⑴ これはメインバンクの「委任された監視者(delegated monitor)」の機能と呼ばれる。この機能は堀内(1987)によって指摘された。
企業の財務リスクとメインバンクの役割関係的契約アプローチ
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早稲田商学第 431 号
2 0 1 2 年 3 月
企業の財務リスクとメインバンクの役割
── 関係的契約アプローチ──
x x x x
1.はじめに
企業とメインバンクの間の密接な長期的関係は,戦後の日本の金融システムの大きな特徴とされてきた。高度成長期以来,メインバンクは企業への主要な資金の供給者であっただけでなく,銀行団を代表して企業経営を監視し,他の銀行の企業への融資を容易にしたといわれている⑴。また,企業が経営危機に陥ったときには,「いざという時のメインバンク」という形で,しばしば追加融資,債務・金利の減免などを行い,企業の救済と再組織化において中心的な役割を果たしてきたことが知られている⑵。
ただ,1980年代以降の金融環境の変化の中で,メインバンクのそうした機能は大きく変質したと考えられている。まず,1980年代に進行した金融の自由化・国際化によって,企業の銀行離れが進み,メインバンクの融資面の重要性は低下したと言われる。また,1990年代後半から2000年代にかけての銀行危機と不良債権問題の深刻化は,銀行のリスク負担能力を低下させ,メインバンク
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⑴ これはメインバンクの「委任された監視者(delegated monitor)」の機能と呼ばれる。この機能はxx(1987)によって指摘された。
⑵ Xxxxxx(1989)(1994)等を参照。
の「いざという時」の機能もかつてほどみられなくなったとの説もある⑶。また,近年の企業金融に関する新しい手法(コミットメントライン,シンジケートローンなど)の普及によって,メインバンクを中心とした伝統的な銀行融資はその役割を終えつつあるとも言われている。こうした流れの中で,日本の金融システムも,銀行を中心にした相対型から資本市場を中心とした市場型へと移行しているというのが,近年よく見られた議論であった⑷。
しかし,現実の企業とメインバンクの取引関係は,近年になっても必ずしも弱まっていないようである。xx(2009)は,日本の大企業約500社とメインバンクの関係を,その固定性と様々な取引関係(融資面,持株面,役員派遣面,その他の金融サービス面)の面から調査している。そしてそこでは,1980年代から今日に至っても,企業がメインバンクを変更することがほとんどないこと
(5年間のメインバンクの変更確率は5%以下)が報告されている。またメインバンクの融資比率も1990年代初頭から今日までほとんど変化しておらず,さらに2000年代に入ってからは市場型の金融業務(社債関連業務やコミットメントライン,シンジケートローンなど)においてもメインバンクがかなりのシェアを占めていることが示されている。これらの調査結果からすると,企業は今日もなおメインバンクとの関係を重要視しているように見えるのである。
さてそれでは,今日の金融環境において,企業はメインバンクにいかなる役割を期待しているのであろうか。この点に関して,本稿ではメインバンクのリスクヘッジ機能に注目する。一般に,企業活動においては,将来の資金調達にまつわるリスク,倒産リスクなどの財務面のリスクに直面するのが通常である。そこで,企業はそのリスクをメインバンクとの長期的な関係の中でヘッジしていると考えられる。すなわち,企業が普段からメインバンクを大事にする
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⑶ xx(2009)など。
⑷ ただし,最近の世界金融危機によって,日本においても市場型システムの見直しの必要性が議論されていることは周知の通りである。
代わりに,資金調達が困難になったときに資金を融通してもらう,または倒産の危機に陥った時に救済・支援をしてもらう,といった暗黙の了解があるのではないかと思われるのである。
このうち,倒産リスクのヘッジに関しては,これまでも「いざという時のメインバンク」として学会でも広く認識され,また実証的な考察が行われてきた
(Xxxxxx(1989),xx(1993)など)。一方で,資金調達リスクのヘッジに関しては,これまで実務界ではよく知られていたと思われるが,アカデミックスの立場からは本格的な分析が行われてこなかったと見られる。
そこで本稿では,このメインバンクの二種類のリスクヘッジ機能(資金調達リスクのヘッジと倒産リスクのヘッジ)を,近年の組織の経済学の理論的発展である関係的契約(relational contract)のアプローチを用いて経済モデルで表現し,それを分析することによって現実の理解と予測を行う。分析の結果,
(1)日本のメインバンクは企業の将来の資金調達リスク,倒産リスクに対する暗黙の保険を提供しており,それは企業とメインバンクの長期的な信頼関係によって支えられている,と理解可能なことが示される。ただし,(2)そうした安定的な関係が継続するかどうかは,企業の特性や銀行を取り巻く環境に依存する,ことがわかる。特に,(3)将来の収益性が低い企業には暗黙の保険は提供されにくく,メインバンクの支援・救済は将来性のある企業に選別的に行われている可能性がある,ことが示される。このことは,メインバンクの支援・救済を「追い貸し」「過剰救済」(星 2006,Xxxx and Xxxxxxxxx 2005など)と
見ることが,必ずしも正しくないことを示唆する。そしてさらに,(4)このメ
インバンクのリスクヘッジ機能は,通説⑸とは異なって,これまでの金融の自由化・国際化の流れの中でも弱まるどころかむしろ強化されてきたと考えられ,また今後のグローバル化のいっそうの進展の中でも維持される可能性が高
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⑸ Xxxxx(1988),Aoki(1994),Rajan and Zingales(2003)など。
いことを主張する。
本稿の構成は以下の通りである。まず2節では,メインバンクの2種類のリスクヘッジ機能を説明し,その現実妥当性をアンケートやインタビューの結果から考察する。3節では,関係的契約のアプローチを用いて,メインバンクの資金調達リスクのヘッジ機能を経済モデルで表現する。続いて4節では,メインバンクの倒産リスクのヘッジ機能をモデル化する。これらの2つのモデルを理論的に分析することによって,企業とメインバンクの長期的関係の中で「安定的な資金調達・供給」「いざという時のメインバンク」といった暗黙のリスクヘッジが行われている可能性を示し,そのインプリケーションについて議論する。そして,5節では,本稿の主張とこれまでの既存研究の関連性について述べる。最後に6節では,結論がまとめられる。
2.メインバンクのリスクヘッジ機能
2-1.企業のリスクとメインバンク関係
日本のメインバンク制は,第2次世界大戦後から高度成長期,そして1980年代を通じて,日本の金融システムの大きな特徴だとされてきた。メインバンクは企業との間の長期的な関係を通して様々な役割を果たしたと言われるが,本稿ではその中でも,企業が直面する2種類の財務リスク(資金調達リスクと倒産リスク)をヘッジする機能に注目する。
一般に,企業活動においては,必要な資金を円滑に調達できることが決定的に重要であるが,それは必ずしも保障されているわけではない。例えば,企業
の財務状態が何らかの理由で悪化した場合には,市場での資金調達コストはその分上昇するであろうし,また資金調達自体が不可能になることもある⑹。さ
らには,企業の財務状態に問題がなくても,突発的な金融危機などを通じて金
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⑹ ちなみに,企業の財務面の悪化(負債比率の上昇など)が新たな資金調達を困難にする問題は debt overhung と呼ばれる。
融市場が機能不全に陥った場合にも,資金調達は困難となろう。すなわち,現実の企業は多かれ少なかれ将来の資金調達リスクに直面しているのが通常であり,そのリスクに何らかの方策によって対処する必要がある。
日本企業は,伝統的に,自らのメインバンクと密接な関係を結ぶことによってこのリスクに対処してきたと見られる。すなわち,企業は,通常時にメインバンクに様々な金融取引(預金,決済,外為など)を集中することによって,メインバンクを大事にしていることを示し,その代わりにメインバンクは,企業の財務状態やマーケットの状況に関わらず,企業に安定的に資金を供給してきた。つまり,日本企業はメインバンクとの関係を通じて資金調達リスクをヘッジしていたとみなせるのであり,これは両者の間に資金の調達・供給に関する暗黙の(非公式な)保険契約が結ばれているものとして解釈できる。
また,企業の将来の収益性がプラスであっても,何らかの理由で既存の債務の返済ができなければ倒産という事態となり,企業活動の存続が不可能になってしまう。したがって,企業は普段からこの倒産のリスクに対処しておくことも必要になる。日本企業は,このリスクに関してもメインバンクとの関係を通じてヘッジしてきたと思われる。Xxxxxx(1989)(1994)に具体的事例があげられているように,メインバンクは密接な関係をもつ企業が倒産の危機に瀕した場合には,資金を供給してその資金繰りを改善するとともに,場合によっては既存の債務や金利の減免・免除を行うことが観察されてきた。メインバンクが経営危機企業を支援・救済することは,「いざという時のメインバンク」として知られており,この点に関しても企業・メインバンク間の暗黙の合意になっていたと見られる。
2-2.1980年代以降の金融環境の変化
ただ,こうした企業とメインバンクの暗黙の契約関係は,1980年代以降から今日までの金融環境の変化の中で,それがみられなくなるだろうとの予想が何
度もなされてきた。
