Contract
1 賃貸借の成立(変更)民法第 601 条
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
(改正前民法601条)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
改正前民法601条は、賃借人が賃料支払義務を負うことを定めているが、目的物返還義務を定めていない。同616条が準用する同597条1項によって、賃借人が契約に定めた時期に返還すべきことが規定されているのみである。
そこで、賃貸借契約の内容として、賃借人が目的物返還義務を負うものであることを明記した。
2 短期賃貸借(変更)民法第 602 条
処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。
1 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
2 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
3 建物の賃貸借 3年
4 動産の賃貸借 6箇月
(改正前民法602条)
処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。
今回の改正は、行為能力の制限を受けた者を要件から除外したものであり、かかる者のなした賃貸借契約の効力は、行為能力に関する規定によって定まることとなる。
また、処分権限を有しない者が、改正前民法602条にて定められた期間を超えて賃貸借契約を締結した場合の効果を、超える部分のみ無効とすることが規定された。
3 賃貸借の存続期間(変更)民法第 604 条
(1)賃貸借の存続期間は、50 年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50 年とする。
(2)賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から 50 年を超えることができない。
(改正前民法604条)
1 賃貸借の存続期間は、20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、20年とする。
2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から20年を超えることができない。
賃借権の存続期間を、20年から50年に伸長するものである。
民法第 605 条
(1) 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
民法第605条の2
(1) 前条、借地借家法第10条又は第31条その他の法令の規定による賃借権の 対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
(2) 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を 譲渡人に留保する旨及び当該不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
(3)第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
(4)第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。
(改正前民法605条)
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。
第605条は、文言の見直しを図るものである。
第605条の2、第1項は、判例に従ったものである。
同項第2項は、賃貸借の目的不動産につき譲渡がなされた場合に、賃貸人の地位の留保を認めるものである。ただし、その場合、賃貸人の地位の留保する際に新旧所有者間において賃借権契約が締結されることを必要とすることとした。
そして、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転することとして、新旧所有者間の賃貸借の終了によって、賃貸人の地位が新所有者に承継されるという原則に復帰し、賃借人の有する賃借権が消滅することなく存続することとしたものである。
5 合意による賃貸人たる地位の移転(新設)民法第605条の3
不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができるこの場合においては、前条第3項及び第4項の規定を準用する。
判例を明文化するものである。ただし、賃貸人の地位を賃借人に対抗するため、その所有権移転登記を得る必要がある。
そして、その効果として、敷金返還債務と費用償還債務も移転することとなる。
6 不動産の賃借人による妨害排除等請求権(新設)民法第605条の4
不動産の賃借人は、第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
1 その不動産の占有を第三者が妨害しているときその第三者に対する妨害の停止の請求
2 その不動産を第三者が占有しているときその第三者に対する返還の請求
要件として、賃借権が対抗要件を備えていることである。この対抗要件は、賃借権自体の登記に限らず、借地借家法所定の対抗要件でも足りる。
効果として、妨害排除と返還請求のみ規定し、妨害予防請求はなしえないこととし た。これを認めた判例が存在しないことや、賃借権に基づく第三者への物権的請求は、あくまで例外であって、妨害予防請求まで認める必要がないと考えられるからである。
7 敷金(新設) 民法第622条の2
(1) 賃貸人は、敷金(いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
1 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
2 賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき
(2) 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃 貸人に対し、敷金を当該債務の弁済に充てることを請求することができない。
(改正前民法316条)
賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ
先取特権を有する。
(改正前民法619条)
1 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをする ことができる。
2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。
第1項について
まず敷金の定義を、「いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」とした。
次に、敷金の返還時期としては、次の2つを規定した
・賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
これは判例を踏まえ、賃借人は退去後でなければ敷金の返還を請求できないことを明らかにしたものである。
・賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき
これも判例を踏まえ、賃借人の変更において敷金が新賃借人に承継されないことを
明らかにしたものである。
そして、充当関係としては、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還すべきこととした。
第2項について
敷金の返還債務の履行期が到来する前に、賃借人の賃貸人に対する債務の不履行が生じた場合において、第1項の規定のみでは、賃貸人は敷金による充当が許されないとの解釈を生じるおそれがある。
