•労働安全衛生上の問題により禁止されている作業に対する労働者の派遣。なお、これは後述するように、 EU指令に対応するため基準の緩和が行われた。
が支払われる。
c 労働者派遣契約
スペイン
人材派遣会社を介する契約、すなわち労働者派遣契約については1994年の法律14/1994によって初めて定められ、その後数回の改正が行われた。派遣元企業は派遣事業を行うための各自治州の労働担当部局の許可を受けなければならないとされている39)。労働者の派遣は常に有期でなければならないとされている。1999年の法律29/1999により、派遣労働者の報酬は派遣先で直接雇用された同種の業務に就く有期契約労働者と同等でなければならないと定められており、派遣労働者には派遣先企業の当該ポストについて労働協約で取り決められている賃金額を最低水準として派遣元企業から支給される。
また、法律により、以下の状況下においては、派遣元企業は労働者を派遣する契約を履行してはならないとされている。
•派遣先企業でxxxxxが行われており、その代替としての労働者の派遣。
•労働安全衛生上の問題により禁止されている作業に対する労働者の派遣。なお、これは後述するように、 EU指令に対応するため基準の緩和が行われた。
•派遣先企業におけるポストが、過去12か月以内に不当解雇、経済的事由による解雇等で空席となり、それを埋めるための労働者の派遣。
•他の労働者派遣企業への労働者の派遣。
なお、EU指令2008/104/ECで労働者派遣に関する最低基準が定められ、加盟各国は2011年12月5日までに国内法にて必要な対応を求められている。スペインでは2011年4月から、従来労働安全衛生上の理由等により認められていなかった鉱業、建設業、一部公務などに対する労働者派遣を認める規制緩和が行われている。
d 期間の定めの無い労働契約の締結促進施策
スペインにおいては、以前から期間の定めの無い労働契約の締結促進施策が行われてきたが、2010年にお
いて有期労働契約の割合が24.9%とEU平均(14.0%)を大きく上回っている。
(a)xx雇用促進契約
1997年に初めて導入された契約で雇用確保の困難な労働者の期間の定めが無い労働契約の締結を目的としたものである。この契約の対象となる労働者は、以下の要件を満たす者である。
•自治州の雇用サービスに登録した失業者で、以下のいずれかを満たす者。
○16歳以上30歳未満の者。
○女性が、女性雇用割合が低い職業においてサービス提供をするために雇われる場合。
○子供を出産、又は未xxを養子として受け入れて
2年以内の女性。
○5年以上労働市場から遠ざかっていた女性。
○性的な暴力ないし人身取引の被害者である女性。
○45歳以上の者。
○障害を持つ者。
○失業者で失業登録をしてから1か月以上経過した者。
○雇用契約締結日までの2年間に、有期労働契約(訓練契約を含む。)雇用でのみ就労をした者。
•雇用契約締結日までの2年間に他の企業において、期間の定めの無い契約を打ち切られた失業者。
•2010年6月18日以降締結された有期労働契約(訓練契約を含む。)で、同じ雇い主が期間の定めの無い契約に転換する場合。この場合、定められた期日40)までに転換がなされることが必要。
xx雇用促進契約と、通常の期間の定めの無い契約との大きな差は、解雇補償金に関するもので、通常の期間の定めの無い契約が最大45日分給与×勤続年数(上限42か月)であるのに対し、xx雇用促進契約では最大33日分給与×勤続年数(上限24か月)となっている。
(b)有期労働契約の反復更新を防止するための法的措置
2006年に行われた労働者憲章法第15条の改正により新設された措置で、その後2010年の労働者憲章法改正
(政令法10/2010及び法律35/2010)によって改正された。過去30か月のうち24か月間、継続の請求の有無に
■39)労働者憲章法第43条により、人材派遣業の許可を受けている場合を除き、他企業に対して一時的に労働者を供給する契約は原則的に禁止されている。
■40)2011年8月28日以前に締結された有期労働契約の場合2011年末まで、2011年8月28日以降に締結された有期労働契約の場合2012年末まで。
かかわらず、同一事業所において同じ又は異なる種類の2つ以上の有期契約によって同一又は異なる労働ポスト41)のための契約を締結している者は、直接・人材派遣会社を通じた契約いずれの場合も、期間の定めの無い労働契約を結んだこととみなされることとなった。なお、2011年8月に施行された政令法10/2011により、上記措置は2011年8月末から2年間施行が延期されていたが、2012年2月に施行された政令法3/2012により 2013年1月から実施されることとなった。
スペイン
(9)職業能力開発対策
a 概要
2007年の政令395/2007により、職業能力開発について、それまで就業者、失業者別に行われていた職業能力開発対策が統合され、全ての労働者に対する雇用のための職業能力開発として一体化された。雇用のための職業能力開発は以下の要素によって構成されている。
•需要に基づく訓練:事業主が実施する訓練及び職業訓練のために就業者が一時的に職場を離れる場合で、訓練費用の全部又は一部が支援される。訓練内容は事業主の必要に応じた内容になる。
•供給に基づく訓練:現在就業している者、あるいは失業者が、資格・能力が必要な職に就けるように必要な資格・能力を身につけるための訓練。
•実地の労働を組み合わせた訓練:教育訓練を目的とする契約(詳細は3(5)dを参照のこと)など。
b 需要に基づく訓練について事業主を支援するためのプログラム
(a)事業主による訓練に対する支援制度
事業主が労働者に対し、職業訓練を実施した場合、要した費用の一定割合(労働者が5人以下の場合は一定額)が社会保険料から控除される制度である。
2010年及び2011年については、
•労働者5人以下の場合、一律420ユーロ。
•労働者が6人以上9人以下の場合、要した費用の 100%。
•労働者が10人以上49人以下の場合、要した費用の 75%。
•労働者が50人以上249人以下の場合、要した費用の 60%。
•労働者が250人以上の場合、要した費用の50%。
なお、製織業、衣類・靴・家具・おもちゃ製造業については特例として支給額の上乗せがある。さらに、新規事業所を開設した場合(新規企業も含む)で、新たに労働者を雇い入れた場合には訓練費用として更に労働者1人あたり65ユーロの控除が受けられる。
(b)訓練のための休暇に対する控除
これは、労働者が訓練を受けるために休暇を取った場合、事業主が受けられる控除である。2011年における最大控除額は、
•労働者が9人以下の場合、訓練を受けた労働者の賃金コストの200時間分。
•労働者が10人以上49人以下の場合、同400時間分。
•労働者が50人以上249人以下の場合、同600時間分。
•労働者が250人以上499人以下の場合、同800時間分。
•以降、労働者数が500人増加するごとに200時間分増加。となっている。
4 労働条件対策.................................................
