第5章 契約を重視する PM/EVM の実現 43
平成18年度(財)港湾空港建設技術サービスセンター研究開発助成報告書
助成番号 :平成19年2月2日付 第06―6号
研究開発項目:(18指定①)港湾空港等工事における公共調達に関する研究
契約を重視する公共工事システムに関する研究
平成20年4月30日鹿島建設株式会社
xx x
本報告書は、(財)港湾空港建設技術サービスセンター研究開発助成における平成18年度指定課題研究『契約を重視する公共工事システムに関する研究(助成番号:第06-6号)』の研究報告書である。
本研究の助成研究者および共同研究者を以下に示す。
助成研究者 | xx | x | xxxx(株)土木管理本部 参与 |
日本文理大学客員教授 | |||
共同研究者 | xx | xx | 高知工科大学教授(フロンティア工学教室) |
共同研究者 | xx | xx | xx工業大学教授(環境・建築学部環境土木工学科) |
共同研究者 | xx | xx | (有)xxXXエージェント代表取締役 |
平成20年4月30日
目 | 次 | |
第1章 | はじめに····························································································· | 1 |
第2章 | リスクマネジメントの視点から見たわが国の公共工事入札・契約方式の特徴········ | 3 |
2.1 | 本論文での考察の視点··········································································· | 3 |
2.2 | 戦前の入札・契約の実態········································································ | 4 |
(1)競争入札制度導入の効果··········································································· | 4 | |
(2)土建請負契約の封建性·············································································· | 4 | |
(3)入札・契約の実態と談合擁護論·································································· 2.3 高度経済成長期以降の入札・契約の実態(1) -談合・官製談合実施の根源的一因 ········································ | 6 7 | |
(1)発注者と企業に求められる確実性の要件······················································ | 7 | |
(2)わが国の公共工事の不確定性····································································· | 8 | |
(3)談合と官製談合の意義·············································································· | 10 | |
(4)日米の公共工事における不確実性マネジメント············································· 2.4 高度経済成長期以降の入札・契約の実態(2) -結果の確実性を担保するためのしくみ ·································· | 10 11 | |
(1)デビアス・グループのダイヤモンド原石販売方法の特徴································· | 11 | |
(2)旧来の公共工事執行方式とデビアス・グループの原石販売方法との比較 ··········· | 12 | |
(3)旧来執行方式の経済合理性········································································ | 14 | |
(4)安心システムの構成················································································· | 16 | |
2.5 旧来の公共工事執行方式の問題点···························································· | 17 | |
(1)入札・契約システムにおけるリスク分担······················································ | 17 | |
(2)旧来執行方式の潜在的危険性と脆弱性························································· | 18 | |
(3)潜在的危険性の顕在化とその影響······························································· | 19 | |
第3章 わが国の公共工事における契約マネジメントの概要···································· | 23 | |
3.1 公共工事の契約方式と契約書類······························································· | 23 | |
(1)契約方式································································································ | 23 | |
(2)契約価格································································································ | 23 | |
(3)契約約款································································································ | 23 | |
(4)仕様書··································································································· | 23 | |
3.2 公共工事の現行施工・工事監理システム··················································· | 25 | |
(1)出来高管理····························································································· | 25 | |
(2)代金支払································································································ | 26 |
3.3 公共工事における現行の紛争解決方法 26
(1)設計変更 26
(2)契約変更 26
(3)非予見条件 27
(4)紛争決着および第三者仲裁 27
3.4 公共工事に取り入れるべき“契約社会”要素の一例 28
第4章 わが国の公共工事契約の問題点に関する意識調査 29
4.1 受注者アンケート調査の実施 29
(1)アンケート調査の実施 29
(2)アンケート回答結果の要約 30
(3)アンケート調査結果における改善提言 33
(4)アンケート調査回答結果によるキーワードと改善提言 37
4.2 発注者アンケート調査の実施 39
(1)アンケート調査の実施 39
(2)発注者からの回答結果 40
(3)発注者からの具体例と改善意見 40
(4)発注者からの提言 42
第5章 契約を重視する PM/EVM の実現 43
5.1 PM/EVM 導入を必要とする背景 44
(1)建設 PM による工程表の可視化 44
(2)建設 PM の導入効果 46
5.2 建設 PM/EVM の導入 47
(1)アーンドバリュー概念 47
(2)WBS の構築 48
(3)建設 PM/EVM の工程表 50
(4)建設 PM/EVM 導入による効果 51
5.3 建設 PM/EVM 導入のための提言 51
5.4 PM/EVM 導入による公共工事システムの利点 52
第6章 わが国の公共工事入札・契約システム改革の方向性 55
6.1 行政の無謬性担保から国民からの負託担保へ 55
6.2 片務的契約から信頼性契約へ 56
(1)契約の片務性の本質 56
(2)信頼性契約について 56
(3)リスクマネジメントの原則の一例 57
6.3 談合入札から総合的入札へ 58
(1)海外の競争入札制度の特徴と課題 58
(2)Xxxxxxxxx と周の調達方式の特徴 58
(3)わが国の総合的競争入札デザインにおける留意点 59
6.4 出来高部分払方式導入の意義と効果の理論的考察 59
(1)支払い頻度増大による効果 60
(2)工事過程の厳格な制御 60
(3)設計図書変更手続きの一貫性向上 61
第7章 おわりに 63
(1)「契約」に関する提言 63
(2)「工事」に関する提言 63
付録
FIDIC 工事契約約款と公共工事標準請負契約約款との比較表 65
第1章 はじめに
単一民族で協調・調整を旨とする文化を持つ日本の公共工事システムの内、入札制度については、2004 年の品質確保法、2005 年の独占禁止法改正の成立・施行によって、従来からの受注調整の習慣が、今崩れようとしており、遠からず、より健全な技術と価格による自由競争へと進むであろう。このことが、次のxxxとして示唆するのは、我が国の公共工事システムが“契約社会”へと変化する可能性である。
“建設”の特徴は、一般的に注文生産・単品生産・現地生産であり、建設契約とはあくまで、予定される成果物を予定工期・予定金額で調達することである。したがって、予定と異なる形へ変更される可能性を内包する不完備契約といわれる。
したがって、建設では、この不完備性をどう補完してゆくかが大変重要なポイントであり、諸外国や国際建設市場では、変更に対して契約書類に定めた契約条項が補完の役割を果たしていると考えられる。
一方、わが国の建設工事の契約は伝統的に「相互信頼」がベースとなって作成されており、変更の決着などは、基本的に、発注者と受注者の間の「xx」をもとに、調整される傾向が著しいといえる。
本研究は、現在、わが国で行われている「xx」に基づく公共工事の執行過程において、種々の問題点が存在するとの認識から出発する。諸外国で適用されてきている契約履行の制度を参考としつつ、日本以外の公共工事システムへ、「契約重視」の仕組みを着実に取り入れるための、調査・分析・論考・提言を試みる。
本研究の第2章以降の構成は、以下のとおりである。
第2章は、「リスクマネジメントの視点から見たわが国の公共工事入札・契約方式の特徴」である。工事の確実な履行並びに建設企業経営の安定化を実現する上で、入札と契約とは以下に述べるように一体不可分な「分子」として論じる必要がある。最終的に見込みと結果の確実性の循環を実現できる入札・契約のあり方を検討するために、入札・契約の実態の歴史的変遷を概括することを試みる。
第3章は、「わが国の公共工事における契約マネジメントの概要」であり、必要に応じて海外事例と比較しながら、わが国の公共工事における契約マネジメントの特徴を整理する。それらを踏まえて、公共工事に取り入れるべき“契約社会”の要素の一例を示した。
第4章は、「わが国の公共工事契約の問題点に関する意識調査」である。受発注者がわが国の公共工事契約の問題点をどのように捉えているかを明らかにするために実施した意識調査の結果を示す。
第5章は、「契約を重視する PM/EVM の実現」である。建設プロジェクトマネジメント
(PM)の導入および普及については、現在は国を中心に工事管理への PM 適用が試行され、一部の民間においても適用の成果が顕著である。次なる段階として PM のコストコントロール手法である EVM(Earned Value Management)手法導入の検討が一部で開始されている。しかしながら、米国で誕生したこれらのマネジメント手法がわが国の公共工事管理システムにすぐさま適用できるかといえば、制度や商習慣などのいくつもの障壁が存在する。本章では、PM/EVM を導入した場合の効果を明らかにし、公共工事システムへの EVM適用の課題と展望を考察する。
第6章は、「わが国の公共工事入札・契約システム改革の方向性」であり、第5章までの分析結果を踏まえて、納税者意識の高まりと潤沢予算の喪失という二つのシステム環境の変化に対応した新しい入札・契約システムの構成案を示す。
第7章は、「おわりに」であり、本研究の結論および今後の課題を述べた。
第2章 リスクマネジメントの視点から見たわが国の公共工事入札・契約方式の特徴
2.1 本論文での考察の視点
本稿では、図 2-1 に示した公共工事の入札・契約制度設計の基本目標を議論の出発点とする。工事の確実な履行並びに建設企業経営の安定化を実現する上で、入札と契約とは以下に述べるように一体不可分な「分子」として論じる必要がある。発注者にとって入札の目標は、経営の確実性に富む企業の中から、良質な工事を低廉な価格でタイムリーに確実に提供できる能力を持つ企業を選抜することにある。わが国の多くの企業にとって入札の第一の目標は、確実な受注を図ることにあった。契約行為とは、企業は発注者が掲げる入札の目標を確実に達成することを約束し、発注者は企業にその対価を支払う約束を交わした後、相互の約束を果たす一連の行為と捉えることができる。
したがって、理想の入札および契約制度とは、発注者は工事を実施する企業の能力の確実性と工事の確実性の循環を、企業は受注の確実性と経営の確実性の循環を実現できる制度であるといえる。それは、見込みの確実性と結果の確実性の循環を実現できる制度にほかならない。
契約
見込確実性
結果確実性
しかし、両者の循環達成は容易ではなく、また公共工事を取り巻く環境によってその達成方法は異なっていたと考えられる。そこで本章では、最終的に見込みと結果の確実性の循環を実現できる入札・契約のあり方を検討するために、入札・契約の実態の歴史的変遷を概括することを試みる。
見込確実性発注者目標:能力確実性企業目標: 受注確実性
契約
初期契約
結果確実性発注者目標:工事確実性企業目標: 経営確実性
入札
設計図書変更
図 2-1 公共工事の入札・契約制度設計の基本目標
さらに本稿では、考察の視点としてリスクマネジメントの考え方を用いる。これは一般に、a) リスクの発生要因の抽出、b) それらの相互関係の構造化と主要要因の影響分析、c) 対策の策定・実施から構成される。確実性の実現とは、リスクを適切にマネジメントすることにほかならない。
まず不確定性、不確実性、リスクを以下のように定義する。不確定な状態とは、施工条件など「条件」が定まっていない状態であり、不確実な状態とは、工事結果や企業経営状況など「結果」が定まっていない状態を指す。リスクとは、望ましくない不確実な状態を指す。
現実には、確実性の達成を阻害する不確定要因が数多く存在する。ここで、ある主体が不適切なリスク対応策によって確実性達成を図った場合、それは別の主体にリスクを転嫁することを意味する。他の主体は新たなリスクに対応するための対策実施に迫られることになる。
本稿では、各主体がそれぞれ目標とする確実性達成を阻害する要因を整理し(リスク発生要因の抽出)、リスク要因→対策実施→他の主体への新たなリスク要因→他の主体の対策実施・・・、という一連の関係、ならびにその問題点を明らかにした上で(リスク要因の相互関係の構造化と影響分析)、望ましい入札・契約方式の将来像を提案する(対策の策定・実施)ことを試みる 1)。
2.2 戦前の入札・契約の実態
わが国の公共工事に競争入札制度が導入されたのは、1890 年の会計法施行以降である。ただし、図 2-1 で示した見込みと結果の確実性の循環は、容易に実現されなかったと思われる。本章では会計法施行時から主に第二次世界大戦頃までの公共工事入札・契約の実態を概括する。
(1) 競争入札制度導入の効果
好循環を実現できなかった第一の要因は、総体的に請負者の技術力が低い状況の中で、少額の保証金を積めば参加できた競争入札制度を導入したことにあったと考えられる。その結果は、特権的な大会社の没落と小企業の多数乱立であった。xxは工事の結果について「安い賃金で労働者をむさぼりながら、工事のノウハウなどの知識不足のために不完全な施工しかできないものがあとを絶たなかった。手抜き工事も起きた 2)。」と述べている。xxとxxは、工事の監理状況と入札制度の実態を「わが国における請負工事の施工は機械化されることなく、もっぱら下請負人ならびに労働者の精神的な意欲に依存することが多いため、はなはだつよく人的な性格を帯びており、したがって、・・・厳重な工事監督の規定が必然となるばかりでなく、むしろ、注文者にとっては、特殊の信頼関係をもってつらなる人的関係がないかぎり、不安に耐えないのである。・・・したがって、業者のみならず、官僚側もまた、入札制度にはなはだつよくうたがいをもっており、むしろ、入札制度の廃止を希望しているということは、かならずしも一部のひとびとがうたがう如く、注文者と業者との間の不正関係と関連するものではなくして、右にのべた請負における工事の性質、注文者請負人間の特殊な人的関係の基礎の上においては、一つの必然性をもっているのである 3)。」と説明した。xxやxx・xxの指摘は、競争入札によって確実な工事を実施できる業者を選抜することは、決して容易ではなかったことを示している。
(2) 土建請負契約の封建性
見込みと結果の確実性の循環を実現できなかった第二の要因は、xxとxxが明らかにしたところの土建請負契約の封建性であった 2)。
a) 土建請負契約の法社会学的分析とその結果 2)
xxとxxによる分析の特徴の一つは、契約書で示されるところの法規範命題だけでなく、契約実務に現われる現実の法規範関係も調査し、それらと官庁(注文者)と土建業者
(請負人)との相互関連性を法社会学的に分析し明らかにした点にある。xxとxxは、法規範命題は現実の法規範関係の「一つの側面にすぎない」と主張する。前者は後者を「人間の法意識をとおして、命題という観念的型態に再構成した」ものだからである。
xxとxxはまず、法規範命題に以下のように片務的性質が存在することを指摘した。
「土建請負契約は、対等な法主体者の間の規範関係のカテゴリーであるところの「権利」・
「義務」によって構成されているのでなくして、上級者から下級者への下命と、上級者から下級者への自由意思にもとずく恩恵的給付とを、その重要な構成要素としている。この点において、請負契約は、明瞭に片務的性質を有するものと認められなければならない。・・・法律規範の内容が、一方当事者の自由意思にゆだねられているようなものは、近代法的な法律規範ではない。」
次にxxとxxは、現実の規範関係は人情関係に基づくものであることを指摘する。請負人は、法律上当然に主張することができる権利を、契約書の上では与えられていないため、請負人の主張は嘆願という形をとらざるを得ない。これに対して、注文者は請負人に服従を強制する場合もあれば、円満に対応する場合もある。前者の対応は、請負人の卑屈意識を生み、後者の対応は請負人のxx意識を涵養する。
さらに、xxとxxは注文者と請負人との関係は、対等な関係ではなく、上級者下級者という権力支配関係にあると主張する。
以上から、xxとxxは、片務契約性を有する法規範命題、現実の法規範関係、上級者下級者という権力支配関係から構成される注文者と請負人の契約関係は、封建的契約関係にあること、並びに「封建的契約関係が近代的観念型態をとっているということのもっとも重要な意味は、それらの封建的な諸関係における権力関係が、近代法的範疇を通して国家権力の支持を得、それによってその強制力を補強しているという事実である。」と結論付けた。
b) 封建的契約関係の構造と結果
法規範命題
「片務契約」性
現実の規範関係人情関係
図 2-2 は、土建請負の封建的契約関係の構造と結果を筆者の解釈に基づき図示したものである。この構造の特徴は以下のように整理される。
能力
・工事不確実性
法規範命題
「片務契約」性
下命⇔奉仕自由意志 恩恵的給付
現実の規範関係人情関係
懇願・卑屈・xx服従強制・円満
権力支配関係上級者 下級者
潜在的投機性助長
!?
権力支配関係上級者 下級者
図 2-2 土建請負の封建的契約関係の一解釈
第一に、封建的な契約関係は、土木技術者の大半が官庁関係に集中し全般的に請負人の技量が不足する状況において、粗悪工事など工事の不確実性を低減する役割を担ってきたと考えられる。xxとxxは、「特殊な人的な関係がある場合には、業者は、ときには損益を度外視し、恩に報じ意気に感ずる気慨をもってxxにその債務を履行するのであり、注文者はそのような請負人にこそ注文を発することをもっとも適切と考えるのである。」と述べ、恩給的給付が果たした役割を強調した。
第二に、「権力支配関係→契約書の法規範命題→現実の法規範関係→権力支配関係」という循環が存在する。注文者と請負人の間の権力支配関係は、契約書の法規範命題の基盤となっている。この契約書の制約を実際に担保する手段として、現実の法規範関係が生まれている。この現実の関係が権力支配関係を一層強固なものにしている。
第三に、封建的契約関係の存続は、請負業の潜在的投機性存在の一因になっており、その結果、工事を実施するべく選抜された請負人の能力の不確実性、ならびに工事の不確実性をさらに増大する一因になっていると思われる点である。請負人は、発注者からの服従を強制され十分な利益を得ることができない場合もあれば、発注者の円満な対応によって望外の利益を得る場合もある。事実、「ときには、工事の変更を予測し、その際に何とかして貰うつもりで、最初には、不当に安い価格で入札する場合もあると言われている」との指摘もある。このような投機的行動を採る業者は、請負業者全体の能力の発展を阻害し、粗悪工事や工期遅延など工事の不確実性を増大したと考えられる。
このように、土建請負の封建的契約関係は、請負人能力の不確実性と工事の不確実性を低減するために採用された手段の一つと解釈できる。しかし、その結果、請負業の潜在的投機性が助長され、請負人能力と工事の不確実性がさらに増大する危険性が存在したと考えられる。
(3) 入札・契約の実態と談合擁護論
a) 入札・契約の実態
このように、一般競争入札によって選抜された業者が行う工事では、多くのかつ深刻な不確実性が発生する可能性が高かった。戦前の一般競争入札制度と封建的契約関係との組み合わせは、選抜された企業の能力の不確実性が経営の不確実性を増大させ、その結果、能力の不確実性がさらに増大するという「悪循環」が形成された一面があったと考えられる(図 2-3)。
b) xxの談合擁護論 4)
このような状況において、入札の秩序を定着させるために展開された議論が、xxの談合擁護論であった。
xxは、競争入札とは、「xxな自由競争によって、文字通り対等の立場における合意に基づく契約であることが必要」であり、「注文者たる契約の一方の当事者だけが独り有利な立場におかれて、他方の当事者たる請負業者は、社会的にも、経済的にも、全く不平等な条件の下におかれるという如きがあっては、それは決してxxな契約ということができぬ。かかる契約は、履行につき、xxと誠実を期待し得べき契約であるということができないのである」ことを主張する。現実には、「請負業者は著しく経済的弱者の立場」にあり、競争入札の実態を「工事の適正不適正を外にして、ただ最低価格をのみ目的とするものの如き観念を馴致し、この観念が、一種の社会的通念とすらなっている」と強く非難する。
そこでxxは、「談合は、不当な競争入札制度に対する業者自衛の対抗手段」であると結論づける。さらにxxは談合金について、利益率が高くなると予想される工事では多額の談合金の供出が必要であり、他の業者への分配金も多くなるが、利益率が低くなると予想される工事では談合金、分配金とも少額なものになっていることに着目する。談合金には、
