静岡銀行(頭取 柴田 久)では、SDGs への取り組みの一環として、アイパックスイケタニ㈱(社長 池谷 裕人)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
2022.3.30
アイパックスイケタニ㈱と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(頭取 xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、アイパックスイケタニ㈱(社長 xx xx)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※企業活動が環境・社会・経済のいずれかの側面において与えるインパクトを包括的に分析し、特定されたポジティブインパクトの向上とネガティブインパクトの低減に向けた取り組みを支援する融資
1.契約日 3 月 30 日(水)
2.融資金額 1 億 1 千万円
3.資金使途 設備資金
4.アイパックスイケタニ㈱の取り組みについて(詳細は「評価書」をご参照ください)
〇同社は、印刷紙器や段ボール箱の企画・製造・販売を行う包装資材メーカーで、多様な商品の包装資材の提供を通じて、顧客の商品の安全性確保や商品価値の向上に貢献しています。
また、創業以来、一貫した生産体制を維持することで培った高い企画力、技術力により、多岐にわたる顧客の要望に対応しています。
〇今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境面 | ・エネルギー使用量の削減などによる環境負荷の低減(FSC-COC 認証の取得、xxx発電、LED 化、営業車輛のハイブリッド化) ・産業廃棄物の削減と適正処理(古紙をはじめとした再生可能な資源のリサイクル、汚水処理施設の設置による廃液の減量、産業廃棄物の適正処理) |
|
社会面 | ・徹底した品質管理による高品質な製品の提供(ISO9001 を活用した盤石の品質管理体制構築) ・就労環境の整備と働きがいの醸成(充実した教育体制の整備、高齢者雇用・外国人雇用・障がい者雇用などのダイバーシティ推進) ・従業員の安全衛生対策の徹底(労働安全衛生法に基いた適切な安全衛生x xx実施、新型コロナウイルス感染症に関する感染防止対策の徹底) |
|
経済面 | ・高品質かつ高効率な生産体制の構築(企画からの納品までの一貫生産体制、最新鋭機器の導入等による高品質かつ効率的な生産体制構築等) ・xxにわたり社内で培った企画・開発力(設計・デザイン工程の内製化による一貫生産体制構築) |
5.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入人
のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】アイパックスイケタニ㈱の概要
所 在 地 | xxxxxx 0000 | 創 業 | 1947 年(昭和 22 年)4 月 |
資 本 金 | 20 百万円 | 売 上 高 | 3,920 百万円(2021 年 7 月期) |
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:アイパックスイケタニ株式会社
2022 年3月 30 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
(6) エネルギー使用量の削減などによる環境負荷の低減 27
静岡経済研究所は、静岡銀行が、 アイパックスイケタニ株式会社(以下、アイパックスイケタ ニ) に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、アイパックスイケタニの企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響およびネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」および ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
アイパックスイケタニは、印刷紙器や段ボール箱の企画・製造・販売を行う包装資材メーカーであり、多様な商品の包装資材の提供を通じて、顧客の商品の安全性確保や商品価値の向上に貢 献している。同社の強みは、第一に、創業以来の一貫生産で培った高い企画力・技術力である。専属のデザイナーの採用により、商品の魅力を最大限引き出す優れたパッケージデザインを提供している。さらに、生産性の高い最新鋭の機器を積極的に導入し、効率的な生産体制を整えているほか、xx蓄積した技術やノウハウを社内で共有化することで、日々技術力の向上を図っている。第二に、ISO9001 を活用し、厳格な品質マネジメントシステムを構築している点である。とりわけ、注射器やカテーテルといった医療器具の包装資材では、わずかな汚れや異物の混入も許されないことから、最終段階で人の目による全数検査を行うなど、極めてハイレベルの品質管理体制を敷いている。
アイパックスイケタニの活動は、経済面では、企画から納品までの一貫生産体制や最新鋭機器の導入等による効率的な生産体制構築などが、経済の収れんに対するポジティブ・インパクトの増大に寄与している。社会面では、ISO9001 を活用した徹底した品質管理による高品質な製品の提 供、充実した教育体制の整備など働きやすい就労環境の整備が、雇用、教育、包摂的で健全な経済などに対するポジティブ・インパクトの増大に寄与している。さらに、新型コロナウイルス感染症に関する感染防止対策などの安全衛生管理の徹底が、雇用、健康と衛生に関するネガティブ・インパクトの低減に寄与している。環境面では、FSC-CoC 認証の取得、xxx発電設備の導入といっ た環境負荷低減への取組みが、エネルギー、気候変動へのネガティブ・インパクトの低減に、汚水処理施設の設置による廃液の減量などが、廃棄物、水へのネガティブ・インパクトの低減に寄与してい る。
【ポジティブ・インパクトの増大】
分類 | テーマ | 取組内容 | KPI(指標と目標) | インパクトレーダー | SDGs |
経済 | 2025 年までに、新規 | ||||
企画から納品までの一貫生産体制 | 設備の導入により、印刷紙器の3工場に同 一の生産能力を持た | ||||
せ、有事の際も顧客へ | |||||
高効率な生産体制の構 築 | 最新鋭機器の導入等による効率的な生産体制構築 | の供給責任を果たせる体制を構築する。 | 経済の収れん | 8 | |
2025 年までに、xx | |||||
優れた技術・ノウハウの共有化・自動化 | 工場に大型設備を導入し、内製化を進めることで、外注委託率を 現在の 10%から低減 | ||||
させる。 | |||||
2027 年までに、保有 | |||||
する特許を使用した新 | |||||
製品を1品目以上開 | |||||
発する。 | |||||
xxにわたり社内で培った企画・開発力 | 設計・デザイン工程の内製化による一貫生産体制構築 | 本社の企画室の人員体制(デザイナー5 名)を継続するととも に、東京営業所と甲府 | 経済の収れん | ||
工場に、紙器設計やデ | |||||
ザインを行う専従の企 | |||||
画担当者2名を配置 | |||||
し、企画・開発力を強 | |||||
化する。 |
分類 | テーマ | 取組内容 | KPI(指標と目標) | インパクトレーダー | SDGs |
