(池田)306頁以下を参照。なお,法制審議会民法(債権関係)部会資料(以下「部会資料」という)74A・
89
債権譲渡禁止特約の効力について
xxx x x
第 1 問題の所在
1 現行民法466条 1 項は,「債権は,譲り渡すことができる。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでない。」と規定し,同条 2 項は,「前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合には,適用しない。ただし,その意思表示は,善意の第三者に対抗することができない。」と規定する。
(1)
譲渡禁止特約とは,当事者が債権の自由譲渡性
書における,「甲及び乙は,本契約によって生じる権利又は義務の全部又は一部について,相手方の事前の書面による承諾なく,第三者に譲渡,担保設定,その他の処分をしてはならない。」といった条項がこれに該当する。
2 譲渡禁止特約の効力,換言すれば,譲渡禁止特
約に違反してなされた債権の譲渡は有効かという点については,従前から現行民法466条 2 項の解釈論
(2)
における主要な問題点として議論されてきた。こ
(3) (4)
(現行民法466条 1 項)に反対の意思を表示した場合
(同条 2 項本文)におけるその意思表示,すなわち,債権者と債務者との間で結ばれた債権譲渡の禁止を内容とする特約をいう。例えば,一般的な取引約定
の点については,物権的効力説と債権的効力説の
(5)
対立がみられる。
⑴ 物権的効力説(物権的効果説)は,以下のような考え方である(以下の「第三者」とは,債権の譲
(1) 現行民法466条 2 項本文では,「反対の」(=譲渡禁止の)「意思表示」とするが,本稿では一般的な用語法に従い,「譲渡禁止特約」とする。「譲渡禁止特約」と,改正民法上の「譲渡制限特約」との関係については後記第 3 の 1 で述べる。
(2) 譲渡禁止特約(とりわけ特約に違反してなされた債権譲渡の効力)に関する本格的な研究としては,xxx『債権譲渡─禁止特約の第三者効』(学陽書房,1976年)を嚆矢として,xxxx『債権譲渡法理の展開─債権譲渡の研究第二巻─』(弘文堂,2001年)第 5 部[304頁],xxx『債権譲渡禁止特約の研究』(商事法務,2013年)第 2 部[106頁](初出「債権譲渡禁止特約の効力制限に関する基礎的考察─ドイツにおける特約の生成・発展を中心に」(立教法学70号[xxxx先生追悼号](2006年)55頁),xxx「債権譲渡禁止特約に関する再検討」法学研究(愛知学院大学)47巻 2 号(2006年) 1 頁等がある。
(3) 物権的効力説を採るものとしては,xxx『新訂債権総論』524頁(岩波書店,1964年),xxx=xxxxx『判例債権総論[補訂版]』(有斐閣,1971年)352頁,xxxx『民法提要債権総論[第 4 版]』(有斐閣,1982年)199頁,xxxx『債権総論[第 2 版補正版]』(信山社,1996年)432頁等がある。
(4) 債権的効力説を採るものとしては,xxxxx「判批」『判例民事法』大正14年(有斐閣,1932年)155頁,xxxx=xxx『註釈日本民法(債権篇総則)』中巻(xxx,1935年)364頁,xxxx『債権総論第二版』(弘文堂,1994年)136頁,xxxx『口述債権総論第三版』(成文堂,1993年)400頁,xxxx「判批」判例評論472号(1997年)184頁,xxx「譲渡後に譲渡禁止特約が解除された場合の第三者対抗要件の効力発生時期」金融法務事情1368号(1993年)28頁,xxxx「判批」金融法務事情1499号(1997年)21頁等がある。
(5) この他に,xx説がある(前掲注(2)(xx(『第三者効』)。この見解は,(それまで当然視されてきた)特約の効力を,それまでとは異なった観点から制限的に解釈した点で注目に値する。すなわち,従来,現行民法466条 2 項但書の反対解釈から,悪意の第三者に対して当然に特約を対抗しうるとの結論を導いていた点に疑問を呈し,特約の第三者に対する効力の問題を,当該特約によって追求されている債務者の利益と悪意の第三者(譲受人)の利益との比較衡量によって決せられるべきであるとするものである。
受人を指す)。譲渡禁止特約は債権の譲渡性を奪うから,この特約に反してされた当該債権の譲渡は無効である。もっとも,例外的に当該債権の譲渡可能性を信頼した善意(かつ無重過失)の第三者を保護するため,この者に対しては譲渡禁止特約による譲
(6)
渡性の欠缺をもって対抗することができない。
詳言すれば,譲渡禁止特約の効力(譲渡性の剥奪)は当事者(債権者と債務者)間に及ぶが,その効力が第三者に及ぶか否かは,第三者の主観的態様による。つまり,第三者が悪意又は重過失の場合,特約の効力は第三者に及ぶ結果,譲渡は無効になり,第三者は当該債権を取得しないと解される。これに対し,第三者が善意(かつ無重過失)の場合は,特約の効力が第三者に及ばない結果,譲渡は有効になり,第三者は当該債権を取得すると解され
(7)
る。現行民法下の判例は明示的に判示していない
ものの,この物権的効力説を前提にしているものと
(8)
解される。
⑵ これに対して,債権的効力説(債権的効果説)は,以下のような考え方である。譲渡禁止特約によっても債権の譲渡性は奪われず,債権者は債務者に対して債権を譲渡しない義務を負うにすぎない。それゆえ,特約違反の譲渡も有効であり,債権者
[譲渡人]と債務者との間での債務不履行の問題として処理されるにとどまるが,第三者が悪意又は重過失の場合,債務者は第三者に対し「悪意の抗弁権」を主張できる。
詳言すれば,譲渡禁止特約の効力は当事者(債権者と債務者)間にしか及ばず,第三者に及ぶことはない。従って,第三者の善意・悪意を問わず,譲渡は有効であり,第三者は当該債権を取得するが,第
三者が悪意又は重過失の場合には,債務者は第三者に対し「悪意の抗弁権」を主張できる。
⑶ このように,債権的効力説は,債権譲渡自由の原則を重視し,譲渡禁止特約違反の債権譲渡を有効とするから,(債務者の利益よりも)譲受人の利益を図ることになる。他方,物権的効力説は,譲渡禁止特約の効力を強く考え,譲渡禁止特約に反する債権譲渡を無効とするから,(譲受人の利益よりも)債務者の利益を図ることになる。
従って,両説の対立の要点は,譲渡禁止特約の付いた債権を譲り受けた者(譲受人)の利益と,譲渡禁止特約を付すことを望んだ者(債務者)の利益との調整を具体的な解釈論にどのように反映させるかという点にある。そこで,譲渡禁止特約の効力に関連する論点(後記第 2 ,第 3 参照)を考える際には,上記の視点からの検討が必要であると解される。
3 また,上記のことに加えて,譲渡禁止特約の効力を考えるに際しては,債務者の利益との関係で,特約を設ける意味を考える必要がある。すなわち,当事者間で譲渡禁止特約が交わされる理由は,かつては,債権が苛酷な取立てをする取立屋(譲渡屋)に譲渡されるのを防ぎ,債務者を保護するためとされてきたが,現在では,債務者である国・地方公共団体や銀行が,①譲渡に伴う事務の煩雑化を回避し,②過誤払の危険を避け,③債務者が債権者に対して有する相殺可能性の利益を確保しておくため
(これらをまとめて,弁済先である債権者を固定す
ることについて有する利益のため)であるとされて
(9)
いる。このように,譲渡禁止特約の機能は「弱い
債務者」の利益の保護から,「強い債務者」の利益
(6) この点について,通説からは,当該債権が譲渡可能であると信頼した「善意」の譲受人を例外的に保護するもの(表見法理の一種)であると説明される(前掲注(3)(xx)524頁参照)。
(7) この点については,xxxx『債権総論第三版』(岩波書店,2013年)525頁を参照した。
(8) 最判昭和48年 7 月19日民集27巻 7 号823頁,最一小判昭和52年 3 月17日民集31巻 2 号308頁,最一小判平成 9 年 6 月 5 日民集51巻 5 号2053頁。
(9) 前掲注(2)(xx『第三者効』)70頁。
(10)
の保護に変化してきている。
これに加えて,中小企業が資金調達の手段として,大企業や官公庁に対して有する債権(売掛債権,請負代金債権)を有効利用したいとの要請,具体的には,集合債権の担保化や債権の流動化が高まりを見せているところ,譲渡禁止特約がこれらの支
(11)
障となっていることも指摘されている。
以上をまとめると,譲渡禁止特約の効力を考えるに際しては,債権流動化の要請(譲受人の利益)と,債権者を固定することについての債務者の利益保護の要請とをどのようにして調和すべきであるか
(12)
ということが重要となっている。
4 このような流れの中で,今般の民法改正(平成
29年 5 月26日可決成立,同年 6 月 2 日公布の「民法の一部を改正する法律」(法律第44号))によって,譲渡禁止特約の効力は,以下のように大幅な変更が加えられた(ここでは改正の要点のみを述べ,その詳細は後記第 5 で述べる)。
⑴ すなわち,改正民法466条 2 項は,「譲渡制限特約」(この意味については,後記第 3 の 1 を参照)のある債権の譲渡も有効であるとして,悪意又は重過失のある譲受人への債権譲渡も有効としている。
これは,上記 2 ⑴の物権的効力説を否定したものと
