Contract
4.具体的な規定の内容
わが国の公共工事標準請負契約約款では、①1年を超える契約における 1.5%以上の物価変動(スライド)、②主要な工事材料の著しい物価変動(単品スライド)、③急激なインフレまたはデフレによる物価変動(スーパーインフレ)の場合について、発注者、受注者双方から工事請負代金額の変更を求めることを認めている。2.に示した PFIの基本的考え方を踏まえ、②及び③について同様の条項をPFI事業でも採用することが最低限必要である。「主要な工事材料」については、工事に必要な資材及び機材の双方が含まれると解釈される。
(1)基準の明確化:PFIの基本理念からは、上記②、③の各々の場合において、どのような条件に至った場合に変更をし、どのように建設費の変更額を決定するかについて、予め合意した客観的な指標を用いて決定することが望ましいと考えられる。しかし、指標が何%変動した場合に建設費を変更するかについて一つの数値を決定するのが難しいこと、特定材料の著しい価格変動については客観的な指標が乏しいこと等の事情があり、事例の蓄積が十分でない現段階において標準的なルールを一つに決めるのは難しい。今後、各事業ごとに、使用する客観的な指標や変更を可能とする変動幅について明確化することが望ましい。対象期間等、具体的算定方法については今後検討を要する。
(2)実際のコスト変動との誤差:指標のみで機械的に計算した場合、当然実際のコスト変動との誤差が生じることにも配慮する必要がある。
5.留意点
(1)支払方法
物価変動により建設費を増額変更する場合、増加分のコストを管理者等が一括支払いすることは難しい場合があると考えられる一方、一括払いとすれば資金調達に与える影響を最小限にすることができるため、一概に分割、一括のどちらが適切とはいえない。
(2)債務負担行為
管理者等は、建設費の増額に備えて、債務負担行為の設定額には一定の余裕を持たせることが望ましい。
6.条文例
条文例 8.3()
1 甲又は乙は、次の各号に掲げる場合には、契約内訳の施設費相当額(以下、「施設費対価」という。)の見直しについて相手方に請求することができる。
ア 特別な要因により建設期間内に主要な工事材料の日本国内における価格に著しい変動を生じ、施設費[及び解体撤去費]が不適当となったと認めた場合23
イ 予期することのできない特別の事情により、建設期間内に日本国内において急激なインフレーション又はデフレーションを生じ、施設費[及び解体撤去費]が著しく不適当となったと認めた場合
2 前項の場合において,施設費対価の変更額については,甲及び乙が協議して定める。ただし、協議開始の日から[ ]日以内に協議が整わない場合にあっては、[第○条に定める紛争解決手続によるものとする]。
3 前項の協議開始の日については,甲が乙の意見を聴いて定め,乙に通知しなければならない。ただし、甲が第 1 項の請求を行った日又は受けた日から[ ]日以内に協議開始の日を通知しない場合には、乙は、協議開始の日を定め、甲に通知することができる。
※上記は、衆議院新議員会館整備等事業をベースとしている(公共工事標準請負契約約款の単品スライド条項及びスーパーインフレ条項に対応)。ただし、協議が整わなかった場合については、別途規定する紛争解決手続を用いる旨に改めている。
【建設費の改定に関する実務上のポイント】
建設資材等の物価高騰に対しては、PFI事業におけるリスク分担の考え方に従い、以下のとおり整理することが考えられる。
①特定材料の著しい物価変動及び急激なインフレまたはデフレによる物価変動があった場合は、建設費の改定を行う規定を設ける。
②上記規定においては、用いる指標や改定の判断基準等を明確化することが望ましい。
③通常の範囲内での物価変動リスクは選定事業者が負担する。
23 具体的な規定方法について様々な考え方があるところであり、今後早急に検討することが望まれる。
8-4 物価及び金利の変動以外による「サービス対価」の改定(特にソフトサービス)(新設)
1.概要
ソフトサービス(資本的支出を伴わず、資本的投資との関連性も低いサービス)については、例えば5年ごとに市場実勢価格にあわせてサービス対価を改定する調整規定について、具体的な方法を含めて規定する。
2.問題状況
ソフトサービスについては、物価変動によるインデックスによる調整のみでは市場価格と乖離が生じてしまうため、例えば5年ごとに市場実勢価格との乖離を防ぐためのサービス対価の調整規定が設けられるが、具体的方法(内容の妥当性、透明性、迅速性を確保するための方法)が課題となっている。
3.基本的な考え方
(1)インデックスによる調整のみでは一定期間以上の価格増減リスクを選定事業者がとることができない業務については、別の調整メカニズムが存在しない場合、予備費の計上を通じて価格の上乗せにつながり、VFMの最大化を妨げることになる。そこで、市場実勢価格に応じたソフトサービスの対価の増減額の規定を入れることが望ましい24。
(2)ハードサービス(資本的支出を伴う、又は資本的投資との関連性が高いサービスで、主に施設の維持管理(FM サービス))は、当該サービスのみを取り出して市場価格と比較することはできないため、原則として対象外とする。
対価の見直し規定は、柔軟性のない価格設定が官民の双方にとって高いリスクとなるため規定されるものである。どちらかに有利な結果になることを意図するものではない。また、そもそもPFIの業務の範囲は常に広ければ広いほどよいというものではなく、民間事業者が負担することの困難なリスクを含む業務については、はじめからPFIの対象外とすることも考えられる。ここで規定するサービス対価の改定方法は、あくまでもその業務のみ切り離して市場実勢価格と比較する(あるいは入札にかける)ことができるような場合を想定しており、対象となる業務は限定される。
4.具体的な規定の内容
(1)価格変更の対象としてのサービス
24 英国 SoPC4 では、ハードサービスを資本的投資に関連するサービス、ソフトサービスをそれ以外のサービス(清掃、警備、給食など)とした上で、ソフトサービスについてマーケットテスティングなどによる価格見直しの対象としている(15.3)。
価格変更の対象としてのサービスについては、基本的にはソフトサービスとすべきであるが、ソフトサービスに該当するか否かのみで一律に割り切ることは適切でなく、多額の初期投資を伴うものであるか否か、建物等の建設・大規模修繕と分離して発注することが合理的であるか否か、競争市場があるか、代替性があるか等も考慮した上で決定すべきである。
①多額の初期投資を伴うものであるか否か。すなわち、見直しのタイミングまでに、初期投資を回収することが可能であるか。また、コストのうち変動費と固定費の割合はどのようになると想定されるか(固定費部分が多いと、価格調整が難しくなる)。
②建物等の建設、大規模修繕と分離して発注することが合理的であるか否か。例えば、施設の維持管理のうち、コストが建物の状態により非常に左右されるものについては、分離して発注することはPFIのメリットを失わせることになる。
③競争市場があるか、代替性があるか。存在しない場合、市場実勢価格の情報の入手も、マーケットテスティングも困難になる。
(2)価格改定方法
見直しの方法としては、ベンチマーキング、マーケットテスティング、一部業務の契約期間短縮・一部解約権の付与などが考えられ、それぞれの方法の理解した上で、サービスの性質に応じて適切なものを選定する。
①ベンチマーキング(市場価格を調査し、それに応じて対価を調整する方法)
・SPCの委託先の変更に伴う問題が生じない(現行の業者が引続き行う)というメリットがあるが、適切なデータの入手およびその客観性の判断が困難25というデメリットがある。
・十分なデータが得られず合意できない場合に備えて、合意できない場合は管理者等が最終価格を呈示する(ただし、選定事業者はこれを拒否し契約の一部解除を行うことができるものとする)方法など他の手法を使うことができる旨規定しておくことが望ましい。
25 英国では、価格改定手続きにおいて競争性を確保することができなければ現行の委託先が強い立場になること、ベンチマーキングにおいて、マーケットテスティングに存在している競争性を「複製」(replicate)するためには、同種の業務を行っている他の業者から提供された情報など十分なデータに基づいて受注者と交渉を行うことができる必要があると指摘されている。(House of Commons, Committee of Public Accounts: HM Treasury: Tendering and benchmarking in PFI P5、p8、)
②マーケットテスティング(特定のサービスについて、SPCが入札にかける方法。入札の結果、SPCは委託先を落札者と交代させることもありうる)
・競争による価格低下が期待されるというメリットがあるが、SPCの委託先となりうる企業の参加意欲の減退、競争市場の有無(当該サービスについて競争市場が存在しないと逆に価格が高くなるリスクがあり、英国でも競争的な市場が期待できない場合はマーケットテスティングは適切でないとされる)、新しい委託先の不履行リスクの選定事業者による評価と入札参加者の範囲の関係についても留意する必要がある26。
・選定事業者の意欲を損なうことがないよう、対象業務の選択、見直しまでの期間等を決定する必要がある27。
③一部契約期間短縮又は一部解除権付与
・当該サービスについての契約期間の短縮(ソフトサービスの契約期間をPFI事業期間より予め短く設定)または一部解除権の付与(ソフトサービスの価格変更に合意できない場合に当該ソフトサービスを業務範囲から除外する)という方法を採用した場合、競争による価格低下が期待されるというメリットがあるが、これに相応しいサービスは、基本的には、サービスの一時的・短期的な欠落が生じることにより致命的な影響をもたらさないことが必要であり、さらに原則として、(i)管理者等自らがサービスを提供し、代替できる能力がある場合、(ii)競争市場において常に代替事業者が存在している場合、 (iii)サービスの提供そのものが行政府にとり必要性がなくなった場合、のいずれかに該当する場合に限り適切な方法となると考えられる。
・一部のソフトサービスをはじめからPFI契約の対象外とすることも考えられるが、ソフトサービスをPFIの一部とすることにより、ソフトサービスを念頭において施設の設計をするというメリットがあることに留意する。
・選定事業者の意欲を損なうことがないよう、対象業務の選択、見直しまでの期間等を決定する必要がある。
5.留意点
(1)初回の見直しまでの期間
価格の見直しの対象とした場合でも、ある程度初期投資がある場合には、その程度に応じて対象から除外したりすることにより、あるいは1回目の見直しまでの期間を長
26 英国 SoPC4 ではマーケットテスティングを原則としているところであるが、受注者にとって 必ずしも有利に働くものではないことから、反対論も強いことにつき、留意する必要がある。
27 業務体制(SPCからの委託先)の変更は、SPC に融資をしている金融機関等にも影響を与える可能性がある点に留意する必要がある。
くしたりすることにより(例えば7年から 10 年など)、選定事業者に不当な不利益を及ぼさないように工夫すべきである。
・初回の見直しまでの期間は業務ごとに個別の事情に応じて判断すべきである。例えば、変化が激しい分野では、短めに設定する方が現実的である。
(2)民間の創意工夫との関係
SPCや委託先の創意工夫がコスト削減に寄与できる分野において管理者等が選定事業者の努力の結果をすべて奪ってしまうことがないよう工夫する必要がある。このような分野については、見直しの対象外とすることや、テストの結果を全て管理者等のSPCへの支払に連動させるのではなく一部のみ連動させることも考えられる。
6.条文例(ベンチマーキングを活用した例)
(甲=管理者等、乙=SPC)
条文例 8.4 (サービス対価の改定)
1 甲及び乙は、以下の運営業務に関するサービスの対価を、それぞれ以下に規定する時期に、直近の改定時からの類似の内容の業務における委託費の市場実勢価格の推移を考慮した上で、改定のための協議を行う。
①[ ]業務:運営業務開始後[ ]年後、その後は[ ]年ごと
②[ ]業務:運営業務開始後[ ]年後、その後は[ ]年ごと
③(以下対象となる業務を列挙)
2 乙は、市場実勢価格を示すための客観的資料を甲に対して提供するものとする。
3 甲および乙の協議が整わなかった場合、以下に従うものとする。
①[ ]業務、[ ]業務については、甲は乙に対して最終価格を通知する。乙がこれに不服がある場合には、[ ]日以内に、[第○条に定める紛争解決手続の開始の申し立て]を行うものとする。
②[ ]業務、[ ]業務については、甲は乙に対して最終価格を通知する。乙がこれに不服がある場合には、乙は当該業務について本契約を終了させることができるものとする。この場合、乙は新たな受注者の選定及び事業の引継に協力する義務
([ ]に関する情報の開示を含む)を負うものとする。ただし本号は、甲が当該業務について公募を行う場合、乙又は乙からの下請業者が参加することを妨げない。
※利用量やインデックスに連動する対価の調整については、契約書例参照のこと。
