Contract
ととし、選任時点については、紛争が生じた際に選任することが考えられる。
裁定手続の対象:裁定手続きになじまない紛争も考えられるため、あらかじめ裁定手続きの対象となる事項(又は対象とならない事項)を契約書で特定しておくことも考えられる。
裁定人の人数:仲裁として行う場合(すなわち裁定人の判断に拘束力を持たせる場合)については、他分野の国際的な契約では3名と規定されることが多い(また UNCITRAL国際商事仲裁モデル法では、別途当事者間で合意がない限り3名とされている)51。一方、調停の場合は、UNCITRAL国際商事調停モデル法では別途当事者間で合意がない限り1名とされているが、場合により3名とすることも考えられる。
裁定人選定方法:
1)選定時点:裁定人の選定方法については、裁定人(又は裁定人を選任するためのパネル)は、①内容に応じて、事業契約締結後に予め両当事者で合意しておき、欠員が出た場合には、速やかに共同で選任する方法52、②紛争が生じた際に両当事者間の合意により裁定人を選定する方法がある53。日本では、中立的な専門家を関与させる枠組みが定着していないこと等を考慮すると、②の方法が当面は現実的であると考えられる。これらの方法のメリット、デメリットを整理すると以下のようになる。
(ア)紛争が生じた際に裁定人を選定する方法:人選について合意できないリ スクが高まる(実際に紛争が生じている場合両当事者がより慎重になる)。人選について合意できない場合、迅速な解決は期待できない。しかし、 紛争となっている分野にあわせて専門家を選ぶことができるというメリ ットがある。
(イ)裁定人をあらかじめ決める方法:事業契約締結後の手続負担は重い。しかし、実際に裁定人による紛争解決が必要になった場合は、迅速な解決が期待できるというメリットがある。なお、この方法でも複数の分野の専門家を選任することは可能であるが、当初段階での両当事者の手続的な負担がさらに重くなる54。
51 人数の決め方は仲裁規則により異なる。国際商工会議所(ICC)の仲裁規則第 8 条では、1名か3名かを当事者の合意により定める(当事者が人数に合意できない場合には、原則1名だが、 ICC Court of Arbitration が3名が妥当だと判断した場合には3名とすることができるとさ れる)。ロンドン国際仲裁裁判所(LICA)の仲裁規則第5条も類似の内容になっている。
52 この場合は、複数の分野の専門家について合意しておき、紛争の内容に応じて適切な専門家を選任できるようにすることが望ましい。
53 3名とした場合には、各当事者が1名ずつを選任し、選任された2人の裁定人が第三の裁定人を選任するという方法が考えられる。1人とした場合は、両当事者が共同で選任する。
54 英国 SoPC4 中の条文例では、契約締結後に両当事者があらかじめ紛争が生じた場合に備えて中
2)中立的第三者の候補者:中立的第三者の候補者としては、受任することについて利益相反がないことに加えて、紛争の分野に応じて必要な専門的知識を有していること、両当事者が納得できるだけの中立性を有していること、その専門家にとって過大な負担とならないことなどが必要になる。裁定人が両当事者との間で信頼関係を築けることが重要であるため、選任に関する規定はあくまでも両当事者が平等である必要がある。したがって、一方の当事者のみが「中立的」裁定人を選ぶ権利を有するという規定は適切でない。あくまで、両当事者が了解した方法で裁定人を選定することが重要である。
3)選任について合意できない場合:選任について意見が一致しない場合の手続の規定が必要である。
※例えば英国では両者が合意できない場合には、「公認仲裁人協会長」(the President for the time being of the Chartered Institute of Arbitrators)への選任の依頼が挙げられている。今後PFIの専門家を選 任できる体制が整うことが前提であるが、例えば、日本商事仲裁協会、国 際商工会議所などに選任を依頼することが考えられる。この点については、実務的に問題になる可能性が高い部分であるので、選任候補者のリストの 作成方法・手続なども含めて、今後議論が必要である。
裁定手続の内容:両当事者の意見及び証拠の提出期限、裁定人の判断の期限等の手続を定める。
裁定人の判断の拘束力:以下の案が考えられる。
①完全に両当事者を拘束する。
②裁判所が覆さない限り両当事者を拘束する(英国 SoPC4 はこの立場に近い)。
③判断がなされた後、不服のある当事者が一定期間内に裁判を提起しなかった場合、両当事者を拘束(裁判が提起された場合は両当事者を拘束しない)。
④参考意見として取り扱う(調停:条文例はこれを前提としている)。
※我が国のPFIでは中立的第三者に関与させて紛争を解決するという慣行は存在していないため選任が困難になる可能性があり、その結果中立的第三者を関与させる手続きが実務から敬遠されてしまう可能性があることから、以下の条文例は「調停」(調停人の判断に拘束力を持たせない)としている。今後、第三者を用いる手法に対する信頼の向上、中立的な第三者機関の設立(または既存の機関の活用)、紛争解決のための基準の明確化などによって、徐々に拘束力を持たせる方法が採用されるようになることが期待される。
調停
立的な専門家のリストについて合意し(建設パネルと運営パネルからなり、それぞれたとえば 3 名の専門家から構成される)、紛争が生じた場合に当該リストから機械的に裁定人を指名し、当該裁定人に判断してもらうという仕組みが採用されている。(28 章)
・紛争解決にあたる第三者の判断に拘束力がある場合は仲裁、拘束力がない場合は調停になる。調停には、簡易裁判所等で行なわれる法定の調停と、民間機関によって行なわれる調停がある。
・民間機関によって行われる調停については、ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)による認証制度がある。この認証制度については弁護士以外の調停人の活用、時効の中断等でメリットがある。PFI事業契約に中立的な専門家による判断を盛り込む場合も、弁護士法との関係で問題が生じないようにするため、認証された調停機関・手続を利用することも考えられる。なお、仲裁には適用されない。