まずは,1980年代以降に進展した金融の自由化・国際化の影響である。特に,国内外の競争的な社債発行市場の発展によって,財務状態の良好な企業は社債によって低金利で資金を調達することが可能になった。そのもとでは,企業の財務の悪化時にメインバンクが資金を供給しても(あるいは倒産の危機の際に救済しても),企業はいったんその財務が改善するとメインバンクから融資を受けずに社債市場に逃げてしまう可能性がある。それを考えると,両者のいわば「もちつもたれつ」の関係は成立するのが困難になると考えられる。このことをイギリスの Xxxxx Xxxxx xxは,1980年代後半の論文(Xxxxx 1988)において,次のように指摘している。「(日本の)銀行はリスク分担者としてまさに期待される役割を果たしている。将来の収益を考えて現在の損失を引き受けるのである。(中略)。それが実現するためには,借手の事後的なフレキシビリティが制限されなければならない。もしそうでなければ,将来の銀行のビジネスが現在の損失をカバーするだけの収益を生まないと思われるからである」。
(pp. 1181)。当時,社債市場の発展によって実現した企業の資金調達手段の広がりは,今日においては「金融のグローバル化」という形でよりいっそう進行中である。そこからすると,メインバンク関係を通じたリスクヘッジは今後よりいっそう困難になるとも予想されるのである。
次に,1990年代後半以降の銀行の経営上の環境変化があげられる。1990年代の終わりから2000年代の初めにかけての銀行の不良債権問題は,メインバンクが経営悪化企業を支援する体力を低下させたといわれている。また,1998年3月期決算に導入された銀行の自己査定,翌年の3月期決算から適用された金融検査マニュアルは,問題企業への融資に対して銀行に貸倒引当金の積み立てを
義務付け,メインバンクの財務危機企業への金融支援のコストを上昇させたと考えられる⑺。さらには,ここ10年で株主代表訴訟が盛んになり,銀行が問題
企業を助けた場合には(銀行の)株主による訴訟のリスクを負うことになった。
これらのことから,企業とメインバンクの間にそれまでの長い付き合いがあっても,いざ企業の財務状態が悪化した際に,銀行が企業を「見捨てる」ようになったのではないかと言われている。
最後に,1999年3月の特定融資枠契約法の施行によって,日本でもコミットメントライン(融資枠契約)が法的に認められたことがある。コミットメントラインとは,企業が金融機関に手数料を支払う代わりに,一定の期間内なら必要な時に一定金額までの資金を借り入れることができるという契約を事前に結んでおくものである。すなわち,コミットメントラインは,企業の将来の資金調達リスクをヘッジするための公式の契約と考えられ,それによって企業とメインバンクの間の暗黙の契約は必要がなくなるとの意見が聞かれた。事実, 2000年代に入って,コミットメントラインの残高は急増しており,そのことからすると,メインバンクの「企業の資金調達リスクのヘッジ」の機能は低下したという予測も可能である。
以上のように,1980年代以降今日まで,メインバンク関係を通じたリスクヘッジが見られなくなる可能性が,何度となく議論されてきた。それでは,現実の日本企業とメインバンクの取引関係やその機能はどのように変化したのかについてみてみよう。
2-3.現実のメインバンク関係とその機能:1980年代から今日まで
実は,現実の企業とメインバンクの取引関係を見ると,それは1980年代以降から今日まで必ずしも弱まっているとは言えないことがわかる。xx(2009)は,日本の大企業約500社とそのメインバンクの関係を,その固定性と様々な取引関係(融資面,持株面,役員派遣面,その他の金融サービス面)の面から
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⑺ 例えば,xx(2006)は,「自己査定の導入に伴い借り手企業の財務内容を基準として貸出債権などの健全度合いが判断され,ついでその健全度合いに応じて所要の貸倒引当金積み立てが義務付けられることになった結果,メインバンクを中心とした銀行団による問題企業への資金支援が経済的合理性を喪失するに至ったと考えられる」と述べている。
調査している。そこでは,1980年代から今日まで,企業がメインバンクを変更することがほとんどないこと(5年間のメインバンクの変更確率は5%以下)が報告されている。また1990年代初頭から今日まで,メインバンクの持株比率や役員派遣人数は減少しているが,メインバンクの融資比率はほとんど変化していないことも示されている。さらに2000年代に入ってからは,企業は伝統的な融資以外の市場型の金融業務(社債関連業務やコミットメントローン,シンジケートローンなど)に関してもその取引をメインバンクに集中していることがわかる。これらのことからすると,1990年代・2000年以降から今日もなお,企業とメインバンクの間にかなり密接な取引関係が継続しているように見える。
それでは,企業はメインバンクとの密接な関係を通じて何を期待しているの
であろうか。それを1999年11月に大蔵省財政金融研究所により行われたアンケート調査の結果から推測してみよう⑻。このアンケート調査では,「今後メインバンクからの資金調達はどのようにされますか」という質問に対して,「弱める」「やや弱める」「現行通り」「やや強化する」「強化する」という5つの選択肢を用意し,そこで「現行通り」「やや強化する」「強化する」回答した企業⑼に対してその理由を尋ねている(2つまで回答可)。その理由のうち最も回答が多かったのは,「不測の資金需要に応じてくれるので(70.8%)」であった。この回答からは,企業がメインバンクに安定的な資金供給を期待していることがわかる。次に3番目に多かった回答が「資金調達コストが安いので
(20.5%)」であり,この回答は特に格付けが低い企業(BB 以下)により多く見られた。このことは,財務状態が悪化している企業であってもメインバンクからは(そのリスクと比較すると)低利で資金を調達可能なことを表している。
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⑻ このアンケート調査の分析に関しては,xx(2001)を参照。
⑼ 「現行通り」「やや強化する」「強化する」を回答した企業の割合は,全体の82.3%であった。このことは,1999年の時点で8割以上の企業がメインバンクとの関係を保持あるいは強化しようと考えていることを意味する。
この回答もメインバンクが企業の資金調達リスクをヘッジしていることを意味する。そして理由のうち4番目に多かった回答は,「経営危機の際に救済してくれる(18.6%)」であった。この回答はまさに企業がメインバンクに「いざというとき」の機能を期待していることを示している。
事実,xx(2006),xx(2008)の実証分析は,1990年代後半から2000年代の初めの日本の金融危機の局面において,経営が悪化した企業に対してメインバンク以外の銀行が融資を引き上げる一方,メインバンクは融資を増加させていることを示している。つまり,銀行が不良債権問題によってその体力が低下した時期でも,メインバンクだけは財務状態が悪化した企業(あるいは倒産
の危機に瀕した企業)に対して,当初の期待通りに資金を供給しているのである⑽。さらに,xx(2008)は,負債比率の高い企業(財務状態の悪い企業)
ほどメインバンクからの借入が多くなるという関係が,1980年~2005年まで一貫してみられることを示している。
これらのことから,企業がメインバンクとの関係を通じて資金調達リスク,倒産リスクをヘッジしていることは,1980年代から現在もなお継続しているとみられる。そして,そのことは,xx(1998)(1999)(2001)(2009)の銀行や企業の財務担当者への一連のインタビュー結果でも確認される。ここでは,そのうちいくつかのインタビューの回答を紹介しておこう。
都銀調査部勤務者 A 氏(1997年6月)
「企業は銀行にいざ資金が必要になったときに確実に借りることができるという機能を期待している。社債発行の場合には,発行段階でトリプル A の格付けで低コスト資金が調達できても,その後格付けが悪くなることも十分あり
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⑽ これは,当時「メイン寄せ」といわれた現象である。ただ,xx・xx(2006)は,将来的に収益性の向上が期待できない一部の産業(不動産,建設など)では,メイン寄せが見られず,問題企業の再建は産業再生機構の力によって行われたことを示している。
えるので,社債満期時に支障なく償還できるのかという問題がある。企業は銀行にリスクのない資金調達を保証してくれることを求めている。日本の場合,メインバンク制度がその機能を果たしている。何かあったときにはメインバンクが助けるというもので,メインバンクが気持ちよく対応するかどうかはそれまでの取引実績を考慮して決まる」。
上場大手メーカー財務担当者 B 氏(2000年9月)
「(銀行には)やはり「いざという時」に力になってもらうことを期待している。企業にはいつ経営の母体を揺るがすような事態,企業の存続が危ぶまれるような事態が起こるかわからない。それは最近のそごう,雪印,xx組の例からもわかる。また,そこまでいかなくとも,マーケットでは格付け・業績がある一定水準以下に落ちると調達ができなくなる。さらには1~2年前のように金融システム全体が機能麻痺を起こすようなこともある。こういった緊急の事態で,傘を貸してくれるか,その打開策を提案してくれるかとなると,やはり銀行との日ごろからの密接な付き合いが必要となる」。
上場大手メーカー財務担当者 B 氏(2005年2月)
「銀行には安定的な資金の提供を期待する。社債での資金調達は,企業のその時々の格付け・信用力とそのまま反映するのでリスクがある。したがって,銀行にはそれを補完する役割を求めている。
ここ数年,わが社の財務状況が悪化し,メインバンクとの絆が強まった。自己資本比率が下がりひょっとすると危ないのではないかという状況になったが,そんな中で生き延びるためには,資金が続かないといけない。まさに「いざというとき」だったので,メインバンクに傘を貸してもらうように頼らざるを得なかった。そんなときにメインバンクがちゃんと対応してくれたので,他の銀行も対応してくれた」。
(答え) メガバンク融資企画部勤務者 C 氏(2005年12月)
「危機に陥った企業への金利は,メイン以外の他の銀行はべらぼうに高い金利を課してくることがある(例えば10%以上の金利など)。しかしメインは貸出以外にいろんな取引で収益を得ているので,金利を押さえることもある。その意味で企業にとってメインとの取引は毎年掛け捨ての保険を保有しているのと同じと言えるかもしれない」。
