知的財産権の基本的特徴は独占排他権が認知されていることであり,この特徴は,知的財産権に係る技術,製品等を独占的に自己実施,利用し,競合他社の市場参入を障壁を構 築して阻止し,市場の独占を計ることである。しかし,この市場独占の経営戦略は,どのような状況下でも通用する唯一絶対のものではない。絶対優位は,多くの場合期待でき ず,比較優位が現実であるので,次に検討さるべき経営戦略は,ライセンシング戦略である。ライセンシング(Licensing)は自社が保有している知的財産権について...
xx
石田
xx学院大学法学部特別招聘教授
特許ライセンス契約の実務
特集《権利活用》
要 約
昨今,特許ライセンス契約が多様な展開を果たし,その重要性が顕著になっている。そのような中において,イノベーション促進の観点からの課題,特許ライセンス契約に関する実務上の問題,ライセンス契約に関する法的リスクマネジメントの問題も重要視される。
本論においては,このような問題意識を考慮して,特許ライセンス契約の実務に関して,基本,応用,戦略の三分法的思考により概説する。なお,本論においては,中国法を 2 か所において,日本法との比較のため特に取り上げている。
目次
1.はじめに
2.特許ライセンス契約の多様な展開
3.特許ライセンス契約における基本・応用・戦略論
4.特許契約におけるイノベーション促進課題
5.特許ライセンス契約に関する実務的諸問題
5−1 共同研究開発の成果に関する知的財産問題
5−2 特許ライセンス契約における保証問題
5−3 ライセンシーの改良技術の取扱い
5−4 特許実施契約における許諾者の留意事項
6.知的財産活用と法的リスクマネジメント
7.まとめ
ライセンス契約は,当事者の一方(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対して,特許,ノウハウ等ライセンスの対象について,一定の対価(実施料,使用料,利用料)により,ライセンス(実施権,使用権,利用権)を許諾する契約をいう。なお,ライセンス契約の概念図およびキーポイントを表すと次のようになる。
<ライセンス契約概念図>
1.はじめに
知的財産権の基本的特徴は独占排他権が認知されていることであり,この特徴は,知的財産権に係る技術,製品等を独占的に自己実施,利用し,競合他社の市場参入を障壁を構築して阻止し,市場の独占を計ることである。しかし,この市場独占の経営戦略は,どのような状況下でも通用する唯一絶対のものではない。絶対優位は,多くの場合期待できず,比較優位が現実であるので,次に検討さるべき経営戦略は,ライセンシング戦略である。ライセンシング(Licensing)は自社が保有している知的財産権について,自社で当面は活用・実施しないか,または仮に自社で実施していても,その権利が完全無欠ではいこと,または,経営戦略として,絶対優位ではなく,比較優位の方針を採用する場合に,他社に当該知的財産権についてライセンスを許諾し,対価の取得を図る戦略である。
<ライセンス契約のキーポイント>
キーポイント | x x |
当 事 者 | 当事者は誰と誰か? |
対 象 | 対象は何か? |
ライセンス | どのような範囲のライセンスを許諾するのか? |
対 価 | 許諾対価はどれ程か? |
2.特許ライセンス契約の多様な展開
昨今においては,企業経営における知的財産戦略は,企業が取得・保有する各知的財産について,「知的財産を使う」,「経営に資する知財」を理念として,多様な機能・価値評価要素を取捨選択し,具体的なビジネスにマーケティングミックスして適用し,競争優位
確立のための経営戦略として実施することが期待されている。
そして,「あるべき知的財産経営」を各社ごとに検討・整理して,知的財産を,企業経営に実際に,具体的に役に立てる方法論・戦略を検討することが必要不可欠なことと考える。例えば,知的財産権の保有者は,その権利範囲内における技術・製品の実施を独占し,市場における独占性を享有することができるが,この市場独占の経営戦略は,どのような状況下でも通用する唯一絶対のものではないので,企業収益増加機能を考慮して,知的財産ライセンス契約の観点から経営に資する知的財産を検討する。
ライセンス契約は企業経営において重要な位置を占め,ライセンサー側としては,ライセンスの許諾に対する対価を取得することによって,製品の製造・販売等以外の手段による企業収益の増加を図る。
知的財産ライセンス契約は多種多様な知的財産契約の一種類であり,知的財産権ライセンス契約には多種多様の種類が存在する。また,分類方法も一定不変ではなくいろいろの考え方がある。柔軟性,大局観が重要である。なお,特許法上の実施権にはライセンス契約に基づくものの他に,法定実施権,裁定実施権が存在するが本論においてはライセンス契約に基づく実施権について概説する。
(1) 基本的ライセンス契約
ライセンス契約とは,知的財産・知的財産権の実施・使用・利用に関する契約である。具体的には,当事者の一方(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対して,特許,xxxx等ライセンスの対象について,一定の対価(実施料,使用料,利用料)により,ライセンス(実施権,使用権,利用権)を許諾する契約をいう。
(2) サブライセンス
