Contract
第 3 編「債権」
第 2 部「各種の契約」
民法(債権法)改正委員会
第 19 回 全体会議
2009.2.14
第7章 xxxxxx・xxx
【前 注】
1.ファイナンス・リースに関する現状等
本提案は,ファイナンス・リースを典型契約のひとつとして民法典に規定することを提案するものであるが,その出発点となっているのは,ファイナンス・リース契約の現代社会における重要性である。
そうしたxxxxxx・xxxの重要性は,以下の通り,大きく3つの面で,それを指摘することができるものと考えられる。
(1)取引形態としてのファイナンス・リースの重要性
第1に挙げられるのが,ファイナンス・リースの現代の取引における重要性である。xxxxxx・xxxの歴史そのものは,それほど古いわけではないが,ファイナンス・リース事業は急速な発展を見せ1,現代社会における一般的な取引として位置づけられるに至っている,という意味での重要性である。
もっとも,ファイナンス・リースに関わる事業者の数や取扱高の大きさだけでは,当該取引形態の法的な意味での重要性が直ちに意味されるわけではない。
(2)契約としての独自性-他の典型契約との関係
ファイナンス・リース契約の法的な意味での重要性を示すのが,ファイナンス・リース契
1 社団法人リース事業協会の資料(xxxx://xxx.xxxxxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxx.xxxx)によると,1972 年に 19社であった事業協会会員は,1980 年に 155 社となり,その後も,増加を続け,1990 年以降は,300社前後を推移している。また,自動車リース協会においては,ディーラー系のリース事業者が 400社程度あるために(自動車リース協会については,xxxx://xxxxxxx.xx/),現在,把握可能な限りで, 700~800 社は,リース事業を営んでいることになる(これらの協会に加盟せずに,リース事業を営んでいる事業者数は把握できない)。また,2003 年度~2006 年度においては,リース取扱高は, 7 兆円~8 兆円の間で推移している。
約の法的性質が,既存の典型契約のひとつに単純に解消されない独自性を有しているという点である。
xxxxxx・xxxをめぐっては,比較的早い時期から,そもそも,ファイナンス・リース契約をどのように理解するのかという点をめぐって,多くの基本的な議論が積み重ねられてきた。つまり,xxxxxx・xxxが,「リース」として,賃貸借という法形式を使っており,その点では明らかであるにも関わらず,その経済的,機能的実質が,賃貸借に解消されないものであるということが,この取引形態の導入時からすでに意識され,議論の対象となってきたのである。リース契約の当事者をめぐる問題(リース提供者と利用者の二当事者契約か,供給者を含む三当事者契約か2)や特殊な賃貸借契約説や融資契約説,無名契約説といったさまざまな立場が主張されてきた。こうしたxxxxxx・xxx契約の性格についての議論3はなお完全に決着をみているわけではないが,xxxxxx・xxxが,一定の信用供与としての側面を有しているという点については,ほぼ争いなく共有されているところであろう。
特に,こうした信用供与としての側面から強調されるのは,リース料の意味と性質である。すなわち,リース料は,一定期間の当該目的物の利用についての対価としての性格を有しておらず,融資の返済としての性格を有するという点である。そこでは,物の利用という賃貸人から賃借人に対してなされる給付に対して,その給付たる利用の対価として賃料を賃借人が賃貸人に支払うという賃貸借における最も基本的な法律関係(物の有償の利用契約)が認められないということになる。この点で,xxxxxx・xxxは,既存の典型契約のひとつとしての賃貸借契約に解消されない性格を有しているということになる。
もっとも,他方で,xxxxxx・xxxが,純粋な融資契約であり,リース目的物は単なる担保にすぎないのかといえば,そのような考え方が存在する可能性も否定できないが,他方で,その契約の出発点において,目的物を利用させるという関係があることも否定できないものと考えられる。それは,xxxxxx・xxxが,賃貸借という法形式を利用してきたことからは,避けられないものであったように思われる。その点では,完全な信用供与と担保という形式に分解できるわけではなく,特に,目的物受領までの当事者間の法律関係
2 当事者の呼称については,従来の用語上は,「リース事業者」や「リース会社」,「ユーザー」,
「サプライヤー」や「供給業者」といった表現が一般的であるが,後述の通り(【Ⅳ-4-2】の説明を参照),民法典の中に規定をされるものということを前提に,本報告書の中では,暫定的に,
「リース提供者」,「利用者」,「供給者」という表現を用いることとする。
3 なお,ここでいくつか挙げた立場が,必ずしも同じレベルで対置されるわけではないことはいうまでもないだろう。契約の性質を考えるという場合においても,既存の典型契約との関係をどのように考えるのか,あるいは,考えるべきなのかという問題を考えるレベル,既存の典型契約との関係との関係はひとまず置いたうえで,その経済的性質や機能をどのように考えるのかといったレベルでは,「契約の性質」を考えるという意味も異なってくる。
においては,目的物を利用者に引き渡すことによって,利用者が目的物を使用収益することができる状況を実現されるべきことについての当事者間の関係という意味で,利用型契約としての側面をなお維持しているという側面もあると考えられる。
このようなファイナンス・リースの性質からは,従来の賃貸借や消費貸借に解消されない一定の独自性を認めることが可能であり,それは,ファイナンス・リースの法的な意味での重要性につながるものだと考えられる。
(3)判例におけるファイナンス・リースの独自性の承認
第3の重要性は,すでに述べてきたところとも重なるが,特に,第2のファイナンス・リースの法的性質の独自性が,単に学説上の議論等に限られるものではなく,判例においても取り上げられ,そうしたファイナンス・リースの性質を基礎として一定の方向性が示される段階に至っているという点である。
特に,リース料が目的物の利用の対価としての性格を有していなという点4,リース解消時における清算義務5等,ファイナンス・リースをめぐる基本的な部分については,すでに判例の一定の蓄積があり,かつ,それが既存の典型契約に解消されないものであるとすれば,それは独自の契約類型として規定することに向けたファイナンス・リースの重要性としての評価につながるものだろう。
3.ファイナンス・リースに関する規定のあり方
(1)典型契約としてのファイナンス・リース
冒頭に述べたようなファイナンス・リース契約についての重要性の認識は,ファイナンス・リースを積極的に民法典の中に取り込むという方向につながっていく。
もっとも,このようにxxxxxx・xxxを民法典の中に取り込むという場合でも,その取り込み方については,いくつかの方法が考えられる。
ひとつは,既存の典型契約の中に,ファイナンス・リースに関する特則等を用意することによって対応するというものである。この場合,さらに既存の典型契約のどこに,そうした特則を用意するのという点については,従来もファイナンス・リースの法形式として利用さ
4 最判平成 5 年 11 月 25 日裁判集民事 170 号 553 頁,金法 1395 号 49 頁。同判決は,「ファイナンス・リース契約は,物件の購入を希望するユーザーに代わって,リース業者が販売業者から物件を購入のうえ,ユーザーに長期間これを使用させ,右購入代金に金利等の諸経費を加えたものをリース料として回収する制度で
あり,その実体はユーザーに対する金融上の便宜を付与するものであるから,リース料の支払債務は契約の締結と同時にその金額について発生し,ユーザーに対して月々のリース料の支払という方式による期限の利益を与えるものにすぎず,また,リース物件の使用とリース料の支払とは対価関係に立つものではないというべきである。」とする。
5 最判昭和 57 年 10 月 19 日民集 36 巻 10 号 2130 頁。
れてきた賃貸借の中に用意するという方向6と,むしろファイナンス・リースの経済的,機能的実質に対応する形で消費貸借等,信用供与に関する規定の中にこれを置くという方向7が考えられる。
それに対して,もうひとつの可能性が,新しい典型契約として,ファイナンス・リースに関する規定を設けるというものである。
ここでは,後者の立場をとり,ファイナンス・リースについて,新種契約のひとつとして,典型契約としての規定を用意するという方向を提案している。
これは,以下のような理由によるものである。
第1の理由は,賃貸借や信用供与のいずれかで特則として規定するということが困難であるか,そもそも適切ではないと考えられるという点である。
まず,賃貸借を前提とする場合,賃貸借という典型契約の性質決定をするうえで最も基本
6 ヨーロッパ民法共通参照枠草案(Draft Common Frame of Reference; DCFR)Ⅳ.B-1:101 の 4 号は,当事者が信用供与の目的を有していること,貸主が融資者としての地位を有すること,または,借主が所有権取得のオプションを有することによっては,本節の規定の適用を妨げないと規定する。ただし,他方で,同 3 号は,貸借期間の終了時に所有権が移転するものは,当事者が,賃貸借(リース)という文言を用いている場合であっても,本節の規定の適用はないとして,フルペイアウト方式で,リース期間終了時に所有権移転を当然に伴うものについては,賃貸借として扱われないことを示している。
7 改正ドイツ民法典においては,リース契約一般は規定されず,「第 8 章 個々の債無関係/第 3 節事業者と消費者との間の消費貸借契約,融資の援助及び割賦供給契約/第 2 款 事業者と消費者の間の融資の援助」の中で,事業者・消費者間のファイナンス・リース契約についてのみ規定が置かれた。すなわち,同第 499 条第 2 項は, 「ファイナンス・リース契約(Finanzierungsleasingvertrag)
……については,……500 条-504 条に規定された特別規定が適用される。」とし,同第 500 条は,
「事業者と消費者の間のファイナンス・リース契約には,358 条(提携契約においける事業者との意思表示の撤回と当該契約に結合した消費貸借契約の意思表示の撤回の接続[旧通信販売法 4 条,
旧消費者信用法 9 条,旧一時的居住xx 6 条]),359 条(提携契約における抗弁の接続[旧消費
者信用法 9 条 1 項,2 項]),492 条[旧消費者信用法 4 条]1 項 1 文-4 文(要式契約。文書の要
求),492 条 2 項(文書の内容), 3 項(文書のコピーの交付),495 条 1 項(消費者の撤回権[旧
消費者信用法 7 条]),496 条(抗弁の放棄,手形・小切手の禁止[旧消費者信用法 10 条]),
497 条(遅延利息の扱い,分割払い給付の参入[旧消費者信用法 11 条]),498 条(分割払いの消
費貸借における全額の債務の期限の到来[旧消費者信用法 12 条])の規定が準用される。」と規
定する。同第 501 条は,分割払いに関する規定が適用される対象,同第 502 条は,分割払いの場合
に要件とされる書面の交付とそれが欠ける場合の効果,同第 503 条は,分割払いの場合の解除,同
第 504 条は,分割払いにおける期限前弁済についての規定である
的な要素は,有償の目的物利用という性格であり,そこでは,「一定期間の目的物利用に対する対価としての賃料」は,その契約の性格づけにとって不可欠のものである(当事者間において,使用収益についての対価たる賃料を支払わないという特約をする賃貸借契約というものは観念できない。そのような特約がある場合,それはもはや賃貸借ではない)。それに対して,ファイナンス・リースにおいては,リース料は,こうした目的物利用の対価としての性格を欠いているとされているのであり,これは賃貸借という契約の性格を前提としてうえで,その特則として規定される範囲をすでに超えていると考えられる。
なお,リース期間の終了時に所有権移転を伴うような場合に限って,賃貸借の規定の適用を排除するというアプローチもあるが8,本提案では,このようなタイプのファイナンス・リース9に限らず,ファイナンス・リース一般において,「賃料が,当該期間における利用の対価としての性格を有さない」ということを重視するものである。
また,信用供与契約としての特則として位置づけるということに対しては,従来のファイナンス・リースにおいても,それが完全に信用供与契約,融資契約として性格づけられるわけではなく,特に,借受証の交付までの関係においては,目的物の調達に関する関係があり,目的物との関係を,全面的に担保として位置づけることができるわけではないということも確認しておくべきであろう。
なお,すでに言及した通り,ドイツ民法の改正では,ファイナンス・リースに関する一部の規律が,事業者・消費者間の信用供与に関する特則として導入されるに至っているが,ファイナンス・リースの独自性は,必ずしも,事業者・消費者間の取引という側面のみによって説明されるものではなく,当事者が誰であるかということを離れて,なお,ファイナンス・リース契約の独自性が認められるというのが,本提案の基本的な立場である。
第2の理由は,すでに繰り返し述べてきた通り,ファイナンス・リースが,有償の物の利用契約としての賃貸借に解消されず,他方で,物の利用という側面を完全に喪失した信用供与契約にも解消されないという点である。また,こうしたファイナンス・リースの複数の側面(法的性格)は,後述のように一定の時点を境として変化するという点でも,他の典型契約にみられない独自性を有しているものと考えられる。
典型契約は,当該規定によって直接カバーされる契約だけを対象として,それを規律することのみに,その役割が尽きるわけではなく,新たな取引が登場してきた場合においても,その分析の手がかりとなるような基本類型を提示するということに,その積極的意義があるのだと考えれば,既存の典型契約に解消されず,その契約の基本的性格や形態においても独自性が認められるファイナンス・リースは,むしろ,それを典型契約として規定することに積極的な意味があると考えられる。
8 DCFR Ⅳ.B-1:101 の 4 号。
9 これは,フルペイアウト方式のファイナンス・リースで,契約終了時における所有権移転の特約が付されているものと考えられる。
(2)ファイナンス・リースに関する規定の位置
以上のような判断から,ファイナンス・リースを独立の典型契約として,その規定を置くことを提案するものであるが,その法典上の位置としては,利用型契約としての賃貸借,使用貸借,信用供与契約としての消費貸借の次に置くことを予定している。
これは,ファイナンス・リースが,目的物を利用させるという利用型の側面と,信用供与としての側面の両方を有する特殊な典型契約であるという性質をふまえてものである。
(3)典型契約としてのファイナンス・リースの意味-従来の実務との関係
なお,典型契約としてのファイナンス・リースを用意するという場合,以下の点を,その基本的な出発点とすべきものであると考えられる。
第 1 に,ここで求められているのは,ファイナンス・リースにおける当事者間の実態的な関係に照らして,適正な契約規範を用意するということであって,単に,現在の取引実務を法的なものとして表現するということに限定されるものではないことはでない。
10 なお,xxxxxx・xxxという言葉の定義としては,「リース取引のうち,リース契約に基づくリース期間の中途において当該リース契約を解除することができないもの又はこれに準ずるもので,当該リース契約により使用する物件(以下「リース物件」という。)の借主が,当該リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ,かつ,当該リース物件の使用に伴って生じる費用等を実質的に負担することとなるものをいう」(平成 6 年大蔵省令第 7 号による改正後の財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則 8 条の 6 第 1 項柱書き)というものが一般的に挙げられる。しかしながら,これは税制上の取扱いの観点から,ファイナンス・リースを経済的に定義したものであり(売買に準じて扱うということを説明することを前提とした定義),これがそのまま法的なファイナンス・リースをどのように定義するかを当然に決めるものではないという点を確認しておく必要がある。なお,従来のリースの分類等についても,同様のことを指摘することができるだろう。xxxxxx・xxxに関する直近の判決である最判平成 20 年 12 月
16 日の補足意見で,この定義を前提として,xxxxxx・xxxは,当然にフルペイアウト方式であり,「いわゆる」フルペイアウト方式と言う必要はないとする。しかし,この点についても,
【Ⅳ-4-1】は,当然にフルペイアウト方式のものだけに限定されるわけではないし,ここで示した規律を適用するうえで,その限定が実質的にも必要なわけではないだろう。これはあくまで,税制上,売買と扱うか,賃貸借(物の利用契約)として扱うかという点で重視されるポイントであるにすぎない。
特に,従来のファイナンス・リースは,その分類をなすに当たっても,税制上や会計上の取扱いなど,必ずしも,当事者間の契約関係の規律という部分に限られない視点からの説明や分類がなされてきているが,典型契約としてのファイナンス・リースの規定を考える場合に重要となる視点は,売買や賃貸借などとの関係で,ファイナンス・リースがどのように位置づけられるのかという点なのであって,税制上,ファイナンス・リースをどのように扱うべきかという視点とは必ずしも一致しないことを確認しておくべきであろう。