「原価を割る不当廉売の無謀な競争を緩和しつつ、互にある限度の利益を抽出」し、「落札価格を合理化することによって、業者にxxと誠実をもって当たる工事」を促すことから、
「請負業者の地位を確保し工事の正しい成果を保障」する機能があると主張したのである。
c) 談合金の意義と限界
xxが指摘した通り、談合金は、請負業者の不当廉売に対する欲求を抑制し、落札価格を「合理化」することによって、工事品質の確保を保証する一種の「市場価格」として一定の役割を果たしていた。談合とその円滑な実施を支える談合金制度は、不完全な競争入
札制度を代替する機能を有していたと考えられる。
談合金の限界は、xxの談合金に対する批判 5)に見出すことができる。xxは、「談合金は適性利潤から支払われるのではなくて、それとは別個の財源、いわば不当にさん奪した利益から支払われるのである。即ち注文者の損失において業者が不当に利得する金銭というのが談合金の真の姿であろう。」と述べた。その上で、談合金はそれを「捻出するための工事の手抜き、又は粗悪な材料の使用の頻発」をもたらすため、談合金の授受は「税金の不当なさん奪と国民大衆に対し重大な危害を加え、禍根を遺す不法不当の所為 5)」であると強く非難した。
片務契約
能力 不確実性
片務契約
初期契約
経営 不確実性
価格競争入札
投機的入札
設計図書変更
xxの談合金批判の本質は、談合金の供出額が常に合理的に決定されるとは限らないことを示した点にある。談合金を捻出するための工事の手抜きや粗悪の材料の使用は、業者数に対して特に工事量が不足している時期に頻発する可能性が高いと考えられる。談合金制度は決して万能ではなかったのである。
価格競争入札
図 2-3 戦前の入札・契約の実態
2.3 高度経済成長期以降の入札・契約の実態(1)-談合・官製談合実施の根源的一因
戦後、指名競争入札の範囲が大幅に拡大する中で、「発注官庁側も、談合による受注を当然の前提として発注を行うようになり」、談合金によらないで利益調整を行う談合システムが形成されていった 6)。ここでは、高度経済成長期の始まりを、東京オリンピック開催に向けて建設事業が飛躍的な発展を遂げはじめた 1957, 58 年頃と設定する。本章では、談合ならびに官製談合実施の根源的一因を考察する。
(1) 発注者と企業に求められる確実性の要件
ここではまず、わが国の公共工事執行において発注者に求められる要件、並びに、わが国の建設企業経営において求められる要件を整理する。
a) 発注者に求められる無謬性
わが国の多くの行政組織には、膨大な量の公共工事の「完璧な」執行、すなわち、過不足のない予算執行、一定水準の工事品質の確保、工事の年度内完工、会計検査への「無難な」対応といった「無謬性」の要請を実現することが求められてきた。
xxは、「日本において行政に対する期待、逆に言えば、行政が自己に課している行政責任には、よく引き合いに出されるアメリカとは異なるものがある。それは、およそ工事が投げ出されるとか極端な疎漏工事などは絶対にあってはならないという考え方である。事後的な損害賠償の議論などは、行政責任を重視する立場からすれば、ほとんど意味のないことなのである。工事の完成についての完璧主義と言ってよい 7)。」と述べ、日米では行政の無謬性に対する期待感には大きな差異があることを指摘している。
日本弁護士連合会のアメリカ入札談合事情調査に関する報告書 8)には、1998 年から 1999年にかけてロサンゼルス市で実施された 89 件の公共工事の落札価格比率、すなわち、積算価格(Engineer’s Estimate)に対する落札価格の比率が掲載されている。それによれば、落札価格比率の平均値は 0.95 であるが、個々の比率は 0.24 から 2.00 の間に分布している。これまでのわが国の大部分の公共工事における落札比率は、1 に近い値であったと考えられる。ロサンゼルス市の発注者価格は、日本の予定価格よりも相当「柔軟に」扱われているようである。
発注者が無理なく無謬性を達成できるのであれば、それは社会的に好ましい。ただし、無謬性を達成するために「不自然な」手段が採られている場合は、その手段の「副作用」の影響を明らかにし、著しい負の影響が存在する場合はそれを低減することが必要である。
b) 建設企業に求められる安定した受注量
わが国の建設企業経営における主な特徴として、終身的雇用関係の維持、下請への配慮、経営事項審査制度への対応があげられる。
わが国の建設会社では、継続的に雇用している自社の従業員や傘下の下請業者への仕事を絶えず確保する必要がある。また旧来の経営事項審査制度の客観的事項による得点において、完成工事高が占める割合が高い。わが国の公共発注者は、この客観的事項の得点等に基づいて、各企業の格付けを決定する。企業が、目標としていた完成工事高を確保できない場合、その企業の次回の格付けは低下し、完成工事高も低下することを意味する。このようにわが国の建設企業経営では受注の確実性が要請されること、すなわち、受注時期を明確にしつつ一定水準の受注量を確保することが極めて重要となる。
(2) わが国の公共工事の不確定性
建設企業経営において受注の確実性が要請されている場合、工事の「不健全な」不確定性が最小化されていることが望ましい。何故なら、大きな不健全な不確定性は、受注者に設計変更における望外の利得獲得の期待感を抱かせるために、或いは、手抜き工事の実施を可能とするために、投機的な入札を誘発する。その結果、他社の入札価格の予測は困難なものとなるため、受注競争の結果は著しく不確実なものとなるからである。
公共工事の不確定性は、a) 発注者の対応に起因する「人為的な」不確定性、b) わが国の建設企業経営特性と労働市場特性に起因する「構造的な」不確定性の大きく二種類に分類される。
本節では、それぞれの不確定性について論じる。
a) 発注者に起因する人為的不確定性
i) 未確定な発注者要求
わが国の公共工事では、一般に設計図書の完成度が低い。齋藤は、「見積条件ないし入札条件としての発注者の要求事項に不明確な部分があっても、契約以前に厳正な明確化を行わないまま落札企業との契約が締結され、実際の工事の進捗に伴い様々な契約変更や設計変更が次々と生じることは我が国の公共工事では珍しいことではない 9)」ことを指摘している。また設計の不備のために工事途中で修正を余儀なくされて、余分な費用が必要となる場合が少なくないといわれている。未確定な発注者要求は、発注者が膨大な工事量を年度内に実施するために採用されている手段の一つと解釈することができる。
ii) 不確定な設計図書変更対応
海外の建設市場では、増額設計変更のための根拠として厳格な定量的根拠が求められる。これに対して、日本では別の工事名目で予算化することが多く、そのような厳格な根拠が求められない場合が多い。齋藤は、「個々の変更について発注者・受注者間で充分な協議が無いまま工事完成に至り、最終的に一括して契約金額の変更ないし工期の変更が、受注者の充分な納得の無いまま曖昧な形で決着する場合が多い 9)」ことを指摘している。また、変更額の支払いについては、予算が十分に無い場合は、業者が損害を被り、予算が潤沢な場合に不足分を受け取るといった予算執行状況に応じた柔軟な対応策が採られている場合も少なくない。不確定な設計図書変更対応は、過不足のない予算執行を実現するための手段の一つと解釈することができる。
iii) 不確定な施工の監理形態
発注者の監理形態は確定しておらず、現場によって異なっている。例えば、監督・検査を行う技術者が不足している地方自治体では、元請企業が実施した施工管理記録の書類を提出させるだけで、発注者側の検査官が一度も来ないという場合もある。不確定な施工の監理形態は、発注者が膨大な工事量を年度内に実施するために採用されている手段の一つと解釈することもできる。
iv) 過確定な現場生産性向上手段
わが国の公共工事では、建前は任意仮設であるが、実際には指定仮設、或いは準指定仮設として扱われる場合が少なくない。また、旧来の指名競争入札制度では、一社しか保有していない技術は、標準技術とはならないという指定工法制度が存在していた。前者の対応は、会計検査に対して無難に対応するための手段であり、後者の対応は予定価格を効率的に算出するための手段といえる。
現場生産性の向上手段が過度に規定されることによって、創意工夫による健全な価格競争の範囲は小さくなる。このことは、価格競争を勝ち抜くためには、手抜き工事の実施など不健全な手段に依存する必要が生じうることを意味する。
健全な不確定性の縮小は、不健全な不確定性の増大をもたらしている。
b) 建設企業経営特性、労働市場特性、施工者技術特性に起因する構造的不確定性
i) 受注量確保の要請に起因する不確定な目標利益水準
前節で述べたように、わが国の建設会社には安定した受注量を確保することが求められている。そのために、受注競争が激化した場合、工事利益を犠牲にする、極端な場合は赤字工事も厭わずに受注を図ることが少なくないと言われている。目標利益水準は、潜在的に不確定であるといえる。
ii) 買い手労働市場特性に起因する不確定な労働賃金
わが国の建設労働市場は歴史的に買い手市場であった。例えば内山は、日本の企業を「平均利潤の追求ではなく、別のもの、すなわち単に生きるために自家労働力を売る場としての企業 10)」と表現している。受注競争が激化した場合、労働賃金は真っ先に「しわ寄せ」を受けることになる。労働賃金は潜在的に不確定であるといえる。
iii) 施工者の技術力不足に起因する不確定な技術水準
施工者の施工技術や見積りを含む管理技術の優劣によって、入札価格は左右される。技術力の低い施工者にとって、現場状況を正確に把握し、的確な施工方法を立案することは必ずしも容易ではない。技術力の低い施工者が入札に加わった場合、入札価格のばらつきは、そうではない場合よりも大きくなると考えられる。現在は戦前よりも民間企業の技術力は大きく向上しており、この不確定性は小さいといえる。
しかし近年、一般競争入札制度が広く導入されることによって、応札者の中に技術力が
不足する業者が増加し、技術水準の不確定性が増大することが懸念されている。
(3) 談合と官製談合の意義
以上を要約すると、発注者は工事の年度内完工、無難な会計検査対応、確実な予定価格の算出、過不足の無い予算執行といった無謬性制約を担保するために、工事における「健全な」不確定性を縮小させ、「不健全な」不確定性を創出している一面がある。これらの発注者の対応は、請負人にとって工事の不確定性を人為的に増大させている。さらに、わが国の建設企業経営と労働市場の特性から、目標利益水準と労働賃金に関する構造的不確定性もまた大きい。
これは、わが国の公共工事の落札価格は、潜在的に不確実であり大きな分散を有していることを意味する。すなわち、談合が成立せずに真の価格競争が行われた場合の落札価格相場は、入札者によって大きく異なっている可能性がある。事実、ダンピング入札では、入札価格が大きくばらつくことが多い。
ここに談合が不可避である一因がある。すなわち、競争入札によって決定される落札価格が潜在的に不確実な状況の下では、建設企業経営の見通しを立てることは容易ではない。このため、建設企業経営の要件である安定した受注量を確保することは著しく困難となる。一方、2.3(2)節で見たように、安定した受注量の確保こそ、わが国の建設企業経営の最大の目標である。目標を達成する有力な手段の一つは、談合によって競争入札を回避することであった。
発注者にとっても、談合は無謬性の制約を達成する上で好都合であった。まず、競争による落札価格の低下は、過不足のない予算消化の原則に反する。また、従来の不確定な監理体制下では、落札価格低減に伴って発生する可能性が高い品質低下の不安を払拭することも困難であったからである。落札価格や品質の不確実性低減の必要性こそ、発注者が談合を黙認することがある一因であり、自らが主導的な立場をとる官製談合が生まれた背景の一つでもあったと考えられる。
(4) 日米の公共工事における不確実性マネジメント
わが国の公共工事における不確実性マネジメントの特徴は、米国の手法と比較することによって、さらに明確になる。
米国では、日本よりも設計図書完成度は高く、また、施工業者からのクレームに対しても一貫性のある対応が求められている。発注者側の検査も出来高部分払いの実施に伴い頻繁に実施されており、監理形態の不確定性もわが国よりも小さいと考えられる。以上から、
2.3(2)節で述べた人為的不確定性は相対的に小さいと考えられる。
米国企業の経営では、まず売上高よりも利潤追求が重視される。雇用形態については、終身的雇用ではなく事業ベースでの雇用が多く、労働組合が発達している地域では、組合によって労働者が供給される。このため、わが国のように従業員の雇用や傘下の下請企業への仕事を確保するための赤字受注を図る必要性は小さい。以上から、目標利潤水準に関する不確定性は小さい。
労働組合が発達している地域では、労働協約によって労働者の賃金が定められていることから、労働賃金に関する不確定性も小さい。
このように、米国の構造的不確定性もまた日本よりも相対的に小さいと考えられる。 ただし、米国では異なる種類の不確定性が存在する。労働組合が強大な権力を握った場
合、元請企業への技能者供給を停止すると脅かすことによって、元請企業からの賄賂を要求する事例が歴史的に多数存在する。米国はこうした racketeering と称される行為に「苦しみ」ながら、これらの行為を刑事罰として摘発することなどによって、それらの発生抑制を図っている。
人為的不確定性、並びに構造的不確定性が小さい状況では、落札価格相場の不確実性も小さくなると考えられる。したがって、米国の競争入札では、日本よりも企業経営の見通しを立てることが容易であると思われる。
渡邊が指摘したように、わが国の公共工事システムの設計・運営の主な目標は社会的不確実性の抑制であるのに対し、米国のそれは官民の癒着防止と工事の経済性追求にあるように見える 11)、という解釈も可能である。ただし、米国が社会的不確実性の抑制について関心が低かったわけではない。上で述べたように、米国では、もともと構造的不確定性が日本よりも小さく、人為的不確定性についても種々の「地道な」方法によって低減する試みがなされてきた。一方、わが国の場合は、まず構造的不確定性が潜在的に大きい。次に人為的不確定性についても、それを低減するのではなく、発注者の無謬性制約を担保するために逆に創出することが行われてきた。工事の不確定性が極めて大きい状況において、山岸がいうところの「社会的不確実性」の発生を回避する有力な手段の一つが、指名と談合、さらには官製談合であったと考えられる。
2.4 高度経済成長期以降の入札・契約の実態(2)
-結果の確実性を担保するためのしくみ
2.3節で明らかにしたように談合と官製談合は、それぞれ公共発注者と企業経営者にとっての見込みの確実性を担保する上で大きな役割を果たしてきた。しかし、これらの方法を採用することによって、工事と経営という結果の確実性が自動的に達成された訳ではなかった。結果の確実性を担保するためには、別のしくみが存在した。
ところで、従来の執行方式は諸外国の方式とは著しく異なる特徴を有すると考えられてきた。ただし、公共工事以外の取引分野に目を向けると、従来の執行方式と同様な特徴を持つ取引形態が存在する。その一つが、デビアス・グループ中央販売機構によるダイヤモンド原石の販売方法である。
Kenney と Klein は、この販売方法の合理性について論じている 12)。本章では、Kenney と Klein の分析を参考にしながら、わが国の旧来の執行方式とダイヤモンド原石販売方法に共通する特徴を明らかにする。さらにこの特徴が、従来の公共工事執行において結果の確実性の担保を可能にした主な要因であることを示す。
(1) デビアス・グループのダイヤモンド原石販売方法の特徴 12)
デビアス・グループ中央販売機構による原石販売方法の特徴は、以下のとおりである 13)。
i) 各原石を、形状・品質・色・重量で定められる等級に分類し、等級分類毎に各原石の価格を決定する。
ii) 招待された購買者だけが、原石を購入できる。
iii) 購買者はサイトと呼ばれる箱に、予め希望した等級の原石を渡される。原石の変更は認
めない。原石の購入を拒否した購買者は将来の購入権利を喪失する。
iv) 原石の価格交渉も認めない。
各等級に分類された原石の真の価値、すなわち、真の取引価格、は同一ではない。同一等級に分類された原石の真の価値の分散は小さくない。各原石の価格は、その等級に分類された原石の価値の平均値とみなすことができる。
手渡された原石の中には、その価値が過大に評価されているもの、すなわち、真の取引価格よりも高い価格が付けられているものも存在すれば、反対に過小評価されている原石も存在し得る。
購買者は、それらの原石の中から過大評価されている原石を探索・発見することは、技術的には可能である。
しかし、過大評価されている原石の探索・発見を認めたならば、それらの原石は売れ残ることになる。売れ残りを回避するためには、販売者も原石等級を正確に評価・分類する必要があるが、そのためには巨額の費用が必要となる。しかも、購買者と販売者の評価基準は同一であるため、両者の評価行為は重複しており、社会的には新たな価値を生み出さない無駄な投資となる。デビアスグループの原石販売方法には、oversearching の回避、すなわち、原石の価値を評価するための費用を節減する利点がある。
原石価値の評価費用を節減した一部は、「プレミアム」として販売価格に上乗せされている。これによって、原石の購入拒否を回避し、円滑な売買取引の成立を図っている。
Kenney と Klein によれば、デビアス・グループには二種類の「ブランド」が存在するという。第一のブランドは、販売方法の費用効率性に関する現在価値の期待値の大きさである。これは、販売者が購入者を欺かないことを保証している。第二のブランドは、費用効率性から生じる節約分を、販売者が購入者と将来に亘って共有するという評判である。これは、購入者が購入拒否を図ることを防止している。
(2) 旧来の公共工事執行方式とデビアス・グループの原石販売方法との比較
公共発注者とデビアス・グループ中央販売機構を取引依頼者、施工者と購買者をそれぞれの取引相手とみたとき、わが国の公共工事の安心システムとデビアス・グループの原石販売方法は多くの共通点を有している。取引依頼者の特性、取引価格の算出方法、取引価格の変更、取引の中止、取引価格の水準、取引相手の決定方法における両者の類似点は表 2-1 のように整理される。
両者の取引における第一の共通点は、依頼者が独占的に大量の取引を実施している点にある。公共工事の年間発注件数が最も多かった昭和 52 年度には、55 万件を超える工事が発注された 14)。多くの取引を円滑に成立させることが、依頼者にとって最も重要な課題の一つとなる。
第二の共通点は、依頼者が過去の多くの取引結果に基づき、効率的な方法で取引価格の統計的標準値または平均値を算出し、それを取引価格の上限値としている点である。わが国の公共工事では、資材単価・設計労務単価・機械損料に関する実態調査並びに施工生産性を表す指標の一つである歩掛りの調査を広範囲に実施することによって、予定価格を算出する 15)。この方法は諸外国と比較すると精緻な算定方法といえる。ただしこの予定価格も、必ずしも各工事の現場特性を必ずしも100%考慮して算出されたものであるとは限らず、標準価格の性質を有している。
第三の共通点は、依頼者が取引価格の上限値を設定し、取引相手からの価格交渉は(原則として)認めない点である。わが国の公共工事では、予定価格に厳格な上限拘束性があ
る。全ての入札価格が予定価格を上回った場合は再入札が実施されるが、この場合でも予定価格は変更されない。また、現行の公共工事標準請負契約約款では、請負業者が発注者に対等の権利を主張(クレーム)する条項がない。請負代金額の変更は甲乙協議して定めるとなっているが、「実際は発注者である甲の種々の事情からの裁量が働きやすい 16)」ことが指摘されて久しい。請負代金の変更額もまた、発注者が実質的には単独で決定する場合が少なくないのである。
ただし、上限拘束性を持つ予定価格制度ならびに発注者の恣意的な設計図書変更には以下の長所がある。取引価格の上限値を設定することによって、まず依頼者の予算管理が容易となる。次に、依頼者と取引相手の双方が、取引の精確な価値を「過度な」厳密性をもって評価しようとする“oversearching”を回避することができた。
第四の共通点は、依頼者が取引価格を「一方的に」決定するにもかかわらず、取引相手からの取引中止の「申し入れ」を事実上認めない点にある。従来の大部分の公共工事では、指名された業者は入札の参加を拒否出来ず、「本命」業者はたとえその工事が赤字になることが分かっていても受注を拒否出来ない。入札不調とすることさえも勇気が必要であった。さらに、契約には含まれていない設計照査業務など発注者から依頼される種々の「サービス業務」も拒否できない。
ある取引相手が取引を拒否すれば、別の取引相手を探す必要があり、その相手にも取引を拒否された場合、さらに別の取引相手を探す必要に迫られる。このように取引拒否を認めた場合、拒否の連鎖によって、取引の円滑な実施が阻害される危険性がある。取引相手からの取引拒否を認めない点こそ、取引実施に関する時間管理を容易にし、多くの取引を成立させる鍵となる。
表 2-1 わが国の旧来公共工事執行方式とデビアス・グループの原石販売方法との類似点
デビアス・グループ | わが国の旧来執行方式 | |||
取引依頼者 の特性 | ・ | 大量の独占的取引 | ・ | 大量の独占取引 |
取引価格の算出方法 | ・ ・ | 平均値としての販売価格 原石の大まかな特徴で等級分類し、原石価格を決定 | ・ ・ | 標準値としての予定価格 予定価格作成において各工事現場特性は必ずしも 100%正確には反 映されない |
取引価格の 変更 | ・ | 価格交渉は認めず | ・ ・ | 予定価格に上限拘束性有 施工者からのクレーム認めず |
取引の中止 | ・ ・ | 原石変更を認めず 購入を拒否した場合は、将来の購入権利を喪失 | ・ | 指名・本命辞退、サービス業務拒否は将来の取引機会を喪失 |
取引価格の 水準 | ・ | 販売価格は、等級の平均価格にプ レミアムを上乗せ | ・ ・ | 民間工事より高め ハイリターンの設計変更手続き |
取引相手の 決定方法 | ・ | 招待された購買者 | ・ | 発注者による指名 |
第五の共通点は、実際の取引価格の平均値は真の価格よりも高く設定されていると考えられる点である。公共工事と民間工事の価格比較が可能な建築工事についてみてみると、一般に、公共工事の価格は民間の類似工事価格よりも高いと認識されており、特に不況時には両者の価格は乖離する傾向にある 17)。
設計図書変更に関しては、既に述べたように不確定な要素が少なくないが、日本の大規模工事における契約方式の実態は、掛かった分だけ支払う「実費精算方式」に近い 11)との発注者側の指摘もある。施工者は設計図書変更手続きに曖昧さを感じる場合があっても、結果として受注工事全体でみると十分な利益水準(ハイリターン)を獲得してきた、と思われる。
ここで、取引価格と真の価格との差を Kenny と Klein による分析にならって「プレミアム」と呼ぶこととする。個々には赤字になる工事が存在し得るが、受注工事全体のプレミアムの平均値は高い正の値であったと思われる。高いプレミアムの値は、取引結果の確実性を担保する上で重要な役割を果たしてきた。
第六の共通点は、依頼者は限られた相手とのみ継続的に取引を行う点である。指名競争入札制度では、指名業者だけが入札に参加することができる。また官製談合では、発注者が「本命」を決定する。取引相手の限定も、取引結果の確実性を担保する上で大きな役割を果たしてきた。
Kenny と Klein は、購買者が過大評価された原石の購入を拒否しない確率を増加させるために、デビアス・グループは、i)原石の等級分類を厳密に行うことによって、等級区分に分類された原石の価値の分散を低減する、ii)価格「プレミアム」をさらに上げる、iii)一回の取引個数を増やす、ことが必要であることを示している。この分析結果は、旧来のわが国の公共工事においても成立する。
