Contract
横 ℝ x x
■アブストラクト
保険法17条2項は,責任保険について,「被保険者が損害賠償の責任を負 うことによって生ずることのある損害をてん補するものをいう」と定義する。したがって,責任保険は加害者の保護を第xx的な目的とする保険である。 その一方で,この保険には被害者保護機能がある。本稿は,保険金からの優 先的な被害の回復の制度として当初検討されていた被害者の保険者に対する 直接請求権の制度について概観し,なぜこの制度が立法化されずに保険法22条では特別の先取特権の制度が定められることとなったのかという点につい て,両者の比較を行いつつ,先取特権の制度を導入することの意義と問題点 を明らかにし,同条によって被害者を保護することについて検討する。
■キーワード
賠償責任保険,直接請求権,先取特権
1 はじめに
責任保険契約とは,「損害保険契約のうち,被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生ずることのある損害をてん補するものをいう」(保険法
〔平成20年法律第56号〕17条2項)と定義される。したがって,責任保険契 約において約定の保険事故が生じたとき,保険金請求権を行使し得るのは, あくまでも被保険者(=加害者)である。被害者は,契約の当事者でないし,
/平成21年10月31日原稿受領。
また第三者のためにする契約における第三者(受益者)の地位を有する者でもない。したがって,被害者は本来的には保険者に対して直接的な請求権を有しない。これは,賠償責任保険が加害者の保護を第xx的な目的とすることによる。
しかしながら,加害者(被保険者)がこうして責任保険金を受け取ることができるのであれば,それだけ加害者の賠償金支払余力は増強され,結果的に被害者の救済につながる。その意味で,責任保険に被害者保護機能のあることは確かである。したがって,被保険者が保険金を受け取りながらこれを賠償金支払いに充てずに他の目的に費消してしまうようなことがあってはならない。また,責任保険契約の被保険者に破産手続開始決定があれば,保険金請求権ないし保険金が破産財団に取り込まれてしまう。そうなると,責任保険金が賠償金の支払いに充てられずに被害者以外の破産債権者の弁済に充てられることになる。被害者は,その賠償請求について,他の一般債権者と同様に債権額に応じた按分弁済しか受けられ得ない。
こうした問題点について,どのように解決すべきなのか,いかような制度を設ければよいのであろうか。かねてより,立法論を含めた議論がなされてきたが,被害者の優先的な被害の回復を図るという観点から考えるとき,まず念頭に浮かぶのは被害者の直接請求権の制度である。法制審議会保険法部会においても,当初に検討されたのはこの直接請求権であった。すなわち,
「責任保険契約(被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生じた損害をてん補する損害保険契約をいう。)において,被害者(被保険者が損害賠償の責任を負う相手方である第三者をいう。)は,保険者に対し,保険金額の限度において,損害賠償額の支払をすべきことを請求することができるものとする旨の規定を設けることについて,どのように考えるか」と問題提起されていたのである¹'。ところが,保険法において制度化されたのは,責任
1) 保険法部会第4回会議配布資料5「保険法の現代化に関する検討事項⑷」7頁。なお,xxxx「責任保険契約における特別先取特権と第三者保護措置」xxx=xxxx=xxxx編『(xxxx先生喜寿記念)保険法改正の論点』
保険契約についての特別先取特権の制度であった워'。すなわち,保険法22条 は,その第1項でこの先取特権について明らかにし,同条2項では,被保険 者が受領した保険金を被害者への賠償に当てずに費消してしまうような状態 が生じないようにするために,被保険者は被害者に対し賠償義務を履行した 限度においてのみ,保険金の支払を請求できることを定めている웍'。そして,同3項は,保険金請求権が(被害者以外の)被保険者の債権者に差押えられ るなどの処分がなされることによって,被保険者への賠償金の支払いがゆる がせになってしまうことを防ぐために設けられた規定であり,絶対的強行規 定である웎'。この規定により,すべての責任保険契約において,被害者には 保険金請求権の上に特別の先取特権を有することになった´'。
それでは,直接請求権の仕組みの何に問題があったため先取特権の制度が
とられることとなったのであろうか°'。この点を,法制審議会保険法部会の
211頁以下。
2) 保険法部会で直接請求権の検討から始まって先取特権の制度が保険法に新設されるに至った経緯について,xxxx「<講演録>保険法制定の総括と重要解釈問題(損保版)」損保研究71巻1号25頁以下(2009年)。
3) xxxほか「保険法の解説⑷」NBL887号86頁,xxx「新しい保険法の概要」商事法務1839号33頁。xxx「保険法の制定に至る経緯と概要」法律のひろば2008年8月号9頁。