上記のインタビュー結果は,近年もなおメインバンクが企業の資金調達リスク,倒産リスクをヘッジしていることを示唆している。それでは,1990年代後半以降の銀行検査体制の変更,さらには株主代表訴訟制度の普及は,メインバンクのリスクヘッジ機能に何らかの影響を与えなかったのだろうか。それに関しては,下記のインタビュー結果が参考になる。
都銀融資企画部勤務者 D 氏(2000年9月)
「金融検査マニュアルに基づいたより厳しい銀行検査が行われるようになったが,そのことによってメインバンクの「いざという時の救済」の役割が変わったとは思えない。銀行が企業を助ける,助けないの決定には,その時の利益以外の眼に見えない慣習が大きく関わってくる」。
メガバンク融資企画部勤務者 C 氏(2005年12月)
「メインバンクの「いざという時」の役割は,かつてに比べると少し低下せざるを得ない面もある。なぜなら株主代表訴訟のリスクが出てきたからである。銀行としてはそのリスクを避けるために,救済するかどうかを経済合理性で判断せざるを得なくなってきた。なので,これまでなら助けたのに今だと法的整理にもっていかざるを得ないようなケースもあるだろう。
しかしそうだからといって,メインバンクの「いざという時」の役割がなくなるわけではない。メインバンクは長期にわたって情報を蓄積しているので,
その情報を使って判断できるという面がある。また先ほど述べた訴訟リスクに関しても,企業を助けることが広い意味で経済合理性にかなっているということが示せれば問題はない。例えば,その企業を助けないと他の銀行,他の企業の信用もなくなる,また自分が助けないと他の銀行も引くのでその企業の業績がより悪化して損失が大きくなるなどの場合である。こうした点を勘案して助けた方がトータルのメリットが大きいと考える場合には(またそれを数値化して示せる場合には)これまでのように助けることになる」。
これらのインタビュー結果からは,銀行検査体制の厳格化,株主代表訴訟の普及は,確かに影響がないとは言えないものの,それらの元でもメインバンクの「いざという時の」機能は依然として存続していることがわかる。そして興味深いのは,「メインバンクがいざという時に助けるのは,それがメインバンクにとってもメリットがあるから(経済合理性にかなっているから)」というメガバンク勤務者の C 氏の回答である。経営危機企業の救済は,メインバンクにとっては短期的には確かにコストであるが,そのコストを長期的なメリットが上回る場合には当初の期待通り(暗黙の契約通り)に対応するということである。
それでは,コミットメントラインが普及している中で,メインバンクによる企業の資金調達リスクのヘッジ機能はどうなっているのだろうか。それに関しては,2008年10月にあるメガバンクへのインタビューで次のような質問をした。
(質問) 企業の不測の資金需要に対してコミットメントラインが結ばれているとしても,そのフォーマルな契約以外の部分で資金を融通することがありますか。
以下はこの質問への回答である。
(答え) メガバンク融資企画部勤務者 E 氏(2008年10月)
「企業が何らかの理由で資金が不足した時に,銀行あるいはメインバンクが融通するという暗黙の契約は今でもある。特別当座貸越というものがあり,企業ごとにこの範囲までなら貸せるという目安がある。また,コミットメントラインにも契約上はコベナンス(財務制限条項:黒字である,資産が○○以上ある,など)をつけるのが普通であるが,そのコベナンツの条件に抵触する場合にも,銀行が与信上の判断で自らあるいは他の銀行とともにその条件を緩めることがある。どのようなときに緩めるのかは客観的には類型化できないものである」。
この回答は,企業の資金調達リスクのヘッジが,コミットメントラインという公式の契約によってだけではなく,今でもメインバンクとの暗黙の契約を通じても行われていることを示している。
これらのインタビュー結果からすると,メインバンクは今もなお,企業の2つの財務リスク(資金調達リスク,倒産リスク)をヘッジする役割を果たしていると推察される。2-2節であげた金融環境の変化にもかかわらず,なぜメインバンクは,xxx企業の財務リスクをヘッジする役割を果たし続けられるのであろうか。その理由に関しては,3・4節のモデル分析を通じて議論するが,その前に若干の予備的な考察を行ってみよう。
2-4.暗黙のリスクヘッジが存続する理由
保険の理論,応用ミクロ経済学の理論によると,保険によってリスクがヘッジされるとヘッジされた側にモラルハザードの誘因が生まれることが知られている。これは企業の財務面のリスクに関しても同様である。例えば,銀行との契約によって将来の企業の財務状態にかかわらず一定の条件での資金調達が保障されるならば,そうでない場合に比べて企業の経営努力(財務状態を改善し
ようとする努力)が低下する可能性がある。したがって,企業のリスクをヘッジする際には,その契約履行の条件として企業の経営努力を前提にする必要がある。
しかし,企業の経営努力は,企業と銀行という契約の当事者同士にはある程度観察できても,その経営努力の水準を裁判所に立証することは難しい。よって,それを公式のヘッジ契約(コミットメントラインなど)の中に条項として含めることは困難である。こうした現実的状況において企業のモラルハザードを抑止するためには,公式の契約はリスクを部分的にヘッジするものにとどまり,残りのリスクは企業自身に負わせざるを得ない。通常,コミットメントライン契約にはコベナンツ(財務制限条項)がついており,財務状況が悪化した場合(赤字など)にはコミットメントラインを行使できないことが定められているのはそのためであろう。
しかし,企業はそもそも(コベナンツの条件に抵触するような)財務状態の悪化に備えて資金調達リスクをヘッジしたいのであるから,そうしたヘッジのニーズは公式の契約では満たされないことになる。したがって,企業が資金調達リスクに十分に対処するためには,銀行との間の非公式の(暗黙の)契約に頼らざるを得ない。これは,企業の倒産リスクに関しても同様である。
ただ,暗黙の契約の最大の問題点は,それに法的な拘束力がないことである。したがって,事後的に(事態が生じた後に)事前の契約を守らない方が得になる可能性がある。例えば,企業と銀行が「企業の経営努力がなされているなら倒産の危機に陥ったときも銀行が助ける」という暗黙の契約を結んでいるとしよう。その場合,たとえ企業が外部環境の悪化で倒産の危機に陥ったとしても,銀行は暗黙の契約を破って企業を助けない可能性がある。しかし,暗黙の契約は,あくまでも両者間の「暗黙」の合意であるから,こうした銀行の機会主義的行動を裁判所に訴えることはできない。したがって,暗黙の契約が効力をもち,その機能を発揮するためには,両方が自ら契約を守るような(自己拘束的,
self-enforcing)メカニズムがなければならない。
実は,近年の契約理論における関係的契約(relational contract)と呼ばれるアプローチの発展は,こうした暗黙の契約が当事者間の長期的な関係によって守られる可能性を示唆している。今,企業と銀行が,現在のみならず遠い将来にわたっても,暗黙のリスクヘッジ契約を結ぶことを考えよう。この場合には,短期的には契約を破ることが有利な状況でも,そうすることは長期的に見て望ましいこととは限らない。なぜなら,契約を破るとその時点で相手との信頼関係が壊れてしまい,その後二度と同様の契約を結べなくなると考えられるからである。したがって,将来にわたって同じ相手との関係を維持する(暗黙の契約を続ける)ことの価値が,契約を破ることによって得られる一時的利得を上回る限りは,双方とも暗黙の契約を遵守することになる。すなわち,企業と銀行の暗黙のリスクヘッジ契約は,両者の長期的な関係を通じてのみ効力をもつ。そして,前に紹介したインタビュー結果からしても,日本においては,この長期的関係を通じた暗黙の契約が企業とそのメインバンクの間に存在していると考えられる。
また,関係的契約のアプローチを使うと,長期的関係を通じた両者間の暗黙の契約がどのような条件の下で保持され続けるかを分析することが可能になる。そこで,本稿でも,企業と銀行の間の2種類の暗黙のリスクヘッジ契約(資金調達リスクのヘッジと倒産リスクのヘッジ)を関係的契約のアプローチを用いて経済モデルで表現する。そして,それらを分析することによって,メインバンクのリスクヘッジ機能の理解と,その存続可能性に関する理論的予測を行うことにしよう。
3.企業の資金調達リスクとメインバンク
まず本節では,企業とメインバンクの長期的関係を通じた2種類のリスクヘッジ契約のうち,資金調達リスクのヘッジをモデル化して考察する。
3-1.モデルの設定
次のようなリスク中立的な企業と銀行を考えよう。まず,企業が時点1で1単位の投資を行うと,時点2で (1 + x) の収益を得ることができる。ただし,時点1で投資を行うには資金を外部から借り入れる必要がある。時点1で起こりうる状態はgood とbad の2つの可能性がある。時点1がgood であった場合,企業はスポット市場で1単位の資金を借入れることができる。このときの借入金利を r(< x) とする。一方,時点1が bad であった場合,企業はスポット市場では資金を借入れることができない(したがって投資も行えない)。ここで bad の状態とは,企業本体の財務状態の悪化や信用力の低下と考えてもいいし,企業にはその原因のない金融市場の混乱(金融危機等の不測の事態)と考えてもよい。そして,時点0において,時点1が good になる確率を pg,bad になる確率を pb (= 1 − pg) とする。ただし,この確率は,企業が時点1の前に経営努力(財務改善の努力,資金調達の努力など)を行った場合に得られるものとする。企業が経営努力を行わなかった場合には,企業は便益 z を得る一方で,時点1は確率1で bad の状態になるものとする。
この場合,企業が時点1の前に経営努力を行う場合の期待利潤は,
E(ps ) = pg (x − r ) + pb × 0 = pg (x − r )
(1)
となる。一方,企業が経営努力を行わなかった場合には,時点1は必ず badとなるから,企業は資金を借り入れることができずに投資も行えないが,その一方で便益 z を得る。これより企業が時点1の前に経営努力を行うための条件は,
pg (x − r ) ≥ z
(2)
となる。以下の分析ではこの条件が満たされていると仮定する。
銀行は時点1のスポット市場で,常に good の企業を見つけて融資を行える
ものとする。簡単化のため銀行の資金調達コストは0とすると,時点0における銀行の期待利潤は,
E(bs ) = r (3)
である。
3-2.公式の契約(Formal Contract)