(1)賃金・労働時間及び労働災❹の動向
a 賃金・労働時間の動向
〈表1-3-14〉スペインの賃金・消費者物価の上昇率の推移
(%)
年 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 |
賃金 | 4.1 | 4.6 | 4.9 | 4.0 | 3.0 | 3.0 | 4.9 | 4.9 | 4.1 | 0.6 |
消費者物価 | 2.8 | 3.6 | 3.1 | 3.1 | 3.4 | 3.6 | 2.8 | 4.1 | -0.2 | 2.0 |
資料出所:EU統計局(EUROSTAT)
注1:2006年以前の賃金及び給与の上昇率には公務・国防・保健福祉部門を含まない。
注2:ここでいう賃金には現物支給等が含まれる。
2001年以降賃金の伸びは3~4%台で推移していたが、2010年に入り伸び率が0.6%と大幅に鈍化している。消費者物価上昇率は2~3%台で推移していたが、 2008年に4.1%、2009年にマイナス0.2%となった後、
2010年には2.0%となっている。
■41)2010年労働者憲章法改正前は同一の労働ポストのみとされていた。
〈表1-3-15〉スペインの労働時間の推移(週当たり、被用者)
40.8
40.9
41.0
38.0
38.2
38.3
38.4
(時間)
〈表1-3-17〉スペインの最低賃金の推移
年
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
40.4
40.4
40.5
40.6
38.4
38.5
38.6
38.7
労働時間 うちフルタイム労働者
資料出所:EU統計局(EUROSTAT)
37.3
40.5
40.6
37.6
年月日 | 月額最低賃金 |
2000年1月1日 | 70,680 ペセタ (424.80ユーロ) |
2001年1月1日 | 72,120 ペセタ (433.45ユーロ) |
2002年1月1日 | 442.40 ユーロ |
2003年1月1日 | 451.20 ユーロ |
2004年1月1日 | 460.50 ユーロ |
2004年7月1日 | 490.80 ユーロ |
2005年1月1日 | 513.00 ユーロ |
2006年1月1日 | 540.90 ユーロ |
2007年1月1日 | 570.60 ユーロ |
2008年1月1日 | 600.00 ユーロ |
2009年1月1日 | 624.00 ユーロ |
2010年1月1日 | 633.30 ユーロ |
2011年1月1日 | 641.40 ユーロ |
40.4
スペイン
労働時間については2001年以降減少傾向にある。フルタイム労働者については2005年に増加したが、翌年以降再び減少し、2010年は40.4時間と2003 ~4年の水準になっている。
b 労働災害の動向
〈表1-3-16〉スペインの労働災害件数の推移
(件)
年 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 |
労働災害発生件数 | 783,117 | 792,773 | 792,565 | 766,460 | 780,433 | 769,657 | 771,014 | 590,989 |
死亡災害発生件数 | 739 | 805 | 722 | 695 | 662 | 680 | 572 | 496 |
資料出所:EU統計局(EUROSTAT)
注:労働災害発生件数は、3日以上の休業を必要とする労働災害の発生件数である。
労働災害件数については2008年に低下が見られたが、同時期に建設業の雇用者が大幅に減少したこと等に留意する必要がある。
(2)最低賃金制度
最低賃金(salario mínimo interprofesiona:l SMI)は、団体交渉でカバーされていない労働者に対し1963年に設けられて以降、基本的に毎年労使との協議を経て政令によって定められている。物価上昇率に比して最低賃金の上昇率が低かったこともあり、サパテロ政権下で引き上げられ、2011年の最低賃金は月額641.40ユー ロ(約71,200円)又は日額21.38ユーロ(約2,370円)となっている。また、労働者憲章法第31条により、月給の他、クリスマス前ともう1回、ボーナスを支払わなければならない。もう1回の給付は労働協約等により時期が決められ、夏期のバカンスシーズン前に行われることが多い42)。なお、1990年代まで最低賃金は18歳未満の労働者についてはより低い水準が定められていた43) が、
2年間の移行措置を経て1998年以降は18歳以上の労働者と同じ水準となっている。
注1:2000年及び2001年はペセタ及びユーロで最低賃金が定められていた。
1ユーロ=166.386ユーロ。
資料出所:スペイン労働移民省の公表資料を基に厚生労働省大臣官房国際課において作成。
なお、一般的にはより高い水準の職種ごとの最低賃金が労働協約により定められている。
(3)労働時間制度
労働時間に関する規定は労働者憲章法第34条から第 38条に定められている。就業時間は労働協約又は労働契約によって取り決められ、年平均週40時間までとされている。超過勤務は年80時間までと定められている。ただし、4か月以内に振替休暇が与えられた場合には上記超過勤務の制限にはカウントされない。労働協約により、労働時間を変形労働時間制とすることも可能とされている。
1回の労働時間と次回との間には少なくとも12時間の間隔が置かれなければならず、1週間につき連続1日半(18歳未満においては2日)以上の休暇を与えなければならない。また、6時間以上継続して就業する場合には15分(18歳未満においては30分)以上の休憩が与えられなければならない。
(4)解雇規制
解雇規制は労働者憲章法及び労働手続法(政令法 2/1995)によって定められている。労働市場の弾力化を目指し、2010年に政令法10/2010及び法律35/2010に
■42)労働協約によりボーナス相当額を12分割して毎月の賃金に上乗せすることも可能である。(労働者憲章法第31条)
■43)例えば1995年1月1日実施の最低賃金は18歳以上の労働者は月62,700ペセタであったのに対し、18歳未満の労働者は月41,430ペセタであった。
より大きく改正され、経済的事由に基づく解雇の基準が明確化されたほか、一定の条件を満たしたxx雇用の解雇補償金の一部が賃金保証基金(FOGASA)44)から支出されるようになった。一方、非xx雇用における解雇補償金の引き上げが行われ、xx労働者と非xx労働者の解雇コストの格差是正を図っている。
スペイン
2010年改正前は、正当化される解雇事由が明確でなかったため、解雇の多くがより多額の解雇補償金を必要とする不当解雇と扱われていた。背景には事業主に解雇が「不当」であるとの認識がある場合には、解雇が行われてから48時間以内に労働者に解雇補償金を支払うことで、不払い分の給与支払いを免れることができるという規定がある。(スペイン政府資料によれば2009年の解雇で正当解雇は全解雇のうち15 ~ 20%であった。)基準の明確化により正当解雇の割合は増加しており(2011年1~5月においては26.7%)、賃金保証基金
(XXXXXX)による解雇補償金の一部負担と合わせて、xx労働者の実質的な解雇コストの軽減が期待されている。
雇用契約においては試用期間を設けることができるとされている。労働協約によって別に定められていない場合には、職業資格等の保有者に関しては最大6か月、それ以外の労働者に対しては最大2か月(労働者が25名未満の場合には同3か月)とされている。試用期間においては予告なしで雇用契約を解除することができるが、給与などの労働条件は本採用と同等とされる。
なお、管理職として従事する者やプロスポーツ選手などについては別の解雇規制が適用される。
a 普通解雇45)
(a)解雇理由
解雇が正当化される理由として、労働者憲章法第52
条に客観的な理由が定められている。46)このうち、客観的な理由としては、
•労働者に能力が無いことを証明できる場合
•労働者が自らの職に関する技術的な変化に2か月以上の猶予をもっても対応できていない場合で、上記技術的な変化に正当な理由がある場合
•企業の経済的、技術的、組織的及び生産上の理由から解雇が正当化できる場合47)で、bに挙げる一定規模以上の整理解雇の要件を満たさない場合
•継続的に欠勤48)している場合
•公的機関又は非営利団体の場合、事業執行に必要な公的支出が無くなった場合
が挙げられている。
一方、解雇の理由として禁止されている理由は、
• 性別、出身、婚姻の有無、人種、社会的地位、年齢49)、宗教的・政治的信条、労働組合加盟の有無、性的嗜好、言語、障害の有無に基づく解雇(労働者憲章法第4条(2)c)
•憲法上、法律上に違反する、又は労働者の基本的人権・自由を脅かす懲罰的な解雇
•妊娠、出産、育児及び介護に伴う休暇取得を事由とした解雇