4) 保険法22条の規定が設けられるにあたっては,原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)9条の規定が参照された。同条の規定は,保険法が制定されるまでのわが国において,自賠責保険以外の責任保険で第三者の優先権を法定している唯一の規定であった。この優先権の法的性質は特別先取特権だとみられていた。xxxx「責任保険被保険者の支払不能と保険給付による被害者救済」xxxxx=xxxx編『xxxx先生還暦記念 商事法への提言』(商事法務・2004年)所収796頁。かくして,破産手続上は,第三者=被保険者は保険金請求権について別除権を有する(破産法65条)。したがって,保険金請求権は破産手続外で実行されて,第三者に対する弁済に充てられることになるのである。このような原賠法の優先権に関する規定を責任保険一般に拡大したのが保険法22条の規定だといえる。
5) xxxx=xxxx監修『改正保険法早わかり』(xx財務協会・平成20年)
101頁。
6) 法制審議会保険法部会「保険法の見直しに関するxxxx」(2007年8月)
会議録や資料を参照しながら整理し保険金請求権上の先取特権の制度につい て若干の検討をなすことにする。なお,以下ではとくにことわりのない限り,
「保険金」とは責任保険契約に基づく賠償責任保険金をさすものとする。
2 東京地裁平成14年3月13日判決
賠償責任を負った加害者が倒産しない限り,被保険者の指示により保険者 が任意で被害者に対して保険金を直接に支払うことは妨げられない‘'。また,被保険者(加害者)の無資力が要件とされるが웒',破産手続開始決定を受け る前であれば被保険者の保険者に対する保険金請求権を被害者が代位行使
(民法423条)することも考えられる°'。ところが,加害者に破産手続開始決定があった場合には,破産債権者が自らの債権を保全するために,破産財団に属する権利について債権者代位権を行使しようとしても(民法423条1項
16頁においては,直接請求権の導入の可能性を示しつつも,「どのような枠組みを採用するかについては…,なお検討する」としていた。
7)「保険法の見直しに関するxxxxの取りまとめに向けた議論のためのたたき台⑵」(保険法部会資料10)20頁(補足)1参照。
8) 最判昭和49年11月29日民集28巻8号1670頁
9) もっとも,賠償責任・賠償額が確定しなければ保険金請求権は発生しないとすると,それ以前の段階では債権者代位権を行使しようとしても,当の保険金請求権が発生しておらず請求ができないことになる。この点については,最判昭和57年9月28日民集36巻8号1652頁において,「損害賠償請求権者が,同一訴訟手続で,被保険者に対する損害賠償請求と保険会社に対する被保険者の保険金請求権の代位行使による請求(以下「保険金請求」という。)とを併せて訴求し,同一の裁判所において併合審判されている場合には,被保険者が負担する損害賠償額が確定するというまさにそのことによって右停止条件が成就することになるのであるから,裁判所は,損害賠償請求権者の被保険者に対する損害賠償請求を認容するとともに,認容する右損害賠償額に基づき損害賠償請求権者の保険会社に対する保険金請求は,予めその請求をする必要のある場合として,これを認容することができる」とした。『最高裁判所判例解説民事篇・昭和57年度』757頁(xxx),xxxx・判例時報1079号,xxx「判批」民商法雑誌89巻1号87頁,xxxx・法学教室27号106頁ほか。なお,この事件では加害者(被保険者)の無資力要件は争われていない。
本文),そのような個別の権利行使は禁じられる(なお,破産法100条1項)¹°'。破産財団所属財産たる権利の保全は,それについて管理処分権を有する破産管財人に委ねるものとされるからである(破産法78条1項)。
この点の問題性を示す判例として,東京地判平成14年3月13日判時1792号 78頁がある ¹'。事実の概要は,X(原告)が,A社製造の「乾燥いか菓子」を食べたところ,サルモネラ菌による食中毒に感染し左化膿性股関節炎に罹患して左大腿骨頭壊死の傷害を負った。ところが,A社はその後破産宣告を受けたことから,Xは,その破産管財人に対して(Aに対する)損害賠償債権についてその額の債権確定訴訟を提起した。そして,その額が確定した。そこで,Xは,Y保険会社(A社との間で製造物賠償責任保険(以下 PL保険という)契約を締結していた)に対して A社に代位して製造物責任保険金の支払いを請求した。争点は,PL保険契約の被保険者たる A社が保険事故発生後に破産宣告を受けた場合であっても,A社の Y保険会社に対する保険金請求権を,Xが債権者 A社に代位してその権利を行使できるかという点にあった。東京地裁は,「PL保険とは,企業が,製造あるいは販売した製品や仕事の結果に起因して保険期間中に生じた偶然の事故により,他人の生命もしくは身体を害し,又は,その財物を滅失・き損もしくは汚損した場合に,法律上の賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する保険であり,不測の損害賠償義務を負担することによる企業の経営上のリスクを回避する目的で締結されるものであるから,被害者の救済はその反射的な利益に止まるといわなければならず,したがって,これを一般の損害保険と区別し,被害者による保険金の代位請求を認めるべきであるとする原告の主張は失当である」として,Xの請求を棄却した。
これに対して原告側は控訴したが,東京高判平成14年7月31日(判例集未登載)は,「…もっとも,PL保険においても,保険にxxしていない場合
