本治験データ等利用許諾契約雛形(第2版)の改定作業はARO協議会の知財専門家連絡会を中心とするWGにより実施された。WG構成メンバーは以下のとおり:石埜正穂( 札医大)、礒江敏幸(北大)、高橋亨(東北大)、水落登希子(慶應大)、服部華代(京大)、吉田宏治(九大)、尾前薫、安藤公祐(TRI)
治験データ等利用許諾契約(案)1,2
●●[アカデミア側(大学、国立高度専門医療研究センター等)](以下「甲」という。)と●●[製薬企業等](以下「乙」という。)は、[本被験薬の[●●(対象疾患等)]についての医薬品製造販売承認申請/本治験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験の準備・実施1]を目的(以下「本目的」という。)とする2、両者間の令和●年●月●日付け医師主導治験に係る契約(以下「原契約」という。)における本治験データのうち、本目的のために甲が乙に提供する本治験総括報告書及び本目的のために必要な範囲の本治験データ中の附随的情報(総称して、以下「治験データ等」という。)の利用やその条件に関して、以下の内容の契約(以下「本契約」という。)を締結する3。
第1条(定義)4
本契約において使用されている用語は、本契約において別段の定めがない限り、原契約のとおりとする。
第2条(法令等の遵守)
甲及び乙は、それぞれ、本契約を履行するに当たり、薬事規制法令等、個人情報の保護に関する法令等(法律や命令のほか、通達、政府指針、条例等を含む。以下同じ。)その他の関係する法令等を遵守しなければならない。
第3条(治験データ等の提供、利用の許諾)5
甲は、本契約締結日から●日以内に、乙に対し、治験データ等を提供しなければならない6。
2 甲は、乙が、本目的のために、治験データ等を独占的に利用することを許諾する7。ただし、本項の許諾は、治験対象化合物等に係る特許発明の実施許諾等を含むものではない8。
3 本目的のために必要な場合には、乙は、その子会社(乙の出資比率が50%を超える会社その他の乙が実質的に経営を支配している会社をいう。以下、同じ。)に対し、本目的のために必要と認められる範囲で、治験データ等を提供し、その利用を許諾することができる9。ただし、当該提供、利用許諾に当たって、乙は、甲に対し、当該子会社の名称、住所、連絡先等を通知した上で、当該子会社に対し、本契約に基づいて乙が負担するのと同等の義務を負わせなければならない。
第4条(目的外利用の禁止)
乙は、本目的以外の目的のために、治験データ等を利用してはならない。ただし、事前に書面による甲の同意がある場合には、この限りではない。
乙は、本目的のために必要な場合に限り、治験データ等を複製することができる。ただし、当該複製物は、甲から乙に対して提供された治験データ等と同じものとして取り扱うものとする。
2 乙は、治験データ等を、改変、改ざん又はその他本治験の結果の信頼性を害する若しくはそのおそれのある方法若しくは態様での利用をしてはならない。
3 乙は、治験データ等を利用するに当たり、個人情報の保護に関係する法令等を遵守するものとし、治験データ等に含まれる情報を利用して本治験の被験者個人が特定される識別を試みてはならない。
第6条(第三者への開示、提供の禁止)
乙は、事前に書面による甲の同意を得ることなく、治験データ等を、第三者に対し、開示又は提供してはならない。ただし、第3条第3項の規定に基づいて、乙がその子会社に対して治験データ等の利用を許諾した場合についてはこの限りではない10
2 甲及び乙は、情報等について、行政機関又は司法機関から開示者の秘密情報の開示を要求された場合には、本条第1項の規定にかかわらず、以下の措置を取った上で当該行政機関又は司法機関に対して当該秘密情報を開示することができる。
開示者に対して当該要求があった旨を遅滞なく書面で通知すること
当該秘密情報の内、適法に開示が要求されている部分についてのみ開示すること
開示する当該秘密情報について秘密としての取り扱いが受けられるよう最善をつくすこと
第7条(本目的に係る検討・準備・実施の状況についての報告等)
甲は、乙に対し、[本被験薬の[●●(対象疾患等)]についての医薬品製造販売承認申請/本治験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験]に係る準備・実施の状況について、報告を求めることができる。
