Contract
第5章の2 訪問購入
(定義)
第58条の4 この章及び第58条の24第1項において「訪問購入」とは、物品の購入を業として営む者(以下「購入業者」という。)が営業所等以外の場所において、売買契約の申込みを受け、又は売買契約を締結して行う物品(当該売買契約の相手方の利益を損なうおそれがないと認められる物品又はこの章の規定の適用を受けることとされた場合に流通が著しく害されるおそれがあると認められる物品であつて、政令で定めるものを除く。以下この章、同項及び第67条第1項において同じ。)の購入をいう。
趣 旨
第5章の2では、訪問購入に係る規定を設けているが、本条はその前提としての定義規定である。
解 説
1 本項は、「訪問購入」の定義規定である。
本項は物品の購入を業として営む者が営業所等以外の場所で行う物品の購入を「訪問購入」として定義している。
⑴ 「物品の購入を業として営む者(以下「購入業者」という。)」
「購入業者」とは、物品の購入を業として営む者の意味であり、業として営むとは、営利の意思をもって、反復継続して取引を行うことをいう。なお、営利の意思の有無については、客観的に判断されることとなる。
⑵ 「営業所等以外の場所」
これは、本法の訪問購入に該当する契約の申込み又は締結が行われる場所の範囲を 確定したものである。趣旨としては、通常の店舗とみなし得る場所以外の場所というこ とであり、主務省令では、「営業所」、「代理店」、「露店、屋台店その他これらに類する 店」、上記のほか「一定の期間にわたり、購入する物品の種類を掲示し、当該種類の物 品を購入する場所であつて、店舗に類するもの」及び「自動販売機その他の設備であつ て、当該設備により売買契約又は役務提供契約の締結が行われるものが設置されてい る場所」が通常の店舗とみなし得る場所として規定されている。訪問販売における「営 業所等」と異なるものの、訪問購入における取引及びトラブル実態に鑑みたものである。
(注) 省令第1条第1号の「営業所」とは、商法上登記を必要とする本店、支店のみでなく広く営業の行われる場所をいい、本法においては購入活動を行う場所であるから、通常は店舗ということになる。同じく第2号の「代理店」は、代理商の営業所のことであり、代理商とは、一定の商人のために継続反復してその営業の部類に属する取引の代理又は媒介をする者をいう。同条第3号の「露店」とは路傍等において屋根を設けることなく購入する物品の種類を掲示して購入を行
うもの等をいい、「屋台店」とは持ち運ぶように作った屋根のある台に購入する物品の種類を掲示して購入を行うもの等をいう。また、売買契約の相手方がどの物品を売却するか、物品を売却するか否かを自由に選択できる状態の下で、購入業者が何を購入しようとしているのかが外形上明確であるようにバス、トラックに購入する物品の種類を掲示しているものであれば、「その他これらに類する店」に該当する。
省令第1条第1号から第3号までは、いずれも、長期間にわたり継続して購入 を行うための場所を指すものであるが、同条第5号の「一定の期間にわたり、購 入する物品の種類を掲示し、当該種類の物品を購入する場所であつて、店舗に類 するもの」は、これら以外の比較的短期間に設定されるものを念頭に置いており、
①最低2、3日以上の期間にわたって、②売買契約の相手方がどの物品を売却するか、また物品を売却するか否かを自由に選択できる状態の下で、購入業者が何を購入しようとしているのかが外形上明確であるように購入する物品の種類を掲示しており、③展示場等購入のための固定的施設を備えている場所で購入を行うものをいう。具体的には、通常は店舗と考えられない場所であっても、実態としてはしばしば商品の展示と併せて物品の購入が行われている場所(ホテル、公会堂、体育館、集会所等)で前記3要件を充足する形態で購入が行われていれば、これらも「一定の期間にわたり、購入する物品の種類を掲示し、当該種類の物品を購入する場所であつて、店舗に類するもの」での購入に該当する。
同条第6号の「自動販売機その他の設備であつて、当該設備により売買契約又は役務提供契約の締結が行われるものが設置されている場所」とは、例えば、空き缶等を投入すると代わりに自動的に金銭が出てくるような、設置型の機械を通じて行われる売買契約などについて、これらが訪問購入に該当しないことを明確化した規定である。すなわち、購入業者による勧誘が行われることなく、売買契約の相手方たる一般消費者の意思表示により、自動的に契約締結を行うための手続が開始される設備が設置されている場所である。これらの設備によって物品の購入が行われる場合には、不意打ち性もなく、通常の店舗における購入と同様と考えられる。
⑶ 「売買契約の申込みを受け、又は売買契約を締結して」
これは、購入業者の行う行為の法律的要素を取り上げたものである。「売買契約の申込みを受け」とは、購入業者に申込みをしようとする者が申込みを行う場合のみを指すが、「売買契約を締結して」とは、購入業者が申込みをして相手方がそれを承諾した場合及び相手方の申込みを購入業者が承諾した場合の両方が含まれるのはもちろん、相手方の申込みに対して購入業者が変更を加えた承諾を行い、それを相手方が承諾した場合等も含まれるものであり、両当事者のいずれが申込みをしたかは問わない。訪問販売と同様の考え方である。
なお、購入業者が、営業所等以外の場所において勧誘を行い、外形的に顧客が契約の申込み又は締結に係る手続を購入業者のウェブサイトを介して行うなど情報処理の用に供する機器を利用する方法を用いて行った場合であっても、例えば当該手続が購入業者の指示により勧誘に引き続いて行われるなど、実質的には購入業者にその場で申込みをし又は購入業者とその場で契約を締結したといえるのであれば、訪問購入に該当する。
⑷ 「物品(当該売買契約の相手方の利益を損なうおそれがないと認められる物品又はこの章の規定の適用を受けることとされた場合に流通が著しく害されるおそれがあると認められる物品であつて、政令で定めるものを除く。……)の購入」
本法の対象となる訪問購入は、消費者被害の未然防止をより一層図るため、全ての物品について原則として規制対象とした上で、必要に応じて適用除外を設ける方式を採っている。
「物品」とは、購入業者による取引の対象となる有体物たる動産のことである。このうち、過剰規制を排除するため、また本法の目的である物品の流通の円滑化・適正化を図る観点から取引に無用の混乱を生ぜしめることは避けるべきとの点に鑑み、①「当該売買契約の相手方の利益を損なうおそれがないと認められる物品」又は②「この章の規定の適用を受けることとされた場合に流通が著しく害されるおそれがあると認められる物品」であって、政令で定めるものについては、規制の適用対象から除外されている。次のような物品が政令第 34 条において列挙されており、各物品の範囲及び分類については、原則として日本標準商品分類(平成2年6月、総務庁)に拠っているが、より詳細な具体例は「特定商取引に関する法律施行令第 34 条で規定する物品の具体例」に記載されている。
・ 「家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く。)」及び「家具」
これらの物品は、売買契約の相手方がほぼ毎日使用に供するものであり、売買契約に向けた意思が確定的でないまま契約を締結してしまうおそれがないと考えられることから、①の要件を満たすといえる。なお、「携行が容易」か否かについては、購入業者が当該物品を売買契約の相手方の自宅等から引き取る際に、搬送要員等特段の準備を要することがあるか否か、によって判断される。
・ 「自動車(2輪のものを除く。)」及び「有価証券」
これらの物品は、それぞれ道路運送車両法、民法等において流通円滑化に資する制度が設けられており、これら物品を本章の規制対象とした場合、同制度の趣旨を著しく損ねる結果となることから、②の要件を満たすといえる。なお、「物品」とは有体物たる動産を示すところ、民法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 44 号)により改正された民法の下では、動産とみなされる有価証券が存在しないことから、「特定商取引に関する法律施行令第 34 条で規定する物品の具体例」において掲げられている有価証券の例は空欄としている(ただし、民法の一部を改正する法律附則第4条
の経過措置規定があることを踏まえ、政令第 34 条第5号の「有価証券」は維持することとしている。)。
また、郵便切手、はがきはそもそも「有価証券」には該当せず、使用済みであるか否かにかかわらず、本章の規制対象物品であると解される。
・ 「書籍」及び「レコードプレーヤー用レコード及び磁気的方法又は光学的方法により音、影像又はプログラムを記録した物」
これらの物品は、一度に大量の個数が購入されるという商慣習が存在することから、②の要件を満たすといえる。「レコードプレーヤー用レコード及び磁気的方法又は光学的方法により音、影像又はプログラムを記録した物」にはCDやDVD、ゲームソフト等が含まれる。
なお、骨とう品又は収集品として取引されるような物品(例えば、新品であった場合の販売価格以上の金額で取引されるような物品)については、政令第 34 条各号に掲げられている物品に該当する可能性があっても、骨とう品又は収集品そのものとして本章の規制対象に置かれると解する。
購入業者が買い取った物品の代わりに商品券や貴金属等を置いていき、「売買ではなく交換である。」と一方的に主張するような場合であっても、売買契約が成立した後、その支払手段として金券等の前払式支払手段が用いられた場合や、当事者間で代物弁済に合意したと評価できるような場合については、訪問購入の規律が及ぶ。
(注) 訪問購入に係る売買契約を購入業者と結ぶつもりであったところ、「これは有償でないと引き取れない。」などとして、契約の相手方たる消費者が物品の代
金を受け取るのではなく、反対に購入業者が引取料等と称して消費者から代金
....
を受け取っている場合は、当該購入業者は訪問販売の取引類型における有償の
役務提供を行っていると解される。この場合、当該事業者には訪問販売取引に関する規制がかかることとなり、仮に当該事業者が再勧誘や不実告知等を行った場合は、法第3条の2や第6条違反となる。また、最終的に無料で物品を引き取った、又は別の物品と交換したような場合であっても、例えば、事業者が消費者宅を訪問し、勧誘行為を開始した時点では物品の買取りを念頭に置いていたような場合には、法第 58 条の5、第 58 条の6は適用されることとなる。
(訪問購入における氏名等の明示)
第 58 条の5 購入業者は、訪問購入をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、購入業者の氏名又は名称、売買契約の締結について勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る物品の種類を明らかにしなければならない。
趣 旨
本条は、訪問購入をしようとするときは、その勧誘をするのに先立って、相手方にその
旨が明らかになるように一定事項を告げ、相手方が物品の購入の勧誘を受けているという明確な認識を持ち得るようにするための規定である。
解 説
1 訪問販売と同様、訪問購入においても、購入業者が「物品の査定に来ただけです。」などと訪問目的等を偽って相手方に告げて言葉巧みに取引に誘い込み、その結果その相手方が知らず知らずのうちに物品を売却させられてしまう例がある。
相手方は物品を売却することに全く関心がない、又は忙しくて時間をとられたくない等の理由から、勧誘そのものを受けることを拒否したいことが多い。訪問する目的等を偽って告げることは、相手方が、そのような勧誘を受けるか拒否するかを判断する最初の重要な機会を奪うものである。こうしたことを放置することは、消費者利益の保護という観点から問題であるのみならず、ひいては、取引のxxを害し訪問購入の健全な発展を阻害することとなるので、購入業者とその相手方との間の適正なルールを整備するという観点から本条を規定したものである。
また、相手方が購入業者に対して勧誘の要請をしている場合であっても(そもそも法第 58 条の6第1項において、訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘の要請をしていない相手方に対し、購入業者が消費者xxで勧誘をすること等は禁止されている。)、勧誘に先立って訪問目的等を明示する必要がある。どのような物品について勧誘要請がなされていたかを当事者が再度認識でき、かつ法第 58 条の6第2項で規定されている勧誘意思の確認行為と相まって、契約の相手方たる消費者が望まない取引に関与するのを避けることに資するものである。
2 「訪問購入をしようとするときは、その勧誘に先立つて」
物品を購入する目的で、契約締結のための勧誘行為を始めるに先立っての意味である。本条を規定した趣旨は、先述のとおり、相手方が勧誘を受けるか拒否するかを判断する最初の重要な機会を確保することにあり、ここでいう勧誘行為を始めるに先立ってとは、相手方がそのような機会を確保できる時点と解することとなり、少なくとも、勧誘があったといえる相手方の契約締結の意思の形成に影響を与える行為を開始する前に所定の事項につき告げなければいけない。
具体的には、個々のケースごとに判断すべきであるが、住居における訪問購入の場合であれば、基本的に、インターホンで開口一番に告げなければならない。
3 「氏名又は名称」
個人事業者の場合は、戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号、法人にあっては、登記簿上の名称であることを要する。例えば、会社の営業員が訪問した場合に当該営業員 の氏名のみを告げることや、xxの名称が「(株)○○商事」であるにもかかわらず、「×
×買取センター」や「××リサイクルショップ」等の架空の名称や通称のみを告げることは、本条にいう「氏名又は名称」を告げたことにはならない。
4 「売買契約の締結について勧誘をする目的である旨」
具体的な告げ方としては、以下のような例が考えられる。
○ 「本日は、御依頼のあった指輪の購入について御案内にまいりました。弊社による査定後、その指輪をお売りいただくことをお勧めいたします。」
5 「物品の種類」
例えば、「指輪」、「ネックレス」、「着物」等、購入業者と売買契約の相手方の間で、認識に齟齬が生じない程度に、物品の具体的なイメージが分かるものでなくてはならず、
「不用品」や「不必要な物品」等では具体的な物品の種類を明示したことにはならない。 また、例えば、指輪やネックレスの売却について勧誘を行う目的であったにもかかわらず、購入業者が勧誘に先立って明示した物品の種類が食器のみであった場合は、本条違反と なる(当然ながら、法第 58 条の6第2項違反をも構成し、指輪やネックレスについて相
手方が事前に勧誘の要請をしていなければ、法第 58 条の6第1項違反にもなり得る。)。
6 「明らかにしなければならない」
明示の方法は、書面でも、口頭でもよいが、相手方に確実に伝わる程度に明らかにしなければならない。特に身分証明書等を携帯提示することを法において義務付けているわけではないが、できる限り身分証明書等(例えば、購入業者が古物営業法上の古物商に該当する場合には、同法に規定される行商従業者証)を携帯提示することが望まれる。
7 本条違反に対する罰則は規定されていないが、本条に違反する行為については、主務大臣による指示(法第 58 条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(勧誘の要請をしていない者に対する勧誘の禁止等)
第 58 条の6 購入業者は、訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請をしていない者に対し、営業所等以外の場所において、当該売買契約の締結について勧誘をし、又は勧誘を受ける意思の有無を確認してはならない。
2 購入業者は、訪問購入をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、勧誘を受ける意思があることを確認することをしないで勧誘をしてはならない。
3 購入業者は、訪問購入に係る売買契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約の締結について勧誘をしてはならない。
趣 旨
昨今の訪問購入における消費者被害は、不意打ちの訪問によるものが大半であり、いったん購入業者の勧誘が始まってしまうと、明確に断ることが困難である場合が多く、言葉巧みな話術に乗せられた結果、最終的な契約にこぎつけられてしまうケースが多い。
したがって、勧誘開始段階において、消費者被害の端緒ともいえる意思に反した勧誘行為を受けてしまう状況そのものから、消費者を保護することが求められる。
訪問購入で契約の相手方たる消費者が被害を受けた場合、売却した物品そのものが返還されることが望ましいが、契約を解除した際には既に売却した物品そのものが逸失又は毀
損されていることも少なくなく、多くの場合において消費者に対して金銭を返還することによって消費者被害の回復が図られる訪問販売の場合と比べて、訪問購入の被害回復の実現は困難であるといえる。こうした訪問購入の特殊性を背景とし、売買契約を締結しない旨の意思表示をした者に対する更なる勧誘を禁止するとともに、国会審議の過程において本法で初めて、いわゆる「不招請勧誘」の禁止及び勧誘を受ける意思の確認「義務」を導入したものである。
解 説
1 第1項においては、訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請をしていない者に対しては、営業所等以外の場所において、当該売買契約の締結についての勧誘又はその勧誘の前提となる勧誘の意思の確認をすることを禁じたものである。これにより、いわゆる「飛び込み勧誘」は訪問購入を行う場合禁止されることとなる。
⑴ 「訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請をしていない者」
「勧誘の要請」とは、売買契約の相手方が、訪問購入に係る売買契約の締結の意思形成に影響を与える行為を求めることである。
勧誘の要請の有無については、購入業者と相手方の言動や行為の状況等を総合的に考慮しつつ判断されることとなるが、売買契約の申込みをし又は売買契約を締結することを請求している程度に相手方の意思が確定的である必要はなく、相手方から、契約するかもしれないという意思を持って、契約の締結の意思形成に影響を与える程度に具体的な事項について照会をした場合、例えば、広告等を見た相手方から、購入業者に対して電話等により「○○を売りたいので、契約について話を聞きたい。」と話があったときなどは、「勧誘の要請」があったといえる。
他方、相手方が購入業者に単に査定のみを依頼した場合や、一般的な事項に関する照会や資料の郵送の依頼等があったことをもって「勧誘の要請」があったとすることはできない。購入業者から電話をかけ、訪問して勧誘を行ってよいか否かを積極的に尋ねて相手方から「勧誘の要請」を取り付けるような場合も同様である。
また、「不要な食器を売りたいので、契約について話を聞きたい。」と、ある特定の物品について相手方から勧誘の要請を受けて訪問をする場合であっても、訪問した際に
「いらない指輪もあれば、売ってくれないか。」などとその他の物品について勧誘をすること又は勧誘を受ける意思の有無を確認することは禁止される。
ただし、当該規定は「営業所等以外の場所において」勧誘することを禁止する規定であることから、例えば、電話での勧誘行為や、ダイレクトメールを相手方に対して送付する等の行為は妨げられるものではない。
⑵ 「営業所等以外の場所」
勧誘又は勧誘を受ける意思の有無の確認が禁止される物理的範囲を示したものである。法第 58 条の4に規定する「営業所等以外の場所」と同じである。
