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『岡山大学法学会雑誌』第70巻第1号(2020年8月) 108
フランチャイズ契約の締結過程における情報提供義務
― 裁判例の分析を中心に ―
x x x x
Ⅰ.は じ め に
一〇八
コンビニエンスストアに代表されるフランチャイズ契約は,加盟店であるフランチャイジーが本部であるフランチャイザーに対し一定のロイヤリティを支払うことにより,経営についてのノウハウや支援を提供してもらえること,商標・商号の使用や商品・サービスの販売が認められることなどから,独立開業の手段として選ばれることが少なくない。ところが,フランチャイズ契約におけるフランチャイジーは,同契約を締結することにより,事業についての知識や経験がなかったとしても「独立した事業者」として扱われる。一般に,フランチャイザーには契約締結過程における情報提供義務が裁判例上認められていることから,フランチャイズ契約締結前に行われたフランチャイザーによる同契約の説明につき問題が生じた場合,フランチャイザーはどの程度の責任を負うべきであるのかが争われることとなる。フランチャイザーに情報提供義務を認めるべきか,認めるとしてどの程度の義務を認めるかは,個々の事案ごとの事情が総合的に考慮されて判断されている。
本稿においては,フランチャイズ契約の締結過程における情報提供義務が争われた裁判例をフランチャイジーの事業経験の有無に着目して整理・分析を行う。同様の研究は多い(1)が,先行研究の発表以後現在までに裁判例はさ
⑴ xxxx『消費者保護と私法理論』(信山社,2006年),xxxx『フランチャイズ契約裁判例の理論分析』(判例タイムズ社,2005年),xxxx「フランチャイズ契約締結
らに蓄積されていること,学説の分析から分析視角を獲得した(2)ことから,改めて裁判例の分析を行うことには一定の意義があるものと考える。特に,学説は,1440年代の前後でフランチャイジーに対する認識が大きく変化したこと,この変化は裁判例が影響を与えていることから,争点ごとの整理ではなく時系列に沿った整理を行う必要があると考える(3)。分析にあたり,まず LEX/DB インターネットで,2014年12月までのフランチャイズ契約締結過程における情報提供義務が問題となった裁判例を検索した。結果として示された162件の裁判例の中から,本稿では9件を取り扱うこととする。紙幅に制限があることから,各裁判例の詳細については割愛し,本稿に関わる範囲で紹介する。また,収益予測等の細かな論点には立ち入らず,裁判例全体を概観することにより,フランチャイズ契約の締結過程における情報提供義務についての総論的分析を行う。
Ⅱ.裁判例の状況
1.フランチャイザーの情報提供義務が初めて認められた裁判例の登場
(1989年)
フランチャイザーの情報提供義務が一般的に認められる以前においては,xxxxxxxxによる契約の勧誘や説明について,詐欺を構成するか否か等でフランチャイザーの責任を追及していた(4)。その後,本節で紹介する裁判例の登場により,フランチャイズ契約締結過程におけるフランチャイザーの情報提供義務が認められる契機となった。
一〇七
過程における情報提供義務 ― 経験・情報量格差の考慮(上)― 」xx2巻2号(2003年)683~704頁など。
⑵ 拙稿「フランチャイズ契約の締結過程における情報提供義務 ― 学説の分析を中心に ― 」xx64巻4号(2020年)51~70頁。
⑶ 拙稿・前掲注⑵ ・64頁。
⑷ 大阪地判昭和53年2月23日判タ363号248頁事件,大阪地判昭和61年9月24日判タ622号 116頁事件等。
⑴ 裁判例
ⅰ 東京地判xxx年11月6日判時1363号92頁事件
フランチャイズ契約の締結過程における情報提供義務が,裁判例において初めて一般例として認定されたのは,東京地判xxx年11月6日判時1363号 42頁事件(以下,「東京地判xxx年事件」という。)である。「一般に,契約締結のために交渉に入った当事者間においては,一方が他方に対し契約締結の判断に必要な専門的知識を与えるべき立場にあるなどの場合には,契約締結前であっても,相手方に不正確な知識を与えること等により契約締結に関する判断を誤らせることのないよう注意すべき保護義務がxxx上要求される場合もありうる」とした。本件におけるフランチャイザーに対しては,以下の2点から,上述の保護義務が認められた。①「本件チェーンにおける店舗の設計・施行(業者の指定を含む。),材料の仕入れ,商品化の方法,サービス方法等営業に関する一切のノウハウ」は被告であるフランチャイザーが独占的に有しており,② フランチャイジーは①につきフランチャイザーの指示に従うこととされていた。
本件のフランチャイザーには情報提供義務が認められた。ただし,具体的判断において,「認定事実によると,Yは,本件店舗の立地調査及びこれに基づく売上の予想に関し,xxx上要求される相当の注意義務を尽くしており,本件フランチャイズ契約締結の最終的な判断は,本件事業計画書の交付を受けた時より前にX1の代表者たるX2の責任においてなされたと認めることができる。」として,フランチャイザーには同義務の違反はないものとされた。