社会 | ISO9001 認証を更新 | ||||
し、高度な品質マネジメン | |||||
トシステムの維持向上に努 | |||||
める。 | |||||
2025 年までに、xx工 | |||||
場に、製造工程を 24 時 | |||||
間録画できる機器を設置 | |||||
品質管理の徹底 | ISO9001 を活 用した盤石な品 質管理体制の構築 | し、不良発生時の要因を解明できる体制を構築する。 | 包摂的で健全な経済 | ||
2025 年までに、生産体 | |||||
制のマニュアル動画等を作 | |||||
成し、オペレーターのスキル | |||||
向上、ベテラン社員から若 | |||||
手社員への技術の伝承、 | |||||
外国人にも分かりやすい教 | |||||
育環境の整備を進める。 | |||||
2030 年までに、会社所 | |||||
定の休暇日数を現状の | |||||
113 日から 120 日以上 | |||||
充実した教育体 | にする。 | 雇用 | |||
制の整備 | 障がい者雇用について、今 | ||||
就労環境の 整備と働きがいの醸成 | 高齢者雇用、外国人雇用、障が | 後も、継続して法定雇用率以上の雇用を行う。 | 教育 | ||
い者雇用などのダ | より効率的・機動的な労 | 包摂的で健全 | |||
イバーシティ推進 | 務管理を行えるよう、 | な経済 | |||
2030 年までに、全事業 | |||||
所を連結する勤怠管理シ | |||||
ステムを導入する。 |
【ネガティブ・インパクトの低減】
分類 | テーマ | 取組内容 | KPI(指標と目標) | インパクトレーダー | SDGs |
社会 | 労働安全衛生法 | ||||
に基いた適切な安 | インフルエンザや新型コロ | ||||
全衛生管理の実 | ナウイルスに類する感染 | ||||
従業員の安全衛生対策の徹底 | 施 新型コロナウイルス | 症発生時には、全従業員の予防接種の予約や費用負担などをすべて担 い、対象者の接種率を | 雇用 健康と衛生 | ||
感染症に関する感 | 100%にし、従業員の健 | ||||
染防止対策の徹 | xを守る。 | ||||
底 | |||||
環境 | 2025 年までに、国内全 | ||||
工場にxxx発電設備 | |||||
FSC-COC 認証の取得 | を設置し、再生可能エネルギーを年間 30 万 kwh 以上発電し、それ | ||||
により、二酸化炭素排出 | |||||
エネルギー使用量の削減 | xxx発電設備の設置 | 量を 150 トン-CO2 以上削減する。 | エネルギー | ||
などによる環境負荷の低減 | LED 化 | 2030 年までに、すべての営業車両をハイブリッド車にする。 | 気候変動 | ||
営業車両のハイブ | 2030 年までに、自社の温室効果ガスの排出量 | ||||
リッド化 | を算出し、環境への影響 | ||||
を把握できる体制を整え | |||||
る。 |
分類 | テーマ | 取組内容 | KPI(指標と目標) | インパクトレーダー | SDGs |
環境 | 古紙をはじめとし | ||||
た再生可能な資 | |||||
源のリサイクル | |||||
インクおよびボンド等の | |||||
産業廃棄物の削減と適正処理 | 汚水処理施設の設置による廃液の減量 | 産業廃棄物について、今後も継続して適正な処理を行うとともに、排出量の削減に努め | 廃棄物 水 | ||
る。 | |||||
産業廃棄物の適 | |||||
正処理 |
今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要
契約日および返済期限 | 2022 年3月 30 日~2022 年 10 月 31 日 |
金額 | 110,000,000 円 |
資金使途 | 設備資金 |
モニタリング期間 | 10 年 0 ヵ月 |
企業概要
企業名 | アイパックスイケタニ株式会社 |
所在地 | xxxxxxxxx 0000 |
事業所 | 本社・西富士工場(富士宮市)xx工場(富士宮市) 甲府工場(山梨県中央市) 東京営業所(xxxxxx区)アイパックス ベトナム(ベトナム) アイパックス シンガポール(シンガポール) |
従業員数 | 189 名 |
資本金 | 2,000 万円 |
業種 | 印刷紙器の企画及び製造販売、段ボールの製造販売 |
主要取引先 | 〈仕入先〉 ㈱xxx、㈱xx、xx㈱、㈱クラウンパッケージ ほか 〈販売先〉 テルモ㈱、㈱シャトレーゼ、田子の浦パルプ㈱ ほか 〈協力先〉 ㈱トッキョ、山梨貨物自動車㈱、㈱サイラン ほか |
沿革 | 1947 年 創業 1957 年 xx紙工㈱設立 1974 年 段ボール箱専門工場としてxx工場新設 1983 年 印刷パッケージの一貫工場として甲府工場新設 1993 年 西富士工場新設 東京営業所開設 1995 年 アイパックスイケタニ㈱に社名変更 2017 年 熱絞り紙容器がグッドデザイン賞受賞 2018 年 森林認証取得 アイパックスベトナムをハノイに設立 2019 年 「ともいる」がグッドデザイン賞受賞 2020 年 SIAA 認証取得 |
(2022 年3月 30日現在)
1. サプライチェーンにおける役割および特徴
アイパックスイケタニは、印刷紙器※1や段ボール箱の企画・製造・販売を行う包装資材メーカーである。同社は、菓子、食品、医薬品、化粧品など多様な商品の包装資材の提供を通じて、顧客の商品の安全性確保や商品価値の向上に貢献している。
包装資材は 100%受注生産であり、顧客からの要望を受けて本社の企画室がデザインや設計を行い、製品の仕様を決定する。そして、白ボールなど印刷紙器用の板紙を代理店から、段ボール箱用の段ボールシートをシートメーカーから購入し、本社・西富士工場と甲府工場で印刷紙器を、xx工場で段ボール箱を生産しており、平均の月産枚数は、印刷紙器が約 700 万枚、段ボール箱が約 60 万枚にのぼる。工場では、UV6色印刷機やサックマシン※2など最新鋭の機器を多数 導入し、印刷、抜き、貼りの3つの工程を経て、紙器や段ボール箱を生産する。なお、箔押しなど一部の特殊加工は外注するものの、基本的に、加工の9割以上を自社で行う一貫生産体制を敷いている。
製品は、各工場内で検品を行なった上で、自社トラックで顧客に配送する。印刷紙器は、菓子、食品、医薬・医療品、化粧品などを生産する 200 社以上のメーカーへ、段ボール箱は、近辺の 300 社以上の事業所へ納入する。特に、段ボール箱は輸送費を吸収しにくく、顧客は近接する地域に限定されることから、当社の顧客も、ほぼ半径 30km 圏内に立地する事業所となっている。
2018 年には、ベトナムにアイパックスベトナムを設立し、現地に進出した日系企業向けに紙器の提供を開始した。当初は、日本で生産した紙器をベトナムで検品・納品していたが、2021 年には、抜き機やサックマシン等の生産設備を導入し、現地での生産を開始。成長を続ける東南アジア市 場に対し、安定的に製品供給できる体制の構築を進めている。
アイパックスイケタニの強みは、創業以来の一貫生産で培った高い企画力・技術力と、高度な品質管理である。
同社は、30 年以上前から専属のデザイナーを採用するとともに、他社に先駆けてコンピューターグラフィックスのソフトを導入し、商品の魅力を最大限引き出す優れたパッケージデザインを提供してき た。その結果、2017 年、2019 年にグッドデザイン賞を二度受賞しており、特に 2017 年の受賞は容器として初の受賞となるなど、その企画開発力は高い評価を得ている。