【ソフトサービス等の価格変更に関する実務上のポイント】
資本的支出を伴わず、資本的投資との関連性も低い、いわゆる「ソフトサービス」については、市場実勢価格との乖離を防ぐための調整を規定する。調整規定のポイントは以下のとおり。
①ソフトサービスの各々について、市場実勢価格との比較を行うタイミングを規定する(例えば、初回は7年から10年後程度、その後は5年程度が考えられるが、サービスの属性に応じて決定する必要がある)。
②調整のための方法としては、ベンチマーキングのほか、マーケットテスティング(選定事業者(SPC)による入札の実施)、ソフトサービスの契約期間の短縮等があるが、それぞれの方法の特徴を理解した上で、業務の性質に応じて適切に組み合わ
せていくことが必要である。
8-5 サービス内容変更とそれに伴うサービス対価の改定(新設)
1.概要
将来の状況の変化に応じてサービス内容を変更することが必要となることがある。また、事業によっては、初期段階(例えば、運営の開始前後)で現実と当初の想定との乖離が判明することも多い。このような場合に備え、変更のための手続及び価格決定の方法が規定される。
2.問題状況
現在のPFI契約においては、複雑な事業の場合は、サービス内容の変更について、公共による変更要求通知、民間からの回答書の提出、これらに基づく協議を軸として比較的細かい規定が定められていることが多い。一方、比較的単純な事業では具体的な手続規定がないことが多い。この場合、①手続の明確化(特に規定がない場合)、
②特に価格算定プロセスにおける双方の手続負担軽減及び透明性の向上、③曖昧な事実上の要求水準等の変更の防止(不適切なサービス対価の調整(十分な予算を確保しないまま追加の負担を強いるなど)、モニタリング基準の不明確化(書面の欠如などによる)などにつながる)、④競争性の確保などの課題に対応していく必要がある28。
3.基本的な考え方
(1)Ⅰ1(1)記載のとおり、当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合などにサービス内容を変更できる仕組みを作ることが重要であることを認識する。すなわち、変更の必要性が生じることが常に問題というわけではなく、変更の必要性が生じているのに放置することが問題であるという発想の転換が必要である。
(2)PFIは、官民の対等なパートナーシップが基本となっている。その観点からは、不合理な変更を官が民に強いるようなことは厳に慎まなければならない。一方、管理者等が変更にかかる費用を負担する場合、納税者に対して説明できる必要がある。そこで、透明性およびxx性の高いサービス内容の変更手続きを規定する必要がある。
(3)管理者等からの要請によるサービス内容の変更によって増加する費用は管理者等が負担する。一方、費用が減少した場合には、サービス対価についても変更がなされる
28 選定事業者は、要求水準等に違反しない限り、その都合により(インプット)仕様の変更を行うことができる(業務仕様書の変更手続)。この場合には、対価の変更はない(別紙 13 参照)。
べきである。
(4)現実に変更手続が適切に活用されるためには、特に小規模の変更については当事者の負担が少ない現実的な手続が必要である。この場合透明性が高くかつ迅速に対応可能な価格決定メカニズムを盛り込むことが重要である。
(5)変更への心理的抵抗により必要なサービス内容の変更手続が行われないという状況を避けるよう、例えば、開業直前、開業1年後等、当初想定したサービス水準と実態とのギャップが顕在化しやすいタイミングでサービス内容のレビューを確実に行い
(要求水準書に記載されていない内容で、両当事者が合意する必要のある事項のレビューを含む。)、必要に応じてサービス内容の変更及びそれに伴う価格の変更が実施できるような仕組みを盛り込む。ただし、このような規定の趣旨は、契約締結時までに決定することができるサービス等について、変更手続により対応することを推奨するものではない。このような規定を挿入する場合でも、「後で決めればよい」といった考え方によって、契約条件が曖昧なまま契約を締結することは厳に慎むべきである。
(6)プロジェクトファイナンスの前提は、契約初期条件を変更しない(そうしないと想定したキャッシュフローが実現しない)ということで成立しているので、契約変更が及ぼす事業キャッシュフローへの影響を金融機関の立場も考えて、契約条項を作成していく必要がある。
(7)選定事業者から変更を提案する手続についても規定することが望ましい。29
4.具体的な規定の内容
(1)通常変更
具体的規定内容は、事業の性質に応じて決まるべきものであるが、運営重視型の手続きの一例として、以下のようなものがある(条文例は基本的に以下の考え方によっている)。
①管理者等による変更要求通知
②選定事業者による仮見積の提出(管理者等に概算を伝えることにより、変更を中止した
29 英国 SoPC4 においては、一般的には受注者はサービス内容の変更を提案する権利を有するべきであるが、発注者はそれを承認するか否かについて決定する絶対的な権利(但し法令変更を理由とする場合を除く)を有するべきであるとされている(13.2.5)
り、変更内容を見直す機会を与える。選定事業者が必要と考えるときに提出。)30
③選定事業者による仮対案の提出(選定事業者の創意工夫により、よりよい変更にしたり、より安価な方法を提案したりすることが想定されている。選定事業者が必要と考えるときに提出。)
④拒否事由(後述)
⑤選定事業者による回答書の提出
⑥協議
⑦変更の実施
⑧対価の支払(後述)
(2)簡易変更(一定の規模以下の変更について、価格算定のための算定式を予め合意する方法)
2.(4)に示されたとおり、特に小規模の変更については当事者の負担が少ない価格決定メカニズムを盛り込んだ現実的な手続が必要である。そこで、Ⅰ3に記載された価格算定のための算定式を予め合意しておく方法、すなわちサービス内容の変更に伴う価格について予め算定式を合意しておくことにより、できるだけ機械的に算定できるメカニズムを導入することが考えられる31。ただし、予め合意した算定式を用いることで市場価格と大きく乖離しないことが見込まれる事項に限り利用すべきであり、すべてのPFI事業で必要というわけではない。また、これは、このような規定が機能するかは状況によって異なると考えられ、わが国に実情に即した実践を重ねていく必要がある。
(3)定期的な見直し規定
特に複雑な案件で契約時点で選定事業者が履行義務を負うサービスの内容の詳細を決定することが困難である事業については、例えば開業直前、開業の約1年後に見直す旨の規定を挿入することが考えられる。ただし、このような規定を挿入する場合でも、「後で決めればよい」といった考え方によって、契約条件が曖昧なまま契約を締結することは厳に慎むべきである。
30 ②③については、管理者等の側からも仮見積、仮対案を求めることができるような規定にすることも考えられ、この点についてはさらに検討を要する。
31 英国「Standardisation of PFI Contracts(PFI契約の標準化)」第 4 版(以下「SoPC4」という)では、①事前に価格を決定できるものについては、変更内容およびその価格を記載した一覧表を作成する方法、②一覧表の作成ができない部分については、一種のオープンブック方式によって対応する方法(入札時にできる限り単価の開示を求め、この単価に応じて変更時の対価を計算する)が採用されている。
さらに、その後も調整の必要性が高いと予想される案件については、定期的に要求水準を見直す旨の規定を設けることも考えられる。見直しの頻度については、個別のサービスの属性やリスク分担の合理性、費用への影響の度合い等も勘案して決定する必要がある。
(4)対価の支払
①資本的支出等相当分(調整、変更が資本的支出増を伴う場合)
変更の実施のために資本的支出や初期投資を伴う場合、管理者等から選定事業者への対価の支払時期を併せて検討する必要がある。SPCが資金調達等を担うことになると、追加的に金利等の調達費用を必要とし、全体費用や支払対価を調整せざるを得ないため、追加的資本支出を一括して、サービス対価とは別途、支払うことが手続き上簡易になる。しかし、ある程度の大きさの資金が必須な場合には、選定事業者において一旦資金調達をなさしめ、サービス内容の変更後に、当該資金調達にかかるコストも勘案した上で定期的に支払う対価を変更するという方法もあり得るため、一概にどちらの方法が優れているとはいえない。
後者の方法による場合、既存のファイナンスの枠組みに影響しない手法(例えば、資金調達を金融機関からの貸付等に劣後するローンを構成企業から調達するなど)を用いることにより、既存のファイナンスへの影響をできるだけ少なくすることも考えられる32。
②資本的支出相当分以外(調整、変更が資本的支出増を伴わない場合)
この場合、一括払いはなく将来のサービスの対価の調整のみとなり、維持管理、運営費相当分のサービス対価に反映させる。
(5)手続に要する費用
変更手続に要する費用(手続きにあたり必要となる専門家や弁護士の費用等33)についても規定を設けて置くことが望ましい。
管理者等からの要求に基づく場合は当該費用を管理者等が負担することが原則ではあるが、
32 案件によっては、対価を増やすことなく、(債務負担行為の変更等必要な手続を経た上で)契約期間を延長して、事業者による収益機会を増やすことで対価を回収させる方法もある(この場合、将来の収入を現在価値へ割引く方法も考慮する必要がある)。
33 どのような費用が生じるかについては、変更の内容によって異なる。
事前に具体的金額について合意することなどにより、過大な負担が生じないようにすることが望ましい。
(6)拒否事由
①拒否事由
選定事業者は、管理者等のサービス内容の変更要求に対しては、拒否事由に該当する場合を除き、選定事業者はこれに応じなければならないとすることが考えられる。但し、このような方法が合理的か否かは、案件によることに留意する必要がある。
・このような規定を入れるかは将来において管理者等が変更を要求せざるを得なくなる状況が生じる可能性と、かかる規定が存在することによって選定事業者が負うことになるリスク等を考慮して決定すべきである。拒否事由を検討する際には、経済的合理性のない変更を選定事業者に強いることのないようにする必要がある。
・プロジェクトファイナンスの貸付人(金融機関)が当該新たなサービスに関す るリスクをとることができるかという問題があり、金融機関が判断するのには技 術コンサルタント等によるデューデリジェンス(変更による影響を精査する)が 必要な場合(時間、コストがかかる)もあり、これらが協議により合意できない 可能性は十分にある。そして、管理者等の要求により変更を行う場合には、これ に要する合理的費用を管理者等が負担することになることに留意する必要がある。
サービス内容変更要求と民間による拒否の流れ(条文例参照)
Ⅲ.変更の拒否
Ⅱ.仮見積、仮対案の提出
Ⅳ.回答書の提出(見積を含む)
甲乙協議
契約の一部解約
変更の実施
Ⅰ.甲によるサービス内容変更要求通知
合意
不合意
変更の拒否への回答
契約の一部解約
②拒否事由がある場合の一部解除及び一部解除時の補償
拒否事由に該当する場合、管理者等に契約を一部解除する権利を与えることが考えられる。この場合、適切な額の補償についても規定すべきである。ただし、選定事業者が如何なる解除条件で委託先と契約しているのかは、サービスの属性や内容、業態、市場における代替性の有無等によっても異なりうる点、従って委託先との契約の内容によっては補償する必要がない場合もある点に留意する必要がある34。
・一部解除ができる場合:これが可能であるのは、選定事業者に重大な悪影響を与えず、かつ、原則として、①管理者等に自らサービスを提供する能力がある場合、又は②当該業務を第三者に委託することができる(かつ、競争的価格での委託が可能である)場合、③業務そのものが不要となった場合に限られる35。また、①②については、業務の承継が円滑に遂行できるよう配慮することが望ましい。
・損失補償の内容:一部解除時の損失補償については、一律に決めることは困難ではあるものの、管理者等による変更の理由に応じて判断することが考えられる。すなわち、やむをえない事由による変更要求通知であれば、選定事業者に実際に生じる損害につき損失補償する考え方となるが、管理者等の自己都合に近い事由による変更要求通知であれば、管理者等の任意解除と同様の考え方が適用され、解除に伴う逸失利益も一部含めて損失補償することが考えられる。
・損失補償算定のための重要な事項の合意:一部解除時の損失補償を客観的に算出するため、契約の締結時点までに、SPC と運営協力企業との契約のうち、重要な事項で解除に関係するものの内容について合意すべきである。これらを合意していくプロセス
(対象事項、提案の際に提案すべき事項、提案内容の条件、その後の合意プロセス等)については、入札段階で予め示す必要がある。
(7)紛争解決
