家賃債務保証業者 Y は,消費者である賃借人と,住宅の賃貸借契約(以下А原契約Бという)から生ずる賃借人の賃貸人に対する賃料債務等を保証する契約(以下А本件契 約Бという)を締結している。
判例研究
民事判例研究
東北大学民法研究会
家賃債務保証契約の原契約無催告解除権付与条項及び明渡擬制条項差止請求
大阪地判令和元年 6 月 21 日判時 2448 号 99 頁
┦事実】
家賃債務保証業者 Y は,消費者である賃借人と,住宅の賃貸借契約(以下А原契約Бという)から生ずる賃借人の賃貸人に対する賃料債務等を保証する契約(以下А本件契約Бという)を締結している。
適格消費者団体 X は,Y に対し,本件契約条項が消費者契約法 8 条 1 項 3 号又は 10 条によりその効力が否定されるとして,同法 12 条 3 項に基づき,消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止等を求めた。
本件の争点は多岐にわたるため,本評釈では,Y に原契約を無催告解除する権限を付与する趣旨の条項(以下АY 解除権付与条項Бという)及び①賃借人が賃料等の支払を 2 箇月以上怠り,②Y が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下,③電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ,④賃借物件を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき(以下А本件 4 要件Бという)に,賃借人が明示的に異議を述べない限り,賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を Y に付与する条項(以下АY 明渡擬制条項Бという)のみ扱う。
┦判旨】請求一部認容,一部棄却(控訴)
1(1)АY 解除権付与条項は,原契約の特約として位置付けられるものである。 Y 解除権付与条項に基づく Y の解除権が,原契約賃貸人の解除権と同様,賃貸借契約を終了させ,賃借物件を明け渡させるための手段として行使されるものであること,最高裁昭和 43 年判決(最判昭和 43・11・21 民集 22 巻 12 号 2741 頁。筆者注)に判示されるように,不動産賃貸借契約における賃貸人による解除特約について
は,継続的契約の当事者間の信頼関係を基礎とする限定解釈を及ぼすことが一般的であることに鑑みると,Y 解除権付与条項についても,家屋賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であることを基礎とする信頼関係破壊の法理を前提としたものであると理解すべきである。
したがって,Y 解除権付与条項は,原契約賃借人が賃料等及び変動費の支払を賃料 3 箇月分以上怠り,これがため原契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合に限り,Y が無催告で解除権を行使することができる旨を定めた規定であると解するのが相当であ
る。Б
(2)А民法は,契約の解除権をその当事者が行使するものとしており(民法 541条),契約の帰趨については契約当事者のみの自由な意思に基づいて決せられ,第三者からの介入を受けない,というのが一般的な法理として存するものといえ
る。しかし,Y 解除権付与条項は,原契約について,第三者たる Y に,その契約関係を一方的に終了させる権限を与えるものである。よって,Y 解除権付与条項は,民法 541 条又は民法上の一般的な法理と比較して,原契約賃借人の権利を制限するものといえ,また,原契約の債務の履行を怠ることにより,Y から解除権を行使される地位に立たされるという点で,原契約賃借人の義務を加重するものといえる。Б
┴以上によれば,Y 解除権付与条項は,原契約の当事者ではない Y に無催告解
除権を付与するとの点において,消費者契約法 10 条前段の該当性を肯定することができる。Б
(3)А原契約賃借人は,Y 解除権付与条項により,原契約当事者でない Y の判断
によって,原契約が一方的に終了させられるという不利益を受けることとなる。しかし,Y が無催告解除権を行使し得るのは,原契約賃借人が賃料等及び変動費について賃料 3 箇月分以上を滞納し,かつ,これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められない事情が存する場合に限られ
る。Б