費用分担:紛争解決に要する費用分担は、予めxxにこれを取り決めておく必要がある。
5.留意点
(1)紛争予防のための枠組み
紛争を生じさせないためには、協議の枠組みのみ作成しておけば足りるということではないことに留意する必要がある。紛争予防のためには、例えば以下のことが大切である。
1) 事業者選定段階において、管理者等や利用者の意向に沿った提案によい点数がつくようにすること(外部審査委員会で採点がなされるため、採点基準を作成する段階から、管理者等の意向が反映されるように配慮するとともに、採点の際も重要な点が曖昧なまま採点されたりすることのないような仕組みを作る必要がある)。
2) 契約(要求水準等を含む)の作成の際には曖昧な表現を避け、解釈が分かれないようにすること。
3) 問題の先送りを避け、契約締結前に枠組みの基本を取り決めること。
4) 「信頼関係の構築」とは日常的な関係の中で創出されるべきもので、かかる会議の枠組みを形式上創るのみで満足すべきでないこと。
(2)議会との関係
議会対策、予算との関係などについても配慮が必要である。また、和解、調停、仲裁などについては、地方自治法第 96 条第1項第 12 号に定める地方公共団体の議会の議決事項に含まれている点その他地方自治法等との関係について整理する必要がある。
(3)費用
1) 裁定人の報酬水準及び負担者についても予め合意しておくことが必要である。現実的には、両当事者が共同で裁定人を探し、三者間で報酬水準について合意しておくことが考えられる。
2) 調停人や弁護士への報酬などについて必要な予算を確保できるようにすることも重要である。
(4)サービスの継続
紛争解決の手続の期間中、建設やサービスの提供が中断されることのないよう、建設及びサービスの提供を中断してはならない旨を規定する必要がある。
英国 SoPC4 では、受注者は紛争が生じたことのみを理由として「仕事を中断する」ことは認められず、紛争解決期間中、受注者は発注者の希望に従ってサービスを提供する義務を負うが、紛争が受注者に有利に決着した場合、適切な補償が支払われるべきとされている。一方、公共は、業務の一部について紛争が生じている場合に、サービスの提供がなされている部分についてまで支払をとめるようなことはすべきではなく、この旨の契約規定を取り決めておく必要がある。
(5)契約に携わった弁護士の関与の有効性
第三者が入る手続に先立ち、契約締結の際と同じ弁護士又はこの分野に知見を有する弁護士を当事者のアドバイザーとして関与させて協議を行うことも有効である。
特に契約締結に携わった弁護士の場合、契約の交渉過程、文言の変更、覚書の締結など、一貫して担当している場合が多いため、契約書の条項と当該紛争の関係が整理され、当事者が納得して紛争が解決する場合もありうる。ただし、この場合弁護士は当事者のアドバイザーとして関与するのであり、中立的な第三者とは役割が異なる点に留意する必要がある。
<参考>英国 SoPC4 に示されている紛争解決方法
英国 SoPC4 では、①まず当事者間で解決を試みる、②合意できない場合には中立的な第三者(専門家)による迅速な判断を求める、③第三者による判断に対して合意できない場合については、より時間をかけて仲裁を実施する、という流れの紛争処理規定が採用されている。具体的には以下のようになっている。
①当事者間での協議
②中立的な第三者(専門家)による判断
あらかじめ紛争がおこった場合に備えて中立的な専門家の指定方法を決定しておき、紛争が生じた場合に、当該専門家が迅速に判断できるようにしている。専門家の判断 には、拘束力がある場合(いわば仲裁型55)と、拘束力がない場合(いわば調停型)の 双方があるが、SoPC4 に付されている条項例では、仲裁などで否定されるまでは拘束力 があるとしている。
SoPC4 では、判断までの期間は 28 日と短く、不服申立てが可能だが(仲裁に移行)、仲裁などで否定されるまでは拘束力があるとすることで業務の中断を防いでいる。
③仲裁
仲裁は、当事者の合意(仲裁合意)に基づいて、仲裁人で構成される仲裁xが事案の内容を調べた上で判断(仲裁判断)を示す手続である。仲裁判断が両当事者を拘束する点で調停とは異なる(通常、裁判所への不服申立てもできない)。非公開というメリットに加え、一審制であるので時間、費用を節約できるが、中立性、専門性の高い仲裁人を選任することが重要となる。
SoPC4 では、両当事者が共同で弁護士又は仲裁人協会認定の仲裁人の中から仲裁人を選任する(合意できない場合は弁護士会会長が選任)。
55 第三者による決定に拘束力があっても「仲裁」とは呼ばれないことがあり、SoPC4 でもこの手続は「仲裁」とは位置づけられていない。
当事者間での協議
調整会議
における協議
裁定人選任請求
調停申立て
予め同意した名簿の
順番に従って裁定人を選任
○○日以内
調停人の意見
28 日以内
○○日以内
裁定人による判断
合意 or 不合意
28 日以内
仲裁開始請求
裁判
仲裁人の選任
3 ヶ月以内仲裁判断
条文例
SoPC 4
当事者間での解決
紛争解決手続の概要
中立的第三者の判断
仲裁・裁判
※紛争解決手続は、その内容によって適切な手続が異なる。したがって、紛争の性質に応じて(例えば、事実認定のみが問題なのか、契約書の解釈が争いになっているのか、金額で合意ができていないのかなど)、別の手続の流れを規定することも考えられる。
6.条文例(調停とする場合)
民事調停法など法定の調停ではなく、任意の調停を想定
第○条 調整会議
1.甲及び乙は、良好なコミュニケーションを図ることにより、本事業を円滑に遂行し、本事業に関する甲と乙との間の紛争を予防し、解決することを目的として、本契約締結後
○○日以内に[関係者協議会の一部として/関係者協議会とは別に]調整会議を設置する。
2.調整会議については、本事業に関する疑義及び異議の解決、本契約の解釈並びに本契約に定めのない事項の決定その他本事業に関する必要な一切の協議を行う。
