A社の営業部担当者である甲と法務部担当者である乙は、今後B社及びC社のそれぞれに提示する売買基本契約書(Basic Sale and Purchase Agreement)のドラフトを作成すべく、以下の会話をしている。
【選択問題 第1問】
A株式会社(以下、「A社」という)は、事業会社向け会計ソフトウエアの開発を主たる事業としている(資本金5億円)。A社は、労働者派遣事業を主たる事業とするB株式会社(以下、「B社」という)との間で労働者派遣契約を締結し、B社の従業員である甲をA社内において派遣労働に従事させている。甲の業務は、A社の製品である会計ソフトウエアの一部を構成するコンピュータ・プログラムα(以下、「プログラムα」という)の開発である。
C株式会社(以下、「C社」という)は、ソフトウエアの開発を請け負うことを主たる事業としている(資本金 5000 万円)。C社は、A社との間で開発請負契約を締結し、 A社の会計ソフトウエアの一部を構成するコンピュータ・プログラムβ(以下、「プログラムβ」という)の開発を請け負っている。C社の従業員である乙は、プログラムβの開発にあたり、A社の執務フロアの一画をパーティションで区切った執務エリアで A社の開発チームとは独立して開発業務を行っている。
D株式会社(以下、「D社」という)は、A社が販売する会計ソフトウエアのユーザーである。A社がD社向けに会計ソフトウエアをカスタム化するため、D社は、機密保持契約を締結したうえでA社に対して顧客データや取引データ等のD社の機密情報を開示している。
乙は、日曜日に休日出勤を装いA社の執務フロアに立ち入り、A社が管理するD社の機密情報(以下、「本件機密情報」という)を不正に複製、取得し、D社の競合会社にこれを有償で開示した。
(問題)
上記の事例において、以下の設問に答えなさい。
設問(1)
甲が作成したプログラムαが独立した著作物であることを前提として、著作xxの規定に照らし、その著作権はA社またはB社のいずれに帰属するかについて説明しなさい。
設問(2)
乙が作成したプログラムβが独立した著作物であることを前提として、A社は自社にその著作権を帰属させることを意図している。A社は、C社との開発請負契約の内容を定めるにあたって、どのような点に留意しどのような条項を盛り込むべきか、①著作権(xx)の種類、②プログラムβが作成された時点での著作権(xx)の帰属状況、及び③著作権(狭義)の譲渡対価に関する法的観点に照らしてそれぞれ説明しなさい。
設問(3)
本件機密情報が不正競争防止法上の営業秘密に該当することを前提として、乙による本件機密情報の不正な取得及び開示について、D社は、乙に対する損害賠償責任及び乙の雇用主であるC社に対する損害賠償責任の追及に加えて、A社に対する法的責任の追及を検討している。D社は、A社との契約またはその他の法的根拠に基づきA社に対して損害賠償責任を追及することができるかについて、説明しなさい。
【選択問題 第2問】
機械部品メーカーA社は、新しい加工技術の開発に際して開発業務を効率化するために、場当たり的な試行錯誤の無駄をできるだけ少なくしたいと考え、新しい開発手法を検討していた。
そこでシステム開発会社B社に相談したところ、B社から、B社独自のAI(人工知能)技術を活用したシステム開発の提案を受けた。
これは、A社の膨大な過去の開発実績や試行錯誤の履歴などを、B社独自のAIに読み込ませて分析・学習させ、最短距離で最適解を導き出せるようなシステムを開発しようというものである。
そのためB社は、A社に対して、B社システム開発担当者チーム(以下、「B社開発チーム」という)がA社に常駐して、A社技術者と一つのチームを構成して相互に協働・連携してシステム開発を進めていくという、いわゆる「アジャイル型システム開発」 (注)を提案した。
(注) 「アジャイル型システム開発」とは、一般に、最初にシステムの開発仕様の全体を詳細に固めることなく開発作業に着手し、開発の進捗度合いや効果測定を反映しながら、適宜に開発途中でも仕様の変更や追加を行うシステム開発の手法をいう。
多くの場合、発注者側の開発担当者と受注者側の開発担当者が、対等な関係の下で一つのチームを構成することになる。両者は、それぞれの役割や専門性に基づき情報の共有や助言・提案等を行いながら、双方の開発担当者が開発手法や進捗について自律的に判断し、開発業務を進めることを特徴とするとされている。システム全体を大きな単位で捉えずに、小単位の実装と試行、これに伴う改善 を繰り返すことによって、結果として素早く(agile)全体のシステムを開発する