で、これらの理由で行われた解雇は無効とされる。
(b)解雇の通知
解雇予定日の15日前50)までに書面で通知する必要がある。懲罰的な理由の場合は不要。なお、通知がされなかった場合には事業主は当該日数の給与相当額を支払う必要がある。
(c)救済
解雇に異議がある場合、労働者は労働裁判所に訴えを起こすことができる。労働裁判所は解雇について、「正当」、「不当」、「無効」の判決を出す。このうち、「無効」
■44)注釈12を参照のこと。
■45)スペインでは、一定規模以上の整理解雇のみ、労働者憲章法において必要とされる解雇手続が異なっており、日本における整理解雇に相当するものであっても一定規模以下のものは普通解雇として取り扱われている。なお、一定規模以上の整理解雇についてはbを参照のこと。
■46)このほか、労働者憲章法第54条には懲罰的な理由が定められている。
■47)この理由自体は2010年改正以前からあったものの、事業主の経済的、技術的、組織的及び生産上の理由の定義がなかったため、理由として考慮されない場合が多かった。
■48)継続的に欠勤とは、事業所における欠勤率が2.5%(2010年改正前は5%)を超えていた時期に、連続する2か月間に欠勤率が20%以上又は12か月のうち4か月間の欠勤率が25%を超える場合。なおここでいう欠勤には以下の理由による欠勤は含まれない:合法的なストライキ、労働者代表活動に伴う欠勤、労働災害に伴う欠勤、出産休暇、病気及び事故による20日以上の欠勤、性的暴力を原因とする欠勤。
■49)労働協約により定められた、年金受給権が発生したことを理由とする解雇は禁止されていない。
■50)2010年改正前は30日前までにとされていた。
スペイン
とされるのは、上記(a)で禁止されている理由に基づき解雇されたと認められた場合で、この場合には不払い分の給与を支払った上で、事業主は当該労働者を復職させなければならない。「不当」とされるのは、解雇が正当とされる理由に該当しない、又は手続上の瑕疵があった場合で、不払い分の給与を支払った上で、事業主は当該労働者を復職させるか、割増された解雇補償金を支払わなければならない51)。なお、事業主において解雇が「不当」
であるとの認識がある場合には、解雇が行われてから48時間以内に労働者に解雇補償金を支払うことで、不払い分の給与支払いを免れることができる。
(d)解雇補償金
事業主は雇用契約の種類、正当解雇であるか不当解雇であるかにより、表1-3-18のとおりの解雇補償金を支払わなければならない。
〈表1-3-18〉解雇補償金の額
雇用契約の形態 | 正当解雇の場合 | 不当解雇の場合 |
期間の定めの無い契約 | 20日分の給与×勤続年数 (最大12か月分) | 45日分の給与×勤続年数 (最大42か月分) |
xx雇用促進契約 | 20日分の給与×勤続年数 (最大12か月分) | 33日分の給与×勤続年数 (最大24か月分) |
有期契約のうち、 | 正当解雇・不当解雇によらず解雇補償金の額が定められており、8日分の給与 ×勤続年数である。ただし、今後以下のように引き上げが予定されている。 | |
一定の業務又はサービスを提供する | ・2012年においては9日分の給与×勤続年数 | |
ための契約(注1)及び生産状況に | ・2013年においては10日分の給与×勤続年数 | |
よる臨時契約(注1) | ・2014年においては11日分の給与×勤続年数 ・2015年以降は12日分の給与×勤続年数 | |
有期契約のうち臨時代行契約(注1) | なし | |
人材育成契約(注2) | なし |
資料出所:スペイン労働移民省の公表資料を基に厚生労働省大臣官房国際課において作成。注1:これらの契約については3(8)bを参照のこと。
注2:人材育成契約については3(5)dを参照のこと。
労働者25人未満の企業の場 合、賃金保証基金
(FOGASA)52) が解雇補償金の40%を支払う。また、 2010年改正により、全事業主に対し今後予定されている解雇補償金積立基金の制度運用開始までの間、2010年6月18日以降締結され、1年以上継続している期間の定めの無い雇用契約が解除された場合、解雇補償金のうち、8日分の給与×勤続年数を賃金保証基金から支出することとなっている(解雇補償金積立基金については詳しくは7(4)を参照のこと)。
b 経済的理由による解雇(一定規模以上の整理解雇)
(Despido colectivo fundado en causas económicas, técnicas, organizativas o de producción)
(a)解雇理由
労働者憲章法第51条により定められており、解雇が
正当なものと認められるのは、事業主の経済的、技術的、組織的及び生産上の理由から雇用契約の停止又は解除が正当化できる場合で、具体的には次のいずれかの要件を満たす場合である。
•事業主が事業活動を停止する場合で全ての労働者が対象となる場合(ただし労働者が5人以上いる場合に限る)
•100人未満の企業においては10人以上の労働者が対象となる場合
•100人以上300人未満の企業においては労働者の10%以上の労働者が対象となる場合
•300人以上の企業においては30人以上の労働者が対象となる場合
2010年の改正(法律35/2010)により、事業主の経済的、技術的、組織的及び生産上の理由が明確化され、
■51)解雇された労働者が統一代表(5(2)参照)などである場合には選択権は労働者側にある。
■52)賃金保証基金は、事業主の支払不能又は破産の場合に、150日分までの未払賃金、解雇補償金及び労働者数25名未満の企業における解雇補償金の 40%の支給を行っている。詳しくは脚注12を参照のこと。
事業主が損失を計上している又は損失の計上が予想される場合、又は企業の収益が連続して落ち込んでおり、現在の雇用水準を維持する能力に影響を及ぼした場合と定められた。事業主はその論拠を明らかにしなければならないとされている。
(b)解雇の通知
スペイン
一定規模以上の整理解雇を行うに当たっては、統一代表53)などの労働者の代表と30日間以内(労働者が50人以内の場合15日間以内)の協議を行う必要がある54)。また、実施の計画は管轄する労働部局の承認を得る必要があるほか、解雇の代替手段として、配置転換、訓練、再訓練について検討しなければならない55)としている。
(c)救済
普通解雇の場合と同じ。
(d)解雇補償金
普通解雇の場合と同じ。
(5)出産休暇及び育児休暇制度等
a 出産休暇等
母親に対し、出産前に社会保険料を一定期間以上納めていた場合に出産後又は出産休暇の取得開始日から連続16週間の給付付きの出産休暇が認められている。複数子の誕生の場合には2人目以降1人につき2週間、障害を有する子の出産等に際しては2週間延長される。両親が共に働いている場合には母親の休暇のうち出産後7週目以降の最大10週間を父親が代わりに取得することができる。
保険料納付要件は過去7年間で90日(年齢が21歳以上の場合)又は180日(年齢が26歳以上の場合)保険料納付実績があること56)で、21歳未満の場合には納付要件はない。出産休暇取得前1か月間における保険料納付日数当たりの保険料対象賃金が給付される。
また、保険料納付要件を満たさない場合には定額の
手当が一般財源により出産から42日間(複数子の誕生や障害を有する子の出産等に際しては56日間)給付される。給付額は公的給付基準(IPREM)の100%相当額
(2011年においては日額17.75ユーロ)である。
父親に対しては子供の出産による有給休暇(下記bを参照のこと)取得後、母親休暇修了までの期間中に連続13日間の給付付きの父親休暇が認められている。父親休暇の給付を受け取るには過去7年間に180日の社会保険料納付期間があること57)が必要である。給付額については保険料ベースの出産給付と同じ。父親休暇に関しては事業主の承認を得れば、労働時間の短縮の形態とすることもできる。なお、父親休暇については 2011年以降4週間に伸ばされる予定であったが、法律
39/2010により2012年に施行が先送りされた。
また、出産前において、就業による母子の健康に対するリスクがある場合、あるいは母乳で育てる母親に対しての給付制度も設けられている。
b 育児休暇、介護休暇制度等
二親等以内の親族が死亡した場合、事故・病気により入院した場合、子供の出産時には2日間(遠隔地の場合4日間)の有給休暇が認められている。
育児休暇に関しては、無給休暇として子供1人につき子供の出生日から最大3年取得することができる。58)なおこの権利は男女ともにあるが、同じ事業主で働いている場合で、同じ子供を世話する場合で、事業主は業務に支障がある場合、2人が同時に取得することに制限を加えることができる。
介護休暇については、無給休暇であり、二世代以内の親族で就労ができず、日常生活で介助が必要な者の世話をする場合、最大2年取得することができる。
いずれの場合も、休暇取得開始後1年間労働者は自分が働いていたポストに戻ることを要求する権利があ
