Contract
論 説
xx側企業からxx側企業への商標ライセンス契約
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抄 録 サプライチェーンのxx側企業が,自社製品たる素材・部品や技術等について“技術ブランド”を構築し,その商標につきxx側企業にライセンスを許諾する場合がある。“技術ブランド”に係る商標は,他社たるxx側企業がその企業の最終製品等に表示する機会が多いという特徴があり,この特徴により,そのライセンス契約には,通常とは異なる検討事項やリスク等が存在する。また,ライセンシーたるxx側企業は,xx側企業の顧客であると考えられるため,xx側企業にとっては,通常の契約交渉とは異なる難しさも生じ得る。本稿では,xx側企業の“技術ブランド”に係る商標につき,xx側企業とライセンス契約を締結する場合に注意すべき点につき,条項例を示しつつ,xx側企業の立場の観点から説明する。
目 次
1. はじめに
2. 商標ライセンス契約で定めるべき項目
2.1 許諾商標・許諾商品(役務)とその使用
2.2 商標の使用基準・使用報告,商品(役務)の品質管理
2.3 産業財産権に共通にみられる項目
2.4 一般的な条項
3. おわりに
1 . はじめに
サプライチェーンのxx側企業が,自社製品たる素材・部品や技術等について,いわゆる“技術ブランド”を構築することがある。その狙いは,市場で広くxx側企業にアピールして自社製品等の提供機会を増大させたり,自社製品等を使用した最終製品等を購入するエンドユーザーにブランド浸透を図ったりすることが多いようだ。また,xx側企業にとっては“,技術ブランド”の活用によって,優れた素材・部品や技
に認知させ,購買意欲を向上させるというメ リットがある。このように“,技術ブランド”は,自社たるxx側企業にとっても他社たるxx側企業にとってもメリットがあると考えられる。このような“技術ブランド”に係る商標につ き,xx側企業からxx側企業にライセンスを許諾する場合,他社たるxx側企業がその企業の最終製品等に表示する機会が多いという特徴により,通常の商標ライセンスとは異なるリスクが存在することを認識しておくことが重要である。また,ライセンシーたるxx側企業は,xx側企業の顧客であると考えられる。このため,xx側企業にとっては通常の契約交渉とは異なる難しさも生じ得るが,商標権とブランド価値を守るために必要な条項につき,xx側企
業の理解を得ることが重要となる。
本稿では,xx側企業が自社の“技術ブランド”に係る商標につきxx側企業とライセンス契約を締結する場合に留意すべき点について,
術等を自社製品に使用していることをユーザー * 弁理士 Xxxx XXXXXX
条項例を示しつつ,xx側企業の立場の観点で説明する。
なお,誌面の関係上,商標に特有の項目を中心に取り上げ,知財一般・契約一般に関する項目等は軽く触れるに留める。また,本稿では,登録商標の専用権範囲でのライセンス(商標法 30,31条)を対象とし,禁止権範囲での権利不行使を約束するライセンスは対象としない。
2 . 商標ライセンス契約で定めるべき項目
商標ライセンス契約で定めるべき項目のうち,まずは,商標に特有な項目について,条項例を示しつつ説明する。
2.1 許諾商標・許諾商品(役務)とその使用
【条項例1】
(通常使用権の設定)
1.甲は,下記の商標(以下「許諾商標」という。)につき,下記の指定商品(役務)の範囲(以下「許諾商品(役務)」という。)において,商標法第31条に規定する通常使用権
(以下「使用権」という。)を,乙に許諾する。
(1)商標:「○○○○○」
(2)登録番号:第○○○○号
(3)商品の区分:第○○○類
(4)指定商品(役務):○○○○○
2.前条の使用権の範囲は,以下のとおりとする。
(1)x x 商標法第2条第3項第1号に規定する使用及び第2号に規定する譲渡・譲渡のための展示及び電気通信回線を通じて提供する行為
…
(1)許諾商標
1)本稿で取り上げるライセンスの対象範囲である「専用権」とは,登録商標を指定商品・役務について独占排他的に使うことができる範囲をいう。したがって,専用権範囲でのライセンス許諾の対象となる商標は,登録商標そのものであることが基本である。その特定は,【条項例1】1.のように契約書中に明記する他,契約書の添付別紙に,商標見本とともに,商標登録番号等を記載することで可能である。