さらに、ハード面では、生産性の高い最新鋭の機器を積極的に導入し、高品質な製品を効率的に生産する体制を整えている。具体的には、西富士工場に2ライン、甲府工場に2ライン、xx工場に1ラインと、各工場に印刷機、抜き機、貼り機を備えた自動生産ラインを作り、効率的に一貫生産できる体制を整備している。さらに、導入する機器についても、生産効率に優れた UV 印刷機や、4~6点を接着できる国内でも希少なサックマシンなど、高性能の機器を導入し、顧客の様々な要望に対応している。
ソフト面でも、加工技術に関する 51 種類もの手順書を作成するなど、xx蓄積した技術やノウハウを社内で共有化することで、多岐にわたる顧客の要望に対応できるよう、日々技術力の向上を図っている。
そして、ISO9001 を活用して厳格な品質マネジメントシステムを構築し、徹底した品質管理を行う点も同社の特徴である。材料受入れ、印刷、加工、仕上といった生産工程ごとの検査に加え、出荷前の最終検査を厳格に行うことで、製品の品質を担保している。とりわけ、注射器やカテーテルといった医療器具の包装資材では、わずかな汚れや異物の混入も許されないことから、最終段階で人の目による全数検査を行うなど、極めてハイレベルな品質管理体制を敷いている。このように同社では、徹底した品質管理を行うことで、顧客の事業活動を支える安全・安心な包装資材の提供を可能にし、顧客からの確かな信頼を獲得している。
※1 印刷した板紙を組み立てて作られる紙箱。比較的安価で生産でき、紙箱のほとんどが印刷紙器に該当する。
※2 紙器製造の最終工程で、打ち抜いた厚紙に折り目をつけて糊付けする機械。
印刷紙器の注文から納品までの流れ
段ボール箱の注文から納品までの流れ
出典:東京紙器工業組合
2. 業界の動向
【紙器の市場動向】
紙器は大きく、印刷箱、簡易箱、貼箱、その他に分類され※1、経済産業省「工業統計表」の 2019 年の品目別製造出荷額は、印刷箱が 3,262 億円(紙器全体の 61.4%)と最も多く、次いで、貼箱 461 億円(同 8.7%)、簡易箱 96 億円(1.8%)、その他 1,495 億円(同 28.1%)となっている。印刷箱は、美しい印刷、軽量で折り畳み可能で、大量生産に適していることから、様々な商品の包装に広く利用されている。
産業別にみると、紙器製造業の製造品出荷額は、リーマンショック以降減少が続いていたが、訪日外国人の増加による底上げ効果などもあって、2015 年以降は 6,000 億円台で推移している。一方、紙器製造業の事業所数、従業者数は、1990 年代後半以降減少が続いており、1事業所当たりの出荷額は増加傾向にある。
紙器はかつて、中身の保護が主要な役割であったが、現在は、消費者に訴求する企画・デザインに加え、環境対応なども求められるようになっている。紙器製造業は、多品種少量生産や短納期化への対応に加え、顧客の様々な要望に対し、商品の企画段階から関わる提案力が求められるようになっており、受注型から提案型への脱皮が求められている。
※1 印刷箱:板紙に印刷、型抜きして組み立てる箱
簡易箱:抜き型を使わず、ステッチ留め等で仕上げる箱貼箱:本体にアート紙、布などの上貼りをした形式の箱
【段ボール箱の市場動向】
段ボール箱は、ライナーと中芯原紙を貼り合わせて段ボールシートを作り、それに印刷や打ち抜き等の加工をして作られる。段ボール箱製造業には、段ボールシートを仕入れて箱を加工する事業 所、段ボール原紙からシートと箱の両方を製造する事業所がある。段ボール箱は軽量でかさばるため運送費を吸収しにくく、段ボール箱製造業の商圏は近接する地域に限られる。
段ボールは、日常生活のあらゆる場面で使用されており、経済の動きと密接に関わっている。用 途別では、加工食品用が4割と最も大きく、青果用、電気器具機械器具用などが続く。経済産業省「工業統計表」によると、段ボール箱製造業の製造品出荷額は、リーマンショック後の 2009 年に減少したものの、その後、EC 取引の増加などに伴い増加傾向にある。
また、環境保護への関心の高まりとともに、省エネ・省資源を意識した包装やリサイクルが注目されるようになっている。全国段ボール工業組合連合会においても、2021 年度に「容器包装3Rのための自主行動計画 2025」を策定し、使用材料の薄物化等による 1 ㎡あたりの平均重量(g/
㎡)の軽量化、回収率 95%以上の維持、つぶし易い・たたみ易い段ボールの開発・普及、表示率 90%以上の維持・向上などを目指すとしている。
資料:全国段ボール工業組合連合会
以上のように、アイパックスイケタニの企業概要や特徴および同社が属する業界動向を総合的に勘案した上で、UNEP FI のインパクト評価ツールを用いて網羅的なインパクト分析を実施し、ポジティブ・ネガティブ両面のインパクトが発現するインパクトカテゴリーを確認した。そして、同社の活動が、環境・社会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に貢献すべきインパクトを次項のように特定した。
3. インパクトの特定および KPI の設定
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>経済
<インパクトレーダーとの関連性>経済の収れん
<SDGs との関連性>
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
<KPI(指標と目標)>
∙ 2025 年までに、新規設備の導入により、印刷紙器の3工場に同一の生産能力を持たせ、有事の際も顧客への供給責任を果たせる体制を構築する。
∙ 2025 年までに、xx工場に大型設備を導入し、内製化を進めることで、外注委託率を現在の 10%から低減させる。
<インパクトの内容>
アイパックスイケタニは、創業以来75年以上にわたって技術を磨き上げ、高効率な生産体制を作り上げ、顧客の信頼を獲得している。
同社の最大の特徴は、企画から納品までの一貫生産体制である。紙器は大きく、印刷、抜き、貼りの3つの工程を経て作られるが、同社は、西富士工場に2ライン、甲府工場に2ライン、xx工場に1ラインと、国内すべての工場で、印刷機、抜き機、貼り機を備えた自動生産ラインを組み、効率的に一貫生産できる体制を構築している。今後さらに、甲府工場に高性能印刷機と製版機を、ベトナム現地法人に印刷・抜き・貼りの一連の設備を導入することで、印刷紙器を製造する3工場に同等の生産能力を持たせ、災害など有事の際にも、顧客への供給責任を果たせるような体制を構築する計画である。
また、ハード面では、顧客の様々な要望に迅速に対応できるよう、最新鋭の機器や希少な機器も使用し、製品の効率的な生産体制を整えている。たとえば、紙器用の印刷機は、使用する原紙の大きさによって、大きく、A倍(原紙寸法 939㎜×1,272㎜)と、xx(同636㎜×939
㎜)があり、現在国内では、大型の箱を作れるA倍の印刷機が減少している。そうした中で同社では、西富士と甲府の両工場で、現在もA倍の印刷機を使用するとともに、抜き機や貼り機も含め一気通貫でA倍の原紙を加工できるラインを設けることで、顧客の要望に最大限対応する体制を整えている。なお、同社が使用する㈱xxコーポレーションのA倍の印刷機は、現在国内で5台しか稼働しておらず、うち2台が同社の所有である。その他にも、ティッシュペーパーの箱の取り出し口にボリエチレンのフィルムを貼る機械や、消しゴムのスリーブのような小型の箱を生産する機械、4~
