・SPC が行う建設モニタリングについては、施工会社の影響下に行われるとなると実効性は確保されないことになる。したがって、施工会社及び設計会社から独立して設計 ・建設を管理する責任者を確保し、施工会社等から一定程度の独立性を確保した上でモニタリングを行うことが考えられる。
4-2 工事監理者の設置(契約GL2-2-6)
1.基本的な考え方
・建築基準法に定める建築物の工事にあたっては、選定事業者が工事管理者を定める必要がある。
・工事監理者は、「設計図書どおりに施工されているかどうかを確認する」ため、工事監理業務が適正に実施されることが重要である。このため、管理者等が発注する公共工事において工事監理業務を委託する場合の各種規定等から必要な手続きや規定等を抽出し、要求水準等で明確に提示することが必要である。
2.具体的な規定の内容
・選定事業者は、建設工事の着工前に工事監理者を設置することとともに、設置後速やかにその名称を管理者等に宛て通知する。また、工事監理者の設置にあたり、管理者等の承認を必要とすることも考えられる。
3.工事監理者の監理報告
・選定事業者が、工事監理者をして、管理者等に対する定期的な報告を行わせる義務を負うこと、又は、施工状況把握のため、必要に応じ、管理者等が工事監理者からの報告を求めることができるとすることも考えられる。
4.建築基準法等の規定(参考)
・建築士法において、工事監理とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているか否かを確認することと規定されている(建築士法第2条第6項)。
・建築基準法において、建築主は建築士法第3条から第3条の3までに規定する建築物の工事をする場合には、それぞれ建築士法第3条第 1 項、第3条の2第1項若しくは第3
条の3第 1 項に規定する建築士又は同法第3条の2第3項の規定に基づく条例に規定する建築士である工事監理者を定めなければならないと規定されている(建築基準法第5条の4第4項、建築士法第3条から第3条の3)。
・したがって、PFI事業においても建設基準法に定める建築物の工事を実施する場合には、建築主である選定事業者は当該建設工事の工事監理者を定める必要がある。
5.条文例
(工事監理者)
第 30 条 乙は、工事監理協力企業をして、本件工事着工前に、要求水準書及び事業者提案
に従い、建築基準法第5条の4第2項に定める工事監理者を設置させるものとし、設置後速やかに甲に対して工事監理者の氏名、その者の所属する企業名、保有する資格その他必要な事項を通知する。なお、工事監理業務と建設業務を同一の企業が実施することはできない。
2 乙は、施工期間中、第1項に基づき通知した工事監理者を変更できないものとする。ただし、病気、死亡、退職等やむを得ない事情が生じた場合であって、甲の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りではない。
3 甲は、第1項の規定により通知がなされた工事監理者の変更を希望するときは、その理由を明らかにして乙に申し出ることができる。この場合、甲と乙は、工事監理者の変更に関し協議を行う。
4 乙は前項に基づき設置した工事監理者をして、設計図書に従って工事監理業務を行わせるものとする。
5 乙は、工事監理者をして、乙を通じ毎月1回以上、工事監理の状況を甲に報告させる。
6 乙は、工事監理者をして、乙を通じ適宜日報、月報、四半期報告書、年度報告書、各種検査報告書等の必要書類を甲に提出させる。
7 乙は、工事監理者をして、定期的に、甲による工事監理状況の確認を受けさせる。
8 乙は、前3項に加え、甲が要請したときは、工事監理者をして、本件工事の事前説明及び事後報告並びに本件工事現場での施工状況を速やかに報告させ、甲による確認を受けさせるものとする。
9 乙は、工事監理者が前5項の行為を行う上で必要となる協力を行う。
4-3 選定事業者によるセルフモニタリング(新設)
1.基本的な考え方
・民間事業者は、施工会社による建設業務や工事監理者による工事監理業務につき、自主モニタリングを行い、的確に実施されているかどうかを確認する。
・発注者は、公募段階でどのような基準を用いるべきか等について、公募段階で発注者の意図を示すことなどにより、実効的なモニタリングシステムを構築することが適切である。
セルフモニタリングに用いられる基準:発注者の技術的ノウハウを反映させることによりセルフモニタリングをより効果的なものとするため、公募段階で発注者の意図を示し、これに合わせてセルフモニタリングの方法を提案させ、それを実施することにより効果的なものとすることが考えられる。具体的には、建設モニタリングの視点等をより明確に伝達するため、設計業務・工事監理業務・工事業務のモニタリングの手続きや特に重点的に工事監理を行う必要がある工種・工程等についての一定の仕様を要求水準書で示した上で、事業者選定において工事監理計画書の概要の提案等の提出を求めることとすることが考えられる。
2.留意点
・SPC が行う建設モニタリングについては、施工会社の影響下に行われるとなると実効性は確保されないことになる。したがって、施工会社及び設計会社から独立して設計・建設を管理する責任者を確保し、施工会社等から一定程度の独立性を確保した上でモニタリングを行うことが考えられる。
・ISO9000 に従った監理を行うことによって、工事監理業務の負担を減らす方法もある。
4-4 管理者等によるモニタリング(契約GL2-3、2-3-1)
1.基本的な考え方
・PFIの場合は、セルフモニタリングが基本となるものの、発注者が特に重要と考える点については、発注者自らモニタリングを行うべきである。
・管理者等は、選定事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、適正な公共サービスの提供を担保するため、選定事業者から、定期的に協定等の義務履行に係る事業の実施状況報告の提出を求めることができる(基本方針三2(3)(ロ))。
・発注者によるモニタリングの対象としては、以下のものが考えられるが、以下のうちどれを対象とするか、あるいはその他の内容も含めるかについては、事案の性質に応じて決定すべきである。
・完工後の瑕疵発見が困難かつ重要な事項(躯体状況等)等
・瑕疵があった場合の出戻りの影響が大きい事項(重要な機械設備の出荷検査等)
・施設の安全性に直接関わる事項(天井の振れ止め等)
・地域の環境保全に大きな影響を与える事項(アスベストを含む旧施設の解体等)
・特に契約書等で明示されたもの以外でも、発注者が必要と判断した場合には、建設現場において自ら立会いの上確認する等、モニタリングを行うことができる旨契約書に規定することが望ましい7。