⑶ 「勧誘をし、又は勧誘を受ける意思の有無を確認してはならない」
「勧誘」とは、訪問購入に係る相手方の契約締結の意思の形成に影響を与える行為である。したがって、「○○を売ってもらえませんか。」などと直接売却を勧める場合のほか、「無料で査定を行っていますが、いかがですか。」などと物品の査定を勧める場合であっても、その行為が相手方の訪問購入に係る売買契約の締結の意思の形成に影響を与えるものとなる場合には勧誘とみなし得る。
「勧誘を受ける意思の有無を確認」とは、「当社の貴金属買取についてお話を聞いてもらえますでしょうか。」などと訪問購入に係る勧誘をする前提として、相手方にその勧誘を受ける意思があるか否かを明らかにすることである。
2 第2項は、相手方から勧誘の要請があった場合においても、訪問購入に係る売買契約の締結に当たっては、そもそも勧誘に先立って、相手方に勧誘を受ける意思があることを確認するよう義務付けたものである。先述のとおり訪問購入における消費者被害回復の困難さという特殊性に鑑みて、訪問販売にある類似の規定(法第3条の2第1項)と異なり、本項は努力規定ではなく義務規定となっている。勧誘の要請を受けた購入業者は、法第 58条の5に規定する氏名等の明示を行う際に、併せて勧誘を受ける意思があることの確認が行われることを想定している。具体的には、勧誘の要請を受けた相手方に対して、買取りに関して説明等を行う前に、インターホンで「御依頼いただいた指輪の買取りについてお話を聞いていただけますでしょうか。」などと口頭で明示的に伝えることが考えられ、相手方が「はい、いいですよ。」などと勧誘を受ける意思があることを示した場合に本項の義務を果たしたこととなる。
⑴ 「勧誘に先立つて」
物品の購入の目的で、契約締結のための勧誘行為を始めるに先立っての意味である。
⑵ 「勧誘を受ける意思があることを確認することをしないで勧誘をしてはならない」訪問購入に係る勧誘の前提として、相手方がその勧誘を受ける意思があることを明
らかに認識することなく勧誘を始めてはならないという意味である。購入業者が勧誘の要請を電話で受けていた場合であっても、電話等で確認することでは足りず、実際に相手方の自宅を訪ねて物品の買取りに関する説明等を行う前に確認をしなければならない。
3 第3項においては、実際に契約の勧誘が行われた際に、当該契約を締結しない旨の意思、すなわち断りの意思を表示した消費者に対する勧誘を禁止する規定である。
⑴ 「契約を締結しない旨の意思」
「契約を締結しない旨の意思」については、契約の意思がないことを明示的に示すものが該当する。具体的には、相手方が「売りたくないです。」、「関心ありません。」、「お断りします。」、「結構です。」など明示的に契約締結の意思がないことを表示した場合であって、「今は忙しいので後日にしてほしい。」とのみ告げた場合など、その場、その時点での勧誘行為に対する拒絶意思の表示をした場合には、その場、その時点で行う再勧誘については禁止対象となる一方で、当該意思表示は日を改めて勧誘する場合におけ
る「契約を締結しない旨の意思」の表示には当たらない。訪問販売と同様の考え方である。
⑵ 「当該売買契約」
再勧誘禁止の対象となる「当該売買契約」とは、勧誘の相手方が契約を締結しない旨の意思を表示した場合における、その意思の対象たる売買契約を指す。
「当該」に該当するか否かについては、具体的にどのような意思表示がなされたかを、個別事例ごとに判断することとなるが、例えば、ある指輪の売買契約の締結について勧 誘している場合に、「この指輪は売りません。」という意思表示がなされた場合は、当該 指輪の売買契約を締結しない旨の意思表示をしているものと解される。また、ある時計 の売買契約の締結について勧誘している場合に、「時計は売りません。」という意思表示 がされた場合は、その際に勧誘している特定の型式の時計のみならず、相手方の持つ時 計全般について広く売買契約を締結しない旨の意思が表示されたものと解され、金の ネックレスの売買契約の締結について勧誘をした際に、「うちは貴金属は売りません。」という意思表示がなされた場合には、そのネックレスのみならず、貴金属全般について 売買契約を締結しない旨の意思が表示されたと解される。
⑶ 「勧誘をしてはならない」
「勧誘をしてはならない」とは、その訪問時においてそのまま勧誘を継続することはもちろん、その後改めて訪問して勧誘することも禁止されるという意味である。同一会社の他の勧誘員が勧誘を行うことも当然に禁止される。
勧誘が禁止されるのは、上述のとおり「当該売買契約の締結について」であり、「当該売買契約」に当たらない別の物品の契約についての勧誘は禁止されない。なお、同じ物品の契約であっても、当該物品を対象として相手方から再び訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請があった場合は、実質的に別の売買契約について勧誘の要請があったと考えられる。
なお、詳しくは、「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針―再勧誘禁止規定に関する指針―」を参照されたい。
4 本条違反に対する罰則は規定されていないが、本条に違反する行為については、主務大臣による指示(法第 58 条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(訪問購入における書面の交付)
第 58 条の7 購入業者は、営業所等以外の場所において物品につき売買契約の申込みを受けたときは、直ちに、主務省令で定めるところにより、次の事項についてその申込みの内容を記載した書面をその申込みをした者に交付しなければならない。ただし、その申込みを受けた際その売買契約を締結した場合においては、この限りでない。
一 物品の種類
二 物品の購入価格
三 物品の代金の支払の時期及び方法四 物品の引渡時期及び引渡しの方法
五 第 58 条の 14 第1項の規定による売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(同条第2項から第5項までの規定に関する事項を含む。)
六 第 58 条の 15 の規定による物品の引渡しの拒絶に関する事項七 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項
2 購入業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該購入業者は、当該書面を交付したものとみなす。
3 前項前段の規定による書面に記載すべき事項の電磁的方法(主務省令で定める方法を除く。)による提供は、当該申込みをした者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該申込みをした者に到達したものとみなす。
趣 旨
訪問購入においては、売買契約の相手方たる消費者が取引条件を確認しないまま取引行為をしてしまったり、取引条件が曖昧であるため、後日両当事者間のトラブルを引き起こしたりすることが多い。このため、本条及び次条では、取引条件が不明確なため後にトラブルを惹起するおそれのある場合について、取引条件を明らかにした書面を、契約の申込み及び締結の段階で売買契約の相手方に交付するよう購入業者に義務付けることとしたものである。
解 説
1 第1項は、購入業者に対し、売買契約の申込みを受けた段階で、申込みの内容を記載した書面の交付を義務付けたものである。本条の書面の交付は、法第 58 条の 14 に規定す
るいわゆるクーリング・オフをすることができなくなるまでの8日間及び法第 58 条の 15に規定する物品の引渡しを契約の相手方が拒むことができなくなるまでの期間の起算点としての意味も有している。とりわけ、訪問購入特有の問題として、物品が特定物(当事者が取引の対象となる「物」の持つ個性に着目して取引する物)であることが多く、同種の物品であっても各々価値が異なることから、後日のトラブルを防止するためにも、当事者間で購入物品を識別するために取引内容を書面に記載することが重要である。
なお、書面(本紙)上に記載すべき事項を記載しきれない場合は、例えば「別紙による」旨を記載した上で、記載しきれなかった事項を記載した書面(別紙)を別途交付することが必要である。この場合、当該別紙は、本紙との一体性が明らかとなるよう同時に交付することとする。
⑴ 「購入業者は、営業所等以外の場所において物品につき売買契約の申込みを受けたときは」
購入業者が申込みを行った場合には、契約の相手方たる消費者がその申込みに拘束
されることはないので、契約の相手方が申込みを行った場合に限定したものである。
⑵ 「直ちに」
契約の相手方の契約の申込み行為が完了した際その場でという意味である。
⑶ 「主務省令で定めるところにより」
省令第 133 条により、本条の第1項の書面に求められる記載内容の基準、活字の大きさ等を定めているが、本条の解説1⑷トにおいて詳述する。
⑷ 「次の事項について」
イ 「物品の種類」(第1号)
当該物品の種類が特定できる事項を指し、一般に普及していない表現(専門的用語や学術名)のみでは不十分である。
ロ 「物品の購入価格」(第2号)
契約の対象となる当該物品そのものの購入価格を記載することとなる。ハ 「物品の代金の支払の時期及び方法」(第3号)
方法とは、持参・振込・店舗での支払・現金・小切手等の別であり、分割して代金を支払う場合には各回の支払金額、支払回数等が含まれる。
ニ 「物品の引渡時期及び引渡しの方法」(第4号)
時期とは、例えば、具体的日にちを記載することが想定されるが、売買契約の相手方たる消費者は、クーリング・オフ期間経過後である場合を除き、当事者間で引渡しの時期の取決めがあったとしても、物品の引渡しを拒むことができる(法第 58 条の 15)。物品の引渡しが複数回にわたる場合は、回数、期間等が明確になるよう記載しなければならない。
方法とは、購入業者の再訪問時による直接の引渡し、宅配による引渡し等の別である。いずれも売買契約の相手方が債務として履行すべき内容であり、事前に認識ができるようにしておく必要がある。
ホ 「第 58 条の 14 第1項の規定による売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(同条第2項から第5項までの規定に関する事項を含む。)」(第5号)
第5号はクーリング・オフに関する事項を書面記載事項としたものであり、具体的な記載事項は次のとおりである(省令第 134 条第1項)。
ⅰ 法第 58 条の8第1項又は第2項の書面を受領した日(その日前に法第 58 条の
7第1項の書面を受領した場合にあっては、その書面を受領した日)から起算して8日を経過するまでは、申込者等は、書面又は電磁的記録により物品の売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除を行うことができること。
ⅱ ⅰに記載した事項にかかわらず、申込者等が、購入業者が法第 58 条の 10 第1項の規定に違反して物品の売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより誤認をし、又は購入業者が同条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによって当
該契約の申込みの撤回又は契約の解除を行わなかった場合には、当該購入業者が交付した法第 58 条の 14 第1項ただし書の書面を当該申込者等が受領した日から起算して8日を経過するまでは、当該申込者等は、書面又は電磁的記録により当該契約の申込みの撤回又は契約の解除を行うことができること。
ⅲ ⅰ又はⅱの契約の申込みの撤回又は契約の解除は、申込者等が、当該契約の申込みの撤回又は契約の解除に係る書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずること。
ⅳ ⅰ又はⅱの契約の申込みの撤回又は契約の解除があった場合においては、購入業者は、申込者等に対し、その契約の申込みの撤回又は契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができないこと。
ⅴ ⅰ又はⅱの契約の申込みの撤回又は契約の解除があった場合において、その売買契約に係る代金の支払が既にされているときは、その代金の返還に要する費用及びその利息は購入業者の負担とすること。
ⅵ ⅰ又はⅱの契約の申込みの撤回又は契約の解除があった場合において、物品の引渡しが既にされているときは、購入業者は、申込者等に対し、速やかに当該物品を返還すること。
ヘ 「第 58 条の 15 の規定による物品の引渡しの拒絶に関する事項」(第6号)
第6号は、法第 58 条の 15 に規定する、物品の引渡しの拒絶期間(クーリング・オ フ期間と同じ)を経過するまでは、売買契約の相手方たる消費者が物品の引渡しを拒 むことができることを規定する。契約の申込み時であっても、取引条件の内容として、申込者に明確な形で認識させるためである。省令第 133 条第1項において、物品の購
入価格に関し、第 58 条の 15 の規定による物品の引渡しの拒絶をする者に不利な内容とならぬよう基準が設けられている。例えば、「クーリング・オフ期間内に物品の引渡しを拒絶した場合、買取り価格が1割下がります。」と書面に記載することは、当該基準を満たしているとはいえない。
ト ホ及びヘの事項については、赤枠の中に赤字で記載させることにより、申込者等の注意を促している(省令第 134 条第2項)。
なお、クーリング・オフ及び物品の引渡しの拒絶については、契約の申込みを受け又は契約を締結する際に購入業者が口頭で説明を行うことが望ましい(物品の引渡しの拒絶については、法第 58 条の8第2項の場合には、契約締結をするのと併せて
必ず口頭で説明しなければならない(法第 58 条の9)。)。
チ 「前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項」(第7号)
第7号は、本条に係る具体的な書面記載事項の全てを法定することは困難であるため、前各号の主要事項以外の事項については、省令に委任することとしたものである。また、このことによって、実態の変化に応じて記載事項を弾力的に追加することも可能となっている。省令第 132 条においては、次のような事項を定めている。
① 購入業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
② 売買契約の申込み又は締結を担当した者の氏名
③ 売買契約の申込み又は締結の年月日
④ 物品名
⑤ 物品の特徴
⑥ 物品又はその附属品に商標、製造者名若しくは販売者名の記載があるとき又は型式があるときは、当該商標、製造者名若しくは販売者名又は型式
⑦ 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
⑧ 前号に掲げるもののほか特約があるときは、その内容
「氏名又は名称」については、個人事業者の場合は、戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人にあっては、登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号は認められない。「住所」については、法人及び個人事業者の別を問わず、現に活動している住所(法人にあっては、通常は登記簿上の住所と同じと思われる。)を正確に記載する必要がある。いわゆるレンタルオフィスやバーチャルオフィスであっても、現に活動している住所といえる限り、法の要請を満たすと考えられる。
「電話番号」については、確実に連絡が取れる番号を記載することを要する。使用されていない電話番号を記載する場合や発信専用の番号で消費者側から架電しても一切つながらないような場合等は、確実に連絡が取れる番号とはいえず、使用可能な電話番号を記載している場合においても、購入業者が意図的に、常に電話を取らない状態にしている場合等には、確実に連絡が取れる番号を記載していることにはならない。
「物品名」は原則として固有名詞とし、それのみでは物品のイメージが不明確なものについては併せて普通名詞も記載しなければならない。
「物品の特徴」とは、契約した物品を特定することができると一般的に考えられる程度の特徴を記載する必要がある。例えば、腕時計であれば、「茶色の皮ベルト、文字盤の『2』の部分に傷あり。文字盤の裏に『N』とイニシャル刻印あり。」などと記載されることになる。
「商標」とは登録商標のみならず、当該物品を販売する販売業者の製造、取扱い等に係る商品であることを表示するために使用する通称等も含むものである。なお、「物品名」と「商標」が同一である場合は「商標」及び「製造者名」を併せて記載する必要はない。
「型式」については、取引の対象となる物品に型式を認識できる記載等がある場合は、物品を特定するためにその旨を書面に記載すべきであり、また、そうした記載がない場合であっても、例えば、購入業者が「この物品は旧式なので購入価格が安くなる。」と説明するなど、当該物品の型式が契約条件に影響を及ぼしている場合、購入業者は当該物品の型式を認識していると考えられることから、当該物品の型式を書面に記載すべきである。他方、物品に型式を認識できる記載等がなく、かつ当該物品の型式が契約条
件に影響を及ぼしているとは考えられない場合は、必ずしも型式を記載しなければならないものではない。
また、「物品の種類」、「物品名」、「物品の特徴」及び「物品又はその附属品に商標、製造者名若しくは販売者名の記載があるとき又は型式があるときは、当該商標、製造者名若しくは販売者名又は型式」が同一であるといえる物品を複数購入する場合は「物品名」にて例えば、「ビーズ 100 個」という形で記載していれば、ビーズ1個ずつについて書面記載事項を作成する必要はない。指輪やネックレス、着物等は通常1点ずつそれぞれ物品の特徴や製造者名等が異なっているため、個別に書面記載事項を作成する必要がある。
また、⑦及びの事項については、省令第 133 条第1項において申込者等である消費者に不利とならぬよう次のとおり記載内容の基準を定めている。
⑦については、売買契約の相手方たる消費者からの契約の解除ができない旨が定められていないこと、購入業者の責めに帰すべき事由により契約が解除された場合における購入業者の義務に関し、民法第 545 条(契約が解除された場合の効果として、双方の原状回復義務・付利息義務・損害賠償義務が規定されている。)に規定するものより契約の相手方に不利な内容が定められていないこと、すなわち、これらの義務を軽減するような特約、例えば、物品の引渡しを終えている場合に「購入業者の店舗まで物品を受け取りにくること。」、「損害賠償には応じられない。」などの規定を定めることはできない。
については、法令に違反する特約が定められていないこととされている。例えば、法第 58 条の 16 の制限を超えた利率を定める等の法令違反の特約をすることは許されない。
リ 本条の書面の記載事項は、以上のように多岐にわたるが、契約の相手方たる消費者がこれらの事項をよく読むことが、後日のトラブルを防ぐ意味からも重要であるので、省令第 133 条第2項及び第3項において、
ⅰ 書面には書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載すること
ⅱ 書面には日本産業規格Z8305 に規定する8ポイント(官報の字の大きさ)以上の大きさの文字及び数字を用いること
として、申込者等の注意を喚起している。
⑸ 「書面」