2 乙は、甲から前項に基づく報告の求めを受けたときは、当該報告の求めを受けた日から●日以内に11、甲に対し、[本被験薬の[●●(対象疾患等)]についての医薬品製造販売承認申請/本治験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験]に係る準備・実施の状況を報告しなければならない。
3 甲は、乙からの前項に基づく報告を踏まえて、[本被験薬の[●●(対象疾患等)]についての医薬品製造販売承認申請/本治験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験]に係る準備・実施が進捗していない、又はその進捗が著しく遅い場合には、乙に対し、説明を求めることができる。
4 乙は、甲から前項に基づく説明の求めを受けたときは、当該説明の求めを受けた日から●日以内に、甲に対し、[本被験薬の[●●(対象疾患等)]についての医薬品製造販売承認申請/本治験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験]に係る準備・実施が進捗していない、又は、その進捗が著しく遅い理由、事情等を説明しなければならない。
5 前項に基づく乙の説明が著しく不合理又は不十分であるときは、甲は、両者協議の上、本契約を解除することができる。
第8条(治験データ等の消去、廃棄)
乙は、本目的に係る医薬品製造販売承認申請又は次相試験の中止を決定したときは、直ちに、甲に対し、その旨を通知し、治験データ等を消去又は廃棄しなければならない。治験データ等のうち文書、書面については、消去又は廃棄に代えて、甲に対し、返還することもできる。ただし、甲及び乙が書面により別の合意をした場合にはこの限りではない。
2 乙は、前項に基づいて治験データ等を消去又は廃棄した場合には、当該消去又は廃棄後速やかに、甲に対し、書面にて、当該消去又は廃棄が完了した旨並びに治験データ等の利用を中止した旨を通知するとともに、当該消去又は廃棄が完了したことを証明する文書を提出しなければならない。
第9条(利用の許諾の対価)12
乙は、甲に対し13、令和●年●月●日限り、治験データ等の利用の対価として金●●円に加え、消費税及び地方消費税を、下記口座に振り込む方法により支払わなければならない14。なお、振込手数料は乙の負担とする。
記
銀行名:
支店名:
口座番号:
口座種類:
口座名義:
2 乙は、前項所定の期日までに前項所定の対価を支払わなかった場合には、甲に対し、当該支払期限の翌日から支払日までの日数に応じ、その未払額に年3%の割合で計算した金額の遅延損害金を支払わなければならない。
3 甲及び乙は、本条第1項に定める対価には、治験データなどの利用以外の、本治験データ及びそれらに係る知的財産権その他一切の権利等の利用許諾の対価が含まれていないことを確認する。
本契約に基づいて乙が甲に対して支払った金員は、いかなる事由によってもこれを返還しないものとする。但し20条2項記載の場合を除く。
第11条(権利の帰属、権限の不発生)15
本治験データの利用権限(利用許諾をする権利を含む。)及び本治験データそのものに係る知的財産権(不正競争防止法による保護の対象を含む。また、海外の知的財産権を含む。ただし、原契約に基づいて帰属が整理されたもの、及び第三者に帰属するものはこの限りでない。)その他一切の権利は、甲に帰属するものとする。
2 本契約において明示的に認められている治験データ等の利用等を除き、本契約は、乙に対し、本治験データに係る知的財産権その他一切の権利(不正競争防止法による保護の対象を含む。また、海外の知的財産権を含む。)について、利用その他いかなる権限を付与するものではない。
甲は、薬事規制法令等及び本治験実施計画書に従って本治験を実施し、治験データ等を取得し、本治験総括報告書を含む文書を作成したことを、表明し、保証する。
2 甲は、前項に定める事項を除き、本治験データに関して、明示又は黙示を問わず、そのxx性、有効性、第三者が保有する権利侵害の有無、治験データ等を用いることにより製造販売が承認されること、当該製造販売承認がされた製品の商品性、その他一切の事項についての保証をしない。
3 甲は、治験データ等を、医薬品等承認取得者たる乙が関連法令等で保管を義務づけられている期間、自らの責任及び費用負担により、善良な管理者の注意をもって保管する。