2.具体的な規定の内容
・発注者が直接行うモニタリングの対象、具体的な工種・工程等を予め例示しておくことが望ましい。
・①管理者等は、施設の建設工事の施工状況等について、事前に通知し(又は通知せずに)選定事業者又は建設企業に対し説明を求めることや、建設現場において建設工事の施工状況を自ら立会いの上確認することができること、②選定事業者からの説明又は管理者等の確認の結果、施設の建設工事の施工状況が設計図書等を逸脱していることが判明した場合、管理者等は、選定事業者に対してその是正を求め、選定事業者は、これに従うものとすること、③選定事業者は、施設の建設工事の施工の進捗状況に関し適宜管理者等に対して報告を行うこと、④管理者等は、選定事業者の説明、若しくは管理者等の確認の実施又は選定事業者からの報告の受領を理由として、施設の建設工事の施工について何らの責任を負担するものではないことなどが規定される。
3.関係法令の規定
・会計法令においては、契約内容の適正な実現を期するため、「契約担当官等は、工事又は製造その他についての請負契約を締結した場合においては、政令の定めるところにより、
7 英国 SoPC4 においても、類似の規定がある。
自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならない」と規定しており(会計法第29条の11第2項)8 、また、監督の円滑な実施を期するため、契約の相手方の協力を得るようにしておくことが必要であることから、監督について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されている(予決令第100条第1項第3号及び契約事務取扱規則第13条)。
・また、監督の実施方法について、会計法令において、監督職員は、必要があるときは、 仕様書及び設計書に基づき当該契約の履行に必要な細部設計図、原寸図等を作成し、又 は契約の相手方が作成したこれらの書類を審査して承認をしなければならないとし、ま た、監督員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履 行途中における工事製造等に使用する材料の試験若しくは検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をするとしている(予決令第101条の3及び契約事務取扱 規則第18条第1項及び第2項)9 。なお、従来型の公共工事の請負契約においては、監 督員は設計図書に基づく工程の管理、立会い、工事の施工状況の検査又は工事材料の試 験若しくは検査等を行うことができるものと規定されている(標準約款第9条第2項)。
・PFI事業契約は、契約内容の実現により公共施設等の整備等を図る契約であることから、上記会計法令の趣旨に準じて、管理者等は、PFI事業契約に基づく債務の履行を確保するため必要な措置として、施設の建設工事の施工状況等について、実施設計に従い建設工事が施工されていることを確認するため選定事業者又は建設企業に対し説明を求めることや、建設現場において建設工事の施工状況を自ら立会いの上確認することができることなどと規定される。
4.留意点
・発注者によるモニタリングが過剰であると、コストの増加を招き、逆に VFM が減少してしまうことにも留意すべきである。
5.条文例
(甲の説明要求等)
第 40 条 甲は、本件工事が本契約、要求水準書、事業者提案、設計図書(甲と乙の打ち合わせの結果を含む。以下同じ。)及び施工計画書に従い実施されていることを確認するために、本件工事の状況及び品質管理について、乙に事前に通知したうえで、乙又は建設協力企業に対して説明を求め、確認することができる。この場合において、本件工事の現場において実施状況を確認するときは、乙及び建設協力企業が立ち会うものとする。
2 乙は、前項に規定する説明及び確認の実施について、甲に対して可能な限りの協力を
8 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条の2において、同様の規定がある。
9 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法施行令第167条の15において、監督又は検査の方法について規定されている。
行うとともに、建設協力企業をして、甲に対して必要かつ合理的な説明及び報告を行わせるものとする。
3 前2項に規定する説明又は確認の結果、本件工事の状況及び品質管理が本契約、要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に従っていない、又は本契約、要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に規定する水準又は使用を満たさないと甲が判断した場合、甲は、乙に対してその是正を求めることができ、乙は、これに従わなければならない。
4 甲は乙から施工体制台帳(建設業法第 24 条の7に規定する施工体制台帳をいう。)及び施工体制に係る事項について報告を求めることができる。
4-5 中間確認(新設)
1.概要
・管理者等は、建設が適切に行われていることを確認するため中間確認を行うことができること、また、必要と判断した場合に出来形部分を最小限度破壊して検査することができることが規定される。
2.趣旨
・管理者等の選定事業者に対する関与を必要最小限にする観点から、管理者等による建設 モニタリングは完工検査のみで十分と考えもあった。しかし、完工検査の段階で建設段 階の瑕疵が発見され、工事がやり直しとなった場合、多額の費用を要することに加え、 選定事業者にとっては事業契約に定められた事業日程を履行できず事業に悪影響が生じ、また管理者等にとっても、事業スケジュールが遵守できないという問題が発生する。特 に建築物の内部の施工状況は、中間確認における破壊検査を実施しなければ発見するこ とが難しく、完工検査のみでは不十分であると考えられる。このため、工事対象物の規 模や難易度も考慮しつつ、中間確認の規定を活用することが考えられる。
3.標準約款上の規定
・監督員は、工事の施工部分が設計図書に適合しないと認められる相当の理由がある場合において、必要があると認められるときは、工事の施工部分を最小限度破壊して検査することができると規定されている。また、この場合の破壊検査に係る費用及び復旧にかかる費用は請負人が負担するものとされている。
4.条文例
(中間確認)
第 41 条 甲は、本件工事対象施設が本契約、要求水準書、入札説明書等、事業者提案、設計図書及び施工計画書に従い建設されていることを確認するために、施工期間中、必要な事項に関する中間確認を実施することができる。この場合において、必要があると認められるときは、甲は、その理由を乙に通知して、出来形部分を最小限度破壊して確認することができる。
