図 2-1 PPP プロジェクト運営環境全体図
第2章 PPP プロジェクトの構成
2.1 PPP プロジェクトを構成する 4 つの枠組み
ある PPP プロジェクトの構造はどのように捉えられるのであろうか。出資構成、事業体の構成、政府との契約内容など、PPP プロジェクトがどのように構成されているかを捉える視点は多岐にわたっている。プロジェクトの構造を総合的に捉えるためには、以下の 4 つの視点から検討することが必要である。
(1) PPP プロジェクトを取り巻く環境(リーガル・フレームワーク等)
(2) 契約構成
(3) リスク分担
(4) ファイナンス
以下これらの内容について詳しく説明する。
2.2 PPP プロジェクト運営環境
PPP プロジェクトでは、官民が共同してインフラサービスの提供に当たるため、そのパートナーシップが有効かつ円滑に機能するための運営環境の整備が重要である。この運営環境には、公共側の状況、民間側の状況、サービスマーケットの状況、当該 PPP プロジェクトの条件の 4つが含まれる。
図 2-1 PPP プロジェクト運営環境全体図
Public Budget System
Instit’l Capacity
Country R isk
Related Laws & Regulations
PPP Legal and Regulatory Fram ework
Instit’l Fram ework Strategic Planning Bidding Procedure
SOEs and Others
Service Market
PPP PSroject
Risk Allocation/ Project Econom ics
PPP Expertise/Capacity
Foreign Investors Dom estic Investors
Dom estic Capital M arket
International Capital M arket
Public
Private
PPP プロジェクトを取り巻く運営環境は、図 2-1 に示すように、大きく「官(Public)」側の環境と
「民(Private)」側の環境に分けられるが、これらの双方に影響を及ぼすより大きな要素として、
「カントリーリスク」が存在する。
第 1 編 総合編
(1) カントリーリスク
カントリーリスクの定義は様々であるが、PPP はプロジェクトファイナンスの成立が、重要な要件をなしているため、ここでいうカントリーリスクとは、金融機関がプロジェクトファイナンスを組成するときに、第一に着目する、その国の外貨建て長期債務の返済能力(格付け)の高低や債務不履行の履歴の有無である。また、その国の政治的な安定性や PPP 的な事業における公共側の契約不履行や問題点の発生なども、金融機関によるカントリーリスクの評価に影響を与える要素である。
(2) 公共側の状況
1) 法的枠組み
PPP は、官民のパートナーシップに基づく民間ビジネスであるため、官民双方の法的な枠組みが、整合的に整備されていることが重要である。その法的な枠組みとは、具体的には以下のような法律や規則である:BOT 法、個別プロジェクト法・条例、外資関連法、個別セクター関連法、行政財産関連法、入札手続制度、規則、担保法、倒産法、金融関連法・規則、裁判・調停制度、独占禁止法など
2) 行政組織・能力
PPP 事業の公募に関する公共側の準備作業は膨大であり、かつ従来の公共事業とは、その内容が異なることから、公募準備を担当する組織の行政能力が問われる。また、従来方式とは異なる新しい事業の実施を行政内で意思決定し、民間事業者をxxに評価・選定するための仕組みが、その国の政府内部に創られる必要がある。従来の BOT 型事業が成功していない理由の一つは、BOT 型事業を執行するための行政能力のない途上国政府がその組み立てをある特定の民間事業者に委ねて行ってきたことにある。
3) 国営企業、公的実施機関
本来、行政実務者は、行政環境の不確実性や行政が保有する情報の有限性などに伴うリスクを、前例踏襲主義によって回避する傾向があり、縦割り行政や内部組織間の情報の非対称性などを助長し、内部組織の維持管理コストや意思決定にかかわる調整コストを増大させる結果(組織の肥大化・非効率化)となってきた。途上国の公共サービスの提供を担当している国営企業や公的実施機関もその弊害を免れることはできない。
1980 年代を中心にアングロサクソン系諸国を中心に形成されてきたNPM(New Public Management)理論10に基づいて、英国などにおいて国営企業の民営化が進められたが、世銀・IMF 主導による構造調整政策(Structured Adjustment Program: SAPs)に端を発した途上国におけるインフラ各セクターのセクターリフォームも、同様の考え方に基づいて行われている。
途上国の国営企業や公的実施機関は、こうした全世界的な民営化の流れの中にあり、 PPP 事業の発注者としての立場も不安定である。PPP 事業の大きなマーケットである南米各国では、完全民営化の流れにある一方、アジア各国では国営企業や公的実施機関の民営化は南米各国と比較して遅れており、PPP は、現在までのところそうした機関におけるインフラサービスの供給力の拡大に利用されてきた感が否めない。特に、旧社会主義国であるベトナム、中国及びインドネシアなどにおいては、PPP 事業はそうした機関との JV 方式が一般的である。
10 ①裁量権の拡大、②市場原理・競争原理の活用、③統制基準の見直し、④組織改革、の考え方に基づき、公的部門に民間企業の経営手法や市場原理・競争原理を活用して、資金、ヒト、情報などの投入資源の多様化と、こうした原理に対する公共部門としての対応力を強化することを目的としている。世銀は構造調整政策の経験を経て、現在、セクタープログラムアプローチを採用するに至っている。
4) 予算制度・公的ファイナンス
インフラサービスの供給にあたっては、次の 3 種類のファイナンス方法が可能である。
① 公的負担(消費税なども含む一般財源等)
② 利用者負担(利用料金、自動車税等)
③ 受益者負担(不動産税、開発者負担金等)
ファイナンスの側面から考えると、途上国の多くの PPP 事業は、②の利用者負担(を担保とする民間ファイナンス)を中心にして、上記の 3 種類のファイナンス方法を組み合わせて、インフラサービスの供給を実現する試みといえる。
ただし、多くのインフラサービスは、そのサービス供給装置の整備に巨大な投資を必要とするため、利用者負担のみではその投資を回収することが困難である。従って、それを補完するための公的負担や受益者負担の役割が重要になってくる。
PPP 事業の実施にあたっては、全ての費用を民間の資金調達に委ねるわけではなく、公共側の予算措置やファイナンスの手立てが必須である。具体的には、事業実施のための用地買収費用、利用者負担では賄えない部分のインフラ整備投資費用、関連インフラの整備費用、公募準備のための事業検討および公募書類や契約書案の作成にかかわるコンサルタントの調達費用などの負担が必要になる。
(3) 民間側の状況
1) 専門性・実施能力
PPP 事業は途上国で行うインフラビジネスであり、その実行にあたっては多様な専門性と企業経営のためのマネジメント能力が必要である。当該インフラサービスの安定した提供能力や現地政府との折衝能力に加えて、特に重要な能力は、究極の事業リスクであるカントリーリスクをヘッジした事業スキームを有効に構築する能力であり、これが可能であればファイナンススキームも堅牢になりうる。また、競争力という意味では、全体的な価格を下げるノウハウや企業選択・連携のネットワーク(No.1 チームを組成する能力)なども重要である。
2) 外国投資家
PPP 事業は 1990 年代初頭から実施されており、10 数年の競争・淘汰の結果、現在途上国でインフラビジネスを展開する企業は、その競争に残った特定少数の企業であり、分野別にその特定企業がサービスマーケットを少数寡占する傾向にある。
3) 国内投資家
一方、途上国側のプレーヤーは、各国ともその数が極めて限られており、資金を投じる機関投資家についても同様である。
4) 外国金融市場
契約解除や契約条件の重大な調整が発生した金融危機以降、国際的なプロジェクトファイナンスを手がける金融機関はおしなべて、途上国のインフラファイナンスには、慎重になっており、その傾向は現時点でも大きく改善していない。カントリーリスクに関しては、特に慎重であり、マルチやバイの機関の関与による牽制効果や当該国のより強いコミットメントを求める傾向にある。
5) 国内金融市場
途上国の国内金融市場は、一般的に、PPP 事業が必要とする長期ファイナンスを調達することが難しく、PPP 事業は、外貨建ての長期ファイナンスの返済とインフラ事業の内貨建て収入というミスマッチに起因する為替リスクを内在させてしまう。国内の金
融市場が充実し、長期のファイナンスが調達可能になってくれば、1997 年の金融危機によって顕在化した為替リスクも低減することが可能になってくる。
(4) サービスマーケットの状況
1) 需要の厚さ
途上国のPPP 事業のほとんどは、利用者からの料金収入によって民間事業者の投資を回収する事業であり、その不確実性の高いマーケットリスクを吸収する究極のクッションは、その事業が持つ需要の厚さである。投資回収を行うためのキャッシュフローは、以下の算式で求められるため、PPP 事業のキャッシュフローは、経済状況と政治状況の双方に依存している。
需要(経済状況)×価格(政治状況)=収入(キャッシュフローの強さ)
2) 価格政策
PPP 事業は、利用者の利用料金によって投資を回収する事業であるため、そのインフラサービスの料金が、フルコストカバーの政策に基づいて設定されていることが重要である。もし、公共的な政策によってその料金にクロスサブシディなどの何らかの補助金的な補填がなされている場合には、料金設定に関して留意が必要である。
3) 規制主体
PPP 事業はセクターリフォームの大きな流れの中にあり、従来公共が包括的に担ってきたインフラサービスのマーケットは、①政策の策定主体、②政策の執行主体(規制主体)、③サービスの提供主体、に分離され、③の部分が民営化の対象となっている。 PPP も③の部分に適用されるサービス提供方法のひとつであるため、料金の設定、サービス品質の監視、市場ルールの設定・監視などの観点から②の機能である規制主体の設立とその機能は、PPP 事業に大きな影響を及ぼす。特に、複数のサービス提供主体が存在し、PPP 事業もその競争にさらされるマーケットにおいては、この規制主体の機能や透明で予見性のあるルール設定が重要になってくる。
(5) PPP プロジェクトの条件
1) カントリーリスクカバー
PPP 事業の成立には多くの要素が係わってくるが、一番大きな要素は、以下に有効にカントリーリスクカバーを行い、事業の長期的安定性を確保するかという点である。そのためには、PPP 契約の強さ、世銀等マルチやバイの機関の関与、リスク保証・保険などの手立てが必要である。
