https://www.mhlw.go.jp/new- info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/index_4.html
第7章 派遣労働者の労働条件・待遇
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
1 派遣労働者の労働条件・待遇の決め方――――――――――――――――――
(1)派遣労働契約による労働条件・待遇の決定
派遣で働きあるいは働かせること、賃金を支払いあるいはもらうことは、法律的にみれば、労働者が派遣先で労務を提供すること、派遣元が賃金を支払うことを合意し(労働契約法第6条)、その合意を履行することを意味します。
このような合意を派遣労働契約といいます。派遣労働契約において労務(提供義務)
の内容、賃金(支払義務)の内容、その他のお互いの権利・義務を定めて、その契約を結ぶことによって、派遣労働者の労働条件・待遇が決まります。
◎派遣登録について◎
登録型派遣は、一般に、派遣労働を希望する者をあらかじめ登録しておき、労働者派遣をするに際し、当該登録されている者と労働契約を結び、派遣を行うものです。労働者は、氏名、希望業務、スキル、職歴などの情報を提供するなどによって登録します(派遣登録)。
一般に、派遣登録の段階では、労働契約は締結されていないと考えられています。そのため、派遣元・労働者間で契約上の権利・義務もないといえます。
しかし、派遣法上、派遣元には、以下のような義務・努力義務が課されています。
・登録者の個人情報を適切に収集・保管・使用する義務(法第24条の3、元指針第2の11)。
・雇用実績1年以上の登録状態の者に対する雇用安定措置の努力義務(法第30条第1項)
・就業機会確保・教育訓練機会確保(元指針第2の8(4))
・待遇に関する説明義務(法第31条の2)
・特定目的行為の禁止(法第26条第6項・先指針第2の3・元指針第2の13)
(2)就業規則による労働条件・待遇の決定
①就業規則とは
派遣労働者の労働条件・待遇は、個々の労働契約のみならず就業規則によっても定められます。就業規則とは、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律などについて定めた職場における規則集です。使用者=派遣元が、合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に周知させていた場合には、就業規則で定められた労働条件も労働者の労働条件となります(労働契約法第7条)。そのため、
第7章
就業規則で統一的な労働条件を定められることになります。
派遣労働者の労働条件・待遇
また、労働契約で就業規則より低い労働条件が定められている場合、その労働条件については就業規則による労働条件が適用されます(労働契約法第 12 条)。
常時 10 人以上の労働者(派遣労働者以外の労働者も含む)を雇用している使用者
=派遣元は、就業規則を作成しなければなりません(労働基準法第 89 条)。
②就業規則作成・変更手続き
就業規則作成・変更時には、派遣元事業場の労働者の過半数が加入している労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数が加入する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴く必要があります。ここでの過半数は、派遣中の労働者とそれ以外の労働者の両者を含む、派遣元事業場の全ての労働者の過半数のことをいいます(労働基準法第 90 条)。
また、就業規則は労働基準監督署長に届け出なければならず(労働基準法第 89 条)、労働者に就業規則を周知することも必要です(労働基準法第 106 条)。
平成 30 年改正派遣法では、派遣労働者に関する事項について、就業規則を作成・変更する場合には、派遣元は、事業所において雇用する派遣労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴く努力義務が定められました(法第 30 条の 6)。
③就業規則の内容
始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定等、退職に関する事項については、使用者は必ず就業規則に記載しなければなりません。そのほかにも、退職手当や賞与など、制度化する場合に記載しなければならない事項もあります(労働基準法第 89 条)。
しかし、派遣労働の場合、始業・終業時刻、休息、休日、休暇などについては、派遣先によって異なるため、統一的な内容を書くことは困難です。そのため、画一的な労務管理を行わない事項については、就業規則にその枠組み・具体的な労働条件の定め方を規定すればよいとされています。もっとも、雇入れ時には、具体的な労働条件を明示する必要があります(昭和 61 年6月6日付基発 333 号通達)。
このように、派遣労働では、就業規則で画一的な労働条件の定めができない部分があることから、個々の労働契約が重要になってきます。派遣元は、個々の契約で労働条件を明確にし、雇入れ時に確実に明示しましょう。派遣労働者も、労働契約を結ぶ際には、しっかりその労働契約上の労働条件を確認してください。
※就業規則については、厚生労働省発行パンフレット「派遣元事業者のための就業規則の作成のポイント」も参照してください。
xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxx- info/kobetu/roudou/gyousei/xxxxxxx/index_4.html
第7章
2 均等・均衡待遇等-平成30年改正【令和2年4月1日施行】
派遣労働者の労働条件・待遇
(要領第6の4・5・6、第7の4) ――――――
(1)基本的な考え方
派遣労働者の就業場所は派遣先であり、待遇に関する派遣労働者の納得感を考慮するため、派遣先の労働者との均等(=差別的な取扱いをしないこと)、均衡(=不合理な待遇差を設けないこと)は重要な観点です。
しかし、この場合、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、派遣労働者の所得が不安定になることが想定されます。また、企業によって職務の難易度と賃金との対応関係は異なっており、キャリアアップをしてきたのに以前の派遣先よりも賃金が低くなるといったケースも考えられます。このように、派遣先との均等・均衡待遇についてのみルール化すると、派遣労働者個人の段階的・体系的なキャリアアップ支援と不整合な事態を招くこともあり得ます。
こうした状況を踏まえ、平成 30 年の法改正により、派遣労働者の待遇について、派遣先均等・均衡方式、労使協定方式のいずれかの方式により、派遣労働者の待遇を確保することが義務化されました。
(2)派遣先均等・均衡待遇方式と労使協定方式
①派遣先均等・均衡方式
・均等待遇
派遣先の通常の労働者と比較して、①職務内容(※)、②職務内容・配置の変更範囲が同じ場合には、差別的取扱いをしてはなりません(法第 30 条の 3 第 2 項)。
・均衡待遇
派遣先の通常の労働者と比較して、①職務内容(※)、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情の相違を考慮して不合理な待遇差を設けてはなりません
(法第 30 条の 3 第 1 項)。
※職務内容とは、業務の内容+責任の程度をいいます。
待遇情報の提供義務
派遣
均等/均衡
<通常の労働者>
<派遣労働者>
派遣元
派遣先
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
この「派遣先均等・均衡方式」では、①②が同じ場合には同じ待遇を確保する必要があり、①②が同じでない場合には、待遇に差を設けるとしても、不合理な差であってはいけません。
均等・均衡待遇の原則となる考え方と具体例を待遇ごとに示した「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(いわゆる同一労働同一賃金ガイドライン)に基づく対応が必要です。
●均衡待遇における努力義務
派遣元は、派遣先に雇用される通常の労働者との均衡を考慮しつつ、派遣労働者(均等待遇の対象となる者及び労使協定の対象となる者を除く)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(職務の内容に密接に関連して支払われる賃金以外の賃金を除く)を決定するように努めなければなりません(法第 30 条の 5)。
この規定は、不合理と認められない待遇の相違がある中で、派遣労働者の納得感を向上したり、就業の促進等を図ったりするためには、働き又は貢献に関する事情を考慮して賃金を決定するように努めることが望ましいとの考え方から、均衡待遇の上乗せの措置として、職務の内容等を勘案して派遣労働者の賃金を決定する努力義務を課したものです。
●その他の留意点
なお、「派遣先均等・均衡方式」による措置を講じた結果のみをもって、派遣労働者の賃金を従前より引き下げるような取扱いは法第 30 条の 3 の規定の趣旨を踏まえた対応とはいえないので注意が必要です(元指針第 2 の 8(6)イ)。
また、派遣元は、労働者派遣料金についての派遣先との交渉が派遣労働者の待遇の改善にとって極めて重要であることを踏まえつつ交渉にあたるよう努めたり、労働者派遣料金が引き上げられた場合には、可能な限り、派遣労働者の賃金を引き上げるよう努めたりしなければなりません(元指針第 2 の 8(6)ロ・ハ)。
●教育訓練・福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)
派遣先の教育訓練・福利厚生施設についての均等待遇についても、配慮義務は義務に、努力義務は配慮義務に格上げされました(法第 40 条第 2 ~ 4 項)。
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派遣労働者の労働条件・待遇
②労使協定方式(法第 30 条の 4)
①過半数労働組合又は過半数代表者(過半数労働組合がない場合に限ります)と派遣元との間で一定の事項を定めた労使協定を書面で締結し