以上は,企業と銀行が時点1のスポット市場で取引を行う場合である。それでは次に,企業と銀行が時点0で次のような相対契約を結ぶことを考えよう。まず,時点0で企業から銀行へプレミアム() を支払う。その代わりに,企業は,時点1の前に経営努力を行う限りは,時点1が good になっても bad になっても,銀行から1単位の資金を借り入れることができる。なお,そのときの金利はスポット市場と同じrであるとする。しかし,企業が経営努力を行なわなかったときには,銀行は融資を行わない⑾⑿。
ここで,当面のところ,企業の経営努力ならびに時点1の状態(good または bad)は観察可能でしかも立証可能と仮定する。その場合には上の契約を公式に結ぶことが可能になる。この契約によって企業は(経営努力を行っている限りは)将来の状態に関わらず資金調達が可能となる(そして投資を実行できる)ので,これは資金調達に関する保険契約とみなせる。
ただし,時点1が bad であった場合に,銀行が企業に資金を貸し出すにはコスト m がかかるものとする。コスト m の具体的な例としては,企業の財務
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⑾ 企業が経営努力を行わなかった場合,時点1は確率1でbad となるから,企業は時点1のスポット市場でも資金を借り入れることはできない。
⑿ ちなみに,企業の経営努力に関わらず good,bad のいずれの状態でも銀行から資金を借り入れることができる保険契約を考えてみよう。この契約のもとでは,企業は時点1で必ず資金が借りられるので,時点0において経営努力を行うことはない(モラルハザード)。しかし,こうした契約は銀行にとっては不利となるため,両者の間で結ばれることはない。
状態の悪化に対応したモニタリングコスト,財務改善の助言・指導にかかるコスト,金融市場が混乱した際に資金を調達するのにかかる追加的なコストなどがあげられる。
上の公式の契約を結んだ場合の企業の期待利潤は,
E(p f ) = − + pg (x − r ) + pb (x − r ) = − + x − r
(4)
となる⒀。企業が公式の契約に入るためには,この期待利潤 E(p f ) がスポットマーケットでの期待利潤 E(p s)(1式)を上回る必要がある。その条件は,
≤ pb (x − r )
(5)
となる。
一方,時点0での銀行の期待利潤は次のように書ける。
E(b f ) = + pgr + pb (r − m)
(6)
銀行がこの公式の契約に入るための条件 (E(b f ) ≥ E(bs)) は,
≥ pbm (7)
となる。
ここで(5)(7)式が同時に成立するための条件は x − r ≥ m である。この条件が成り立つとき,企業と銀行が公式の契約を結ぶことによって,互いにその期待利潤を高めることができる。以下では,この条件が成立するものと仮定する。
─────────────────
⒀ (4)式は,企業が公式の契約のもとで経営努力を行った場合の期待利潤である。経営努力を行わない場合には,時点1で資金を借り入れることができないので,企業が得る利益は − + z となる。これより公式の契約のもとで企業が経営努力を行うための条件は,x − r ≥ z となるが,これは前の
(2)式の仮定により満たされている。
3-3.不完備契約(Incomplete Contract)
ここで,時点1の前の企業の努力水準が観察可能ではあるが,立証不可能な場合を考えよう。その場合には,時点1が bad であったとき,それが企業が努力したにもかかわらず起こったのか,あるいは努力不足のために起こったのかを立証することはできない。したがって,この場合には上のような公式の契約を書くことはできない。
そこで,上の契約と同じ内容を両者の間で非公式に暗黙の契約として結ぶことを考えよう。しかし,企業と銀行がこの暗黙の契約を1回だけ結ぶ場合には,その契約は自己拘束的(self-enforcing)にならない。なぜなら,時点1の状態が bad であることがわかったなら,銀行は暗黙の契約通りにこの企業に貸出を行うより,それを破ってスポット市場で他の good の企業に貸出を行う方が有利である (r > r − m)。そのことを企業が事前に予測するとそもそも暗黙の契約に入らないことになる。すなわち,企業と銀行の間の1回きりの契約を考えると暗黙の保険契約は成立しない。
3-4.関係的契約(Relational Contract)
ただし,企業と銀行が1回限りでなく,長期的に繰り返して暗黙の契約を結ぶことを考えると,それが暗黙であるにもかかわらず自己拘束的になる可能性がある。こうした契約は関係的契約(relational contract)と呼ばれる⒁。
そこで,企業と銀行が毎期繰り返して,上の契約の内容(企業が時点0で を支払い,時点1の前に努力する。銀行は時点1が good でも bad でも金利 rで資金を貸し付ける)を暗黙のうちに結ぶことを考えよう。そして,その契約からの逸脱がない限り両者は協力的に契約を履行し,逸脱があった場合には直ちにスポット市場での取引に切り替え,二度と暗黙の契約の関係を再始動しな
─────────────────
⒁ 関係的契約については,Xxxxxx and Xxxxxxxxxxx(2005)の10章を参照。
いものとする(トリガー戦略)。このときに,この暗黙の契約が履行され続ける条件を求めてみよう。ただし,企業,銀行は無限に続くものとし,割引因子は d で共通と仮定する。
まず,この契約のもとで企業の長期的な期待利潤 E(Π) は,
E(Π) = − + x − r +
d
1 − d
(− + x − r )
(8)
となる。第1項~第3項は今期の期待利潤,第4項は来期以降の期待利潤の割引現在価値の合計である。企業がこの契約に入るためには,E(Π) がスポット取引のもとでの長期的期待利益を上回る必要がある。その条件は,
1 (− + x − r ) ≥ 1 [p (x − r )]
(9)
1 − d 1 − d g
であり,これは前の(5)式と同じである。
そして,企業が,暗黙の契約の通り,時点1の前に努力を行うためには, E (Π) が努力を行わない場合の長期的な期待利潤を上回らなければならない。
− + x − r +
d
1 − d
(− + x − r ) ≥ − + z +
d
1 − d
[pg (x − r )]
(10)
この式の右辺は努力を行わない場合の長期的な期待利潤である。そこでは,今期に z を得る(第2項)一方で,銀行との暗黙の契約から逸脱することになるため今期の借入が不可能となり,さらに来期以降はスポット市場での取引となる(第3項)ことが示されている。この式を書き換えると,
x − r − z +
となる。
d
1 − d
[pb (x − r ) − ] ≥ 0
(11)
一方,銀行がこの契約に入った場合の長期的な期待利潤 E(B) は
E(B) = 1 ( + p r + p (r − m))
(12)
1 − d g b
となる。銀行が契約に入るためには,この値がスポット市場のもとでの長期的な期待利潤を上回る必要がある。すなわち,
1 ( + p r + p (r − m)) ≥ 1 r
(13)
1 − d g b 1 − d
となり,これは前の(7)式と同じになる。
それに加えて,この暗黙の契約が実効性をもつためには,銀行の自己拘束性の条件として,時点1の状態が bad であったときに暗黙の契約の通り企業に貸出を行うことが有利になるという条件がプラスされなければならない。
r − m +
d
1 − d
( + pgr + pb (r − m)) ≥ r +
d r
1 − d
(14)
この式の左辺は bad のときに約束通りこの企業に貸出を行ったときの長期的な期待利益,右辺は約束を破ってこの企業に貸出を行わずスポット市場で貸出を行った場合(暗黙の契約から逸脱した場合)の長期的な期待利益である。この(14)式を整理すると,
≥ pm + 1 − d m
(15)
b d
となる。ここで注意することは,この(15)式を満たす は(7)式を満たす よりも大きいということである。このことは,銀行に暗黙の契約を守らせるためには,公式の契約の場合に比べて,企業から銀行へより高いプレミアムが支払われる必要があることを示している。
企業・銀行の双方が暗黙の契約に入ってそれが実効的になるためには,(9)
(13)式の参加制約条件ならびに(11)(15)式の自己拘束性の条件が成立する必要がある。ただ,(2)式の成立が仮定されているので,(9)式(5式と同じ)が成立する時には(11)式は必ず成立する。さらに(15)式が成立する時には(13)式
(7式と同じ)は必ず成立することを考え合わせると,(9)(15)式が同時に成立するならば,企業・銀行間の暗黙の契約は双方の利益となり履行され続けるこ
とになる。その条件を求めると,
d ≥ m pb (x − r ) + pgm
(16)
すなわち,企業,銀行の割引因子 (d) が十分に大きければ,企業・銀行間の関係的な保険契約が(長期的な関係を通じた暗黙のリスクヘッジ)が可能になる。言い換えると,企業と銀行の間の暗黙の保険契約は,長期的視野をもった両者の取引関係を通じてはじめて自己拘束的になるのである。このことは,前節のインタビュー結果で得られた仮説「日本の企業はメインバンクという特定の銀行との長期的な関係を通じて資金調達リスクをヘッジしている」を支持するものである。
xx(2009)の調査結果によると,2000年代においても,企業は伝統的な融資以外の各種の金融取引(社債関連業務,コミットメントローン,シンジケートローンなど)をメインバンクならびにその証券子会社に集中している。このことは,本モデルにおける企業から銀行への保険プレミアムの支払い () と解釈できる。何かあったときにメインバンクが企業を助けるかどうかは,普段の取引を通じてメインバンクに実質的なプレミアムが支払われているかどうか,そして企業が経営努力をしているかどうかによって決まってくると考えられる。事実,前節のインタビュー結果では,メインバンクが企業の財務状態が悪化したときにも資金を供給するのは,貸出以外の取引で企業から収益を得ているからだとの意見があった。
さて(16)式を等号で満たす d を d とすると,d が小さいほど(16)式がより広い範囲の割引率で満たされることになるから,両者間の暗黙の契約は成立しやすくなる。そこで,d を比較xxすると,
∂d / ∂r > 0,
∂d / ∂x < 0,
∂d / ∂pb < 0,
∂d / ∂m > 0.