3.調整会議は、[構成員を記載]により構成される。調整会議は、必要に応じ、構成員以外の者に対して出席及び意見を求めることができる。
4.調整会議は、[少なくとも 3 ヶ月に1回]開催することにより、紛争の予防に努めなければならない。その他必要に応じて開催することができる。
5.調整会議の構成、議事進行方法、議事録の作成等に関する事項は、第1回目の調整会議までに甲と乙との協議により別途定める。
第○条 中立的第三者による調停
1.第○条に基づく調整会議による協議を一方の当事者が他方の当事者に申し入れてから○
○日以内に解決できない紛争については、いずれの当事者も中立的な調停人による調停を申し入れることができる。
2.調停人は、[本契約締結後○○日以内に/調停の申し入れがなされてから○○日以内に]、両当事者の合意により選定する。調停人が欠けた場合には、調停人が欠けた日から○○日以内に両当事者の合意により新たな調停人を選任するものとする。[調停人は、建設、運営及び財務に関する専門家がそれぞれ1名ずつ選任され、紛争の内容に応じて単数又は複数の調停人がその任に当たるものとする]。
3.調停人の地位を受任することにより利益相反が生じるものは、調停人に選任されることはできない。
4.両当事者が選任について合意できなかった場合には、[中立的な第三者機関]に選任を依頼するものとする。
5.調停の申し立てがなされてから[ ]日以内に、両当事者は調停人に対してそれぞれの主張を書面にて提出するものとする。
6.調停人は、両当事者が合意に達した場合を除き、両当事者から書面を受け取ってから[ ]日以内に調停案を示すものとする。調停案は両当事者を拘束しない。
7.調停案が示された後[ ]日以内に合意ができなかった場合には、訴訟により解決する
ものとする。甲および乙は、本契約に関して紛争が生じた場合でも、本項に定める期間が経過した後でなければ、訴訟を提起することができない。ただし、これにより甲及び乙の権利が著しく害される場合はこの限りではない。
8.乙が金銭的賠償により回復することができない重大な損害を被る場合を除き、調停及び訴訟の期間中、乙は甲の指示に従って業務を履行しなければならない。ただし、本項は乙の甲に対する損害賠償請求を妨げない。
9.調停人は、調停案の提示前に最低2回以上、調停案提示後○○日以内に最低2回以上調停期日を開催し、両当事者の合意による解決を促すものとする。調停期日には、乙から業務の委託を受けている者その他の利害関係人も出席できるものとする。
10.調停に要する費用は各自が負担する。
【紛争解決に関する実務上のポイント】
管理者等と選定事業者間の紛争に対しては、当事者間での協議⇒中立的第三者の判断⇒仲裁・裁判、と段階的に解決のための枠組みを規定する必要がある。本規定のポイントは以下のとおり。
①紛争予防、解決にふさわしい構成員で、当事者間の紛争が生じた場合の協議の場を設定し、通常時からのコミュニケーションを蜜に行う。
②前項による協議が整わなかった場合は、紛争の内容に応じた中立的専門家を両当事者間の合意により専任し、調停する手続き(中立的専門家の判断に拘束力を持たせない手続)を規定することが考えられる。
③第三者が入る手続に先立ち、契約締結の際と同じ弁護士又はこの分野に知見を有す
る弁護士を当事者のアドバイザーとして関与させて協議を行うことも有効である。
第15章 直接協定
15-1 直接協定(契約GL:5-1の5,6)
1.融資金融機関等の介入(Step-in)
・選定事業者に無催告解除事由が生じた時点、又は、管理者等が催告したにもかかわらず不履行が是正されないまま一定の是正期間が経過した時点において、管理者等はPFI事業契約の解除権を取得する。しかしながら、管理者等が選定事業を継続させる必要があると判断した場合、管理者等が解除権の行使を留保し、管理者等と融資金融機関等の当事者双方が認める第三者に選定事業を継承させることが考えられる。このような融資金融機関等の介入については、継続的かつ安定的な公共サービスの提供という管理者等の目的の達成をも図られることになる上、融資金融機関等が選定事業の継続に利害関係を持つが故に、融資金融機関等の持つ情報等を利用して、選定事業の継承に適した第三者を見い出し、管理者等が適正な手続に従い選定することが可能となることが考えられる。この場合、融資金融機関等は、直接協定に従って選定事業に介入し、選定事業者が発行する株式等にあらかじめ設定しておいた担保権を利用して、融資金融機関等が推薦し、かつ、管理者等がその推薦を考慮した上で選定する第三者に当該株式を取得させること等で選定事業を引継がせることが想定される。(関連:17-3 選定事業者の権利義務の処分)
・基本方針においては、管理者等は「選定事業者の責任により組成される金融の仕組みによって、選定事業者の破綻に伴い、金融機関等第三者が選定事業の継承を要求し得る場合には、公共性、xx性の観点に基づき、継続的な公共サービスの提供を確保するために合理的である限りにおいて、あらかじめ、協定等において適切な取決めを行うこと。」とされている(基本方針三2(9))。 管理者等は、自らの解除権の行使の制約になるものの、融資金融機関等の介入により継続的かつ安定的な公共サービスの提供を維持する可能性が高まることから、管理者等にとって合理的な範囲内で融資金融機関等による介入を可能とする規定を設けることは意義あるものとも成り得る。なお、管理者等が解除権の行使を留保する期間については、事業を継承する第三者を探すための期間として合理的な期間を定める必要がある。
2.直接協定の意義
・直接協定は、ダイレクトアグリーメント(Direct Agreement)、又は、略して D/Aともいう。
・基本方針では、直接協定に関して、管理者等は、「当該選定事業が破綻した場合、公共施設等の管理者等と融資金融機関等との間で、事業及び資産の処理に関し直接交渉するこ
とが適切であると判断されるときは、融資金融機関等の債権保全等その権利の保護に配慮しつつ、あらかじめ、当該選定事業の態様に応じて適切な取決めを行うこと。」とされている(基本方針三2(8))。