指名を通して限られた相手と継続的な取引を行うことによって、当該指名業者との取引の総量、並びに、単位期間あたり(例えば一年間)の取引量が増大する。したがって、指名行為は、上記対策の iii) 一回の取引個数を増やす、ことに相当する。
対策 i)は、真の取引価格の評価費用を、対策 ii)は上乗せするプレミアムの額を引き上げることが必要となるが、対策 iii)では両者の引き上げは不要となる。指名は、費用の効率性を維持しつつ、取引が不成功となる危険性を回避しているのである。
以上六点の共通点を持つ両者の取引において、依頼者が取引相手に抱く期待は、山岸が説くところの安心に相当すると考えられる。依頼者は多くの取引を成立させることを望んでいるため、取引が成立しない場合、依頼者にとっての社会的不確実性は比較的大きい。このため、依頼者は特定の取引相手と長期的コミットメント関係を結び、さらにプレミアムを付加し取引価値を高めに設定することによって、取引相手が取引を中止することは損となるような仕組みを作っている。安心を形成することによって、社会的不確実性の排除を図っているのである。
ただし、取引の効率性が高い理由は、発注者と施工者の双方による oversearching の回避だけにあるのではない。次節では、取引費用アプローチを用いて旧来執行方式の経済合理性を包括的に論じることを試みる。
(3) 旧来執行方式の経済合理性
a) 建設における取引費用
取引費用は、「財・サービスの取引行動に伴い、取引参加者が負担しなければならない費
用」と定義される。
Gruneberg and Eve は、建設サービス調達者にとっての取引費用を以下のように分類した 18)。
i) 調査費用(Search costs):誰が如何なるサービスを如何なる価格で提供しているかを把握するための費用
ii) 仕様書作成費用(Product or service specification costs):必要とするサービスの正確な仕様を決定し、仕様書を作成するための費用
iii) 契約費用(Contract selection, contract design, and negotiation costs):必要とするサービスを調達するために適した契約約款の選定、契約書の作成、契約交渉に要する費用
iv) 業者選定費用(Supplier selection costs):必要とするサービスを提供する業者を選定するための費用
v) 契約監理費用(Contract performance monitoring costs):価格、時間、品質の管理状況を監視し、適切な是正措置を採るための費用
vi) 契約執行費用(Contract enforcement costs):法的措置を採るための費用
建設工事サービス調達に伴う総合的な費用は、建設生産に要する費用に加えて、前節で紹介した取引費用との合計(以下では、「総合工事費用」と呼ぶ)によって表現することができる。それは、
i) 建設生産費用(純建設、金融等費用)
ii) 事前取引費用(調査・仕様書作成・契約・業者選定費用)
iii) 事中取引費用(契約監理費用)
iv) 事後取引費用(契約執行費用)の要素等から構成される。
建設工事サービス調達の効率性は、建設生産費用だけで決定されるものではない。既に述べたように、市場の機能を通して建設生産費用の最小化を図ってきた英国の建設産業は、その非効率性を非難されている。調達の総合的効率性の一端は、総合工事費用の大小によって表現することができる。入札および契約制度を含む公共工事調達制度設計の目標の一つは、総合工事費用を最小化する事前並びに事中取引の制度を設計することにあると考えられる。
b) 旧来執行方式の取引費用水準
旧来方式の取引費用水準は以下のように整理できる。
調査についてはまず、國島が指摘したように、わが国の公共工事の競争入札とは、「同業・同格・同地域の管理された競争(指名競争)19)」であることに留意する必要がある。各企業の格付けも、経営事項審査制度等によって算出される点数に基づき効率的に決定されている。これらの特徴によって、調査費用の低減が図られている。
仕様書作成については、i)顧客要求が未確定であり、設計図書の完成度が低い場合が少なくないこと、ii)過去の多くの取引結果に基づき、効率的な方法で取引価格の統計的標準値または平均値を算出し、それを基に取引価格の上限値である予定価格を求めていること、iii)多くの工種で標準歩掛が制定され、積算基準類が公表されていること 15)、などの特徴がある。これらの特徴によって、仕様書作成費用の低減が図られている。
契約については、分割発注の採用はその費用を押し上げる。その一方、契約候補者からの価格交渉を原則として認めないことによって、真の取引価格の oversearching を回避している。また、発注者と契約者との間には社会的不確実性が排除された安心が存在しているために、契約が果たしてきた役割は小さい。これらの特徴には、契約費用を低減する効果
があった。
落札業者は、実質的には指名・談合、あるいは官製談合によって選定される。業者選定費用もまた小さかった。
契約監理については、各主体の監理・管理に関する役割分担が不明確となっているため、契約監理費用の推定は困難であるが、「「責任施工」のように契約に規定されていない用語を根拠に、受注者への無償の行為を求めること 9)」が少なくない。契約監理費用も小さいといえる。ただし、工事代金の支払いが着手時・竣工時に限定されているため、監理業務、並びにそれらを実施するための必要費用も竣工時に集中するという特徴がある。
契約執行については、契約上の対立・紛争は少ないため、その費用も抑制されてきた。このように旧来の執行方式における事前、事中、事後の取引費用は総体的に小さいと考
えられる。
(4) 安心システムの構成
図 2-4 は、高度経済成長期以降、確立されていったと考えられる入札および契約方式の基本構成である。
行政の無謬性を担保できる企業を選抜するための有力な手段の一つが指名であった。また、そのためのもう一つの手段として、官製談合が実施される場合もあったことが明らかになりつつある。わが国では、建設企業経営が確実である状態とは、一定水準の完成工事高が確保されている状態である。談合は、受注の確実性を担保するための手段であった。指名と(官製)談合入札は、見込みの確実性を達成する上で大きな役割を果たしてきた。
契約は、以下の二つの特徴を持つと考えられる。
第一の特徴は、片務的な契約実務の存在である。公共工事標準請負契約約款の制定と改訂により、契約の片務性は低下してきた。しかし既に述べたように、設計図書の完成度は低く、設計図書変更の対応も論理性・一貫性に欠けるなど、依然として契約実務における片務性と不確定性が色濃く残っている。この特徴は、事前・事中の取引費用を抑えつつ、特に工期管理(注:工程管理ではない)や予算管理の結果の確実性達成に大きく貢献してきた。ただし、この特徴は企業経営の潜在的不確実性を増大させる欠点を持つ「諸刃の剣」でもある。
第二の特徴は、取引費用の節減を請負人と共有するハイリターンな契約特性である。この特性によって、企業経営の確実性は大いに高まったといえる。
デビアス・グループの取引において Kenney と Klein が指摘した二種類のブランドは、わが国の公共工事執行においても存在する。
指名による安心を創出することによって、事前、事中、事後の取引費用の抑制を図っている。低い取引費用によって表現される効率的な工事執行が第一のブランドに相当する。さらにこの低い取引費用は、高めに設定された予定価格や十分な利益を獲得できる設計図書変更から構成されるハイリターンな契約を通して、施工者に還元されてきたと解釈することができる。この施工者への還元の慣習が第二のブランドに相当する。
なお、片務的契約実務の存在は、施工者の公共発注者に対する信頼性を損なう危険性があった。しかし、第二のブランドが、発注者に対する信頼性低下を未然に防止する役割を果たしてきたと考えられる。
潤沢予算
見込確実性行政無謬性
(失敗回避)
受注確実性
安心システム
片務的・ハイリターン契約
“ハイリターン契約”
初期契約
片務的契約
初期契約
結果確実性工事確実性経営確実性
(完成工事高)
指名・談合入札指名・(官製)談合
希薄な納税者意識
設計図書変更
設計図書変更
指名・談合入札
片務的契約
“ハイリターン契約”
片務的・ハイリターン契約
安心システム
結果確実性
見込確実性
図 2-4 安心システムの構成
また旧来の執行方式では、予定価格制度は発注者に二つの効果をもたらした。まず、その上限拘束性は原則として価格交渉を認めないために、予算と時間の管理を容易なものとした。次に、高めに設定された価格水準は、指名制度の併用とあいまって契約の不成立を防止するとともに円滑な工事実施を促したので、時間管理ならびに品質監理を容易なものとした。
渡邊が安心システム 20), 21)と呼ぶ旧来の公共工事執行方式は、指名・(官製)談合入札と片務的契約ならびにハイリターン契約から構成されているが、このシステムは、納税者意識が希薄であったことと潤沢な予算が存在したからこそ、存立が可能であった。この安心システムは、行政の無謬性の担保と企業経営の確実性向上の好循環を促す機能を有していた。
安心システムは、デビアス・グループによるダイヤモンド原石の販売方法と同様に、取引全体の効率的実現を図りつつ、社会的不確実性の発生を回避できる特徴を有していた。資金が潤沢であり大量建設が要請されていた場合には極めて有効であったと考えられる。
2.5 旧来の公共工事執行方式の問題点
しかし、旧来の執行方式には、幾つかの問題点が存在しており、近年それらが顕在化しつつある。本章では、これらの問題点を明らかにすることを試みる。
(1) 入札・契約システムにおけるリスク分担
本節では、以下の議論を進めるための基盤として、入札・契約システムにおけるリスク分担について論じる。
現実には、見込みと結果の確実性の達成を阻害する不確定要因は数多く存在する。
発注者にとっての不確定要因の一例として、補正予算による緊急の工事発注、会計検査院の指摘、政治家の介入などがある。
このような状況の中で、確実性を達成するための主な対応策が、指名、官製談合、人為的な不確定性創出であった。2.4(3)節で述べたように、これらの対応策の取引費用は小さいが、無謬性達成に大きく貢献してきた。
しかし、発注者が無謬性を達成するために採用する「不健全な」不確定性創出と「健全な」不確定性縮小という手段は、施工者に本来不必要なリスク負担を強いることになる場合がある。例えば、予算が無いので増額変更に応じないという発注者の行為は、発注者の予算管理リスクを施工者に転嫁していることにほかならない。また各対応策の実施には「副作用」が伴う。不透明な指名には国民からの不信感増大というリスクが伴い、近年は官製談合にも処罰のリスクが加わった。
施工者が受注と経営の確実性を達成するための手段として、談合のほかに、品質へのしわ寄せや取引業者・労働者へのしわ寄せによる入札価格の低減、利潤圧縮、費用縮減・品質向上を図る技術開発・活用などがあげられる。これらの対応策の採用においても、副作用リスクが伴う。談合に関しては、独占禁止法の罰則が強化された。品質へのしわ寄せには、瑕疵責任を含む施工不良顕在化に伴う賠償責任のリスクがある。取引業者・労働者へのしわ寄せには、不良工事促進のリスク、並びに労働安全衛生法違反等に伴う処罰のリスクがある。利潤を圧縮した受注は経営体力弱体化のリスクを伴う。技術の開発・活用には、開発費を回収できないリスクが存在する。
さらに、技術開発・活用以外の対応策の実施には、他者へのリスク分担・転嫁を伴う。品質へのしわ寄せは利用者に対して施設機能低下のリスクを、取引業者へのしわ寄せは当該業者に対してキャッシュフロー悪化による経営リスクを、労働者へのしわ寄せは建設労働災害リスクの負担を、それぞれ強いることになる。
確実性対応の「展開式」を以下のように定義する。
確実性対応:
不達成リスク(対応策|不確定性)
⊕自己副作用リスク(対応策|不確定性)
⊕他者リスク(対応策|不確定性)
⊕実施費用(対応策|不確定性) (1)
式(1)は、全ての主体に適用することができる。第一項は目標が達成できずに残ってしまう残余リスク、第二項は自己副作用リスク、第三項は他者への転嫁リスク、第四項は実施費用を表す。
理想の入札・契約システムとは、各主体が小さな対策費用で、自己副作用リスク、他者リスクの発生を抑制しながら、それぞれの不達成リスクを最小化できる制度・運用・慣習の集合体であるといえる。
(2) 旧来執行方式の潜在的危険性と脆弱性
a) 旧来執行方式の潜在的危険性
旧来執行方式では、発注者に起因する人為的不確定性と構造的不確定性という二種類の不確定性が、発注者、企業、労働者、利用者の間の不適切なリスク分担を招来する危険性がある。発注者からのリスク転嫁によって、企業の受注・経営のリスクは増大する。このとき、労働賃金は潜在的に不確定であり、施工監理ならびに管理形態は人為的に不確定であるため、労働賃金の削減や手抜き工事の実施など「安易な」対応策を採ることも可能である。これらの行為は、労働事故、工期遅延、粗悪工事(発覚)などのリスクを、労働者さらには利用者に転嫁または分担させる行為にほかならない。
さらに、発注者以外の主体が本来負担すべきではないリスクを負担する危険性が常に存
在するということは、請負業の潜在的投機性が高いことを意味する。
b) 旧来執行方式の脆弱性
2.4(2)節で述べた四つの人為的不確定性と三つの構造的不確定性の中で、設計図書変更に関する不確定性だけは、談合の成立如何にかかわらず顕在化する。施工者がこの不確定性発現に伴うリスクを負担するが、このリスク負担に伴って発生する費用は、最終的に発注者が支払う場合が多いと考えられる。ただし、國島が呼ぶところの「どんぶり勘定」方式が採用されているために 22)、リスク負担と対価の関係、すなわち、施工者が各種のリスクを負担した見返りとして、発注者がどの程度の対価を支払っているかは、必ずしも明確ではなかったと考えられる。
設計図書変更に関する不確定性以外の六つの不確定性は談合成立時には顕在化することは少ない。
談合成立時には、落札金額は殆どの場合予定価格とほぼ等しくなる。労働賃金は予定価格と連動して決定され支払われるため、いわゆる「ピンはね」を行う必要性は小さい。また、品質や安全管理に必要な費用も予定価格に基づいて算出されるため、手抜き管理を行う必要性も小さい。
談合不成立時には、全ての不確定性が顕在化する危険性があり、施工者はこれらに対処する必要に迫られる。
一般的な原則として、評価が困難であるリスクを施工者に負担させることは好ましいことではない 23)。賢明な施工者は大きな不確定性とその顕在化に伴って発生しうるリスクを正確に評価し、適切な対応策を採る。そのための費用は、入札価格の中に計上される。一方、賢明ではない施工者は、これらの大きな不確定性やリスクを正確に評価することができないため、これらの対策費用は、入札価格の中に十分に計上されない。したがって、入札価格競争では、より低い価格の札を入れる賢明ではない施工者が落札する可能性が高い。しかし、品質・工期・費用・安全の管理対策が十分ではないため、大きな損失が発生する危険性が高いからである。
談合または官製談合が成立した場合、安心が創出されることによって、社会的不確実性の発生が排除されるため、旧来の執行方式は安心システムを形成する。
しかし、談合や官製談合が成立しない場合、安心システムの機能は直ちに停止する。この場合、施工者は不適切なリスクを負担する誘因を持ち、潜在的な危険性が顕在化する可能性がある。このとき、「安心システム」ではない非「安心システム」は、入札・契約システム設計・運営の基本目標である工事の確実性を必ずしも実現しないため、システムを形成しない。これは、「不安方式」と呼ぶことができる方式である。
旧来執行方式は、安心システムが機能不全に陥った場合、潜在的危険性が顕在化する不安方式に直ちに移行する。ここに、旧来方式の脆弱性が存在する。
(3) 潜在的危険性の顕在化とその影響
a) 潜在的危険性の顕在化
近年になって、公共工事を取り巻く環境が変化し、潜在的危険性を顕在化する要因が発生している。
第一の変化は、納税者による公共工事執行手続きの公正さの要請が高まっている点である。談合や官製談合は、大量の工事を円滑に実施することを可能としてきたが、この商慣習は、もはや社会的には容認されがたいものとなりつつある。近年は、指名競争入札制度
に代わって一般競争入札制度が多くの発注組織において導入されており、談合や官製談合の実施は減少している。前節で述べたように、談合や官製談合が成立しなければ、潜在的危険性が顕在化する可能性が高い。
第二の工事環境の変化は、潤沢予算の喪失である。これは、特に発注者の設計図書変更対応に大きな変化をもたらす可能性がある。以下では、一つの仮説としてこの変化を説明できるモデルについて論じる。
まず、精算価格を「設計図書変更等に伴う工事金額の変更分」と定義する。潤沢に予算があった旧来の工事方式においては、ある工事において予算が無く、支払いの精算を十分に行うことができない場合、次回の工事で今回の不足分を支払うことが少なくなかった。いわゆる、工事間における精算価格の支払いに関する「貸し借り」が存在していたと考えられる。
「貸し借り」のある工事間の精算価格は、一方が小さければ他方が大きくなるため、両者は互いに負の相関を持つ。この場合、ある施工者が一定期間に受注する複数工事における精算価格の合計の分散は小さくなる。施工者の利益率の分散も小さくなる。
潤沢な予算が喪失しつつある今後は、状況が大いに異なる。
まず、発注者には、今回は「泣いて」貰っても、次回「面倒を見る」ことができる十分な余裕はなくなる。さらに、一般競争入札制度の普及によって、真剣な価格競争が実施されれば、そもそも「次回」の機会さえ保証されるわけではない。このため、工事間の精算価格の「貸し借り」の頻度は減少する。また、社会基盤施設の整備が一定水準に達しつつ状況では、「前例が無い」工事状況が増加する可能性もある。予算に余裕が無いので、近年は工事費の増額変更が議会を通らず工事がストップする例もある。今後は「余裕が無い、或は前例が無い」などの理由で、十分な支払いの精算を得ることができない状態 24)が続く可能性がある。
これらの工事間の精算価格は、互いに正の相関を持つ確率変数となる。この場合、施工者が一定期間に受注する複数工事における精算価格の合計の期待値は減少し、その分散は増大する。すなわち、施工者の利益率が低下するだけでなく、利益率の予測も困難になることが予想される。いわゆる「請け負け」業に陥る危険性がある。
請け負けの問題は工事請負者の設計照査においても深刻化している。「発注者の工事予算に余裕があった時代には、費用の面で請負者側に無理を強いることは少なかったし、請負者側も契約範囲を多少逸脱するものであっても発注者側の意向に従った方が工事利益を確保するうえで得策であったため、このようなことが問題として浮かび上がってこなかったものと思われる。しかし、昨今は公共工事のコスト縮減の影響で工事予算が切迫し、請負者側の利益の確保も厳しい状況になってきたため問題視されるようになっている 25)。」と指摘されている。
今後は、発注者の契約実務対応の一貫性がさらに低下し 26)、請け負けの問題が深刻化する可能性がある。
既に述べたように、ハイリターンな契約は、Kenney と Klein が指摘した第二のブランドを形成し、発注者の信頼性の源泉の一つとなっていた。したがって、ハイリターンなビジネスからローリターン、さらには利益率予測が困難になるハイリスクなビジネスへの変化は、第二ブランドの喪失と発注者の信頼性低下を招来する。その結果、請負業者の工事管理状態は低下し、請負業の投機性が急激に増大する危険性がある。安心システムの潜在的危険性が顕在化する危険性が高まっているのである。
b) 潜在的危険性の顕在化の影響
郷原は談合による「「非公式システム」こそが、まさに日本の公共調達に取り付いている
「ぬえ」にほかならない」とした上で、「・・・「ぬえ」に覆い隠され歪められてきた公共調達の不透明性、不公正さの中で、最近では一部に、談合の個別化、談合金により利益配分の復活等の現象が見えるようになり、さらに憂慮すべきことに、公共工事が暴力団等の裏社会に食い荒らされるという経済社会にとって深刻な現象も一部に見られるようになっている。日本の公共調達に取り付き、半世紀以上にわたって蝕み続けてきた「ぬえ」は、 21 世紀を向かえた日本経済を深刻な病にまで追い込もうとしているのである 6)」と断定する。わが国の入札・契約方式は、図 2-2 で示した実態に逆戻りする危険性さえ帯びている。安心システムに代わって、工事の不確実性と請負業の投機性との悪循環を断ち切る新た
な方式を早急に開発し導入する必要がある。
参考文献
1) 渡邊法美:リスクマネジメントの視点から見たわが国の公共工事入札・契約方式の特性分析と改革に関する一考察、土木学会論文集 F、Vol.62 No.4、pp.684-703、2006.
2) 武田晴人:談合の経済学、集英社文庫、1999.
3) 川島武宜、渡邊洋三:土建請負契約論、日本評論社、1950.
4) 牧野良三:競争入札と談合、建設新書 都市文化社、1984.
5) 高橋勝好:談合入札に関する研究、帝国判例法規出版社、1952.
6) 郷原信朗:独占禁止法の日本的構造、清文社、2004.
7) 碓井光明:日本の入札制度について、公正取引、No.521、pp.22-25、1994。
8) 日本弁護士連合会 消費者問題対策委員会:アメリカの入札制度について 報告書、
2000。
9) 齋藤隆:受注者責任に基づく公共工事システム改革に関する研究、土木学会論文集、
No.798/VI-68、pp.113-124、2005.
10) 内山尚三:談合問題への視点、都市文化社、1988.
11) 渡邊法美:建設サービスのコストと品質、日本の建設産業、pp.219-267、日本経済新聞社、1999.
12) Kenney、R.W. and Klein、B.:The Economics of Block Booking、Journal of Law and Economics、 Vol.XXVI、pp.497-540、1983.
13) Milgrom、P. and Roberts、J.:組織の経済学、奥野正寛ほか訳、NTT 出版、1992.
14) 建設省建設経済局調査情報課監修:公共工事着工統計年度報、建設物価調査会、1998.
15) 國島正彦、福田昌史:公共工事積算学、山海堂、1994.
16) 國島正彦、庄子幹雄:建設マネジメント原論、山海堂、1994.
17) 内閣府政策統括官:平成13年度地域経済レポート 2001-公共投資依存からの脱却と雇用の創出-、財務省印刷局、2002.
18) Gruneberg、S.L. and Ive、G.J.:The Economics of the Modern Construction Firm、Macmillan Press Ltd.、2000.
19) 國島正彦:公共工事システムの将来像、会計検査研究、No.12、pp.65-81、1995.
20) 渡邊法美:「信頼の構造」理論に基づくわが国の公共工事競争入札制度改革に関する一考察、土木学会第 58 回年次学術講演会講演概要集、VI-404、pp.807-808、2003。
21) Watanabe、T.:Framework for Public Procurement Systems Reform Under “Glocalization、”
Proceedings of International Symposium on Globalization and Construction 2004、CIB、 Bangkok、THAILAND、pp.111-121、2004.
22) 國島正彦:時局を論じる 建設会社の体質改善 脱“ドンブリ”へ進め、土木学会誌、2001年 4 月号、pp.4-5、2001.
23) Murdoch、J. and Hughes、W.:Construction Contracts、Second Edition、E & FN Spon、1996.
24) 社会資本整備の抑制基調の転換を求める、建設業界、Vol.53、No.6、pp.14-31、2004.
25) 佐藤峰生:工事請負者の設計照査、ミニ特集 技術は人なり いま、問われる技術者の倫理 第二回 土木技術者が遭遇する倫理問題、土木学会誌、Vol.89、9 月号、pp.75-76、 2004。
26) 国民の理解促進に向けて広報活動を推進,建設業界, Vol.54 ,No.7,pp.14-21,2005.