I ファイナンス・リースの意義と成立要件
Ⅳ-4-1 xxxxxx・xxxの意義と成立
xxxxxx・xxxは,リース提供者が,ある物(以下,「目的物」という。)の所有権を第三者(以下,「供給者」という。)から取得し,目的物を利用者に引き渡し,利用者がその物を一定期間(以下,「リース期間」という。)利用することを忍容する義務を負い,利用者が,その調達費用等を元に計算された特定の金額(以下,「リース料」という。)を,当該リース期間中に分割した金額(以下,「各期リース料」という。)を支払う義務を負う契約をいう。
【提案要旨】
提案【Ⅳ―4-1】は,冒頭規定として,xxxxxx・xxxの基本的な内容と性格を示す規定である。ここでは,当事者の義務が以下のようなものであることが示される。
第 1 に,リース提供者の義務が,「ある物の所有権を……取得し,その物を利用者に一定期間(リース期間)利用させる」ということを内容とするものであることを示す。
なお,ここで「利用させる義務」は,以下の二つの局面で現れる。
まず,利用者に目的物が引き渡される(リース提供者から引き渡される場合に限らない)ことを実現するというレベルのものである。
次に,目的物が引き渡されてからは,後の規定によって示されるように,利用者が使用収益をできるようにリース提供者が積極的な義務を負担する関係ではなく,利用者の使用収益を承認するという形で実現されることになる。
第2に,利用者が支払うのは,目的物「の調達費用等を元に計算された特定の金額」であるということを示す。これは,リース料が,「目的物の使用収益の対価」ではないということを示す点に意味があり,この点で,賃貸借とは決定的に区別されることになる。
【解 説】
1.前提となる現在の理論状況等
冒頭規定においては,ファイナンス・リース契約の基本的な性質や当事者関係,当事者の
債務を示すことが求められる。
その前提として,xxxxxx・xxx契約の性質等に関する現在までの議論をみると,すでに前注で述べたところとも重なるが,以下の点については,おおむね共通認識が形成されているものと考えられる。
第1に,ファイナンス・リースは,賃貸借契約という法形式を借用するものであるが,(i)ファイナンス・リース提供者(賃貸人)は目的物の利用についての責任11を負わない,(ii)リース料は目的物の利用の対価ではない12等,賃貸借契約における最も基本的な性格(「有償の物の利用」契約)を欠いているものと考えられる。賃貸借という法形式を用いることの必要性として指摘されるものも,目的物の所有権がリース提供者にとどまるものであることを確認することによって,リース料債務の不払いの場合の法律関係を明確にするなど,賃貸借契約についての本質的な部分(有償の物の利用)にあるわけではない。その点で,実質的に見て,賃貸借契約とその基本的な性格が異なるものであるということについては,ほぼ共通の理解があるものと考えられる。なお,そこからさらに踏み込んで,信用供与契約として性格づけるかという点については,明確にそのように性質決定をする見解もある一方で,なお,賃貸借という法形式を用いる以上,リース提供者が利用者に目的物を使用収益させるという側面が残ることを強調する見解もある。賃貸借契約と異なる契約であるということを説明するためには,これが純粋な信用供与契約であるということまでを確定する必要はないものと考えられる。
11 特に,目的物受領後については,民法 601 条の「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し」,民法 606 条 1 項の「賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」に相当する義務が否定される。
12 最判昭和 57 年 10 月 19 日民集 36 巻 10 号 2130 頁は,「リース契約は,形式的には,リース提供者が自己の所有する物件を利用者に利用させるという内容を有するものではあるが,これを実質的にみた場合には,リース提供者が利用者に対して金融の便宜を供与するという性質を有することは否定できない」とする。その後の判例においても,同様の指摘がなされている。前掲最判平成 5 年 11 月 25 日等。
13 xxxx「リース」『現代契約法大系5』(1984 年)は,「リース取引において,サプライヤーとの関係を切り離し,リース提供者と利用者の関係のみを取り出して,その法律関係を構成することは,リース取引の機能並びにそれに関連する当事者の利益を正当に調整することにならない。…
ここでは,リース提供者と利用者の法律関係(狭義のファイナンス・リース契約)が基礎となるという点自体には争いがないので,まず,この法律関係を規定することが基本としつつ,以下で説明するように,供給者を冒頭規定の中で示すことによって,全体としてのファイナンス・リースをめぐる関係が明らかになるようにしている。
2.ファイナンス・リース契約の冒頭規定の形式と規定すべき内容
典型契約としてのファイナンス・リースの冒頭規定においては,以下のような内容を規定しておくことが必要だと考えられる。
(1)xxxxxx・xxx契約の当事者
xxxxxx・xxxの基本的な法律関係の当事者が,リース提供者と利用者であることを示す。しかし,それと同時に,ファイナンス・リースにおいては,通常の場合,供給者(サプライヤー)が存在し,リース提供者と利用者との法律関係を考える場合にも,リース提供者と供給者の法律関係(特に,リース提供者の供給者に対する権利)を前提として規律する必要があるので,供給者の存在を示す形で規定を用意しておくことが適当である。
すでに言及したとおり,xxxxxx・xxx契約の当事者が誰であるかに関しては議論があるものの,本提案においては,狭義のxxxxxx・xxxの当事者であるリース提供者と利用者との関係を,典型契約としてのファイナンス・リースにおける基本的な関係とすることを示すものである。なお,xxxxxx・xxx契約の定義をめぐって,これが二当事者契約なのか,三当事者契約なのかという議論に直接コミットするものではない。
また,上記の通り,基本となる契約関係がリース提供者と利用者であることからすれば,供給者を含む関係について,冒頭規定に取り込むことは必ずしも不可欠ではないともいえるが,以下の理由によって,典型的なファイナンス・リースにおける供給者の存在を冒頭規定の中で示しておくことが適切だと考えるものである。
第1に,現在の一般的なファイナンス・リースの形態においては,供給者の存在が予定されており,その最も典型的な形態を冒頭規定の中で示しておくことが適切であると考えられる。
第2に,目的物に瑕疵があった場合の法律関係を規定する中で,リース提供者が供給者に対して有している権利(買主としての権利。瑕疵担保責任に関する権利だけではなく,完全履行請求権を含む)を,利用者が行使するという規定を置くことを予定しており,そのためにも,冒頭規定の中で,供給者ならびに供給者とリース提供者の関係について言及しておくことが適切であると考えられる。
…リースをサプライヤー,リース提供者及びユーザーの三当事者間の契約と解すべきである」(274頁)とする。
(2)リース料の法的性質
ファイナンス・リースにおけるリース料が,賃貸借における賃料と異なり,各期における利用の対価としてではなく,調達費用等によって計算される金額(総額)であり,各期において支払われるリース料は,この総額を元に計算される性格のものであることを示す。
この点は,従来から,ファイナンス・リースの特徴であり,法律関係や具体的解決を考える場合に基礎となってきたところであり,それを確認するものである。
この点は,ファイナンス・リースを賃貸借と区別する決定的な基準となるべき部分であり,また,以下の各具体的な規定を基礎づける意味も有する。
(3)リース提供者の基本的な債務
ファイナンス・リースにおいて,リース提供者が,利用者に,目的物を利用させるための基本的な債務を負担することを示す。
こうしたリース提供者の義務は,2つのレベルで現れることになる。
① 利用者への目的物の引渡しの実現
まず,ファイナンス・リースにおいては,利用者に目的物が引き渡され,利用者が使用収益できる状況になることが,リース提供者の基本的な義務に含まれる。
もっとも,実際には,目的物は,供給者と利用者との間で決定され,その引渡しもなされるものであるから,このレベルのリース提供者の義務として具体的に問題となることは多くないものと思われる。
しかしながら,そのような状況をふまえつつも,この点を確認しておくのは,上記の目的物の移転等は,あくまで実態としてのものであって,法的な観点からは,ファイナンス・リースの法的性質を前提とすれば,目的物が利用者に引き渡され,それを使用収益できる状況に置くというリース提供者の義務の履行のひとつの形態として位置づけられるべきものであると考えられる。
ここでいう義務が,リース提供者の積極的な作為を求めることを主眼としたものではなく,目的物がそもそも引き渡されないような場合における当事者間のリスク配分を基礎づけるものとして位置づけられるものであることはいうまでもないだろう。
適用事例1 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益をすることを目的として,目的物たる自動車を調達し,それをUに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結した。自動車は,Sから直接Uに引き渡されることになっていたが,所定の期日になっても, Uへの引渡しがなされなかった。この場合,Lは,Uへの引渡しを実現する債務を負担することが,Ⅳ-4-1によって示される。
② 利用者の使用収益とリース提供者の関係
他方,目的物が利用者に引き渡されてからの法律関係は,以下の【Ⅳ-4-2】以下によって具体的に規律されることになる。
ただ,それらの法律関係との関係でも,【Ⅳ-4-1】において示された「その物を利用者に一定期間……利用させる義務」は,当然の前提となっている。ただし,ここでの「利用させる義務」は,賃貸借における「ある物の使用及び収益を相手方にさせる」義務(現民法 601 条),「ある物の使用及び収益を相手方にさせる義務」(【Ⅳ-1-1】)とは異なり,積極的な提供者の作為を求めるものではなく,むしろ,利用者の使用収益を認容するという形で具体化されることになる。
この点は,本提案の文言だけでは,賃貸借の場合との区別は当然に明らかなわけではないが,以下の具体的な規定を通じて,そのことが示されるものである。
3.ファイナンス・リース契約の成立-諾成契約の採用
ファイナンス・リース契約においては,「借受証」(「物件借受証」)の交付の前後で,その法律関係の性質が変わるか,少なくとも,当事者間における法律関係の中心的な効力が変わることが指摘されてきている。また,現在の実務においては,目的物が引き渡され,受領されたところからxxxxxx・xxxの契約関係が実質的に「始まる」という認識もあるとされる。
もし,このように引渡しの時点からリースが始まるということを強調するのであれば,それをふまえて,立法的な可能性としては,ファイナンス・リース契約を要物契約として規定することも考えられないわけではない。この場合には,提案の条文の文言に続けて,「利用者が,目的物の引渡しを受け,確認のうえ,それを受領することによって,その効力を生ずる。」といった文言を追加することになる。
第1に,引渡し前の法律関係としては,リース提供者の調達義務や利用者への引渡義務や,利用者の受領に関する義務や受領に際しての義務が考えられるが,xxxxxx・xxx契
14 なお,リース契約の成立については,前掲最判平成 5 年 11 月 25 日のほか,最判平成 7 年 4 月 14日民集 49 巻 4 号 1063 頁参照。平成 7 年判決は,フルペイアウト方式によるファイナンス・リースについて,「ファイナンス・リース契約は,リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて,リース提供者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定されているものであって,その実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであるから,右リース契約においては,リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し,リース料の支払が毎月一定額によることと約定されていても,それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず,各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない」と判示し,未払のリース料債権は,期限未到来のものも含めてその全額が会社更生法 102条にいう会社更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権に当たるとした。
約を要物契約として規定した場合については,これらについて適切に規定することや,適切に問題を解決することが困難となる。
第2に,契約の成立をめぐる問題(錯誤等の法律行為に関する問題)も,要物契約とすることによって,その解決が特に容易になるわけではない。
第3に,要物契約が,現在の契約法理の中で例外的な性格のものであると理解されることに照らせば,このように要物契約とする立場を積極的に採用する必要性は乏しい。消費貸借においても,すでに消費貸借の予約が民法上予定されており,また,諾成的消費貸借についてもそれを認める見解が一般的であることから,厳格な要物契約性を維持しない方向で検討を進めており,信用供与契約としての性格を有するファイナンス・リース契約についても,諾成的合意のみによって,契約の拘束力を認めることが整合的であると考えられる。
4.リース契約の当事者と用語
(1)自らが所有する物をリースの目的とする場合
ここで提案する冒頭規定においては,供給者,リース提供者,利用者という 3 当事者が存在する最も典型的な形態としてのファイナンス・リースを前提としている。
ただし,実際のリースの形態においては,これ以外に,自らが所有する物をファイナンス・リースの目的物とする場合として,メーカー・リースやxxx・xxxなどが挙げられる。
【Ⅳ-4-1】の規定だと,これらについては,当然にはカバーされないことになる。
これについては,準用規定を置く必要があるのか,準用される場合を限定する必要はないのか等を含めて,なお検討をする余地は残されている。
しかし,この点については,以下の2つの点を指摘しておく必要があるだろう。
まず,現在のファイナンス・リースが,きわめて多様な形態のものを含んでいるという点である15。これらのさまざまなバリエーションを含む形で,ファイナンス・リースについての冒頭規定を用意することは事実上きわめて困難であるというだけではなく,場合によっては,
15 ファイナンス・リースは,非常にさまざまな形態を含んでおり,その分類もさまざまな視点からなされている。ごく基本的な分類だけを取り上げても,①見積残存額を控除するかについて,フルペイアウト・リース(ペイアウト・リース)とノン・フルペイアウト・リースが区別され(前者は,リース期間中に,投下資本全額の回収を予定する),また,②当事者の観点からは,三者型と二者型(メーカー・リースや変形リースのひとつとされるリース・バックも二者型に含まれ得る),さらに,変形リースとして,譲渡条件付リース,購入選択権付リース,パッケージ・リース(病院や工場など,設備全体を一括してリースの目的とする提供するもの)や,リース・バックなどがある。xxのリース・バックは,ユーザーが,その所有する資産をリース業者に売却し,同時に,買い主であるリース業者からリースを受けるものであるが,この中にも,目的物の性質(動産か不動産か,新品か中古品か)等に応じて,さまざまな形態があるとされている。
xxxxxx・xxxの基本的性格を不透明なものとしてしまう危険性を伴う16。
また,典型契約については,当該契約について考えられるさまざまなバリエーションをすべて含む形で対応することは,不可欠なわけではなく,当該契約の基本的な性格や性質を示すことによって,当事者間の特約等によって法律関係が形成される,その基礎となるものであるという側面を強調するのであれば,むしろ最も典型的なファイナンス・リースの構造をふまえて冒頭規定を用意すれば足りるというのが,本提案の基本的立場である。
(2)当事者の名称
なお,用語の点で,従来は,「リース会社」や「リース業者」,「レッサー」という表現が用いられてきた。これは,ファイナンス・リース契約の当事者となるのは,実質的に,事業者としてのリース会社に限られるということを前提としたものであるが,民法典において,ファイナンス・リースを典型契約のひとつとして,その法律関係を明らかにしていくうえで,当事者の一方が,事業者や商人であるといった特定の属性は前提としない。したがって,さしあたり,この点について中立的な表現として,「リース提供者」という用語を使うものとする。
また,従来,「ユーザー」あるいは「レッシー」と表記されてきた当事者を「利用者」と呼び,「サプライヤー」と表記されてきた者を「供給者」と呼んでいる。
ただし,「リース提供者」,「利用者」,「供給者」という用語については,本提案において,あくまで当事者の法律関係を示す用語として用いるものであり,より適切な表現が考えられる場合には,それに変更されることに問題はない。
