Contract
労働法の概要 第1章 労働法の役割 労働契約は私法上の契約であるから、契約自由の原則により、その契約内容を労働者と使用者の合意により自由に決定できるはずである。しかし、一般に労働者は使用者に比べて交渉力や情報量の面で大きく劣位するため、労働契約について契約自由の原則を貫徹すると、労働者が不利な契約内容を押し付けられることになりがちである。そこで、労働法は、実質的な意味での契約の自由(さらには、市場機能)を回復させるために、労働基準法や労働契約法、労働組合法などにより特別な法的規律を設けている。 労働法は、対象領域に着目して、雇用関係法、集団的労働法、雇用保障法に分類することができる。以下では、雇用関係法と集団的労働法の概要を取り上げる。 第2章 雇用関係法 個々の労働者と使用者との間の雇用関係を規律する法律の総称である。代表的なものとしては、労働基準法、労働契約法が挙げられる。これらは、労働条件の最低水準を定めるとともに、基本的人権に関する規律や労働契約に関する基本的ルールを定めている。 1.労働契約の内容の規律(形成/補充) 労働条件は、労働契約の内容により決せられる。 労働契約の内容を規律する代表的なものとしては、労使間の合意(労働契約法 3 条 1 項・8 条)、就業規則(労働契約法 7 条本文・10 条本文)・労働協約(労 働組合法 14 条以下)・強行法規の一部(労働基準法 32 条等)が挙げられる。 [図解] 労働条件に関する労働契約の内容 労使間合意 就業規則 労働協約 強行法規の一部これらの間には、優劣がある。 ①労使間合意・就業規則・労働協約は強行法規を下回ってはならないから、 「労使間合意・就業規則・労働協約 ≧ 強行法規」となる。 ②労使間合意は就業規則の水準を下回ってはならないから、「労使間合意 ≧就業規則 ≧ 強行法規」となる。 ③労使間合意・就業規則は労働協約を下回ることも・上回ることもできないから、労働協約は、労使間合意・就業規則に優先して、労働条件を労働者にと って有利にも不利にも規律する(有利原則否定説)。 | ほかにも、労使慣行(民 92 条)と xxx(民 1 条 2 項、労契 3 条 4 項)がある。 厳密には、外部規律説からは、労働協約は労働契約を外部から規律するにとどまる(契約内容の修正は伴わない)。 速修 322 頁 1(3)イ |
2.雇用関係法における労働者・使用者の概念 例えば、労働基準法における労働者は、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい(労基 9 条)、これに当たるかは、契約の形式ではなく、使用従属関係の有無を基準として判断される。 使用者は、原則として、労働者が労働契約を締結した相手方(雇用主)を意味する。もっとも、黙示の労働契約や法人格否認の法理により、使用者概念が元々の雇用主以外の者にまで拡張されることがある。 3.就業規則 (1) 意義 労働契約の内容は、労使間合意により設定されるのが原則的な在り方である(合意原則/労契 1 条・3 条 1 項)。 しかし、多数の労働者に共通する労働条件(=集団的労働条件)を統一的に設定する必要性から、一定の手続・要件の下に、使用者が就業規則の新設により労働者たちの労働契約の内容を一方的に規律することが許容されている(労契 7 条本文)。 要件は、①就業規則の実質的「周知」(労働者が知ろうと思えば知り得る状態にしておくこと)と、②就業規則の「合理」性である(労契 7 条本文)。 なお、一旦設けた就業規則を変更することで労働条件を労働者にとって不利益に変更することも、「周知」・「合理」性を要件として、許容される(労契 10 条本文)。この場合の「合理」性は、労xx 7 条本文の「合理」性よりも厳格に判断される。 (2) 効果 就業規則には、①労働契約の内容を規律(修正を含む)する契約内容規律効と、②最低基準効(労契 12 条)。②により、就業規則を下回る労使間合意は無効とされ、当該労使間の労働契約の内容が就業規則通りとなる。 なお、就業規則と異なる内容の労使間合意のうち、就業規則の内容よりも労働者に不利益でないものは、就業規則に優先する(労契 7 条但書・8 条)。 4.労働憲章・雇用平等 (1) 労働憲章 労働基準法は、戦前みられた封建的な労働慣行を排除するために、各種の規定を設けている。 (2) 雇用平等 憲法 14 条の平等原則の理念を実効あらしめるために、私人間の労働契約についても、労使間の交渉力格差などにかんがみ、雇用平等を実現するための法的規律が設けられている。 例えば、労働者の国籍・信条・社会的身分を理由とした労働条件の差別を禁止する労働基準法 3 条、女性であることを理由とする賃金の差別を禁止す る労働基準法 4 条、男女雇用機会均等法などが挙げられる。 | 速修 8~24 頁 速修 25~40 頁 ①は契約内容補充効とも呼ばれる。 労使間合意(個別的労働契約)で定められている労働条件の不利益変更の可否は、速修 29 頁 1(1)参照 速修 41~43 頁 速修 44~54 頁 |
5.雇用関係の成立 (1) 募集・採用 労働契約は諾成契約であり(民 623 条、労契 6 条)、使用者による募集に対して労働者が応募し、使用者が選考のうえ採用するという形をとることが多い。 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなればならない(労基 15 条 1 項前段)。 (2) 採用内定 採用内容の法的性質については、①入社までの労働契約の締結過程にすぎず、当事者間に権利義務は発生しないとする見解、②卒業後に労働契約を締結すべき旨の予約であるとする見解、③採用内定時に労働契約が成立するとする見解がある。 採用内定の実態は多様であるため、採用内定の法的性質は、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して判断されるべきであり、採用内定の時点で、労使間において労働契約締結の確定的意思表示の合致があったといえるのであれば、労働契約の成立が認められる。 (3) 試用期間 入社後に労働者の職務能力・適格性を判断するという試用目的で、労働契約に期間が設けられることがある。試用目的で付された期間は、特段の事情のない限り、契約期間とは区別される試用期間である。 6.労働契約上の権利義務 (1) 基本的義務 ア.労働者の労働義務 労働者は、「使用者に使用されて」労働に従事する義務を負う(労契 2 条 1 項、6 条)。 労働者の労働義務の内容(「債務の本旨」の内容)は、使用者による適法な指揮命令(労務指揮権の行使)によって形成される。 使用者の指揮命令権(業務命令)は労働契約を根拠とするから、その範囲は労働契約の予定する範囲内に限定される。また、権利濫用法理(労契 3 条 5 項)にも服する。 イ.使用者の賃金支払義務 使用者は、労働契約に基づき、労働者に対して賃金を支払う義務を負う。もっとも、具体的な賃金支払義務が生じるのは、原則として、労働者が 債務の本旨に従って労働義務を現実に履行したときである(民 624 条 1 項)。例外として、労使間合意・民法 536 条 2 項前段が挙げられる。 (2) 付随義務 労働者は、xxxに基づく労働契約上の付随義務として、労働義務と直接には関わらない領域においても使用者の利益侵害を避けるという義務を負う。特に、秘密保持義務・競業避止義務が重要である。 | 速修 55~60 頁 速修 61~65 頁 速修 66~70 頁 速修 72~73 頁 改正民法 624 条の 2 では、割合的賃金請求権が新設された。 速修 74~80 頁 |
7.人事 人事とは、企業における労働者の組織づけや管理一般をいい、その内容は、募集、採用、教育訓練、福利厚生、人事異動、懲戒処分、解雇その他の退職管理など、きわめて多岐にわたる。 人事の一環として、昇格・昇進、降格、配転(企業内における勤務先又は職務内容の変更)、在籍出向(出向元企業との労働契約関係を維持しつつ、出向先企業の雇用管理に服し、その指揮命令に従い就労すること)、移籍出向(転籍:出向元企業との労働契約関係を終了させ、出向先企業との間で新たなに労働契約関係に入る)、休職(労働者に就労させることが適切でない場合に、労働契約を存続させつつ労働義務を一時消滅させること)も重要である。 8.労働基準法上の賃金 労基法上の賃金には、平均賃金(労基 12 条)や割増賃金(労基 37 条)の算定基礎として用いられたり、通貨払いの原則・直接払いの原則・全額払いの原則・毎月一回以上定期払いの原則という労基法上の保護(労基 24 条 1 項)の対象になるといった意味がある。 労基法上の「賃金」の要件は、①支払主体が「使用者」であること、②「労働の対償」として支払われるものであることである。 ②は緩やかに解されており、具体的労働に対応しない各種手当等であっても、使用者が労働契約に基づいて支払義務を負うものであれば、②を満たすと解されている。 9.労働時間 (1) 労働時間規制 1 日の労働時間は 8 時間、1 週間の労働時間は 40 時間までである(労基 32 条 2 項、1 項)。 労働時間の計算は、原則として、実労働時間(使用者が労働者を労働させた時間)を基準として、当該 1 日・1 週間ごとに行われる。もっとも、労働時間の計算を柔軟に行える制度として、変形労働時間制(労基 32 条の 2・4・ 5)、フレックスタイム制(労基 32 条の 3)、みなし労働時間制(労基 38 条の 2・3)がある。 当該事業場の過半数労働組合(これがない場合には過半数労働者)と書面による労使協定を締結し、これを所轄労働基準監督署に届け出ることにより、適法な労使協定の内容の範囲で、時間外労働をさせることができる(労基 36条)。この意味で、労使協定には、労基法の労働時間規制を解除する例外創設効果(違法性阻却効果)がある。 (2) 割増賃金 法定時間外労働(さらには、法定休日労働・深夜労働)に対しては、労基 37 条 1 項及び割増賃金令並びに規則 21 条所定の割増率による割増賃金を支払わなければならない。 | 速修 81~107 頁 速修 108~133 頁 速修 134~165 頁 |
(3) 例外 労働時間・休憩・休日・深夜労働に関する労基法の規制の全部又は一部の適用が除外される場合として、適用除外(労基 41 条)、高度プロフェッショ ナル制度(労基 41 条の 2)、災害・公務の必要による場合(労基 33 条)、恒 常的例外(労基 40 条)がある。 10.年次有給休暇 使用者は、その雇入れの日から起算して 6 箇月間継続勤務し全労働日の 8 割以上出勤した労働者に対して、10 労働日の有給休暇を与えなければならない (労基 39 条 1 項)。 11.年少者・女性の保護 年少者・女性の保護のために、労基上特別の規制が設けられている。 12.育児・介護休業法 育児・介護休業法は、職業生活と家庭生活との調和(ワークライフバランス)を実現するために、育児・介護のための休業等の措置を定めている。 13.労働災害 (1) 労災補償 労働災害(業務上の負傷・疾病・死亡)の救済を不法行為の規定に委ねた場合における過失の立証責任や民事訴訟提起の負担から労働者を解放し、被災労働者等の実効的な救済を図るために、労基法上の災害補償(労基 75 条以下)、さらには労災保険法上の労災保険制度が設けられている。 補償・給付の対象となる負傷・疾病・死亡は、「業務上」生じたもの、すなわち業務に内在する危険が現実化したものに限られる。 (2) 安全配慮義務 労働契約法 5 条は、労働契約に基づく労務の管理支配という特別な社会的接触関係を実質的根拠として、使用者の労働者に対する安全配慮義務を定めている。 14.懲戒 懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由とする制裁罰である。これには、けん責・戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇がある。 ①懲戒権の具体的な行使が許容されるためには、懲戒の種別・事由を明定する(合理的な)就業規則の規定の存在(労基 89 条 9 号)とその周知が必要とさ れる(労契 7 条本文)。 ②懲戒は、懲戒権濫用法理(労契 15 条)に服するから、「客観的に合理的な理由」(=就業規則上の懲戒事由該当性)と「社会通念上相当である」こと(処 分の均衡・適正手続など)が要求される。 | 速修 166~178 頁 速修 179~182 頁 速修 183~187 頁 速修 188~199 頁 速修 200~213 頁 |