10) 破産手続きの開始につきxxx『破産法・民事再生法(第2版)』(有斐閣・ 2009年)56頁,破産手続開始後の債権者代位につき同書204頁および314頁。
11) 本件評釈として,xXx「判批」ジュリスト1297号154頁(2005年)がある。
と比較すれば明らかなように,経済的には事実上の担保と見得る余地があるから,これをxxに考えれば,事実上被害者救済の機能があるといえないことはないが,それはあくまでも反射的・潜在的利益に過ぎないものである」と判示して控訴を棄却した。さらに,上告もあったが最決平成14年12月20日において上告棄却,上告不受理とされたとのことである¹워'。この東京地判平成14年3月13日の解釈は,被害者にとって酷な印象を与え,その後の議論では,被害者の優先的な被害回復を図ることの必要性が強く意識されるようになった面がある¹웍'。
3 直接請求権付与による被害者保護の限界
⑴ 被害者保護について
こうして,被害者保護の在り方が検討される中で最も第三者保護に資するといわれたのが,上述の直接請求権の制度を責任保険一般につき法定することであった¹웎'。なぜなら,加害者たる被保険者が,破産手続開始決定を受けたとしても,被害者にこの直接請求権が認められるのであれば,破産手続外で保険者に対する債権が生ずることになり,その権利を行使できるからである。つまり,これは第三者から弁済を受ける場合と変わらず,不足額責任主義も及ばない¹´'。したがって,被害者は破産債権全額につき配当手続に参加
12) 控訴審判決の判旨および上告がなされていたことについては,xxxx「判批・乾燥いか菓子 PL事件」法律のひろば2005年2月号52頁以下による。
13) xxxx「PL保険における被害者の破産と保険金請求権の帰属」損害保険
研究64巻4号245頁以下では,商法667条の直接請求権は,保険者と被保険者
(加害者)の意思に基づく効果であるとして,本件製造物責任保険の事案に商法667条の類推適用によって被害者の保険者に対する直接請求権が導けるとされる。
14) xxxx・前掲「責任保険被保険者の支払不能と保険給付による被害者救済」795頁。
15) xxx已「保険関係者の破産,保険金給付の履行」商事法務1808号30頁
(2007年)。なお,同頁においてxxxxは「実質的には,破産債権である損害賠償債権について保険者が担保する関係があるが,全部義務とは異なるため,手続開始時現存額主義(破産104条2項)は妥当しない」と指摘される。
することができるし,保険者から現実に弁済を受けたときには,それを控除した額が配当の基準となるのである。
しかし,ここで一歩立ち止まって考えてみると,果たしてこのような直接請求権を認めることだけで責任保険による被害者保護が十全に果たされ得るといえるのであろうか,慎重な考慮も必要になってくる。まず何よりも,責任保険によって被害者が保護されるためには,その前提として加害者がその保険契約を保険者と有効に締結していなくてはならない。加害者が当該責任保険に加入していなければ,そもそも被害者は保険者に直接請求し得ない。
⑵ 故意による加害行為の場合
また,仮に加害者が責任保険に加入していたとしても,同人が故意で第三者に加害行為を行った場合はどうなるであろうか。責任保険による被害者の保護を強調するのであれば,加害者(被保険者)の被害者に対する加害行為・損害発生が,過失よりも故意によるによる場合にこそ一層保護されてよいように思われる。しかるに,保険法17条は,責任保険契約について,保険者は,保険契約者又は被保険者の故意によって生じた損害をてん補する責任を負わない旨を規定するのである。そのほか,保険者が保険契約に基づいて被保険者(加害者)に対抗できる事由があるときに,その事由を保険者が被害者に対しても対抗することはできるはずである。結局,被害者は責任保険による保護は期待できない。
Xxxx教授は,責任保険契約の構造を現実の契約に即して吟味するならば,そこには異なった形態のものが存するとしつつ,とくに「被保険者が第三者に対して責任を負担した場合,保険者は第三者に保険金を給付することによって被保険者の責任を免脱することを原則とし,被保険者が第三者に対し現実に賠償義務を履行した場合だけ被保険者に保険金を給付すべき契約」の形態が,責任保険の目的をもっとも完全に果すものであり,これが責任保険契約の理念型であると解されるとされる¹°'。そして,その理念型が実現さ
16) Xxxx「責任保険契約の特殊性とその本質」xxx博士記念論集刊行会編
れているのは,自動車損害賠償責任保険(以下,「自賠責保険」という)においてである。