②労使協定で定めた事項を遵守しているときは
一部の待遇を除き(※)、この労使協定に基づき待遇が決定されることとなります。
労使協定が適切な内容で定められていない場合や、労使協定で定めた事項を遵守していない場合には、「労使協定方式」は適用されず、「派遣先均等・均衡方式」が適用されます。
※ 派遣先による教育訓練、福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)については労使協定の対象ではなく、派遣先の通常労働者との均等・均衡待遇を確保する必要があります。
派遣元
派遣先
派遣 労使協定の締結
過半数労働組合過半数代表者
派遣労働者含む
<使用者>
第7章
労使協定に定める事項は以下のとおりです。
派遣労働者の労働条件・待遇
①労使協定の対象となる派遣労働者の範囲
②賃金の決定方法(次のア・イに該当するものに限る。)
ア 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額(※)と同等以上の賃金額となるもの
イ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるもの
※イについては、職務の内容に密接に関連して支払われる賃金以外の賃金(たとえば、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当)を除く。
③派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等をxxに評価して賃金を決定すること
④「労使協定の対象とならない待遇(法第 40 条第 2 項の教育訓練及び法第 40 条第 3 項の福利厚生施設)及び賃金」を除く待遇の決定方式(派遣元に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く)との間で不合理な相違がないものに限る)
⑤派遣労働者に対して段階的・計画的な教育訓練を実施すること
⑥その他の事項
・労使協定の始期と終期(有効期間は 2 年以内が望ましい)
・労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由
・特段の事情がない限り、一の労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと
※「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額」の具体的な取扱いについては、『令和4年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第 30 条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について』(令和3年8月6日付職発 0806 第 3 号)が示されています。 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx
【要領に掲載されている「労使協定の概要(例)」掲載サイト】 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxx/xxxxx/ dl/2020roudousya.pdf
第7章
●過半数代表者(規則第 25 条の 6 第 1 項)
派遣労働者の労働条件・待遇
過半数代表者は、以下の①及び②のいずれにも該当しなければなりません。
①労働基準法第 41 条第 2 号に規定する監督又は管理の地位にある者ではないこと。
②労使協定をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の民主的な方法による手続により選出された者であって、派遣元事業主の意向に基づき選出されたものでないこと。
●労使協定の周知等
派遣元は、この労使協定を、書面交付、電子メールの送信等(労働者が希望した場合)、イントラネット等で常時確認できる方法などで、雇用する労働者に周知しなければなりません(法第 30 条の 4 第 2 項・規則第 25 条の 11)。
また、派遣元は、労使協定に係る書面を、有効期間が終了した日から起算して3年を経過する日まで保存しなければなりません(規則第 25 条の 12)。
③待遇決定方式の情報提供
①労使協定を締結しているか否か
②労使協定を締結している場合には、労使協定の対象となる派遣労働者の範囲、労使協定の有効期間の終期
派遣先や派遣労働者がどちらの方式によるかを知りうるようにするため、派遣元は、次の事項を関係者(派遣労働者、派遣先等)に提供する必要があります(元指針第2の 16)。
①及び②の事項に関する情報提供に当たっては、常時インターネットの利用により広く関係者とりわけ派遣労働者に必要な情報を提供することが原則です(厚生労働省の「人材サービス総合サイト」に掲載することも可能です)。
(3)派遣先から派遣元への比較対象労働者の待遇情報の提供
①情報提供義務の内容
派遣先は、労働者派遣契約を締結するにあたり、あらかじめ、派遣元に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、待遇決定方式が「派遣先均等・均衡方式」の場合は、比較対象労働者(下記②)の賃金等の待遇に関する情報(下記③)を、「労使協定方式」の場合は、法定の待遇に関する情報(下記③)をそれぞれ提供しなければなりません(法第 26 条第 7 項)。
派遣元は、派遣先から情報提供がないときは、派遣先との間で労働者派遣契約を
第7章
締結してはいけません(法第 26 条第 9 項)。
派遣労働者の労働条件・待遇
情報に変更があった時にも情報提供が必要です(法第 26 条第 10 項)。
②比較対象労働者
( ア )「職務の内容」と「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者 ( イ )「職務の内容」が同じ通常の労働者
( ウ )「業務の内容」又は「責任の程度」が同じ通常の労働者 ( エ )「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同じ通常の労働者
( オ ) 上記 ( ア ) ~ ( エ ) に相当するパート・有期雇用労働者(短時間・有期雇用労働法等に基づき、派遣先の通常の労働者との間で均衡待遇が確保されていることが必要)
( カ ) 派遣労働者と同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該労働者(就業規則に定められており、かつ派遣先の通常の労働者との間で適切な待遇が確保されていることが必要)
「比較対象労働者」は、派遣先が次の ( ア ) ~ ( カ ) の優先順により選定します(法第 26 条第8項・規則第 24 条の 5)。
③提供すべき待遇に関する情報
提供すべき「待遇に関する情報」は、いずれの方式をとるかによって異なります。
【派遣先均等・均衡方式】の場合
(ア)比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲並びに雇用形態
(イ)比較対象労働者を選定した理由
(ウ)比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨を含む)
(エ)比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
(オ)比較対象労働者の待遇のそれぞれについて、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇に係る決定をするにあたって考慮した事項
【労使協定方式】の場合
(ア)派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練(法第 40 条第2項の教育訓練)
(イ)給食施設、休憩室、更衣室の利用(法第 40 条第3項の福利厚生施設)
第7章
また、派遣先は、派遣元による教育訓練の実施、「派遣先均等・均衡方式」または
派遣労働者の労働条件・待遇
「労使協定方式」による待遇決定及び派遣労働者に対する待遇に関する事項等の説明が適切に講じられるようにするため、派遣元の求めがあったときは、派遣先に雇用される労働者に関する情報、派遣労働者の業務の遂行の状況その他の情報であって必要なものを提供する等必要な協力をするよう配慮しなければなりません(法第 40条第 5 項)。
④不利益取扱いの禁止
派遣労働者が安心して派遣元に説明を求めることができる環境を整備するため、説明を求めた派遣労働者に対する不利益取扱いは禁止されています(法第 31 条の 2第 5 項)。
(4)パートタイム・有期雇用労働法との関係
派遣労働者が短時間勤務や有期雇用である場合、職務の内容に密接に関連しない待遇については、派遣労働者と派遣元に雇用される通常の労働者との間の待遇の相違にも注意しなければなりません。
一般には、通勤手当、出張旅費、食事手当、福利厚生については、職務の内容に密接に関連するものにあたらないと考えられます。派遣元に無期雇用される労働者と有期雇用される派遣労働者との間における、通勤手当の支給に関する労働条件の相違は、働き方の実態や、その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはなりません(パートタイム・有期雇用労働法第 8 条)。
(5)職務の内容等を勘案した賃金の決定、派遣労働者の福祉の増進
(要領第 6 の 6 及び 8、第 7 の 4)前記の均衡・均等待遇以外にも、①派遣労働者の賃金決定方法について、派遣元が、
その派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準、又は、職務の内容、成果、意欲、能力、経験等を勘案して賃金を決定する努力義務(法第 30 条の 5)、②派遣元が、派遣先の同種業務を行う労働者との均衡を考慮して、教育訓練・福利厚生の実施などについて派遣就業の確保のために必要な措置を講じる努力義務(法第 30 条の 7)などの規定が置かれています。
第7章
3 適正な派遣就業の確保(要領第6の9) ―――――――――――――――――
派遣労働者の労働条件・待遇
