医師主導治験においては通常その計画や実施等の場面で大学や研究者の知見やノウハウが求められることから、試験データの提供の対価については、少なくとも研究に要する実 費相当額のみならず、研究の価値にも十分に配慮した額にすべきものとARO協議会では考え、本雛形を作成した。この考え方は、「産学官連携による共同研究強化のためのガ イドライン【追補版】(令和2年、文部科学省・経済産業省;以下「追補版」)」にも沿う。 そこでARO協議会では、契約現場の便宜を図るべく、パターンBを想定した雛...
医師主導治験に係る契約の雛形(第2版)について
ARO協議会
医師主導治験について、企業(以下「支援企業」)から研究費や試験薬・医療機器等の提供その他の支援を得て実施するケースが多くみられる。この場合、試験の厳格な実施はもちろん、得られた試験データ(一義的には総括報告書)を支援企業が優先的に使用できることについて約束する契約を予め締結することが必要となる。本契約雛形はそのような場合に活用できるよう作成されたものである。
医師主導治験においては通常その計画や実施等の場面で大学や研究者の知見やノウハウが求められることから、試験データの提供の対価については、少なくとも研究に要する実費相当額のみならず、研究の価値にも十分に配慮した額にすべきものとARO協議会では考え、本雛形を作成した。この考え方は、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】(令和2年、文部科学省・経済産業省;以下「追補版」)」にも沿う。
他の留意点として、医師主導治験に係るデータについて、一定の範囲が公的研究費によって賄われているケースが多いことも重要である。もし試験データについて、費やされた公的研究費(税金)に配慮しないで特定の企業に使用を認めると、当該研究費投入分については利益供与に該当してしまう。従って、公的研究費が費やされている試験については、少なくともその額の一部について、得られた試験データを活用する企業に支払いを求める必要がある。
もちろん、支援企業が対象試験の実費の全額相当を支払い、かつ得られた試験データを使用することが契約時から当然の前提とされる場合には、大学は支援企業に対して「研究の価値を考慮した項目」を支払い経費に単純に上乗せして請求すればよい。これは下図のパターンAに該当する。しかしながら実際には次のような課題があってパターンAを選択できないことが多い:
1)多くの大学では、医師主導治験に関する契約において、追補版における「研究の価値を考慮した項目」の費目を設定し治験実施関係者に適切に還元する仕組みがない。
2)治験で得られる試験データが薬機承認等に使用できるかどうか不明な段階では、企業として支払える金額に限りがある(上記公的研究費使用に係る支払いまで決断できない)。
そこでARO協議会では、契約現場の便宜を図るべく、パターンBを想定した雛形を提供することにした(従ってこの雛形はパターンAで合意できるケースを対象にしたものではない)。なおパターンBにおいては、図中の①の契約内で②の存在を明記しておくことが大前提となる(契約担当組織の管轄の関係で②を想定せずに①のみ結んで後から②の契約を求める形となりトラブルになったケースもある)。この場合、②の契約案を、①の契約に別紙として添付し、製薬企業等が試験データを利用すると決定した場合には、アカデミア側と製薬企業等との間で、当該契約書案に基づく治験データ等利用許諾契約を締結するというアレンジも考えられる。
なお、特に本雛形を活用するにあたっては、フェア・マーケット・バリューについても考慮すべきものであることは言うまでもない。試験データ等の対価は、研究のコストの積み上げの観点のみによって一方的に決まるものではなく、市場価値も考慮しなければならない。例えばほとんど利益に繋がらないケースでも実用化を優先すべき場合には、社会貢献の意味から、誰がどういう負担を負うかという観点からも当事者同士で十分に話し合って契約を結ぶ必要がある。その場合、企業から相当額の研究実費の提供があった場合には、それを当該負担の少なくとも一部として参酌することが妥当なケースもあろう。また既存医薬の適応拡大等のケースでは、当該医薬を開発した企業にとって適応拡大の是非が特別な事業戦略的意味を有している点にも十分に配慮する必要がある。その場合の日本製薬工業協会の考え方については、下記表を参考にされたい。
図:契約ひな形の構成と契約のパターン
表:治験薬を企業が提供した場合の考え方(日本製薬工業協会提供)
医師主導治験に係る契約
●●[アカデミア側(大学、国立高度専門医療研究センター等)](以下「甲」という。)と●●[製薬企業等](以下「乙」という。)は1,2、甲及び●●(本治験責任医師)3が本契約書別紙の治験細目(以下「本細目」という。)の内容の医師主導治験(以下「本治験」という。)を実施することに関して、(甲及び乙の役割分担を明確にするべく、)以下の内容の契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第1条(定義)4
1 本契約において、以下の各号の用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1)「医薬品医療機器等法」とは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律をいう。
(2)「医薬品GCP省令」とは、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令及びこれらに関する通知等(通達、政府指針等)をいう。
(3)「薬事規制法令等」とは、医薬品医療機器等法、同法施行令、同法施行規則及び医薬品GCP省令並びにこれらに関する通知等(通達、政府指針等)をいう。