34 長期継続契約の条件を協力事業者にパススルー(同一条件で契約条件を転嫁すること)する枠 組みもあれば、パススルーせずに、あるいは、長期継続契約を前提とせずに、一端 SPC がリスクを支え、任意解除条件を協力事業者との間で保持するという枠組みもありえ、これら条件次第では、管理者にとっての費用は変わりうる。この意味では、協力事業者との関係で SPC が負担なき任意解除権を保持していれば、大きな費用負担なしに、解除できることもありうる。この場合、 SPC に損失補償が必要か否かも、状況によるところがあり、これらの点についても更に検討を要する。
35 いかなる場合に選定事業者に「重大な悪影響を与える」といえるかについては、選定事業者が全体の業務を提供することにより適正な利益水準を確保していることが多く、一部解除を行った場合の適正な損失補償額を客観的に示すことは困難であるという問題があり、財務モデル等の情報の共有に加え、複数の業務を一括して請け負うことによる費用が削減されている場合の効果との関係も含めて、更に検討を要する。
対価の支払、手続費用、拒否事由に該当するか否かなどについて合意ができなかった 場合は、紛争解決プロセスを利用することが考えられる(これについては資料3参照)。
(8)選定事業者からの提案
選定事業者による提案の手続について規定する。
5.留意点
(1)予算との関係
サービス内容の変更が管理者等の支払い額の増加につながる場合、予算がないと契約上の規定があっても実行できない。こうした事態を防ぐため、管理者等は、債務負担行為の設定額には一定の余裕を持つ必要がある。
・この際、債務負担行為の文言を工夫することも考えられるが、文言の工夫によりどこまで対応できるかについては別途検討する必要がある。
・また、単年度の予算額についても、一定の予備費を確保することが望ましい36。
(2)拒否事由に該当せず、選定事業者が価格見積を提出したにも関わらず価格に合意できなかった場合の一部解除規定
3に示す変更の規定を盛り込んでも、両当事者にとって納得のできる条件を見いだすことができないことも考えられるため、合意できない場合の業務の一部解除の規定を盛り込むことが考えられる。
・解除は両当事者に与える影響が大きいことから、別途定める紛争解決手続(資料3参照)を介在させることにより、一部解除の規定が濫用されないように配慮すべきである。
(3)通常変更の場合の価格決定
通常変更についても、価格の決定手続を盛り込むことが望ましいが、どのような方法
36 変更に必要な予算が確保できない場合に、事実上契約に規定された変更手続を無視し、予算本位で処理するようなことは厳に慎むべきである。曖昧なサービス内容の変更は、後日紛争を生じさせるリスクが高いことを認識する必要がある。
を採用するのかについては慎重な検討が必要である。①ベンチマーキング(市場価格を調査し、それに応じて対価を調整する方法)、②マーケットテスティング(特定のサービスの市場価格を確認するために、SPCが対象のサービスを入札にかける方法)、③中立的な専門家の活用(適格性を有する独立した技術アドバイザーに、参考価格の作成(への助言)や選定事業者の見積の精査を委ねる方法)などが考えられる
37。
37 英国 SoPC4 では、これらの3つの方法が挙げられているが、学校 PFI を除き、この部分は各分野の標準契約の具体的プロセスはまだ公表されていないので、具体的にどのように規定されていくかは明らかではない。英国財務省から 2007 年8月に公表された Change Protocol Principle (主に学校 PFI を想定)は3つの方法が併記されている。同じく財務省から 2007年 12 月に公表された Variations Protocol for Operational Projects(entered into prior to Standardisation of PFI Contracts version 4)(草案)でも、3つの方法が記載されており、どれを原則にすべきかについては明記されていない(2.19-2.26)。一方、自治体によるP FIについて、各分野の標準契約に変更手続(Change Protocol)が盛り込まれるまで使用されることになっている 4ps:Model Change Protocol for Accommodation PFI projects においては、マーケットテスティングが望ましい方法とされている。
6.条文例
別紙○ 要求水準書の変更手続
以下、簡易変更の規定を入れた場合の例を示すもの。簡易変更の規定の必要性及びその内容については、簡易変更のための手段の実用性の有無、事業の性質等に応じて判断されるべきである。
※以下の用語を事業の性質に応じて定義規定で定義する。
「簡易変更」―― 一定の規模(金額)以下のサービス内容の変更
「通常変更」―― 一定の規模(金額)以上のサービス内容の変更
「簡易変更価格一覧」―― 将来の変更のために作成した資材、日当等及び各項目に使用すべき指標等の一覧で、事業者提案に添付し、順次更新。
「原価一覧」―― 積算根拠として事業者提案に添付。(※Ⅳ4(2)の注釈参照。一種のオープンブック方式を想定)
Ⅰ サービス内容変更要求通知
1 甲は、サービス内容を変更しようとするときは(但し、変更内容が簡易変更価格一覧に記載のあるもののみである場合を除く)、随時2(1)から(5)に掲げる事項及び甲と乙が合意する事項を記載したサービス内容変更要求通知を作成し、乙に送付又は交付することにより、サービス内容の変更(要求水準書、提案書及びその後の甲乙間の合意に基づき、乙が甲に対して履行する義務を負う業務の内容の変更をいい、要求水準書、業務範囲の変更を含む。)を求めることができる38。乙は、業務内容の変更に伴い[運営等協力企業/受託・請負企業]の変更を行う場合には、別紙○に定める手続を行う必要はない。
2 サービス内容変更要求通知には、次の各号に掲げる事項を記載することを要する。
(1) 変更要求事項 ただし、甲は、変更要求事項を示すに当たり、要求水準書又はその他の文書の該当箇所を引用し、変更前と変更後を併記又は修正履歴を表示することにより該当部分を明確にしなければならない。
(2) 変更開始希望日 ただし、変更開始希望日は、サービス内容変更要求通知の到達の日から少なくとも次の期間を経過した後の日を記載することを要する。
ア 業務量又は業務内容が増大又は拡大し、これに伴い乙又は当該業務を受託する運
38 簡易変更に該当する場合以外について、どのような場合に変更を要求することができるのかについて規定すべきとの考え方もあり、この点については更に検討を要する。
営等協力企業等において新たに設備の購入、運営等協力企業等若しくはその他の企業への再委託又は使用人の雇用が必要になる場合は、[ ]月間
イ 業務量又は業務内容が減少又は縮小し、これに伴い乙又は当該業務を受託する運営等協力企業等において所有、委託又は雇用する設備の廃棄、委託契約の解除又は配置転換若しくは解雇が必要になる場合は、[ ]月間
ウ 及びイのいずれにも該当しない場合は[ ]月間
(3) サービスの対価の変更の意思の有無及び変更の意思がある場合は見込み額
(4) 変更を要求する理由
(5) その他必要事項
Ⅱ 仮見積り及び仮対案の提出
1、簡易変更に該当する場合を除き、乙は、甲に対し、サービス内容変更要求通知受領後[ ]日以内に仮見積り及び変更要求事項の範囲外の業務も考慮したより適切と考える仮対案を書面により提出することができる。これらの仮見積り及び仮対案は、甲及び乙を拘束しないものとする。
2 1の仮見積り又は仮対案が提出された場合、甲は、これらを考慮の上、乙に対し、提出を受けた日から[ ]日以内に、乙がサービス内容変更要求通知に回答する必要があるか否かを通知する。ただし、甲が[ ]日以内に通知を行わない場合は、サービス内容変更要求通知に回答する必要がない旨を通知したものとみなす。
3 甲がサービス内容変更要求通知に回答する必要がある旨を通知した場合、乙は当該通知を受領後[ ]日以内に、Ⅳの要領に従い甲に回答書を提出する。
4 1から3に定める期間は、甲及び乙の合意により延長することができる。
5 甲がサービス内容変更要求通知に回答する必要がない旨を通知した場合、甲は、3の仮対案を、これを基に更にサービス内容変更要求通知を作成するためにのみ使用することができる。
6 1から5の手続は、両当事者が書面にて合意した場合、簡易変更についても用いることができる。
Ⅲ 変更の拒否
1 乙は、業務の変更が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合に限り、その該当する事由及びその根拠を具体的に明らかにして業務内容の変更を拒否することができる39。拒否できる事由の有無について甲及び乙の間に争いが生じたときは、第○条に定める紛争解決手続によるものとする。
39 記載された拒否事由の例については、具体化、明確化に向けて今後さらに検討を要する。
(1) 違法となるとき
(2) 乙又は運営等協力企業等の許認可の取消原因となるとき
(3) 乙又は運営等協力企業等が合理的に判断して取得不能な許認可の取得が必要となるとき
(4) 変更対象業務以外の業務の遂行に重大な悪影響を及ぼすとき
(5) 変更が実施された場合に本件[事業]の根本的な部分の変化を招来するとき
(6) 乙の経営に重大な悪影響を及ぼすとき。
(7) 前各号に準じるような重大な悪影響を乙に及ぼすとき
(8) 人の生命身体に重大な悪影響を及ぼすとき
(9) サービス内容変更要求通知が本契約に定められた記載事項を欠いているとき
(10) サービス内容変更要求通知に記載された変更開始希望日から[ ]日以内に乙が変更後の業務を開始することが不能と合理的に判断されるとき
2 前項にかかわらず、乙が前項(10)に掲げる事由に該当することのみを理由として拒否の回答書を提出した場合、甲は、変更開始希望日について乙と協議した上で、変更開始希望日を変更したサービス内容変更要求通知を乙に交付又は送付することにより、変更された当該サービス内容変更要求通知の受理後[ ]日以内に更に回答を求めることができる。
3 [乙が第1項(1)から(7)に掲げる事由に該当することを理由として拒否の回答書を提出した場合においては、以下のすべての要件を満たす場合に限り、甲は[ ]日以内に、乙と協議のうえ、本契約の一部解除を行うことができる。解除について乙に異議がある場合には、第○条に定める紛争解決手続によるものとする40。なお、本項は、[条文例 10.5]に基づく甲による任意解除を妨げないものとする。
(1) サービス内容変更要求通知に記載された変更を第三者又は甲自らが適法に行うことができると合理的に認められること
(2) 一部解除により本件事業の根本部分に変化を及ぼさないこと
(3) 乙の経営に重大な悪影響を及ぼさないこと
4 前項により本契約の一部が解除された場合、以下に従ってサービス対価の減額及び補償を行うものとする。41
(1) 解除された業務の内容に応じて、サービス対価を減額するものとする。減額幅を算定する際には、複数の業務を一括して請け負うことによる費用が削減されている場
40 第3項に規定する管理者等からの解除権については、将来変更が必要になる可能性の大小、 一部解除が現実的に可能か、一部解除された場合の事業者への影響等、諸般の事情を考慮して、かかる規定の必要性の有無を判断すべきである。なお、この条項を挿入しない場合には、拒否事由をより限定することも考えられる(例えば、英国 SoPC4 にも同様の拒否事由の規定があるが、下請先が許認可を有していないことは拒否事由にあげられていない。したがって、第1項第2、3号を修正することも考えられる)。
41 具体的にどのような算定方法が合理的かについては議論の途上であること、さらに合理的な方法については個別の状況によっても異なりうることから、本項の規定方法については更に検討を要する。
合の効果についても配慮する。
(2) [特段の事情42がある場合を除き、統括マネジメント業務の対価相当分については、減額しないものとする。]43
(3) [特段の事情がある場合を除き、[株主への利益相当分]44については、減額しないものとする。]
(4) 甲は、別紙○4546に記載された契約条件に基づき、乙が[運営協力企業]に支払う必要のある額を乙に補償するものとする。
(5) [その他必要な調整項目を記載]
5 以下の各号のいずれかに該当する場合には、前項第 3 号は適用しないものとする。
(1) [事業の性質に応じてやむを得ない事由を具体的に記載]
(2) ・・・
Ⅳ 乙による回答書の提出
1 Ⅲの(1)から(10)に掲げる事由に該当する場合を除き、乙は、2に掲げる事項を記載した回答書により以下の期限までに回答を行う。乙が期限までに回答を送付しない場合は、甲の変更要求通知記載の条件をすべて承諾したものとみなす。 (1)通常変更:サービス内容変更要求通知受領後[ ]日以内
(2)簡易変更(簡易変更対価一覧記載以外の変更):サービス内容変更要求通知受領後[ ]営業日以内
(3)(1)及び(2)にかかわらず、Ⅱに従い仮対案又は仮見積りが提出された場合には、Ⅱに記載された期限
2 前項の回答書には、以下の各号に掲げる事項を記載するものとする。
(1) 変更方法
42 特段の事情としては、例えば統括マネジメント業務に必要である人員を削減できる場合を想定している。この部分については、予め特定できる事由については、特定することも考えられる(第 3 号も同様)。