労働者派遣においては、派遣元が法規の適正な遵守について直接管理することはできません。そのため、派遣元は、その他派遣就業が適正に行われるように、以下のような必要な措置を講じる等、適切な配慮をしなければならないとされています
(法第 31 条)。
①法違反の是正を派遣先に要請すること
②法違反を行う派遣先に対する労働者派遣を停止し、又はその派遣先との間の労働者派遣契約を解除すること
③派遣先に適用される法令の規定を習得すること
④派遣元責任者に派遣先の事業所を巡回させ、法違反がないよう事前にチェックすること
⑤派遣先との密接な連携の下に、派遣先において発生した派遣就業に関する問題について迅速かつ的確に解決を図ること
派遣先は、就業条件明示書等に示された業務内容の範囲を超えて指示を出すことはできません。
指針では、派遣労働者の就業条件を確保するために、派遣元は派遣先を定期的に巡回することなどにより、派遣労働者の就業の状況が契約内容に反していないかどうか確認したり、派遣労働者の適正な就業環境を確保するためにきめ細かな情報提供を行ったりするなど、派遣先と的確に連絡調整を行うよう定めています(元指針第2の5)。
また、派遣先に対しては、労働者派遣契約に定められた就業条件の周知徹底を図ったり、定期的に就業場所を巡回して、派遣労働者の就業の状況が契約内容に反していないかどうかを確認したり、また契約内容に反する業務上の指示を行わないよう指導を徹底するように定めています(先指針第2の2)。
4 労働条件・待遇などの明示・説明(要領第6の10など) ―――――――――
労働条件・待遇などの情報を明確に認識することが、労働者の適切な選択やトラブルの防止に重要です。そのため、派遣法は、派遣元に対し、派遣労働者への労働条件・待遇などについての明示・説明義務を課しています。また、労働基準法第 15条でも、労働条件明示が義務付けられています。
いかなる時期に、いかなる事項を、いかなる方法で明示・説明するかを把握して
おくことが必要です。
明示・説明の時期 | 明示・説明事項、根拠規定 | 明示・説明の方法等 |
雇入れより前 (登録中) | ①待遇に関する事項 (1) 雇用した場合における賃金額見込み (2) 健康保険、厚生年金保険、雇用保険、雇用保険の被保険者となることに関する事項 (3) その他労働者の待遇に関する事項(想定される就業時間や就業日・就業場所・派遣期間、教育訓練、福利厚生等で、当該時点で説明可能な事項) ②事業の運営に関する事項 ③労働者派遣に関する制度の概要 ④キャリアアップ措置(教育訓練やキャリアコンサルティングの内容) 【法 31 条の 2 第 1 項、要領第6の 10】 | 以下の方法による説明 ・書面の交付 ・ファックスの送信 ・電子メールの送信 ・その他適切な方法(説明事項①を除く) |
【必 【制 雇入れの際 (紹 | ず明示しなければならない事項】 ①労働契約の期間 ②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準 ③就業場所、従事業務 ④始業・終業時刻、残業(所定時間外労働)の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換 ⑤賃金(退職手当・臨時に支払われる賃金を除く)の決定等に関する事項 ⑥退職(解雇事由を含む) ⑦昇給 【労働基準法 15 条 1 項】 | 以下の方法による明示(明示事項⑦を除く) ・書面の交付 ・労働者が希望した場合には、ファックス送 信、電子メール等の送信 |
度を設ける場合に明示しなければならない事項】 ⑧退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期 ⑨臨時に支払われる賃金(退職金は除く)、賞与、最低賃金額 ⑩労働者に負担させる食費、作業用品など ⑪安全・衛生 ④職業訓練 ④災害補償・業務外の疾病扶助 ⑭表彰・制裁 ④休職 【労働基準法 15 条 1 項】 | 明示 ※できる限り書面による確認(労働契約法4条2項) | |
派遣労働者として雇い入れようとすること 介予定派遣の場合には、紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れようとすること) 【法 32 条 1 項、要領第6の 11】 | モデル労働条件通知書による明示が望ましい。 | |
当該派遣についての派遣料金額 or 事業所での派遣料金額の平均額 【法 34 条の 2 第 1 号、要領第6の 14】 | 以下の方法による明示 ・書面の交付 ・ファックスの送信 ・電子メールの送信 |
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
≪労働条件≫ ①昇給の有無 ②退職手当の有無 ③賞与の有無 ④労使協定の対象の派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期) ⑤派遣労働者から申し出を受けた苦情の処理に関する事項 ※これらの事項を、事実と異なるものとしてはならない。 【法 31 条の 2 第 2 項 1 号】 | 以下の方法による明示 ・文書(書面)の交付 ・派遣労働者が希望した場合には、ファックス送信、電子メール等の送信 | |
≪不合理な待遇差を解消するために講ずる措置≫ ①【派遣先均等・均衡方式】によりどのような措置を講ずるか。 ②【労使協定方式】によりどのような措置を講ずるか ③職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決定するのか 【法 31 条の 2 第 2 項 2 号】 | 以下の方法による説明 ・書面の活用その他の適切な方法 | |
派遣開始時 | ①当該労働者派遣をしようとする旨 ②以下の労働者派遣契約に定めた就業条件 (1) 業務内容 (2) 業務に伴う責任の程度 (3) 派遣就業の場所・組織単位 (4) 直接の指揮命令者に関する事項 (5) 労働者派遣の期間・派遣就業する日 (6) 就業開始・終了時刻、休憩時間 (7) 安全衛生 (8) 苦情処理 (9) 雇用安定に必要な措置 (10) 紹介予定派遣の場合はそれに関する事項 (11)個人単位・事業所単位の派遣期間制限に抵触する日、労働契約申込みみなし制度 (12) 派遣元責任者・派遣先責任者 (13)時間外・休日労働できる時間・日 (14) 福利厚生施設・教育訓練など福祉増進のための便宜供与に関する事項 など ③派遣期間制限に抵触することとなる日 ④労働契約申込みみなし制度 【法 34 条 1・3 項、要領第6の 13】 | 以下の方法による明示 ・文書(書面)の交付 ・派遣労働者が希望した場合には、ファックスの送信、電子メール等の送信 モデル就業条件明示書を利用するのが望ましい(元指針第 2 の 6)。 |
当該派遣についての派遣料金額、または事業所での派遣料金額の平均額 【法 34 条の 2 第 2 号、要領第6の 14】 | 以下の方法による明示 ・文書(書面)の交付 ・ファックスの送信 ・電子メールの送信 | |
≪労働条件≫ ①賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く。)の決定等に関する事項 ②休暇 ③昇給の有無 ④退職手当の有無 ⑤賞与の有無 ⑥労使協定の対象となる派遣労働者か否か ※これらの事項を、事実と異なるものとしてはならない。 【法 31 条の 2 第 3 項 1 号】 | 以下の方法による明示 ・文書(書面)の交付 ・派遣労働者が希望した場合には、ファックスの送信、電子メールの送信 ※労使協定方式の場合には、⑥のみ明示が必要 | |
≪不合理な待遇差解消のために講ずる措置≫ ①派遣先均等・均衡方式による措置の内容 ②労使協定方式による措置の内容(業務に必要な教育訓練(法 40 条 2 項)と福利厚生施設(法 40 条 3 項)に係るものに限る) ③職務内容、成果、意欲、能力、経験、その他就業実態に関する時間を勘案した賃金決定の方法 【法 31 条の 2 第 3 項 2 号】 | 以下の方法による説明 ・書面の活用その他の適切な方法 |
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
【派 派遣労働者から求めがあっ た場合 【労 | 賃金、教育訓練、福利厚生の実施等に関し均衡を考慮した待遇の確保のために配慮した事項 【法 31 条の 2 第 4 項、要領第6の 10】 | 説明が必要。 |
遣先均等・均衡方式の場合】 ①待遇の相違の内容 (1) 派遣労働者及び比較対象労働者(P59)の待遇のそれぞれを決定するにあたって考慮した事項の相違の有無 (2)「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容」または「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の基準」 ②待遇の相違の理由 派遣労働者及び比較対象労働者の職務内容、職務内容・配置変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの 使協定方式の場合】 ①協定対象派遣労働者の賃金が、次の内容に基づき決定されていること (1) 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの (2) 労使協定に定めたxxな評価 ②労使協定の対象の派遣労働者の待遇(賃金、教育訓練(法 40条 2 項)、福利厚生施設(40 条 3 項)を除く。)が派遣元に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がなく決定されていること等について、派遣先均等・均衡方式の場合の説明の内容に準じたもの 【法 31 条の 2 第 4 項、要領第6の 10】 | 資料を活用し、口頭により説明することが基本。 ただし、説明すべき事項を漏れなく全て記載した、容易に理解できる内容の資料を用いる場合は、資料を交付する等の方法も認められます。 | |
その他 | 派遣でなく雇用した労働者を派遣の対象とした場合、 派遣労働の対象とすること(紹介予定派遣の場合には、紹介予 定派遣の対象とすること)の明示が必要 (同 【法 32 条 2 項、要領第6の 11】 | 明示が必要。 明示のほか同意も必要。意をしないときに、不 利益取扱いをしてはなら ない。元指針第 2 の 7) |