まず,自動車損害賠償保障法(以下,「自賠法」という)では,自動車を運行の用に供するに際して,自賠責保険に加入が義務付けられている(自賠法5条,8条,9条,9条の3,罰則につき同法88条および87条等)。また自賠法16条1項は,「被害者は,政令で定めるところにより,保険会社に対し,保険金額の限度において,損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる」と定める。さらに同条2項は,「被保険者が被害者に損害の賠償をした場合において,保険会社が被保険者に対してその損害をてん補したときは,保険会社は,そのてん補した金額の限度において,被害者に対する前項の支払の義務を免かれる」とする。そして,自賠責保険では,保険契約者または被保険者による悪意の事故招致について,保険者は,被保険者に対して免責を主張できるが,しかし,かかる免責を被害者に主張することはできないものとしているのである(自賠法16条3項・4項)。このように,自賠責保険においては,加害者=被保険者の保険金請求権と被害者=第三者の直接請求権がそれぞれの権利として認められていて,被害者の保護が徹底されている¹‘'。ただし,これはあくまでも,被害者保護の政策的見地からかかる規定が自賠法におかれていると理解するほかない¹웒'。そして,ここまで徹底しなくては,本来的な意味において責任保険によって被害者の保護を図ることはできないように思われる。
結局のところ,法律上加入が強制されているような保険,あるいはそれを補充する保険(任意の自動車保険など)のように誰もが加入動機を有する責任保険でない限り,責任保険の被害者保護機能を前面に押し出して論ずることはできず,その他の責任保険にあっては,加害者が責任保険に加入してい
『自動車・責任保険の諸問題』(保険研究所・1967年)所収132頁。
17) その他にも,告知義務違反等による解除に関して,自賠法21条2項,同法22条3項,直接請求権差押禁止につき同法18条などがある。
18) xxx『保険と民事責任の法理』(成文堂・1966年)147頁。
たことの反射として被害者は保護されるにすぎないというほかないように思われる¹°'。
⑶ 保険者側の難点
また,実際上の問題もある。直接請求権の仕組みが自動車保険以外の賠償 責任保険全般に広がるならば,それに対応して保険者は弁護士や調査員を社 内に増員配置しなくてはならない。この負担がやむを得ないものだとしても,彼らが事故原因を究明し,行為と損害の因果関係を証明することに十分対応 し難いことは明らかである。保険者は賠償事故をめぐる紛争の本来的な当事 者ではないから,基本的にいって事故の解決に向けて主導的な役割を果たす ことは困難だからである。仮にそれに応えられる体制が整えられたとしても 費用増大は避けられないし,自動車保険のように豊富なデータ蓄積の目途も 立たないであろう。この点は,実務にとって深刻な問題であることは,つと に指摘されているところである워°'。
⑷ 直接請求権の規律を設ける範囲の限定
こうした問題点の指摘と相前後して,直接請求権の規律を設ける範囲を限定することが議論された。すなわち,加害者について,法的倒産手続が開始した場合にのみ被害者は保険者に対して直接請求権を行使できるものとするか,あるいはかかる場合にのみ直接請求権が発生するものとすることであっ
19) 保険法部会第4回配布資料7頁は,任意加入の責任保険契約について,「仮に法律により一律に被害者に対する債務を保険者に負担させ,当事者の合意によりこれを排除する余地を一切認めないとする場合には,保険者による自由な保険商品の設計を妨げ,同時に責任保険契約を締結する保険契約者の意思をも制約することになるため,このような法制度を設ける必要性及び合理性が認められるかどうかについても,慎重に検討する必要があると思われ」るとする。
20) たとえば,浅湫xx「賠償責任保険において保険金から優先的な被害の回復を行う方法について��被害者の直接請求権,特別先取特権の問題を中心として」保険学雑誌599号244頁(2007年)。保険法部会における指摘として同部会 14回会議議事録26頁参照。
た。しかし,これにも問題がある。事実上の倒産状態にある場合や私的整理 が開始された場合には,直接請求権の行使が認められないこととなるからで ある。これでは,何のために保険者に対する直接請求権を被害者に認めよう とするのかが不明確となってしまう。結局のところ,保険金からの優先的な 被害の回復を図るための制度を設けるという観点からは,バランスを欠くと 言わざるを得ず,法制度として合理性に疑問が残る。そこで,「保険の見直 しに関するxxxx」では워¹',かかる直接請求権の発生またはその行使を法 的倒産手続が開始した場合に限定せず,「一定の要件」を満たす場合に,保 険金から優先的に被害の回復を受けられるものとする範囲の拡張が考えられ た 워'。しかし,今度はその「一定の要件」の内容をどのように定めるのか워웍',果たして適切な要件設定ができるのか,といった点が問題になった。仮に, 如上の「一定の要件」の内容が詰められたとしても,複数の被害者が存在し,各被害者の損害賠償額の合計が保険金額を超えた場合にどうするのかという 点が問題として残る。それでは,その解決として,一定の期間内に保険者に
21) なお,「『保険法の見直しに関するxxxx』についての意見募集結果の概要
(2・完)」NBL870号55~56頁(2007年)参照。
22)「保険法の見直しに関するxxxx」の第2 損害保険契約に関する事項 6責任保険契約に固有の事項 ⑴ 保険金からの優先的な被害の回復 では,「責任保険契約(被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生じた損害をてん補する損害保険契約をいう。)の被保険者について破産手続開始,再生手続開始又は更生手続開始の決定があった場合には,被害者(被保険者が損害賠償の責任を負う相手方をいう。)は,〔一定の要件〕の下で,保険金から優先的に被害の回復を受けることができるものとする。」と記されていた。