6点を同時に接着できるサックマシンなど、高性能かつ希少な機器を多数備えるほか、独自の生産
ラインをオーダーメイドで構築することで、他社との差別化を図っている。
さらにソフト面でも、50 年以上にわたる紙器製造を通じ、多数の優れた技術を開発し共有化や自動化することで、高効率かつ高品質な製品づくりを可能にしている。たとえば、これまでの生産を通して培った加工技術について、実に 51 種類もの手順書を作成し、社内で共有化し製品づくりに活かしている。また、紙器の材料となる板紙は古紙を多く含むため、地色がグレーがかっていて色出しが難しく、印刷のインクの調合には高度な職人技が必要だった。そこで、それまで熟練の職人が行っていたインクの調合割合などをすべて数値化した上で、インクの自動調合機を導入し、独自に算出し たデータを入力することで、高度な技術がなくても誰でも調合できる仕組みを作っている。
このように、アイパックスイケタニは、一貫生産体制を構築し、希少な機器を活用するほか、積極的な技術開発に取り組むことで、経済の収れんに貢献している。
静岡銀行は、アイパックスイケタニが、今後も継続して高効率な生産を行うことを確認するために、生産整備の導入状況等をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>経済
<インパクトレーダーとの関連性>経済の収れん
<SDGs との関連性>
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
<KPI(指標と目標)>
∙ 2027 年までに、保有する特許を使用した新製品を1品目以上開発する。
∙ 本社の企画室の人員体制(デザイナー5名)を継続するとともに、東京営業所と甲府工場に、紙器設計やデザインを行う専従の企画担当者2名を配置し、企画・開発力を強化する。
<インパクトの内容>
アイパックスイケタニが高品質かつ高効率なモノづくりを実現した要因の一つが、その高い企画・開発力である。同社は、30年以上前から専属のデザイナーを採用し、顧客に対し、商品の魅力を最大限引き出す優れたパッケージデザインを提供してきた。現在も、本社の企画室で5名のデザイナーが、紙器設計やデザインを行っている。同規模の紙器メーカーはデザインを外注するケースが多い 中、同社は敢えてデザイナーを社員として採用して育成し、顧客の要望に応える企画開発力を磨くことで、これまでに多くの画期的な紙器を世に送り出している。
たとえば、ドーム型の紙管容器は、紙管容器のトップにドーム型のPET素材を装着することで、アイキャッチ効果のある紙管容器として開発したもので、2009年には特許を取得している(写真
1)。これは、花や小物などを入れる容器として採用されたほか、2016年のxxxxサミットにお いて、出席者への土産物の伊勢茶を入れるパッケージとして採用されるなど、そのデザイン性が高く評価されている。
また、xx玉型の熱絞り紙容器は、紙の質感を活かし、プラスチックを含まない紙100%の容器を作りたいとのデザイナーの思いから生み出された容器である(写真2)。紙は立体成型すると平ら に戻りやすく、紙だけでxx玉のような複雑な形を成型するのは難しかったが、製紙メーカーの協力を得てプラスチックを含まず熱絞りに特化した板紙を開発し、金型で熱プレスして成型する技法を確立した。通常はしわが発生するものの、このxx玉型熱絞り容器では、極めてしわが目立たない成型技術を採用している。やさしい曲面が商品に独特な雰囲気を与えることから、高級菓子などの容器に採用され、リピート率は90%以上に上る。2017年9月には製造方法が特許認証され、10月にパッケージ単体で史上初のグッドデザイン賞を受賞するなど、高い評価を得ている。なお同社では、ドーム型紙管容器、xx玉型熱絞り容器のほか、紙器製造に関する特許を10件保有している。
そして、設計・デザイン工程の内製化は、短納期化も可能にしている。同社の納期は、紙器につ
いては、新版(新規の受注)で10日間から2週間、再販で5日程度であり、緊急時は再販なら
1日での納品も可能である。また、段ボール箱についても、新版は1週間、再販は3~4日で納 品するなど、極めて短納期を実現している。特に、新版は、包装する商品に合わせて紙器を設計 し、試作品を作成して顧客に提示し、修正するといった作業が必要となるため、紙器設計やデザインを行い最終的な仕様が決定するまで、相応の時間を要する。同社では、自社のデザイナーで内製 化するとともに、各工場にCAD/CAMを導入することで迅速な対応を可能にし、短納期化を実現している。
このように、アイパックスイケタニは、社内デザイナーの育成による一貫生産体制により、高品質化と短納期を可能にし、経済の収れんに貢献している。
静岡銀行は、アイパックスイケタニが、今後も継続して企画・開発力の向上に取り組むことを確認するために、企画担当の人員体制等をモニタリングしていく方針である。
写真1 ドーム型の紙管容器
写真2 xx玉型の熱絞り紙容器
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>社会
<インパクトレーダーとの関連性>
包摂的で健全な経済
<SDGs との関連性>
8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
<KPI(指標と目標)>
∙ ISO9001 認証を更新し、高度な品質マネジメントシステムの維持向上に努める。
∙ 2025 年までに、xx工場に、製造工程を 24 時間録画できる機器を設置し、不良発生時の要因を解明できる体制を構築する。
∙ 2025 年までに、生産体制のマニュアル動画等を作成し、オペレーターのスキル向上、ベテラン社員から若手社員への技術の伝承、外国人にも分かりやすい教育環境の整備を進める。
<インパクトの内容>
アイパックスイケタニは、2000 年に ISO9001 を取得して以来 20 年以上にわたり、ISO9001の要求事項に従ってマネジメントシステムを構築し、西富士、xx、甲府、ベトナムのすべての工場において、同システムの運用による厳格な品質管理を行っている。
具体的には、毎年度「品質方針」に基づきxx社長が「品質目標」を定め、各部門はそれに沿って「年度品質目標」と「実施計画」を策定する。その上で、社長や品質管理責任者で構成される品質保証会議を毎月開催し、年度計画の進捗状況を管理する。さらに、部門会議、セクション会 議、販売会議を開催し、関係者間で品質マネジメントに関する審議や情報共有を図っている。
2021年度は、品質目標として「目標売上金額の絶対達成、工場の黒字化、社外クレーム件 数をゼロ、在庫金額を業界平均以下、12カ月長期在庫をゼロ、5Sの徹底」を掲げる。そして、たとえば工場の黒字化策として、xx工場では1人当たり生産性の向上、ロスの削減、配送効率の向上などを、西富士工場では各工程での改善会議の開催、不良の削減等の重点課題を定めて実 施計画を策定し、全社xxとなって品質目標の達成に取り組んでいる。
また、品質マネジメントシステムを進める上で、必要な従業員の教育・訓練も計画的に行ってい る。各部門の責任者は、毎年度、現場のニーズに即した教育訓練計画を立案し、新入社員教育であれば管理部が、品質管理教育であれば品質保証部などが主管となって、教育・訓練等を実施している。2021年度は、新入社員・中途採用者・パート社員を対象とした、品質管理とISO9001の基本を学ぶ研修のほか、管理・監督者向けの品質管理向上に関する研修などを、事業所ごとに開催している。
