②X従業員は、本契約作成の際、本件特約を含むその内容をY代表者に説明した旨を陳述及び供述するところ、不動産取引に係る媒介契約の締結の際には、宅建業者から顧客に 対してその内容について説明を行うことが一般的であり、本件においてこれを敢えて行わないことを首肯すべき事情は特段見当たらないから、上記陳述及び供述は採用するに足 りるというべきである。これに反して、このような説明が行われることなく同契約への署名押印を求められた旨のY代表者の供述は、直ちに採用することが困難である。 ③Y...
RETIO. NO.120 2021 年冬号
①本件特約は、本契約の表面に、他の条項とともに、同様の大きさの字体の不動文字で記載されており、それ自体殊更読みにくいとはいえないし、本件特約を含めた本契約の条項全体は、直ちに通読することが困難な分量であるともいい難く、むしろ、比較的容易に通読することが可能なものであるということができる。
②X従業員は、本契約作成の際、本件特約を含むその内容をY代表者に説明した旨を陳述及び供述するところ、不動産取引に係る媒介契約の締結の際には、xx業者から顧客に対してその内容について説明を行うことが一般的であり、本件においてこれを敢えて行わないことを首肯すべき事情は特段見当たらないから、上記陳述及び供述は採用するに足りるというべきである。これに反して、このような説明が行われることなく同契約への署名押印を求められた旨のY代表者の供述は、直ちに採用することが困難である。
③Y代表者は、本契約締結後、その交付を受けていると認められるところ、本件特約の存在に関して、契約内容についての自らの認識とは異なるなどとして、Xに直ちに異議を述べるなどした形跡はなく、このことからすれば、本件特約の存在を把握していたことが疑われる。
④Yは、売買契約及び本契約の締結直後に念のため確認したところ、X従業員から、万が一キャンセルの場合は手付金1000万円のみでそれ以外は一切かからないと言われたと主張するが、仮にX従業員からこのような発言があったとしても、売買契約についての発言としてされた可能性を否定することができず、少なくとも、X従業員において、本契約中には不動文字で本件特約が記載されているにもかかわらず、これと矛盾する趣旨の説明をしたとは考え難く、Yの上記主張は、採用
することができない。
よって、Yにおいて、本件特約を含む本契約締結の意思表示をしたとの認定を覆すに足りる特段の事情があるとはいえない。
したがって、Xの請求は理由があるからこれを認容する。
3 まとめ
本事例においては、本件特約は有効であったとして、媒介業者による報酬支払い請求が認められた。ただし、「委託者に対する仲介者の報酬請求権は、仲介行為による委託者とその相手方との契約等の成立によって発生し、特段の合意のない限り、契約等が履行されたか否かによって影響を受けるものではない。」(大審判 明41・7・3 民録14-820)とされていることからすれば、本件特約がなくても同様の判断になったとも考えられよう。
他にも、買主と売買契約を合意解除した売主に対して媒介報酬全額の支払いが認められた事例(東京地判 平21・1・16 RETIO 76-74)、媒介業者の対応に不満を抱き報酬支払いを拒否した買主に対して、媒介報酬全額の支払いが認められた事例(神戸地判 平16・4・22 RETIO61-92)が見られる。
一方で、取引完了時に買主の媒介報酬支払義務が発生する旨の約定を付した媒介契約が締結され、その後締結された売買契約が解除された際に、媒介業者の報酬請求が認められなかった事例(東京地判 平28・8・26 RETIO 108-138)もあることから、あわせて参考にしていただきたい。
(調査研究部xx研究員)
155