本法は、書面と電磁的記録を別個のものとして書き分けているため、電磁的記録は書面に含まれない。ただし、第2項の規定により、政令で定めるところにより、申込みをした者の承諾を得た場合には、書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。詳しくは本条の解説2において詳述する。本法は国内法であるため、記載言語については原則として日本語が基準となるが、当事者が合意した場合、日本語以外の言語を使用することも可能である。
⑹ 「交付しなければならない」
書面の交付は、契約の当事者である購入業者のみならず、契約締結事務を行っている者が行ってもよい。
⑺ 「ただし……この限りでない」
契約の申込みにとどまることなく即座に契約締結段階に移行する場合には本条の交付義務はかからない(法第 58 条の8第1項又は第2項の書面を交付しなければならない。)。
2 第2項は、購入業者が、第1項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得た場合には、書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができることを認める規定である。
⑴ 「政令で定めるところにより、当該申込みをした者の承諾を得て」
申込内容を明確にし、後日紛争を生ずることを防止するという書面の持つ目的を阻害しないように、消費者の承諾は真意に基づく必要があり、事業者は単に消費者から承諾を得れば足りるというものではなく、政令で定めるところにより、消費者の承諾を得る必要がある。政令第 35 条や省令第 136 条から第 139 条までにおいて、承諾に関する手続が規定されている。
⑵ 「電磁的方法」
「電磁的方法」の定義は法第4条第2項と同じであり、訪問購入について具体的には、省令第 135 条第1項において以下のものを規定している。
① 電子メール等によって書面に記載すべき事項を送信する方法(第1号イ)
② ダウンロードによる方法(第1号ロ)
③ 電磁的記録媒体に書面に記載すべき事項を記録して、当該記録媒体を交付する方法(第2号)
省令第 135 条第2項は、電磁的方法として満たす必要のある基準を以下のとおり定めている。
① ファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものであること(第
1号)
② ファイルに記録された書面に記載すべき事項について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置が講じられていること(第2号)
③ 前項第1号ロに掲げる方法にあつては、ファイルに記録された書面に記載すべき事項を購入業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する旨又は記録した旨を申込みをした者に対し通知するものであること(第3号)
省令第 135 条第3項は、電磁的方法により書面に記載すべき事項を提供するときは、申込みをした者が当該事項を明瞭に読むことができるように表示しなければならないことを規定している。
なお、詳しくは「契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドラ
イン」を参照のこと。
3 第3項は、省令第 135 条第1項第1号の電磁的方法により書面に記載すべき事項を提供する場合の到達時点を規定する。すなわち、当該電磁的方法により書面に記載すべき事項を提供する場合、該申込みをした者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該申込みをした者に到達したものとみなされる。
4 本条第1項の交付義務に違反して、書面を交付せず、又は記載すべき事項が記載されていない書面若しくは虚偽の記載のある書面を交付したときは、当該違反行為をした者は
6月以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 71 条第1号)ほか、主務大臣による指示(法第 58 条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
第 58 条の8 購入業者は、次の各号のいずれかに該当するときは、次項に規定する場合を除き、遅滞なく(前条第1項ただし書に規定する場合に該当するときは、直ちに)、主務省令で定めるところにより、同条第1項各号の事項(同項第5号の事項については、売買契約の解除に関する事項に限る。)についてその売買契約の内容を明らかにする書面をその売買契約の相手方に交付しなければならない。
一 営業所等以外の場所において、物品につき売買契約を締結したとき(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約を締結したときを除く。)。
二 営業所等以外の場所において物品につき売買契約の申込みを受け、営業所等においてその売買契約を締結したとき。
2 購入業者は、前項各号のいずれかに該当する場合において、その売買契約を締結した際に、代金を支払い、かつ、物品の引渡しを受けたときは、直ちに、主務省令で定めるところにより、前条第1項第1号及び第2号の事項並びに同項第5号の事項のうち売買契約の解除に関する事項その他主務省令で定める事項を記載した書面をその売買契約の相手方に交付しなければならない。
3 前条第2項及び第3項の規定は、前2項の規定による書面の交付について準用する。この場合において、同条第2項及び第3項中「申込みをした者」とあるのは、「売買契約の相手方」と読み替えるものとする。
趣 旨
本条は、訪問購入における売買契約が締結された際、売買契約の相手方たる消費者に対して一定の事項を記載した書面を交付することを購入業者に義務付けることにより、契約内容を明確にし、後日紛争を生ずることを防止することを目的とするものである。前条と同様に、本条の書面交付は、クーリング・オフをすることができなくなるまでの8日間及び法第 58条の15に規定する物品の引渡しを契約の相手方が拒むことができなくなるまでの期間の起算点としての意味も有している。
解 説
1 第1項は、訪問購入により契約を締結した段階における現金取引以外の場合の書面交付義務について規定している。
⑴ 「次項に規定する場合を除き」
第2項に規定する現金取引以外の場合である。
⑵ 「遅滞なく」
通常3日ないし4日以内をいう。法第 58 条の7と異なって「遅滞なく」とした理由は、売買契約が成立しても、購入業者が営業所等に帰って契約書を作成することを考慮したものであり、その考え方は訪問販売の場合と同じである。
⑶ 「前条ただし書に規定する場合に該当するときは」法第 58 条の7の解説1⑹を参照。
⑷ 「直ちに」
契約の締結行為が完了した際その場でという意味である。
⑸ 「主務省令で定めるところにより」法第 58 条の7の解説1⑶を参照。
⑹ 「書面」
法第 58 条の7の解説1⑸を参照。
⑺ 「同条各号の事項」
法第 58 条の7第1項第1号から第7号までに規定する事項であり、第 58 条の7第1
項の書面と第 58 条の8第1項の書面の記載事項は、基本的に同一である。
⑻ 「(同条第5号の事項については、売買契約の解除に関する事項に限る。)」
法第 58 条の8第1項は契約締結時に交付する書面についての規定であり、クーリング・オフ(申込みの撤回又は解除)についての必要的記載事項は申込みの撤回に関する部分を含まない旨を入念的に規定したものである。
⑼ 「売買契約の相手方」
売買契約において購入業者と契約を締結した者であり、その者が実際に物品を引き渡すか否かは問わない。
⑽ 第1号は、購入業者が営業所等以外の場所において契約を締結する場合である。ただし、営業所等において契約の申込みを受けて営業所等以外の場所において契約を締結する場合は、相手方の契約締結の意思が自発的に形成されていると考えられることから除外している。
⑾ 第2号は、購入業者が営業所等以外の場所において契約の申込みを受け、営業所等においてその契約を締結した場合である。
2 第2項は、現金取引の場合における書面交付義務についての規定である。実態上、買取り事例の多くはこの場合に該当するといえる。
⑴ 「その売買契約を締結した際に、代金を支払い、かつ、物品の引渡しを受けたとき」
現金取引の場合を規定している。
⑵ 「直ちに」
本条の解説1⑷を参照。
⑶ 「主務省令で定めるところにより」法第 58 条の7の解説1⑶を参照。
⑷ 第2項において規定する書面の記載事項は、「前条第1号及び第2号の事項並びに同条第5号の事項のうち売買契約の解除に関する事項その他主務省令で定める事項」であり、法第 58 条の7の書面の記載事項のうち、同条第3号(物品の代金の支払の時期及び方法)、第4号(物品の引渡時期及び引渡しの方法)、第6号(引渡しの拒絶に関する事項)は現金取引であるため不要である。なお、クーリング・オフに関する事項も契約の解除に関する部分に限られる。
法で定めるほか、省令第 141 条において次の事項を定めている。
① 購入業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
② 売買契約の締結を担当した者の氏名
③ 売買契約の締結の年月日
④ 物品名
⑤ 物品の特徴
⑥ 物品又はその附属品に商標、製造者名若しくは販売者名の記載があるとき又は型式があるときは、当該商標、製造者名若しくは販売者名又は型式
⑦ 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
前号に掲げるもののほか特約があるときは、その内容
⑨ 売買契約を締結した際に、代金の全部を支払い、かつ、全ての物品の引渡しを受けたとき以外のときは、法第 58 条の7第3号及び第4号の事項
3 第3項は、法第 58 条の7第1項の書面に記載すべき事項と同様、本条第1項又は第2 項の書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができるようにするために、法第 58 条の7第2項及び第3項を準用する規定である。
4 本条の交付義務に違反して、書面を交付せず、又は記載すべき事項が記載されていない書面若しくは虚偽の記載のある書面を交付したときは、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 71 条第1号)ほか、主務大臣による指示(法第 58 条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(物品の引渡しの拒絶に関する告知)
第 58 条の9 購入業者は、訪問購入に係る売買契約の相手方から直接物品の引渡しを受ける時は、その売買契約の相手方に対し、第 58 条の 14 第1項ただし書に規定する場合を除き、当該物品の引渡しを拒むことができる旨を告げなければならない。
趣 旨
訪問購入特有の事情として、売買契約の相手方たる消費者が物品を購入業者に引き渡してしまうと、クーリング・オフをしても、売却した物品そのものは戻らないおそれがある。また、契約の相手方は法第 58 条の 15 に規定する、クーリング・オフ期間内における物品の引渡しの拒絶ができるとしても、とりわけ購入業者の言辞による影響下では、引渡しの拒絶をするか否か検討する機会も与えられないまま、契約締結時等に相手方は購入業者に物品を引き渡してしまうおそれも高い。このため、クーリング・オフを導入した趣旨の潜脱を防ぐため、物品を現実に引き渡すか否かという重要な判断の機会を確保させるための規定を設けることとしたものである。
解 説
1 訪問購入においては、訪問販売と異なり、相手方たる消費者は購入業者に対し、金銭ではなく、物品を引き渡す債務を負うこととなり、購入業者は相手方に金銭を支払う債務を負うこととなる。クーリング・オフによる契約解除等を受けて原状回復を行う際も、訪問販売とは反対に購入業者は金銭を相手方に返還するのではなく、相手方から引渡しを受けた物品そのものを返還する義務を負うことになる。相手方が一度物品を引き渡すと、返還を主張しても既に転売されている等の理由により、引き渡した物品そのものの返却を実現することは困難な場合が多い。
よって、現実に物品を引き渡すか否かは、クーリング・オフによる原状回復の実現性に影響を与える重要な判断であるため、現実に物品の引渡しをする時点において、当該判断の機会を明示的に相手方に与えることは消費者保護の観点から重要であり、他方、購入業者にとっても引渡しを受ける際に、クーリング・オフ期間内は物品の引渡しを拒絶できる旨告げることは、特段の負担ではないと判断して本条を規定したものである。
特に、法第 58 条の8第2項に規定する現金取引においては、書面を交付するより前に既に物品が引き渡された状態であるため、相手方が物品の引渡しの拒絶をするか否か判断する機会の確保を交付書面により担保することもできないが故に、本条は相手方が物品の引渡しを判断する唯一の機会となる。
なお、当然のことながら、購入業者が交付する法定書面に法第 58 条の 15 の規定による物品の引渡しの拒絶に関する事項について記載がある場合であっても、クーリング・オフ期間内に購入業者が現実に物品の引渡しを受ける際には、本条に基づく告知義務は発生する。
⑴ 「売買契約の相手方から直接物品の引渡しを受ける時」
具体的には、購入業者が相手方の面前において物品の引渡しを受ける時点を指す。宅配等間接的に物品の引渡しを受ける場合には、対面によるほどの購入業者の言辞等による影響が少ないと考えられるため、本条の対象とはならない。購入業者が物品の引渡しを「受ける時」と規定することにより、物品が購入業者の手中に渡るまでに、相手方
が物品の引渡しにつき明確な認識を持ち、判断する機会が与えられるようにしたものである。
⑵ 「第 58 条の 14 第1項ただし書に規定する場合を除き、当該物品の引渡しを拒むことができる旨」
売買契約の相手方が、いわゆるクーリング・オフ期間内に、契約対象となっている物品の引渡しを拒絶できることである。
⑶ 「告げなければならない」
単に告げないだけでなく、虚偽の事実を告げた場合も本条を満たさないことになる。
⑷ 法第 58 条の 10 第4項で規定する不実告知・事実不告知の禁止においては、特に時点を限定することなく、購入業者が物品の引渡しを受けるための不実告知・事実不告知を対象とし、不告知については購入業者の故意を要するものであるのに対し、本条は購入業者が売買契約の相手方から直接物品の引渡しを受ける時点に限定し、故意を要するものではない。
2 本条違反に対する罰則は規定されていないが、本条に違反する行為については、主務大臣による指示(法第 58 条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(禁止行為)
第 58 条の 10 購入業者は、訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘をするに際し、又は訪問購入に係る売買契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、次の事項につき、不実のことを告げる行為をしてはならない。
一 物品の種類及びその性能又は品質その他これらに類するものとして主務省令で定める事項
二 物品の購入価格
三 物品の代金の支払の時期及び方法四 物品の引渡時期及び引渡しの方法
五 当該売買契約の申込みの撤回又は当該売買契約の解除に関する事項(第 58 条の 14 第
1項から第5項までの規定に関する事項を含む。)
六 第 58 条の 15 の規定による物品の引渡しの拒絶に関する事項七 顧客が当該売買契約の締結を必要とする事情に関する事項
八 前各号に掲げるもののほか、当該売買契約に関する事項であつて、顧客又は売買契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
2 購入業者は、訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘をするに際し、前項第1号から第6号までに掲げる事項につき、故意に事実を告げない行為をしてはならない。
3 購入業者は、訪問購入に係る売買契約を締結させ、又は訪問購入に係る売買契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。
4 購入業者は、訪問購入に係る物品の引渡しを受けるため、物品の引渡時期その他物品の
引渡しに関する事項であつて、売買契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。
5 購入業者は、訪問購入に係る物品の引渡しを受けるため、人を威迫して困惑させてはな
らない。
趣 旨
訪問購入において、強引な勧誘、虚偽の説明による勧誘や契約解除妨害等、契約の相手方たる消費者の意思決定を歪めるような不当行為により相手方が適正な判断ができないまま契約してしまう、又は相手方が契約締結の意思が不安定なままに契約の申込みや締結に至り、後日履行や解約に関して紛争が生ずる等の被害が多発している実態に鑑み、特に不当性が強いものについては、罰則を規定することによりこれを禁止し、消費者被害の防止を図るものである。
解 説
1 第1項は、購入業者が訪問購入に係る契約の締結についての勧誘を行う際又は契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、契約に関する重要な事項について不実のことを告げることを禁止する規定である。
⑴ 「購入業者は、訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘をするに際し」
購入業者が売買契約の相手方と最初に接触してから契約を締結するまでの時間的経過においてという意味である。
⑵ 「申込みの撤回若しくは解除を妨げるため」
主として法第 58 条の 14 に規定するクーリング・オフの行使を妨げる不当行為を念頭に置いており、相手方の正当な行為を妨害することをいう。
⑶ 「次の事項につき」
イ 「物品の種類及びその性能又は品質その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」(第1号)
これは、物品を売却するに当たって、物品の価値を判断する要素となる事項である。一般には、物品の品質が類似のものと比較して優れているにもかかわらず劣ってい ると告げることや、根拠もなく物品の材質等について事実と異なる説明を行うこと 等は、本号に関する不実告知に該当するといえる。例えば、事実に反して、「この指 輪の金はメッキなので購入価格が低くなってしまう。」などと告げることは本号に該 当する。
また、「その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」として、省令第 143 条において「物品の効能」、「物品の商標、製造者名及び販売者名」、「物品の購入数量」が規定されている。これらは、例えば、ネックレスが磁気を帯びており現に肩こりを緩和する効能があるにもかかわらず、「このネックレスにはもう磁気が無くなっており、何の効能もない。」などと告げることが不実の告知に該当する。
ロ 「物品の購入価格」(第2号)、「物品の代金の支払の時期及び方法」(第3号)、
「物品の引渡時期及び引渡しの方法」(第4号)
物品の取引条件に関する重要な事項として規定したものである。「物品の購入価格」
(第2号)については、例えば、「今だけ特別キャンペーンで高価買取しています。」と言いながら、実際にはそれが通常の購入価格であるような場合、「よそではもっと安く買い取られるが、うちは高価買取している。」と言いながら実際にはそういった価格差は存在しない場合は本号に該当する。
ハ 「当該売買契約の申込みの撤回又は当該売買契約の解除に関する事項(第 58 条の 14 第1項から第5項までの規定に関する事項を含む。)」(第5号)
法第 58 条の 14 に規定するクーリング・オフに関する事項のほか、それ以外に契約の解除等ができる場合に関する事項や、その解除を行ったときの損害賠償又は違約金についての取決め等のことである。