23) 保険法の見直しに関する個別論点の検討⑸(保険法部会資料21)6頁(注
2)では,「『一定の要件』の具体的内容については,判決,裁判上の和解等により被保険者の損害賠償責任が確定したことやその確定が保険者の関与の下で行われたことを要件とすること等が考えられるほか,そもそもこの規律を認める場面を,強制保険(法令により被保険者が責任保険契約の締結を義務付けられているもの)に限定すべきとの考え方,被害者が個人の場合やその生命又は身体に損害が生じた場合に限定すべきとの考え方等があることを踏まえて,なお検討する」と記されている。
対する権利行使をした被害者を平等に扱うこととし,その保険金の分配を保 険者が担当することにしてはどうか。しかし,これでは,保険者に執行裁判 所や破産管財人などと同様の役割を担わせることになってしまう。保険者に そのような負担を強いることが適当かという問題がある。また,何を基準に その一定の期間を定めるべきかという問題もある。かくして,このように絞 り込みをかけて問題を解決しようとすれば,結局被保険者が倒産すれば途端 に直接請求権が発生するといった制度となるのであろうが,これが倒産法の 制度としてなじむのかという問題が浮かび上がってきて壁に当たってしまう。
4 特別の先取特権の制度
⑴ 被害者に優先的な被害の回復を認める意義
以上のことから,保険金からの優先的な被害の回復を図るために直接請求 権の制度を導入することは難しい,ということなったと考えられる。しかし,このようにして見てくると,いったい何のために被害者の優先的な被害回復 を認める規律を設けなくてはならないのか,その趣旨を今一度確認してみる 必要があるように思われる。これまでその趣旨は,加害者(被保険者)が破 産手続開始決定を受けると,たとえば債権者代位権の行使を通じて被害者が 優先的な弁済を受けることも困難になって被害者保護が遠のくという点にそ の趣旨があったといえよう。それゆえ直接請求権の導入が検討されたのだと いえる。しかし,かような被害者保護は加害者が所要の責任保険に加入して いてはじめて成り立つ保護である。加入していなければ,いくら直接請求権 の制度を導入したとしても被害者の保護は図れない。その意味で,上記東京 高判平成14年7月31日(判例集未登載)が,PL保険について「事実上被害 者救済の機能があるといえないことはないが,それはあくまでも反射的・潜 在的利益に過ぎないものである」と説示するのは正鵠を射ている。
⑵ 被保険者破産時の責任保険金の帰趨について
こうした中にあって,着目すべきは次の点であると思われる。すなわち,
責任保険契約においては,被保険者が加害行為をなした被害者に損害が発生 していることを前提に保険金が支払われるのであるから,かかる保険金は被 保険者の責任財産として一般債権者が期待する筋合いではないはずである워웎'。ところが,加害者の破産手続が開始されれば,被害者は破産債権者として他 の破産債権者と平等に破産財団から弁済を受けることにならざるを得ない。 そうなると,保険金請求権ないし保険金が破産財団に入った分だけ被害者以 外の破産債権者の弁済率は高まる。つまり,被害者以外の一般債権者が責任 保険の保険金から弁済を受けるいわば棚ぼた(windfal)というべき不合 理な事態になるという点である워´'。このような不合理は,回避しなくてはな らない。まさに,この点にこそ保険金からの優先的な被害の回復を図るため の制度を設ける必要性が見出されるのではなかろうか。被害者保護というよ りもこの点に重点をおくべきであるように思われる。そして,なるべく既存 の法制度の枠内で解決できることが望ましいとするならば,やはり,保険法 22条のとおり特別の先取特権の制度を設けることが適切だということになろ う。
もっとも,先取特権を与える場合には不足額責任主義の適用がある워°'。のみならず,先取特権の仕組みについては直接請求権の仕組みの場合にはみられない検討すべき事項がある。この点を以下に考察する。なお,特別の先取特権については,破産手続及び再生手続と更生手続とで扱いが異なってくるが,本稿では破産手続きを念頭に論じることにする워‘'。
24) xxxx「責任保険における被害者の特別先取特権」xxxx=xxxx編
『新しい保険法の理論と実務(別冊 金融商事判例)』(経済法令研究会・2008年)所収・229頁。
25) xxxx・前掲「責任保険被保険者の支払不能と保険給付による被害者救済」785頁および809頁。
26) 不足額責任主義につき,xxx・前掲『破産法・民事再生法』336頁,xxxx(編集代表)『大コンメンタール破産法』(青林書院,2007年)455頁(xxxx執筆)。
27) 更生手続に関する指摘として保険法部会第17回会議議事録37頁参照。
⑶ 保険料と保険金の関係について