派遣先から抵触日変更時に抵触日が通知されたとき(P42)、新たな抵触日、労働契約申込みみなし制度についての明示が必要 【法 34 条 2・3 項、要領第6の 13】 | 以下の方法による明示 ・文書(書面)の交付 ・派遣労働者が希望した場合には、ファックスの送信、電子メールの送信 | |
派遣料金額が変更されたとき、 当該派遣についての派遣料金額、または事業所での派遣料金額の平均額の明示が必要 【法 34 条の 2 第 2 号、要領第6の 14】 | 以下の方法による明示 ・文書(書面)の交付 ・ファックスの送信 ・電子メールの送信 |
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
5 派遣労働契約の期間について――――――――――――――――――――――
(1)有期契約と無期契約
派遣労働契約について、期間の定めがある場合、基本的にその契約期間の満了によって労働契約も終了します。終了後更新されることもあります。このような契約期間がある契約は、有期契約、有期雇用(労働)契約などといわれ、契約期間がな
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
い契約は無期契約、無期雇用(労働)契約などといわれます。
(2)契約期間
有期契約の場合の契約期間の上限は、原則として3年です(労働基準法第 14 条)。他方、派遣元は、不必要に短い期間を定めて、契約を反復更新することがないよ
う配慮する必要があります(労働契約法第 17 条第 2 項)。また、派遣元は、派遣労働者(1 回以上更新し、かつ 1 年を超えて継続勤務している者に限ります)との有期労働契約を更新しようとする場合には、契約の実態及びその労働者の希望に応じ、契約期間をできる限り長くするよう努めなければなりません(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準 3 条)。
また、派遣元・派遣労働者間での派遣労働契約の期間と、派遣元・派遣先間での労働者派遣契約における労働者派遣の期間とは必ずしも一致するものではありません。しかし、派遣元は、派遣労働者の希望や労働者派遣の期間を勘案し、雇用契約の期間について、労働者派遣の期間と合わせるなど、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な配慮をするよう努めなければなりません(元指針第 2 の 2(1))。
6 賃金 ――――――――――――――――――――――――――――――――
(1)賃金の決定方法
賃金は、労働の対償として使用者=派遣元から派遣労働者に支払われます(労働基準法第 11 条)。賃金も、他の労働条件・待遇と同様、労働契約・就業規則で定められます。
また、均等・均衡待遇をする必要があります(P54)。
(2)最低賃金
派遣元は、派遣労働者に対して、最低賃金以上の金額の賃金を支払う必要があります。
派遣労働者については、派遣先の事業場に適用される最低賃金(地域別最低賃金、特定最低賃金)が適用されます。たとえば、派遣元企業が A 県にあっても、派遣先事業場がxxxであれば、xxxの最低賃金が適用されます。
なお、令和 4 年 1 月現在、xxxの最低賃金は 1,041 円です。
(3)賃金の支払い
派遣労働者は、①派遣労働契約で決められた時期、あるいは、②(契約に従って)
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
働いた後に賃金の支払請求をすることができ、派遣元は支払義務を負います(民法第 624 条)。
賃金支払いについては、①通貨で、②労働者本人に直接、③全額を、④毎月 1 回以上、
⑤一定期日に支払うという5つの原則があります(労働基準法第 24 条)。
③について、例外的に一定額を控除することができます。しかし、税金や社会保険料など法令に別段の定めがあるものを除き、賃金の一部から定められているもの以外を控除する場合には、労使協定(賃金控除協定)が必要です。ただし、賃金控除協定を締結していたとしても、そもそも使途が不明なものや、控除額の合計が実際に必要な費用との均衡を欠くもの等、事理明白でないものを控除することはできません。
また、派遣先が派遣元に派遣料金を支払わない場合でも、派遣元は派遣労働者
に賃金を全額支払わなければなりません。派遣元・派遣先間の労働者派遣契約と、派遣元・派遣労働者間の派遣労働契約とは別個の契約だからです。
なお、派遣元が派遣先を通じて賃金を支払うことは、派遣先の使用者が、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、②直接払いの原則には違反しないとされています(昭和 61 年 6 月 6 日付基発 333 号通達)。
(4)休業手当など
使用者の責に帰すべき事由によって、派遣労働者が働けなくなった場合、使用者
=派遣元は、1日あたり平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりません(労働基準法第 26 条)。ここでの「使用者の責に帰すべき事由」は、使用者=派遣元側の領域で生じた事情を広く含みます。なお、単に使用者側の事情というだけでなく、派遣元の故意・過失による事由によって働けなくなった場合には、派遣元は、賃金全額を支払わなければなりません(民法第 536 条第 2 項)。
通達(昭和 61 年 6 月 6 日付基発 333 号通達)では、派遣先の事業場が、天災地変等の不可抗力によって操業できないために、派遣されている労働者を当該派遣先の事業場で就業させることができない場合であっても、それが使用者の責に帰すべき事由に該当しないこととは必ずしもいえず、派遣元の使用者について、当該労働者を他の事業場に派遣する可能性等を含めて判断し、その責に帰すべき事由に該当しないかどうかを判断する、とされています。
労働者派遣契約が中途解除されても、雇用期間満了まで派遣労働者と派遣元との
労働契約は継続しており、派遣元は賃金を支払う必要があります。派遣先による労働者側の事由以外の理由での労働者派遣契約の中途解除により派遣労働者を休業させた場合には、一般に「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当し、派遣元
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
は休業手当を支払う必要があります(元指針第 2 の 2(3))。派遣先は、派遣先の事由によって中途解除を行う際には、休業等を余儀なくさせたことによる派遣元の損害を賠償することとされています(先指針第 2 の 6(4))。
7 労働時間、休日、休憩 ――――――――――――――――――――――――
(1)労働時間の決定方法
労働時間や休日は労働契約・就業規則で定められます(これを所定労働時間、所定休日といいます)。場合によって所定労働時間を超えて働かせたり、休日に働かせたりする(残業させる)ことができるかどうか(さらに、その場合の賃金がいくらか)についても、労働契約・就業規則で定められます。
(2)時間外・休日労働についての規制
①法定労働時間・法定休日
労働契約・就業規則で定めればいくらでも残業させることができるわけではありません。原則として、派遣元は、派遣労働者を、休憩時間を除いて1週 40 時間、1日8時間を超えて働かせてはなりません(労働基準法第 32 条。この限度時間を法定労働時間といいます)。また、毎週少なくとも1回、あるいは、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません(労働基準法第 35 条、これを法定休日といいます)。
法定労働時間を超えて働かせたり、法定休日に働かせたりする場合には、派遣元が、労使協定(いわゆる 36 協定)の締結・届出をし(労働基準法第 36 条第 1 項)、かつ割増賃金を支払う(労働基準法第 37 条第 1 項)必要があります。
平成 30 年に労働基準法が改正されたことにより、時間外労働は、原則として月 45 時間・年 360 時間を上限とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年 720 時間・単月 100 時間未満(休日労働含む)、複数月平均 80 時間(休日労働含む)が限度となっています(労働基準法第 36 条第 2 ~ 6 項)。
② 36 協定
36 協定は、派遣元使用者が、派遣元事業場の労働者の過半数が加入している労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数が加入する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者との間で締結する必要があります。ここでの過半数は、派遣中の労働者とそれ以外の労働者の両者を含む、派遣元事業場の全ての労働者の過半数のことをいいます。派遣中の労働者が異なる派遣先にいて意見交換が難しい場合がありますが、その場合代表者選任の投票に併せて意見・希望等を提出させ、
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
派遣労働者の意思が反映されることが望ましいとされています(昭和 61 年 6 月 6日付基発 333 号通達)。
このような 36 協定の締結・届出は派遣元が行いますが、36 協定で定めた上限を超えて労働させた場合には派遣先企業が法違反となります。
③法定時間外・法定休日労働の割増賃
派遣中の労働者に法定時間外労働等を行わせた場合、派遣元は、割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金の割増率は、①法定時間を超えて働かせたときは通常の賃金の2割5分以上(1か月 60 時間以上の場合には 5 割以上※)、②法定休日に働かせたときは3割5分以上です。なお、③法定時間外・法定休日労働か否かによらず午後 10 時から午前5時までの深夜に働かせたときは、2割5分以上です。
※従来、中小企業については適用が猶予されていますが、その猶予措置も令和5年
4月1日以降廃止されます。