2) 需要予測
マーケットリスクを途上国政府がどのようにサポートしてくれるかによって変わってくるが、いずれにしても PPP 事業は少なからずマーケットリスクにさらされる事業である。このため、従来型の公共事業による場合とは比較にならないほどの、需要予測の精度が求められる。特に、新規整備型(Greenfield)のプロジェクトに内在する需要予測の難しxx競合リスクについてのリスク処理が問題となる。
3) リスク分担、政府サポート
公共側に需要の読めないプロジェクトに対しては、民間側もそのリスクを負担することはできない。需要予測に対して大きな不確実性が存在するプロジェクトに関しては、公共側に何らかのマーケットリスクの保証が求められる場合が多い。この場合、そのリスクが顕在化したときに公共側が負担する可能性のある、偶発的な債務(コンティンジェント・ライアビリティ)の大きさを数量的に分析すること、いいかえれば、そうしたリスク
保証のコストを分析して、意思決定を行うことが公共側にとって重要である。
4) プロジェクトファイナンス
PPP 事業成立の可能性は、その国のその分野において、国際的な商業銀行によるプロジェクトファイナンスが成立するかどうかに大きく左右される。そこでは、当該国におけるインフラ分野でプロジェクトファイナンスの第 1 号案件が成立しているか否かが重要である。そのファイナンスにおいて、カントリーリスクのヘッジがどのようになされているかを理解することが、当該 PPP 事業のプロジェクトファイナンスを成立させるための大きな参考材料となる。
2.3 契約構成
PPP 事業の契約構成は複雑である。図 2-2 に示すように、途上国政府(あるいは実施機関)とプロジェクト会社(多くの場合その事業のみに事業目的が限定された特別目的会社:SPC
〔Special Puropose Company〕)とのPPP 事業契約は一本であるが、それを支える主要な契約として、途上国政府と金融機関が締結する直接協定(ダイレクト・アグリーメント)やプロジェクト会社と金融機関が締結する融資契約(プロジェクトファイナンス契約)が存在する。この他、保険会社との保険契約、実際の業務を受託する企業との業務委託契約等、多くの契約がプロジェクト会社と関係する企業との間で締結される。
図 2-2 PPP 事業の契約構成
完工保証
ポリティカル・リスク、物的損害、
営業利益保険
政策・財務的サポート
株主間協定出資
出資
保険契約
融資契約
出資
コンセッション契約
融資
輸出信用
建設契約
運営契約
供給契約
購入契約
建設保証
履行保証
価格・供給保証 コストインフレーション・ 性能保証
為替リスク・プロテクション
輸出信用機関
金融機関
機器
サプライヤー
購入者/ 消費者
原材料供給者
プロジェクト運営会社
建設会社
プロジェクト会社
現地政府
保険会社
機関投資家
プロジェクトスポンサー
リスク/リワード・メカニズム
リスク/リワード・パッケージング
x 約 関 係 資 金 の 流 れ
PPP 事業の契約構成には以下の 2 つの側面がある。
(1) 事業遂行のための契約ストラクチャー
(2) プロジェクトファイナンスを成立させる為の契約ストラクチャー
(1)は当該 PPP 事業を官民のパートナーシップに基づき執行するための契約である。官民の役割分担は、xx的には途上国政府とプロジェクト会社が締結する PPP 事業契約によって規定される。この契約によってプロジェクト会社に割り当てられた役割は、様々な契約を介してプロジェクト会社から関係企業に振り分けられる。
他方、プロジェクトファイナンスを成立させるためにも、この契約構成は重要な要素となる。プロジェクトファイナンスにおいては、図 2-2 に示すPPP 事業を遂行するためのさまざまな権利と義務の契約関係をまとめて「セキュリティ・パッケージ」と呼んでいる。このセキュリティ・パッケージが各契約間で整合性が取れ、確実な契約の履行性が確保されていることが、プロジェクトファイナンスを成立させる上でのキーポイントである。つまり、官民のパートナーシップ契約に基づき、複数の民間プレーヤーが協働してひとつの PPP 事業を遂行するための役割分担が、契約の形となってリスクの漏れがなく機能するように落とし込まれていることが重要なのである。
2.4 リスク分担
前節の契約構成でも述べたように、PPP 事業は官民のパートナーシップ契約に基づいて、複数の民間企業が協働して事業を遂行するため、それぞれの役割が明確に契約によって規定されていることが必要である。契約はこうした役割を明文化したものであるが、PPP 事業の遂行に当たっては、そもそもこうした各企業間の役割を明確に規定すること自体が初めになされなければならない。
PPP 事業の入札に応募する民間事業者は、当該 PPP 事業を遂行するためのチーム(コンソーシアムと呼ぶ)を組んで応募するが、PPP 事業の募集要項(あるいは入札説明書)や契約書案に規定されている民間事業者に振られた役割を、コンソーシアム内でどのように分担するかを決定することが、提案書の内容や資本構成(株式持分割合や劣後ローン拠出割合など)に大きな影響を与えることになる。
PPP のリスク分担の大原則は、PPP 契約により官民に分担されたリスクのうち、民間に振られたリスクをプロジェクト事業会社会社(SPC)に残さず、コンソーシアムメンバー間で分担することである。いかに事業に係るリスクを SPC に残さずコンソーシアム間で分担するか、あるいは、万一 SPC にリスクが残ったとしても保険のxxや、積立金の積み立てなどにより、リスク負担を費用化するか、がプロジェクトファイナンスを組成する金融機関が第一に着目する点である。
表2-1 に、PPP 事業の事業リスクの内容と典型的なリスク分担例(有料道路事業の事例)を示す。このリスク分担例でもわかるように、いったん途上国政府から SPC に割り振られたリスクは、SPC との契約に基づいて、「そのリスクを最も適切に管理できるメンバー」により分担されることにな る。
表 2-1 PPP 事業の典型的なリスク分担
段 階 | リス クの 種 類 | x x | リス クの 発 x x 因 ・ 理 由 等 | 関 連 機 x | |||||||
x 府 | 民 x | x x | |||||||||
x 業 会 社 | スホ ゚ン サー | x x 機 x | x 険 会 社 | 請 負 会 社 | |||||||
共 通 | 政 治 的 リス ク | 立 法 化 リス ク | 民活道路立法化に関す るリス ク | ● | |||||||
x x リス ク | 政権交代、議会承認に関す るリス ク | ● | |||||||||
法 規 ・ x x 可 リス ク | 関係法令、許認可の変更 | ● | |||||||||
税 制 変 更 リス ク | 新税 、 税率の変更 | ● | |||||||||
政 府 サ ホ ゚ート リス ク | 政府支援の不履行 | ● | |||||||||
経 済 リス ク | 物 価 リス ク | インフ レ / テ ゙フ レ | ● | ● | |||||||
金 利 リス ク | 金利の上昇 | ● | ● | ● | |||||||
為 替 リス ク | 為替の変動 | ● | ● | ● | |||||||
資 金 x x リス ク | 資本金、融資、 保証 、 ホ ゙ン ト ゙引受 | ● | ● | ( ● ) | ● | ||||||
社 会 リス ク | x x 問 題 リス ク | 住民反対運動、 訴訟 | 道 路 建 設 、 民 活 化 そ の もの へ の 反 対 等 | ● | |||||||
環 境 問 題 リス ク | 公害 、 環境問題、 訴訟 | 道 路 建 設 そ の もの へ の 反 対 等 | ● | ||||||||
ハ ゚ート ナー リス ク | ハ ゚ー ト ナーリス ク | 経営的信頼性、 契約履行能力 | ● | ● | ( ● ) | ▲ | |||||
異 常 事 態 リス ク | フ ォ ース マ シ ゙ ョ ール | 震災等大災害 | 地 震 等 天 災 によ る 事 態 | ● | ▲ | ▲ | ▲ | ▲ | ▲ | ||
戦 争 、暴 動 等 によ る 事 態 | ● | ||||||||||
計 画段 階 | 計 画 リス ク | 測 量 ・ 調 査 リス ク | 地形 、 地質等現地調査の不足、 ミス | ● | ● | [● ] | |||||
設 計 リス ク | 設計 ミス 、 等による設 計変 更 | 政 府 提 示 条 件 、指 示 の ミス | ● | [● ] | |||||||
事 業 会 社 、 請 負 会 社 の 指 示 、 判 断 ミス | ● | ● | ( ● ) | ||||||||
計 画 変 更 ・ 遅 延 リス ク | 環境 ア セ ス 、公聴会による計画の変更・遅れ | 道 路 建 設 、 民 活 化 そ の もの へ の 反 対 等 | ● | ||||||||
民 間 提 案 に係 わ る 部 分 へ の 反 対 等 | ● | ● | |||||||||
応 募 リス ク | 落選時の応募コス ト損失 | 賞 金 等 政 府 によ る 補 填 措 置 が な い場 合 | ● | ● | |||||||
賞 金 等 政 府 によ る 補 填 措 置 が ある 場 合 | ▲ | ● | ● | ||||||||
建 設段 階 | 建 設 リス ク | 用 地 取 得 リス ク | 用地買収・取得に関す るリ ス ク | 道 路 施 設 、 工 事 用 地 の 取 得 | ● | ||||||
事 業 計 画 によ る 超 過 用 地 取 得 | ● | ● | |||||||||
取 付 道 路 整 備 リス ク | 取付道路工事の遅れ | ● | |||||||||
工 事 遅 延 リス ク | 工事完成の遅れ | ● | ● | ( ● ) | ▲ | [● ] | |||||
コス ト ・ オ ーバーラ ン リスク | 工事費の増大 | ● | ● | ( ● ) | ▲ | [● ] | |||||
性 能 リス ク | 要求仕様不適合 | ● | ● | [● ] | |||||||
施 設 損 傷 リス ク | 工事中の事故、 火災等 | ● | ● | ▲ | [● ] | ||||||
運 営段 階 | 関 連 イン フ ラ リス ク | 関 連 イン フ ラリス ク | 近接 した無料/有料道路建設、 等 | ● | |||||||
マ ー ケ ッ ト リス ク | 需 要 予 測 リス ク | 交通需要予測に関す るリス ク | 政 府 によ る 最 低 交 通 量 保 証 等 が な い場 合 | ● | ● | ▲ | |||||
政 府 によ る 最 低 交 通 量 保 証 等 が ある 場 合 | ▲ | ● | ● | ▲ | |||||||