(4)「本治験実施計画書」とは、本治験の目的、方法等を記載した本治験に係る治験実施計画書(治験実施計画書番号:●●●●)(本契約締結後に修正があった場合は、当該修正後のものをいう。電磁的記録を含む。)をいう5。
(5)「本被験薬」とは、本治験実施計画書に定める、本治験の対象である以下の医薬品をいう。
(イ)製剤名 :●●
(ロ)剤型 :●●
(6)「本治験薬」とは、以下のいずれかをいう。
(イ)本被験薬
(ロ)本治験において本被験薬と比較する目的で対照薬(プラセボ薬を含む。)が用いられる場合にあっては、本被験薬及び当該対照薬
(7)「本治験実施医療機関」とは、本治験実施計画書及び本細目第4項に定める、本治験を実施する医療機関をいう。
(8)「本治験実施期間」とは、第6条において定める本治験を実施する期間をいう。
(9)「本治験責任医師」とは、本治験について、自ら治験を実施しようとする者、あるいは自ら治験を実施する者となり、かつ本治験に係る業務を統括する医師をいう。
(10)「本治験総括報告書」とは、本治験に係る総括報告書(電磁的記録を含む。)をいう。
(11)「本治験データ」とは、本治験に係る原資料、ケースレポートフォーム(CRF)、解析データセットなど本治験の実施によって得られた一切のデータ及び情報、並びに本治験実施計画書、本治験総括報告書など本治験の実施のために作成された文書その他の資料(本治験に関して乙が甲に対して提供したデータ及び情報を除く。)をいう6。
2 本契約において使用されている用語で、薬事規制法令等において定義されているものは、本契約に別段の定めがない限り、薬事規制法令等に定義されているところによる。
第2条(法令等の遵守)
甲及び乙は、それぞれ、本契約の履行及び本治験の実施に当たり、薬事規制法令等、個人情報の保護に関する法令7等(法律や命令のほか、通達、政府指針、条例等を含む。以下同じ。)、その他の関係する法令等(いずれも改正後のものも含む。)を遵守しなければならない。
第3条(利益相反等)8
1 甲及び乙は、それぞれ、本治験について、法令等及び自己の内部規則の定めに照らして、利益相反上の問題がないことを確認するとともに、それらの定めに従い、本治験に関する利益相反を適切に管理するための手続を行わなければならない。
2 甲及び乙は、本治験に関し、不公正な利益の供与を約束せず、また、これを行ってはならない。
3 乙は、本治験に関し、甲及び本治験責任医師、本治験における分担医師、協力者、その他の関係者に対し、本契約に基づかない支援の提供を約束してはならない。
4 甲は、本治験に関し、利益相反上の問題若しくは不適切な対応が現実に発生し、又はそのおそれが判明した場合には、直ちに、乙に対し、確認された事例を報告し、その対応について協議する。
第4条(甲の役割)9
1 甲は、本治験に関し、以下の業務を実施する。
(1)薬事規制法令等その他の法令等、本治験実施計画書に従った本治験の実施、本治験の進行の確認
(2)本治験計画届書、本治験実施計画書、ケースレポートフォーム、説明文書及び同意文書等本治験の実施に必要な文書の作成、届出等に関する業務
(3)重篤な有害事象その他手順書に定めた事実(以下「重篤な有害事象等」という。)、医薬品医療機器等法第80条の2第6項に規定する事項の厚生労働大臣への報告
(4)本治験薬の品質確保及び管理に関する業務10
(5)モニタリング及び監査、データ・マネジメント、データの取扱い・統計・解析並びに本治験総括報告書作成に関する業務
(6)記録の保存等に関する業務11
(7)薬事行政当局が薬事規制法令等に基づき実施する、本治験についての調査への協力
(8)その他本治験の実施に必要な業務
2 甲は、医薬品GCP省令12に従うとともに、第15条第2項に基づく対応を行った上で、前項に定める業務の全部又は一部を第三者に委託することができる。第三者に委託する場合には、甲は、当該第三者に対し、法令遵守、秘密保持義務その他本契約に基づいて甲が負うのと同等の義務を負わせなければならない。
第5条(乙の役割)
1 乙は、第9条の規定に基づき、甲に対し、本治験薬を無償で提供する。
2 乙は、甲に対し、治験薬概要書を含む本治験の実施のために必要な情報を無償で提供する。乙は、甲及び本治験責任医師が、本治験の実施に必要な範囲で、当該情報を複製し、利用することを認めるものとする。
3 乙は、薬事行政当局が薬事規制法令等に基づき実施する本治験についての調査に協力する。
4 乙は、本契約及び本治験実施計画書、手順書その他本治験の実施に当たり作成された文書に記載されている事項を除き、本治験に関与してはならない。ただし、乙は、本契約及び本治験実施計画書、手順書その他本治験の実施に当たり作成された文書に記載されている事項の範囲内に限って、倫理的、医学的又は科学的な見地から根拠を示したうえで意見を述べることができる。
第6条(本治験実施期間)
1 本治験実施期間は、本細目第3項に定める期間とする。ただし、甲及び乙は、書面による合意により、本治験実施期間を延長することができる。
2 本治験は、本治験実施期間の満了日、又は、本治験実施期間中に、甲及び乙が、本治験が完了したと認めた日に終了する。ただし、第7条の規定により、本治験を中断している場合には、この限りではない。
第7条(本治験の中止、中断等)
1 本治験責任医師は、本治験実施期間に、以下の各号に定める事由のいずれかに該当した場合には、本治験を中止又は中断することができる。
(1)本治験の被験者に健康被害が発生した場合。
(2)重篤な有害事象等が発生した場合。
(3)甲の治験審査委員会から中止意見が出された場合。
(4)第3条に定める利益相反上の問題等が生じ、解消の見込みがないとき。
(5)本治験の実施の継続が倫理的、科学的又は医学的見地から相当でない場合。
(6)天災その他やむを得ない事由により本治験の実施の継続が困難になった場合。
2 甲は、前項各号に定める事由に該当する事実を知ったときは、本治験責任医師に対し、前項に基づく本治験の中止又は中断の検討を行うように指示するとともに、その旨を乙に報告しなければならない。