15.雇用関係の終了(解雇以外) 雇用関係の終了原因には、解雇のほかに、合意解約、辞職(労働者の単独行為)、定年制(のうち、定年年齢到達を無期労働契約の終了事由として合意するもの)、当事者の消滅等がある。 16.解雇 (1) 意義 解雇とは、使用者からの一方的な意思表示により労働契約を将来に向けて解約することをいう。 民法上は、無期労働契約においては、使用者側に解雇の自由が認められている(民 627 条 1 項)。もっとも、解雇の自由が労働者に及ぼす不利益が退職の自由が使用者に及ぼす不利益を凌駕するため、解雇には、解雇理由の制限(労基法ほか各種法令)、解雇禁止期間の規制(労基 19 条)、解雇予告制度 (労基 20 条)、解雇理由の証明(労基 22 条)および解雇権濫用法理(労契 16 条)という規制が設けられている。 有期労働契約の中途解約については「やむを得ない事由」(労契 17 条 1 項、 民 628 条)が要求される。有期契約労働者には定められた期間中の雇用継続 が保障されるから、「やむを得ない事由」は、労xx 16 条の要件よりも厳格に解釈される。 (2) 解雇権濫用法理 解雇には、①「客観的に合理的な理由」と②「社会通念上相当である」ことが要求される(労契 16 条)。 ①では、解雇の最後の手段の原則に従い、就業規則上の解雇事由該当性が厳格に判断される。 ②では、解雇が労働者に均衡を失するほどの不利益を及ぼすものでないことを中心としつつ、使用者の不当な動機・目的、解雇手続も考慮される。 17.非xx雇用 以下では、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者を取り上げる。 (1) 有期雇用労働者 ①中途解約の制限 有期労働解約の中途解約には「やむを得ない事由」が必要であり(労契 17 条 1 項、民 628 条)、これは労xx 16 条の要件よりも厳格に解釈される。 ②無期労働契約への転換申込権 複数の有期労働契約の通算契約期間が 5 年を超える労働者は、現に締結している有期労働契約の期間満了日までに転換申込権(形成権)を行使することで、当該満了日の翌日から労務が提供される労働契約を無期労働契約に転換させることができる(平成 24 年改正労契 18 条)。 ③雇止めの判例法理の明文化 有期労働契約の期間満了後における黙示の更新の成立(民 629 条 1 項)を | 速修 214~221 頁 速修 222~242 頁 整理解雇(余剰人員削減のための解雇)・変更解約告知(労働条件変更の手段としての解雇)については、各々の特殊性を踏まえて解雇権濫用が審査される。 速修 244~272 頁 同条施行日である平成 25 年 4 月 1日よりも前の日を初日とする有期労働契約の期間は通算契約期間に算入しない。 |
妨げるために、使用者が更新拒絶の通知(「異議」)をすることがあり、これを雇止めという。平成 24 年改正労xx 19 条により、従来の雇止めの判例法理が明文化され、①労働者が期間満了日まで又は期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、③期間の定めが形骸化して無期契約と実質的に異ならない状態に至っているか、又は契約更新への合理的期待が認められるときには、③更新拒絶について「客観的に合理的な理由」と「社会通念上」の「相当」性がない限り、使用者は従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で①の申込みを承諾したものとみなされることとなった。
④待遇についての不合理な相違・差別的取扱いの禁止
平成 24 年労xx改正により、有期契約労働者と無期契約労働者の間における不合理な待遇の相違を禁止する規定が新設された(旧労契 20 条)。その後、平成 30 年改正により、パートタイム労働法が短時間・有期雇用労働
法に改題されたことに伴い、労xx 20 条が削除され、有期雇用労働者の労
働条件の不合理な相違の禁止が短時間・有期雇用労働法 8 条に統合された。さらに、通常の労働者と同視すべき有期契約労働者の待遇についての差別的取扱いも禁止されるに至った(同法 9 条)。
(2) 短時間労働者
平成 30 年改正前は、旧パートタイム労働法が、短時間労働者(パートタイマ―)と通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を目的として、短時間労働者のみを適用対象としていた。
平成 30 年改正により、旧パートタイム労働法が短時間・有期雇用労働法に改題され、短時間・有期雇用労働法が、短時間労働者・有期雇用労働者と通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を目的として、短時間労働者と有期雇用労働者の双方を適用対象とするに至った。