第3章 わが国の公共工事における契約マネジメントの概要
本章では、必要に応じて海外事例と比較しながら、わが国の公共工事における契約マネジメントの特徴を整理する。それらを踏まえて、公共工事に取り入れるべき“契約社会”への提言を行った。
3.1 公共工事の契約方式と契約書類
(1) 契約方式
わが国の公共事業の入札・契約には、会計法が適用され、法の趣旨から公共調達は原則として、「一般競争入札」により行われることになっているが、現実的には、大部分の発注者は「指名競争入札」を長年実施してきた。これは、発注者が恣意的に入札参加業者を選定できることや入札事務手続きの簡素化のために行われて来たものである。
近年、社会問題となっている公共事業にまつわる多くの問題は、透明性に乏しく、恣意的な「指名競争入札」に起因していると言っても過言ではなく、各発注者で入札・契約制度の改革が進行中である。
(2) 契約価格
従来の入札・契約制度では、予定価格を下回る最低入札価格を提示した業者が落札するものであった。この制度では、一見、経済的な施工が実現できると期待されるが、現実的には、発注者が示した仕様通りの完成品を建設するだけで、施工業者の技術力やそれによる創意工夫を評価することのない極めて活力のない業界になっていた。
最近は、入札金額だけでなく、施工体制や安全管理体制、さらには地域貢献度なども加味して落札業者を決定する「総合評価方式」による入札・契約制度が実施され始めている。
この制度の導入により、施工業者の技術力が評価され、落札価格は若干高くなるものの、品質の良好な完成品が期待される。
(3) 契約約款
昭和 24 年に施行された建設業法の趣旨である建設工事における契約上の「片務性」を排除することや透明性を確保することを目的に、中央建設業審議会が、公共工事の発注者と受注者間の契約を締結するためにあらかじめ共通的な契約事項を定型的に定めた公共工事標準請負約款(以下、「公共約款」という。)を作成した。
公共約款は、国の機関、都道府県、政令指定都市など地方公共団体等の政府関係機関が発注する工事を対象とするだけでなく、電力、ガス、鉄道、電気通信等の公益事業者が発注する民間企業の工事についても使用することができるように作成されている。
制定当初は、契約における片務性の解消および契約内容の明確化を基本に規定されていたが、その後の社会状況の変化などに追随するために、過去数回の改定が行われ、現行の約款となり運用されている。
(4) 仕様書
工事実施に際して要求される性能規定を示したものであり、一般的事項について記載された「共通仕様書」と当該工事特有の技術的用件が記載された「特記仕様書」がある。
請負業者は、この仕様書に記載された事項をすべて満足した完成品を建設することが義務付けられており、工事の各段階で発注者はその内容について監督を行うと共に、検査を行い、所定の事項を満足しているかを判断する。
現行制度に関する問題点として、請負業者は、図面や仕様書など設計図書に記載された通りの物を完成させることが基本であり、請負業者の技術的改善などは考慮されない。このことが、建設関連会社の技術開発意欲を喪失させ、建設技術者の向上心欠如や競争をする必要のない業界となった。
その改善策として、従来の「仕様設計」から性能を規定して、細かい仕様は施工者の技術的判断に委ねる「性能設計」に移行しており、請負業者の技術的技量が発揮できる環境は整いつつある。
ところで、建設事業は屋外で実施されるなどのために、契約当初の条件に変更が生じることが頻繁に起こる。そのために、公共約款(第 18 条)でも具体的項目について規定しているが、それにも片務性が存在する。
表 3-1 に、条件変更に関する FIDIC 約款と現行公共約款の比較を示す。
なお、表 3-1 中の FIDIC 約款は、土木学会建設マネジメント委員会国際問題小委員会契約システム分科会成果報告書(平成 6 年 3 月)を参考にした。
表 3-1 条件変更に関する比較
FIDIC 約款 | 公共約款(現行) |
[変更の指示] エンジニアは、自分の意志で工事遂行上必要であり、かつ工事遂行の目的に適合すると判断する場合、工事もしくはその一部の形状、品質、数量の変更を行う。 (a)工事数量の増減、(b)工事の削除 (発注者もしくは他の業者が行う場合を除く)、(c)工事の性格、品質、種類の変更、(d)工事の一部の高さ、基準線、位置及び寸法の変更、(e)工事完成に必要な追加工事の施工、(f)工事の一部の特定の施工手順の変更。 第 51.1 条 請負者はエンジニアの指示がない限 り、変更を行ってはいけない。数量内訳書(B/Q)の数量に対して施工数量が過不足である場合には、その工事数量の増減には変更は必要ない。第 51.2 条 [工事の欠陥] 工事の変更の指示が請負者の不履行又は契約違反によって必要となり、又は工事の欠陥について請負者が責任を負うべ | [条件変更等] 受注者は、工事の施工に当たり、次の各号の一に該当する事実を発見したときは、その旨を直ちに監督員に通知し、その確認を請求しなければならない。 (1)図面、仕様書、現場説明書及び現場 説明に対する質問回答書が一致しないこと(これらの優先順位が定められている場合を除く。) (2)設計図書に誤謬又は脱漏があること (3)設計図書の表示が明確でないこと (4)工事現場の形状、地質、湧水等の状 態、施工上の制約等設計図書に示された自然的又は人為的な施工条件と実際の工事現場が一致しないこと (5)設計図書で明示されていない施工条 件について予期することのできない特別な状態が生じたこと。 前項の調査の結果において第一項の事 実が確認された場合において、必要があると認められるときは、次の各号に掲げると ころにより、設計図書の訂正又は変更を行 |
きである場合、このような不履行に起因する追加費用は請負者の負担とする。 …第 51.1 条 [変更を確認する義務及び期間] 変更指示を受けた日から14日以内でかつ変更工事の開始前に、以下のいずれかによって通知がなされない場合、第 51条に基づくエンジニア指示による変更工事は、第 51.1 条及び第 51.2 条により査定されない。(a)請負者から追加支払、料率、単価の変更をクレームする旨の通知、(b)エンジニアから料率、単価を変更する旨の通知。 第 52.2 条 | わなければならない。 (1)~(3)までのいずれかに該当し 設計図書を訂正する必要があるもの。発注者が行う。 (4)、(5)に該当し設計図書を変更す る場合で工事目的物の変更を伴うもの。発注者が行う。 (4)、(5)に該当し設計図書を変更す る場合で工事目的物の変更を伴わないもの。 発注者と受注者が協議して発注者が行う。 …第 18 条 4 項 [設計図書の変更] 発注者は、必要があると認めるときは、 設計図書の変更内容を受注者に通知して、設計図書を変更することができる。この場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。 …第 19 条 |
契約上、設計図書とは、図面、仕様書、現場説明書および現場説明に対する質問および回答書からなるが、その変更に関する規定が約款第 19 条にある。(表 3-1 参照)
そこに記載されていることは、「発注者は、必要があると認めるときは、設計図書の変更内容を受注者に通知して、設計図書を変更することができる。この場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。」と極めて発注者の都合のみが優先しており、受注者は変更内容に関する通知を受けるのみで、工期や請負代金の変更についても必要があると認められる時に限定している。
一般的に、設計図書の内容が変更された場合には、図面の修正、対外機関との再調整、材料・労務等の手配および工法などに関する再検討など極めて大きな影響が生じる。このような状況が発生した場合には、発注者は受注者に対して変更が生じた経緯の説明、変更に伴う受注者への照会、さらには可能な工期設定に関する協議、請負代金額の変更に関する協議を対等な立場で実施できる環境を整備すべきである。
3.2 公共工事の現行施工・工事監理システム
(1) 出来高管理
請負業者が部分払いを請求する際には、出来形部分の確認を発注者に請求しなければな らない。発注者は、確認の請求を受理した日から 14 日以内に検査および確認を実施して、その結果を請負業者に通知しなければならない。
確認請求に関しては、回数制限はあるものの、発注者と請負業者が対等の立場で客観的な数値管理により実施されている。
(2) 代金支払
現行の公共事業における前払い金の支払い割合は 30%程度であり、工事完成後の一括支払いを原則にしている。
この前払い金は、当該工事の材料費、労務費、外注費、機械購入費、動力費等にのみ充当することが許されている。
工事完成後の一括支払いこのことは、経済力のない請負業者には負担である。
また、工事の完成に重点が移り、工事の過程には関心が向かず、手抜き工事の一因にもなり得る。
FIDIC 約款では、エンジニアの判断により、工事の出来高に応じて支払われる月次支払いが原則である。
この件に関しても、片務性解消の観点から改善が望まれる。
3.3 公共工事における現行の紛争解決方法
(1) 設計変更
入札・契約時に特記仕様書に現場条件が明示されているが、十分な現地調査が行われていないことに起因する図面、仕様書など設計図書と現場条件の不一致が多発している。公共約款では、「工事現場の形状、地質、湧水等の状態、施工上の制約等設計図書に示された自然的または人為的な施工条件と実際の工事現場が一致しないこと」などが規定されており、それらが該当することになる。
発注者は当然、入札・契約前に現場条件を十分に把握して積算を行い、現場の特殊事情も加味した予定価格を算出する義務を負っている。また、応札業者も現場の状況を理解し、疑義があれば発注者に質問するなどの努力が必要である。
以上の通り、十分な現地調査の結果を反映した特記仕様書およびそのような条件下での施工を想定した積算が必要である。これにより、設計条件と現場条件の不一致による設計変更は大幅に減少するものと思われる。
つぎに、契約締結後に発注者の事情による仕様の変更も実際にはよく起こることである。これに関しては、当然、設計変更の対象であるが、必ずしもその通りには行われていない こともあるようである。
(2) 契約変更
契約変更は設計変更工事完了後に行われるが、発注者との協議により実施した変更工事においても、変更対象として認められる項目および費用はかなり限定される場合がある。主な原因は、発注者内部の意思疎通の不明確さである。すなわち、工事担当部局と積算担
当者の調整が効率よく行われていないことである。このことは、公共事業における契約の片務性の代表格であり、請負業者の無報酬業務にも繋がる重要な問題である。
(3) 非予見条件
公共事業の多くは屋外で実施されるために、工事の発注に際して、十分な事前調査を行っても想定外の施工条件が発生する場合がある。設計図書に明示された施工条件と実際の現場条件と異なる場合には、前述のとおり、施工方法の変更、工事目的物の変更より対処することになるが、「設計図書で明示されていない施工条件について予期することのできない特別な状態が生じたこと」についても公共約款で規定されており、請負者が当初の予定とおりに施工することは困難かつ不適当であるために、施工方法の変更、工事目的物の変更などに関する協議の後に設計変更の対象とすることが明記されている。
(4) 紛争決着および第三者仲裁
公共工事は、発注者と請負者が各々の対等な立場における合意に基づいて、公正な請負契約を締結し、信義に従って誠実に履行されるべきである。
しかし、請負契約では発注者と請負者との間に片務性が存在し、対等性および信義則のバランスが保たれない場合がある。
このような場合を想定して、公共約款では、契約書に発注者と請負者の両当事者が選任した「調停人」を記載することになっている。
そして、発注者と請負者が協議して定めるものについて協議が整わなかった時には、契約書に記載した調停人の「あっせん」または「調停」によりその解決を図ることとしている。さらに、その調停人があっせんまたは調停を打ち切ったときは、建設業法による「建設工事紛争審査会」の「あっせん」または「調停」によりその解決を図ることとしている。
このように、公共約款による紛争処理手順は、
調停人のあっせん又は調停⇒審査会のあっせん又は調停⇒仲裁合意書に基づく仲裁の三段構えである。
発注者と請負者が調停人または建設工事紛争審査会のあっせんまたは調停により紛争を解決する見込みがないと認めたときは、建設工事紛争審査会の「仲裁」に付すことになっている。
最近の申請件数は H18 年度で 210 件(都道府県 149 件、中央 61 件)であり、その内訳は、あっせん 36 件、調停 148 件、仲裁 26 件である。また、工種別では、建築が全体の 73%であり、土木は 15%であった。当事者類型別では、個人発注者⇒請負人が最も多く、つぎに、下請人⇒元請負人となっており、工事瑕疵や工事代金に関することが争点になっている。
以上のことから、「建設工事紛争審査会」は国土交通省の所管であり第三者機関とは言い難く、また、申請件数および内容からも公共約款などで規定されている紛争処理に関する施策は公共事業における片務性を解決するものではないことが分かる。
FIDIC 約款では、この紛争処理に関する詳細な規定があり、紛争処理手順はエンジニアの判断⇒国際商工会議所の仲裁人の仲裁
の二段構えと単純化されており、「エンジニア」が公正な第三者としての技術的判断をするなど「エンジニア」が紛争処理に関して行う役割は大きい。
3.4 公共工事に取り入れるべき“契約社会”要素の一例
現行の公共事業執行における契約上での改善点として、
① 発注者と請負者の二者関係
② 公共約款のさらなる改定
の 2 点についての改善案を提示する。
まず、日本の公共事業においては発注者と請負者という「単純な」二者関係により成立している。この単純さは事業の執行を円滑に実施するものと考えられるが、二者ゆえに、そこには、金を払う方・金を貰う方、そして「官尊民卑」の思想が根強く残っているなど複雑な人間関係も相まって、歪んだ片務性を呈している。また、わが国では訴訟や契約という概念は少なく、問題が発生した時には、契約に基づく「クレーム」ではなく、話合いで解決しようとする風潮が強い。さらに、発注者は「前例主義」で、新規参入業者には極めて消極的である。その背後には、旧知の関係を重視する土壌や「温情」や「義理」など日本人としての「大切な気持ち」が存在する。
今後の公共事業執行では、このような日本古来の「美しい」文化・風土は保ちつつ、必要に応じて「合理的な」欧米型方式の導入を検討すべきである。
そのための一つの方法として、従来の閉鎖的な二者構造に、中立的で専門性の高い第三者を参画させることが考えられる。これにより、透明性の高い執行形態となることが期待される。
ただし、海外の事例を鑑みるに、真に中立的な第三者を参画させることは、必ずしも容易ではないようである。海外の建設事業では、対立・紛争が発生することが少なくないため、エンジニアの地位が低下しているとの指摘もある。三者関係が必ずしも万能ではないことに留意する必要がある。
次に、「公共工事標準請負契約約款」の更なる改定が必要である。例えば、
① 請負代金の支払い方法
FIDIC 約款では、工事の出来高により支払われる月次支払いが原則であるが、公共約款では、前払いと完成一括支払いを原則としている。そのために、発注者および請負人共に、工事の施工過程に関する認識が乏しい。
② リスク
公共約款でリスクに関する項目は、地震・風水害などの天災を中心に記載されているが、今後は、FIDIC 約款にあるように戦争・テロなどの規定も必要である。
③ 契約当事者の表記方法
FIDIC 約款では、発注者を「Employer」、請負者を「Contractor」のように対等な語句で表記しているが、公共約款では、発注者を「甲」、請負者を「乙」のような格差的語句で表記している。
などが、現行公共約款で改定が急がれる項目であると考えられる。
第4章 わが国の公共工事契約の問題点に関する意識調査
本研究では,受発注者がわが国の公共工事契約の問題点をどのように捉えているかを明らかにするために意識調査を行った。本章ではその結果を示す。
4.1 受注者アンケート調査の実施
(1)アンケート調査の実施
平成18年度指定課題研究『契約を重視する公共工事システムに関する研究』の計画に当たり、わが国の公共工事システムの契約上の問題点に関するアンケート調査を本年春に実施した。
この調査では、公共工事の受注者である大手総合建設企業(複数社)の現場管理担当社員を対象とし、工事期間中、発注者・受注者間の行動が契約を遵守したものか否かを社名および回答者指名を匿名とする条件で調査した。
・アンケート調査期間:平成19年3月~5月
・調査対象:大手総合建設企業(複数社)勤務の現場管理責任者(年齢40歳代)
・回答者数:56名
わが国の公共工事は、甲乙が締結した「契約」書類(約款、仕様書等)が、根幹となって厳正に執行されるべきであります。
しかしながら実際の工事期間中、「契約」に基づく措置や処理が軽視されるケース、あるいは「契約」に定めるものと異なる手段・方法で取り決めが行なわれるケース、もしくは
「契約」の範囲を越える業務の実施が要請されるケース等が見出されるとすれば、それらはあるべき健全なシステムには程遠いものと言わざるを得ません。
貴方のご経験・ご見聞の範囲内で、上記のような諸事態があれば、その内容例を匿名にて、記述ご紹介戴ければ誠に有り難く存じます。併せて、そのような事態を改善・改革するためのご提案やご意見もお知らせ戴きたく、お願い致します。
質問内容は以下のとおりである。質問:
(2)アンケート回答結果の要約
アンケート回答結果は記述式で行い、回答意見の内容別に次の9項目に分類した。回答数は、回答者数56名の内、同じ意見内容についてまとめた数値である。
表 4-1 アンケート回答意見の分類結果
No. | 項 目 | 主な回答内容 | 回答数 |
1 | 入札交渉 | 低入札 | 1 |
2 | 契約書類 | 不明確な積算、設計書、施工不可能な契約条件 | 8 |
3 | 設計図書 | 図面作成の無償協力、仕様書および設計書の不備 | 16 |
4 | 工事 | 工事の中止・遅延、仮設工事、契約外の対応 | 27 |
5 | 設計変更 | 契約後の仕様変更、協議なき設計変更 | 26 |
6 | 環境対策 | 粉塵対策・騒音・振動・動植物の保全、環境問題対 応による工種単価 | 2 |
7 | 第三者補償対策 | 第三者補償対応、第三者との補償・契約行為 | 2 |
8 | 監督員の資質及び 理解力 | 監督員の工事の理解力、積算内容の理解力 | 2 |
9 | 各種相談 | 請負者への各種相談、技術情報提供の要請 | 1 |
回答数:85 件
回答数が最も多かった項目は、「工事」27 件(32%)、「設計変更」26 件(31%)である。次に、「設計図書」16 件(19%)、「契約書類」8 件(9%)という結果である。
アンケート回答結果の 9 項目の内、「契約書類」、「設計図書」、「工事」、「設計変更」の 4
項目について、回答意見の主な内容と回答数を示す。
「契約書類」に関する回答は、以下のような結果である。
表 4-2 「契約書類」回答意見の分類結果
No. | 項 目 | 主な回答内容 | 回答数 |
1 | 積算関連 | 積算内容が不明確、仮設工事費は変更が困難、詳細設計付き発注契約は特記仕様書を詳細に 提示すべき、随意契約による経費率の低減 | 4 |
2 | 現場条件 | 設計書の中身が不明確 | 1 |
3 | 施工数量 | 施工条件の違いによる変更、施工不可能な契約 条件、年度内工事の施工範囲の明確化 | 3 |
回答数:8 件
「設計図書」に関する回答は、以下のような結果である。
表 4-3 「設計図書」回答意見の分類結果
No. | 項 目 | 主な回答内容 | 回答数 |
1 | 図面作成の無償協力 | 変更時の無償協力、契約外作業の無償行為、契 約書以外の資料作成 | 5 |
2 | 仕様書の不備 | 仕様書間の矛盾、現場条件の不明記、自然災害 情報の不明記、協議・折衝事項の不徹底 | 7 |
3 | 図面類の不備 | 設計数量の不明記、不明確な仮設の見積り情 報、曖昧な設計内容、追加新規工事にも当初落札率を適用 | 4 |
回答数:16 件
「工事」に関する回答は、以下のような結果である。
表 4-4 「工事」回答意見の分類結果
No. | 項 目 | 主な回答内容 | 回答数 |
1 | 工事の中止・遅延 | 用地買収等による工期延伸、関係諸官庁等との協議未了に伴う遅延、発注者協議の遅れに よる費用増、着工遅延、工事中止期間の経費 | 6 |
2 | 仮設工事 | 共通仮設工事費の積上げと率計上、施工条件に合った仮設工事の不認可、仮設道路の不認 可、不適切な工法・材料による支障 | 4 |
3 | 自然災害時の対処 | 台風接近に伴う工程変更による負担 | 2 |
4 | 技術者の配置変更 | 技術者変更の不認可 | 1 |
5 | 市場単価の減額 | 使用材料の市場単価の減額、保留金の解除 | 2 |
6 | 契約外の対応工事 | 契約外の過度な対応、工事途中で指示される緊急対応工事、掘削中の湧水対策、隣接工区 との横並びの費用削減 | 6 |
7 | 付帯工事の事後処理 | 施工後の附帯工事契約 | 1 |
8 | 別業者との関わり | 関連業者の工程影響による経費等の発生、関 連業者による不良工事のやり直し | 2 |
9 | 埋設物管理者との協議 | 埋設物の直接協議未了、関係資料の作成 | 1 |
10 | 地元対策 | 過度な地元対策による経費等の発生 | 1 |
11 | 現場見学 | 見学会による経費等の発生 | 1 |
回答数:27 件
「設計変更」に関する回答は、以下のような結果である。
表 4-5 「設計変更」回答意見の分類結果
No. | 項 目 | 主な回答内容 | 回答数 |
1 | デザインビルド | 契約(上限拘束性のある)変更の不承認、リス ク分担の不公平 | 2 |
2 | 仕様の変更 | 契約後の仕様変更、甲の都合による仕様変更 | 2 |
3 | 協議なき設計変更通知 | 甲の都合による設計変更通知、一方的な契約変 更の不承認 | 4 |
4 | 設計変更の不承認 | 設計変更の不承認、適正施工での補修費負担 | 2 |
5 | 設計費用の不承認 | 一式計上による数量の不明記、変更指示書の一 方的破棄、違算による一方的な減額、協議なしの積算変更 | 6 |
6 | 契約外の業務 | 設計照査名目での設計費用不払い、契約範囲を超える業務、不明確な提供資料・情報による施 工、設計図面や数量計算書の修正及び新規作成 | 5 |
7 | 参考数量以下の減額 | 請負額違算の協議、協議なしの積算変更 | 3 |
8 | 関連監督署との協議 | 協議遅延による工期遅延、変更図面作成による 費用の不認可 | 2 |
回答件数:26 件
(3)アンケート調査結果における改善提言
以下にアンケート調査で示された改善提言の具体例を項目別に示す。
1)契約は総価・単価契約に改め、また数量表を添付のこと
契約が総価契約一本であるため、金抜き設計書が明示されない。そのため、積算や設計書の中身が不明である。設計書の設計数量は請負の根幹であり、数量変更時に大きな支障をきたす。また、仮設工事費は積み上げ項目が率分に含まれているため、変更が困難である。
2)仕様書には現場の施工条件を可能な限り明確に記載すること
内容明示はあいまいな表現ではなく、その適用範囲と費用分担、責任等を明確に定義してほしい。
仕様書の内容に施工条件や自然災害時の対応、設計数量の参考値など仕様の不明記により請負者が工事開始後に発注側とトラブルになることが多く、契約と費用負担、責任範囲等が片務的であることは否めない
仕様書の内容に関しては、次のような改善意見が多い。
①現場条件の記載がほとんどなく現場確認ができない。
②自然災害情報の明確な記載がない。
③実際に施工不可能な契約条件
④仮設関係が一式の数量表示のため現場での数量変更が認められない。
3)甲の都合による図面作成や仕様変更は設計変更と認めること
仕様書等は契約時の仕様が基本である。契約後の甲の都合による仕様変更は、設計変更の対象となることは一般的な常識である。変更増は認めずに、改定された仕様を乙に強制するのは一方的である。契約の基本を守ることを徹底してほしい。
仕様の変更に関しては、次のような改善意見が多い。
①工事施工中における現場条件と設計条件との不一致が見られる場合、新規工種が発生した場合、設計変更の承認に際しての発注者側組織への説明資料の作成など、請負側が計画及び図面作成を行う場合が非常に多い。
②種々の検討や調査・計画・比較・計算書・図面等の変更は、現実にほとんど無償で行われており、発注者も当然という意識が強い。
このような契約書における図面作成の無償協力は、契約における片務性の大きな原因となるものであり、是正していただきたい。
4)甲が行うべき設計図書変更作業は、甲の技術補助員を増員すること
設計図書の変更は、発注者に変わって請負者が図面や数量計算書の修正や変更、新規の作成を求められる。発注者に図面を作成できる時間(能力)のある人は稀有なため、図面等を作成するための現場監督技術補助員を発注者側で増員することが必要である。
5)契約変更は、変更積算時に本局と出先機関との調整を短期間に、かつ確実に実行する こと
契約変更は設計変更工事完了後に行われるが、出先機関と協議をして仕様・方法を決めて施工しても、変更積算時に本局と出先機関との調整がつかず、項目、費用を切られるケースがある。変更積算時には積算を行なう本局とも直接協議ができるようにすべきである。
請負契約書では「設計変更は協議する」旨の記載となっているが、協議範囲の解釈があまりにも狭いように感じる。また、出先機関もしっかりと本局と調整すべきである。
設計変更に関しては、次のような改善意見が多い。
① 乙が協議打合せ簿を提出し施工承認され、詳細施工計画書を提出して、承諾され施工を実施し、その工事が完了した後に、一方的に甲から『施工は承認するが変更の対象としない』『施工は技術管理費における自主施工』との返答が返って来るケースがあった。一方的な契約変更の不承認であり、協議書は担当者のみの判断で上司に報告するのではなく、甲乙で定期的に協議する場を設け、決着していく機会を与えてほしい。
②中間取下げ出来高検査や年度末には、年度末出来高検査が実施される。少なくとも年度内の変更工事の清算は、この時に実施し、次年度へ繰り越すことを避ける努力をすべきである。
③一式計上による数量が明記されておらず、「一式計上は設計変更を行わない」と発注者が主張する。発注者が積算に使用した数量はすべて公表すべきである。一式計上の詳細も開示すべきである。また、設計変更工事においては本来発注者が行うべき図面作成や数量算出を請負者が行わざるを得ない事態が多くあるが、費用が認められない。本来発注者が行うべき図面作成や数量算出を請負者が行った場合は施工経費ではなくコンサルタント経費を認めるべきである。
④会計検査を理由に積算基準にない工事にまで標準積算を当てはめる。積上げによる積算を実施すべき。
⑤違算を理由に一方的な減額措置。
6)発注者事由による着工遅延については、人件費、経費などを認めること
用地未買収等による発注者の事由により工事が遅延し、結果として工期延伸されるケースは、工事数量が増加にならないので工事費は増額されない。しかし、人件費をはじめとした経費、機械損料等は明らかに負担増となる。甲事由による工事中止命令は速やかに発令し、一時中止に伴う増額変更を必ず行うこと。
着工遅延に関しては、次のような改善意見が多い。