(13)
解されている。
その上で,同条 3 項は,「譲渡制限特約」につき悪意又は重過失のある譲受人等の第三者に対して,債務者は特約をもって債務の履行を拒むこと(対抗すること)ができるとしている。これは,「譲渡制限特約」付き債権の譲渡は有効であるとした上で,
「譲渡制限特約」が特約の当事者(譲渡人・債務者)のみを拘束し,特約をもって譲受人に対抗できない
こと(特約の相対効)を原則とするが,譲受人に悪意又は重過失のある場合には特約を譲受人に対抗できること(特約の対外効)を認めるものである。このような考え方は,「相対的効力説」又は「相対的
(14)
無効説」とよばれている(この考え方と従来の債権
的効力説とがどのような関係にあるかについては,後に述べる)。
⑵ もっとも,上記⑴のことは全ての債権にあてはまるものではない。預貯金債権に関しては,改正民法466条の 5 第 1 項が,同法466条 2 項の適用を排除し,悪意又は重過失のある譲受人との関係では,債
権譲渡自体が無効であるとの考え方(現行民法の物
(15)
権的効力説)を採用しているからである。
⑶ このように,改正民法は,譲渡禁止特約がもたらしている中小企業の資金調達上の問題点を踏まえ,悪意又は重過失のある譲受人への債権譲渡を有効とすることによって譲受人の利益を優先する一方で,預貯金債権に関して,悪意又は重過失のある譲受人への債権譲渡を無効とすることにより,債務者
(銀行等の金融機関)の利益にも配慮している。 以上をまとめると,改正民法は,預貯金債権とそ
れ以外の債権とで特約違反の譲渡の効力の内容を変えることにより,債権流動化の要請を含めた譲受人の利益と,債権者を固定することの債務者の利益とのバランスを図ったものと解される。
5 本稿は,前記 1 から 4 までに述べたことを踏まえつつ,現行民法下で譲渡禁止特約に関して積み上げられてきた解釈・判例を確認し,これに対して改正民法がどのように対応したのか(その結果,これまでの解釈にどのような影響を与えるのか)を明らかにしようとするものである。
(10) 前掲注(7)(xx)523頁。
(11) 債権の流動化の意味及び,譲渡禁止特約が債権流動化の阻害要因となっている点については,前掲注(2)
(xx)306頁以下を参照。なお,法制審議会民法(債権関係)部会資料(以下「部会資料」という)74A・
3 頁も参照。
(12) xxxx『新債権総論Ⅱ』(信山社,2017年)389頁。
(13) 債権法研究会(xxx)『詳説改正債権法』(きんざい,2017年)213頁等。
(14) 前掲注(12)(xx)392頁注127,部会資料 9 - 1 ・ 2 頁。
(15) 前掲注(12)(xx)415頁。
以上のことから,本稿の叙述の順序としては,まず,既に第 1 の 2 で述べた譲渡禁止特約の効力を除く,譲渡禁止特約の諸論点に関する現行民法下での議論(判例・通説等の見解)を確認した上で(後記第 2 ),改正民法が上記の諸論点についてどのように対応しているかを述べる(後記第 3 )。その際には,譲渡禁止特約の効力(及び,その根底にある譲受人の利益と債務者の利益との調整)との関係について言及する。
次に,前記の物権的効力説と債権的効力説の各内容を踏まえて,両説の若干の対比をした上で(第 4 ),改正民法が採用した立場を説明する(第 5 )。その際には,改正民法が採用した「相対的効力説」
(「相対的無効説」)がどのような内容であり,同説は債権的効力説とどのような関係にあるのか(同一か否か等)を明らかにする。最後に,本稿のまとめを述べる(第 6 )。
第 2 譲渡禁止特約の諸論点に関する現行民法下での議論の確認
1 論点の指摘
譲渡禁止特約(現行民法466条 2 項)に関しては,以下のとおり,複数の論点が存在する。すなわち,
①譲渡禁止特約を対抗しえない(=特約の効力が及ばない)現行民法466条 2 項の「善意の第三者」は無過失であることを要するか,②現行民法466条 2項但書の主観的要件の主張立証責任,③譲渡禁止特約のある債権に対する強制執行(転付命令による債権移転)に現行民法466条 2 項は適用されるか,④譲渡禁止特約に反してなされた債権譲渡の効力は有効か,⑤譲渡禁止特約に反して債権を悪意で譲り受
けた後,債務者がその譲渡に承諾を与えた場合の効果,⑥譲渡禁止特約のある債権を悪意の譲受人から譲り受けた者(転得者)が善意である場合,債務者はこの転得者に特約を対抗できるか,⑦譲渡禁止特約に反して債権を譲渡した者(債権者)が譲渡の無効を主張できるか等である。
このうち,上記④の論点に関しては既に第 1 の 2で述べたので,以下では,それ以外の論点につき,現行民法下での議論を確認する。
2 現行民法466条 2 項の「善意の第三者」は無過失であることを要するか(①の論点)。
⑴ この問題の要点は,善意の第三者(譲受人)と
(16)
債務者との利益衡量にある。換言すれば,債権の
自由譲渡性(現行民法466条 1 項)とそれを制約する譲渡禁止特約(同条 2 項本文)との関係をいかに捉えるかである。
この点,債権の自由譲渡性(第三者の利益)を徹
底すれば,第三者の保護要件として過失の有無を問
(17)
わないことになる。他方,譲渡禁止特約の存在
(債務者の利益)を重視すれば,第三者には,善意
(18)
のみならず無過失まで要求することになる。
⑵ しかし,いかなる過失があっても第三者が保護されるというのは不当であるが,さりとて第三者の無過失まで要求するのは債権の自由譲渡性にそぐわないとして,現在の学説の多数は,両者の中間的な結論をとり,第三者には,善意のみならず重大な過失のなかったこと(善意・無重過失)が必要である
(19)
としている(それゆえ,第三者に軽過失があっても
現行民法466条 2 項但書で保護される)。現行民法下の判例も,「重大な過失は悪意と同様に取り扱うべき」として,上記学説の多数と同様の立場をとって
(16) 前掲注(2)(xx『第三者効』)186頁。
(17) 古くは,前掲注(4)(xx=xx)367頁が過失不要説を採っていたが,現在では,明示的にこの説を主張する論者は見当たらないようである。
(18) 前掲注(3)(xx)524頁は,無過失を必要とする理由を,「表見的なものの信頼を保護して取引の安全をはかる制度だから」と述べる。
(19) xxxx『債権総論[増補版]』(悠々社,1992年)430頁,前掲注(7)(xx)525頁等。
(20)
いる。この最後の見解が,譲受人の利益と債務者
の利益とのバランス,結論の妥当性の観点から適切なものと考える。
⑶ 以上で述べた第三者の主観的要件の議論を,譲渡禁止特約の効力の議論と関連づけてみると,債権の自由譲渡性(第三者の利益)を徹底する考えは,債権的効力説に結びつき,譲渡禁止特約(債務者の利益)を重視する考えは,物権的効力説と結びつくといえる。もっとも,上記のとおり,学説の多数は,重大な過失は悪意と同様に取り扱うべきとする価値判断の点では一致しており,いずれの考えを出発点としても,善意・無重過失必要説はとりうるものと解される。
3 現行民法466条 2 項但書の主観的要件の主張立証責任(②の論点)
⑴ 次に,上記 2 (①の論点)に関連するが,現行民法466条 2 項但書の主観的要件の主張立証責任の所在について言及する。この問題の要点は,現行民
法466条 1 項及び同条 2 項の規範構造との関係をど
(21)
のように捉えるかという点にあると解される。
ある考え方(α)は,現行民法466条 1 項本文が
「譲渡性のある債権」を,同条 2 項本文が「譲渡性の奪われた債権」を規定しており,両条項は全く異なった内容の債権を規定しているとする。この考え方を推し進めると, 1 項と 2 項との間には,原則と例外の関係はない(もっとも, 2 項の本文とその但書との間に,原則と例外の関係を見出すことができる)。従って,債務者が特約の存在の主張立証責任
を負い(抗弁),譲受人が善意無重過失の主張立証責任を負う(再抗弁)ことになる。
これに対して,もう一つの考え方(β)は,現行民法466条 1 項本文に定める債権の自由譲渡性を強調し,同条 2 項を 1 項本文の例外と位置付ける。この考え方を推し進めると, 1 項を原則として, 2 項の要件事実全体について債務者が証明責任を負う構造となるから,債務者が特約の存在と譲受人の悪意又は重過失の主張立証責任を負うことになる(抗弁)。
⑵ 上記 2 つの考え方を,譲渡禁止特約の効力と関連付けると,αの説明は,特約は物権的効力を有する(つまり,特約違反の譲渡は効力を生じない)との考え(物権的効力説)に馴染む。βの説明は,特約の効力は債権的である(つまり,特約違反の譲渡も効力を生ずる)との考え(債権的効力説)に馴染む。
⑶ もっとも,物権的効力説をとりながらも,債権の非譲渡性を絶対的なものと考えずに,(むしろ,債権譲渡の原則を重視して,)βの考え方によることも可能であると解される。実際上,通説(物権的効力説)も債権譲渡の原則を重視することを理由と
してβの考え方をとり,債務者が特約の存在と,悪
(22)
意又は重過失の主張立証責任を負うとしている。
(23)
この点に関する判例もβと同様の結論をとってい
る。
