国道 43 号は、国道 2 号と並び、阪神間を東西に結ぶ大動脈として大阪市と神戸市を結ぶ延長約 30kmの関西経済の発展を支えてきた幹線道路である。
「尼崎道路公害訴訟・和解条項履行に係る意見交換終結合意書」の締結について
国土交通省 近畿地方整備局 道路部
1.はじめに
国道 43 号は、国道 2 号と並び、阪神間を東西に結ぶ大動脈として大阪市と神戸市を結ぶ延長約 30kmの関西経済の発展を支えてきた幹線道路である。
昭和 38 年 1 月に地域発展への大きな期待を担って兵庫県下で一部を供用開始し、昭和 45 年 3 月には大阪府下を含む全線を開通している。
供用開始以降、高度経済成長期には臨海部の製造業を主とした発展に寄与したが、その一方で、工場から排出された大気汚染物質や、国道 43 号及び本線上に高架構造で供用を開始した阪神高速 3 号神戸線の交通量増加に伴う騒音・排気ガスにより、大気汚染等の沿道環境問題が提起されるに至った。
「尼崎有害物質排出規制等請求事件」(以下「xx公害訴訟」という。)は、昭和 63 年 12 月に沿道居住者等が国及び阪神高速道路公団並びに臨海工業地域の企業 9 社に対し、一定値超の大気汚染物質の排出差し止め及び大気汚染物質排出による損害賠償を求め提訴したもので、国道 43 号の沿道環境等を争点とする訴訟では、国道 43 号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等請求事件(国道 43 号公害訴訟)及び大阪西淀川有害物質排出規制等請求事件(西淀川公害訴訟)に続く 3 つ目の訴訟である。
xxxx訴訟は、以降、提訴から 12 年を経て、原告団との間で和解が成立し、途中あっせん調停を経て、和解条項等の履行に係る意見交換を行いながら、道路管理者として環境改善等の施策を実施してきたところである。
これらの施策及びその成果が原告団から一定の評価を受け、平成 25 年 6 月 13 日に、国、阪神高速道路
(株)、原告団の三者で合意文書を取り交わすに至ったものである。
全体位置図
2.xxxx訴訟
xxxx訴訟は、兵庫県尼崎市内に居住又は通勤していた「公害健康被害の補償等に関する法律」の認定患者 483 名が国、阪神高速道路公団(現:阪神高速道路(株))、企業 9 社を被告として、昭和 63 年 12月 26 日に神戸地裁に提訴し、その後 2 次訴訟として同認定患者及びその遺族 15 名が平成 7 年 12 月 4 日 に神戸地裁に提訴し、訴訟としては 1 次及び 2 次訴訟が併合され、一括審理された。
なお、被告であった企業 9 社については平成 11 年 2 月 17 日に原告団と和解が成立している。
第xx判決は、平成 12 年 1 月 31 日に言い渡され、国及び阪神高速道路公団に対する一定値を超える大気汚染物質の排出差し止め及び本件道路の供用管理瑕疵責任に基づく損害賠償請求が一部認容されたが、原告団及び被告とも当該判決に不服があるとしてそれぞれ控訴した。
3.和解
国及び阪神高速道路公団並びに原告団は、大阪高等裁判所にて係争中であったが、当事者双方は、自動車排出ガス対策の一層の推進が必要であること等を踏まえ、争いを止め、将来に向かってより良い沿道環境の実現を目指して互いに努力するとして平成 12 年 12 月 8 日に和解が成立した。
<和解の概要>
1.環境庁、建設省及び阪神高速道路公団は以下の施策を検討ないし実施に努める。
(1)5 省庁会議(環境、建設、運輸、通産、警察)に基づく取り組み
(2)自動車排出ガスの低減のための環境庁の対策
(3)道路管理者による大型車の交通規制の可否の検討や交通の転換
① 環境ロードプライシングの試行的実施
② 自動車 NOx 法の周知徹底、トラック事業者への迂回協力要請
③ 特殊車両通行許可違反への道路法の厳格な適用
④ 平成 13 年度までに大型車の交通規制の可否の検討のための交通量調査に着手、交通規制の可否の早期検討を警察庁へ要請
(4)環境庁、道路管理者による大気環境の調査(測定局の設置等)
(5)環境庁による健康影響調査
2.阪神高速道路公団は、尼崎xxx整備については地域の理解と協力を得つつ行う。
3.建設省は、国道 43 号のバリアフリー化の検討、道路緑化の推進
4.連絡会の設置
5.損害賠償請求の放棄
4.あっせん合意
和解成立後、道路管理者である国土交通省及び阪神高速道路公団は、大型車両の交通の転換に係る施策の推進に努めてきたことにより和解条項の履行はなされてるとしたが、原告団としては和解条項の履行としては不十分なものとして、原告団から平成14 年10 月15 日公害等調整委員会にあっせん申請書が提出された。
8 回に渡るあっせん手続きの結果、平成 15 年 6 月 26 日公害等調整委員会のあっせん案を双方で合意するに至った。
<あっせん合意の概要>
1.大型車の交通量低減のための総合的な調査の実施
2.環境ロードプライシングの試行
3.大型車の交通規制の可否の検討に係る警察庁への要請
4.連絡会の運営の円滑化
5.関係機関等との連携の推進
5.連絡会
和解条項に基づき設置された連絡会は、第 1 回を平成 13 年 8 月 1 日に開催し、以降年間 2 ~ 6 回程度の頻度で実施し、和解条項及びあっせん合意事項に基づき道路管理者が行う尼崎地域の沿道環境の改善に向けた施策に関し意見交換を行ってきた。
平成 25 年 3 月 11 日の第 46 回を迎える頃には、これまで道路管理者が実施した施策は大型車交通量の低減や大気汚染環境の改善に一定の成果が得られているとして原告側から一定評価を受けることが出来るに至った。
6.道路管理者の施策
連絡会での意見交換を踏まえ、国土交通省及び阪神高速道路(株)は、平成 13 年 11 月の試行以来対象車両の拡充などを図ってきた環境ロードプライシング、国道 43 号の通行ルールの導入、エレベータの設置等による歩道空間のバリアフリー化などの施策を実施してきた。
<環境ロードプライシング>
国道 43 号及び阪神高速 3 号神戸線から阪神高速 5 号湾岸線へ大型車の誘導するため阪神高速 5 号湾岸線の通行料金を割り引く施策。
平成 25 年度の調査結果では 5 号湾岸線への利用台数が試行開始当初の平成13 年度と比較し13%増えている。
