Contract
(第8回)第三者のためにする契約(その2)
明治学院大学名誉教授
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(その1)の復習
◼ 第三者のためにする契約とは何か
◼ 要約者,諾約者,受益者の間の三面関係はどのようになっているのか
◼ 第三者のためにする契約が契約総論に置かれているのはなぜか
◼ いろいろな契約類型において,第三者に効力を生じるために利用される共通契約方法
◼ 第三者のためにする契約の典型例はどのような契約か
◼ 自賠責保険契約を例にとるのがわかりやすい
-民法典上の位置づけ-
契約
総則
総論
物権
債権
契約
総論
民法 債権
債権
…
契約の成立
契約の効力
契約の解除
贈与契約
同時履行の抗弁権
危険負担
537条
内容
538条
確定時期
539条
債務者の抗弁
各論
親族 契約
不法 各論
行為
相続
…
和解契約
◆ 典型契約と「第三者のためにする契約」とはどのような関係にあるのだろうか?
第三者のためにする契約の典型例
◼ 第三者のためにする契約の適用領域
◼ 典型例としての生命保険契約
◼ 典型例としての責任保険(自賠責保険)契約
民法,特別法,判例の適用可能領域
責任保険
(保険法8
条)
生命保険(保
険法42
条)
受益権の取得(信託法88 条)
運送 契約(商法583条)
第三者のためにする契約
(民法537条~539条)
供託
(民法494条~498条)
保険法
信託法
商法
債務引受
(大判大 6・11・1民録23輯 1715頁)
契約上の地位の譲渡(最二判昭46・ 4・23民集
25巻3号
388頁)
電信送金
(最一判昭43・12・ 5民集22巻13号 2876頁)
銀行振込
(大判昭 9・5・25民集13巻829
頁)
民法
特別法
判例法
◼ 保険法 第42条
(第三者のためにする生命保険契約)
◼ 保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは,当該保険金受取人は,当然に当該生命保険契約の利益を享受する。
受益者
(保険金受取人)
対価関係
要約者
(被保険者)
生命保険契約
(補償関係)
◆ ここでのポイントは,第三者のためにする契
約としての生命保険契約の場合,受益者による受益の意思表示は必要がないことである。
◆ 一般の第三者のためにする契約においても,事情によっては,受益の意思表示を必要としない場合がありうる点に注意すべきである。
抗弁
諾約者
(保険者)
受益者
(被害者
損害賠償請求権
対価関係
要約者
(加害者被保険者)
責任
保険契約
(補償
関係)
抗
弁
諾約者
(保険会社)
◼ 自賠法 第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)
◼ ①第三条(自動車損害賠償責任)の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは,被害者は,政令で定めるところにより,保険会社に対し,保険金額の限度において,損害賠償の支払いをなすべきことを請求することができる。
◼ 民法537条(第三者のためにする契約の当事者と構造)
◼ 民法538条(第三者の権利の確定・不可変更)
◼ 民法539条(債務者の抗弁の受益者に対する対抗力)
対価関係
第三者
(受益者)
他方当事者
(要約者)
第三
者のためにする契約
(補償
関係)
一方当事者
(諾約者)
◼ 第537条(第三者のためにする契約)
① 〔自賠責保険〕契約により当事者の一方〔保険会社〕が第三者〔被害者〕に対してある給付
〔保険金の支払〕をすることを約したときは,
その第三者〔被害者〕は,債務者〔保険会社〕に対して直接にその給付〔保険金の支払〕を請求する権利を有する。
② 前項の契約は,その成立の時に第三者〔被害者〕が現に存しない場合又は第三者〔被害者〕が特定していない場合であっても,そのためにその効力を妨げられない。
③ 前項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
対価関係
受益者
(債権者)
要約者
第三
者のためにする契約
(補償
関係)
諾約者
(債務者)
◼ 第538条(第三者の権利の確定)
◼ ①前条の規定により第三者〔被害者〕の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
◼ ②前条の規定により第三者の権利が発生した後に,債務者〔保険会社〕がその第三者に対する債務を履行しない場合には,同条第1項の契約の相手方〔被保険者〕は,その第三者の承諾を得なければ,契約を解除することができない。
◼ 第539条(債務者の抗弁)
◼ 債務者〔保険会社〕は,第 537条第1項の契約に基づく抗弁をもって,その契約の利益を受ける第三者〔被害者〕に対抗することができる。
受益者
(債権者)
対価関係
要約者
第三者のためにする契約
(補償
◆ 第三者のためにする契約と,更改との違いは,諾約者が受益者に対して抗弁を有するということである。
◆ 諾約者が受益者に対して有する抗弁とは,要約者に対して有した抗弁とされている。
関係)
抗弁