(20) 銀行の預金債権の事案に関する前掲注(8)最判昭和48年 7 月19日によれば,「民法466条 2 項は債権の譲渡を禁止する特約は善意の第三者に対抗することができない旨規定し,その文言上は第三者の過失の有無を問わないかのようであるが,重大な過失は悪意と同様に取り扱うべきものであるから,譲渡禁止の特約の存在を知らずに債権を譲り受けた場合であっても,これにつき譲受人に重大な過失があるときは,悪意の譲受人と同様,譲渡によってその債権を取得しえないものと解するのを相当とする。」としている。
(21) 本文の整理は,前掲注(2)(xx『研究』)23頁以下を参考とした。
(22) xxxx編『民事要件事実講座⑶民法Ⅰ債権総論・契約』(青林書院,2005年)190頁。このことを譲受債権請求訴訟の例で説明すると,譲受人(原告)の請求原因(譲渡債権の発生原因事実と,当該債権の譲渡契約の締結)に対して,債務者(被告)は抗弁として,譲渡の対象となった債権について譲渡禁止の特約(合意)があったことのほか,譲渡時に譲受人がその特約を知っていたこと又は知らないことに重大な過失があったことを主張立証することができる。
(23) 大判明治38年 2 月28日民録11輯278頁,前掲注(8)最判昭和48年 7 月19日。
4 譲渡禁止特約のある債権に対する強制執行(転付命令による債権移転)に現行民法466条 2 項(特約による譲渡禁止)は適用されるか(③の論点)。
⑴ この点については,現行民法466条 2 項は強制執行(転付命令による債権の移転)に適用されず,その結果,譲渡禁止特約のある債権であっても,差押債権者の(特約に関する)善意・悪意を問わず,
差押え,かつ転付命令によって移転できるとする点
(24)
で学説・判例も一致している。その理由としては,
債務者(差押債権者からみた債務者,つまり,譲渡禁止特約付き債権の債権者を意味する)の一般財産の中に差押禁止財産を作ることは私人の自由になしうるところではないし,これを認めることは債権者
(譲渡禁止特約付き債権の債権者ではなく,差押債
権者を意味する)の立場を害すること甚だしいから
(25)
であるとされている。
⑵ 上記の結論は,譲渡禁止特約の効力に関する物権的効力説と債権的効力説のいずれの説からも採ることが可能である。なぜなら,両説が争われる場面である譲渡禁止特約の効力は,「任意譲渡」の場合にのみ問題となるからである。
⑶ 以上に述べた本論点は,譲渡禁止特約を設けた当事者(主に債務者)の利益と,特約付き債権を差し押さえた債権者(差押債権者)の利益との調整の問題であるところ,差押債権者の利益が優先されたものであり,その結論は妥当であると解される。
5 譲渡禁止特約に反して債権を悪意で譲り受けた後,債務者がその譲渡に承諾を与えた場合の効果
(⑤の論点)
この論点については,譲渡禁止特約付きの債権が譲渡人(G)から悪意の第三者(A)に譲渡され確定日付ある通知がなされた後,債務者(S)が当該債権譲渡につき承諾をしたという事例で考える。
⑴ 上記事例につき物権的効力説を貫けば,Xが譲渡の承諾(=譲渡禁止の解消)をしても,譲渡禁止特約付きの債権譲渡は当初より無効であるから,これが遡及的に有効となることはないはずである(現行民法119条本文)。もっとも,債務者の承諾と同時に「譲渡性のない債権」が「譲渡性のある債権」に
変容し,その時点から将来に向かってその譲渡が有
(26)
効になる(同条但書)。
⑵ しかし,物権的効力説は,一般的には次のように考える。すなわち,譲渡禁止特約付きの債権がAに譲渡され確定日付ある通知がなされた場合,その譲渡は当初無効であったが,その後のSの承諾(=譲渡禁止の解消)により,その譲渡(及び対抗力)は遡及的に有効となるとしている(現行民法116条
(27)
本文参照)。判例も同様に解している。もっとも,
Sの承諾前にGの債権者(B)がこの債権を差し押さえた場合には,この遡及効により上記差押債権者
(B)の権利を害することはできないので(同条但
(28)
書),BがAに優先することになる。
(24) 最判昭和45年 4 月10日民集24巻 4 号240頁(これ以前の判例では,差押債権者が転付命令を取得した時に善意であるときにのみ転付命令は有効であるとしていた(大判大正14年 4 月30日民集 4 巻209頁等))。前掲注
(2)(xx『第三者効』)13頁は,上記最判が譲渡禁止特約の効力を制限する考え方のきっかけになったとしている。
(25) 前掲注(3)(xx)524頁。
(26) このような考え方は,ドイツ法における権利内容説(Rechtsinhaltstheorie)に対応するとの指摘がされている(前掲注(2)(xx『研究』)20頁,153頁)。
(27) 最判昭和52年 3 月17日民集31巻 2 号308頁(確定日付ある通知が債務者に到達し,債務者の承諾後に債権の差押えがなされた事案)は,債務者の承諾によって債権譲渡が譲渡時にさかのぼって有効となり,その対抗力も,債務者の承諾の時からではなく,確定日付ある通知が債務者に到達した時に遡及して生ずることを認めたものであると解されている(xxxx・民法判例百選Ⅱ債権[第 7 版](有斐閣,2015年)57頁参照)。
(28) 前掲注(8)最判平成 9 年 6 月 5 日は,前掲注(27)の最判昭和52年の事案と異なり,確定日付ある通知が債務者に到達した後,債務者の承諾前に債権の差押えがなされた事案であるため,差押債権者と第三者(譲受人)との優劣が問題となった。この点につき,最判平成 9 年は「右債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが,民法116条の法意に照らし,第三者の権利を害することはできないと解するのが相当である」と判示した。
⑶ これに対して,上記事例を債権的効力説で考えると,譲渡禁止特約付きの債権がAに譲渡され確定日付ある通知がなされた場合,その後のSの承諾の有無にかかわらず,その譲渡は当初(譲渡時)から有効である。従って,Xの承諾前に現れた差押債権者BはAに劣後することになる。そして,Xは承諾したことにより,Aに対して主張しえたはずの「悪
(29)
意の抗弁権」を失うことになる(抗弁権の放棄)。
6 譲渡禁止特約のある債権を悪意の譲受人から譲り受けた善意の転得者に対し,債務者は特約を対抗できるか(⑥の論点)。
(30)
⑴ この点について,判例は,債権者からの直接
の譲受人が悪意又は重過失であっても,この者からの転得者が善意であれば,債務者はその善意の転得者に対して譲渡禁止特約を対抗できないとする。
⑵ 上記の結論は,債権的効力説からは説明しやすい。すなわち,同説では,譲渡禁止特約によって債権から譲渡性が奪われるわけではないので,直接の譲受人が悪意又は重過失であっても,その者は債権を取得できるから,この者からの善意の転得者も債権を取得できるからである。
これに対して,物権的効力説では,直接の譲受人が悪意又は重過失の場合,債権譲渡自体が無効となるため,直接の悪意の譲受人は債権を取得できな
(29) 前掲注(2)(xx「再検討」)42頁以下。
(30) 大判昭和13年 5 月14日民集17巻932頁。
い。それゆえ,この者からの転得者はいかに善意で
(31)
あっても債権を取得できないはずである。この点
(32)
が債権的効力説から批判されているところである。
⑶ しかしながら,物権的効力説によっても,譲渡禁止特約による債権の譲渡性の剥奪は絶対的なもの
(33)
ではないと考えれば,債務者は善意の転得者に対
して特約を対抗できないとの結論をとることは可能
(34)
と解される。
⑷ 以上に述べた本論点は,債務者の利益を重視する物権的効力説,譲受人の利益を重視する債権的効力説のいずれからも同様の結論となるのであり,ただその結論に至る理論構成に違いがあるのみであるといえる。
7 譲渡禁止特約に反して債権を譲渡した者(債権者)が譲渡の無効を主張できるか(⑦の論点)。
⑴ この論点は,近時の判例(以下,最判平成21年
3 月27日民集63巻 3 号449頁を「平成21年判決」という)を契機に論じられることとなったものである。この論点につき,債権的効力説によれば,譲渡禁止特約付きの債権を譲り渡した債権者は,譲受人に対して無効の主張をすることができないことにな
(35)
るものと解される。
⑵ これに対して,物権的効力説によれば,譲渡禁止特約に違反した債権譲渡は無効であるところ,無
(31) これに対して,前掲注(2)(xx「再検討」)11頁以下は,物権的効力説をとりながら,直接の譲受人が悪意,転得者が善意である場合,いずれも債権を取得しないが,債務者は転得者に対して特約を主張できず,支払を拒絶し得ないとする(同34頁)。なぜなら,同見解は現行民法466条 2 項但書の解釈につき,善意の第三者(譲受人)に対して債務者は支払を拒絶し得ないだけで,善意の第三者は債権を取得するのではないとする。これは,譲渡性の剥奪を絶対的なものであるとの考えを徹底し,「善意の第三者」といえども無権利者であるとするものである(同13頁)。この見解によれば,個別相対的処理が可能となり,債権的効力説からの批判は当たらないことになる(同50頁参照)。
(32) xxxx「判批」判例タイムズ1150号(2004年)93頁,xxxx『プラクティス民法 債権総論[第 4版]』(信山社,2012年)480頁。