43 統括マネジメント業務がない場合には、本号を削除するか、修正する必要がある。
44 株主の利益分を明示した財務モデル等をあらかじめ合意していることを前提としている。
45 契約の締結時点までに、SPC と運営協力企業との契約のうち、重要な事項で解除に関係するものの内容(かかる契約書の写しを開示すべきであるとの意見もある。)を別紙として添付する方法を想定している。これらを合意していくプロセス(対象事項、提案の際に提案すべき事項、提案内容の条件、その後の合意プロセス等)については、入札段階で予め示す必要がある。
46 本別紙作成の際、初期投資(契約締結等に要する費用も含む)を伴うものについてはこれが回収できるような金額を入れること(公共による買取により回収できる部分を除く。)、また初期投資を伴わない場合については、一定の期間(たとえば半年以上)前に通知した場合には補償をしなくて済むようにすることなどが考えられる。また、本別紙は、Ⅲ4、5、Ⅳ6で使用されることが想定されているが、それぞれの場合で状況が多少異なるため、どれが適用される場合かにより金額を変えることも考えられる。
(2) 変更に係る乙の増加費用及び減少可能な費用
(3) 取得又は変更しなければならない許認可及び当該許認可の取得見込日
(4) 変更の結果必要となるモニタリング実施計画書並びに本契約及び要求水準書中関連する条項の変更案
(5) 変更により本件施設の利用不能又は不便を招来するか否か
(6) 変更によりライフサイクルコストに与える影響があればその影響
(7) 運営等協力企業等の変更の見込み
(8) その他甲が定める事項及び特記事項
3 簡易変更の場合の費用算定方法
(1) 簡易変更価格一覧に含まれる部分については、同一覧により決定する。
(2) これ以外については以下に従い算定する47。
① 簡易変更価格一覧に含まれない部分については、原価一覧に応じて計算(以下の例による)。
工事・設計 同種の工事のユニット当たりの単価に変更対象工事
のユニット数を乗じた額
施設にかかる維持管理業務
同種の設備の更新サイクル及びメンテナンス費用の単価を基準に算定した額
運営業務 同種の業務の面積当たり、時間当たり、又は業務当たりの単価を用いて計算した額
② 原価一覧記載の業務に比べ、高い質の業務の提供を甲が要求した場合、合理的範囲内で増額。
③ 原価一覧記載外の業務は市場価格(乙が客観的な資料を提出)
④ 乙の管理費(上記の額に原価一覧に記載された割合を乗じる)
⑤ [甲及び乙が予め合意した範囲内における見積書作成費用。]
⑥ [その他必要な調整条項を記載]
(3)指標による調整:簡易変更価格一覧及び原価一覧に記載された金額については、運営期間開始後[ ]年ごとに別紙○に記載された指標に応じて修正されるものとする。
(4)簡易変更価格一覧の更新:甲及び乙は、運営期間開始前及び運営期間開始後各年度の始めまでに簡易変更価格一覧に追加が必要な項目を甲及び乙の合意により追加するものとする。また、指標による調整をしてもなお同一覧に記載された単価が合理性を欠くと認められる場合については、変更を希望する当事者は客観的な資料を示した上
47 上記は英国 SoPC4 に準拠して作成された Change Protocol Principles(英国財務省より 2007年8月公表)の中規模変更の規定をベースに作成したものである(主に学校PFIを想定して作成)。しかし、これが実際に機能するかは現段階では不明であり、日本において採用する場合、このような方法が可能か、可能であるとすればどのような調整事項が必要かについても別途検討する必要がある。いずれにせよ、価格決定の方法については英国、日本ともに確立した方法はなく、どのような方法であれば、透明性、公平性及び迅速性を確保できるのかについて、広範に議論をしていく必要がある。
で、変更を求めることができる(市場価格に幅がある場合、甲にとって最も有利な価格を基準とする)。
4 甲は、1の回答書を受領後又は1の回答書を受領せずにその回答期限を経過した後直ちに、乙との間で、要求水準の詳細、サービスの対価の算定方法の変更、変更期限日及びその他必要な事項について協議する。これらの事項について甲及び乙が合意に至った場合、甲及び乙は変更を証するため、変更確認書を作成する。
5 4の合意が協議開始後[ ]日以内に成立しなかった場合、第○条に定める紛争解決手続により合意を図るものとする。同条に求める手続によっても合意できなかった場合、甲は乙に対して甲の最終案を通知する。乙がこれに不服がある場合には、乙は、甲と協議の上、変更と不可分の部分(甲乙の協議により定める)について本契約を終了させることができるものとする。この場合、乙は新たな受注者の選定に協力するとともに、事業の引継に協力する義務([ ]に関する情報の開示を含む)を負うものとする。
6 一部解除を行った場合のサービス対価の変更及び補償については、Ⅲ第4項を準用するものとする。ただし第3号を除く。
Ⅴ 乙からの提案
乙は、随時、変更内容及びⅣ2(1)から(8)に掲げる事項を記載し、かつ見積りを付した書面により業務内容の変更を提案することができる。甲は、乙の当該提案について協議に応じるか否かを決定し、[ ]日以内に書面により乙に回答する。甲が乙の当該提案について協議に応じる場合は、Ⅳ3から6の規定を準用する。
Ⅵ.定期的変更協議
(1) 甲及び乙は以下の期日(以下「定期的変更協議開始日」という)から、サービス内容の変更の必要性について、協議を行なうものとする。両当事者は、定期変更協議開始日までに、必要に応じてアンケート、インタビュー等を行なった上で、変更検討事項報告書(別紙○の様式による)を他方に対して提出するものとする。
① 運営開始日の[ ]月前の日
② 運営開始後[ ]月を経過した日
③ 運営開始後[ 年、 年、 年、 年、 年]を経過した日
(2) 甲は、協議の結果変更が必要との結論に至った場合には、本別紙Ⅰ以下の規定し従っ
て変更要求通知を送付する。
Ⅶ 簡易変更価格一覧のみに基づく変更
1.甲は、簡易変更価格一覧に記載のある変更のみを希望するときは、以下の事項を記載した変更要求通知を乙に送付するものとする。
(1) 変更要求事項
(2) 変更開始希望日 ただし、変更開始希望日は、サービス内容変更要求通知の到達の日から少なくとも[ ]月間を経過した後の日を記載することを要する。但し、Ⅰ2
(2)ア又はイ該当する場合には、[ ]月間を経過した日以降とする。
2.乙は、サービス内容変更通知到達の日から[ ]日以内に簡易変更価格一覧により算定された変更に要する額、変更方法及びその他甲が定める事項を記載した回答書を甲に送付する。甲は変更価格に異議がある場合については、[ ]日以内に乙に通知するものとし、協議を行うものとする。協議開始後[60]日以内に成立しなかった場合、第○条に定める紛争解決手続により合意を図るものとする。
3.乙は、所定の期日までに変更を実施するものとする。甲は、[ ]までに、変更に要した額を支払うものとする。
【サービス内容の変更に関する実務上のポイント】
PFIは長期契約であるため、将来の状況変化に対して、サービス内容の変更及びそれに伴うサービス対価の変更手続きを規定する。変更規定のポイントは以下のとおり。
① 変更手続が機能するためには、まずは当初の条件が明確である必要がある。当初の条件が曖昧である場合、変更手続も機能しない。
② 変更額や補償額の算定を客観的に行うためには、財務モデルあるいは費用の内訳、解除時の条件等について、必要な範囲内で合意しておくことが望ましい。この際以下のことに留意する。 (1)これらの合意はあくまでも算定のための方法についての合意であること (2)また現在民間が開示している各業務の費用については、いろいろな事情でマーケット価格になっていない場合もあり、例えばひとつの事業者が複数のサービスを提供して、それぞれのサービスコストに乗せる利益の幅を意図的に変えて、総体として利益を確保している場合があることに留意すること。しかし、このような状況は客観的価格算定を困難にするものであり、できるだけ実態に近い価格が提出されるようになることが望まれること。
(3)財務モデル等は、契約締結時までに確定することが困難である場合、契約締結
後に詳細を詰めていくことも考えられるが、あくまで重要な事項は契約締結まで
に決定されるべきで契約締結後の決定は例外であること、また、管理者等から民間への支払は入札手続に従って決定された額で変更するものではないこと。
③管理者等が要請してサービス内容等を変更する場合、増加コストは管理者等が負担する。
④小規模な変更に関しては、予め(契約締結時等)価格改定のための算定式を合意しておくことが考えられる。
⑤運営開始の直前や、運営開始1年後など、定期的に事業契約に定められたサービス内容と実態をレビューし見直しを行う規定を設けることも考えられる。
第9章 表明及び保証等
9-1 表明及び保証等(新設)
1.概要
・選定事業者及び管理者等が、事業契約の締結のために必要な内部手続を履践していること等の事業契約の適法性ないし有効性を基礎づける事実や、必要な許認可を取得していることや債務負担行為の設定に係る議会の議決を経ていること等の PFI 事業の遂行に欠くことのできない事実の存在について表明及び保証を行うことが規定される。
・また、選定事業者及び管理者等が、一定の書類の提出義務、一定の事項の通知義務、さらに一定の行為を行う義務又は一定の行為を行わない義務をそれぞれ遵守することについて、誓約ないし約束することが規定される。
2.趣旨
・表明及び保証(representations and warranties)という概念は、もともとは欧米の契約実務において用いられてきたものであるが、近時は我が国においても、主として協調融資や企業の合併・買収等の複雑な企業間取引にかかる契約実務において活用される例が増大しており、また未だ少数ながらも表明保証条項の法的効力について判断する裁判例も現れ始めているところである。表明保証条項を契約に定める意味は、契約当事者が契約関係に入るに際して、一定の重要な事実が存在することを相手方に言明させることにより、相手方による契約上の義務履行に対する信頼を高めることができるとともに、仮に相手方が表明保証した事実が存在しないことが判明した場合には、契約を解除して契約関係を解消したり、表明保証された事実が存在すると信じたことによって被った損害の賠償を請求する等の契約上の救済措置を可能とする点にある。このように、表明保証は、それを行う時点(通常は契約締結日)において存在する事実を言明するものであるので、その対象は過去又は現在の事実ということになり、概念上、将来の事実について表明保証が行われることはない。
・一方、誓約(covenants)ないし約束(undertakings)という概念も、欧米の契約実務で 一般的に用いられる用語ではあるが、その内容は、契約当事者が一定の行為を行う義務又 は一定の行為を行わない義務を定めるものに過ぎず、その意味においては、当事者が遵守 すべき義務を定める我が国の一般的な契約条項と特段その機能を異にするものではない。従って、あえて「誓約」ないし「約束」という名称の条項を定めることは必要ではなく、通常の契約条項として規定すれば足るものではあるが、契約当事者が契約期間中に遵守す べき事項が多数存在し、まとめて記載した方が一覧性の観点から便宜であるような場合に、このような条項を設けることが考えられる。
・表明保証条項や誓約条項においていかなる事項を規定するかについては、それぞれの PFI事業の事業内容やその事業の抱えるリスクの内容に応じて、個々の事業毎に検討する必要がある。なお、過去の事例においては、事業契約において表明保証条項や誓約条項が規定される例は多くはないが、例えば選定事業者による選定事業者自身の設立、契約締結権限及び業務遂行能力に係る表明保証や、管理者等による債務負担行為の設定に係る表明保証について規定される例がある。
3.留意点
・表明保証については、上記の通り、そもそも欧米の契約実務に起源する概念であり、またそれに関連する我が国の裁判例等も未だ極めて少ないため、その法的性格や要件・効果について解釈が確立していない点も多い。従って、事業契約の作成にあたっては、表明保証の対象となる事実を規定するに留まらず、表明保証条項に違反した場合の法的効果等
(例えば、解除事由や損害賠償事由への該当性等)についても明確に規定すべきことに留意する必要がある。
4.条文例
(事実の表明及び保証)
条文例 9.1.1() 乙は、甲に対し、本契約締結日現在において、次の各号に掲げる事実を表明し、保証する。
(1)乙が、会社法(平成 17 年法律第 86 号)に基づき適法に設立され、有効に存続する株式会社であること
(2)乙の本店所在地は○○内であること (3)乙は、本契約を締結し、また本契約の規定に基づき義務を履行する完全な権利、能力
を有し、本契約上の乙の義務は、法的に有効かつ拘束力ある義務であり、乙に対して強制執行可能であること
(4)乙が本契約を締結し、これを履行することにつき、法令及び乙の定款、取締役会規則その他の社内規則上要求されている授権その他一切の手続を履践していること
(5)本契約が、乙の代表者又は代表者から有効な委任を受けた代理人によって締結されたこと