・直接協定は、選定事業者による選定事業の実施が困難となった場合、若しくは、困難と見込まれる場合、融資金融機関等が、管理者等によるPFI事業契約の解除権の行使を一定期間留保することを求め、選定事業に関して有する担保権を利用して選定事業に対し介入(Step-in)することを可能にするための必要事項を規定する、管理者等と融資金融機関等との間で締結される契約をいう。
・PFI事業契約は、契約の一方の当事者である選定事業者に加え、融資金融機関等も事業のリスクを資金面で負担している点が、従来型の公共事業の請負契約と異なっている。 PFI事業にかかるリスクをそれぞれ分担している管理者等と融資金融機関等との間に契約関係がない場合、融資金融機関等が自らの債権の保全を図るために管理者等の承諾なくして、資金供給を停止し、担保権の実行や強制執行により事業資産等の処分を図るといった事態も生じ得る。事業の継続によって公共サービスの継続的かつ安定的な供給を図ろうとする管理者等は、こうした事態の発生は回避したい。そこで、管理者等が融資金融機関等との間で締結する直接協定は、融資金融機関等の資金供給停止や担保権実行等に際して事前調整を行えるようにするとともに、融資金融機関等による事業修復への介入(Step-in)の機会を与える観点から、管理者等にとっても意義あるものと成り得る。なお、直接協定の締結をもって、管理者等が直接に事業修復を行うことは妨げられるものではないこととし、また、融資金融機関等が事業修復のための介入を試みても、直接協定に定めた一定の期間以内に事業修復を管理者等及び融資金融機関等が見込めない場合には、管理者等はPFI事業契約を解除することができるものとする。
・現在のところ、我が国のPFI事業の直接協定において規定が置かれることが想定される主な内容は以下のとおりである。
1)PFI事業契約上の選定事業者の権利、選定事業者発行株式や事業用資産に対する融資金融機関等による担保権設定についての管理者等の承諾
2)融資契約上の期限の利益喪失事由その他融資金融機関等の有する債権の保全について選定事業者に懸念が生じている場合の融資金融機関等から管理者等に対する通知
3)PFI事業契約上、選定事業者の責に帰すべき解除事由などが生じた場合の管理者等から融資金融機関等に対する通知
4)2)又は3)の場合の協議
5)融資金融機関等が担保権を利用して介入する場合の管理者等の関与(担保権実行等の前に行われる管理者等との協議等) 等
・管理者等による解除権行使の留保を期待していた選定事業者が、融資金融機関等による介入がなされずPFI事業契約が解除となることを了知していないといった事態を避けるため、管理者等と融資金融機関等に加えて、選定事業者も直接協定の当事者とするか、
若しくは、管理者等と融資金融機関等が締結した直接協定の内容を選定事業者が確認した旨、選定事業者の記名捺印を求めることとなる。
・さらに、選定事業者に代わって事業を継承する第三者の選定手順等についての規定が直接協定に設けられることも考えられる。(関連:17-3 選定事業者の権利義務の処分)
3.条文例
(金融機関との協議)
第 118 条 甲は、本事業の継続性を確保するため、乙に対し資金提供を行う金融機関等と協議し、直接協定を締結することができる。
第16章 著作xx
16-1 著作xx(新設)
1.概要
・管理者等が、入札手続において又は事業契約に基づき、選定事業者に提供した情報、書類、図面等の著作権の帰属や、選定事業者が、事業契約及び業務要求水準書等に従い作成する設計図書、竣工図書その他の成果物等の著作権の帰属について規定されるとともに、それらの著作物に関する管理者等の利用権について規定される。また、PFI 事業に関連して問題となる著作権以外の知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標xx)の取扱いについても規定される。
2.趣旨
・選定事業者が事業契約及び業務要求水準書に基づいて作成する設計図書等の成果物については、著作xxに基づいて著作権が発生する場合があるが、従前の PFI 事業においては、それらの著作権を、選定事業者又はその他の著作権者から管理者等へ譲渡することまでは要求しない例が多い。
・著作権による保護の対象となる著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであ って、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作xx 2 条 1 項 1 号)。著作権は、著作物のさまざまな利用を他人にさせないことができる権利であり、具体的な権利内容としては、複製権、展示権、頒布権、譲渡権、翻案xxがある(同法 21 条乃至
27 条)。さらに、著作物の著作者には著作者人格権が発生する(同法 18 条乃至 20 条)。
この著作者人格権には、著作物の同一性を保持する権利(同一性保持権。同法 20 条)等 が含まれ、これが著作物の利用の障害となることがあるが、この権利は著作者の一身に専 属し、譲渡することができない(同法 59 条)。従って、設計図書等の成果物の著作者がこ の権利を行使することにより管理者等が成果物の利用を阻害されないよう、事業契約にお いては、成果物の著作者による著作者人格権の行使について一定の制約を課す必要がある。
・設計図書等の成果物の著作権を管理者等に譲渡させない場合、選定事業者又はその他の著作権者(設計企業等)が著作権を引き続き保有することになるので、著作権者により著作権を主張された場合には、管理者等が成果物を複製ないし公表等することが制約されるおそれがある。そこで、事業契約においては、管理者等が成果物を利用する権利について規定するとともに、著作権者がそれを阻害しない旨を規定することが必要となる。
・さらに、選定事業者又はその他の著作権者が管理者等に無断で著作権を譲渡した場合には、その譲受人は事業契約の条項に拘束されないため、事業契約に管理者等の権利を規定したとしても、それを著作権の譲受人には主張できなくなるおそれがある。そこで、選定
事業者又はその他の著作権者は、管理者等の承諾なくして著作権を譲渡することができない旨規定する必要がある。
3.条文例