(33) 前掲注(3()xx)524頁。前掲注(19)(xx)429頁は「絶対的なものではない」との表現からさらに進んで,「相対的なものにすぎない」と述べる。
(34) この点につき,現行民法94条 2 項による権利変動の実体的過程に関するxx取得説(xxxx・xxxx
『民法総則[第 8 版]』(弘文堂,2010年)206頁等)又は法定承継取得説(xxx「通謀虚偽表示に対する善意の第三者と登記─補論」xxxx編集代表『現代私法学の課題と展望(下)』(有斐閣,1982年)13頁)と同様に考えることができれば,悪意の譲受人(債権を取得しない)からの善意の転得者が債権を取得できることの説明は論理的には可能ではないかと解される。
(35) xxx「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成21年度(上)259頁(注 3 )。
効な行為はその効果[不発生]を誰もが主張できるとするのが原則的な考え方であるから,譲渡禁止特約のある債権を譲渡した債権者も譲渡の無効を主張できるようにも思える。
しかし,無効については,意思無能力を理由とする無効(改正民法 3 条の 2 参照),錯誤無効(現行民法95条)のように,法律行為の当事者の一方(意思無能力,表意者)を保護するために無効とされる
場合には,その者の側からだけ無効を主張できると
(36)
解されている(取消的無効ないし相対的無効)。判
(37)
例も,錯誤無効について,表意者自身が無効主張
する意思がない場合には,相手方や第三者が無効を主張することを認める必要はないとして,無効の主張権者を制限している。
そこで,譲渡禁止特約に反する債権の譲渡につい
ても,譲渡禁止特約が債務者の利益保護を目的とし
(38)
ていることから,特約違反の債権譲渡の効力も上
記の取消的無効ないし相対的無効と同様に考えることができる。従って,債務者に無効を主張する意思がない場合には,原則として,他の者が無効を主張する利益はないと解される。その結果,譲渡禁止特約のある債権を譲渡した債権者が譲渡の無効を主張することはできないとの結論となる。平成21年判決
(39)
も,上記と同様の判断をしているものと解される。
すなわち,平成21年判決は,「債権の譲渡性を否定する意思を表示した譲渡禁止の特約は,債務者の利益を保護するために付されるものと解される。」と
した上で,「譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されないと解するのが相当である。」と
(40)
述べている。
⑶ 以上のとおり,本論点においても,前記②及び
⑥の論点と同様,物権的効力説の特徴である譲渡性の剥奪及びその表れである特約違反による「譲渡の無効」が絶対的なものではないことが明らかになったといえる。
第 3 譲渡禁止特約の諸論点に関する改正民法の対応
1 はじめに(「譲渡禁止特約」と「譲渡制限特約」との関係)
ここでは,前記第 2 で確認した「譲渡禁止特約の諸論点に関する現行民法下での議論」に対応する形で,今般の民法(債権法)改正の内容を概観するが,その前に,現行民法下での「譲渡禁止特約」
(xx上は「反対の」「意思表示」)と改正民法上の
「譲渡制限特約」(xx上は「譲渡制限の意思表示」)との関係について述べておく。
従来,現行民法の下では,466条 2 項の「意思表示」を「譲渡禁止特約」と表現するのが一般的であった。これに対し,改正民法では,「債権の譲渡
(36) 前掲注(34)(xx・xx)31頁・228頁,xxxx『民法講義Ⅰ[第 6 版補訂]』(成文堂,2012年)218頁等。
(37) 最判昭和40年 9 月10日民集19巻 6 号1512頁(及び,その原審である大阪高判昭和38年 8 月 6 日民集19巻 6号1527頁)。
(38) 前掲注(19)(xx)430頁。ここでの債務者の利益とは,債務者の「原債権者に弁済する利益」(債務者が承諾することにより譲受人を新債権者としうるという「債権者選択の利益」はその系)であるとされる(前掲注(7)(xx)528頁)。
(39) 前掲注(35)(xx「判解」)257頁。これに対して,前掲注(8)最判平成 9 年 6 月 5 日(悪意の譲受人に対する譲渡無効を前提とした主張を,譲渡人の差押債権者に許したもの)との関係から,平成21年判決の結論の根拠を禁反言の原則に求める理解もみられ,この理解からすると,平成21年判決は,第三者からの無効主張の可否について判断したものではないことになる(xxx・判例セレクト2009[Ⅰ]19頁)。
(40) 本判旨によれば,譲渡禁止特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有する者は,特約違反を理由とする譲渡の無効主張が許されることになりそうである。そこで,具体的にいかなる者が譲渡の無効を主張する「独自の利益」を有するかが議論されている(xxxx・ジュリスト1398号94頁)。
を禁止し,又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)」と表現している(同法 466条 2 項参照)。つまり,改正民法は,現行民法上の「譲渡禁止特約」に加えて,譲渡を「制限」する特約という概念を設けている。すなわち,改正民法にいう「債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示」とは,⒜譲渡自体を禁止している特約(譲渡禁止特約)のほか,⒝譲渡自体は許容するものの,債権が譲渡された場合,債務者が,悪意又は重過失のある譲受人等に対して,履行拒絶のほか,譲渡人への弁済等の債権消滅事由の抗弁を主張できる旨の合意(譲渡を許容するが,弁済の相手方を固定
(41)
する特約)を指すと解される。そこで,「禁止」も
「制限」の一態様であるといえることから,本稿では,上記⒜と⒝の総称として,「譲渡制限特約」と
(42)
表現する。
2 ①の論点(現行民法466条 2 項但書の「善意」は無過失を要するか)
⑴ まず,①の論点に関して通説・判例が前提とする現行民法の解釈論の要旨を述べると,現行民法 466条 2 項但書の「第三者」の主観的要件としては,
「善意」のみならず,重過失のないこと(無重過失)
を必要とするというものである(なお,「第三者」
(43)
とは,債権の譲受人を指す)。従って,同条 2 項但
書は,「その意思表示は,善意かつ無重過失の第三者に対抗することができない。」と読み替えられる
(下線部が解釈で付加された部分)。
⑵ 次に,改正民法が①の論点につき,どのような対応をしているかを検討する。
改正民法466条 2 項・ 3 項のうち,上記内容と対
応する限りでの要旨を述べると,次のとおりである
(なお,以下での「第三者」とは,債権の譲受人その他の第三者を指す)。
譲渡制限特約に違反して債権が譲渡され,第三者が特約につき悪意又は重過失の場合でもその譲渡は有効となるが(改正民法466条 2 項),債務者は,特約をもってその第三者に対抗できる(同条 3 項)。
⑶ 以上の対比から明らかなように,改正民法は,通説・判例が前提とする現行民法の解釈論(無重過失必要説)を,「第三者の保護要件」という形ではなく,「債務者の抗弁」という形で取り込んでいる。これは,改正民法の視点が,特約の対抗(第三者 効)の問題と捉えた上で,特約付きの債権譲渡も有効であることを前提に,債務者の利益を重視するか,第三者(譲受人)の利益を重視するかの違いにあることによる。すなわち,債務者が特約によって達成しようとした利益を重視すれば,債務者は特約をもって第三者に対抗できることを本則とした上で,一定の場合(第三者が善意・無重過失の場合)
に,例外的に第三者に対抗できないことになる(構
(44)
成A)。これに対して,第三者(譲受人)の利益を
重視すれば,特約は当事者(譲渡人[債権者]・債務者)のみを拘束し(特約の効力は当事者以外の者には及ばない),第三者に対抗できないことを本則とした上で,一定の場合(第三者が悪意又は重過失の場合)に,例外的に債務者が第三者に対抗できる
(特約の効力が当事者以外の者にも及ぶ)ことになる(構成B)。
⑷ 以上をまとめると,債務者の利益を重視する現行民法は前者の構成Aを採ったのに対し,改正民法
(41) 部会資料74A・ 4 頁参照。なお,本文の⒜と⒝の違いは,特約に違反して譲渡した場合に,譲渡人の債務者に対する債務不履行を構成するか否かの点にある(本文の⒜の特約違反は債務不履行を構成するが,⒝の特約違反では債務不履行を構成しない)とされる(xxxほか「債権譲渡をめぐる民法改正と債権流動化取引─契約書実務への影響を踏まえて─」金融法務事情2014号39頁)。
(42) 前掲注(12)(xx)387頁注111。
(43) 現行民法466条 2 項但書の「第三者」とは,債権の譲受人を指す(これと異なり,改正民法466条 3 項・ 4項が「譲受人その他の第三者」としているのは,譲受人のほか,債権質権者も含める趣旨である。これは,改正民法が譲渡制限特約に反して譲渡しても譲渡自体を有効とするためである)。
(44) 構成Aは,民法(債権法)改正検討委員会の試案【3.1.4.03】< 1 >の考え方でもあった(同285頁)。
は第三者(譲受人)の利益を重視したため,後者の構成Bを採ることになったと解される。