2 前項の場合において、確認又は復旧に直接要する費用は、乙の負担とする。
3 甲は、第1項の中間確認の結果、本件工事の状況が本契約、要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に従っていない、又は本契約、要求水準書、事業者提案、設計図書若しくは施工計画書に規定する水準又は使用を満たさないと判断した場合、乙に対してその是正を求めることができ、乙は、これに従わなければならない。
4-6 完工検査(契約GL:2-3-2)
1.概要
・選定事業者及び管理者等がそれぞれ行う施設の完工検査の方法及びその効果について規定される。
2.趣旨
・管理者等の選定事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、適正な公共サービスの提供を担保する(基本方針三2(3))ため、選定事業者及び管理者等の行う完工検査について規定される。
3.完工検査の方法
(選定事業者が行う完工検査)
・施設の建設工事にあたっては、選定事業者が発注者として建設企業と工事請負契約を締結し、また当該工事請負契約に基づき施設の完工について検査を行い、建設企業から施設の引渡しを受ける。このように、選定事業者は、自己が行う完工検査を経た後、PF I事業契約に基づき管理者等へ施設を引き渡すことから、選定事業者が行う完工検査は、 PFI事業契約の適正な履行のために必要な検査といえる。そこで、PFI事業契約において、選定事業者が、自己の費用と責任において、施設の完工検査を行うものとし、管理者等に対して検査の結果を報告する旨規定される。
・建設業法において、建設工事の請負契約の当事者は、契約の内容となる一定の重要な事項として、工事の完成を確認するための検査の時期及び方法を請負契約書に記載することと規定している(建設業法第19条第1項第10号)。したがって、選定事業者と建設企業の間において締結される施設の建設工事の請負契約において、施設の工事完成検査が行われることが規定される。なお、選定事業者が建築基準法上の建築主であり、かつ施設が建築基準法第6条第1項第1号から第3号までに掲げる建築物である場合、工事完成検査の前に、選定事業者は建築基準法第7条に基づき施設の完了検査を受ける必要がある。
・そこで、選定事業者と建設企業の間において締結される施設の建設工事の請負契約に基づいて選定事業者が行う施設の完工検査を、選定事業者が自らの責任と費用において実施し、完工検査を完了した旨を管理者等に通知することがPFI事業契約において規定される。
(管理者等が行う完工検査)
・管理者等は、選定事業者から上記の検査の報告を受けた日から一定期間以内に、施設が PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い要求水準の内容を満たしてい
ることを確認するための検査を速やかに実施し、検査の結果、施設がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていることが確認できたときは、管理者等は速やかに選定事業者に対して完工確認書を交付することが規定される。また、施設がPF I事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていないことが判明した場合、管理者等は、判明した事項の具体的内容を明らかにし、選定事業者に対して期間を定めてその是正を求めることができ、選定事業者はこれに従うものとすることが規定される。
・会計法令においては、契約において定めた目的物を債務者である相手方が給付する場合、その給付が契約の内容に適合したものであるか否かを確認するため、「契約担当官等は、
(中略)自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認のため必要な検査をしなければならない」と規定しており(会計法第29条の11第2項)10、また、検査の円滑な実施を期するため、契約の相手方の協力を得るようにしておくことが必要であることから、検査について、契約の性質又は目的に応じ、契約書に明記するものと規定されている(予決令第100条第1項第3号及び契約事務取扱規則第13条)。同様に、支払遅延防止法において、「契約の目的たる給付の完了の確認又は検査の時期」が政府契約の必要的内容事項の一つと規定されている(支払遅延防止法第4条)。PFI事業においても、管理者等は、PFI事業契約に基づく給付の完了の確認をするために必要な検査として施設の完工検査を行う必要があり、その旨PFI事業契約において規定される。
・検査の方法については、会計法令において、契約書、仕様書及び設計書その他関係書類 に基づいて行うこと(予決令第101条の4)11としている。そして、契約事務取扱規則 第20条は、検査職員は、給付の完了の確認に付き、契約書、仕様書及び設計書その他 の関係書類に基づき、当該給付の内容について検査を行わなわなければならないとして いる(同条第1項)。検査の時期及び効果について、支払遅延防止法において、国が相手 方から給付を終了した旨の通知を受けた日から工事については14日以内の日としなけ ればならないと規定し(支払遅延防止法第5条第1項)、国が相手方のなした給付を検査 しその給付の内容の全部又は一部が契約に違反し又は不当であることを発見したときは、国は、その是正又は改善を求めることができると規定している(支払遅延防止法第5条 第2項)。なお、従来型の公共工事の請負契約においては、請負者は、工事が完成したと きは、発注者に通知するものとし、発注者は、通知を受けた日から14日以内に完成検 査をし、検査結果を請負者に通知しなければならず、検査に合格しているときは、工事 目的物の引渡しを受けなければならないとしており、請負者は、完成検査に合格しない ときは、不合格部分を修補して再検査を受けならず、検査又は復旧に直接要する費用は、 請負者の負担としている(標準約款第31条)。
・PFI事業においては、管理者等は選定事業者から施設が完成した旨の通知を受けた日から一定期間以内に、PFI事業契約、PFI事業契約の関係書類である入札説明書等
10 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法第234条の2において、同様の規定がある。
11 地方公共団体が管理者等となる場合は、地方自治法施行令第167条の15第2項において、同様の規定がある。