第13条(審査への対応)
本申請及び本審査において規制当局からの照会事項があった場合、乙は、甲に通知することにより、当該照会事項に係る対応につき、合理的に必要な範囲内において、甲の助言等の支援を求めることができる。
2.前項の規定にかかわらず、本申請及び本件審査に関連して、乙又は規制当局その他関係する機関による本治験の実施医療機関への訪問、総括報告書等及び関連法令等で保管が定められている本治験に関する原資料等への直接アクセスが必要になった時は、乙は、その旨を甲に速やかに連絡するとともに、甲はこれに協力し、また、本治験の実施医療機関に協力させる。
3.前各号のほか、甲は、本申請及び本件審査において、本目的のために合理的に必要な範囲内において、乙に必要な協力を行うものとする。
第14条(第三者の権利の侵害)
甲は、乙の治験データ等の利用による第三者の知的財産権その他一切の権利の侵害について、その責任を負わない。
2 乙は、治験データ等の利用に関して、第三者との間で紛争が生じた場合は、直ちに、甲に対し、書面により通知するものとし、かつ、自己の責任及び費用負担において、当該紛争を解決しなければならない。
甲及び乙は、以下の各号に定めるものを除き、本秘密情報を秘密として保持し、相手方の書面による事前の同意なしに、第三者に対し、本秘密情報を開示又は漏洩してはならない。
(1)相手方から開示を受けた時点で、既に保有していた情報
(2)相手方から開示を受けた時点で、既に公知となっていた情報
(3)相手方から開示を受けた後に、受領者の責めによらずして公知となった情報
(4)本秘密情報から除外することにつき、事前に書面による相手方の同意を得た情報
(5)正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報
(6)独自に取得した情報
(7)公開することを前提として相手方から開示を受けた文書に記載されていた情報
2 前項の規定にかかわらず、甲は、原契約第4条第2項に基づいて業務の委託をした第三者に対し、当該委託した業務との関係で必要と認められる範囲で、本秘密情報を開示し、提供することができる。ただし、本秘密情報の開示、提供に当たり、甲は、当該第三者との間で、当該第三者に、本契約に基づいて甲が負うのと同等の秘密保持等の義務を負わせるとともに、委託された業務以外での使用を禁止しなければならない。
3 第1項の規定にかかわらず、乙は、本目的のために必要と認められる場合には、その子会社に対し、本目的のために必要と認められる範囲で、本秘密情報を開示し、提供することができる。ただし、本秘密情報の開示、提供に当たり、乙は、当該子会社との間で、当該子会社に、本契約に基づいて乙が負うのと同等の秘密保持等の義務を負わせるとともに、本目的以外の目的で使用することを禁止しなければならない16。
4 第1項の規定にかかわらず、乙は、[本被験薬の[●●(対象疾患等)]についての医薬品製造販売承認申請]等、主務官庁その他の公的機関に対し、本被験薬を製造、販売を行うために必要な承認等を得るために、本秘密情報を必要かつ相当な範囲で開示することができる。
5 第1項の規定にかかわらず、甲及び乙は、法令等により開示が義務付けられているとき又は主務官庁若しくは裁判所その他の公的機関より法令等に基づき開示の請求を受けたときは、本秘密情報を必要かつ相当な範囲で開示することができる。ただし、甲及び乙は、相手方に対し、秘密保護の措置(開示範囲についての協議を含む。)を行う合理的な機会を与えるよう努めるものとする。
第16条(本治験に係る成果の公表等)
甲は、本研究成果を、発表等する場合には、当該発表等の予定日の1ヶ月前までに、相手方の書面による同意を得なければならない17。
2 甲は、本研究成果の発表等を行うときは、第14条に定める本秘密情報の秘密保持義務を遵守しなければならない。
3 甲は、本研究成果の発表等を行うときは、本被験者のプライバシー及び人権の保護のために必要な措置を講じた上で、当該発表等を行うものする。
第17条(本契約の有効期間)
本契約は、締結の日から●年間有効とし、本契約の終了の●ヶ月前までに、甲又は乙のいずれかが相手方に対し異議を述べなかったときは、同一の条件で●年間延長するものとする18。ただし、甲は、乙による[本被験薬の[●●(対象疾患等)]についての医薬品製造販売承認申請/本治験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験]に係る準備・実施が進捗していない、又は、その進捗が著しく遅い場合に限り、当該異議を述べることができる。