料 金 リス ク | 料金設定、改定に関す るリ ス ク | 料 金 改 定 等 契 約 事 項 が 遵 守 され な い場 合 | ● | ||||||||
運 営 x x リス ク | 運 営 コス ト リス ク | 管理 ・運営・維持 コス ト の上昇 | ● | ● | |||||||
施 設 損 傷 リス ク | 交通事故、火災等によるダメー シ ゙ | ● | ● | ▲ | |||||||
デフ ォ ル ト リス ク | テ ゙フ ォ ル ト リス ク | 事業破綻 | 政 府 契 約 不 履 行 等 帰 責 事 由 によ る 破 綻 | ● | |||||||
フ ォー ス マ ジ ョー ル によ る 破 綻 | ● | ▲ | ▲ | ( ▲ ) | ▲ | ▲ | |||||
運 営 x x 等 事 業 会 社 帰 責 事 由 によ る 破 綻 | ● | ● | ( ▲ ) | ▲ | ▲ |
凡 例 リス ク分 担 ● 主 分 担 ▲ 従 分 担
(● ) 契 約 x x に よ り負 担 の 可 能 性 の あ る もの
[ ● ] 事 業 会 社 との 契 約 に よ りリス クが 転 嫁 され る 場 合
2.5 ファイナンス
PPP 事業の資金調達は、そのほとんどの場合、プロジェクトファイナンス方式により実施されている。プロジェクトファイナンスは、前述したセキュリティ・パッケージの構築やその精査、事業リスクの分析と事業財務モデルの分析に基づくリスク評価、事業収益性の分析、複数の金融機関による融資シンジケーションの取りまとめなど、そのファイナンス組成に多くの専門性と経験を要するため、国際金融の世界においても、適切にその組成を行える金融機関は、日xxの限られた金融機関のみである。
プロジェクトファイナンスの金融機関への返済の原資は、その事業から発生するキャッシュフローに限定され、親会社などからの返済保証はなされない。従って、金融機関からすると、プロジェクト会社の親会社の信用力ではなく、事業そのものから確実かつ安定的に融資の返済に十分なキャッシュフローが発生するかどうかを検証することが重要になる。
図 2-3 に示すように、プロジェクトファイナンスにおける資金の流れは、プロジェクト会社ではなく、金融機関に開設された事業の口座(エスクロー(信託)口座と呼ばれる)を介して、貸し手により厳密に管理されることが特徴的である。資金の使途には優先順位11がつけられ、その資金別に口座を開設して、事業から発生するキャッシュフローはその優先順位に従って、厳密に金融機関により管理される。こうして管理されたキャッシュフローの最終的な残余部分がプロジェクト会社の内部留保や利益配当に回される仕組みとなっている。
11 キャッシュウォーターフォール(滝の流れ)管理と呼ばれ、一般的に、租税公課、運営維持管理費用、シニアローンの金利返済、シニアローンの元本返済、各種積立金の積立、劣後ローンの金利返済、劣後ローンの元金返済、配当などの優先順位がつけられ管理される。
図 2-3 プロジェクトファイナンスの仕組み
完成保証契約
スポンサー
A
スポンサー
B
スポンサー
C
①出資 ①出資 ①出資
⑥利益配当
⑥利益配当
運営契約
プロジェクトファイナンス融資
プロジェクト主体
(法人型or非法人型) 売上代金債権譲渡
建 設 契 約 ② 貸 付 金
⑤残余売上代金支払い
③売上代金
買い手
支払信託勘定
(Escrow Account)
貸し手
契約
建設会社
運営会社
④元利金返済
輸送関係
契約
売買契約
(
)
e y
k a
a P
T
r
o
契約関係
金の流れ
(番号は金の流れの順番)
金融機関がプロジェクトファイナンスを組成するときの着目点は、以下の 5 点である。
(1) カントリーリスク
(2) 適正なリスク分担(前述)
(3) 各当事者の事業遂行能力
(4) プロジェクト・エコノミクス
(5) 契約の履行可能性と当事者の契約履行能力
PPP 事業では、プロジェクトファイナンスが資金調達の枢要を占めるケースが多いため、公共側でPPP 事業を組み立て、検討する際には上記のような金融機関の視点を考慮した分析が必要になってくる。
(1) カントリーリスク
カントリーリスクは、既述の通り、途上国において PPP 事業を実施する際の究極のリスクであり、金融機関にも民間事業者にも、ある意味においては当該途上国政府にもコントロールができないリスクである。カントリーリスクについて検討する際の着目点として、以下の 3点を挙げることができる。
1. 外貨建長期債務の返済能力(格付け)
2. ポリティカルリスク保険等のxx
3. 保険等でカバーされないカントリーリスクのヘッジ
1) 外貨建長期債務の返済能力
プロジェクトファイナンスを組成する金融機関が第一に着目する点は、当該途上国政府の持つ外貨建長期債務の返済能力である。まず、当該政府が、外貨建長期債務に関して過去に返済不履行(デフォルトと呼ばれる)や返済の繰延(リスケジュールと呼ばれる)を生じさせていないかの事実が確認される。同時に外貨建長期債務の返
済能力の格付け12が確認される。表 2-2 はアジア各国に関する同能力の最近の格付けである。
G DG D PP //CC aa pp iittaa
((22000 0 22 ..ee ss tt..))
CoC o uuntn t rryy RR aa ttiinn gg
((MM oo odyo d y ’’ss 2002 0 0 3.3 .22 ..22 11 ))
CoC ounu n ttrryy
表 2-2 カントリーリスクと債務返済格付け
C o u n t ry | C o u n ttr y R a t in g ( M o o d y ’s 2 0 0 3 ..2 . 2 1 ) | G D P / C a p ita ( 2 0 0 2 . e s t . ) |
Ta iw a n | Xx 0 | 00 , 0 1 9 |
Ko re a | A3 | 19 , 2 6 5 |
Ch in a | A3 | 4 , 6 7 1 |
M a lla y s iia | B aa1 | 8 , 8 2 5 |
T h a ila n d | B aa3 | 6 , 5 7 5 |
P h ilip p in e s | Ba 1 | 3 , 9 6 3 |
V ie tn a m | B1 | 2 , 0 7 2 |
In d o n e s ia | X0 | 0 , 0 0 0 |
0, 0 0 0
X0
ViViee ttnn aa mm
N o te : A a a > A a > A > B a a > S p e c u la tiv e > B a > B > C a a > C a > C ( 1 > 2 > 3 )
格付けには、投資不適格(長期債務の返済に懸念がある)とされるレベルがあり、表外の脚注にある Speculative(投資適格でなく「投機的」なレベル)とされるラインである。これをみると、アジア各国の間では、タイとフィリピンの間にそのラインが存在し、フィリピン、ベトナム、インドネシアが外貨建長期債務の返済に関して懸念のある格付けと なっている。
この投資不適格国がそのままプロジェクトファイナンス不適格国という意味ではなく、金融機関がプロジェクトファイナンスを組成するにあたって、カントリーリスクの低減に留意が必要な国という意味である。現にベトナムにおいても、2002 年、Phu My 2-2 ガス火力発電事業において、ベトナム初のプロジェクトファイナンスが成立している。但し、その成立に当たっては、バイ(JBIC)やマルチ(IDA および ADB)の機関による大きなコミットメントが必要であった。
2) ポリティカルリスク保険等のxx
カントリーリスクの直接的なヘッジ方法は、各国の輸出信用機関(Export Credit Agency)等が提供しているポリティカルリスク保険を活用することである。リスクのカバー範囲は、図2-4 に示すように、①戦争危険、②収用危険、③送金危険、④その他のカントリーリスク(しのびよる収用など)である。
こうした各国のポリティカルリスク保険のほか、世銀グループの MIGA による保険・保証や世界銀行、アジア開発銀行、米州開発銀行等による部分的カントリーリスク保証
(Partial Risk Guarantee, Partial Credit Guarantee)の制度も利用可能である。
12 民間の格付け機関である Moodyʼs やStandard&Poors などがこの能力に関して格付けを行っている。
図 2-4 ポリティカルリスク保険の範囲
プロジェクト・リスク
I. ポ リ テ ィ カ x x ス ク (1) 戦 争 危 険
(2)収用危険(3)送金危険
(4)その他カントリーリスク
I.ポリティカルリスク
(1)戦争危険 (2)収用危険 (3)送金危険
(4)その他カントリーリスク
Ⅱ. コマーシャル・リスク
Ⅲ. その他リスク
(1)許認可取得リスク (2)工事完成リスク (3)原料/燃料調達リスク
(4)運転/操業リスク (5)インフラ未整備リスク (6)収入/販売リスク (7)経済性リスク
(1)フォースマジュール (2)リーガル関連リスク (3)環境問題リスク
3) 保険等でカバーされないカントリーリスクのヘッジ
上記の保険・保証等の手段を講じてもヘッジできないカントリーリスクに関しては、ベトナムのPhu My 2-2 ガス火力発電案件のように、複数のバイやマルチの機関によるコミットメントやファイナンスを組み合わせることによって、民間金融機関によるプロジェクトファイナンスを引き出すことが必要になってくる。
(2) 各当事者の事業遂行能力
PPP 事業が安定したキャッシュフローを生み出すためには、プロジェクト会社を実質的に構成する業務受託者のそれぞれの役割に関する事業遂行能力が、十分な実績と経験に裏付けられていなければならない。金融機関はプロジェクト会社の構成員の事業遂行能力を証明する十分な根拠資料を要求し、それを自らで確認できなければ、ファイナンスをつけることはない。この点においては、金融機関と途上国政府の利害は一致する。
この視点は、途上国政府が PPP 事業に関する複数のコンソーシアムからの提案を評価する際にも重要である。また、個々の当事者の事業遂行能力も重要だが、PPP 事業は事業経営でもあることから、代表企業が有する事業全体をリスクの漏れなくかつ長期安定的にマネジメントする能力も、同様に金融機関が評価を行う重要なポイントである。
(3) プロジェクト・エコノミクス
金融機関にとって、プロジェクト・エコノミクス(Project Economics:プロジェクトの経済性)の分析は、プロジェクトファイナンス組成のための根幹的な業務である。詳細な分析手法の記述は専門書に譲るが、検討の要点は、融資に係る元利金の返済原資が事業のキャッシュフローにより十分確保できているかを確認することにある。