16 xxxxxx・xxxの中には,さらにメンテナンス付きリース(メンテナンス・リース,サービス・リース)があり,これらにおいては,リース業者が物件の修繕,整備,その他の保守業務を行う。また,オペレーティング・リースは,物件の所有者が稼働率の高い汎用機種を不特定多数を対象として賃貸するものであるが,ここでは,金融的機能はほとんどなく,サービス提供機能が中心となるともされている(ただし,後述のように,オペレーティング・リースについては,ファイナンス・リース以外のものというように,その補集合として概念規定する場合もあり,この場合のオペレーティング・リースは,積極的に,その内容が規定されているわけではないことになる)。これらを,かりにxxxxxx・xxxの中に取り込むとすると,賃貸借とは別の典型契約として規定されるファイナンス・リースの法的性格は,きわめて不透明なものとなる。こうしたリースまでも冒頭規定でカバーされるようにしたうえで,当事者間の関係,特に,目的物の修繕保守などについて,一定の場合についての例外規定を用意するというのではなく,基本的なファイナンス・リースの法律関係を示したうえで,当事者間の実質的な関係に応じて(二当事者間のリースであっても,メーカー・リースとリース・バックでは,当事者間の実質的関係は大きく異なる),合意によって適切なルールを実現することが適当であると考えられる。
(3)その他
なお,すでに言及したように,従来のxxxxxx・xxxの「定義」は,税制上(法人税法施行令及び法人税基本通達における定義),会計上の視点からなされてきた17。
他方で,すでに言及した通り,本提案で取り上げている典型契約としてのファイナンス・
リースは,上記のような視点とは異なった観点から規律されるものであり,そのために,ファイナンス・リースと呼ばれる対象自体が,税制上等の定義とはずれる可能性がある。
その点では,xxxxxx・xxxという用語自体についても,なお検討の余地が残されていることは否定できない。その際には,以下の点を考慮すべきであろう。
第 1 に,現在まで,わが国において利用されてきた用語法を十分に尊重する必要がある。
第 2 に,他方で,xxxxxx・xxxという言葉は,わが国に固有の概念ではなく,また,税制上,会計上の視点からのみ用いられてきたわけではない(これらの視点が,ファイナンス・リースという取引形態の成立において重要な役割を果たしたことも確かである)。その点では,グローバル・スタンダードにしたがった用語法とするというニーズも存在するだろう。
上記の第 1 の視点からは,税制上のファイナンス・リースの概念規定と異なる用語を民法の中で用いることは適切ではなく,概念がずれる以上,別の言葉を使うべきだということになる。
他方,第 2 の視点で,かつ,ここで提案されているファイナンス・リースの概念が一定の普遍性を有するものであるとすれば,むしろ,税制上の扱いにおいて示されてきたところを,民法におけるファイナンス・リースについての所与の前提とするのではなく,ファイナンス・リースにおいて,フルペイアウト方式でのものについての取扱い18として示すことによって対応することになるだろう。
この点については,制度全体を視野に入れた検討が必要なので,最終的な判断については留保して,さしあたり,xxxxxx・xxxという用語を使って,提案の説明を行うことにする。
17 xxxxxx・xxxとは,中途解約禁止とフルペイアウト方式(利用者が,リース提供者がその取引に投資した資金のほぼ全額をリース期間中に支払う方式)の2つの要件を含むものとされ,それ以外のリースを,オペレーティング・リースと呼ぶ。もっとも,この説明では,オペレーティング・リースは単にファイナンス・リースの補集合として定義されるにすぎず,これを厳密に定義するためには,リースの概念規定が必要となる。この場合のリースが,賃貸借を意味するものではないことは明らかであるが,その外延は,必ずしも,明確なわけではない。
18 本提案では,厳密な意味でのフルペイアウト方式がとられることは,ファイナンス・リースの要件としていないので,フルペイアウト方式のみの税制上の取扱いとする場合,本文に示したような限定が必要となる。他方,中途解約の禁止は,ファイナンス・リースの一般的効果として規定しているので,特段の限定は必要ではないということになる。
Ⅳ-4-1-1 利息制限法の適用
利息制限法との関係については規定を置かない。
【提案要旨】
ファイナンス・リースが,信用供与としての性格を有することから,利息制限法の適用がないかが問題となる。しかしながら,このような問題は,ファイナンス・リースに限らない,消費貸借という法形式以外による信用供与一般について問題となるものであり,また,具体的な規定を置くこと自体についても困難であるために,利息制限法との関係ないし利息の規制については特にxxの規定を置かないことを提案するものである。
【解 説】
1.問題の所在
ファイナンス・リースが,信用供与としての性格を有することから,利息制限法の適用がないかが問題となる。利用者が,供給者から直接,物品を購入し,その代金に用いるため金銭消費貸借を利用した場合であれば,当然に,その金銭消費貸借については,利息制限法の規制がかかる。それに対して,ファイナンス・リースという形式を採用すれば,実質的には経済的に同じことが実現されているにも関わらず,利息制限法の規制を免れるということは不当ではないかというのは,十分に考えられるところである。
適用事例1 AとBがファイナンス・リース契約を締結し,Aは,Cから目的物甲の所有権を取得し,甲をBに利用させるとともに,Bは目的物の調達費用等を元に計算されたリース料を支払う債務をAに対して負担する。
適用事例2 Bは,Cから甲を購入し,その代金に相当する金員について,Aとの間で消費貸借契約を締結した。Xは,Aに対して,元本とともに,その利息を支払う債務を負担する。この利息債務については,利息制限法によって規制される。
2.問題の性質
しかしながら,最終的に,利息制限法との関係についてxxの規定を置かないものとしたのは,以下のような理由による。
第 1 に,ここで扱われている問題は,ファイナンス・リースを典型契約として規定することによって生ずる問題ではなく,消費貸借という形式を用いずに信用供与がなされる場合には,一般的に生ずる問題であるという点である。このことは,さらに,二つの意味に分けて
説明される。
まず,ここで論じられている問題は,ファイナンス・リースを典型契約と規定するか否かにかかわらず,ファイナンス・リースという取引形態が存在してきた以上,そこですでに存在していた問題であるといえる。しかしながら,そこでは,リース料の決定に際して利息制限法を適用するということは,一般的には考えられていなかった。その意味では,ファイナンス・リースにおけるリース料についても,利息の規制と同様の問題が考えられるとしても,そこで利息制限法の適用があるということまでが自明のものと考えられてきたわけではないということである。
また,この種の問題は,ファイナンス・リースだから生ずるわけではなく,消費貸借という形式をとらない信用供与一般について考えられ得る問題なのである。利息制限法 1 条は,
「金銭を目的とする消費貸借」を対象としており,それ以外の形式による信用供与は直接の対象としていない。その結果,売買代金に利息を付する場合19,金銭消費貸借上の債務の不履行において担保物を貸主に帰属させる特約がある場合20について適用がないとされてきたほか,手形の割引についても利息制限法の適用がないと考えられている。さらには,割賦販売法においても同様の状況が考えられるだろう。このように見てくると,ここで扱われているのは,「ファイナンス・リースに利息制限法の適用があるのか」という問題ではなく,「消費貸借の形式をとらない信用供与に利息制限法の適用があるのか」という問題であると思われる。その点で,xxxxxx・xxxの規定として,この点に言及をすることは,必ずしも適切でないと考えたものである。
第 2 に,同じように信用供与である以上,その形式はともかく(ファイナンス・リースの特則として規定するのか,利息制限法の適用範囲を拡張するのか)利息制限法のような規律を妥当することが適切であるという立場をかりに前提とするとしても,それを具体的に示すことはきわめて困難だということも考慮すべきであろう。
ここで典型契約として示されたファイナンス・リースにおけるリース料は,「調達費用等を元に計算された特定の金額」である。このリース料については,そこに利息に相当するものが含まれるとしても,それを個別に切り出すことは必ずしも前提とされているわけではないし,実質的にも,それが可能であるという前提は確保されていない。
適用事例3 AとBがファイナンス・リース契約を締結し,Aは,Cから目的物甲の所有権を,代金 100 万円で取得し,5 年間をリース期間として,甲をBに利用させた。その間にBが支払ったリース料の総額は,140 万円であった。この場合,リース料が,調達費用(元本)と利息のみによって構成されるとすれば,40 万円が利息だということになる。他方,リース料の決定に,他の要素もあるとすれば,当然に,40 万円が利息になるわけではない。
19 大判大正 10 年 11 月 28 日民録 27 巻 2051 頁。
20 大判大正 10 年 11 月 24 日民録 27 巻 2164 頁。
適用事例4 メーカー・リースの場合には,特に,元本の想定が困難だということがより明確になる。メーカーAが,自社の製品甲を,5 年間の期間で,Bにリースした。5 年間のリース料の総額は,140 万円である。この場合,甲の通常価格が 100 万円であるとしても,それが元本として基礎とされるわけではない。ここでは,元本相当するものを示すこと自体ができないものと考えられる(Aの内部において,元本に相当するものを考えることはできるが,それは,相手方との間で開示して,契約の基礎とすべき内容ではない)。
また,xxxxxx・xxxには,さまざまな形態があるが,【Ⅳ-4-1】は,その一部のみを典型契約として取り上げているわけではない。従来の用語法にいうフルペイアウト方式のファイナンス・リースだけではなく,オペ-レーティング・リース21についても,少なくとも,その一部はカバーされ得るものとして冒頭規定が用意されている。
オペレーティング・リースにおいては,こうした元本,手数料,利息といった切り分けは,さらに困難にあると思われる。
以上のようなことを前提として,典型契約としてのファイナンス・リースの規定として,利息制限法との関係を規定することは困難であると判断したものである。
3.契約の性質決定問題と利息制限法
もっとも,以上のような観点から,典型契約としてのファイナンス・リースの中には利息に関する規定を置かないとしても,ある契約について,当事者間ではファイナンス・リースという表現が用いられているが,その契約の実質が消費貸借契約であると,当該契約の解釈を通じて性質決定する可能性までが排除されているわけではない。
このように性質決定がなされた場合には,かりに契約書にはxxxxxx・xxxという見出しがついていたとしても,消費貸借契約であることを前提として,利息制限法が適用されることは排除されない。
II ファイナンス・リース契約の効力
21 オペレーティング・リースという言葉の使い方についても,若干の変遷が認められるようであるが,現在は,注(10)に示したようなファイナンス・リースの定義を前提としたうえで,それに含まれないものがオペレーティング・リースであると説明される。しかし,注(10)で述べたように,民法の典型契約としてのファイナンス・リースの概念規定が,税制上の観点から規定されるファイナンス・リースと異なるとすれば,従来は,オペレーティング・リースとされてきたものも,その中に含まれる可能性があることになる。
1 目的物の受領とリース期間の開始
Ⅳ-4-2 目的物の受領とリース期間の開始
(1)利用者は,目的物が供給者またはリース提供者から引き渡された後,ただちに目的物の検査を行い,契約に適合したものであることを確認したときは,それをリース提供者に通知するものとする。
(2)前項の通知をなした時に,目的物の受領がなされたものとし,その時からリース期間が開始するものとする。
【提案要旨】
提案(1)は,利用者への目的物の引渡しがなされた場合の,利用者の検査確認義務を規定するとともに,それをふまえた通知義務を規定するものである。
また,提案(2)は,その通知をもって,目的物の受領として,リース期間が開始することを規定するものである。
利用者の検査確認義務を一般的に規定することは,他の典型契約との関係ではやや特殊であるが,ここでの検査確認が,利用者と(主として)供給者との目的物の引渡しをめぐる関係だけではなく,(信用供与者としての)リース提供者との関係を規律するものであり,一定の時点を以て,リース提供者と利用者との関係の基本的な性格が変わるということに対応した規定を用意するものである。
【解 説】
1.現在のxxxxxx・xxxに関する実務における借受証の交付
現在の実務において目的物の引渡しについて運用されているところを前提として,その基本的な部分を規定するものである。
なお,実務においては,この場面において借受証が重要な意味を有し,借受証の交付によってここで示した法律関係が実現されている22。このような借受証による処理を実質的に取り
22 リース事業協会によるリース契約書(参考例)(1988 年作成,1997 年改訂,2000 xx部改訂)の第 2 条(物件の引渡し)は,第 2 項において,「乙は,搬入された物件について直ちに乙の負担で検査を行い,瑕疵のないことを確認したとき,借受日を記載した物件借受証を甲に発行するものとし,この借受日をもって甲から乙に物件が引渡されたものとします。」とし,第 3 項において,「物件の規格,仕様,品質,性能その他に瑕疵があったときは,乙は,直ちにこれを甲に書面で通知し,売主との間でこれを解決した後,物件借受証を甲に発行するものとします。」と規定する。また,同第 4 条(リース期間)は,「リース期間は……,物件借受証記載の借受日より起算します。」と規定する。なお,「リース契約書(参考例)」は,「銀行取引約定書ひな形」が,2000 年 4 月に,
「銀行取引約定書(参考例)」とされたことを参考として,2005 年より,それまで,「リース標
込み得ることを前提として,本文のように規定するものである。ただし,借受証といったものを民法典の中で規定することが必ずしも適切ではないと考えられること,また,将来的にさまざまな形態での実現が考えられることなどに照らして,本文のように,より一般的案形で規定したものである。
適用事例1 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益することを目的として,目的物たる自動車を調達し,それをUに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結した。自動車は,Sから直接Uに引き渡されることになっており,その引渡しがなされた。Uは,引き渡された自動車が契約に適合したものであることを確認し,それをLに通知した。この場合,この通知の時に受領がなされたものとして,リース期間が開始し,リース料債務が生ずる。
2.受領による法律関係の変動
本提案を前提とすれば,目的物の受領の前後で,当事者間の法律関係が大きく変化することになる。
このような法律関係の変化については,以下のような点から説明される。
すなわち,ファイナンス・リースについては,信用供与としての側面と目的物の利用という側面の両方が認められることについてはすでに言及したが,これらの両側面は,ファイナンス・リース期間を通じて,継続的に同じように,併存的に認められるわけではない。
現在の実務をふまえてみるならば,目的物を利用させるという側面は,リース提供者は,すでに言及した通り,諾成契約としてのファイナンス・リース契約に基づき,目的物を調達し,利用者に引き渡す(利用者への引渡しが実現される)という義務を負担するという形で現れる(【Ⅳ-4-1】。この点では,賃貸借における法律関係と異ならない)。
しかし,目的物の利用に関する法律関係は,上記の義務の履行をふまえた一定の時点で終了し(例外的に,この側面がなお存続する場面があることは考えられる。この場合には,受領によってリースが開始し,リース料の支払債務が生ずるという法律関係と,〔受領前の〕リース提供者の義務違反についての責任追及が併存することになる),その時点以後は,融資額に対する返済としてのリース料の支払いという,融資という側面が中心になるものと考えられ,そこでは目的物の利用に関する賃貸借の規律は,積極的に排除されていると考えられる(賃貸借とは基本的な性格が異なる法律関係となる。ただし,受領後について,利用者がリース提供者に対する関係で,目的物の利用権限を有するということは,ファイナンス・リース契約によって基礎づけられる)。
このように,現在行われているファイナンス・リースにおいては,当事者間の法律関係を変化させる基準時が求められることになる。【Ⅳ-4-2】は,このような基準時として,
準契約書」とされていた呼称を改めたものである。
従来の実務が借受証の交付という形で実現してきた内容23を実質的に反映させるとともに,利用者の側の一定の関与を前提とする「受領」を基準時とすることが合理的であると考えるものである。目的物の検査確認義務を民法典の中に明示的に規定することは,やや例外的であると考えられるが24,ここでの受領が,当事者間の法律関係を変化させる基準としての意味を有するものであり,単なる物理的な意味での目的物の受領では足りないことから,この点を定めておく必要があると考えるものである。
なお,受領という行為がどのような意味を有するかについては議論の余地がある。
受領の法律効果として,一般的に,議論の中心とされるのは,受領によって債務不履行についての(一定の)法律効果が遮断されるのか等の側面が中心である。それに対して,【Ⅳ
