また、保証契約は次のような特殊性があります。通常の契約は、契約を締結するAとBの2人の合意があれば成立しますが、保証契約では、保証人と債権者とだけでは成立しま せん。保証契約の前提として、債権者と主たる債務者との契約が必要です。このようなことから、保証契約では、債権者、主たる債務者、保証人の立場の違う3人がかかわる、 少し複雑な権利義務関係になります。分かりやすい例として、金銭消費貸借と保証人の事例で説明しましょう。債権者Aと、債務者Bとの間で金銭消費貸借契約を締結します。...
はじめに
保証とは、主たる債務者が債務を履行しない場合に、主たる債務者に代わって弁済をすることを約する契約を意味します。保証契約は、保証人になる人と債権者との間で結びます。
保証人というと、借金をする主たる債務者から頼まれてなるものだというイメージがあるかもしれませんが、そうとは限りません。保証契約とは、債権者と保証人との間で締結される契約を指すもので、主たる債務者から頼まれてなる場合と、頼まれたわけではないが保証人になる場合とがあります。前者を主たる債務者から
「委託を受けた保証人」と、後者は「委託を受けない保証人」といいます。
また、保証契約は次のような特殊性があります。通常の契約は、契約を締結するAとBの2人の合意があれば成立しますが、保証契約では、保証人と債権者とだけでは成立しません。保証契約の前提として、債権者と主たる債務者との契約が必要です。このようなことから、保証契約では、債権者、主たる債務者、保証人の立場の違う3人がかかわる、少し複雑な権利義務関係になります。分かりやすい例として、金銭消費貸借と保証人の事例で説明しましょう。債権者Aと、債務者Bとの間で金銭消費貸借契約を締結します。この契約から生じるBの債務を保証するために、債権者Aと保証人Cが、保証契約を締結します。もともとの金銭消費貸借が存在しないか無効の場合には、原則として、保証契約も効果は生じません。
保証人は、主たる債務者が債務の履行をしな
い場合に、主たる債務者に代わって債務の履行をするわけですが、その見返りは何もありません。保証契約は、保証人には法的に何のメリットもないという特殊な契約です。
誌上法学講座
消費生活相談に役立つ改正民法の基礎知識
第 9 回
保
証
x xxx Xxxx Xxxxxxx 東京経済大学現代法学部教授、弁護士
専門は契約法、消費者法。国民生活センター客員講師、同消費者判例評価検討委員会委員、xxx消費者被害救済委員会会長などを務める。著書に『Q&A 市民のための消費者契約法』(中央経済社、2019 年)ほか多数。
保証人になるのは、個人的に親しかったり、ビジネス上の取引で密接な関係にある人などから頼まれたりなどして断りきれずに引き受ける場合が少なくありません。こうした事情があるので、保証人というのは主たる債務者と保証人との契約だと誤解する人もいるようですが、これは間違いです。ただ「委託を受けた保証人」、
「委託を受けない保証人」と区別されているので、そのどちらかによって保証人の主たる債務者に対する求償権のしくみが違います。
保証契約そのものについて消費生活相談で取り扱うことは多くはないと思われますが、相談員が知っておいたほうがよいと思われるポイントを取り上げます。
2017 年改正によるポイント
保証人になると、主たる債務者が債務の弁済をしない場合には、代わって債務を履行しなければなりません。例えば、主たる債務者が債権者である銀行から事業資金を1000 万円借りていたのに、事業に失敗してまったく弁済できなくなったら、保証人は1000 万円と利息と遅延損害金を支払わなければなりません。その後に、保証人は主たる債務者に求償する権利を持っていますが、支払能力がなくなった主たる債務者から回収することは難しいのが現実です。
このような厳しいものであるものの、保証人になる時は、保証人の意味を正確に理解せず単
なる人物保証程度の理解で引き受けたり、主たる債務者に頼まれて断りきれずに行き掛かりで引き受けたり、「自分が弁済するような事態にはならないだろう」との期待の元に引き受けてしまうケースがあります。その結果、自分には弁済できない多額の債務について保証人を引き受けてしまい、主たる債務者の倒産により保証人も破産に追い込まれる悲劇も起きています。そこで、2017 年改正民法では、保証人保護
のための制度が新たに設けられました。第一が、事業資金の借入れについて個人で保証人になる場合の保証人保護制度です。第二に、事業資金の借入れについて、主たる債務者から委託を受けて個人が保証人になる場合の、主たる債務者の情報提供義務の導入です。第三は、債権者の保証人に対する情報提供義務です。
うとする者本人(以下、保証人)であること
(つまり、保証人本人が公証人役場に出向く必要があります)。
③保証人が公証人に下記を口述すること。
主たる債務の債権者および債務者、主たる債務の元本(根保証契約のときは「範囲「」極度額」)、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの
(保証契約の場合は「(前略)すべてのものの定めの有無およびその内容ならびに主たる債務者がその債務」)を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思を有していること。
なついん
④公証人は、聞き取った内容を文書にして保証人に読み聞かせるか閲覧させて内容の確認をさせること。
個人保証人の保護制度 (465 条の6および7)
個人保証人の保護の対象になるのは、事業資金等の借入れに関する場合です。根保証の場合は、主たる債務の中に事業資金の借入等が含まれていることが必要です。さらに、主たる債務者から委託を受けた保証人であることが必要です。
個人が保証人になるケースは、さまざまです。例えば、住宅ローンや賃貸住宅の契約、身元保証人になるなどは、日常生活でよく見かける身近なものです。しかし、これらには、改正民法で導入された保証人保護制度の適用はありません。
保証人保護制度の概要は、保証契約締結前に公証人が保証人から保証意思があることを確認する制度を導入したというものです。公証人による保証意思の確認手続きがない場合には保証契約は効果を生じません。保証意思の確認手続きの概要は次のとおりです。
①保証契約の1カ月以内に作成された保証意思確認のxx証書が作成されていること(xx証書の作成の手順について以下の③から⑥のように定められています)。
②保証意思確認のxx証書作成に当たっては、保証人の代理人は認められず、保証人になろ
⑤保証人に内容を確認させたうえで、署名捺印させること。
⑥公証人が署名捺印すること。
事業に係る債務についての保証契約の特則
(xx証書の作成と保証の効力)
第465 条の6 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成されたxx証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