(6)本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行は、乙に対して適用されるすべての法令及び乙の定款、取締役会規則その他の社内規則に違反せず、乙が当事者であり又は乙が拘束される契約その他の書面に違反せず、また乙に適用される判決、決定又は命令に違反しないこと
(7)乙の定款記載の目的が、本事業の遂行に限定されていること (8)乙の資本金が○円以上であること (9)乙が、破産手続又は民事再生手続、会社更生手続若しくは特別清算の開始その他の法
的倒産手続開始の申立てをしておらず又は、第三者によるかかる手続の申立てもなされていないこと
(10)乙が、支払不能、支払停止又は債務超過の状態になく、かつ、本事業を行うことによって支払不能又は債務超過の状態に陥るおそれがないこと
(11)乙が、公租公課を滞納していないこと
(12)債務不履行事由を構成する事実又は時の経過若しくは通知により債務不履行事由を惹起せしめる事実はいずれも存在せず、また、乙の知る限り、本事業の遂行に関し、重大な悪影響を与える事実若しくは将来与える事実は存在しないこと
(13)乙による本事業の遂行に必要であって、本契約の締結に先立ち乙が取得し又は、届け出るべき許認可がある場合、当該許認可の一切が適法に取得され、届出が適法に完了し、法的手続が適法に履践され、かつ、かかる許認可、手続が有効であり、また将来取り消されるおそれがないこと
(14)乙の知る限りにおいて、本事業を実施するために必要な乙の能力又は本契約上の義務を履行するために必要な乙の能力に重大な悪影響を及ぼしうる訴訟、請求、仲裁又は調査は、乙に対して係属しておらず、その見込みもないこと
(15)本契約に関し、乙が甲に対して提供した一切の情報が、その情報が提供された時点において一切の重要な点において真正、完全かつ正確なものであること。現在甲に対し開示されておらず、かつ開示された場合に、甲の決定に重大な影響を及ぼすことが相当な事実及び状況の存在を乙が認知していないこと
(16)乙の定款に会社法第 326 条第2項に定める取締役会、監査役及び会計監査人に関する定めがあること
2 甲は、乙に対し、本契約締結日現在において、次の各号に掲げる事実を表明し、保証する。 (1)甲が本契約を締結し、これを履行することにつき、法令及び内部規則上要求されてい
る授権その他一切の手続を履践していること
(2)本契約は、適法、有効かつ拘束力ある甲の債務を構成し、本契約の規定に従い強制執行可能な甲の義務が生じること
(3)本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行は、甲に対して適用されるすべての法令及び内部規則に違反せず、甲が当事者であり又は甲が拘束される契約その他の書面に違反せず、また甲に適用される判決、決定又は命令に違反しないこと
(4)甲による本契約上の債務不履行を構成する事実又は時の経過若しくは通知により債務不履行事由を惹起せしめる事実はいずれも存在せず、また、甲の知る限り、本事業の遂行に関し、重大な悪影響を与える事実若しくは将来与える事実は存在しないこと
(5)[○○議会]において、本契約を締結するために必要な債務負担行為の議決がなされたこと
(6)本事業の遂行に重大な悪影響を及ぼすこととなる訴訟又は行政手続が、裁判所又は政
府機関において提起又は開始されておらず、また、甲の知る限り、そのおそれもないこと
(7)本契約に関し、甲が乙に対して提供した一切の情報が、その情報が提供された時点において一切の重要な点において真正、完全かつ正確なものであること。現在乙に対し開示されておらず、かつ開示された場合に、乙の本事業に関する決定に重大な影響を及ぼすことが相当な事実及び状況の存在を甲が認知していないこと
(8)本件土地の境界については、隣接する土地の所有者又は占有者との間において、訴訟、調停、仲裁その他の法的手続又は紛争解決手続は一切存在せず、隣地の所有者又は占有者から、境界につき、何らのクレーム、異議、不服又は苦情の申入れはないこと。本件土地に対する隣接地及びその建物又は構造物による不法な侵害は存在しないこと
(乙による約束)
条文例 9.1.2 乙は、甲に対し、本契約締結後[ ]日以内に、甲が合理的に満足する形式及び内容の次の各号に掲げる書面を提出することを約束する。なお、次の各号の書面の記載内容が変更された場合も同様とする。 (1)[内容については、事業の性質に応じて決定される。具体的内容については、引続き検討が必要である。]
(甲による約束)
条文例 9.1.3 甲は、事業期間中、次の各号に掲げる事項を遵守することを約束する。 (1)[内容については、事業の性質に応じて決定される。具体的内容については、引続き検討が必要である。]
(乙の兼業禁止)
条文例 9.1.4 乙は、本事業に係る業務以外の業務を行ってはならない。ただし、甲の事前の書面よる承諾を得た場合は、この限りでない。
第10章 契約期間及び契約の終了
10-1 PFI事業における契約の終了(契約GL:5)
・PFI事業契約の終了には、契約期間の満了による場合の他、PFI事業契約期間中におけるPFI事業契約の解除による場合がある。このPFI事業契約の解除には選定事業者の帰責事由による場合(管理者等が解除権を有する、「10-3 選定事業者の債務不履行による解除」で解説)、管理者等の帰責事由による場合(選定事業者が解除権を有する、「10-4 管理者等の債務不履行による解除」で解説)、及び不可抗力や法令変更の場合がある。なお、PFI事業契約の解除に伴い、当事者に損害賠償又は違約金等の支払義務が発生する(「10-6 解除の効力」及び「10-7 違約金」で解説)。
・PFI事業契約においては、基本方針に「当事者が協定等の規定に違反した場合に、選定事業の修復に必要な適切かつ合理的な措置、債務不履行の治癒及び当事者の救済措置等を規定すること(基本方針三2(2))」、「事業修復の可能性があり、事業を継続することが合理的である場合における事業修復に必要な措置を、その責めに帰すべき事由の有無に応じて、具体的かつ明確に規定すること。(基本方針三2(6))」と定められており、当事者がPFI事業契約上の義務を履行しない場合であっても、選定事業に修復の可能性があり、かつ、継続が合理的であるときには、当事者及び関係者が選定事業の修復を図ることとし、修復に必要な適切かつ合理的な措置等を規定することとなる。
・したがって、PFI事業契約においては約定解除権が規定される(民法第540条第1項)。約定解除権を規定することにより、選定事業の適正かつ確実な実施の確保を図るため、法定解除権の解除事由及び解除要件を補充・修正することや、法定解除権とは別の解除事由及び解除要件を規定することができる。
10-2 契約期間(契約GL:1-3)
1.概要
・契約期間について、始期は、契約締結日であり、その日からその効力を生じることとし、終期は、特定の年月日、又は施設の供用開始から一定期間を経過した日である旨規定される。
2.関係法令の規定
・会計法及び予決令では、契約書に履行期限を記載することとしている(会計法第29条の8第1項及び予決令第100条)。
・支払遅延防止法においても同趣旨の規定がなされている(支払遅延防止法第4条第2号) 。
3.条文例
(契約期間)
条文例 10.2.1 本契約は、本契約締結日から効力を生じ、運営業務等終了日をもって終了する。ただし、本契約終了後においても、本契約に基づき発生し、存続している権利義務及び守秘義務の履行のために必要な範囲で、本契約の規定の効力は存続する。
10-3 選定事業者の債務不履行による解除(契約GL:5-1)
1.概要
・管理者等は、選定事業者がPFI事業契約上の義務を履行しない場合、選定事業者に対して一定の期間を定めて催告し、この期間を経過しても是正されない場合、PFI事業契約を解除できる旨規定される。但し、選定事業者による契約違反が選定事業者と管理者等の間の信頼関係を破壊するものであり、選定事業者に対して催告を行っても不履行の是正が図られる見込みがない場合、管理者等は無催告で解除できる旨が特約として定められる。
2.趣旨
・管理者等は、選定事業者がPFI事業契約上の義務を履行しない場合、基本的には選定 事業者に対して是正に必要な一定の期間を定めて催告し、この期間を経過しても是正さ れない場合、PFI事業契約を解除できる旨規定される。設定された是正期間以内に、 不履行の是正がなされた場合には管理者等はPFI事業契約を解除できないこととなる。 PFI事業契約に則して公共サービスが継続的に提供されることが重要との観点から、 管理者等による解除権行使の前にまず選定事業者に自ら不履行を是正(義務の不履行を
「治癒」し、「修復」を図ること)することの経済的動機付けを与えることが必要である。但し、選定事業者による契約違反の程度が著しく選定事業者と管理者等の間の信頼関係を破壊するものであり、選定事業者に対して催告を行っても不履行の是正が図られる見込みがない場合は、管理者等は無催告で解除できる旨を特約として定められる。
・基本方針において、「事業継続が困難となる事由をできる限り具体的に列挙し、当該事由が発生した場合又は発生するおそれが強いと認められる場合における協定等の当事者のとるべき措置を、その責めに帰すべき事由の有無に応じて、具体的かつ明確に規定すること」、「事業修復の可能性があり、事業を継続することが合理的である場合における事業修復に必要な措置を、その責めに帰すべき事由の有無に応じて、具体的かつ明確に規定すること」が定められており(基本方針三2(6))、解除事由、その事由が発生した場合又は発生のおそれが強い場合に当事者のとるべき措置等について具体的かつ明確に規定することを要請している。
3.解除事由
・長期に亘るPFI事業契約は、当事者間の信頼関係を基礎としており、当事者のいかなる行為が債務不履行に該当し、その場合他方の当事者はいかなる手続をもってPFI事業契約を解除できるかについてあらかじめ合意しておくことが必要となる。かかる観点から、債務不履行解除の要件を明確にするための規定が置かれる。また、選定事業の適正かつ確実な実施の確保を図る観点から、法定解除事由である債務不履行の成立を必要
としない約定解除事由を規定する場合も多い(関連:10-5 公共施設の管理者等による任意解除)。
・解除事由の規定については、基本方針において、「協定等の解除条件となる事由に関しその要件を具体的かつ明確に規定すること、事業継続が困難となる事由をできる限り具体的に列挙すること」(基本方針三2(6)(7))が定められており、管理者等による解除事由について、厳格に規定する必要がある。
・以下に解除事由を例示する。
①設計、建設工事への着手の遅延
・設計又は建設工事への着手の遅延は、PFI事業契約の目的達成の第一段階であり、予定した期日を過ぎてもこれらに着手しない場合、工程に無理をきたして施設の品質に重大な悪影響を与えること等が想定され、契約関係を維持してもPFI事業契約等に従った公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由となる。
・具体的には、選定事業者が設計又は建設工事に着手すべき期日を過ぎても設計又は建設工事に着手せず、相当の期間を定めて催告しても、選定事業者から管理者等に対して合理的な説明がないとき、管理者等がPFI事業契約の解除権を取得する。なお、選定事業者が正当な理由なく設計又は建設工事への着手を遅延したとき、特段の催告をすることなく、管理者等がPFI事業契約の解除権を取得する旨規定するという例もある。
②施設の完成、引渡し(又は運営開始)の遅延
・選定事業者が公共サービスを提供するために不可欠な施設の完成や施設の引渡し(又は運営開始)が遅延しており、予定された期日(引渡し(又は運営開始)予定日が延期された場合には、延期後の予定日)から一定期間経過後も、なお履行される見込みが明らかでない場合、契約関係を維持しても公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由となる。
(BTO方式の選定事業の場合)
・選定事業者の帰責事由により、引渡し予定日から一定期間経過しても引渡しが出来ないとき、又はその見込みが明らかでないときを管理者等による解除事由とする規定を置くことが通例である。運営業務の開始予定日が重視される選定事業については、履行期限として「引渡し予定日」ではなく「運営開始予定日」を設定し、当該運営開始予定日より一定期間経過しても施設の運営開始体制が整わないときを、管理者等による解除事由とする規定を置くこともある。
(BOT方式の選定事業の場合)
・施設の建設工事の完成に着目し、選定事業者の帰責事由によって、予定された工期内に
施設が完成せず、かつ、予定工期の経過後相当の期間以内に建設工事を完成する見込みが明らかにないと認められるとき、若しくは施設の運営開始時点に着眼し、選定事業者の帰責事由により、施設の運営開始予定日から一定期間経過しても施設が運営開始出来ないとき、又はその見込みが明らかにないと認められるときなどを、管理者等による解除事由とする規定を置くことが通例である。
③維持・管理、運営業務に関する債務不履行