まず,先取特権を導入することについては,当初次のような慎重論も示されていた。すなわち,「一般に,先取特権とは,xxの観点から要請される債権者平等の原則の例外として,他の一般債権者に優先して債務の弁済を受ける権利であるところ,被保険者がたまたま責任保険契約を締結していたという事情により,被害者が優先的な取扱いを受けることについては,その原資となる保険料自体がそもそも一般財産自体から拠出されたものであることを考えると,その合理性については慎重に考える必要があるとも考えられ」るとの指摘である워웒'。しかし,これについては保険契約がなぜ有償契約なのかという点の考慮が必要なように思われる。すなわち,保険期間中に保険事故が発生せずに期間終了すれば保険金等は何ら支払われない種目の保険契約が,なぜ有償契約といえるのかの問題である。通説的見解は,保険契約者の保険料支払いに対する保険者の対価は保険事故が発生すれば保険金を支払うという危険負担をなすことであると解することをもって説明がなされる워°'。保険者に危険負担をしてもらうために保険料を支払うのであって,保険金を支払ってもらうために保険料を支払うのではない。それゆえ,保険者と保険契約者との間に対価関係はあるとされるのである。そうだとすると,保険料は「そもそも一般財産自体から拠出されたもの」であるとしても,個々の契約において払い込まれた保険料と支払われ得る保険金との間には等価性があるとはいえない웍°'。保険金の支払いそれ自体が保険料支払いに対する反対給付であるとは考えられない。保険事故が発生して支払われる保険金は,その保険料とは対価関係にない別個の給付であるということになる。その保険金を請求する権利について被害者は先取特権を有すると解するのであれば,そ
28) 法制審議会保険法部会第4回会議(平成18年1月17日開催)議事録(PDF版)37頁。
29) xxxx「保険契約における対価関係について」法学論叢88巻1・2・3号
8頁以下(昭和46年)。
30) xx他寸志「時の判例(最判平成14年11月5日・民集56巻8号2069頁について)」ジュリスト1245号196頁(2003年)。
こに合理性も見出され得るように思われる。
⑷ 先取特権の制度について
つぎに,特別の先取特権を付与する仕組みについては,次の点を確認して おかなくてはならない。それは,倒産手続開始前に存在していた担保権につ いて手続開始後も一定の優先的な地位を認めるという規律を前提とするとい う点である。それゆえ,先取特権の規律を設ける場面は法的倒産手続が開始 した場面に限定しないことになると考えられる웍¹'。かかる前提の下で特別の 先取特権を付与するのであれば,法的倒産手続開始後に限定して一定の権利 を付与するといった議論の必要性もない웍워'。そして,このように先取特権の 仕組みを前提に規律を設けるときには,既存の法制度を利用することができ,かつそれと整合的な制度を設けることができる。かくして,任意保険一般に おける基本的かつ必要最低限のルールを定めるという観点からは,先取特権 の仕組みを設けることが適切であるといえる(個々の商品に応じて約款で直 接請求権を付与することは妨げられてはいない。)。
5 「担保権の存在を証するA書」の提出
⑴ 問題の所在
ところで,被害者が保険法22条に基づく先取特権を実行するに当たっては,民事xxx193条第1項前段に基づき執行裁判所に「担保権の存在を証する 文書」を提出して差押命令の申立てをする必要がある 웍'。しかし,不法行為
31) xXxx=xxxx編『逐条解説 改正保険法』(ぎょうせい,2008年)74頁。 32) ただし,「保険法の見直しに関するxxxx(案)」(保険法部会資料15)16
頁においては,被保険者について破産手続開始,再生手続開始又は更生手続開始の決定があった場合において,被害者は〔一定の要件〕の下で,保険金から優先的に被害の回復を受けることができる,として,この場合の法的な枠組みの選択肢として先取特権の制度も考えられていた。しかし,これには直接請求権の場合と同様に消極的意見が多かった。たとえば,保険法部会第14回会議議事録24頁参照。
33) xxxxx『民事xxx〔増補新訂第5版〕』(青林書院・2006年)351頁は,
に基づく損害賠償請求を念頭に置いた場合には,そもそも損害賠償請求権の存在自体を被害者が文書で証明することが困難な場合もあり,事実上,被保険者(加害者)との間の確定判決等が必要になってくるのではないか。この点をどのように考えるのかが問題である。
⑵ 要件緩和の可能性
特別の先取特権の実行につき,上述のごとく「担保権の存在を証する文書」として常に確定判決等が求められるとすれば,執行裁判所の差押命令により開始がなされる範囲も狭くなる。そして,十分に救済されなかった被害者は,別途加害者に権利行使するというような形で救済を求めていかざるを得ない。そうだとすると,実体的xxにおいて救済されるはずの被害者にとっては,結局手続が二重になるといった負担を被ることになる。これでは,被害者の優先的な被害の回復を図るための手段としては迂遠ではないか疑問がある。
こうした中,保険法部会では先取特権の仕組みをとる場合の「担保権の存在を証する文書」については,たとえその要求レベルが高いことは否定できないとしても,常に債務名義に近いもの,つまり確定判決レベルのものが要求されることにはならないだろうとの意見も出されていた웍웎'。
また,「担保権の存在を証する文書」についての議論の一つとして,船主責任制限法で制限債権に先取特権が与えられている点に関しても指摘がなされた웍´'。すなわち,不法行為または債務不履行による損害賠償請求をした債権者が差し押さえた船舶が沈没したため,その船舶の保険金請求権に代位請
担保xxxの要件事実を証明できることが「担保権の存在を証する文書」の中核をなし,かつ提出された私文書は成立の真正の証明が必要であるとする。