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環境ロードプライシング施策概要
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尼崎大阪断面大型車利用状況
車両が中央寄りの通行帯に移動した場合、距離減衰により騒音・大気汚染濃度が低減されます。大型車は沿道環境の改善のために中央寄りの車線の通行をお願いします。
沿道への影響大
第1 第2 第3通行帯 通行帯 通行帯
排気ガス
沿道への影響小
第1 第2 第3
通行帯 通行帯 通行帯
騒音
環 x
(ppm)
0.065
0.060
0.055
0.050
0.045
0.040
0.035
平成23年度
尼崎市域
レーン
環境レーン
大気観測局
【NO2(二酸化窒素)環境基準】
・年間の日平均値の低い方から98%の値が、0.04~0.06ppm、またはそれ以下
昼間
6~22時
沿道環境に配慮した走行をお願いします
大型車は中央寄り車線の通行を!
尼崎市域では、他市域と比べ濃度が高くなっています。(平成23年度)
皆さまの協力が、沿道環境の改善に大きな効果を発揮します。
※尼崎市域は重点対策地域です。
<国道 43 号通行ルール>
既存の法や条例による通行規制に加え、昼間も大型車を中央寄り車線に通行を促す交通誘導施策。
東xx
x合橋
西本町
西宮 IC
西宮xx
x道
東明
東御影
岩屋
NO2の年間98%値
具体的な施策としては、環境レーンを設置し、中央寄り車線へ通行を促す現地標示物の設置のほか、大型車の出入りがある事業所へのパンフレットの配布、ホームページ上に大気情報を提供。
沿道環境に配慮した走行をお願いします
路面標示 道路情報板 横断膜
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70,000
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国道 43 号大型車交通量の推移
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<大型車の通行量、沿道環境>
56,963 79,623
54,707 76,810
56,358 82,674
57,725 82,118
56,104 79,724
54,585 75,302
54,683 75,595
55,032 75,593
54,045 74,133
51,555 72,770
53,035 72,827
52,955 73,519
53,730 74,233
52,881 73,206
52,744 72,254
大型車の通行量は平成 21 年度以降概ね 20,000台/日前後で推移(小幅ながら減少傾向)。
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2
ዊဳゞ ᄢဳゞ
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22,660
H16.1.21
22,103
H17.3.1
26,316
H18.3.15
24,393
H20.3.26
23,620
H21.3.11
20,717
H21.6.24
20,912
H21.7.23
20,561
H21.8.26
20,088
H21.9.16
21,215
H22.2.17
19,792
H22.5.26
20,564
H22.10.6
20,503
H23.3.16
20,325
H23.11.9
20,086
51,049 71,135
H24.2.22
19,225
49,248 68,473
H24.7.18
19,510
H25.2.13
20,594
50,005 70,599
沿道環境については、NO2、SPM ともに減少傾向。
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0.120
0.100
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0.020
0.000
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NO2Bᖹᆒ್Œᖺ㛫98%್
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0.070
0.060
0.050
0.040
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NO2⎔ቃᇶ‽:1㛫್Œ1Bᖹᆒ್䛜0.04ppm
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NO2 日平均値の年間 98%値 SPM 日平均値の年間 2%除外値
7.合意書
以上のように、道路管理者として連絡会で意見交換をしながら尼崎地域の沿道環境改善に向けた施策を着実に実施し、その結果として大型車交通量の低減や大気汚染環境の改善に一定の成果を得ることが出来た。併せて、この施策と成果については原告団からも一定の評価を得ることが出来たことから、原告団と国土交通省近畿地方整備局及び阪神高速道路(株)(以下「三者」という。)は平成 25 年 6 月 13 日、第 47 回連絡会の場において「尼崎道路公害訴訟・和解条項履行に係る意見交換終結合意文書」を締結するに至った。
合意内容は、環境ロードプライシング、国道 43 号通行ルールを引き続き実施すると共に、国道 43 号の歩道空間バリアフリー化として計画されているエレベーターの設置等を実施することをもって、和解条項及びあっせん合意事項の履行に係る意見交換を終結し、今後の連絡会については三者協調的な関係に基づく意見交換を行うというものである。
8.最後に
連絡会では、和解条項及びあっせん合意事項の履行に係る意見交換は終結することになるが、引き続き規模を縮小しながらも連絡会を実施していき、三者の協調的な関係に基づく意見交換を踏まえ、道路管理者としては尼崎地域のより良い沿道環境の実現に努めて参りたい。