(2)許諾商品(役務)
1)専用権範囲でのライセンス許諾の対象となる商品・役務については,登録商標の指定商品・役務と同一の範囲で厳選した上で,【条項例1】1.のように,明確かつ正確に特定することが重要である。
2)ところで,前述のように,“技術ブランド”の商標ライセンスに特有な点として,それが使用権者の最終製品等で表示され得ることが挙げられる。すると,例えば,「防水生地」についての“技術ブランド”の商標が使用権者の最終製品「レインウェア」で表示される場合,その商標が「防水生地」又は「レインウェア」のどちらについて使われているといえるのかが問題になり得る。商標登録した指定商品・役務についての使用と認められないと,不使用のみならず他社権利侵害等の問題も生じ得るので,この問題は悩ましい。
この点,裁判例では,商標の表示態様や表示箇所等によって,判断が異なっている。以下にいくつか裁判例を挙げる。
・「被服」等を指定商品とする「ZAX」の登録商標を有する原告が,繊維ブランドの「ZAX」を印刷したラベルを,完成品「スラックス」に付し販売したところ,『「素材」の品質ないし機能を保証するものである』と判断された事例(不使用取消審決に対する審決取消訴訟,H16(行
ケ)404 ZAX事件)。
・原告が「被服」等を指定商品とする「グラム
\GRAM」の登録商標を有しており,その通常使用権者(ODM生産者)が,繊維ブランド「グラム」を印刷した下げ札を完成品「ダウンジャケット」に付し,当該完成品をxx側企業が流通させた(襟ネームや他の下げ札には,xx側企業の商標が付されていた)ところ,『被服である本件商品の出所及び品質等を示すものとして用いられている』と判断された事例(不使用取消審決に対する審決取消訴訟,H25(行ケ) 10032 グラム事件)。
・「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」を指定商品とする「GENESIS」の登録商標を有する原告(総合電気メーカー(統合型))が,画像処理技術に関する技術ブランド「GENESIS」を, 完成品「ファクシミリ」の広告・価格xxに表示していたところ,
『「ファクシミリ」の広告などに,同商品の出所を示す趣旨で使用されている』と判断された事例(不使用取消審決に対する審決取消訴訟, H23(行ケ)10096 GENESIS事件)。
3)このような裁判例を踏まえて,後述の使用ガイドライン等において,まずは,“技術ブランド”に係る素材・部品や技術等の指定商品・役務についての使用と容易に認められ得るような表示態様や表示箇所等を詳細に定めておくことが重要となるであろう。
4)さらに,xx側企業が,xx側企業の最終製品等をカバーする商標登録を行い,自社製品等をカバーする商標のライセンスと合わせて許諾対象にすれば,前述のような揺れ動く判断への事前対策となるであろう。
ちなみに,もしxx側企業がxx側企業の“技術ブランド”と同一の標章につき最終製品等をカバーする商標登録をすると,xx側企業は独自の判断で他のxx側企業にその範囲でライセンス許諾ができなくなる一方,商標権者たるx
x側企業は,その範囲で他企業に自由にライセンス許諾ができることになる。すると,例えば,xx側企業からライセンス許諾された他企業の最終製品等の品質が低い場合等に,xx側企業の“技術ブランド”に傷がつくリスクが生じる。このようなリスクを避けるために,xx側企業は,自身で早期に最終製品等をカバーする商標を登録しておくと安心であろう。
(3)使 用 “技術ブランド”の商標ライセンスは,使用 権者の最終製品等を通してエンドユーザーにブランド訴求することが目的のため,【条項例1】
2.のように,使用権者の「使用」行為を明確に特定しておくことも重要となる。すなわち,商標法2条3項・4項に規定する「使用」行為のうち,どの「使用」行為を対象とするのかを,明確に特定することが必要である。
2.2 商標の使用基準・使用報告,商品(役務)の品質管理
【条項例2】
(使用基準)
1.乙は,本契約及び別途定める許諾商標の使用ガイドラインに従って,許諾商標を適正に使用しなければならない。