例えば、本法でクーリング・オフは法第 58 条の8の書面(その日前に法第 58 条の
7の書面を受領した場合にあっては、その書面)の受領日から8日を経過するまでは認められているにもかかわらず、書面を受領してから4日を経過した場合クーリング・オフができなくなると告げることや、クーリング・オフを申し出た売買契約の相手方に対して、「個人的な都合によるクーリング・オフは認められません。」、「違約金を支払ってもらう。これは法律で決まっている。」、「既に他の人にその物品を転売してしまったので解除できない。」、「既にその物品については転売先と契約してしまっているので撤回できない。」、「もうネックレスは加工してしまっているので解除できない。」などと告げることが本号に関する不実告知に該当する。
ニ 「第 58 条の 15 の規定による物品の引渡しの拒絶に関する事項」(第6号)
法第 58 条の 15 において、売買契約の相手方はクーリング・オフ期間内であれば物品の引渡しを拒絶することが認められているにもかかわらず、例えば、「契約締結をしたら、すぐに物品を引き渡さないといけない。引き渡さないと、損害賠償を請求させてもらうことになる。」などと告げることが本号に関する不実告知に該当する。
ホ 「顧客が当該売買契約の締結を必要とする事情に関する事項」(第7号)
例えば、事実に反して「各家庭で保有している金に対して、今後多額の税金が課せられることになった。このまま金を保有していたら、税金をたくさん取られるかもしれない。」などと告げることが本号に関する不実告知に該当する。
ヘ 「前各号に掲げるもののほか、当該売買契約に関する事項であつて、顧客又は売買契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」(第8号)
顧客等が契約を締結する場合又は申込みの撤回若しくは解除をする場合の意思形成に対して重大な影響を及ぼす事項であって、第1号から第7号までに該当しないものをいい、契約の内容のみならず、当該契約に関連のある事項が広く対象となる。例えば、事実に反して、警察署等の公的機関から、消費者保護の観点に立ち適正な取
引を行っている購入業者として認可を得ている業者であるかのように告げること
(注:古物営業法(昭和 24 年法律第 108 号)の法目的は盗品の流通防止であり、古物営業法上許可を得ている古物商であることをもって、消費者保護の観点から適正な取引を行っている購入業者であるということはできない。)や、「御近所はみんな売ってくれましたよ。」と告げて訪問購入に係る売買契約の勧誘を行うことは本号に該当する。
⑷ 「不実のことを告げる行為」
虚偽説明を行うこと、すなわち事実と異なることを告げる行為のことである。事実と異なることを告げていることにつき主観的認識を有している必要はなく、告げている内容が客観的に事実と異なっていることで足りる。相手方が錯誤に陥り、契約を締結し又は解除を行わなかったことは必要としない。
なお、刑事罰との関係では、故意性があった場合について処罰されることになる。他方、本項の違反は主務大臣による指示(法第 58 条の 12)及び業務停止命令(法第 58 条の 13)といった行政措置の対象行為ともなっているところであるが、上記のとおり、不実の告知に対する主務大臣の指示、命令は、故意又は過失の有無を問わず法第 58 条
の 12、第 58 条の 13 の要件を満たせば行い得る。
また、契約締結段階で告げている内容が実現するか否かを見通すことが不可能な場合であっても、告げている内容が客観的に事実と異なっていると評価できる限り不実の告知に該当する(例えば、「近いうちに金価格は必ず暴落するので、今のうちに売ってしまった方がよいですよ。」などと告げる場合。)。
2 第2項は、購入業者が訪問購入に係る契約についての勧誘を行う際に、契約に関する重要な事項について故意に告げないことを禁止する規定である。
⑴ 「購入業者は、訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘をするに際し」解説1⑴を参照
⑵ 「前項第1号から第6号までに掲げる事項につき」
重要な事項とはいえ不告知という不作為を禁止する規定であるため、その中でも当然告げられるべき第1項第1号から第6号が対象事項となる。例えば、購入業者が指輪を買い取るに当たり、物品の代金の支払方法について、会社の方針で振込でしか行うことができないにもかかわらず、その旨を告げないこと等が考えられる。
なお、第7号及び第8号に該当する事項につき故意に事実を告げないことは、法第 58
条の 12 第2号に掲げる行為に該当することとなる。
⑶ 「故意に事実を告げない行為」
ここでいう「故意」とは、当該事実が当該契約の相手方の不利益となるものであることを知っており、かつ、当該契約の相手方が当該事実を認識していないことを知っていることをいう。「故意に事実を告げない行為」をもって足り、相手方が錯誤に陥り、契約を締結し又は解除を行わなかったことは必要としない。
3 第3項は、購入業者が訪問購入に係る契約を締結させ、又は契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させることを禁止する規定である。
⑴ 「売買契約を締結させ」
第1項及び第2項の場合と異なり、契約を締結させるためにということである。
⑵ 「人を威迫して困惑させ」
「威迫」とは脅迫に至らない程度の、人に不安を生じせしめるような行為をいい、「困惑させ」とは字義のとおり、困り戸惑わせることをいう。具体的にはどのような行為が該当するかについては個々の事例について、行為が行われた状況等を総合的に考慮しつつ判断すべきであるが、例えば、次のような事例が該当する。
イ 契約を締結させるための例
① 「売ってくれないと困る。」と声を荒げられて、誰もいないのでどうしてよいか分からなくなり、早く帰ってもらいたくて契約してしまった。
② 勧誘の際に殊更に入れ墨を見せられ、怖くなって話を切り上げられなくなってしまった。
ロ 契約の申込みの撤回又は解除を妨げるための例
クーリング・オフしたいと思って電話したところ、「クーリング・オフしたら現住所に住めなくする。」と言われ、不安になってクーリング・オフの行使を思いとどまった。
4 第4項は、購入業者が訪問購入に係る物品の引渡しを受けるため、物品の引渡しに関する事項について相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて故意に告げないこと、又は不実のことを告げることを禁止する規定である。
法第 58 条の 15 により、相手方はクーリング・オフ期間内であれば購入業者への物品の引渡しを拒絶することができるものの、購入業者による相手方への不当行為により、その相手方の自律的な判断によるものではなく、意思の形成が歪められた結果として物品を引き渡してしまうことは、契約の勧誘と物品の引渡しが購入業者にとっては同じ目的に立った一連の行為であるために当然に発生するおそれがあることから、本規定を設けることとなった。
⑴ 「物品の引渡しを受けるため」
第1項から第3項までの場合と異なり、訪問購入に係る売買契約の対象となった物品を相手方に購入業者へ引き渡させるためにということである。
⑵ 「故意に事実を告げず」
解説2⑶と同様の解釈であり、「故意に事実を告げない行為」をもって足り、相手方が錯誤に陥り、当該物品を引き渡したことは必要としない。
例えば、購入業者は、クーリング・オフ期間内であれば売買契約の相手方は引渡しの拒絶ができることを知っているにもかかわらず、相手方が「できれば、家族が集まる週末まで物品を手元に置いておきたいが、いつまでに物品を引き渡したらいいのか。」と
尋ねた際に、「どうですかねぇ。」などとクーリング・オフ期間は引渡しの拒絶を相手方ができる旨を告げないこと等が考えられる。
⑶ 「不実のことを告げる行為」解説1⑷を参照
5 第5項も、解説4と同様の趣旨から設けられており、購入業者が訪問購入に係る物品の引渡しを受けるため、購入業者が訪問購入に係る物品の引渡しを受けるため、人を威迫して困惑させることを禁止する規定である。
「人を威迫して困惑させ」については、解説3⑵と同様の解釈であり、例えば、契約の相手方たる消費者が、物品の引渡しはクーリング・オフ期間経過後にするよう主張しようとしたところ、購入業者が「今すぐ渡してくれないと困るんですよ。」と声を荒げたため、誰もいないのでどうしてよいか分からなくなり、早く帰ってもらいたくて物品を引き渡してしまった場合等は本項違反に該当するといえる。
6 本条に違反したときは、当該違反行為をした者は、3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 70 条第1号)ほか、主務大臣による指示(法第 58条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(第三者への物品の引渡しについての相手方に対する通知)
第 58 条の 11 購入業者は、第 58 条の8第1項各号のいずれかに該当する売買契約の相手方から物品の引渡しを受けた後に、第三者に当該物品を引き渡したときは、第 58 条の 14第1項ただし書に規定する場合を除き、その旨及びその引渡しに関する事項として主務省令で定める事項を、遅滞なく、その売買契約の相手方に通知しなければならない。
趣 旨
訪問購入においては、売買契約の相手方が購入業者に対して、任意で物品を引き渡した場合であっても、購入業者はクーリング・オフ期間内当該物品を保管し、クーリング・オフが行われた場合は当該物品を確実に相手方に返還できるようにしておくことが望ましい。しかしながら、一度物品を購入業者に引き渡してしまうと、第三者への転売等により、物品を元々所有していた相手方がクーリング・オフをしても、引き渡した物品そのものが返却されないおそれが高くなり、クーリング・オフを認めた趣旨が没却される可能性がある。
そこで、クーリング・オフの実効性を担保できるようにするため、法第 58 条の 14 第3項 の規定と併せて本条を規定し、原状回復に必要となる情報を売買契約の相手方が取得でき るようにしたものである。これにより、相手方はクーリング・オフを行使した際、より確実 に物品の返却を実現することができるようになると考えられる。法案の国会提出段階にお いては、購入業者が相手方に対する通知をする必要があるのは、相手方がクーリング・オフ を行い、かつ当該通知をすることを求めた場合のみとする制度設計が行われていた。しかし、国会審議の過程において、クーリング・オフ期間内に物品を誰が保管しているのか等の情報
について、相手方が認識しておくことは消費者保護の観点から重要であるとの判断から、同期間内に購入業者が第三者に物品を引き渡したときは、相手方に通知することを義務付けることとされた。
解 説
1 本条に基づく通知義務は、売買契約の相手方から引渡しを受けた物品を、購入業者がクーリング・オフ期間内に第三者に引渡しをする場合に発生する。
クーリング・オフを行った売買契約の相手方は、原則として購入業者に対して原状回復義務に基づく物品の返還を請求することができ、第三者には所有権に基づく物品の返還を請求することができる(第三者が善意無過失の場合を除く。)。しかし、第三者から求償されることを恐れる購入業者が、第三者への引渡しに関する情報を売買契約の相手方に教示するインセンティブは、現状において低いと考えられる。そのため、例えば、売買契約の相手方がクーリング・オフをし、購入業者に物品の返還を求めても、購入業者が第三者から物品を取り戻そうとしない場合、物品を元々所有していた売買契約の相手方に第三者への引渡しに係る情報が教示されなければ、売買契約の相手方は物品を取り戻すに当たり、誰に物品の返還を請求すればよいか不明となる。
そこで、購入業者がクーリング・オフ期間内に第三者に物品を引き渡す場合は、売買契約の相手方に対し、第三者への引渡しに関する情報を通知することを義務付けたのが本条である。
⑴ 「売買契約の相手方から物品の引渡しを受けた後に、第三者に当該物品を引き渡したときは」
購入業者が売買契約の相手方から物品の引渡しを受けることが前提である。また、物品の引渡しを行えば足りるのであって、第三者に物品を引き渡す原因となる事由が売買契約の場合のみを指すものではなく、贈与や貸与等の場合も広く含まれる。
⑵ 「第 58 条の 14 第1項ただし書に規定する場合を除き」
売買契約の相手方が、法第 58 条の 14 第1項に規定するクーリング・オフができる場合の意である。よって、相手方が法定書面を受領した日から8日を経過した後に、購入業者が第三者に物品を引き渡したとしても、相手方に対して本条に基づく通知をする必要はない。ただし、相手方が法定書面を受領していない場合や、クーリング・オフを妨害するための不実を告げられたことで誤認をしているような場合には、その期間は延長されることとなる。
⑶ 「その旨及びその引渡しに関する事項として主務省令で定める事項」
「その旨」とは、購入業者が引渡しを受けた物品を第三者に引き渡したことを指す。また、「その引渡しに関する事項として主務省令に定める事項」は、省令第 144 条において次の事項を定めている。
① 第三者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
② 物品を第三者に引き渡した年月日
③ 物品の種類
④ 物品名
⑤ 物品の特徴
⑥ 物品又はその附属品に商標、製造者名若しくは販売者名の記載があるとき又は型式があるときは、当該商標、製造者名若しくは販売者名又は型式
⑦ その他売買契約の相手方が第三者への物品の引渡しの状況を知るために参考となるべき事項
①の「第三者の氏名又は名称」については、第三者が一般消費者の場合は戸籍上の氏名を、個人事業者の場合は戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人にあっては、登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号は認められない。「住所」については、一般消費者は現に居住している住所(通常は住民票上の住所)を、法人及び個人事業者についてはその別を問わず現に活動している住所(法人にあっては、通常は登記簿上の住所と同じと思われる。)をそれぞれ正確に記述する必要がある。いわゆるレンタルオフィスやバーチャルオフィスであっても、現に活動している住所といえる限り、法の要請を満たすと考えられる。また、「電話番号」については、確実に連絡が取れる番号を記載することを要する。使用されていない電話番号を記載する場合や発信専用の番号で消費者側から架電しても一切つながらない等のような場合は、確実に連絡が取れる番号とはいえず、使用可能な電話番号を記載している場合においても、第三者が意図的に、常に電話を取らない状態にしている場合等には、確実に連絡が取れる番号を記載していることにはならない。
③から⑥までについては法第 58 条の7の解説を参照されたい。⑦の「参考となるべき事項」は、購入業者から第三者への転売価格や第三者による物品の使用用途(例:原材料とする。)等を必要に応じて記載することを想定している。例えば、貴金属の訪問購入取引においてしばしば見受けられるように、第三者が貴金属の加工業者であって、原材料として当該物品を使用することが想定される等、仮に売買契約の相手方がクーリング・オフをしたとしても、物品自体が加工され原形をとどめていないために、物品を取り戻す見込みがないか、著しく困難といえる事情がある場合等であれば、転売価格を記載する必要がある。
⑷ 「遅滞なく、その売買契約の相手方に通知しなければならない」
「遅滞なく」とは通常、3日ないし4日以内と解される。また、通知の方法については、その手段を問うものではない。しかしながら、売買契約の相手方になるべく早く、かつ通知事項を確実に伝えなければならない。
2 本条違反に対する罰則は規定されていないが、本条に違反する行為については、主務大臣による指示(法第 58 条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(物品の引渡しを受ける第三者に対する通知)
第 58 条の 11 の2 購入業者は、第 58 条の8第1項各号のいずれかに該当する売買契約の相手方から物品の引渡しを受けた後に、第 58 条の 14 第1項ただし書に規定する場合以外の場合において第三者に当該物品を引き渡すときは、主務省令で定めるところにより、同項の規定により当該物品の売買契約が解除された旨又は解除されることがある旨を、その第三者に通知しなければならない。
趣 旨
法第 58 条の 11 で述べたように、訪問購入において、売買契約の相手方たる消費者が任意に物品を購入業者に引き渡した場合には、契約の相手方がクーリング・オフをしたとしても引き渡した物品そのものが返却されないおそれが高くなり、クーリング・オフを認めた趣旨が没却される可能性がある。
こうした状況に鑑み、クーリング・オフの実効性を強化するため、また副次的効果としてクーリング・オフ期間内において第三者が当該物品の引渡しを受けることを抑制するために、国会審議の過程において本条が規定されることとなった。
解 説
1 本条に基づく通知義務は、売買契約の相手方から引渡しを受けた物品を、購入業者がクーリング・オフ期間内に第三者に引渡しをする場合に発生する。
売買契約の相手方がクーリング・オフを行った場合、原則として、売買契約の相手方は第三者に対して所有権に基づく物品の返還を請求することができる。しかし、引渡しを受けた物品が相手方からクーリング・オフされることについて第三者が善意無過失であれば、相手方はクーリング・オフをしても第三者に当該物品の所有権を対抗することができなくなる。また、相手方がクーリング・オフをしたにもかかわらず、第三者に当該物品が引き渡された場合には、第三者は当該物品の所有権に関して購入業者が無権利者であることにつき善意無過失であれば、当該物品の所有権を即時取得(民法第 192 条)し得る。本条の規定に基づき、クーリング・オフ期間内に物品を引き渡す第三者に対し、購入業 者が当該物品はクーリング・オフされることがある旨又はクーリング・オフされた旨(物品の所有権を購入業者が持たない旨)を通知することで、第三者が善意無過失である場合は発生しなくなり、結果としてクーリング・オフをした売買契約の相手方は第三者に所有
権を対抗することができるようになる。
また、結果として、第三者をしてクーリング・オフ期間内は訪問購入に係る物品の引渡しを受けることを消極的にせしめることを意図しているものである。
⑴ 「売買契約の相手方から物品の引渡しを受けた後に、……第三者に当該物品を引き渡すときは」
法第 58 条の 11 の解説⑴を参照。
⑵ 「第 58 条の 14 第1項ただし書に規定する場合以外の場合において」
法第 58 条の 11 の解説⑵を参照。
⑶ 「主務省令で定めるところにより、同項の規定により当該物品の売買契約が解除された旨又は解除されることがある旨を」
本条に基づく通知は、法第 58 条の 11 の通知と異なり、書面で行う必要がある(省令
第 145 条第1項)。これは、第三者が善意無過失か否かをめぐって争いが生ずるのを防ぐことを目的としている。
省令第 145 条第2項から第6項まででは、通知書面に記載すべき事項、様式が定められている。なお、購入業者は第三者に対し、第三者の氏名や住所等が契約の相手方に対して通知される旨を口頭でも告げることが望まれる。
2 本条違反に対する罰則は規定されていないが、本条に違反する行為については、主務大臣による指示(法第 58 条の 12)や業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(指示等)