・選定事業者による維持・管理、運営業務に関し債務不履行の状況があらかじめ定めた一定程度以上継続する場合、契約関係を維持してもPFI事業契約等に従った公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由となる。
・例えば、具体的な解除までの手順としては、選定事業者による維持・管理、運営業務に関し債務不履行が生じた場合、対象となる債務不履行に相当する「サービス対価」の減額措置や支払い留保措置を講じつつ、
1)あらかじめ定めた一定程度以上に債務不履行の状況が繰り返される場合、選定事業者自ら履行体制を強化し、改善を図る。
2)管理者等は選定事業者に改善措置を講じるよう通告し、改善計画書の提出を求め、選定事業者は合意した改善計画書に基づき改善を図る。
3)選定事業者による当該債務不履行を改善、是正する期間を設け、それでもなお改善されず、あらかじめ定めた一定程度以上の債務不履行の状況が継続するときは、一定の通告期間経過後、管理者等が解除権を取得する旨規定される
ことが考えられる。(関連:7-2 「サービス対価」の支払、10-6 解除の効力、参照:「モニタリングに関するガイドライン」)
④選定事業者の破産
・選定事業者の破産、会社更生、民事再生若しくは特別清算の手続きの開始又はこれに類似する手続きについて選定事業者の取締役会でその申立てを決議したとき又は第三者によってその申立てがなされたときは、選定事業者が選定事業を継続することが不可能な程度に経済的に破綻しており、且つ選定事業者による選定事業の修復が不可能であるため、管理者等による解除事由となる。
・選定事業者が支払不能又は支払停止となったときや一定金額以上の債務の履行を一定日数以上に亘り遅延したときなど、破産原因自体又はそれを推定させる事由の発生があり、 PFI事業契約の目的を達することが不可能となる蓋然性が高いと判断されるときは、選定事業者による債務不履行の成立を待たずに管理者等は解除権を取得するとすることもあり得る。
⑤選定事業者による事業放棄
・選定事業者が事業を放棄し、一定期間に亘りその状態が継続したときなどは、選定事業者による選定事業の継続が不能と想定されることから、管理者等による解除事由となる。
⑥その他契約違反
・その他PFI事業契約に違反し、その違反によりPFI事業契約の目的を達成することができないと認められるときを、契約関係を維持しても公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由とする。選定事業者が業務報告書に著しい虚偽記載を行うことも、信頼関係を破壊する重大な契約違反であることから管理者等による解除事由となる。
4.是正期間の設定
・管理者等は選定事業者に対し一定の是正期間を設けて義務を履行するよう催告するも、選定事業者がその義務を履行しない場合、管理者等がPFI事業契約の全部又は一部を解除できる旨規定する。この是正期間については、選定事業者のかかる債務不履行の是正に要すると見込まれる期間を設定する必要がある。また、契約関係の安定性を確保するため、是正期間についても解除事由ごとに具体的かつ明確に定めておくことが望まれる。
5.書面主義
・管理者等らの選定事業者に対する催告、及びPFI事業契約終了の通告又は通知については、後日の紛争回避の観点から書面により通知する旨規定することが望ましい。
6.条文例
(乙の債務不履行による契約解除)
条文例 10.3 甲は、次の各号の一に該当するときは、乙に通知することにより、本契約の全部を解除することができる。
(1)乙が本事業の実施を放棄し、[ ]日間以上にわたりその状態が継続したとき (2)乙が、破産、会社更生、民事再生若しくは特別清算その他倒産法制上の手続について乙
の取締役会でその申立てを決議したとき、又は第三者(乙の取締役を含む。)によってその申立てがなされたとき
(3)落札者のいずれかに、基本協定書第○条に該当する事由が発生したとき
(4)乙が、[条文例 6.4.1 ないし条文例 6.4.3]の報告書及び[条文例 17.1.1]の計算書類等に重大な虚偽記載を行ったとき
(5)乙が、正当な理由なく、設計業務又は本件工事着工予定日を過ぎても設計業務又は本件工事に着手せず、甲が、乙に対し、相当の期間を定めて催告しても、乙から当該遅延に
ついて甲の満足する説明が得られないとき
(6)乙の責めに帰すべき事由により、本件工事対象施設の引渡予定日から[ ]48日が経過しても本件工事対象施設の引渡しが行われないとき、又は明らかに引渡しの見込みがないとき
(7)乙の責めに帰すべき事由により、運営業務開始予定日から[ ]日が経過しても運営業務が開始されないとき、又は明らかに開始の見込みがないとき
(8)乙の責めに帰すべき事由により[行政財産無償貸借契約]が解除されたとき (9)前各号に掲げる場合のほか、乙が本契約に違反し、その違反により本契約の目的を達す
ることができないと甲が認めたとき
2 甲は、乙の責めに帰すべき事由により、乙が実施する運営業務等の水準が要求水準書に記載された要求水準を満たさない場合、モニタリング実施計画書の規定に従い、本契約の全部又は一部を解除することができる。
48 猶予期間をどの程度認めるかについては、案件の特性によって異なる。
10-4 管理者等の債務不履行による解除(契約GL:5-2)
1.概要
・選定事業者は、管理者等が「サービス対価」の支払いを遅延し、選定事業者から催告を受けてから一定期間を経過しても当該支払義務を履行しないとき、及び、管理者等による重要な義務違反により選定事業者の選定事業の実施が困難となり選定事業者が是正期間を設けて催告しても選定事業の実施が困難な状況が解消されないときなどには、PF I事業契約を解除できる旨規定される。
2.趣旨
・契約関係の安定性の確保を図るため、管理者等の債務不履行による選定事業者の法定解除の要件を約定により明確にするものである。
3.解除の要件及びその効力
・選定事業者の帰責事由によるPFI事業契約の解除の場合と同様に、管理者等の帰責事由によるPFI事業契約の解除についても、解除要件を明確化するとともに、一定の是正期間を設けることによって、契約関係の安定性の確保に配慮する必要がある。
・管理者等の是正期間中に選定事業者が業務を適正に履行できないとしても、その責は管理者等に帰するのであるから、「サービス対価」の減額はなされないものと考えられる。また、管理者等に「サービス対価」の支払義務の不履行がある場合、選定事業者の支出負担を軽減するために、管理者等の是正期間中、施設の維持・管理、運営義務を軽減し、若しくは、最低限度の維持・管理、運営を行う義務のみ負うこととし、それに対応した
「サービス対価」が発生するという規定を置くことも考えられる。
・管理者等が金銭の支払いを遅延した場合について、管理者等は選定事業者に対し、支払うべき金額に加え、遅延損害金を支払うことが規定される。(関連:11―1 遅延損害金)
・選定事業者からの管理者等に対する支払いの催告、及びPFI事業契約終了の通知についても、後日の紛争回避の観点から書面による旨規定することが望ましい。
4.条文例
(甲の債務不履行による契約解除)
条文例 10.4 乙は、次の各号の一に該当するときは、甲に対して通知することにより、本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1)甲が本契約上の金銭債務の履行を遅滞し、乙から催告を受けてから[ ]日間当該遅滞が治癒しないとき
(2)甲の責めに帰すべき事由により、本契約上の乙の義務の履行が不能となったとき
(3)甲の責めに帰すべき事由により、甲が本契約上の甲の重大な義務(金銭債務を除く。)の不履行をし、乙から催促を受けてから[ ]月間当該不履行が治癒しないとき
10-5 管理者等による任意解除(契約GL:5-1の7)
1.概要
管理者等の政策変更や住民要請の変化等により、選定事業を実施する必要がなくなった場合や施設の転用が必要となった場合には、管理者等は一定期間前にPFI事業契約を解除する旨選定事業者に通知することにより、任意にPFI事業契約を解除できる旨規定されることが多い。これは、選定事業が公共サービスを提供するものであり、不必要なものを提供することが社会的に無駄であるという特殊性から、管理者等の解除権の要件を約定により追加するものである。但し、PFI 事業契約は、その継続性、有効性に依拠して、民間主体が投融資を実現するものである以上、管理者等による任意契約解除権の行使は、本来想定外の事象になり、選定事業者側に、大きな費用負担を強いることを認識することが必要である。管理者等はこれら費用を補償することが求められるとともに、予め、補償の範囲や額に係る基本的な考えをできる限り明確に選定事業者と合意しおく必要がある。また、管理者等がかかる権利を行使する場合には、合理的な理由があるべきで、安易な任意解除権の行使は、両当事者にとり、様々な問題を生じさせることに留意する必要がある。
2.問題状況
現在締結済みの契約においては、任意解除規定の有無は事業によって異なる。任意解除規定がある場合、通常損失補償の規定もあるが、具体的算定方法までは書かれていないことが多い。そこで、①選定事業者の保護は十分か、②補償の対象と範囲、算定方法をいかに明確化し、補償額を確定していくかという課題が生じている。
3.基本的な考え方
(1)契約を全て履行する意図を持って契約を締結する必要性
そもそもPFI契約の全ての当事者は、期間満了まで契約を解除することなく、契約上の義務を全て履行する意図をもって契約締結を行い、契約関係に入るべきである49。
(2)任意解除規定の必要性
上記のとおり、政策変更、住民ニーズの変化などにより、管理者等による解除が必要になることがある。一方、官民の対等なパートナーシップというPFIの本来の関係から、官民双方の権利義務は明確に契約上に規定されることが望まれる。したがって、
49 英国 SoPC4 においても、発注者による任意解除に関する説明の冒頭で、PFI 契約の全当事者は、契約が最後まで続くことを意図すべきである旨記載されている(21.5.1)。
任意解除の規定を設け、その場合の権利義務関係を明確にすることにより、選定事業者及び融資機関の立場を不安定とすることを防止するとともに、透明性のある手続により住民に対する説明責任を果たすべきである。
(3)損失補償額の明確化
官民のリスク分担を明確にすることによりVFMを最大化するというPFIの基本理念に照らせば、損失補償の内容もできる限り明確化すべきである50。
(4)補償内容
理由を限定しない解除権を管理者等に与える場合、あくまで抑制的であること(すなわち簡単に行使されないようにすること)が基本である。したがって、補償の額は、管理者等に責めが帰される債務不履行事由に伴う契約解除の賠償額算定と同じ考え方に立脚して算定されるべきである51。
※事業の性質に応じた補償額算定メカニズム:損失補償範囲の明確化の際は、不合理な結論にならないよう、事業の性質等を十分考慮してメカニズムを作成する必要がある。
※解除手続に伴う負担:任意解除の規定があり、かつ損失補償の算定方法についての規定があるとしても、実際にそれを行使するとなると、損失補償の算定などが両当事者にとって非常に大きな負担となる可能性があることに留意すべきである。
4.具体的な規定の内容
(1)任意解除規定及び損失補償
公共の任意解除権及び損失補償の支払義務を規定する。特に要件の限定のない任意解除の規定の場合には、基本的には管理者等の債務不履行による解除の場合と同様の損失補償が認められるべきである。この場合、補償内容を明確にするため、補償の対象項目及び算定方法を明確に規定することが望ましい。
(2)優先貸付人への期限前弁済に伴い支払う補償
50 特に公共施設の管理者等が自治体である場合には、損失補償額が不明確であると住民訴訟を起こされる可能性につながるため、補償額を明確化することは重要である。
51 英国 SoPC4 中の条項例では、いつでも所定の手続きに従い解除できる旨規定されており、この場合の補償額は発注者の債務不履行時と同様とされている(21.5.1、21.5.2)。
マーケットプラクティス等に照らし不合理な合意がなされている場合を除き、全て支払う(ブレークファンディングコストや金利スワップ解約コスト等を含む)。
合理的な慣行に従ったことを確保するためには、コストに見合う場合には融資契約や関連諸契約のデューデリジェンスを行うことが望ましく52、そのほかの場合であっても少なくとも選定事業者が優先貸付人に対する債務の期限前弁済を行う場合について、当該弁済について行う補償の額に影響を与えるような条項の内容等を把握することが望ましい。現在の実務では、通常、PFI 事業契約後に融資契約等をドラフトしており、PFI 事業契約締結までに合意しているのは主要な融資条件レベルである。したがって、現在の実務慣行を前提とする限り、PFI 事業契約前に融資契約書そのもののデューデリジェンスを行うことは困難である。そこで、融資契約締結前に特に期限前弁済時の補償の額に大きく影響を与える条件を予め把握するとともに、その後に管理者等の同意を経ずに変更できないものとする(又は、変更されても補償額は変更前のものをもとに算定する)ことも考えられる。
(3)委託先への補償
マーケットプラクティス等に照らし不合理な合意がなされている場合を除き、基本的には全て支払う53。