2.乙は,許諾地域の内外を問わず,又,本契約の存続中か終了後かを問わず,以下の各号の行為をしてはならない。
(1)許諾商標の識別力を失わせるおそれのある態様で使用すること。
(2)許諾商標に類似し又はこれと混同する可能性がある商標,商号その他の標識を使用し又は登録すること。
(3)許諾商標を,許諾商品(役務)と類似する商品(役務)について使用し又はその商品
(役務)について登録すること。
(4)許諾商標を第三者の商品若しくは役務と混同させ又は本件商品の品質を誤認させるおそれのある態様で使用すること。
(5)許諾商標に化体された信用を毀損すること。
(1)使用ガイドライン等
ブランド管理の観点では,【条項例2】1.のように,別途,使用ガイドライン等を定めて,許諾商標の表示方法について,細かい限定を付すことが大切になるであろう。例えば,登録商標は標準文字でも異なる書体で使用する場合等に,書体・色・サイズ・表示方法等を限定するとよい。
ただし,限定は,登録商標の同一性の範囲(商標法50条1項)に留めておくべきである。同一性の範囲を逸脱すると,不使用の問題だけでなく,他社権利侵害等の問題も生じかねない(これらの問題については後述する)。具体的には,商標法50条1項に例示列挙された同一性の範囲であれば安心であろう(「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標」,「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標」,「外観において同視される図形からなる商標」)。また,色彩については,「登録商標に類似する商標であって,色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの」が,50条1項の「登録商標」に含まれるとされている(商標法70条1項)。
3)さらに,“技術ブランド”の商標ライセンスに特有の留意点として,使用権者の最終製品等に係る商標とともに表示される場面が多いことが挙げられる。したがって,両商標の表示の関係(例えば,両商標の大きさの比率,表示箇所等)に関する項目があると安心であろう。
また,後述する“指定商品・役務についての
使用”,商標的使用態様や普通名称化,不正使用防止等の観点からも,表示態様や表示箇所等を検討する必要がある。
(2)商標的使用態様担保・普通名称化防止 “技術ブランド”に係る商標は,xx側企業の最終製品等に使われている素材・部品や技術等がどういったものであるかを説明する文章中等で使われることも想定される。もしそのような使用のみに限られた場合に,商標的使用態様でないと認められると,不使用の問題が生じる可能性があるので,要注意である。
また,“技術ブランド”に係る商標は,種々の最終製品等に汎用的に使われる機会が多いと考えられるため,何も対策しないと普通名称化しやすいともいえる。
したがって,【条項例2】2.(1)のように,商標的使用態様担保・普通名称化防止に関する条項を契約に含めるとともに,使用ガイドライン等に,具体的な措置に関する条項を盛り込んでおくと安心である。例えば,文章中では太字表示や「」等で囲む等,文章中に埋もれない工夫等をしてもらうとともに,Rマークの付加や
「●●は××の登録商標です」の表記等によって登録商標であることを周知してもらうこと等が挙げられる。このような表記を行うことで,商標的使用態様を担保するとともに,普通名称化の防止策ともなり得るであろう。
(3)禁止権範囲使用
1)禁止権範囲での使用
商標権者は,禁止権範囲で他人の使用を排除できる権利を有している。ここで「禁止権範囲」での使用とは,a)登録商標と類似の商標を指定商品・役務について使うこと,b)登録商標を指定商品・役務と類似の商品・役務について使うこと,c)登録商標と類似の商標を指定商品・役務と類似の商品・役務について使うこ
と,のいずれかをいう。
冒頭で述べたように,本稿が対象とする商標ライセンス契約は,専用権範囲での使用許諾を前提とするので,基本的には,禁止権範囲での使用は想定外のはずである。しかし,ここまでしばしば触れたように,使用権者が,意図的でなくても,禁止権範囲で使用してしまう可能性は常に存在する。したがって,【条項例2】2.