諾約者
(債務者)
◼ 第三者のためにする契約の位置づけ
◼ 第三者のためにする契約の典型例(生命保険契約,責任保険契約)
◼ 第三者のためにする契約の条文の理解
(その2)
債権譲渡・債務引受
◼ 債権譲渡とは何か
◼ 債権の移転。矢印の始点が第三者に移転すること。
◼ 債権関係の当事者の内,債権者が交代するのが債権譲渡である。
◼ 債務引受とは何か
◼ 債務の移転。矢印の終点が第三者に移転すること。
◼ 債務関係の当事者の内,債務者が交代するのが債務引受である。
◼ 債務引受には,並存的債務引受(一人は債務者,もう一人は保証人となる),および,免責的債務引受(債務者は人になる)がある。
債権譲渡(民法466条以下)と 債務引受(民法470条以下)の区別
債権譲渡(始点が移動)
(債権者の交替ともいえる)
債務引受(終点が移動)
(債務者の交替ともいえる)
債権者
(譲受人)
債権
債権者
(譲渡人)
債
権
債務者
債権者
債権
債務者
債
権
第三
債務者
◼ 債務引受
◼ 求償が生じない「債務」と,求償が生じる「保証」との区別が理解のポイントとなる。
◼ 1.並存的債務引受
◼ 従来の債務者(要約者)は債務を免れるが,連帯保証人の地位にとどまる。
◼ したがって,要約者が弁済をした場合には,諾約者に求償権を有する
◼ 第三債務者(諾約者)は,連帯債務者ではなく,単独で真の債務者となる。
◼ 2.免責的債務引受
◼ 従来の債務者(要約者)は,完全に債務を免れる。
◼ 第三債務者(諾約者)は,単独で真の債務者となる。したがって求償の問題は生じない。
◼ 第470条(併存的債務引受の要件及び効果)
◼ ①併存的債務引受の引受人〔例えば,第三債務者,自賠責保険の場合なら保険会社〕は,債務者〔=連帯保証人となる〕と連帯して〔真の債務者として〕,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する〔債務者が二人になるわけではない。従来の債務者は連帯保証人となり,諾約者が,単独の債務者となる〕。
◼ ②併存的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる〔例外的な場合〕。
◼ ③併存的債務引受は,債務者と引受人となる者との契約〔すなわち,第三者のためにする契約〕によってもすることができる〔これが原則。連帯債務や保証契約の場合,ほとんどの場合,債務者間で連帯とか保証委託がなされるから〕。この場合において,併存的債務引受は,債権者が引受人となる者に対して承諾〔受益の意思表示。ただし不要の場合が多い〕をした時に,その効力を生ずる。
◼ ④前項の規定によってする併存的債務引受は,第三者のためにする契約に関する規定に従う〔当然であり,不要の規定〕。
◼第471条(併存的債務引受における引受人の抗弁等)
◼ ①引受人は,併存的債務引受により負担した自己の債務について,その効力が生じた時に債務者が〔債権者に対して〕主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
◼ ②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは,引受人は,これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において,債権者に対して債務の履行を拒むことができる
〔履行拒絶の抗弁〕。
◼ 第472条(免責的債務引受の要件及び効果)
◼ ①免責的債務引受の引受人〔例えば,第三債務者〕は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し〔すなわち,単独の債務者 となり〕,債務者は自己の債務を免れる。
◼ ②免責的債務引受は,債権者と引受人となる者〔例えば,第三債務者〕との契約によってすることができる。この場合において,免責的債務引受は,債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知〔債権譲渡の対抗要件の場合と同様に通知〕した時に,その効力を生ずる。
◼ ③免責的債務引受は,債務者と引受人となる者〔例えば,第三債務者〕が契約をし,債権者が引受人となる者に対して承諾〔債権譲渡の対抗要件の場合と同様の承諾〕をすることによってもすることができる。
◼第472条の3(免責的債務引受における引受人の求償権)
◼ 免責的債務引受の引受人は,債務者に対して求償権〔この点は,並存的債務引受の場合とは異なる〕を取得しない。
◼上記の条文によれば,免責的債務引受人は,債務者に対して求償権を取得しないという。
◼それでは,反対に,併存的債務引受人が,債務者に対して求償権を取得するのはなぜか?
弁済によって債権が消滅する場合と消滅せずに移転する場合との区別
◼ 債務者が弁済した場合 ◼ 保証人が弁済した場合
110000万万円円
保証人
弁済
債権者
債務者
債権者
保証人
債務者
弁済
債務は消滅し,保証責任も付従性によって消滅する。
(求償権は発生しない。)
保証人の求償権を確保するために,
債務は消滅せず,保証人へと法定移転する。
(求償権が発生する。)
イニシアティブをとるのは誰か?
