Contract
労働協約締結活動の強化を
高知県医療労働組合連合会
1、労働協約締結と就業規則-労働組合の役割
労基法2条1項は、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」と労働条件決定の原則を高らかにうたっている。
ところが、企業内における労働条件を具体的に規定する就業規則に関して労基法は極めて現実的な規定しか与えていない。即ち、労基法89条で使用者の作成、届出義務を定め、90条で過半数組合等への意見聴取義務を定めているに過ぎない。
なぜ、このような現実的な規定に留まったのか。
1)1つの答えは、歴史的に見ていくことで与えられる。
1911 年(明治 44 年)、工場法制定(施行 1916 年・大正 5 年)。女性・年少労働者=保護職工の保護と労災補償がその内容。就業規則の作成義務なし。
1916 年の工場法の大幅改正。50 人以上の職工を使用する工場主に就業規則の作成義務を課す
(施行令で)。これが、現在の労基法 89 条各号の規定に引き継がれる。これにより以下の法律効果をねらう。
①労働条件の明示。→当時は自分の労働条件をまったく知らないで働いていた。
②使用者に労働者に知らせた就業規則を守らせる。→工場監督官の制度も不十分、労働組合もほとんどない状況下で、法律を監督する機能(企業内に法律に基づく秩序をもたらす機能)を就業規則に期待した。
*「就業規則」の作成義務の規定は、歴史的に大変重要な役割を担っていた。
2)労働組合に就業規則を労働協約に高める役割を期待
①就業規則の作成について労働者に発言の機会は保障しているが、労使の同意は要求していない。
②団結権、団体交渉権を保障しているが、労働協約の締結を労使に強制はしていない。
これらのことは何を意味するのか。当時の法制定者は、就業規則に積極的な役割を期待すると同時に、使用者が一方的につくるという点で不十分さを残す就業規則を労働協約に高め、労使対等決定の原則、理想を実現することは労働組合の役割と考えていたようである。言葉を換えれば無条件の保護ではなく、労働組合に汗をかくことを求めているのである。
2、労働条件の「規制はずし」と労働組合
労働組合が、労働条件の労使対等決定の原則を具体化する上で果たすべき役割については前項で見たとおりであるが、もう 1 つどちらかというと消極的な側面での役割も担わされている。
それは、労基法等で労働条件に関して様々な規制がかけられているが、その規制をはずす際の 安全装置としての役割である(安全衛生委員会の委員推薦権は、もっと積極的な意味があるが)。その代表例が、労基法 36 条の時間外・休日労働協定である。本来 36 協定なしに使用者は、時
間外・休日労働を労働者に命じることはできない。そういう点では、労働組合には、規制をはずさせない「拒否権」が与えられていることになるが、積極的な労働条件の決定にくわえ、この面での権限も十分発揮しているのであろうか。もう一度、その権限を振り返ることで見直しを図る必要があるだろう。
労働法規に規定された過半数組合等の労使協定等の権限一覧
協 定 の 種 類 | 根 拠 法 規 等 |
貯蓄金管理協定 | 労基法 18 条。過半数労働組合または、過半数代表(過半数労働組合等) |
賃金の現物給付 | 労基法 24 条。労働組合との協約 |
賃金控除協定 | 労基法 24 条。過半数労働組合等 |
最長1 ヶ月単位の変形労働時間制を実施する要件としての 労使協定 | 労基法 32 条の 2。過半数労働組 合等 |
フレックスタイム制を導入するための労使協定 | 労基法 32 条の 3。過半数労働組 合等 |
最長 1 年単位の変形労働時間制を導入・実施するための労 使協定 | 労基法 32 条の 4。過半数労働組 合等 |
1 週間単位の変形労働時間制を導入するための労使協定。 | 労基法 32 条の 5。過半数労働組 合等 |
休憩時間の一斉付与原則の免除のための労使協定 | 労基法 34 条 2 項。過半数労働組 合等 |
時間外・休日労働協定 | 労基法 36 条。過半数労働組合等 |
事業場外労働についてみなし労働時間数を決定する労使協定 | 労基法 38 条の 2。過半数労働組合等 |
専門職型の裁量労働制を導入する場合の労使協定 | 労基法 38 条の 3。過半数労働組合等 |
企画業務型裁量労働制の導入条件としての労使委員会の委員の推薦 | 労基法 38 条の 4。過半数労働組合等 |
計画年休制度を導入するための労使協定 | 労基法 39 条 5 項。過半数労働組合等 |
年休日の賃金を標準報酬月額で支払うことができるための労使協定 | 労基法 39 条 6 項。過半数労働組合等 |
就業規則変更、届へにあたって労働者の意見聴取と意見書添付 | 労基法 90 条。過半数労働組合等 |
寄宿舎規則の変更への同意 | 労基法 95 条。過半数労働組合等 |
安全委員会、衛生委員会の委員推薦 | 労衛法 17 条4項。過半数労働組合等 |
安全衛生改善計画作成にあたっての意見聴取 | 労衛法 78 条 2 項。過半数労働組合等 |
育児休業できない労働者の協定 | 育児・介護休業法 6 条。過半数労働組合等 |
労働協約の事業所内拡張適用 | 労組法 17 条。4 分の 3 以上。 |
労働協約の地域的拡張適用 | 労組法 18 条。大部分 |
予蓄金の保全措置=預金保全委員会委員の推薦 | 賃金支払確保法施行規則第 2 条、過半数労働組合等 |
退職手当の保全措置を要しない事業主 | 賃金支払確保法施行規則第 4 条、過半数労働組合等 |
退職手当の保全措置を講ずべき額 | 賃金支払確保法施行規則第 5 条、過半数労働組合等 |