ことができると言われている。
(問題)
上記の事例において、以下の設問に答えなさい。
設問(1)
A社は、B社の提案に同意して、B社とシステム開発の請負契約を締結することになった。
B社は、システム開発業務を請け負う上で、B社開発チームをA社に派遣して常駐させ、A社技術者と共に一つのチームを作って、協働してシステム開発に当たることとなった。B社では、B社開発チームに対して、システム開発を請け負ったことを説明したうえで、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(以下、
「派遣法」という)に基づく派遣労働者として派遣するのではないと説明した。
発注者のA社管理責任者の立場に立って、このようなシステム開発の進め方を行う上でどのような点に気を付けるべきかについて、以下の小問に解答しなさい。
① 派遣法に基づく「労働者派遣」とはどういうものかについて、その定義を説明しなさい。
その上で、自社のシステム開発に際して労働者派遣によって開発者を稼働させる場
合と、民法 632 条の「請負」に基づき請負人の開発者を稼働させる場合の違いについても説明しなさい。
② いわゆる「偽装請負」とはどういうものかについて、説明しなさい。偽装請負ではどのような法的問題が生じる懸念があるのかを、派遣法及びその他の労働関係法令の観点から説明しなさい。
また、発注者と受注者とのシステム開発契約が請負契約であった場合と、委任(準委任)契約であった場合との間で、「偽装請負」に該当するかどうかの評価に際し違いがあるかについても併せて説明しなさい。
③ B社開発チームがA社に常駐して本件開発を行うに際し、派遣法に抵触しないようにするために、A社はどのような点に注意する必要があるかについて、A社管理責任者の立場に立って説明しなさい。
設問(2)
A社管理責任者は、派遣法に抵触しないように、A社技術チームに開発リーダーを置いて、B社開発チームに必要な情報を準備・提供して協議しながら、システム開発業務を進めることとした。
以下の小問に解答しなさい。
① A社技術チームがB社開発チームとの会議や打合せに参加したり、Eメール等のコミュニケーションを行う上で注意すべき点について、偽装請負との疑念を生じさせないという観点から説明しなさい。
② A社管理責任者は、開発リーダーの報告を受けて開発のスピードアップを図るため、 B社に対してB社開発チームの要員強化を求めることとした。具体的な方法としては、 B社開発チームに期待する専門スキルの一覧表を作成して要件やスキルを明らかにし、 B社開発チームへの新規担当者の追加を求めることを検討している。
この場合、A社からB社に対する要請が派遣法に抵触しない適正な要請と判断されるために注意すべき点について、説明しなさい。
【選択問題 第3問】
X株式会社(以下、「X社」という)は、証券取引所に株式を上場している監査役会設置会社であり、X社の 2022 年3月期における経常利益は4億円、期末配当の総額は
7,000 万円である。
X社は、第1順位の株主Y(持株比率 12%)との間で、経営方針について意見が対立していた。そこで、Yは、2022 年4月 20 日、株主提案権を行使し、「取締役8名選任の件」(以下、「第3号議案」という)及び「監査役3名選任の件」(以下、「第4号議案」という)を、2022 年6月 29 日に開催される定時株主総会(以下、「本総会」という)の目的とすることを請求した。
これに対し、X社は、取締役及び監査役全員の任期満了に伴い、Yの提案する候補者とは全て異なる者から成る「取締役8名選任の件」(以下、「第1号議案」という)、「監査役3名選任の件」(以下、「第2号議案」という)を本総会に上程した。
X社は、基準日株主に対し、2022 年6月 13 日、本総会に係る招集通知及び議決権行使書(後記)を発送するとともに、当該基準日株主に対し、6月 16 日、「議決権行使書ご返送のお願い」(後記、以下、「お願い書面」という)と題するはがきを送付した。X社は、本年から初めて、有効に議決権を行使した株主1名につき 500 円分のギフトカー
ド 1 枚を贈呈することとし、議決権行使書及びお願い書面に、その旨が記載された。 Yは、本総会に当り、X社の株主ではない弁護士Zに対し、議決権行使を委任した。