3 第1項の規定に基づき、本治験責任医師が本治験を中止又は中断した場合、甲及び乙は、書面による合意により、本契約を解約することができる。なお、甲及び乙は、本項の規定に基づく本契約の終了について、相手方に対し、その責めを負わない。
1 乙は、本治験に係る経費として、●●円(間接経費を含む。また、消費税及び地方消費税を含む。)を負担する。
2 乙は、甲に対し、令和●年●月●日までに、前項に基づいて乙が負担する本治験に係る経費を、下記の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は、乙の負担とする。
記
銀行名:
支店名:
口座種類:
口座番号:
口座名義:
3 乙は、前項所定の期日までに乙が負担する本治験に係る経費を支払わなかった場合には、甲に対し、当該期日の翌日から支払日までの日数に応じ、未納額に年3%の割合で計算した遅延損害金を支払う。
4 甲及び乙は、第1項に基づき乙が負担する本治験に係る経費には、第14条第2項に定める本治験総括報告書の利用を除き、本治験データ及びそれらに係る知的財産権その他一切の権利等の利用許諾についての対価は含まれていないことを確認する。
5 甲は、乙が行う本治験への支援に関し、乙が自ら策定した「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインに関する指針」に基づき必要となる場合は、その詳細を公開することに同意する。
第9条(本治験薬の提供等)15
1 乙は、甲の書面による依頼に基づき、甲に対し、甲が指定する場所に、本治験に必要な数量の本治験薬を無償で提供する。当該提供に係る費用は、乙の負担とする。16
2 乙は、薬事規制法令等及び治験薬概要書に従って本治験薬を製造(委託製造含む。)し、前項に基づき、甲に対し、本治験薬を提供する。
3 本治験薬の提供に当たり、乙は、本治験薬の輸送中及び保存中の汚染及び劣化を防止するために、適切な包装その他の措置を講じる。
4 甲は、本治験薬を、医薬品GCP省令、治験薬GMP省令及び本治験実施計画書に従って使用し、本治験以外の目的での使用及び第三者への貸与、譲渡その他の処分を行ってはならない。
5 本治験薬が、第2項の規定に違反したものである場合には、乙は、甲に対し、速やかに代替となる本治験薬を無償で提供する。
6 甲及び乙は、本条に基づく乙から甲への本治験薬の提供により、本治験薬に係る知的財産権を甲に移転するものではなく、また、本治験における使用を超えた使用許諾等をするものではないことを確認する。
7 乙は本治験薬の供給が不可能となった場合、かかる事実とその理由を速やかに書面で甲に通知し、甲はこれを自ら治験を実施する者および治験審査委員会に対して文書により通知する。
第10条(本治験薬に関する情報提供)
1 乙は、甲が本治験薬に関する治験薬概要書及び本治験実施計画書等を作成し、また、本治験を実施するに当たり、本治験薬に関する情報を提供する。
2 乙は、本治験薬の製造に当たり、医薬品GCP省令第26条の2第5項第1号に規定された記録を作成し、甲に対し、当該記録を提供する。
3 乙は、本治験実施期間中に、本治験薬の品質、有効性及び安全性に関する事項その他の本治験を適正に行うために重要な情報(医薬品医療機器等法第80条の2第6項に規定する事項を含むがこれに限られない。)を知ったときは、甲に対し、直ちに当該情報を提供する。
第11条(進捗状況、不適切行為、安全性等の報告)
1 乙は、甲に対して本治験の進捗状況の報告を求めることができ、甲はこれに応じるものとする。17
2 甲は、本治験実施医療機関において本治験の実施における不適切な行為があったことを知ったときは、乙に対し、直ちに確認された事例及びその是正措置を報告する。
3 甲は、乙に対し、医薬品GCP省令に従って、本治験の実施において得られる安全性に関する情報を報告する。18
第12条(被験者の健康被害への対応)
1 甲は、本治験を実施するに当たり、予め、本治験に起因して発生した被験者の健康被害に対して補償するために、保険その他の必要な措置を講じるものとする。
2 甲は、本治験に起因して被験者が健康被害を受けたときは、当該被験者に対し、補償、治療その他必要な措置を講ずるとともに、乙に対し、その旨を報告する。
3 本治験に起因して被験者が受けた健康被害の補償責任は、甲が負担する。
4 前項の規定にかかわらず、本治験に起因する被験者の健康被害が乙(又は乙の役員及び従業員(以下、役員及び従業員を総称して「役員等」という。))の故意若しくは重過失又は製造物責任により発生した場合には、乙が、当該健康被害の補償に関する一切の費用(賠償金を含む。)を負担しなければならない。19
第13条(記録等の保管)
1 甲は、薬事規制法令等に従って、本治験データを保存しなければならない。
2 乙は、本治験データの保存の必要がなくなったときは、甲に対し、速やかにその旨を通知しなければならない。当該通知を受けた場合には、甲は、前項の規定にかかわらず、薬事規制法令等に違反しない限り、本治験データを消去又は廃棄することができる。
第14条(本治験総括報告書の作成、送付、優先的利用)20,21
1 甲は、本治験が終了した日から●ヶ月以内に22、本治験総括報告書を作成し、乙に対し、乙の優先的利用の検討のために、その写しを送付する23。
2 乙は、前項に基づき作成された本治験総括報告書を受領した日から●ヶ月間24(以下「本検討期間」という。)、本治験総括報告書を[本被験薬の医薬品製造販売承認申請を行う/本被験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験を実施する]かの決定に係る社内検討(以下「本検討」という。)のための資料として利用することができ、本社内検討利用に必要な範囲に限り本治験総括報告書を複製することができる。
