静岡銀行(頭取 八木 稔)では、SDGs への取り組みの一環として、イハラニッケイ化学工業㈱(社長 山梨了志)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
2022.12.28
イハラニッケイ化学工業㈱と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(xx xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、イハラニッケイ化学工業㈱(社長 xxx志)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※企業活動が環境・社会・経済のいずれかの側面において与えるインパクトを包括的に分析し、特定されたポジティブインパクトの向上とネガティブインパクトの低減に向けた取り組みを支援する融資
1.契約日 12 月 28 日(水)
2.融資金額 1 億円
3.資金使途 運転資金
4.イハラニッケイ化学工業㈱の取り組みについて(詳細は「評価書」をご参照ください)
〇同社は、トルエンやキシレンといった有機化合物の塩素化をコア技術とし、さまざまな製品の原料となる中間体を製造する化成品製造業者です。
〇高い塩素化技術を保有する同社では、樹脂や繊維、農薬、医薬、染・顔料などの原料となる付加価値の高いファインケミカル製品を、高品質で安全かつ環境に配慮して供給しています。
〇今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境面 | ・環境負荷低減に貢献する製品の供給(再生可能エネルギーで製造された塩素を使用した中間体の供給) ・環境汚染リスクの低減(環境マネジメントシステムに基づいた管理体制等) ・廃棄物の削減および資源の有効活用(廃棄物の適切な処理および再資源化等) ・気候変動対策(塩酸熱回収設備を活用したCO2 排出量の削減計画等) |
|
社会面 | ・人材育成の充実(従業員教育体系の整備等) ・安全衛生の確保(安全衛生委員会を中心とした労働安全衛生マネジメントシステムの構築、リスクアセスメントによる労働災害リスクの低減等) ・製品の品質・安全性の確保(品質マネジメントシステムの構築、全製品に対するSDS 発行によるサプライチェーン全体の安全性の確保等) |
|
経済 面 | ・産業を支えるファインケミカル製品の効率的な生産(さまざまな産業を支えるファインケミカル製品の供給、新たな価値を生み出す研究開発、持続可能性を高めるサプライチェーンマネジメントの高度化) |
5.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】イハラニッケイ化学工業㈱の概要
所 在 地 | xxxxxxxx 0000-0 | 設 立 | 1979 年(昭和 54 年) |
資 本 金 | 780 百万円 | 売 上 高 | 7,022 百万円(2021 年 10 月期) |
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:イハラニッケイ化学工業株式会社
2022 年 12 月 28 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
3-1 UNEP FI のインパクト分析ツールを用いた分析 29
3-3 特定されたインパクト領域とサステナビリティ活動の関連性 30
静岡経済研究所は、静岡銀行が、 イハラニッケイ化学工業株式会社(以下、イハラニッケイ化学工業)に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、イハラニッケイ化学工業の企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響およびネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」および ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
<要約>
イハラニッケイ化学工業は、トルエンやキシレンといった有機化合物の塩素化をコア技術として、さまざまな製品の原料となる中間体を製造する化成品製造業者である。クミアイ化学工業株式会社
(以下、クミアイ化学工業)および日本軽金属株式会社(以下、日本軽金属)の合弁会社と して設立された当初は、農薬原料のみを取り扱っていたが、現在では高分子原料や医薬原料など、多岐にわたる原料を供給し、日本の産業を支えている。塩素化工程では、再生可能エネルギーで 製造された塩素を使用するなど、サプライチェーン全体の環境負荷低減にも貢献している。
同社の事業活動は、水質や大気、土壌などの汚染リスクを孕んでいるため、法規制に則った環境汚染対策を施すなど高い環境保全意識を維持し、廃棄物の削減や資源の有効活用、CO2 排出量の削減にも積極的に取り組んでいる。社内のポジションや従業員の能力に応じた教育体系を整 備するなど、人材育成の充実も図られており、働きやすい職場の醸成や各種労災対策といった、従業員が安心・安全に働ける職場の醸成にも配慮している。効率化された生産管理システムで製造した中間体は、厳重なチェックを受け、高い品質が担保されている。クミアイ化学グループが策定した CSR 調達に関する基本方針などに則り、サプライチェーンマネジメントの高度化も図っている。
イハラニッケイ化学工業のサステナビリティ活動等を分析した結果、ポジティブ面では「教育」、「雇用」、「気候」、「経済収束」が、ネガティブ面では、「健康・衛生」、「雇用」、「人格と人の安全保 障」、「水(質)」、「大気」、「土壌」、「資源効率・安全性」、「気候」、「廃棄物」がインパクト領域として特定され、そのうち環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、イハラニッケイ化学工業の持続可能性を高める8つの項目について KPI が設定された。
今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要
金額 | 100,000,000 円 |
資金使途 | 運転資金 |
モニタリング期間 | 5年0ヵ月 |
企業名 | イハラニッケイ化学工業株式会社 |
所在地 | xxxxxxxx 0000 xxx0 |
事業所 | 本 社 工 場:xxxxxxxx 0000 xxx0 東京事務所:xxxxxxxx0xx 00 x0x |
従業員数 | 148 名 |
出資者 | クミアイ化学工業株式会社 73.7% 日本軽金属株式会社 26.3% |
資本金 | 7 億 8,000 万円 |
業種 | 化成品製造業 |
高分子原料(樹脂原料、繊維原料)54.9% | |
取扱品目 | 農薬原料 30.7% |
(2021 年度) | 医薬原料 9.3% |
染料・顔料用原料など 5.1% | |
関連会社 | Iharanikkei Chemical(Thailand)Co.,Ltd. |
認証など | ISO9001(品質マネジメントシステム) ISO14001(環境マネジメントシステム) |
主要取引先 | <仕入先> 日本軽金属株式会社 三井物産ケミカル株式会社 三菱ガス化学トレーディング株式会社xx産業株式会社 静岡ガス株式会社 <販売先> クミアイ化学工業株式会社日本軽金属株式会社 帝人株式会社 Bayer AG |
沿革 | 1979 年 設立、工場建設開始 1980 年 第1プラント、第2プラント竣工 1981 年 第3プラント竣工 1984 年 第4プラント竣工 1985 年 第5プラント竣工 1990 年 第6プラント竣工 1996 年 ISO9002 認証取得、第7プラント竣工 2002 年 ISO14001 認証取得 2003 年 ISO9001 認証取得(移行) 2010 年 第7増設プラント竣工(第1期) 2015 年 第7増設プラント竣工(第2期) 2016 年 Iharanikkei Chemical(Thailand)Co.,Ltd.設立 2018 年 Iharanikkei Chemical(Thailand)Co.,Ltd. 第1プラント竣工 2020 年 Iharanikkei Chemical(Thailand)Co.,Ltd.第2プラント竣工 |
(2022 年 12 月 28 日現在)
1. 事業概要
1-1 事業概況
イハラニッケイ化学工業は、さまざまな製品の原料となる中間体を製造する化成品製造業者であり、トルエンやキシレンといった有機化合物の塩素化をコア技術としている。化成品は、標準的な技術で大量生産されるバルクケミカルと、固有の技術に裏付けられて生産されるファインケミカルに分けられる。高い塩素化技術を保有する同社は、樹脂や繊維、農薬、医薬、染・顔料などの原料となる付加価値の高いファインケミカル製品を供給している。