一〇六
⑵ 小 括
東京地判xxx年事件においては,フランチャイズ契約の締結前であってもフランチャイザーが不正確な知識を与える等によってフランチャイジーに契約締結の判断を誤らせることのないよう注意すべき義務,すなわち情報提供義務が裁判例において初めて認められた。ただし,具体的判断においては,フランチャイザーが尽くすべき情報提供義務は履行されたものとして同義務
違反は認定されなかった。
2.1991年~1996年頃の裁判例
東京地判xxx年事件においては,フランチャイザーの情報提供義務が一般論において認められたものの,具体的判断において同義務違反は認められなかった。しかしながら,京都地判平成3年10月1日判タ774号208頁・判時 1413号102頁事件(以下,「京都地判平成3年事件」という。)において,初めて具体的判断においてもフランチャイザーの同義務違反が認められた。
⑴ 裁判例
ⅰ 京都地判平成3年10月1日判タ774号208頁・判時1413号102頁事件
一〇五
京都地判平成3年事件は,まず,一般論において以下のように述べてフランチャイザーの情報提供義務を認定した。「フランチャイズシステムにおいて,店舗経営の知識や経験に乏しく,資金力も十分でない個人が,本部による指導や援助を期待してフランチャイズ契約を締結することが予定されていることに鑑みると,フランチャイザーは,フランチャイジーの募集に当たって,契約締結に当たっての客観的な判断材料になる正確な情報を提供するxxx上の義務を負っていると解すべきである。」次に,具体的判断において,本件におけるフランチャイザーはフランチャイジーに対し「本件契約への加入を勧誘するに当たり,客観性,正確性に問題のある市場調査の結果の信頼性を過度に強調し,フランチャイズ契約への加入の可否についての適切な判断を困難にするおそれの強い情報を提供したものと認められ」,情報提供義務に反したものとされた。
ただし,本判決においては,フランチャイジーに生じた損害につき7割の過失相殺が認められている。その根拠は,「フランチャイズ契約においては,本部が加盟店を指導援助することが予定されているとはいえ,法的には,独立した事業主相互間の契約であり,加盟店は,自己の経営責任の下に事業を行うべきものであるから,契約上,加盟店の経営が破綻したことによる損失
は,本来加盟店が負担すべきものである」ためとされた。具体的には,被告であるフランチャイザーの社員から,営業を開始することを促されたという事実があったにせよ,原告であるフランチャイジーも「被告から提供された情報を検討し,親族の意見も聞いたうえ,自己の意思で本件店舗において被告のフランチャイズ店の営業を開始することを決断したものと認められる」ためとされた。
ⅱ 東京地判平成5年11月29日判時1516号92頁・判タ874号212頁事件
東京地判平成5年11月24日判時1516号42頁・判タ874号212頁事件(以下,
「東京地判平成5年事件」という。)でも,一般論において「フランチャイズ・システムにおいては,店舗経営の知識や経験に乏しく資金力も十分でない者がフランチャイジーとなる場合が多く,専門的知識を有するフランチャイザーがこうしたフランチャイジーを指導,援助することが予定されているのであり,フランチャイザーはフランチャイジーの指導,援助に当たり,客観的かつ的確な情報を提供すべきxxx上の保護義務を負っているものというべきである。」として,フランチャイザーの情報提供義務を認定する。さらに,具体的判断においても,フランチャイザーはフランチャイジーに対し
一〇四
「不正確な情報を与えて営業場所を本件店舗とすることを決意させたもの」として情報提供義務違反が認められた。当該判断過程においては,本件におけるフランチャイジーが「いわゆる脱サラをして原告会社のフランチャイジーとなり新たに店舗経営を始めようとする」者であったことも考慮された。本件におけるフランチャイジーは,高校卒業後,銀行員として主に営業関係の仕事に約17年間従事してきた者である。
本件においても,東京地判平成3年事件と同様に過失相殺が認められた。その根拠は,「フランチャイジーも,単なる末端消費者とは異なり,自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する以上,フランチャイザーから提供された情報を検討,吟味した上,最終的には自己の判断と責任においてことを決するほかないというべき」ためとされた。具体的には,本件におけ
るフランチャイジーは「本件店舗を紹介された際,その立地条件の優位性にのみ気を取られ」,フランチャイズ経営にも深刻な影響を与えかねない「最低保証」につきフランチャイザーに「詳しい説明を求めるなど,最低保証の存在について検討,吟味することなく,短時間のうちに営業場所を本件店舗とすることに同意」した。このようなフランチャイジーの行為は,多額の自己資金及び借入資本を投下して商売を始めようとする者としていささか軽率であったといわざるを得ない」と評価された。結論として,「諸般の事情を総合考慮」し,フランチャイジーに生じた損害につき4割の過失相殺が認められた。
ⅲ 千葉地判平成6年12月12日判タ877号229頁事件
一〇x