及び入札参加者提案に基づき完工検査を行い、検査結果を選定事業者に対して通知すること、及び、完工検査の結果、施設がPFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従っていないことが判明した場合、管理者等は、判明した事項の具体的内容を明らかにし、選定事業者に対してその是正を求めることできる旨規定される。
4.選定事業者による完工検査への管理者等の立会い
・選定事業者は、完工検査を行う旨について一定期間前に管理者等に通知するものとすることが規定される。
・管理者等は、選定事業者が行う完工検査への立会いを求めることができる旨規定されることが通例である。但し、管理者等は、かかる立会いを理由として、何らの責任を負担するものではないものとする旨規定される。
5.管理者等が行う完工検査への選定事業者等の立会い
・管理者等が行う完工検査を円滑に実施するため、選定事業者は管理者等が行う完工検査に立ち会うものとすることが規定される。また、工事監理者が、管理者等が行う完工検査に立ち会うものとすることが規定されることも考えられる。
6.完工確認書交付による責任
・管理者等は、完工確認書の交付を行ったことを理由として、施設の建設、維持・管理、運営の全部又は一部について何らの責任を負担するものではないものとすることが規定される。
7.完工確認書の交付
・管理者等の選定事業者に対する完工確認書の交付は、選定事業者から管理者等への施設の引渡し(又は運営開始)を行うにあたっての主要な要件であることから、かかる完工確認書の交付条件(提出書類の様式を含む。)について具体的かつ明確に規定する必要がある。
8.条文例
(乙による本件対象施設の竣工検査)
第 44 条 乙は、本件工事対象施設が竣工した後速やかに、自己の責任及び費用負担において、本件工事対象施設の竣工検査を行うものとする。
2 甲は、前項に規定する竣工検査への立会いを求めることができる。
3 乙は、竣工検査に対する甲の立会いの実施の有無を問わず、甲に対して、竣工検査の結果に検査済証その他の検査結果に関する書面の写しを添えたもの(以下「建設業務完
了報告書」という。)を提出しなければならない。
(甲による本件工事対象施設の竣工確認)
第 45 条 甲は、前条第3項に規定する建設業務完了報告書を受領してから 14 日以内に、本件工事対象施設の竣工確認を行う。乙は、甲の竣工確認に際して、現場説明、施工記録等の資料提供等により、甲に協力しなければならない。この場合において、必要があると認められるときは、甲は、その理由を乙に通知して、本件工事対象施設を最小限度破壊して確認することができる。
2 前項の場合において、確認又は復旧に直接要する費用は、乙の負担とする。
3 甲は、第1項に定める竣工確認により本件工事対象施設が、本契約、要求水準書、入札説明書等、事業者提案及び設計図書どおりに建設されていると認めるときは、本件工事完了の承諾を行わなければならない。
4 甲は、本件工事対象施設が本契約、要求水準書、入札説明書等、事業者提案及び設計図書どおりに建設されていないと認めるときは、不備、不具合等の具体的内容を明らかにし、期間を定めて乙に対しその修補を求めることができる。
5 乙は、前項の規定により甲から修補を求められた場合には、速やかに修補を行い、その完了後あらためて甲の確認及び承諾を得なければならない。この場合には、本条第1項に掲げる期限の定めは適用せず、甲及び乙は速やかに手続を行わなければならない。
6 前項に規定する修補の結果、本件工事対象施設の引渡しが本件工事対象施設の引渡予定日よりも遅延した場合は、第 54 条第4項の規定を適用する。
(甲による本件工事対象施設の竣工確認通知)
第 46 条 甲は、前条第3項に規定する本件工事の完了の承諾を行った後、本件工事対象施設の引渡予定日までに乙に対し竣工確認通知を行うものとする。
2 甲は、前項に規定する竣工確認通知を行ったことを理由として、建設業務及び運営業務等の全部又は一部について何らの責任を負担するものではなく、また、乙は、その提供する運営業務等が要求水準を満たさなかった場合において、甲が前項に規定する竣工確認通知を行ったことをもってその責任を免れることはできない。
第5章 運営・維持管理業務
5-1 維持・管理、運営業務体制の確保(契約GL:2-3-3)
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約等に従った施設の維持・管理、運営業務が可能となった時点において、管理者等に対してその旨を通知することが規定される
2.運営業務体制の確保
・特に、運営業務の比重が重い選定事業の場合においては、施設の利用可能性の確保のみならず、要求水準に従った運営業務体制の確保をもって、公共サービスの提供が開始できることになる。このため、管理者等が運営開始までのスケジュールを設定する際、選定事業者が運営業務を実施するための体制確保に必要な期間を設ける必要がある。
・中でも、病院や刑務所のように運営業務が多岐にわたる事業や、廃棄物処理施設等の高度な技術力を必要とする事業では、運営に必要な職員数が多くその確保に時間を要することや、研修・訓練にも相応の時間を要することを踏まえ、十分な準備期間を検討する必要がある。
・従来、運営業務が多岐にわたる事業においては、公共側の職員(例えば病院における医師や看護士等)は本来業務(病院であれば診療や看護業務)以外に様々な業務を行わなければならず、効率性や生産性に課題があった。PFI方式を採用することで、公共側の職員をこれらから解放し、本来業務に集中できる体制となることも期待される。ただし、この場合、民間に委託する業務を特定することにより、入札段階で予め業務範囲を明確化にする必要がある。
3.管理者等による確認手続
・施設の維持・管理業務及び運営業務の開始が可能となった時点において、管理者等に対してその旨を通知することが規定される。この際、特に、運営業務の比重が重い選定事業の場合等においては、管理者等による確認の手続きを規定することが考えられる。管理者等による確認の手続き及び確認の要件について具体的かつ明確に規定することが望ましい。
4.条文例
(運営業務開始準備)
第 57 条 乙は、運営業務開始予定日から確実に運営業務を開始できるよう、運営業務開始
予定日までに、自己の責任及び費用において、必要な運営業務を開始するための準備を行わなければならない。
(運営業務実施体制の確認)
第 61 条 乙は、本件施設の運営業務の全部又は一部を運営協力企業その他第三者に委託する場合は、別途甲との協議により定める日までに、本契約、要求水準書、入札説明書等及び事業者提案に従い、各運営業務を実施する運営協力企業を決定し、甲の確認を受けなければならない。