3 甲及び乙は、書面による合意により、前項に定める本検討期間を延長することができる。
4 本検討期間は、[本被験薬の医薬品製造販売承認申請を行う/本被験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験を実施する]か否かを乙が優先的に検討・決定できる期間であり、本期間内に、乙が[本被験薬の医薬品製造販売承認申請を行う/本被験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験を実施する]旨の決定を行った場合には、本治験総括報告書の利用は原則有償で行われる前提のもと、当該決定の日から〇ヶ月以内に25、甲との間で、本治験データの利用や当該利用に係る対価等の条件に関する契約についての交渉を行うものとする。当該決定を行った日から〇ヶ月以内25に当該契約の締結に至らなかった場合は、乙は、速やかに、本治験総括報告書を甲に対して返還し又はこれを廃棄若しくは消去しなければならない。
5 本検討期間内に、乙が[本被験薬の医薬品製造販売承認申請を行う/本被験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験を実施する]旨の決定を行わなかったときは、乙は、速やかに、本治験総括報告書を甲に対して返還し又はこれを廃棄若しくは消去しなければならない。26
6 甲は、本契約の締結日から、乙が本検討を終了した日又は[本被験薬の医薬品製造販売承認申請を行う/本被験薬について[●●(対象疾患等)]についての次相試験を実施する]旨の決定を行った日から〇ヶ月経過した日のいずれか遅い日(ただし、第4項の契約を締結したときは、当該契約を締結した日)までの間、乙以外の第三者に対し、本治験データを開示若しくは提供し、又は利用させてはならない27。ただし、法令等により開示が義務付けられているとき、又は主務官庁若しくは裁判所その他の公的機関から法令等に基づき開示の請求を受けたときはこの限りではない。
7 本条第4項に記載の契約締結に至らなかった場合、甲は、前項記載の期間の後、本治験データを第三者に開示できるものとする。
第15条(秘密保持)
1 甲及び乙は、以下の各号に定めるものを除き、本治験に関連して相手方から得た一切の情報(以下「本秘密情報」という。)を秘密として保持し、相手方の書面による事前の同意なしに、第三者に対し、本秘密情報を開示又は漏洩してはならない。
(1)相手方から開示を受けた時点で、既に保有していた情報
(2)相手方から開示を受けた時点で、既に公知となっていた情報
(3)相手方から開示を受けた後に、受領者の責めによらずして公知となった情報
(4)本秘密情報から除外することにつき、事前に書面による相手方の同意を得た情報
(5)正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報
(6)独自に取得した情報
(7)公開することを前提として相手方から開示を受けた文書に記載されていた情報
2 前項の規定にかかわらず、甲は、第4条第2項に基づいて業務の委託をした第三者に対し、当該委託した業務との関係で必要と認められる範囲で、本秘密情報を開示し、提供することができる。ただし、本秘密情報の開示、提供に当たり、甲は、当該第三者との間で、当該第三者並びに当該第三者において本治験の責任医師、分担医師、協力者、その他の関係者に、本契約に基づいて甲が負うのと同等の秘密保持等の義務を負わせるとともに、委託された業務以外での使用を禁止しなければならない。
3 第1項の規定にかかわらず、甲及び乙は、法令等により開示が義務付けられているとき又は主務官庁若しくは裁判所その他の公的機関から法令等に基づき開示の請求を受けたときは、本秘密情報を必要かつ相当な範囲で開示することができる。ただし、甲及び乙は、相手方に対し、秘密保護の措置(開示範囲についての協議を含む。)を行う合理的な機会を与えるよう努めなければならない。
第16条(本治験データの利用許諾をする権利等の帰属)28
1 本治験データの利用権限(利用許諾をする権利を含む。)及び本治験データそのものに係る知的財産権(不正競争防止法による保護の対象を含む。また、海外の知的財産権を含む。ただし、第三者に帰属するものは除く。)その他一切の権利は、甲に帰属するものとする。
2 本治験の過程において本治験に関連して発明等が生じたときは、その取扱いにつき甲、乙で別途協議するものとする。29
3 第14条第2項に基づく本治験総括報告書の利用を除き、本契約は、乙に対し、本治験データに係る知的財産権その他一切の権利(不正競争防止法による保護の対象を含む。また、海外の知的財産権を含む。)について、利用その他いかなる権限を付与するものではない30。
第17条(本治験に係る成果の発表等)
1 甲は、本治験データに含まれる医学的に又は臨床上有益な情報(本被験薬の安全性又は有効性に関する否定的なデータを含む。以下「本研究成果」という。)を、発表、公開又は公表(以下「発表等」という。発表等には、学会発表の発表要旨の提出や学術誌等への論文の掲載も含まれる。)をする場合には、当該発表等の予定日の〇ヶ月前までに、乙と当該発表等について協議しなければならない31。
2 甲は、本研究成果の発表等を行うときは、第15条に定める本秘密情報の秘密保持義務を遵守しなければならない。
3 甲は、本研究成果の発表等を行うときは、本被験者のプライバシー及び人権の保護のために必要な措置を講じた上で、当該発表等を行わなければならない。
4 甲及び研究責任者は、単独で又は他の治験参加医師若しくは参加施設と共同で本治験の成果を公表等する場合には、当該公表等において、乙との協力関係に言及しなければならない。
5 乙は、本契約に基づく公表等の後、甲にいかなる追加の義務を負うことなく、当該公表等の写しを甲に通知のうえ使用し、コピーし、頒布することができる。