■53)統一代表については5(2)を参照のこと。
■54)2010年改正前は30日間以上(労働者が50人未満の場合は15日間以上)であった。また、2010年改正により、統一代表が選出されていない場合の手続が定められた。
■55)2010年の改正により企業が採らなければならない措置が明確化された。
■56)この条件を満たさない場合には、生涯における保険料納付期間が180日(21歳以上)又は360日(26歳以上)あることをもって保険料納付要件を満たすとすることもできる。
■57)この条件を満たさない場合には、生涯における保険料納付期間が360日あることをもって保険料納付要件を満たすとすることもできる。
■58)一定年齢未満の養子を受け入れた場合なども含む。出生日については司法あるいは行政が別の日を休暇の開始日とする場合もある。
るが、それ以降は同等のポストに戻る権利のみ有する。
c 社会保険料に関する特例
スペイン
育児休暇・介護休暇の取得中は社会保険料の納付義務は発生しないが、これらの休暇を取得した場合、年金給付・出産給付・父親給付の算定において最大1年(介護休暇)あるいは2年(育児休暇)59)を保険料納付期間とみなす特例がある。また、8歳未満の子がいる場合、育児のために労働時間を短縮することが労働者憲章法第37条で認められているが、これに基づき労働時間を短縮して勤務をした場合には育児休暇における特例と合わせて最大2年間、報酬額をフルタイムで働いた場合に換算して計算する特例がある。
(6)労災保険制度
a 制度の概要
スペインの労災保険制度は、医療保険制度・傷病手当・障害年金制度などとともにxxな社会保障制度の中の一部として運営されている。他の社会保障制度と異なり、事業主が労災保険に加入する方法として、国家社会保障機構ではなく、全国に20ある労災相互組合
(Mutuas de accidents de trabajo)のうちの1つに加入する方法もある。2005年においては96%の企業が労災相互組合に加入している。この場合でも、保険料は社会保障財務局に納める(保険料は労災相互組合に加入してもしなくても同一である)。
労災相互組合は労災保険に関わる給付(永久的な全面労働不能給付に係る部分は国家社会保障機構が行う。)を行うほか、付加的なサービスとして労災事故にあった労働者との連絡や、労災事故予防へのアドバイス、病院の運営などを行っている。
b 根拠法令
1994年立法政令1/1994など。
c 管理運営主体
労働移民省(Ministerio de Trabajo e Inmigración)
及び保健社会政策・男女共生省(Ministerio de Sanidad y Política Social e Igualdad)が総合的な監督を行う。労働移民省の下の社会保障財務局(Tesoreria General de la Seguridad Social)で適用・保険料徴収業務を担当し、国家社会保障機構(Instituto Nacional de la Seguridad Social) 又は全国に20ある労災相互組合
(Mutuas de accidents de trabajo)で給付業務を行う。
d 財源
事業主(自営業者の場合は自営業者)の保険料。保険料は2007年国家予算法及び2010年国家予算法に基づき、企業活動に応じて定められている。メリット制は導入されていないが、事故率が一定未満で、労働災害防止に向けた設備投資を行った事業主に対しては、労災相互組合が独自に、余剰金から最大で労災保険料の 10%までの額を償還することがある。
e 制度の対象者
社会保障制度に加入する労働者。ただし、自営業者と農業労働者は任意加入である。
f 受給要件
(a)医療給付
就業中における事故、あるいは職業上の事由による疾病により医療措置が必要となった場合。
(b)一時的な全面労働不能給付
就業中における事故、あるいは職業上の事由による疾病により一時的に労働能力が全部失われている場合。
(c)永久的な部分労働不能給付
就業中における事故、あるいは職業上の事由による疾病で、従前の労働能力が33%以上失われている場合。
(d)永久的な全面労働不能給付
就業中における事故、あるいは職業上の事由による疾病で、従前の労働能力が失われている場合。
■59)大家族の場合には30か月に延長される。
g 給付の内容
(a)医療給付
スペインにおいては、労働災害であるなしに関わらず、公的医療機関にて無料で診療が受けられる。処方薬剤費については、労働災害でない場合には原則として4割が患者負担であるが、労働災害の場合には無料となっている。
(b)一時的な全面労働不能給付
事故発生前月の保険料対象賃金の75%が支払われる。支給期間は原則として最大12か月で、6か月延長さ
れる場合がある。
スペイン
(c)永 久 的 な 部 分 労 働 不 能 給 付(incapacidad permanente parcial para la profesión habitual)
事故発生前月の保険料対象賃金の24か月相当額が一時金として支払われる。
(d)永久的な全面労働不能給付
ア それまでの勤務はできないが、なんらかの職には就くことができる状態の場合(incapacidad permanente total para la profesión habitual)
事故発生までの1年間における報酬相当額(ボーナス等を含む)60)の55%(55歳以上の場合で訓練・就業が困難な場合は75%)が年金として支払われる。
イ あらゆる職に就くことが困難な場合(incapacidad permanente absoluta)
事故発生までの1年間における報酬相当額(ボーナス等を含む)の100%が年金として支払われる。
ウ あらゆる職に就くことが困難で、日常生活において常に介助が必要となる場合(gran invalidez)
事故発生までの1年間における報酬相当額(ボーナス等を含む)の100%に加え、介助に対する支給として、事故発生までの1年間における報酬相当額(ボーナス等を含む)の30%と社会保険料の最低納付額の45%の合計額。
なお、老齢年金を受給した場合にはこれら給付の受給権を失う。
5 労使関係施策.................................................
(1)労使関係法の概要
1978年憲法第28条第1項に労働組合結成の自由が規定されており61)、労働争議に関する規定は同憲法第28条第2項にて規定されている。団体交渉権は同憲法第37条第1項で規定されている。このほか、労使関係に関する規定は労働者憲章法などで規定されている。
(2)労使団体
a 概要
スペインの労使関係の大きな特徴としては、労働者を代表するものとして、選挙により選出される労働者の代表(統一代表と呼ばれる)と労働組合が並立していることがあげられる。
b 統一代表(representación unitaria)
選挙により選出される労働者の代表であり、4種類に区分される。主要なものは労働者数10人から49人の事業所で選出される従業員代表委員(delegados de personal)62)と、労働者数50人以上の事業所で選出される企業委員会(comités de empresa)がある63)。これらを総称して統一代表という。
統一代表の人数は事業所における労働者数に応じて
1人から75人とされており、任期は4年である。統一代表の選出は、勤続期間が1か月以上で16歳以上の全ての労働者(労働組合に加入する必要はない)が有権者となって選挙を行う。また、統一代表の候補者も労働組合員である必要はない。64)
統一代表の権限については、労働者憲章法第64条で
■60)正確には、1年間の報酬相当額を、(1日当たりの報酬×365+追加手当+過去12か月における利益配分+ボーナス及び時間外給与)÷実際勤務した日数×273で求め、これを12で割った額が月当たり報酬相当額とされる。
■61)なお、軍人や裁判官などにはこの権利の行使は認められていない。
■62)労働者数が6人から10人の場合には選出は任意で、労働者の過半数の同意によって設置される。(労働者憲章法第62条)
■63)このほかに、複数の事業所で就労する労働者数の合計が50名以上となる場合に結成される合同企業委員会(comité de empresa conjunto)と、企業委員会の連合体である統合企業委員会(comité intercentros)がある。従業員代表委員と企業委員会の差は、選挙制度に違いがある点である。詳しくはxxx「スペインの従業員代表制度」(日本労働法学会誌106号)を参照のこと。
■64)ただし、立候補するにあたっては勤続期間が6か月以上で18歳以上であるほかに、有権者のうち一定数の推薦人が必要であるが、労働組合員であれば労働組合からの推薦でも良い。
下記のように定められている。
•企業ないし事業所を単位とする労働協約の締結権65)