2 乙は、別途甲との協議により定める日までに、本契約、要求水準書、入札説明書等及び事業者提案に従い、運営協力企業等一覧を策定して甲に提出し、甲の確認を受けなければならない。甲は、運営協力企業等一覧が本契約、要求水準書、入札説明書等又は事業者提案と一致していない場合、乙に対しその修正を求めることができる。
3 運営協力企業等の構成に変動があった場合、乙は、当該変動を反映した新たな運営協力企業等一覧を、当該変動後速やかに、甲に対して提出するものとする。
5-2 維持・管理、運営の実施(契約GL:3-1)
1.概要
・選定事業者は、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従い、自らの責任と費用負担において施設の維持・管理、運営を実施する義務を負う旨規定される。
2.業務内容等の規定時期
・維持・管理業務及び運営業務の内容、実施基準、実施の確認方法等については、維持・管理、運営業務開始前に定める必要がある。
・病院のように、管理者等の職員と選定事業者の職員とが役割分担しながらも協働して維持管理、運営する事業では、選定事業者の業務内容を要求水準において明記する必要があるが、その際は業務の漏れが生じないよう留意する必要がある。
3.条文例
(運営業務の実施)
第 65 条 乙は、運営期間において、本契約、要求水準書、事業者提案、事業計画書及び年度運営業務計画書に従い、要求水準を満たすよう、自らの責任及び費用負担において、自ら又は運営協力企業等をして、次の各号に掲げる業務を実施し又は実施せしめる。ただし、要求水準書において甲の責任及び費用負担とされているものは、この限りでない。
(1) 診療技術支援業務ア 食事の提供業務
イ 医療機器の管理・保守点検業務ウ 医療補助業務
(2) 物品管理関連業務
ア 物品管理業務(ベッドステーション業務を含む。)イ 滅菌消毒業務
ウ 洗濯業務
(3) 情報管理関連業務ア 診療情報管理業務
イ 医療事務業務(電話交換業務を含む。)
(4) 施設維持管理業務
ア 清掃業務(植栽管理業務を含む。)
イ 施設メンテナンス業務(駐車場管理業務及び医療用ガスの供給設備保守点検業務を含む。)
ウ 警備業務
(5) 利便施設運営業務
5-3 第三者による実施(維持・管理、運営)(契約GL:3-2)
1.概要
・施設の設計(関連:2-2 施設の設計、設計図書の提出)、施設の建設工事(関連:3
-7 第三者による実施(建設工事))と同様に、選定事業者から第三者への施設の維持・管理業務及び運営業務の委託等について規定される。
2.維持・管理、運営業務の第三者への委託等
・施設の維持・管理業務及び運営業務をコンソーシアム構成企業(又は受託・請負企業)である維持・管理、運営企業に委託し、又は請け負わせる場合、その維持・管理、運営業務委託契約などの規定にかかわらず、管理者等との関係では当該維持・管理、運営企業の責めに帰すべき事由は全て選定事業者の責めに帰すべき事由とみなされる旨規定される。
・さらに、選定事業者が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うものとすることなどが規定される。
3.維持・管理、運営企業の提示・変更
・管理者等は、維持・管理業務及び運営業務を委託又は請け負わせる主要な維持・管理、運営企業を入札参加者提案に明示することを求め、これら企業について必要な資格審査を実施することが通例である。ここで資格審査を経た企業の経営能力、技術的能力等の特性、水準等を前提に後述の業務別仕様書が作成され、これに従って業務を実施することにより、要求水準を達成するよう画されている。このため、選定事業者が入札参加者提案に維持・管理、運営業務を担当する者として示した主要な維持・管理、運営企業以外の第三者に維持・管理、運営業務を委託し、又は請け負わせる場合には、事前に管理者等の承諾が必要とされる。但し、管理者等は、合理的な理由がない限り承諾を拒まないことが期待される。
・さらに、管理者等は、維持・管理、運営業務を担当する企業の名称等を明らかにするため、選定事業者と変更後の維持・管理、運営企業との間、又は変更後の維持・管理、運営企業とその下請企業との間の業務委託契約書又は業務請負契約書の写しの提出を求める規定を置くことが考えられる。
・特に、企業の経営能力や技術的能力等が重視される運営業務を含む選定事業については、事業開始後、選定事業者による経営が安定した状態に至るまでの一定期間はコンソーシアムが入札参加者提案に示した運営企業に運営業務を実施させることが適切な場合もある。このため、運営開始から一定期間、管理者等の承諾(管理者等は、合理的な理由がある場合のみ変更の承諾を行う。)なくして選定事業者による主要な運営企業の変更を認
めない旨規定することも考えられる。
・なお、選定事業者が維持・管理、運営企業の変更を行う場合には、選定事業者に対し、当該変更にかかる業務が中断又は停滞しないよう留意させる必要があり、その旨規定を置くことも考えられる。
4.統括マネジメント業務を含めるの規定
・1-10及び5-4に示す統括マネジメント業務を選定事業者が担う場合、維持・管理及び運営を実施する企業の経営能力、技術的能力等は選定事業者が統括することとなり、委託先の選定については一定の裁量が認められる。このため、維持・管理及び運営企業の変更に際して、管理者等の承諾を義務づける必要はない。ただし、管理者等が維持・管理及び運営の体制を把握しておく必要があることから、例えば、変更にあたっての通知義務が規定され、また管理者等に疑義がある場合は説明を要求することができる旨規定される。
5.条文例
(1)統括マネジメントを入れる場合の条文例
(第三者に対する委託)
第 66 条 乙は、本件施設等の運営業務の全部又は一部を第 61 条に基づき甲が確認した運営協力企業に委託し、又は請け負わせることができる。
2 乙は、別紙 10 に定める手続に従い、自己の裁量と責任において、第 61 条に基づき甲が確認した運営協力企業を随時変更することができる。
3 本件施設の運営業務実施に関する運営協力企業その他第三者の使用は、すべて乙の責任において行うものとし、運営協力企業その他運営業務の実施に関して乙又は運営協力企業が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて乙の責めに帰すべき事由とみなして、乙が責任を負う。
別紙 10 運営協力企業の変更
1 乙は、第 61 条に基づき甲が確認した運営協力企業の変更を行おうとするときは、2に定める要領により運営協力企業変更通知を作成し、変更日の[1月]前までに甲に交付又は送付する。
2 運営協力企業変更通知には、次の各号に掲げる事項を記載し、かつ、(4)に掲げる事項を証する書面及び乙と変更後の運営協力企業との間の契約案を添付する。
(1) 変更しようとする運営協力企業に係る業務、変更予定日及び移行方法