第 58 条の 12 主務大臣は、購入業者が第 58 条の5、第 58 条の6、第 58 条の7第1項、第 58 条の8第1項若しくは第2項若しくは第 58 条の9から前条までの規定に違反し、又は次に掲げる行為をした場合において、訪問購入に係る取引の公正及び売買契約の相手方の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その購入業者に対し、当該違反又は当該行為の是正のための措置、売買契約の相手方の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる。
一 訪問購入に係る売買契約に基づく債務又は訪問購入に係る売買契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること。
二 訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘をするに際し、当該売買契約に関する事項であつて、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの(第 58 条の 10 第1項第1号から第6号までに掲げるものを除く。)につき、故意に事実を告げないこと。
三 訪問購入に係る売買契約の申込みの撤回又は解除を妨げるため、当該売買契約に関する事項であつて、顧客又は売買契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げないこと。
四 前3号に掲げるもののほか、訪問購入に関する行為であつて、訪問購入に係る取引の公正及び売買契約の相手方の利益を害するおそれがあるものとして主務省令で定めるもの
2 主務大臣は、前項の規定による指示をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
訪問購入をめぐり違法又は不当な行為が行われた場合において、業者に対してその営業を継続しながら必要な是正又は改善措置をとらせることにより、法違反若しくは不当な状態を解消し、又はこうした状態に至った原因となる事由を除外して、訪問購入の適正化を図るため、主務大臣が業者に対して指示を行うことができることとしたものである。
解 説
1 「訪問購入に係る取引の公正及び売買契約の相手方の利益が害されるおそれがあると認めるとき」とは、購入業者が法第 58 条の5、第 58 条の6、第 58 条の7第1項、第 58
条の8第1項若しくは第2項若しくは第 58 条の9から第 58 条の 11 の2までの規定に違反し、又は本条第1項に掲げる行為をした事実のみならず、それらの行為が本法の保護法益を害するおそれがあると主務大臣が認めるに足りる程度の場合を指す。具体的にいかなる場合がこれに該当するかは、個々の実態に照らして判断することになる。
2 「次に掲げる行為」として本条第1項各号で以下のとおり規定している。
⑴ 「訪問購入に係る売買契約に基づく債務又は訪問購入に係る売買契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること」(第1号)イ 本号は、購入業者による民事上の債務不履行についての規定である。
ロ 「売買契約に基づく債務」は、物品の対価である代金の支払が基本的な債務であるが、当事者間で購入業者の債務に関する特約が存在すれば、それに基づく債務も含まれる。
「売買契約の解除によつて生ずる債務」とは、購入業者の原状回復義務であり、物品の引渡しを既に受けている場合における当該物品の返還義務等である。
例えば、売買契約の相手方たる消費者がクーリング・オフの行使が可能な場合にその通知を出しているにもかかわらず、購入業者が「クーリング・オフには応じられない。特商法に基づくクーリング・オフはできない旨約款に記載しており、貴方も同意したはずだ。」などと言って引渡しを受けた物品の返却を拒否したり、当該返却を不当に遅延することは本号に該当することとなる(クーリング・オフは売買契約の相手方が書面又は電磁的記録による通知を発した時点で効力を発するものであり、購入業者がそれを承諾するか否かという問題ではない。また、クーリング・オフは片面的強行規定であるため、クーリング・オフの行使が可能な場合において、当事者の同意でこれを排除することはできない。)。
ハ 「履行を拒否」とは、契約の相手方の請求に対して明示的に拒否する場合のほか、明示的に拒否することはしないまでも、実態上「拒否」と認められる場合(契約の相手方の請求を聞こうとしないなど)も含む。
ニ 「不当に遅延」について、「不当」とあるのは、①同時履行の抗弁権があるなど購入業者に正当事由がある場合もあり得ること、②解除がなされた時から直ちに本号に該当する状態が発生すると解釈することは現実的でなく、返却すべき物品の輸送時間に要する合理的期間等社会通念上認められた猶予期間の間は、本号には該当しないと解釈することが妥当であること(ただし、この猶予期間は、客観的に判断されるものであって、購入業者の独自の事情のみによって左右されるものではない。)という理由による。
ホ クーリング・オフの申出に対し、「紛失した。」、「他の品物と一緒になっていて分
からない。」などとして買い取った物品を返却しない事例が複数認められる購入業者については、自然現象の異変による災害等の特段の事情のない限り、「債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延」しているものと取り扱う。
⑵ 「訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘をするに際し、当該売買契約に関する事項であつて、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの(法第 58 条の 10 第
1項第1号から第6号までに掲げるものを除く。)につき、故意に事実を告げないこと。」
(第2号)
当然告げられるべきもの(法第 58 条の 10 第1項第1号から第6号までに掲げてい
るもの。)については、法第 58 条の 10 第2項において罰則によって禁止されている。本号ではそれ以外の「売買契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」を対象としている。
⑶ 「訪問購入に係る売買契約の申込みの撤回又は解除を妨げるため、当該売買契約に関する事項であつて、顧客又は売買契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げないこと。」(第3号)
法第 58 条の 10 第2項及び前号の規定により、勧誘の場面において顧客又は売買契約の相手方に対して重要事項を故意に事実を告げない行為が禁止され、主務大臣による指示の対象とされているのに加え、本号により、申込みの撤回等を妨げるため重要事項について故意に告げない行為が禁止されている。対象となる「(顧客又は売買契約の相手方の)判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」の範囲は、勧誘及び申込みの撤回等のいずれの場面においても同一である。
⑷ 「訪問購入に関する行為であつて、訪問購入に係る取引の公正及び売買契約の相手方の利益を害するおそれがあるものとして主務省令で定めるもの」(第4号)
省令第 146 条において次のとおり定めている。
① 訪問購入に係る売買契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘をし、迷惑を覚えさせるような仕方で訪問購入に係る物品の引渡しを受け、又は訪問購入に係る売買契約の申込みの撤回、解除若しくは法第 58 条の 15 の規定による物品の引渡しの拒絶について迷惑を覚えさせるような仕方でこれを妨げること。
「迷惑を覚えさせるような仕方」とは、客観的にみて相手方が迷惑を覚えるような 方法であればよく、実際に迷惑と感じることは必要ではない。具体的には、正当な理 由なく午後9時から午前8時までの間といった等不適当な時間帯に勧誘をすること、長時間にわたり勧誘をすること、執ように何度も勧誘すること等はこれに該当する ことが多い。
② 若年者、高齢者その他の者の判断力の不足に乗じ、訪問購入に係る売買契約を締結させ、又は訪問購入に係る物品の引渡しをさせること。
「若年者、高齢者その他の者」には、例えば、未成年者、成年に達したばかりの者、高齢者、精神障害者、知的障害者及び認知障害が認められる者、成年被後見人、被保
佐人、被補助人等が該当し得るところ、これらの者に対し、例えば、通常の判断力があれば締結しないような、本人にとって利益を害するおそれがあるような契約を締結させることや、法第 58 条の 15 の規定に基づき物品の引渡しの拒絶ができることを本人が理解できていない状況であるにもかかわらず、クーリング・オフ期間内に言葉巧みに物品の引渡しをさせることは本号に該当する。なお、一般的に該当し得る者を例示しているが、外形的な要件のみによって判断されるものではなく、上記に限らず本号に該当する場合もある。
③ 顧客の知識及び経験に照らして不適当と認められる勧誘を行うこと。
顧客の知識及び経験に照らして客観的に見て不適当と認められる勧誘が行われた 場合に適用されることとなる。いわゆる適合性原則を定めたものである。具体的には、購入業者が顧客に対して、その物品に関する知識や経験の不足につけ込む勧誘を行 うことは本号に該当する。
例えば、切手収集が趣味だった亡父の切手を譲り受けたものの、切手に全く詳しくない息子に対し、購入価格決定の根拠となる当該切手の有する価値に関して何ら説明せず、自宅にある切手を全て売却する契約を締結するよう勧誘する行為は、本号に該当する。
④ 訪問購入に係る売買契約を締結するに際し、当該契約に係る書面に年齢、職業その他の事項について虚偽の記載をさせること。
「その他の事項について虚偽の記載をさせる」とは、例えば、クーリング・オフの行使が可能な場合であるにもかかわらず、当該契約に係る書面に、契約の相手方をして「この契約はクーリング・オフの適用がありません。」などと虚偽の内容を記載せしめることが考えられるが、特にこれに限定するものではない。
⑤ 訪問購入に係る売買契約の締結について勧誘をするため、道路その他の公共の場所において、顧客の進路に立ちふさがり、又は顧客につきまとうこと。
「公共の場所」とは、およそ公衆が利用できる場所全てを指すものであり、公園、公会堂のみならず劇場、映画館、飲食店等も含む。
⑥ 契約書面等に記載すべき事項を電磁的方法により提供するに際し、次に掲げる行為を行うこと。
○ 電磁的方法による提供を希望しない旨の意思を表示した顧客又は売買契約の相手方に対し、電磁的方法による提供に係る手続を進める行為(イ)
○ 顧客又は売買契約の相手方の判断に影響を及ぼすこととなるものにつき、不実のことを告げる行為(法第 58 条の 10 第1項に規定する行為を除く。)(ロ)
○ 威迫して困惑させる行為(法第 58 条の 10 第3項に規定する行為を除く。)(ハ)
○ 財産上の利益を供与する行為(ニ)
○ 契約書面等の交付につき、費用の徴収その他財産上の不利益を与える行為(ニに掲げる行為を除く。)(ホ)
○ 電磁的方法による提供の承諾の取得に当たっての確認に際し、偽りその他不正の手段により顧客又は売買契約の相手方に不当な影響を与える行為(ヘ)
○ 電磁的方法による提供の承諾の取得に当たっての確認をせず、又は確認ができない顧客又は売買契約の相手方に対し電磁的方法による提供をする行為(ト)
○ 偽りその他不正の手段により顧客又は売買契約の相手方の承諾を代行し、又は電磁的方法により提供される事項の受領を代行する行為(チ)
○ 上記のほか、顧客又は売買契約の相手方の意に反して承諾させ、又は電磁的方法により提供される事項を受領させる行為(リ)
なお、詳しくは「契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン」を参照のこと。
3 「当該違反又は当該行為の是正のための措置、売買契約の相手方の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる」
主務大臣が購入業者に対し、違法状態又は不当な状態を改善させたり、消費者利益の保護を図るために必要な措置を具体的に指示して行わせるものである。
「当該違反又は当該行為の是正のための措置」とは、例えば、購入業者が訪問購入に係る売買契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘を行っていると認められる場合など、購入業者について認定された具体的違反行為について、違反行為を今後繰り返さないために当該違反に係る規制の遵守を求め、改善のための取組等について報告をさせること等である。
「売買契約の相手方の利益の保護を図るための措置」とは、例えば、購入業者が勧誘の際に申込みの撤回等に関する事項につき不実告知を行っていた場合に、売買契約の相手方の誤認を排除するため当該告知が事実に反していた旨の通知等をさせる(例:事実に反して「クーリング・オフの期間は法第 58 条の8の書面(その日前に法第 58 条の7の書面を受領した場合にあっては、その書面)の受領日から4日間である。」と告げており、当該購入業者の不実告知を認定した場合に、売買契約の相手方に対し「クーリング・オフ期間について不実のことを告げていた。」などと通知し、また、当該不実告知によりクーリング・オフできないと誤認があった場合には、その書面を受領した日から起算して8日間はクーリング・オフを行うことができる旨を記載した書面を交付させる。)ことなどである。
上記は主務大臣が指示できる事項の例示であり、これら以外の措置についても、その必要性が認められる限り指示を行うことができるという旨を明らかにするために、「その他の必要な措置」と規定している。
4 主務大臣が本条第1項の規定による指示をしたときは、その旨を公表することが義務付けられている(第2項)。
5 本条第1項の規定による指示に違反したときは、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 71 条第2号)ほか、主務
大臣による業務停止命令(法第 58 条の 13)等の対象となる。
(購入業者に対する業務の停止等)
第 58 条の 13 主務大臣は、購入業者が第 58 条の5、第 58 条の6、第 58 条の7第1項、第 58 条の8第1項若しくは第2項若しくは第 58 条の9から第 58 条の 11 の2までの規定に違反し若しくは前条第1項各号に掲げる行為をした場合において訪問購入に係る取引の公正及び売買契約の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は購入業者が同項の規定による指示に従わないときは、その購入業者に対し、2年以内の期間を限り、訪問購入に関する業務の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる。この場合において、主務大臣は、その購入業者が個人である場合にあつては、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を併せて命ずることができる。
2 主務大臣は、前項前段の規定により業務の停止を命ずる場合において、当該購入業者が個人であり、かつ、その特定関係法人(購入業者又はその役員若しくはその使用人(当該命令の日前1年以内において役員又は使用人であつた者を含む。次条第2項において同じ。)が事業経営を実質的に支配する法人その他の政令で定める法人をいう。以下この項及び同条第2項第1号において同じ。)において、当該停止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行つていると認められるときは、当該購入業者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その特定関係法人で行つている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができる。
3 主務大臣は、前2項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
訪問購入をめぐり違法行為等が行われた場合、その行為は罰則の対象となる場合もあるが、このような悪質な購入業者を放置しておくことは被害の拡大を招くものである。このため、主務大臣はこのような購入業者を名宛人として、業務停止命令や業務禁止命令を発することができることとするものである。さらに、業務停止命令等の実効性を確保するため、業務停止命令を受ける購入業者が個人事業者である場合に、特定関係法人において、当該停止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行っていると認められるときは、当該購入業者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その特定関係法人で行っている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができることも規定している。
解 説
1 本条第1項前段により主務大臣が業務停止を命ずることができる場合は、以下のとおりである。
⑴ 法第 58 条の 12 第1項に規定する指示を行うことができる場合であって、訪問購入に係る取引の公正及び売買契約の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると(主
務大臣が)認めるとき
⑵ 法第 58 条の 12 第1項の規定による主務大臣の指示に従わないとき
2 法第 58 条の 12 第1項に規定する「利益が害されるおそれがあると認めるとき」(指示のみが行われる場合)と本条第1項前段に規定する「利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき」(購入業者に対する業務停止命令が行われる場合)の違いについては当該違反行為の個々の実態に即して、売買契約の相手方たる消費者の利益の保護を図るために業務を停止させるまでに至らずとも必要な措置をとることで改善されると判断できる場合と、業務停止命令を発動しなければ実態が改善されないと判断される場合との違いである。なお、当然のことながら、業務停止命令を行う場合において、併せて法違反又は不当な状態の改善等のための措置を指示することも可能である。
3 業務停止命令の実効性をより高めるため、業務停止命令の対象となる個人事業者に対して、業務停止命令と併せて業務禁止命令を発出することができる(本条第1項後段)。業務禁止命令は、後述(法第 58 条の 13 の2)のとおり、①業務停止命令を受けた範囲の業務を新たに開始すること、②同種業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを禁止するものであるが、個人事業者の場合、業務停止命令によって当該個人事業者は新たに業務を開始することは禁止されることとなり、①の内容について改めて規定する必要はないことから、②の内容のみを規定している(法人の役員等又は個人事業者の使用人に対する業務禁止命令については法第 58 条の 13 の2の解説1を参照のこと。)。
4 個人事業者である購入業者に対する業務禁止命令に係る条文の解釈は以下のとおり。
⑴ 「この場合において」
購入業者に対する業務停止命令を発出する場合においての意である。業務停止命令の発出がされない場合に業務禁止命令が発出することはできない。
⑵ 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」