実際の工程においては、品質保証部が作成した品質マニュアルに則り、「購買業務規程」、「製
造管理規定」など、工程ごとに定めた詳細な規定に基づき運用している。たとえば、製品の識別やトレーサビリティについては、管理規定に基づき、材料、半製品、製品について、品名、規格、ロットナ ンバーなどを表示した識別表を作成するほか、受入、工程内、最終段階別に、検査の状態を明確にしている。そして、トレーサビリティの対象となる一部の医療機器、医薬品、飲食品に関する商品については、原材料、生産工程の条件、検査などのすべての記録を、製品の識別によって追跡可能にしている。また、外注先についても、年に1回訪問し、適切な品質管理が行われているかを確認している。また、製品の出来栄えを評価するチェックシートを作成し、納品時に添付してもらうほか、医療機器の包装資材など厳格な品質管理が求められるものについては、受入れ時に検査を実施している。
そして、同社ではxxの経験を通じて、生産工程のどの段階で不具合が発生しやすいかを把握しており、そのポイントに集中的に設備投資をするほか、検査機を多く設置し、不具合の発生原因 を徹底的に検証している。実際に同社の製造ラインでは、印刷、抜き、貼り等を行う主要機械すべてに検査装置を取り付けている。具体的には、印刷、抜き、窓貼り、貼りのすべての工程で、二枚 重ねで給紙された場合に異常を検知して機械を自動停止させる装置をつけている。さらに印刷工 程では、原紙の黒点等の汚れや印刷の色の濃淡など、最小0.25mmの欠点を検出できる画像検査装置のほか、印刷のインキの濃度に濃淡が発生した場合に、即時に色を自動調整して色ムラを是正するインキ濃度自動補正装置をつけている。また、抜き工程では、カメラで全製品を全数検査し、不良品を検知したら機械を自動停止させる見当ズレ検出装置をつけているほか、貼り工程で は、印刷済みの加工紙が走行方向に対する3mm以上の曲がりを検出する装置や、糊の塗布位置や塗布量をカメラで検知し、不良品の検出時にパトライトやブザーで知らせる装置などを装備している。
このように、同社が徹底した品質管理を行う最大の目的は、顧客からのクレームの発生防止である。工程内で要求事項に適合しない製品が発生した場合は、不適合の内容を確認し、原因を特定し、不適合の影響度に見合った是正処置を決定し、実施する。不適合製品が顧客に引き渡されクレームが発生した場合には、直ちにクレーム処理表を発行し、発生理由と是正措置等を品質保証会議で審議し、それらを報告書にまとめ、要望がある場合には顧客に報告する。これらは、「不適合品管理規定」、「クレーム処理規定」等に明確に定め、運用している。
また、西富士工場の11台の機械に43台のカメラを設置して過程を録画し、不具合発生時に検証できるようにするほか、ヒューマンエラー防止のため、生産工程を可能な限り自動化するなど、様々な対策を講じている。特に、注射器やカテーテルなど、極めて高い安全性を求められる製品については、最終検査段階で、密閉した部屋で専用の作業着を着用し、人の目による全数検査を行うな ど、厳格な管理を行っている。現在、クレームの発生率は、0.01~0.02%に抑制しているが、発生ゼロを目指し、日々現場の改善に取り組んでいる。
このように、アイパックスイケタニでは、ISO9001 を活用した盤石の品質管理体制を構築することで、包摂的で健全な経済に貢献している。
静岡銀行は、アイパックスイケタニの品質管理の状況をモニタリングするため、ISO9001の認証取
得状況等をモニタリングしていく方針である。
クリーンな検査室内での製品検査の様子
<インパクトの別>
ポジティブ・インパクトの増大
<分類>社会
<インパクトレーダーとの関連性> 雇用、教育、包摂的で健全な経済
<SDGs との関連性>
4.4 2030 年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
8.5 2030 年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。
<KPI(指標と目標)>
∙ 2030 年までに、会社所定の休暇日数を現状の 113 日から 120 日以上にする。
∙ 障がい者雇用について、今後も、継続して法定雇用率以上の雇用を行う。
∙ より効率的・機動的な労務管理を行えるよう、2030 年までに、全事業所を連結する勤怠管理システムを導入する。
<インパクトの内容>
アイパックスイケタニは、教育訓練規定や資格認定規定で方法を定め、人材育成や働きやすい環境整備に組織をあげて積極的に取り組んでいる。
まず、生産性向上には従業員一人ひとりの能力向上が不可欠であるとの考えのもと、工場・事業所ごとに年間の教育訓練計画を策定し、カリキュラムに沿って計画的に教育訓練を実施している。具体的には、新入社員向けに、社会人の一般常識や安全教育、工場内の各工程での実技実 習、配属工程での実技研修などを3段階に分けて丁寧に行うほか、中途採用者向けにも、最初に専用の DVD 教材で仕事への取り組み方を学んだ上で、配属担当工程での実技指導、各部署での勉強会などを段階的に実施している。また、専門教育として、熟練者による機械操作の実技指 導や機械メーカーによる機械メンテナンス方法の講義など、階層別にきめ細かなカリキュラムを用意 し、従業員のスキルアップを図っている。
また、年間の教育訓練計画の中でフォークリフト運転の講習を設けるなど、業務に必要な資格取得を積極的に推奨しており、現在の業務関連の有資格者は、印刷物受入検査員6名、工程内検査員及び最終検査員 39 名、フォークリフト運転 33 名にのぼる。
さらに、階層別・テーマ別に 1,200 本以上の動画を常時みられるオンライン動画配信サービスを契約し、従業員が自発的に能力向上に取り組む環境を整えている。2021 年は、新入社員8名が生産現場や印刷技術に関する基本講座を、若手社員や中堅社員 10 名が、営業や印刷技術
者のトラブル解決などを、管理者4名がリーダーシップ開発といった講座を受講し、合計 22 名の社員が講座を受講している。
そして、ダイバーシティ推進にも積極的に取り組んでいる。
高齢者雇用については、定年を 65 歳まで延長するとともに、65 歳以上の継続雇用の年齢制限を撤廃し、高いスキルを有するベテランの社員が、希望すれば継続して就労できる環境を整えている。その結果、60~65 歳の社員 12 名(うち女性 3 名)、66~70 歳の社員2名が就労を継続している。
また、社内に 12 名いるトラック運転手の負担軽減のため、大型トラックと4トントラックは、買い替え時にオートマチック車に変更しており、西富士工場は4台中4台、xx工場は3台中2台、甲府工場は5台中4台を、すでにオートマ車に切り替えている。
また、ベトナムからの外国人技能実習生を 20 名受け入れているほか、外国人従業員5名を雇用している。同社では、ベトナム人の通訳を採用しているほか、英語のわかる社員を採用し、外国人従業員や実習生とスムーズなコミュニケーションがとれるようにしている。また、実習生については、会 社借り上げの社員寮に入居し安心して生活できるようにするほか、年間教育訓練計画の中に実習生のためのカリキュラムを盛り込み、作業実習から生活面まできめ細かくフォローしている。さらに、男性の実習生には、入社前に会社負担でフォークリフトの運転免許を取得させている。原則として、実習生が業務の中で運転することは無いものの、彼らのキャリアに役立てるために実施している。そし て、特定技能の取得希望者には、講習の参加等に配慮し、彼らが将来に向けて順調にキャリアを 重ねていけるよう、長期的な視点から支援を行っている。