•労働者への影響が大きい施策を事業主が実施するに先立ち、意見を表明する権利
•生産計画や雇用計画などの情報アクセス権
•安全衛生委員会による監視活動の補佐
•福利厚生事業における労働者の利益の代表権
c 労働組合
スペイン
スペインにおける労働組合組織率は17%と、EU加盟 27か国中5番目に低い(スペインより低い国としては、フランス、エストニア、リトアニア、ポーランドがある。)。
bで述べた統一代表制度の存在、及び労働協約の適用が組合員以外にも行われている点には留意が必要である。
スペインにおいては労働組合とbで述べた統一代表制度が連動しており、労働組合が行使できる権限は組合が擁立し獲得した統一代表の割合に応じて付与させる仕組みとなっている。
労働組合の中で最も権限が強い組合は広域代表組合
(sindicato más representativo)である。広域代表組合には全国レベル、自治州レベル、産業レベルのものがある。全国レベルの広域代表組合となるためには、全国レベルで組織されること、統一代表の10%以上を獲得していることが条件である。自治州レベルの広域代表組合となるためには、当該自治州内で組織され、統一代表の15%以上を獲得していることが条件である。また、特定の産業分野において統一代表の10%以上を獲得している場合、産業レベルの広域代表組合と認められる場合がある。広域代表組合の権限は組織法11/1985により定められており、企業レベル以上の労働協約の締結権や政労対話における代表権、労働仲裁機関へ委員を派遣する権利など多岐にわたる66)。
全国レベルでの広域代表組合は、労働者委員会
(Confederación Sindical de Comisiones Obreras: CC.OO.、加入者数1,141,321人(2008年、以下同じ))と労
働者総同盟(Unión General de Trabajadores:UGT、 810,000人)がある。その他労働者労働組合同盟(Unión Sindical Obrera:USO、121,389人)、バスク労働者の連帯
(Eusko Langileen Alkartasuna/Sindicato de Trabajadores Vascos:ELA-STV、109,318人)、労働総同盟(Confederación General del Trabajo:CGT、100,000人)などがある。うちバスク労働者の連帯はバスク自治州の広域代表組合である。
d 使用者団体
スペインにおける使用者団体には、スペイン経営者団体連合(スペイン経団連)(Confederación Española de Organizaciones Empresariales:CEOE)とスペイン中小企業連合(Confederación Española de la Pequeña y Mediana Empresa:CEPYME)がある。なお、スペイン中小企業連合(CEPYME)はスペイン経営者団体連合
(スペイン経団連)(CEOE)に加盟している。
(3)労働争議の発生件数等
〈表1-3-19〉スペインの労働争議件数等の推移
(件、千人、千人日)
年 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 |
争議件数 | 737 | 688 | 678 | 708 | 685 | 783 | 752 | 811 |
参加人員 | 1,245 | 4,534 | 729 | 556 | 405 | 500 | 497 | 543 |
労働損失日数 | 1923.8 | 4945.1 | 792.1 | 4472.6 | 951.5 | 927.7 | 1187.7 | 1510.2 |
資料出所:EU統計局(EUROSTAT)
1970年代から1980年代にかけてはストライキが多く発生し、1976年から1979年にかけては労働損失日数が 1000万人日を超えていたが、2001年以降は、2008年までの数年間は、ゼネストがあった2002年、セビリアで起きた農業・家畜部門での長期ストライキの影響があった2004年を除けば80 ~ 200万人日程度の水準に落ち着いている。
(4)労働協約の位置付け
a 概要
スペインの労働協約(covenio colectivo)は労働者
■65)労働者憲章法第87条第1項では労働組合にも企業単位の労働協約の交渉にあたり団体交渉権を認めているが、労働者憲章法第88条第1項では組合代表が交渉する場合には統一代表の過半数を獲得していることが条件として別に定められている。
■66)認められる権利は広域代表組合のレベルにより異なる。例えば、産業レベルの広域代表組合には認められない権利も多い。
スペイン
憲章法により、法律と同等の効力を有しており、労働協約が対象とする範囲に含まれる全ての使用者と労働者に協約が適用されるという意味において大きな意味合いを持っている。欧州委員会の調査によれば、スペインの2006年時点における労働協約カバー率は全労働者の83%となっている。うち地域別・産業別の労働協約は労働協約でカバーされる労働者のうち半分を占めており、最も重要な形式となっている。一方、企業単位での労働協約でカバーされる労働者数は、労働協約でカバーされる労働者数の10%程度を占めるに過ぎない。
b 2011年の改正
スペインの労働協約は地域別・産業別が主流となっている。この形式では、スペインや企業を取り巻く情勢を十分に反映できないとの認識に基づき、政府は2011年6月、政令法7/2011により労働者憲章法の労働協約に係る部分を改正し、地域別・産業別等の企業レベル以上の労働協約が結ばれている場合でも企業単位の労働協約の締結を一部優先的に適用させることで、個々の企業に合った労働協約の適用の促進を図っている。
今回の改正においては、企業レベル以上の労働協約でカバーされている企業・労働者が、企業単位で労働協約を結んだ場合、以下の項目については企業別の労働協約が優先されることとなった67)。
•基本給及び補助的な給与(職位及び企業業績に応じて支払われるものを含む)
•超過勤務時間及び残業手当、シフト労働に伴う手当
•勤務時間の決定、xxx表の決定、年間休暇の計画
•専門職種表の具体的な適用
•雇用契約に関する解釈の適用
•ワークライフバランスの向上に向けた取組
改正により、企業レベル以上の労働協約において賃上げが合意された場合、売上が減少した場合、又は賃上げをした場合に企業経営が圧迫され、結果として雇用が維持できなくなる場合にも賃上げをしないことが可能となった。68)
協約の期限が切れてから14か月(期限が切れた協約の期間が2年未満の場合は8か月)以内に新協約は締結されなければならず、締結されない場合には労使から成る委員会により法廷外での仲裁が行われる。
〈表1-3-20〉スペインの外国人人口
1,594,338
1,408,785
1,528,077
1,349,962
1,474,493
1,302,889
1,262,419
1,118,055
1,073,527
937,150
806,795
785,279
713,974
579,372
522,682
5,268,762
2,314,425
2,102,654
4,519,554
1,895,727
1,708,517
4,144,166
1,609,856
1,427,662
3,730,610
1,352,253
1,185,356
3,034,326
1,048,351
913,851
2,664,168
937,338
819,543
(人)
年
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
423,043
317,241
アフリカ
1,977,946
701,947
617,017
1,370,657
534,130
480,439
外国人人口 欧州 うちEU27か国
752,563
641,209
442,888
353,355
米州
うち南米
アジア
74,413
98,058
127,885
141,683
186,848
オセアニア
1,472
1,746
2,105
1,920
2,321
国籍不詳
508
587
631
581
721
資料出所:スペイン国家統計庁(INE)
5,747,734
5,648,671
2,496,891
2,273,226
2,578,971
2,350,172
1,009,169
909,757
1,059,369
1,842,913
1,596,394
1,784,890
1,563,040
1,788,680
1,533,207
296,734
256,728
317,646
2,434
2,405
2,535
530
533
557
580
673
2,271
2,363
219,843
217,918
6 外国人労働者対策 .........................................