(2),(3)のように禁止権範囲での使用を禁止する条項を明記するとともに,もし禁止権範囲で使用したらどのようなリスクが生じ得るかを知っておくことは大切である。
2)禁止権範囲での使用の例
禁止権範囲での使用の例をいくつか挙げてみる。
①平仮名/片仮名/ローマ字の登録商標を,
漢字に変更して使用,又はその逆
②登録商標に,他の文字・図形・記号等を付加して使用
③登録商標の一部を欠落させ/変更して使用
④一段書きの登録商標を,二段に分けて使用,
又はその逆
いずれも,登録商標と同一性が認められるか否かが問題となる典型的な態様であり,同一性が認められなければ禁止権範囲での使用となる可能性がある。
3)他者商標権侵害に関する留意点
自己の登録商標の禁止権範囲が他人の登録商標の禁止権範囲と重複する可能性があり,これが,禁止権範囲での使用のリスクの1つとなる。例えば,登録商標「知財管理」を「,CHIZAI」(小さく表示)と「KANRI」(大きく表示)の上下二段で使用したところ,同一性の範囲を超えて,他人の登録商標「Kan - ri」の禁止権範囲での使用になってしまった,といったようなケースである。
商標権者は禁止権範囲での使用を禁止されてはいないが,他人の商標権を侵害しない範囲で
使用が可能になるにすぎない。したがって,使用権者も禁止権の重複範囲で使用すると,他人の商標権侵害のリスクが生じるので,要注意である。
4)不使用に関する留意点
禁止権範囲での使用のみに限られると,不使用の問題も生じさせる。そして,不使用取消審判を請求されるのは,他者が同一又は類似の商標を登録したいと考えている場合が多いため,一旦取り消されてしまうと,その範囲で他社の登録を許してしまうことになりかねない。
この観点からしても,禁止権範囲でしか使用しないことにはリスクがあるといえ,要注意である。
(4)不正使用
1)53条の概要
使用権者が,“技術ブランド”に係る登録商標の専用権範囲又は禁止権範囲で使用し,商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせたり,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じさせたりすると,商標登録が取り消される可能性がある(商標法53条1項)。このような商標の使用を「不正使用」という。【条項例2】2.(4)は,「不正使用」を禁止する規定である。
具体的に,品質・質の誤認に関しては,商品の種類,原材料,効能若しくは内容等又は役務の種類,効能若しくは内容等を誤認させるような場合だけでなく,商品の品質や役務の質を粗悪にして需要者に品質・質の誤認を生じさせて期待を裏切る場合に,53条の不正使用に該当するとされる。
また,出所誤認混同に関しては,商品・役務の出所が他人と同一であると誤認させる場合だけでなく,人的又は資本的に何等かの関係があるかのように誤認させる場合等にも,53条の不正使用に該当するとされる。
なお,53条の取消審判については,専用権範
囲での使用は対象とならないという説1),2)や,専用権範囲での使用が問題になるのは品質等誤認に限られるという説3)があるが,本稿では条文どおりに解釈する。
2)監督義務
【条項例3】
(使用報告)
1.乙は,許諾対象商標を使用したパッケージ,ラベル,印刷物,パンフレット,リーフレット若しくは広告用テキスト等一切の資料
(以下「使用資料」という。)又はそれらのコピー若しくは写真を,毎年○月末に甲に提供して,使用状況を報告する。
2.乙は,使用資料に変更を加えようとするときは,事前に当該変更内容を記した書面を甲に提出する。
3.甲は,乙による許諾対象商標の使用が,本契約又は使用ガイドラインの内容に適合していないと判断したときは,乙に対し書面でその旨を通知し,かつ,適合させるために甲が必要と判断した改善措置を要求できる。乙は,当該書面受領後速やかに当該改善措置をとる。