┴そうすると,Y 解除権付与条項の行使条件は,一般的な無催告解除特約に比して原契約賃借人にとって格別不利益なものであるとはいえず,無催告解除権が原契約当事者でない Y に付与されたことによる原契約賃借人の不利益は限定的
なものにとどまるものということができる。Б
┴以上に検討したところによれば,Y 解除権付与条項が,消費者契約法 10 条後段に該当するとの X の主張は採用できБない。
2(1)АY 明渡擬制条項は,同条項に定める要件が存するときに,原契約が解除等を理由として終了したか,又は原契約終了の前提となる解除の意思表示が有効であるか否かにかかわらず,原契約を終了させ,〈1〉原契約賃貸人及び Y が賃借物件内に存する動産類を搬出保管することにつき,原契約賃借人において異議を述べない旨,〈2〉〈1〉の搬出の日から 1 箇月以内に引き取らないものについて,原契約賃借人に所有権を放棄させ,これを Y が随意処分することにつき,原契約賃借人において異議を述べない旨,〈3〉〈1〉の搬出に係る動産類の保管料等の費用を原契約賃借人が支払うこととする旨を定めた条項であると解するのが相当である。Б
┴賃貸人の目的物返還請求権が発生するのは,飽くまで賃貸借終了時であり,本件 4 要件は,賃貸借終了原因である解除権を発生させる要件の全部又は一部が発生していることをうかがわせる事情であるとはいえるが,本件 4 要件を全て満たしたからといって,解除権が発生したとも,解除の意思表示の効力が有効に発生したともいえず,原契約賃借人の関与なくして原契約の終了を擬制し,同擬制を前提として賃借物件の返還を事実上受けることを正当化させるものとはいえない。Б
┴㈶異議を述べない㈵という文言の趣旨に,原契約賃借人が,原契約賃貸人及び Y による賃借物件内の動産類の搬出・保管及び随意処分の各措置を受けいれ,拒絶しないことが含まれることは明らかである。Б
┴そして,Y 明渡擬制条項が,原契約自体の終了原因の有無や解除の意思表示
の有効性を問わずに同契約を終了させる趣旨のものであることに照らすと,…いまだ原契約が終了しておらず,原契約賃借人の占有が失われていない場合であっても,Y 等は,…賃借物件内の動産類の搬出・保管を行い得ることとなる。このような行為は,原契約が終了しておらず,いまだ原契約賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で,Y 等が自力で賃借物件に対する原契約賃借人の占有を排除し,原契約賃貸人にその占有を取得させることに他ならず,自力救済行為であって,本件契約の定めいかんにかかわらず,法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて,不法行為に該当す
る。Б
┴Y 明渡擬制条項は,…原契約賃借人が法律上保護された利益を侵害された場合であっても,これを理由とする損害賠償請求をしない旨,すなわち,Y 等による…各措置が本件契約における債務の履行に際してされた原契約賃借人に対す
る不法行為に該当する場合であっても,原契約賃借人にこれを理由とする損害賠償請求権を放棄させる趣旨も含むものと解するのが相当である。Б
┴したがって,Y 明渡擬制条項は,…消費者契約法 8 条 1 項 3 号に該当する条
項であるということができる。Б
(2)АY は,現在,…不特定多数の消費者との間で,Y 明渡擬制条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い,又は行うおそれがあるものと認められる。
そうすると,…Y 明渡擬制条項を含む消費者契約の申込み等の意思表示の差止めを求める X の請求…には理由がある。Б
┦評釈】
一 本判決の意義
本件は,家賃債務保証業者と消費者である賃借人との消費者契約のうちいくつかの条項が消費者契約法 8 条 1 項 3 号及び 10 条に該当しその効力が否定されるとして,適格消費者団体が同法 12 条 3 項に基づき消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を求めた事例である。本判決は,本件契約のうち Y 解除権付与条項の消費者契約法 10 条該当性を否定し,また Y 明渡擬制条項の同法 8条 1 項 3 号該当性を肯定して,後者のみ差止めを認めた。
本判決は,家賃債務保証契約の条項に関し消費者契約法違反による差止めが争われた初めての裁判例として意義を有する。
なお本判決は控訴され,大阪高判令和 3・3・5 では,原判決一部取消(Y 明渡擬制条項),控訴一部棄却(Y 解除権付与条項),附帯控訴棄却という判決がなされた。
二 本判決の検討
1 Y 解除権付与条項について
