Contract
3 追完請求権
(1)追完請求権
1 追完請求権
引き渡された目的物が種類, 品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの(契約不適合)であるときは, 買 主は, 売主に対し, 目的物の修補, 代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することが出来る (562 条 1 項)。
(1)追完請求権の性質
同条は, 買主の追完請求権を一般的に定めるものであり, 特定物ドグマを否定するものである。すなわち, 不完 全な債務の履行に対して, その追完を求めることが出来るのは買主の当然の権利であり, 寧ろ同条の意義は, かかる追完請求の行使を制限する点にある。
(2)追完請求の制限➀―追完方法の選択の限界
追完方法は原則として買主が選択することが出来るが, 売主にとって不相当な負担となる場合には, 買主が請求 した方法と異なる方法で追完することが出来る(562 条 1 項但書)
(3)追完請求権の制限②-買主の帰責性
追完請求権は, 契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは, 認められない(562 条 2 項)。
2 代金減額請求権
(1)代金減額請求権の性質
契約不適合があった際に, 代金と目的物の等価交換の関係を維持すべく, 買主には代金の減額を請求する形成権 が認められる(563 条)。ただし, 追完請求権の場合と同様, 契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは, 認められない(563 条 3 項)。
(2)行使要件
代金減額請求は, 売買契約の一部解除と同じ機能を有する。すなわち, 契約不適合部分については, 売買契約が 締結されなかったものとして扱われる。そこで, 代金減額請求権の行使は, 解除権の行使とパラレルに構成をすべきである。具体的には, 原則として売主に対する追完の催告を要し(563 条 1 項), 無催告代金減額が認められるのは, 無催告解除と同様の要件を満たす場合のみである(563 条 2 項)。
(3)減額割合の算定基準時
では, 減額割合の算定基準時はいつと解すべきか。この点について, 代金減額の請求をするということは, 引渡 された目的物を受領する意思の表明を意味するから, 引渡し時を基準とするのが適切である。
※追完請求権は, 買主に対して, 追完請求権を一般的に認めるものであり, 特定物ドグマを否定するものであるか ら, 今後法定責任説は採りえない。
【改正後消滅論点】瑕疵担保責任の法的性質
※従来, 旧 570 条の性質を巡って, 法定責任説と契約責任説が対立していた。追完請求権は, 買主 対して, 追完 請求権を一般的 認めるものであり, 特定物ドグマを否定するものであるから, 今後法定責任説は採りえない。
参考, 従来の議論 ついての論証を掲載しておく。第 1 特定物瑕疵があった場合
1 総論
目的物瑕疵があった場合, 買主は売主 対して目的物 隠れた瑕疵があったとして瑕疵担保責任(570 条)を追及できる。同条よれば, ➀目的物 瑕疵があり, ➁その瑕疵が隠れたものであって, ③瑕疵より損害が生じた場合 は買主は売主 その賠償を求めうる。
(1)瑕疵担保責任の性質
特定物が売買契約の目的物である場合, 当該目的物の性質までは債務の内容とならず, その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡せば完全な債務の履行となるとの考え方(特定物ドグマ)がある。しかし, 契約当事者は通常その物の性質までを考慮して契約を締結しているはずであり, 特定物を目的物とする売買契約の場合 だけその物の性質が問題とならないとする合理的理由はない。
そこで, 特定物を目的物とする売買契約 おいても, 債務者は契約時予定された性質を備えた物を提供するという債務を負うものと解するべきである。すなわち, 給付の目的物は当事者の合意 よってその性質を決定するものと解する。この場合, 570 条の規定は, 債務不履行責任の特則として捉えられ, 買主が目的物を受領した以降は 570 条が適用されると考える。なぜなら, 買主が目的物を「受領」した場合, 売主はそれで履行が完了したと期待するのが通常であるため, そうした売主の期待を保護するため 買主の権利を制限したのが 570 条の瑕疵担保責任であると考えられるからである(契約責任説)。
(2)瑕疵の意義
ここで, 契約責任説の立場から, 瑕疵があるといえるため は, ➀性質 関する合意, ➁契約不適合を要する。なお, 「隠れた」という文言は, 瑕疵の判断の際 斟酌されるすぎないものとする65。
(2)瑕疵の基準時
債務不履行の特則と考える以上, 瑕疵は原始的・後発的瑕疵を問わない。
2 完全履行請求の可否
目的物瑕疵がある場合 買主が完全履行請求(代物請求又は修補請求)できるか。これを考える 当たり
570 条の法的性質が問題となる。