ライセンサーがライセンシーに対し,第三者に対して実施権を許諾する権限を与えている場合,当該第三者に許諾する実施権をサブライセンス(再実施権)という。特許法上は,専用実施権者についてのみ規定がある(第 77条4 項)が,通常実施権者についても特約
(契約)により可能であり,また特許を受ける権利についても許諾することができる。なお,サブライセンス契約は,ライセンサーとライセンシー間の主たるライセンス契約が終了すると,自動的に終了することに留意する必要がある。特に,サブライセンシーは,主た
るライセンス契約が終了した場合の措置について,検討しておく必要がある。
xxxxxxは,ライセンサーの許諾(特約)がなければ,第三者にサブライセンスを許諾することはできないが,一定の条件下での下請は,ライセンシーの実施行為として認められ,ライセンサーの許諾を必要としないとされている。
(3) クロスライセンス
特許権者等許諾者から実施権を得るには,実施料を支払うのが通常であるが,これに代えて自社保有権利の実施権を許諾することがある。これをクロスライセンス(相互実施権)という。従来は権利者からの一方的なライセンスが主流であったが,革新的な技術開発が困難で,一分野に多くの会社の権利が錯綜している昨今においては,クロスライセンスが増加しつつあり,その重要度も増している。なお,xxxxxxxxは無償とは限らず,不足分が生じた場合は,当事者のどちらかが対価を支払うことになる。
クロスライセンスの形態が発展したものにパテントプールと呼ばれ,複数当事者が保有権利を持ち寄り共同所有者となるものであるが,形態によっては,独占禁止法上の問題を生じる場合がある。
(4) 黙示のライセンス
特許実施契約において当事者間には明示の意思表示はないが,実施権付与の意思が推定される場合のように,明示によらない実施権を黙示的実施権と呼んでいる。
例えば,権利者が実施行為に該当する業務を他の者に委託した場合,その他の者には黙示のライセンスが与えられていると解釈される。なお,方法の特許,物の特許で保護された製品を,正当な権利者が,製造,販売し,それを購入した者は,その製品を使用したり,修理したりする場合に,黙示のライセンスが与えられたと解釈する場合もある。しかし,黙示のxxxxxが与えられたと解しうるか否かは当該契約の趣旨,その他の関連事項を総合的に考慮して個別に検討すべきであり,一概には決し得ないので,より明確な対応が期待される。
黙示的実施権が認定できるためには,諸々の判断基準が存在する。例えば,解釈上の疑義が,確立された解釈基準により容易に除去することができる場合等であり,それ以外については,契約書内容の明確化が課題である。
(5) 実施権者の改良発明のグラントバックライセンス
特許等実施契約(ライセンス契約)の実務において,許諾者(ライセンサー)は実施権者(ライセンシー)に対して,種々の意図により,種々の拘束条項を要求することがある。例えば,ライセンシーの改良発明等に対する取扱い方法についての要求例として,①非独占ライセンスのグラントバック:改良発明についてライセンサーに非独占ライセンスを許諾する,②独占ライセンスのグラントバック:改良発明についてライセンサーに独占ライセンスを許諾する等である。
3.特許ライセンス契約における基本・応用・戦略論
ライセンス契約の実際においては,ライセンサーとxxxxxxの考え方は,立場の違いにより顕著な差異があるのが一般的である。ライセンス契約は,ライセンスを許諾する側とライセンスを取得する側の希望,主張の合致によって成立し,履行されるのであり,したがって,ライセンス契約締結交渉および締結後の履行において争点となる事項に適切に対応することによって,今日的知的財産戦略の実効性が期待できる。そして,ライセンス契約実務への対応においては,基本・応用・戦略レベルにフェーズを考慮し,文書業務・法律業務・戦略業務を考慮して対応することが期待される。なお,契約書の作成は,「書く」のではなく「戦略的に作る」観点であろう。
(1) 基本:法的根拠,原則…この欠如は知的財産契約の業務の緒に着けない。
(例)専用実施権は,設定登録により効力が発生する(特許法第 98 条)。特許を受ける権利が共有の場合は,全共有者共同でなければ特許出願ができない(特許法第 38 条)。共有特許については,共有者の同意がなければライセンス許諾はできない
(特許法第 73条3 項)。
(2) 応用:明示的な法的根拠がない場合,解釈で可能な範囲で契約自由の原則に従って対応する。…この欠如は,方針,契約の構成が組立たない。
(例)特許法第 77条4 項の専用実施権者の場合と比較して,特許法第 78 条には通常実施権者は許諾者の承諾がなければ再実施権を許諾することはできない旨の禁止規定はないが,解釈上当然に承諾が必要である。
(3) 戦略:法に基づく特約,法に規定がなくかつ契
約自由の原則の範囲内でかつ Win-Win の範囲内で方針を考慮し,総合政策的かつ競争戦略も考慮した考え方…この欠如は,経営戦略として役に立たない。
(例)例えば,共同研究開発の成果について当事者で,特許出願かノウハウキープかについて協議を行う場合においては,①コストパフォーマンス,
②陳腐化のスピード,③特許性−広さ,強さで判断する。また,ライセンス契約は,単純ライセンスかクロスライセンスにするか等。
4.特許契約におけるイノベーション促進課題