従って、事業のキャッシュフローに影響を与える可能性のある不確実性(事業リスク)とその影響の度合いをすべて分析し、影響の大きい主要なリスクについては可能性のある顕在化のシナリオを設定して感度分析を十分に行い、上記の返済可能性を保守的に見て確
実なレベルで確認することになる。
金融機関にとっての究極のリスクは、事業者の事由によって契約の不履行が発生して、契約が解除され、途上国政府によって課されるペナルティにより、融資元本の全額の返済が実現しないことである。従って、プロジェクト・エコノミクスの分析に加えて、PPP 事業契約における民間事業者事由による解除の際のペナルティ条項も同時に精査を行う。
また、PPP 事業のストラクチャー自体もプロジェクトファイナンスの成立に影響を与える要素である。一般的に新規の需要のみに依存する新規整備事業(Greenfield Project)よりは、既存の需要が存在する拡張事業や延伸事業のPPP 事業のほうが需要予測の確実性があり、立ち上がりのキャッシュフローリスクが既存の需要によって補完される(たとえば、既にある有料道路区間や有料橋の料金収入を享受する権利を PPP 事業者に与えるような事業ストラクチャー)場合は、プロジェクトファイナンスの組成もより確実なものになる場合が多い。
もうひとつの留意点は、キャッシュフローのもととなる需要の構造や利用料金の特性である。港湾などの場合は、港湾が取り扱う貨物そのものが、一般カーゴ、バルク、一般コンテナ、 トランシップコンテナなど多様であり料金体系も異なるなど、キャッシュフローの源泉となる需要の構造自体が複雑である。また、電力料金や水道料金についても、プロジェクトが発電や浄水場のみである卸売り(Wholesale)型か、配電や配水を含む小売り(Retail)型かで、キャッシュフローの内在するリスクも異なってくる。
(4) 契約の履行可能性と当事者の契約履行能力
コンソーシアムメンバー間や官民の間で、役割分担や権利義務のすべてが明文化されて契約として取り決められたとしても、その契約自体が当該国の法律や関連法規に照らして実際に履行可能なのかどうかを吟味する必要がある。また、契約当事者に契約内容を履行する能力や権限が本当にあるのか(特に実施機関、PPP 事業コンセッションの法的有効性を含む)を確認する事が重要である。
プロジェクトファイナンスはファイナンシャルエンジニアリングとリーガルエンジニアリングの複合的なファイナンスといわれるが、リスク分析やプロジェクト・エコノミクスの評価というファイナンシャルエンジニアリングの部分と、セキュリティ・パッケージの構築及び契約の履行可能性や契約当事者の履行能力の評価というリーガルエンジニアリングの側面が整合的に機能して初めてプロジェクトファイナンスは成立することになる。
第3章 PPP 事業の形成フローと JICA 活動の対応関係
3.1 PPP 事業の全体の流れ
マスタープランや FS 調査といった JICA 活動に則して PPP 事業の全体のステップを示すと表
3-1 のとおりである。
マスタープラン段階の事前調査と本格調査、FS 調査段階での事前調査と本格調査、PPP 事業の公募準備段階での事前調査と本格調査までに6 ステップ、その後ODA 要請手続きなども含めた、PPP 事業の入札準備、入札実施、契約交渉などで5 ステップ、契約締結までに合わせて 11 のステップが考えられる。
表 3-1 PPP 事業のステップ
1. M/P 事 前 調 査 |
2. M/P x x 調 査 |
3. F/S 事 前 調 査 |
4. F/S x x 調 査 |
5. PPP Pre-F/S 事 前 調 査 |
6. PPP Pre-F/S x x 調 査 |
7. 政府内での実施優先順位付けと実施決定、あるいはODA要請 |
8. 発注組織(PPPユニット等)の創設 |
9. PPP 入 札 準 備 |
10. PPP入札実施 |
• PQ • 入札告示 • 入札説明会 • 考 察 • 提案書評価 • 優先交渉権者選定 |
11. 契約交渉・契約締結 |
• 提案内容の明確化 • IA交渉13 • PPP 契 約 • DA交渉14(必要時) • 契 約 Documentation • 契約締結 |
12. PPP契約締結以降のステップ |
• 資金調達 • 基本設計 • 実施設計 • 建設工事 • 運営維持管理体制、運営維持管理計画・仕様書 • モニタリング、支払システム • 試稼動、研修 • 運営、維持管理 • 施設移管、事業終了 |
13 IA:Implementation Agreement
14 DA:Direct Agreement
3.2 JICA 活動との対応関係
JICA 活動(開発調査)とPPP 事業との対応関係は、図 3-1 の通り示される。
図 3-1 PPP を前提においた開発調査の実施
( 従 来 型 の 流 れ ) (PPP 実 施 を 前 提 に し た 流 れ )
MM/P/P事事前前調査
MM/P/P本本格格調査
PPPPPPププロロジジェェククトトの括り出し
FF/S/S事事前前調調査査
はじめからPPP実施を前提とした検討
FF/S/S本本格格調調査査
+
PPPPPPの
可可能能性性検検討
PPPPPP PPrere-F-F/S/S事事前前調調査査
FF/S/S およびPPPPPP PPrere-F-F/S/S本本格格調調査査
PPPPPP PPrere-F-F/S/S本本格格調調査査
• M/P 事前調査:PPP 事業としての判定および実施の優先順位付けに関わる仕様作成
• M/P 本格調査:PPP 事業としての判定・優先順位付け、事業としての括り出し
• M/P 事前調査:PPP 事業手法を念頭においた仕様書作成
• F/S 本格調査:経済的なフィージビリティ、事業ニーズの確認
• PPP Pre-F/S 事前調査:PPP 事業の実施を念頭においた仕様作成
• PPP Pre-F/S 本格調査:PPP 事業の公募準備および実施体制作りの支援
しかし、後述の通り、PPP 事業において ODA 資金の活用を前提とする場合、PPP 事業のサービス開始までに調査も含めて 10 年程度のリードタイムが必要となる(Ⅳ(1)参照)。そのため、 PPP 事業方式による実施の可能性が高い場合は、図 3-1 に示すように、F/S 調査のステップを省略して、M/P 本格調査終了後初めから PPP の実施を前提としたF/S 本格調査とPPP Pre-F/S調査を合わせた複合調査を実施することも考えられる。但し、この場合は、M/P 本格調査において、PPP 事業としての実行可能性について、プロジェクト単位での概略の検討を実施しておく必要がある。
また、従来型の JICA 活動の流れを考えると、PPP 事業がどのタイミングで構想されるかは案件毎に異なるため(従来型の JICA 業務の流れがどこまで終了しているかが異なる)、PPP 事業を
検討する案件の組み合わせとしては、以下の 3 パターンが考えられる。
(1) M/P 本格調査未実施あるいは M/P 本格調査のみ実施済の時点で構想 M/P 本格調査+F/S とPPP Pre-F/S 合体の本格調査
(2) M/P 本格調査および従来型の ODA ベースの F/S 本格調査が実施済の時点で構想 M/P 本格調査+従来型の ODA ベースの F/S 本格調査+PPP Pre-F/S 本格調査
(3) ODA での全事業実施を想定する場合
M/P 本格調査+従来型の ODA ベースの F/S 本格調査(概略PPP 検討付き)
上記(1)の M/P 本格調査のみ実施されている場合、および(2)の M/P 本格調査と従来型の ODA ベースの F/S 本格調査が既に実施されている場合については、PPP 事業の実行可能性の予備検討がなされていない場合が多いと推測されるため、PPP Pre-F/S 本格調査前の事前調査段階で、こうした予備検討を行うことが必要になる。
次節では、上記(1)をベースに、事業段階別の調査事項と留意点を、図 3-1 の右側に示すフローに基づいて説明する。
3.3 事業段階別の調査事項と留意点
(1) マスタープラン段階
1) 事前調査
マスタープラン事前調査段階での、PPP 事業に関する調査事項は以下の通りである
(表 3-2 参照)。
(a) PPP 関連制度の把握
PPP に関連する法律や制度としては、BOT 法、個別プロジェクト法・条例、外資関連法、個別セクター関連法、行政財産関連法、入札手続制度、規則、担保法、倒産法、金融関連法・規則、裁判・調停制度、独占禁止法などをあげることがで きる。
事前調査段階でこれら全ての関連制度や法律の内容を把握することは困難であるが、少なくとも、BOT 法など PPP 事業固有の法律やPPP 事業を入札・評価する場合の手続きおよび関連組織の役割は押えておく必要がある。当該分野の担当組織の職員、こうした分野を専門とする大学の教授、日欧米ならびに当該国のコンサルタントに対するヒアリングや情報収集が有効な場合が多い。
(b) セクターリフォームの現状の把握
当該分野における民間活用やセクターリフォームの現状を、上記と同様の方法で把握する。マルチの機関が先行して当該分野のセクターリフォームのシナリオを作成しているかの確認も必要である。その場合、担当機関へのヒアリングや報告書の入手を実施する。セクターリフォームの担当官庁や当該分野の所轄官庁のヒアリングも当然有効である。
(c) 長期債務の返済格付けや長期債務の返済状況の把握
当該国の外貨建て長期債務の返済格付けを、国際的な格付け機関から入手する。また当該国に関する長期債務返済の過去の履歴を財団法人国際金融情報センターなどより入手する。
(d) 過去のPPP 類似事業の実績やプロジェクトファイナンス成立の有無の確認
一般的に BOT 事業等の投資の許認可を担当している官庁が、PPP 事業への過去の投資実績および今後の計画に関してプロジェクトリストを作成して場合が多
い。またそれぞれの分野の所轄官庁も同様のリストを作成している場合が多く、個別の事業内容については、当然こちらのほうが詳しい情報を持っている。上述のコンサルタントやマルチの機関なども情報源として有効である。
また、当該国のプロジェトファイナンスの成立実績に関しては、JBIC 輸銀サイドの当該国担当や国際商業銀行のプロジェクトファイナンス担当へのヒアリングが有効である。
(e) バイやマルチ機関の実績や当該国への援助方針、PPP に対する考え方の整理これらに関する情報収集は、該当する機関の現地事務所へのヒアリングや当該機関発行のPPP 事業に関する発行図書や報告書等で確認する。
(f) 外資参入実績
当該国における、一般的な外資企業の参入とインフラ分野における参入のデータを、外国投資を所轄する官庁などへのヒアリングを通じて、整理しておく。
表 3-2 マスタープラン事前調査での調査事項及び必要資源
ステップ | 必要資源 | 留意点 |