第18条(契約の解除)
甲及び乙は、それぞれ、相手方が本契約に違反し又は本契約に基づく債務を履行しない場合には、相当期間を定めて催告し、当該期間内に是正されないときは、本契約を解除することができる。
2 甲及び乙は、以下の各号のいずれかに該当する場合には、何らの催告を要せず、直ちに本契約の解除をすることができる。
(1)相手方が本契約の締結又は履行に関し不正な行為をしたとき。
(2)相手方が本契約の履行に関し、自己の名誉、信用又は評価を毀損したとき。
(3)相手方が本契約の履行に関し、重大な背信行為をしたとき。
(4)相手方が監督官庁から営業停止、営業許可の取消しその他これらに準ずる処分を受けたとき。
(5)相手方が合併によらず解散する旨の決議を行ったとき。
(6)相手方が本目的に係る事業を廃止したとき。
(7)相手方が、事前に書面による同意を得ずして、合併又は本契約の目的に係る事業の全部又は一部の譲渡その他本契約上の地位の移転をもたらす行為をしたとき。
(8)相手方が、自ら振り出し若しくは引き受けた手形若しくは小切手の不渡りが生じ、又は手形交換所の取引停止処分を受け、若しくは当該処分を受けるべき事由が生じたとき。
(9)相手方が、その財産について、仮差押え、仮処分、強制執行若しくは競売その他これらに類する手続の申立てを受け若しくは租税公課に係る滞納処分を受け、又は当該申立て若しくは処分を受けるべき事由が生じたとき。
(10)相手方が、破産法に基づく破産手続開始、会社更生法に基づく更生手続開始、民事再生法に基づく再生手続開始、若しくは会社法に基づく特別清算開始の申立てを受け、若しくは自ら当該申立てを行い、又は当該開始の決定があったとき。
(11)前各号に定めるほか、相手方において本契約を継続し難い重大な事由が発生したとき。
3 本条に定める解除権の行使は、当該解除権を行使した当時者が相手方に対して損害賠償の請求をすることを妨げない。
4 本条に定める解除権を行使した当事者は、本条に基づく解除により相手方に生じた損害について、賠償する責めを負わない。
5 乙は、本契約が解除されたときは、直ちに、治験データ等を消去又はこれを廃棄しなければならない。治験データ等のうち文書、書面については、消去又は廃棄に代えて、甲に対し、返還することもできる。治験データ等の消去又は廃棄の手続については、第8条の定めを準用する。
第19条(反社会勢力の排除)
甲及び乙は、甲においては自己、本責任医師、分担医師及び協力者、並びに乙においては自己及び自己の役員等が、現在、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動等標榜ゴロ又は特殊知能暴力集団等、その他これに準ずる者(以下「反社会的勢力」という。)のいずれでもなく、また、反社会的勢力が経営に実質的に関与している法人等に属する者ではないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
2 甲又は乙は、相手方が以下の各号のいずれかに該当する場合には、通知、催告その他の手続きを行うことなく、直ちに本契約の全部又は一部を解除することができ、当該解除により相手方に損害が生じた場合にも、これを賠償することを要しない。また、相手方は他方当事者に発生した一切の損害を直ちに賠償しなければならない。
(1)前条に違反していると認められるとき。
(2)相手方の経営に反社会的勢力が実質的に関与していると認められるとき。
(3)相手方が反社会的勢力を利用していると認められるとき。
(4)相手方が反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められるとき。
(5)相手方又はその役員若しくは相手方の経営に実質的に関与している者が反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき。
(6)自ら又は第三者を利用して、暴力的な要求行為、不当な要求行為、脅迫的な言動、暴力、風説の流布、偽計及び威力を用いた信用棄損及び業務妨害並びにその他これらに準ずる行為をしたとき。
第20条(存続条項)