昨今,我が国の国際競争力,企業の持続的発展のために一層のイノベーション促進の必要性が多様に指摘されている。イノベーションは,知的財産及びその戦略的活用に下支えされて実効性が期待できる。知的財産の戦略的活用においては,特許実施契約が重要な機能・役割を果たす。従って,イノベーション促進の観点から,特許実施契約の活性化の重要性が指摘されるが,特許実施契約の制度上,運用上においては種々の課題が存在する。
特許実施権制度の制度設計,制度運用における基本的考え方は,イノベーションを積極的に促進する対応であるべきであり,特許実施権制度及びその運用としての特許実施契約においては,イノベーションの促進に直接・間接に反する対応でないことが期待される。イノベーション促進の観点から存在する課題が改善され,特許実施契約の活性化が図られ,イノベーション促進効果を発揮する対応が期待される。
特許の実施は実施契約に基づいて行われる場合がある中で,実施契約においてはイノベーション促進の観点から種々の課題が存在する。以下においては,共有特許権の第三者への実施許諾問題,公共の利益のための裁定実施権問題,xxxxx拒絶違法性判断に基づく実施許諾問題について概説する。
(1) 共有特許権の第三者への実施許諾問題
共有特許権に関して特許法第 73条3 項は,「共有者の同意がなければ」単独では第三者に実施権を許諾することはできない旨規定している。なお,中国においては,単独実施許諾を禁止する約定がない限り,第三者に単独で実施許諾することができ,日本と中国は,いわゆるデフォルトの逆置きである。このデフォルトの逆置きは,形式的には大差はないが,運用面で大変
重要な差異であり,国のイノベーション促進に大きく関わる問題・課題であるとの指摘もあり,例えば,産学間の共同研究開発においては,特許を共有化する段階で,「…契約で別段の定め…」,「…他の共有者の同意
…」について約定することが期待される。
(2) 公共の利益のための裁定実施権
特許法第 93 条は,公共の利益のための通常実施権の設定の裁定に関し,「特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは,その特許発明の実施をしようとする者は,特許権者又は専用実施権者に対し,通常実施権の許諾について協議を求めることができる。」(1 項)「前項の協議が成立せず又は協議をすることができないときは,…経済産業大臣の裁定を請求することができる。」(2 項)と規定している。その場合,「公共の利益のため特に必要があるとき」とはどのような場合か,例えば,技術標準に関するライセンシング問題はどうか,裁定手続はいかにあるべきか等がイノベーション促進の実効性発揮の観点から重要な課題となる。
(3) ライセンス拒絶違法性判断に基づく実施許諾
xx取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」は,「ある技術に権利を有する者が,他の事業者に対し当該技術の利用についてライセンスを行わない行為は,当該権利の行使とみられる行為であり,通常はそれ自体では問題とならない。しかしながら,これらの行為が,知的財産制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,権利の行使とは認められず,一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合には,私的独占に該当することになる。」と述べている。どのような場合が,知的財産制度の趣旨を逸脱し又は同制度の目的に反するかについては,経済,産業の発展への影響,イノベーション促進に寄与するか否かが重要な判断基準であると考えられ,適切な対応が課題である。
5.特許ライセンス契約に関する実務的諸問題
5−1 共同研究開発の成果に関する知的財産問題昨今,我が国の国際競争力,企業の持続的発展のた めに一層のイノベーション促進とそのための戦略的知的財産活用の必要性が多様に指摘されている。イノベーションの促進は,一般的には,オープンイノベーションの観点からの共同研究開発の形で実施されるのが効率的である。特に,産学xxによる共同研究開発
は,イノベーション促進の観点から極めて重要である。大学は,教育基本法により,「…成果を広く社会に提供し,社会の発展に寄与するものとする。」(第 7条 1 項)役割を有する。大学で研究開発された基礎技術成果は,企業と産学連携による実用化共同研究開発を行う等して,産業上利用可能な技術成果として,社会貢献に寄与することが期待される。
共同研究開発の成果として創出される知的財産は,一般的には共有となる。共有知的財産の活用はイノベーション促進上極めて重要であるが,その活用・実施については,制度上,運用上において種々の課題が存在する。
(1) 共同研究開発成果の帰属,権利取得手続き等共同研究開発成果の帰属については,技術的課題の 設定と課題の解決という形で象徴的に整理される。そして,現行特許法第 29条1 項は「産業上利用することができる発明をした者は…その発明について特許を受けることができる。」と規定している。従って,発明者
(自然人)でない者は特許を受ける権利を原始的には持てないことになる。特許法には発明者の定義規定はないが,実質的に課題を解決した者が発明者で,その確認が必要となる。
