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2015年度民法第4部「債権各論」第5回 契約の解除
第5回 契約の解除
【様々な契約の終了原因】(191頁コラム○63 )
1 正常な終了
(1) 単発型契約-すべての債務の履行(弁済)の完了
(2) 継続的契約
(a) 契約期間の満了
(b) 解約申入れ・更新拒絶:617条、619条1項、621条、627条、629条など
2015/10/19
xx xx
2 約定解除
(1) 解除条件の成就:127条 例 不動産売買契約における住宅ローン契約成立条件
(2) 約定解除権・解約権(の留保): 557条、579条、618条参照
(3) 合意解除
3 法定解除
(1) 債務不履行解除:541~ 534条
(2) 契約類型毎の特別な解除
・催告不要、契約の目的を達成不能を理由とする解除: 563条2項など
・( 解約)告知、債務不履行を理由としても遡及効なし: 620条など
※ クーリング・オフは、無理由の申込みの撤回又は契約の解除(特定商取引法9条など)
(3) その他の契約終了原因: 599条、653条など
改正法
法定解除要件の整理(帰責事由不要化)、任意解除権の新設(新587条の2など)
4 事情変更を理由とする解除(事情変更の「原則」という表現はミスリーディング)
判例
百45( ゴルフ場の法面崩壊による会員への負担増拒否で事情変更を認めた原審を破棄差戻)
改正法
- 下級審裁判例では肯定例もあるが、4要件( ①基礎事情の変更、②予見不能、③帰責事由なし、④拘束の著しい不当性)を充たすことは稀
明確な基準が提示できず、契約改訂に反対もあって取り上げず
【債務不履行を理由とする解除権の要件】 (190-194頁)
1 債務不履行に基づく解除権(541条以下) の意義と機能
・意義と機能: ①自己の反対債務からの解放、②給付の取戻し( 清算)、③ 契約利益の剥奪(制裁)
・解約告知権、取消権、クーリング・オフとの違い
:債務不履行が要件、契約成立時の意思表示に問題なし
2 履行遅滞の場合( 541条)
Case 05-01 X 1とX 2は共同でバカンス用の別荘の土地甲と建物乙をYから1000万円・
10年の均等分割払いで購入し、引渡しを受けた。
①Xらが2年目の100万円を支払わない場合、Yは直ちに解除ができるか。
②Xらが、「甲の地盤が一部軟弱で建物に損傷が生じる不安があるので、地盤補強工事を求める」と主張していた場合にはどうか。
・要件:①履行期(412条)の徒過=履行遅滞
(②債務者の責に帰すべき事由)
③相当期間を定めた催告←最後の機会を与える履行遅滞解除特有の手続的要件
・同時履行の抗弁権や留置権など正当事由(違法性阻却事由)がある場合
判例
判例
P149(期限前催告・解除の例。弁済期に反対債務の現実の提供のない催告・解除は無効)、
・催告期間
P153(期間を定めない催告も有効)、最判昭31・12・6民集10巻12号1527
判例
頁(催告期間が短すぎても相当期間経過後になお履行がなければ解除可能)
・催告と解除の意思表示の関係
大判明43・12・9民録16輯910頁(兼併可)
判例
・反対債務の履行の提供がなくても解除できる場合
号468頁(相手方が自己の債務を履行しない意思が明確な場合)
最判昭41・3・22民集20巻3
・失権約款・無催告解除特約も一応は有効だが、継続的契約関係( とりわけ不動産賃貸借)
の場合、制約あり: 二面的な信頼関係破壊の法理 →詳しくは賃貸借契約の個所で
3 定期行為の場合( 542条、商525条)
・帰責事由は不要
4 履行不能の場合( 543条)
・催告不要、帰責事由は必要
5 不完全履行の場合・受領遅滞の場合など根拠条文がない場合
Case 05-02 Case 05-01の場合において、
①Yが別荘地へのアクセス道路や付帯施設の年次整備計画を実施しないとき、Xらは契約を解除することができるか。
②別荘近辺の管理・整備が不完全で、別荘を利用したXらの家族が怪我をしたとき、 Xらは契約を解除することができるか。
・不完全履行の性質
・付随的な義務の違反に基づく解除の可否
判例
P151(未登記による売主への税金付加:契約目的達成不能でなく解除不可)
・受領遅滞に基づく債務者からの解除の可否
判例
P12(否定例:納期に遅れた請負人からの解除という特殊例)
・履行期前の履行拒絶(応用問題)
不能と同等と考えられる場合には履行期前解除も可能との裁判例があるが( 東京地判昭34・6・5判時192号21頁)、履行期前の事案でない。PECL 9:304条は重大な不履行が生じることが明白な場合に解除ができる旨の規定を置き、DCFR Ⅲ.-3:504条は重大な不履行が生じると信じることが合理的な場合において履行に対する相当な担保の提供を求めても合理的期間内に相当な担保が提供されないとき、と要件をさらに限定する。
【解除権の行使と範囲】
1 解除権の行使
・裁判外で行使できる形成権(540条1項)←→解除条件・裁判による解除(仏民)
・解除権行使の意思表示の撤回禁止(540条2項)