◼ 債権者がイニシアティブをとる従来型の債権譲渡・債務引受
◼ 債務者がイニシアティブをとる
「第三者のためにする契約」による債権譲渡・債務引受
◼ 契約当事者の一方(諾約者)が,第三者(受益者)に対して直接債務を負担することを契約の相手方(要約者)に約束する契約(民法537条~ 539条)。
◼ 典型例(債権譲渡)
◼ 原因(対価)関係
◼ 自働車の保有者が,
交通事故の被害者
(受益者)
対価関係
損害賠償請求権
当事者被保険者
(要約者)
補償関係
交通事故の被害者に賠償するために,
◼ 当事者
◼ 被保険者(要約者)と保険会社
(諾約者)間の債権譲渡約束で,
◼ 効果
◼ 保険金請求権を被害者(受益者)が,保険会社に対して直接
保
険
抗 金
弁 請
求
権
当事者
第三者のためにする契約
に請求することができる。
保険会社
(諾約者)
◼ 契約当事者の一方(諾約者)が,第三者(受益者)に対して直接債務を負担することを契約の相手方(要約者)に約束する契約(民法537条~ 539条)。
交通事故の
対価関係
当事者
◼ 典型例(債務引受)
◼ 原因(対価)関係
◼ 自働車の保有者が,交通事故の被害者に
被保害険者金限度 損害賠償請求権
(受益者)
被保険者
(要約者)
補償関係
保
賠償するために,
◼ 当事者
◼ 被保険者(要約者)と保険会社
(諾約者)間の並存的債務引受の約束で,
◼ 効果
険料支払
当事者
第三者
のためにする契約
◼ 保険金の限度で被害者(受益
者)は,保険会社に対して直接に損害賠償請求をすることがで
保険会社
(諾約者)
◼ 今回の講義「第三者のためにする契約」は,今回の講義の中で,もっとも難解なテーマです。
◼ 皆さんに「分かりましたか?」と聞いても,頼りない答えしか返ってこないことが予想されるため,以下の方法で,皆さんが分からないと感じた点を明らかにして,理解を深める方法を採用します。
◼ 受講者をランダムに3人ずつ,4つのグループに編成します。これから10分間,講義を聴いてわからなかった点をそれぞれのグループで討議し,その結果を報告してください。
◼ 10分はすぐに過ぎます。以下の順序で要領よくグループ討議をしてください。
1. ブレイクアウトルームに入ったら,簡単に自己紹介をしましょう(3分以内)。
2. 10分後に,そのグループの代表者がわからなかった点を報告しなければなりません。その代表者を決て下さい。毎回,代表者は変わるので,自発的にでも,じゃんけんでもよいので,代表者を決めて下さい。(1分以内)
3. 講義を聴いてわからなかった点をみんなで話し合ってください。代表者がそれをメモして下さい(2分×3(人)=6分)。
4. 10分後に終了の合図をしますので,皆さん,メインルームに戻ってください。
◼ 各グループの報告を受けて,講師がそれらの質問について,コメントを行います(5分)。
◼ 新設された民法539条の2を賃貸借契約の移転を例として理解する。
◼ 理解のコツは,契約の移転の例を,旧賃貸人と新賃貸人との間の契約として構成することである。
◼ 新設された民法539条の2
◼ 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において,その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは,契約上の地位は,その第三者に移転する。
同一当事者間の契約で権利と義務を同時に移転する方法の解明
旧賃貸人が権利を譲渡
(通常の債権譲渡によることで可能)
新賃貸人が債務を引受け
(第三者のためにする契約によることで可能)
賃借人
(債務者)
賃料債権
債権譲渡通知
賃貸人
(債権者)
抗弁
債権
譲渡契約
新賃貸人
(譲受人)
対価関係
賃借人
(受益者)
使使用用収収益益
賃貸人
(要約者)
抗弁
債務
引受契約
(補償
関係)
新賃貸人
(諾約者)
最二判昭46・4・23民集25巻3号388頁
賃貸人の地位の譲渡の場合,新所有者に義務の承継を認めることが賃借人にとって有利であるから,賃借人の承諾を必要とせず,旧所有者と新所有者間の契約をもってこれをなすことができる。
◼契約の例を賃貸借契約,そして,契約上の地位の移転の当事者を賃貸人と新賃貸人とするとよい。
◼民法539条の2〔契約上の地位の移転〕
◼契約〔賃貸借契約〕の当事者の一方〔賃貸人〕が第三者〔新賃貸人〕との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において,その契約の相手方〔賃借人〕がその譲渡を承諾したときは,契約上の地位は,その第三者〔新賃貸人〕に移転する。
第三者のためにする契約(その3)
「第三者のためにする契約を使ったクレジット契約(複合契約)」です。
◼ 民法466条~469条(改正)の「債権譲渡」
◼ 民法470条~472条(新設)の2の「債務引受」
◼ 民法539条の2(新設)の「契約上の地位の移転」の復習をしておいてください。