-4-2】における受領は,リース期間が開始し,信用供与としての側面から当事者間の法律関係が規律されるのかという点から規定されるものである。したがって,リース提供者の義務違反などがあった場合に,受領によって,その救済が遮断されるのかといった問題を直接に規律するものではないという点を確認しておきたい。
3.受領前の当事者間の法律関係-補足的説明
受領前の法律関係は,【Ⅳ-4-2】ではなく,【Ⅳ-4-1】の「ある物(以下,「目的物」という。)の所有権を第三者(以下,「供給者」という。)から取得し,目的物を利用者に引き渡」す義務によって規律されることになる。
したがって,引き渡された目的物がリース提供者と利用者の契約内容に適合しないものであった場合には,利用者は,リース提供者に対して,契約に適合した目的物の引渡しを求めることができるのであり(供給者をして引渡しをさせるという義務の履行を求めることができるのであり),受領はなされておらず,リース期間も開始しないことになる。
適用事例2 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益することを目的として,目的物たる自動車を調達し,それをUに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結した。自動車は,Sから直接Uに引き渡されることになっており,その引渡しがなされたが,引き渡された自動車は合意された車種と異なっており,Uは,Lにそれを通知して,合意された自動車の引渡しがなされるように要請した。この場合,【Ⅳ-4-2】による受領がなされておらず,リース期間は開始せず,それに伴うリース料の支払債務も成立しない。
4.利用者が検査確認義務を怠った場合の法律関係
提案【Ⅳ-4-2】は,利用者の検査確認(義務)を前提として,その通知によって,リ
23 すでに言及したリース契約書(参考例)の第 3 条(物件の使用・保存)及び第 4 条(リース期間)。
24 民法以外では,商法 526 条(買主による目的物の検査及び通知)がある。
ース期間が開始することを規定するものである。
問題となるのは,利用者が十分な検査確認等を行わないまま,受領の通知を行った場合における法律関係である。この場合については,以下のように考えられる。
まず,【Ⅳ-4-2】を前提とすれば,この場合でも,リース期間が開始し,利用者にリース料債務が成立する。そのうえで,目的物の修繕や交換等については,【Ⅳ-4-7】によって,リース提供者が供給者に対して有している権利を,利用者が行使することで処理することになる。
適用事例3 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益することを目的として,目的物たる自動車を調達し,それをUに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結した。自動車は,Sから直接Uに引き渡されることになっており,その引渡しがなされたが,引き渡された自動車は合意された型と異なっていた。しかし,Uは,十分な検査を行わないまま, UはLに対する通知を行った。この場合,【Ⅳ-4-2】による受領がなされたものとして,リース期間が開始し,リース料債務が生ずることになる。そのうえで,Uは,LがSに対して有している完全履行請求権を,【Ⅳ-4-7】により,Sに対して行使する。
なお,利用者が検査確認義務を怠って受領したが,同時に,目的物の契約不適合についてリース提供者の義務違反が認められる場合には,利用者は,リース提供者の権利を行使するとともに,当該義務違反に基づくリース提供者の責任を追及するという可能性も考えられ,この点は,【Ⅳ-4-2】によって排除されてはいない。
その他,リース提供者が供給者に対して有している権利等との関係での詳細な検討は,【Ⅳ
-4-7】の解説を参照されたい。
2 目的物に関する利用者の義務等
Ⅳ-4-3 目的物の利用に関する利用者の義務
利用者は,目的物の受領の後,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い,その物の使用及び収益をしなければならない。
【提案要旨】
本提案は,目的物の受領後,利用者が,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従って,その物の使用及び収益をしなければならないという義務を規定するものである。ファイナンス・リースにおいても,他の利用型契約と同様に,他人の物(リース提供者が 所有権を有する物)を利用するという性格は共通であること,また,リース提供者の有する権利が実質的には担保権にほかならないとしても,その担保的価値を保存するための義務と
して,このような用法遵守義務を規定することが適切であると判断したものである。
【解 説】
使用貸借に関する現民法 594 条 1 項,賃貸借に関する現民法 616 条の規定に対応するものである。
ファイナンス・リース契約を賃貸借と切り離したことによって,現民法 616 条による同 594
なお,xxxxxx・xxxの中でも,フルペイアウト方式の場合には,リース期間満了時にリース物件に残存価値はないことを前提にリース料を算定しており,その意味では,契約終了時の目的物の返還がリース提供者にとって有する意味は大きくはない。
しかしながら,【Ⅳ-4-1】の概念規定を前提とすれば,フルペイアウト方式以外のファイナンス・リースもあり得ること,また,フルペイアウト方式の場合であっても,各期リース料の不払い等による目的物の回収(引き揚げ)といった場面が考えられることに照らして,こうした問題についての例外は,特に規定しなかった。
また,用語の点では,リース提供者が利用者に対する関係を記述する場合には,「利用」させる等の言葉を用い,利用者と目的物の直接的な関係を示す場合には,「使用・収益」という言葉を用いている。
Ⅳ-4-4 目的物についての維持管理及び修繕義務
利用者は,目的物についての維持管理の義務を負担し,目的物が損傷したときは,それを修繕しなければならない。
【提案要旨】
本提案は,賃貸借の場合と異なり,目的物についての維持管理の義務を負担するのが,利用者であることを示すものである。
25 リース契約書(参考例)第 3 条(物件の使用・保存)は,第 1 項で,「乙は,前条による物件の引渡しを受けたときから別表(3)記載の場所において物件を使用できます。この場合,乙は,法令等を遵守し善良な管理者の注意をもって,業務のために通常の用法に従って使用します。」と規定する。
【解 説】
1.目的物の維持管理についての義務
提案【Ⅳ-4-4】は,賃貸借に関する現民法 606 条 1 項と異なり,維持管理に関する義務を,原則として,利用者が負担することを示すものである。リース契約書(参考例)において規定されているところを受けるものであり26,リース提供者が,目的物の利用関係における所有者としての位置づけよりも,信用供与者としての性格が強いことに適合的なものであると考えられる。
なお,賃貸借と使用貸借では,目的物の維持管理についての費用を誰が負担するのかは,賃貸借の場合には貸主(現民法 606 条),使用貸借の場合には借主(同 595)というように,目的物の利用が有償か無償かで分かれている。
それに対して,ファイナンス・リースにおいて利用者がこうした義務を負担するということは,実質的な所有者としての利用者の立場からの説明(所有者危険負担の原則)やリース提供者に対する担保保存義務として説明されるべきものであると考えられる。その点で,賃貸借や使用貸借における維持管理義務の決定において考慮されるのとは,基本的に異なる視点からのものとして位置づけられるように思われる。その点からも,このような規定を,ファイナンス・リースにおいて用意することが適切であると考えられる。
2.提案【Ⅳ-4-3】と【Ⅳ-4-4】の関係
なお,【Ⅳ-4-3】における「目的物の性質によって定まった用法にしたがい,その物の使用及び収益を」する義務では,適正な利用をすることによって,目的物に損傷を与えない等の内容を想定している。
それに対して,【Ⅳ-4-4】における「目的物についての維持管理の義務」では,目的物を適切に維持するための費用の負担や作為等を含むものである。
適用事例1 LとUとの間で,LがSから自動車を調達し,Uが受領した。Uが,当該自動車の定期点検等を行い,適切な状態に維持するということは,【Ⅳ-4-4】の「目的物についての維持管理の義務」によって基礎づけられる。それに対して,Uが,不注意な運転等によって,自動車を破損させたという場合は,【Ⅳ-4-3】の目的物の利用に関するUの義務違反となる。
26 リース契約書(参考例)第 3 条(物件の使用・保存)の第 2 項は,「乙は,物件が常時正常な使用状態及び十分に機能する状態を保つように保守,点検及び整備を行うものとし,物件が損傷したときは,その原因のいかんを問わず修繕し修復を行い,その一切の費用を負担します。この場合,xは何らの責任も負いません。」と規定する。
Ⅳ-4-5 無断で第三者に使用収益させることの禁止
利用者は,リース提供者の承諾を得なければ,目的物を第三者に使用又は収益させることはできない。
【提案要旨】
本提案は,利用者が,リース提供者に無断で,目的物を第三者に使用収益させることはできないことを規定するものである。
無断で第三者に使用収益させた場合の解除等,その法律効果については,特に規定していないが,これは解除や損害賠償等,債務不履行に関する一般のルールによって処理することで足りると考えられることによる。
なお,このような観点からは,規定の積極的意義は必ずしも大きくはないことになるが,目的物に対する担保的利益を有するリース提供者は,目的物の使用収益の状況について一定の利害を有しているのであり,債務者の手元に担保目的物がないことが当然に容認されるべきものだともいえないという見地から,任意規定としてのデフォルト・ルールを置くことが適切であると判断し,提案するものである。
【解 説】
1.無断で目的物を第三者に使用収益させることの禁止
提案【Ⅳ-4-5】は,リース契約書(参考例)において,物件の所有権侵害等の禁止として規定されている内容27の中,現民法の賃貸借に関する規定(現民法 612 条 1 項)をふまえて,利用者の義務として規定するものである。
適用事例1 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収することを目的として,目的物たる自動車を調達し,それをUに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結し,自動車がUに引き渡され,受領もなされた。その後,リース期間の途中で,Xは,Lに無断で,第三者Dに,その自動車を賃貸した。この場合,Uの行為は,【Ⅳ-4-6】に規定された義務の違反となる。
適用事例2 LとUとの間で,マンション 1 棟を目的物とするファイナンス・リースがなされた。
27 リース契約書(参考例)第 8 条(物件の所有権侵害の禁止等)の第 1 項は,「乙は,物件を第三者に譲渡したり,担保に差入れるなど甲の所有権を侵害する行為をしません。」と規定する。なお,同条第 2 項は,「乙は,甲の事前の書面による承諾を得ない限り」,「物件の改造,加工,模様替えなどによりその原状を変更すること」(第 2 号),「物件を第三者に転貸すること」(第 3 号)等の行為を禁止する。
当該契約においては,Uが,賃貸目的でそのマンションを利用することが予定されていた。この場合,Uが目的物を第三者に使用収益させることについて,あらかじめLの承諾があるので,【Ⅳ
-4-5】による義務違反はない。
2.無断転貸等を理由とする解除
なお,現民法 612 条 2 項は,無断転貸の場合の解除権をあわせて規定している。
これに対して,【Ⅳ-4-5】は,現民法 612 条 2 項に相当する規定を置かず,契約違反による解除一般の原則に委ねることを提案するものである。
賃貸借の場合との対比で,ファイナンス・リースにおいては,利用者が目的物を直接利用するという側面はより希薄であると考えられ,また,収益の形態としてもさまざまなものが考えられることに照らせば,一律に,第三者に使用収益させることをもって契約を終了させるというルールを設定することは適切ではなく(なお,上記の通り,第三者に使用収益させる場合の一部は,リース提供者による承諾があるものとして,そもそも義務違反とならない),それが一般的な契約解除のルールに則して,解除を基礎づける重大な契約違反等の要件に該当する場合に限定すれば足りると考えるものである。
なお,以上の規定のしかたについては,解除に関する一般的ルールのほか,賃貸借における現行 612 条 2 項自体の扱いをふまえて,最終的に決定する必要がある。
(参考)
使用貸借 | 賃貸借 | ファイナンス・リース | |
第三者の利用 | 借主は,貸主の承諾を得なければ,第三者に借用物の使用又は収益をさせるこ とができない。 | 賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転 貸することができない。 | 利用者は,リース提供者の承諾を得なければ,目的物を第三者に使用又は収益 させることはできない。 |
義務違反の効果 | 借主が前項の規定に違反して第三者に使用又は収益をさせたときは,貸主は,契約の解除をすることができる。 | 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。ただし,その無断転貸等が,賃貸借契約の当事者間の信頼関係を破壊するに至らないものである場合には,この限り ではない。 |
3.規定の意義
なお,【Ⅳ-4-5】は,任意規定であり,当事者間の特約で排除することを妨げるものではない。また,上記の通り,法律効果についても,特別に規定を置くものではないとすれば,規定の積極的意義が必ずしも大きなものといえないことは確かである。
しかしながら,リース提供者は,目的物についての担保的利益を有する者として,その使用収益の状況について一定の利害を有しているのであり,債務者の手元に担保目的物がない
ことが当然に容認されるべきものだとはいえないと考えられる。その点で,従来の実務においても,【Ⅳ-4-5】に相当する条項が置かれてきたことは,単に,賃貸借の法形式を利用するという以上の実質的意味を有していたと考えられる。
このような観点から,任意規定であるとしても,デフォルト・ルールとして,このような規定を置くことが適切であると考えたものである。
なお,xxxxxx・xxxの対象によっては,【Ⅳ-4-5】におけるリース提供者の承諾は,定型的に認定することも十分に可能であると考えられ,この規定が著しく利用者の権利を害することにはならないものと考えられる。
適用事例3 Aは,Bとの間で,集合住宅建物を目的とするファイナンス・リース契約を締結した。リースの利用者であるBが,その建物について,複数の者と賃貸借契約と締結することについては,目的物の性質上,Aによる承認が当然に与えられているものと解される。なお,従来の実務におけるxxxxxx・xxxという概念が,不動産リースを含むかどうかという問題があるが,ここでは,【Ⅳ-4-1】の規定を前提として,このようなものについても典型契約としてのファイナンス・リースの規定が適用されることを前提として考えている。
3 目的物の損傷と滅失
Ⅳ-4-6 目的物の損傷及び滅失
(1)目的物が損傷したことにより,目的物の利用が一時的に不可能となり,又は制限された場合において,その損傷がリース提供者の義務違反によるものではないときは,利用者は,当該期間における各期リース料の債務を免れないものとする。
(2)目的物が滅失した場合において,その滅失がリース提供者の義務違反によるものではないときは,利用者は,残リース期間におけるリース料の債務を免れないものとする。目的物が利用者の義務違反によって滅失した場合は,利用者は期限の利益を失う。
【提案要旨】
提案(1)は,目的物の損傷の場合の各期リース料の支払いに関するものである。
ファイナンス・リースにおける各期のリース料は,当該期間における目的物の使用収益の対価ではなく,【Ⅳ-4-1】に示されるように,「その調達費用等を元に計算された特定の金額(以下,「リース料」という。)を,当該利用期間中に分割して支払う金銭(以下,
「各期リース料」という。)」であり,賃貸借の場合と異なり,目的物の使用収益(の可能性)の有無によって直接左右されるものではないということを示すものである。
提案 (2)は,目的物が滅失した場合のリース料について規定するものである。
xxxxxx・xxxが信用供与であるということを前提とすれば,一般的な所有者危険負担は妥当しないことを前提として,目的物の滅失のリスクを利用者が負担することを定めたものである。
なお,賃貸借契約においては,目的物の滅失によって契約関係が終了することを規定することを予定しているが,ファイナンス・リースにおいては,契約関係を終了させると,その場合に,利用者がリース料の支払いについての期限の利益を失う可能性がある。利用者の義務違反が認められない場合についてまで,目的物の滅失によって当然に期限の利益を失わせるということは適切ではないと考えられるので,契約を終了するものとはせず,単にリース料債務が存続するということを規定するものである。他方,目的物が利用者の義務違反によって滅失した場合は,実質的に,利用者による担保目的物の滅失であると評価できるので,期限の利益を失わせるとするものである。
【解 説】
1.目的物の損傷の場合
提案【Ⅳ-4-6】 (1)は,目的物の損傷の場合の各期リース料の支払いに関するものである。賃貸借においては,目的物の一部が利用できない場合,目的物が一時的に利用できない場合については,賃料の減額,その間の賃料債務の消滅を規定する方向で考えているが,これは,賃貸借における給付が目的物を使用収益させるということにあり,その給付がなされていないということを根拠とするものである。