<取扱品目一覧>
取扱品目 | 売上構成比 | 主な最終製品 | |
高分子原料 | 樹脂原料 | 54.9% | 半導体封止剤、ブレーキパッド、5G 用基板 樹脂など |
繊維原料 | 消防服、光ファイバー、タイヤコードなど | ||
農薬原料 | 30.7% | 除草剤、殺菌剤、殺虫剤など | |
医薬原料 | 9.3% | 風邪薬、胃炎薬など | |
染・顔料用原料など | 5.1% | 蛍光漂白剤、化粧品など |
同社は、サプライチェーンにおけるxxに位置しており、サプライヤーから仕入れた原料をもとに中間体を製造し、一次製品メーカーに供給している。クミアイ化学工業および日本軽金属の合弁会社として設立された当初は、農薬原料のみを取り扱っていたが、高分子原料や医薬原料などの分野でも引き合いがあったため多角化を図り、現在の製品構成となった。
<サプライチェーンにおける位置づけ>
生産のみならず、提案型営業にも注力しており、取引先であるメーカーに対して高分子原料と他の素材を組み合わせた原料やまったく新しい原料活用の提案も行っている。既存の最終製品を分 析し、機能性を高めるために活用できる中間体の研究を行うことで、メーカーの製品開発に貢献している。このようなメーカーへの提案型営業は、サプライチェーンのxxに位置する企業として最終製品の付加価値を高める重要な取組みとなっている。
本社工場には7つのプラントと塩酸精製設備を擁し、製品となる中間体と塩素化工程で副生される塩化水素ガスから 35%塩酸を製造している。2016 年にはタイに現地法人を設立、2018 年に第1プラントを、2020 年には第2プラントを竣工し、拡大する高分子原料の需要に対応できる生産体制を整えるとともに、本社にて緊急事態が発生した場合でも事業の継続を可能とする体制を構築している。タイでは、生産量が 26,000t/年にまで拡大しており、本社工場の化成品全体の生産量 50,000t/年の5割程度となっている。
<プラント一覧>
製造工程は、主に仕入、塩素化、蒸留精製、品質管理、納品の5つに分けられる。まず、サプ ライヤーからトルエンやキシレンといった原料を仕入れ、日本軽金属からパイプラインを通して塩素を 調達した後、各プラント内の光塩素化反応設備において原料を塩素化、混合物を発生させる。次に、蒸留塔にて混合物を精製し、必要な化合物を抽出する。精製された化合物は、製造直後と納品直前の 2 度、ガスクロマトグラフィや液体クロマトグラフィなどで品質が確認され、タンクローリーやコンテナ、ドラムに充填され、取引先に納品される。
<製造工程>
1-2 経営理念
イハラニッケイ化学工業は、「顧客に感謝され喜ばれる商品を供給する」、「品質・価格・技術力で世界一を目指す」、「創造的思考で新しい価値を生み出す」、「顧客・株主・従業員さらに人間社会の幸福を追求する」の経営理念のもと、高品質な製品を安全かつ環境に優しく生産し、人々の生活に欠かせない原料を供給するために、従業員xxとなって業務に取り組んでいる。
また、同社が属するクミアイ化学グループでは、SDGs への取組みなど本業を通じた社会価値の創造、社会課題の解決および社会的要請と ESG に対応した経営・事業基盤の強化を包含するサステナビリティ経営を実行していくことを明確にするため、サステナビリティ基本方針を制定しており、直近では 2022 年 11 月1日にクミアイ化学グループレスポンシブル・ケアに関する基本方針を制定するとともに日本化学工業協会のレスポンシブル・ケア委員会にも参画している。
<クミアイ化学グループ サステナビリティ基本方針>
サステナビリティ基本方針
1. 環境との調和の実現 2. 働きがいのある職場の実現
3. 規律ある組織体制の実現 4. 社会からの信頼の実現
人財
環境 レスポンシブル・ CSR調達
マネジメント
基本方針 ケア基本方針 基本方針
基本
<クミアイ化学グループ レスポンシブル・ケアに関する基本方針>
1.経営層自らリーダーシップを発揮し、レスポンシブル・ケアを推進します。
2.化学製品の開発から廃棄に至るまでの全ライフサイクルにわたり、自主的に環境・健康・安全の確保とその継続的改善に努めます。
3.省資源及び省エネルギーを推進し、廃棄物の削減ならびに有効活用に努めます。
4.サプライチェーンの全てにわたって、環境と人々の健康・安全を守ります。
5.環境・健康・安全に関する活動に対するステークホルダーの期待に応えるため、その成果を公表し社会との対話・コミュニケーション活動に努めます。
6.「いのちと自然を守り育てる」ために、豊かな社会の持続的発展に繋がる新しい価値の創出に挑戦し
続けます。
クミアイ化学グループは、「クミアイ化学グループ企業基本理念」のもと、化学製品の全ライフサイクルにおいて環境・健康・安全を確保し、その取り組みを継続的に改善することによって、人々の生活の質の
向上と持続可能な社会の実現に貢献することを目標に、レスポンシブル・ケアを実施します。
さらに、クミアイ化学グループでは、組織にとっての重要課題を示すマテリアリティも特定しており、同社においても、クミアイ化学グループのマテリアリティに沿ったサステナビリティに関する戦略や方針の策定、レスポンシブル・ケアを実施する組織として、2022 年 6 月にサステナビリティ推進委員会を設 置、SDGs や ESG に対応した事業活動を展開している。サプライチェーンのxxに位置し、中間体を供給する立場として、xx企業に及ぼす影響も大きいことから、サプライチェーンマネジメントの高度化を最重要課題として位置づけるとともに、本業を通じて社会課題を解決するために、サステナビリティ活動にも積極的に取り組んでいる。
そのほか、同社の株主であり、事業でのつながりも深い日本軽金属とも足並みをそろえている。日本軽金属では、国際的なガイドラインの要請事項をもとに作成したショートリストからマテリアリティを特定しており、イハラニッケイ化学工業も日本軽金属と連携して重要課題の解決に取り組んでい る。
<クミアイ化学グループ マテリアリティ・マトリックス>
1-3 業界動向
【レシポンシブル・ケア】
さまざまな製品に活用される素材を製造する化学産業は、多くの産業を支えている一方、開発から製造、使用、廃棄に至る全ライフサイクルにおいて、取り扱う化学物質が環境や人々の健康に悪
影響を与える可能性を含んでいる。このような危険性を低減することは業界全体で取り組むべき課題であるため、化学製品製造業者などにより構成される業界団体である一般社団法人日本化学工業協会(以下、日本化学工業協会)では、「環境・健康・安全に関する日本化学工業協会基本方針」を制定し、レスポンシブル・ケアを推進している。
<環境・健康・安全に関する日本化学工業協会基本方針>
1.経営層自ら強いリーダーシップを発揮し、国内外での環境・健康・安全の確保に努める。 |
2.製品の開発から廃棄に至るまでの全ライフサイクルにわたり環境・健康・安全のパフォーマンスや、施設・プロセス・技術に関わるセキュリティの継続的改善に努め、その成果を社会に公表する。 |
3.省資源及び省エネルギーを一層推進し、廃棄物の削減及びその有効活用に努める。 |
4.サプライチェーンにわたって化学品の安全性とプロダクト・スチュワードシップの継続的改善を促進することにより、環境と人々の健康・安全を守る。 |
5.化学品のライフサイクルにわたる健全な科学に基づくリスクベースの化学品管理の法規策定に参画し、ベストプラクティスを実践することにより、化学品管理システムを強化する。 |
6.ビジネスパートナーに対し化学品の取り扱いが安全に管理できるよう働きかける。 |
7.製品及び事業活動が環境・健康・安全に及ぼす影響に関して、行政当局及び市民の関心に留意し、正しい理解が得られるよう必要な情報を開示し、対話に努める。 |
8.環境・健康・安全に関する活動に対するステークホルダーの期待に一層応えるため、地域、国及び世界的規模の対話活動を更に拡大する。 |
9.革新的技術やその他のソリューションを開発・提供することにより社会の持続的発展に貢献する。 |
資料:日本化学工業協会「環境・健康・安全に関する日本化学工業協会基本方針」
レスポンシブル・ケアとは、単に法を順守するだけにとどまらず、法に定められている以上の自主的 管理に取り組む活動であり、対象範囲は化学品・製品安全や環境保全、保安防災・労働安全衛生、物流安全など多岐にわたる。近年では環境問題への関心の高さから、有害性のある化学物質の排出抑制や廃棄物の削減などへの取組みが活発に行われている。