2 前項のxx証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。 イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。)主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするもの
この制度の導入により、保証人の意味を理解しないで引き受けたり、行き掛かりで熟慮しないで引き受けたりすることが防止できると期待されています。
である場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
ロ 根保証契約 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、根保証契約における極度額、元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度において元本確定期日又は第 465条の1第一項各号若しくは第2項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。
二 公証人が、保証人になろうとする者の口述
を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。
三 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
四 公証人が、その証書は前三号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
3 前2項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。
による保証意思の確認手続きは必要ありません。第二は、個人で事業を営んでいて、経営者個
人が事業資金を借りる場合に、共同経営者や事業に関与している配偶者が保証人となる場合も適用されません。例えば、夫が個人で工場や小売店を経営している場合に、配偶者である妻が保証人になるケースはよくあります。妻が個人事業にまったく関与していない場合には、保証人保護制度の適用があります。しかし、小さな個人事業では、夫婦で協力して維持している場合が少なくありません。例えば、妻が工場の事務を手伝っていたり電話や接客の対応をしているなど、事業に関与している場合には、保護の対象にはなりません。
(xx証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外)
第465 条の9 前3条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。
一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者
ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者 ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
なお、この場合、妻であるときに保証人になって、その後離婚をしたとしても、元妻は保証人としての責任を逃れることはできません。
対象にならない個人
ただし、事業資金の借入れについて個人が保証人になる場合であっても、公証人による確認手続きが適用されない場合があります。
第一は、主たる債務者である事業者が法人の場合に関するもので、取締役や執行役などの経営責任者である場合や、株式会社で半数以上の株式を有している株主など、会社の経営について支配する権限を持っている個人が保証人となる場合です。中小企業が銀行などから事業資金を借り入れる場合には、代表取締役(世間でいういわゆる「社長」が当たる)が個人で保証人になるのはごく一般的に行われていることです。この場合には、保証人となる者について公証人
債務者の説明義務(465 条の10)
改正民法では、事業資金の借入れに関する委
託を受けた保証人の場合について、主たる債務者の情報提供義務の制度を導入しました。分かりやすく言うと、主たる債務者は、保証人を頼む場合には、相手に対して一定の情報を提供しなければならないとされました。保証人になることを頼んだ相手が保証契約を締結する前に、主たる債務者は次について説明する義務があります。説明すべきことは、「一 財産及び収支の状況、二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額および履行状況、三 主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容」の3点です。ただし、保証人が法人の場合には、適用されません。
(契約締結時の情報の提供義務)
第465 条の10 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 前2項の規定は、保証をする者が法人であ
(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)第458 条の2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
第458 条の3 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3 前2項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。
主たる債務者が上記事項について情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約をした場合であって、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せずまたは事実と異なる情報を提供したことを債権者が知りまたは知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができます。
る場合には、適用しない。
債権者の情報提供義務
(458 条の2および3)
改正民法では、債権者にも2つの情報提供義務を課しました。
第一に、委託を受けた保証人から請求があった場合には、債権者は遅滞なく、主たる債務の元本および主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものについての不履行の有無ならびにこれらの残額およびそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供をしなければならないとしました。
第二に、主たる債務者が期限の利益*を喪失した場合には、債権者がその事実を知ってから
2カ月以内に保証人に情報提供をする義務があります。
以上の2つの情報提供義務は、保証人が法人である場合には適用されません。