同法 8 条は、短時間労働者(及び有期契約労働者)の待遇について、当該待遇に対応する通常の労働者との間で不合理な相違を設けることを禁止している。
同法 9 条は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者(及び有期契約労働者)の待遇について、通常の労働者と比較して差別的取扱いをすることを禁止している。
(3) 派遣労働者
労働者派遣とは、①自己の使用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、
②他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約するものを含まない(労働者派遣法 2 条 1 号)。
許可制(派遣 5 条)、派遣可能期間(派遣 40 条の 2・3)、派遣元における
不合理な待遇の相違の禁止(派遣 30 条の 3 第 1 項)・差別的取扱いの禁止
(派遣 30 条の 3 第 2 項)、派遣先における直接雇用申込みみなし制度(派遣
40 条の 6)といった規定が重要である。
第3章 労働組合法 1.労働組合法の意義 強行法規・就業規則の最低基準を超える労働条件の実現は、労使間の交渉に委ねられている。 ところが、労働者個人では使用者と対等な交渉を行うことは困難であり、労働者は労働組合を組織して集団的な交渉を行うことで、はじめて使用者と対等な立場での交渉を実現できるようになり、最低基準を超える労働条件の実現への道筋が開かれる。 そこで、憲法 28 条は、団体交渉による労働条件の対等な決定と団体交渉の助成を基本目的として、最低基準を超える労働条件の実現を目指して行われる労働者による団体交渉とそのための団結・団体行動を保障している。 これを受けて労働組合法は、憲法 28 条の保障内容を具体化するために、団体交渉を有利に進める手段である争議行為(団体行動の一部)について、刑事・民事責任の免責(労組 1 条 2 項、8 条)を規定するとともに、使用者による労 働基本権侵害行為を一定の要件の下に不当労働行為として禁止し(労組 7 条)、さらに不当労働行為に対する実効的な救済を図るために労働委員会による救済制度(労組 27 条以下)も設けている。これらに加えて、労働組合法は、使用者と労働組合との団体交渉を経て締結されるに至った合意内容の実効性を確保するために、労働協約に規範的効力という特別の効力を認めている(労組 16 条)。 2.労使関係の当事者 労組法の「労働者」(労組 3 条)には、労働契約によって労務を提供する者のみならず、これに準じて団体交渉助成のための労組法の保護を及ぼすべき必要性・適切性が認められる労務提供者も含まれる。 労組法の「使用者」は、一般に、雇用主を意味するが、不当労働行為制度(労組 7 条)の目的に照らし、労働契約関係に隣接ないし近似する関係の一方当事者にまで拡張されている。 労組法の「労働組合」(同法 2 条)は、労働者主体性・自主性・目的(労働者 の経済的地位の向上)・団体性の 4 要件を満たす必要がある。不当労働行為に ついて労働委員会による救済命令の申立てをするためには、労組法 5 条 2 項の民主性要件も満たす必要がある。 3.労働組合の運営 …略… 4.団体交渉 労働組合がその代表者を通じ、使用者との間で労働条件その他の労働者の待遇または集団的労使関係の運営に関する事項について交渉をすることをいう。強行法規・就業規則の最低基準を超える組合員の待遇の実現を目指して行わ | 速修 274~276 頁 厳密には、団体交渉の手段とはならない団結・団体行動(組合活動の一部)も保障対象に含まれている。 速修 277~290 頁 速修 287~306 頁 速修 307~315 頁 |
れることが多い。 憲法 28 条では「勤労者」の団体交渉権が憲法上の権利として保障されてお り、これを受けて、労組法 7 条 2 号では、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止している。 5.労働協約 (1) 意義 労働協約とは、労働組合と使用者(又は使用者団体)との間の労働条件その他に関する合意であって、書面が作成され、両当事者が署名又は記名押印したものである(14 条)。 (2) 効力 ア.規範的効力 協約内容のうち、締結組合の組合員の「労働条件その他の労働者の待遇に関する部分」(=規範的部分)には、規範的効力が認められる(労基 16条)。