このような中、イハラニッケイ化学工業では、水質や大気、土壌への環境汚染リスクを低減する取組みに注力しており、資源の有効活用や気候変動対策に資する活動も意欲的に実施することで、業界の持続的発展に貢献している。
【CO2 排出量の削減】
イハラニッケイ化学工業が属する化学業界は、2020 年度の CO2 排出量が 54.5 百万tと、日本産業界全体の 17%を占めている。これは、40%を占める鉄鋼業界に次ぐ水準であり、世界的に脱炭素化の動きがある中、化学業界も CO2 排出量の削減が求められている。
<2020 年度 産業別 CO2 排出量(電気・熱配分後)>
資料:国立研究開発法人国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2020 年度)<確報値>」
こうした中、同社でも省エネ推進委員会や改善提案委員会を中心とした蒸気・電力使用量の 削減に努めており、省エネ設備も積極的に導入している。さらに、塩素化工程において、再生可能エネルギーにより製造された塩素を用いることで、自社だけでなくサプライチェーン全体の CO2 排出量の削減にも貢献している。2023 年には塩酸熱回収設備の稼働を予定しており、今後もさらなる環境負荷の低減が見込まれている。
1-4 地域課題との関連性
【静岡市環境基本計画】
イハラニッケイ化学工業が本社を構える静岡市では、静岡市環境基本条例に基づき第1次静岡市環境基本計画を策定することで、自然や社会条件に応じた環境の保全に関する施策を実施してきたが、2014 年度の期間満了に伴い、計画期間を8年とした第2次静岡市環境基本計画を新たに策定し、複雑化する環境問題へ対応している。この計画は、「人々が豊かな環境を育み 環境が健やかな人を育むまち・静岡」を基本方針としており、市民・事業者・市(行政)それぞれが
担うべき役割を明らかにし、さまざまな主体が連携、協働しながら積極的な取組みを促進することを目的としている。基本方針を実現するために4つの基本目標と 12 の環境目標を設定し、目標の達成状況を確認できるよう環境指標も掲げられている。
これらの目標や指標のうち、同社では「安心安全な生活環境の確保と充実」や「省エネルギーの推進」、「廃棄物のさらなる減量に向けた協働の推進」などの環境目標に貢献しており、「事業者の公害法令順守率」や「市民及び事業者の電気使用量の削減量」、「一人1日当たりのごみ総排出量」といった環境指標への寄与も認められる。
<第2次静岡市環境基本計画概要>
資料:静岡市「第2次静岡市環境基本計画(概要版)」
【SDGs xx都市】
静岡市は、SDGs の理念に沿った基本的・総合的取組みを推進しようとする都市・地域の中から、特に、経済・社会・環境の3側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い都市・地域として内閣府より「SDGs xx都市」に選定されている。世界が追求している SDGs の達成は、第3次静岡市総合計画に掲げている「『世界に輝く静岡』」の実現」に貢献するとの認識から、同市では SDGs の達成を推進しており、2021 年3月には、静岡市 SDGs xx都市計画を策定した。同計画では、SDGs に対する認知度は年々高まっているため、
2020 年からは「行動の 10 年」と定め、SDGs を「知る・理解する」から「行動する」状況につなげていきたいと標榜している。
静岡市を代表する化成品製造業者であるイハラニッケイ化学工業が SDGs を推進し、活動内容を外部に発信していくことは、市民や事業者の SDGs に関する取組みを促し、同市の SDGs の達成に資する活動である。
<2030 年までのロードマップ>
資料:静岡市「静岡市 SDGs 未来都市計画(2021~2023)」
2. サステナビリティ活動
2-1 環境面での活動
(1)環境負荷低減に貢献する製品の供給
イハラニッケイ化学工業のコア技術であり、ほとんどの製品に活用される光塩素化技術には、多くの塩素を必要とするが、同社の調達する塩素は日本軽金属が苛性ソーダを製造する際に発生する塩素を活用している。苛性ソーダの製造には原塩を純水に溶かした水溶液を電気分解する工程があり、大量の電力を消費するものの、日本軽金属の電気分解工程で使われている電力は大部分が水力発電由来の再生可能エネルギーである。したがって、同社が調達する塩素は製造工程において CO2 が極めて少ないクリーンな塩素であり、このような塩素を使用して製造された各種中間体も環境に優しい製品となるとともに本製造で副生された塩化水素は精製により 35%塩酸として、その全量を日本軽金属に供給している。
同社は、このようなプロセスで各種中間体を製造し、一次製品メーカーに供給することでサプライチェーン全体での CO2 排出量を削減し、環境負荷低減に貢献している。
<各種中間体製造までの流れ>
(2)環境汚染リスクの低減
イハラニッケイ化学工業の化成品製造事業は、多くの産業を支える製品を製造しているものの、さまざまな化学物質を原料としているため、水質や大気、土壌などの汚染リスクを孕んでいる。このようなリスクを低減させるために、同社では化学物質の搬入出時や排出、廃棄処理時などに際して細心の注意を払うとともに、環境汚染対策を徹底して遂行するための体制構築に注力している。
具体的には、原料を搬入する際や製品を納品先へ搬出する際には製品出荷作業規程や充填作業手順書などに定められた対策を施し、製造時にも漏洩がないよう、すべての工程を密閉した空間とするなどの対策が取られている。製造工程で発生する排水に対しては、活性炭吸着槽、中和ピットなどを経由する排水処理工程を整備し、塩素や塩化水素ガスを含むばい煙には、塩素や塩化水素ガスを水に溶かし塩酸を製造するシステムの構築や中和した後に放出する取組みを徹底して おり、環境に影響を与える化学物質の排出を抑制している。プラントの立地する土壌に対しても、コンクリートで有害物質の浸透を防止するなどの対策を施している。
<排水処理システム>
<ばい煙処理システム>
以上のような同社の製造工程や処理システムは、改正により化学物質の自律的な管理が求められている労働安全衛生法やレスポンシブル・ケアを推進する日本化学工業協会の「環境・健康・安全に関する日本化学工業協会基本方針」にも沿うものである。
こうした環境保全策や製造工程を一元管理しているのが、管理室で運用されているデジタルコントロールシステムである。同社のシステムは外気温などの数値も含めるとおよそ 870 項目にもおよ び、1つのプラントを1~2人で管理・制御している。1班 13 人の 4 班 3 交代制で 24 時間管理しており、外部への漏洩などの異常は迅速に検知できる体制となっている。とくに、同社が最重要
管理項目として定めている塩素や塩化水素ガスについては、漏洩防止センサーがリアクターなどに 24 カ所設置され、徹底した管理が行われている。
もちろん、システムや機器を駆使した管理に加えて目視での管理も実施しており、2時間に1回の頻度でプラントを見回ることで、管理体制を万全のものとしている。有事の際の対策も取られてお り、震度 5 弱以上の地震を感知した場合に全設備が遮断され、異常や漏洩を防ぐシステムが導入されている。
同社では、こうした取組みを徹底して行うために、公害防止委員会の設置や ISO14001 認証取得など、高度な環境マネジメントシステムを構築している。環境保全に関する規程類も制定されており、環境監視測定規程や公害防止管理規程といった社内規程で測定項目や測定基準、測定方法、測定機器、責任者、報告方法、異常時の対応などが明確に定められている。排気や排水など一部の項目に関しては、静岡県の条例よりも厳しい静岡市協定の基準値で管理されているものもある。
<環境監視測定規程で定められた測定項目>
監視および測定項目 | 設備名 | 測定頻度 | 適用法令/協定 |
排ガス測定 | ボイラー | 2回/年 (ばいじんのみ 1回/5年) | 大気汚染防止法静岡市協定 |
アルカリ洗浄塔ブロアー | 2回/年 | ||
塩素・塩化水素漏洩 | 第1~7プラント塩酸精製設備 敷地境界 | 常時 | |
有害物質および生活環境項目濃度 | 最終管理枡出口 | 1回/年 | 水質汚濁防止法静岡市協定 日本軽金属協定 |
pH、COD、SS、 n-ヘキサン抽出物 | 3回/月 | ||
pH、COD、油膜検知 | 中和ピット管理枡 | 常時 | |
透視度、pH、DO、残留塩素 | 浄化槽 | 1回/年 | 浄化槽法 |
騒音 | 圧縮機 敷地境界 クーリングタワー | 設備の新設・改造時 | 騒音規制法 |
振動 | 圧縮機敷地境界 | 振動規制法 | |
特定悪臭物質 | 工場敷地内 | 悪臭防止法 | |
廃油有害物濃度 | 廃油 | 1回/年 | 廃棄物の処理および清掃に関する法律 |
汚泥有害物濃度 | 最終管理枡ピット | 1回/年 | |