「特許を受ける権利は,移転することができる。」(特許法第 33条1 項)。従って,共同研究開発の成果の帰属については,仮に単独発明になった場合でも,共同研究開発における役割分担,費用負担,共同研究開発成果の共同評価等を考慮し,一部譲渡をして共有にすることが一般的である。また,特許法は,特許を受ける権利が共有に係わるときは,「各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,その持分を譲渡することができない。」(第 33条3 項),「各共有者は,他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができない。」(第 38 条)と規定している。
(2) 共同研究開発成果の実施
共同研究開発の成果の実施,事業化については,特許法は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,契約で別段の定めをした場合を除き,他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。」と規定している(第 73条2 項)。
従って,産学間の共同研究開発契約においては,共同研究開発の成果として,共有の特許を受ける権利,特許権を取得した場合の対応について,共同研究開発契約締結の段階で,共同研究開発の趣旨,当事者の立
場の特性・相異等,特に,大学側としては,一般的に事業化対応がないため,共同研究開発契約に特約について明確に規定しておくことが望まれる。
なお,事業化について,原則的な事項だけでなく詳細事項についても規定することが望まれる。例えば,共同発明である場合,単独発明である場合ごとに,事業化について詳細事項について規定しておくことが望ましい。要は,特許法の原則と特約について明確に判断,対処しておくべきである。
(3) 共有特許権の第三者への実施許諾
共有特許権に関して日本の特許法第 73条3 項は,
「共有者の同意がなければ」第三者に実施許諾することはできない旨規定している。共有特許権に関する単独実施許諾権問題である。従って,企業と大学の共同研究開発契約の場合,成果の第三者への実施許諾については,特許法第 73条3 項の原則が基本となるが,特許法の趣旨,我が国における契約実務の慣習を考慮して,共同研究開発契約に特約条件について明確に規定しておくことが望まれる。なお,中国特許法第 15 条においては共有特許権に関して,日本とは異なり,「単独実施許諾を禁止する約定がない限り,第三者に単独で実施許諾することができる。」と規定し,また,単独で第三者に実施許諾した場合の利益配分についても規定している。
中国特許法第 15 条
「①特許出願権又は特許権の共有者は権利の行使に関する約定がある場合,その約定に従う。約定がない場合共有者は,単独で当該特許を実施するか,または他人に当該特許の通常実施権を許諾することができる。他人に当該特許の実施権を許諾する場合,実施料を共有者に分配しなければならない。②前項に規定する場合を除き,共有の特許出願権又は特許権を行使する場合,すべての共有者の同意を得なければならない。」
共有特許権に関して,当事者の一方が単独で第三者に実施権を許諾した場合,又は,共有者の一方が共同研究開発の成果を実施しない場合等については,利益配分について,各自の立場,状況を考慮して適切に対応することが重要である。特に,産学の共同研究開発においては,両者の業態の相違により,不実施補償問題,単独実施許諾権問題等が生じる可能性が多い。従って,契約当事者の方針,合意事項に対する適合性を考慮した対応が必要となる。制度設計論としては,
いわゆるデフォルトの置き方をどうするかである。この問題は,オープンイノベーション下における制度設計における重要な課題の一つである。現行制度下においては,中国はイノベーション促進・知的財産活用を重視し,日本は共有者の信頼関係を重視している。
共同研究開発等により,特許権を共有化する段階で,特許法第 73条2 項,3 項所定の「…契約で別段の定め…」,「…他の共有者の同意…」について可能な限り具体的に約定することが期待される。但し,共有特許権について,実施契約の形式による不実施補償は,リーガルマインドに反する。
5−2 特許ライセンス契約における保証問題
昨今は,技術の高度化,複雑化,プロパテント政策に伴う権利主張の積極化等により,特許の実施事業に関連して特許に関する紛争が生じることが,従来よりも多くなる傾向にあるといえる。このことは,ライセンス契約の対象となっている特許権についても例外ではない。ライセンサーのライセンシーに対する特許保証の問題は,企業戦略,特に企業のリスクマネジメントの観点から極めて重要な問題である。
特許実施契約の履行において,実施権者の許諾特許権の実施行為に対し,第三者から権利行使が行われた場合における許諾者の保証義務は,一般的に大きなリスクを伴う。実施権者による契約通りの実施を妨げる第三者の権利の存在等,特許権の不完全性による許諾特許権の実施が第三者の権利により制限を受けた場合の保証の問題である。
特許実施契約の対象となっている特許権は,一般的には完全無欠(無瑕疵)ではない。特許実施契約の対象となっている特許権の不完全性については,契約自由の原則に基づいて許諾者と実施権者がリスクを適切,妥当に分担することが望まれる。例えば,実施権者に対する許諾者の保証規定の内容については,許諾者が実施権者から取得する対価等を考慮し,また,リスクマネジメントの観点も考慮して妥当な内容で約定する。
ライセンシーに対するライセンサーの保証事項は,
①技術的効果の保証,②許諾特許の有効性,xxxxxxの非公知性の保証,③第三者権利非侵害性の保証等がある。ライセンシーによる契約通りの実施を妨げる第三者の権利の存在等特許の不完全性による許諾特許の実施が第三者の権利により制限を受けない保証,