1.M/P 事前調査 | PPP 専門家 | (1) PPP 関連制度の把握 BOT 法、個別プロジェクト法・条例、外資関連法、個別セクター関連法、行政財産関連法、入札手続制度、規則、担保法、倒産法、金融関連法・規則、裁判・調停制度、独占禁止法など (2) 当該国の当該分野における民間活用やセクター改革の現状 (3) 当該国の長期債務の返済格付け (4) 過去の PPP 事業の実績、PF成立案件(事業内容、ファイナンスストラクチャー、参加プレーヤー、金融機関など) (5) バイやマルチ機関の実績、当該国に対する援助のスタンス、PPP に対する考え方 (6) 外資参入実績(インフラ、その他) |
2) 本格調査
マスタープラン本格調査段階での PPP 事業に関する調査事項は以下の通りである
(表 3-3 参照)。
(a) マスタープランチームとの連携
PPP 事業導入の検討は、事業手法に関する検討であるため、マスタープランから抽出された事業群を PPP の実施可能性の観点から評価することから始まる。
(b) PPP 事業実施の優先順位付け
マスタープランから抽出された事業群については、事業実施に係る優先順位が付され、それに基づき開発のロードマップや第一フェーズのアクションプランが作成される。この際、各事業の実施の難易度について評価が行われるが、PPP 方式での事業化の可能性もそのクライテリアのひとつとなる。
(c) カントリーリスクのヘッジとファイナンススキームの検討
過去に BOT 事業など PPP 事業に類似したインフラ分野のプロジェクトファイナンスが成立していれば、その案件の内容とファイナンスストラクチャーを、当事者へ
第 1 編 総合編
のヒアリング等で理解し、そこで行われているカントリーリスクのヘッジ策とファイナンススキームを分析することが、当該国のカントリーリスクを金融機関側がどう見ているかを理解する上で大いに参考になる。
(d) ODA プロセスとPPP 事業の整合性の検討
PPP の事業形態によっても確認点は異なるが、個別のプロジェクトで PPP 事業形態が想定可能なものに関しては、当該国における ODA プロセスを踏まえ、当該事業の予定実施スケジュールと ODA プロセスとの整合性を検討しておくことが必要である。その際、XXX 要請に係る当該国としてのプライオリティも考慮しておくことが必要である。
(e) PPP 事業としての事業スキームの検討
マスタープラン段階では、個別事業について精緻な投資額や事業運営費の見積りが行われない場合が多いため、a)事業内容やサービス内容の検討、b)官民の役割やリスク分担、c)ODA との整合性、d)ファイナンススキーム、などを検討することになる。ただし、当該プロジェクトの経済性をチェックする意味で、簡易な財務シミュレーションを実施して、PPP 事業としてのおおまかな成立可能性をチェックしておくことが望ましい。
表 3-3 マスタープラン本格調査での調査事項及び必要資源
ステップ | 必要資源 | 留意点 |
2.M/P 本格調査 | (1) ハードコスト、O&M コストの積算専門家 (2) 需要予測の専門家 (3) 事業ストラクチャー構築のための PPP 専門家 (4) ファイナンススキーム検討のためのFinancial Advisor (5) 制度・法律面の専門家 (6) ODA プロセスや制約条件に精通する専門家 | (1) M/P チームとの連携、M/P におけるプライオリティ付け(必要な場合は政府内プライオリティ) (2) カントリーリスクのヘッジとファイナンススキーム (3) PPP 事業としての事業スキーム構築 (4) ODA プロセスとの整合性 |
(2) 従来型F/S 本格調査+PPP Pre-F/S 本格調査段階
1) 事前調査
F/S 事前調査段階での PPP 事業に関する調査事項は以下の通りである(表 3-4 参照)。
(a) マスタープランにおけるPPP の検討の内容把握
マスタープランの本格調査において、PPP の検討がどのレベルまでなされたかを報告者や当事者へのヒアリング等を通じて確認する。特に事業ストラクチャー、プロジェクトの経済性の分析、制度的な実現性のチェックなどが重要な確認事項である。
(b) PPP 関連法律・制度の整理
PPP 事業の承認や公募の手続きに関するフローを作成し、具体的なステップについて確認する。
(c) プロジェクト承認の現状把握
事前調査実施段階では、当該プロジェクトに関する当該国の手続きや承認など
第 1 編 総合編
が進行している可能性があるため、事前調査段階での進捗状況を確認する必要がある。
(d) PPP 事業発注担当組織、関連組織とその役割、問題点の整理
PPP 事業の入札実施に関しては、従来方式と異なる多くの行政事務や作業が発生するため、PPP 入札全体を引っ張って行くリーダーが必要となる。PPP 入札を完遂するためには、この特定個人に相当のPPP に関する専門知識を蓄積する必要がある。こうした人材が当該組織に存在するかあるいは実際の入札準備段階で調達可能であるかを押えておく必要がある。
PPP Pre- F/S とは、PPP 事業の入札準備そのものであるため、入札担当窓口となる組織に適切な人材、予算、権限、関係する組織(入札評価委員会を含む)との連携・連絡・調整体制などが準備されているか、あるいはいつまでに確実に準備されるかを確認する必要がある。問題や障害が存在する場合には、対処方法について検討し、その実施の確実性を確認する必要がある。PPP 入札実行上、当該組織のポジション、役割、人材などに問題点がある場合は、その是正策を本格調査において講じる必要がある。
(e) PPP 事業化の障害、問題点、ODA 側の制約などの整理
担当組織の問題点にとどまらず、当該事業を PPP として事業化する上での現実的な障害や問題点(政治的な介入の可能性も含む)は、事前調査レベルで全て洗い出し、確認後、本格調査において対応策を検討する必要がある。また、 ODA 要請に関する当該政府内での手続きに関して、想定されるPPP 事業のスケジュールとの整合性を確認するなど、ODA 側の条件がPPP 事業化の大きな障害とならないかどうかも確認が必要である。
表 3-4 従来型 F/S+PPP Pre-F/S 事前調査での調査事項及び必要資源
ステップ | 必要資源 | 留意点 |
3.F/S 事前調査 | PPP 専門家 | (1) M/P 本格調査で PPP の検討がどのレベルまでなされたか?(特に事業ストラクチャー、経済性分析、制度的なフィ ージビリティ) (2) PPP 関連法律・制度の整理(特に PPP 事業の承認・公募手続きフロー) (3) PPP 事業発注担当組織、関連組織とその役割、問題点の整理 (4) PPP 事業化の障害、問題点、ODA 側の制約 |
2) 本格調査
F/S+PPP Pre- F/S 本格調査段階での PPP 事業に関する調査事項は以下の通りである(表 3-5 参照)。
(a) F/S 本格調査の内容を踏まえた PPP 事業のフィージビリティ検討
PPP Pre- F/S の実施といっても、事業の内容やコスト積算ならびに需要予測といった検討内容は、従来型の F/S 本格調査と同様のものとなる。但し、コスト積算の精度、需要予測の精度、財務シミュレーションの精度、収益性評価指標設定の妥当性、ファイナンスストラクチャーの妥当性は非常に重視される。こうした検討内容を踏まえて、下記の項目についてPPP Pre- F/S で検討することになる。
• 事業ストラクチャー
第 1 編 総合編
• リスク分析
• プロジェクトエコノミックスの評価(DCF 分析)
• バンカビリティのチェック
• 公的なリスク負担
• 参加プレーヤーと競争性確保の可能性
• 当該国としての VFM、帰着先別便益
• ODA 側のフィージビリティ、タイミング
なお、事業ストラクチャーの構築を行って公募書類等に反映させる必要があるため、官民のリスク分担、公的なリスク負担の内容、料金水準等を確定した上で、同内容を反映した財務シミュレーションを行うことも必要である。
(b) 潜在投資家、金融機関、その他関係者に対するマーケットサウンディングの実施公募準備において最も重要な作業は、想定される事業参加者(潜在的な投資家
(事業者)、金融機関、その他関係者)に対する綿密なマーケットサウンディングを行い、市場において受け入れられる事業条件を事業ストラクチャーや公募条件に反映させることである。その際、xx性を担保するため、サウンディングの方法が特定少数の企業に偏らないよう公開の場を設ける、アンケート方式でサンプル数を多くするなどの工夫が必要である。
(c) xx性および競争性が確保される公募手続きの設計
公募手続きに関しても、xx性と競争性の確保が重要である。xx性の確保に関しては、特定の企業を偏って排除することがないよう、事前資格審査における資格条件のxx性が重要である。また、提案書の評価においても、提案内容と価格の総合評価を行い、提案内容の審査を終了した後に、提案価格を開封する方式(ツーエンベロップ方式)を採用するなど、価格情報を知った上での審査段階での政治的な介入や事務局側の審査評点の修正などが行われないように、xx性を確保できる手続きを設計するよう留意する必要がある。
また、競争性の確保に関しても、マーケットサウンディングの結果に基づいて想定される応募グループ数の予測などを行い、競争性が確保されるコンソーシアムからの応募があることを確認することが重要である。事業によっては、複数の応募コンソーシアムが確保できない場合も想定され。当該国の利益等も勘案して、こうした場合のxxな第三者による評価の仕組みも用意する必要がある。
(d) 事業者選定までの政治リスクの排除とそのリスク顕在化の可能性の確認
途上国の PPP 事業の公募については、過去の BOT 事業でも散見されるように、事業者選定までに特定の応募グループとつながりのある政治家等の影響力の行使が、入札評価委員会や担当事務局に対して行われる場合がある。入札評価委員の人選にあたってのxx性の確保やリスクが顕在化した場合の排除の対応策などを検討しておく必要がある。
(e) 実施可能で漏れのない手続きの設計とドキュメンテーション
公募手続きやスケジュールに関して、民間事業者の準備や対応、政府内の諸手続きに要する時間等も十分考慮し、具体的な内容を想定した手続きのシミュレーションを行って、公募全体のスケジュールを設定する必要がある。また、公募書類は、事業契約書の案も含めて書類全てが契約の一部を構成するため、PPP 事業に関する経験と実績を有する弁護士により作成・精査を行うことが重要である。作成する公募書類は概ね以下の通りである。
• 事前資格審査書類
• 募集要項
• 最低設計基準と性能要求基準・仕様
• 契約書案
• 提案様式一式
• 参考図面・データ
• 参考需要予測
• PPP Pre-F/S 報 告 書
• その他必要書類
表 3-5 従来型 F/S+PPP Pre-F/S 本格調査での調査事項及び必要資源
ステップ | 必要資源 | 留意点 |