したがって、組合員・使用者間の労働契約の内容である労働条件は、協約内容通りに規律(修正を含む)される(有利原則肯定説が前提)。 労働協約の性質は契約であるから、本来であれば契約当事者である締結組合にしかその効力が生じないはずであるが、労組法 16 条により政策的に与えられた特別の効力である規範的効力が所属組合員にも及ぶ。 規範的効力の主観的範囲は原則として協約締結組合の所属組合員に限られるが、例外的に拡張されることがある(労組 17 条・18 条)。 イ.債務的効力 規範的効力とは異なり、協約当事者である労働組合と使用者との間において生じるものであり、これは契約の効力として認められるものである。協約内容のうち、集団的労使関係の運営に関する部分については、規範 的効力は生じないが、債務的効力が認められる。 6.争議行為 集団的労務不提供(ストライキ・怠業)を中心とした概念である。 憲法 28 条により、労使の実質的対等の下で団体交渉を機能させるための手段として、労働者の争議権が保障されている。 これを受けて、労組法では、「労働組合」による「正当」な争議行為について、民事免責(労組 8 条)・刑事免責(労組 1 条 2 項)の対象にするとともに、これを理由とする組合員に対する不利益な取扱いを不当労働行為として禁止している(労組 7 条 1 号本文前段)。 7.組合活動 組合活動とは、争議行為以外の労働組合の諸活動をいう。 労組法では、「労働組合」による「正当」な組合活動について、刑事免責(労 | 速修 316~339 頁 労働協約による労働条件の不利益変更は、原則として労使自治に委ねられるものの、一定の限界に服する。 規範的部分にも債務的効力が生じる。 速修 340~356 頁 速修 357~364 頁 |
組 1 条 2 項)の対象にするとともに、これを理由とする組合員に対する不利益 な取扱いを不当労働行為として禁止している(労組 7 条 1 号本文前段)。労組 法 8 条では民事免責の対象行為として組合活動が挙げられていないが、同条は 憲法 28 条の私人間効力の確認規定であるから、組合活動にも民事免責が及ぶと解される。 組合活動権は、争議権のように使用者の業務を阻害することを認められる権利ではない。したがって、組合活動は、原則として、①労働義務違反、②施設管理権侵害、③誠実義務違反のいずれも伴わない態様で行われる必要がある。 8.不当労働行為制度 (1) 意義 労働組合法は、使用者による労働基本権侵害行為が行われた場合に、これを除去・是正するとともに、そうした侵害行為のない対等・xxな集団的労使関係を将来に向けて形成することを目的として、不当労働行為制度を設け、使用者による一定の労働基本権侵害行為を禁止する(7 条)とともに、労働委員会(行政機関)による特別の救済制度(27 条以下)を定めている。 (2) 不当労働行為の類型 労組法 7 条各号の不当労働行為のうち、不利益取扱い(労組 7 条 1 号本文 前段)、団体交渉拒否(同条 2 号)、支配介入(同条 3 号)が重要である。 ア.不利益取扱い 要件は、①「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたこと」、②「使用者」による①「の労働者」に対する「不利益な取扱い」、 ③②が①の「故をもって」なされたこと(不当労働行為意思)である。 イ.団体交渉拒否 要件は、「使用者」が労働組合による「団体交渉」(義務的団交事項を交渉事項とするものに限る)を「正当な理由」なく「拒むこと」である。 ウ.支配介入 支配介入とは、「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」(3 号本文前段)であり、これは、労働者・労働組合の自主的活動を妨げ、労働組合を弱体化する行為全般を指す概念である。 要件は、①労働組合の結成・運営に対する「支配」又は「介入」となる行為(支配介入行為)と、②使用者の支配介入の意思である。 (3) 労働委員会の救済命令 救済命令の内容について、労働委員会の裁量(行政裁量)が認められる。この裁量権はおのずと広きにわたることになるが、正常な集団的労使関係 の回復・確保を図るという不当労働行為制度の趣旨・目的に由来する一定の限界があり、救済命令は、不当労働行為の被害の救済としての性質を持つも のでなければならない。 | 速修 365~399 頁 |