産業廃棄物の種類と排出量 | マニフェスト管理状態 | 1回/月 | |
電気、蒸気、都市ガスの使用量 | 工場全体 | 1回/月 | エネルギーの使用の合理化等に関する 法律 |
室内中の有機溶剤濃度 | 製造課分析室品質課実験室研究室 | 2回/年 | 労働安全衛生法 |
また、著しく環境に影響を与える活動については、日常管理項目として製造課が常時監視もしくは2時間ごとに現場監視測定することで厳格に管理している。
<日常管理項目>
著しい環境側面 | 運用および活動 |
管理枡水質管理 | 管理枡、排水規制値順守 |
塩酸製造工程 | 適切な塩酸製造工程の運転操業塩化水素ガス、塩酸漏洩防止 |
排出塩素・塩化水素管理 | アルカリ槽の切換えおよび適切な運転 水洗浄塔およびアルカリ洗浄塔の適切な運転 排ガス処理工程 排ガス規制値順守 |
各プラントの塩素化反応および塩化水素発生工程 | 適切な反応工程の運転・操業塩素化加水分解交換反応工程 塩化水素ガス・塩素ガス漏洩防止、異常反応防止 |
中和ピット管理 | 中和ピットより排出する排水の pH 管理 |
内部監査についても、内部監査規程が定められ、構築された環境マネジメントシステムが正しく運用されているかが確認されている。規程には、実施手順が監査の準備から監査結果の整理、報告書の作成、フォローアップ監査まで細かく記載されており、改善点を是正するまでの流れがまとめられている。
そのほか、「管理枡入口の pH 異常をゼロ回にする」や「排ガス中のトルエン、キシレン量の監視」などといった3カ年の中期目的を策定し、「10 日ごとの管理枡分析集計結果報告」や「排ガス中のトルエン、キシレン分析と結果集計」などの中期目的を達成するための具体的な年度目標も設定している。その結果、創業以来、環境汚染事故は発生していない。
こうした活動やマネジメント体制は、タイに設立された現地法人においても同様に取り組んでおり、 ISO14001 認証の取得にも至っている。創立以来、環境汚染事故は発生しておらず、現在も高いレベルの環境保全意識を保っている。
(3)廃棄物の削減および資源の有効活用
イハラニッケイ化学工業では、事業活動で生じた廃棄物を不法投棄することなく、適切な処理と再資源化に取り組んでいる。現在は、排出される廃油や廃プラなどの廃棄物を専門の廃棄物処理業者で、処理・リサイクルしているが、2023 年の秋には塩酸熱回収設備の竣工を予定しており、 1,400t程度を原燃料として自社で有効活用する計画となっている。
<廃棄物の排出量一覧(2021 年度)>
品目 | 廃油 | 廃プラ | 汚泥 | 金属くず | 木くず | ガラ陶 | 混合廃棄物 | 合計 |
排出量 (t) | 1,565.55 | 32.23 | 20.95 | 9.64 | 3.19 | 0.59 | 0.72 | 1,632.87 |
割合 (%) | 95.9 | 2.0 | 1.3 | 0.6 | 0.2 | 0.0 | 0.0 | 100.0 |
塩酸熱回収設備導入の背景には、中国や東南アジア諸国の廃棄物の輸入規制などによる国 内処理量の増加および同社で発生する廃油が刺激性や臭気を有するため廃棄物処理業者からの受入量の制限を受けていることが挙げられる。このような事情から、近い将来、廃棄物の処理ができなくなる懸念があるため、自社で原燃料として有効活用する方針を固めた。導入を計画している同設備は、原燃料として燃焼する際に発生する塩化水素ガスと熱エネルギーを回収することが可能であり、資源の有効活用および CO2 排出量の削減に資するものとなっている。回収された塩化水素ガスから 35%塩酸を 1,470t/年程度製造できる見込みであり、これは同社が現在製造している 35%塩酸の約5%にあたる。
こうした取組み以外にも、廃棄物削減委員会や改善提案委員会が中心となって廃液発生量・在庫の削減、製品の詰替え作業の削減、生産トラブルの防止といった廃棄物の排出自体を抑制す
る活動や廃棄物の分別回収などのリサイクルの推進も積極的に行い、廃液は年間▲0.5%、主要製品関連廃棄物に関しては年間▲1.0%の削減を目標としている。とくに、トルエンやキシレンの誘導体を製造する過程においては、副産物についても製品化することで、廃棄物削減につなげてい る。例えば、PCT(パラクロロトルエン)を塩素化して PCBC(パラクロロベンジルクロリド)を製造する場合、PCT と PCBC、PCDC(パラクロロベンザルクロリド)が含まれた混合物が発生する。精密蒸留によって混合物から各物質を抽出した後、PCBC は製品として販売され、PCT は再び原料と して、PCDC はPCAD(パラクロロベンズアルデヒド)や PCTC(パラクロロベンゾトリクロリド)といった別の中間体を製造する原料として活用される。こうした無駄のない生産は、多くの分野に通用す る製品群を形成している同社の大きな強みとなっている。
<PCBC 製造工程>
塩素化する際に発生する塩化水素ガスについても、全量が塩酸精製設備にて 35%塩酸となり日本軽金属へ販売されている。こうした生産性の高い製造工程を構築した結果、同社の歩留まり率は 95%という高い水準を達成。直行率もほぼ 100%となっており、稀に発生する不適合品については、規格内に収まるよう手直しをして他の取引先に納品できるか、他の製品の原料として消費できるか、廃棄物として処理という3段階で検討することで廃棄物となる量を最小限に留めている。
そのほか、品質保証期間の延長により自社製品の長期利用の推進や製品を充填したドラムの廃棄物排出用ドラムとしての再利用など、廃棄物の削減に努めている。
(4)気候変動対策
2023 年に稼働予定の塩酸熱回収設備は、熱エネルギーを蒸気として回収することで CO2 排出量の削減にも貢献する。廃棄物燃焼時の CO2 排出量は変わらないが、外部処理業者への運
搬が必要なくなることでも削減効果が期待できる。同社の試算によると、同設備の処理能力 1,400tの廃棄物を自社処理した際の削減効果は▲1,515t-CO2 に至り、本社工場全体の CO2 排出量の 12.1%に相当する。
<塩酸熱回収設備の CO2 排出量削減効果(単位:t-CO2)>
排出工程 | 導入前 | 導入後 | 削減効果 |
運搬時排出 | 38 | 0 | ▲38 |
使用電力等 | 350 | 350 | 0 |
処理時排出 | 2,843 | 2,843 | 0 |
蒸気回収 | 0 | ▲1,477 | ▲1,477 |
合計 | 3,231 | 1,716 | ▲1,515 |
同社では、塩酸熱回収設備以外にも熱交換率を高める冷媒リアクターや高効率変圧器、スチームトラップ診断・管理システムの導入を計画しており、直近では工程の連続化やポンプの真空源化によるスチームの削減、ボイラー軟水を予熱するヒートポンプの設置などに取り組むことで CO2 排出量を低減させている。本社工場の使用電力の約1割を占める電灯については 9 カ年の LED 化計画を進めており、現在の進捗率は5割程度となっている。
また、省エネ推進委員会や改善提案委員会を中心に蒸気・電力使用量の削減に取り組み、蒸気は年間▲1.0%、電力については年間▲0.1%の削減目標達成を図っている。
<蒸気・電力使用量の削減に関する取組み一覧>
分類 | 主な対策 | |
蒸気 | 最適運転ポイントの追求 | スチーム使用量集計 |
トレース管理 | 蒸気ロス防止活動 | |
スチーム原単位削減効果検証 | 省エネ機器の導入検討 | |
省エネ設備の検討、保守管理 | 省エネ機器の効果確認 | |
電力 | 省エネ設備の検討、保守管理 | 電力原単位まとめ |
反応缶水銀灯の不要時消灯 | 照明水銀ランプの LED 化 | |
空調電力集計 | 省エネ機器の導入検討 | |
電力監視装置を活用した使用量集計 | 省エネ機器の効果確認 |
こうした取組みの結果、本社工場の 2021 年度 CO2 排出量は 12,488t-CO2 と、2019年度比▲2.6%の削減に成功している。
<本社工場における CO2 排出量の推移>
年度 | 2019 年度 | 2020 年度 | 2021 年度 | 2019 年度比 削減割合 |
CO2 排出量 (t-CO2) | 12,818 | 11,812 | 12,488 | ▲2.6% |
※2020 年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、例年よりも CO2 排出量が少ない
2-2 社会面での活動
(1)人材育成の充実
イハラニッケイ化学工業では、職位別研修や階層別研修など社内のポジションに応じた能力開発体系を整えているほか、テーマ別研修や部門別研修といった従業員一人ひとりの能力に応じた研修も用意し、従業員の能力向上に努めている。