(2) 現在の運営協力企業及び運営協力企業になろうとする者の名称、担当者、所在地及び
連絡先
(3) 変更を要する理由
(4) 運営協力企業になろうとする者が受託業務を遂行するにふさわしい能力を有している旨の説明(各業務の受託資格、実績及び当該業務の受託に必要な許認可が必要なときは、その有無又は見込み等を含む。)
(5) 業務方法の変更の要否
(6) その他甲が定める事項及び特記事項
3 甲は、運営協力企業変更通知の記載内容について疑義がある場合、当該運営協力企業変更通知を受領後[10]日以内に乙にその旨を書面により照会することができる。乙は、当該照会を受領した日から[10]日以内に回答書を甲に提出する。
4 乙は、3の回答に必要であると判断する場合、運営協力企業になろうとする者をして
3の回答書を補充説明させることができる。
5 3及び4に定める手続は複数回行うことができる。
6 乙は、運営協力企業を変更した場合は、変更後[5]日以内に、次に掲げる事項を記載した運営協力企業変更届出書により甲に提出する。ただし、業務の受託に許認可を要するときは、当該許認可を受けたことを証する書面の写しを当該運営協力企業変更届出書に添付することを要する。
(1) 変更後の運営協力企業に係る業務及び変更日
(2) 変更前及び変更後の運営協力企業の名称、担当者、所在地及び連絡先
(3) 業務方法の変更の要否
(4) その他甲が定める事項及び特記事項
7 運営協力企業の変更により、運営業務方法の変更を要するときは、別紙 14 の手続にも従うことを要する。
(2)統括マネジメントがない場合の条文例(運営がなく維持管理業務のみの例)
(第三者への委託等)
第 48 x xは,維持管理業務を維持管理担当者に委託し,又は請負わせるものとし,維持管理担当者以外のものに,維持管理業務を実施させてはならない。
2 乙及び維持管理担当者は,事前に甲の承諾を得たときは,維持管理業務の一部を第三者に委託し,又は請負わせることができる。当該第三者が,自己以外の第三者に委託し,又は,請負わせる場合も同様とする。
3 前 2 項の規定による維持管理担当者及び維持管理担当者以外の第三者の使用は,すべて乙の責任において行うものとし,維持管理担当者その他維持管理業務に関して使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は,すべて乙の責めに帰すべき事由とみなして,乙が責任を負うものとする。
(3)統括マネジメントがない場合の条文例(維持・管理・運営を含む例)
第 46 条 維持管理期間中の第三者の使用
1. 事業者は、維持管理・運営業務の全部又は一部(ただし、本施設の利用許可に関する権限の行使は除く。以下において同じ。)を第三者に委託し又は請け負わせようとするときは、関連資料(受託者又は請負人の名称、委託又は請け負わせる業務の内容、その他市が合理的に要求する事項を特定するに足るものでなければならない。)を添えて、市に対して事前に通知しなければならず、市の事前の書面による承諾を得た場合に限り、維持管理・運営業務の全部又は一部を第三者に委託し、又は請け負わせることができる。ただし、基本協定書に当該業務を受託し又は請け負う旨記載ある構成企業又は協力企業に委託し、又は請け負わせる場合には、市の承諾を要せず、当該構成企業又は協力企業に委託し、又は請け負わせた旨を、事前に又は事後速やかに通知すれば足りる。
2. 前項に基づき、維持管理・運営業務の全部又は一部の委託を受け、又は請け負った第三者が、さらに当該業務の一部を他の第三者に委託し又は請け負わせる場合、事業者は、関連資料(かかる第三者の名称、委託し、又は請け負わせる業務の内容、その他市が合理的に要求する事項を特定するに足るものでなければならない。)を添えて、事前に市に対してその旨を書面により通知し、市の承諾を得なければならない。
3. 市は、必要と認めた場合には、随時、事業者から維持管理・運営業務の遂行状況について報告を求めることができる。
4. 事業者は、その責任及び負担において、第 1 項及び第 2 項に規定する受託者、請負人及び下請人(以下、「業務受託者等」と総称する。)を利用するものとし、かかる業務受託者等の利用に関連して発生する一切の増加費用及び損害は、すべて、事業者がこれを負担する。業務受託者等行為は、すべて、これを事業者の行為とみなし、業務受託者等の責めに帰すべき事由は、その原因及び結果のいかんを問わず、事業者の責めに帰すべき事由とみなす。
5. 本条に定めるほか、業務受託者等の利用の条件は、第 7 条に定めるところに従う。
5-4 統括マネジメント業務(新設)
1.概要
・運営重視型事業(特に病院事業)において、選定事業者は、事業期間中、PFI事業契約、要求水準書、事業者提案等に従い、自らの責任と費用負担において統括マネジメント業務を実施する義務を負う旨規定される場合がある。その他、第三者(受託・下請企業)への委託の可否及び方法、マネジメント業務責任者の配置、要件、変更の可否・要件等についても規定されることが多い。(1-10参照)
2.趣旨
・PFIは、その事業対象となる業務を選定事業者に包括的に委託し、選定事業者がその事業における個別の業務を総合的にマネジメントすることにより、その効果を最大限に発揮させることを狙いの一つとしている。
・例えば、病院PFI事業のうち、特に維持管理・運営業務に関する特徴として、以下の点があげられる。
1)維持管理・運営業務範囲がxx多岐にわたり、かつ各々の業務の専門性が高いこと。
2)日々の業務内容に流動性があること。
3)将来的に事業環境が著しく変化する可能性が高く、業務内容、施設設備に対し対応が求められること。
4)民間事業者と公共側職員が協働しなければならない業務が多いこと。
・このように、病院PFIにおいては、維持管理・運営業務の範囲がxx多岐にわたり、かつ各々の業務の専門性が高いため、かかる業務を総合的にマネジメントするには、選定事業者自身にマネジメント能力が備わっており、かつ、選定事業者側に病院事業に精通している人間が存在することが必要であると初期の案件の経験から認識されるようになった。そこで、最近の病院PFI事業においては、統括マネジメント業務にも要求水準を設定し、管理者等が選定事業者に求める能力を明確に示すとともに、民間事業者のマネジメント能力を評価できる仕組みを導入されるようになった。病院以外のPFI事業においても、同様の特徴を有している事業については、このような業務を明確に位置づけることが考えられる。