第18条(業務提携又は事業承継の場合の取扱い)
甲及び研究責任者は、乙又はその関連会社が、本治験薬の開発又は販売について、第三者と提携し又は第三者に事業を承継すること、第三者と将来提携し又は第三者に事業を承継する可能性があること、又は第三者との提携を将来解消する可能性があることを認識し、乙が、本契約上の地位を乙若しくはその関連会社の業務提携先若しくは事業承継先に承継し、又は本治験の成果について乙が有する権利と同等の権利を業務提携先若しくは事業承継先に付与することに同意する。但し、事業承継については別途書面での合意を要するものとする。
第19条(本契約の有効期間)
本契約は、その締結の日から、乙が本検討を終了した日又は乙が第14条第4項の決定を行った日から〇ヶ月経過した日(ただし、同項の契約を締結したときは、当該契約を締結した日)のいずれか遅い日までの間、有効とする32。
第20条(本契約の解約)
1 甲は、以下の各号のいずれかに該当する事由が生じたときは、乙に対し書面により本契約の変更または解約の申し入れをすることができる。この場合、甲乙は真摯に対応し、協議決定を行う。契約は、当該協議ののち解約の決定に係る通知が甲から乙に到達した日に終了する。なお、甲及び乙は、本項の規定に基づく本契約の終了について、相手方に対し、その責めを負わない。
(1) 本治験責任医師が退職し又は甲以外の外部の機関等へ異動したとき。
(2)第1号に定めるほか、本治験の実施が著しく困難になったとき。
(3)本治験の被験者の安全の確保その他本治験の適正な実施の観点から、本治験を中止すべき、開始できない、又は変更すべきとする、甲の治験審査委員会の判断を得た場合。
(4)第3号に定めるほか、本治験の実施が相当性を欠くと認められるとき。
2 乙は、本治験実施期間に、以下の各号に定める事由のいずれかに該当した場合には、本契約を解約することができる。
(1)乙が、本治験データを被験薬に係る医薬品製造販売承認申請書に添付しないことを決定した場合。
(2)被験薬に係る次相試験を行わないことを決定した場合。
3 本契約が解約された場合(第7条第3項に基づく場合を含む。)、相手方から開示を受けた情報等や未使用分を含めた治験薬[(もしあれば。)]33の返還又は処分の内容や時期について、甲乙協議の上、取り決めるものとする。
第21条(本契約の解除)
1 甲及び乙は、それぞれ、相手方が本契約に違反し又は本契約に基づく債務を履行しない場合には、相当期間を定めて催告し、当該期間内に是正されないときは、本契約を解除することができる。
2 甲及び乙は、以下の各号のいずれかに該当する場合には、何らの催告を要せず、直ちに本契約の解除をすることができる。
(1)相手方が本契約の締結又は履行に関し不正な行為をしたとき。
(2)相手方が本契約の履行に関し、自己の名誉、信用又は評価を毀損したとき。
(3)相手方が本契約の履行に関し、重大な背信行為をしたとき。
(4)相手方が監督官庁から営業停止、営業許可の取消しその他これらに準ずる処分を受けたとき。
(5)相手方が合併によらず解散する旨の決議を行ったとき。
(6)相手方が本契約に係る事業を廃止したとき。
(7)相手方が、事前に書面による同意を得ずして、合併又は本契約に係る事業の全部又は一部の譲渡その他本契約上の地位の移転をもたらす行為をしたとき。
(8)相手方が、自ら振り出し若しくは引き受けた手形若しくは小切手の不渡りが生じ、又は手形交換所の取引停止処分を受け、若しくは当該処分を受けるべき事由が生じたとき。
(9)相手方が、その財産について、仮差押え、仮処分、強制執行若しくは競売その他これらに類する手続の申立てを受け若しくは租税公課に係る滞納処分を受け、又は当該申立て若しくは処分を受けるべき事由が生じたとき。
(10)相手方が、破産法に基づく破産手続開始、会社更生法に基づく更生手続開始、民事再生法に基づく再生手続開始、若しくは会社法に基づく特別清算開始の申立てを受け、若しくは自ら当該申立てを行い、又は当該開始の決定があったとき。
(11)前各号に定めるほか、相手方において本契約を継続し難い重大な事由が発生したとき。
3 本条に定める解除権の行使は、当該解除権を行使した当時者が相手方に対して損害賠償の請求をすることを妨げない。
4 本条に定める解除権を行使した当事者は、本条に基づく解除により相手方に生じた損害について、賠償する責めを負わない。
5 本契約が解除された場合についても前条第3項の規定を準用する。
第22条(反社会勢力の排除)
1 甲及び乙は、甲においては自己、本責任医師、分担医師及び協力者、並びに乙においては自己及び自己の役員等が、現在、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動等標榜ゴロまたは特殊知能暴力集団等、その他これに準ずる者(以下「反社会的勢力」という。)のいずれでもなく、また、反社会的勢力が経営に実質的に関与している法人等に属する者ではないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
2 甲又は乙は、相手方が以下の各号のいずれかに該当する場合には、通知、催告その他の手続きを行うことなく、直ちに本契約の全部又は一部を解除することができ、当該解除により相手方に損害が生じた場合にも、これを賠償することを要しない。また、相手方は他方当事者に発生した一切の損害を直ちに賠償しなければならない。
(1)前条に違反していると認められるとき。
(2)相手方の経営に反社会的勢力が実質的に関与していると認められるとき。
(3)相手方が反社会的勢力を利用していると認められるとき。
(4)相手方が反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められるとき。
(5)相手方又はその役員若しくは相手方の経営に実質的に関与している者が反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき。