<研修一覧>
研修 | 内容 | |
職位別研修 | 新任役員研修 | 役員の期待、内部統制、リスクマネジメントなど |
新任部長研修 | 組織マネジメント、コンプライアンス、リスクマネジメントなど | |
新任管理職研修 | 役割認識、人事考課など | |
新任職長研修 | 役割認識と作業方法の改善など | |
新入社員研修 | 社会人としてのマナー、コミュニケーションの基本など | |
階層別研修 | トップマネジメント研修 | 役員の期待、内部統制、リスクマネジメントなど |
シニアマネジメント研修 | 経営戦略立案およびマネジメント、部下育成、リーダーシップなど | |
ミドルマネジメント研修 | マネジメント、人材育成、環境変化と戦略発想など | |
ミドル研修 | プロジェクトマネジメント、問題解決、コミュニケーション応用など | |
ジュニア研修 | 論理的思考、コミュニケーション基礎、節約観念など | |
テーマ別研修 | 安全衛生管理、5S、ISO、グローバル人材育成、語学、IT、メンタルヘルス、メンタルヘルスケア | |
部門別研修 | 通信教育・イーラーニング受講、各種資格取得、専門講習会、推薦図書・AV 教材 |
新入社員教育や品質・環境・安全に係わる会社全体の教育・訓練、環境負荷の大きい作業の運用に関する特別教育、防災訓練、品質業務に関する教育、コンプライアンス関連については、年間教育訓練スケジュールを組んでおり、全従業員が計画的に取り組める仕組みを構築している。こ
れらの教育・訓練は、全体で行われるものだけでなく、職場単位で行われる職場会議の中でも実施されており、職場会議・教育実施記録を作成することで欠席者に対してもフォローできる体制となっている。
また、役職ごとに必要な業務遂行スキルは業務分担表により可視化されており、同表に基づいた教育を実施することで効率的な教育を実現している。毎期行われる上司からのフィードバックにも同表を用いており、自身のスキルの充足状況を客観的に確認できるため、従業員のモチベーション向上や計画的な能力開発の実施に寄与している。
現場においては、経験者のもとで、プラントの操作や作業手順、化合物の取り扱いなどといった OJT 指導がなされている。同社は 4 班 3 交代制により、勤務時間によって作業内容が変わるため、配属後は 1 直から 3 直までの全ての時間帯を経験できるようにシフトを組むことで、一連の製造工程を学べるようにしているほか、プラントの操業を任せられる一定の水準に達したと判断される場合は、プラント操業者として認定する制度も設けている。
そのほか、危険物取扱者や公害防止管理者などの業務に必要な公的資格については、年4回以上受験者を募集し、取得を推進しており、環境への配慮や社会貢献活動に関する資格である CSR 検定についても 11 人が取得するなど、積極的な取得が奨励されている。その際は、受験料や交通費などを同社が負担し、資格を取得した従業員に対して報奨金を支給するなど、資格取得を促進することで従業員の能力向上を図っている。
さらに、女性従業員や外国人労働者、障害者の雇用、育成にも積極的に取り組んでいる。とく に、女性管理職割合を向上させる方針を打ち出しており、多様性のある職場を醸成することが見込まれる。
(2)安全衛生の確保
7つのプラントを有し、化学物質を扱うイハラニッケイ化学工業の化成品製造事業は、軽微な事故から重大な事故まで、従業員の健康を害する多くの危険性を内包するため、安全衛生委員会とその下部組織であるゼロ災部会、ヒヤリハット部会、5S 部会、キロラボテスト・試作・試運転事前審査会の4部会を設置し、「安全衛生上のリスクを低減し、災害発生ゼロをめざす」という安全方針を定めている。
<安全衛生委員会の下部組織の役割と主な活動>
部会名 | 役割 | 主な活動 |
ゼロ災部会 | 安全操業のための危険要素を抽出し、対策をとる | ・保安教育の実施 ・安全防具などの整備 ・危険要素に対する対策検討、実行 |
ヒヤリハット部会 | ヒヤリハット報告から危険要素を抽出し、対策をとる | ・ヒヤリハット事例の収集、社内共有 ・リスクレベルの評価 ・危険要素に対する対策検討、実行 |
5S 部会 | 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を全社的に推進させる | ・5S パトロール ・あいさつ運動 ・工場内の清掃活動 |
キロラボテスト・試作・試運転事前審査会 | 技術研究棟で行うスケール アップテストの内容に問題がないか検証し、対策をとる | ・リスクアセスメント ・化学物質の管理 ・試運転計画などの策定 |
安全衛生委員会では、新たな設備を導入した時や原材料の新規採用・変更時、休業災害が発生した時などに危険性や有害性を特定し、ヒヤリハット部会が制定したリスクアセスメント評価基 準に則ったリスクの見積もりを実施している。リスクは重篤度、発生の可能性、危険性または有害性に近づく頻度の3つの観点から点数化され、4段階のリスクレベルに分類される。最も高いリスクレベルⅣに分類されると、直ちに解決すべき問題として作業の中止・中断や改善措置が施される。重大な問題がある、多少の問題があると判断されたレベルⅢ、Ⅱのリスクに対しては、設備・作業工程の変更や作業環境の変更、作業者の再教育などを実施し、許容できる範囲となるリスクレベルⅠまで低減している。一連の手順を実施したリスクに対しては、リスクアセスメントシートを作成し、結果が関係者に周知される。
<リスクアセスメント評価基準>
このようなリスクアセスメントによって実施されたリスク低減措置が有効に機能していることの確認および新たな危険要素を抽出するために、役員・部長パトロールや保安パトロールなどの5つのパトロールも行われている。点検結果は、安全衛生・保安パトロール結果一覧などに、指摘事項や対応の可否、解決策といった事項としてまとめられ、毎月開催される安全衛生委員会の中で報告され る。設備の点検に関しては、上記パトロールとは別に設備管理規程が定められており、日常点検や法定点検、自主点検が各部署で実施されている。
<パトロール一覧>
パトロール名 | 実施者 | 実施頻度 | 実施内容 |
役員・部長安全 パトロール | 役員 部長 | 2回/年 | 安全週間と年末に行われる役員 と部長によるパトロール |
保安パトロール | 安全衛生 委員会 | 1回/月 | 保安パトロール点検表に基づき、 プラントなどを点検 |
5S パトロール | 5S 部会 | 1回/2カ月 | 場内の5S 状況を点検 |
防災倉庫パトロール | 各担当者 | 1回/月 | 防災備品の点検、有効期限の 確認 |
産業医による 場内巡視 | 産業医 | 1回/2 カ月 | 産業医による場内の巡視 |
こうしたパトロール以外にも、部署ごとに取りまとめているヒヤリハット報告からも危険要素を抽出している。この報告は、誰でも気軽に提出できるよう無記名かつ容易に報告できる書式となっている。自身が体験したヒヤリハット以外にも、他人の作業を見て気づいた点なども報告対象であり、能力が不十分な従業員などの教育にも有効である。
日常業務の中で設備の異常や人為的ミスにより異常事態が発生した際には、異常事故報告書が作成され、具体的な状況や原因、対策などがまとめられる。異常事態が休業災害に発展した場合は、24 時間以内に災害事故報告書も作成され、社内で情報が共有されるとともに再発防止に向けた対策がとられる。
保安教育については、新入社員教育や各職場で行われる職場会議、関係者を集めて開催される講演会などで、化学物質の性質から設備の取り扱い方、作業環境の管理まで随時実施されている。さらに、このような保安教育は、従業員だけでなく輸送業者や修理作業を行うベンダーといった外部業者に対しても行われ、すべての作業者の安全を確保している。
さらに、同社では、以上のような安全な職場の醸成だけでなく、就労環境を改善するためのさまざまな取組みも実施している。総労働時間の削減に関しては、勤怠表による従業員ごとの労働時間の管理や残業が多い従業員への毎月の呼びかけなどを継続的に行うことで、2021 年度の1人当たり総労働時間を新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けていない 2019 年度と比較して
▲11.5%削減することに成功しており、在宅勤務制度や時差出勤制度の導入によって、家族と過ごす時間の増加や通勤に伴うストレスの軽減など、ワークライフバランスも改善され始めている。休暇制度に関しても、産前産後休暇や育児休暇、介護休暇などの制度を整備するだけでなく、育児休業相談窓口を設置するなど、誰もが取得しやすい職場となるよう工夫を凝らした結果、2022 年度に入ってから既に2名が産休を、5名が育休を取得するなど成果を挙げている。もちろん、育休は女性だけでなく男性も取得しており、取得者5名のうち4名が男性である。有給休暇についても、 2020 年に取得の義務化を開始し、従業員の取得に対する意識が改善したことで、取得率が前年比で約5倍となるなど大幅に改善された。