商標法53条の規定は,商標権者に,使用権者の行為に対する監督義務を課すものとされている。監督義務を果たしているといえるためには,
『「相当の注意」をしていたにも拘わらず,そのような行為を知らなかった』ことが必要である。そして,「相当の注意」といえるためには,単に注意したという程度では足らず,定期的な監督や報告の聴取等,実質的な監督が必要で,その立証責任は商標権者側にあるとされている4)。
53条は,使用権者に故意を要求しておらず,過失であっても取消対象となるので,監督義務は重いといえる。
また,監督義務を怠った場合に対する制裁は強力で,不使用取消審判のように指定商品・役
務ごとに商標登録が取り消されるわけではなく,商標登録全体が(多区分の場合は全区分について)取り消されることとなっている。
さらに,一旦取り消されると,商標権者・専用使用権者・通常使用権者だった者は,審決確定日から5年が経過するまで,同一範囲又は類似範囲での新たな商標登録を行うことができない(商標法53条2項)。
そして,不使用取消審判と同様に,不正使用取消審判を請求されるのは,他者が同一又は類似の商標を登録したいと考えている場合が多いため,一旦取り消されてしまうと,その範囲で他社の登録を許してしまうことになりかねない。この観点からしても,使用権者の不正使用には大きなリスクがあるといえ,要注意である。
以上を踏まえると,実質的な監督に関する具体的かつ明確な条項を契約に入れておくことは必須と考えられる。【条項例3】のように,定期的な報告の聴取等として,許諾商標を付した商品等や販促資料等の見本を提出してもらう使用報告に関する条項も定めておくと安心であろう。取引先たるxx側企業に受け入れてもらうのは簡単ではないと予想されるが,商標法上の要請であることを丁寧に説明して,理解を得ることが必要になるであろう。
なお,使用権者の最終製品等をカバーする商標登録を行い,商標法53条の取消審判の対象となるようにしておくことで,最終製品等に対する監督義務が正当化され,最終製品等に対してコントロール権原が生じ,“技術ブランド”のイメージダウンの防止及び価値の維持向上にもつながる。この観点からも,xx側企業自身で,使用権者の最終製品等をカバーする商標登録をしておくことは有効であろう。
3)品質管理
【条項例4】
(品質管理)
1.許諾商品(役務)は,別途定める品質基準書の内容に適合しなければならない。
2.乙は,許諾商標を使用した許諾商品又はその見本(許諾役務の内容を示す資料)を,各○部,毎年○月末に甲に提供する。
3.乙は,許諾商品(役務)に変更を加えようとするときは,事前に当該変更内容を記した書面を甲に提出する。
4.xは,許諾商品(役務)が,本契約又は品質基準書に適合していないと判断したときは,乙に対し書面でその旨を通知し,かつ,適合させるために必要と甲が判断した改善措置を要求できる。乙は,当該書面受領後速やかに当該改善措置をとる。
次に,53条の要請たる品質管理について具体的に説明する。
商品・役務の種類等の誤認混同については,前出の【条項例2】2.(4)で禁止しており,また,前述の使用ガイドライン等で表示態様や表示箇所等を厳格に特定し,定期的に報告を聴取すること等により,大半はコントロールできると考えられる。
一方,商品の品質や役務の質が粗悪にならないようにコントロールするための条項の具体的な内容としては,【条項例4】のように,例えば,商品の品質基準の特定,見本の提出,検査対象方法・時期,他の原材料・部品の購入先の指定,下請の制限,立入検査条項,許諾商標を使用して広告をする場合の原稿検査等が挙げられる。これらに関し,別途,品質基準書を定めることも考えられる。
ただ,取引先たるxx側企業にどこまで受け入れられるか,十分な話し合いが必要となるであろう。品質管理条項は,使用権者側にとって