が得られる。
ここで特に興味深い結果は ∂d / ∂r > 0 である。この結果は,金融の自由化・国際化が進展するにつれて,メインバンクのリスクヘッジの役割が弱まるどころかむしろ強まる可能性を示唆している。金融の自由化・国際化をスポット市場の競争度の上昇と解釈すれば,それによってスポット市場の金利 (r) は低下するであろう。しかし,上の比較xxの結果は,金利r が低くなるほど d も小さい,すなわち企業・銀行間の暗黙のリスクヘッジ契約が成立する可能性が高まることを示している。これは,2節で紹介した Xxxxx(1988)等の一般的な議論の予想(金融の自由化・国際化の進展は企業とメインバンクの暗黙の保険契約を阻害する)とは逆の結論である。
金融の自由化・国際化が進展し,企業にスポット市場での低い金利の資金調達の機会が開かれると,銀行の側も暗黙の契約の貸出金利を引き下げざるを得ない。このことは本稿のモデルでは,銀行の貸出金利がスポット市場での金利と同じ r であることで表現される。そうなると,銀行がコスト (m) を負担して bad の企業に資金を供給しても,将来その企業への貸出から得られる金利収入は小さい。この点だけを見ると,確かに Xxxxx(1988)が主張するように,銀行が bad の企業を助けるインセンティブは低下する。しかしここで注意すべきことは,スポット市場での金利が低いときには,銀行が bad の企業を助けなかった場合の将来の収益,すなわち資金をスポット市場で運用する場合の金利もまた低いことである。この両面を考えると,スポット市場の金利の低下は,銀行が暗黙の契約を履行するかどうかの意思決定には影響を与えなくなる。このことは,銀行の自己拘束性条件の(14)式の両辺の r がキャンセルアウトされること,または(15)式に r が含まれないことに示されている。
その一方で,企業の側からみると金利 r の低下は資本コストの低下を意味するから,プロジェクトを実行することのメリット (x − r) は大きくなる。したがって,銀行との暗黙の契約を通じて,bad の時の資金調達を保障してもらうことがより有利になる。このことは,r が低くなると(9)式の企業の参加制約
条件が緩和することからも理解できる。
すなわち,スポット市場の金利の低下は,銀行が暗黙の契約を履行するインセンティブには中立的である一方,企業が暗黙の契約から受けるメリットを上昇させる。したがって,それは企業・銀行間の暗黙のリスクヘッジ契約を促進すると考えられるのである。このことは,前節のインタビュー結果と整合的である。そこでは,1980年代以降の金融の自由化・国際化の進展によっても,企業とメインバンクの間の暗黙のリスクヘッジの関係は弱まっておらず,今もなお依然として存続している可能性が示唆された。
次に,∂d / ∂x < 0 は,企業のプロジェクトの収益性が高いほど,企業・銀行間に暗黙の契約が成立しやすいことを示している。これは存続価値の大きな企
業がメインバンクとの関係を重要視することを意味する。また ∂d / ∂pb < 0 は,企業の将来の財務状態が悪くなる可能性(時点1が bad になる可能性)が高
いほど,また金融不安等で資本市場が機能不全になる確率が高いほど,企業とメインバンクの間の暗黙のリスクヘッジ契約がより見られやすくなることを表している。
そして最後に ∂d / ∂m > 0 は,銀行がbad の企業に融資を行う際のコスト(企業へのモニタリングコスト,アドバイスのコストなど)が小さいほど暗黙のリスクヘッジ契約が成立しやすいことを示している。このことは,銀行の中でも特にメインバンクが,企業への暗黙の保険の提供者としてふさわしいことを示唆する。現実に企業が融資以外の金融業務(預金,各種の市場性業務など)をメインバンクに集中していることは,それ自体がメインバンクへのプレミアムの支払いという側面がある一方,それらの業務を通じて企業の情報がメインバンクに蓄積していることを意味する。よって,メインバンクの場合にはコスト m が他の銀行に比べて低く,そのことはメインと企業との間の暗黙の契約の成立の可能性を高めていると考えられる。そして,両者間に暗黙の契約が結ばれると,それはまた(時点1が bad であったときの)次のモニタリング(ア
ドバイス)につながり,メインバンクにさらに企業の情報が蓄積していくであろう。すなわち,メインバンクの情報コスト面の優位性は,両者間の暗黙の保険契約が繰り返されるにつれて,よりいっそう高まっていく可能性がある。このメインバンクの情報面の優位性は,1980年代以降今日まで,日本の金融市場で様々な環境変化があったにもかかわらず,メインバンクが企業の資金調達リスクのヘッジにおいて重要な役割を果たし続けていることの一因となっていると考えられる。
4.企業の倒産リスクとメインバンク
以上3節では,企業とメインバンクの長期的関係を通じた資金調達リスクのヘッジの可能性について考察してきた。メインバンク関係を通じたもう1つのリスクヘッジ機能は,企業の倒産リスクのヘッジである。Sheard(1989)(1994)に示されているように,メインバンクは倒産の危機に陥った企業を,しばしば追加融資や金利・債務の減免によって救済することが知られている。そこで以下のモデルでは,企業に倒産の可能性がある状況を考え,企業がそのリスクをメインバンクとの長期的な関係を通じてヘッジする可能性について考察する。
4-1.モデルの設定
リスク中立的な企業と銀行を考える。企業が時点0で1単位の投資を行うと,時点1において,確率 p1では(1 + x1) の高収益を得られるが,確率 p2 (= 1 − p1)で は (1 + x2) の低収益しか得られないとする。ここで x1 > x2 であり x2 は負の値もとりうると仮定する。ただし,上記の確率が得られるのは,企業が時点1の前に経営努力を行った場合であり,経営努力を行わなかった場合には,企業は便益 y を得る一方で時点1の収益は確率1で低収益 (1 + x2) になるものとする。そして,企業が時点0で投資を行うには,その資金を外部から借り入れる必要があるとする。
まず最初に,企業がスポット市場で資金を借入れる場合を考えてみよう。スポット市場での借入金利を r とし,1 + x1 > 1 + r > 1 + x2 を仮定する。よって,企業が時点1に高収益 (1 + x1) を得られるときには,元利合計 (1 + r) を返済することができ,残りの x1 − r が企業の利潤になる。さらにこの場合,企業は次の期に進むことができる。しかし,企業の時点1が低収益 (1 + x2) になったときには,投資の収益だけでは元利合計 (1 + r) を返済できない。よって,企業は倒産の手続を行い,既存の資産を清算してその清算価値 L の中から元利の返済の不足分 (r − x2) を支払うものとする(ただし L > (r − x2) を仮定する)。この場合,企業は返済後の残余 (L − (r − x2) = x2 − r + L) を受け取った後に解散し,次の期に進むことはできない。なお,企業は倒産しない限りは無限に操業するものとし,また銀行も無限に操業するものと仮定する。そして,企業と銀行の共通の割引因子を d で表す。
企業がこのスポット市場で借入を行う場合,企業が時点1の前に経営努力を
行うときの長期的期待利潤は,
E(Πs ) = p1 (x1 − r ) + p2 (x2 − r + L) + dp1 [p1 (x1 − r ) + p2 (x2 − r + L)](17) 1 − dp1
となる。この式の第一項,第二項は今期の利潤の期待値,第3項は次期以降の利潤の期待値の割引現在価値である⒂。一方,企業が経営努力を行わなかった場合には便益y を得ることができるが,時点1は確率1で低収益(1 + x2) となり,元利合計(1 + r) を返済できない。したがって,企業は倒産して (x2 − r + L) を受け取った後に解散する。このときの利潤は,
y + x2 − r + L (18)
となる。これより企業が時点1の前に経営努力を行うための条件は,
─────────────────
⒂ スポット市場で借入を行う場合は,時点1が高収益の場合のみ次期に進めることに注意されたい。
p (x − x ) + p ⎡ d {p (x
− r ) + p (x − r + L)} − L⎤ ≥ y
(19)
1 1 2 1 ⎢1 − dp1 1 1 2 2 ⎥
⎣ ⎦
となる。以下の分析ではこの(19)式の成立を仮定する⒃。
一方,銀行は,スポット市場で貸出を行った場合には,企業の時点1が低収益であった場合でも企業の資産の清算によって元利合計の返済を手にできるので,企業の時点1の収益の高低にかかわらず,常に (1 + r) を受け取ることができる。簡単化のため,銀行の資金調達コストは0とすると,時点0における銀行の期待利潤は,
E(bs ) = r (20)
である。
4-2.公式の契約(Formal Contract)