<総労働時間と有給休暇取得率の推移>
年度 | 2019 年度 | 2020 年度 | 2021 年度 |
総労働時間(時間/人) | 2,168 | 2,267 | 1,917 |
有給休暇取得率(%) | 10.8 | 49.2 | 53.6 |
健康経営に向けた取組みにも注力しており、同社が加盟する報徳同栄健康保険組合が主催する健康づくり運動に参加し、従業員の健康増進を図っている。年度初めに自身で申請した運動種目や目標に基づいて、毎日の実施記録を決められた期間提出することで表彰される制度となっており、参加者のモチベーションが保たれるよう設計されている。同社では、このような表彰制度に加えて独自の表彰基準も定めており、組合よりも緩和した水準とすることで参加を推進している。2021 年度は 34 名の従業員が参加し、17 名が組合の表彰を、26 名が社内の表彰を受けた。
法律で定められている健康診断やストレスチェックも欠かさず実施しており、本社工場に勤務している従業員は一般健康診断に加えて、年に2回の特殊健康診断も受診している。健康診断については、日程が合わず受診できなかった従業員にも後日受診できるようフォローすることで受診率 100%を達成している。ストレスチェック受診後は、受診結果をもとに産業医によるアフターフォローを実施することで自身のストレスへの気づきを促すとともに、全従業員を対象としたメンタルヘルス研修も年1回実施するなど、精神面の不調を未然に防止するための体制を整えている。
また、同社では人権が尊重され、差別のない安心安全な職場が形成されるようコンプライアンス行動指針の中で「常に健全な職場環境を維持することに努め、各人の人権を尊重し、ハラスメント
(セクハラ、パワハラ、マタハラ、パタハラ、ケアハラ等)、差別につながる行為は一切行いません」と 宣言している。コンプライアンス委員会や第三者機関による社外相談窓口の設置など、万全なコン プライアンス体制も構築され、法令などの改正情報の共有や毎月開催されるコンプライアンス勉強会といった活動も積極的に行われており、高いコンプライアンス意識が維持されている。
以上のような労働安全衛生に関する活動は、タイの現地法人でも取り組まれており、現地で採用している従業員の就労環境は本社工場と同水準にまで高められている。
(3)製品の品質・安全性の確保
イハラニッケイ化学工業の化成品製造事業は、最終製品に用いられる中間体を製造していることから、メーカーや流通業者といった後工程に与える影響が大きいため、品質には厳重なチェック体制を整えており、その中心となる品質管理課では 25 台のガスクロマトグラフィと6台の液体クロマトグラフィを用いて納品前の品質管理を行っている。生産部でも同数のガスクロマトグラフィで製造直後の品質を確認することで、製造工程に不具合がないかなどを点検している。検査を実施できる従業員は社内で認定された者に限られており、原材料・自社製品・外注品検査資格者や工程分析資格者、中間製品検査資格者など、検査資格を役割ごとに細分化することで、より正確で精緻な品質管理を実現している。
このような品質管理体制に対しては定期的な内部監査が実施されており、効果的な運営を維 持していることが担保されている。一定水準以上の品質マネジメントシステムの構築を証明する国際規格である ISO9001 認証も取得しており、法令順守や業務の円滑化、リスクマネジメント、品質保証などに対する組織体制の強化にも努めている。
また、同社では製造している全ての製品について SDS(Safety Data Sheet:安全データシート)を作成している。SDS は、特定の化学物質および混合物を譲渡または提供する際に、物理化学的性質や危険性、有害性、取扱方法などを記載した文書を提供することを労働安全衛生法によって義務付けられている文書である。同社で取り扱う製品のうち、SDS 作成対象として法律で定められている物質は 12 種類、48 製品であるが、全ての製品について SDS を作成することで、予見可能なリスクをサプライチェーンの全ての関係者に周知し、安全性の確保に努めている。
(4)地域貢献活動
イハラニッケイ化学工業は、地域貢献活動にも積極的に取り組んでいる。本社を構える蒲原で毎年行われている「かんばらまつり」の開催支援や蒲原東小学校からの要請を受け実施している工場見学のほかに、静岡市をホームタウンとするプロバスケットボールチーム「VELTEX 静岡」のオフィシャ ルクラブパートナーとして地域の子供たちを試合に招待するといった地域振興や地域の暮らしを守る自然豊かな森を増やす「鎮守の森のプロジェクト」の活動支援を行うなど、幅広い活動を通して地域に貢献している。
このような地域貢献活動は、タイの現地法人でも同様に取り組まれており、地域の学校、お寺、お祭りへの寄付や植林活動、献血などへ協力することで、地域に根差した企業となっている。静岡 市を本拠地とするプロサッカークラブ「清水エスパルス」がタイで実施したサッカークリニックに協賛するなど、地元とタイを結ぶ活動にも注力している。
2-3 経済面での活動
(1)産業を支えるファインケミカル製品の効率的な生産
イハラニッケイ化学工業が製造しているファインケミカル製品は、樹脂や繊維、農薬、医薬、染・顔料などと多岐にわたる分野で活用されており、安定した品質の原料を供給することで、それらの産業を支えている。また、これまでに蓄積してきたノウハウの結晶でもある生産管理システムは、製品の効率的な生産を実現しており、同社の高い経済生産性の達成に大きく貢献している。
なかでも、870 にもおよぶ項目を一元管理するデジタルコントロールシステムは、プラントの高度な制御の要となっている。管理室で各プラントの操業状況をリアルタイムで監視することで、温度や流量、圧力などの生産条件の調整も遠隔で操作でき、トラブルが発生した場合でも、全体のシステムを停止することなく、柔軟に対応することが可能である。5 秒間ごとに生産データを取得することができるため、データの解析にも有利であるほか、取得したデータはクラウド上に保存しておけるので、製薬業者などから生産データを要求された場合でも迅速な対応が可能であり、取引先の利便性向上にもつながっている。
▲制御パネル ▲コントロールルームでの監視の様子
同社のコア技術である光塩素化反応も、ラジカル発生剤を使用する反応と比較して、温度によるラジカル発生率の変化や半減期がないため効率よく反応を進めることが可能である、ラジカル発生剤の除去工程が不要であるため環境に優しいなどといった強みを有する。比較的取扱いが容易で、副生物も発生させないため、安全面や経済面でも有利である。多くのプラントで生産工程の 60~ 80%程度が自動化されていることも、生産効率の向上に寄与している。
また、同社では研究開発にも積極的に取り組んでおり、新規製品・製法を模索することで新たな価値の創出を図っている。近年では、MAOC(メタクリル酸クロリド)の製造に関して BOC(ベンゾイルクロリド)を塩素化剤とする製法を開発し、廃棄物や不純物の発生を抑制することに成功するなどの成果が出ており、同社に新たな収益機会をもたらしている。
さらに、川下企業へ原料となる中間体を供給する立場として、サプライチェーンマネジメントの高度化に取り組んでいる。クミアイ化学グループが策定した CSR 調達に関する基本方針や CSR 調達ガイドラインに則り、取引先に CSR 調達ガイドラインの同意書への署名を求めるなどの取組みを実施
<クミアイ化学グループ CSR 調達に関する基本方針と CSR 調達ガイドライン>
CSR 調達に関する基本方針 | CSR 調達ガイドライン |
1.法令等の遵守 2.公正な取引 3.基本的人権の尊重 4.製品・サービスの品質や安全性の確保 5.環境への配慮 6.適正な情報管理 | 1.法令等の遵守 2.人権や労働衛生への配慮 3.環境への配慮 4.品質・安全性・納期の確保 5.適正な情報管理 6.腐敗防止 7.反社会的勢力との関係遮断 |
3. 包括的分析
3-1 UNEP FI のインパクト分析ツールを用いた分析
UNEP FI のインパクト分析ツールを用いて、イハラニッケイ化学工業の化成品製造事業を中心に、網羅的なインパクト分析を実施した。その結果、ポジティブ・インパクトとして「雇用」、「包括的で健全な経済」が、ネガティブ・インパクトとして「健康・衛生」、「雇用」、「水(質)」、「大気」、「土 壌」、「資源効率・安全性」、「気候」、「廃棄物」が抽出された。
3-2 個別要因を加味したインパクト領域の特定