瑕疵担保責任基づく完全履行請求はxx 規定がなく思えるので, 瑕疵担保の性質との関係で, 根拠条文が問題となる。
この点, 契約責任説の立場から, 売り主は目的物の性質として瑕疵のない目的物を給付する義務を負うので, 瑕疵担保責任としての完全履行請求を行うことができる。これは瑕疵担保責任を定めた 570 条・566 条を根拠条文とし, 566 条所定の効果は例示列挙すぎないものと解する。この場合, かかる請求が認められるため は, ➀売買契約の成立➁「瑕疵」の存在で足りる。
3 損害賠償の範囲
買主は善意であれば売主 対し損害賠償請求ができるところ, 損害賠償の範囲が問題となる。上述の通り, 特定物ドグマを否定すると, 瑕疵の部分は原始的一部不能ではなく債務不履行となり, 契約通りの履行を観念できるため, 瑕疵担保責任は債務不履行責任の特則ということ なる。よって, 契約の有向を前提とする履行利益も賠償範囲含まれること なる。
第 2 不特定物 瑕疵があった場合
(1)不特定物売買でも瑕疵担保責任を追及できるかが問題となる
65 隠れている場合通常その瑕疵があることは性質の合意としてされていないだろうと推認できるということ。
(2)売主の瑕疵担保責任(570 条・566 条)は特定物ドグマを前提とした法定責任説を根拠とした規定である。もっとも, 給付の目的物は合意の問題であるので, 現目的物が存在する必要はないため, 特定物ドグマは排除するべきである。そこで, 給付の目的物は当事者の合意よってその性質を決定するものと解する。この場合, 瑕疵担保責任は当事者間でなされた目的物の性状合意ついて, その合意即した債務の履行ができなかったという問題すぎないから, 債務不履行責任の特則ということなる(契約責任説)。
(3)よって, 不特定物瑕疵があった場合も, 瑕疵担保責任の規定が適用されることとなる。
【改正民法 おけるポイント】
1 契約不適合責任への一本化(瑕疵担保責任の削除)
・売買おいて旧民法の瑕疵担保責任は廃止され, 契約不適合責任となった。新た 「種類又は品質関して契 約内容適合」する仕事の目的物を引き渡す責任が規定された。
2 有償契約への追完請求権 関する規定の準用(改正民法 559 条)
・民法の売買関する規定は, 当事者が互い 対価的意義を有する給付をする有償契約一般 適用されることか ら(改正民法 559 条), 売買の契約不適合責任の規定は請負 も準用される。そのため, 請負おいても売買と同様, 改正民法 おける契約不適合責任は, 債務不履行一般の損害賠償請求のルール 従うことなった。
2 契約不適合責任 おける注文者救済手法の多様化
・契約不適合の状態応じて, ➀追完(修補)請求(改正民法 562 条 1 項), ➁代金減額請求(改正民法 563 条 1 項, 2
項), ③契約の解除(改正民法 564 条, 541 条, 542 条), ④損害賠償請求(改正民法 564 条, 415 条)が認められる。 (1)追完(補修)請求権(改正民法 559 条, 562 条)
・売主が契約の内容適合しない目的物等を引き渡した場合は, 履行が不能である場合等を除き, 買主 は追完 請求権が認められる(改正民法 559 条, 562 条 1 項)。追完の方法 は, 修補が含まれる。
(2)代金減額請求権(改正民法 559 条, 563 条)
売主が契約の内容 適合しない目的物等を引き渡した場合 は, 買主の責め 帰すべき場合を除き, 代金減額請 求権が認められる(改正民法 559 条, 563 条 1 項, 2 項)。
(3)損害賠償請求権(改正民法 559 条, 564 条, 415 条)
・改正民法 415 条 2 項で, 修補請求権 「代えて」損害賠償請求権を行使できる場合(填補賠償請求権を行使する 場合)を列挙している。すなわち, 填補賠償請求ができるのは, ➀履行不能の場合, ➁相手方が明確 履行拒絶した場合, ③契約の解除権が発生した場合等となる。
(4)契約の解除(改正民法 559 条, 564 条, 541 条)
・旧民法 おいて瑕疵担保責任 基づく契約解除をする際 求められる「仕事の目的物瑕疵があり, そのため
契約をした目的を達することができない」(旧民法 570 条本文, 566 条 1 項)という要件は削除され, 追完の催 告期間経過後債務の不履行が「契約及び取引上の社会通念照らして軽微である場合」 は契約解除ができないこととされた(改正民法 564 条, 541 条ただし書)。
・さら, 旧民法(旧民法 543 条ただし書参照)とは異なり, 債務者の責め 帰すべき事由は必要とされていない。
3 注文者 よる権利行使のための通知期間制限 (1)契約不適合責任 おける 1 年間の通知期間
(2)通知期間の起算点(不適合を知ったとき)と権利保存のため必要な「通知」
・不適合 ついての「通知」を行えばよい(改正民法 566 条)。旧民法下では, 権利行使 あたって, 瑕疵(契約不 適合)とそのおおよその原因を把握し損害賠償額等の根拠を示す必要があると考えられていたのと比較して, 注文者の負担が軽減された。
第 6 賃貸借契約