また、15 年以上にわたり障がい者雇用を継続しており、現在、障がい者4名を雇用し、法定雇用率を達成している。同社では、あくまで自然発生的なものとして、ノーマライゼーション(社会的に不利を受けやすい人が、他の人と同じように生活し活動することができる社会が本来あるべき姿であるとの考え方)として、障がい者雇用を継続している。採用の際は、地域の特別支援学校から実習生を受け入れ、同社での業務を試験的に体験した上で採用し、配属に当たっては、1~2日ずつ各部署を経験した上で適材適所で配置しており、高い定着率を誇っている。
さらに同社では、勤続年数 10 年、20 年、30 年、35 年、40 年で、表彰と旅行券を授与するほか、会社への貢献に対して「努力賞」「優良社員賞」として旅行券や記念品などを授与している。また、成績評価の点数を一定数積み上げて、毎年4~6名に海外旅行を授与するなど、従業員に対し会社への貢献に対する感謝を示すことで、従業員のモチベーションアップを図っている。このように、徹底して従業員の働きやすい環境づくりを行ってきたことで、同社の従業員の定着率は非常に 高くなっており、富士宮商工会議所主催の模範従業員表彰式で、過去5年間で 21 人かxx勤続表彰の表彰を受けている。
このようなアイパックスイケタニの人材育成や就労環境の充実は、従業員の働きがいや能力向上につながり、年齢や性別、障がいの有無等に関係なく、地域に優れた雇用の場を創出するとともに、雇用、教育、包摂的で健全な経済に貢献している。
静岡銀行は、アイパックスイケタニの従業員の働きがいの醸成や人材育成を定量的に確認するために、会社所定の休暇日数等をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ネガティブ・インパクトの低減
<分類>社会
<インパクトレーダーとの関連性>雇用、健康と衛生
<SDGs との関連性>
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
<KPI(指標と目標)>
∙ インフルエンザや新型コロナウイルスに類する感染症発生時には、全従業員の予防接種の予約や費用負担などをすべて担い、対象者の接種率を 100%にし、従業員の健康を守る。
<インパクトの内容>
アイパックスイケタニでは、労働安全衛生法に基づき、適切な安全衛生管理を実施している。 西富士、甲府の各工場において、安全管理者、衛生管理者、安全衛生委員等を選任し、毎月、社長以下、安全管理者、衛生管理者、安全衛生委員出席のもと安全衛生委員会を開催して情報共有を図るとともに、各部署の巡視や点検、安全教育を定期的に行い、安全・衛生環境の整備に取り組んでいる。
工場内の巡視は産業医立ち合いの元で毎月実施しており、定められた服装をしているか、作業に応じた保護具を使用しているかといった服装・保護具等の管理状況、作業場の整理整頓がなされているか、資材や工具などが散乱・放置されていないかといった整理整頓・清掃清潔の管理状 況、照明・換気・騒音等に問題は無いか、トイレや流し台等は清潔に管理されているかといった作業環境の管理状況をチェックリストに従って点検し、問題がある場合はすぐに改善策を講じるよう指示 している。
また、安全衛生委員会では、パレットを高く積み上げてフォークリフトで走行しない、帰宅時は事故防止のため自動車のライトを点灯するなど、安全対策について注意を促すとともに、マスク着用の励行や検温器の使用方法の指導を継続して行うなど、新型コロナウイルス対策の実施状況についても確認している。そして、各工場の安全衛生委員会の討議内容は、メール配信と現場への掲示によって全従業員に共有し、常に安全衛生に関する意識の醸成を図っている。こうした取組みの結果、同社では過去5年間、重篤な労働災害は発生していない。
また、従業員の健康については、年1回産業医が健康診断を実施し、健診結果に応じて再検査の受診を促し、従業員の健康保持に努めている。また、毎年、費用を会社が全額負担して、全社員を対象に、産業医がインフルエンザの予防接種を行っている。2021 年度の冬は、ワクチンの不足により産業医による接種が難しかったことから、近隣の病院8カ所へ連絡し、外国人技能実習生も含めた全従業員の予防接種を会社で手配し、接種を実施した。
そして、新型コロナウイルス感染症についても、徹底した感染防止対策を実施している。マスクの着用と手洗いの励行はもちろん、全工場と本社に顔認証の体温計を導入し、責任者を配置して、全従業員が出社時に漏れなく体温測定する体制を整えている。また、パーテーションや、社内の出入り口など複数カ所にアルコール消毒器を設置したほか、主要な水道を非接触式に変更している。さらに、会議はすべてオンラインに切り替え、時差通勤や時差喫食を推奨しているほか、出張や遠方への外出時には報告を義務づけるとともに、抗原検査キットを全事業所に常備し、県外出張後は
4日間連続して毎朝検査を行うなど、徹底した感染拡大防止策を取っている。そして、新型コロナワクチンの接種においては、パート、アルバイト、派遣社員、外国人技能実習生、社員など、同社で働くすべての人について、会社でワクチン接種の予約、接種会場までの交通手段を手配し、勤務時間内に接種を行っており、ワクチン接種対象者の2回接種率は 100%となっている。
さらに、非常時の備えとして様々な対策を取っている。気象庁の緊急地震速報を知らせる専用の受信端末を導入するとともに、全工場に地震検知器を装備して、直下型の地震も事前に警報で 通知することで、従業員の安全を守っている。また、非常時に連絡がつくまで自動で繰り返し連絡をとる安否確認システムを、役職者 50 人以上に導入したほか、東日本大震災発生時に携帯電話が繋がりにくくなった経験を踏まえ、異なる通信会社の2台の携帯電話をxx社長が常時所持するようにしたほか、衛星携帯電話も設置するなど、緊急時の連絡方法について万全の体制を取っている。
このように、同社では従業員が健康で安心して働ける職場環境を整備することで、雇用、健康と衛生に貢献している。
静岡銀行は、アイパックスイケタニの従業員が、今後も安全・安心な環境の中で働けるよう、安全衛生に関する取組みを確認するとともに、感染症の予防接種状況等をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ネガティブ・インパクトの低減
<分類>環境
<インパクトレーダーとの関連性>エネルギー、気候変動
<SDGs との関連性>
7.2 2030 年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。
12.4 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。
13.3 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。
<KPI(指標と目標)>
∙ 2025 年までに、国内全工場にxxx発電設備を設置し、再生可能エネルギーを年間 30 万 kwh 以上発電し、それにより、二酸化炭素排出量を 150 トン-CO2 以上削減する。
∙ 2030 年までに、すべての営業車両をハイブリッド車にする。
∙ 2030 年までに、自社の温室効果ガスの排出量を算出し、環境への影響を把握できる体制を整える。
<インパクトの内容>
アイパックスイケタニでは、環境負荷低減に向け様々な取組みを実施している。