も,最終製品等の品質信頼度を上げることができるというメリットがある。品質管理条項は,商標権者及び使用権者間のウィンウィンの関係を構築・維持するものであると説明することができる。
4)出所誤認混同防止
続いて,出所誤認混同防止について説明する。出所誤認混同防止の対象となるのは,他人の
登録商標だけでなく,未登録商標も含まれる。また,周知商標だけでなく,未周知商標も含まれるとされている5)。
出所誤認混同についても,前出の【条項例2】
2.(4)で禁止しており,また,前述の使用ガイドライン等で表示態様や表示箇所等を厳格に特定し,定期的に報告を聴取すること等により,コントロールが可能と考えられる。
なお,特に注意しなければならないのは,53条の「他人」には,商標権者や他の使用権者も含まれるとされていることである5),6)。これら相互間の実際の使用により「具体的混同を生ずるおそれ」が認められると,53条が適用される可能性がある。この観点から,特に,ライセンスを複数企業に許諾する場合は,許諾対象の商品・役務も勘案し,複数企業が相互に「具体的混同を生ずるおそれ」がないようにすると,より安全である。
2.3 産業財産権に共通にみられる項目
次に,商標ライセンス契約で定めるべき項目のうち,産業財産権に共通にみられる項目について説明する。
(1)ライセンスの態様・設定登録
【条項例5】
(通常使用権の設定)
1.甲は,下記の商標(以下「許諾商標」という。)につき,下記の指定商品(役務)の
範囲(以下「許諾商品(役務)」という。)において,商標法第31条に規定する通常使用権
(以下「使用権」という。)を,乙に許諾する。
…
【条項例6】
(使用権の設定登録)
1.甲は,乙の協力を得て,使用権の設定登録申請を行う。
2.前条の手続に必要な費用は○が負担する。
とを約定するが,設定登録は行わない使用権)については,第三者の侵害行為に対して独自に差止請求や損害賠償請求が可能かどうかに争いがあるが,商標権者に対して債務不履行責任を追及することができると解釈されている。
【条項例7】
(使用権の譲渡・再許諾等)
1.乙は,甲の事前の書面による許諾なく,本契約に基づく使用権を,第三者に譲渡し,担保に供し,再許諾してはならず,また,その他の方法及び形態の如何を問わず第三者に許諾商標を使用させてはならない。
(2)譲渡・再許諾等
1)ライセンスの態様としては,専用使用権か通常使用権という違いがあり,また,通常使用権であれば独占的か(又は商標権者自身の使用も禁止される完全独占的か)非独占的かという違いがあるので,【条項例5】のように,態様を明確に特定する必要がある。ただ,“技術ブランド”の性質上,専用使用権の設定や,完全独占的な通常使用権の許諾は少ないかもしれない。
2)専用使用権は,商標権と同様に「物権」的な独占排他的権利である。①原簿への登録で効力が発生し(商標法30条4項),②専用使用権を設定した範囲では商標権者の使用も禁止され,③第三者の侵害行為に対して独自に差止請求や損害賠償請求が可能で,訴訟の当事者になることができる。
3)通常使用権は,商標の使用を許諾する「債権」的な権利である。①当事者間の合意で効力が発生し,②同じ範囲でも複数人に許諾が可能であり,③原簿への登録は第三者対抗要件で(商標法31条4項),当事者間で自由に定めることができる。ただ,【条項例6】のように,原簿登録の協力義務を商標権者に課すことで,商標権の譲渡人から差止請求や損害賠償請求を受けるリスクの回避を使用権者に保証することになり,取引先たるxx側企業とのライセンス交渉がよりスムーズになると思われる。
なお,独占的な通常使用権(独占的であるこ
専用使用権・通常使用権は,商標権者の承諾なく譲渡したり(商標法30条3項,31条3項),質権を設定したりすることはできない(商標法 30条4項,31条6項)。また,専用使用権については,商標権者の承諾なく再許諾はできず(商標法30条4項),通常使用権の場合も同様と解釈されている。
これらの行為を使用権者に許諾する場合は,