6.本格調査 | (1) 事業内容を詰めるテクニカル・コンサルタント (2) ハードコスト、O&M コストの積算専門家 (3) 需要予測の専門家 (4) 事業ストラクチャー構築のための PPP 専門家 (5) ファイナンススキーム検討のための FA (6) 制度・法律面の専門家 (7) ODA プロセスや制約条件に精通する専門家 (8) 契約書案作成に必要な弁護士や入札説明書等の作成に必要な Documentation Specialist | (1) F/S 本格調査の内容を踏まえた PPP 事業のフィージビリティ検討 (2) 潜在投資家、金融機関、関係者に対する綿密なマーケットサウンディングの実施 (3) xx性、競争性が確保される公募手続きの設計 (4) 事業者選定までの政治リスクの排除、可能性 (5) 実施可能で漏れのない手続きとドキュメンテーション |
3.4 その他留意点
(1) PPP 事業と ODA の時系列的展開の整合性
PPP 事業の入札のステップと合わせて考えておかなければならないのが、事業実施までの時系列的な展開と ODA のスケジュールの整合性である。
PPP 事業の対象となるインフラ事業の多くは、施設整備段階に係る初期投資において膨大な資金が必要になる。この投資を民間事業者がすべて負担して事業を行っても、投資負担が重過ぎて、民間が追求するレベルの収益性が確保できない場合が多い。したがって、この部分における途上国政府側のサポートが必要となる(これが PPP と呼ばれる理由の一つである)が、当該政府には自己政府内に資金的な余裕がない場合(このケースが圧倒的に多いが)、XXX 等の外部資金にそうしたサポートの原資を求めることになる。この場合、図 3-2 に示すように、ODA 資金の調達や所定のコンサルタント調達および設計・建設業務の発注などに相当のリードタイムが必要になる。リードタイムを十分確保し、PPP 事業によるインフラサービスの開始を考えると、XXX の要請から 8 年から 9 年が経過してしまう。F/S 調査や PPP Pre-FS 調査の実施を考慮すると、優に 10 年が経過してしまうことになる。
この時間感覚は、PPP 事業に参画を予定する民間事業者や金融機関の時間感覚と大きく
第 1 編 総合編
乖離している。このままでは、民間側は ODA の手続きが確実になってから事業の参画の検討を始め、民間のコミット度合いが確認できない官民パートナーシップの設計になってしまう。XXX が関与する PPP 事業に民間事業者の関心をひきつけるには、こうした ODA手続きの改善(少なくとも民間側の手続きと同水準の迅速化)が必要である。
図 3-2 ODA 資金を伴う PPP 事業の時系列的展開(マニラ高速道路の事例15)
PUBLIC SECTION (C3/R9)
F/S, EIA
Request for ODA by NEDA Approval Process
XXX L/A
Selection of Consultant D/D & Bidding Documents Selection of Contractor Construction
PRIVATE SECTION (R10+R10/C5)
Preparation of Bid Document
NTP
ion Right
Approval of Bid Doc. & CA by NEDA Selection of Concessionaire Financial Close
Design & Construction
Commencement of Operation
Operation
Design sta
ROW
Concess
rt
ROW
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
(2) PPP 事業の全体事業収支
別の要素として考えておかなければいけないのが、PPP 事業を包含する全体事業の収支である。図 3-3 は、大都市圏の都市鉄道運営公社が実施機関(発注者)となり、マストラのコリドー(暫定的なバスウェイと最終的な地下鉄事業)をPPP 方式16で整備する計画の簡単な事業収支予想である。
PPP は官民のパートナーシップであるので、官民の業務面での役割分担はもちろんのこと、都市鉄道事業のように大規模な事業になれば、資金面での分担についても正確に検討し ないと、PPP 事業の成立可能性を検証することができない。
図中の下段の黄色部分が民間事業者により資金手当てされる部分であり、上段の黄色部分が都市鉄道公社から民間事業者へのサービス対価の支払いである。多くの都市鉄道事業は利用者からの料金収入のみでは全体の費用を賄うことができず、政府による何らかの補助が必要である。この事業でも利用者の料金収入では都市鉄道公社の運営費用(民間事業者へのサービス対価の支払を含む)を賄うことができず、補完財源をロードプライシングやTax Incremental Financing (開発利益の租税公課による還元)等に求めることを前提としている。
このように、PPP 事業を考える上で、PPP 事業を包含する全体事業の官民の資金分担を現実的なレベルで検討することが必要になってくる。
15 政府が ODA 資金により建設した区間の運営維持管理と収入を民間事業者に委ねて、ひとつの PPP 事業として経営を行う方式を前提としている。
16 都市鉄道公社が軌道インフラ部分を ODA 資金によって整備し、民間事業者は車両や電機・通信設備等を整備しその保守管理を行い、全体の運営は公社が行い料金収入を得て、そこから民間事業者に上記投資と維持管理に係るサービスの対価を 30 年間にわたって支払う方式を前提としている。
図 3-3 PPP 事業における全体事業収支計画
Availability Payment
To be subsidized
2012
2042
Railway Concessionaire
O&M
Cost 2003
Bus
Operator
Potential Funding Sources for Subsidy;
2010
(1)
(2)
Bus O&M Cost
Road Pricing Tax Incremental Financing
Road W Time
Railway Super- structure
Busway
idening
Bus O&M Cost
Railway Maintenance Cost
Repayment of Superstructure Investment
Fare Revenue
To be subsidized
Availability Payment
Authority O&M Cost
Authority’s Cost Authority’s Revenue
Railway Super- structure
Invest ment
Railway Infra- structure
ODA
ODA
(2) Tax Incremental Financing
Potential Funding Sources for Subsidy;
(1) Road Pricing
Railway Maintenance Cost
Repayment of Superstructure Investment
Railway Concessionaire
ODA
(3) 民間事業者が要求する参画条件
PPP 事業成立のためには、主要なステークホルダーである市民(利用者)・行政・民間事業者 3 者がともにバランスよく利益を受ける構造(3 者のWIN 構造)を構築する必要がある。
図 3-4 PPP 事業における市民・行政・民間 3 者の WIN 構造
良質な公共サービスの実現
良質な公共サービスの実現
適正な利潤の確保
民間
行政
効率的な財政運営
(VFMの確保)
WI
市民
3者のWIN構造
効率的な財政運営
(VFMの確保)
適正な利潤の確保
このうち、市民(利用者)の利益は良質な(かつ適正な価格の)公共サービスの享受であり、公共の利益は効率的な財政運営(VFM の確保)である。一方、民間事業者の利益は適正な利潤の確保であるが、適正な利潤の確保は民間事業者の参画において、必要条件ではあるが十分条件ではない。民間事業者が要求する必要でかつ十分な参画条件とは、以
下の通りである。
1) 収益性(適正な利潤の確保)
2) 合理的なリスク分担
3) 十分なマーケットサウンディングを踏まえた民間の意見や能力の事業条件への反映
1) 収 益 性
民間事業者が要求する収益性に言及する場合、いわゆる民間事業者が要求する投資の収益性と金融機関が求める融資返済に関わる収益性の2種類がある。前者が Project IRR (PIRR)および Equity IRR であり、後者が Loan Life Coverage Ratio (LLCR:融資期間中の元利返済前のフリーキャッシュフローを平均金利で割引いた現在価値を融資額で除した値:返済の確実性を測る指標)および Debt Service Coverage Ratio (DSCR あるいは ADSCR:各年度の元利返済前のフリーキャッシュフローを各年の元利返済額で除した値)である。これら財務的指標の水準は、PPP 事業やリスク負担の内容により異なるが、開発途上国には国としてのリスクが上乗せされるため、一般に要求される収益水準よりも高めであり、以下の水準が目安として用いられる場合が多い。
Project IRR > 投資家の目標水準(リスク込み)>当該プロジェクトの資金調達コスト
Equity IRR > 投資家の目標水準(リスク込み)15%~20%以上
LLCR > 1.2~1.5 以上(ストレステスト後の数値。民間事業者が負担するプロジェクトリスクの内容や金融機関のリスク感覚・プロジェクト習熟度などにより大きなばらつきがある)
DSCR > 1.2~1.5 以 上 ( 同 上 )
当然、需要リスクや料金値上げ等のマーケットリスクを負担するPPP 事業では、上記より高い水準の、「リスク負担に応じたリターン」を民間事業者は要求する。
2) 合理的なリスク負担
第 2 章 2-3 のリスク分担の部分でも述べた通り、リスク分担の大原則は「そのリスクを最も適切に管理できる主体がそのリスクを負担する」というものである。民間が要求するリスク負担の合理性もこの原則を踏襲している。つまり、民間でコントロールができない各種のリスク(不可抗力リスク、技術の陳腐化リスク、行政側も読めないような需要リスクや料金値上げのリスク、インフレリスクなど)は、民間では負担ができないし、行政が設定した予見性のないルールに基づく(行政の裁量が働く余地のある)リスク負担は、負うことができない。
また、PPP 事業に資金を融資する金融機関も、民間事業者以上にこのリスク負担の合理性を求めるため、合理的なリスク負担条件は PPP 事業成立の必須条件となっている。
3) 十分なマーケットサウンディングを踏まえた民間の意見や能力の事業条件への反映