管理者等は関連諸契約の期限前の解除の際の支払額に影響を与えるような条項の内容等を把握することが望ましい。そこで、例えば契約の締結時点までに、SPC と運営協力企業との契約のうち、重要な事項で解除に関係するものの内容を合意する方法が考えられる。この際、初期投資を伴うものについては、これが回収できるような金額を入れること(公共による買取により回収できる場合を除く)、また初期投資を伴わない場合については、一定の
52 デューデリジェンスについてはいくつかの検討課題がある。まずは時期の問題で、事業契約 締結時には融資契約は締結されていないので、事業契約締結前にデューデリジェンスを行うことは不可能であり、事業契約締結後既に事業計画の内容が固まった後の段階においてデューデリジェンスでは意味がないのではないかという指摘がある一方、PFI事業契約締結後に把握するとしても一定程度意味があるとの考え方もある。次にどこまで把握する必要があるかという問題があり、融資契約等については写しを管理者等に提出すべきであるという考え方もある一方、写しの提出までは必要はなく期限前弁済の際の補償金や期限の利益喪失条項といった必要な条項を把握すれば足りるとの考え方もある。さらに、管理者等がどのような方法で内容を把握するのかについても様々な方法がありえる。したがって、ディーデリジェンスについては、時期、範囲及び方法の点について(上記の一見異なる考え方が本当に両立しないものなのかも含め)検討する必要がある。
53 但し、SPC と委託先との委託契約は必ずしも長期契約として PFI 事業契約の条件をパススルーする選択肢だけではなく、業やサービスの属性、市場における代替性や競争性から短期契約ないしは複数年契約を継続し、契約を管理していくというケースもある。この場合には任意解除に伴う(管理者が支払う)SPC 費用は確実に縮減できる。このように、様々な選択肢がありえるため、この部分の規定の方法については、個別の事情に応じて決定していく必要がある。
期間(たとえば半年以上)前に通知した場合には補償をしなくて済むようにすることなどが考えられる。これらを合意していくプロセス(対象事項、提案の際に提案すべき事項、提案内容の条件、その後の合意プロセス等)については、入札段階で予め示す必要がある。
(4)株主劣後貸付人54、株主への支払
例えば以下のような方法があり、いずれによるかは事業の内容等によることとなる。これらの方法を、どのように使用するかについては様々な方法がありえる55が、将来の逸失利益(得べかりし利益)をすべて補償するのではなく、一定の範囲に限るのが一般的である。
1)財務モデルに基づき算定する方法
当事者間で予め合意した財務モデルにおいて想定されている将来の収支等をもとに算定する方法である。
留意点:この方法による場合、以下の点に留意すべきである。
①財務モデルの合意:現在、我が国では詳細な財務モデルについて予め合意するという慣行は存在しない。しかし、財務モデルを合意することは、解除の際の損失補償の算定の根拠になるものであるので、今後は財務モデルの内容について検討を進めた上で、財務モデルを合意する慣行を形成していくことが望ましい。なお、サービス購入型でも比較的単純な事業については、入札時に提出した事業計画をベースに算定することも考えられる。
②当初の財務モデルと現実が異なる場合:当初想定していた収益率と現実が異なる場合どちらを基準にすべきかの判断が難しい。現実の収益率をベースにする方法もありえるが、解除時点の収益率が将来も続くと仮定することが常に合理的とはいえないことに留意する必要がある。
54 株主(又は株主と経済利害関係を同一にする第三者)が劣後融資をしている場合には、基本的には株式と同様の扱いをすべきである。劣後融資は、ハイリスク・ハイリターンであることが多く、優先貸付人と同様の基準で支払うことはリスクを無視することになるからである。株主以外の者が劣後融資をしている場合、劣後融資・優先融資の間にメザニン融資がある場合などは、それぞれの融資の性質(リスク、リターン)に応じて扱いを決定する必要がある。ただし、現在の実務では、メザニン融資については、任意解除のリスクを見込んでいないとの指摘もあり、この部分については更に検討を要する。
55 例えば、英国 SoPC4 では、①予め合意した財務モデルにおけるEIRRに基づき算出した「解除時」までのリターンに相当する額、②解除時の市場価格、③解除日以降に、予め合意した財務モデルに基づいて受領する予定だった金額(解除日から支払予定日までの期間について財務モデルにおけるEIRRを割り引いて算出)の3者から事業者が予め選択する額とされている (21.1.3)。
③リスクの考慮:財務モデルに基づく収入をもとに算定する場合には、その収益が得られる確実性(すなわちリスク)にも考慮する必要がある。一般的に高い収益が見込まれる案件は、リスクも高いために、リスクに応じた調整(割引率を高く設定するなど56)が必要であることに留意する必要がある。
④割引率:割引率(又はその算定方法)についても予め合意しておくことが望ましい。
2)予め定めた金額・算式による方法
財務モデル等に基づき、予め具体的金額(または具体的算定方法)を合意しておく方法もある。
※この方法を使用する場合、支払金額は双方にとって合理的か、議会及び住民に対する説明という点でも問題が生じないかを検討した上で内容を定め、かつ入札段階で民間事業者に条件を提示するべきである。
※英国 SoPC4 では、一定の時点で解除した場合の劣後貸付人、株主への支払の定額化(具体的金額は入札時に応札者が提案)という方法が新たに提案されている(21.5.4)(現実的に機能するかは、まだ例がないので今後の課題である)。
その他の留意点
1) その他の補償項目:上記以外で補償すべき項目について更に検討が必要である。
2) 補償金額算定表の利用:契約解除時期とそれぞれの時期に解除された場合の補償金額総額のみを定めた補償金額算定表を採用した例もある。
3) 損失補償額の算定方法を詳細には記載しない場合でも、優先貸付人に不測の損害が及ばないことが明らかになるような書き方にすることが望ましい。
4) 優先貸付人への利息、委託先への支払い、劣後貸付人・株主への支払いについては、相互に関連していること(委託先への支払いが大きくなると、株主への支払いが小さくなるなど)に留意する必要がある。その結果、例えばPFI契約締結前に劣後貸付人・株主への支払分だけ決めようとしても委託先への支払いが定まっていない段階では難しいという問題が生じうる。
5.留意点
(1)事業類型との関係
56 現在価値の算定の際にリスクを織り込む方法としては、(1)リスクを割引率に反映させる方法、 (2)キャッシュフローにリスクを反映させて、割引率にはリスクを反映させない方法の2通り がある。ここでいう割引率は、VFMの算定の際の割引率とは考え方が異なる。
逸失利益の計算は、事業類型によっても考慮すべき点が異なる。サービス購入型の場合、サービスを担う対価からコストを控除したものが利益となる。管理者等が支払うサービス対価には明確に上限があるため、サービスのコストの大まかな状況を推定できる場合、事業者があえて大幅に利益を上乗せして、補償を要求することは想定しにくい。一方、選定事業者にとってハイリスク・ハイリターンの案件、すなわち需要リスクを大幅に民間に移転する案件については、選定事業者の収入は、推定は不可能ではないにせよ恣意的な要素が入るため、合理的な推定は成立しにくいという状況にある。
(2)解除事由を限定する考え方
任意解除については、上記の考え方の他、任意解除を完全な任意解除とせず一定の制限を加えるが(例:完全な任意にせず解除できる場合を限定、又は一定期間任意解除を禁止)、損失補償の額についても債務不履行による解除に比べて軽減するという考え方もある57。
(3)その他の留意点
任意解除そのものについては特に議会の議決を要する旨の規定はないが、地方自治法第 96 条第 2 項は条例により議決事項を追加することを認めているため、同項により条例で議会の議決を必要とすることも考えられる(この点については、地方自治法との関係等、制度面についてさらに検討が必要である)。
57 「損失補償」は、もともと憲法上の概念であるが、通常の法律でも「損失補償」が規定されていることが少なくない。例えば、憲法上の損失補償と、特定の法律上の損失補償の内容が異なることを前提とする判例があるなど、「損失補償」といっても一義的に決定されるわけではない。したがって、PFI 事業契約書において「損失補償」という用語と使用したとしても、それによって直ちに支払額が決まるわけではない。ただし、行政に与えられた裁量の範囲を逸脱に該当するような場合は(例えば、特定の業者に不利益を与える目的で解除権が行使された場合など)、むしろ「違法」な解除がなされたとみるべきである。この場合には、国家賠償法(国家賠償法第1条第1項の「公権力の行使」は非常に広く解釈されているので、解除権の行使について故意又は過失があれば、これに該当する可能性がある)により損害賠償を負うことになるとも考えられる(国家賠償法の場合には、一般論としては損失補償よりも支払額が多くなる可能性が高いと思われる)。この場合には、国家賠償法に従って、損害賠償の範囲が定まることになる。
59 条文例中、特に案2の部分については、これまでPFI では採用されていなかった方法に関するものであり、どのような条項が適切であるかは、今後さらに検討していく必要がある。
6.条文例59
(甲=管理者等、乙=SPC)
(甲の任意による契約解除)
条文例 10.5 甲は、本契約の終了前はいつでも、[ ]月以上前に乙に対して通知することにより本契約の全部又は一部を解除することができる。
(案1)
2 前項により本契約が解除された場合、乙は、甲に対して、当該終了により被った合理的な損失の補償を請求することができるものとする。
(案2)
2 前項により本契約の全部解除された場合、乙は、甲に対して、以下の損失補償を請求できるものとする。60
(1) 別紙○に記載された契約条件に基づき、乙が優先貸付人に支払う必要がある額
(2) 別紙○に記載された契約条件に基づき、乙が[運営協力企業]に対して支払う必要がある額
(3) [株主劣後貸付人、株主への支払について記載]
(4) [その他必要な調整項目を記載]
3 [損失補償及び未払いの施設整備費相当分等の支払方法について規定]
4 第1項により本契約の一部が解除された場合において、以下に従うものとする。
(1) 解除された業務の内容に応じて、サービス対価を減額するものとする。減額幅を算定する際には、複数の業務を一括して請け負うことによる費用が削減されている場合の効果についても配慮する。
(2) [特段の事情61がある場合を除き、統括マネジメント業務の対価相当分については、減額しないものとする。]62
(3) [特段の事情がある場合を除き、[株主への利益相当分]63については、減額しないものとする。]
(4) 甲は、別紙○に記載された契約条件に基づき、乙が[運営協力企業]に支払う必要のある額を乙に補償するものとする。
(5) [その他必要な調整項目を記載]
60 案2は、契約の締結時点までに、ファイナンス関係の諸契約及び SPC と運営協力企業との契約のうち、重要な事項で解除に関係するものの内容を別紙として添付する方法を想定している。
61 特段の事情としては、例えば統括マネジメント業務に必要である人員を削減できる場合を想定している。この部分については、予め特定できる事由については、特定することも考えられる(第 3 号も同様)。
62 統括マネジメント業務がない場合には、本号を削除するか、修正する必要がある。
63 株主の利益分を明示した財務モデル等をあらかじめ合意していることを前提としている。
【任意解除に関する実務上のポイント】
PFI事業契約には、管理者等による契約の任意解除権及びその際の選定事業者への損失補償について明確に規定する。本規定のポイントは以下のとおり。
①PFI事業契約の全ての当事者は、期間満了まで契約を解除することなく、契約上の義務を全て履行する意図をもって契約締結を行い、契約関係に入るべきである。
②管理者等は、一定期間以上前に通知することで契約を解除できる。
③任意解除時の選定事業者に対する損失補償額は、管理者等に責めが帰される債務不履行事由に伴う契約解除の賠償額算定と同じ考え方に立脚して算定されるべきである。
④補償金額の算定を客観的に行うことを可能にするため、例えば財務モデルや委託先との主要な契約条件について予め合意しておくなど、基準の明確化を図ることが望
ましい。
10-6 解除の効力(契約GL:5-4)
1.概要
・PFI事業契約が解除された場合の効力として、①原状回復義務の取り扱い、具体的には選定事業の進捗に応じた各種の財産の取り扱い、②解除により生じた損害賠償の支払い義務等について規定される。
2.趣旨
・PFI事業契約においては、解除の効力として、選定事業者に原状回復義務を課したならば、解除後の施設等の合理的な取扱いが困難になる。このため、個々の選定事業の特性に応じた解除の効力について規定される。
3.選定事業者の帰責事由による解除の効力 -施設の完工前の解除-