(1)概要
スペインはフランコ政権の時代においては労働力送り出し国であったが、1970年代を境として労働力受入国になり、特に好調な経済を反映して2000年以降外国
人は顕著に増加し、外国人人口(各自治体へ登録している者ベース69))は2001年の137万人から2010年の575万人まで4倍以上の増加となっている。ただし、2009年から2010年にかけてはスペインにおける経済の低迷もあり、増加率は大きく鈍っている。
■67)企業レベル以上の労働協約で企業単位の労働協約の優位性の範囲を任意に定めることができ、企業単位の労働協約の優位性を認めないこともできる。
■68)改正前においても例外的に求められる場合があった。
■69)スペインにおいては、滞在許可、労働許可を受けていない場合でも住民登録は可能である。
国別に見ると、ルーマニア出身者とモロッコ出身者が多くを占めていることがわかる。特にモロッコはアフリカ出身者の7割を占めているが、これはかつてモロッコの一部がスペインの植民地であったことも関係していると考えられる。また、スペイン語圏で19世紀までスペインの植民地であった南米諸国も多い。イギリスやドイツは65歳以上の割合が大きく、多くの退職者が含まれているものと見られる。
〈表1-3-21〉出身国別外国人数
スペイン
(2010 年)
国 名 | 居住者数 |
ルーマニア | 831,235 |
モロッコ | 754,080 |
エクアドル | 399,586 |
イギリス | 387,677 |
コロンビア | 292,641 |
ボリビア | 213,169 |
ドイツ | 195,824 |
イタリア | 184,277 |
ブルガリア | 169,552 |
中国 | 158,244 |
ポルトガル | 142,520 |
ペルー | 140,182 |
アルゼンチン | 132,249 |
フランス | 123,870 |
ブラジル | 117,808 |
資料出所:スペイン国家統計庁(INE)
外国人の権利については1985年の組織法7/1985でスペインにおける外国人の権利と自由に関し、初めて規定されたが、基本的な社会的権利が欠けるなど、包括的なものではなかった。その後、移民の増加に伴う移民問題への関心の高まりを受けて、2000年に組織法 4/2000(スペインにおける外国人の権利と自由及びその社会統合に関する組織法、以降「外国人法」という。)及び組織法8/2000により合法滞在外国人と不法滞在外国人の区分けを明確にした。2004年に社会労働党
(PSOE)が政権に返り咲いた後も修正を加えられつつ基本的な枠組みは組織法8/2000のまま維持されている。一方で、外国人及び移民に関する行政管轄が2004年に内務省から労働社会政策省となり、2008年には労働社会政策省が労働移民省に改称されるなど、労働者としての移民の存在を積極的に認める社会労働党(PSOE)
の姿勢が明確に反映されている。
2008年以降の経済低迷を受けて、スペイン国内における労働市場が極めて厳しい状況にある中、外国人労働者の失業者に対し、帰国を促進するための制度が創設されている。(詳細は3(3)fを参照のこと)また、 2011年8月からはルーマニアからの新規労働者に対し就労許可制度を再導入している。
(2)外国人労働者受入制度
外国人労働者の受入制度について大きく分けると欧州共同体制度、一般制度、一定枠割当制度がある。さらに、非合法状態の外国人を対象にした特別合法化措置及び定着による合法化がある。
a 欧州共同体制度(Régimen Comunitario)
欧州共同体制度は、スペインで自由に居住及び就労ができるEEA加盟国70)の国籍保有者、スイス国籍保有者に対して適用される制度である。EU加盟国のうち 2007年に加盟したルーマニア及びブルガリア国籍保有者については居住の自由のみが認められ、就業に際しては後述する労働許可の申請が必要であったが、この措置は2009年に廃止となった。ただし、ルーマニアからの労働者に関しては、スペインでの失業率が高い中、急増するルーマニア移民から国内労働者の雇用を守る目的で、2011年8月に欧州委員会から認可を得た上で労働許可制度を再導入している。なお、今回再導入された労働許可制度はルーマニアに対するEU域内の移動・居住の自由化に関して移行措置が撤廃される2013年までの時限的な措置71)であり、就労目的で新たにスペインに入国するルーマニア人に対して実施される。既に就労しているルーマニア人やその家族、あるいは職業紹介サービスに登録済みの失業者に対しては実施されない。今回の制度においては、就業先が決まっている場合にのみ就労を許可することとし、事業主に対して労働許可証の取得を義務付けている。
■70)注釈19参照のこと。EEA加盟国は、EU加盟国全27か国と、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーの計30か国である。
■71)基本的にはEU加盟国内であれば労働者は自由に移動できるが、2004・2007年のEU拡大時においては、新規加盟国から旧加盟国への労働者の移動について最大7年間の経過措置が認められた。この経過措置一般に関する詳細は、厚生労働省大臣官房国際課(2009)「2008 ~ 2009年海外情勢報告」特集EUの22 ~ 23ページを参照のこと。
b 一般制度(Régimen General)
一般制度は、欧州共同体制度の適用されない者を対象としている制度である。一般制度におけるビザの種類としては、通行ビザ(5日まで)、滞在ビザ(90日まで)、居住ビザ(就労を伴わない90日以上の滞在)、労働・居住ビザ(就労を伴う90日以上の滞在)がある。以下では労働・居住ビザについて述べる。
スペイン
労働・居住ビザは入国前に申請・取得する必要がある。申請の際にはパスポート、無犯罪証明書、健康診断書及び就労先の企業が労働当局から得た労働許可申請に対する「有利な決議(resolución favorable)」の複写の提出が必要である。
労働許可申請は労働市場テスト72)が必要であり、各自治州の公共雇用サービスを通じて求人を提出し、求職者がいないことを証明する必要があるが、国家公共雇用サービス(SPEE)が作成する充足困難な職業一覧に記載のある職種に関しては、労働市場テストは必要とされていない。また、以下の者を雇い入れる場合にも労働市場テストは必要とされない。
•スペインに合法的に滞在し、労働許可の更新を受けた外国人の配偶者及び子
•特定の状況下にある亡命者、国籍不明者
•スペインで生まれ居住している外国人
•スペイン人の子孫
•人道的理由により一時的滞在許可を取得した外国人
•ルーマニア人のうち労働許可制度の対象である者
•チリ人、ペルー人
初回の労働許可は1年間で、その許可申請に基づく特定の就業職種・地域での労働に限定される。労働許可の更新条件は、初期の労働関係が継続されているか、新たな職が有効期限内に開始することが証明される場合で、更新後はいずれの地域・職種においても就業が認められる。
一般制度のビザは初回の許可は1年間有効で、更新では2年の有効期間が与えられる。5年以上の継続的・合法的居住が証明できる外国人には永住が認められる。
c 一定枠割当制度
安定した雇用に就くために呼ばれ、企業により提出されたオファーに基づき出身国で選別される労働者で、国内に居住していない労働者の計画的契約を許可する制度である。一定枠割当制度内には安定雇用(1年以上の雇用)、季節雇用(最長9か月の雇用(農業を想定)又は1年を超えない特定の職(工場関係・インフラ整備を主とする))、求職ビザ(スペイン国内に入国し3か月間求職活動ができる。特定の職(家政婦・調理人・給仕)に対するビザ及びスペイン系の人に対するビザに分けることができる)の3つのカテゴリーがある。
割当数は各自治州や労使団体、移民政策最高諮問委員会の提案をもとに労働移民省が作成し、内閣の合意と承認をもって決定される。
また、割当制度を通じた求職は労働移民に関する二国間協定を結んだ国々に優先的に振り分けられている。現在、この二国間協定はコロンビア、エクアドル、モロッコ、ドミニカ共和国等と結ばれている。
d 特別合法化措置
非合法状態にある移民を合法化するプロセスである。特別合法化措置に関しては1986年以降、1991年、1996年、2000年、2001年、2005年と計6回行われている。 2005年に行われた特別合法化措置の際には条件として、
2004年8月8日以前からの滞在を証明すること、6か月以上の雇用契約(農業・ホテル業はより短期で可)が結ばれていること、本国及びスペインで無犯罪であることが設定され、577,923件が承認された。
e 定着による合法化
労働上の定着、社会的定着、家族的定着の3種類の定着のいずれかに該当する場合、申請により一時的滞在許可及び(必要に応じて)労働許可が与えられる制度である。
労働上の定着に該当するためには、最低2年間スペインに継続的に居住していること、スペイン及び出身国で前科がないこと、1年以上の労働関係が存在する
■72)労働市場テストとは、就労目的の外国人を受け入れる場合に、国内労働市場では求人が充足できないことを確認することをいう。国内労働市場で求人が充足できない場合のみ、当該外国人を受け入れる。
ことが必要である。
社会的定着に関しては、3年以上スペインに継続的に居住していること、スペイン及び出身国で前科がないこと、申請時において1年以上の雇用契約を有すること、他の居住外国人との家族関係を証明でき、居住する自治体が発行する社会統合を証明するレポートを提示することが必要である。
家族的定着は父又は母がスペイン国籍を有している
(いた)ことが必要である。
スペイン
7 労働施策をめぐる最近の動向.......................