それに対して,ファイナンス・リースにおける各期のリース料は,当該期間における目的物の使用収益の対価ではなく,【Ⅳ-4-1】に示されるように,「その調達費用等を元に計算された特定の金額(以下,「リース料」という。)を,当該利用期間中に分割して支払う金銭(以下,「各期リース料」という。)」であり,目的物の使用収益の有無によって直接左右されるものではない。
こうした点については,最高裁の平成 5 年 11 月 25 日判決28が,すでに判示しているところであり29,賃貸借との相違を明確にするためにも,これについて,特にxxの規定を置くことが適切であると考えるものである。
適用事例1 リース目的物である自動車が,第三者の不法行為によって損傷し,それについてU
28 最判平成 5 年 11 月 25 日裁判集民事 170 号 553 頁,金法 1395 号 49 頁。
29 同判決は,注(4)で触れたとおり,「リース物件の使用とリース料の支払とは対価関係に立つものではない」としたうえで,「ユーザーによるリース物件の使用が不可能になったとしても,これがリース提供者の責めに帰すべき事由によるものでないときは,ユーザーにおいて月々のリース料の支払を免れるものではないと解すべきである」と判示する。
に善管注意義務違反が認められない場合。こうした場合であっても,リース料債務の軽減等は認められない。この点で,賃貸借契約とファイナンス・リース契約は大きく異なることになる。なお,【Ⅳ-4-6】を前提とすれば,Uの善管注意義務違反による損傷の場合に,リース料の軽減が認められないことは当然である。
2.目的物の滅失の場合
提案【Ⅳ-4-6】(2)は,目的物が滅失した場合のリース料について規定するものである。xxxxxx・xxxが信用供与であるということを前提とすれば,一般的な所有者危険 負担は,ここでは妥当しないものと考えられる。現在のxxxxxx・xxxの実務と賃貸借との相違点のひとつが,目的物の滅失損傷における法律関係(利用者の負担)であるが,上記のような視点から,これに一定の合理性があるものと考え,それを採用したものである。なお,現行実務においては,契約書別表において,この場合の損害賠償金の規定が用意され
ている。
なお,賃貸借契約においては,目的物の滅失によって契約関係が終了することを規定することを予定しているが,ファイナンス・リースにおいては,契約関係を終了させると,その場合に,利用者がリース料の支払いについての期限の利益を失う可能性がある。利用者の義務違反が認められない場合についてまで,目的物の滅失によって当然に期限の利益を失わせるということは適切ではないと考えられるので,契約を終了するものとはせず,単にリース料債務が存続するということを規定するものである。他方,目的物が利用者の義務違反によって滅失した場合は,実質的に,利用者による担保目的物の滅失であると評価できるので,期限の利益を失わせるとするものである。
適用事例2 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益することを目的として,目的物たる自動車を調達し,それをUに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結し,自動車がUに引き渡され,受領もなされた。その後,リース期間の途中で,当該自動車は,第三者の加害行為によって滅失した。この場合においても,Uの残存リース料債務は消滅せず,残存リース期間にわたって,リース料の支払債務が存続する。
適用事例3 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益することを目的として,目的物たる自動車を調達し,それをUに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結し,自動車がUに引き渡され,受領もなされた。その後,リース期間の途中で,当該自動車が,利用者の不注意な運転によって全損した。この場合,Uは期限の利益を失い,残存リース料の全額を支払うことが求められる。
なお,現在のファイナンス・リースの実務においては,目的物が修復不可能となった場合には,利用者が規定損失(損害)金を支払い,ファイナンス・リース契約が終了するという
ことを原則としており30,目的物の滅失の場合でも,ファイナンス・リース契約は存続するという構成を採用する【Ⅳ-4-6】 (2)は,これとは異なる立場をとることになる。
このような方法を採用しなかったのは,リース契約書(参考例)のような立場を採用するためには,規定損失金についての規定が不可欠であり,こうした規定損失金の計算についてもさまざまな考え方があり,適正な規定損失金をxx的に決定することは困難であることから,それを民法典の中に規定することは難しいと考えたためである31。したがって,こうした点については,【Ⅳ-4-6】をふまえたうえで,当事者間の規律として合意によって処理されていくことになるものと考えられる。
4 目的物の契約不適合
Ⅳ-4-7 目的物の契約不適合についての責任
(1)利用者による受領がなされた目的物が契約に適合しないものであった場合において,リース提供者は,利用者に対して,これについての責任を負わないものとする。
(2)リース提供者が,(1)に規定した目的物の契約不適合に関して供給者に対して有する権利(解除権を除く)は,利用者の請求によって,利用者に移転する。利用者が消費者である場合には,これに反する特約は無効とする。
30 リース契約書(参考例)第 17 条(物件の滅失・毀損)は,第 1 項において,「物件の引渡しからその返還までに,盗難,火災,風水害,地震その他甲乙いずれの責任にもよらない事由により生じた物件の滅失,毀損その他一切の危険はすべて乙の負担とし,物件が修復不能となったときは,乙は直ちに別表(8)記載の損害賠償金を甲に支払います。」とし,第 2 項は,「前項の支払いがなされたとき,この契約は終了します。」と規定する。
31 なお,規定損失金の法的性格をどのように理解するのか自体についても議論があり,賠償額の予定,危険負担額の予定,利用者の信用悪化による解除の場合の損害金などと理解する可能性が指摘されている。具体的な相違点としては,たとえば,裁判所による調整の可能性の有無が挙げられる。利用者の債務不履行の際に,リース提供者が解除とともに請求しうる損害賠償に関する賠償額の予定であると理解する場合には,これについて裁判所は増減できないということが原則だということになる(最判昭和 57 年 10 月 19 日民集 36 巻 10 号 2130 頁↑)。他方,危険負担に関する特約(危険負担額)であると解する場合には,裁判所による増減の可能性は排除されないことになる。規定損失金の法的性質の法的性格をどのように理解するのかについては,リース料残額との関係で考えるべきであることが指摘されている。xxxxxx・xxxに関する早い時期の論文のひとつであるが,xxxx「リース取引をめぐる実務上の問題(下)」NBL 191 号 14 頁,19 頁以下(1979 年)が,この点を指摘する。
(3)利用者が消費者であるときに,リース提供者が,事業者たる供給者との間で,供給者の責任を減免する特約を結んだ場合には,リース提供者が消費者であったとすれば,消費者契約法 8 条及び 10 条の規定によって,当該免責特約が無効とされる範囲で,リース提供者は,利用者に対して,その責任を負担する。
【提案要旨】
提案(1)は,まず,ファイナンス・リースにおける出発点として,賃貸借と異なり,目的物の契約不適合は,リース提供者の利用者に対する責任をもたらすものではないということを原則として示すものである。
次に,提案(2)において,(1)に規定した目的物の契約不適合に関してリース提供者が供給者に対して有する権利(解除権を除く)が,利用者からの請求によって,利用者に移転することを定めるものである。
これによって,利用者の利益の確保が,実質的に図られることになる。なお,提案(2)がこのような利用者保護のための性格を有するものであり,(1)の失権のいわばカウンターバランスをとるものであることから,利用者が消費者である場合には,これを特約によっても排除することができないものとしている。
提案(3)は,提案(2)のしくみが,リース提供者が供給者に対して有する権利が,利用者の利益を実現するうえで前提となるということをふまえて,その実質を確保するための手当てを提供するものである。すなわち,リース提供者と供給者との間の契約で,供給者の責任を減免する特約を結んだとしても,かりに,その契約が消費者契約であったとすれば,消費者契約法 8 条及び 10 条によって,その特約が無効とされる範囲内で,リース提供者の利用者に対する責任を認めることで,消費者契約法によって認められた範囲での,消費者たる利用者の利益を実質的に確保するということを目的とするものである。
【解 説】
1.目的物の契約不適合についてのリース提供者の責任の排除
提案【Ⅳ-4-7】(1)は,リース提供者が供給者から目的物を調達して,利用者に引渡しがなされるという最も典型的なファイナンス・リースの形態において,目的物の受領後は,リース提供者は,目的物の契約不適合について責任を負わないことを規定するものである。なお,目的物の受領前に契約不適合が明らかになった場合は,【Ⅳ-4-1】において規定された目的物を利用させる義務が履行されていないものとして,利用者は,リース提供者に対して,契約に適合した物の引渡しを実現することを求めることができるということについては,すでに言及したとおりである。
供給者とリース提供者が分離する最も一般的なファイナンス・リースの形態においては,リース提供者は,もっぱら信用供与という観点から,利用者との契約関係を形成するもので
あり,売買契約における売主や,賃貸借契約における貸主のように,目的物の隠れた瑕疵等についてのリスクを負担すべき実質的根拠を欠いていると考えられる。
現在のxxxxxx・xxxの実務においても,担保責任の排除が定められているが32,このような観点から,担保責任の排除が基礎づけられるものと考えられる。
なお,このようにリース提供者の瑕疵担保責任等を排除した場合,利用者の保護が問題となるが,これは,以下で示すように,供給者との間での問題として解決することが可能であると考えられるので,リース提供者の責任を免除することは,実質的な問題をもたらさないものと考えられる(リース提供者と供給者間の法律関係によって,救済が一部制限される可能性が考えられるが,この点については後述する)。
また,リース提供者の担保責任の排除については,現在のファイナンス・リースでは,通常は,利用者が供給者との間で物件を選択するのであり,消費者の場合であろうと,それを最初に選択している以上,リース会社が責任を負わないのは当然であるという説明も考えられる。しかし,このように,目的物の決定が利用者と供給者との間でなされるということを
【Ⅳ-4-1】の定義にも反映させるとすれば,典型契約としてのファイナンス・リースを狭めることになり,必ずしも適切ではないものと思われる(このような定義は,ファイナンス・リースが担保権だという性格をより端的に示すことになるが,同時に,典型契約としてのファイナンス・リースの独自性も弱めることになるように思われる)。
2.リース提供者の権利の移転による利用者の保護
(1)リース提供者の権利の移転
32 リース契約書(参考例)第 15 条(物件の瑕疵等)の第 2 項は,「物件の規格,仕様,品質,性能その他に隠れた瑕疵があった場合並びに物件の選択または決定に際して乙に錯誤があった場合においても,甲は,一切の責任を負いません。」とする。このような瑕疵担保についての免責特約は,裁判例においても有効とされている。下級審レベルであるが,大阪地判昭和 49 年 10 月 8 日金判 451 号 17 頁,大阪高判昭和 58 年 8 月 10 日判時 1100 号 77 頁等。ただし,リース提供者が瑕疵の存在について悪意であった場合や消費者リースにおいては,リース提供者の責任を認める可能性を認めるものもある。また,福岡地判xxx年 1 月 9 日判時 1320 号 121 頁は,目的物の瑕疵をxxxとして,リース提供者に対する同時履行の抗弁が問題となった事案であるが,そこでは,瑕疵担保の免責特約の有効性を原則として承認したうえで,「瑕疵担保責任免除の特約はいかなる場合にも有効であると解することはできない」とし,供給者とリース提供者が密接な関係にあり,両者は一体的な関係にあるとの外観をユーザーが信頼することも否定できないとし,「単に販売店による簡単な手直しで済む程度の軽微な瑕疵についてはリース料の支払を拒絶することはできないが、瑕疵あるいは債務不履行の程度が重大でその修補あるいは履行がなければ契約の目的を達しえない場合には、当事者間のxx上、被告は同時履行の抗弁を原告に主張できるものと解すべきである」とされている(ただし,当該事案においては,同時履行の抗弁権を認めなかった)。
提案【Ⅳ-4-7】(2)は,この場合の解決として,リース提供者(買主)が供給者(売主)に対して,瑕疵担保に関する請求xxを有することを前提に,それを利用者に移転することによって,利用者の保護を図ろうとするものである。現在のリース契約書(参考例)においても,このような法律構成が採用されており33,これを基本的に採用するものである。
この場合,(i)リース提供者は供給者に対する権利を利用者に移転する義務を負担すると構成するのか,(iii)リース提供者の供給者に対する権利はファイナンス・リース契約によって当然に移転すると構成するのか,(iii)権利は移転するとはせずに代位行使のみできるとするのか等について,いくつかの法律構成が考えられるが,【Ⅳ-4-7】(2)は,利用者の請求によって,当然に,リース提供者の権利が移転するという構成を採用したものである。
具体的に,この法律構成を通じて,利用者に認められる権利としては,目的物の瑕疵についての損害賠償請求権,修補請求xxが考えられる。これらと同様に,【Ⅳ-4-7】(2)によって,目的物の契約不適合を理由とする代金減額請求権も利用者に移転するかについては,なお検討の余地がある(この点については,【Ⅳ-4-7】(2)の適用除外に関する後述の説明を参照)。
なお,【Ⅳ-4-7】(1)における「目的物が契約に適合しないものであった場合」と,同 (2)における「目的物の契約不適合」は,基本的に,リース提供者と利用者間の関係においては同じ意味である。ただし,そうしたリース提供者と利用者間の契約の不適合である場合に,常に,それがリース提供者と供給者間の契約不適合に該当するとは限らず,同(2)が,そうした契約不適合について,リース提供者が「供給者に対して有する権利」ことまでを当然に保証するものではない。
(2)目的物に瑕疵があった場合
目的物に瑕疵があり,それが隠れた瑕疵と評価される場合には,現行法でも,買主(リース提供者)の売主(供給者)に対する権利が認められるので,利用者からの請求によって,この権利が利用者に移転されることになる。
他方,瑕疵が隠れたものではない場合(供給者から利用者に直接目的物が引き渡される場合,隠れた瑕疵か否かの判断は,利用者の受領を基準として判断することが考えられる),現行法を前提とすると,こうしたリース提供者の権利が認められない。したがって,利用者に移転されるべきリース提供者の権利は存在しないということになる。
33 リース契約書(参考例)第 15 条(物件の瑕疵等)第 3 項は,目的物に隠れた瑕疵や錯誤があった場合について,「乙は売主に対し直接請求を行い,売主との間で解決するものとします。また,xが甲に対し書面で請求し,xが譲渡可能であると認めてこれを承諾するときは,甲の売主に対する請求権を乙に譲渡する手続をとるなどにより,xは,乙の売主への直接請求に協力するものとします。」と規定する。
ただし,上記の説明は,あくまで現行法を前提としたものであり,売買について,買主の権利がどのように規定されるのかを前提として,最終的に判断されるものであるということはいうまでもない。
適用事例 1 LとUとの間で,LがUのためにSから,Uが使用収益をすることを目的として,目的物たるパソコンを調達し,Uに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結し,パソコンがUに引き渡され,受領もなされた。その後,リース期間が開始した後,当該パソコンに不具合があることが明らかになった。この場合,Xは,Xに対して当該欠陥について責任を追及することはできないが,UがLに対して請求することにより,LがSに対して有している瑕疵担保に関する権利がUに移転され,Uは,この権利をSに対して行使することができる。
適用事例 2 LとUとの間で,LがUのためにSから,Uが使用収益することを目的として,目的物たるパソコンを調達し,Uに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結し,パソコンがUに引き渡され,受領もなされた。当該パソコンは,ディスプレイ上に大きな傷があったが,Uは,パソコンの引渡後,何ら確認を行わなかったために,その点に気づかないまま,受領の通知がなされたものである。この場合,Xは,Xに対して当該欠陥について責任を追及することはできない。また,このケースにおいては,LとSとの売買契約上の瑕疵担保責任等が認められないとされる場合,Uは,LのSに対する権利の移転による救済も受けられないことになる。
なお,リース提供者が供給者に対して有する権利(リース提供者と供給者との間の売買契約に基づく権利)を通じて,利用者の救済を図るという場合,リース提供者と供給者がいずれも商人であることが通常であることから,それを理由する制約がかかってくることが考えられる。
これによって,商人ではない利用者と供給者との間での売買契約であれば生じない救済の制限が生ずる可能性があり,この点について,一定の手当てが必要ではないかという問題がある。