x葉地判平成6年12月12日判タ877号224頁事件(以下,「千葉地判平成6年事件」という。)は,一般論において「フランチャイザーは,蓄積したノウハウ及び専門的知識を有し,それらを用いて市場調査等を行うものであるのに対し,加盟店となろうとする者はそのような知識を有しないことが多い」ことを理由の1つとして,フランチャイザーの情報提供義務を認定する。フランチャイジーには一般的にフランチャイズ契約に必要な知識が十分に備わっていないことを指摘する一方で,以下のように,同契約におけるフランチャイジーの法的地位を指摘し,フランチャイジーにも一定の責任が存在することを述べた。「フランチャイザーとフランチャイジーは,基本的にはそれぞれ独立した事業体であり,加盟店は独自の計算により経営を行うべきものであって,開業に際しフランチャイザーが提供する前記の調査結果に基づく情報についても,加盟しようとする者において自主的に検討した上で,フランチャイズ契約を締結するかどうかを決定すべきものと解される」(5)。具体的
⑸ 本判決のフランチャイザーの情報提供義務認定判断に類似の事案として,大阪地判平成8年2月14日判タ415号131頁事件(以下,「大阪地判平成8年事件」という。)がある。大阪地判平成8年事件でも,「フランチャイザーは,蓄積したノウハウ及び専門的知識を前提に独自のフランチャイズシステムを構築しているのに対し,フランチャイジーになろうとする者は専門的知識はもちろん,右フランチャイズシステム自体についても乏しい知識しかないことが多い」などとしてフランチャイザーの情報提供義務を認定する。他方,「フランチャイザーとxxxxxxxxは,基本的には独立した事業体であり,
判断においては,フランチャイザーの情報提供義務違反は認められなかった。その根拠として,以下の諸点が指摘されている。本件におけるフランチャイジーに「飲食店の経営についてはかなりの経験及び専門的知識を有していたと認められること」としたうえで,以下3点の事情が考慮され,「独立の事業体として自主的に本件店舗での営業が事業として成り立つと判断をしたというべき」と判断された。すなわち,①フランチャイジーはフランチャイザーから示された市場調査報告書等を数日の間検討してから契約を締結したこと,②その間,開業予定店舗に足を運ぶとともに,フランチャイザーに対し
「予想来店客数,人件費率,原価経費率等の根拠について質問し」,フランチャイザーからの回答に納得していること,③本人尋問においても「やれる」と判断したものであることの3点である。本判決では,過失相殺は行われなかった。
⑵ 小 括
京都地判平成3年事件では,① フランチャイザーの情報提供義務につき具体的判断においても同義務違反を認めた点,② フランチャイジーは自己の責任及び自己決定に基づいてフランチャイズ契約を締結したものと認定して過失相殺を行った点が,東京地判xxx年事件と異なっている。本件では,一般論において,「店舗経営の知識や経験に乏しく,資金力も十分でない個人が,本部による指導や援助を期待してフランチャイズ契約を締結する」者としてフランチャイジーの性質を言及している。
一〇二
東京地判平成5年事件も,一般論においてフランチャイジーを「店舗経営の知識や経験に乏しく資金力も十分でない個人」としたうえで,具体的判断においてフランチャイザーの情報提供義務違反を認めた。ただし,その判断過程において,xxxxxxxxが「いわゆる脱サラ」をした者であること,
xxxxxxxxは自己の責任により経営を行うものであって,フランチャイズ契約締結に際してフランチャイザーが提供する前記の情報についても,加盟しようとする者において検討の上で自らの判断と責任においてフランチャイズ契約を締結しているものと解するのが相当」とした。
すなわち,事業経験がないという具体的事情を考慮して判断を行っている点が京都地判平成3年事件と異なる。さらに,過失相殺の判断においては,「単なる末端消費者とは異なり,自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する」者であるとし,京都地判平成3年事件が用いた「法的には,独立した事業主」とは微妙に異なる表現を用いている。
千葉地判平成6年事件も,フランチャイザーの情報提供義務認定につき,京都地判平成3年事件及び東京地判平成5年事件と類似の一般論を示した。両判決と異なっているのは,フランチャイジーの法的地位を「基本的には独立した事業体」とし,契約締結についてのフランチャイジーの責任を過失相殺ではなくフランチャイザーの情報提供義務認定の一般論に続いて指摘した点である。さらに,その具体的判断において事業経験及び専門的知識を有するフランチャイジーが自己の責任において契約締結を決断したことを詳細に検討している点も,京都地判平成3年事件及び東京地判平成5年事件と異なっている。
3.1998年以降の裁判例
一〇一
Ⅱ-2で紹介してきた裁判例では,一般論において,フランチャイジーが知識・経験に乏しい者であることが指摘され,具体的判断においてフランチャイザーの情報提供義務違反が認められるようになった点がⅡ-1で紹介した裁判例と異なっている。1448年以降の裁判例では,Ⅱ-2の諸裁判例で展開された一般論が引き継がれつつ,過失相殺においてフランチャイジーの性質が言及されるようになる。