たとえ、労働者派遣契約において派遣先に法定時間外労働等をさせる権限がなくとも、実際に働かせたのであれば割増賃金を支払う必要があります(昭和 61 年 6 月 6 日付基発 333 号通達)。
また、派遣就業時間以外の、点呼等の時間、集合場所から派遣先への移動時間、研修時間等の時間について、派遣労働者が派遣元の指揮監督下にある場合は、派遣先での労働時間にこれを加え、合計の労働時間数に応じて適正に賃金・割増賃金を支払う必要があります。
(3)休憩
派遣先は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも 45 分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を与える必要があります。休憩は、①労働時間の途中に、②一斉に、③自由に利用させることが必要です(労働基準法第 34 条第 1 項)。
「一斉に」というのは、派遣先自体の労働者と派遣労働者の全体に対して一斉に、ということを意味します(昭和 61 年 6 月 6 日付基発 333 号通達)。
なお、実際には作業していないが、業務の指示を受けたときにはすぐ就労できるようにするための待機時間などは、休憩時間に含まれません。
(4)労働時間管理(平成 21 年 3 月 31 日付基発第 0331010 号通達(最終改正平成 27年9月 30 日 )
時間外・休日労働や休憩についての規制遵守のために、ひいては、長時間労働を
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
なくし、多様なワーク・ライフ・バランスを実現するために、派遣先・派遣元それぞれでの労働時間管理と派遣先・派遣元間での連絡体制の確立が重要です。
①派遣先による労働時間の把握
< 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン >
・使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
・始業・終業時刻の確認・記録にあたっては、原則として、
①使用者が、自ら現認して
②タイムカード等の客観的な記録を基礎として、確認・記録すること
・自己申告制により始業・終業時刻の確認・記録を行わざるを得ない場合には、
①適正な自己申告等について労働者に十分説明する
②自己申告により把握した労働時間と実際の労働時間とが合致しているか必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること等の措置を講じること 等
派遣先は、以下のガイドラインにも留意して、派遣労働者の労働時間を適正に把握しなければなりません(平成 21 年通達)。
特に、平成 30 年に労働安全衛生法が改正されたことにより、客観的な労働時間把握が法律で義務付けられていることに留意が必要です。
派遣元事業者が医師による面接指導(労働安全衛生法第 66 条の 8 第 1 項)を確実に実施するために、派遣先事業者は、タイムカードによる記録やパソコンの使用時間の記録などの客観的な方法などにより労働時間の状況を把握し、その記録を3年間保存するための必要な措置を講じなければなりません(労働安全衛生法第 66 条の 8 の 3・労働安全衛生法施行規則第 52 条の 7 の 3)。
②労働時間についての連絡体制の確立
派遣先は、派遣先管理台帳に派遣就業日ごとの始業・終業時刻等を記載し、これを派遣元に通知しなければなりません(法第 42 条第 1・3 項)。
また、派遣先は、派遣元との労働時間に係る連絡体制を確立することとされています(先指針第 2 の 11)。
<労働時間の枠組みについて>
派遣先は、派遣元での 36 協定の内容等について情報提供を求め、派遣元は情報提供を行いましょう。
<実際の労働時間について>
派遣元は、割増賃金等の計算にあたり労働時間について派遣先に情報提供を求め、派遣先は労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準に基づき適正に把握した労働時間を正確に通知しましょう。
(平成 21 年通達)
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
〇派遣元での労働時間管理
派遣元でも必要な労働時間管理をする必要があります。
複数の派遣先に派遣する派遣労働者については、労働時間に関する法令((2)参照)に違反することがないよう、累計労働時間を把握、管理してください。
派遣就業時間以外の、点呼等の時間、集合場所から派遣先への移動時間、研修時間等の時間について、派遣労働者が派遣元の指揮監督下にある場合には、労働時間として派遣元が適正に把握、管理する必要があります(平成 21 年通達)。
8 年次有給休暇 ――――――――――――――――――――――――――――
(1)年次有給休暇の概要
派遣元は、派遣労働者に法定の年次有給休暇を与える必要があります(労働基準法第 39 条第 1 項)。
年次有給休暇の付与日数は、雇入れ後の継続勤務年数等によって異なりますが(同条第 2・3 項)、雇入れは派遣元が行っているので、継続勤務年数も派遣元に雇い入れられている期間で算定されます。また、有期契約が繰り返し更新され、かつ、更新の際に若干の間隔がある場合でも、そのことで直ちに「継続勤務」でなくなるわけではありません。
「有給」であるため、賃金が支払われますが(同条第 9 項)、これも派遣元が支払う必要があります。
※少なくとも、雇入れから6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合には年次有給休暇を与えなければなりません。有期労働契約を繰り返し更新している場合でも、同じです。
(2)労働者による時季指定と派遣元による時季変更
基本的に、派遣労働者から請求された時季に年次有給休暇を与えなければなりません。ただし、請求の時季に与えることが、派遣元の事業の正常な運営を妨げる場合には、派遣元は、他の時季にこれを与えることができます(労働基準法第 39 条第 5 項ただし書)。
派遣先の事業の正常な運営を妨げる場合であっても、それが派遣元の事業の正常
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
な運営を妨げるとは限らないため、派遣先の事情が直ちに派遣元の時季変更権を行使する理由にはなりません(昭和 61 年 6 月 6 日付基発 333 号通達)。
派遣元は、代替労働者を派遣する、派遣先と業務量の調整を行う等により、派遣先の事情によって派遣労働者の年次有給休暇の取得が抑制されることのないようにしてください(平成 21 年通達)。
(3)年5日の年次有給休暇の確実な取得
年次有給休暇の取得を促進することを目的に、年 10 日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち、年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられています(労働基準法第 39 条第7項)。
使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日 ( 基準日 ) から 1 年以内に、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。ただし、時季指定にあたっては、労働者の意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、その意見を尊重するよう努めなければなりません。
ただし、既に 5 日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者が時季指定をする必要はなく、また、することもできません。加えて、労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、年次有給休暇を計画的に付与した日数については、その日数分を時季指定義務が課される年5日から控除する必要があります。
9 女性(性別)、育児・介護に関する法律 ――――――――――――――――
(1)母性を守るための規定
労働基準法や男女雇用機会均等法では、働く女性の母性を保護するための規定が定められています。
①産前産後休業等(労働基準法第 65 条第 1、2 項)
労働基準法上の産前産後休業を保障する責任は派遣元にあります。出産予定の女性派遣労働者は、出産予定日の 6 週間(多胎妊娠は 14 週間)前から、休業を派遣元へ請求することができ、請求があった場合には、派遣元はその派遣労働者を就業させてはなりません。産後についても、原則として 8 週間を経過しない女性を就業させることはできません。
②妊娠中・出産後の健康管理に関する措置(男女雇用機会均等法第 12 条及び 13 条)派遣元・派遣先は、妊娠中・出産後の女性労働者に、母子保護法の規定による保
第7章
健指導・健康検査を受けるための時間を確保しなければなりません。
派遣労働者の労働条件・待遇
また、女性労働者が保健指導や健康検査等に基づく指導事項を守ることができるように、勤務時間の変更や勤務の軽減等(時差通勤、勤務時間の短縮、休憩時間の延長、作業の制限、休業等)の必要な措置を講じなければなりません。
これらについては、派遣先も責任を負うことに注意が必要です。
③その他の措置等
その他にも、母性保護に関して以下のようなルールがあり、以下のような責任の所在となっています。
・就業制限(労働基準法第64条の2、第64条の3)-派遣先の責任
・軽易作業への転換(同法第65条第3項)-派遣元の責任
・産前産後の時間外、休日、深夜業の制限(同法第66条)-派遣先の責任
・育児時間(同法第67条)-派遣先の責任
・生理日の休暇(同法第68条)-派遣先の責任
(2)育児・介護休業
①育児休業取得の必要条件
派遣労働者は、1 歳に満たない子について、派遣元に申し出ることによって、育児休業を取得することができます(育児・介護休業法第 5 条)。ただし、有期雇用の派遣労働者の場合には、(a)1 年の雇用実績があること(令和4年4月1日からこの要件は不要)、(b) 子が 1 歳 6 か月に達する日までに、労働契約(契約が更新される場合には、更新後の契約)が満了することが明らかでないことの 2 つの条件も満たしていなければなりません。