前述の通り、PPP 事業を組み立てる際の必須項目は、綿密で十分なマーケットサウンディングを行い、民間事業者や金融機関など潜在的なPPP 事業の関与者から意見を吸い上げて事業条件に反映させることである。その際の留意点として以下があげられる。
(a) 潜在的な事業参加者を特定する(国内企業、海外企業、インフラファンド、マルチ機関など)。
(b) 民間事業者が持つ能力やノウハウを正確に把握し、要求水準(アウトプット仕様
書)の設定において、その能力やノウハウが十分発揮できるような形の柔軟性を持たせる。
(c) マーケットリスクの負担のバリエーションを提示して、どの程度のリスク負担が民間事業者としての許容限度なのかを正確に把握する。
(d) 政府の公募準備として、どのような準備(宿題)を行えばよいかを把握する(含む、事前資格審査条件、提案書準備期間、評価基準・方法、契約解除時の事由別補償条件、ファイナンスクローズ限度期間など)。
(e) プロジェクトに係わるコスト条件、市場価格水準など。
(f) その他の各種リスク分担条件。
(g) 必要な政府のリスク負担内容など。
(4) 途上国が必要とする支援
途上国政府の立場に立ち、PPP 事業を企画し、xxな入札を経て事業を立ち上げることを考えた場合、途上国政府は次のような支援が必要になると思われる。
前半の 3 つのステップは、JICA の通常の開発調査の範疇でカバーが可能であるが、それ以外の支援に関しては、既存の手段を活用し、その実現には工夫が必要と思われる。
PPP 事業の立ち上げには、非常にxxなノウハウの蓄積(あるいはそうしたノウハウを持った外部アドバイザーを有効的に活用するノウハウ)が途上国の担当セクションに求められるため、開発調査における技術移転だけではそうしたノウハウを蓄積する上ではおのずと限界がある。
従って、通常の開発調査に加えて、途上国政府のPPP 事業に関するキャパシティ・デベロップメントを目的とし、下記のような支援策を組合せて実施する事が PPP 事業実施を促進する上で有効である。また、JBIC の SAF 調査など、補完関係にある手段を組み合わせて、 PPP 事業の実施を支援する可能性も検討する必要がある。
1) 当該政府のPPP プロジェクト実施意向の確認(実施の意思を強固に持っているか)
2) M/P における PPP プロジェクトの抽出・優先順位付け
3) F/S における PPP プロジェクトの具体化
4) PPP Pre-F/S における事業準備
5) レギュラトリーフレームワークの整備
6) セクターリフォームのシナリオ作り、実行支援
7) PPP ユニット創設、キャパシティ・デベロップメント
8) PPP 支援組織の立ち上げ、PPP 実行支援ファンド組み立て
9) 長期専門家派遣
10) 無償援助などその他支援ツールとの組み合わせによる支援
11) 日本における研修
12) マルチメディア教材
第4章 JICA の取組み
1~3 の各章において、PPP の現状や背景、具体的な事例を紹介してきた。では、JICA はPPP
をどのように活動に取り入れる事ができるのだろうか。
4.1 なぜ PPP に取り組むのか
JICA がPPP にどのように取り組むのか具体的な内容に言及する前に、PPP を取り入れることでどのような効果が期待されるのか明確にしておく必要がある。PPP はあくまで公共サービス提供のための一手段にすぎない。PPP の導入自体が目的ではないのである。後述の通り、PPP の導入が目的化してしまうと、結果として全体的な利益が損なわれてしまう危険性がある。
PPP の取り入れによって期待される効果は大きく以下の 2 点ある。
(1) 公共サービスの持続可能性の向上
PPP に期待される効果のうちより重要なのは、「事業の持続可能性の向上」である。PPP は公共サービスの提供に規律を与え、当該公共サービスが持続的に提供される可能性を高める。それは以下のような理由による。
1) 投資規模の適正化
民間事業者は、利潤を求め費用を最小化する。そのため過剰に高規格のインフラ投資が抑制される。インフラ投資はあくまで費用回収が可能な範囲に制限される。このことは公共サービス提供事業が過大な初期投資に耐えられず財務的に破綻する危険性を軽減する。
2) ホスト国政府のコミットメントの強化
ある事業を PPP 方式で実施するためには、ホスト国政府は、当該事業が民間事業者にとって十分妙味のある投資案件となるよう様々な努力を行わなければならない。例えば、政府として可能なリスク軽減策の実施、補助金の拠出などがそれにあたる。これらの施策を契約書に盛り込むことは、ホスト国政府がサービス提供の枠組みを恣意的に変更することを抑制し、当該サービスの安定的な供給に寄与する。
また、料金徴収型の事業では次のような理由も持続可能性の向上に貢献しうる。
3) 料金設定の適正化
PPP 事業において、料金は事業費の回収とユーザーの支払い能力両方を勘案して決定される。どうしても埋められないギャップについては政府が補助金によって補填する。民間事業者、ユーザー、政府がそれぞれ負担可能な水準となるよう、料金が設定される。
(2) 限界的な環境での公共サービスの創発
PPP 事業ではリスクとコストを政府と民間とで分担して負担する。そのことによって、政府・民間共に単独では実施できない、限界的な環境(政府は財源が不足している一方、民間事業者は高リスク・低収益により単独で事業化できない、という状況)での公共サービス提供を可能にする。
これらはいずれも、インフラ整備そのものにとどまらず、インフラを通じて提供されるサービスの向上に寄与する、という点で特徴的である。過去 JICA のインフラ事業(無償、xx含めて)は、とかくハードの整備に重心が置かれていた。日本の優れた土木技術・施工管理能力を活かして、いかに技術的に堅牢なハードを提供するかに関心の重点があったと言える。
第 1 編 総合編
しかし、2003 年度に実施された「社会基盤整備分野における開発援助の経験と展望に関するプロジェクト研究」でも指摘された通り、インフラはあくまでサービスを提供するための一要素である。最終的に重視すべきなのは、インフラを通じて提供されるサービスが人々にきちんと届けられ、開発便益がもたらされることである。従ってハードの整備はその入り口に過ぎず、ハードが適正に運営・運用されて、継続的にサービスが提供される事が重要なのである。
上述の通り、PPP は公共サービスの提供過程に規律をもたらし、サービスの持続性を向上させる。その意味で、PPP は、人々にデリバリーされるサービスを重視するという JICA の新しいインフラへのアプローチを実現する強力なツールであり、JICA がPPP に取り組む目的及び期待される効果はまさにこの点にあるのである。
4.2 JICA の取組み
(1) 個別事業への民間委託の導入
4.1 のような狙いを念頭に置いた上で、JICA は具体的にどのような取組みができるであろうか。
第 3 章では、PPP 事業のフローに沿って、新規の個別事業が実現するまでに JICA がどのような協力が出来るかを考察した。しかし、フローを一瞥して分かる通り、新規の個別事業を実現するには多くの条件をクリアしなければならず、その立ち上げは必ずしも容易ではない。PPP を 4-1 で述べた狙いに活用するため、より簡易なのが、進行中の個別事業での民間委託の導入・拡大である。
第 2 章で見た通り、PPP の形態は多様で民間参加の深度も異なる。最も民間参加の度合いが低く、導入も容易と考えられるのが、単純な業務委託契約である。例えば施設の清掃等があげられる。単純に清掃といっても、これを契約に規定し、きちんと実行することは、インフラの維持管理の観点で非常に効果が高い。道路を例に取れば、側溝がきちんと清掃され排水能力が維持されることで、降水時路面が雨水に覆われるのを防ぎ、路面の劣化防止に多大な効果を発揮する。さらに民間参加の度合いが高く、運営まで含めて委託する、包括的な運営維持管理委託、運営維持管理コンセッション契約も、進行中の個別事業における民間委託としてあげられる。また、既存施設を増強、更新した上で包括的に運営を委託する、RO(Rehabilitate-Own)契約といった形態もある。
JICA は、協力中事業の持続可能性向上のため、こうした個別事業での民間委託の導入・拡大を検討し、またその過程を支援する事ができる。具体的には、以下のような活動が考えられる。
1) 委託業務内容の検討/確定
(a) 民間に強みがある業務内容の括り出し
(b) VFM の推計
2) 委託契約締結の支援
(a) 受託可能な民間業者存在の確認(事業経験・能力/財務負担能力)
(b) 入札図書案の準備
(c) (契約行為に係る)法務・財務アドバイザリーの提供
(d) 入札実施人材の育成
(2) より上流へのPPP の導入
(1)では個別プロジェクトへの導入について考察した。また、第 3 章でも基本的に個別プロジェクト組成までのプロセスを考察した。しかし、個別プロジェクトの成立のみに捉われす
ぎると、セクター全体の中での当該プロジェクトの位置付けを見失いかねない。PPP では何らかの形で政府側に財政負担が生じる。PPP 事業契約を結ぶということは、将来に渡る潜在的な財政支出にコミットすることになる。従って、個別プロジェクトにこだわり過大な財政支出にコミットしてしまうと、プロジェクト以外の部分でのサービス提供に支障をきたしてしまう危険性がある。
このような危険性を避けるため、政府としては、セクターの政策目標(特にサービス提供の範囲、水準、官民分担の将来像)を予め定め、その中での個別プロジェクトの規模、許容される財政支出の額について一定の見通しを持っていなければならない。また、PPP 事業、特に新規の事業は、必ずしも政府の発意のみで開始されるとは限らない。民間事業者が提案、事業申請して開始されるプロジェクトも存在する。その場合にも、上位の政策目標が存在していなければ、申請された事業について、規模・政府側支出の妥当性を判断できない。
従って、PPP をより有効に活用し、持続的なサービス提供に結び付けようとするのであれば、あるセクターの全体を見渡す政策レベルにおいて、既に PPP が事業実施の一手段として戦略的に位置付けられていることが必要なのである。開発調査というスキームを有し、政策作りにかなりの人材・資金を投入できる JICA としては、是非この政策レベルでの PPP の戦略的な導入に貢献するべきである。
また政策レベルでのPPP 導入に取り組むことは、4-1 で述べたPPP 導入に期待される目的、即ち公共サービス提供の持続可能性向上に対して以下のような効果を発揮する。
1) 透明性の確保
関係者に公開、共有された計画に基づき PPP 事業が発注されるため、PPP 事業の実施に係る透明性が確保される。90 年代の民活インフラプロジェクトに見られた混乱の少なくない部分が、社会・経済的な受容性を欠いたことに起因している。このことに鑑みると、政府の計画の下、適正な財務分析を経て各プロジェクトの投資規模、料金体系が定められることは、プロジェクト実施に係る社会・政治的なリスクを低減させ、事業の持続可能性の向上に資する。