弁護士Zは、本総会当日、Yの代理人として本総会に出席しようとしたところ、X社株主総会担当者から、定款第 15 条(後記)に基づき、本総会への出席を拒否された。
本総会において、各議案の採決がなされ、第1号議案及び第2号議案の全ての取締役及び監査役候補者の得票率が過半数を超えたため、第1号議案及び第2号議案が可決され、第3号議案及び第4号議案は否決された。
(下の候補者を除く)
株主の議決権行使の状況をみると、議決権行使比率は、例年に比較して約 30%増加した。X社は、本総会後、株主 8,000 名に対し、ギフトカード(合計金額 400 万円)を送付した。
議決権行使書 X株式会社御中 私は 2022 年6月 29 日開催の貴社第 20回定時株主総会(継続会又は延会を含 | 株主番号 ○ 議案 | ○○○ 議決権 第1号 議 案 | 行使個数 ○○個 (下の候補者を除く) | 第2号 議 案 | お願い 1.… 2.… 3.… | |
む)における各議案 につき、右記( 賛否を○印で表示)のとおり議決権を行使します。 | 会社提案 | 賛 | 賛 | 4.… 5.有効に議決権行使をした株主様1名につき、ギフトカード1枚 | ||
2022 年 6 月 日 | 否 | 否 | (500 円分)を贈呈いたします。各議案に賛成された方も反対 された方も同様に贈呈いたし | |||
(ご注意) 各議案につき賛否の表示をされない場合は、会社提案については賛、株主提案については否の表示があったものとしてお取り扱いいたします。 X株式会社 | 議案 | 第3号議 案 | (下の候補者を除く) | 第4号議 案 | ま(下す。なお、議決権行使書にの賛候否のご記入が無い場合は、 補議者決権行使書の左記の注意 を書除きにございますように、会社 く提)案に賛成の表示があったものとして取り扱います。 | |
株主提 案 | 賛 | 賛 | X株式会社 | |||
否 | 否 | |||||
株主各位
議決権行使書ご返送のお願い
2022 年6月 16 日
X株式会社
拝啓 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
xx株主総会は、当社の将来に係る重要な総会でございますので、当日ご出席願えない方で、まだ議決権行使書をご返送いただいていない場合には、招集ご通知同封の議決権行使書に賛否をご表
............
示いただき、お早めにご返送いただきたく重ねてお願い申し上げます。議決権を行使していただい
......................
た株主様には、ギフトカードを進呈いたします。
【重要】
..........................................
本件6月開催の株主総会は、当社の将来に係る重要な株主総会となります。是非とも、会社提
.................................
案にご賛同のうえ、議決権を行使していただきたくお願い申し上げます。
敬具
X株式会社定款
第3章 株主総会
(議決権の代理行使)
第 15 条 株主は、当会社の議決権を有する他の株主1名を代理人として、その議決権を行使することができる。
(問題)
上記の事例において、以下の設問に答えなさい。
設問(1)
X社は、弁護士Zに対し、本総会への出席を拒否した(以下、「本件拒否」という)。① X社の定款の適法性、②本件拒否の適法性について、それぞれ法的根拠を示して説明しなさい。
設問(2)
X社は、議決権を行使した株主に対し、1名当たり 500 円のギフトカード1枚を贈呈した(以下、「本件贈呈」という)。本件贈呈の適法性について、議決権行使書及びお願い書面において問題となり得る点を指摘し評価した上、法的根拠を示して説明しなさい。
【選択問題 第4問】
日本の貿易商社であるA社は、米国の全州での市場調査を通じ、機能性に優れる家庭用調理器具の需要が見込めると判断し、X国のB社が製造・販売する家庭用特殊調理器具(以下、「本製品」という)を同社より購入して米国の輸入販売業者であるC社に継続的に販売すること(以下、「本件取引」という)を計画した。A社は、以下を前提に B社及びC社のそれぞれと交渉しているが、各社と合意できる見込みである。