本契約が終了(解除による終了を含む。)した場合であっても、本条のほか、第12条(治験データ等に関する表明保証/不保証等)ないし第15条(秘密保持)、第21条(損害賠償)、第22条(不可抗力)及び第25条(準拠法及び裁判管轄)は、当該条項の対象事項がすべて消滅するまでなお有効に存続する。
第21条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約違反により直接かつ通常生ずべき範囲に限り、当該相手方に対し、その賠償をしなければならない。当事者の予見し得ない特別の事情から生じた損害、当該損害の原因となった本契約上の義務違反に他の事情が介在して更に生じた間接的な損害並びに逸失利益、機会損失、営業損失、人件費、再調達費用及び派生的損害については、責任を負わないものとする。
2 前項に基づいて甲が負う責任は、本契約第9条第1項に基づいて乙が甲に対して支払う金額を上限とする。ただし、甲の重大な背信行為による場合はこの限りではない。
第22条(不可抗力)
天災、戦争、内乱、暴動等、当事者の責めに帰すべからざる事情により、本契約の履行が中断又は遅延した場合、当該中断又は遅延をした当事者は、その責任を負わないものとする。
第23条(契約上の地位等の移転等の禁止)
甲及び乙は、事前に書面による相手方の同意を得ることなく、第三者に対し、本契約上の地位又は本契約に基づく権利又は義務を承継(合併等による承継を含む。)し、譲渡(本治験に係る事業の全部又は一部の譲渡を含む。)し、移転し、若しくは担保に供し又はその他の処分をしてはならない。
第24条(誠実協議)
本契約に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲及び乙が、誠実に協議を行った上で、これを解決するものとする。
第25条(準拠法及び裁判管轄)
本契約は、日本国の法律に準拠する。
2 本契約に関する訴えは、●●地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
甲及び乙は、本契約の締結を証するため、本契約書2通を作成し、それぞれ各1通を保管する。
令和●年●月●日
(甲)[アカデミア(大学、国立高度専門医療研究センター等)]
(乙)[製薬企業等]
本治験データ等利用許諾契約雛形(第2版)の改定作業はARO協議会の知財専門家連絡会を中心とするWGにより実施された。WG構成メンバーは以下のとおり:xxxx(札医大)、xxxx(北大)、xxx(東北大)、xxxxx(xxx)、xxxx(京大)、xxxx(九大)、xxx、xxxx(TRI)
1 本雛形案は、「原契約」の存在を前提にしているが、アカデミア単独で(企業の支援なしに)医師主導治験を行って得られた治験データ等を企業に導出(利用許諾)する場合には、「準備・実施」ばかりでなく、その前段階として「利用することの検討」が必要となる。「利用することの検討」に係る期間その他の条件については、別途条項を設けるか、独立した契約において定めることが必要となろう。
2 治験データ等利用許諾契約(案)では、製薬企業等がアカデミア側から治験データ等の利用の許諾を受ける目的(契約の目的)を、特定の疾患のための被験薬の医薬品製造販売承認申請又は治験薬について特定の疾患のための次相試験の準備・実施のためとしているが、これは一例であり、製薬企業等が治験データ等を利用する目的はこれらだけに限定されるものではない。そのため、個別の案件に応じて、契約の目的を適切なものに設定する必要がある(例えば、製薬企業等が、治験データ等利用許諾契約を締結する時点で、医薬品製造販売承認を受けた後に、当該製品の広告宣伝において、治験データ等を利用することを想定していた場合には、当該広告宣伝についても契約の目的としておくことが考えられる。また、製薬企業等が、既に製造販売承認を受けて販売している医療機器に関連して、治験データ等を利用することも考えていた場合には、当該医療機器に関連する使用についても契約の目的としておくことが考えられる。)。一方で、新たな対象疾患(適応の拡大)等について本治験総括報告書を再度利用する場合には、後日改めて別途の契約を締結する必要があろう。
なお、契約の目的については、個別の条項において規定することもできる。
3 参考として、原契約を本契約に添付することも考えられる。