(著作xxの帰属)
第 112 条 甲が、本事業の入札手続において又は本契約に基づき、乙又は落札者に対して提供した情報、書類、図面等(甲が著作権を有しないものを除く。)の著作xxは、甲に帰属する。
(著作権の譲渡等)
第 113 条 甲は、成果物について甲の裁量により利用する権利及び権限を有するものとし、その利用の権利及び権限は、本契約の終了後も存続するものとする。
2 成果物のうち著作xx(昭和 45 年法律第 48 号)第2条第1項第1号に定める著作物に該当するものに係る同法第2章及び第3章に規定する著作者の権利(次条において「著作者の権利」という。)の帰属は、同法の定めるところによる。
3 乙は、甲が成果物を次の各号に掲げるところにより利用することができるようにしなければならず、自ら又は著作者(甲を除く。)をして、著作xx第 19 条第1項又は第 20条第1項に定める権利を行使し、又はさせてはならない。
(1)著作者名を表示することなく成果物の全部若しくは一部又は本件施設等の内容を自ら公表し、若しくは広報に使用し、又は甲が認めた公的機関をして公表させ、若しくは広報に使用させること。
(2)成果物を他人に閲覧させ、複写させ、又は譲渡すること。
(3)本件施設等の完成、補修等のために必要な範囲で甲又は甲が委託する第三者をして成果物について複製、頒布、展示、改変、翻案その他の修正をすること。
4 乙は、自ら又は著作者若しくは著作権者をして、次の各号に掲げる行為をし、又はさせてはならない。ただし、あらかじめ甲の承諾を得た場合は、この限りではない。
(1)成果物の内容を公表すること。
(2)本件施設等に乙の実名又は変名を表示すること。
(3)成果物を他人に閲覧させ、複写させ、又は譲渡すること。
(著作xxの譲渡禁止)
第 114 x xは、自ら又は著作者をして、成果物に係る著作者の権利を第三者に譲渡し、若しくは継承し、又は譲渡させ、若しくは継承させてはならない。ただし、あらかじめ甲の承諾を得た場合は、この限りでない。
(第三者の知的財産xxの侵害)
第 115 条 乙は、本契約の履行にあたり、第三者の有する特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権及びその他の知的財産権(以下「知的財産xx」という。)を侵害しないこと並びに乙が甲に対して提供する成果物の利用が第三者の有する知的財産xxを侵害していないことを甲に対して保証する。
2 乙が本契約の履行にあたり第三者の有する知的財産xxを侵害し、又は乙が甲に対し て提供するいずれかの成果物の利用が第三者の有する知的財産xxを侵害する場合には、乙は、乙の責めに帰すべき事由の有無の如何にかかわらず、当該侵害に起因して甲に直 接又は間接に生じたすべての損失、損害及び費用につき、甲に対して補償及び賠償し、 又は甲が指示する必要な措置を行う。ただし、乙の当該侵害が、甲の指定する工事材料、 施工方法又は維持管理方法等を使用したことに起因する場合には、この限りではない。
(工業所有権)
第 116 条 乙は、特許xxの工業所有権の対象となっている技術等を使用するときは、その使用に関する一切の責任を負わねばならない。ただし、甲が当該技術等の使用を指定し、かつ乙が当該技術に係る工業所有権の存在を知らなかったときは、甲は、乙がその使用に関して要した費用(損害賠償に要するものを含む。)を負担しなければならない。
第17章 雑則
17-1 経営状況の報告(契約GL:6-2)
1.概要
・管理者等は選定事業者が継続的な公共サービスの提供が可能な財務状況であることを確認するため、公認会計士による監査済みの財務書類を提出させるなど経営状況の報告を求める旨規定される。(参照:「モニタリングに関するガイドライン」)
2.趣旨
・基本方針において、管理者等が、「選定事業者から、定期的に協定等の義務履行に係る事業の実施状況報告の提出を求めることができること。」、「選定事業者から、公認会計士等による監査を経た財務の状況についての報告書(選定事業の実施に影響する可能性のある範囲内に限る。)の提出を定期的に求めることができること。」と定められている(基本方針三2(1)(ロ)及び(ハ))。
・また、リスクガイドラインにおいて、管理者等と選定事業者が、「選定事業者に対する関与を必要最小限のものにすることに配慮しつつ、協定等であらかじめ分担を取り決めたリスクの顕在化又はそのおそれを速やかに認知できるよう、協定等で選定事業の実施状況報告等について合意しておく必要がある」と定めている(リスクガイドライン三5)。
・選定事業者の維持・管理業務及び運営業務が適正に実施されている場合においても、選定事業者の財務状況が悪化し、結果として選定事業者の債務不履行その他のPFI事業契約の解除事由が発生することも想定される。このため、選定事業者の財務状況のうち選定事業の実施に影響する可能性のある範囲について定期的に(年に1回又は2回等)把握することを目的として、公認会計士による監査済みの財務書類を提出させるなど経営状況の報告を求める規定が置かれる。例えば、各事業年度の最終日以前に翌事業年度の事業計画等の提出や、会社法に基づく一連の財務書類の開示、及び株主総会の承認・報告のスケジュールと連動して、各事業年度の最終日より一定の期間以内に、公認会計士の監査済みの財務書類の提出を、選定事業者に対し義務づける規定が置かれる。また、管理者等は、当該監査済み財務書類又はこれらの概要を公開することができる旨規定される。
3.随時の調査
・基本方針において、「選定事業の実施に重大な悪影響を与えるおそれがある事態が発生したときには、公共施設等の管理者等は選定事業者に対し報告を求めることができるとともに、第三者である専門家による調査の実施とその調査報告書の提出を求めることがで
きること。」と定められている(基本方針三2(3)(ニ))。
・したがって、選定事業者による定期的な監査済み財務書類の提出に加え、選定事業の実施に悪影響を及ぼす事態の発生を早期にかつ確実に把握することを目的として、管理者等が自己の指名する公認会計士に選定事業者の財務状況を調査させることができることなどを規定することも考えられる。