以上は,企業と銀行がスポット市場で貸借取引を行う場合である。それでは次に,企業と銀行が次のような公式の契約を結ぶことを考えよう。まず,企業は時点0で銀行から資金を金利 rB で借り入れ,その際に銀行にプレミアム (b)を支払う。そのプレミアムの対価として,銀行は企業の時点1が低収益(1 + x2)になったときには,企業の元利の返済額を (1 + rB) から (1 + x2) に減免する。この契約の元では,企業が低収益に陥ったとしても倒産には陥らず,今期の利潤がゼロになるだけで,次期の操業が可能になる。
そしてここでは,銀行からの借入金利には,スポット市場での借入金利との間に裁定が働いており,金利支払いの期待値がスポット市場の金利 r に等しいと考えよう。すなわち,
─────────────────
⒃ ちなみに,(19)式の左辺は企業が経営努力を行うことのメリット(今期の期待利益の上昇と来期以降の純期待操業価値の和),右辺は経営努力を行わないことで得られる便益である。
p1rB + p2 x2 = r (21)
したがって,
r = r − p2 x2 = r + p2 (r − x )
(22)
B p1
となる⒄。
p1 2
ただし,企業が低収益の場合の銀行の元利の減免は,企業が時点1の前に経営努力を行っていたという条件付きであるとする。経営努力を行なわなかったときには,銀行は元利の返済額 (1 + rB) を減免せず,スポット市場と同じく倒産の手続を通じて元利の不足分を回収するものとする。
当面のところ,企業の経営努力ならびに時点1の収益は観察可能でしかも立証可能と仮定する。その場合,上の契約を公式に結ぶことが可能になる。この契約によって企業は(経営努力を行っている限りは)将来の収益の実現値に関わらず倒産を避けることができるから,これは倒産リスクに関する保険契約とみなせる。
ただし,銀行が企業の元利の返済額を減免するにはコスト C がかかるもの
とする。コスト C の具体的な例としては,企業との再交渉のコスト,金利・債務の減免の規制に関連したコスト⒅,株主代表訴訟に対処するコストなどがあげられる。
今期に上の公式の契約を結んだ場合,時点1の前に経営努力を行う企業の長期的期待利潤は,
─────────────────
⒄ ここで,銀行からの借入金利 rB をスポット市場の金利 r と同じであるとしても,以下の分析の定性的な結論は変わらない。
⒅ その一例として,1990年代後半から2000年代前半にかけての日本の金融検査体制の強化によって,金利を減免した債権にはさらなる貸倒引当金積み立てが義務付けられたが,これは銀行にとってのコスト負担と考えることもできる。
E(Π f ) = −b + p1 (x1 − r ) + d [p (x
− r ) + p (x
− r + L)]
(23)
となる⒆。
B 1 − dp1
1 1 2 2
企業がこの公式の契約に入るためには,この期待利潤E(Π f ) がスポットマーケットでの期待利潤 E(Πs)(17式)を上回る必要がある (E(Π f ) ≥ E(Πs))。その条件を書き換えると,
b ≤ p ⎡ d {p (x
− r ) + p (x
− r + L)} − L⎤
(24)
2 ⎢1 − dp1
1 1 2 2 ⎥
⎣ ⎦
となる。
一方,銀行が公式の契約に入ったときの今期の期待利潤 E(b f ) は次のように書ける。
E(b f ) = b + p1rB + p2 (x2 − C)
(25)
銀行がこの公式の契約に入るための条件 (E(b f ) ≥ E(bs)) は,
b ≥ p2C (26)
となる。
そして(24)(26)式が同時に成立するための条件は
d ≥ L + C p1 x1 + p2 x2 − r + L + p1C
─────────────────
⒆ (23)式は,企業が経営努力を行った場合の長期的期待利潤である。企業が経営努力を行わない場合には便益を得られるが,確率1で低収益となり,また銀行も元利返済額の減免を行わないので企業は倒産する。そのときに企業が得る利益は −b + x2 − r + L + y となる。これより企業が経営努力を行うための条件は,
p (x − x ) + ⎡ d {p (x − r ) + p (x − r + L)} − L⎤ ≥ y
1 1 2
⎢ 1 − dp
1 1 2 2 ⎥
⎣⎢ 1 ⎥⎦
となる。この式は,左辺が(19)式の左辺より大きいので,(19)式が成り立つという仮定のもとでは自動的に成立する。よって,企業はこの契約の下では,常に経営努力を行うと考えてよい。
となる。この条件が成り立つとき,企業と銀行が公式の契約を結ぶことによって,互いにその期待利潤を高めることができる。以下では,この条件が成立するものと仮定する。
4-3.不完備契約(Incomplete Contract)
ここで,時点1の前の企業の努力水準が観察可能ではあるが,立証不可能な場合を考えよう。その場合には,時点1が低収益であったとき,それが企業が努力したにもかかわらず起こったのか,あるいは努力不足のために起こったのかを立証することはできない。したがって,この場合には上のような公式の契約を書くことはできない。
そこで,上の契約と同じ内容を両者の間で非公式に暗黙の契約として結ぶことを考えよう。しかし,企業と銀行がこの暗黙の契約を1回だけ結ぶ場合には,その契約は自己拘束的(self-enforcing)にならない。なぜなら,企業の時点1が低収益であることがわかったなら,銀行は暗黙の契約通りに企業を救済する
(コスト C を支払って元利の返済額を (1 + x2) にを減免する)より,企業を倒産させて元利合計 (1 + rB) を受け取る方が有利である (1 + rB > 1 + x2 − C)。そのことを企業が事前に予測するとそもそも暗黙の契約に入らないことになる。すなわち,企業と銀行の間の1回限りの取引を考えると企業の倒産リスクに関する暗黙の保険契約は成立しない。
4-4.関係的契約(Relational Contract)
そこで,企業と銀行が毎期繰り返して,上の契約の内容(企業が時点0で bを支払い,時点1の前に努力する。銀行は時点1に企業が低収益であった場合には,コスト C を支払って企業の元利の返済額を (1 + x2) に減免する)を暗黙のうちに結ぶことを考えよう。そして,その契約からの逸脱がない限り両者は協力的に契約を履行し,逸脱があった場合には直ちにスポット市場での取引に
切り替え,二度と暗黙の契約の関係を再始動しないものとする(トリガー戦略)。このときに,この暗黙の契約が履行され続ける条件を求めてみよう。
まず,この契約のもとでの企業の長期的な期待利潤 E(Π) は,
E(Π) = −b + p1 (x1 − r ) + d
(−b + p (x − r ))
(27)
B 1 − d
1 1 B
となる。ここでは,企業は時点1が低収益であっても銀行の元利の減免によって倒産を免れることができ,次期以降に進めることに注意されたい。そして,企業がこの契約に入るためには,E(Π) がスポット取引のもとでの長期的期待利益 E(Πs)(17式)を上回る必要がある。すなわち,
−b + p1 (x1 − r ) + d
[−b + p (x − r )]
B 1 − d
1 1 B
(28)
≥ p1 (x1 − r ) + p2 (x2 − r + L) + dp1 [p1 (x1 − r ) + p2 (x2 − r + L)] 1 − dp1
この条件を整理すると,次のようになる。
b ≤ p ⎡ d {p (x
− r ) + p (x
− r + L)} − L⎤
(29)
2 ⎢1 − dp1
1 1 2 2 ⎥
⎣ ⎦
そして,企業が,暗黙の契約の通り,時点1の前に努力を行うためには, E (Π) が努力を行わない場合の期待利潤を上回らなければならない。
p1 (x1 − r ) + d
(−b + p (x − r )) ≥ y + x
− r + L
(30)
B 1 − d
1 1 B 2
右辺が努力を行わない場合の期待利潤である。努力を行わないと企業は便益 yを得る一方で時点1は必ず低収益となるが,銀行は元利の減免を行わないので企業は倒産する。
一方,銀行がこの契約に入るためには,そのもとでの長期的な期待利潤がスポット市場での長期的利潤を上回る必要がある。すなわち,
1 (b + p1r + p (x
− C)) ≥ 1 r
(31)
1 − d
B 2 2
1 − d
となり,これは前の(26)式と同じになる。
それに加えて,この暗黙の契約が実効性をもつためには,銀行の自己拘束性の条件として,企業が時点1で低収益であったときに,銀行が暗黙の契約の通りに元利返済額の減免を行うことが有利になるという条件がプラスされなければならない。
2
x − C + d
1 − d
(b + p1rB
+ p (x − C)) ≥ r + d r
2 2
1 − d
(32)
この式の左辺は企業が低収益のときに銀行が約束通りに企業を救済したときの長期的な期待利益,右辺は銀行が約束を破ってこの企業を救済せずに倒産させたとき(したがって次期からはスポット市場で他の企業に貸し出すことになる)の長期的な期待利益である。この(32)式を整理すると,
d
b ≥ p2C + 1 − d (r − x2 + C)
(33)