・解除権行使の不可分性(544条)
判例
最判昭39・2・25民集18巻2号329頁( 共有不動産の賃貸借契約解除: 252条による例外処理=多数決)
2 解除権行使の範囲
・一部の遅滞や不能と全部解除・一部解除/ 複数の契約の一部の不履行と全契約の解除
判例
P152=百45( リゾートマンションプール完成遅延⇒契約の目的達成不能で解除肯定)
xxxx://xxx.xxxxxxxx.xxx.xxxxx-x.xx.xx
2015年度民法第4部「債権各論」第5回 契約の解除
【解除の効果(1)-当事者関係】
Case 05-03 Xは、Yに代金500万円( 分割払) で高級xxを売って、頭金100万円を受領し、甲をYに引き渡した。Yは、甲を10万円で2週間Aに貸した。
①Yが残代金の支払いをしないので、Xは、541条によりこの売買契約を解除した。 XとYの法律関係はどうなるか。
②①の解除がされたが、甲は何者かに傷を付けられており、塗装の修理には50万円を要する。また、この修理が完璧になされたとしても、甲は、中古車として300万円程度に減価している。この場合は、①とどう異なるか。
③甲がAの運転中に大破し無価値となってしまったが、事故原因は、甲の欠陥によるものであることが判明した。Yは、売買契約を解除して、頭金100万円の返還を求められるか。Xは逆に何を請求できるか。
④③の自己原因がAの運転中の過失による場合や、欠陥と過失が競合した場合には
③とどう異なるか。
・履行済の給付の返還関係-原状回復請求権(545条1項)
・返還債務の同時履行関係(546条)
・帰責事由なく給付そのものの返還が債務者の責に帰すべからざる理由で不可能な場合の処理: 価額償還か、履行不能による消滅+反対給付返還債務の消滅( 536条1項) か
・給付から生じた果実・使用利益と利息(545条2項。404条・商514条をも参照)
参考判例
P175(他人物売主の使用利益返還請求を肯定)
・575条類推適用の可否
・給付物に投じた必要費・有益費(196条、299条)
・損害賠償請求権(545条3項:履行利益賠償)、管轄特約、紛争処理条項などへの無影響
PECL 9:305条、DCFR Ⅲ.-3:509条2項・3項1文など比較法的には多数
【解除の効果(2)-対第三者関係】
Case 05-04 XはAに建物甲を売って、移転登記もすませたが、Aが代金の支払いを怠ったので、541条によりAとの売買契約を解除した。ところが、Aからこの建物を購入したと主張するYが甲を占有している。XとYの法律関係はどうなるか。
・判例 取消しと登記の判断枠組みと同じ(第三者の登記の要否は異なる)
解除前の第三者との関係: 545条1項ただし書の適用以外解除者優先
第三者: 給付目的物に解除前に新たな権利を取得した者
( P156: 債権の譲受人は含まない、157:不動産上の第三者は登記(権利資格保護要件)が必要)
第三者の善意・悪意不問。ただし、自ら転売を促進した
者の主張は権利濫用・xxx違反となりうる( 最判昭45
・3・26判時591号57頁)
解除後の第三者との関係: 不動産では対抗問題(P155)。動産は?
・学説:直接効果説の遡及効←→間接効果説・折衷説・原契約変容説の論理遡及効+ 94条2項類推適用←→解除の前後を問わず対抗問題
【解除権の消滅】
・①催告に対する解除権不行使(547条)
②解除権者の「行為・過失」による目的物の滅失・毀損等(548条1項)
⇒債権者が解除権を有することを知ってした故意・過失による著しい損傷・返還不能と限定を強める(新548条)
③消滅時効( 167条1項・商522条類推。解除後の原状回復請求権は別途一般の消滅時効に服する)
判例
⇒新166条も不明記、解除権と原状回復請求権の期間制限の関係も新設規定なし
④権利失効の原則(?)
最判昭30・11・22民集9巻12号1781頁( 賃借権の無断譲
渡の7年後の解除権行使につき一般論で可能性を認めつつ、本件では否定)
【民法改正案の概要】
・催告による解除(新541条)と催告によらない解除(新542条)に再編
・債務者の帰責事由不要: 制裁的要素を払拭、解除者の反対給付義務からの解放に重点
・催告による解除: 契約目的の達成の可否を問わない一方、軽微な不履行では解除不可
・催告によらない解除:契約目的の達成の可否が鍵(新542条1項5号)
例示:履行不能、明確な履行拒絶、一部履行拒絶+契約目的達成不能、定期行為
・契約の一部不能・一部履行拒絶では、契約が可分であれば一部解除可能(同条2項)
⇒複数契約が複合した契約の全部解除は1項5号を類推適用することになろう
・不履行が債権者の責めに帰すべき事由による場合には解除を否定(新543条)
・解除の効果には、金銭以外の受領果実の返還義務(新545条3項)のみを新設。ただし、価額償還は肯定(新121条の2でも間接的に肯定)
cf. PECL 9:306~309条、DCFR Ⅲ.-3:510条~ 514条
・解除権者の故意・過失による目的物の損傷等による解除権の消滅(新548条)
:行為⇒故意、解除権が有することを知っていることを要件として追加、2項削除