4.公認会計士の監査の趣旨
・選定事業者が公認会計士の監査済み財務書類を管理者等に提出することが規定される。これは選定事業者の資本金又は負債総額にかかわらず、適正な会計処理等を確保するため、会社法上の大会社(資本金5億円以上又は負債の合計額が200億円以上の株式会社)と同等の会計監査を受けることを規定するものである(会社法第328条)。この会計監査の目的は、基本的には財務書類が法令・定款に従い会社の財産・損益の状況を正しく示しているかどうかを監査するものである。なお、会社法上の大会社が公認会計士の監査を受けなければならないとされる財務書類は、会社法第435条第2項に掲げる貸借対照表、損益計算書及び事業報告書並びにその附属明細書、臨時計算書類(会社法第441条第1項)、連結計算書類(会社法第444条第1項)である(会社法第396条第 1 項前段)。
5.条文例
(計算書類等の提出)
第 119 x xは、本契約締結後事業期間終了まで、各事業年度の終了の日から3月以内に、当該事業年度の計算書類等(会社法第 435 条第2項にいう計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書をいう。)を作成し、会社法第4章第9節及び第5章の規定に従い会計監査人による監査を受けたうえで、甲に提出しなければならない。なお、甲は、当該計算書類等を公開することができる。
17-2 守秘義務(契約GL:6-6)
1.概要
・管理者等及び選定事業者は、互いにPFI事業契約の履行過程で知り得た相手方の秘密に属する事項を、相手方以外の第三者に漏らしてはならないことが規定される。
2.管理者等の負う守秘義務
・管理者等は、PFI事業契約の履行過程で知り得た選定事業者の秘密を漏らしてはならないことが規定される。
・しかしながら、選定事業者にかかる情報が情報公開の関連法令等の対象となる場合、その対象となる事項について、守秘義務の対象の例外となる。但し、選定事業者の企業秘密に関する情報については開示の対象とならない場合が多い。
3.情報公開法の規定
・情報公開法においては、各行政機関の長は、開示しないことに合理的な理由がある情報を不開示情報としてできる限り明確かつ合理的に定め、この不開示情報が記録されていない限り、開示請求に係る行政文書を開示しなければならないことと規定している(情報公開法第5条)。PFI事業契約書は、行政機関の職員が職務上作成した文書であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものであることから、同法上の行政文書に該当する(情報公開法第2条第2項)。したがって、 PFI事業契約書の開示請求があったときは、管理者等は、原則としてPFI事業契約書を開示請求者に対して開示しなければならない。また、情報公開法は、法人等に関する情報の不開示情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報の不開示情報の要件として、「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」と規定しており、PFI事業契約書においてこれに該当する情報は不開示情報となる(情報公開法第5条第2号イ)。但し、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、管理者等は、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならないと規定されている(ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りではない)(情報公開法第6条第1項)。なお、「害するおそれ」があるかどうかの判断にあたっては、選定事業者の性格や権利利益の内容、性質等に応じ、選定事業者と管理者等との関係等を十分考慮して適切に判断する必要があるとされている。
4.選定事業者の負う守秘義務
・選定事業者は契約の履行過程で知り得た管理者等の秘密、及び施設の利用者や入居者等
の個人情報を漏らしてはならないことが規定される。例えば、官公庁庁舎の建設工事等においては、その施設の設計・施工状況等が漏れることによって、安全上、警備上の問題が生じること等の懸念に対応する規定である。
・選定事業者の契約締結や業務履行の便宜から、①選定事業者の役員や従業員、②弁護士、会計士、税理士等の法令上守秘義務を負う専門家、③コンサルタント、及び④融資金融機関等に対しては、選定事業者が一定の情報を開示することを、管理者等が認めることが通例となっている。なお、管理者等と融資金融機関等との間で直接協定が締結される場合には、管理者等と融資金融機関等相互の守秘義務はこの直接協定に規定される。
5.コンソーシアム構成企業等第三者の負う守秘義務
・選定事業者は業務を実際に履行するコンソーシアム構成企業、受託・請負企業及び下請企業から、これら企業が、業務の実施に際して知り得た管理者等の秘密や施設の利用者又は入居者等の個人情報を漏らさない旨の確認書を提出させることも考えられる。
6.条文例
(秘密保持・個人情報保護等)
第 120 条 甲及び乙は、相手方当事者の事前の書面による承諾を得た場合を除き、互いに本事業に関して知りえたすべての情報(第2項の個人情報を除く。)の内容を自己の役員、従業員、代理人及びコンサルタント、協力企業等又は出資者(以下、本条において「役員等」という。)以外の第三者に漏らし、及び本契約の履行以外の目的以外に使用してはならず、並びに役員等に守秘義務を遵守させるものとする。ただし、本事業に関して知る前に既に自ら保有していたもの、本事業に関して知る前に公知であったもの、本事業に関して知った後自らの責めによらないで公知となったもの、及び本事業に関して知った後正当な利益を有する第三者から何らかの秘密保持義務を課せられることなしに取得したものについては、この限りではない。
2~9 (略)
10 乙は、乙の役員及び従業員並びに乙の代理人及びコンサルタントが、第1項及び第2項の秘密及び個人情報を漏洩しないよう、適切な措置を講じるものとする。