となる。ここで,(33)式を満たす b は(26)式を満たす b よりも大きいことに注意されたい。このことは,銀行に暗黙の契約を守らせるためには,公式の契約の場合に比べて,企業から銀行へより高いプレミアムが支払われる必要があることを示している。
企業・銀行の双方が暗黙の契約に入ってそれが実効的になるためには,(29)
(31)式の参加制約条件ならびに(30)(33)式の自己拘束性の条件が成立する必要がある。ただ,(19)式の成立が仮定されているので,(29)式(28)式が成立する時には(30)式は必ず成立する⒇。さらに(33)式が成立する時には(31)式(26式と同じ)は必ず成立することを考え合わせると,(29)(33)式が同時に成立するならば,企業・銀行間の暗黙の契約は双方の利益となり履行され続けることになる。この両式が同時に成立するための条件は,
p ⎡ d {p (x
− r ) + p (x
− r + L)} − L⎤
2 ⎢1 − dp1
1 1 2 2 ⎥
⎣ ⎦
d
≥ p2C + 1 − d (r − x2 + C)
(34)
すなわち,
d (p1 x1 + p2 x2 − r + p2 L) − L ≥ C + 1 − d (r − x2 + C)
(35)
1 − dp1 dp2
となる。したがって,企業,銀行の割引因子 (d) が十分に大きければ,企業の倒産リスクを両者間の長期的関係を通じて暗黙のうちにヘッジすることが可能になる。
この関係的契約は,日本の企業とそのメインバンクの間に見られると考えられる。「いざという時のメインバンク」という言葉に表されているように,メインバンクは企業が倒産の危機に陥ったときに,追加融資や金利・元本の減免などの手段を通じて企業を救済することが知られている。上記のモデルでは,もっぱら金利・元本の減免を考えたが,追加融資もメインバンクがコストを負担して企業の倒産を回避させるという意味では同様である。また,重要なことは,上記の関係的契約のもとでメインバンクが企業を救済するのは,自らの長期的利益の最大化行動であるということである。企業の救済は確かに一時的なコスト負担を伴うものの,それを実行することによって今後も企業との暗黙の
─────────────────
⒇ (19)式のもともとの式は,
p1 (x1 − r ) + p2 (x2 − r + L) + dp1 (p1 (x1 − r ) + p2 (x2 − r + L)) ≥ y + x2 − r + L
1 − dp1
である。この式と(28)式から,
−b + p1 (x1 − r ) + d [−b + p (x − r )] ≥ y + x − r + L
B 1 − d
1 1 B 2
が成り立つ。(30)式の右辺はこの式の右辺と同じである一方,(30)式の左辺はこの式の左辺より大きいから,(19)式,(28)式が成り立つときには(30)式も自動的に成り立つ。
保険契約を結び続けることが可能になる。その将来の保険契約から得られるプレミアム収入の見込みがあるからこそ,メインバンクは明示的契約がなくとも経営危機の企業を助けるのである。このことは,上記のモデルにおいては,銀行の自己拘束性の条件の(32)式(あるいは33式)に示されている。
また,こうした暗黙の保険契約が成立するためには,あらかじめ企業からメインバンクにそのプレミアム(モデルの b)が支払われていることが必要であることはいうまでもない。現実のメインバンク関係では,この支払いは,前節の資金調達リスクの保険においてと同様に,企業がメインバンクに各種の金融取引を集中させることで行われていると見られる。よって,企業のメインバンクへの金融取引の集中は,資金調達リスクへの保険プレミアムと倒産リスクへの保険プレミアムの両方を含んでいると考えることができる。このことからすると,企業が今もなおメインバンクを大事にしていることは十分に納得できる。
さて(35)式を等号で満たす d を d とすると,d が小さいほど(35)式がより広い範囲の割引率で満たされることになるから,両者間の暗黙の契約は成立しやすくなる。そこで,d を比較静学すると,
∂d / ∂r > 0,∂d / ∂x1 < 0,∂d / ∂x2 < 0,∂d / ∂p2 ?,∂d / ∂C > 0,∂d / ∂L > 0.
が得られる。
∂d / ∂r > 0 は,金利水準が低下するにつれて,企業・銀行間の暗黙のリスクヘッジ契約が成立する可能性が高まることを示している。このことは,前節の資金調達リスクのヘッジと同様に,金融の自由化・国際化の進展が,メインバンクの倒産リスクのヘッジ機能を弱めるのでなく,むしろ強化することを示唆している。Mayer(1988)等の通説では,金融の自由化・国際化が進展して,スポット市場の金利が低下すると,銀行の企業への貸出金利も低下するため,メインバンクが損失を負担して企業を助けるメリット(将来の収益=金利収
入)が小さくなるとされる。しかし実は,スポット市場の金利低下は,メインバンクが企業を助けなかった場合の将来の収益,つまり将来にスポット市場で他の企業へ貸出を行う場合の金利収入も低下させるのである。この両面を考えると,スポット市場の金利低下によって,メインバンクの企業救済のインセンティブが低下することはない。それに対して,企業の側からみると,スポット市場の金利の低下そしてそれに伴うメインバンクからの借入金利の低下は,資本コストを低下させて企業が次期以降に存続した場合の利益を増大させる。つまり,企業にとってはメインバンク関係を通じて倒産リスクをヘッジすることがより有利になる。これらのことからすると,1980年代以降の金融の自由化・国際化の進展,近年の金融のグローバル化の進行によって,メインバンクの倒産リスクのヘッジ機能は弱まることはないと予想される。
次に,∂d / ∂x1 < 0,∂d / ∂x2 < 0 は,企業の収益性が高いほど企業・銀行間に暗黙のリスクヘッジ契約が成立しやすいことを示している。これは逆に見れ
ば,「いざという時のメインバンク」機能は,収益性の低い企業には発揮されにくいことを示唆する。メインバンクが倒産の危機にある企業を助けるのは,あくまでも将来の取引から得られるメリット(将来のプレミアムの受け取り)を当てにするからであり,将来的に見込みのない企業には暗黙の契約を履行しないこと,すなわちそうした企業は見捨てる可能性もあると考えられる。
なお,∂d / ∂p2 に関しては確定的な符号は得られないが,∂d / ∂C > 0 は,銀行の救済コストが小さいほど,暗黙の倒産リスクのヘッジ契約が成立しやすいことを示している。このことは,資金調達リスクの際と同様,メインバンクがその情報・交渉コスト面の優位性から企業の倒産リスクの保険の提供者としてふさわしいことを示唆する。しかし,その一方で,銀行検査の強化や株主代表訴訟の可能性は,銀行の救済コストを高め,メインバンク関係を通じたリスクヘッジを抑制する方向に働く可能性があることがわかる。
最後に,∂d / ∂L > 0 は,企業の資産の清算価値が低いほど,企業・銀行の
長期的関係を通じた倒産リスクのヘッジが行われやすいことを示している。一般に機械・土地などの物的資産を多く保有する企業は,その資産の清算価値が比較的高いであろう。それに対して,従業員の知識やノウハウ等の人的資産が中心の企業は,そして特にそれらの資産が企業特殊的である場合には,倒産して解散した場合の清算価値は低くなると予想される。このことからすると,人的資産が中心の企業の場合は,物的資産が中心の企業に比べて,銀行との長期的な関係を通じて倒産リスクのヘッジを行う傾向が強いと考えられる。
この点からも,日本企業がメインバンクとの関係を重要視することが説明で
きる。もし日本企業の競争力が従業員の企業特殊的な知識・ノウハウとネットワーク,そしてそれらからなる組織力にあるならば21,企業の存続価値に比べてその清算価値はかなり低くなると予想される。そうだとすると,日本企業は欧米の企業と比べて,メインバンクとの長期的な関係を通じて暗黙のリスクヘッジ契約を結ぶ可能性が高いと考えられる。すなわち,日本企業がメインバンクとの良好な関係をもつことで「いざという時」のために備えるというのは,企業の長期的利益の最大化行動の結果として合理的に理解できるのである。
5.先行研究との関連
以上3,4節のモデルでは,企業とメインバンクの長期的な関係を通じて,企業が直面する二種類の財務リスク(資金調達リスクと倒産リスク)がヘッジされる可能性を考察してきた。そこで,これらの両モデルの考察結果が,先行研究での議論とどのように関連しているかについて述べておこう。
本稿のモデルの大きな特徴は,企業・銀行関係を通じた暗黙のリスクヘッジ契約が,外部市場のスポット取引との競争の中でも存続する可能性を示していることである。既存研究においては,こうした企業・銀行間の協調的な行動は,
─────────────────
21 伊丹(1987),Nonaka and Takeuchi(1995),藤本(2004)などを参照。