⑴ 裁判例
ⅰ 名古屋地判平成10年3月18日判タ976号182頁事件
名古屋地判平成10年3月18日判タ476号182頁事件(以下,「名古屋地判平成 10年事件」という。)は,一般論において,「フランチャイザーは,その営業に関して蓄積されたノウハウ及び専門的知識を有しているのに対し,フラン
チャイジーになろうとする者は通常そのようなノウハウや知識は持ち合わせていない。さらにいうならば,フランチャイジーは,そのような知識やノウハウを持っていないからこそ,フランチャイズ契約に加盟してその欠缺を補おうとしているといえるのである」として,フランチャイジーの特性を述べる。具体的判断においては,フランチャイザーの示す売上予測はあくまでも推定であり変動がありうる点につき,書面への記載のみで義務を果たしたとはいえず,フランチャイザーは当該フランチャイズ経営の専門家であるのに対し,フランチャイジーは「全くの素人であったことを考慮すると」,フランチャイザーは「口頭でももう少し詳しく説明をするべきであったといえる」と指摘された。
一〇〇
本件においては,フランチャイジーの損害につき8割の過失相殺が認められた。その根拠として,本件におけるフランチャイジーは「本件契約締結当時五〇歳の薬剤師であるから,大学において一般的な教養を身につけた社会人であり,持ち帰り弁当の販売のような商売を営む経営上の危険性について十分理解し,判断する能力を有する者である。また,殖財のための余業として本件契約を締結するに至った者」であり,「それまで商売を営んだ経験は全くない」者であったことが認定された。そして,フランチャイジーはフランチャイザーとの契約締結段階において,フランチャイザーがなした「売上予測の具体的な根拠や競合店の有無について一切説明を求めようとしなかったし,自ら調査を行うというようなことは何らしなかった」。特に,フランチャイザーがフランチャイジーに対して提示した「出店候補地開発調査書には,明白な誤謬があったにもかかわらず」,フランチャイジーは「それを確かめようとすらしなかった」。かかるフランチャイジーの態度は,フランチャイジーがそれまで商売を営んだ経験がなかったことを考慮しても,「なお相当に軽率とのそしりを免れないものである」とされた。
ⅱ 東京地判平成11年10月27日判時1711号105頁事件
東京地判平成11年10月27日判時1711号105頁事件(以下,「東京地判平成11
年事件」という。)は,酒税法及び薬事法に違反する疑いのある「クィニーシステム」につき十分な説明がなされなかったとして,コンビニエンスストアの経営を行うフランチャイジーに対するフランチャイザーの情報提供義務違反が認められた。
ただし,フランチャイジーに生じた損害につき,5割の過失相殺が認められた。それは,xxxxxxxxがフランチャイザーの説明を「軽信して,同システムの適法性を特に調査することなく,本件契約を締結するとともに,クィニーシステムの営業を準備することにより,前記の損害を被ったものであるから」とされた。以上のフランチャイジーの過失に加え,本件におけるフランチャイジーとフランチャイザーは,「会社の規模にさほど違いはないこと」や,フランチャイジーが「日経流通新聞の広告を見て積極的に被告の営業所となることを申し込んだ事情などからして」,フランチャイジーとフランチャイザーとは「対等の立場にあったものと認められる」とされた。
ⅲ xxx判平成18年1月31日判タ1235号217頁
九九
xxx判平成18年1月31日判タ1235号217頁(以下,「xxx判平成18年事件」という。)においては,フランチャイザーの情報提供義務につき,一般論において「契約締結に向けた準備段階において,フランチャイザーは,出店予定者に対し,フランチャイズ契約を締結してフランチャイジーになるかどうかの判断材料たる情報(その核心部分は,対象店の売上や収益の予測に関するものである。)を,適時に,適切に提供すべき義務があり,また,当然のことながら,その情報はできる限り正確なものでなければならないというべきである。それは,フランチャイザー側は予めこの関係の情報を収集し,分析等もしているのに対し,出店予定者側は原則として何らの情報も持たないばかりか,多くの場合はフランチャイズチェーンシステムそのものについても知識・経験を有しないのであり,出店予定者が契約締結に踏み切るかどうかの判断材料としては,フランチャイザーから提供される情報以外にはないというのが実情だからである」とする。同時に,「フランチャイザーもフラン
チャイジー(あるいは出店予定者)も独立・対等の商人であるとして,上記のような両者の立場の違いを重視」すべきというフランチャイザーからの主張につき,「採用できない」と明白に否定した。さらに,「フランチャイジーとなろうとする者(出店予定者)もまた独立した事業者であるという一般的命題を,出店予定者がフランチャイズ契約を締結するかどうかを判断する場面においてもそのまま当てはめ」ることは,フランチャイジーが「フランチャイザーから提供される情報以外に何らの判断材料を持ち合せていない(…)実情を無視したも同然」と評価する。本件におけるフランチャイザーには,開業予定の店舗についての立地評価とそれに基づく売上・収益予測について十分な説明をしなかったものとして,情報提供義務違反が認められた。