イハラニッケイ化学工業の個別要因を加味して、同社のインパクト領域を特定した。その結果、従業員などの経済性を高める取組みがないことなどから、ポジティブ・インパクトのうち「包括的で健全な経済」を削除した。一方で、同社のサスティナビリティ活動に関連のあるポジティブ・インパクトとして
「教育」、「気候」、「経済収束」を、ネガティブ・インパクトとして「人格と人の安全保障」を追加した。
【特定されたインパクト領域】
UNEP FI のインパクト分析ツールにより抽出されたインパクト領域 | |||
ポジティブ | ネガティブ | ||
入手可能性、アクセス可能性、手ごろさ、品質 (一連の固有の特徴がニーズを満たす程度) | |||
水 | |||
食糧 | |||
住居 | |||
健康・衛生 | |||
教育 | |||
雇用 | |||
エネルギー | |||
移動手段 | |||
情報 | |||
文化・伝統 | |||
人格と人の安全保障 | |||
正義 | |||
強固な制度・平和・安定 | |||
質(物理的・化学的構成・性質)の有効利用 | |||
水 | |||
大気 | |||
土壌 | |||
生物多様性と生態系サービス | |||
資源効率・安全性 | |||
気候 | |||
廃棄物 | |||
人と社会のための経済的価値創造 | |||
包括的で健全な経済 | |||
経済収束 |
個別要因を加味し 特定されたインパクト領域 | |
ポジティブ | ネガティブ |
3-3 特定されたインパクト領域とサステナビリティ活動の関連性
イハラニッケイ化学工業のサステナビリティ活動のうち、ポジティブ面のインパクト領域としては、社内のポジションや一人ひとりの能力に応じた従業員教育が、「教育」や「雇用」に該当し、再生可能エネルギーで製造された塩素を使用した中間体の供給が、「気候」に資する取組みと評価される。また、さまざまな産業を支える製品の効率的な生産管理システムが、「経済収束」に該当する。
一方、ネガティブ面においては、労働安全衛生マネジメントシステムの構築やワークライフバランスを実現し人権を尊重する職場の形成、徹底された品質管理体制や製品の安全性確保が、「健康・衛生」や「雇用」、「人格と人の安全保障」、「資源効❹・安全性」、「廃棄物」に該当する。また、 有害物質の適切な取扱い・処理や各種環境汚染対策は、「健康・衛生」や「水(質)」、「大 気」、「土壌」、「廃棄物」への貢献が認められるほか、廃棄物の削減や資源の有効活用に関する取組みが、「資源効❹・安全性」や「廃棄物」に資する取組みと評価できる。さらに、CO2 排出量の削減などの気候変動対策は、「気候」への寄与が認められる。
3-4 インパクト領域の特定方法
UNEP FI のインパクト評価ツールを用いたインパクト分析結果を参考に、イハラニッケイ化学工業のサステナビリティに関する活動を同社の HP、提供資料、ヒアリングなどから網羅的に分析するとともに、同社を取り巻く外部環境や地域特性などを勘案し、同社が環境・社会・経済に対して最も強いインパクトを与える活動について検討した。そして、同社の活動が、対象とするエリアやサプライチェー ンにおける環境・社会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に最も貢献すべき活動を、インパクト領域として特定した。
4. KPI の設定
特定されたインパクト領域のうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、イハラニッケイ化学工業の経営の持続可能性を高める項目について、以下の通り KPI が設定された。
4-1 環境面
インパクトレーダーとの関連性 | 気候 |
インパクトの別 | ポジティブ・インパクトの増大 |
テーマ | 環境負荷低減に貢献する製品の供給 |
取組内容 | 再生可能エネルギーで製造された塩素を使用した中間体の供給。 |
SDGs との関連性 | 13.1 全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。 |
KPI(指標と目標) | ①現状の再生可能エネルギーで製造された塩素を使用した中間体の供給サイクルを維持する |
インパクトレーダーとの関連性 | 健康・衛生、水(質)、大気、土壌、廃棄物 |
インパクトの別 | ネガティブ・インパクトの低減 |
テーマ | 環境汚染リスクの低減 |
取組内容 | 有害物質の漏洩がないよう密閉された製造工程。環境汚染を防止する排水・ばい煙処理システムの構築。環境マネジメントシステムに基づいた管理体制。 |
SDGs との関連性 | 6.3 2030 年までに、汚染の減少、投棄の廃絶と有害な化学物・物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模で大幅に増加させることにより、水質を改善する。 11.6 2030 年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。 12.4 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、 水、土壌への放出を大幅に削減する。 |
KPI(指標と目標) | ①環境汚染事故件数0件を維持する |
インパクトレーダーとの関連性 | 資源効率・安全性、廃棄物 |
インパクトの別 | ネガティブ・インパクトの低減 |
テーマ | 廃棄物の削減および資源の有効活用 |
取組内容 | 廃棄物の適切な処理および再資源化。塩酸熱回収設備による 35%塩酸製造計画。廃棄物の排出量削減活動。副産物の有効活用。 |
SDGs との関連性 | 12.2 2030 年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 12.5 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削 減、再生利用及び再利用により、廃棄物の 発生を大幅に削減する。 |
KPI(指標と目標) | ①2030 年までに、廃棄物の排出量を 2021 年度の 1,632.87tから▲85%削減し、245tを達成する |
インパクトレーダーとの関連性 | 気候 |
インパクトの別 | ネガティブ・インパクトの低減 |
テーマ | 気候変動対策 |
取組内容 | 塩酸熱回収設備を活用した CO2 排出量の削減計画。省エネ設備・活動による CO2 排出量の削減。 |
SDGs との関連性 | 9.4 2030 年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。すべての国々は各国の能力に応じた取組を行う。 13.1 全ての国々において、気候関連災害や自然 災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。 |
KPI(指標と目標) | ①2030 年までに、CO2 排出量を 2019 年度の 12,818t -CO2 から▲30%削減し、8,972t-CO2 を達成する ②2024 年までに、塩酸熱回収設備の稼働率 100%を達成する |
4-2 社会面
インパクトレーダーとの関連性 | 教育、雇用 |
インパクトの別 | ポジティブ・インパクトの増大 |
テーマ | 人材育成の充実 |
取組内容 | 社内のポジションや一人ひとりの能力に応じた従業員教育体系の整備。業務遂行スキルの可視化による効率的な能力開発。ベテラン従業員による OJT。公的資格取得支援。 |
SDGs との関連性 | 4.4 2030 年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。 |
KPI(指標と目標) | ①2024 年までに、CSR 検定3級を管理職以上全員が取得する |
インパクトレーダーとの関連性 | 健康・衛生、雇用、人格と人の安全保障 |
インパクトの別 | ネガティブ・インパクトの低減 |
テーマ | 安全衛生の確保 |
取組内容 | 安全衛生委員会を中心とした労働安全衛生マネジメントシステムの構築。リスクアセスメントによる労働災害リスクの低減。ワークライフバランスの実現。健康経営の実践。人権が尊重され、差別のない職場の醸成。 |
SDGs との関連性 | 8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。 |
KPI(指標と目標) | ①2023 年までに、労働災害の発生件数を 2021 年度の 5件から▲5件削減し、0件を達成する |
インパクトレーダーとの関連性 | 健康・衛生、資源効率・安全性、廃棄物 |
インパクトの別 | ネガティブ・インパクトの低減 |