実際のファイナンス・リースの事例では,供給者と利用者との間で直接に目的物が引き渡されることが通常であり,実質的な観点から,その関係を前提として,利用者が行使できる権利の内容を規定するという方向も考えられるが34,その場合,リース提供者と供給者間の契
34 なお,このような供給者と利用者との関係について,xxx=xxx=xxxx=xxxx=xxxx「リース取引のすべて(13)」(xxxx)NBL 311 号 24 頁以下,30 頁(1984 年)は,リース契約書申込書に,「万一機械の故障,事故発生の場合は,右売主または取扱店までご連絡下さい」と記載され,売主(供給者)及び取扱店の記名捺印がなされており,これは単に,売主がクレーム
約に基づく権利を利用者に移転させるという構成を,そのままでは維持できないことになる。また,【Ⅳ-4-2】は,形式的には,利用者と供給者間の直接の関係を前提としていないことからも,これについて具体的にどのような対応が考えられるかという問題があるが,この点については,以下の(4)及び(6)で説明する。
(3)その他の契約不適合-異種物の給付
供給者から引き渡された目的物が,契約に適合しない異種物であったという場合についても,それが,リース提供者と供給者間の契約(売買契約)についても契約不適合であると評価される場合,リース提供者の供給者に対する履行請求権を前提として,問題を解決することになる。
適用事例 3 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益をすることを目的として,目的物たるパソコンPC-2008を調達し,Uに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結し,目的物がUに引き渡され,受領もなされた。しかし,その後,引渡しを受けたのは,パソコンPX-2008であったことが明らかになった。この場合,異種物であり,LとSとの売買契約は,なお履行されていないと考えられる。したがって,Uは,Lに対して引き渡されたのが異種物であったということについて責任を追及することはできないが,UがLに対して請求することにより,LがSに対して有している履行請求権がUに移転され,Uは,この権利をSに対して行使することができる。ただし,当該受領によって,LS間の売買契約に関する履行請求権が遮断されると評価される場合には,この限りではない。LとSは,双方が商人であることが一般的であり,この点は,実質的な問題となる可能性が考えられる。
なお,異種物に関して,どこまでが【Ⅳ-4-7】によってカバーされる範囲であるのかについては,なお議論があり得るところである。
すなわち,適用事例 3 や,適用事例 4 において,違う種類のパソコンではなく,テレビが給付されたというような場合に,それが【Ⅳ-4-7】によって,カバーされるのかという問題である。完全な異種物についても,本提案を前提として,リース期間が開始し,リース提供者の責任の免除を原則とすることが実質的に妥当なのかという点を含め,議論があり,むしろ別のルールで処理する可能性を検討すべきであるとの見解もあった。ただし,完全な異種物であっても,【Ⅳ-4-2】を前提とする以上,【Ⅳ-4-7】を適用することで処理するほかはないとの見解もあり,この点について,完全な意見の一致はみていない。
提案【Ⅳ-4-7】は,上記の議論をふまえつつも,適用範囲の限定がきわめて困難であ
の窓口になるという意味だけではなく,利用者に対して物件の瑕疵等について責任を負うという保証文言だと理解すべきであるとし,この「保証書」が,供給者と利用者との間を法律的に結びつけ,供給者の利用者に対する直接的な完全給付義務を導き出す重要な材料になるとする。
ることから,この点を限定せず,契約不適合という基準のみを示すものである。
(4)目的物の契約不適合がリース提供者の供給者の権利を基礎づけない場合
なお,目的物に瑕疵があった場合や異種物が給付された場合などにおいても,それがリース提供者と利用者間の契約(狭義のファイナンス・リース契約)について契約不適合とされるとしても,リース提供者と供給者間の契約不適合には,必ずしも該当しないという可能性も,まったく考えられないわけではない。
その具体例としては,利用者からの依頼を受けて,リース提供者が供給者に対して発注した際に,誤発注がなされたというような場合である。この場合,供給者は,リース提供者との関係では債務不履行等はないので,リース提供者の供給者に対する権利を利用者に対して移転するということによっては問題を解決することはできない(リース提供者が,供給者に対して,錯誤無効を主張するという可能性は残されているが,【Ⅳ-4-7】(2)において,解除権を移転の対象から除外していることとの関係で,このようなリース提供者と供給者の契約関係を全面的に否定するような権利の行使を,利用者に移転させるということは整合的ではないものと考えられる)。
このような場面では,リース提供者の利用者に対する義務違反として問題を解決することが考えることになる。
適用事例 4 LとUとの間で,LがSから,Uが使用収益をすることを目的として,目的物たるパソコンPC-2008を調達し,Uに引き渡し,それに対して,UはLにリース料を支払うという契約を締結した。Lは,Sに発注する祭に,誤って,PX-2008としたために,PX-
2008がUに引き渡され,受領もなされた。しかし,その後,引渡しを受けたのは,違う種類のパソコンであったということが明らかになった。この場合,LとSとの売買契約においては,契約不適合は存在しないので,LのSに対する権利を前提として,Uの救済を図ることはできない。この場合,受領はなされているので(検査確認義務の懈怠による受領),リース期間が開始しており,Uは,リース料債務を免れることはできないが,Uは,Lのファイナンス・リース契約上の義務違反(目的物の調達義務の違反)を理由として,損害賠償を請求することができる。なお,この損害賠償請求においては,Uの検査確認義務の懈怠は,債権者の過失として過失相殺の対象となることが考えられる。
(5)消費者契約法 8 条 2 項 2 号との関係
なお,【Ⅳ-4-7】と消費者契約法 8 条 2 項 2 号との関係について補足しておく。
xxxxxx・xxxが賃貸借であるとすれば,現行法上,賃貸人は,目的物の隠れた瑕疵について担保責任を負う。したがって,賃貸人が事業者である場合に,そのような担保責任を全部免除する特約を結ぶことは,消費者契約法 8 条 1 項 5 号に該当し,無効とされる。しかし,その場合でも,他の事業者がそうした責任を負担する場合には,賃貸人の担保責任
の全部免責特約も例外的に有効とされるというのが,同法 8 条 2 項 2 号の規律である。
したがって,ファイナンス・リースにおける当事者関係を,賃貸借によって,基礎づける場合には,まさしく上記のような消費者契約法 8 条を通じて,その関係が説明されることになる(賃貸人であるリース提供者の責任いついての免責特約,供給者の利用者に対する責任負担)。もっとも,この場合,(利用者にとって行使可能となる)供給者のリース提供者に対する責任が,消費者契約法 8 条 2 項 2 号が規定する「当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合」という要件を完全に満たしているのかについては,若干の疑義を残している(リース提供者と供給者との間でどのような責任特約が合意されているかにも左右される)。
他方,xxxxxx・xxxについての,【Ⅳ-4-7】は,必ずしも,上記のように消費者契約法 8 条を直接に適用することによるものではない。むしろ,リース提供者は,【Ⅳ
-4-7】を通じて,そもそも瑕疵についての担保責任を負わないとされているのであるから,消費者契約法 8 条 1 項の適用の前提を欠き,同条 2 項 2 号を通じて,例外的に,リース提供者の責任が免除されるということが正当化されるというわけではない。
その点では,【Ⅳ-4-7】は,消費者契約法 8 条とは,形式的には,直接の関係を有さないものであるといえる。
ただ,上記の通り,最終的な法律状態を導く論理構成は異なっても,そこで最終的に企図されている状況は,実質的には共通するものであるといえよう。すなわち,リース提供者の責任を免除するということについて,利用者が供給者に対して権利を有するということを通じて,その実質的保護を図るという構造は,基本的に共通しているからである。
その点では,【Ⅳ-4-7】に,消費者契約法 8 条 2 項と共通する考え方を見出すことが可能であり,そのことは,同時に,【Ⅳ-4-7】の提案の実質的妥当性を担保するものともいえよう。
なお,このような消費者契約法 8 条における実質的な消費者保護の観点からは,利用者が消費者である場合に,【Ⅳ-4-7】(2)を特約に排除することは,許されるべきではないということになる。そのような観点から,そこでは,「利用者が消費者である場合には,これに反する特約は無効とする」として,それが消費者契約である場合には,強行規定としての性格を有することを示している。
(6)リース提供者と供給者との間での責任に関する特約がある場合の特則
上記の通り,賃貸借の場合であれば,賃借人が賃貸人に対して有する権利を通じて実現される救済を,ファイナンス・リースにおいては,買主たるリース提供者の供給者に対して有する権利を,利用者に移転させることで,実質的に実現するというしくみが採用されている。こうした問題の一部(リース提供者の誤発注等による場合)については,すでに前述した ところであるが(上記の(4)),さらに,リース提供者と供給者との間の契約において,供給
者の責任を減免する特約が付されていた場合の扱いが問題となる。
上記のしくみよれば,利用者に移転されるのは,本来,リース提供者が有する権利であり,それが制限されているという場合,それが利用者の救済に直接影響を与えることになるからである。
その点についての手当てをなすのが,【Ⅳ-4-7】(3)である。
この提案は,利用者が消費者である場合については,事業者たるリース提供者と同じく供給者との間で,供給者の責任を減免する特約を結んだとしても,その特約によって減免される責任の範囲について,かりにリース提供者と供給者との間の契約が,リース提供者を消費者とする消費者契約であったとすれば,消費者契約法 8 条及び 10 条の規定によって無効となる範囲で,それに対応する利用者に対する責任を,リース提供者に課することによって,利用者の保護を図ろうとするものである。これによって,利用者は,少なくとも,消費者契約法が認める範囲内での消費者としての利益を確保されることになる。
なお,この点は,供給者と利用者との関係としてみれば,供給者と消費者たる利用者との間の売買契約であれば,消費者契約法によって規律される問題が,ファイナンス・リースという形式をとることによって,迂回されてしまうという事態に対するものとして位置づけることもできるだろう。【Ⅳ-4-7】(3)における責任の主体は,供給者ではなく,リース提供者であるから,その点では異なるが,①消費者契約法が目的とする消費者の利益の保護は図られること,②このような規律が明示されることによって,それを前提として,リース提供者が行動することが可能であるということによって,その正当化がなされるものと考えられる。
3.リース提供者の権利の移転の例外-【Ⅳ-4-7】(2)の適用除外
なお,信用供与を受けている当事者としての性格を有している利用者は,契約全体を終了させる決定権を有するものではないので,リース提供者が供給者に対して有する権利の中,解除権については,それを移転させること,または,その代位行使を認めることは適切ではないと考えられるので,これを排除している。
この点については,特に,受領後間もない時期(リース期間が長期間にわたって残っている時期)に,目的物の重大な瑕疵があり,契約目的を達成できないという場合に,リース利用者による解除権行使の可能性を認めるべきではないかという問題がある。
特に,現在のリースの実務においては,全リース料等を支払った場合について,解除権を含む権利の移転を認めているので35,そのような形で対応することができないかが問題となっ
35 リース契約書(参考例)第 15 条(物件の瑕疵等)の第 4 項は,「第 2 項の隠れた瑕疵並びに錯誤があった場合において,乙が,甲に対してリース料の全部*その他この契約に基づく一切の債務を履行したときは,xは売主に対する買主の地位を譲渡する手続をとるものとします。ただし,前項及び本項の場合,甲は,売主の履行能力並びに請求権の譲渡に係る諸権利の存否を担保しません。」
た。
第1に,契約目的を達成できないような瑕疵の場合に,それを理由として,かりにリース提供者と供給者との間の売買契約を解除することができるとしても,それによって解除されるのは,あくまで売買契約であり,それによって所有権が供給者に復帰するとしても,それによってファイナンス・リース契約自体が解消されることを意味するものではない。
第3に,このような場合においても,リース提供者の損害賠償請求権を,利用者に移転す
ることで,ほぼ同様の保護が図られるのではないかということが挙げられる。
ただし,この点については,かなり活発な議論があったところであり,なお,検討を続けたい。
なお,代金減額請求権についても,【Ⅳ-4-7】(2)の適用除外の対象となるのではないかという点について,なお検討の余地が残されている。
一方で,代金減額請求権というのは一部解除にほかならないとすれば,解除と同様に扱う
と規定する。ただし,上記の「リース料の全部」の部分は,A方式とされるものであり,これ以外に,リース契約書(参考例)の中でも,「規定損害金」(B方式),「損害賠償として残存リース料相当額」(C方式)という選択肢が用意されている。
36 なお,利用者の供給者に対する責任追及の延長としての解除については,xxx=xxx=xxxx=xxxx=xxxx「リース取引のすべて(12)」(xxx)NBL 308 号 44 頁以下(1984 年)も参照。
37 この点は,リース契約書(参考例)においても,「リース料の全部」(A方式)以外に,「規定損害金」(B方式)といったものが用意されていることにも関連する。フルペイアウト方式以外のファイナンス・リースも対象としている本提案においては,ノン・フルペイアウト方式の場合に対応する必要があり,その際,規定損害金を民法典の中に取り込むことが困難であるという状況が存在する。
べきだということが考えられる。また,売買代金をめぐる債務は,あくまでリース提供者と供給者を当事者とする売買契約について存在するものであり,そうした代金債務についての代金減額請求権が利用者に移転するということの意味は,必ずしも明確ではない。この場合,利用者の具体的な救済は,代金減額による既払い代金の一部返還請求権を行使によって実現されると考えられるが,こうした代金の返還請求権を利用者に行使させるということは,代金減額請求権を利用者に移転させるということから直接的に示されるわけではないという点も指摘できるだろう。このような視点からは,代金減額請求権についても,【Ⅳ-4-7】 (2)は適用されないという方向が考えられる。
ただ他方で,代金減額請求では,目的物の所有権が復帰的に移転するなどの効果はともなわず,売買契約自体は維持されており,その点では,解除とは大きな違いも残っている。また,代金減額請求権(代金減額請求権の行使による既払い代金返還請求権)が実質的に損害賠償請求権と同じ機能を有していることに照らすのであれば,代金減額請求権について,明示的に,【Ⅳ-4-7】(2)の適用を排除するということまでを規定する必要はないとも考えられる(ただし,リース期間のいずれの時点であるかを問わず,代金減額請求権〔既払い代金返還請求権〕が利用者に全面的に移転するのかといった点に関連して,代金減額請求権と損害賠償請求権を全面的に同視できるかについて,なお明確ではない状況にある)。
以上の点をふまえて,これについてはさらに検討する必要があるだろう。
4.リース提供者と供給者が一致する場合-本提案の射程
ファイナンス・リースであっても,自らが所有権を有している目的物をファイナンス・リースの目的とする場合には,【Ⅳ-4-7】(2)のような形での利用者の保護を図ることができず,また,リース提供者がリスクを負担しないという実質的根拠(当該ファイナンス・リースのための調達を通じてはじめて所有者となるのであり,実際には,目的物の占有は一時的にもなされず,所有者や貸主としての責任を負担する実質的な基礎を欠く)も妥当しないと考えられるので(リース・バックの場合については,この点を問題とする余地があるが,第1段階の売買契約等における責任の問題として適切に解消することが考えられる),【Ⅳ
-4-7】(1)において,対象となる場合を,リース提供者≠供給者であり,供給者から目的物が調達される場合に限定した。
リース提供者と供給者が一致する場合については,特に規定を置くことは予定しておらず,この場合に,目的物に瑕疵があった場合には,有償契約の一般規定としての売買の担保責任の規定の準用等によって処理することが考えられる。なお,このような場合については,目的物調達のための資金の融資という目的がリース提供者(=供給者)と利用者との間で実現していないので,解除権を含めて行使することが可能であると考えられる。
5.権利の瑕疵
権利については,民法典の中で明示的に,その免責を規定することまでの必要性は認めら
れないものと考えられる。したがって,権利の瑕疵については,ファイナンス・リース契約が有償契約であるということを前提に,売買の規定が原則として準用されることになる。
6.利用者が消費者である場合の特則
なお,本提案(1)は,利用者にとっては一定の失権を規定するものであり,これだけを単独で切り出してみると,売買等における瑕疵担保についての規律とバランスを欠くようにもみえる。
