Contract
第62課 債権 ― 契約その3(契約の分類)
契約自由の原則により、契約には様々な態様がありうるが、多種多様な契約を、様々な観点から分類してみると、各種の契約の性質の理解に大いに役に立つので、一般的な分類方法について少し学んでみよう。
まず、契約当事者の双方が互いに対価関係にある債務を負担するか、それとも一方のみが債務を負担するかという点に着目した分類方法に「双務契約」と「片務契約」の分類がある。売買は最も典型的な双務契約である。ここでは、売主は目的物引渡し債務を負い、買主は代金支払い債務を負っていてこれが対価関係に立っている。このような契約を、「双方とも債務を負っている」という意味で「双務」契約という。この反対が「片方しか債務を負わない」と言う意味の「片務契約」である。双方が債務を負うが、その債務が互いに対価関係に立たない場合、例えば、使用貸借の際の貸す義務と返す義務のような場合(これは対価関係に立っているわけではない。使用貸借は、「ただで貸す」という契約であり、対価はない。これに対して、「賃貸借」は、貸すことに対して、賃料という対価を払うので、双務契約である)も「片務契約」に分類される。
これに似ているけれども、少し違う分類が「有償契約」と「無償契約」の区別である。要は「料金を払わなければならない」か、それとも「ただ」かの違いである。通常は、双務契約はほとんど有償契約で、片務契約は無償契約がほとんどであるが、例えば、「利息付き消費貸借」は、利息を払うという点では有償であるが、貸主はすでに金を貸してしまっていて、後は何の債務も負わず、借主だけが「返す」という債務を負っているため、有償契約ではあるが、片務契約である。
もうひとつの分類として、すでに少し学んだ「諾成契約」と「要物契約」の区別がある。これは、合意だけで成立する契約(これが諾成契約―「承諾だけで成立する契約」という意味)と、合意だけではなく、物の引き渡しがあって初めて成立する契約(これが要物契約―契約の成立に「物が必要な契約」という意味)の違いである。典型契約の中では、売買契約は諾成契約であるが、消費貸借契約は要物契約であり、貸主が借主に貸し借りの対象となる金銭その他の物を渡して初めて契約が成立することになっている(売買に関する民法第555条又は賃貸借に関する民法第601条の文言と、消費貸借に関する民法第587条の文言の違いをよくみてほしい)。また、物権契約であるが、物に質権を設定する「質権設定契約」は、要物契約である(民法第344条を見よ)。
外にもいろいろ分類の方法があるが、このように契約をその性質に応じて分類して考えることは、様々な種類の契約にふさわしい効果を考える際に、極めて有用である。
1 重要語句
a 双務契約・片務契約、有償契約・無償契約、諾成契約・要物契約具体的な契約について少し考えてみよう。
「売買」(民法第555条)は、合意だけで契約として成立し、売主の目的物引渡債務と買主の代金支払債務が対価関係に立っていて、無論、代金を払うのであるから、「ただ」ではない。したがって売買契約は、「諾成」、「双務」、「有償」の契約である。「売買」は最も典型的な「有償契約」であり、そのことから逆に、売買以外の有償契約にも売買の規定が、性質の許す限り準用される(民法第559条)ことになっている。ここに、有償契約と無償契約を区別する意味がある。
また、売買のような「双務契約」は、両方の債務が対価関係に立っているので、一方の当事者は、相手方当事者が債務の履行を提供するまで、自分の債務の履行を拒否することができるという「同時履行の抗弁権」
(民法第533条)を持つ。片務契約にはそのようなことはない。ここに双務契約と片務契約を区別する意味があるのである。
お金を払って家を借りるなどの「賃貸借契約」も、合意だけで成立し、貸す債務と賃料支払いが対価関係に立っており、しかも賃料を払うのであるから、やはり「諾成」、「双務」、「有償」の契約である。
これに対し、お金などの消費物の貸借を目的とする消費貸借契約は少し異なる。民法第587条が「・・・を約して、相手方より金銭その他の物を受け取るによりてその効力を生ず」と規定しているとおり、物を受け取ることが契約の条件として必要であるので「要物契約」である。そして、本文でも説明したように、貸主は契約が成立するときに金などの物を借主に渡してしまっているので、外に債務は何もない。あるのは借主の債務だけである。したがって、消費貸借は借主だけが債務を負っている「片務契約」なのである。それでは、有償か無償かというと、利息を払う約束があれば有償、なければ無償である。従って、利息付の消費貸借契約は、「要物」、「片務」、「有償」の契約ということになる。
b その他の分類の方法
外にもいろいろ分類の方法があるが、ここでは「不要式契約」と「要式契約」について、簡単に触れておこう。不要式契約とは契約の成立や契約の効力が発生するために、特にこれといった方式が法律上必要とされない契約で、方式自由の原則から、これが通常である。しかし、中には、法律で必ず契約書など書面をつくる、あるいは届け出を要するなど、一定の方式が要求されている場合があり、そのような契約を「方式が必要」という意味で「要式契約」と呼ぶ。通常の経済的な契約ではあまり多くなく、婚姻や養子縁組など、身分法上の契約に多く見られる。