本件においては,フランチャイジーa4らとbがおり,それぞれに以下の理由で過失相殺が認められた。まず,xxxxxxxxx0らに対しては,
九八
「自らが従来の酒屋を立ち退かなければならない事情があり,若干急いでいた面があるのか」,フランチャイザーから「事業計画書や店舗立地評価の説明を受けた際,その根拠を細かく確認することをせず,ある程度信用したまま,自分の資金調達のために,被控訴人に金融機関用の事業計画書を別途に作成してもらったりしており(証拠略),自らが自分の事業の成否について十分に検討するという態度に欠ける点があったことは否定でき」ないとされた。次に,フランチャイジーbについては,「自分の父が営む酒屋の将来を考えて,早くから多様な業態のフランチャイザーに説明を聞くなど,積極的に情報を集め,それなりに検討を加えていたものであり」,フランチャイザーの社員から「積極的に出店の勧誘を受けた際も,その事業計画書に細かく書入れをして検討したこと」,ところが,フランチャイザーから「店舗立地評価の説明は受けた際は,その根拠などについて細かく説明を求めた形跡はないこと,bのn店の欠損は短期間に相当額となっており,より早期に閉店を決断しても良かったとも考えられる」とされ,「一定の責任(過失)があるものといわなければならない」と認定された。結果として,フランチャイザーの過失等の諸事情も総合考慮すると,a4及びbにつき,両者とも過失相殺の割合は3
割とされた。
ⅳ 仙台地判平成21年11月26日判タ1339号113頁
仙台地判平成21年11月26日判タ1334号113頁事件(以下,「仙台地判平成21年事件」という。)では,フランチャイザーの情報提供義務につき,「フランチャイズ契約においては,フランチャイザーが経営のノウハウや知識,当該店舗の出店に関する情報及び経済的基盤を保有している一方で,通常,フランチャイジーになろうとする者は上記のような知識や経験が乏しいことに照らせば,フランチャイザーは,フランチャイズ契約の締結に向けた交渉に入った時点で,フランチャイジーになろうとする者に対し,フランチャイズ契約を締結するか否かを判断するために必要な情報を提供すべきxxx上の保護義務を負っているというべきである。」とした。本件におけるフランチャイザーには,旧店舗の売上実績等の重要情報を説明しなかったものとして,同義務違反が認定された。
九七
過失相殺について,本件におけるフランチャイジーは「40年間という長期にわたって酒屋を経営していたこと及び」フランチャイジーの「xxが過去にコンビニエンス・ストアを経営していたことの各事情に照らせば」,フランチャイジーは,「コンビニエンス・ストアの経営について,一般的なフランチャイジーと比較して多くの知識や経験を有していたものと認められる」。また,フランチャイジーは,フランチャイザーとの「交渉を進める前に,他の複数のコンビニエンス・ストアに対しても,開店予定の店舗についての問合せをしているのであるから,コンビニエンス・ストアの経営について強い関心を抱いていたことが推認できる」と認定された。結論としては,「そもそも,フランチャイジーは,単なる消費者とは異なり,自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図するものであることに照らせば,最終的には自己の判断と責任において契約の締結を決断すべき立場にあるといえる」とされ,本判決における一切の事情をも併せ考慮し,5割の過失相殺がなされた。
ⅴ 東京地判平成29年12月21日判時2384号59頁事件
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東京地判平成24年12月21日判時2384号54頁事件(以下,「東京地判平成24年事件」という。)におけるフランチャイジーはA,B,Cの3人である。各フランチャイジーは,本件フランチャイズ契約を締結する以前,それぞれ以下の職業に就いていた。Aは飛行整備士として稼働していた。Xは個人事業主として特許調査業務に従事していた。Cは技術系会社に勤務していた。
本判決において,「フランチャイズ事業においては,一般的にフランチャイザーは,当該事業に関し十分な知識と経験を有し,当該事業の現状や今後の見通しについて豊富な情報を有しているのに対し,フランチャイジーになろうとする者は,当該事業に関する知識も経験もないからこそフランチャイザーと契約を締結し,知識や経験を補完しようとする者であり,フランチャイジーになろうとする者が,フランチャイズ契約を締結するか否かを判断するに当たっては,フランチャイザーから提供される情報に頼らざるを得ないのが実情である」としてフランチャイザーの情報提供義務を一般論として認定している。具体的判断においても,本件におけるフランチャイザーには売上高に関する情報提供義務違反があったことが認定された。
九六