しかしながら,すでに言及した通り,提案(2)を通じて,目的物の瑕疵等についてリース提供者が有する権利(この権利の内容は,売買の規定によって定まるものである)を,利用者の請求に応じて,利用者に移転させることで,実質的に,売買における買主と同様の権利が実現されるというしくみを採用している。
この結果,利用者の法的地位を保護するのに決定的な規定は,提案(2)の部分だということになる。この点に照らして,(2)の規定は,利用者が消費者である場合には,特約によっても排除できないということを規定するものである。
5 目的物についての第三者の権利
Ⅳ-4-8 利用者の通知義務
目的物について権利を主張する者があるときは,利用者は,遅滞なくその旨をリース提供者に通知しなければならない。ただし,リース提供者がすでにこれを知っているときは,この限りでない。
【提案要旨】
現民法 615 条の規定が存続することを前提に,それに対応する内容をファイナンス・リースにおいて規定するものである。ただし,同条の修繕に関する部分はファイナンス・リースにおいては対応しないので,その部分を除外している。
Ⅳ-4-9 リース利用権の対抗力
(A案)何も規定しない。
(B案)リース利用権の対抗力について,以下の趣旨の規定を置く。
リース利用者が,目的物の引渡し(占有改定を除く)を受けたときは(土地においては,登記その他の対抗要件を備えたときは),目的物についての物権を取得した者に対抗することができる。
【提案要旨】
リース提供者が,目的物の所有権を第三者に移転した場合の法律関係について,規定を用意することが必要ではないかを検討課題とするものである。
まず,A案は,これについて何も規定しないということを提案するものである。
これは,他との整合性やバランスを考えたうえで,適切な規定を置くことが困難だという判断に立つものである。すなわち,動産が中心となるファイナンス・リースにおいては,引渡しを対抗要件とする規律を用意するということが考えられるが,かりにそのように動産についてのみの規定を用意すると,①不動産のリース利用権については対抗問題に関する規定が用意されないまま,動産についてのみ規定を置くということは,動産の利用権の方を強く保護するかの逆転現象をもたらす,②賃貸借においては,目的物の物権取得者との関係でxxの規定を用意したのは不動産賃借権についてだけであり,動産については規定を置くことを見送ったにもかかわらず,ファイナンス・リースについてのみ規定を用意することはバランスを欠くことになる,といった問題があることを前提とするものである。
他方,B案は,目的物の引渡しを受けた場合(土地については,登記その他の対抗要件を備えた場合)に,リース利用権を,目的物の物権を取得した者に対しても対抗できるということを規定するものである。
これは,①動産及び不動産の中,建物については,引渡しが対抗要件となることを規定するとともに,土地についてはリース利用権の登記が対抗要件となることを規定するということを前提として,②賃借権との関係では,ファイナンス・リースにおける利用者の権利は,実質的にもより所有権に近いものであると考えられ,そうした理解を前提とすれば,リース利用権が賃借権より厚く保護されるということの説明が可能であると考えるものである。
【解 説】
1.前提-目的物の所有権が移転される場合の法律関係
目的物の所有権が移転するという場合,契約上の地位の移転を伴う場合と,契約上の地位の移転を伴わず,所有権のみが移転するという場合が考えられる。
(1)所有権とともにリース提供者の地位が移転する場合
目的物の所有権の移転が,ファイナンス・リース契約の当事者たる地位(リース提供者たる地位)の移転を伴う場合については,従前の所有者に対する利用者の関係が,新所有者に引き継がれるだけであり,特に複雑な法律関係は生じない。
この場合,リース提供者たる地位を構成する信用供与者としての側面は,債権譲渡と同様のレベルで考えることができるし,他方,目的物の利用に関する側面は,単に利用者の目的物の利用者による利用を認容するということだけであるから,通常の賃貸借における貸主たる地位よりも,さらにその属人的性格は希薄である。
したがって,目的物の所有権とともに,リース提供者としての地位が移転することを特に制限する必要もなく,また,特段の規定を置く必要もないものと考えられる。すなわち,賃貸借では,目的物の所有権が移転がする場合の法理関係について規定を置くことが予定されているが,ファイナンス・リースでは,賃貸借と異なり,契約期間中の物の利用を前提とする法律関係である「使用または収益させる義務」や「使用収益の対価としての賃料の支払う義務」が問題となるわけでもないことに照らせば,この場合について,積極的な規定を置く必要はないものと考えられる。
(2)所有権のみが移転する場合
他方,リース提供者の地位の移転を伴わないまま,目的物の所有権のみが移転されるという場合については,より実質的な問題が検討されなくてはならない。
① リース提供者としての地位と切り離された所有権の移転の可能性
まず,そもそもこのような所有権移転が,何らの制約なくできるのかという問題である。この点は,ファイナンス・リースにおけるリース提供者の有している「所有権」が,制約のない所有権なのか,所有権という形式を用いた担保権にすぎないのではないかという問題にかかわる。この点は,逆に言えば,利用者が有する権利とはいったい何なのかという問題でもある。
リース提供者が有している権利が,あくまで所有権であるとすれば,そこでは,リース提供者は,自らの信用供与者としての地位(債権に相当する部分)のみを残したうえで,担保としての「機能」を果たしている目的物の所有権を移転することができるのかという問題として立てられる。これについては,その意味を問題とする余地があるとしても,法的に許されない法律関係というわけではないように思われる(貸主が,借主に使用収益をさせる義務を負担しており,こうした貸主としての地位と所有権を切り離すことが,実質的に,賃借人の法的立場に影響を与えるという賃貸借とは,その利益状況において異なる)。
他方,xxxxxx・xxxの融資契約としての側面とリース目的物の実質的な担保的性格という観点からは,所有権はむしろ利用者にこそ存在し,リース提供者の有するのは,担保権にすぎないという見方もあるだろう。このような理解からは,担保権のみを信用供与者としての地位(債権)から切り離して切断することは不合理であり,このような法律関係自体が許容されるべきではないということになるだろう。
この点については,リース提供者の有する目的物についての権利については,なお議論が残されているところであり,利用権を担保とする担保権として構成する理解が次第に有力になってきていると考えられるが,なお完全に見解の一致を見ていない以上,いずれかの立場で,提案を書き切るということは,必ずしも適切ではないと思われる。
② 所有権のみが移転された場合の新所有者と利用者との関係
次に,上記①の問題を留保したうえで,リース提供者としての地位を伴わずに,目的物の所有権が移転される場合があり得るということを前提とした場合,そのような新所有者と利用者との関係が問題となる。
これについては,以下に述べるように,提案では,ふたつの方向を示している。
2.利用権の対抗をめぐる規定
(1)A案の基本的な考え方
まず,A案は,最終的に,これについては何も規定を置かないことを提案するものである。ここでは,積極的に規定を置くことを排除するというより,他との整合性やバランスを考
えたうえで,適切な規定を置くことが困難だということがある。
ファイナンス・リースにおいては,動産が中心となるために,動産について,引渡しを対抗要件とする規律を用意するということが考えられるが,かりにそのように動産についてのみの規定を用意すると,ふたつの点でアンバランスをもたらすことになる。
第 1 に,不動産のリース利用権については対抗問題に関する規定が用意されないまま,動産についてのみ規定を置くということは,動産の利用権の方を強く保護するかの逆転現象をもたらす。
第 2 に,賃貸借においては,目的物の物権取得者との関係でxxの規定を用意したのは不動産賃借権についてだけであり,動産については規定を置くことを見送った。それにもかかわらず,ファイナンス・リースについてのみ規定を用意することはバランスを欠くことになる。
(2)B案の基本的な考え方
他方,上記のような問題を認めつつも,規定を置くことを提案するのがB案である。
上記の問題点との関係では,まず第 1 の点については,不動産リース38についても,一定の規定を置くことが考えられる。
38 不動産リースについては,それが,そもそも,ファイナンス・リースとして観念されるのか,さらに,観念されるとしても,それが土地を含むものであるのかという問題である。これについては,従来の実務において前提とされてきたのは,かりに不動産を含むものであるとしても建物に限定されてきたものと考えられる。特に,土地については,フルペイアウトということが考えられないとして,フルペイアウト方式であることをファイナンス・リースを定義するうえでの要件とする場合には,自動的に外れるとする可能性もある。しかしながら,【Ⅳ-4-1】は,フルペイアウト方式をとるということを当然の前提としているわけではなく,土地についても,「その調達費用等を元に計算された特定の金額」がリース料として支払われるものについては,対象となることが考えられる。
具体的には,B案は,動産及び不動産の中,建物については39,引渡しが対抗要件となることを規定するとともに,土地についてはリース利用権の登記が対抗要件となることを規定するものである(なお,このようなリース利用権の登記については,登記法上の手当てが必要となる)。
さらに,上記の第 2 の点については,単なる賃借権と異なり,ファイナンス・リースにおける利用者の権利は,実質的にもより所有権に近いものであると考えられ,そうした理解を前提とすれば,リース利用権が賃借権より厚く保護されるということは,一応の説明が可能であろう。
3.利用者による目的物の処分
また,ファイナンス・リースにおいては,利用者が,第三者に目的物を譲渡した場合に,第三者の即時取得をめぐる問題も考えられるが,これについては,賃貸借以上に,特に,貸主の権利を保護するということは考えにくいように思われる(真正の所有権を有している賃貸人以上に,担保権者としての性格が濃厚なリース提供者の保護を図ることはバランスを欠くものと考えられる)。
したがって,この点については特に規定を置く必要はないものと考えられる。
4.賃貸借との構造の違い
なお,賃貸借では,同種の問題について,以下の 3 つの構造に分けて規定している。
① 目的物についてあらたに物権を取得した者や賃貸借契約を締結した者に対する賃借人の関係(利用権原としての賃借権の対抗問題)
② 目的物の所有権が移転した場合の新所有者と賃借人の関係(賃貸人たる地位の承継をめぐる問題)
③ 不法占拠者等に対する賃借人の関係(妨害排除請求権)
しかしながら,ここでは,以下の理由によって,このような構造を採用しなかった。
39 不動産リースがファイナンス・リースとして観念される場合に,そこでの目的物利用について,借地借家法の適用があるのかという問題がある。借地借家法の適用がある建物については,引渡しが対抗要件となるということは,借地借家法の規定によって導かれる。従来と同様に,賃貸借という法形式を利用する場合,この点の疑義は生じないが,ファイナンス・リースを賃貸借とは独立の典型契約とした場合には,当然には借地借家法によってはカバーされないことになる。リース利用権が,実質的には,単なる賃借権よりもより強い所有権に近いものであるとすれば,少なくとも,借地借家法による保護は,賃借権の場合と同様に与えられるべきであるものとも思われるが,この点については,リース利用権をどのように考えるのかという検討をふまえたうえで,必要があれば,借地借家法で対応すべきことになる。
第 1 に,②の問題では,所有権の移転に伴って賃貸人たる地位が移転するということに対応する関係をデフォルトのものとして観念することが困難だからである。リース提供者の経済的地位は,信用供与者としての性格を有しており,目的物の所有権は担保権だと理解する場合,そうした担保権を移転したということによって,当然に,信用供与者としての立場(融資債権者としての法的地位)までが移転するということにはならないものと考えられる。その点では,賃貸人たる地位と目的物の所有権との結びつきにくらべて,リース提供者の法的地位と目的物の所有権(担保目的物についての権利)は,より間接的な関係のものだと考えられる。
第 2 に,不法占拠者との関係についても,動産が中心であるファイナンス・リースにおいては,占有訴権で対応することで十分であり,また,債権者代位権の転用型についても,リース提供者に対する使用収益させることについての積極的な権利を観念できない以上,考えることはできないものと思われる。
このように見てくると,結局,ファイナンス・リースにおいて残されるのは,上記の①と,リース提供者の法的地位を伴わない目的物の所有権移転の場合の問題に限定されることになる。
賃貸借との対比で,上記の点を確認しておく。
III xxxxxx・xxxの終了
1 中途解約の禁止
Ⅳ-4-10 中途解約の禁止
ファイナンス・リースにおいては,特段の合意がある場合を除いて,リース期間中の解約はできないものとする。
【提案要旨】
本提案は,ファイナンス・リースにおいて,中途解約ができないということを規定するものである。
ファイナンス・リース契約が,信用供与としての側面を有しており,リース料は,その融資額の返済としての性格を有しており,契約期間の途中での解約と,将来的な契約関係の解消(残契約期間についての各期リース料債務の消滅)という関係があてはまらないことを示すものであり,ファイナンス・リースの最も基本的な効果のひとつである。
【解 説】
1.中途解約の禁止
提案【Ⅳ-4-10】は,ファイナンス・リース契約に関する中途解約を原則として禁止することを規定するものである。ファイナンス・リース契約が,信用供与としての側面を有しており,リース料は,その融資額の返済としての性格を有していることに照らして,目的物の利用契約と異なり,契約期間の途中での解約と,将来的な契約関係の解消(残契約期間についての各期リース料債務の消滅)という関係があてはまらないことを示すものである。中途解約の禁止については,期間の定まった契約である以上,中途解約はできないことは 当然であり,規定を置く必要がないとも考えられる。しかし,従来から,中途解約ができないということがファイナンス・リースを特徴づける重要な要素であるとして示されてきたこと,また,後述のように,消費貸借のように期限の利益を放棄することで契約関係を終了させるという可能性がないということを示すという意味で,xxの規定を置くことが適切であ
ると考えるものである。
2.利用者による期限の利益の放棄
なお,消費貸借と同様に,利用者が期限の利益を放棄することで,ファイナンス・リースを終了させるという可能性についても検討を行ったが,以下の理由によって,それを採用しなかった。
まず,ファイナンス・リースの信用供与という側面に照らすのであれば,消費貸借と同様に,期限の利益を放棄することで,ファイナンス・リースを終了させるという可能性も考えられる。
しかしながら,この場合,xxxxxx・xxxの終了によって,目的物が,本来予定される期限より前に,リース提供者に返還されることになる(【Ⅳ-4-12】)。この場合,リース提供者は,目的物の早期返還によって得た利益を清算するという義務が考えられることになる(かりに,こうした清算義務をxxで規定しないとしても,解釈論上,そうした清算義務が承認されることになることが予想される)。xxxxxx・xxxの場合,リース提供者は,目的物について,もともとの所有者としての地位を有しているわけではなく,目的物の早期返還について,積極的な利益を有しているわけではない。このようなリース提供者の実質的立場を考慮すると,リース提供者に受領義務を認め,さらに清算義務を認めるのは適切ではないと考えるものである。
なお,現在までのファイナンス・リース実務において認められているのは,利用者の側のリース料不払いという債務不履行に対する担保権の実行としてのリース提供者側からの解約であり,【Ⅳ-4-11】も,こうした解除権と,その場合の清算義務を認めているが,このことから,いわば債務者からの担保権実行を認めることにはならないというのが,本提案の立場である。
2 債務不履行による解除
Ⅳ-4-11 利用者の債務不履行による解除
(1)利用者が各期リース料の支払いを怠ったことにより,リース提供者がxxxxxx・xxxを解除したときは,利用者は,残リース期間におけるリース料の債務を免れないものとする。この場合に,利用者は,各期リース料についての期限の利益を失う。
(2)リース提供者は,目的物の返還によって得た利益を清算しなければならない。
【提案要旨】
本提案は,利用者の債務不履行による解除と,その場合の残リース料をめぐる関係を規定するものである。
提案 (1)は,こうしたリース提供者からの解除については,解除に関する一般規定によって規律することができるということを前提に,このような利用者の債務不履行を理由とする解除の場合において,リース料が,信用供与としての融資額としての性格を有することに照らして,その債務が存続することを規定するものである。
提案(2)は,残存リース料債務はそのまま存続する一方で,リース提供者が,予定されるより早い時期に目的物を回収することによって得られる利益の清算義務を定めるものである。
【解 説】
1.利用者の債務不履行による解除と残リース料に関する債務
ファイナンス・リースに関するリース契約書(参考例)の中では,無催告解除について詳細な規定が置かれている40。