①発注者協議未了に伴う遅延が多く見られる。道路協議、河川協議、自然公園内での開発行為、用地問題の未解決、あるいは貴重な生物種(山岳地帯における貴重な猛禽類等)の保護の制約がある場合等では、乙側の責でないのに工事着手が遅れることがある。
②工事着手遅れを取り戻すための突貫工事や、工期短縮するため現場縮小する工種だけのために人と仮設備を残さなければならない場合がある。
こうした予期せぬ事態に対応するため、発生する費用が乙に適正に計上されているか、または費用算出の資料作りが実質的に乙に押し付けられているかを明確にし、費用協議を
対等に行えるようなルールを作り、口頭支持ではなく、発生時文書など対策の明文化が望まれる。
7)仮設工事は具体的適用例を明示すること
共通仮設工事費や仮設工事費は、経費の考え方を積算標準に適用例を具体的に挙げてほ しい。同様に、工事費も「別途積算」とあるがこれもそれぞれ具体例を挙げるべきである。 施工条件に合った仮設工事は技術管理費として共通仮設費に含まれるものと解釈されるが、受注した業者の施工法、機械等により施工時の応力等も異なってくるため容易に認めても らえない。仮設工事の契約が片務的になっている場合がある。
仮設工事に関しては、次のような改善意見が多い。
①指定仮設工事において、工法・使用材料の不適切さが原因で支障が出た場合、早期に不具合を見つけ、施工前に発注者と協議し、変更すべきは変更するという段階を踏むべきである。
②指定仮設の工法及び材料不適が発見されたら、早期の不具合協議及び変更を認めるべきである。
8)自然災害や近接工事等による作業待機は、実情に合う工期を設定すること
契約当初の工程計画は連続作業として提出されており、自然災害(台風シーズン)が発生する前に進めておくべき基礎工事が近接作業のため着手できない状況が多々ある。このようなケースは、一定期間作業待ちが生じていることを発注者から了解させられる。当然、待機費用の負担が発生する。また、工程変更に伴い、貴重な施工可能日をロスし、困難を伴う時期の施工(台風シーズンや冬季施工)が多くなり工期ぎりぎりとなって乙側の負担が多くなる。
自然災害に関しては、次のような改善意見が多い。
①最近の発注工事の積算工程は、夏冬の太平洋側と日本海側の海象状況の違いや台風シーズンを全く考慮されておらず、標準的な施工日数となっており、実情と合わない工期設定が増加している。
②数社の近接作業または連携を伴った工事を発注する場合は、最近の自然条件の実情を十分反映させた積算日数とする配慮が必要と思われる。
9)関連業者による関わり合いや地元対策は義務ではない
地元業者の施工の未完了などの影響で、自社の担当工区が被害を受けるケースがあり、工期の延長と休止期間中の経費等の支払いは認められない。
特記仕様書に記載されているにも関わらず、「工事中止命令」が出されない特記仕様書に記載されている内容についての契約変更等は甲乙対等で発注者に誠意ある対応をしてもらいたい。
地元対策に関しては、次のような改善意見が多い。
①地元対策などについて、安全指示、地元からの要望という名目で、サービスに近い金額で過度な対策を迫られる場合がある。発注者側が、工事としての指示書を出し、事業
者として地元に対応しているという姿勢を見せてほしい。
②特記仕様書には地元住民の苦情等に対して協議することとなっているが、業者負担で対応せよという姿勢である。地元への対応が悪いと表現され、請負側が当然行うべきこととの認識である。請負者が適正な変更契約を適正な時期に受けられる体制が必要である。
10)第三者折衝を請負者側に担当させることは改めること
契約時に「第三者損害の補償処理に関する覚書」の取り交わしを求められ、これに従ったところ、工事中に生じた広範囲の渇水被害の補償対応を請負者が背負うこととなってしまうケースが多い。
覚書には、「発注者の補償委員会で承認された範囲については補償費を発注者が負担する」と明記されている。発注者の業務を請負者が代行する場合には、人件費を含め必要な経費を適切に認めるべきである。全て施工者任せで発注者は関与してもらえないのが現状である。
(4)アンケート調査回答結果によるキーワードと改善提言
下記の表は、アンケート回答結果の内容を要約したキーワードである。
表 4-6 アンケート回答結果のキーワード(改善提言)
No. | キーワード | 改善提言 |
1 | 設計照査・施工時計算費用不認 | 認定要 |
2 | 変更時の図面作成(無償での協力) | 設計費に含めよ |
3 | 近接工事による作業待機 | 実情に会う工期設定 |
4 | 設計未定による暫定的数量の契約 | 設計確定で契約 |
5 | 異なる仕様書での材料変更 | 変更協議対象とせよ |
6 | 一式で表わす仮設数量 | 仮設数量責任の明確化 |
7 | 共通仮設工事の拡大解釈 | 具体的適用例を明示 |
8 | DB方式 請負者リスク過大分担 | 対応可能性、予見可能性な どでリスク |
9 | 予期せぬ事態の発生時文書でなく口頭支持 | 対策の明文化 |
10 | 指定仮設での材料不適 | 早期の不具合協議及び変 更 |
11 | 協議のない設計変更通知 | 甲乙定期的協議 |
12 | 発注者事由による着工遅延 | 人件費、経費など認めよ (工事中止命令) |
13 | 契約延長における機械長期損料補正 | 仕様書に明記 |
14 | 特記仕様書における機械仕様の不明記 | 明記すべし |
15 | 粉塵対策ガイドラインのための集塵機仕様(費用不認可 | 不適切な対応 |
16 | 設計変更とされる施工承諾とされた(会計検査) | 適切な協議 |
17 | 設計照査名目での設計費不払 | 適正支払 |
18 | 発注者の他省庁協議による工程遅延 | 適正考慮すべし |
19 | 予期せぬ地滑り対策工経費不払(県) | 議会承認手続がネック |
20 | 種々の検討計算は無償(長時間労働) | 契約範囲外を明記 |
21 | 総価契約ゆえの発注者主導 | 単価契約又は数量表添付 |
22 | 用地買収や地元折衝は請負範囲外 | 契約書に明記 |
23 | 発注者が行なうべき設計図書変更作業 | 発注者技術補助員の増員 |
24 | 着工遅延でも工事中止の通知なし | 協議事項とすべし |
25 | 第三者損害の補償対応を請負者が実施 | 覚書は不適正 |
26 | 一式計上は設計変更を行わない | 発注者仕様数量の交渉 |
27 | 請負者への相談や情報要請無料 | 適正協議 |
28 | 発注者と警察の協議での図面作成の同席 | 設計変更ガイドラインを 遵守 |
29 | 参考数量以下では減額する設計変更 | 数量以上でも変更すべし |
30 | 工事中止命令期間中の経費不認 | 認めるべし |
No. | キーワード | 改善提言 |
31 | 特記仕様書での協議対象でも変更なし | 発注者の横暴 |
32 | 第三者折衝を請負側に実施させる | 悪い慣習 |
33 | 協議事項として定義されていても協議なし | 悪い慣習 |
34 | 付帯工事は設計変更でなく事後処理扱い | 悪い慣習 |
35 | 設計図面のミスを請負者が修正 | 発注者又はコンサルの責 任(拒否すれば工事評価点に影響) |
36 | 別業者による工事の未完による着工遅延 | 工事中止命令を出すべし |
37 | 発注者の積算ミスがあっても変更なし | 発注者が非を認めるべし |
38 | 設計変更を避け協議承諾書でお金に反映せず | 甲乙不対等の改善(法改 正) |
4.2 発注者アンケート調査の実施
(1)アンケート調査の実施
公共工事の発注者である地方公共団体(県、政令市)の技術職員、高速道路会社の技術系社を対象とし、工事期間中、発注者・受注者間の行動が契約を遵守したものか否かを聞き取り調査した。
・聞き取り調査期間:平成19年10月~平成20年 1 月
・調査対象:各県庁職員、政令市職員および高速道路会社の技術系職員(年齢40歳代)
・回答者数:15名
わが国の公共工事は、甲乙が締結した「契約」書類(約款、仕様書等)が、根幹となって厳正に執行されるべきであります。
しかしながら実際の工事期間中、「契約」に基づく措置や処理が軽視されるケース、あるいは「契約」に定めるものと異なる手段・方法で取り決めが行なわれるケース、もしくは
「契約」の範囲を越える業務の実施が要請されるケース等が見出されるとすれば、それらはあるべき健全なシステムには程遠いものと言わざるを得ません。
貴方の発注者としてのご経験・ご見聞の範囲内で、上記のような諸事態があれば、その内容例を匿名にて、記述ご紹介戴ければ誠に有り難く存じます。併せて、そのような事態を改善・改革するためのご提案やご意見もお知らせ戴きたく、お願い致します。
質問内容は以下のとおりである。質問:
(2)発注者からの回答結果
直接、面談により回答を得た。回答意見の内容別に次の9項目に分類した。回答数は、同じ意見内容についてまとめた数値である。
表 4-7 聞き取り調査の分類結果
項 目 | 主な回答内容 | 回答数 | |
1 | 契約約款 | 過去からの馴れ合い、無理解 | 12 |
2 | 設計図書 | 図面作成などの無報酬業務依頼 | 10 |
3 | 設計変更 | OB を介した設計変更などの依頼 | 10 |
4 | 第三者補償対策 | 近隣住民・第三者との交渉 | 9 |
5 | 発注者の資質及び 理解力 | 工事内容、契約内容の不勉強 | 13 |
回答数:54件
回答数が最も多かったのは、「発注者の資質及び理解力」24%、「契約約款」22%であり、次に「設計図書」「設計変更」19%という結果である。
「発注者の資質及び理解力」および「契約約款」に関する回答では、発注者自身が契約内容を十分に理解しておらず、過去からの馴れ合いにより、無理難題を受注者に依頼することが多々あった。しかし、発注量の減少により、次を期待できない受注者の態度は厳格になった。
(3)発注者からの具体例と改善意見
発注者への面談調査による回答結果を、「発注者の資質及び理解力」、「契約約款」、「設計図書」、「設計変更」、「第三者補償対策」の5項目に分類し、その中から代表的な意見の具体例と改善意見を要約した。☛はキーワードを示す。
1)発注者の資質及び理解力具体例:発注者の技術力不足
発注者の技量不足も深刻な問題である。施工業者から技術的な質問があっても経験不足から回答できない場合がある。これは、発注機関の人手不足が原因であり、発注機関の多くが施工管理や検査など技術の根幹部分を委託しており、インハウス・エンジニアの養成がなされていないためである。
改善意見:中立的な立場の第三者による支援が必要との意見もあるが、やはり、技術公務員として、譲れない業務がある。「検査」は最後まで残る発注者の任務である。
☛発注者が行うべき技術的判断➜発注者の技術力向上
2)契約約款
具体例:契約条項の無理解・不勉強
発注機関の多くの技術職員は、契約書や約款は事務系職員の所掌であるとの認識があり、まず、真剣に契約書を精査する機会はほとんどない。
また、建設業法や公共工事標準請負契約約款に書かれている趣旨を理解している者は極めて少なく、施工業者の全責任で目的物を安全に建設するものと誤解している。
改善意見:このように、日本人、特に技術系職員は契約という概念に乏しく、また、紛争については、事なかれ主義が最善の方策であるとの認識の者が多い。これに関
しては、今後の日本は、世界のグローバル化の一環で「透明性の確保」「契約遵守の精神」「説明責任」などの思想を身に付ける必要がある。
☛契約遵守の精神構築➜日本的商習慣の改善
3)設計図書
具体例:無報酬業務の依頼
以前は、発注者の恣意的に選んだ複数業者による指名競争入札が主流であり、発注者と受注者は顔馴染みであり、日本古来の風潮、すなわち、官尊民卑的な感情や次回以降の工事においても指名を期待することなどにより、発注者は契約条項以外のことも無報酬を前提に発注者が施工業者に依頼していた場合もあった。
改善意見:入札・契約方式の全面的な見直しのために、大型土木工事では指名競争入札はほとんどなくなり、一般競争入札などに移行しているため、現在では発注者と受注者は顔馴染みということはほとんどなくなり、感情を除外し事務的かつ客観的に業務が遂行されるように改善されてきた。
☛無報酬業務の追放➜契約重視への転換
4)設計変更
具体例:OBの介入による依頼
以前は、多くの施工業者に発注者の退職者(OB)が再就職しており、退職者(OB)が発注者と施工業者の間の良好な関係を取り持ち、設計変更での影響力行使の一面もあった。
改善意見:近年は、公共事業費の削減に加えて、退職者(OB)の再就職が大きな社会問題となり、近年では自粛の雰囲気が高まっている。そのために、退職者(OB)を仲介者とする便宜供与はなくなり、透明性のある、合理的な実施が行われるようになってきた。
☛官民の適切な関係構築➜OBの排除
5)第三者補償対策
具体例:近隣住民との交渉
工事の実施に伴って近隣住民から騒音・振動などの発生による苦情が寄せられることが多い。このような場合、本来は発注者も対応することになっているが、発注後でもあり、近隣住民対応は受注者にまかせている。
改善意見:第三者との補償交渉は、工事の変更、さらには設計変更を伴うことが多く、やはり発注者の責任として近隣住民の対応をすべきである。
☛発注者責任➜契約事項の遵守
(4)発注者からの提言
面談による片務性に関する実態調査を実施したが、やはり長年の商習慣のために、この問題が一朝一夕に解決することは困難であると思われる。日本人には、契約の概念が乏しく、官尊民卑や性善説による思想により、長年、社会制度が保たれてきた。
しかし、外国企業の日本進出や公共事業の談合問題などにより、透明性の確保、説明責任の充実など以前では考慮する必要のない事柄が社会的にも重要なことになってきた。
発注者に対する今回の面接調査の結果、発注者は従来にない複雑化した多用な業務に携わることになり、本来の業務以外のことに忙殺され、技術的研鑽の余裕がないことが判明した。そのような職場環境にあるために、技術力も低下しており、それらが契約の片務性をより一層深刻なものにしている。これに対する打開策としては、技術力のある中立的なプレーヤによる発注者支援も考えられるが、現時点では多くの発注者は拒否反応を示している。
このような状況下では、発注者の任務を見直し、発注者として譲れない任務、例えば「検査」に重点を置いた職員構成にすることも解決策の一つと考えられる。
本問題は、根が深く、従来からの慣習による部分も多いが、発注者と受注者が対等なテーブルについて、真摯に協議を重ねて喫緊に改善するべきである。
第5章 契約を重視する PM/EVM の実現
建設プロジェクトマネジメント(PM)の導入および普及については、現在は国を中心に工事管理への PM 適用が試行され、一部の民間においても適用の成果が顕著である。次なる段階として PM のコストコントロール手法である EVM(Earned Value Management)手法導入の検討が一部で開始されている。
EVM は、アーンドバリュー(Earned Value:達成価値または出来高と訳される)という概念を用いて工程とコストを関連付けて、プロジェクトの進捗状況を管理する手法である。
EVM では、工程とコストが工程表において同一の時間軸上で統合管理されるため、作業のいかなる時点においてもコストの超過や工程の進捗を統合し、一体的な観点から両者の比較を精密に把握することができるので、現在および将来起こり得る問題領域に対し、迅速かつ的確な是正策を講ずることが可能となる。
EVM 手法の導入により、従来の経験と勘に基づく主観的・恣意的な判断ではなく、定量的・可視的に状況を判断することが可能となるので、公共工事システムのプロセスにおいて、真に「契約の双務性」と「透明性」が確立できることが期待される。
しかしながら、米国で誕生したこれらのマネジメント手法がわが国の公共工事管理システムにすぐさま適用できるかといえば、制度や商習慣などの違いにより、いくつもの障壁が存在する。
わが国の工事契約方式は、総価契約を基盤とした「公共工事標準請負契約約款」に準拠している。公共工事標準請負契約の第3条には、請負代金内訳書と工程表について述べた条項がある。この条項では、「乙は契約締結後の設計図書に基づいて、請負代金内訳書及び工程表を作成し、甲に提出しなければならない。内訳書及び工程表は、甲及び乙を拘束するものではない。」と述べられている。
この条項によると、工事の契約当初に請負代金内訳書と工程表を提出すれば、この契約条項以外の条項において定める場合を除き、途中のプロセスを進捗管理するための毎月の工程表提出義務は、契約上は全く拘束されないと解釈できる。
以上のことは、PM/EVM の最大目的である「途中のプロセスで工程とコストを同時に可視化」する必然性は全くないことを意味する。
公共工事システムへの PM/EVM の導入は、公共事業のあり方に関する国民一般からの疑念を払拭し、建設の国際化潮流にも合致することでもあり、契約の双務性を高め、真に公正で透明な公共調達の実現に大きく寄与する可能性がある。
5.1 PM/EVM 導入を必要とする背景
現在、わが国において PM/EVM が着目されている背景としては、主として以下のことが挙げられる。
1)健全な調達制度と適正な調達管理への要請
2)良質な社会資本を低廉な費用でタイムリーに整備する必要性
3)公共調達について真の顧客たる国民への説明責任(アカウンタビリティ)
4)多様な契約方式(DB、CM 等の試行)や新調達方式(PFI 等)への対応
5)出来高部分払いの本格的な施行
6)公共工事における品質確保の促進に関する施策
7)IT の発達と普及(電子政府、CALS/EC、EA、CIO、PMO)
8)市場のグローバル化(欧米 PM 規範の定着)とグローカル化(Glocalization: 吸収と変容のプロセス)
注)DB (Design Build):発注者の代理人として、複数の施工者を管理し、設計者との調整を行い、建設プロジェクトを総合的に運営管理する業務契約方式。
CM (Construction Management):1つの企業または事業体が一体的に設計と施工を実施する同時契約方式。
PFI (Private Finance Initiative):公共サービスを民間企業の資金やノウハウを導入することにより実施する事業方式。
EA (Enterprise Architecture):電子政府の各府省を横断する構築モデルを設計するためのアーキテクチャー。
CIO (Chief Information Officer ):各府省における情報化統括責任者。
PMO (Project Management Office):プロジェクトマネジメントの能力と品質を向上し、プロジェクトマネジメント機能を最大限に発揮するよう支援することを目的に設置される専門組織。
公共調達のプロセスにおける様々な課題・問題を包括的に解決し得るマネジメント手法として、PM/EVM が経済産業省や国土交通省を中心に導入されつつある。
現在、産業界、学界も含め、PM/EVM の具体的な適用について対応検討が進められている。
(1)建設 PM による工程表の可視化
PM とは、プロジェクトの全段階において曖昧さを排除し、明確なルールと合理的な対処という明快な特徴をもつ手法である。この PM を導入すれば、建設においても工事段階に留まらず、あらゆるプロジェクト段階で、「より確実な執行」と「関係者全てが納得のいく解決」という目的を早期に実現できるものと考えられる。したがって、建設 PM は、工事段階だけではなく、建設のライフサイクル(計画・設計・施工・維持管理)全体に亘り、発注者、設計者、施工者の三者が一体となって、それぞれの立場から事業の効率化を目指して主体的に取り組むための総合的管理・運営手法と言える。計画から維持管理まで「建設」の全てを対象として、タイム 、コスト、品質のみならず、スコープ、組織、コミュニ
ケーション、リスク、調達等の多くの要素を統合し、プロジェクトを包括的にマネジメントしていくシステムと定義される。
EVM は、これまでのタイム中心である建設 PM にコスト管理を導入し、工程とコストの統合管理を実現するマネジメントシステムであり、プロジェクトのリアルタイムな現状把握と状況判断を可能にして、コスト縮減を図り、透明性のあるコスト管理を実施することを目的としている。
図 5-1 は、建設 PM の工程表の例(高架橋工事)である。工程表は、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構造図)による階層構造で示されたタスクリスト(作業項目)で構成される。タスクにはスケジュー上のマイルストーン、使用リソース(労務、主要資材、建設機械等)および予算コストが設定されている。
工程表は、プロジェクトの計画とコントロールの過程を図表化したもので、プロジェク ト計画に基づくコントロールを適切に進めていくための基準となるものである。そのため、工程表は、プロジェクト計画が忠実に反映されていることが重要であり、同時にプロジェクトの進捗状況と実績をいつでも基準計画(工程とコストの統合ベースライン)と比較し、常に最新の状態に保持できるよう、速やかに工程表を変更できるものでなくてはならない。工程表には、タイム、リソース、コストが各タスクに割り当てられており、タイムスケ ール領域に日単位で表示されている。実績値の集計(施工歩掛り)は、原価の把握、実績データとして重要であり、正確なデータとして測定する必要があるので、時間単位で集計するのが基本である。現場では、毎日、作業時間、残業時間などを加味したデータを取り
集計する。
図 5-1 建設 PM の工程表(進捗状況と実績作業時間の表示)
(2)建設 PM の導入効果
建設 PM を導入し、活用することにより、以下のような効果を挙げることができる。
1)WBS 構築により建設プロセスが明確になる。
2)円滑な進捗管理ができるため、工程の最新状態を把握できる。
3)リアルタイムにクリティカルパスが把握できる。
4)個別工程間の順序付けから、工程全体がデジタルに重点管理できる。
5)全てのタスクの進捗が工程表によって鮮明に可視化できる。
6)工程の調整作業が効率的にできる。
日本は今、大きな社会変化と混迷の渦中にあり、最適な解決(ソリューション)が強く望まれている。建設産業も同様であり、現在、PM 導入が求められている理由は、概ね次の
5点に要約される。
1)包括的・総合的な視野をもたらすこと
コミュニケーションやリスク、統合など事業全体を見渡すことが可能になる。
2)透明性・可視化に最適な手法
常に最新化され、すべての関係者にビジュアルなデータ・図表・分析結果などが提供できる。
3)全てのプレーヤー向け
現代の建設プロジェクトの関係者(ステークホルダー)は、発注者・受注者のみならず
下請など関連企業、地元自治体や公益企業、地元住民へも及ぶ。PM はこれら全プレーヤーへの情報共有環境の創出と双方向コミュニケーションとを可能とする。
4)アカウンタビリティの向上
今後のマネジメントの課題である「責任をもって事を運び、かつその説明を常に可能とすること」(アカウンタビリティ)は PM の導入により大いに進歩する。
5)契約の片務性の排除
発注者、受注者を共通軸とする WBS の導入により、契約の整合性、双方の責任分担、変更管理の即時化が飛躍的に向上する。
6)国際性の具備
PM は、米・欧を起点とする国際共通の手法であり、PM が適用されているプロジェクトは、国際的にもオープンで、フェアな方法で行われていると認識される。わが国のプロジェクトの閉鎖性を打破するものと言える。
5.2 建設 PM/EVM の導入
EVM の発祥は米国国防省(Department of Defense)において大規模なシステム調達に伴う基準(1967 年 12 月、C/SCSC:Cost/Schedule Control Systems Criteria)として制定され 40 年が経過しており、それに同調して現在では国防以外のプロジェクトや民間企業での適用が増加している。C/SCSC 基準は1997 年に政府調達プロジェクトの義務付けから、民間プロジェクトの基準に変更され、1998 年 7 月に米国国家基準/電子産業連盟(ANSI/EIA) 748 ガイド、EVMS(Earned Value Management System)として正式に公布された。
日本では、2003 年に「EVM 活用型プロジェクト・マネジメント導入ガイドライン」が情報処理振興事業協会から発表され、2007 年 9 月には「EVMS による公共工事の出来高・工程管理の手引き(案)」が国土交通省から発表されている。
(1)アーンドバリュー概念
アーンドバリューとは、予定作業量の内、実際に終了した作業量に相当する予算上の費用であり、作業の実施によって獲得された予算上の価値(達成価値)、すなわち「達成額=アーンドバリュー」を示す(以下、アーンドバリューを出来高と呼ぶ)。実行された作業について予算として計上されていた価値である出来高 EV(Earned Value、BCWP: Budgeted Cost at Work Performed とも呼ぶ)を秤量したものであり、プロジェクトの実績の把握・分析は、これと作業に配分されている計画出来高 PV(Planned Value、BCWP: Budgeted Cost at Work Scheduled)および実際に支出された実工事費 AC(Actual Cost、ACWP: Actual Cost at Work Performed)を比較することにより実行される。このことにより、作業の進捗度を、コストと工程を統合した実行作業の進捗度として把握・分析し、実績と予算との差異をコストの増減によるものか、工程の実態から生じたものかを明確に把握することが可能となる。
(2)WBS の構築
WBS(Work Breakdown Structure: 作業分解構造図)は、工事内容(規模・範囲)を施工目的にしたがってトップダウンの形で階層状(ツリー体系)に分割していき、効果的な工事計画と管理を実施できるように細分化された工事工種体系図である。WBS の構築は、工事内容を作業と場所(工区)の 2 つの要素で捉え、工事区分、工種、作業(細別)の3レベルの階層構造特性にしたがって展開する。WBS の最下位のレベルとなる管理単位は、 WP(Work Package: ワークパッケージ)と呼ばれ、工事を構成する基本的な単位目的物を施工する作業の集合体であり、1 個または数個の基本作業の集まりから構成される。
WP は、作業を実施するタスクの最小単位であり、計画立案、予算編成、スケジューリング、コントロールが可能であり、実績コストの集計や進捗度の測定、実績と予算との差異分析の基本単位となる。また、WP は、作業達成責任を明確にするため、遂行すべき作業と担当組織とを対応づけた組織構造図 OBS(Organizational Breakdown Structure)により定義される。
図 5-2 において WBS のレベル 3 を構成する「フーチング工」の WP は、「敷き砂利」、「均しコンクリート」、「杭頭処理」、「鉄筋組立」、「型枠組立」、「コンクリート打設」、「養生」、
「型枠解体」の基本作業(タスク)から構成されている。基本作業には、契約数量と予算が割り当てられ、施工歩掛りに基づく作業期間、作業の順序関係が明確に定義されており、作業の進捗度、出来高の算定はこの WP を構成するタスクを通じて把握される。
レベル 1
(工事)
WBS
P4 ブロック
P3 ブロック
P2 ブロック
P1 ブロック
1
高架橋工事
レベル 2
1.4
1.3
1.2
1.1
(費目)
フーチング工
1.3.3
レベル 3
橋脚工
掘削工
基礎杭工
(工種)
1.3.1
1.3.2
1.3.4
OBS
第三工事課
第二工事課
工事事務所
第一工事課
レベル 4
(細別)
フーチング工のワークパッケージ(WP)