3 ②の論点(現行民法466条 2 項但書の主観的要件の主張立証責任)
⑴ まず,②の論点につき,通説・判例が前提とする現行民法の解釈論の要旨を述べると,譲受人の悪意又は重過失については,(特約による対抗を主張する)債務者の側が主張立証責任を負うというものである。すなわち,債務者は,譲受人からの履行請求に対し,譲渡制限特約の存在と,譲受人の悪意又は重過失とを主張立証することにより,譲受人からの請求を拒むことができる。
⑵ 次に,改正民法が②の論点につき,どのような対応をしているかを検討する。
この点については,改正民法と現行民法の規範構造の違いから述べる必要がある。すなわち,改正民法は,現行民法である466条 1 項の文言と同条 2 項の文言との対比において大きな変更がなされている。すなわち,現行民法では,同法466条 1 項本文の債権譲渡自由の原則に対し,同条 2 項本文が「当事者が反対の意思を表示した場合」(債権に譲渡禁止特約を付した場合),同条 1 項は「適用しない。」として, 1 項と 2 項とが対立するか若しくは 2 項が
1 項の例外とみられる表現になっている。そして,
2 項はその但書で「善意の第三者に対抗することができない」としている。以上を要するに,現行民法では 1 項本文が原則, 2 項本文がその例外(又は 1項本文と別の内容を規定), 2 項但書は 2 項本文の例外を規定するという構成になっている(その結果, 2 項但書は, 1 項本文の原則と同様となる)。
これに対して,改正民法466条 2 項は,「当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示
(…)をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられない。」として, 1 項(現行民法か
らの変更なし)の原則の具体的適用になっており,
1 項と 2 項との間には対立若しくは原則・例外の関係はない。もっとも, 3 項は,譲受人等の第三者に悪意又は重過失のある場合,債務者は譲渡制限特約や債務の消滅事由をもって対抗できるとして, 2 項の例外を規定している。以上を要するに,改正民法では 1 項が原則, 2 項がその具体的適用であり, 3項が 2 項の例外を規定するという構成になっている。
このように,改正民法(同法466条 3 項)の規範構造は,「譲受人の悪意又は重過失については,(特約による対抗を主張する)債務者の側が主張立証責任を負う」という現行民法の解釈論に合致するものである。
4 ③の論点(転付命令に現行民法466条 2 項は適用されるか)
⑴ まず,③の論点に関して通説・判例が前提とする現行民法の解釈論の要旨を述べると,現行民法 466条 2 項は強制執行(転付命令による債権の移転)に適用されないから,譲渡禁止特約のある債権であっても,差押債権者の善意・悪意を問わず,転付命令によって移転するというものである。
⑵ 次に,改正民法が③の論点につき,どのような対応をしているかを検討する。
改正民法は,上記⑴の現行民法の解釈論をそのまま受け入れた(判例法理の明文化)。すなわち,改正民法は,譲渡制限特約付き債権について強制執行
がされたときは,債務者は当該特約をもって,特約
(45)
付きの「債権に対する強制執行をした差押債権者」
に対しては対抗できないとする(同法466条の 4 第
1 項)。また,同様の規定は,預貯金債権に関する条項にも設けられている(改正民法466条の 5 第 2項)。
⑶ もっとも,改正民法は,上記のほか,譲渡制限
(45) 単なる「差押債権者」ではなく,「債権に対する強制執行をした差押債権者」としたのは,担保権の実行に際して差押えをした者を除外し,この取扱いを解釈に委ねる趣旨である(前掲注(12)(xx)410頁,部会資料74B・15頁,部会資料83- 2 ・24頁)。
特約付き債権を悪意又は重過失で譲り受けた者(譲受人)の債権者が,譲渡制限特約付きの債権について差押えをした場合(譲受人の債権者が差押債権者となった場合),債務者は,その債務の履行を拒むことができるし,かつ譲渡人に対する弁済等の債務消滅事由をもって差押債権者に対抗することができるとの規定を設けた(同法466条の 4 第 2 項)。
これは,執行債務者である譲受人が有する権利以上の権利が差押債権者に認められるべきではないので,債務者が悪意又は重過失のある譲受人に対して譲渡制限特約を対抗できる場合には,差押債権者に
対してもこれを対抗できると考えられたことによ
(46)
る。
5 ④の論点(譲渡禁止特約に反してなされた債権譲渡の効力は有効か)及び⑤の論点(譲渡禁止特約に反して債権を悪意で譲り受けた後,債務者がその譲渡に承諾を与えた場合の効果)
これらの論点に関する改正民法の対応は後記第 5でまとめて述べる。
6 ⑥の論点(譲渡禁止特約のある債権を悪意の譲受人から譲り受けた善意の転得者に対し,債務者は特約を対抗できるか)
⑴ ⑥の論点につき,通説・判例が前提とする現行民法の解釈論の要旨を述べると,債権者からの直接の譲受人が悪意又は重過失であっても,この者からの転得者が善意(かつ無重過失)であれば,債務者はその善意の転得者に対して譲渡禁止特約を対抗できないというものである。
⑵ 改正民法は,⑥の論点につき,特に規定を置く
ことはしていない。それゆえ,従前どおり解釈に委ねられていると解される。もっとも,前記のとおり,改正民法は,譲渡制限特約付きの債権(預貯金債権以外の債権)の譲渡も有効であるとの立場を採用したので(同法466条 2 項),この立場からすれば,直接の譲受人は悪意又は重過失でも債権者となるので,善意の転得者も債権を取得できることの説明は整合的となる。
7 ⑦の論点(譲渡禁止特約のある債権の譲渡人である債権者が譲渡の無効を主張できるか)
⑴ ⑦の論点に関して通説・判例が前提とする現行民法の解釈論の要旨を述べると,譲渡禁止特約のある債権を譲渡した債権者が譲渡の無効を主張することはできないというものである。
⑵ 改正民法は,上記⑦の論点につき,規定を置く
(47)
ことはしていない。その理由は,本論点に関する
平成21年判決の射程の理解をめぐって,以下のように見解が対立しているからであると解される。すなわち,平成21年判決は,債務者以外の第三者(例えば,譲渡人の破産管財人,差押債権者,同一債権が多重譲渡された場合の競合する譲受人等)が譲渡の無効を主張することの可否については言及していないところ,前述したように,平成21年判決は,無効
(48)
の主張権者を債務者に限定したものと考えると,
前掲注(8)最判平成 9 年 6 月 5 日(以下「平成 9 年
(49)
判決」)では,差押債権者は債権譲渡の無効を主張
(50)
する利益がないとの結論になるように思われる。
これに対して,平成21年判決の結論の根拠を禁反言に求め,同判決は,第三者からの無効主張の可否に
(46) 前掲注(12)(xx)409頁,部会資料74B・ 6 頁。
(47) この点につき,法制審議会の部会資料37( 8 頁以下)では,「譲渡禁止特約の主張権者の範囲に関する規定の要否」について,①債務者だけが譲渡禁止特約を主張することができる旨の規定を設けるとの考え(【甲案】),②債務者のほか譲渡人以外の第三者も譲渡禁止特約を主張することができる旨の規定を設けるとの考え(【乙案】),③規定を設けないとの考え(【丙案】)が示されていた。
(48) これに対し,本判決は,「無効の主張権者を原則として債務者に限定する趣旨までは含んでいないと解すべきである」との見解もある(前掲注(34)(角)94頁)。
(49) 譲渡禁止特約付きの債権が悪意の譲受人に譲渡され,第三者対抗要件が具備された後,譲渡人の債権者によって当該債権が差し押さえられた事案である。
(50) 部会資料37・ 9 頁参照。この点に関して,部会第45回会議において,平成 9 年判決と平成21年判決の関係が議論されている(同会議議事録11頁以下)。
(51)
ついて判断したものではないとの見解もある。
⑶ このように,平成21年判決の理解をめぐっては,現在の解釈論では必ずしも明らかでない状況であるため,改正民法は,譲渡禁止特約の主張権者の範囲を規定せず,従前どおり解釈に委ねたものと解される。
第 4 譲渡禁止特約の効力Ⅰ(物権的効力説と債権的効力説の各内容と対立点)
1 本稿ではその第 1 で,譲渡禁止特約の諸論点
(④の論点)に関する現行民法下での議論を整理し,本稿の第 2 及び第 3 では,譲渡禁止特約の諸論点
(①の論点,②の論点,③の論点,⑤の論点,⑥の
ると,特約違反の譲渡は確定的・絶対的に無効とな るため,いくつかの論点において結論の修正が必要であった(前記第 2 の 3 ⑶,第 2 の 6 ⑶等を参照)。例えば,現行民法466条 2 項但書の「第三者」に 関して,物権的効力説の考え方を貫けば,善意(かつ無重過失)の第三者に対しても特約の効力は及ぶため,譲渡は無効になり,この第三者は当該債権を
(52)
取得しないはずである。もっとも,物権的効力説
は,一般的には上記「譲渡性の剥奪」(及び特約違
(53)
反による譲渡の絶対的無効)を徹底せず,善意
(かつ無重過失)の第三者に対しては特約の効力が及ばないため,譲渡は有効になり,この第三者は当
(54)
該債権を取得する(債権の原始取得ではなく,承継