ただし、日々雇用される労働者は対象から除外されます。また、労使協定により、
(ア)雇用されてから 1 年未満の者、(イ)休業申出から 1 年以内(延長の場合には、 6 か月以内)に雇用関係が終了することが明らかな者、(ウ)1週間の所定労働日数が 2 日以内の者についても対象から除外できます。
また、保育所等への入所を希望しているが、入所できない場合などには、1 歳 6 か月、さらには、2 歳まで育児休業の延長が可能です(育児・介護休業法第 5 条第 3・4 項)。
また、令和4年 10 月1日からは、子の出生後8か月以内に4週間まで取得することができる出生時育児休業(産後パパ育休)の制度も新設されます。
②育児休業からの復帰の際の就業機会確保
派遣元は、派遣労働者が育児休業から復帰する際には、当該派遣労働者が就業を
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
継続できるよう、派遣労働者の派遣先に係る希望も勘案しつつ、就業機会の確保に努めるべきであるとされています(子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(以下、「育介指針」)16(4))。
③介護休業取得の必要条件
派遣労働者は、要介護状態にある対象家族について、派遣元に申し出ることによって、介護休業を取得することができます(育児・介護休業法 11 条)。対象家族 1 人につき通算 93 日までで、3 回まで分割取得することが可能です。ただし、有期雇用の派遣労働者の場合には、1 年の雇用実績があること(令和4年4月1日からこの要件は不要)、休業開始予定日から 93 日を経過する日から 6 か月を経過する日までに、労働契約(契約が更新される場合には、更新後の契約)が満了することが明らかでないことの 2 つの条件も満たしていなければなりません。
また、日々雇用される労働者は対象から除外されます。労使協定により、(ア)雇用されてから 1 年未満の者、(イ)休業申出から 93 日以内に雇用関係が終了することが明らかな者、(ウ)一週間の所定労働日数が 2 日以内の者についても対象から除外できます。
(3)その他の育児・介護に関連する制度
育児・介護休業のほかにも、育児・介護に関して以下のようなルールがあります。これらについては、基本的に、雇用主である派遣元の責任です。
・子の♛護休暇、介護休暇(育児・介護休業法第16条の2・3)
・3歳までの子を養育する労働者の所定外労働の免除(同法第16条の8)
・介護をする労働者の所定時間外労働の制限(同法第16条の9)
・育児、介護を行う労働者の時間外労働の制限(同法第17、第18条)
・育児、介護を行う労働者の深夜業の制限(同法第19,第20条)
・勤務時間短縮等の措置(同法第23,第24条)
・労働者の配置に関する配慮(同法第26条)
(4)妊娠、出産、育児・介護休業等に関する不利益取扱いの禁止
①婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
派遣元は、女性労働者が婚姻、妊娠、出産したことを退職理由として予定する定めをしてはなりません(男女雇用機会均等法第 9 条第 1 項)。また、派遣元は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはなりません(同法第 9 条第 2 項)。
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
また、派遣元・派遣先は、妊娠・出産等を理由として解雇その他不利益取扱いをしてはなりません(同法第 9 条第 3 項)。これについては、派遣先も責任を負うことに注意が必要です。
派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むことも「解雇その他不利益取扱い」にあたります(労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針第 4 の 3(2) ル)。たとえば、妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の交代を求めることや、妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の派遣を拒むことは許されません(育介指針第 4 の 3(3) ト)。
②育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止
派遣元・派遣先は、育児休業・介護休業や前述の育児・介護に関連する制度について請求・申出をしたり、実際に制度を利用したりしたことを理由として解雇その他不利益取扱いをしてはなりません(育児・介護休業法第 10 条、第 16 条、第 16条の 4、第 16 条の 7、第 16 条の 10、第 18 条の 2、第 20 条の 2、第 23 条の 2)。これについても、派遣先も責任を負うことに注意が必要です。
派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むことも「解雇その他不利益取扱い」にあたります(育介指針 16(2))。たとえば、育児休業の開始までは労働者派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣中の派遣労働者が育児休業の取得を申し出たことを理由に、派遣先が派遣元に対し、派遣労働者の交替を求めることや、労働者派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣労働者が子の♛護休暇を取得したことを理由に、労働者派遣の役務の提供を受ける者が派遣元に対し、派遣労働者の交替を求めることは許されません(同指針 16(3))。
10 教育訓練・キャリアアップ措置(要領第6の3) ―――――――――――――
(1)教育訓練・キャリアアップ措置についての基本事項
派遣元は、派遣労働者が段階的・体系的に派遣就業に必要な技能・知識を習得できるように教育訓練を実施しなければなりません。無期派遣労働者については、その職業生活の全期間を通じて能力を有効に発揮できるように配慮しなければなりま
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
せん(法第 30 条の 2 第 1 項)。また、法 30 条の 2 による教育訓練以外にも、就業機会を確保するのに適した教育訓練の機会を確保するよう努めなければなりません
(法第 30 条の 7)。
また、教育訓練については、前述のように、派遣先労働者との均衡を配慮する必要もあります(法第 30 条の 3)。
派遣先についても、派遣先で従事する業務遂行に必要な能力を付与する教育訓練については、派遣元からの求めに応じて実施する等必要な措置を講じなければなりません(法第 40 条第 2 項)。また、派遣先は、派遣元からの求めに応じ、教育訓練に可能な限り協力したり、必要に応じた教育訓練に係る便宜を図ったりするよう努める必要があります(先指針第 2 の 9(3))。
なお、以下で述べる教育訓練計画の内容、教育訓練の時期・頻度・時間数等、キャリア・コンサルティング相談窓口の設置などは、派遣業の許可基準として挙げられているものです(「労働者派遣法施行規則第一条の四第一号に基づく基準」平成 27年告示 391 号)。
(2)教育訓練の内容
①雇用する派遣労働者全員を対象としたものであること
②有給かつ無償で行われるものであること
③派遣労働者のキャリアアップに資する内容であること
④入職時の訓練が含まれたものであること
⑤無期雇用派遣労働者に対しては、長期的なキャリア形成を念頭に置いた内容であること
教育訓練は、教育訓練計画に基づいて行われなければならず、教育訓練計画の内容は以下のようなものでなければなりません。
派遣元は、派遣労働者として雇用しようとする労働者に対し、労働契約締結時までに教育訓練計画を明示し、説明しなければなりません。また、教育訓練計画に変更があった場合にも、説明が必要です。
(3)教育訓練の時期・頻度など
また、教育訓練の時期・頻度・時間数等については、以下のようなものである必要があります。
①派遣労働者一人あたり、少なくとも最初の3年間は毎年1回以上の機会を提供すること
②入職時の教育訓練は必須であり、その後もキャリアの節目などの一定の期間ごとにキャリアパスに応じた研修等を用意していること
③フルタイムで1年以上の雇用見込みの派遣労働者1人あたり、毎年おおむね8時間以上の訓練機会を提供すること。短時間勤務者には、勤務時間に比例した時間の訓練機会を提供すること。
④派遣元は、教育訓練計画の実施にあたって、教育訓練を適切に受講できるように就業時間等に配慮しなければならないこと
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
(4)キャリア・コンサルティング相談窓口
派遣元は、派遣労働者の求めに応じ、職業生活設計に関する援助を行う必要があります(法第 30 条の 2 第 2 項)。
①相談窓口には、担当者(xxxx・xxxxxxxxの知見を有する者)が配置されていること
②相談窓口は、雇用するすべての派遣労働者が利用できること
③希望するすべての派遣労働者がキャリア・コンサルティングを受けられること
派遣元は、キャリア・コンサルティングの相談窓口を設置し、以下のようなものを満たす必要があります。
11 苦情の処理・裁判外紛争解決手続(要領第7の3、要領第9) ―――――――
(1)苦情の適切・迅速な処理
派遣先は、派遣労働者から派遣就業に関する苦情の申出を受けたときは、苦情の 内容を派遣元に通知するとともに、派遣元との密接な連携の下に、誠意をもって、遅滞なく、苦情の適切・迅速な処理を図る義務が課されています(法第 40 条第 1 項)。派遣労働者からの苦情を適切に処理するために、派遣元と派遣先は、あらかじめ 派遣労働者からの苦情の申出を受ける者、苦情の処理を行う方法、派遣元と派遣先との連携体制などについて、労働者派遣契約に定め、それらを就業条件明示書等に