同社は、紙器製造業者として 2018 年に FSC-COC 認証を取得している。FSC 認証制度とは、森林の管理が環境や地域社会に配慮して適切に行われているかを評価・認証し、そうした森林からの生産品であることを証明する制度であり、同社は、FSC の世界的な認証機関である SGS の審 査を受け、FSC 認証製品を適切に管理し、加工・流通を行っていることに対して付与される FSC- COC 認証を取得した。取得にあたっては、専用のマニュアルを作成するとともに、従業員教育を通じて内容を周知するなど、FSC の規格に沿った管理方法を構築した。その結果、実際に、大手小売業など複数社から FSC 認証の業務を受注し、紙器製造会社として、森林資源の適切な管理に貢献している。このほかにも、印刷用インクとして大豆インクを採用するなど、環境意識の高まりを受け た顧客からの様々な要望に柔軟に対応できるよう、紙器製造業者として環境に配慮した様々な取組みを実施している。
さらに、2050 年の脱炭素を見据え、省エネ・創エネの様々な取組みを実施している。2022 年より、西富士工場、xx工場、甲府工場へのxxxパネルの設置を開始しており、年間予測発電量は、西富士工場で 139 千kWh、xx工場で 87 千kWh、甲府工場で 216 千kWh を予
測する。これにより、年間で、西富士工場で 64 トン-CO2、xx工場で 40 トン-CO2、甲府工場で 100 トン-CO2 の二酸化炭素の排出を削減できると試算される。そして、工場のエネルギー使用状況の診断を行い、老朽化していた空調設備について、西富士工場及び本社・事務所の 11 台すべてを最新機器に入れ替えることで、使用電力の削減を図っている。
また、西富士、xx、甲府の全工場において、 照明を蛍光灯から LED に切り替えたことで、電力使用量の削減につながったほか、LED 化による紫外線の照射量の減少により、UV 印刷機の印刷精度が改善し、紫外線を好む虫の侵入が減少するといった副次的な効果もみられた。さらに、営業車両のハイブリッド化を段階的に進めており、現在、14 台中3台をハイブリッド車に切り替えている。
このように、アイパックスイケタニは、FSC-COC 認証取得、xxx発電の設置などを通じ、エネルギー、気候変動といった環境負荷の低減に貢献している。
静岡銀行は、アイパックスイケタニの環境負荷低減活動を定量的に測るため、xxx発電設備の設置状況等をモニタリングしていく方針である。
<インパクトの別>
ネガティブ・インパクトの低減
<分類>環境
<インパクトレーダーとの関連性>廃棄物、水
<SDGs との関連性>
12.4 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。
12.5 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。
<KPI(指標と目標)>
∙ インクおよびボンド等の産業廃棄物について、今後も継続して適正な処理を行うとともに、排出量の削減に努める。
<インパクトの内容>
アイパックスイケタニでは、廃棄物の削減に積極的に取り組んでいる。
紙器の製造工程においては、主に、インクや糊、排水、抜き後の紙が排出される。
紙は、市内の衛生用紙の製造メーカーへ原料として提供するほか、その他の古紙も、回収業者 へ販売し、資源の再利用につなげている。その他、事業活動を通じて排出される再生可能な物については、プラスチック、ビニールなど素材ごとにすべて分別し、それぞれ、専門のリサイクル事業者へ引き渡し、再利用している。
また、廃棄物は可能な限り排出量を削減するよう努めている。たとえば、xx工場に専用の汚水処理設備を設置し、排出量を削減している。微細な限界ろ過膜で排水をろ過し、膜面を通過した水と油分等の廃水成分とを分離することで、印刷機から排出される廃液を1/25 に濃縮しており、 2021 年度は、667 トン発生した廃液を、27 トンに濃縮処理した。
そして、最終的に排出される廃棄物については、資格を有する専門の処理業者へ引き渡し、適切に処理している。引き渡した産業廃棄物は、廃棄物処理法に基いて適切に管理されていることを確認している。
このように、アイパックスイケタニは、廃棄物や排水の削減を通じて、環境負荷低減に貢献している。静岡銀行は、アイパックスイケタニの環境負荷低減活動を定量的に測るため、廃棄物の処理状況をモニタリングしていく方針である。
4. 地域課題との関連性
アイパックスイケタニは、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、9 年後の売上高を 50 億円に、従業員数を 230 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この目標を達成することによって、アイパックスイケタニは、静岡県経済全体に年間 79 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
【静岡県産業成長戦略 2022】
静岡県は、2022 年2月に「静岡県産業成長戦略 2022」を公表した。新型コロナにより顕在化した東京一極集中の弊害やデジタル対応、脱炭素社会の急速な進展への対応、人口減少・少子高齢化の進行、激甚化する災害対応といった静岡県が直面する課題に対して、「東京時代から静岡時代へ~新しい生産と消費の循環で SDGs を達成~」を基本理念とし、需要面では「生活空間の拡大と新しい物流網の構築」を、供給面では「DX と脱炭素への積極的な投資」を目指す 姿として施策を展開していく方針である。
この中で静岡県は、 「フジノミクス」を核とする生産と消費の新しい循環の創出として、8つの施 策を設定している。第一に、新たな広域経済圏「山の洲」の形成である。「バイ・山の洲」の展開、新たな物流・商流・情報流の構築、観光分野における「ふじのくに経済圏」づくりを通じて、個人消費の喚起と取り込みに注力する。第二に、リーディング産業への重点投資である。ヘルスケアや輸送機器xxxのプラットフォームの構築、医薬品や観光などのリーディングセクターの競争力強化、デジタル人材の確保・育成により、リーディング産業育成に注力する。第三に、企業誘致と県内への定着で ある。マザー工場・研究所の立地推進、工業用地の確保、実証フィールドの形成促進、首都圏 ICT 企業の誘致等を推進する。第四に、新たな生活様式を踏まえた個人消費の拡大である。テレワークなどの新しい働き方の実践、移住などの生活空間の拡大、人々を惹きつける豊かな地域資 源の新結合により、個人消費を喚起する。第五に、環境と経済成長が両立した循環型社会への 移行である。脱炭素型産業構造への転換、中小企業の脱炭素化への支援、サーキュラーエコノミーへの対応により、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル化や循環経済への対応を県内経済 全体で促進する。第六に、成長分野・領域への投資促進である。オープンイノベーションの推進、研究開発の推進、人材への投資、継続的な設備投資の促進を進める。第七に、中小・小規模企業の事業再構築・再生による経営の強靭化である。事業の付加価値向上、事業継続の支援により、地域企業の経営力や生産性xxxを促進する。第八に、中小企業の事業継続に向けた強靭化である。人材の確保・育成、BCP 策定促進等により、企業実態に即したきめ細かな支援を実施するとしている。
事業活動を通じたアイパックスイケタニの様々な取組みは、これら8つの施策に沿ったものとなっており、地域の課題の解決に貢献している。
【SDGs の推進】