業務禁止命令は、業務停止命令と同一の期間を定めて発出される。これは単に期間の長さが一致しているというだけでなく、通常、始期と終期についても一致することとなる。そのため、例えば業務停止命令のみを発出し、その期間が明けた後に業務禁止命令を発出することはできない。
⑶ 「当該停止を命ずる範囲の業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止」
「当該停止を命ずる範囲の業務」とは、業務停止命令によって停止が命じられる業務であり、その範囲内において業務禁止を命ずることができる。例えば、訪問購入に係る売買契約の締結に関する業務について業務停止命令が発出されている場合には、業務禁止命令の内容としては、訪問購入に係る売買契約の締結に関する業務を営む法人において、訪問購入に係る売買契約の締結に関する業務を担当する役員となることを禁止する等ということになる。
⑷ 「法人」
法第8条第1項後段に規定する「法人」と同様に、いわゆる人格のない社団における役員に相当する者になることについても禁止している。
⑸ 「当該業務を担当する役員」
法第8条第1項後段に規定する「役員」と同様に、「業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者」になることも禁止している。
5 第2項は、業務停止命令を受ける購入業者が個人事業者である場合に、業務停止命令の時点で既に、特定関係法人において、当該停止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行っていると認められるときは、当該購入業者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その特定関係法人において行っている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができることを規定している。
⑴ 「特定関係法人」
「特定関係法人」とは、購入業者又はその役員若しくはその使用人(当該命令の日前
1年以内において役員又は使用人であった者を含む。)が事業経営を実質的に支配する法人その他の政令で定める法人をいう。具体的には、政令第 36 条において読み替えて
準用する政令第7条の規定に基づく省令第 20 条の準用及び読替え規定(省令第 147 条)により、以下の法人が該当することとなる。
① 購入業者が個人である場合においては、次に掲げる法人
イ 当該購入業者又はその使用人が代表権を有する役員である法人
ロ 当該購入業者又はその使用人がその総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)又は総社員の議決権の 100 分の 20 以上 100 分の 50 以下の議決権を保有する会社その他
の法人(外国におけるこれらに相当するものを含む。省令第 20 条において「会社等」という。)
ハ 当該購入業者又はその使用人がその総株主又は総社員の議決権の 100 分の 50 を超える議決権を保有する会社等(当該会社等の子会社等及び関連会社等を含む。)
② 上記のほか、購入業者の業務の一部又は当該業務に関連する事業を行っている法人であって、当該購入業者が出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、当該法人の財務及び営業又は事業の方針の決定を支配しているもの又は当該方針の決定に対して重要な影響を与えることができるもの
(注) 「使用人」については、法第8条の解説5⑴の注釈を参照。
⑵ 「当該停止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行つていると認められるとき」
「当該停止を命ずる範囲の業務」とは、業務停止命令によって停止が命じられる業務であり、「同一の業務を行つていると認められるとき」とは、業務停止命令前から別法
人において既に停止を命じられる範囲の業務と同一の業務を開始している場合の意である。
⑶ 「当該購入業者に対して」
本条第2項に基づき業務の停止を命ぜられる名宛人は、同条第1項前段の業務停止命令を受ける購入業者である個人となる(特定関係法人が名宛人となるわけではない。)。すなわち、特定関係法人で行われている業務のうち、同条第1項前段の業務停止命令を受ける購入業者である個人が当該特定関係法人で行っている業務の範囲で、同条第2項による業務の停止を命ずることができる。
⑷ 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」解説4⑵を参照。
⑸ 「その特定関係法人で行つている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができる。」
購入業者に対する業務停止命令前から、⑴に記載した特定関係法人において既に行っている業務であって、購入業者に対する業務停止命令によって停止が命じられる業務と同一の業務を停止すべきことを命ずることができるの意である。
なお、業務停止命令と業務禁止命令の用語の使い分けについては、既に行っている業務を止めさせることを「業務の停止」とし、新たに業務を行ってはならないとすることを「業務の禁止」としている。
6 第3項は、主務大臣が本条第1項又は第2項の命令をしたときは、その旨の公表を義務付けるものである。これは、購入業者の名称等を広く消費者に知らしめて被害の拡大の防止を図るとともに、他の事業者が、事情を知らずに、業務禁止を命じられた者に対し、業務禁止を命じられた範囲の業務を行わせてしまうことや当該業務の担当役員に就任させてしまうことを防止するためのものである。
7 本条第1項又は第2項の命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 70 条第3号)。
(役員等に対する業務の禁止等)
第 58 条の 13 の2 主務大臣は、購入業者に対して前条第1項の規定により業務の停止を命ずる場合において、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による訪問購入に関する業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者に該当するときは、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)の禁止を命ずることができる。
一 当該購入業者が法人である場合 その役員及び当該命令の日前1年以内においてそ
の役員であつた者並びにその使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
二 当該購入業者が個人である場合 その使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
2 主務大臣は、前項の規定により業務の禁止を命ずる役員又は使用人が、次の各号に掲げる者に該当するときは、当該役員又は当該使用人に対して、当該禁止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その行つている当該各号に規定する同一の業務を停止すべきことを命ずることができる。
一 当該命令の理由となつた行為をしたと認められる購入業者の特定関係法人において、当該命令により禁止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行つていると認められる者
二 自ら購入業者として当該命令により禁止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行つていると認められる者
3 主務大臣は、前2項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
本条においては、訪問購入を行う法人の役員等及び個人事業者の使用人に対する業務禁止命令等について規定している。
解 説
1 本条第1項は、法第 58 条の 13 第1項前段の業務停止命令と同時に、処分を受けた法人の役員等に対し、新たに業務を開始すること等を禁止し、業務停止命令が実質的に遵守されるようにするものであり、条文の解釈は以下のとおりである。
⑴ 「前条第1項前段の規定により業務の停止を命ずる場合において」
法第 58 条の 13 後段と同様に、購入業者に対する業務停止命令を発出する場合においての意である。
⑵ 「当該各号に定める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による訪問購入に関する業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者」
業務停止命令を受けた法人の役員について、役員であることをもって一律に同種の業務を営む他の法人の役員となること等を禁止することとした場合、問題となった違反行為について責任の軽い者が業務禁止命令の対象となり得ることとなるため、購入業者に対する業務停止命令を発出する事案ごとに業務禁止命令の対象となる者を特定すべく、主務省令で定める者に該当する場合に限って業務禁止命令の対象となることとしている。こうした者について、省令第 148 条において、「法第 58 条の 13 第1項前段の規定により停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしている者」と規定している。
なお、個人事業者に対して業務禁止命令が行われる場合(法第 58 条の 13 第1項後段)においては、当該個人事業者が停止を命じられた業務の遂行に主導的な役割を果たしその責任を負うことは明らかであることから、このような要件は規定されていない。
⑶ 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」法第 58 条の 13 の解説4⑵を参照。
⑷ 「当該停止を命ずる範囲の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)」
「当該停止を命ずる範囲の業務」については法第 58 条の 13 の解説4⑶を参照。
例えば、訪問購入に係る売買契約の締結に関する業務について業務停止命令が発出されている場合には、業務禁止が命じられる内容としては、法人を新たに設立し、当該法人において訪問購入に係る売買契約の締結に関する業務を開始すること(訪問購入に係る売買契約の締結に関する業務を担当する役員となることを含む。)を禁止する等となる。なお、「役員」については法第 58 条の 13 の解説4⑸を参照。
⑸ 「当該購入業者が法人である場合」
法第8条第1項後段で定義している「法人」が該当し、人格のない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。
⑹ 「当該命令の日前1年以内においてその役員であつた者」
「役員」とは法第8条第1項後段において定義されている「役員」である。これは、実質的に支配力を有している者も含まれることから、例えば、形式的に取締役の立場から退任しながらも実質的にはそれ以後も訪問購入に関する営業活動の具体的な指示を引き続き行っていたような者は、退任の日が当該命令の日前1年以内であったか否かを問うまでもなく、当該命令の日においても「役員」に該当するものと評価されることになる。
⑺ 「使用人」
「使用人」の定義は法第8条第2項で規定されており、「その営業所の業務を統括する者その他の政令で定める使用人」である。これは、役員には該当しないものの、これに準ずるような役割を果たす立場にある使用人は法人の業務の中核を担っているものと評価されることから、そのような従業員についても、業務禁止命令の対象となり得ることを規定したものである。具体的には法第8条の解説5⑴の注釈を参照。
2 前条第1項後段及び本条第1項による業務禁止命令についてまとめると、以下のとおりとなる。
① 法人である購入業者に対して業務停止を命ずる場合は、当該法人の役員若しくは使用人又は当該命令以前1年以内にこれらの立場にあった者であって、かつ、停止を命じられた業務の遂行に主導的な役割を果たしている者に対し、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の業務を新たに開始すること及び当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を命令できる。
② 個人である購入業者に対して業務停止を命ずる場合は、
イ 当該個人事業者本人に対し、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を命令できるほか、
ロ 当該個人事業者の使用人又は当該命令以前1年以内に使用人であった者であって停止を命じられた業務の遂行に主導的な役割を果たしている者に対し、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の業務を新たに開始すること及び当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を命令できる。
3 第2項は、第1項の規定により業務禁止命令を受ける役員又は使用人が、業務禁止命令の時点で既に、特定関係法人において又は自ら購入業者として、当該禁止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行っていると認められるときは、当該役員又は当該使用人に対して、当該禁止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その特定関係法人において又は自ら購入業者として行っている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができることを規定している。
⑴ 「特定関係法人」
本項における特定関係法人は購入業者が個人である場合、法人である場合の双方があり得るため、法第 58 条の 13 解説5⑴で挙げたものに加えて、購入業者が法人であ
る場合においては以下の法人も特定関係法人に含まれる(省令第 20 第1項第2号の準
用及び読替え(省令第 147 条))。
イ 当該購入業者の子会社等、当該購入業者を子会社等とする親会社等、当該購入業者を子会社等とする親会社等の子会社等(当該購入業者、当該購入業者の子会社等及び当該購入業者を子会社等とする親会社等を除く。)及び当該購入業者の関連会社等
ロ 当該購入業者の役員(政令第7条の役員をいう。ハ及びニにおいて同じ。)又はその使用人が代表権を有する役員である法人
ハ 当該購入業者の役員又はその使用人がその総株主又は総社員の議決権の 100 分の 20 以上 100 分の 50 以下の議決権を保有する会社等
ニ 当該購入業者の役員又はその使用人がその総株主又は総社員の議決権の 100 分の 50 を超える議決権を保有する会社等(当該会社等の子会社等及び関連会社等を含む。)
(注) 「親会社等」、「子会社等」、「関連会社等」については、法第8条の2の解説3
⑴の注釈を参照のこと。
⑵ 「当該役員又は当該使用人に対して」
本条第2項に基づき業務の停止を命ぜられる名宛人は、同条第1項の業務禁止命令を受ける個人(すなわち、法第 58 条の 13 第1項前段に基づく業務停止命令を受ける購入業者の役員又は使用人)となる(本条第2項第1号も、特定関係法人が名宛人となるわけではない。)。
⑶ 「当該禁止を命ずる期間と同一の期間を定めて」
法第 58 条の 13 の解説4⑵を参照。
⑷ 「当該各号に規定する同一の業務を停止すべきことを命ずることができる。」
各号においては、「当該命令により禁止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行つていると認められる者」とあるところ、「当該命令により禁止を命ずる範囲の業務」とは、業務禁止命令によって禁止が命じられる業務であり、「同一の業務を行つていると認められる」とは、業務禁止命令前から別法人(特定関係法人)において又は自ら購入業者として、禁止を命じられる範囲の業務と同一の業務を既に開始している場合の意である。この場合においては、既に開始している当該同一の業務についても停止を命ずることができる。
4 第3項は、主務大臣が本条第1項又は第2項の命令をしたときは、その旨の公表を義務付けるものである(前条の解説6を参照のこと。)。
5 本条第1項又は第2項の命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 70 条第3号)。
(訪問購入における契約の申込みの撤回等)
第 58 条の 14 購入業者が営業所等以外の場所において物品につき売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は購入業者が営業所等以外の場所において物品につき売買契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約を締結した場合を除く。)におけるその売買契約の相手方(以下この条及び次条において「申込者等」という。)は、書面又は電磁的記録によりその売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第 58 条の8第1項又は第2項の書面を受領し
た日(その日前に第 58 条の7第1項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領
した日)から起算して8日を経過した場合(申込者等が、購入業者が第 58 条の 10 第1項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は購入業者が同条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該購入業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して8日を経過した場合)においては、この限りでない。
2 申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。
3 申込者等である売買契約の相手方は、第1項の規定による売買契約の解除をもつて、第三者に対抗することができる。ただし、第三者が善意であり、かつ、過失がないときは、この限りでない。
4 申込みの撤回等があつた場合においては、購入業者は、その申込みの撤回等に伴う損
害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
5 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る代金の支払が既にされているときは、その代金の返還に要する費用及びその利息は、購入業者の負担とする。
6 前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。
趣 旨
訪問購入においては、売買契約の相手方が受動的な立場に置かれ、契約締結の意思形成において購入業者の言辞に左右される面が強いため、契約締結の意思が不安定なまま契約の申込みや締結に至り、後日履行や解約をめぐって紛争が生ずることが少なくない。本条は、このような弊害を除去するため、いわゆるクーリング・オフ制度、すなわち契約の申込み又は締結後一定期間内は申込者等が無条件で申込みの撤回又は契約の解除を行うことができる制度を設けたものである。
解 説
1 第1項は、クーリング・オフすなわち申込みの撤回等を行うことができる場合を規定している。
⑴ 次の二つの場合が、クーリング・オフのできる場合である。
イ 「営業所等以外の場所において物品につき売買契約の申込みを受けた場合」