図 5-2 WBS/WP の例(高架橋工事)
(3)建設 PM/EVM の工程表
図 5-3 は建設 PM/EVM の工程表である。工程表には EVM 指標が表示されている。
図 5-3 建設 PM/EVM の工程表
工程表において、タスク 15「床掘り」は達成率 35%(出来形)の進捗であり、当初工事費 BAC( Budgeted At Completion)は¥1,882,080、計画時の出来高 PV は¥1,045,600、出来高 EV は¥658,728、実工事費 AC は¥780,825 である。
工事進行中の EVM 指標として、次のような指標が計算される。
・工程差異 SV( Schedule Variance)=EV-PV=-¥386,872
計画時の出来高と実際の出来高の差異を金額表示したもの。
・コスト差異 CV(Cost Variance)=EV-AC=-¥122,097
実際の出来高と実工事費のコスト差異。
・工程効率指標 SPI(Schedule Performance Index)=EV/PV=0.63
・コスト効率指標 CPI(Cost Performance Index)=EV/AC=0.84
・残作業効率指標 TCPI(To Complete Cost Performance Index)
=(BAC-EV)/(BAC-AC)=1.11
・完成時予測工事費 EAC(Estimated At Completion)=AC+(BAC-EV)/CPI
=¥2,230,929)
・完成時差異 VAC(Variance At Completion)=BAC-EAC=-¥348,849
タスク 15「床掘り」の進捗状況を要約すると、現在までの出来形実績は 35%である。工程効率指標 SPI は 0.63 と悪く遅延状態であり、工程差異 SV は-¥386,872 である。コスト効率指標 CPI は 0.84、出来高と実工事費の差異を示す CV は-¥122,097 となり予算超過の状態である。
現行のコスト効率指標から、当初工事費の範囲内で完了に必要なコスト効率、すなわち残作業効率指標 TCPI は 1.11 倍となる。
完成時予測工事費 EAC は、結果として¥2,230,929 であり、最終的に完成時差異 VAC は
¥348,849 の予算超過になることが予測される。
(4)建設 PM/EVM 導入による効果
建設工事に PM/EVM を導入する効果としては、以下が挙げられる。
1)真のコストマネジメントが実現できる。
2)プロジェクトの透明性が向上し、優れたアカウンタビリティができる。
3)コスト意識が向上し、緊張感ある運営ができる。
4)変更管理の手続きがスピードアップする。
5)工事代金支払いが健全化(下請企業を含めて)される。
6)結果的に合理的なコスト縮減が実現する。
5.3 建設 PM/EVM 導入のための提言
建設 PM/EVM をわが国の公共プロジェクトに適用する場合、次のような課題がある。 PM/EVM を適用すると、工事の進捗および予算・支出が厳密に管理されるため、従来とは全く異なるシステム導入への抵抗が予想される。例えば、現行は総価契約のために、WBSを基軸とする予算編成、途中経過も公開するためのコスト開示に伴う報告システム、アーンドバリュー値に基づく支払方法など多くの課題が存在する。
第一段階は、WBS は運用でカバーする。
PM/EVM を有効的に活用するためには WBS による予算編成を構築することが必須である。契約が単価・数量契約なら WBS は簡単にできるが、現行の総価契約では、かなりの変更が必要である。現在の工事内訳書だけでは完全な WBS 体系を表すには十分でないが、単価内訳契約的な予算体系(総価単価契約)なら WBS 構築は容易となる。現行の工事請負契約では適用が無理であり、特記条項等による運用ルールでカバーすることにより運用は可能となる。
・第二段階は、「ユニットプライス契約」を適用する。
WBS を構築し、その最下位レベルを構成する WP を作成するには、BQ(Bill Quantity:数量明細表)契約、いわゆるユニットプライス契約に近いものが必要である。
ユニットプライス契約(単価契約)では、そのまま WBS を構築することができる。今後、ユニットプライス型積算方式の浸透が促進されれば、WP の作成が容易となる。
・第三段階は、支払い方式は「出来高払い」が導入されること。
工事代金の支払方式がきちんと出来高に準拠されていることがプロセスを重視する表れである。出来高を完成工事基準で請求する出来高払い(progress payment)が浸透すれば、アーンドバリューに基づく支払いが可能となる。ユニットプライス契約と出来高払いの2つが整備されれば PM/EVM の普及は拡大することが予想される。
5.4 PM/EVM 導入による公共工事システムの利点
1)工程とコストが統合された一元管理が実現する
EVM により、プロジェクトの進捗管理が明確に把握できるため、プロジェクトの進捗状況および完成時工事の状況が随時、正確に把握することができる。工事の各段階で導かれるEVM指標は簡単な数値表現であり、建設のプロセスを国民も含め、関係者全員にとって容易に理解することができ、透明性とアカウンタビリティの向上に役立つ。また、EV M指標は、リスクの大きさも示しているので、有効なリスクマネジメントを実践することができる。
2)アーンドバリューによって適正な出来高払いが行われる
WBS 構築、単価契約、出来高払いの3つが整備されれば事業における真の PM/EVM は実現する。PM/EVM 導入によるインフラ整備が進めば、アーンドバリューに基づいた適正な出来高に応じた支払いが可能となる。
3)WBS に基づく工程の可視化によりリスク分担が明確となる
WBS 導入により、発注者・受注者ともに責任範囲が明確になり、制度面も含めて PM/EVMを活用した公共工事システムが導入できる。WBS を構築することにより、発注者・請負者双方のリスク分担が明確となり、工事の途中経過を見せるプロセス管理と併せて契約の双務性が高まることが期待できる。
建設 PM/EVM の適用は、究極的にわが国の独特の商習慣である持ちつ持たれつの慣行から、論理的合理的な取引への転換をもたらすものである。わが国の建設産業界では、発注者と請負者の信義を前提として営まれてきたこれまでの長い“アウンの呼称”やあいまいな商習慣カルチャーではなく、論理的・合理的なコマースの形で取引が行われることが必須の時代となりつつある。こうした姿勢が本来のあるべき姿であり、もはや時代の要請として免れない事実である。
そのような公共工事システムの大転換に備えてPM/EVM を主体とする業務のやり方を構築し、新しいビジネススタイルへと変革していけば、わが国の建設改革は大きな成果を生む可能性がある。
参考文献
1) 情報処理振興事業協会:「EVM 活用型プロジェクト・マネジメント導入ガイドライン」、
2003 年
2) 国土交通省国土技術政策総合研究所:「EVMS による公共工事の出来高・工程管理の手引き(案)」、平成 2007 年 9 月
3) 土木学会建設マネジメント委員会:「公共工事における EVMS の適用に関する研究」、
EVMS 研究会報告、建設とマネジメントⅩⅩ、建設マネジメント委員会活動報告(2001
年度)、2002 年 3 月
4) QUENTIN W.FLEMING&JOEL M.KOPPELMAN: 「EARNED VALUE PROJECT MANAGEMENT」, 1996, PROJECT MANAGEMENT Institute, Inc.
第6章 わが国の公共工事入札・契約システム改革の方向性
信頼性契約
信頼性システム
結果確実性
見込確実性
本章では、前章までの分析結果を踏まえて、納税者意識の高まりと潤沢予算の喪失という二つのシステム環境の変化に対応した新しいシステムの構成案を示す。新しいシステムの設計と運用では、i)行政の無謬性担保から国民からの負託担保へ、ii)片務的契約から信頼性契約へ、 iii)安心競争入札から総合的競争入札へ、という大きく三つの変革が必要であると考えられる(図 6-1)。
逼迫予算
信頼性システム
見込確実性 信頼性契約
負託実現確実性 初期
(成功開扉) 契約
受注確実性
結果確実性工事確実性経営確実性
(完成工事高・利潤)
総合的競争入札技術競争 価格競争
納税者意識
設計図書変更
総合的競争入札
図 6-1 新しいシステムの構成案
6.1 行政の無謬性担保から国民からの負託担保へ
第一に、システム設計と運用の目標の一つであった「行政の無謬性の担保」を「国民からの負託の担保」に変革する必要がある。日本の安心システムにおける「競争」入札ルールは、「現在の人員体制を維持しながら、「みかけ」の顧客である発注者の無謬性達成要求を満足するための種々のサービス提供に関する競争」と定義することができると考えられる。
既に述べたように過不足のない予算執行、会計検査への無難な対応といった行政の無謬性担保の制約は、建設請負業の投機性増大、ならびに建設企業、労働者や利用者が本来負担すべきではないリスクを負担する遠因となっている。これらのリスクは、指名競争入札制度が運用され(官製)談合が実施されていたときは、顕在することは殆ど無かった。しかしこれらの「廃止」と同時に、リスクが顕在化し深刻な影響をもたらすことが危惧されている。何が国民にとって真の利益かを再度明確にし、その実現を図るべきである。
発注者はまず、指名競争入札と一般競争入札とは、全く異なる入札方式であることを理解し肝に銘じる必要がある。この点について、行政官には大きな意識変革(パラダイムシフト)が求められる。発注者は、今後の公共工事執行において国民から求められる要件の一つは、「失敗の回避」ではなく「成功の開扉」にあることを理解する必要がある。
6.2 片務的契約から信頼性契約へ
第二に、片務的契約を「信頼性契約」に変革する必要がある。以下では、契約の片務性の本質、信頼性契約の意味、ならびにリスクマネジメントの原則の一例について述べる。
(1) 契約の片務性の本質
川島と渡邊が土建請負契約論において強調した契約の片務性とは、それまでの建設業界が問題視していた契約の片務性と異なっていた 1)。片務性の本質を正しく見極めることは、システム改革のあり方を検討する上で大変重要である。
官公署を注文者とする土建請負契約の片務契約性の解決は、当時の建設業界にとっての悲願であった。建設業界が最も強く非難した契約の片務性の一つは、例えば施工者が自然災害等の不可抗力の危険を負担するなどの請負人危険負担の原則にあった 1)。
しかし、川島と渡邊は、「・・・原則そのものが、「片務性」的である、ということの法律的根拠は存在しないもののように思われる。」と述べる 1)。自然災害等の不可抗力の危険を施工者が負担することは、請負の定義に忠実な契約ということができる。わが国の一式請負契約は、米国ではエンタイア・コントラクト(entire contract)と呼ばれる。渡邊は、米国における初期のエンタイア・コントラクトの判例を調査し、「・・・請負人が仕事を初めてから、土壌の性質その他のアンノウン・ファクターのために予想外に工事が困難であったり、又は不可能であるということが分かった場合にさえ、請負人はその責任を解除されるものでないという原則が、かなり厳格に貫かれていることは注目に値いする。(下線は筆者が挿入)」と述べ、米国においてもこの危険は請負人が負担していたことを指摘した 2), 3)。
さらに渡邊は、土建請負契約における請負人危険負担の原則を採用した結果が日米両国では全く異なることを指摘した 2), 4)。米国では、この原則下では、請負人は「与えられた設計において基づき契約価格でその工事を為しうるという合理的判断を下すことができる場合にのみ、その契約に合意するのであり、その保証が得られない場合には入札を拒否すればよい」ので、「請負人の独立的地位を認め企業の合理化を促進することになる」2)。わが国では、当事者は「合理的規範関係たらしめず、支配服従、恩恵懇請等々の関係、顔によるつながり等 4)」によって結ばれた。請負人危険負担の原則は「請負人を、いっそう従属的な地位に追い込むことになった 4)。」
このように、日米両国の相違点を生み出した原因は、原則の厳格な適用の有無にあった。川島と渡邊が問題にした片務性議論の本質とは、発注者による恣意的で非一貫した対応にあった。第三章で詳しく述べたように、依然として発注者のこのような行為に起因する人為的不確定性は大きい。今こそ発注者は、自身の対応を論理的で一貫したものに変革することが必要である。
(2) 信頼性契約について
信頼性契約とは、各主体が自己の信頼性の維持・向上努力を促す契約を意味する。このとき、まず発注者が片務的契約実務を直ちに廃止することによって、自己の信頼性の維持・向上を図ることが必要である。
予算の逼迫に伴って発注者の設計図書変更対応の一貫性がさらに低下した場合、発注者の信頼性は確実に低下する。その結果、元請企業、下請企業、孫請企業等の信頼性が順次低下する「信頼性低下の連鎖」が発生する可能性が高い。戦後は、わが国の建設工事請負
契約の原則として、「公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない」という信義則の実践が図られてきた。発注者の信頼性低下は信義則瓦解の危機をもたらすのである。
わが国の信義則は、一般競争入札導入直後から存在していたわけではない。牧野は、「注文者たる契約の一方の当事者だけが独り有利な立場」におかれた契約は「決して公正な契約ということができぬ。かかる契約は、履行につき、信義と誠実を期待し得べき契約であるということができないのである」と主張した 5)。わが国の信義則は、長い期間をかけて構築のための努力が重ねられてきたと考えられる。
しかし、第四章における受注者アンケートの回答結果は、従来の日本の契約マネジメントは信義に基づくものとは言い難い場合があったことを示している。発注者の受注者に対する期待感は山岸が言うところの「安心」である 6)。安心とは、相手は自分を裏切ったら損をするので、相手は裏切らないとの「確信」を持っている状態である。指名競争入札下において発注者は、受注者が「裏切るはずはない」との安心感を持っていた。この安心感の上に「胡坐をかいてきた」発注者が少なかったと考えられる。片務的契約実務とは、安心が「歪んだ形」で現れたものといえる。
一般競争入札の導入後、各地で不調不落案件が頻発している。一般競争入札の案件では、予定価格の精度を高めるなど、工事の不健全な不確定性を高める片務的契約実務を直ちに廃止すること、すなわち、発注者の信頼性を高めることが不可欠である。
わが国では、今後とも真の信義則を実践するために、真摯な努力を継続していくことが必要であると考えられる。建設実務者は、信頼性契約の実践が真の信義則の中核をなし、その第一歩が発注者の信頼性維持・向上にあることを理解する必要がある。
(3) リスクマネジメントの原則の一例
第一に、不健全な不確定性を低減することである。欧米では、不健全な不確定性を低減できる機能を組み込むことが、競争入札実現のための「定石」になっていると考えられる。米国で労働組合が発達した一因は、組合の存在によって、労働賃金が確定したからであった 7)。英国で積算士(quantity surveyor)が求められた一因は、工事数量を確定し提示することが求められたからであった 8)。これらの組織と職能が持つ機能によって、競争入札において不健全な不確定性が低減されたと考えられる。さらに、欧米の技術界におけるprofessionalismの本質は、恣意性を排除した一貫したサービス提供にある。この機能もまた、工事の不確定性低減に寄与している。
第二に、必要に応じてリスク分担の規則を明確に定めることである。
この一例として、米国で長期間に亘って用いられている Differing Site Conditions(DSC)条項がある。これは請負者が、想定した条件や通常の条件と著しく異なる条件に遭遇したときに顕在化するリスクの影響を緩和するために設けられた条項である 9)。この問題を、契約管理の条項として設けることによって、建設契約の中で解決する手段を提供している。
また、DSC 条項をさらに発展させることによって、大規模トンネル工事に用いられてきたリスク分担手法として、Geotechnical Baseline Report (GBR)がある 9)。ベースラインとは、地質条件の解釈を指す。これ以下の条件で発生するリスクは請負者が負担し、それよりも厳しい条件に起因して発生するリスクは発注者が負担することを定めたレポートである。
第三に、「合理的に」リスク分担を定めることである。
米国では、第二次世界大戦中、建設の迅速性が要請されたため、「ラムプ・サム・コント
ラクトにもどずく請負契約の奨励政策を変えざるをえない事態に直面した 3)。」戦争を契機にコスト・プラス・ア・フィックスト・フィー契約(Cost-Plus-A-Fixed-Fee Contract)が広範に導入された 3)。
請負人が多くのリスクを負うにしたがって、請負人が提示する価格は高くなる。発注者が請負人に過度なリスクを負担させることは、工事リスクが増大するだけでなく、経済的な選択でもない。
契約の自由が大原則の一つになっている欧米では、請負人に特定のリスクを負担させることは、fair(公正)や immoral(不誠実な)であるかという課題として捉えるのではなく、 policy(政策)の課題として捉えるべきであると言われている 10)。
わが国では現在、他業種への転換や自主廃業をする建設企業が増加している。この状況下では、「非合理的な」リスクを請負人に負担させることは、当該工事の魅力だけでなく請負業全体の魅力を低下させる危険性もある。例えば、いずれの主体も予見することが殆ど不可能であるリスクは請負人に負わせないなど、合理的なリスク分担の実現が求められている。
6.3 談合入札から総合的競争入札へ
第三に、談合入札を総合的競争入札に変革することが必要となる。
「契約マネジメントシステム」を上手く運用するためには、競争入札方式を適切にデザインし運用することが肝要である。そこで以下では、海外の競争入札制度の特徴と課題を把握し、近年注目されている新しい調達方式の特徴を概括した上で、わが国の競争入札方式のあり方を議論することを試みる。
(1) 海外の競争入札制度の特徴と課題
多くの建設工事の価格競争入札では、要求仕様を満たす最低価格が競われる。この場合、発注者は要求仕様を最低水準の仕様と捉えるのに対して、受注者はこれを最高水準の仕様と捉えることが一般的である。価格競争入札では、受発注者間において要求水準の捉え方、並びに相手に対する期待感に関して大きな乖離がある。
欧米の契約マネジメントは、この受発注者間の期待感の乖離の基で、お互いの主張を通しながら工事を進めるための思想ならびにツールであるといえる。FIDIC の思想も例外ではない 11)。
しかし、海外市場で取引される建設工事では、工期遅延、費用超過、品質低下、訴訟等多くの問題が存在しており、必ずしも円滑に実施されている訳ではない 12)。また、数多くの事業の「失敗」によって、発注者の代理人であるエンジニアに対する期待感が低下しつつあるとの指摘もある 12)。
全てのリスクに的確に対応するためには、あらゆる可能な状況それぞれについて各当事者が何を行うべきかが正確に指定されている完備契約を作成する必要があるが、それは実際には極めて困難である。受発注者間の期待感の乖離している状況では、欧米の契約マネジメントは必ずしも万能ではないことに留意すべき必要がある。
(2) Kashiwagi12)と周の調達方式の特徴 13)
Kashiwagi は、これらの問題が発生する要因は受発注者間の相互の期待感が乖離している
ことにあり、その根源的原因は「要求仕様を満たす最低価格の競争」という調達方法にあると主張する。そこで、Performance Information Procurement Systems(PIPS)という独自の方法を開発した。その特徴の一端は、
・ 過去の実績を考慮する
・ 不満足な工事履行を低減するために、多段階に亘って High Performer を選抜する
・ 契約の大部分は施工者の品質管理計画から構成する
・ High performer を守り任せることが肝要
・ 発注者代理人の関与(management とcontrol)は最小限にする
にある。
周は、優れた請負者を選抜し、作業を任せ、厳格な受け入れ検査を実施する「信任」方式を開発し実践した。
監督業務などの取引費用を低減しつつ工事を円滑に進めていくことは、世界各地の公共発注者を悩ます難問であるといえる。両者の方式の成功は、この難問解決の第一歩は High performer の選抜にあることを改めて示している。
(3) わが国の総合的競争入札デザインにおける留意点
総合的競争入札のデザインにあたっては、わが国の今後の企業経営において、完成工事高の確保が依然として大きな役割を占めると考えられる点に留意する必要がある。わが国の雇用状況は以前よりも流動的になってきているが、長期的な雇用慣行や専門工事業者との長期的取引関係を重視する風土は一朝一夕には変化しないと考えられる。一定水準受注量確保の要請は、今後とも高いと考えられる。
完成工事高を確保するために、赤字工事も辞さないという入札姿勢を生むため、投機的入札が行われる可能性がある。このことは、特にわが国では、利潤だけでなく一定水準の完成工事高を確保するために、企業が健全なリスクを負担するインセンティブを持つ制度を設計し運用することが極めて重要であることを意味する。
そのためには、国民の負託を効果的・効率的に実現できる広義の技術の開発ならびに適用に関する競争を促すことが有益である。ここでいう広義の技術とは、難易度の高い工事を実現できる知識や技の集合体に限定されない。取り付け道路の滑らかな本線道路への設置など、地域住民が安心して使用できる施設を建設するための「見えない」努力や「ちょっとした」工夫なども含む。現在、総合評価方式を中小規模の工事に拡大して適用されている。成功の鍵の一つは、こうした広義の技術を適切に評価できるか否かにあると考えられる。
6.4 出来高部分払方式導入の意義と効果の理論的考察
信頼性契約を実現するための基盤は、出来高部分払制度の導入にあると考えられる。そこで、本節では、本方式導入の意義と効果に関する理論的考察を試みる。
ここでは、展開式(1)に基づいて、出来高部分払方式導入による i)支払い頻度増大、ii)工事過程の厳格な制御、iii)設計図書変更手続きの一貫性向上、の三つの意義と効果について理論的考察を行う。
(1) 支払い頻度増大による効果
企業が自身の経営リスクを低減する最も「安易な」方法の一つは、労働者へのしわ寄せである。
買い手労働市場の特性に起因する不確定性を低減するためには、労働者への賃金の支払いを確実に実施することが重要となる。基本的に、わが国の建設労働市場はバブル期の好景気時期を除いて買い手市場であった。労働賃金は、原則として需要と供給のバランスによって決定される。今後建設需要が低下していく中で、わが国の労働組合に米国のような賃金確定機能を期待することは困難である。出来高部分払方式の導入によって、企業の財務状況が改善され、労働者への確実な賃金の支払いが図られることが期待される。
国土交通省が実施したアンケート調査結果 14)では、「元請 44%、下請 29%が、本方式の実施により、借入金の削減、資金計画が立てやすくなるなどの財務状況改善の効果がある」と感じていることから、「本方式が広く普及することによる財務状況改善への期待感がうかがえる。」と報告されている。
ただし、発注者の支払いが遅れれば、支払い回数増加に伴う事前取引価格の増大分が金融価格の減少分を上回る可能性が高くなるため、総合的効率性の即効的向上は望めなくなることは言うまでもない。
支払い頻度増大による効果は、これだけにとどまらない。川島と渡邊は、受発注者間の封建的関係に基づく発注者の片務意識が存在することを指摘したのは、50 年以上も前であった。しかし、「恩恵と忠勤義務、希薄な権利・義務意識」の要素は依然として存在していると考えられる。
支払い頻度の増大は、発注者の債務感覚の醸成に貢献すると考えられる。したがって、出来高部分払方式の導入は、発注者の上述の「恩恵と忠勤義務、希薄な権利・義務意識」を排除する「先兵」的機能を有していると考えられる。
(2) 工事過程の厳格な制御
労働者へのしわ寄せと並ぶ最も安易なリスク低減策は、品質へのしわ寄せである。工事量が減少し受注競争が激しくなる状況では、品質へのしわ寄せは施工者にとって益々「絶ちがたい」手段となる危険性がある。これを未然に防止するためには、「出来高部分払方式」の導入が極めて有効である。
まず、工事過程の厳格な制御、すなわち、施工者は日々の品質管理を厳密に行い、発注者側は出来上がった部分の数量、出来形、品質の厳格な検査を行う。施工者の品質管理活動と発注者の受入れ検査活動を統合した、より厳格な品質保証体制を再構築することが求められている。特に高度で複雑な技術が求められる大型の公共工事では、出来高部分払方式の導入は大きな効果をもたらすことが期待される。
出来上がった部分に応じて、発注者が工事代金を毎月支払うことによって、施工者にとっては出来高に応じた工事代金が以前よりも短い間隔で入金されるので、様々な立場の施工業者のキャッシュフローが改善される。
図 6-2 で示したように、出来高部分払方式の導入によって、施工者が厳密な品質管理を実施し、発注者がその結果について厳格な受入検査を実施し、毎月工事代金を支払うことによって施工者間の良好なキャッシュフローを創出するという好循環を生み出すことが期待される。
6.3(3)節でも述べたように、今後は、国民の負託を効果的・効率的に実現できる技術の開発ならびに適用に関する競争を促すことが有益である。
生産性向上対策を活用できる環境を整備し、発注者と施工者の技術者が十分に腕を振るえる状況を生み出すことが必要である。そのためには、プロジェクトマネジメントなどの生産性管理技術も駆使できることが不可欠となる。海外の公共工事では、出来高部分払制度が生産性管理技術を運用するための制度的基盤となっている。出来高部分払方式の導入は、技術の開発・活用に関するリスクを低減する機能も有している。
(3) 設計図書変更手続きの一貫性向上
2.5(3)節で述べたように、このままでは、今後発注者の設計図書変更対応の一貫性がさらに低下する可能性がある。その結果、これまでは、ローリスク・ハイリターンな業務であった設計図書変更が、ハイリスク・ローリターンな請け負け業務に陥る危険性がある。建設企業経営の不確実性は増大し、発注者の信頼性の源泉となっている Kenney と Klein が指摘した第二ブランドは崩壊する可能性が高い。公共工事請負業はもはや魅力の低い仕事となり、国民の安全・安心を確保する施設建設は著しく困難となる危険性さえ存在するといっても過言ではないように思われる。
出来高部分払方式の導入によって、設計変更の双務性が向上したことが報告されている
14)。発注者の恣意性を排除した一貫性のある設計変更手続きによって、精算価格の分散が減
少し、過不足ない変更額の支払いの実現が可能となる。企業経営の不確実性を減少し、発 注者の信頼性を維持する上で、出来高部分払方式の導入は極めて重要な役割を担っている。今後の公共工事では、各施工段階において、検査、検収、査定、設計変更、精算支払い を的確に行う必要がある。出来高部分払方式は、これら一連の業務を円滑に実施するため
に不可欠な制度基盤であると考えられる。
各施工者間の 良好なキャッシュフロー
(約束手形の排除)
発注者の 厳格な受入検査
施工者の 厳密な品質管理
品質保証
品質保証
図 6-2 出来高部分払方式導入で期待される好循環
参考文献
1) 川島武宜、渡邊洋三:土建請負契約論、日本評論社、1950.