(1)本件取引における本製品は、規格・仕様・取扱説明書を含めB社が約3年前からX国内で製造し販売実績のある製品と同じものとし、取扱説明書の英文への翻訳はC社が担当する。A社は、取扱説明書を含め本製品への表示には関与しない。
(2)本製品は、X国のα港で船積み後、米国のβ港まで直送され、β港での荷揚げを経て、米国内の物流網を通じ、米国の一般消費者に供給される。
(3)A社とB社との間の取引における引渡条件はFOBα港、支払条件はL/C at sight とする。A社とC社との間の取引における引渡条件はCIFβ港、支払条件はB/L Date 後 30 日以内の銀行振込みとする。
(注) FOB及びCIFは、国際商業会議所(International Chamber of Commerce)の Incoterms 2020 に定めるものをいう。α港はX国の港、β港は米国の港とする。
A社の営業部担当者である甲と法務部担当者である乙は、今後B社及びC社のそれぞれに提示する売買基本契約書(Basic Sale and Purchase Agreement)のドラフトを作成すべく、以下の会話をしている。
甲:「本製品は、最終的に製造物責任が厳しい米国の一般消費者に販売されるので、当社が巻き込まれないよう十分気をつけたいと思っている。万一、本製品の欠陥が原因で米国の消費者の生命・身体・財産に損害が出た場合、当社に過失がなくても当社はその消費者に対し米国の製造物責任法に基づく責任を負うだろうか。」
乙:「【空欄①】。」
甲:「当社が製造物責任に関するリスクを事前にできるだけ軽減するにはどうしたらよいか。」
乙:「まず、B社との関係では、契約書上、同社に十分な内容の製造物責任を負わせる必要がある。そのほかにB社との関係で考えられる事前対策としては、【空欄②】。次に、C社との関係で考えられる事前対策としては、【空欄③】。それ以外に考えられる事前対策としては、【空欄④】。」
甲:「この他に心配しているのは、物流でトラブルが生じることだ。X国では物流業者のストライキがよくあり、そのためX国内の物流が大幅に遅延することがある。それから、船積み後の航路は気象条件が厳しい海域を通るので、天候次第で遅延することもままある。基本的には不可抗力なので、こうした場合は当社がC社に対し納期遅延の責任を負うことはないと考えてよいだろうか。」
乙:「【空欄⑤】。」
甲:「B社やC社との間で起こるかもしれない紛争に備えて、紛争が起きたときの解決手段を契約書に定めておく方がよい。紛争の解決手段としてどのようなものがあるか。」
乙:「国際取引における紛争解決手段に関する合意として代表的なものは、ひとつは民事訴訟を前提とした国際裁判管轄の合意、もうひとつは仲裁の合意がある。それぞれ一長一短がある。仲裁の一般的なメリットとしては、仲裁は紛争の特殊性に応じ適任の専門家を仲裁人に選定できること、手続を柔軟に定めることができ、スピーディーな解決を期待できること、紛争の存在や内容を秘密にできることが挙げられる。それ以外に民事訴訟と比較した場合の重要なメリットとしては、【空欄⑥】。ただし、仲裁の場合、仲裁人の報酬は当事者が負担する等、民事訴訟に比べて余分なコストを当事者が負担することになるし、十分な主張・立証が行われないまま仲裁裁定がなされることもあることに注意しなければならない。」
甲:「よくわかった。今までの話も参考に契約書ドラフトを作っていきたいので、協力を頼む。」
(問題)
上記の事例において、以下の設問に答えなさい。
設問(1)
空欄①において乙が甲の質問に対して返答すべき適切な内容を、米国の製造物責任法上の観点、および同法による規制の適用について日本の法令上どのように取り扱われるかという観点から、その理由とともに簡潔に説明しなさい。
設問(2)
空欄②~④において乙が返答すべき適切な内容を簡潔に説明しなさい。
設問(3)
空欄⑤において乙が甲の質問に対して返答すべき適切な内容を、ア)X国での物流業者のストライキによる遅延の場合、イ)船積み後の荒天による遅延の場合のそれぞれに関して、その理由とともに簡潔に説明しなさい。なお、契約書上の準拠法はC社所在地の米国の州法とし、United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods(いわゆるウィーン売買条約)の適用を排除する旨が合意されていることを前提とする。
設問(4)
空欄⑥において乙が返答すべき適切な内容を、その理由とともに簡潔に説明しなさい。