競争制限的な規制のもとでのみ可能になるのであり,それは競争的な金融市場とは両立しないと考えられてきた。例えば,前にみた Mayer(1988)は,金融の自由化・国際化が進展するにつれ,日本の銀行のリスク分担者としての役割は見られなくなるだろうと予想した。また,Aoki(1994)は,メインバンクの企業モニタリングや企業救済のためには,日本の金融規制の下でメインバンクのレントが確保される必要性があったとしている。また,Rajan and Zin- gales(2003)は,リレーションシップ金融は市場競争の制限によって可能になると主張し,かつての日本において住友がマツダを助けたのも,日本の貸出市場が競争的な状態からほど遠かったためであると述べている。これらの先行研究に対して,本稿の二つのモデルでは,企業が競争的な金融市場(スポット市場)にアクセスできる場合でも,企業が自発的に特定の銀行にプレミアム(または b)を支払うことによって暗黙のリスクヘッジ契約を結び,またそれが両者の長期的な関係によって維持されることが示された。すなわち,企業・銀行間の協調行動は,外部の市場との競争の中でも生き残りうるのである。このことは,金融の自由化・国際化,そしてグローバル化が進展した今日においても,日本のメインバンク関係が依然として重要な役割を果たし続ける可能性を示唆するものである。
第2に,本稿のモデルは,メインバンクによる財務悪化企業への支援(資金
の供給,元本・金利の減免)を,効率的な保険契約の事後的な履行(保険金の支払い)としてとらえている。これに対して,近年のマスメディアでは,銀行の財務悪化企業への支援行動は,非合理的・非効率的なものとしてとらえられることが多かった。例えば,川本(2004)は,銀行が経営状態の悪い企業に通常の金利で融資を行うことは,優良企業から不良企業に補助金が流れているのと同じだとして批判している。また,星(2006),Peek and Rosengren(2005)らは,銀行の支援・救済を「追い貸し」「過剰救済」ととらえ,それが経営再建の見込みが乏しい企業(ゾンビ企業)を存続させ,経済全体の資源の配分を
歪めたと主張している。しかし実は,本稿の2節のインタビュー結果や3・4節のモデルの比較静学においては,銀行といえども将来性の低い企業への支援・救済は行わない可能性が示されている。このことからすると,日本のメインバンクによる経営悪化企業の支援は,将来性のある企業に選択的に行われている可能性があり,「追い貸し」「過剰救済」という見方は必ずしも適切でないと考えられる。事実,福田・鯉渕(2004)の実証分析は,メインバンクが積極的に債権放棄を行っている企業ほどその後のパフォーマンスがよいことを示している。また,中村・福田(2008)も,銀行から金融支援を受けた企業の多くがその後に経営が改善したとの実証結果を得ている。さらに大村・水上(2007)も,2000年以後に銀行の債権放棄やデット・エクイティ・スワップを受けた企業が,その後,財務的な基礎体力,安全性,効率性が有意に改善したことを報告している。これらの実証結果は,本稿のモデルの結論と整合的である。
第3に,本稿のモデルで示されたメインバンクの機能と,広く知られるメインバンクの「委託された監視者(delegated monitor)」の機能(堀内(1987)など)との関連について考えてみよう。本稿の両モデルにおいて,メインバンクは,bad の企業にモニターを行って資金を供給したり,低収益企業の債務・金利の減免を行う。これは,メインバンクが財務・経営状態が悪化した企業に対する監視者の役割を果たしているとみなせよう。そしてまた,そうしたメインバンクの行動に他の銀行が追従するのならば,メインバンクはまさに,他の銀行からの「委託された監視者」であると解釈できる。すなわち,本稿で主張するメインバンクのリスクヘッジ機能は,委託された監視者の機能と矛盾するものではなく,むしろこの両機能は大いに関連していると考えられる。
第4に,本稿のモデルと既存のリスクシェアリング仮説との関連である。今から20年以上前に,池尾(1985),Osano and Tsutsui(1985)らは,企業とメインバンクの間で市場金利の変動リスクが分担されている可能性を指摘した。ただ,本稿の見地から言えば,市場金利は企業の行動とは独立の外部環境に
よって決まる変数であり,そのリスクヘッジ契約においてはモラルハザードの問題はないはずである。したがって,市場金利の変動リスクは公式の(明示的な)契約(金利先物・オプションなど)によって比較的容易にヘッジできるので,それらのマーケットが存在するならば,企業がメインバンクと暗黙の契約を結ぶ必要はない。このことからすると,金利先物・オプション取引が普及した1990年代以降,継続的なメインバンク関係の機能面からの説明として市場金利リスクのヘッジをあげるのは無理があると言えよう。
また,Allen and Gale(2000; ch.15)は,銀行とその顧客(企業,投資家など)の間の暗黙のリスク分担契約をモデル化し,金融市場の競争がそれに与える影響を考察している。そしてそこでは,金融市場の競争が進展すると,顧客の外部機会での利得が増加し,顧客が暗黙の契約を遵守するインセンティブが低くなる結果,暗黙の契約自体が結ばれにくくなると主張している。ただし,彼らのモデルにおいては,簡単化のために,銀行の側は暗黙の契約を守ることがアプリオリに仮定されている。ここで,銀行の側にも契約を自発的に守るかどうかの条件(自己拘束性の条件)を考慮すると,彼らの結論が成立するどうかは疑わしい。なぜなら,金融市場での競争の進展は,顧客の外部機会の利得を増加させると同時に,銀行の外部機会の利得を減少させる効果をもつからである。前者は企業の自己拘束性の条件をタイトにするが,後者は銀行の自己拘束性の条件を緩めるので,この両方の効果を考えると,暗黙の契約の締結の可能性に正負どちらの効果が支配的になるのかは自明でない。これに対して,本稿の両モデルは,関係的契約のアプローチにそって企業,銀行の双方のインセンティブを明示的に考慮しているという特徴をもつ。そして,金融市場の競争度の上昇をスポット金利 (r) の低下ととらえて,それが暗黙の契約をむしろ結びやすくするとの結論を得ている。
6.おわりに
本稿においては,日本のメインバンクが今もなお大きな存在感をもっているとの認識をもとに,メインバンクが今日において果たしている機能を考察した。まず,アンケート調査とインタビューの結果から,メインバンクが二種類のリスクヘッジ(資金調達リスクのヘッジ,倒産リスクのヘッジ)機能をもつと考え,それらを関係的契約(relational contract)のアプローチを用いてモデル化した。そのモデルを分析することによって,メインバンクが企業の財務リスクをヘッジすることが暗黙の(非公式の)合意として存在しうること,またこの暗黙の合意は両者の長期的な関係によって保持されることを示した。
このモデル分析の結論から,日本のメインバンク関係を見る上でいくつかの有益な知見が得られた。まず,最も注目すべきこととして,金融市場の自由化,国際化の進展が,メインバンクのリスクヘッジ機能を強めるという理論予想が得られたことである。この予想は,これまでの通説(Mayer 1988,Aoki 1994,Rajan and Zingales 2003等)とは逆のものである。しかし,近年の日本企業へのアンケート結果や企業・銀行へのインタビュー結果からすると,この理論的予想は現実妥当性をもつように思われる。
また,本稿のモデルの結論は,メインバンクの支援・救済といえども,全ての企業に一律に行われるのではなく,それが将来の収益性の高い企業に選択的に行われている可能性を示している。このことは,近年の実証分析の結果(福田・鯉渕(2004),大村・水上(2007),中村・福田(2008))とも整合的であり,メインバンクの支援・救済を「追い貸し」「過剰救済」とする通説(星(2006), Peek and Rosengren(2005)など)に疑問を投げかけるものである。
日本のメインバンク関係を,企業・銀行間のリスクヘッジに関する関係的契約(relational contract)ととらえる見方は,双方が相手との関係を維持するかどうかを過去の取引実績のみならず将来のメリットの大きさによっても決め
るという意味で,2-3節で紹介したインタビューの結果と整合的である。またこの見方に立てば,メインバンク関係のリスクヘッジ機能は,金融市場の規制によって支えられているものではなく,競争的な市場のもとでの企業・銀行の長期的利益の最大化行動によって生じたものだということになる。そしてもしそうであるならば,金融のグローバル化のいっそうの進展のもとでも,メインバンクのリスクヘッジ機能は今後も維持される可能性が高いと考えられるのである。
謝辞
本稿の作成に当たっては,河村耕平氏との議論が有益であった。2009年日本経済学会春季大会(京都大学)での報告の際には,内田浩史氏より貴重なコメントをいただいた。また,一橋大学でのセミナーにおいては,三隅隆司氏をはじめセミナー出席者から多くの有益なコメントをいただいた。なお,関係的契約のアプローチについては,伊藤秀史氏のレクチャーより多くの知見を得た。記して感謝の意を表したい。
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