そこで、 敷金の返還債務の履行期が到来する前であっても、賃貸人は敷金を充当することができることを規定することとした。逆に、賃借人は、賃貸人に対し、敷金を当該債務の弁済に充てることを請求することができないこととした。
8 賃貸物の修繕等(変更)民法第 606 条
(1) 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要になったときは、この限り でない。
(2)賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
民法第607条の2
賃貸物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その
修繕をすることができる。
1 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
2 急迫の事情があるとき。
(改正前民法606条)
1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
第606条1項但し書きは、賃借人に帰責事由がある場合には賃貸人に修繕義務がないことを明示するものである。
第607条の2は、1号ないし2号の場合に、賃借人に修繕権限が認められることを明らかにしたものである。
もともと賃借人にとって賃借物は他人の所有物であるから、賃借物に対する修繕は所有者の権限によってなされるべきことを原則とするため、一定の条件を設けることでこれを認めることとしたものである。
9 減収による賃料の減額請求等(変更)民法第 609 条
xx又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。
(改正前民法609条)
収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。
(改正前民法610条)
前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き2年以上賃料より少ない収益
を得たときは、契約の解除をすることができる。
改正前民法が規定する、収益を目的とする土地の賃貸借における賃料減額請求は、先後の農地改革以前の小作関係を想定したものであり、現在農地法20条によって賃料増減額請求が規定されていることから、現在としてその存在意義は大きくない。
しかし、現在においても実例があることから、同条の要件を、「xx又は牧畜を目的とする土地の賃借人」に限定して存続させることとしたものである。
10 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(変更)民法第 611 条
(1) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
(2) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
(改正前民法611条)
1 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
要件として、賃貸借の目的物の一部が賃借人の過失によらないで滅失した場合に限らず、賃借人の帰責事由によらないで滅失した場合に認められる。
効果として、請求による減額ではなく、当然に減額されるものである。
11 転貸の効果(変更)民法第 613 条
(1) 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と転貸人との間の賃貸借に基づく債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
(2) 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
(3) 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、転貸人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、転貸人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
(改正前民法613条)
1 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
第1項は、転借人が賃貸人に対して直接義務を負う範囲を、原賃貸借契約に基づき賃借人が賃貸人に対して負う義務の範囲に限定するものである。
第2項は、改正前民法613条2項を維持するものである。
第3項は、判例を踏まえて、原賃貸借の合意解除が転借人に対抗できないことを明
らかにしたものである。但し書きで、債務不履行解除の場合を除外している。
12 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了(新設)民法第616条の2
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。使用収益できなくなった原因が、賃借人の帰責事由によるものであるかどうかを問わない。
13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(変更)民法第 622 条
第597条第1項、第599条第1項及び第2項並びに第600条の規定は、賃貸借について準用する。
(準用後の読み替え)民法第599条
(1) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、賃借物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
(2) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
民法第621条
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(改正前民法616条)
第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。
(改正前民法598条)
借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。
民法第599条1項は賃借人の収去義務を規定したものである。賃借物を受け取った後にこれに附属させた物が賃借人の所有かどうかを問わない。
また、賃借物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については収去義務を負わない。
同条2項は改正前598条を維持するものである。
第621条は、通常損耗については賃借人は原状回復義務を負わないとするものである。また、通常損耗に該当しない損傷であっても、賃借人の帰責事由によらないものであるときには、賃借人は原状回復義務を負わない。
14 損害賠償の請求権に関する期間制限(変更)民法第 622 条(同法第 600 条の準用)
第597条第1項、第599条第1項及び第2項並びに第600条の規定は、賃貸借について準用する。
(準用後の読み替え)民法第599条
(1)契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。 (2)前項の損害賠償の請求権については、賃貸人が返還を受けた時から 1 年を経過するまでの間は、時効は、完成しない
(改正前民法621条)
第600条の規定は、賃貸借について準用する。
(改正前民法600条)
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
民法総則における消滅時効の完成猶予の事由を、賃貸借につき追加するものである。なお、借主が支出した費用の償還については、適用がない。