また,xxxxが契約の予期した技術的実施可能性
(特に技術的効果)を欠く場合又はライセンス契約締結後の拒絶査定,特許無効の確定等の特許の欠陥(瑕疵)に対する保証の問題である。特に特許,契約面からのリーガルリスクマネジメントが重要である。なお,2002 年 1 月 1 日より施行された中国の「技術輸出入管理条例」における,許諾者の保証責任と損害賠償義務の規定(24 条,25 条)は,ある意味において特許実施契約における瑕疵担保規定の基本的内容ではあるが,特許実施契約における許諾者の保証義務(強行法規)について,許諾者は実施権者に対して許諾特許権の有効性等について保証し,第三者の合法的権利行使に対して保証義務があるといわれており,この保証義務は,手続的,経済的に大きなリスクである。
第 24 条:技術輸入契約の供与側は,自らがその供与する技術の合法的な所有者または譲渡もしくは許諾の権利を有する者であることを保証しなければならない。技術輸入契約の受入側が供与側の供与した技術を契約の定めに従って使用し,第三者から権利侵害の訴えを提起された場合,受入側は,供与側にただちに通知しなければならない。供与側は,通知を受けた後,受入側に協力して障害を排除しなければならない。技術輸入契約の受入側が供与側の供与した技術を契約の定めに従って使用し,第三者の合法的権益を侵害した場合,供与側が責任を負う。
第 25 条:技術輸入契約の供与側は,その供与する技術が完全で,瑕疵がなく,有効であり,契約に定めた技術目標を達成できることを保証しなければならない。
(1) 許諾特許の不完全性と欠陥(瑕疵)
① 特許の不完全性
ライセンシーによる契約通りの実施を妨げる第三者の権利の存在等。なお,xxxxxxが許諾特許に関し,ライセンス許諾権限を有しない場合(共有特許に関し,共有者の同意を得ていない場合を含む)は除外して検討する。
② 特許の欠陥(瑕疵)
xxxxが契約の予期した技術的実施可能性(特に技術的効果)を欠く場合またはライセンス契約締結後の拒絶査定,特許無効の確定
(2) 特許保証事項
① 許諾特許の実施が第三者の権利により制限を受けない保証
この問題は,特許保証問題で最も重要な問題である。特許出願審査経過等を含め,第三者の関係特許の存在の適切な事前調査が前提となる。その事前調査結果のライセンシーに対する説明責任も重要である。
② 特許の欠陥(瑕疵)に対する保証
技術的実施可能性(特に技術的効果)は一般論としては,ノウハウライセンス契約の場合と異なり,ライセンシーの事前判断がより重要であろう。ただし,xxxxの特許性,無効性についてはライセンサーは,特許出願の審査経過等を考慮して,ライセンシーに適切に説明することが重要である。
(3) 企業戦略的特許保証の考え方
① 当該ライセンス契約は,一方勝ちではいけない。また,ライセンサー,ライセンシー共に契約目的を十分に達成したいのが大前提である。従って,リスクマネジメントの観点から事前調査,説明責任,自己責任等,総合政策的配慮が重要である。なお,技術・特許は広く利用され,産業の発展に寄与することが望まれる。
一方技術開発,特許取得のインセンティブは尊重されるべきである。技術・特許の保有者のライセンス許諾意思を,必要以上に低下させるような特許保証は,一般論としては好ましくない。勿論,ライセンス契約の内容はフェアーであるべきである。
② リーガルリスクマネジメント
特に,xxxxxxにとっては,自己の企業戦略に基づいて,経営資源たる特許の活用を図るのがライセンス契約であるので,契約締結の結果,損害を負担するわけにはいかないのが大前提である。リーガルリスクマネジメント,特に特許,契約面からのリーガルリスクマネジメントが重要である。
③ 当該ライセンス契約における個別事情
ライセンス契約の対象となっている特許は,一般的には完全無欠(無瑕疵)ではない。ライセンス契約の対象となっている特許の不完全性については,ライセンサーとxxxxxxがリスクを適切,妥当に分担すべきである。当該ライセンス契約において,ライセンサーとxxxxxxがどのような内容で,どのようにリスクを分担すべきかは,個別事情によって決定されるべきである。例えば,ライセンサーからの積極的ラ
イセンシングであるのか,ライセンシーからの侵害回避のためのライセンス申し込みによるか等,ライセンス契約締結の経緯も考慮されることになろう。
(4) 具体的特許保証内容のあり方
① 手続的保証
許諾特許に関する審判,訴訟についての手続的保証は,その費用負担をライセンサーとし,また第三者の権利の存在によるライセンシーが制限を受ける場合の第三者権利に関する審判,訴訟についての手続的保証は,その費用負担をライセンシーとする等を考慮する。
② 経済的保証
1)対価減額請求権
許諾特許の特許性,有効性に問題がある場合,xxxxxxによる許諾特許の実施は継続するが,許諾特許の評価変えに基づくもので,ライセンサーのライセンス許諾意思のインセンティブと,ライセンス契約内容のフェアネスのバランス対応が重要である。
2)第三者への損害賠償支払金,またはライセンス取得評価の求償権
ライセンシーの許諾特許の実施が,第三者の権利の存在により制限を受ける場合においてライセンサーとしては,最大ライセンシーからの取得対価額+契約締結・管理関係費を保証限度としたい。ただし,ライセンサーの保証姿勢いかんによっては,ライセンサーのライセンシングビジネス全体に対する信用評価を下げることになりかねないので要注意である。