申込みを受けるのみにとどまる場合と、申込みをした後、購入業者が営業所等に戻って承諾行為をして契約を成立させた場合も含んでいる。したがって、「申込みを受けた場合」であっても、「申込みの撤回」をする場合と「契約の解除」をする場合がある。
ロ 「営業所等以外の場所において物品につき売買契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約を締結した場合を除く。)」
申込みを営業所等で受けた場合には、その後、契約の締結が営業所等以外の場所で行われても、売買契約締結の相手方たる消費者の意思形成において不安定性があるとはいえないため、除外することとしている。
⑵ 「書面又は電磁的記録により」
これは、クーリング・オフが契約の相手方からの一方的な意思表示であるので、「口頭」ではなく「書面又は電磁的記録」によってその意思を表示することにより、当事者間の権利関係を明確にするとともに、後日紛争が生ずることのないようにする趣旨である(仮に書面又は電磁的記録でなく、口頭でクーリング・オフを認めると証拠が残らないため、業者が「聞いていない。」と抗弁すると紛争となるおそれがある。そのため、証拠が残る方法(例えば、「書面」であれば内容証明郵便など)で行うことが望ましい。)。
「電磁的記録」による通知の代表的な例としては、電子メールのほか、USBメモリ等の電磁的記録媒体や、購入業者が自社のウェブサイトに設けるクーリング・オフ専用フォーム等により通知を行う場合が該当する。
電磁的記録によるクーリング・オフについて、消費者が電磁的記録を発したかどうか、また、どの時点でそれを発したかに関する紛争が生じないように、購入業者としては、 電磁的記録によるクーリング・オフを受けた場合、消費者に対し、クーリング・オフを 受け付けた旨について電子メール等で連絡をすることが望ましいと考えられる。また、例えば、「電子メールでクーリング・オフを行う場合には、以下のアドレスにお送りく ださい。」などと合理的な範囲内でクーリング・オフに係る電磁的記録による通知の方 法を特定し、それを契約書面等に記載することにより、購入業者が確認しやすいクーリ ング・オフに係る電磁的記録による通知の方法を示すことは妨げられるものではない。
なお、書面又は電磁的記録でなく口頭で申込者等が解除を申し出て購入業者が異議を唱えずこれを受領した場合には、クーリング・オフと同趣旨の合意解除が成立したものとなる場合が多いと考えられる。
⑶ 「その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除」
購入業者が営業所等以外の場所で申込みを受け、その場では承諾せずに営業所等に帰ってから承諾行為をした場合、その時点で申込み段階から契約締結段階へと移行することとなるが、当該申込みをした者は、この移行にかかわりなく、ただし書の期間内は、クーリング・オフを行うことができる。
⑷ 「ただし、申込者等が第 58 条の8第1項又は第2項の書面を受領した日……から起算して8日を経過した場合……においては、この限りでない。」
ただし書に該当する場合以外は、本条に基づくクーリング・オフを行うことができるという意味である。したがって、この場合に、民商法原則に則って本来できる申込みの撤回又は契約の解除ができなくなるということではない。本条は、これら民商法原則による申込みの撤回又は契約の解除とは別に、本条に規定するクーリング・オフを強行的に(第6項)定めようとするものであって、これ以外の申込みの撤回又は契約の解除については、民商法一般原則及び当事者の特約によって規定されることとなる。
イ 「第 58 条の8第1項又は第2項の書面を受領した日(その日前に第 58 条の7第
1項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)」
① 購入業者が法第 58 条の7第1項又は第 58 条の8第1項若しくは第2項の書面を交付しなかった場合は、クーリング・オフをすることができなくなるまでの8日間の起算日が到来せず、クーリング・オフできる期間が継続することになる(すなわち、クーリング・オフをする権利が消費者側に留保されていることになる。)。
② また、これらの書面にクーリング・オフができる旨が記載されていないなど重要な事項が記載されていない書面は、法第 58 条の7第1項又は第 58 条の8第1項若しくは第2項の書面とは認められず、この場合にも同様にクーリング・オフできる期間が継続することになると解される。
ロ 「から起算して8日を経過した場合」
この場合にはクーリング・オフができなくなるということであり、したがって、逆
に、8日を経過するまではクーリング・オフをすることができる。
書面を受領した日を含む8日が経過したときの意であるから、例えば、4月1日に法定書面を受領していれば、8日まではできるが、9日からはできない。
ハ 「(申込者等が、……書面を受領した日から起算して8日を経過した場合)」
申込者等からのクーリング・オフを妨害するため、購入業者が虚偽の説明を行ったり、威迫して困惑させたりする行為は、罰則をもって禁止しており、このような違法行為を受けたことにより、法第 58 条の7第1項又は第 58 条の8第1項若しくは第
2項の書面を受領した日から8日が経過してしまい、クーリング・オフできなくなった申込者等が救済されないのは妥当でない。
そこで、訪問販売ほか本法のその他の取引類型と同様に、購入業者のこのような違 法行為を受けて、申込者等が誤認又は困惑してクーリング・オフしなかった場合には、その申込者等は、契約書面等を受領した日から起算して8日を経過した場合(上記イ 及びロ参照)であっても、いつでもクーリング・オフできる。ただし、法律関係の安 定性の確保にも配慮して、その購入業者がクーリング・オフできる旨を記載した書面 を改めて交付し、それから8日を経過すると、その申込者等は、クーリング・オフを することができなくなる。
8日間
(通常のクーリング・オフ期間)
8日間
②クーリング・オフ妨害行為
③クーリング・オフできる旨を
記載した書面の交付
④申込者等は、この期間クーリング・オフをすることができる
本規定が適用される一場面を例示的に図解すると以下のとおりとなる。
①契約・書面交付
なお、購入業者が上記クーリング・オフできる旨を記載した書面を交付するに当たっては、「主務省令で定めるところにより」交付する必要があり、省令では、当該書面の記載事項、様式のほか、交付の際の購入業者の説明義務を定めている(省令第 149条)。よって、購入業者は、上記書面を交付するとすぐに、契約の相手方がその書面を見ていることを確認した上で、相手方に対して「これから8日経過するまではクーリング・オフできる。」などと口頭で告げる必要があり、そのようにして交付されなかった場合は、交付から8日を経過した場合であってもその相手方は依然としてクーリング・オフすることができることとなる。一度、不実告知や威迫といったクーリング・オフ妨害行為を受けた相手方は、クーリング・オフできないと思い込んでいることも多く、「依然としてこれから8日経過するまではクーリング・オフできる。」などと記
載された書面をただ交付されただけでは、このような相手方の十分な救済とはならないことから、このような説明義務が規定されている。
2 第2項は、民法第 97 条の到達主義の例外を定めたものであり、実質8日間申込者等が売買契約について検討することができる。したがって、申込者等は、この8日間のうちに申込みの撤回等の書面又は電磁的記録による通知を発すればよい。
3 第3項は、訪問購入において、クーリング・オフの趣旨を実質的に担保するための特則である。法第 58 条の 15 に基づき、クーリング・オフ期間内であれば売買契約の相手方たる消費者は物品の引渡しを拒むことができることとなるものの、例えば、任意に物品を購入業者に引き渡し、その後クーリング・オフを行った場合、購入業者からの転売等により当該物品の引渡しを受けた第三者に対し、売買契約の相手方は所有権を対抗できないことがある。こうした状況を解消するため、法第 58 条の 11 及び第 58 条の 11 の2と併せて、本条において当該第三者の保護について制限を設けることとしたものである。また、第三者が善意無過失か否かについて、売買契約の相手方が証明することは困難であることから、相手方の立証負担の軽減を行うこととした。
⑴ 「第1項の規定による売買契約の解除をもつて」
第1項に規定するクーリング・オフをしたことによってという意味である。申込みの撤回時には物品の所有権は購入業者に何ら移転していないことから、想定している事態の射程外であるため、解除の場合に限定したものである。
⑵ 「第三者」
クーリング・オフ前に転売等により物品の引渡しを受けた第三者について定めたものである。「第三者」とは、当事者(当該売買契約に係る購入業者及びその契約の相手方)及びその包括承継人以外の者で、当該契約が結ばれたことによって生じた法律関係に対して、当該契約の申込みの撤回等を主張する者と矛盾する権利関係を新たに持つに至った者のことである。
⑶ 「対抗することができる」
悪意又は過失ある第三者に物品が引き渡されていた場合に、売買契約の相手方が物品の所有権を対抗することができ、物品の返還を求めることができることを認めたものである。当該第三者が物品を損壊してしまった場合等は、物品の返還は履行不能となるが、その場合、売買契約の相手方が購入業者に対して金銭賠償等を請求することとなる。
⑷ 「ただし、第三者が善意であり、かつ、過失がないときは、この限りでない」
売買契約の相手方からの第三者への物品返還請求に対し、善意無過失の第三者が抗弁できるための規定であると同時に、相手方の立証責任を第三者に転換したものである。なお、「善意であり、かつ、過失がない」とは、第三者が引渡しを受けた物品が、訪問購入によるもので、クーリング・オフされる物品であることを過失なく知らない、ということである。「過失」とは、一般的に、損害発生の危険を予見できるのに予見し
なかったこと及びこれを回避する行為義務を怠ったことがその要素として認められるとされているが、個々の取引当事者の属性や商慣行、取引状況等から柔軟に判断されることとなる。例えば、購入を業としている第三者が、訪問購入を業としている従来からの取引先である売主から物品を購入するような場合には、当該物品がクーリング・オフされるかもしれないという予見可能性が発生し、取引先である売主にその旨を確認する等してトラブルの発生を回避することはできるものと考えられる。
4 第4項は、申込みの撤回等が行われた場合、購入業者は債務不履行に基づく損害賠償の請求をできないことはもちろんであるが、本条の趣旨に鑑み、単なる損失補償の意味を持つ損害賠償、違約金も請求しないことを定めている。
5 第5項は、本条の趣旨を徹底するため、クーリング・オフを行使した際既に対価が支払われている場合、当該対価の返還に要する費用及びクーリング・オフを行使するまでに発生している当該対価の利息は購入業者の負担とすることを定めている。
訪問購入において、売買契約の相手方は購入業者から物品の対価として代金の支払を受けることとなるが、支払時期については特段法定しないことから、クーリング・オフ期間内に代金の支払を受けることが生じ得る。こうした場合にクーリング・オフが行われると、その効果として両当事者に原状回復義務が発生し、売買契約の相手方は購入業者に対して代金を返還しなければならないものの、代金の返還について振込の手数料や指定場所への代金の持込み等費用のかかる手法が要される場合がある。また、物品が購入業者に引き渡されており、物品の使用利益が発生していたとしても、それと相殺されないような場合には、通常、売買契約の相手方は当該代金の利息についても返還しなければならない
(民法第 545 条第2項)。
代金の返還に要する費用や代金の利息がかさむと、クーリング・オフを認めた本条の趣旨が結果的に没却されるおそれがあるため、本項において、こうした費用や利息は購入業者の負担としたものである。
なお、申込みの撤回等に係る物品の引渡しに係る費用(申込みの撤回等の前に物品を購入業者に引き渡していた場合)については、物品の返還義務を負う購入業者が負担するところとなる。
6 第6項は、本条が申込者等に不利な特約についてはこれを排除するいわば片面的強行規定である旨を明らかにしたものである。
(物品の引渡しの拒絶)
第 58 条の 15 申込者等である売買契約の相手方は、前条第1項ただし書に規定する場合を除き、引渡しの期日の定めがあるときにおいても、購入業者及びその承継人に対し、訪問購入に係る物品の引渡しを拒むことができる。
趣 旨
訪問購入においては、一度物品を購入業者に引き渡してしまうと、第三者への転売等により、物品を元々所有していた訪問購入に係る売買契約の相手方がクーリング・オフをしても、引き渡した物品そのものが返却されないおそれが高くなり、クーリング・オフを認めた趣旨が没却される可能性がある。
そこで、このような弊害を除去するため、クーリング・オフが認められる期間内は、売買契約の相手方は物品の引渡しを拒むことができるように規定したものである。
解 説
1 本条は、例えば、物品の代金を購入業者から受け取ったこと等により、同時履行の抗弁を主張できなくなった売買契約の相手方が物品の引渡しを拒絶した場合であっても、クーリング・オフ期間内であれば債務不履行の責めから解放するものとして、相手方が物品の引渡しを抗弁できることを認めることで、クーリング・オフの実効性を担保している。
⑴ 「申込者等である売買契約の相手方」
法第 58 条の 14 第1項に規定する申込みの撤回等を行う者のことである。物品の引渡しに係る債務は、売買契約締結後にしか発生しないため、本条の主体としては「売買契約の相手方」と限定したものである。
⑵ 「前条第1項ただし書に規定する場合を除き」
いわゆるクーリング・オフができる期間のことである。物品の引渡しに係る債務の発生は、契約締結後であるところ、申込みの書面を受領した場合は、申込み時点では物品の引渡しに係る債務は発生していないものの、本条はクーリング・オフの実効性を担保するための規定であるため、契約の熟慮期間であるクーリング・オフと同じ期間とされている。
⑶ 「引渡しの期日の定めがあるときにおいても」
当事者間で特約がある場合であっても、本条が強行規定としての効力があることを示すものである。
⑷ 「物品の引渡しを拒むことができる」
売買契約の相手方が物品の引渡しを拒むことができることを規定しているのみであって、相手方自らの意思としてクーリング・オフ期間経過前に物品を引き渡す意思がある場合の物品の引渡しを禁止したものではない。
2 なお、売買契約の相手方が物品の引渡しを拒絶した場合、特約がない限り、同時履行の抗弁権によって購入業者は売買契約の相手方からの代金請求を拒むことができる。
(訪問購入における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限)
第 58 条の 16 購入業者は、第 58 条の8第1項各号のいずれかに該当する売買契約の締結をした場合において、その売買契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに
対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払をその売買契約の相手方に対して請求することができない。
一 当該売買契約の解除が当該売買契約についての代金の支払後である場合 当該代金に相当する額及びその利息
二 当該売買契約の解除が当該売買契約についての代金の支払前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
2 購入業者は、第 58 条の8第1項各号のいずれかに該当する売買契約の締結をした場合において、その売買契約についての物品の引渡しの義務が履行されない場合(売買契約が解除された場合を除く。)には、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払をその売買契約の相手方に対して請求することができない。
一 履行期限後に当該物品が引き渡された場合 当該物品の通常の使用料の額(当該物品の購入価格に相当する額から当該物品の引渡しの時における価額を控除した額が通常の使用料の額を超えるときは、その額)
二 当該物品が引き渡されない場合 当該物品の購入価格に相当する額
趣 旨
訪問購入においては、購入業者の主導の下に取引内容が確定されることが多いため、後日、その履行をめぐってトラブルを生ずることが少なくない。その場合、売買契約の相手方たる消費者の債務不履行を理由にその契約中の損害賠償等の定めを盾に法外な損害賠償金を請求される例がある。しかし、これを放置すれば、購入業者が自分に有利な方向で問題を解決し、売買契約の相手方の利益が損なわれるおそれがあるので、本条では、損害の賠償等の請求上限額を定め、妥当な金額に制限しようとするものである。
解 説
1 契約に係る債務の不履行(例えば、クーリング・オフ期間が経過したにもかかわらず、契約の相手方が物品を購入業者に引き渡さない場合)について損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときは、民法 420 条の規定により裁判所はその額を増減することができないこととなっているが、本条第1項は、そのような定めがある場合において契約が解除されたときにも第1号及び第2号のそれぞれの場合に応じて当該各号に掲げる額に、これらの金額の支払遅延があった場合には法定利率(民法第 404 条。令和5年時点では年
3パーセント)による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払を請求することができず、その超える部分についての請求は無効となることとしたものである。あくまで上限を規定したものであり、本項に定める額まで請求できる権利を購入業者に与えたものと解してはならない。
なお、購入業者に債務不履行があった場合には、民法の一般原則に基づき売買契約の相
手方が債務の完全履行請求や契約解除を主張することができるほか損害賠償請求を行うこととなる。本条は、たとえ契約の相手方の責に帰すべき事由により契約が解除された場合であっても購入業者が一定額を超えて損害賠償等を請求することができない旨を規定するものであり、購入業者の責に帰すべき事由により契約が解除された場合に購入業者が本項に定める金額に相当する違約金を請求できるという意味に解してはならない。
⑴ 「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」
「契約の締結……のために通常要する費用」としては、書面作成費等、「契約の…… 履行のために通常要する費用」としては、物品の引取りに要する費用、催告費用等があ るが、このために現実に要した費用ではなく、業界の平均費用が標準となり、当該契約 のみに特別に費用をかけた場合でも、それをそのまま請求することができない(例えば、当該契約を担当した営業員の日当、交通費、食事代等を含めて請求することは、論外で ある。また、無料で査定を行っている旨を勧誘の際等に主張しておきながら、契約解除 の際には査定に要した費用を含めて請求することはできない。)。
⑵ 本項は、約定解除の場合についての規定であり、合意解約がなされた場合は、本項は適用されないが、このような場合であっても本項に準じて取り扱うことが望ましい。
2 第2項は、契約が解除されない場合の売買契約の相手方の債務履行遅延等を理由とした損害賠償(民法第 415 条)等の額を制限したものであり、契約の「解除」の場合以外における不当な損害賠償等に係る消費者トラブルを防止するため制限を行うこととしたものである。あくまで上限を規定したものであり、本項に定める額まで請求できる権利を購入業者に与えたものと解してはならない。
○ 「物品の通常の使用料の額」