(55) (56)
論点,⑦の論点)に関する現行民法下での議論及び改正民法の内容を概観した。そこで,この第 4 では,物権的効力説と債権的効力説の若干の対比を行うこととする。その後,第 5 において,譲渡禁止特約の効力に関する改正民法の内容を確認する。
2 現行民法下での物権的効力説と債権的効力説の内容を踏まえた上での若干の対比
上記第 2 及び第 3 の論述をもって,物権的効力説と債権的効力説の諸論点を検討したので,以下では,それらの検討を踏まえ,両説を理論構成の点から比較する。
⑴ 物権的効力説では,「譲渡性の剥奪」を徹底す
取得である)としている。
⑵ しかし,債権的効力説にも,悪意の抗弁権が主張された場合の法律関係がどうなるか不鮮明であるという問題がある。すなわち,債務者が「悪意の抗弁権」を主張したことにより,悪意又は重過失の第三者が取得していた債権はどうなるのか(債権譲渡はいつから無効になるのか等)の点が不鮮明とされる。例えば,譲渡禁止特約付きの債権が悪意の第三者に譲渡され確定日付ある通知がなされた後,譲渡人の債権者がこの債権を差し押さえた場合,債務者が先行する譲渡につき「悪意の抗弁権」を提出すると,第三者と差押債権者との優劣は判然としなくな
(51) 前掲注(39)参照。この見解によれば,平成21年判決と平成 9 年判決とは抵触しないことになるものと思われる。
(52) これに対して,前掲注(2)(xx「再検討」)13頁は,第三者が善意(かつ無重過失)の場合でも,特約の効力は第三者に及ぶから譲渡は無効になり,第三者は債権を取得しないが,債権取引の安全確保から,債務者は善意の第三者に対して支払を拒絶し得ないとする。
(53) その意味で,物権的効力説の説明としては,「特約によって当該債権に対する譲渡人の処分権が制限されている」という方が実態に適っているといえる(前掲注(12)(xx)390頁)。そして,このような説明は,ドイツ法における協働説(Mitwirkungstheorie)にほぼ対応するとの指摘がされている(前掲注(2)(xx『研究』)20頁,154頁)。
(54) 前掲注(8)最判昭和48年 7 月19日(「譲渡禁止の特約の存在を知らずに債権を譲り受けた場合であっても,これにつき譲受人に重大な過失があるときは,悪意の譲受人と同様,譲渡によってその債権を取得しえないものと解するのを相当とする。」[下線部筆者]と述べているが,その反対解釈によれば本文のように解される)。
(55) 前掲注(19)(xx)429頁,前掲注(2)(xx『研究』)20頁。
(56) なお,この点につき,債権的効力説では,第三者の善意・悪意を問わず,特約違反の譲渡は有効であるから,第三者は債権を取得することになる。
(57)
るのである。
⑶ xxとの整合性を比較すると,物権的効力説は債権的効力説に比べ,現行民法466条 2 項本文・但書と整合的である。なぜなら,物権的効力説は,譲渡禁止特約(債権の譲渡性を奪うことを内容とする)に違反した譲渡を無効とするも,これを善意の第三者に対抗できないとするものであるが,このことは,現行民法466条 2 項本文(譲渡禁止特約のある場合には同条 1 項の規定は適用しない)や同項但書(譲渡禁止特約は善意の第三者に対抗できない)の内容に整合するからである。
これに対して,債権的効力説は,譲渡禁止特約によっても債権の譲渡性は奪われず,特約違反の譲渡も有効であるとする点で466条 2 項本文とは整合的でない(むしろ,現行民法466条 1 項本文と整合する)。また,同説は,債務者が第三者に対し「悪意の抗弁権」を主張できるとするが,この抗弁権の主張は現行民法466条 2 項但書のxxと隔たりがある。のみならず,「悪意の抗弁権」は,現行民法466条 2
項但書と関係のない,一般的な抗弁ではないかとの
(58)
指摘もされている。
⑷ 以上のことをまとめると,物権的効力説は現行民法466条 2 項の文言と整合するが,結論の不都合性を回避するために,多くの論点において少なからず修正を要する点で,理論的な簡明さに欠けるものといえる。これに対して,債権的効力説は,物権的効力説と比べて,理論的にシンプルではあるものの,「悪意の抗弁権」が提出された場合の法律関係の説明に不透明な部分を抱えているほか,現行民法 466条 2 項の文言との整合性の点で問題があるといえる。
第 5 譲渡禁止特約の効力Ⅱ(改正民法の対応)
1 はじめに
今般の民法改正(「民法の一部を改正する法律」法律第44号)の内容について,本稿では,問題の所在(前記第 1 の 4 )のほか,譲渡禁止特約の諸論点に関する改正民法の対応(前記第 3 )等において,断片的に述べてきたところであるが,譲渡禁止特約
(譲渡制限特約)に関する改正民法の内容はこれにとどまるものではない(例えば,同法466条 4 項,同法466条の 2 ,同法466条の 3 のほか,同法468条
2 項,同法469条 3 項等)。また,既に取り上げた条項(改正民法466条 2 項・ 3 項,同法466条の 4 ,同法466条の 5 )に関しても,詳細な説明は省いている。
しかし,以下では,譲渡禁止特約(譲渡制限特約)に関する改正民法の内容を総花的に取り上げるのではなく,本稿で述べてきた,従前の物権的効力説や債権的効力説が改正民法によってどのような影響を受けるのか,また,両説の間で問題とされてきた論点はどのようになるのか等の観点から述べることにする。
2 改正民法466条 2 項
⑴ xxの内容と解釈
ア 改正民法466条 2 項は,「当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられない。」と定める。
イ 本条項は,「譲渡制限の意思表示」(以下では
(57) 前掲注(2)(xx「再検討」)21頁,前掲注(7)(xx)526頁。なお,この問題を最初に指摘したxxxx・民商法雑誌118巻 1 号(1998年)118頁は,この点を債権的効力説の「致命的ともいえる欠点」と述べる。
(58) 前掲注(2)(xx「再検討」)20頁以下。この指摘を要約すると,現行民法466条 2 項但書では,「反対の意思表示」である譲渡禁止特約を善意の第三者に対抗しえないから,「特約」の存在が善意・悪意の対象となるのに対し,債権的効力説では,特約によっても債権の譲渡性は奪われない以上,譲受人が特約の存在についての善意・悪意にかかわらず,債権譲渡自体の有効性に影響はないはずである。そうであるとすれば,債権的効力説の「悪意の抗弁権」は,現行民法466条 2 項但書とは結び付けられない,譲渡禁止特約とは別の一般的な抗弁と言わざるをえないのではないか,というものである。
「譲渡制限特約」という)の付いた債権の譲渡も有効であるとする(なお,ここでの債権には預貯金債権を含まない(改正民法466条の 5 参照))。これは,債権譲渡自由の原則(本条 1 項)を重視した結果,譲渡制限特約付きの債権の譲渡も有効であることを
(59)
規定したものである。従って,悪意又は重過失あ
る譲受人への債権の譲渡も有効である。換言すれば,譲受人が悪意又は重過失であったとしても,譲渡制限特約付きの債権を有する債権者は,譲渡人ではなく,譲受人である。
⑵ 物権的効力説・債権的効力説との関係
上記の改正民法466条 2 項は,預貯金債権以外の債権につき,物権的効力説を明確に否定したもので
(60)
ある。のみならず,本条項の内容は,債権的効力
説(譲渡禁止特約によっても債権の譲渡性は奪われず,譲受人の主観にかかわらず,特約違反の譲渡も有効である)と同様であるといえる。それゆえ,債権的効力説の問題点の一つであったxxとの整合性は,完全にクリアされたといえる。
3 改正民法466条 3 項
⑴ xxの内容と解釈
ア 改正民法466条 3 項は,「前項に規定する場合には,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。」と定める。
イ 本条項は,譲受人その他の第三者(以下「譲受人」に代表させる)が譲渡制限特約につき悪意又は重過失である場合には,譲受人からの履行請求に対する債務者の権利として,①譲渡制限特約を主張し
ての債務の履行拒絶のほか,②譲渡人への弁済等による債務消滅の対抗を認めている。
ウ 本条項(①)は,譲受人が特約につき悪意又は重過失である場合は,譲受人の利益よりも債務者の利益(債権者を固定する利益)を優先すべきことから,契約の相対効の原則(特約の効力は当事者以外
の者には及ばない)の例外として,債務者の履行拒
(61)
絶を認めたものである。また,本条項(②)は,
悪意又は重過失のある譲受人との関係では,(すでに債権者ではなくなった)譲渡人に対する債務者の
(62)
弁済・相殺等が有効であることを前提として,弁
(63)
済等による債務消滅の対抗を認めたものである。
エ 以上のことに加え,改正民法466条 2 項で述べたことを加味すると,同条 3 項は,現代における譲渡制限特約の機能が,弁済先である債権者を固定することについて有する債務者の利益を保護するためにある点に鑑み,特約違反の譲渡を有効とするとともに,債務者に対し,悪意又は重過失の譲受人への履行拒絶を認め,かつ譲渡人への弁済を有効とすることにより,特約の効力を弱めることを意図したものと解される。
⑵ 物権的効力説・債権的効力説との関係