(6)自ら又は第三者を利用して、暴力的な要求行為、不当な要求行為、脅迫的な言動、暴力、風説の流布、偽計及び威力を用いた信用棄損及び業務妨害並びにその他これらに準ずる行為をしたとき。
第23条(存続条項)
本契約が終了(解除や解約による終了を含む。)した場合であっても、本条のほか、第12条(被験者の健康被害)、第13条(記録等の保存)、第15条(秘密保持)、第24条(損害賠償)、第25条(不可抗力)及び第28条(準拠法及び裁判管轄)は、当該条項の対象事項がすべて消滅するまでなお有効に存続する。
第24条(損害賠償)
1 甲及び乙は、本契約の違反により直接かつ通常生ずべき範囲に限り、当該相手方に対し、その賠償をしなければならない。当事者の予見し得ない特別の事情から生じた損害、当該損害の原因となった本契約上の義務違反に他の事情が介在して更に生じた間接的な損害並びに逸失利益、機会損失、営業損失、人件費、再調達費用及び派生的損害については、責任を負わないものとする。
2 前項に基づいて甲が負う責任は、第8条第1項に基づいて乙が負担する本治験に係る経費に相当する金額を上限とする。
第25条(不可抗力)
天災、戦争、内乱、暴動等、当事者の責めに帰すべからざる事情により、本契約の履行が中断又は遅延した場合、当該中断又は遅延をした当事者は、その責任を負わないものとする。
第26条(契約上の地位等の移転の禁止)
甲及び乙は、事前に書面による相手方の同意を得ることなく、第三者に対し、本契約上の地位又は本契約に基づく権利若しくは義務を承継(合併等による承継を含む。)し、譲渡(本治験に係る事業の全部又は一部の譲渡を含む。)し、移転し、若しくは担保に供し、又はその他の処分をしてはならない。
第27条(誠実協議)
本契約に定めのない事項及び疑義が生じた事項については、甲及び乙が、誠実に協議を行った上で、これを解決するものとする。
第28条(準拠法及び裁判管轄)
1 本契約は、日本国の法律に準拠する。
2 本契約に関する訴えは、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
甲及び乙は、本契約の締結を証するため、本契約書2通を作成し、それぞれ各1通を保管する。
令和●年●月●日
(甲)[アカデミア側(大学、国立高度専門医療研究センター等)]
(乙)[製薬企業等]
私、薬事関係法令等、本治験実施計画書及び本契約を遵守して本治験を実施いたします。
[令和●年●月●日
本治験責任医師(自ら治験を実施する者):●●]34
本雛形(第2版)の改定作業はARO知財専門家連絡会のWGにより実施された。WG構成メンバーは以下のとおり:石埜正穂(札医大)、礒江敏幸(北大)、高橋亨(東北大)、水落登希子(慶応大)、服部華代(京大)、吉田宏治(九大)、尾前薫(TRI)、木村泰子(TRI/京大)
治験細目35
1.治験の題目 |
●● |
2.治験の目的・内容 |
●● |
3.治験実施期間 |
●● |
4.治験実施医療機関 |
●● |
5.治験担当者/治験協力者 |
|
なお、本治験の詳細については、本治験実施計画書等に記載のとおりである。
1 医師主導治験に係る契約や治験データ等利用許諾契約の契約主体を病院とする例がある。しかし、アカデミア側の附属病院それ自体に法人格はなく、契約主体となる可能性がないため、契約主体はアカデミア側の法人とすることが適当である。そのため、医師主導治験に係る契約(案)及び治験データ等利用許諾契約(案)においては、それらの契約主体を、「アカデミア側の法人」及び「製薬企業等」としている。
なお、多施設共同治験の場合については、治験の実施により得られた治験データをどの機関に帰属させるのか、当該治験データの利用等を許諾する場合に、各治験実施機関と製薬企業等との間で個々に契約を締結するのか、代表となる機関に治験データを集約した上で、当該機関(アカデミア側)と製薬企業等との間でのみ、治験データ等利用許諾契約を締結するのかなど、別途検討すべき事項があることに留意すべきである。
2 医師主導治験に係る契約(案)及び治験データ等利用許諾契約(案)における目的は一例にすぎず、個別の事案の内容に応じて、適切に設定する必要がある。もっとも、医師主導治験に係る契約(案)や治験データ等利用許諾契約(案)の目的は、乙(製薬企業等)の社内検討や利用等の許諾の範囲などにも関係するものであるため、医師主導治験に係る契約(案)及び治験データ等利用許諾契約(案)を踏まえた契約を締結する場合には、当事者双方で契約の目的について慎重に検討する必要があろう。
3 前文に治験責任医師の名前を記載することによって治験責任医師も契約当事者であるように誤解される懸念もあるので、ここには記載せず、必要に応じて別紙で治験責任医師を特定する等の方法も考えられる。
4 契約書において頻繁に使用する用語については、契約書の初めの方で、当該契約書における当該用語の定義についての条項を定めることが望ましい。医師主導治験に係る契約(案)は、参考の意味も兼ねて、比較的詳細に用語の定義を定めているが、どの程度の用語を契約書において定義するかは、当事者間で協議して定めることになろう。提供対象薬剤に併用薬、レスキュー薬、前投与薬等も含む場合は「本治療薬」の定義に追記が必要となることに留意すべきである。
5 医師主導治験に係る契約(案)に基づいて、アカデミア側が製薬企業等に対して提供するものが本治験総括報告書であることを踏まえると、本治験総括報告書にいかなる情報を記載するかに関係する本治験実施計画書における「評価項目」などについては、アカデミア側と製薬企業等との間で十分に協議をした上で、慎重に定める必要があろう。また、本治験総括報告書に、本治験実施計画書において定めた「評価項目」などに関するデータが掲載されていないことが認められた場合には、アカデミア側が本治験総括報告書の修正に応じることとなろう。