ⅰ 差止請求における条項の限定解釈
⑴ 従来の学説と裁判例
Y 解除権付与条項につき本判決は,昭和 43 年最判を適用し,支払いを賃料 3箇月分以上怠り,契約を解除するにあたり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情がある場合に Y による無催告解除権行使を認める規定であるとして限定解釈を加えた。その上で,第三者である Y に一方的に契約の解除権を与える点が民法 541 又は民法の一般的な法理と比較して原契約賃借人の義務を加重するとして,消費者契約法 10 条前段該当性を肯定した。しかし,Y解除権行使が当該条項の要件を満たす場合に限られることを理由に原契約賃借人の不利益は限定的であるとして,消費者契約法 10 条後段該当性を否定した。
家賃債務保証契約において無催告解除権を付与する条項が消費者契約法 10 条に反するとして,同法 12 条 3 項に基づく差止めを請求した先例は,最高裁下級審ともに見当たらない。しかし,本判決と同様に差止請求における条項の限定解釈が問題となった先例として東京高判平成 30・11・28 判時 2425 号 20 頁(限定解釈を肯定),本判決後の裁判例として東京高判令和 2・11・5 消費者法ニュース 127号 190 頁(限定解釈を否定)がある。
平成 30 年東京高判では,А当社は,この約款を変更することがあります。この
場合には,料金その他の提供条件は,変更後の約款によりますБとの条項につき,消費者契約法 12 条 3 項に基づく差止めが求められた。同判決は,А約款の文言について合理的な限定解釈を加えることは認められるべきБであるとして,消費者契約法 10 条該当性を否定した。
令和 2 年東京高判では,А当社が合理的に判断した場合Бに事業者に会員のサービスの利用停止権や会員資格の剥奪を認める条項につき,消費者契約法 12 条 3 項に基づく差止めが求められた。同判決は,А事業者は,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が,その解釈
について疑義が生じない明確なもので,かつ,消費者にとって平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っているのであって…,事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で,消費者契約の条項に文言を補い限定解釈をするということは,同項の趣旨に照らし,極力控えるのが相当であるБと判示して,消費
者契約法 8 条 1 項 1 号及び 3 号該当性を肯定した。
このように下級審裁判例は,消費者契約法 12 条 3 項に基づく差止請求において条項の限定解釈の是非につき見解が分かれている。ただし,令和 2 年東京高判が平成 30 年東京高判についてА約款の変更は一定の合理的な範囲においてのみ許されるという一般的な法理が存在することを前提として,…条項がその法理と同旨のものと解釈することができるとしたものにすぎず,差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が著しく明確性を欠く場合一般について判示したものではないБとしていることから,両判決は矛盾しないとする見解がある(1)。
また学説では,消費者契約法 12 条 3 項の差止訴訟につき,制限解釈された条項はその制限された内容で有効となり,適格消費者団体は敗訴の憂き目をみ,誤解を招く透明度の低い表現をもつ契約条項が引き続き使用されるから,契約条項の制限解釈には慎重な態度が要請される(2)とするものがある。
⑵ 判旨の評価
Y 解除権付与条項につき限定解釈を加えた本判決は,結論のみを比較すれば,平成 30 年東京高判に親和的であり令和 2 年東京高判と矛盾するようにみえる。しかし,本判決と他の判決とでは,限定解釈の性質が異なると思われる。すなわち,平成 30 年東京高判及び令和 2 年東京高判では,事業者側が無限に解釈しうるブラックボックスのような契約条項に対する限定解釈が問題とされた。一方,本判決では,昭和 43 年最判に判示された限定解釈を及ぼすか否か,すなわち契約条項に記載のない判例法理の適用の有無が問題とされたにすぎない。そして,本判決は,契約条項には特段の事情のない限り判例法理が常に適用されると解したと考えられる。そうだとすれば,本判決は,Y 解除権付与条項の解釈が常に一つ(契約条項への記載の有無にかかわらず判例法理が常に適用される)となるから,他の判決と事案が異なり矛盾しない。