静岡県は「SDGs のフロントランナー」を標榜し、2021 年度には、環境ビジネスに取り組んでいる法人を対象に、課題解決に貢献する事業アイデアを表彰する「静岡県 SDGs ビジネスアワード」を創設した。また、県内5市(静岡市、浜松市、富士市、xx市、富士宮市)が内閣府の
「SDGs xx都市」に選定されるなど、県内自治体は SDGs を積極的に推進している。
富士宮市は、2020 年 12 月に「ゼロカーボンシティ」を表明し、 2050 年までに市内の CO 2排出量ゼロを目指すことを宣言している。そして、2021 年5月に「SDGs xx都市」に選定され、同年7月に「富士宮市 SDGs xx都市計画」を策定している。同計画の中で、2030 年の富士宮市のあるべき姿として、「富士山のふもとに、xxの担い手を繋ぎ止めるとともに、新たな創り手が集い、地域がつながるまち」、「富士山の豊かな自然と様々な産業が調和したまち」を掲げ、 SDGs の取組みを推進している。
また、「第 5 次富士宮市総合計画」(2016~2025 年度)を策定し、めざす将来都市像を
「xxxの恵みを活かした元気に輝く国際文化都市」に設定し、実現に向けて7つの分野で基本目標を定めるとともに、それぞれの基本目標に基づいた政策を定め、効果的なまちづくりを進めている。これらは、SDGs の理念とも合致しており、富士宮市ではこれらの取組を「富士山 SDGs」と呼んで、取り組んでいる。
アイバックスイケタニの取組みは、富士宮市が目指す施策の一環と評価でき、同社の取組みが地域に波及し、地域全体の SDGs が進むことが期待される。
5. マネジメント体制
アイパックスイケタニでは、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、横断的なプロジェクトチームを結成。xxxx代表取締役社長が陣頭指揮を執り、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動等を棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトレーダーや SDGs との関連性、 KPI の設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、xx社長を統括責任者とし、品質保証部内に設置されたプロジェクトチームを中心として、全従業員がxxとなって、KPI 達成に向けた活動を実施していく方針である。
統括責任者 | 代表取締役社長 xx xx |
実行責任者 | 品質保証部 課長 xx xx |
担当部署 | 品質保証部 |
6. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成および進捗状況については、静岡銀行とアイパックスイケタニの担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場等を通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金およびその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持していることを確認す る。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行とアイパックスイケタニが協議の上、再設定を検討する。
以 x
x評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行および静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するアイパックスイケタニから供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
<評価書作成者および本件問合せ先>
一般財団法人静岡経済研究所
調査グループ xx研究員 xxxxx
〒420-0853
静岡市葵区追手町 1-13 アゴラ静岡 5 階 TEL:000-000-0000 FAX:000-000-0000
第三者意見書
2022 年 3 月 30 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: アイパックスイケタニ株式会社に対する ポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトフ
ァイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行がアイパックスイケタニ株式会社(「アイパックスイケタニ」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定した PIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照している IFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえで PIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクト領域における「包括的で健全な経済」、「経済収れん」の観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されている。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では
52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、アイパックスイケタニの持ちうるインパクトを、UEP FI の定めるインパクト領域および SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、アイパックスイケタニがポジティブな成果を発現するインパクト領域を有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行が PIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めた PIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本 PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しながら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及び ESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人であるアイパックスイケタニから貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、
可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
Japan Credit Rating Agency, Ltd.
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・xxな立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候変動イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:00-0000-0000 FAX:00-0000-0000
- 7 -