【条項例7】のように,商標権者の承諾が必要であることを明示しておくことが非常に重要である。また,再許諾を承諾する場合は,再許諾先や再許諾先による使用行為等の範囲を明確にしておくことが必要である。
使用権の譲渡・再許諾等について明確な条項を設けることで,“技術ブランド”の商標が,商標権者の製品等を使わない他企業の最終製品等に勝手に使用されたり,品質基準を満たさない他企業の最終製品等に使用されたりするリスクを未然に防止することができる。“技術ブランド”の価値を維持向上させる観点で大切な留意点である。
【条項例8】
(通常使用権の設定)
…
2.前条の使用権の範囲は,以下のとおりとする。
(1)x x 商標法第2条第3項第1号に規定する使用及び第2号に規定する譲渡・譲渡のための展示及び電気通信回線を通じて提供する行為
(2)地 域 日本国内
(3)期 x xx○年○月○日から令和○年○月○日まで
【条項例10】
(対価及びその支払い)
1.乙は,本契約に基づく使用権に対する対価として,金○○円を,本契約締結日から○日以内に,甲の指定する銀行口座に振り込むことにより支払う。
(3)使用時期・数量・地域等
【条項例8】のように,使用開始時期,ライセンス期間は明確に定めておくことが必要である。また,地域制限,数量制限(最大数量の制限・最低数量の制限)等を定めておくことも考えられる。これらの項目は,品質管理,出所誤認混同防止,“技術ブランド”の価値コントロール等の多面的な観点から検討が必要となるであろう。ただし,独占禁止法に規定する不当な取引制限とみなされないように,合理的な範囲とすることが必要である。
(4)対 価
ライセンスの対価は,大きく分けて,①売上と連動する決め方と,②売上とは連動しない決め方と,③これらを組み合わせた決め方とがある。【条項例9】【条項例10】は,それぞれ①と
②についての例である。①の場合は,計算のベースを明確にするために,値引き額・税金等を含むか否かについても決めておく必要がある。
なお,専用使用権や独占的通常使用権の場合,商標権者のリスク軽減のため,②か③を採用すれば,最低使用料の設定を検討できるであろう。
【条項例11】
(第三者による侵害行為)
1.甲及び乙は,第三者が,許諾商標に係る商標権を侵害している事実又は商標権を侵害する可能性を知ったときは,相互にその旨を報告する。
2.前条の報告があったとき,xは,乙の協力を得て,第三者の侵害行為に対し対処する。
3.前条の侵害行為に対する措置に必要な費用は,甲及び乙が平等に負担する。
(5)第三者による許諾商標に関する紛争
【条項例12】
(第三者による権利の消滅行為)
1.第三者が,許諾商標に係る権利に対し,異議申立,無効審判請求,取消審判請求その他の当該権利を消滅させる行為を行ったときは,甲は,その旨を速やかに乙に報告し,また,当該権利を保全するために必要な措置をとる。
【条項例9】
(対価及びその支払い)
1.乙は,本契約の有効期間中に,許諾商標を使用して製造又は販売された商品につき,その正味販売額総額の○○%の使用料を,甲に支払う。
2.前条の使用料は,甲の指定する方法により,該当月末締め,翌月末日までに支払わなければならない。
2.前条の規定により,甲が,許諾商標に係る権利を保全するために,乙よる許諾商標の使用証拠の提出その他の協力を求めたとき,乙は,これに協力する。
3.1条の措置に必要な費用は,甲及び乙が平等に負担する。
【条項例14】
(契約解除)
1.甲は,乙が次の各号の一に該当する行為を行った場合,本契約を解約できる。
(1)許諾商標に係る商標権その他知的財産権の有効性を直接的又は間接的に争ったとき
…