・ここでいう「マネジメント」とは、主に、選定事業の範囲に含まれる個別の業務を統括すること(セルフモニタリングを実施し、官に対して要求水準を満たすサービスを提供し続けることや、維持管理・運営業務を適切に再構築・グルーピングすること(BPR)も含む。)を意味しているが、その他、病院全体の経営を支援することや、将来の環境変化等に柔軟に対応すること等も含めて考えられることもある。
・統括マネジメント業務の具体的な内容は、要求水準書に記載されるため、事業契約においては、選定事業者が事業期間中、PFI事業契約、要求水準書、事業者提案等に従い、
自らの責任と費用負担において統括マネジメント業務を実施する義務を負うことが規定される。
3.統括マネジメント業務の第三者への委託等
・統括マネジメント業務を第三者に委託することができるか否かは、事業の性質に応じて判断すべきである。例えば、病院PFI事業において、統括マネジメント業務は、選定事業者自らにおいて実施されることが原則であるが、統括マネジメント業務の中には、医療専門のコンサルティング会社等によってしか実施できない業務も存在するため第三者への委託の必要性が生じる(例えば、病院経営支援業務や医療情報システムコンサルティング業務等)。
・選定事業者以外の第三者が統括マネジメント業務の一部を受託することが予定されている場合は、応募段階において、当該第三者をコンソーシアムの構成企業になることを義務づけ(ただし当該企業に対しては出資を義務づけないことが多い。)、事業契約締結後、当該コンソーシアム構成企業を追加・変更する場合は、管理者等の事前の承諾が必要である旨規定される。
・選定事業者が統括マネジメント業務の一部をコンソーシアム構成企業(又は受託・請負企業)である統括マネジメント協力企業に委託し又は請け負わせる場合、その委託契約などの規定にかかわらず、管理者等との関係では当該統括マネジメント協力企業の責めに帰すべき事由は全て選定事業者の責めに帰すべき事由とみなされる旨規定される。
・さらに、選定事業者が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うものとすることなどが規定される。
4.統括マネジメント責任者等の通知等
・選定事業者は、要求水準書や事業者提案に従い、自らの費用負担により統括マネジメント責任者等を設置する義務を負う旨規定される。また、選定事業者は、設置した統括マネジメント責任者等の名称その他必要な事項を管理者等に通知する義務を負うこと等が規定される。
・前述のとおり、病院事業の場合、選定事業者が維持管理・運営業務を総合的にマネジメントするには、選定事業者の中に病院事業に精通している人間を配置することが必要である。この病院事業に精通している人を統括マネジメント責任者と位置づけ、事業期間中、選定事業者と管理者等との間、選定事業者と受託・請負企業との間で行われるさまざまな交渉・協議について、その者を責任者として円滑に実施することが期待されている。
・統括マネジメント責任者に求める資質・経験等の詳細は、要求水準書に記載される。また、統括マネジメント責任者の下に配置することを求める地位や人材の要件の詳細も要
求水準書に記載される。
・統括マネジメント業務の中心は、前述のとおり、選定事業の範囲に含まれる個別の業務を統括することにあるから、統括マネジメント業務の実施に際し、選定事業者と受託・請負企業との間に生じる利益相反を可能な限り防止し、当該業務の実効性を確保する必要がある。そこで、かかる観点から統括マネジメント責任者の配置等について最低限遵守すべき事項は要求水準書に規定されるが、要求水準書に記載されていない事項であっても、選定事業者において当該利益相反を回避し統括マネジメント業務を実効的なものにするような提案が求められている。
・統括マネジメント業務は必要なノウハウ・専門知識等を有する者によって行われることが重要であるため、統括マネジメント責任者の変更については、一定の制限をかけることが考えられる。例えば、病院事業においては、維持管理・運営業務開始後2年程度かけて、実際の維持管理・運営業務の実施方法や選定事業者と管理者等との連携手法が確立されるため、その間、原則として、統括マネジメント責任者の変更ができないこととされている案件が多い。その後の統括マネジメント責任者の変更については、新たな責任者となる者が要求水準を満たしている者かどうか、管理者等やその職員とのコミュニケーションに問題がないかといったことを管理者等の側でも確認する必要があるため、選定事業者において自由に変更することはできず、管理者等の事前の承諾により変更することができると規定されている。
5.条文例
(統括マネジメント業務)
第 11 条 乙は、事業期間中、本契約、要求水準書及び事業者提案に従って、自ら又はマネジメント業務協力企業をして、統括マネジメント業務を実施し又は実施せしめる。ただし、マネジメント業務協力企業をして、マネジメント業務の全部又は主たる部分を実施せしめてはならない。
(統括マネジメント業務の第三者による実施)
第 12 条 乙は、統括マネジメント業務を実施する統括マネジメント業務協力企業を変更又は追加してはならない。ただし、やむを得ない事情が生じた場合であって、甲の事前の書面による承諾を得た場合はこの限りではない。
2 乙は、統括マネジメント業務協力企業が協力企業等(ただし、統括マネジメント業務協力企業を除く。以下、本項において同じ。)に対し、乙から受託し又は請け負ったマネジメント業務の全部又は一部を委託し又は請け負わせないようにしなければならない。また、乙は、統括マネジメント業務協力企業が協力企業等以外の第三者に乙から受託し又は請け負った統括マネジメント業務の全部又は主たる部分を委託し又は請け負わせないようにしなければならない。
3 統括マネジメント業務実施に関する統括マネジメント業務協力企業その他第三者の使用は、すべて乙の責任において行うものとし、統括マネジメント業務協力企業その他統括マネジメント業務の実施に関して乙又は統括マネジメント業務協力企業が使用する一切の第三者の責めに帰すべき事由は、すべて乙の責めに帰すべき事由とみなして、乙が責任を負う。
5-5 業務別仕様書(契約GL:3-3)
1.概要
・業務要求水準を満たす詳細な業務内容を規定する業務別仕様書について規定される必要のある場合、管理者等は、選定事業者から業務別仕様書の提出があった時点において、業務別仕様書の内容が業務要求水準書等の内容を満たしているかについて確認を行い、これを満たしていない場合、選定事業者に対して修正を求めることができる旨規定される。
2.業務別仕様書の作成・提出
・PFI事業契約締結時までに維持・管理、運営業務の詳細が決定されていない場合や運営の比重が重い選定事業においては、選定事業者が業務別仕様書を作成すべきことが規定される。この業務別仕様書は、管理者等が業務要求水準を確保するために実施するモニタリングの基準として参考となるものである。