ア 上記の改正民法466条 3 項は,悪意又は重過失のある譲受人からの履行請求があることを前提としているが,これは,譲渡制限特約付きの債権譲渡も有効であること(改正民法466条 2 項)を前提としているからである。
イ 従って,本条 3 項も,債権的効力説に基づいた規定であるといえる。また,債権的効力説で議論のあった「悪意の抗弁権」の内容については,改正民法が本条 3 項で,特約と関連付けられた抗弁であることをxxに規定したので,前述の指摘(前記第 4
(59) 前掲注(12)(xx)394頁。
(60) 前掲注(13)(『詳説』)213頁等。
(61) 前掲注(12)(xx)395頁。
(62) 譲渡人は債務者からの弁済を受領することができる(法定の弁済受領権がある)と解されている(前掲注
(12)(xx)399頁)。
(63) xxxx『民法(債権関係)改正法案の概要』(きんざい,2015年)133頁。
の 2 ⑶)は当たらなくなったといえる。
⑶ 両説の間で問題とされてきた論点について
ア 前述したように,従来,物権的効力説と債権的効力説の間で議論された論点(論点⑤)として,以下のものがある(前記第 2 の 5 参照)。すなわち,譲渡禁止特約付きの債権がその債権者Gから悪意の第三者[譲受人](A)に譲渡され,Gから債務者
(S)に対し確定日付ある通知がなされた(到達した)ところ,Gの債権者(B)が当該債権を差し押さえ,その後に,SがAへの債権譲渡を承諾した。イ この事例に改正民法466条 2 項・ 3 項をあてはめると,以下のように処理される。GからAになされた特約付きの債権の譲渡は,Aが悪意でも有効である(改正民法466条 2 項)。そして,この譲渡の第三者対抗要件も具備されている。従って,差押債権者BはAに劣後することになる。SはAへの譲渡を承諾したことにより,Aに対して主張しえたはずの譲渡制限特約の抗弁(同条 3 項)を放棄したことになる。
ウ 上記事例を債権的効力説で処理すると,どうなるか。これについては既に検討したところではあるが要約すると,最後の「譲渡制限特約の抗弁(改正民法466条 3 項)」が「悪意の抗弁権」となる点を除けば,理論構成及び結論は,改正民法による処理と同様である。
4 改正民法466条 4 項
⑴ xxの内容と解釈
ア 改正民法466条 4 項は,「前項の規定は,債務者が債務を履行しない場合において,同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,その債務者については,適用しない。」と定める。
イ 本条項は,譲渡制限特約付きの債権が悪意又は
重過失の譲受人に譲渡された場合,債権者でない譲渡人は請求権を持たず(本条 2 項の帰結),債権者である譲受人が履行請求しても債務者の抗弁に服し
(本条 3 項),かつ債務者が債権者に対して履行しない場合に生ずる閉塞状況(デッドロック状態)を解消するため,債務者に対する関係で,悪意又は重過失の譲受人等の対抗手段を認めたものである。この対抗手段が認められるには,債務者に対する譲渡人への履行の催告のほか,相当期間内に債務の履行がなされないことが必要である。
ウ 改正民法466条 4 項を理解するためには,同条
3 項との関係を理解しておく必要がある。すなわち,同条 3 項は,譲受人が悪意又は重過失の場合は,譲受人の利益よりも債務者の利益(債権者を固定する利益)を優先すべきことから,債務者の履行拒絶を認め,譲渡人に対する債務者の弁済等による債務消滅の対抗を認めている。
しかしながら,譲受人が悪意又は重過失であって
も,譲渡制限特約で保護された債務者の利益を顧慮
(64)
する必要がない場合(つまり,譲渡制限特約が存在
しないものとして法律関係の処理をするのが適切な場合)には,改正民法466条 3 項の例外(同条 2 項からすれば例外の例外)として,債務者が,悪意又は重過失の譲受人に対し,譲渡制限特約ありとの抗
(65)
弁を主張できない場合を規定したものである。
⑵ 物権的効力説・債権的効力説との関係
債権的効力説においても,譲渡制限特約付きの債権が悪意又は重過失の譲受人に譲渡されると,債権者となった譲受人が債務者に履行請求をしても,債務者から「悪意の抗弁権」により履行拒絶される一方,債務者が債権者に対して履行しないという状態は生じうる。もっとも,前述したように,債務者が
「悪意の抗弁権」を主張すると,悪意又は重過失の
(64) このような場合として,他には,(xxはないが)債務者が[抗弁権放棄の意思表示としての]承諾をしたときが考えられる。なぜなら,譲渡制限特約は弁済先固定に関する債務者の利益を保護するためのものであるところ,債務者の承諾があれば,債務者自らが上記の利益を放棄したものと解されるからである(前掲注
(12)(xx)401・402頁)。
(65) 前掲注(12)(xx)395・396頁。
譲受人が取得していた債権はどうなるのかという点は不鮮明である。仮に債権譲渡が無効になるとすれば,譲受人は債権者でないことになり,譲渡人が債権者の地位に戻ることになる。そうすると,譲渡人は債務者に履行請求できることになろう。
なお,物権的効力説では,「デッドロック状態」は生じない。なぜなら,同説では,悪意又は重過失の譲受人は債権を取得しないので,債権者は譲渡人のままであり,譲渡人が債務者に履行請求できるからである。
5 改正民法466条の 5 第 1 項
⑴ xxの内容と解釈
ア 改正民法466条の 5 第 1 項は,「預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は,第466条第 2 項の規定にかかわらず,その譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。」と定める。
イ 本条項は,譲渡制限特約付きの預貯金債権を悪意又は重過失で譲り受けた者は,当該譲渡債権の
「債権者」ではないとするものである。つまり,悪意又は重過失のある譲受人との関係では,債権譲渡自体が無効であるとの考え方を採ったのであり,これは,現行民法下の物権的効力説を引き続き採用したものであると解される。
ウ 本条項が,改正民法466条 2 項の適用を排除した理由は,預貯金債権の特殊性に求められている。これは,預貯金債権は大量に存在する上に,債権者からの要求があった場合には,直ちに払い戻さなければならないものであり,債権者が交替することを認めると,払戻事務を円滑に行うことができず,預金者にとっても支障が生ずることになるからであ
(66)
る。また,預貯金債権はその性質上現金化されて
いるも同然であり,債権流動化による資金化になじ
(67)
まないからである。
エ 改正民法466条の 5 第 1 項を反対解釈すれば,預貯金債権について当事者がした譲渡制限の意思表示は,善意・無重過失の譲受人その他の第三者に対抗することができないということになる。もっとも,実際には,預貯金債権の譲受人が善意・無重過失であることは考えにくい。一般的には,「銀行を債務者とする各種の預金債権については一般に譲渡禁止の特約が付されて預金証書等にその旨が記載されて…いることは,ひろく知られているところであって,このことは少なくとも銀行取引につき経験のある者にとっては周知の事柄に属するというべき
(68)
である。」とされているからである。従って,預貯
金債権の譲受人は,特段の事情のない限り,悪意又は重過失であると考えられ,債務者は事実上特約を
(69)
常に対抗することができることになろう。
⑵ 物権的効力説・債権的効力説との関係
この点については,前記⑴イで述べたとおりである。
6 相対的効力説の内容(債権的効力説との関係を含む)
上記 2 から 5 までの検討のまとめとして,以下では,改正民法が採用したとされる相対的効力説(相対的無効説)の意味とその内容を明らかにした上で,債権的効力説との関係を検討する。
⑴ 相対的効力説の意義とその内容
ア 相対的効力説とは,譲渡制限特約付き債権の譲渡は有効であるとした上で,譲渡人・債務者間での譲渡制限特約は,特約当事者(譲渡人・債務者)のみを拘束し,特約の効力をもって譲受人に対抗できない(特約の効力は当事者以外の者には及ばない)
(66) 部会資料74B・15頁。
(67) 部会資料81- 3 ・ 3 頁参照。
(68) 前掲注(8)最判昭和48年 7 月19日の判旨。
(69) xxx『民法Ⅲ[第 3 版]』(東京大学出版会,2005年)214頁。
が,譲受人が悪意又は重過失であった場合には,債務者は,特約の効力を譲受人に対抗できる(特約の効力が当事者以外の者にも及ぶ)とする見解をい
(70)
う。「相対的」との名称は,「譲渡制限特約が相対
的効力にとどまるため,譲渡当事者(譲渡人[債権者]と譲受人との)間では債権譲渡を有効とする」
(71)
という点にあるといわれている。
イ この見解は,改正民法466条 2 項と同条 3 項によって根拠づけられる。すなわち,仮に特約違反の譲渡を無効とすれば(物権的効力説),他に手段を要することなくそれだけで,債務者が弁済すべき相手方を当初の債権者(譲渡人)に固定することができる。