2) 渡邊洋三:土建請負契約における危険負担の諸問題(其の一)、建設総合研究、第一巻、第一号、pp.5-18、1952.
3) 渡邊洋三:土建請負契約における危険負担の諸問題(其の二)、建設総合研究、第一巻、
第二号、pp.1-13、1952.
4) 渡邊洋三:土建請負契約における危険負担の諸問題(其の三)、建設総合研究、第一巻、第四号、pp.30-39、1952.
5) 牧野良三:競争入札と談合、建設新書 都市文化社、1984.
6) 山岸俊男:信頼の構造、東京大学出版会、1998。
7) 津田眞澂:アメリカ労働組合の構造-ビジネス・ユニオニズムの生成と発展、日本評論社、1967.
8) Willis、C.J. and Newman、D.:Elements of Quantity Surveying、Eighth Edition、BSP Professional Books、1988.
9) Essex、R.J. :Geotechnical Baseline Reports for Construction、American Society of Civil Engineers (ASCE)、2007.
10) Murdoch、J. and Hughes、W.:Construction Contracts、Second Edition、E & FN Spon、1996.
11) クリス・アール・ニールセン:“絶滅貴種”日本建設産業、草柳俊二監修、2008.
12) Kashiwagi、D.:Best Value Procurement、2nd edition、Performance Based Studies Research Group、Arizona、2004.
13) 周禮良:信任、前衛出版社・草根出版公司、2008.
14) 溝口宏樹:我が国における出来高部分払方式の試行を通じた効果・課題と改善策に関する考察 招待論文、建設マネジメント研究論文集、vol.11、pp.1-13、2004.
第7章 おわりに
公共工事の入札・契約制度の設計と運用とは、各主体間の望ましいリスクと対価の分担を決定し、実現することにほかならない。
旧来の安心システムでは、安心システムは、指名・談合入札と片務的・ハイリターン契約から構成されているが、このシステムは、納税者意識が希薄であったことと潤沢な予算が存在したからこそ、存立が可能であった。この安心システムは、行政の無謬性の担保と企業経営の確実性向上の好循環を促す機能を有していた。
しかし、納税者意識の高まりと潤沢予算の喪失という二つの環境の変化によって、安心システムが機能不全に陥る場合が少なくない。各企業が自己への副作用ならびに他者への影響度を最小としながら、経済的に受注リスクを軽減する対応策を実施できる環境を整備する必要がある。
受注者へのアンケート調査の結果、現行の契約実務には、多くの改善の余地があることが明らかとなった。以下は、多くの受注者から指摘があった項目である。
(1)「契約」に関する提言
・契約は総価・単価契約に改め、また数量表を添付する
・仕様書の内容には、現場の施工条件を明確に記載する
・甲の都合による仕様の変更は設計変更と認める
・契約変更は、変更積算時に本局と出先機関との調整を短時間、かつ確実に実行する
(2)「工事」に関する提言
・発注者事由による着工遅延については、人件費、経費などを認める
・仮設工事は具体的適用例を明示する
・自然災害や近接工事等による作業待機は、実情に合う工期を設定する
・関連業者による関わり合いや地元対策は義務ではないことを再認識する
・第三者折衝を請負者側に担当させることは改める
受注者は、特に契約約款第 18 条、19 条、20 条について多くの改善要望を持っていることが明らかとなった。ただし、問題の性格は、各条項で異なると考えられる。
第 18 条と 20 条に関連する問題の多くは、現場担当者が条項を遵守しないために発生する問題であると考えられる。これに対して第 19 条は、「発注者は、必要があると認めるときは、設計図書の変更内容を受注者に通知して、設計図書を変更することができる。この場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。」と記述されている。条項そのものが、発注者の都合のみを優先する内容となっている。受注者は変更内容に関する通知を受けるのみで、工期や請負代金の変更についても必要があると認められる時に限定されている。
一般的に、設計図書の内容が変更された場合には、図面の修正、対外機関との再調整、材料・労務等の手配および工法などに関する再検討など極めて大きな影響が生じる。このような状況が発生した場合には、発注者は受注者に対して変更が生じた経緯の説明、変更
に伴う受注者への照会、さらには可能な工期設定に関する協議、請負代金額の変更に関する協議を対等な立場で実施できる環境を整備すべきである。
今回の調査・分析を通して、従来の日本の契約マネジメントは信義に基づくものとは言い難い場合があったことが明らかとなった。発注者の受注者に対する期待感は「安心」である。安心とは、相手は自分を裏切ったら損をするので、相手は裏切らないとの「確信」を持っている状態である。指名競争入札下において発注者は、受注者が「裏切るはずはない」との安心感を持っていた。この安心感の上に「胡坐をかいてきた」発注者が少なかったと考えられる。片務的契約実務とは、安心が「歪んだ形」で現れたものといえる。
わが国では、今後とも真の信義則を実践するために、真摯な努力を継続していくことが必要であると考えられる。建設実務者は、信頼性契約の実践が真の信義則の中核をなし、その第一歩が発注者の信頼性維持・向上にあることを理解する必要がある。
付 録
FIDIC 工事契約約款と公共工事標準契約約款との比較表
65
比較表-1(1)[エンジニアおよびエンジニア代理人] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[契約当事者関係] | [契約当事者関係] | [契約当事者関係] | |
発注者、エンジニア、請負者の三者関係のなかで、公平な立場 | 発注者及び受注者の二者関係である。 | 発注者及び受注者の二者関係である。 | |
を取ることが規定されている。実際には発注者が任命するが、エ | |||
ンジニアの中立、倫理が求められる。 | [監督員] | [監督員] | |
(注)発注者と受注者の関係を契約上対等となるために第三者と しての独立した立場が必要である。 | 発注者は、監督員を定めたときは、書面により受注者に通達す る。 ・・・第10 条1 項 | 甲は、監督員を置いたときは、その氏名を受注者に通知しなけれ ばならない。監督員を変更したときも同様とする。・・・第9条第1項 | *書面による通達の項目が消えている。 |
(注)契約上の発注者の権限の一部を行使するものとして、監督員 | |||
[エンジニアの義務] | が置かれている。 | ||
エンジニアは契約書に規定された義務を履行し、権限を行使す | [監督員の権限] | [監督員の権限] | |
ることができる。 ・・・第2.1 条(a) | 契約約款に基づく発注者の権限のうち発注者が監督員に委任し | 契約約款に基づく発注者の権限のうち発注者が監督員に委任し | |
発注者の特別な許可が必要な事項については第 2 部に規定 | たもののほか次の権限を有する。 | たもののほか次の権限を有する。 | |
する。 ・・・第2.1 条(b) | 1、契約履行についての受注者への指示、承諾または協議。 | 1、契約履行についての請負者への指示、承諾または協議。 | |
エンジニアは、契約上の請負者の義務を解除する権限はな | 2、工事施工のための詳細図等の作成、交付、請負者が作成した | 2、設計図書に基づく工事の施工のための詳細図等の作成及び | |
い。 ・・・第2.1 条(c) | 工事関係図書の承諾。 | 公布又は発注者が作成した詳細図等の承諾。 | |
3、設計図書に基づく工程の管理、立会い、工事施工状況の検 | 3、設計図書に基づく工程の管理、立会い、工事施工状況の検査 | ||
[エンジニアの代理人] | 査、工事の材料の試験もしくは検査等。 ・・・第10 条2 項 | 又は、工事の材料の試験もしくは検査(確認を含む)。 | |
エンジニアの代理人は、エンジニアが任命し、代理人はエンジ | ・・・第9 条2 項 | ||
ニアに対して責任を負う。 ・・・第2.2 条 | 発注者は、二名以上の監督員を置き、前項の権限を分担させ | 発注者は、二名以上の監督員を置き、前項の権限を分担させた | |
たときにあってはそれぞれの監督員の有する権限の内容を、監督 | ときにあってはそれぞれの監督員の有する権限の内容を、監督員 | ||
[エンジニアの委任権限] | 員にこの約款に基づく甲の権限の一部を委任したときにあっては | にこの約款に基づく甲の権限の一部を委任したときにあっては当 | |
エンジニアは、その権限のいずれかをエンジニア代理人に対 | 当該委任した権限の内容を、受注者に通知しなければならない。 | 該委任した権限の内容を、受注者に通知しなければならない。 | |
する委任する。またその委任を取り消すこともできる。エンジニア | ・・・第10 条3 項 | ・・・第9 条3 項 | |
の代理人が請負者に与えた伝達事項は、エンジニアが与えたも | |||
のと同等の効力を持つ。ただし、 | |||
(1)エンジニアの代理人が作業、材料、プラント類の否認を怠 | |||
っても、エンジニアがそれらを否認し、請負者に対して手直し | |||
の指示をすることができる。 | |||
(2)請負者がエンジニアの代理人の伝達事項について意義を | |||
申立てる場合エンジニアが最終判断を下す。 | |||
・・・第2.3 条(b) |
比較表-1(2)[エンジニアおよびエンジニア代理人] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[エンジニアもしくはエンジニアの代理人のアシスタント]エンジニアもしくはエンジニアの代理人は、エンジニア及びエンジニアの代理人を補佐するアシスタントを任命する。かかるアシスタントは請負者に対していかなる指示をも発行する権限を持 たない。 ただし、その義務を遂行するためやむを得ず指示を出さざるを得ない場合を除く。この指示はエンジニアの代理人が出したものとみなされる。 ・・・第2.4 条 [エンジニアの代理人の判断に不満があるとき] 請負者は、エンジニアの代理人の指示に不満があるとき、エンジニアに対して異議申し立てを行い、エンジニアの判断を仰ぐ。 ・・・第2.3 条(b) 請負者がエンジニアに対して異議を申し立てるときは、クレー ムを提出する。 ・・・第53 条 | [監督員が不適の場合] 受注者は監督員がその職務の執行に著しく不適当と思われるときは発注者に必要な措置を取ることを要求できる。 ・・・第12 条3 項 | [監督員が不適の場合] 受注者は監督員がその職務の執行に著しく不適当と思われるときは発注者に対して、その理由を明示した書面により、必要な措置 を取るべきことを請求することができる。 ・・・第12 条4 項 |
比較表-2(1)[変更、追加および省略] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[変更の指示] エンジニアは、自分の意志で工事遂行上必要であり、かつ工事遂行の目的に適合すると判断する場合、工事もしくはその一部の形状、品質、数量の変更を行う。(a)工事数量の増減、(b)工事の削除(発注者もしくは他の業者が行う場合を除く)、(c)工事の性 格、品質、種類の変更、(d)工事の一部の高さ、基準線、位置及 び寸法の変更、(e)工事完成に必要な追加工事の施工、(f)工事の一部の特定の施工手順の変更。 …第51.1 条 請負者はエンジニアの指示がない限り、変更を行ってはいけない。数量内訳書(B/Q)の数量に対して施工数量が過不足である場合には、その工事数量の増減には変更は必要ない。 …第51.2 条 [工事の欠陥] 工事の変更の指示が請負者の不履行又は契約違反によって必要となり、又は工事の欠陥について請負者が責任を負うべきである場合、このような不履行に起因する追加費用は請負者の負担とする。 …第51.1 条 [変更を確認する義務及び期間] 変更指示を受けた日から14日以内でかつ変更工事の開始前 に、以下のいずれかによって通知がなされない場合、第51 条に基づくエンジニア指示による変更工事は、第51.1 条及び第51.2条により査定されない。(a)請負者から追加支払、料率、単価の変更をクレームする旨の通知、(b)エンジニアから料率、単価を変更する旨の通知。 …第52.2 条 | [条件変更等] 受注者は、工事の施工にあたり次の各号の一に該当する事実を発見したときは、直ちに書面をもってその旨を監督員に通知し、その確認を求めなければならない。 (1)設計図書と工事現場の状態が一致しないこと。 (2)設計図書の表示が明確ではない。 (3)工事現場の地質、湧水、等の状態、施工上の制約等設計図書に示された自然的または人為的な施工条件が実際と相違する。 (4)設計図書で示されていない施工条件について予期せぬ特別な状態が生じた、書面で監督員に通知しその確認を求める。 監督員は、上記について受注者の確認を求められたとき、又は 自らそれらを発見したときは、直ちに調査を行い、その結果を受注者に通知し、しかるべき指示をする。 (1)~(4)が発注者及び受注者に確認された場合、必要が認められるときは、工事内容の変更又は設計図書の訂正が行われる。 (1)、(3)、(4)で工事内容を変更する場合工事目的の変更を伴うものは、発注者が変更もしくは契約図書の訂正を行う。 (1)、(3)、(4)で工事内容を変更する場合で工事目的の変更を伴わないものは、発注者と受注者が協議して、発注者が変更もしくは契約図書の訂正を行う。 (2)に該当し、設計図書を訂正する必要があるものは発注者が変更もしくは契約図書の訂正を行う。 ・・・第17条1~3項 (注)工事阻害する条件については別途各約款を比較する。 [変更の指示] 発注者は、必要があると認めたときは、受注者に対する書面の通知により、工事内容を変更し、または工事の全体もしくは一部の施工を一時中止させることができる。この場合、必要があると認められたときは、工期もしくは請負代金額を変更し、又は必要な費用等を発注者が負担しなければならない。 …第18 条1項 | [条件変更等] 受注者は、工事の施工に当たり、次の各号の一に該当する事実を発見したときは、その旨を直ちに監督員に通知し、その確認を請求しなければならない。 (1)図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書 が一致しないこと(これらの優先順位が定められている場合を除く。) (2)設計図書に誤謬又は脱漏があること (3)設計図書の表示が明確でないこと (4)工事現場の形状、地質、湧水等の状態、施工上の制約等設計 図書に示された自然的又は人為的な施工条件と実際の工事現場が一致しないこと (5)設計図書で明示されていない施工条件について予期することのできない特別な状態が生じたこと。 前項の調査の結果において第一項の事実が確認された場合 において、必要があると認められるときは、次の各号に掲げるところにより、設計図書の訂正又は変更を行わなければならない。 (1)~(3)までのいずれかに該当し設計図書を訂正する必要が あるもの。 発注者が行う。 (4)、(5)に該当し設計図書を変更する場合で工事目的物の変更を伴うもの。 発注者が行う。 (4)、(5)に該当し設計図書を変更する場合で工事目的物の変 更を伴わないもの。 発注者と受注者が協議して発注者が行う。 …第18 条4 項 [設計図書の変更] 発注者は、必要があると認めるときは、設計図書の変更内容を受 注者に通知して、設計図書を変更することができる。この場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。 …第19 条 |
比較表-2(2)[変更、追加および省略] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[変更の査定] エンジニアが、契約書に定められた料率又は単価を適用できると判断したときは、その料率及び単価で査定される。契約書に料率又は単価が規定されていないときは、妥当である限り、契約書の料率又は単価を適用する。それができないときは、エンジニアは、発注者及び請負者と協議し、料率又は単価をエンジニアと請負者の間で合意する。合意しないとき、エンジニアが料率又は単価を決定する。合意するまでは暫定的な料率又は単価を設定して仮払を行う。 [間接費の査定] 工事全体の引渡し証明書を発行するに当たり、(a)第52.1 条および第52.2 条に基づいて査定された変更工事、及び(b)暫定金額、常備作業、第70 条に基づいてなされた単価の調整を除く、数量内訳書記載の予想数量の検測に基づく調整の結果として、実際の契約金額の15%を超える増減が最終的に生じたことがわかった場合、エンジニアは、発注者及び請負者と協議後、エンジニアと請負者の間で合意した金額、合意が整わなかった場合、エンジニアが請負者の現場及び契約上の一般管理を考慮して決定した金額を、契約金額に追加又は減額が実際の契約金額の15%を超える金額に限り、その金額に基づいてなされる。 …第52.3 条 | [工期及び請負代金額の変更] 工期の変更については、発注者及び受注者が協議して定めるものとし、請負代金の変更については、数量の増減が○/100 を超える場合、施工条件が異なる場合、内訳書に記載されていない項目、内訳書の記載項目が不適当な場合については、通常、変更時の価格を基礎として発注者と受注者が協議して決める。 …第18 条2 項(a) (注)(○は20 が多い。この条項は第4条(A)を使用する場合) 工期または請負代金額の変更は、発注者と受注者が協議して決める。 (第4条(B)を使用する場合) …第18条2項(b) (注)工事の変更に伴う受注者のコスト及び工期について、受注者からの提案を求めるGSA方式の規定はない。しかしながら、実際には協議の段階で請負者はコスト及び工期についての資料を提出し協議することになると判断される。変更に伴う処理については、発注者と受注者が協議して定めると規定されているが、内訳書の定義、位置付けが明確ではない。工事中止に伴う発注者、受注者の処理期限等については、具体的な規定がある。(第17 条5 項)が変更については、受注者は直ちに報告し、監督員は直ちに調査することが規定されているが、その結果を直ちに受注者に通知するかどうかについては明確ではない。契約図書の訂正、工期、請負代金額の変更等についても期限の規定がない。 | [工期の変更方法] 工期の変更については、甲乙協議して定める。ただし、協議開 始の日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。 2 前項の協議開始の日については、発注者が受注者の意見を聴いて定め、受注者に通知するものとする。ただし、発注者が工期の変更事由が生じた日から〇日以内に協議開始の日を通知しない場合には、受注者は、協議開始の日を定め、発注者に通知することができる。 (注)〇の部分には、工期を勘案してできる限り早急に通知を行うよう留意して数字を記入する。 [請負代金額の変更] 請負代金額の変更については、数量の増減が内訳書記載の数量の一〇〇分の〇を超える場合、施工条件が異なる場合、内訳書に記載のない項目が生じた場合若しくは内訳書によることが不適 当な場合で特別な理由がないとき又は内訳書が未だ承認を受けていない場合にあっては、変更時の価格を基礎として発注者と受注者双方が協議して定めその他の場合にあっては内訳書記載の単価を基礎として定めるただし協議開始の日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。 (A)は、第三条(A)を使用する場合に使用す る。 ・・・第24条(A) 請負代金額の変更については、発注者と受注者が協議して定める。ただし、協議開始の日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。(B)は、第三条(B)を使用する場合に使用する。 ・・・第24 条(B) (注)「一〇〇分の〇」の〇の部分には、たとえば、二〇と記入 する〇の部分には、工期及び請負代金額を勘案して十分な協議が行えるよう留意して数字を記入する。 |
比較表-3(1)[紛争の解決] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[定義] 紛争とは、契約に関してあるいは契約の遂行によって発生した発注者と請負者の間の意見の相違をいう。エンジニアの意見、指 示、決定、証明、査定に関する両者の意見の相違も含む。 …第67.1 条 [紛争解決の手順] (1)発注者または請負者は紛争事項についてエンジニアの最終判断を書面で要請する。 (2)エンジニアはかかる要請を受けた後84日以内に、発注者および請負者にその最終判断を通知する。 (3)発注者と請負者双方がエンジニアの判断を受け入れた場合、紛争は、その判断に基づいて処理される。発注者又は請負者 が、エンジニアの判断を受領後70日以内に仲裁に付託する旨の意思表示がなされない場合、エンジニアの判断は最終のものと なる。 (4)発注者又は請負者のいずれかが、エンジニアの判断に不服がある場合、その判断を受領後70日以内に、あるいはエンジニアが上述(2)の84日以内に判断を通知しない場合、その期限満了後70日以内に、仲裁へ付託する旨を相手側に通知する。 …第67.1 条 (5)仲裁付託の旨を通知後56日間は、発注者および請負者は友好的な解決に努める。 …第67.2 条 (6)国際商工会議所の調停・仲裁規則に基づき単数もしくは複数の仲裁人により仲裁判断を受ける。仲裁への付託は工事中及び工事完了後にも行うことができる。 …第67.3 条 (7)第67.1 条に規定されている期間内に仲裁に付託する旨の意思を発注者又は請負者が表示しない場合でも、発注者又は請負者のいずれかがエンジニアの最終判断を履行しないとき、そのエンジニアの判断の不履行を仲裁に付託することができる。 …第67.4条 | [定義] 発注者と受注者の間に契約条項の規定について協議が整わない場合あるいはこの契約に関して発注者と受注者の間に紛争が生じた場合、調停人又は建設工事紛争審査会のあっせん又は調停を受ける旨規定している。紛争処理については、下記(1)、(2)の選択条項になっている。 [紛争解決の手順] (1)発注者と受注者の間に契約条項の規定について協議が整わ ない場合、あるいはこの契約に関して発注者と受注者の間に紛争が生じた場合には、契約書記載の調停人のあっせん又は調停により解決を図る。その費用は両者が協議して特別に定めたものを除いて、各自が負担する。調停人があっせん又は調停を打ち切ったとき、建設工事紛争審議会のあっせん又は調停によりその解決を図る。 …第45 条(A) (2)発注者と受注者の間には契約条項の規定について協議が整わない場合、あるいはこの契約に関して発注者と受注者の間に紛争が生じた場合には、建設工事紛争審議会のあっせん又は調停 によりその解決を図る。 …第45条(B) (3)発注者と受注者のいずれは一方は双方が、調停人又は審査会のあっせん又は調停により扮装を解決する見込みがないと認めたとき、審査会の仲裁に付し、その仲裁裁判に服する。 …第46 条 | [あっせん又は調停] この約款の各条項において発注者と請負者で協議して定めるものにつき協議が整わなかったときに発注者が定めたものに受注者が不服がある場合その他契約に関して発注者と受注者間に紛争を生じた場合には、発注者及び受注者は、契約書記載の調停人のあっせん又は調停によりその解決を図る。この場合において、紛争の処理に要する費用については、両者協議して特別の定めをしたものを除き、発注者と受注者がそれぞれを負担する。 (1)発注者及び受注者は、前項の調停人があっせん又は調停を打ち切ったときは、建設業法による建設工事紛争審査会(以下 「審査会」という)のあっせん又は調停によりその解決を図る。 ・・・第52条(A) (2)この約款の各条項において発注者と受注者が協議して定めるものにつき協議が整わなかったときに発注者が定めたものに受注者が不服がある場合その他この契約に関して発注者と受注者間に紛争を生じた場合には、発注者及び受注者は、建設業法による建設工事紛争審査会(以下「審査会」という)のあっせん又は調停によりその解決を図る。 ・・・第52条(B) (注)(A)は、あらかじめ調停人を選任する場合に使用し、(B)は、建設業法による建設工事紛争審査会により紛争の解決を図る場合に使用する。 (3)発注者及び受注者は、その一方又は双方が前条の[調停人又は]審査会のあっせん又は調停により紛争を解決する見込みがないと認めたときは、前条の規定にかかわらず、仲裁合意書に基づき、審査会の仲裁に付し、その仲裁判断に服する。 (注)[ ]の部分は、第五十二条(B)を使用する場合には削除する。 …第53 条[仲裁] |