・選定事業者は、①入札説明書等、入札参加者提案及びPFI事業契約に従い、管理者等と協議のうえ、施設の維持・管理、運営にかかる各業務につき、業務要求水準を満たす業務の実施を確保するために必要かつ適切な形式及び内容の業務別仕様書を作成し、管理者等に提出すること、②選定事業者の提出した業務別仕様書の全部又はその一部が業務要求水準を満たさないと合理的に判断した場合、管理者等は、選定事業者に対し、当該業務別仕様書の該当箇所を特定し、その旨通知すること、③この場合、選定事業者は、管理者等と協議のうえ、選定事業者の責任及び費用負担において、当該箇所につき業務要求水準を満たすよう修正し、管理者等に対して提出することなどが規定される。
・業務マニュアルの作成・提出手続が規定されることもある。
3.業務別仕様書の変更
・長期に亘るPFI事業契約については、維持・管理、運営企業受託・請負企業の変更や状況変化等により業務別仕様書の見直しが必要となる場合が想定される。このような場合に備え、当事者のいずれか一方が業務要求水準を満たす業務を履行するために必要かつ適切と合理的に判断した場合、随時、協議により業務別仕様書を変更できる旨規定される。
・なお、1-10及び5-4に示す統括マネジメント業務を選定事業者が担う場合、5-
3に規定するとおり、選定事業者は維持・管理、運営企業の変更に一定の裁量が認められる。
4.条文例
(1)統括マネジメント業務を入れる場合の条文例
(業務仕様書等の作成)
第 67 条 乙は、本契約、要求水準書、入札説明書等及び事業者提案に従い、運営業務開始予定日の属する事業年度の前年度の9月末までに、各運営業務につき、要求水準を満たす業務の遂行を確保するために必要かつ適切な甲が合理的に満足する形式及び内容の業務仕様書を作成して甲に提出し、甲の確認を受けなければならない。
2 甲は、前項により提出された業務仕様書が、本契約、要求水準書、入札説明書等又は事業者提案と一致していない場合その他合理的な必要がある場合にのみ、乙に対しその修正を求めることができる。
3 甲及び乙は、業務仕様書の作成にあたって協議することができる。かかる協議を行った場合、乙は、その協議の結果に従って業務仕様書を作成しなければならない。
4 乙は、本契約、要求水準書、入札説明書等、事業者提案及び業務仕様書に従い、運営業務開始予定日の属する事業年度の前年度の9月末までに、各運営業務につき、同項の業務仕様書の内容を具体化し、要求水準を満たす業務の遂行を確保するために必要かつ適切な、甲が合理的に満足する様式及び内容の業務マニュアルを作成し、甲に提出する。
5 甲は、前項により提出された業務マニュアルが、本契約、要求水準書、入札説明書等、 事業者提案又は業務仕様書と一致していない場合その他合理的な必要がある場合にのみ、乙に対しその修正を求めることができる。
別紙 14 業務仕様書及び業務マニュアルの変更手続
1 乙は、業務仕様書又は業務マニュアル(以下、「業務仕様書等」という。)を変更することが必要と判断するときは、要求水準を満たす限りにおいて、自己の裁量と責任により、随時業務仕様書等を変更することができる。
2 乙は、業務仕様書等を変更することが必要であると判断するときは、業務仕様書等変更通知書を作成し、当該業務仕様書等の変更予定日の[1]月前までに(ただし、乙の責めに帰すことができない事由により、かかる期限を遵守することができないときは、できるだけ早期に)甲に送付又は交付する。
3 2の業務仕様書等変更通知書には、次の(1)ないし(9)に掲げる事項を記載し、かつ、当該業務仕様書等の変更に伴い、運営等協力企業との契約内容を変更するとき(運営等協力企業を変更するときを除く。)は、乙と運営等協力企業との間の変更後の契約案、及び
5の許認可を受けたことを証する書面がある場合は、当該書面の写しを添付する。
(1) 対象業務、変更内容、変更予定日及び移行方法
(2) 変更を要する理由
(3) 運営等協力企業等の変更の要否
(4) 業務仕様書等の変更に係る許認可の要否
(5) 業務仕様書等の変更により許認可を要する場合は当該許認可の有無又は取得見込み
(6) 業務仕様書等の変更により本件病院に与える影響
(7) 業務仕様書等の変更によるサービスの対価の変更の希望の有無並びに希望がある場合はその理由及び見積り
(8) モニタリング実施計画書の変更を要するときは変更案
(9) その他甲が定める事項及び特記事項
4 甲は、業務仕様書等変更通知の記載内容について疑義がある場合、当該業務仕様書等変更通知を受領後[10]日以内に乙にその旨を書面により照会することができる。乙は、当該照会を受領した日から[10]日以内に甲に回答書を提出する。
5 乙は、4の回答に必要であると判断する場合、運営等協力企業等をして前項の回答書を補充説明させることができる。
6 4、5に定める手続は複数回行うことができる。
7 乙が業務仕様書等変更通知においてサービスの対価の変更を希望する旨を記載した場合、甲は、業務仕様書等変更通知の受領後 10 日以内に、サービスの対価の変更に関する協議に応じるか否かについて、書面により乙に通知する。
8 7の規定により甲が乙に対しサービスの対価の変更に関する協議に応じる旨を通知した場合、甲と乙は、サービスの対価の変更について協議する。当該協議において合意が成立しない場合、甲がサービスの対価の変更の可否及び変更する場合はその変更されたサービスの対価を決定し、乙に通知する。
9 法令変更、不可抗力又は本件病院の事業規模の変更により業務仕様書等を変更することを要する場合であって、甲がサービスの対価の変更に関する協議に応じない旨を通知したとき又は、前項の規定により甲が通知した変更後のサービスの対価に不服があるときは、乙は、[6]月以上前に甲に対してその旨及び理由を記載した書面により通知することにより、当該業務に関する本契約の一部解約を行うことができる。乙は、解約日までの間、法令に反しない限度で当該業務を遂行することを要し、甲は、乙がかかる業務遂行を行うことを条件として、解約日までのサービスの対価を支払わなければならない。
10 甲は、第 86 条の場合を除き、法令変更、不可抗力、本件病院の事業規模の変更又は技術革新等により、業務仕様書等を変更することが必要と判断するときは、乙に対し、対象業務、変更内容、変更希望日、変更後のサービスの対価を変更する意思の有無及び業務仕様書等の変更を求める理由を記載した書面により、随時業務仕様書等の変更を求めることができる。この場合の手続きは、別紙 13 に定めるところによる。ただし、法令変更及び不可抗力の場合の増加費用の負担については、それぞれ別紙 15 及び別紙 16 に定めるところによる。
(2)統括マネジメントがない場合の条文例
(維持管理年間業務計画書の提出)