当該物品について賃貸借が営業として行われていれば、その賃貸料が参考となるが、そのような営業がない場合には、その物品の減価償却費、金利、マージン等に見合って、その額が合理的範囲で算定されることとなる。
具体的な使用料については、物品によっては当該物品を販売する業界において、標準的な使用料率が算定されているものもあるので、それを参考とされたい。業界において算定されていない場合は、当該購入業者が請求する損害賠償等の額の積算根拠を確認し、その妥当性を個別に判断する必要がある。
3 「売買契約についての代金」及び「物品の購入価格」
代金の受領方法が分割の場合は、契約に基づき売買契約の相手方が受領する金銭の合計額のことである。
(適用除外)
第 58 条の 17 この章の規定は、次の訪問購入については、適用しない。
一 売買契約で、第 58 条の4に規定する売買契約の申込みをした者が営業のために若しくは営業として締結するもの又はその売買契約の相手方が営業のために若しくは営業
として締結するものに係る訪問購入 二 本邦外に在る者に対する訪問購入 三 国又は地方公共団体が行う訪問購入
四 次の団体がその直接又は間接の構成員に対して行う訪問購入(その団体が構成員以外の者にその事業又は施設を利用させることができる場合には、これらの者に対して行う訪問購入を含む。)
イ 特別の法律に基づいて設立された組合並びにその連合会及び中央会ロ 国家公務員法第 108 条の2又は地方公務員法第 52 条の団体
ハ 労働組合
五 事業者がその従業者に対して行う訪問購入
2 第 58 条の6第1項及び第 58 条の7から前条までの規定は、次の訪問購入については、適用しない。
一 その住居において売買契約の申込みをし又は売買契約を締結することを請求した者に対して行う訪問購入
二 購入業者がその営業所等以外の場所において物品につき売買契約の申込みを受け又は売買契約を締結することが通例であり、かつ、通常売買契約の相手方の利益を損なう
おそれがないと認められる取引の態様で政令で定めるものに該当する訪問購入
趣 旨
本条は、訪問購入に係る本章の規定が除外される場合について規定したものである。解 説
1 第1項は、訪問購入に関する規定が全て適用除外される場合である。
⑴ 第1号は、本法が一般消費者を保護するための法律であるので、契約の申込みをした者若しくは売主である売買契約の相手方が営業のために又は営業として締結する契約に係るものには適用しない旨の規定である。「営業のために若しくは営業として」とは、本法においては商行為に限定するものではない。ただし、本号の趣旨は、契約の目的・内容が営業のためのものである場合に本法が適用されないという趣旨であって、契約の相手方の属性が事業者や法人である場合を一律に適用除外とするものではない。一見事業者名で契約を行っていても、契約対象となる物品が、事業用というよりも主として個人用に使用されてきたものであった場合は、原則として本号に該当せず、本法は適用される。本号に該当する場合としては、例えば、飲食店を営む者が、店を改装する際に店で使用していた食器や調理器具等を売却する場合等が考えられる。
⑵ 第2号は、売主である売買契約の相手方が本邦外にある場合は、本法を適用するよりはむしろ一般の商慣行に任せる方が適当であると考えられるため、本章の適用除外としている。
なお、本邦外に在る者が本邦内に通常居住する消費者に対し訪問購入を行う場合に
は、消費者は、法の適用に関する通則法第 11 条の規定に従って本法の民事ルールの適用を主張することができる。
⑶ 第3号は、「国又は地方公共団体が行う訪問購入」については、国や地方公共団体が行う場合は本法の趣旨たる消費者保護に欠けることはないものと考えられるので、適用除外としている。
⑷ 第4号は、団体の内部自治の観点から、イ、特別の法律に基づく組合、ロ、公務員の職員団体及び、ハ、労働組合がそれぞれの組合員に対して行う訪問購入は適用除外としている。この場合、「間接の構成員」とは、連合会の会員である組合の組合員等をいい、括弧内は、その法律の規定によって、特に員外利用が認められている場合には、その員外者に対する訪問購入も適用除外になるという意味である。また、イの「特別の法律に基づいて設立された組合」としては、農業協同組合、消費生活協同組合、国家公務員共済組合、市町村職員共済組合等が挙げられる。
⑸ 第5号も第4号と同様の趣旨から会社内部の問題であるとして、事業者が従業員に対して行う訪問購入を適用除外としている。
2 第2項は、①本法の訪問購入に関する規制が専ら押し買い的なものから、売買契約の相 手方である消費者を保護することに目的があること、②したがって、日常生活において支 障なく行われている同様の形態の取引についてまで規制を及ぼすことは本意ではなく、 またそれによってこれらの取引に無用の混乱を生ぜしめることは避けるべきこと等から、これらの取引を訪問購入についての規定の適用対象から除外している(ただし法第 58 条
の5並びに第 58 条の6第2項及び第3項は適用される。)。
⑴ 第1号は、購入業者が自らの意思に基づき住居を訪問して購入を行うのではなく、相手方の「請求」に応じて行うその住居における購入を適用除外とするものである。このような場合は、例えば、物品の売買に当たっては、
① 相手方に訪問購入の方法によって物品を売却する意思があらかじめあること
② 相手方と購入業者との間に取引関係があること
が通例であるため、本法の趣旨に照らして本法を適用する必要がない。
相手方が「○○を△△円で売却するから来訪されたい。」など、「契約の申込み」又は
「契約を締結すること」を明確に表示した場合のほか、契約内容の詳細が確定していることを要しないが、相手方が契約の申込み又は締結をする意思をあらかじめ有し、その住居において当該契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をした場合、
「請求した者」に当たる。例えば、相手方が「いくらでも良いので、当該物品を買い取ってほしい。」と言う場合や、事前に当該購入業者から当該物品の購入価格を聞いており、相手方が「あの価格であれば売りたいので来訪されたい。」と契約締結の請求をする場合である。
この他、購入業者が事前に提示した購入価格に幅がある場合、当該範囲内の価格であれば契約を締結したい旨を相手方が請求した場合も同様に本号に該当するものと解さ
れる。しかし、購入業者が当該物品について適正とはいい難い価格幅を提示する等、実質的には購入価格について相手方が何ら同意をしていないといえる場合まで本号に該当するとはいえない。
そのほか、具体的には以下のような場合は本号に該当しないと考えられる。
○ 購入価格について事前に相手方の同意を得ていても、訪問後に手数料や搬出料といった別の費用を相手方に請求することにより、実質的には購入価格を減額させるような場合
○ 訪問購入の方法等についての単なる問合せ又は資料の郵送の依頼等を行った際に、購入業者より訪問して説明をしたい旨の申出があり、単にこれを相手方が承諾した だけの場合
○ 「見積もりをしてほしいので来訪されたい。」と相手方が明確な取引意思を有しないまま、契約準備に当たる行為のために購入業者に自宅への来訪を求めた場合
○ 相手方が着物に関しての売買契約の締結を請求し、その契約締結のために購入業者が来訪した際に、当初売却の予定がなかった指輪についても当該購入業者が買い取る契約を締結した場合における、当該指輪に関する訪問購入
⑵ 第2号は、通例の取引態様として、訪問購入の方法による売買契約が日常生活の中に支障なく定着している場合である。適用除外とした理由は、①このような取引についてまで本法の規制の対象とすることは、そもそも本法の立法趣旨ではないこと、②対象とすれば、かえってこのような円滑な日常取引を阻害し、無用の混乱を生ずるおそれがあることである。
イ 「購入業者が……通例であり」
物品の売却方法として日常生活に定着している訪問購入方法の意である。ロ 「通常売買契約の相手方の利益を損なうおそれがないと認められる」
一般的にみて、本法がその保護を目指している保護法益が侵害されるおそれがないと認められるとの意である。具体的には、売主となる消費者が取引対象となる物品を手放す意思を安定的に有しないまま購入業者に当該物品が買い取られる、履行をめぐってトラブルが発生する、購入業者の責任追及が困難となる等の危険性が通常生じない場合である。
ハ 「取引の態様で政令で定めるもの」
実際の取引がイ及びロの要件に適合して適用除外となるのか否かが不分明であると法的安定性を害するので、イ及びロの要件に該当する取引態様を具体的に政令で定め、該当の有無をあらかじめ明確にしておくこととしたものである。「取引の態様」であるから、客観的にその形態が確定できるものでなければならない。次のような取引を政令第 37 条で規定している。
① 現に店舗において購入を行っている購入業者(次号及び第3号において「店舗購入業者」という。)が定期的に住居を巡回訪問し、物品の売買契約の申込み又は売
買契約の締結の勧誘を行わず、単にその申込みを受け、又は請求を受けてこれを締結して行う購入
② 店舗購入業者が顧客(当該訪問の日前1年間に、当該購入の事業に関して、取引
(当該取引について法第 58 条の7第1項、第 58 条の8第1項若しくは第2項、第
58 条の9、第 58 条の 11 若しくは第 58 条の 11 の2の規定に違反する行為又は法
第 58 条の 12 第1項第1号に掲げる行為がなかったものに限り、法第 58 条の6若
しくは第 58 条の 10 の規定に違反する行為又は法第 58 条の 12 第1項第2号若しくは第3号に掲げる行為があったものを除く。)のあった者に限る。)に対してその住居を訪問して行う購入
③ 店舗購入業者以外の購入業者が継続的取引関係にある顧客(当該訪問の日前1年間に、当該購入の事業に関して、2以上の訪問につき取引(当該取引について法第 58 条の7第1項、第 58 条の8第1項若しくは第2項、第 58 条の9、第 58 条の
11 若しくは第 58 条の 11 の2の規定に違反する行為又は法第 58 条の 12 第1項第
1号に掲げる行為がなかったものに限り、法第 58 条の6若しくは第 58 条の 10 の
規定に違反する行為又は法第 58 条の 12 第1項第2号若しくは第3号に掲げる行為があったものを除く。)のあった者に限る。)に対してその住居を訪問して行う購入
④ 通常売買契約の相手方が物品を処分する意思を有すると認められる場合として主務省令で定める場合において、その売買契約の相手方が購入業者の営業所等以外の場所における取引を誘引することにより行われる購入
ⅰ ①はいわゆる御用聞きの形態による訪問購入を捉えたものである。
「現に店舗において購入を行つている」とは、店舗を有し、かつ、当該店舗において日常的に物品の買取りを行っているという意味であり、例えば、本来的には営業員の事務所として使用し、時たま、その場所で買取りを行っているとしてもこれには該当せず、また、無店舗購入業者が、脱法的に見せかけの店舗をかまえ、実際には、そこで購入活動を行っていない場合も、これに該当しない。要するに、客観的にみて、その店舗において、日常、購入活動が行われていると認められるものでなくてはならない。
「定期的」とは、一定の間隔をおいてという意味であり、その間隔は取扱い物品等によって異なっており、一律にその長さを定めることはできない。要は、計画的に、すなわち顧客台帳等に基づき、あらかじめ訪問時期を定めて、一定の間隔をおいて訪問するものであれば、定期的な訪問といってもよい。しかし、定期的な訪問といっても、1年を超えるような間隔をおいて訪問するような場合は、訪問購入に係る売買契約の相手方である消費者と当該購入業者との間に信頼関係が生じているとはいい難いので、本号の定期的な訪問とは認められない。
「巡回訪問し」とは、一定の地域内の住居を順次回るという意味であり、ある
特定の住居について注文を取るために訪問するような場合は、これに該当しない。なお、巡回訪問の都度物品を購入しなくても、単に巡回訪問していれば、本号に該当する。
「勧誘を行わず、単にその申込みを受け、又は請求を受けてこれを締結して行う購入」とは、いわゆる御用聞きによる購入の本質を表現したもので、①いわゆる御用聞きによる購入は、購入業者から物品買取りの勧誘を行わず、単に得意先からの請求を聞いて回るいわば受動的購入であり、②それ故に、売買契約の相手方の契約締結の意思が不安定なまま形成されることがなく、したがって、消費者保護上問題を生じないことから、この要件を本号の中心的要件としている。
ⅱ ②は店舗購入業者が顧客に対してその住居において購入を行う場合であり、第3号の無店舗購入業者が訪問購入を行う場合と区別し、除外の要件も異なっている。これは、店舗購入業者が店舗による購入活動を主にしているため、一般的には無店舗購入業者に比べ訪問購入の活動範囲が制約され、また、日常、店舗を通じて売主である消費者との取引関係があり、相対的に両者の信頼関係は強いといえること、もし、トラブルが発生しても、売買契約の相手方は当該店舗に行き、購入業者を追及しやすいこと等のためである。
「(当該訪問の日前1年間に、……取引のあつた者……)」とは、訪問購入を行った日を起算点として過去1年以内に1回以上取引のあった相手方の意味であり、このような場合は売買契約の相手方は当該購入業者を知っており、かつ両者の間に信頼関係が成立していると考えられる。
「当該購入の事業に関して」として、過去に行われた取引の範囲を限定したのは、購入業者が当該購入の事業に関係のない取引、例えば、貴金属の買取事業者が、当該訪問購入に係る売買契約の相手方に対して不動産取引を行った実績があったとしても、このような取引は、購入業者が通常行っている物品の買取りについて、相手方との間に信頼関係が成立しているとは認め難いからである。
「取引のあつた」とは、当該購入の事業が通常扱っている物品の購入や販売のみならず、加工、修理等の役務の提供が行われた場合(着物の買取事業者が、着物の仕立てを行った場合)も含まれる。これらについては、いずれも売買契約の相手方にとって物品の売却と同様、当該購入業者との間に当該購入の事業に関し、信頼関係を生ずる要素になると考えられるためである。取引の行われた場所は店頭でも、相手方の住居でもよいが、取引の内容については、適用除外の趣旨を考慮すると、両者が過去の取引関係を認識している必要があり、また、取引実績の有無について争いが生じた場合、購入業者が立証する必要がある。仮に相手方が過去に当該購入業者の店頭において低廉な物品を売却した実績があるとしても、その場合は、両者にその認識がないのが通常であろうから、実際には、ある程度高額な物品を取引した場合等が該当することとなる。
また、過去に契約が締結された事実があっても、クーリング・オフがなされたり、紛争となっていたものについては、過去の取引実績とは認められない。「(当該取引について法第 58 条の7第1項、第 58 条の8第1項若しくは第2項、第
58 条の9、第 58 条の 11 若しくは第 58 条の 11 の2の規定に違反する行為又は
法第 58 条の 12 第1項第1号に掲げる行為がなかつたものに限り、法第 58 条の
6若しくは第 58 条の 10 の規定に違反する行為又は法第 58 条の 12 第1項第2号若しくは第3号に掲げる行為があつたものを除く。)」と規定されているのは、上述の考え方を確認的に明示しているものである。当然ながら、訪問販売取引等で不当な行為があった場合も、過去の取引実績とは認められない。
ここで「限り」と「除く」を使い分けているのは、立証負担についての在り方を条項ごとに区別するためである。つまり、ある取引が法の適用除外となるか否か、すなわち、取引実績があることの立証負担は、各条項の適用がなされないことを主張する購入業者側が負うのが原則であり、例えば、法第 58 条の7第1項、
第 58 条の8第1項又は第2項の書面を交付したことを購入業者が証明することは可能であるため、その立証責任は購入業者側にあるものとしており、「限り」より前において規定している行為等については、原則どおり、購入業者が立証負担を負うこととなる。
他方で、「限り」より後において規定しているものについては、例えば、法第 58 条の 10 第1項の不実告知があった旨などは性質上売買契約の相手方が立証するものであることから、そのようなものについては相手方が立証責任を負うこととなる。
ⅲ ③は、無店舗購入業者が顧客から購入を行う場合である。前述のとおり無店舗購入業者の場合は相対的にみて店舗購入業者に比べ売買契約の相手方たる消費者との間のつながりが希薄と考えられるので、取引の回数を増やし、2以上の訪問につき取引のあった場合を適用除外としている。
本取引態様を含む政令第 37 条の各類型は、通常売買契約の相手方の利益を損なうおそれがないと認められる取引態様であり、そもそも日常生活の中に支障なく定着していることが求められる。店舗購入以外の取引態様を掲げる本号にあっては、「継続的取引関係にある」との要件により、かかる要請を担保していると解されるところ、日常生活の中に支障なく定着しているとはいえない取引関係は、この取引態様から排除されると解されるべきである。したがって、例えば、冷静に検討する時間も与えられずに次々と短期間に貴金属を売却する契約を結ばされるような場合、「継続的取引関係にある」とは認められない。
「2以上の訪問につき取引のあつた」とは、それぞれの訪問につき取引のあったことが2回以上あったという意味である。したがって、2以上の訪問で1回の取引が成立しても、それだけでは該当しない。
「(当該取引について法第 58 条の7第1項、第 58 条の8第1項若しくは第2
項、第 58 条の9、第 58 条の 11 若しくは第 58 条の 11 の2の規定に違反する行
為又は法第 58 条の 12 第1項第1号に掲げる行為がなかつたものに限り、法第
58 条の6若しくは第 58 条の 10 の規定に違反する行為又は法第 58 条の 12 第1項第2号若しくは第3号に掲げる行為があつたものを除く。)」とは、前号と同様の趣旨で規定しているものである。
ⅳ 本法の保護法益は、主として売買契約の相手方たる消費者が、取引対象となる物品を手放す意思を安定的に有しないまま購入業者に当該物品が買い取られる状況の発生を防ぐことであり、売買契約の相手方が取引対象となる物品を手放す意思を安定的に有していると客観的に判断できる場合は本法で規制の対象とすべき必要性はないと考えられる。また、契約の相手方が購入業者に対して取引を誘引している場合、通常、契約の相手方は購入業者の氏名や連絡先等を認識しているのであり、訪問購入に係る売買契約の履行に関して何らかの問題が発生しても、購入業者の責任追及を契約の相手方は容易に行うことができる。こうした状況にある取引態様についても本法の規制対象とすることは、法第 58 条の 17第2項第2号の趣旨に反することから、④に規定する取引態様で行われた訪問購入を適用除外としている。
実際の取引が適用除外となるのか否かが不分明であると法的安定性を害する ため、「通常売買契約の相手方が物品を処分する意思を有すると認められる場合」を具体的に省令第 150 条で定め、該当の有無をあらかじめ明確にしており、同条 においては、「売買契約の相手方がその住居から退去することとしている場合」が規定されている。「退去することとしている」とは、いつかは退去する、とい うような曖昧な予定ではなく、相手方が住居の中にある物品全体について要・不 要の判断を既にしていると考えられる期間内、例えば、購入業者に電話で取引の 誘引があった日から2週間程度の後には退去する予定である場合がこれに該当 する。
「取引を誘引すること」とは、売買契約の相手方から、購入業者に対して「引越しを予定しており、家財を処分しようと思うので自宅に査定に来てほしい。」と電話がかかってくる等、相手方から主体的に購入業者へ訪問購入に関する連絡があれば、これに該当する。