34) 保険法部会第17回会議議事録44頁では,飼い犬が人にかみついたが被害者も事を荒立てたくないと思っている事例が挙げられている。この例からも窺えるとおり,確定判決が必要ないといっても,それは加害者側が賠償責任を正面から争っていないようなときに限られるように思われる。
35) 保険法部会17回会議議事録39頁。
求する。この物xx位が担保権の実行と同じ規定にあるが,ここでその実行に際して求められる担保権の存在を証する文書というのは,債務名義ではない。そうではなくて,鑑定人のレポートとか複数文書を使って,文字どおりの書証説で判定し担保権の存在を証する文書を認定する웍°'。そういう運用を前提としても,この場合保険者には抗告をなすといった手当てが保険者のために用意されているから,保険者にとっては問題がない,という意見であった웍‘'。
⑶ 不服申立てについて
しかし,こうして「担保権の存在を証する文書」の内容について緩やかに 解して発令される範囲を広くすれば,今度は,不服申立ての手続きをめぐっ て新たな問題が出てくることになる。すなわち,債権差押命令が発令されて も,これに対して第三債務者である保険者は,加害者自身ではないから,担 保権の不存在,損害賠償債務の不存在を理由として執行抗告(民事xxx10条)を申し立てることは困難である웍웒'。それゆえ,結局保険者は取立訴訟に おいて争うほかない。すなわち,債権差押命令に対して加害者が執行抗告し,その手続の中で損害賠償請求権の存否が争われたものの債権差押命令が確定 する。その後,保険者が保険金を任意に支払わないときは,取立訴訟に移行 する。保険者はその中で,差し押さえられた保険金請求権の不存在を主張し
36) なお,「準名義説」と「書証説」の対立につき,xxxxx「担保権の存在を証する文書」同『民事手続の現在問題』(判例タイムズ社,1989年)所収484頁以下参照。
37) しかし,これに対しては,船舶先取特権の問題の場合は,保険者と先取特権者との間で処理をしてしまうこともあれば,裁判所での手続きをとっても,途中で取り下げられてしまうことも少なくなく,裁判所が最後まで配当まで行うということは殆どないとの指摘があった。保険法部会17回会議議事録43頁。
38) xxxx=xxxx編『注解民事xxx⑷』(第一法規出版・1985年)416頁
(쏃145〔差押命令〕=xxxx執筆)では,第三債務者(=保険者)は,執行抗告によって差押手続の瑕疵(執行裁判所の手続の瑕疵)を攻撃することができるが,被差押債権の不存在は,執行抗告の理由とはならないとする。
て争うほかない웍°'。しかし,こうして取立訴訟になった場合でも,「担保権の存在を証する文書」の要件を厳格に解して発令をしていたならば,損害賠償請求権については確定判決を得ているので,それがもう一度争われるというようなことは少ないであろう。その意味で,この場合には二度手間にはなりにくいといってよい웎°'。ところが,「担保権の存在を証する文書」の要件を緩やかに解して発令がなされている場合には,その分厳格でないから,争う余地が増すことになろう。そうなると,被害者にとっては結局二重手間となり,必ずしも被害者救済には結び付かない面があるといえる。
⑷ 厳格な解釈
こうしたことから,実際の運用面に着目しつつ「担保権の存在を証する文書」の提出について厳格な解釈を求める考え方は次のように指摘する。
通常の損害賠償訴訟では請求者側の損害発生の主張・立証に対して,裁判所は,当事者双方の意見を聞き,双方から提出された書証あるいは人証も調べた上で,事故の態様とか,加害者側の過失あるいは被害者側の損害額,あるいは過失相殺といった争点について慎重に審理し,そのうえで損害の証明があったか否かの判断が裁判官の自由心証によりなされる。したがって,損害賠償請求権の存否については,かなり非定型的,非類型的に様々な要素が取り込まれて判断されることになる。
39) そこでは,もちろん保険者は,差押え当時に債務者(加害者=被保険者)に対して主張することができた抗弁をもって差押債権者(被害者)に対抗し争うこともできる。なお,xxxx『民事xxx』(弘文堂・昭和56年)391頁。
40) もっとも,論理的には損害賠償請求訴訟の既判力は保険会社には及ばない。しかし,実際の実務では損害賠償請求訴訟を加害者である保険契約者の側で勝手にやるということはなく,保険会社と十分連絡をとって訴訟をするというのが通常だといわれる。それゆえ,実際の実務で,損害賠償について決着がつけば,その後にまた別途取立訴訟を提起することは殆んどない,といわれる。ただし,これは,「担保権の存在を証する文書」の提出に係る解釈を厳格にし,確定判決や裁判所の和解調書等の提出に限るとした場合にのみいえることであろう。
ところが,被害者が執行裁判所に提出する証拠は書証に限られているし,裁判官は少なくとも当初は当事者の一方の事情しか聞かないで判断しなくてはならない。そうだとすると,不法行為に基づく損害賠償請求を念頭に置いた場合には,そもそもその損害賠償請求権の存在自体を被害者が文書で証明すること自体が困難であるといわざるを得ない웎¹'。したがって,執行裁判所は,被害者が提出した書証だけで「担保権の存在を証する文書」の提出があったと認めることは難しい웎워'。かくして,担保権の存在を証する文書の提出があったとしても執行手続きが開始されるためには,事実上,確定判決に相当する文書(たとえば和解調書等)が提出されていなくては,担保権の存在の証明があったとするのは困難な面が多いように思われる웎웍'。そういった指