(1)年金改革
年金改革については、2011年1月に政労使三者73)で合意がなされ、その後年金改革法(法律27/2011)が議会で可決後、8月から施行された。主な内容は以下のとおり。
•2013年から2027年にかけて、年金支給開始年齢を65歳から67歳に引き上げる。(2018年まで毎年1か月、 2019年以降毎年2か月。)なお、受給者が有する職務上のポストが失業者によって補充される場合に64歳から受給が可能とされていた特例は廃止する。
•年金額算定に関して、以下の変更を行う。
○給付額の算定基礎を過去15年間から過去25年間の保険料対象報酬に段階的に変更する。
○満額支給に必要な保険料納付期間を段階的に35年から37年に延長する。また、従来年単位(端数切り上げ)としていた保険料納付期間は月単位で計算することとする。
○年金支給額を保険料納付期間に比例させる。(算定基礎額の50%(15年間納付)~ 100%(37年間納付)。)従来は短期間の加入者に有利な仕組みになっていた74)。
例外として、以下の場合を認める。
•保険料納付期間が38年6か月以上の者に対しては、 65歳から年金の満額支給を認める。
•子育てのために労働市場から離れ、保険料を納付していない期間がある母親に対し、一定条件のもとで
保険料納付期間をみなし措置として付与。(子供1人につき最大9か月、1家庭につき最大24か月。)
•安全衛生上危険な職種に就労する者に対しては、67歳未満で満額給付を認める。
繰上げ受給に関しては、現在の61歳からではなく、 63歳からとし、更に繰上げ受給を認める条件として、
33年以上の保険料納付期間を要することとする。ただし、経済的な事由による解雇、事業主の死亡・引退等などの場合には61歳から受給可能である。また減額率を1年繰り上げるごとに納付期間に関わらず一律7.5%とする(現在は納付期間に応じて7.5 ~ 6%。)。また、年金額が最低保障年金額75)の125%未満となる場合には繰上げ受給を認めない。
部分的退職による一部受給については従来どおり61歳から認めるが、保険料の納付に関して、従来の実働日に応じた保険料ではなく、満額の保険料を納付しなければならない。
繰下げ受給に関しては、従来の一律2%増額ではなく、保険料納付期間に応じて2%(保険料納付期間が 25年未満)、2.75%(同25 ~ 37年)、4%(同37年以上)とし、就労の継続を促進する。
2027年以降5年毎に、67歳時の平均余命の変化に基づいて係数の変更を行う。
また、若年者が労働市場に入ってくるにあたり、訓練等の受講者が増加していることを考慮し、訓練を提供している事業者に対し社会保険料の納付義務を課すこととする。
また、一人暮らしの年金生活者に対し、最低保障年金額の水準を引き上げる。
これら改革により、スペイン政府では2050年時点で GDP比3.5%の歳出削減が計れるとしている。
(2)包括的な社会経済合意に基づく構造的措置とアクションプラン
政府、経営者団体及び主要な労働組合により2011年
2月2日に合意された経済成長、雇用政策、年金制度
■73)政府、2つの広域代表組合(CC.OO.、UGT)、使用者団体(CEOE、CEPYME)により調印された。
■74)従来制度では、16 ~ 25年については1年追加毎に3%加算、26 ~ 35年については1年追加毎に2%加算となっていた。
■75)最低保障年金額については3(6)を参照のこと。
改革に関する包括的な社会経済合意では、労働者のエンプロイアビリティ(就業能力)を高めるとともに、企業のニーズに合った労働力供給、効率的な職業紹介の構築を目指すこととしており、詳細は以下のとおりである。
a 構造的措置
ア 就労促進策、訓練、自営業の促進などの積極的な労働施策を推進するための法改正。
スペイン
イ 積極的な労働市場政策と失業給付との連携の強化。ウ 個人別の雇用戦略の策定。各個人は自らのエンプロイアビリティ(就業能力)を高める活動、求職
活動、起業に向けた活動を行うことに合意する。公的職業サービス機関は、各個人の活動について把握するとともに助言を行う。(2013年にも全対象者に対し適用)
エ 公的職業サービス機関の機能強化。(雇用政策にかかる計画、管理、評価の改善方策)
オ 中期計画として政府及び地方政府は、EUの欧州 2020戦略とスペインの国家改革計画に整合した数値目標を含む複数年に渡る計画を策定する。
b 即座に実行すべきアクションプラン
ア 30歳未満の者及び長期失業者をパートタイムで新規雇用した事業主に対し、社会保険料を減免。(中小企業に対しては全額免除)
イ 失業保険による給付・失業扶助を使い果たした者への再訓練プログラム:2月16日以降失業保険による給付及び失業扶助を使い果たした者で、再就職に向けた計画を提出した者に対し6か月の追加的支援を提供。
ウ 若年者及び45歳以上の長期失業者に対する個別の雇用戦略を策定する。
エ 若年者を対象として、雇用の増大が見込める分野に関する職業訓練を教育制度の中で増やす。
オ 高齢労働者に対する包括的な雇用戦略を策定する。雇用、訓練、労働条件に係る施策を通じ、雇用の維持と労働市場への再参加を目指す。
このうちaの構造的措置については2011年2月20日から施行され、bのアクションプランの一部は若年層
と長期失業者のパートタイム雇用促進を柱とするアクションプランとして2月13日から施行されている。このアクションプランはbのうち、特にア~ウに相当するものである。具体的には、以下のとおり。
○ 若年層と長期失業者のパートタイム雇用促進
12か月限定で、2月16日時点で30歳未満の者及び長期失業者を、パートタイム(フルタイムの労働時間の50 ~ 75%)で雇い入れる場合に、企業が負担する社会保険料を75%(労働者250人未満の企業においては100%)減免する。パートタイム雇用は、新規のもので既存の労働者を置き換えるものであってはならず、期間は6か月以上でなければならないが、有期・無期は問わない。
○ 失業保険による給付・失業扶助を使い果たした者に対する再訓練プログラム(PREPARA)
失業保険による給付・失業扶助を使い果たした者で、世帯所得が最低賃金の75%(月481ユーロ)を超えない者に対し、職業訓練への参加を条件に、月400ユーロを最大6か月間支給する。(詳しくは3(3)dを参照のこと。)
○ 若年者及び45歳以上の長期失業者等に対する個別の雇用支援
若年者、45歳以上の長期失業者、建設業など今回の危機の影響を受けた業種に勤務していた者のうち特に技能が低い者を対象として、公共職業サービス機関は個別の雇用支援を提供する。
○ 就業者向け訓練プログラムを失業者に対しても提供。同プログラムの20 ~ 40%を失業者向けとする。
(3)政令法10/2011による若年者雇用の取組強化と一部暫定措置の延長
2011年8月に政令法10/2011が施行され、若年者を中心とした雇用に向けた取組が強化され、一部の暫定措置の延長が行われた。内容は以下のとおり。
•教育訓練を目的とする契約を訓練及び学習のための契約と改称し、対象者の拡大等を行う(詳細は3(5)dを参照のこと)。
•有期労働契約の反復更新を防止するための法的措置の実施を2年間先送り(詳細は3(8)dを参照のこと)。
•賃金保証基金(FOGASA)から支払っている解雇補
償金の補助の暫定措置を2年間延長(詳細は5(4)を参照のこと)。
•失業保険による給付・失業扶助を使い果たした者への再訓練プログラム(PREPARA)(詳しくは3(3)dを参照のこと。)の半年間延長。
(4)解雇補償金積立基金の設立
2010年の労働者憲章法の改正において、2012年1月以降、オーストリアにならった事業主による解雇補償金の積立を行う基金76)を創設するとしている。2011年
スペイン
9月の段階では具体的な制度設計は行われていないが、報酬の一部分を積立し、解雇された場合のほか、職のための転居、訓練、退職時に労働者が基金から引き出せるようにするとしている。加入対象者はxx雇用されている労働者とされている。
なお、2011年8月の政令法10/2011では、現在賃金保証基金(FOGASA)から支払っている解雇補償金の補助の暫定措置を2013年まで継続することとされた。ただし、2012年1月1日以降の解雇については、正当解雇と見なされた場合にのみ支払われる。
(5)2011年総選挙
スペインでは2011年11月20日に総選挙が行われ、右派民衆党がxxし、12月21日にxxx内閣が発足した。xxx首相は19日に新首相選出前に行った演説で経済再成長に向けた新政権のロードマップの大枠を明らかにした。本格的な財政再建、金融再編、労働市場改革をベースに、経済刺激と雇用創出を図るというもので、おおむね総選挙のマニフェストに沿った内容になっている。
労働・社会保障関係では、労働移民省が労働社会保障省と改称されたほか、労働協約交渉・労働争議解決の柔軟化、欠勤率の改善、若年層の雇用計画(労働訓練制度の改革、新卒者の雇用に対し当初1年間の社会