これに対し,特約違反の譲渡を有効としつつ,債務者が弁済すべき相手方を当初の債権者(譲渡人)に固定するためには,①債務者に,悪意又は重過失の譲受人への弁済拒絶が認められ,②債務者の,譲渡人への弁済等が有効であることが必要となる。そこで,特約違反の譲渡を有効とした改正民法は,債務者が,①悪意又は重過失の譲受人への弁済を拒絶した上で,②譲渡人への弁済等が有効であることを認めている(同法466条 3 項)。
このように考えると,改正民法の下における譲渡制限特約は,譲渡の効力を否定するものではなく,弁済先固定特約としての効力のみが認められるにとどまるものであるといえる。
ウ 以下では,これまで述べてきた相対的効力説に
(72)
つき,事例ⅠとⅡを用いて具体的に説明する。な
お,その際には,相対的効力説の内容を鮮明にするために,物権的効力説・債権的効力説と対比する。
<事例Ⅰ(悪意の第一譲受人と善意の第二譲受人と
の関係)>
債権者(G)の債務者(S)に対する債権(甲債権)に譲渡制限特約が付されている場合に,まず,特約の存在について悪意の第三者(A)に譲渡し
(債務者対抗要件・第三者対抗要件を具備),次いで,Gが甲債権を特約の存在について善意かつ無重過失の第三者(C)に重ねて譲渡した(債務者対抗要件・第三者対抗要件を具備)とする。
ア 物権的効力説による処理
上記の事例Ⅰにつき,物権的効力説によれば,GからAへの譲渡は(誰との関係でも)無効である
(=Aは債権者ではない)から,甲債権の譲受人としてSに履行を請求できるのはCである(Cが債権者である)。
イ 相対的効力説による処理
これに対して,改正民法の採用する相対的効力説によれば,GからAへの譲渡,GからCへの譲渡の
(73)
いずれも有効であり,Cよりも先に第三者対抗要
件を備えたAが債権者となる(CはAに劣後す
(74)
る)。ただし,Aは悪意であるから,SはAへの履
行を拒絶し,Xに対して甲債権を履行することができる(弁済を受けたGは,受領した給付をAに対して引き渡さなければならない)。
ウ 債権的効力説による処理
債権的効力説によれば,GからAへの譲渡,GからCへの譲渡のいずれも有効であり,Cよりも先に第三者対抗要件を備えたAが債権者となる(以上は,相対的効力説と同様である)。ただし,Aは悪意又は重過失であるから,SはAに対して「悪意の抗弁権」を提出できる。その結果,GA間の債権譲渡が無効になるとすれば,Cが債権者となるのでは
(70) 前掲注(12)(xx)392頁注127参照。
(71) 部会資料 9 - 1 ・ 2 頁参照。
(72) 前掲注(12)(xx)411頁から414頁では,本文で検討した事例の他に,「善意の第一譲受人と悪意の第二譲受人との関係」,「悪意の譲受人と差押債権者との関係」が検討されている(もっとも,相対的効力説での法的処理に限る)。本稿では,可能な限りの説明の重複を避けるため,検討対象を,本文の事例Ⅰ・Ⅱに限ることとした。
(73) 従って,Gはもはや債権者ではないので,Sに対して甲債権の履行を請求することはできない。
(74) 従って,Sは,対抗関係でAに劣後するCに対して甲債権を履行することはできない。
(75)
ないかと解される。
<事例Ⅱ(悪意の第一譲受人と悪意の第二譲受人との関係)>
債権者(G)の債務者(S)に対する債権(甲債権)に譲渡制限特約が付されている場合に,まず,特約の存在について悪意の第三者(A)に譲渡し
(債務者対抗要件・第三者対抗要件を具備),次いで,Gが甲債権を特約の存在について悪意の第三者
(D)に重ねて譲渡した(債務者対抗要件・第三者対抗要件を具備)とする。
ア 物権的効力説による処理
上記の事例Ⅱにつき,物権的効力説によれば,GからAへの譲渡は(誰との関係でも)無効である
(=Aは債権者ではない)。また,これと同様に,GからDへの譲渡も無効である(=Dも債権者ではな
い)。このような場合にAとDの優劣を決するのは,
(76)
Sがいずれに承諾をするかによる。Sが承諾をす
るまでは,AとDのいずれも甲債権の譲受人として Sに履行を請求できない。
イ 相対的効力説による処理
これに対して,改正民法の採用する相対的効力説によれば,GからAへの譲渡,GからDへの譲渡のいずれも有効であり,Dよりも先に第三者対抗要件を備えたAが債権者となる(DはAに劣後する)。ただし,Aは悪意であるから,SはAへの履行を拒絶し,Gに対して甲債権を履行することができる
(弁済を受けたXは,受領した給付をAに対して引き渡さなければならない)。
なお,Sは,Aに対して譲渡を承諾することができる(譲渡制限特約の抗弁の放棄を意味する)。この場合,AはSに対して甲債権の履行を請求できるし,SはAに対して甲債権を履行しなければならな
い。これに対して,XはDに対して譲渡を承諾しても,対抗関係で劣後するDに対して甲債権を履行することはできない。
ウ 債権的効力説による処理
債権的効力説によれば,GからAへの譲渡,GからDへの譲渡のいずれも有効であり,Dよりも先に第三者対抗要件を備えたAが債権者となる(以上は,相対的効力説と同様である)。ただし,Aは悪意であるから,SはAに対して「悪意の抗弁権」を提出できる。その結果,GA間の債権譲渡が無効になるとすれば,Dが債権者となるのではないかと解されるが,SはDに対しても「悪意の抗弁権」を提出できる。そうすると,この場合におけるAD間の
(77)
優先関係がどうなるかは不明である。
エ 以上に述べた事例検討のまとめとして,相対的効力説からの処理のプロセスを以下に述べる。すなわち,①債権譲渡自体は有効であること,②譲渡債権の譲受人相互間で誰に債権が帰属するかは第三者対抗要件の法理で処理し(債権の帰属者の確定),
③債権が帰属するとされた者に対して債務者が譲渡
制限特約を対抗できるかどうかを判断するという内
(78)
容である。以上の①と②は譲渡禁止特約の付いて
いない債権の譲渡の取扱いと同一である。
⑵ 債権的効力説と相対的効力説との関係
ア 最後に,債権的効力説と相対的効力説との関係について述べる。この点につき,これまでの本稿での検討から明らかなように,債権的効力説からの帰結と相対的効力説からの帰結とで,ほぼ違いはないことが理解できる。例えば,本稿の第 5 の 2 ⑵,第
5 の 3 ⑵及び⑶ウ,第 5 の 6 ⑴ウ(イとウ)等である。
従って,債権的効力説と相対的効力説とは,ほと
(75) この点は,前述したように,債務者が,悪意又は重過失の第三者に対し「悪意の抗弁権」を主張した場合の法律関係(その第三者が取得していた債権はどうなるのか等)は不明である。従って,本事例に対する本文の結論も推測の域を出るものではない。
(76) 前掲注(7)(xx)526頁。
(77) 前掲注(57)(角)118頁参照。
(78) 前掲注(12)(xx)411頁。
んど同一の内容であると結論づけることができる。改正民法の影響により,従前の債権的効力説が相対的効力説に名称を変えただけであるといってもよい。
イ もっとも,仔細にみれば,両説間で異なる点もある(「悪意の抗弁権」の有無等)。また,これまでの債権的効力説では言及されてこなかった諸点(いわゆるデッドロック状態への対応の有無,譲渡人に対する法定弁済受領権の有無等)が,相対的効力説
(=改正民法)の下で明らかにされている。このような違いの原因は,譲渡制限特約違反の債権譲渡が有効であることが明確化された(譲受人が債権者となり,譲渡人は債権者ではなくなった)点に加え,譲渡制限特約で保護されるのが「債務者の利益(弁済先固定の利益)」であることが明確化された点にあるものと解される。
第 6 まとめ
1 最後に,第 1 から第 5 までに述べてきたことを総括した上で,本稿のまとめとしたい。本稿では,まず,本論である譲渡禁止特約の効力に関する現行民法下での議論を整理した後(第 1 の 2 ),譲渡禁止特約の諸論点に関する現行民法下での議論を確認した(第 2 )。そこでは,物権的効力説の特徴である譲渡性の剥奪及びその表れである特約違反による
「譲渡の無効」が絶対的なものではないことが明らかになった。次に,改正民法が上記の諸論点についてどのように対応しているかを述べた(第 3 )。そこでは,確立した判例・通説を改正内容に反映させていることが明らかになった。さらに,前記の物権的効力説と債権的効力説につき若干の対比をした
(第 4 )。その結果,両説のいずれもが問題を抱えていることが明らかになった。最後に,改正民法466条 2 項乃至 4 項等の説明をした上で,相対的効力説の立場を説明した(第 5 )。その結果,相対的効力説と債権的効力説とがほぼ同一内容であることが明らかとなった。
2 改正民法の解釈は,現行民法の解釈の上に成り立っているものであり,両者は連続性をもって捉えられる必要がある。なぜなら,現行民法の解釈論を理解・確認することは,改正民法と現行民法とをつなぐものとして,改正民法の内容を浮き彫りにするとともに,改正民法を解釈する際に資するところがあると思われるからである。
しかし,本稿がテーマとした「譲渡禁止特約の効力」に関する物権的効力説と債権的効力説は,いずれもその内容に不明確な部分があり,上記の連続性をもって捉えるには,両説の内容を明確化しておく必要がある。
このような観点から,本稿では,譲渡制限特約の効力に関して,改正民法の内容のみを検討するのではなく,現行民法下での解釈が改正民法によってどのような影響を受けてどのように変化したのかを明らかにしようとしたものである。
以上