・施設の完工前にPFI事業契約が解除された場合、原状回復を図るのではなく、管理者等が契約解除後に施設の出来形部分を利用して建設工事を継続することが妥当と判断するとき、又は、施設の建設工事の進捗度が高い段階にあるなど出来形部分の買受が社会通念上合理的と認められるとき、管理者等は選定事業者から施設の出来形部分を合理的な対価で買い受けることができる旨規定し、法定解除の効力の規定(原状回復義務を課すこと)を約定にて修正する。施設の出来形部分の買受の判断にあたっては、①第三者が当該出来形部分を利用して建設工事を継続した場合に瑕疵担保責任の所在の見極めが困難になる可能性があること、②特に、運営業務の比重の重い選定事業については、当該事業を継承する第三者からみた当該施設の利便性の良否という観点からの判断が必要である一方、③選定事業者に施設の出来形部分の取り壊し及び原状回復を求めた場合、施設の出来形部分を活用して建設工事を継続した場合よりも、公共サービスの提供の開始が遅延する可能性があること、及びその遅延の影響について留意する必要がある。
・管理者等による施設の出来形部分の買受手続きについては、管理者等が施設について検査を実施し、検査に合格した部分の引渡しを受けることとし、かかる対価の支払い方法については、PFI事業契約上、管理者等が一括払い又は割賦払いとするかを選択できることとし、割賦払いを選択する場合は、最長、当初定められたスケジュールに従って支払う旨規定を置くことが通例である。支払い方法の選択に際しては、一方で、選定事業者と融資金融機関等との間で締結されている融資契約上は、PFI事業契約解除により、選定事業者は期限の利益を喪失し、融資金融機関等は選定事業者に対して一括弁済を求める権利を取得することとなっている。このため、実際の施設の買受対価の支払方法の決定にあたっては、直接協定等に基づく協議が行われることなども想定される。この協議の結果、割賦払いとされた場合、管理者等は財政支出を平準化できる。
・直接協定等による融資金融機関等と管理者等の協議の上で、選定事業者を介さずに直接、
管理者等から融資金融機関等への買受対価の支払いが行われることとなった場合には、もはや、事業リスクの要素がなくなり管理者等の信用リスクと同視し得る場合も考えられる。前述の通り、管理者等と融資金融機関等の交渉の結果、割賦払いとされた場合、融資金融機関等による新たな与信判断に基づき、支払金利に相当する額を含めた対価の支払条件を変更すること(国の場合であれば、支払期間に対応した国債の利回り水準を反映した支払金利水準に見直すなど)も考えられる。
・また、PFI事業契約において、管理者等の施設買受け義務が課されている場合であっても、当該年度における歳出予算や、すでに議決を受けた債務負担行為の目的、債務負担年限及び金額の上限を超える支出又は債務負担を行う場合には、解除の時点で改めて歳出ないし債務負担行為の議決が必要とされることに留意が必要である。
・管理者等が施設の出来形部分を買い受ける場合のかかる支払い額は、設計図書に基づく施設の出来高に相当する金額となることが通例である。
・一方、管理者等が施設の出来形部分を買い受けることが適当でないと判断した場合、管理者等は選定事業者に対して施設の取壊し及び事業用地の原状回復を求めることができる旨規定する。この費用は、解除の帰責に応じて選定事業者又は管理者等が負担することとし、選定事業者が正当な理由なく期間以内に原状回復の処分を行わない場合は、これを放置することは経済合理性に欠くため、管理者等が自ら代わってその処分を行い、選定事業者に対してかかる費用を請求できる旨規定される。この際、選定事業者は自ら行うべき処分を行わないのであるから、管理者等の処分について異議を申し出ることもできないこととする。
・その他選定事業者に管理者等に対する違約金の支払い義務が規定される。(関連:10-
7 違約金、1-6 履行保証)
4.選定事業者の帰責事由による解除の効力 -施設の完工後の解除-
・施設の完工後、BTO方式の選定事業においては、管理者等は施設の所有権を既に有している。また、BOT方式の選定事業においても、通例、契約解除に伴い管理者等が施設の所有権を取得・保持する旨規定される。その際、BTO方式の選定事業については、施設の維持・管理状態が要求水準を満たしているかについて確認すること、BOT方式の選定事業については、施設の譲渡前検査を実施し、施設があらかじめ合意された利用に支障のない状態にあること等を確認する必要がある(関連:10-8 契約期間終了前の検査)。これらの検査によって、施設の状態が規定された水準に達していないことを確認した場合には、当事者間の施設の買取価格と後述する違約金等の決済に加え、選定事業者は管理者等に対し必要な修繕費を支払うこと、若しくは、必要な修繕を実施することを規定する必要がある。
・BOT方式の選定事業の場合の施設の買取価格は、建設工事費元本の未払総額とその支払金利(割賦払いの場合)となることが通例である。
・解除後の施設の買受対価の支払方法については、PFI事業契約上、管理者等が一括払い又は割賦払いとするかを選択できることとし、割賦払いを選択する場合は、最長、当初定められたスケジュールに従って支払う旨規定を置くことが通例である。支払い方法の選択に際しては、一方で、選定事業者と融資金融機関等との間で締結されている融資契約上は、PFI事業契約解除により、選定事業者は期限の利益を喪失し、融資金融機関等は選定事業者に対して一括弁済を求める権利を取得することとなっている。このため、実際の施設の買受対価の支払方法の決定にあたっては、直接協定等に基づく協議が行われることなども想定される。この協議の結果、割賦払いとされた場合、管理者等は財政支出を平準化できる。
・直接協定等による融資金融機関等と管理者等の協議の上で、選定事業者を介さずに直接、管理者等から融資金融機関等への買受対価の支払いが行われることとなった場合には、もはや、事業リスクの要素がなくなり管理者等の信用リスクと同視し得る場合も考えられる。前述の通り、管理者等と融資金融機関等の交渉の結果、割賦払いとされた場合、融資金融機関等による新たな与信判断に基づき、支払金利に相当する額を含めた対価の支払条件を変更すること(国の場合であれば、支払期間に対応した国債の利回り水準を反映した支払金利水準に見直すなど)も考えられる。
・また、PFI事業契約において、管理者等の施設買受け義務が課されている場合であっても、当該年度における歳出予算や、すでに議決を受けた国庫債務負担行為の目的、債務負担年限及び金額の上限を超える支出又は債務負担を行う場合には、解除の時点で改めて歳出ないし国庫債務負担行為の議決が必要とされることに留意が必要である。
・その他選定事業者に管理者等に対する違約金の支払い義務が規定される。(関連:10-
7 違約金、1-6 履行保証)
5.管理者等の帰責事由による解除の効力
・管理者等の帰責事由によりPFI事業契約が解除される場合、管理者等は、施設の所有権を取得し、その対価として、施設の完工の前後に応じて、施設の出来高に相当する金額又は建設工事費の未払総額及びこれにかかる支払利息(割賦払いの場合)を支払う旨規定される。こうした出来形部分又は施設の対価に加えて、選定事業者は当該解除により生じた金融費用(融資の期限前弁済に伴い融資金融機関等に支払う期限前弁済費用)を含む損害賠償請求権を取得する旨規定されることが通例である。(関連:13-1 不可抗力による損害への対応)。
・また、PFI事業契約において、管理者等の施設買受け義務が課されている場合であっても、当該年度における歳出予算や、すでに議決を受けた国庫債務負担行為の目的、債務負担年限及び金額の上限を超える支出又は債務負担を行う場合には、解除の時点で改めて歳出ないし国庫債務負担行為の議決が必要とされることに留意が必要である。
・民法第416条は、損害賠償の範囲について、債務の不履行により通常生ずべき損害(相
当因果関係の範囲内にあるもの)は賠償されるべきであること、また、特別の事情によって生じた損害であっても当事者がその事情を予見し又は予見可能性があったときは、債務者はその賠償を求めることができることを定めている。この規定から、損害賠償の範囲に、選定事業者が既に支出した費用に加え、解除されなければ選定事業者が得たであろう利益を含むものと解されるものの、これに含める具体的範囲については(例えば、得べかりし利益のうち、解除時以降に管理者等が支払う予定であった「サービス対価」の数ヶ月分とするなど)当事者間での検討が必要な点である。
・なお、特に運営業務の比重の高い事業においては、解除後の運営業務の実施に支障が生じないよう、運営業務にかかる仕様書や各種マニュアルの提出や引継ぎについて規定する必要がある。
6.条文例
(本件工事対象施設引渡日前の解除の効力)
条文例 10.6.1 甲は、本件工事対象施設の引渡日前に本契約が解除された場合においては、施設整備業務の設計業務のうち既に完了した部分(以下「既履行部分」という。)の引渡しを受ける必要があると認めたときの既履行部分、及び本件施設(ただし、既に甲が乙から引渡しを受けているものを除く。)の出来形部分を確認のうえ、当該確認を受けた部分の引渡しを受けるものとし、当該引渡しを受けたときは、当該引渡しを受けた既履行部分及び出来形部分に相応する施設整備業務費を一括又は分割により乙に支払わなければならない。この場合において、甲は、必要があると認めるときは、その理由を事業者に通知して、出来形部分を最小限度破壊して確認することができる。
2 前項の場合において、確認又は復旧に直接要する費用は、乙の負担とする。
3 第1項にかかわらず、本件工事対象施設の引渡前に本契約が解除された場合において、本件解体工事終了部分及び甲に引渡し済みの本件施設があるときは、甲は、当該履行済み分に相当する施設整備業務費の未払額を一括又は分割により乙に支払わなければならない。
4 乙は、本件工事対象施設の引渡日前に本契約が解除された場合において、本件土地に乙が所有又は管理する工事材料、建設機械器具、仮設物その他の物件(設計協力企業若しくは建設協力企業又は[条文例 2.2.3 若しくは条文例 3.9.1]の規定により設計協力企業若しくは建設協力企業から施設整備業務の一部を委任され若しくは請け負った者の所有又は管理するこれらの物件を含む。以下本条において同じ。)があるときは、乙は、当該物件を撤去するとともに、本件土地を修復し、取り片付けて、甲に明け渡さなければならない。
5 前項の場合において、乙が正当な理由なく、相当の期間内に当該物件を撤去せず、又は本件土地の修復若しくは取片付けを行わないときは、甲は、乙に代わって当該物件を
処分し、本件土地を修復若しくは取片付けを行うことができる。この場合において、乙は、甲の処分又は修復若しくは取片付けについて異議を申し出ることができず、また、甲の処分又は修復若しくは取片付けに要した費用を負担しなければならない。
(本件工事対象施設の引渡日後の解除の効力)
条文例 10.6.2 本件工事対象施設のすべての引渡終了日後に本契約が解除された場合、本契約は将来に向かって終了するものとする。
2 甲は、本契約が解除された日から[ ]日以内に、本件施設の現況を確認するものとし、当該確認により、本件施設等に乙の責めに帰すべき事由による損傷等が認められるときは、甲は、乙に対してその修補を求めることができる。この場合において、乙は、自らの費用で必要な修補を実施した後、速やかにその旨を甲に通知しなければならないこととし、甲は、当該通知の受領後[ ]日以内に当該修補の完了の確認を行わなければならない。
3 乙は、甲又は甲の指定する者に対して、本件施設等の運営ができるよう運営業務等に関して必要な事項を説明し、かつ、乙が用いた運営業務等の業務仕様書、業務マニュアル、申し送り事項その他の資料を提供するほか、必要な引継ぎを行わなければならない。
4 乙は、別段の合意のある場合を除き、運営業務等の終了に際し、自らの費用で整備した備品、情報システム、什器等を撤去しなければならない。
5 乙は、第○条により甲から提供を受けていた場所を運営業務等開始前の原状に復して甲に返還しなければならない。ただし、甲の承諾を受けた部分についてはこの限りではない。
6 乙は、運営業務等の終了に際し、甲の指示に従い、自己の保有する[(運営に関する情報を記載)]に係るデータを[(甲が管理するデータベース等を記載)]に移行しなければならない。
7 乙は、運営業務等の終了に際し、甲から貸与を受けた備品等がある場合には、当該備品等を甲に返還しなければならない。この場合において、当該備品等が乙の故意若しくは過失により滅失若しくは毀損した場合には、代品を納め、若しくは原状に回復して返還し、又は返還に代えてその損害を賠償しなければならない。
8 本契約が解除され、第3項の規定に従い、甲又は甲の指定する者が運営業務等の引継ぎを受けた場合、甲は、施設整備業務費の支払残額を一括又は分割にて支払う。ただし、乙の責めに帰すべき事由により本件施設が損傷しており、全壊又は損傷がひどく修繕を施しても利用が困難と客観的に判断され、かつ、甲の被る損害額が施設整備業務費の支払残額を上回る場合には、甲は、施設整備業務費の支払残額の支払期限が到来したものとみなして、かかる施設整備業務費の支払残額と当該損害額を相殺することにより、施設整備業務費の支払残額の支払義務を免れることができるものとし、なお、損害あるときは、甲はその賠償を乙に請求することができるものとする。