3)支払対価返還請求権
ライセンシーの許諾特許実施行為が,第三者特許を侵害したことに起因する損害賠償請求権,許諾特許の欠陥に対する瑕疵担保責任に基づく保証の問題であるが,ライセンサーの可能な限りの説明責任とxxxxxxの自己責任,リスクマネジメントのバランス対応が重要である。
③ 解約権の行使
ライセンシーの許諾特許実施行為が第三者特許の侵害を回避することができず,かつ,xxxxxxがその特許のライセンスも取得できない場合,当該ライセンス契約の解約も検討される。ただし,ライセンス契約の対象となっている特許が,拒絶査定・特許無効となった場合は別として,単純にライセンス契約を解約することは問題である。該特許の侵害問題を解決して
おく必要がある。
5−3 ライセンシーの改良技術の取扱い
ライセンス契約の実務において,改良技術の取扱いが問題となるのは,主としてライセンスの対象となっている特許,xxxxに関して,ライセンシーが開発,取得した改良技術についてである。
ライセンシーが開発,取得した改良技術の取扱い方法としては,ライセンサーは,ライセンシーに対して,ライセンシーが開発,取得した改良技術についてフィードバック(Feed Back),オプションバック
(Option Back),グラントバック(Grant Back)等を要求することが多い。一方,ライセンシーとしては,自己が開発,取得した改良技術について制約を受けたくないのが通常である。いずれにしても,ライセンサーがライセンシーに対して,フィードバック,グラントバック等を要求する意図は,ライセンシーによる改良技術の原点は,ライセンサーがライセンシーにライセンスした許諾特許,許諾ノウハウにあるので,多かれ少なかれ許諾特許,許諾ノウハウが包含され,寄与しているということにある。要は,知的財産権ライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに課す改良技術等に関する義務条項は,ライセンサーのライセンス許諾意思と強く関係を有する。知的財産権は,有効適切に活用され,自由な競争を促進する機能を有するので,ライセンス契約の活性化が必要不可欠である中で,ライセンサーとしては,ライセンシーの改良技術に関し,ソールライセンス(Sole License)のグラントバック,共有(Co-Ownership)バック,そしてアサインバック(Assign Back)を要求することとしたい。
(1) ライセンス契約と独占禁止法
ライセンス契約は,原則的には契約自由の原則に従って実施されるが,締結,および内容が一定の取引分野における競争を実質的に制限することになり,または公正な競争を阻害するおそれがある場合には,契約自由の原則に反して独禁法が適用されることがある。なお,独禁法第 21 条は「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定しており,知的財産権の権利行使行為は適用除外される。
公正取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁
止法上の指針」は,「ライセンサーにその権利を帰属させる義務,又はライセンサーに独占的ライセンスをする義務を課す行為は,技術市場又は製品市場におけるライセンサーの地位を強化し,また,ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり,また,通常,このような制限を課す合理的理由があるとは認められないので,原則として不公正な取引方法に該当する。」と述べている。
(2) 改良発明等に関するライセンシーの義務条項と独禁法違反性
いずれにしてもライセンス契約における当事者の意思,戦略によって改良発明等の義務条項について大きな論点となる。その例は,下表通りである。
方 法 | 内 容 | 独禁法上の問題 | |
1 | フィードバック | ライセンサーに改良発明 を通知する。 | 問題なし |
2 | オプションバック | 通知した改良発明についてライセンサーにオプション権を与える。 | 問題なし |
3 | 非独占ライセンスのグラントバック | 改良発明についてライセンサーに非独占ライセンスを許諾する。 | 場合によって問題あり |
4 | ソールライセンスのグラントバック | ライセンシーの自己実施権を留保し独占的なライセンスを許諾する。 | 場合によって問題あり |
5 | 独占ライセンスのグラントバック | 改良発明についてライセンサーに独占ライセンスを許諾する。 | 問題あり |
6 | 共有バック | 改良発明(特許)をライセンサーと共有する。 | 場合によって問題あり |
7 | アサインバック | 改良発明(特許)をライセンサーに譲渡する。 | 問題あり |
① 改良発明等の譲渡・独占的ライセンス義務
特許ライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに対して,改良発明,応用発明等についてライセンサーにその権利自体を帰属させる義務又は独占的ライセンスをする義務を課すことは,ライセンサーが特許製品又は当該特許に係る技術の分野における有力な地位を強化することにつながること,又はライセンシーの取得した知識,経験や改良発明等を自ら使用し,若しくは第三者にライセンスをすることが制限されることによってライセンシーの研究開発の意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると考えられ,また,通常,ライセンサーにとって本制限を課す合理的な理由があるとは認められないことから,不公正な取引方法に