過失相殺について,「フランチャイジーになろうとする者は,自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図するものである以上,フランチャイザーから提示,開示された情報の正確性や合理性を検討,吟味した上,必要であればフランチャイザーに対しさらなる説明や情報の提供を求め,または自ら調査するなどして,最終的には自己の責任と判断においてフランチャイズ契約を締結するか否かを決すべきものである」とし,具体的には以下のように判断した。本件におけるフランチャイジーらは,「本件契約締結時にはそれぞれ相当程度の社会人経験を有していたこと」,本件契約締結前にフランチャイザーと「面談の機会があったこと」からすれば,フランチャイザーに対しフランチャイジーらそれぞれが希望する「東京都内の地域に即した売上高やそれらの数字の根拠,裏付け資料の提出などを求めることにより」,フランチャイザーから「提示,開示された情報の正確性や合理性を検討,吟
味することが可能であった」。本件における事情を総合考慮し,損害のxxな負担の見地から,フランチャイジーらに生じた損害のうち5割の過失相殺がなされた。
⑵ 小 括
名古屋地判平成10年事件,xxx判平成18年事件,仙台地判平成21年事件,及び,東京地判平成24年事件の一般論は,Ⅱ-2で紹介した諸裁判例の内容を維持している。すなわち,フランチャイザーは一般的に当該事業についての十分な知識・経験を有するのに対し,フランチャイジー希望者は当該事業についての知識・経験を有さないのが通常であり,フランチャイジーはフランチャイザーからの情報提供に頼らざるをえないのが実情であるから,xxxxxxxxに情報提供義務が認められるとする。xxx判平成18年事件は,契約締結の判断を行なおうとする段階にあるフランチャイジー希望者を「独立した事業者」と扱うことそのものを否定している点が他の裁判例と異なっている。
東京地判平成11年事件では,フランチャイザーの情報提供義務について一般論において述べられているわけではないが,酒税法及び薬事法に違反する可能性があるという重要な情報が提供されなかったものとしてフランチャイザーの情報提供義務違反が認められた。
九五
過失相殺については,名古屋地判平成10年事件,東京地判平成11年事件,xxx判平成18年事件,及び,東京地判平成24年事件において,フランチャイジーがフランチャイザーに対し詳細な説明を求めようとしなかったことや,自ら調査を行わなかったことがフランチャイジーの過失として認定されている点が共通している。
過失相殺についてのそれぞれの裁判例の特徴は以下の諸点である。
まず,フランチャイジーの事業等の経験について,仙台地判平成21年事件では,フランチャイジーに事業等の経験があることの根拠として「40年という長期にわたって酒屋を経営していたこと」を示したうえで,当該経験を過
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名古屋地判平成10年事件では,フランチャイジーに事業等の経験がないと明白に認定する。ただし,年齢や学歴,職業といった具体的事実から「商売を営む経営上の危険について十分理解し,判断する能力を有する」者として,過失相殺考慮の事情とされている。東京地判平成24年事件では,フランチャイジーA(飛行整備士),B(個人事業主),C(技術系会社勤務)について
「社会人経験」のあったことが過失相殺を考慮する際の事情として考慮されている。東京地判平成11年事件では,「会社の規模」が当該フランチャイズ契約当事者間で「さほど違いはない」とされたこと,フランチャイジーが「日経流通新聞の広告を見て」積極的にフランチャイズ契約の締結を申し込んだ事情から,両当事者は「対等の立場にあった」とされた。
xxx判平成18年事件では,過失相殺において,フランチャイジーの具体的な事業経験や能力等についての言及はない。
Ⅲ.裁判例の分析・検討
1.各時期における裁判例の位置づけ
フランチャイズ契約締結過程における情報提供義務が争われた裁判例を時系列ごとに整理すると,3つにわけることが可能であった。以下に,それぞれの位置づけをまとめる。
九四
⑴ 原則的にフランチャイズ契約は事業者間契約であるとして当事者を互いに対等な者として扱い,例外的に非対等性を認めていた時期(Ⅱ-1)
東京地判xxx年事件では,判旨の一般論において,「一方が他方に対し契約締結の判断に必要な専門的知識を与えるべき立場にあるなどの場合には,契約締結前であっても,相手方に不正確な知識を与えること等により契約締結に関する判断を誤らせることのないよう注意すべき保護義務がxxx上要求される場合もあり得る」として,フランチャイザーに情報提供義務を認定
した。本件では,①「営業に関する一切のノウハウ」は被告であるフランチャイザーが独占的に有しており,② フランチャイジーは①につきフランチャイザーの指示に従うというフランチャイズ契約の性質があることを根拠に,情報提供義務を認定した。ただし,具体的判断においては,同義務違反は認められなかった。
本事件では,① 営業に関する一切のノウハウはフランチャイザーが独占的に有していること,② フランチャイジーはノウハウにつきフランチャイザーの指示に従うこととされるというフランチャイズ契約の構造的特徴から情報提供義務を導いている。しかし,当事者間における事業等の知識・経験の差といった契約当事者そのものの性質は考慮されていない。このことから,フランチャイズ契約当事者間は原則的には互いに対等な立場であるものの,契約の構造上,例外的に非対等な状態になる場合もあることが前提とされて判断されているものと考えられる。