前述のとおり,通常使用権者は,独自に差止請求や損害賠償請求ができない(独占的な通常使用権者については争いがある)ため,【条項例11】のように,第三者による商標権侵害に対する商標権者の権利行使の義務を定める場合がある。また,【条項例12】のように,第三者による異議申立・無効審判・取消審判等に対し,商標権者が適切に対応するべき義務を定める場合もある。これら条項を設ける場合は,審判・訴訟費用,弁理士・弁護士費用の分担の問題,侵害訴訟で取得した金銭の分配の問題,義務違反の場合の措置等について検討する必要がある。なお,使用権者が,許諾商標の権利を侵害す る第三者を発見した場合に,商標権者に報告を行う義務や,商標権者の侵害調査に協力する義務を入れた方が安全には違いない。ただ,使用権者が取引先たるxx側企業の場合,こういった条項を入れるかどうかは,悩ましいところで
あり,十分な話し合いが必要であろう。
【条項例13】
(不保証)
1.甲は,許諾商標に係る商標権の有効性及び取消可能性について保証しない。
2.甲は,許諾商標の使用が第三者の権利により制限を受けないことについて保証しない。
(6)不争義務,不保証,秘密保持
【条項例15】
(秘密保持)
1.甲及び乙は,本契約に関連して知り得た相手方の秘密事項を,相手方の事前の書面による許諾なく,第三者に開示又は漏洩してはならない。
商標権者の立場では,使用権者が許諾商標の権利の有効性を争うことを禁止する不争義務は入れたい一方,商標権の有効性を保証する条項は入れたくないのが本音である。ただ,取引先たるxx側企業との交渉をスムーズにするために,いずれかを譲歩してバランスをとることも一考の余地があるかもしれない。
なお,不争義務は独占禁止法の不当拘束が問 題視されるため,近年は,【条項例14】のように,権利の有効性を争う場合は商標権者から契約解除できるという条項にすることが多いようである。また,【条項例15】のように,契約履行で知 り得た秘密情報の開示を禁止する規定を入れて
おくことも検討対象であろう。
(7)商標権の更新登録
【条項例16】
(商標権の更新登録)
1.本契約の有効期間満了前に,許諾商標に係る商標権の存続期間が満了するときは,甲は,その更新登録申請を行う。更新登録申請に必要な費用は甲が負担する。
【条項例16】のように,商標権者が商標権の更新登録義務を負うことを明確にすると,スムーズなライセンス交渉に寄与すると思われる。
2.4 一般的な条項
条項例は省略するが,契約の有効期間,変更,更新,終了,準拠法,紛争解決方法(裁判とするか仲裁とするか),管轄裁判所,仲裁機関等についても,明確に定めておくことが必要である。
3 . おわりに
以上で説明した留意事項の中には,xx側企業へ負担を課す条項も含まれている。取引先たるxx側企業に負担を受け入れてもらうことは簡単ではないと予想され,全ての事項において商標権者側に有利な条件で締結することは難しいかもしれない。しかしながら,例えば,商標法53条に規定する監督義務に関する条項を設けない等,明確に商標権者が不利になり得る条件で譲歩してしまうと,商標ライセンス契約の締結自体がリスクとなる可能性がある。
したがって,まずは,譲歩できる範囲と譲歩
できない範囲とを自社内で事前に明確化し,契約相手たるxx側企業には,商標ライセンス契約の締結がxx側企業の最終製品等のブランド価値を高め得ることを丁寧に説明しつつ,ある程度は譲歩することでバランスを取ることも必要になるであろう。
そして,本稿が,両社にとってウィンウィンの商標ライセンス締結に寄与できると嬉しく思う。
注 記
1) xxxxx,ジュリストNo.999,p.125(1992)
2) xxxx,商標法概説(第2版),p.415(2000)弘文堂
3) 前掲注1)
4) xxx,商標(第6版),p.922(2002)有斐閣
5) xxxx編,注解商標法(新版),p.1172(2006)青林書院。ただし,商標権者,使用権者相互間に出所混同を生じた場合に53条を適用することについての反対論も紹介されている。
6) xxxx, xxxx, 新・商標法概説,p.518
(2009)青林書院
(原稿受領日 2021年6月30日)