11 乙は、委託契約又は請負契約において協力企業等に前 10 項に定める乙の義務と同様の義務を課すものとし、協力企業等をして、甲に対し当該義務を負う旨の確約書を差し入れさせる。
17-3 選定事業者の権利義務の処分(契約GL:6-1)
1.概要
・選定事業者のPFI契約上の権利義務の処分に関して規定される。選定事業者は、あらかじめ管理者等の承諾を得なければ、①PFI事業契約上の権利義務を第三者に対して譲渡し、担保に供し、又はその他の処分をしてはならないこと、②株式、新株予約権及び新株予約権付社債の発行をしてはならないこと、③他の法人と合併をしてはならないこと等が規定される。
2.選定事業者の権利義務等の譲渡
・選定事業者とは、PFI法第7条第1項の規定により選定事業を実施する者として選定された者であることから(PFI法第2条第5項)、PFI事業契約上の権利義務を選定事業者から譲渡された第三者が新たな選定事業者として選定事業を実施するためには、管理者等により当該第三者が選定事業者として選定されることが不可欠となる。このため、選定事業者によるPFI事業契約上の権利義務の譲渡については、あらかじめ管理者等の承諾を得なければならない旨規定される。
・選定事業者のPFI事業契約上の権利義務の譲渡をあらかじめ管理者等が承諾する場合としては、管理者等がPFI事業契約の解除権を取得した際に、融資金融機関等の介入による選定事業の修復が合理的であると判断し、融資資金融機関等の推薦する新たな民間事業者に選定事業を実施させることが適当と判断する場合が想定される。
・なお、選定事業者の株式の譲渡をあらかじめ管理者等が承諾する場合についても、同様に、融資金融機関等による選定事業者の株式に設定した担保権の利用によって、選定事業者の株式を第三者に譲渡する方法により、譲受人の人的、物的支援を期待し、選定事業の修復を図る場合等が想定されている。この場合は、選定事業者たる株式会社の出資構成が変更するにとどまり、選定事業者の地位は同一であるため、PFI事業契約の相手方の変更はない。(関連:「Ⅱ 基本協定」)
・PFI事業契約にかかる権利義務に対する担保設定について、あらかじめ管理者等の承諾を得なければならない旨規定される。融資金融機関等がプロジェクトファイナンスにより選定事業者に対して融資を行う際には、選定事業者の返済原資の担保として、選定事業者の事業資産、並びにPFI事業契約、及び選定事業者とコンソーシアム構成企業や受託・請負企業との契約等により選定事業者が保有する債権に対して担保権を設定することを融資の条件とすることが通例である。融資金融機関等によるこれらの担保設定は、担保権対象の売却を通じた融資回収を想定しているのではなく、選定事業の継続を図ることを通じた融資回収を想定し、事業修復を行うことを企図しているものであり、担保権者として他の債権者に対する優先権を保持して、他の債権者等が選定事業にかかる資産等を差し押さえる利益を失わせることにより、第三者の介入を排除し、円滑な事
業継続により融資回収を確実にすることを目的としている。仮に事業が行き詰まったとしても、融資金融機関等がこれらの権利義務等をこれまでの選定事業者に代わる第三者に移転し、この第三者により事業を継続させる可能性を求めるものである。管理者等は、別途、融資金融機関等と直接協定を締結し、選定事業の安定的な実施と公共サービスの水準の維持が図られるなど管理者等の利益を侵害しないと認められる限りにおいて、融資金融機関等によるこれら担保設定について承諾することが規定されることが通例である。(関連:10-5 管理者等による任意解除)
・選定事業者が他の法人と合併、又は第三者に対して新株等を発行することについては、コンソーシアムの構成企業による選定事業者たる株式会社の出資比率に影響を与えるため、管理者等による承諾を必要とする旨規定される。(関連:「Ⅱ 基本協定」)
・特に選定事業者が他の法人を合併する場合は、「事業を担う企業体の法人格の独立性又は事業部門の区分、経理上の独立性の確保」(基本方針本文)の観点からも慎重な対応が必要である。
3.条文例
(契約上の地位の譲渡)
第 121 条 乙は、甲の事前の書面による承諾を得ない限り、本契約又は本事業に関して甲との間で締結したその他の契約に基づく契約上の地位又は債権を第三者に譲渡し、又は継承させ、若しくは担保の目的に供する等の一切の処分を行ってはならない。
2 乙は、事業期間中においては、甲の事前の書面による承諾を得ない限り、出資者以外の第三者に対して、株式、新株予約権及び新株予約権付社債を発行し、乙の株式を引き受ける権利を出資者以外の第三者に与え、又は他の法人との合併、事業譲渡、会社分割等、乙の会社組織上の重要な変更をしてはならないものとする。
3 甲は、前2項に定める行為が、乙の経営若しくは本事業の安定性を著しく阻害し、又 は甲の事業に関与することが適当でない者が参加することとなると認められる場合には、承諾を与えないことができる。
・BOT方式の場合の追加の条文例
第○条 乙は,あらかじめ国の承諾を受けた場合を除き,本施設及び本施設に附帯する工作物並びに民間収益施設について,抵当権その他の担保権の設定その他一切の権利の処分を行ってはならない。
Ⅱ 基本協定
1.基本協定締結の目的
・基本協定とは、コンソーシアムが落札者として決定されたことを確認し、PFI事業契約の当該コンソーシアムの設立する株式会社(PFI事業契約締結により「選定事業者」となる。)と管理者等との間でのPFI事業契約の締結に向けて、管理者等と当該コンソーシアム構成企業との間でその義務について必要な事項を定めるものである。
・基本協定においては、選定事業の落札者であるコンソーシアム構成企業による株式会社の設立及び選定事業の準備等について明記される。
(コンソーシアム構成企業による株式会社の設立)
・PFI事業の入札においては、コンソーシアムが落札者であり、実際に選定事業者としてPFI事業契約を管理者等と締結する主体は選定事業の実施を目的に設立される株式会社である。落札者決定の時点では、管理者等の相手方契約当事者が存在していないため、入札時のコンソーシアムが提案した事業スキーム(コンソーシアム構成企業による株式会社への出資や、選定事業者たる株式会社からコンソーシアム構成企業への業務委託等)が実施できる状態に至っていないことになる。従って、PFI事業契約締結時までに、コンソーシアム構成企業にPFI事業契約締結をする株式会社を設立させる必要がある。