テーマ | 製品の品質・安全性の確保 |
取組内容 | 厳重な品質チェック体制の整備。品質マネジメントシステムの構築。全製品に対する SDS 発行によるサプライチェーン全体の安 全性の確保。 |
SDGs との関連性 | 3.9 2030 年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。 12.2 2030 年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 12.5 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削 減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 |
KPI(指標と目標) | ①不良率を現状の0%で維持する ②返品率を現状の0%で維持する ③2023 年までに、クレーム件数を 2021 年度の2件から▲ 2件削減し、0 件を達成する |
4-3 経済面
インパクトレーダーとの関連性 | 経済収束 |
インパクトの別 | ポジティブ・インパクトの増大 |
テーマ | 産業を支えるファインケミカル製品の効率的な生産 |
取組内容 | さまざまな産業を支えるファインケミカル製品の供給。ノウハウを蓄積した生産管理システム。新たな価値を生み出す研究開発。持続可能性を高めるサプライチェーンマネジメントの高度 化。 |
SDGs との関連性 | 8.2 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済 生産性を達成する。 |
KPI(指標と目標) | ①2025 年までに、労働生産性※を現状の 8,000 円から+ 10%増加させ、8,800 円を達成する |
※労働生産性=付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)/総労働時間
5. 地域経済に与える波及効果の測定
イハラニッケイ化学工業は、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、3年後の売上高を 100 億円に、従業員数を 148 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この目標を達成することによって、イハラニッケイ化学工業は、静岡県経済全体に年間 140 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
6. マネジメント体制
イハラニッケイ化学工業では、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、山梨了志代表取締役社長が陣頭指揮を執り、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動などを棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトレーダーやSDGsとの関連性、KPIの設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、山梨了志代表取締役社長を委員長、松永勝之常務取締役を実行責任者とした、サステナビリティ推進委員会が中心となって展開していく。ISO 会議やゼロ災部会を通じて社内へ浸透させ、KPI の達成に向けて全従業員が一丸となって活動を実施していく。
委員長 | 代表取締役社長 山梨 了志 |
実行責任者 | 常務取締役 松永 勝之 |
担当部署 | サステナビリティ推進委員会 (事務局:管理部企画管理課) |
7. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成および進捗状況については、静岡銀行とイハラニッケイ化学工業の担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場などを通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金およびその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持していることを確認す る。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行とイハラニッケイ化学工業が協議の上、再設定を検討する。
以 上
本評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行および静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するイハラニッケイ化学工業から供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
<評価書作成者および本件問合せ先>
一般財団法人静岡経済研究所
調査部 研究員 中澤 郁弥
〒420-0853
静岡市葵区追手町 1-13 アゴラ静岡 5 階 TEL:054-250-8750 FAX:054-250-8770
第三者意見書
2022 年 12 月 28 日
株式会社 日本格付研究所
評価対象: イハラニッケイ化学工業株式会社に対する ポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行がイハラニッケイ化学工業株式会社(「イハラニッケイ化学工業」)に 対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定したPIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。 PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じ て促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のこと
をいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照しているIFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえでPIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクト領域における「包括的で健全な経済」、「経済収れん」の観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されている。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では 52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、イハラニッケイ化学工業の持ちうるインパクトを、UNEP FI の定めるインパクト領域および SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、イハラニッケイ化学工業がポジティブな成果を発現するインパクト領域を有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行がPIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めたPIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しなが
ら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及びESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして 定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要 素③について、モニタリング結果は基本的には借入人であるイハラニッケイ化学工業から 貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
(第三者意見責任者) 株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価部長
梶原 敦子
担当主任アナリスト 担当アナリスト
梶原 敦子 川越 広志
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候変動イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026