2) 政府のコミットメントの確保
上位の計画に政府がコミットすることで、競合プロジェクトが実施されることを抑制し、補完プロジェクトが実施される予見性が高まる。このことは、当該プロジェクトの商業リスクを低減し、プロジェクトの実現可能性・持続性を高める。
具体的に上流での PPP に取り組むためには、現在行われているマスタープラン調査をよりPPP を意識した形で進めることで対応が可能である。詳細な調査項目は第 3 章で挙げた通りであるが、特に重要なのは以下の諸点である。
(a) セクター全体のサービス水準
例えば道路であれば、新設・リハビリを含めニーズが全国的にどのように分布しているかを、まず把握する必要がある。そして把握された全体ニーズにおいて、どこの地域のニーズに、どのような水準のサービスで応えるかという目標を定めなければならない。このサービス水準・提供範囲の決定に当たっては、サービス利用者の費用負担能力及び政府の財政負担能力が制約条件となり、両者の負担能力の中で配分を考えなければならない。明示的に利用料が生じるようなサービス提供においては、特に利用者の負担能力がサービス水準を決定する上で重要となる。
(b) 民間事業者の利用可能性
目標として設定されたサービス水準にどのように官民で分担して応えるかを検討するに先立ち、そもそも実際に当該国でどのような民間事業者が活動しているか、
第 1 編 総合編
もしくは誘致可能かを確認しなければならない。国内の民間事業者が不在である、投資環境があまりにも悪く簡単な優遇措置(免税等)程度では海外からの参加が期待できない、等の理由によりPPP の引き受けてが不在であれば、いかなる計画を立案しても絵に書いた餅になってしまうからである。調査の中でパートナーとなりうる民間事業者へのサウンディング、マーケティング活動を行うことも一案であ る。
(c) 官民の役割分担
決定された全体サービス水準に応えるための官民の分担を概略で決定する。具体的にはプロジェクト毎に、以下の点を踏まえて決定される。
(a) ユーザーの費用負担能力
(b) 利用可能な民間事業者の比較優位
求められているサービス水準を実現・維持しうる最小限の事業額をまず積算し、それと(a)のユーザーの費用負担能力を比べる。その差額が政府に求められる財政負担である。その上で、民間事業者に比較優位があり、パートナーを組んだ方が有利な部分を確定する。この作業を通じて、資金面、事業要素面での官民分担が決定される。
4.3 今後の課題
(1) セクター「経営」に向けた協力の強化
4-2 で述べた通り、JICA としては特にPPP 導入の上流部分に取り組む事が有意義である。その場合、まず、今までのマスタープラン調査にさらに工夫を加える事が求められる。目指すサービス水準を達成し持続させるため、どのように民間とパートナーシップを組むか、そのためにどのような制度・体制の改革を行うのか、政府サイドの資金調達をどのように行うのか、といった部分まで視野を広げて調査の中に組み込まなければならない。つまり、セクター全体を継続的にどのように「経営」していくのかという視点に立ち、時間的に切れ目のないプランを提言する事が必要である。
既存の案件で、このようなセクターワイドの「経営」をどのように行うかという提言を出した事例は、極めて少ない。従って、JICA はまずセクターの「経営」状態を分析し、問題点を抽出するための調査をどのように行うか、というセクターアセスメントのTOR を整備しなければならない。このセクターアセスメントは、ある一国のあるセクターの経営状況を時系列的にモニタリングし、セクター改革や計画がどのように進捗しているかを把握するのにも役立つ。同様の調査は、例えば世銀であれば、インフラ分野のセクターアセスメントとして、Recent Economic Developments in Infrastructure (REDI)を作成している。Web 上でも公開しているので、参考資料として活用することも出来るであろう。
(2) 政府財源の強化
PPP を導入するためには、パートナーとなる民間事業者もさることながら、政府側も負担可能な財源を強化しなければならない。政府負担分の費用を賄う財源としては、税収(一般税収、目的税)、借入金などがある。
既存の調査の中では、プロジェクト経費総額を算出し、その内どれだけの負担額を民間事業者に転嫁するかを加味して、政府負担額をはじくところまでで終了してしまっているものが多い。しかし、問題なのはそこから先であって、政府がどのような方法で、どれだけの財源を調達してくるかの裏付けがなければ、プロジェクト経費はまかなう事ができない。特に、日本が円借款・無償資金協力等を通じて資金面で支援できるのは、インフラの建設までであるため、運営段階まで含めた財源をどのように手当てするかについては、調査の段階で慎重に検討し提言しなければならない。さもなければ、せっかく整備したインフラが適切に
第 1 編 総合編
運営されず、期待した機能が発揮されなくなって、サービス提供の継続性が損なわれてしまう。
税収増による政府財源の強化の方策としては、誰が税金を支払うのかによって、おおまかに原因者負担(道路料金、混雑料、燃料税等)、受益者負担(不動産税等)、一般財源
(消費税)の 3 形態に分類される。どのような条件の下であれば、どのような形態の財源を求める事ができるのかについては、今後さらに検討しなければならないであろう。
次いで借入金による資金調達の強化については、開発調査結果の事業化に力を入れて政府の借入を増額させればよいという単純な話ではなく、政府がいかによりよい条件で借入が出来るかを支援しなければならないということである。アジア通貨危機等を経て、途上国政府は、外国借入がいかにリスクの高いものであるかをよく思い知っている。つまり、借り手である途上国政府にとって、最大のリスクは為替リスクであると認識されているのだ。そのため、最近では外貨建ての借入に対して非常に慎重な政府が少なくなく、融資条件が多少悪くとも内貨建てでの借入を望む途上国政府が少なくない。ドナーが内貨建てで貸し出し為替リスクを取るというケースが存在しないこともないが、極めてまれでる。IDB などでは、現地通貨建てで発行される債券の保証を行うことで当該債権の格付けを向上させ、より有利な条件で(利息が低い、償還期間が長いなど)の借入を実現させる、という取組みがなされており、非常に有効である。
JICA としても、借入による資金調達を単純に円借款に求めるのではなく、より多様なファイナンス手法を提示できるよう努める必要がある。そうでなければ、非円借款供与対象国に対して有効な提言ができなくなってしまう。また、この事とも深く関連するが、非中央政府の主体(地方政府、公社、国営企業等。総称してサブソブリン〔Sub-Sovereign〕と呼ぶ。)の資金調達についても、円借款一本槍では提言がしにくい。今や公共投資の 70%が地方政府によって行われていると言われる。住民により近くニーズを的確に把握して、事業規模を適正に調整しうるとされる地方政府の金融市場へのアクセスを容易にするような協力が求められている。
(3) 実践を通じたノウハウの蓄積
以上 JICA が今後特に取り組むべき課題として、セクター経営の視点の強化、政府財源への提言の多様化を挙げたが、最後に実践を通じてこれらを含む JICA 活動の PPP 事業との関わり方に関するノウハウを蓄積することを課題として指摘したい。蓄積が期待されるノウハウは、以下のもの等が想定される。
1) セクターxxxxxの進め方(TOR、SC メンバー、聞き取り先、団員構成)
2) 運営段階事業の改善のためのPPP 活用法
3) 利用可能な金融ファシリティ
4) 他ドナーとの連携に必要な準備方法
こうしたノウハウの蓄積において有効と考えられる案件の一例としては、都市開発の案件が挙げられる。都市開発と一口に言っても、単純にハードの計画とコスト積算のみを行うマスタープラン調査やフィージビリティ調査ではない。都市で求められる様々な公共的サービスを継続的に提供していくために、サービス水準をどのように設定し、官民でどのように分担するか、資金をどのように調達するか、そのために必要な改革は何でそれをどのようにすすめるか、などについて検討しまた実際にその過程を支援する、都市経営改善プログラムとでも呼ぶことのできるものである。
都市には、運輸交通や情報通信に限っただけでも多様な公共サービス(道路・通信網といったインフラの整備・運営、公共交通手段の提供、地域通信サービスの提供など)が存在している。さらに、都市「経営」となると、これらに限らず、廃棄物処理や住宅提供、商工業の展開、消防・警察等の安全確保、など多様な公共サービスが含まれてくる。これら多
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様なサービスに限られた資金的・人材的キャパシティで応えていくためには、上で述べた ような諸点(サービス水準の決定、官民分担、必要な改革等)について検討することが不可欠となる。こうした検討を通じて、既存事業への PPP の活用や、都市運営全体の中での官民の役割分担、政府側資金の調達方法に関するノウハウを蓄積することができる。また、具体的に都市経営改善の過程を支援する中で、他ドナーとの連携方法や、支援実施に必要な人材についても知見が蓄積されていくであろう。
都市経営のほか、もちろんある一国のセクター改革を支援する事によっても、ノウハウの蓄積は可能である。その場合の「セクター」が、例えば「運輸交通セクター」という包括的な切り出し方になるのか、それとも「道路セクター」という一部限定された形になるのかという、セクターの切り出し方によっても得られる蓄積は異なると考えられる。こうした「セクター」の捉え方についても、実際にセクター改革を支援する中で蓄積がなされていくものと考えられる。セクターの行く末についてある程度の政策的意図を有しているか、そこまで行かなくともセクター改革の必要性を認識している政府があれば、格好のチャンスである。是非そのセクター改革を支援し、JICA としても必要な経験を積むべきであろう。
(4) 総合的アプローチの具現化
政策レベルで PPP に取り組む際には、まず初めにセクター全体での目指すサービス水準を決定する。次いで、その水準を達成するための官民の役割分担を定める。そして想定した民間からの投資をひきつけるために必要な一連の施策(規制緩和、法制度整備、人材育成、金融市場整備、投資環境改善など)が析出される。このように、政策レベルでの取組みは、サービスにターゲットをおき、その実現に向けた網羅的取組みを可能たらしめるものであり、2003 年度に実施された「社会基盤整備分野における開発援助と展望に関するプロジェクト研究」で掲げたプログラム・アプローチを具現化するものである。