4 医師主導治験に係る契約(案)の脚注1に記載したとおり、治験データ等利用許諾契約(案)は、原契約(医師主導治験に係る契約(案))に基づく医師主導治験により得られた治験データ(本治験データ)の利活用に係る契約であるから、本契約(治験データ等利用許諾契約(案))の用語の定義は、基本的に、原契約(医師主導治験に係る契約(案))の用語の定義と同じであることが望ましいと思われる。そのため、治験データ等利用許諾契約(案)においては、このような規定を設けている。原契約なしでデータ利用許諾をする場合には原契約雛形に沿った定義条項をデータ利用許諾契約に設ける必要がある。
なお、治験データ等利用許諾契約(案)では、第1条において、当該契約において使用する用語(追加分)の定義を行っていないが、治験データ等の利用の許諾に係る契約において新たに定義すべき用語が多い場合には、分かりやすさの観点から、契約書の初めの方などに、個別の用語を定義する規定を設けてもよい。また、製薬企業等に対して利用を許諾するデータや文書を細かく規定する場合には、例えば、「甲は、乙に対し、本目的のために、本治験データのうち、別紙データ、資料一覧記載のデータ及び資料(以下「治験データ等」という。)を利用することを許諾する」などと定めて、別紙で対象となるデータや文書を特定することのほか、定義条項において、提供、利用許諾の対象となるデータや文書そのものを定義することも考えられる。
5 治験データ等利用許諾契約(案)は、特定の疾患のための被験薬の医薬品製造販売承認申請又は治験薬について特定の疾患のための次相試験の検討・準備・実施等(本目的)のために、治験データ等(本治験総括報告書及び本治験データ中の附随的情報)の利用を許諾するものとなっている。
もっとも、治験データ等利用許諾契約(案)の脚注3において述べたとおり、個々の事案の内容に応じて契約の目的は異なるところ、契約の目的によっては、当該目的を達成するために必要な発明等の知的財産が存在し、当該知的財産に係る権利をアカデミア側が保有していることがある。その場合には、治験データ等の利用の許諾についての契約において、当該知的財産の実施等についての許諾をするか、別の契約において、当該知的財産の実施等についての許諾をするかを検討する必要がある。また、当該知的財産の実施等許諾に係る条件(対価等)についても検討する必要がある。この点については、アカデミア側において、アカデミア側が保有している特許xxの知的財産を管理する専門の部署や別法人が設けられ、治験データ等の利用許諾とまとめて処理ができないことがあること等に鑑みて、治験データ等利用許諾契約(案)においては、当該知的財産のライセンスについては対象としていない。
なお、契約の目的のために必要な知的財産に係る権利を第三者が保有している場合も考えられ、その場合には、当該第三者との間で、当該知的財産の実施等許諾を得るなどの対応が必要になる。
6 治験データ等利用許諾契約(案)の脚注2において述べたとおり、治験データ等利用許諾契約の対象は、医師主導治験に係る契約に基づいて作成された治験総括報告書(本治験総括報告書)であるが、当該利用に際して原データ等(本治験データ中の附随的情報)の参照が必要な場合は、その範囲に限って利用を認める趣旨である。原データ等をその他の目的に使用する場合には、付随研究として別途共同研究等の契約を結んでその条件を定める必要があろう。
7 第3条第1項の「提供」とは、対象となる文書、データ等を、保持している者から相手方に対して移すものである。なお、治験データ等利用許諾契約(案)第11条第1項に規定されているとおり、対象となる文書、データ等を相手方に対して提供したからといって、これらに係る権利まで移転することになるものではない。また、第3条第2項の「利用許諾」とは、相手方が、許諾した文書、データ等を利用したとしても、当該利用が許諾した範囲内であれば、当該利用については文句を言わないという権利不行使の宣言である。
8 注2に記載のとおり、本契約ひな形で想定しているのは治験データ(総括報告書を含む)の利用対価に関するものであって、アカデミアが保有する関連特許(化合物特許や新規用途特許など)等の知的財産権については本契約とは別に実施許諾契約等の締結が必要となる。実施許諾契約の内容については別途協議の上決定することになる(第9条第3項も同様)。なお、治験対象化合物に係る知財がアカデミアに存在しない場合この記載は不要