・なお、選定事業において、落札者の入札参加者提案の内容に適合した履行を確保することをPFI事業契約書等に規定し、発注者たる管理者等は、落札者たるコンソーシアムが設立した株式会社とPFI事業契約を締結することとなる。この際、民間事業者間のxxな競争を確保する観点から、こうした措置を講じることが予想される場合、管理者等は、あらかじめ実施方針や入札説明書等において対外的にこれを明らかにしなければならない。
(コンソーシアム構成企業による選定事業の準備)
・コンソーシアムが落札者として決定された後、一定期間、管理者等と落札者たるコンソーシアムの構成企業との間で、PFI事業契約の締結に向けて、契約内容の具体化等についての協議が行われる。また、実務上は、PFI事業契約の当事者である選定事業者はPFI事業契約の締結直前に設立されることが多く、PFI事業契約締結前に、PF I事業契約の締結を前提として、コンソーシアム構成企業が設計準備作業等選定事業に関して必要な準備行為を開始することも考えられる。このため、落札者決定後、PFI事業契約締結までの間にコンソーシアム構成企業が行った行為を選定事業者に引き継ぐことが必要になる。
・なお、コンソーシアムは「設立中の会社」であり、この法的性格については、法人格を有しないため権利能力が認められないものの、「設立中の会社」と成立後の会社とは実質的に同一のものであることが認められており、コンソーシアム構成企業の名義とした権利義務を設立される株式会社に形式的に移転する手続きがとられる。
2.基本協定の概要
・基本協定においては、上述の目的達成のため、
1)コンソーシアム構成企業及び管理者等当事者のPFI事業契約締結に向けた努力義務
2)コンソーシアム構成企業が株式会社設立義務を負うこと
3)コンソーシアム構成企業が株式会社の株式の譲渡等処分の制限を受けること
4)コンソーシアム構成企業が株式会社をしてPFI事業契約の履行に必要な業務をコンソーシアム構成企業等に委託し又は請け負わせる義務を負うこと
5)コンソーシアム構成企業が新設する株式会社と管理者等との間で定める日までに、 PFI事業契約を締結させる義務を負うこと
6)コンソーシアム構成企業及び新設する株式会社が選定事業に関して必要な準備行為が実施できること、及び、その結果をPFI事業契約締結後に選定事業者に速やかに引き継ぐ義務を負うこと
7)PFI事業契約締結不調の場合、コンソーシアム構成企業及び管理者等が選定事業の準備に関して支出した費用は各自の負担とすること
等について規定される。
3.株式会社の設立
・管理者等が入札説明書等に提示した条件及び落札者の入札参加者提案を踏まえ、コンソーシアム構成企業による株式会社の設立に関し、コンソーシアム構成企業による出資比率、出資額、出資形態等についての規定が置かれる。
①コンソーシアム構成企業又は選定事業に継続して関与する者は、設立される株式会社の全議決権の2分の1を超える議決権(株主総会において出席する株主による普通決議の成立に必要な議決権)を保有するとともに、コンソーシアム構成企業のいずれかが筆頭株主であること、
又は、
②コンソーシアム構成企業又は選定事業に継続して関与する者は選定事業者たる株式会社の全議決権の3分の2を超える議決権(株主総会において出席する株主の特別決議の成立に必要な議決権)を保有することとし、
①又は②の条件をPFI事業契約終了まで維持することなどをコンソーシアム構成企業に義務付けることなどによって、コンソーシアム構成企業が選定事業者たる株式会社の
経営の支配権を維持するよう規定することが考えられる。
・なお、事業譲渡(会社法第467条第1項、同法第309条第2項第11号)、資本減少
(同法第447条第1項、同法309条第2項第9号)、解散(同法第471条第3号、同法第309条第2項第11号)、定款の変更(同法第466条、同法第309条第2項第11号)、合併(同法第783条第1項、同法第309条第2項第12号)など、いわゆる会社の基礎的変更にあたる事項には、株主総会の特別決議が必要とされている。
4.株式等の譲渡等処分の制限
・3.に記述した規定に従いコンソーシアム構成企業等の保有する議決権比率が維持されるよう、コンソーシアム構成企業は設立される株式会社の株式の譲渡、担保権の設定及びその他の処分を行う場合、管理者等に株式処分にかかる申請書を提出し、事前の承諾を得なければならないことなどが規定される。(参照:17-3 選定事業者の権利義務の処分)
・さらに、設立される株式会社の定款に、会社法第2条第17号、第107条第1項第1号、第108条第1項第4号に基づく株式の譲渡制限を規定する旨を基本協定に定めることも考えられる。これを規定することにより、定款をもって、株式の譲渡につき取締役会の承諾を要することが規定される。
5.業務の委託、請負
・管理者等が、入札説明書等において、コンソーシアム構成企業の資格要件を提示し、コンソーシアム構成企業それぞれに対し、設立する株式会社から各業務を受託し、又は請け負うことを求めた場合に、コンソーシアム構成企業それぞれが入札参加者提案において提示した各業務について委託を受け、又は請け負うことが規定される。
・コンソーシアム構成企業それぞれが、各業務の委託を受ける又は請け負う期間と株式会社に対する出資金の拠出又は劣後融資等の義務を負う期間とを一致させるという考え方もある。
6.PFI事業契約の締結
・管理者等と設立される株式会社との間のPFI事業契約の締結期限が規定される。
7.PFI事業契約の締結の不調
・事由の如何を問わずPFI事業契約の締結に至らなかった場合、既に、管理者等とコン ソーシアム構成企業が選定事業の準備に関して支出した費用は各自が負担することとし、相互に債権債務関係の生じないことを確認する旨規定される。具体的には、コンソーシ アム構成企業間の選定事業にかかる調整が整わない場合等が想定される。