6 治験データ等の利用許諾に係る契約は、医師主導治験に係る契約に基づいて作成された治験総括報告書を踏まえて、製薬企業等が治験データ等の利用許諾を受ける場合において、当該製薬企業等が利用等の許諾を受ける治験データ等の範囲を定めるものである。医師主導治験に係る契約及び治験データ等利用許諾契約において、アカデミア側が特定のデータや文書に限って製薬企業等に提供し、これらの利用の許諾をする場合には、利用許諾等の対象について、疑義のないように定める必要があることに留意すべきである。必要に応じて、治験の入力データ(EDCデータ)、臨床試験データセット(SDTMとする)、解析データセット(ADaMとする)などを追記する。
7 個人情報の保護に関して、例えば、「甲及び乙は、本治験に関して相手方から開示を受けた情報に個人情報が含まれていた場合には、その保管や取扱いについて個人情報の保護に関する法令等を遵守し、滅失、毀損、盗難、漏洩等のないように措置を講じるものとする」という規定を設けることも考えられる。
8 本治験が、製薬企業等の製品の共同プロモーションに関するものや当該製薬企業等を有利に取り扱おうとするものではないことを明記することも考えられる。
9 アカデミア側や製薬企業等の責務として、本被験薬の製造販売承認申請に係る業務を記載することも考えられる。また、必要に応じて進捗状況や経費使用状況の報告等についても記載する。
10 治験薬の回収等について、製薬企業等の責務とする例もある。
11 医師主導治験に係る契約において、記録の保存に関してより具体的な内容を定めることも考えられる。
12 医療機器や再生医療等製品の場合にはそれぞれのGCPに記載を修正する必要がある。
13 医師主導治験に係る契約(案)は、製薬企業等が負担する本治験に係る経費のみを明記しているが、アカデミア側と製薬企業等の双方が本治験に係る経費を負担する場合には、それぞれが負担する経費を契約書において明記することも可能である。もちろん、本治験に係る経費について、どちらか一方だけが負担する場合や、本治験に係る経費の全部又は一部に公的資金を充当する場合も考えられる。
負担する経費の額に加えて、本治験に係る経費の全部又は一部に公的資金を充当した(する)場合については、どちらの経費負担をどの程度軽くするのかなどの取扱いについて定めておくことも考えられる。そのほかにも、本治験に係る経費が不足した場合に、製薬企業等に対し、当該不足の理由を説明しつつ、追加の負担に係る協議を行う旨を定めることも考えられる。
乙の経費の支払方法について、医師主導治験に係る契約(案)においては、一括払いとなっているが、これは一例であり、分割払いやマイルストーンごとの支払も考えられる。また、起算日や遅延損害金の利率等についての記載も一例であり、個々の事情に応じて協議して決めるものである。
なお、脚注1において述べたとおり、医師主導治験に係る契約(案)には、アカデミア側に対して製薬企業等から研究費等が提供されているとしても、当該研究費等には治験データ等の提供や利用の許諾に関する対価が含まれていないことを前提としている。
14 脚注1において述べたとおり、医師主導治験に係る契約(案)では、附随研究を実施することを前提とはしていないが、仮に、医師主導治験だけではなく、附随研究を実施することを前提とし、当該附随研究に関して、製薬企業側がアカデミア側に対して何らかの支援等を行う場合には、その内容について、別途契約を締結するか、医師主導治験に係る契約において明記すべきであろう。
15 本治験薬の提供に関して、本治験薬の規格、提供数量、提供時期、搬入先、搬入方法、保管・管理方法等を詳細に規定した条項や、これらの事項を当事者双方で協議の上決定する旨の条項を設けることも考えられる。また、アカデミア側が製薬企業等に対して提供の依頼を求める書面において、必要な数量等を明記する旨の条項を設けることも考えられる。
16 治験薬の提供については、必ずしも無償が前提ではない。アカデミアに公的予算が充当されている等の事情によっては、治験薬の提供や当該提供に係る費用を甲が負担する場合もあり得る。
17 進捗状況として報告する内容、方法および頻度等については、予め治験薬提供企業と相談して決めておくことが望ましい。
18 報告期限等を含め、詳細については別途、取り決める必要がある。
19 企業側の故意または重過失等により被験者に健康被害が発生した場合の対応については、事前に企業側と協議し方針を決めて置く必要がある。
20 医師主導治験の実施後に、製薬企業等が本治験データの利用に関して優先的交渉権を求めた場合に、アカデミア側が製薬企業等に対し、製薬企業等が本治験薬について承認申請を行うか否かの検討のために本治験総括報告書を優先的に開示することに関する条項である。製薬企業等が、評価のために本治験総括報告書に加えて、アカデミア側が保有する本治験データの中から必要なものを閲覧する可否についてアカデミアと協議することを要請できるようにしてもよい。その場合、例えば、「乙は、甲に対し、本治験総括報告書に記載されている内容に係る原資料や解析の過程についての情報等の閲覧についての協議の申し入れをすることができる。当該協議の結果、甲が乙に対して情報の全部又は一部の閲覧を認めた場合、乙は、閲覧した当該情報等を、第4項に定める決定をするか否かを検討するためにのみ用いることができ、その他の目的で使用してはならない。また、甲の事前の書面による同意なしに、第三者に対し、当該情報等を開示、提供、漏洩してはならない。」というような内容の条項を設けることが考えられる。あるいは、閲覧を認める範囲の本治験データ(本治験総括報告書を含む)をまとめて本治験総括報告書等と定義し、全体として複製や第三者開示等の制限の対象とし、ケース バイ ケースで、複写、複製、記録などを禁止する条項を設けることも可能である。このように、閲覧可能な範囲が本治験総括報告書及び本治験データの一部を含み「本治験総括報告書等」の定義をさだめた場合は、8条4項、14条2項、14条4項、16条3項において、「本治験総括報告書」を「本治験報総括告書等」に置き換えることになる。