また学説では,本判決が Y 解除権付与条項に限定解釈を加えた点につきА強
行的法理による修正を要すること自体,…不当性の証左であるのに,修正される
(1) xxxxX判批Бリマークス(下)63 号(2021 年)24 頁。
(2) xxxX適格消費者団体による差止請求Б法時 83 巻 8 号(2011 年)33┡34 頁。
から問題なしとするのは,論理が逆である┵(3)及びА消費者契約法の趣旨に鑑みると,一般消費者が条項の文言からは到底読み取ることのできない先例を加えて解釈をする本判決の解釈そのものに問題がある┵(4)といった批判がある。
たしかに,判例法理の適用によって限定解釈をする必要のある契約条項は,消
費者にとってやや不親切であるように思われる。しかし,不明確な契約条項の限定解釈は,約款解釈の一つとして従来の学説及び裁判例によって認められている(5)。また,本判決より判例法理は排除する意思がない限り常に適用されると解され,逆に,判例法理をすべて記載しなければ不当条項になるとすると,事業者が判例法理を見落とした場合や判例の変更に直ちに対応しない場合,消費者は不当な契約条項を含む不安定な契約状態を強いられることになる。そのため,限定解釈を加え判例法理を適用させることをもって不当と解することは,早急であるように思われる。
ⅱ 差止請求における消費者契約法 10 条該当性
⑴ 従来の学説と裁判例
本判決では,消費者契約法 12 条 3 項に基づく差止請求において同法 10 条該当性が判断された。消費者契約法 10 条該当性判断は,同法 12 条 3 項の差止請求に依拠するかにつき,関連する裁判例として本判決後に公表された上述令和 2 年東京高判がある。
令和 2 年東京高判は,А差止訴訟の対象とされた条項の文言から読み取ること
ができる意味内容が,著しく明確性を欠き,…複数の解釈の可能性が認められる場合において,事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど,当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは,法(消費者契約法。筆者注)12 条 3 項の適用上,当該条項は不当条項法(8 条から 10 条までに規定する消費者契約の条項。筆者注)に該当するБと判示した。
また学説では,消費者契約法 10 条及び 12 条 3 項の関係性につき二つの異なる
見解が存在する。一つ目として,ア)判例において差止めの要件が金銭による損
(3) xxxxА本件判批Бリマークス(下)61 号(2020 年)29 頁。
(4) xxxX本件判批БWLJ 判例コラム 188 号(2019WLJCC033)(2019 年)4 頁。
(5) xx・前掲注(1),24 頁。
害賠償の要件より厳格(6)であることから,消費者契約法 10 条該当性判断も,ある契約条項を用いた契約の申込み等を差止めるときは,ある契約条項を無効とするときより厳格になる(7)とする学説がある。この学説に基づけば,消費者契約法 12 条 3 項の差止請求では差止請求であるが故に,当該条項は有効とされやすくなると考えられる。
二つ目として,イ)無催告失効条項の議論の中で消費者契約法 12 条 3 項の差止請求は,個別的な実務対応はもちろん,個別事案を超えた一般的実務対応も顧慮せずに差止めを認めるとする学説がある。この学説は,条項外実務を考慮に入れて条項を有効とし差止請求が棄却されると,当該条項はそのまま温存され,差止判決を契機として一般的実務対応を適切な範囲で条項面に反映するよう促すという,条項差止請求制度に期待される重要な機能が発揮できないことを理由とする(8)。この学説に基づけば,消費者契約法 12 条 3 項の差止請求では個別事情及び一般的実務対応が考慮されないため,当該条項は無効とされやすくなると考えられる。
⑵ 判旨の評価
本判決は,差止訴訟であることに特に言及していないものの,差止請求の特殊性を踏まえた上述ア)の学説に基づき,Y 解除権付与条項の消費者契約法 10 条該当性を否定したと考えられる。つまり本判決は,契約条項の差止めに厳格な要件を要求しており,契約条項に一定の合理性がある以上,たとえ濫用のおそれがあっても適法に解する余地がある場合,それをできる限り有効と認める立場にあると思われる。そして,Y が解除権をもつことに一定の合理性がある以上,Y解除権付与条項を認めるべきと解したと考えられる。
ただし,濫用のおそれと適法に解する余地との配分がどの程度であれば契約条項が有効と判断されるかは,本判決から明らかではない。少なくとも,濫用のおそれがあれば常に契約条項を有効とする趣旨ではなく,濫用の危険性が現実に少