より明らかにしなければなりません(法第 34 条)。
また、派遣先は派遣労働者の受入れにあたって、苦情処理の方法等について説明会等を実施して説明しなければなりません(先指針第 2 の 7)。
派遣元責任者・派遣先責任者は、それぞれ派遣労働者からの苦情の処理を行う必要があります(法第 36 条 3 号・要領第 6 の 19、法第 41 条 3 号・要領第 7 の 11)。
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
特に、法第 44 条から第 46 条まで及び第 47 条の2から第 47 条の4までの規定により、労働基準法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法の規定につき、派遣先を使用者(雇用主)とみなして法令を適用するものに関する苦情については、派遣先が誠実かつ主体的に対応しなければなりません。(先指針第 2 の 7(2))
派遣元は、派遣元管理台帳に、苦情の申出を受けた年月日、苦情の内容及び苦情の処理状況についてその都度記載し、保管しなければなりません。派遣先も派遣先管理台帳に、苦情の申出を受けた年月日、苦情の内容及び苦情の処理状況についてその都度記載するとともに、その内容を派遣元に通知しなければなりません。また、派遣労働者が派遣元や派遣先に苦情を申し出たことを理由に、不利益な取扱いを行うことは禁止されています(元指針第2の3、先指針第2の7(2))。
(2)苦情の自主的解決
①派遣先均等・均衡方式や労使協定方式(法第 30 条の 3・4)
②説明義務(雇入れ時・派遣時・派遣労働者から求めがあった場合)、説明を求めたことを理由とする不利益取扱い(法第 31 条の 2 第 2 ~ 5 項)
派遣元は、以下の事項に関して、派遣労働者から苦情の申出を受けたとき、又は派遣労働者が派遣先に対して申し出た苦情の内容が派遣先から通知されたときは、苦情の自主的解決を図るよう努めなければなりません(法第 47 条の 5 第 1 項)。
①業務遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の実施(法第 40 条第 2 項)
②給食施設、休憩室及び更衣室の利用機会の付与(法第 40 条第 3 項)
派遣先も、以下の事項に関して、派遣労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情の自主的解決を図るよう努めなければなりません(法第 47 条の 5 第 2 項)。
(3)裁判外紛争解決手続
都道府県労働局長は、(2)で挙げた事項についての①派遣労働者・派遣元間の紛争、
②派遣労働者・派遣先間の紛争に関し、現に紛争の状態にある当事者の双方又は一方からその解決につき援助が求められた場合には、必要な助言・指導・勧告をすることができます(法第 47 条の 7 第 1 項)。
派遣元・派遣先は、派遣労働者が援助を求めたことを理由として、不利益な取扱いをしてはなりません(法第 47 条の 7 第 2 項)。
また、自主的解決が困難な場合には、紛争調整委員会による調停制度を利用することもできます。都道府県労働局長が、紛争の当事者の双方又は一方から調停の申
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
請があった場合において、紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に規定する紛争調整委員会において調停が行われることとなります(法第 47 条の 8 第 1 項)。この場合も、派遣元・派遣先は、調停を求めたことを理由として、不利益な取扱いをしてはなりません(法第 47 条の 8 第 2 項)。
~裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の流れ~
事業主と労働者による、苦情の自主的解決
未解決
労働者派遣法に基づく紛争解決の援助の対象となる紛争
簡単な手続きで迅速に行政機関に解決して もらいたい場合
xx、中立性の高い 第三者機関に援助してもらいたい場合
<当事者の希望等に応じて>
都道府県労働局長
調停会議
都道府県労働局長による助言・指導・勧告
調停会議による
調停・調停案の作成・受諾勧告
12 雇用管理・責任体制の確立(要領第 6 の 19・20、第 7 の 11・12)
派遣労働関係において、様々な責務の責任体制を明確化するために、責任者の選任・管理台帳の作成が義務付けられています。
すなわち、派遣元は、派遣元責任者を選任し(法第 36 条)、また、派遣元管理台
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
帳を作成して、派遣労働者ごとに一定の事項を記載しなければなりません(法第 37条)。派遣元責任者は以下の職務を行わなければなりません。
①派遣労働者であることの明示等
②就業条件等の明示
③派遣先への通知
④派遣元管理台帳の作成、記載および保存
⑤派遣労働者に対する必要な助言及び指導の実施
⑥派遣労働者から申出を受けた苦情の処理
⑦派遣先との連絡・調整
⑧派遣労働者の個人情報の管理に関すること
⑨派遣労働者についての教育訓練の実施及び職業生活設計に関する相談の機会の確保に関すること
⑩安全衛生に関すること
①一定事項を、派遣労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者その他の関係者に周知すること
②派遣可能期間の延長通知に関すること
③派遣先における均衡待遇の確保に関すること
④派遣先管理台帳の作成、記録、保存及び記載事項の通知に関すること
⑤派遣労働者から申出を受けた苦情の処理にあたること
⑥安全衛生に関すること
派遣先も、派遣先責任者を選任し(法第 41 条)、派遣先管理台帳を整備しなければなりません(法第 42 条)。派遣先責任者は、以下の職務を行わなければなりません。
13 安全衛生 ――――――――――――――――――――――――――――――
安全衛生の確保について派遣元は雇用事業者として責任を負います。もっとも、派遣労働者は、派遣先から指揮命令を受けて労働に従事するため、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置をはじめ、多くの労働安全衛生法上の責任を派遣先が負うこととなっています。
派遣元は、安全衛生教育を適切に行えるよう、派遣先から派遣労働者が従事する業務に関する情報を入手すること、健康診断等の結果に基づく就業上の措置を講ずるにあたって派遣先の協力を要請すること等、安全衛生に係る措置の実施のために必要な連絡調整等を行うこととされています(元指針第 2 の 14)。
また、派遣先は、派遣元の適切な安全衛生教育のために積極的に情報を提供する
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
こと、派遣元からの安全衛生教育の委託に可能な限り応じるよう努めること、派遣元の健康診断等の結果に基づく就業上の措置についての協力要請に応じること等、必要な協力・配慮を行うこととされています(先指針第 2 の 17)。
具体的な派遣元・派遣先の講ずべき措置、確立すべき連絡体制などについては、通達「派遣労働者に係る労働条件および安全衛生の確保について」(平成 21 年 3 月 31 日付基発第 0331010 号通達(最終改正平成 27 年9月 30 日))を参照してください。
※この通達の内容を解説したものとして、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署発行パンフレット
「派遣労働者の労働条件・労働安全衛生の確保のために」があります。 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxx/00000000/000000000.xxx
14 職場におけるハラスメント対策 ――――――――――――――――――――
(1)セクシュアルハラスメント・妊娠、出産、育児・介護休業等に関するハラスメント対策(男女雇用機会均等法第 11 条及び第 11 条の 3、育児・介護休業法第 25 条)
職場におけるセクシュアルハラスメントとは、性的な言動に対する労働者の対応により一定の不利益を被ったり、そのような言動によって就業環境が悪化したりすることをいいます。また、妊娠、出産、育児・介護休業等に関して一定の不利益を被ったり、就業環境が悪化させられたりすることもあります。
このようなセクシュアルハラスメントや妊娠、出産、育児・休業等に関するハラスメントの対策として、事業主は、①方針の明確化と周知・啓発、②相談・対応のための体制整備、③事後の迅速・適切な対応、④プライバシー保護、不利益取扱い禁止規定の整備等の雇用管理上・指揮命令上の必要な措置を行う必要があります。この事業主の責任は、派遣元のみならず、派遣先も責任を負います。
(2)パワーハラスメント対策
職場におけるパワーハラスメントとは、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されることをいいます(労働施策総合推進法第30 条の2 第1 項)。
パワーハラスメントの典型的な例としては、①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、
③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害の6類型があげられています。(「事業主が雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和 2年厚生労働省告示第 5 号)
職場におけるパワーハラスメント防止のために、事業主は、①方針の明確化と周知・啓発、②相談・対応のための体制整備、③事後の迅速・適切な対応、④プライバシー
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
保護、不利益取扱い禁止規定の整備等の雇用管理上・指揮命令上の必要な措置を行う必要があります。この事業主の責任は、派遣元のみならず、派遣先も責任を負います。
(中小企業については、令和4年4月1日に改正法が施行され、それまでの間は努力義務となっています。)
