由していないときは第三者として保護するを得ない。
□判例 大判大 6.4.16
債権者と新債務者とが更改契約を合意解除しても旧債務者の債務は復活しない。
□判例 最判昭 38.4.12
賃貸借において,賃貸人と賃借人とが賃貸借を合意解除しても,原則として適法な転借人の地位に影響を及ぼさない。
□判例 最判昭 38.2.21
xxと借地人とが土地賃貸借契約を合意解除しても,特段の事情がない限り,賃借人の所有する地上建物の賃借人(借家人)に対抗できない。