⑵ 原則的にフランチャイズ契約当事者間は非対等であることを前提とするようになった時期(Ⅱ-2)
京都地判平成3年事件は,「フランチャイズシステムにおいて,店舗経営の知識や経験に乏しく,資金力も十分でない個人が,本部による指導や援助を期待してフランチャイズ契約を締結することが予定されている」として,フランチャイズ契約の特徴を指摘する。東京地判平成5年事件,千葉地判平成
九三
6年事件もフランチャイジーには専門的知識・経験を有しない場合が多いことを特徴として述べている。つまり,フランチャイズ契約は,フランチャイジー希望者が店舗経営の知識・経験及び資金力においてフランチャイザーに対し劣位にあることが一般的であることから,フランチャイズ契約当事者間は非対等な関係であることが前提となっている。このような前提は,東京地判xxx年事件とは逆になっている。
以上のような前提の下,フランチャイザーの情報提供義務が認定される。しかしながら他方で,xxxxxxxxの責任も指摘されている。まず,フ
ランチャイジーは,京都地判平成3年事件では「法的には,独立した事業主」,東京地判平成5年事件では「単なる末端消費者とは異なり,自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する」者,千葉地判平成6年事件では「独立した事業体」であるとされる。そして,以上のようなフランチャイジーは,自己責任において経営を行うべきであるとされる。フランチャイズ契約締結についても,フランチャイザーから提供された情報を自己責任において吟味・検討したうえで,締結するか否かを判断すべきであったと指摘されている。以上のようなフランチャイジーの自己責任について,京都地判平成3年事件及び東京地判平成5年事件は過失相殺の判断において考慮された。千葉地判平成6年事件はフランチャイザーの情報提供義務認定の一般論において指摘された。
⑶ 原則的にフランチャイズ契約当事者間は非対等であることを前提としつつ,フランチャイジーの性質の具体的判断基準は定まっていない時期
(Ⅱ-3)
九二
Ⅱ-3の諸裁判例では,Ⅱ-2の裁判例において展開されたフランチャイザーの情報提供義務についての一般論が引き続き言及されている。さらに,同一般論について否定する裁判例はみられなかった。このことから,フランチャイズ契約当事者間は原則的に非対等であるという前提が裁判例実務において定着したものとみられる。ただし,フランチャイザーの情報提供義務違反の認定においてフランチャイジーの知識・経験等の性質が直接考慮されているわけではない。なお,東京地判平成11年事件ではⅡ-2のような,フランチャイジーの劣位性に基づくフランチャイザーの情報提供義務を認定する一般論が述べられたわけではないが,これはフランチャイザーから提供された情報そのものが詐欺にも近いものであったためである。したがって,同事件は
Ⅱ-3の裁判例の中では一般論については例外的な位置づけである。
フランチャイジーの性質が考慮されているのは,過失相殺においてである。仙台地判平成21年事件では,フランチャイジーに40年の酒屋経営の経験があ
ったことから事業等の経験が十分にある者と評価する。名古屋地判平成10年事件では,フランチャイジーに事業経験はないものの,年齢・学歴・職業から経営の危険について十分に理解し,判断できる者と評価する。東京地判平成24年事件では,各フランチャイジーの飛行整備士,個人事業主,技術系会社勤務の経歴が「社会人経験」のあった者と評価する。東京地判平成11年事件では,フランチャイジーの会社の規模や積極的にフランチャイズ契約の締結を申し込んだ事情から,両当事者は「対等の立場にあった」と評価する。以上から,フランチャイジーの性質については,多角的な視点から評価が行われているものの,統一的・具体的な基準や目安といったものは明らかでない。
⑷ 裁判例の時系列的傾向
Ⅱ-1の時期においては,フランチャイズ契約当事者は原則的に対等な者同士と扱われ,例外的に,非対等な場合もあると考えられていた。ところが,
Ⅱ-2の時期においては,Ⅱ-1の原則と例外が覆り,フランチャイズ契約当事者は原則的に非対等な者同士であるとされるようになる。このような前提はⅡ-3の時期にも引き継がれていることから,裁判例においては既に定着したものと考えられる。
Ⅱ-2以降は,フランチャイジーがフランチャイザーに対し当該事業についての知識・経験が乏しいという性質が情報提供義務認定の根拠となった。さらに,Ⅱ-2以降の時期においては,フランチャイジーの事業等の知識・経験の有無は情報提供義務認定の過程において考慮されるのではなく,過失相殺の認定において考慮される裁判例が多い。
九一
2.裁判例が前提とする原則と例外の変化
xxx判平成18年事件では,フランチャイズ契約当事者は互いに独立・対等の商人であるというフランチャイザーからの主張を明白に否定した。それは,これからフランチャイズ契約を締結しようとするフランチャイジー希望者も独立した事業者であるとすると,フランチャイジーがフランチャイザー