保険料(事業主負担分)を100%免除)、飛び石連休廃止による生産性向上、早期退職制度の厳格化による実質の退職年齢の引き上げなどが挙げられている。
(6)政令法3/2012による労働市場改革
2012年2月10日に労働市場改革を目的とした、労働者憲章法の改正を柱とした政令法3/2012が施行された。主な内容は以下のとおり。
a 解雇補償金の低減を通じた労働市場の二層化の解消77)ア 新規の、期間の定めの無い契約において、不当解雇がなされた場合の解雇補償金の額を33日分の給
与×勤続年数(最大24か月分)に低減する。78)
x 正当解雇における解雇理由の要件のより一層の明確化などを通じた正当解雇の利用促進。
ウ 一定規模以上の整理解雇における管轄する労働部局の承認を不要とする。
b 職業紹介・職業訓練における改革
ア 人材派遣業の許可を得れば、職業紹介業務を実施可能とする(ただし、人材派遣会社は労働者から斡旋手数料を取ることはできない。)。
イ 年20時間までの職業訓練を受ける権利を労働者に授与すること、個人訓練勘定の作成といった施策を通じた職業訓練の強化を行う。
ウ 訓練及び学習のための契約79)において、事業主が訓練に十分な環境を提供できる場合に事業主による訓練を認める。また、2013年までの時限措置として対象年齢を30歳未満と拡大しているが、この措置を若年層の失業率が15%を下回るまでとする。
c 企業における内部柔軟性の確保
ア 経済的事由における雇用契約上の一時帰休、労働時間の短縮措置80)において、管轄する労働部局の
■76)オーストリアにおける制度は2003年に導入されたもので、事業主は賃金総額の1.5377%を基金に支払う。解雇時に労働者はこの基金から引き出せることができる(ただし、延べ3年以上加入した場合に限る)ほか、引退時まで引き出さないこともできる。また、転職の際にはこの基金残高をそのまま移動することができる。
■77)解雇補償金などの解雇規制については、4(4)を参照のこと。
■78)改革前に契約を結んでいた者は、今回の改正発効日以降に働いた年数のみが33日分の給与×勤続年数で計算される。
■79)訓練及び学習のための契約については、3(5)dを参照のこと。
■80)短期的な雇用調整のための労働時間削減については、3(4)bを参照のこと。
承認を不要とするなど、制度の利用を容易にする。イ 職務別による労働者の硬直的な振り分けの廃止な
ど、労働者の企業内異動を促進する。
ウ 勤務時間、時間帯、勤務方法等について、事業主が労働条件を変更することを認める。
エ 労働時間の短縮措置等の対象となった労働者の社会保険料が50%減免される。なお、この措置で対象となった労働者が解雇された場合においても、労働者の失業給付には影響を与えない。
スペイン
オ 労働協約において、企業の経営難の場合には企業単位以上の労働協約からの脱退を認める。
d 中小企業等を対象とした期間の定めの無い契約の支援策
50人未満の中小企業等に対し、期間の定めの無い契約の支援策を以下のとおり行う。
ア 試用期間を1年まで認める。
イ 起業家を対象として、雇用した最初の労働者が30歳未満の場合、3,000ユーロの税額控除が適用される。
ウ 3か月以上失業保険給付を受け取っている失業者を雇用した場合、最大1年間、その労働者が受給するはずであった失業保険給付の50%相当額の税額控除を受けることができる。また、雇用された失業者も、最大1年間受給するはずであった失業保険給付の25%を受給し続けることができる。
エ 中小企業等に対する雇入れ優遇策81)を拡充。期限の定めのない契約で雇い入れた場合に、以下の額を社会保険料から減免。
(ア)16歳以上30歳未満の若年失業者の場合、3年間、総額最大3,600ユーロ。
(イ)45歳以上の長期失業者の場合、3年間、総額最大4,500ユーロ。
(ウ)訓練及び学習のための契約及び引継交代労働契約82)などから契約を移行させた場合、3年間、総額最大2,100ユーロ。
e 有期労働契約の反復更新を防止するための法的措置を2013年1月から実施。83)
参考文献
•スペイン政府“National Reform Programme 2011”
(xxxx://xxx.xxx.xx/Xxxxxxxxxxxxx/Xxxxxxxx%00 Reform%20Programme%202011%20Spain.pdf)
•スペイン労働移民省(xxxx://xxx.xxxx.xx/)
•スペイン労働移民省“Guide to Labour 2009”
•スペイン産業観光通商省“Guide to business in Spain”
(xxxx://xxx.xxxxxxxxxxxxx.xxx/xxxxxxxxxxxxxxx/ index_en.htm)
•スペイン経済財務省“The Spanish Economy”
(xxxx://xxx.xxxxxxxxxxxxxxxxx.xxx/xx-XX/ Paginas/home.aspx)
•EU統計局(Eurostat)
(xxxx://xxx.xxxxxxxx.xx.xxxxxx.xx/xxxxxx/xxxx/ portal/eurostat/home/)
•欧州生活・労働条件改善財団(Eurofound)
(xxxx://xxx.xxxxxxxxx.xxxxxx.xx/)
•European Labour Law Network
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•Eurofound“Spain: a country profile”
(xxxx://xxx.xxxxxxxxx.xxxxxx.xx/xxxxxxx/0000/00/ en/1/EF1008EN.pdf)
•欧州委員会“Your social security rights in Spain”
(xxxx://xx.xxxxxx.xx/xxxxxxxxxx_xxxxxx/xxxx_ portal/SSRinEU/Your%20social%20security%20 rights%20in%20Spain_en.pdf)
•ILO Employment Protection Legislation Database
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•米国社会保障庁“Social Security Programs Throughout the World: Europe, 2010”
(xxxx://xxx.xxx.xxx/xxxxxx/xxxx/xxxxxxxx/ ssptw/2010-2011/europe/spain.pdf)
•米国社会保障庁“International Update, August 2011”
(xxxx://xxx.xxx.xxx/xxxxxx/xxxx/xxxxxxxx/xxxx_ update/2011-08/index.html)
•労働政策研究・研修機構資料シリーズNo.46「諸外国の外国人労働者受入れ制度と実態2008」
(xxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxxxx/xxxxx/0000/00-000.xxx)
•財団法人年金シニアプラン総合研究機構「年金と経済」 Vol.28 No.4
■81)これまで行われている雇入れ助成に関しては、3(4)aを参照のこと。
■82)引継交代労働契約については、3(5)dを参照のこと。
■83)詳細は3(8)dを参照のこと。
(xxxx://xxx.xxxxxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxx/Xxxxx0000.xxx)
•Xxxxxx X. Malo,“Labour market policies in Spain under the current recession”,ILO Intenational Institute for Labour Studies
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スペイン
• Xxxx, Xxxxxxxxx,“EEO Review: Youth Employment Measures, 2010 Spain”,European Employment Observatory
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•xxx「スペインの従業員代表制度」、日本労働法学会誌106号
•xxx「EU指令の国内法化にともなうスペイン労働法の変化―男女均等待遇と有期雇用縮減への取り組みを中心に」、日本労働研究雑誌590号
•日本スペイン法研究会、サラゴザ大学法学部、Nichiza日本法研究班「現代スペイン法入門」