9 本目的を達成するために必要な範囲内において、第三者(例えば、国内製造販売子会社や海外現地法人等。あるいは、共同開発等を行っている他社や、ベンチャー企業が製造販売を他社に委託する場合の当該他社。)にも治験データ等の一部又は全部を開示ないし利用許諾する必要がある場合には、当該開示ないし利用許諾の根拠及びその範囲を規定することが考えられる。そのような規定を設ける場合、当該第三者に対し、製薬企業等が負うのと同等の秘密保持義務等を負わせる旨を規定することになろう。
具体的に、誰に、どの程度の範囲の治験データ等を、開示ないし利用許諾することを許すのか、当該開示ないし利用許諾に当たり、どの程度の義務を負担させることとするのかについては、アカデミア側と製薬企業等との間で協議して定めることになるが、治験データ等利用許諾契約(案)では、本項において、一例として、製薬企業等が、その子会社に限り、治験データ等を提供し、その利用を許諾することができる旨及び当該子会社に対して製薬企業等が負担するのと同等の義務を負わせる旨を規定している。
10 脚注9においても記載したとおり、治験データ等利用許諾契約(案)は、一例として、契約当事者である製薬企業等だけではなく、当該製薬企業等が、その子会社に対し、治験データ等を開示し、利用許諾することができる旨を規定したものとなっている。
もっとも、例えば、治験データ等利用許諾契約(案)の本目的である本被験薬の医薬品製造販売承認申請についての検討をするに当たっては、治験データ等利用許諾契約(案)の契約当事者である製薬企業等だけではなく、国内において当該医薬品の製造販売を担う可能性のある子会社、海外の現地法人、製造販売の委託予定先などの「第三者」にも治験データ等を開示又は提供して、検討する必要があると考えている場合もあろう。このように、契約の目的やその背景事情によっては、治験データ等を、製薬企業等だけではなく、第三者に対して、必要な範囲で提供、開示し、当該第三者が治験データ等を利用することができるようにしたいという要望が製薬企業側にあることも考えられよう。いかなる第三者に対し治験データ等を開示又は提供し、その利用を許諾するかはアカデミア側と製薬企業等との間で個別に交渉し、決定すべき事項であろう。
なお、第三者に対して治験データ等を開示、提供し、これを利用することを許諾する場合には、当該第三者に製薬企業等が治験データ等利用許諾契約(案)において負うのと同等の義務を課すことなどの対応をとることが考えられる。また、必要に応じて、治験データ等の一部に限定するなど、契約当事者である製薬企業等よりも狭い利用範囲に限定することも考えられる。
11 本項及び第4項の期間は、例えば1週間など考えられるが、当事者間で協議の上、定めることになろう。
12 治験データ等の利用許諾の対価については、本治験に係る費用、(実施した場合には)附随研究に係る費用、利用許諾の範囲、事業化のために取ったリスクの程度や事業化への貢献度なども考慮して、アカデミア側と製薬企業等との間で検討する必要がある。利用許諾の対価は、いわゆるインカムアプローチ(将来的に獲得すると予想されるキャッシュフローや利益等の収益性をベースにして、治験データ等の利用許諾の対価を算定する。)、マーケットアプローチ(比較対象たる法人、業界を基準に、利用許諾の対価を算定する。)、コストアプローチ(対象となる情報の価値を基準に算定する。)等やこれらを組み合わせにより算定されたものをベースに、当事者間で協議の上、定めることになろう。なお、具体的な合計金額を定めるのではなく、毎月払いにして、月々の支払金額を定める、事業化後の医薬品の売上に一定の割合を乗じた金額にするなども考えられる。
13 多施設共同治験の場合、治験実施機関間の契約において届出代表者の所属機関(代表機関)が対価を受け取る整理になっていることが多く、治験データ等利用許諾契約(案)の甲はそのような代表機関にそのまま当て嵌めて問題ないものと考えられる。もっとも、治験データ等利用許諾契約(案)第12条第3項(治験データ保管)及び第4項(乙への支援)に係る治験参加施設の労力については、必要に応じて治験実施機関間の契約において適宜配慮する必要があるかもしれない。
14 利用許諾の対価の支払方法については次のようなものが考えられるが、個別の事情により様々な方法があり得るところであり、これらに限定されるものではない。
・一括払い。治験データ等利用許諾契約(案)は、一括払いの規定になっている。