該当し,違法となるおそれは強いものと考えられる
(一般指定第 13)。
② 改良発明等の非独占的ライセンス義務
特許ライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに対して,ライセンシーによる改良発明,応用発明等についてライセンサーへの非独占的ライセンスをする義務を課すことは,原則として不公正な取引方法に該当しない。
ただし,ライセンサーがライセンシーに対して,ライセンシーによる改良発明,応用発明等について第三者にライセンスをすることを制限する内容のライセンサーへの非独占的ライセンスをする義務を課すことは,ライセンシーの研究開発意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には,不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般指定第 12 項(拘束条件付取引)に該当)。
③ 取得知識,経験の報告義務
特許ライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに対して,契約対象特許についてライセンシーが取得した知識又は経験をライセンサーに報告する義務を課すことは,原則として不公正な取引方法に該当しない。
5−4 特許実施契約における許諾者の留意事項
特許実施契約の実務においては,許諾者,実施権者それぞれに留意事項が存在する。特に,許諾者は,その留意事項を考慮し,法的リスクマネージメントに配慮した特許権の戦略的活用により,イノベーション促進に繋がる知的財産経営の実効性が期待できる。特許実施契約における許諾者の主要な留意事項を概説する。
企業経営における知的財産戦略は,経営戦略,事業戦略,技術・製品戦略それぞれに練り込んで検討すべきであり,「知的財産戦略先にありき」では,知的財産経営は定着しない。検討,組織作りから知的財産経営の実践へ経営,事業一体で対応する。知的財産経営の設計においては,知的財産制度およびその利用の過程において,法的リスクマネージメントの必要な局面が多様に存在するので,それらに対して適切に対処する。
(1) 許諾者の特許権維持義務
特許実施契約において許諾者は,実施権者に対して許諾特許権の維持義務を基本的義務として有する。許諾特許権の維持には多くのコストを要し,特許権等産
業財産権の方式主義に基づく大きなコストリスクである。ところで,許諾特許権に対して第三者から無効審判 請求が提起された場合には,許諾者としては,その対応として訂正審判の請求を検討することがあるが,訂正審判を請求するには実施権者の承諾が必要である
(特許法第 127 条)。このことは,実施契約履行中に第三者から無効審判請求が提起された場合,実施権者としては許諾対価との関係で,許諾者による許諾特許権の訂正審判請求には承諾したくない場合がありうるので,実施契約締結時に解決しておかないと,大きなリスクとなる。
(2) 第三者の権利侵害排除対応
特許権等知的財産権の本質的,最重要な特徴は排他権である。特許実施契約の適切な維持のために,第三者による許諾特許権の侵害行為に対して,許諾者が侵害排除行為を行う場合には多くのコストを要する。特に,国際的な範囲での権利行使においてはそのことが顕著である。また,権利行使において,相手方が先使用権を主張するような場合には,それに適切に対応するためには大きなリスクを伴う。
さらに,相手方が特許法第 104 条の 3 を根拠に無効の抗弁で対応する場合には,「特許権…の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者…は,相手方に対しその権利を行使することができない。」こともあり,特許権の不安定性で,その対応には大きなリスクを伴う。
(3) 専用実施権の留意事項
我が国の特許法における専用実施権は 3 要素が重要である。すなわち,①登録が効力発生要件であり(第 98 条),②専用実施権者は,その特許権を実施する権利を専有し(第 77条2 項),特許権者も自己実施権を留保できないこと,③専用実施権者にも特許権の侵害者に対して侵害排除権が認められている(第 100 条)ことである。特に,特許権者たる許諾者が自己実施権を留保できないことのリスクは,十分に考慮しなければならない。なお,我が国の専用実施権制度については,国際的実施契約における独占的実施権(Exclusive License)との差異に留意する必要がある。例えば,実施権者たる専用実施権者に侵害排除権があること,許諾者たる特許権者に自己実施権が留保できないことについては,契約当事者間における説明,理解等しっかりした対応が重要な留意点であり,大きなリスクを伴う。
6.知的財産活用と法的リスクマネジメント