21 冒頭の説明文において示した表の中で、「備考1企業のデータの利用権」の項目に「企業(独占)」と記載されているケース等企業が独占的な利用を希望する場合については、本条における出口を変更しても良い。すなわち、 優先的利用に係る選択権行使の可否を決定するのではなく、治験薬提供者がその責務として承認申請を行うことを前提に、本治験総括報告書を当該申請のための資料とすることの可否を決定する条項とすることも考えられる。
22 具体的な期間については、実施する治験の内容などを踏まえつつ、アカデミア側と製薬企業等との間で協議して決めるものである。
23 第Ⅲ相試験等の場合、当該治験結果を受けて、被験薬について、医薬品製造販売承認や上市の投資可否について社内検討するための情報・期間が必要であることも考えられる。この点を踏まえて、必要に応じて、アカデミア側の本治験総括報告書の作成、提供よりも前に、使用目的を制限した上で、製薬企業等に対し、本治験総括報告書に掲載する予定のデータの一部を先行的に閲覧させることについての規定を設けることも考えられる。
24 具体的にどの程度の期間を本検討期間とするのかについては、個別具体的な事情を踏まえて、アカデミア側と製薬企業等との間で協議して確定することになる。
25 本項及び第6項における期間を、実際にどの程度の期間にするかは、アカデミア側と製薬企業等との間で協議の上で定めることになろう。
26 承認申請に使用しない場合であっても重要なデータに変わりないので、検討のための利用であっても課金対象としてなりうることを記載しておいても良い。さらに、二次利用のような利用目的によっては、どういった利用について使用料をとるかについては、製薬企業等と協議の上明確にしておく必要がありうる。
27 製薬企業等が検討を行っている間に、アカデミア側が他の製薬企業等に対して本治験データを開示等した場合、医師主導治験に係る契約の当事者である製薬企業等が、その結果を利用して得ようと考えていた利益が得られなくなる可能性が高まる。製薬企業側としては、そのような事態を防止するために、一定の期間について、アカデミア側が、第三者に対して、本治験データを開示等するのを制限する規定を設けることが考えられる。医師主導治験に係る契約(案)においては、製薬企業等が本検討を行っている間や本治験データの提供、利用許諾に係る契約を交渉するための期間について、アカデミア側が他の製薬企業等に本治験データを開示又は提供し、その利用の許諾についての打診を行わない期間(独占的・優先的交渉期間)を定めている。一方、当該企業が本治験データ等を利用しない、承認申請へ進めないと決断した場合は、アカデミアは第三者との交渉のために第三者への開示を可能とする。
28 医師主導治験である本治験は、本治験責任医師の責任の下でアカデミア側が実施するものであるから、本治験データの利用権限(利用許諾をする権利を含む。)及び本治験データそのものに係る知的財産権(不正競争防止法による保護の対象を含む。また、海外の知的財産権を含む。ただし、第三者に帰属するものは除く。)その他一切の権利は甲に帰属することになると考えるのが適当である。また、それに係る知的財産権についてもアカデミア側に帰属し、本契約がこれらについての利用を許諾するものではない。このことを規定したのが、本規定である。
なお、本治験の実施過程において、アカデミア側(又は治験責任医師等)が本治験とは直接関係のない発明等をすることも想定される。もっとも、そのような事態は珍しいことと考えられる。また、本治験の実施過程で発明等されたものとはいえ、本治験の実施そのものとは直接関係のない発明等は、本治験の実施過程において、当該発明等を自発的に成し遂げたアカデミア側(又は治験責任医師等)によるものであることは明らかであると思われる。したがって、通常、当該発明等はアカデミア側(又は治験責任医師等)に帰属することになると考えるのが適当であり、製薬企業等との間で権利の帰属が問題となることは少ないと思われる。医師主導治験に係る契約(案)においては、このような発明等に係る知的財産権その他一切の権利の帰属について、特に定めを設けていないが、個別の事情等によっては、製薬企業等とアカデミア側との間で十分に検討することが必要であろう。
29 発明は自然に出てくるものではなく努力して創作されることを考えれば、大学の寄与分を適正に評価することにより大学に発明へのインセンティブを与えWIN-WINの関係を築くほうが得策といえる。
30 第14条で必要な原資料等の開示についても定めている場合には、本項においても「本治験総括報告書等」とする。
31 医師主導治験に係る契約(案)では、本研究成果の発表等に関して、事前に協議を行うべき義務を定めたが、例えば、相手方の同意を得るべき義務を規定することも考えられる。なお、具体的な期間については、個別の事情に鑑みて、アカデミア側と製薬企業等との間で協議の上の決めるべきものである。
32 本条における「〇ヶ月」は第14条に合わせたものである。
33 未使用分の研究経費に関しても返還の必要性がある場合には定めておく。
34 治験責任医師の署名は契約上不要で、責任医師が契約当事者であるかのような誤解を招きかねない懸念さえあるが、必要に応じて署名欄を設けることは可能である。
35 医師主導治験に係る契約(案)の治験細目に記載した項目は、あくまでも一例である。本文中に掲載した項目以外にも、本治験責任医師の氏名、本治験の担当者や協力者の氏名、実施予定症例数、それぞれの治験施設や設備、本治験に係る費用の負担額などを記載することも考えられる。
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