提案【Ⅳ-4-11】(1)は,こうしたリース提供者からの解除については,解除に関する
一般規定によって規律することができるということを前提に,このような利用者の債務不履行を理由とする解除の場合において,リース料が,信用供与としての融資額としての性格を有することに照らして,その債務が存続することを規定するものである。すなわち,契約期間の変更に関わらず,残リース料債務は,基本的にその影響を受けず,そのまま存続するという方式をとるものであり,これは,目的物の損傷の場合の規定(【Ⅳ-4-6】(1))や目
40 リース契約書(参考例)第 19 条(契約違反・期限の失効)は,第 1 項で,「乙が,次の各号の一つにでも該当したときは,甲は,催告を要しないで通知のみで,(A)リース料及びその他費用の全部または一部の即時弁済の請求,(B)物件の引揚げまたは返還の請求,(C)リース契約の解除と損害賠償の請求,の行為の全部または一部を行うことができます。」と規定し,具体的に,「リース料の支払いを1回でも怠ったとき」(第 1 号),「この契約の条項の一つにでも違反したとき」(第 2 号)等を規定している。
的物の滅失の場合の規定(同(2))とも,整合的なものである。なお,この場合には,利用者が期限の利益を失うことについても,あわせてxxで規定している。
ただし,この点については,利用者の債務不履行による目的物の引き上げは,担保権の実行としての側面を有するものであり,現在のファイナンス・リースに関する実務で行われている無催告解除についても,それを積極的に説明することが可能であり41,解除の一般ルールを前提として,催告を求める必要はないとの考え方もあり得る。
2.リース提供者の清算義務
残存リース料債務はそのまま存続するという一方で,リース提供者が,予定されるより早い時期に目的物を回収することによって得られる利益の清算を定めたのが,【Ⅳ-4-11】 (2)である。提案は,これを清算義務として規定する。
利用者の債務不履行を理由として,リース提供者が目的物を引き揚げた事案については,すでに,最判昭和 57 年 10 月 19 日民集 36 巻 10 号 2130 頁が,リース提供者の清算義務を認めているところであり42,こうした清算についての義務を認めること自体については,特段の争いはないものと考えられる。
41 リース契約書(参考例)第 19 条第 1 項は,上記に続けて,「小切手若しくは手形の不渡りを1回でも発生させたときその他支払いを停止したとき」(第 3 号),「仮差押え,仮処分,強制執行,競売の申立て若しくは諸税の滞納処分または保全差押えを受け,または整理,再生,破産,会社更生若しくは特別清算の手続開始の申立てがあったとき」(第 4 号),「事業を廃止または解散し,若しくは官公庁からの業務停止等業務継続不能の処分を受けたとき」(第 5 号),「経営が悪化し,若しくはそのおそれがあると認められる相当の理由があるとき」(第 6 号),「連帯保証人が第 3号から第 5 号までの一つにでも該当した場合において,甲が相当と認める保証人を追加しなかったとき」(第 7 号)を規定するが,これは,担保権の実行という側面から説明することが容易である。
42 同判決は,「特段の事情のない限り,右返還によって取得した利益を利用者に返戻し又はリース料債権の支払に充当するなどしてこれを清算する必要があると解するのが相当である。けだし,右リース契約においては,リース提供者は,利用者の債務不履行を原因としてリース物件の返還を受けたときでも,リース期間全部についてのリース料債権を失うものではないから,右リース料債権の支払を受けるほかに,リース物件の途中返還による利益をも取得しうるものとすることは,リース契約が約定どおりの期間存続して満了した場合と比較して過大な利益を取得しうることになり,xxの原則に照らし妥当ではないからである。……右のような清算の必要を認めたからといつて,リース提供者に対して格別の不利益を与えるものではない」と判示する。
43 最判昭和 57 年 10 月 19 日民集 36 巻 10 号 2130 頁は,「清算の対象となるのは,リース物件が返還
ながら,この点については,民法典の中で規定することは困難であり,特に明示していない。
適用事例 1 LとUとの間の目的物を自動車とし,36ヶ月をリース期間とするするファイナンス・リースにおいて,5ヶ月目の段階で,Uがリース料の債務不履行に陥った。その場合,Lは, Uの債務不履行を理由として,ファイナンス・リース契約を解除し,目的物を回収することができる。その場合,Xは,残リース期間についてのリース料債務を免れず,かつ,期限の利益も失う。一方で,Lは,予定されるリース期間終了時よりも,早期に目的物を回収することによって得られる利益を清算する必要がある。
3.担保実行としての解除に関する規律の必要性
(1)基本的な考え方
なお,リース料の弁済が遅れた場合のリース提供者による解除と,それによる目的物の引き上げというのは,その経済的実体は,担保権の実行に外ならないといえる。また,そのような実体を前提として,一定の事情があった場合に,解除権の実行が可能となる旨の約定も用意されている。したがって,それに対応した規律を設けることが必要ではないかということが問題となる。
具体的に考えられるのは,賃貸借の場合の解除と異なり,ファイナンス・リースにおける解除が担保権実行としての性格を有するものである以上,その他の債権者等とのバランスを図り,xxな手続を実現するために,仮登記担保法における規制(同法 13 条の抵当権に準じた順位による優先弁済権,15 条の清算金の支払い前の強制競売の決定があった場合の取り扱い, 17 条の担保仮登記であること及び債権の届け出と,その届け出がなされた場合のみの配当扱い,19 条の破産手続等における抵当権に準じた扱いなど44)のようなものを用意する
時において有した価値と本来のリース期間の満了時において有すべき残存価値との差額と解するのが相当であって,返還時からリース期間の満了時までの利用価値と解すべきではなく,したがつて,清算金額を具体的に算定するにあたっては,返還時とリース期間の満了時とにおけるリース物件の交換価値を確定することが必要であり,返還時からリース期間の満了時までのリース料額又はリース物件がリース期間の途中で滅失・毀損した場合に利用者からリース提供者に支払うことが約定されているいわゆる規定損失金額を基礎にしてこれを算定することは正当でない」と判示し,一定の計算方法を提示している。しかし,この引用部分にも示されている通り,この清算額の計算方法が中途での契約解消に全面的に妥当するのか等の問題は残されており,また,本判決も,「利用者の利用目的に適合するように特別の仕様が施されることが少なくないため,リース提供者がその返還を受けても直ちにそれ自体として他に処分し又は新たにリース契約を締結することが必ずしも容易ではない場合がありうる」ことも指摘しており,計算方法を具体的に民法典の中に書き込むことは困難であると考えられる。
44 これらの規定については,『新版 注釈民法(9)』(有斐閣・1998 年)782 頁以下(xxxxx)参
べきではないかという問題である。
この問題については,このような必要性が肯定される一方で,以下の点から,民法の中に具体的な規定を用意することを見送った。
第 1 に,ファイナンス・リースで中心になるのは動産であると考えられ,登記を対抗要件とする不動産とは状況が異なるということがある。ただし,これについては,【Ⅳ-4-1】ファイナンス・リースの対象が動産に限定されていない以上,少なくとも,不動産のファイナンス・リースについては規定を用意すべきであり,そのことによって,ファイナンス・リースにおける解除が担保権実行としての意味を有することが明らかになり,動産についても一定の対応が可能となるという反論は考えられ得るところであろう。
第 2 に,すでにフルペイアウト方式のファイナンス・リースを前提として,そこでのリース提供者の権利が担保権であるということを前提とする議論が一般になされているところであるが(ただし,そこでの担保権が何を意味するのか,特に担保の対象が何であるのかについては,なお明確には一致が得られていない),【Ⅳ-4-1】で定義されるファイナンス・リースは,必ずしも,フルペイアウト方式に限定されるわけではなく,なお,さまざまなファイナンス・リースの形態が含まれ得る可能性を許容していることに照らせば,これらについて全面的に,仮登記担保法で用意されているような規律を適用することが適切であるかについては,なお問題が残されているものと考えられる。
第 3 に,ここでの規律を考える場合,そこで問題となるのは,リース提供者の権利の実体法的な性格であるとともに,そうした権利に対応した手続きのしくみがどのようなものなのであるかということでもある。このような規定を民法の中に設けるということは,規定が詳細になるというだけではなく,手続きに関する規律という意味で,性格の異なるものを規定するという側面があることも否定できない。
上記の特に第 2,第 3 として挙げて点に照らすと,一定の要件を満たすファイナンス・リースについては,その解除権の行使に特則を,手続法の中で用意するという選択肢も十分にあり得るものと考えられ,今回の提案の中で,民法の中にそれらを規定するということは見送った。
(2)関連判例
なお,最判平成 20 年 12 月 16 日は,xxxxxx・xxxの解除が民事再生手続との関係でどのように扱われるのかが問題となった事案である。
原告であるリース提供者(の法的地位を承継した者)が民事再生手続開始の申立てがあったときは契約を解除できる旨を定めた特約に基づいてファイナンス・リース契約を解除したとして,利用者(の法的地位を承継した者)に対し,上記解除の日の翌日からリース物件返還の日又は返還不能となった日までのリース料相当額の損害金の支払を求めたのに対して,
照。
被告である利用者は,上記特約は民事再生手続の趣旨,目的に反するので効力を有しないと主張して,上記解除の効力を争った。
この事件において,最高裁は,「本件リース契約は,いわゆるフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約であり,本件特約に定める解除事由には民事再生手続開始の申立てがあったことも含まれるというのであるが,少なくとも,本件特約のうち,民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする部分は,民事再生手続の趣旨,目的に反するものとして無効と解するのが相当である」とした。
このような判決からは,xxxxxx・xxxについて,さまざまな期限の喪失条項が設定されている場合について,それぞれの民事執行手続との関係で,その条項の有効性を判断するというしくみで解決されていくことが考えられる。
3 目的物の返還・受領等
Ⅳ-4-12 目的物の返還等
xxxxxx・xxxが終了したときは,利用者は目的物を返還し,リース提供者は,これを引き取らなくてはならない。
【提案要旨】
ファイナンス・リース契約終了時の法律関係として,目的物の返還に関する規定を置くことを提案するものである。具体的には,①利用者が目的物を返還しなければならないということを規定するとともに,②リース提供者がこれを引き取らなければならないことを規定する。
【解 説】
ファイナンス・リース契約終了時の法律関係として,目的物の返還に関する規定を置くことを提案するものである。具体的には,以下の2つの点を規定するものである。
第 1 に,利用者が目的物を返還しなければならないということを規定する。
第 2 に,リース提供者がこれを引き取らなければならないことを規定する。
ファイナンス・リースにおいては,その基本的な法律関係においては,所有権がリース提供者から利用者に移転することはないので,賃貸借等の利用契約が終了した場合と同様,リース期間が終了した場合に目的物の返還義務が生じ,また,それを受領しなければならないということは当然だとも考えられる。
しかしながら,特に,フルペイアウト方式のxxxxxx・xxxのリース期間が満了し,その間のリース料がすべて支払われたという場合,目的物の価値について,リース提供者は,
もはや完全に回収しているといえる。その点では,賃貸借で考えられる状態とは,かなり異なる性格を有すると考えられる。そのために,xxxxxx・xxx終了時の法律関係について,明確に規定しておくことが望ましいと考えられる。
現在の状況では,償却期間を過ぎた事務機器などは,かえって廃棄物としてマイナスの価値を有するものとして,その扱いが問題となるが,その点でも,このような規定を置くことには意味があると考えられる。
なお,通常の賃貸借では,目的物の返還義務が中心的な意味を有することになるが,フルペイアウト方式のファイナンス・リースでは,上記の通り,リース提供者が積極的に返還を求めるということは経済的にはあまり合理性がなく,むしろ,利用者からの申出があった場合に,それに応じて引き取らなければならないという点に積極的な意義が認められることになるだろう。
この点を回避しようとすれば,ファイナンス・リース終了時の目的物の所有権について,あらかじめ当事者間で合意し,特約を用意しておくということになるだろう。
Ⅳ-4-13 xxxxxx・xxx終了時のその他の法律関係
(1)再リースについては,特段の規定を置かない。
(2)xxxxxx・xxxの終了時の所有権移転等については,特段の規定を置かない。
【提案要旨】
xxxxxx・xxxの終了に際しては,再リースや,目的物の所有権の移転等が問題となる。
これらについては,特にxxの規定は置かないというのが提案の趣旨である。
【解 説】
xxxxxx・xxxの終了に際しては,再リースや,目的物の所有権の移転等が問題となる。
しかしながら,これらについては,上記の各規定を前提としたうえで,当事者の合意によって定めれば足りるところであり,あらかじめ何らかの具体的なルールをデフォルトとして用意しておく必要はない。
また,xxxxxx・xxxの形態自体がさまざまであることに照らせば,何らかのデフォルト・ルールを置くこと自体も困難だと考えられる。
Ⅳ-4-14 その他
① 利用者が消費者の場合を排除しない。
② 賃貸借,使用貸借の規定の準用に関する規定は置かない。
【提案要旨】その他として,以下の 2 点を提案するものである。
第 1 に,消費者や事業者という当事者の属性に照らした,典型契約としてのファイナンス・リースの適用範囲等の一般的な規定は置かないものとする。これは,実質的にも積極的な意義はなく,かえって,問題を潜在化させたまま残すことになると考えられるからである。
第 2 に,賃貸借,使用貸借の規定は,準用等を行わないというものである。これは,xxxxxx・xxxが,物の利用を中心とする賃貸借や使用貸借とは,その基本的な性格が異なるために,準用規定を置くことは,かえって法律関係を不明瞭するものであるとの判断に立つものである。
【解 説】
1.利用者が消費者である場合
従来の実務において,xxxxxx・xxxは,利用者も事業者である場合が中心となってきた(なお,その背景には,税制上,有利であるという事情があったと考えられる。この点では,税制上の扱いが変わったことによって,将来のファイナンス・リースについては,必ずしも透明ではない部分は残されている)。その点では,新しく典型契約としてのファイナンス・リースを用意するとしても,それを事業者間取引に限定するということも考えられないわけではない。
しかしながら,以下の理由から,最終的に,そのような立場はとらなかった。
第 1 に,ここで想定されているファイナンス・リースは,従来,形式的には賃貸借という 法形式が用いられてきたのに対して,実質的に,その最も基本的な要件を欠くものであり, 従来の典型契約の中に適切に取り込むことができないという性格を有しているものであった。本提案は,そうしたファイナンス・リースの法的性質に照らして,その実態に適合した規律 を用意しようとするものであり,必ずしも,従来のファイナンス・リースの実務をそのまま 法的規範とすることを,もとより企図するものではなく,また,事業者間に限るという関係 を前提として,各規定の内容を定めているわけでもない。その点では,実質的にも,消費者 を包括的に,この規定の対象から除外する基礎が欠けているものと考えられる。
第 2 に,より重要な問題として,かりに典型契約としてのファイナンス・リースが,消費者が利用者である場合には適用されないとしても,それによって問題の実質は何も解決されないという点である。すなわち,契約自由の原則を前提して,消費者であっても,自由な契
約関係を形成することができる以上,典型契約としてのファイナンス・リースの規定が適用されないとしても,そこでは,民法の適用されないファイナンス・リースの可能性が残るだけである。その点では,むしろ,民法上のファイナンス・リースの規定が,利用者が消費者であるという場合にも適用されることを前提として,消費者契約法 10 条等の規定を通じて,それらの規定を消費者に不利に変更することを規制することが,実質的にも,むしろ消費者の保護につながるものと考えられるからである。
2.賃貸借,使用貸借の規定との関係
本提案の中でも,その一部には,賃貸借や使用貸借の場合に相当するような規定が認められる。しかしながら,無償と有償という点で違っても,有体物の利用契約という基本的性格を共通とする使用貸借と賃貸借では,相互に準用をすることで,その法律関係を単純化し,より簡明に示すということが考えられるとしても,ファイナンス・リースは,物を利用させるという側面が,これらの典型的な利用契約とは異なるものとして理解される。
その点で,賃貸借や使用貸借の規定については,それらの準用があるということを前提とすべきではなく,両者を切り離して規定することが適切であると考えられる。