知的財産は,企業経営に実際に,具体的に役に立てて初めて評価できる。従って,企業経営においては,知的財産の本質的機能,効用を具体的に発揮させる考え方,手順,戦略が重要視される。そして,具体的には,知的財産の実効性をステディーにステップを踏んでいく手法が最も重要である。昨今は,「知的財産を使う」,「経営に資する知財」を理念にして,知的財産を,企業経営に実際に,具体的に役に立てる方法論・戦略を検討する必要があり,そして,「あるべき知的財産経営」を各社ごとに検討・整理することが必要不可欠なことと考える。そして,知的財産を使って「あるべき知的財産経営」を実行するためには,多様な法的リスクマネージメントが必要になる。
(1) 法的リスクマネージメントの必要性
昨今,企業活動のグローバリゼーション,ボーダレス化が進展する中で,他社の特許等の知的財産についても,十分調査検討を行い,法的リスクマネージメントに配慮する必要がある。また,知的財産問題は,企業経営に直接大きな影響を与えることになる。特に, IT・ネットワーク時代においては,ビジネスモデル特許等が重要な経営資源となるので,他社による自社権利の侵害に対しても留意する必要がある。さらに,知的財産制度及びその利用の過程において,法的リスクマネージメントの必要な局面が多様に存在する。
(2) 知的財産制度利用過程における法的リスクマネージメント
昨今の知的財産関係実務については,「権利を取る」より「権利を使う」ことに重点が移っている。しかも,技術のハイテク化に伴って,技術開発には多額の投資が必要となり,その投資額を回収するためには,他社が自社の知的財産権を侵害している場合,厳しく対応する傾向が強くなっている。いわゆる,プロパテント,すなわち,知的財産重視の時代であり,その基本は,広く,強く,役に立つ知的財産である。そのような中で,知的財産制度及びその利用の過程において,法的リスクマネージメントの必要な局面が多様に存在する。
① 特許法第 104 条の 3
特許法第 104 条の 3 は「特許権…の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者…は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規
定した。現在プロパテント時代といわれている中で,特許権の権利行使については,権利の濫用は許されないが,そのことを公正性の観点から,特許法自体に規定したことは注目され,特許権の行使において要注意である。
② 知的財産権の権利行使と独占禁止法
知的財産法は,経済法的な視点から検討する必要性が高まっているといわれている中で,経済法の中心としての独占禁止法を重視する必要がある。独占禁止法第 21 条は「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定している。ライセンス契約等において,知的財産権法と独占禁止法の問題が重要視される。
独占禁止法は,経済憲法といわれ,技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除する。一定の行為が,独占禁止法の解釈基準により「知的財産制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反する。」と判断される場合には,知的財産権の権利行使行為とは認められず,要注意である。
特許実施契約の実務においては,許諾者が実施権者に対して規制事項の約定を求めることがある。例えば,実施権者の改良発明の許諾者へのアサインバック規制,実施権者が保有する特許権等についての許諾者に対する非係争義務規制等である。
これらの規制約定については,独占禁止法との関係が重要な課題である。許諾者の実施権者に対する規制約定についての知的財産権の保護の趣旨・目的の判断基準が課題である。
③ 保有特許権に対する無効審判の提起
一般的に特許権は完全無欠ではない中で,他者から無効審判の請求が提起される場合を想定する必要がある。他者からの無効審判の請求に対しては,訂正審判を請求して,無効性を訂正する等適切な対応が期待さ
れる。特許権者たるライセンサーが訂正審判を請求するには,ライセンシーの承諾が必要となる(特許法第 127 条)ことを考慮して,ライセンス契約締結時に対象特許について第三者から無効審判の請求が提起された場合の訂正審判請求について対応しておくことが必要となる。
7.まとめ
昨今においては,各企業はその保有する特許等を情報資産として評価し,その情報資産を商品化して,知的財産ビジネス,ライセンシングビジネスを展開し,製品の製造販売以外の方法による企業収益の増加を図ることに注力する傾向にある。この傾向は,経済のソフト化,情報化が一層進展する中において,知的財産,情報資産が取引の対象として一層重要視されていることを示すものである。
昨今特許ライセンス契約が多様に展開しており,特許実施契約におけるイノベーション促進課題が論じられる中で,特許ライセンス契約における基本・応用・戦略論に整理され,特許ライセンス契約に関する実務上の問題に適切に対応して,ライセンス契約に関する法的リスクマネジメント対応を行い,特許ライセンス契約の活性化により,我が国の国際競争力強化,企業の持続的発展の実効性に寄与することを期待する。
【参考文献】
特許実施契約の実務―ノウハウ実施契約を含む契約書詳説―
<改定増補版>野口良光著 石田正泰補訂(一般社団法人発明推進協会)
知的財産契約実務ガイドブック―各種知的財産契約の戦略的考え方と作成―<改訂版>石田正泰著(一般社団法人発明推進協会)
企業経営に資する知的財産−技術力,知財力,人間力で創造する−石田正泰・石井康之著(一般財団法人経済産業調査会)
(原稿受領 2017. 1. 4)