(6) 最判昭和 61・6・11 民集 40 巻 4 号 872 頁,最判平成 7・7・7 民集 49 巻 7 号 1870 頁。
(7) xxxxxА消費者契約法 10 条による無効判断の方法Бxxxxほか編㈶xxxx先生古希記念論文集 民法のxx㈵(2014 年)389 頁。
(8) xxxА契約条項の内容規制における具体的・抽象的審査と事後的審査・事前的審査 Ё生命保険契約における無催告失効条項を検討素材としてXxxxxほか編㈶民事法の現代的課題:xxxx先生還暦記念㈵(2012 年)53┡54 頁。
ないと判断される場合に契約条項を有効とする立場にあると思われる。
なお,本判決と令和 2 年東京高判は,共に複数解釈のある契約条項に対する消費者契約法 12 条 3 項に基づく差止訴訟であったが,結論が異なり矛盾するように見える。しかし,両判決は,上述ⅰ⑵で述べた通り,複数の解釈の余地がある場合(令和 2 年東京高判)と判例法理の適用によって解釈がxx的に定まる場合(本判決)というように限定解釈の性質が異なるため,矛盾するものではないと思われる。
2 Y 明渡擬制条項について
⑴ 従来の裁判例
家賃債務保証契約の明渡擬制条項に関する判例は見当たらないものの,下級審には類似する裁判例がある(家賃債務保証業者による原契約解除前の動産搬出等行為に対する不法行為責任を肯定した事案として東京地判平成 24・9・7 判時 2171 号 72 頁,東京地判平成 28・4・13 判時 2318 号 56 頁,不法行為責任を否定した事案として東京地判平成 29・2・21 D1┡
Xxx.xxx ID: 29045581)。なお平成 29 年東京地判では,傍論ではあるもののАX’
は,Y’に対し,…Y’が要した費用全額を払うと申し入れ,荷物の処分は,X’が悪いから仕方ないと記載した手紙を送付しており…,このことからしても, Y’に対する責任追及は放棄しているとみることができるБと判示され違法性が
阻却されている。
⑵ 判旨の評価
Y 明渡擬制条項につき本判決は,本件 4 要件を満たすことで,原契約が解除等を理由として終了したか,又は原契約終了の前提となる解除の意思表示が有効であるか否かにかかわらず,原契約を終了させ,Y が動産搬出等行為を行う旨を定めた規定であると解した。すなわち,本判決の解釈に基づけば,Y 明渡擬制条項は,その条項の適用により原契約が終了する点で,上述 1 の Y 解除権付与条項と同様の機能をもつ。
しかし,本判決は,Y 解除権付与条項を有効と判示した一方,Y 明渡擬制条項を消費者契約法 8 条 1 項 3 号に該当するとして差止めた。この違いは,それぞれの契約条項に原契約の解除権行使というプロセスが生じるか否かにあると考えられる。すなわち,Y 解除権付与条項は,当該契約条項の要件(賃料 3 箇月分以上
の滞納+あながち不合理とは認められない事情)充足後に,原契約の解除という手続を経て,原契約が終了する。一方,Y 明渡擬制条項は,本件 4 要件による原契約の解除を予定していない。そして,本判決によればА本件 4 要件を全て満たしたからといって,解除権が発生したとも,解除の意思表示の効力が有効に発生したともいえず,原契約賃借人の関与なくして原契約の終了を擬制しБない。
よって,原契約の終了を予定する契約条項には,原契約の解除権行使プロセスが要求されると考えられる。
また本判決は,原契約終了前の家賃債務保証業者による動産搬出等行為が不法行為に当たると解した点で,上述平成 24 年東京地判や平成 28 年東京地判の結論と類似する。不法行為を否定した平成 29 年東京地判が賃借人自ら全額払う旨等を記した手紙が存在する特殊な事案であったことを踏まえれば,裁判所は,家賃債務保証業者による契約終了前の動産搬出等行為を認めない傾向にあり,本判決もそれに従ったと考えられる。
一方,原契約が解除のプロセスを経て適切に終了された場合に,強制執行によらず家賃債務保証業者による動産搬出等行為を認めるとする契約条項の有効性は,本判決からは明らかではなく,有効と解する余地もあるように思われる。
Н本判決の先行評釈として,岡田愛・WLJ 判例コラム 188 号 1 頁(2019WLJCC 033)(2019 年),岡本裕樹・リマークス(下)61 巻 26 頁(2020 年),山里盛文・法と経営学研究所年報 2 号 45 頁(2020 年),谷本圭子・判評 747 号 128 頁(2021 年)がある。
Н本稿は,JSPS 特別研究員奨励費 21J21252 および公益財団法人未延財団の助成を受けたものである。
(岩城円花)