15 派遣労働契約の終了 ―――――――――――――――――――――――――
(1)派遣労働者の意思による退職
①無期契約の場合
無期雇用派遣労働者の場合には、いつでも労働契約解約の申入れをすることができ、申入れから2週間を経過すれば、労働契約は終了します(民法第 627 条第 1 項)。
②有期契約の場合
有期雇用派遣労働者の場合には、無期契約と比べて退職事由は制限され、やむを得ない事由があるときに、解除することができるとされています(民法第 628 条)。ただし、1年を超える有期契約の場合には、1年を経過した日以降に申し出れば退職することができます(労働基準法第 137 条)。
③労働契約・就業規則に退職可能な事由がある場合
労働契約・就業規則で退職可能な事由が定めてある場合にも、その事由を理由に退職することができます。
④合意退職(合意解約)
以上のような事由がなくとも、派遣労働者と使用者である派遣元との間で合意をすれば、それによって労働契約は終了します。派遣労働者は、トラブル防止のためには、まずは合意退職を念頭に、話し合うことが大切です。
⑤派遣労働者の意思表示に関して注意すべき事項
以上のような、派遣労働者の意思による退職の場合、その意思表示の方法は口頭でも契約は終了しますが、トラブルを避けるために退職届などの書面等によることが大切です。
また、退職届が提出されていても、使用者の圧力により労働者がやむを得ず提出したものであれば、実質的には解雇されたものと認められる場合も考えられるため、退職の意思表示は労働者の真意に基づくものでなければなりません。
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
(2)解雇
①無期契約の場合の解雇理由
無期雇用派遣労働者の解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇権を濫用したものとして無効となります(労働契約法第 16 条)。また、解雇事由は就業規則に定めておく必要があります。
②有期契約の場合の解雇理由
有期雇用派遣労働者の解雇については、やむを得ない事由がなければすることができません(労働契約法第 17 条第 1 項)。「やむを得ない事由」とは、無期契約の解雇権濫用法理で解雇が認められる場合よりも狭いとされています。
③解雇のための手続き
(無期契約・有期契約いずれにしても)上記のような解雇理由がある場合でも、解雇をする場合には、少なくとも 30 日前に解雇の予告をするか、30 日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うかのいずれかの手続きをとらなければなりません(労働基準法第 20 条)。
ただし、次の場合は解雇予告の対象から除外されます(労働基準法第 21 条)。
・雇用期間が引き続いて1か月を超えない日雇いの労働者
・雇用期間が2か月以内に定められ、かつ、働いた期間がその定められた期間を超えていない労働者
・雇用期間が4か月以内に定められた季節的業務で働き、かつ、働いた期間がその定められた期間を超えていない労働者
・試用期間中で、かつ、働き始めて 14 日以内の労働者
また、派遣労働者は、派遣元に対して解雇理由の証明書を請求することができます(労働基準法第 22 条第 1・2 項)。
④労働者派遣契約の終了と解雇(派遣労働契約の解除)等
労働者派遣契約が中途解除や満了により終了したとしても、それが直ちに正当な解雇理由にはなりません。派遣元は、派遣労働者の雇用の安定に留意し、労働者派遣の終了のみをもって解雇してはなりません(元指針第2の2(4))。
また、労働者派遣契約が中途解除された場合、派遣元・派遣先ともに、新たな就業機会の確保を図ることとされています(元指針第 2 の 2(3)、先指針第 2 の 6(3))。
派遣元は、新たな就業機会を確保できない場合には、まず休業等を行い、雇用の
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
維持を図るとともに、休業手当の支払い等の労働基準法等に基づく責任を果たすこととされています(元指針第 2 の 2(3))。派遣先は解雇予告手当等の損害を派遣元に賠償することとされています(先指針第 2 の 6(4))。
なお、労働者派遣契約を締結する段階で、労働者派遣契約の中途解除の場合に派遣先が新たな就業機会の確保を図ること、これができないときには休業手当、解雇手当等に相当する額以上について損害賠償を行うことを定めることとされています
(元指針第 2 の 2(2)イ、先指針第 2 の 6(1)イ)。
(3)契約期間の満了と雇止め
①期間満了による終了
有期雇用派遣労働者の場合、契約期間が満了することによって派遣労働契約は終了します。
②雇止めが認められない場合(雇止めの理由)
何度も契約更新を繰り返し、突然契約の更新を拒否(雇止め)するような場合、そのような契約更新の拒否(雇止め)が認められない場合もあります。
① 以下の(ア)また(イ)のいずれかにあたる。
(ア)過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが、無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められるもの
(イ)労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に、その有期労働契約が更新されるものと期待されることについて合理的な理由があると認められるもの
② 以下の(ア)または(イ)のいずれかにあたる。
(ア)契約満了日までに更新の申込みをした
(イ)契約期間満了後遅滞なく有期労働契約締結の申込みをした
③ 使用者が、労働者の申込みを拒絶することが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」。
有期雇用派遣労働者が、更新の申し込みをした場合で、次の①~③を全て満たす場合には、雇止めは認められず、それまでの労働条件と同一の条件の労働条件が締結された(申し込みを承諾したものとみなされる)ことになります(労働契約法第 19 条)。
第7章
③雇止めのための手続き
① 次のいずれかにあたる。
(ア)労働契約が3回以上更新されている場合
(イ)1年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され、最初に有期労働契約を締結してから継続して通算1年を超える場合
(ウ)1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合
② あらかじめ契約を更新しない旨を明示していない。
上記のような雇止め事由があっても、以下の①②両方を満たす場合には、少なくとも契約期間満了日の 30 日前までに、その予告をしなければなりません(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準2条)。
派遣労働者の労働条件・待遇
また、使用者は、雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません(同基準3条)。
(4)無期転換ルール
① 有期労働契約の通算期間が5年を超えている(※)
② 契約の更新回数が1回以上
③ 現時点で同一の使用者との間で契約している
※同一の使用者との間で有期労働契約を締結していない期間が一定の長さ(通算契約期間1年以上ならば6か月、通算契約期間 1 年未満ならば原則としてその契約期間の半分)以上にわたる場合、それ以前の契約期間は通算対象から除外されます(クーリング期間)。
有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、以下の条件を満たせば、労働者の申込みにより無期労働契約に転換することになります(労働契約法第 18 条)。
(5)雇用制限の禁止
派遣元は、正当な理由なく、以下①②のように、派遣労働契約終了後にその派遣労働者が派遣先に雇用されることを制限することは、職業選択の自由を制限するものであり、許されません(法第 33 条)。正当な理由とは、秘密保持義務を負わせ、その義務を実質的に担保するために競業避止義務を負わせることが合理的であると認められる場合をいいます。
①派遣労働者や派遣先との間で、
派遣労働契約が終了した後に派遣先の労働者となることを禁止する内容の契約を結ぶこと
②派遣先との間で、
派遣労働契約が終了した後に派遣先が雇用することを禁ずる契約を結ぶこと
第7章
派遣労働者の労働条件・待遇
16 労働保険・社会保険の適用 ――――――――――――――――――――――
労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険、健康保険、厚生年金保険といった、労働保険・社会保険は、要件を満たせば、労使の意思にかかわらず適用されます。
派遣労働者との関係では、派遣労働者の使用者である派遣元が適用事業所となります。
派遣元は、労働・社会保険の適用手続きを適正に進め、労働者派遣前に、後であっても速やかに手続きを行うこととされています(元指針第 2 の 4)。派遣先も、労働・社会保険に加入している派遣労働者を受け入れるべきこととされています(先指針第 2 の 8)。
なお、業務災害による労災保険給付(労災保険法 7 条第 1 項 1 号)については、
①業務遂行性と②業務起因性(業務と傷病等による損害との因果関係)が必要です。派遣労働の場合の①業務執行性については、派遣労働者が、派遣労働契約に基づいて派遣元の支配下にある場合、及び、派遣元・派遣先間の労働者派遣契約に基づいて派遣先の支配下にある場合に認められます(昭和 61 年 6 月 30 日付発労徴 41 号、基発 383 号通達)。
また、通勤災害(労災保険法第 7 条第 1 項 3 号)による労災保険給付の場合、「就業の場所」と住居との往復や、複数の「就業の場所」間の移動、単身赴任先の住居・帰省先住居間の移動を合理的な経路・方法により行っていたことによる傷病等の場合に給付がなされます。派遣労働においては、派遣元又は派遣先の指揮命令により業務を開始し、または終了する場所が「就業の場所」となります(昭和 61 年通達)。