41) 保険法部会第17回会議議事録43頁には,「ヨーロッパでは担保権の実行だって全部債務名義は必要で,日本でもそうすべきではないかという議論が民事xxx制定時にはかなり学者の先生方の間では有力だったところが,主として抵当権の問題もあって債務名義は要求しないということになった」との指摘がなされている。なお,一般の先取特権に係る不動産担保権の実行についても,立法作業の当初は,登記のない一般の先取特権につき,xxの債務名義なくしては,その実行を認めるべきではないものと考えられていた(第一次試案第64,その内容につき法曹時報33巻12号40頁参照)。しかし,民事xxx181条1項4号にいわゆる「一般の先取特権にあっては,その存在を証する文書」が加えられ,債務名義は必ずしも要求されなくなった。これは,担保権者の地位に対する配慮,とくに雇人給料の先取特権者の権利行使の可能性確保が理由であるとされる(xxxx「民事xxxの諸問題」法曹時報35巻12号71頁以下,xxxx「先取特権と民事執行」xxxほか編『金融担保法講座 IV』〔筑摩書房・ 1986年〕324頁。)。こうしたことから窺えるように,債務名義が不要だといっても,それは広く一般的に不要であるという趣旨に捉えるべきではない。
42) この点については,直接請求権の場合といえども,xxxxに示された「一定の要件」を満たすことが行使の条件とされる場合には同様の問題がある。すなわち,既に述べたごとく保険金から優先的に被害の回復を受けられることとなる「一定の要件」として何らかの高いレベルを確定的にかつ一律に求めなければならない。その「一定の要件」として,確定判決や裁判所の和解調書等が要求される余地がなくはない。そうあれば,被害者の負担に実質的な差はないと考えられる。
43) xxxx=日本生命保険生命保険研究会編『解説保険法』(弘文堂・平成20
摘がなされている。さまざまな安定性の角度から安全性を考えたとき,こうして厳格な解釈をとらざるを得ないように思われる。
6 その他の問題点��配当要求の終期の手当てについて
被害者が複数の場合については,民事執行法上,複数の債権者が競合した 場合のルールが定められているため 웎',一応はそれによることが考えられる。しかし,一部の被害者が保険金請求権を差し押さえた後に,他の被害者がそ の配当に参加するための期間として,民事xxxの規定で果たして十分かと いう問題がある。配当要求の終期を繰り下げるなどの特別の手当てをするこ とができないか,多数の被害者がいる場合におけるxxxxな救済の必要性 について検討の余地もなくはない。
しかし,被保険者(加害者)に破産手続が開始されたときは,保険金請求権ないし保険金が破産財団に入った分だけ被害者以外の破産債権者の弁済率が高まるといった不合理な事態を回避することにこそ,先取特権の制度を設ける意義があるという認識を今一度明確にすべきように思われる。そして,かかる不合理な事態が,保険法22条と民事xxxの既存の規律によって回避可能性が生まれるならば,それ以上に,被害者保護のための規制を設ける必要性はあるのだろうか。今後の実務の実際における推移を見守ったうえで新たな解決策の必要性の有無を吟味しながら慎重に検討してxxねばならない웎´'。
年)241頁(xxxx執筆)。
44) ある被害者が先取特権の実行として保険金について債権差押命令を得たときは,他の被害者は一定の期間内に差押え,配当要求等をして配当を受ける必要があるものとする(民事xxx193条2項,165条,166条)。
45) なお,xxxx・前掲「責任保険被保険者の支払不能と保険給付による被害者救済」798頁の「大量被害事例を想定した場合」における第三者保護措置の在り方についてであるが,法律的にバランスよくしかも成る丈被害者の納得する解決方法というものは,被害規模によってまちまちであるように思われる。したがって,その問題に対処する一律に適用されるべき制度を予め(少なくとも現段階で)立法論的に検討することは難しいように思われる。
7 さいごに
保険金からの優先的な被害の回復の制度を設ける趣旨について,被害者保護の必要性から政策的に特別の規律を設けるものと考えれば,規律を設ける範囲は,特に要保護性が高い人身損害の場面に限定すべき方向に傾くことになろう웎°'。しかし,すでに述べたとおり責任保険の被害者保護機能には自ずと限界がある。それよりも,次の点に着目すべきである。責任保険契約に基づく保険金は,被害者の損害発生を前提とする以上,かかる保険金は被保険者の責任財産として一般債権者が期待すべきものではない웎‘'。この点に重点を置いて保険法22条の先取特権の制度について考えてゆく必要があるように思われる。そして,予想される問題については,まずは民事xxxの既存の規律にしたがって解決を試みて,そして,個別具体的に解釈を詰めてゆく必要があるように思われる。
(筆者は,東北学院大学法学部准教授)
46) この点の指摘につき,xxxx・前掲「保険関係者の破産,保険金給付の履行」31頁。
47) xxxx・前掲論文・同頁,xxxx・前掲「責任保険における被害者の特別先取特権」229頁。