から提供される情報によってのみ同契約締結の判断をせざるをえないという実情を無視したも同然であるからだとする。
以上のように,裁判例がxxxxxxxxの実情を重視するようになったのは,学説が影響したものではないかと考えられる。Ⅱ-2(1441年から1446年)の時期においては,xxxxx(6),xxxxx(7),xxxxx(8)が,それぞれ,1440年,1444年,1445年に発表した論稿において,フランチャイジーをフランチャイザーと対等な立場の事業者と一律にみなすことについて批判し,フランチャイジーの中には法律知識や事業経験のない者も存在するという実態を指摘した。特に,xxxxフランチャイズ契約を「一般的に専門家対未経験者の取引」と評価した(4)。Ⅱ-2の時期の裁判例である京都地判平成3年事件及び東京地判平成5年事件において「フランチャイズシステムにおいて,店舗経営の知識や経験に乏しく,資金力も十分でない個人が,本部による指導や援助を期待してフランチャイズ契約を締結することが予定されていること」と言及している点は,xxxx指摘に沿うものである。以上から,Ⅱ-2の時期において,Ⅱ-1の時期が前提としてきた原則と例外が覆った背景には,学説の登場が少なからず影響しているのではないかと考えられる。
3.xxxxxxxxの自己責任
Ⅱ-3の時期では,xxxxxxxxの自己責任について,過失相殺の認定においてさまざまな角度から評価が行われている。xxxxxxxxの自己責任が認定される事情は,事業等の知識や経験の有無に限られない。名古屋
九〇
⑹ xxxx「フランチャイズ契約の展開」甲法30巻3・4号(1440年)447頁,同「フランチャイズ契約」法時62巻2号(1440年)31頁。
⑺ xxxx「フランチャイズ契約締結段階における情報開示義務 ― 独占禁止法,中小小売商業振興法及び『契約締結上の過失』を中心として」判タ851号(1444年)44頁。
⑻ xxxx「フランチャイズ契約締結以前におけるフランチャイザーの情報提供義務
― フランスの対応を手がかりとして ― 」新報101巻7号(1445年)21頁。
⑼ xx・前掲注⑺ 44頁。詳細は拙稿「フランチャイズ契約の締結過程における情報提供義務 ― 学説の分析を中心に ― 」xx64巻4号(2020年)54~55頁を参照。
地判平成10年事件では,フランチャイジーはフランチャイズ経営につき「全くの素人」と認定されているものの,年齢や職業(薬剤師),大学を卒業していることなどから,「商売を営む経営上の危険について十分理解し,判断する能力」があったものとして,フランチャイザーに対しさらなる説明を求めたり,提供された情報の明白な誤謬を確かめなかったりしたことについて「相当の軽率とのそしりを免れない」とされた。このように認定されているのは,事業経験のない一般通常人であったとしても,多額の自己資金や借入資本を投入して事業を始めようとするにおいては,相応の自己責任,あるいは損害回避義務を負うことを認定したものと考えられる。つまり,フランチャイジーの事業経験や知識の有無に関係なく,フランチャイジーが最低限負うべき自己責任の範囲を示しているともいえよう。これまで,いわゆる「脱サラ」とされる者については事業経験及び知識がなく,場合によっては消費者類似の者であると指摘されてきたこと(10)に照らして考えれば,フランチャイジーに事業経験がないことから即座に劣位性を認定する事情とはならないと裁判例上は考えられていることが明らかである。また,東京地判平成24年事件では,飛行整備士や技術系会社勤務といった職業経験が「相当程度の社会人経験」として認定されている。
4.フランチャイジーの二面性
八九
Ⅱ-2の以降の裁判例の傾向として,一方で一般論においてフランチャイザーの情報提供義務を認め,他方で過失相殺においてxxxxxxxxの自己責任に基づく過失を認定している。さらに,同判断構造は多くの裁判例において用いられている。このような判断の構造については,フランチャイズ契約の締結前におけるフランチャイジーはフランチャイザーから提供される情報に頼らざるを得ないという実情があるものの,同契約の締結後は事業を行う者であるとはという側面を反映したものではないかと考える。
⑽ xx・前掲注⑹ ・447頁,xx・前掲注⑺ ・44頁,xx・前掲注⑻ ・21頁等。
Ⅳ.お わ り に
x x(70―1) 88
裁判例を時系列で整理したことから,現在では裁判例においてもフランチャイジーは原則的にフランチャイザーに対し情報について劣位にある者であることが一般的となったことが明らかとなった。さらに,フランチャイジーは事業経験や知識の有無に関係なく,一定の自己責任を負うこと,フランチャイズ契約の締結前においてはフランチャイザーから提供される情報に頼らざるをえないものの,同契約の締結後は事業を行う者でもあるという二面性のあることも見いだされた。
八八
しかしながら,フランチャイザーの情報提供義務認定について,裁判例上の統一的な基準や目安といったものが析出されたわけではない。これらは,裁判例や国内の学説のみから見出すことは難しいものと考える。よって,次稿において,ドイツ法の示唆をあしがかりにした理論の構築を試みることとしたい。