・分割払い。この場合、何回払いにするのか、具体的な支払時期などを定める必要がある。また、製薬企業等が本被験薬の医薬品製造販売承認の申請を断念するなどの事情により、医薬品の事業化を中止又は休止した時点で、未払いの利用許諾の対価が残る可能性があるため、当該未払い分について支払義務があることを明記することが考えられる。
・マイルストーンを設定し、当該マイルストーンを達成するごとに支払う金額を定める方法。例えば、医薬品製造販売承認の申請を行い、対象となる医薬品の製造販売の事業化を念頭に置いている場合には、契約締結時に合計金額の50%、医薬品の製造販売承認を受けた時に合計金額の25%、当該医薬品を現実に販売した時に合計金額の25%というように定め、マイルストーンを達成しなかったときには、達成できなかったものに係る対価の支払義務はなしとするというような定め方などが考えられる。なお、マイルストーンを達成できなかった場合についても、達成できないことが確実となった時点で、未払部分の一部又は全部を支払う旨を定めることも考えられる。
・(イニシャルロイヤリティ+)ランニングロイヤリティ。例えば、医薬品製造販売承認の申請を行うことを前提とする場合には、イニシャルロイヤリティとして、一定の金額を支払うと定めた上で、製造販売承認を受け、現実に当該医薬品を販売して以降(の一定の期間に限定することも考えられる。)については、当該医薬品の売上高に一定の割合を乗じた金額を、ランニングロイヤルティとして支払うと定めることが考えられる。また、既に製造販売承認を受けている医薬品の広告等に治験のデータを利用する場合などであれば、例えば、イニシャルロイヤルティを定めず、ランニングロイヤルティとして、当該医薬品の売上高に一定の割合を支払うと定めることも考えられる。なお、このように、医薬品の売上高を基準にロイヤリティを算出する場合、製薬企業等に対し、一定期間ごとに、どの程度の実施をしたのか(当該医薬品をどの程度販売したのか)の報告を求めるなどの規定を設けることが考えられる。
・ストックオプションの付与
なお、中止をした場合において、製薬企業等がアカデミア側に対して未払いの対価を支払うか否かについては、当該中止の理由等を踏まえた定めを置く必要があろう。
15 治験データ等利用許諾契約(案)においては、本目的のための治験データ等の利用のみを許諾していることもあり、治験データ等の利用許諾契約に基づいて利用の許諾を受けた治験データ等を利用して製薬企業等が実施した研究開発により得られたデータそのものが誰に帰属するか、また、当該研究開発により得られた知的財産や作成された文書に係る知的財産権その他の権利の帰属や利用許諾等についての規定は設けていない。仮に、治験データ等を研究開発に利用することを許諾した場合、例えば、当該研究開発の成果が出た場合に、製薬企業等は、アカデミア側に対し、当該成果の内容を報告する旨を規定するとともに、案件の内容に応じて、詳細な情報を提供する旨を規定するなどの対応が考えられる。また、そもそも、治験データ等について、被験薬の製造販売承認申請とは無関係の研究開発における利用についても許諾するのであれば、その点も、利用許諾の対価の算定において考慮する必要がある。
16 治験データ等利用許諾契約(案)では、製薬企業側が、治験データ等や本秘密情報を開示することができるのは、当該製薬企業等の子会社のみとなっているが、契約の目的によっては、子会社以外の協力会社に対しても、これらを開示する必要がある場合が考えられる。どのような条件で、どのような範囲まで、これらの情報を開示、提供し、利用してよいとするかについては、当事者間で協議の上決定する必要がある。
17 本項の「1ヶ月」は一例にすぎず、具体的な期間については、個別の事情に鑑みて、アカデミア側と製薬企業等との間で協議の上の決めるべきものである。
18 本契約の有効期間については、様々な定め方が考えられるところであり、治験データ等利用許諾契約(案)のように、具体的な期間を定めた上で、異議がなければ自動的に更新するという定め方は、考えられる定め方の一例にすぎず、アカデミア側と製薬企業等との間で協議した上で、決めることになろう。また、治験データ等利用許諾契約(案)のような定め方をした場合、個別の事情を踏まえつつ、具体的な期間を定めることになろう。
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