比較表-4(1)[特別リスク] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[定義] 特別危険とは: (a)戦争、敵対行為(宣戦布告の有無は問わず)、侵略、外敵行為。 (b)反乱、革命、一揆、クーデター、内乱。ただし、プロジェクト当事国内のものであること。 (c)核燃料又は核燃料の燃焼により生ずる核燃料廃棄物から発生する放射能によるイオン照射又は放射能汚染、放射性有毒爆発物やその他の危険爆発物、核関係機械又は核が要素となっている機械。 (d)音速又は超音速航空機その他の飛行物体による衝撃波。 (e)暴動、騒動、騒乱(請負者又は下請者の被雇用者によるものを除く) …第65.2 条 地雷、爆弾、砲弾、手榴弾、その他の発射体、ミサイル、弾薬、軍事用爆発物による爆発、衝撃によって発生した破壊、損害、人命の死亡と傷害は特別危険の結果であるとみなされる。 …第65.4 条 [特別危険の結果に基づく補償] 請負者は、第65.2 条に規定されている特別危険の結果による、 (a)工事の破壊、損害、(b)発注者及び第三者の財産の破壊、損 害、(c)人命の死亡、傷害については、その補償の責任を負わない。 …第65.1 条 [特別危険による工事の損害] 請負者は、工事現場内及びその周辺にある、あるいは現場に輸送中の工事用資材、プラント、請負者の機器類等が、特別危険により破壊もしくは損害を受けたときは、それらについて、支払いを受ける権利を有する。エンジニアが要求したとき、あるいは工事の完成のために必要であるとき請負者は、(a)工事の破壊や損害の修復、(b)資機材、請負者の機器類の取替や修理等についての支払いを受ける権利を有する。エンジニアは、このための契約金額に 対する追加金額を決定して、発注者と請負者に通知する。 …第65.3 条 | [定義] 暴風、豪雨、洪水、高潮、地震、地すべり、落盤、火災、騒乱、暴動、その他の自然的又は人為的な事象(設計図書で基準を定めたものについては、その基準を超えるものに限る)であって、発注者及び受注者双方の責に帰すべからざるもので、『天災その他の不可抗力』という。 …第25条 [通知の義務] 受注者は、工事の出来高部分、工事仮設物、現場搬入済みの工事材料又は建設機械器具に損害が生じたときは、速やかにその状況を発注者に通知する。発注者は、その通知受領後、直ちに調査を行い、損害状況確認の知を受注者に行う。 …第25条 [請負代金額の変更又は損害額の負担] 受注者は、発注者の損害確認書を受領後、請負代金額の変更又は損害負担を発注者に求めることができる。 …第25条 [発注者の費用負担] 発注者は、受注者の『天災その他の不可抗力』に伴う損害額のうち請負代金額の1/100 を超える額を負担する。 (1)工事の出来形部分に関する損害 損害を受けた出来形部分に相応する請負代金額で、残存価値がある場合はその評価額を差し引く。 (2)工事材料に関する損害 損害を受けた工事材料に相応する請負代金額で、残存価値がある場合はその評価額を差し引く。 (3)工事仮設物又は建設機械器具に関する損害 損害を受けた工事仮設物及び建設機械器具について、当該工事で償却予定の償却費の額から損害を受けた時点における出来形部分に相応する償却費の額を差し引く。 | [不可抗力による損害] 工事目的物の引渡し前に天災等設計図書で基準を定めたものにあっては当該基準を超えるものに限る発注者と受注者双方の責に帰すことができないもの( 以下、「不可抗力」という)により、工事目的物、仮設物又は工事現場に搬入済みの工事材。料若しくは建設機械器具に損害が生じたときは、受注者は、その事実の発生後直ちにその状況を発注者に通知しなければならない。 ・・・第29条第1項 2 発注者は、前項による通知を受けたときは、直ちに調査を行い、前項の障害の状況を確認し、その結果を受注者に通知しなければならない。 3 受注者は、前項の規定により損害の状況が確認されたときは、損害による費用の負担を発注者に請求することができる。 [発注者の費用負担] (1)工事目的物に関する損害 損害を受けた工事目的物に相応する請負代金額とし、残存価値がある場合にはその評価額を差し引いた額とする。 (2)工事材料に関する損害 損害を受けた工事材料で通常妥当と認められるものに相応する請負代金額とし、残存価値がある場合にはその評価額を差し引いた額とする。 (3)仮設物又は建設機械器具に関する損害 損害を受けた仮設物又は建設機械器具で通常妥当と認められるものについて、当該工事で償却することとしている償却費の額から損害を受けた時点における工事目的物に相応する償却費の額を差し引いた額とする。ただし、修繕によりその機能を回復することができ、かつ、修繕費の額が上記の額より少額であるものについては、その修繕費の額とする。・・・第29 条第5 項 |
比較表-4(2)[特別リスク] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[戦争の勃発] 戦争が勃発した場合、請負者は契約が終了しない限り、工事を継続し完成のために最善を尽くすものとする。ただし、発注者は、戦争勃発後、いつでも契約を終了する権利を有する。 …第65.6条 [特別危険による契約終了に伴う支払] 請負者は、戦争勃発により契約が終了したときは、請負者及び下請者は現場から機械類を速やかに撤去する。 …第65.7 条 | 数次にわたる天災その他の不可抗力により損害額が累積した場合における第二次以降の天災その他の不可抗力による請負代金額の変更又は損害額の負担については、第4項中「当該損害の額」とあるのは「損害の額の累計」と、「請負代金額の一〇〇分の一を超える額から既に負担した額を差し引いた額」としてド同項を適用する。 ・・・第25 条第6 項 天災その他の不可抗力によって生じた損害の取り片付けに要する費用は、発注者がこれを負担する。この場合において発注者が負担すべき額は、発注者と受注者が協議して決める。 ・・・第25 条第7 項 | 数次にわたる不可抗力により損害合計額が累積した場合における第二次以降の不可抗力による損害合計額の負担については、第四項中「当該損害の額」とあるのは「損害の額の累計」と、「当該損 害の取片付けに要する費用の額」とあるのは「損害の取片付けに 要する費用の額の累計」と、「請負代金額の一〇〇分の一を超える額」とあるのは「請負代金額の一〇〇分の一を超える額から既に負担した額を差し引いた額」として同項を適用する。・・・第29条第6項 | |
特別危険発生の結果、契約が終了したときは、その時点までの施工作業について、請負者は発注者から支払いを受ける。この支払金額は、エンジニアが、発注者及び請負者と協議した上、決定す る。 …第65.8 条 |
比較表-5(1)[工事の中止] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[エンジニアの中止指示] 請負者は、エンジニアの指示を受けて、エンジニアが必要と考 | [工事の変更、中止等] (1)発注者は、必要があると認めたときは、受注者に対する書面の | [設計図書の変更] 発注者は、必要があると認めるときは、設計図書の変更内容を受 注者に通知して、設計図書を変更することができる。この場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。 [工事の中止] 発注者が必要とする場合の工事中止 工事用地等の確保ができない等のため又は暴風、豪雨、洪水、高潮、地震、地すべり落盤火災騒乱暴動その他の自然的又は人為的な事象(以下「天災等」という)であって受注者の責に帰すことができないものにより工事目的物等に損害を生じ若しくは工事現場の状態が変動したため、受注者が工事を施工できないと認められるときは、発注者は、工事の中止内容を直ちに乙に通知して、工事の全部又は一部の施工を一時中止させなければならない。 (2)発注者は、前項の規定によるほか、必要があると認めるときは、工事の中止内容を受注者に通知して、工事の全部又は一部の施工を一時中止させることができる。 (3)発注者は、前二項の規定により工事の施工を一時中止させた 場合において、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者が工事の続行に備え工事現場を維持し若しくは労働者、建設機械器具等を保持するための費用その他の工事の施工の一時中止に伴う増加費用を必要とし若しくは受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。 | |
える期間かつ必要と考える方法で工事の全体もしくはその一部の | 通知により、工事内容を変更し、または工事の全体もしくは一部 | ||
進捗を中断し、エンジニアの指示に従い、該当部分を適切に保全 | の施工を一時中止させることができる。この場合、必要があると | ||
する。そして、中止か以下の場合を除き第40.2 条が適用される。 | 認められたときは、工期もしくは請負代金額を変更し、又は必要 | ||
(a)契約書に別段の定めがある場合、 | な費用等を発注者が負担しなければならない。 | ||
(b)請負者の契約不履行、契約違反、請負者に責任がある事由 | |||
による場合、 (c)現場の気象条件による場合、 | 発注者が必要とする場合の工事中止 (2)中止に伴う工期の変更は、発注者と受注者が協議して決める。 | ||
(d)工事遂行上又は工事の安全上必要な場合(発注者又はエン | 請負代金額の変更は、発注者と受注者が協議して決める。 | ||
ジニアの作為・不作為、除外危険に起因して必要な場合は | (a)数量の増減が内訳書の百分のお0(例えば 20)を超える場 | ||
除く) …第40.1 条 | 合、施工条件が異なる場合、内訳書に記載のない項目が生 | ||
じた場合、その他内訳書によることが不適当な場合は、特別 | |||
[中止に伴うエンジニアの決定事項] 上記のために工事が中止した場合、エンジニアは、発注者及び | な理由がない限り変更時点の価格を基礎として、発注者と受 注者が協議して決める。その他の場合は内訳書記載の単価 | ||
請負者と協議の後、(a)工期の延長、(b)中止により請負者に発生 | を基礎として定める。 | ||
した費用について契約金額に追加すべき金額、の決定を行う。 | (b)工期又は請負代金額の変更は、発注者と受注者が協議して | ||
…第40.2 条 [請負者の工事再開要求] エンジニアの指示により中止した工事について、84日以内に工事 | 決める。 (3)受注者が工事の統行に備えて工事現場を維持し、又は労働者、建設機械器具等を保持するための費用、工事の一時中止 | ||
再開の許可(指示)が与えられないとき、そして、第 40.1 条の除外 | に伴う増加費用を負担し受注者に与えた損害を賠償する。負担 | ||
規定にあてはまらない場合、請負者は、中止指示を受領後28日以 | 額、賠償額は発注者と受注者が協議して決める。 | ||
内に、エンジニアに対して工事再開を要求することができる。エン | (4)工事用地等の確保ができない、天才その他の不可抗力により | ||
ジニアから工事再開許可が与えられないときは、再度エンジニア | 工事目的物に損害を生じもしくは工事現場の状態が変動したた | ||
に同様の内容を通知することにより、(1)中止の影響が工事の一部 | め受注者が工事を施工できないと認められるときは、発注者 | ||
に留まる場合には、第51条の「変更」に基づいて、その工事部分を | は、工事の全部又は一部の施工を中止させなければならな | ||
省略として処理するか、(2)工事全体に影響を与えるものである場 | い。 …第18 条 | ||
合は、「発注者の不履行」として処理するかのいずれかの方法を選 | (注)第18 条は、発注者の自発的な意思により工事内容の変更又 | ||
択することができる。そして、(2)の場合、請負者は、発注者~請負 | は工事の中止についての規定であり、中止措置を講じた場 | ||
者の契約関係を解消し、発注者から中止に伴う損害賠償の支払い | 合は、受注者のいわゆる「手持ち費用」を発注者が負担する | ||
を受けることができる。 …第40.3 条 | と規定している。 |
比較表-5(2)[特別リスク] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[条件変更等] 受注者が必要とする工事の中止又は変更 受注者は、工事の施工にあたり次の各号の 1 つに該当する事実を発見したときは、直ちに書面をもってその旨を監督員に通知し、その確認を求めなければならない。 (a)設計図書と工事現場の状態が一致しないこと。 (b)設計図書の表示が明確でないこと。 (c)工事現場の自然的又は人為的施工条件について、設計図書と実際が相違すること。 (d)設計図書等で明示されていない施工条件について予期することのできない特別な状態が生じたこと。・・・第17 条第1 項 受注者は、次の各号の 1 に該当するときは、10 日以前に発注 者に通知して工事の全部又は一部を一時中止することができる。ただし、発注者がその期間内に合意、変更、訂正又は協議に係わる決定を行わないことにつき、やむを得ない理由があるとき はこの限りではない。 (1)上記の確認を発注者に求めた後 20 日以内に確認について合意が成立しないとき。 (2)発注者の監督員が受注者の確認要求について調査し、必要措置等について受注者に通知し、確認の合意が成立した後、発注者が 20 日以内に工事内容の変更又は設計図書の訂正を行わないとき。 (3)前項における確認事項についての工期又は請負代金の変更について受注者が協議を申し出た後、20 日以内に協議が整わないとき。 …第17 条第5 項 (注)条件変更の場合における合意、変更、訂正又は協議にかかる決定を発注者が遅延した場合の受注者の工事中止の権利を規定している。 [中止以後の契約終了] 工事中止後の契約の終了(解除)については、第40 条「発注者の解除権」、第41 条「発注者の任意解除権」、第42 条「受注者の解除権」、第43 条「解除に伴う措置」等が規定されている。 | [条件変更等] 受注者が必要とする契約図書の変更 乙は、工事の施工に当たり、次の各号の一に該当する事実を発見したときは、その旨を直ちに監督員に通知し、その確認を請求しなければならない。 (a)図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書が一致しないこと (b)設計図書に誤謬又は脱漏があること。 (c)設計図書の表示が明確でないこと。 (d)工事現場の形状、地質、湧水等の状態、施工上の制約等設計図書に示された自然的又は人為的な施工条件と実際の工 事現場が一致しないこと。 (e)設計図書で明示されていない施工条件について予期することのできない特別な状態が生じたこと。 ・・・第18条第1項 |
比較表-6(1)[証明書および支払い] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[契約の譲渡] 請負者は、発注者の事前の同意がない限り(かかる同意は、第 1.5条の規定にも拘らず、発注者の全くの自由裁量である。)契約又はその一部、もしくは契約上の諸権利を譲渡してはならない。ただし、以下の場合による譲渡はこの限りではない。 (a)契約上支払うべき金額または支払うことになる金額を請負者の取引銀行の債権取り立てに充当する場合。 (b)請負者に対する債務がある第三者からその債務を取り立てる請負者の権利を請負者の保障保険会社(保障保険会社が請負者の損失又は債務を補填する場合)に譲渡する場合。 …第3.1 条 [月次計算書] 請負者は、毎月末以後、第15.1 条に基づいてエンジニアにより承認された請負者の代理人が、それぞれに署名した計算書6部をエンジニアに提出する。その様式は、エンジニアが随時定めるものとし、請負者が、以下の項目について月末の時点で支払いを受ける権利を有すると考える金額を表示する。 (a)施工済みの本設工事の価格。 (b)数量明細書のその他の諸項目で、請負者の機器、仮設工事、常備工事その他を含む。 (c)入札書の付属書類に記載されているすべての一覧表の材料の送り状価格の百分率及び本設工事に組み込むために請負者が現場に搬入して、まだ工事に組み込まれていないプラント。 (d)第70 条に基づく調整額。 (e)その他の金額で、請負者が契約上支払いを受ける権利を有するもの。 …第60.1条 | [請負代金の支払い] 受注者は、前条第二項の検査に合格したときは、請負代金の支払を書面をもって請求することができる。 2、発注者は、前項の規定による請求があったときは、請求を受けた日から40 日以内に請負代金を支払わなければならない。 3、発注者がその責に帰すべき事由により前条第二項の期間内に検査をしないときは、その期限を経過した日から検査をした日までの期間の日数は、前項の期間(以下「約定期間」という)の日数から差し引くものとする。この場合において、その遅延。日数が約定期間の日数を超えるときは、約定期間は、遅延日数が約定期間の日数を超えた日において満了したものとみなす。 …第28 条 [前金払い] 受注者は、公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和27 年法律第184 第34 条号)第2条第4項に規定する保証事業会社(以下「保証事業会社」という)と、契約書記載の工事完成の時期を保証期限とする同条第五項に規定する保証契約(以下「保証契約」という)を締結し、その保証証書を発注者に寄託して、請負代金額の。〇/10 以内の前払金の支払を発注者に請求することができる。 2、発注者は、前項の規定による請求があったときは、請求を受けた日から14 日以内に前払金を支払わなければならない。 3、受注者は、請負代金額が著しく増額された場合においては、その増額後の請負代金額の〇/10 から受領済みの前払金額を差し引いた額に相当する額の範囲内で前払金の支払を請求することができる。この場合においては、前項の規定を準用する。 4、受注者は、請負代金額が著しく減額された場合において、受領済みの前払金額が減額後の請負代金額の〇/10 を超えるときは、受注者は、請負代金額が減額された日から30日以内にその 超過額を返還しなければならない。 | [請負代金の支払い] 受注者は、前条第二項の検査に合格したときは、請負代金の支払を請求すること第三十二条ができる。 2、発注者は、前項の規定による請求があったときは、請求を受けた日から四〇日以内に請負代金を支払わなければならない。 3、発注者がその責に帰すべき事由により前条第二項の期間内に検査をしないときは、その期限を経過した日から検査をした日までの期間の日数は、前項の期間(以下「約定期間」という)の日数から差し引くものとする。この場合において、その遅延。日数が約定期間の日数を超えるときは、約定期間は、遅延日数が約定期間の日数を超えた日において満了したものとみなす。 ・・・第32 条 [前金払い] 受注者は、公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和二十七年法律第一八四第三十四条号)第二条第四項に規定する保証事業会社(以下「保証事業会社」という。)と、契約書記載の工事完成の時期を保証期限とする同条第五項に規定する保証契約(以下 「保証契約」という。)を締結し、その保証証書を発注者に寄託して、請負代金額の一〇分の〇以内の前払金の支払を発注者に請求することができる。 2、発注者は、前項の規定による請求があったときは、請求を受けた日から一四日以内に前払金を支払わなければならない。 3、受注者は、請負代金額が著しく増額された場合においては、その増額後の請負代金額の一〇分の〇から受領済みの前払金額を差し引いた額に相当する額の範囲内で前払金の支払を請求することができる。この場合においては、前項の規定を準用する。 4、受注者は、請負代金額が著しく減額された場合において、受領済みの前払金額が減額後の請負代金額の一〇分の〇を超えるときは、受注者は、請負代金額が減額された日から三十日以内にそ の超過額を返還しなければならない。 |
比較表-6(2)[証明書および支払い] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[月次支払] エンジニアは、かかる計算書を受領後28日以内に、発注者に対し下記を条件として、エンジニアが支払うべきであると判断し、かつ支払いできる請負者への支払い額を証明する。その条件とは、 (a)請負者が第 60.1 条の(a)(b)(c)及び(e)に基づき支払いを受ける権利を有する金額に、入札書の付属書類に記載されている保留のための百分率を乗じて計算した金額を保留すること。ただし、保留される金額は、入札書の付属書類に記載されている保留金限度額に達するまでとする。 (b)第47条によるものを除く請負者が発注者に支払うべき金額を控除する。ただし、エンジニアは、もし正味の金額が、すべての保留金及び控除金を差し引いた後、入札書の付属書類に記載されている中間証明書の最低金額よりも少ない場合、本条に基づく支払いを証明する義務を負わない。 本条又は契約書の他の条項の規定に拘らず、履行保証が、契約書に基づいて要求されている場合、請負者がそれを提出し、発注者がそれを承認するまでは、如何なる支払いに対しても、エンジニアはその金額を証明しない。 …第60.2 条 | 5、前項の超過額が相当の額に達し、返還することが前払金の使用状況からみて著しく不適当であると認められるときは、葉注射と受注者が協議して返還すべき超過額を定める。ただし、請負代金額が減額された日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。 (注)〇の部分には、30 未満の数字を記入する。 6、発注者は、受注者が第4項の期間内に超過額を返還しなかったときは、その未返還額につき、同項の期間を経過した日から返還をする日までの期間について、その日数に応じ年〇パーセントの割合で計算した額の遅延利息の支払を請求することができる (注)〇の部分には、たとえば、政府契約の支払遅延防止等に関する法律第八条の率注を記入する。 [保証契約の変更] 受注者は、前条第三項の規定により受領済みの前払金に追加してさらに前払金の第三十五条支払を請求する場合には、あらかじめ、保証契約を変更し、変更後の保証証書を甲に寄託しなければならない。 2、受注者は、前項に定める場合のほか、請負代金額が減額された場合において、保証契約を変更したときは、変更後の保証証書を直ちに発注者に寄託しなければならない。 [前払金の使用等] 受注者は、前払金をこの工事の材料費、労務費、機械器具の賃借料、機械購入費第三十六条(この工事において償却される割合に相当する額に限る、動力費、支払運賃)修繕費、仮設費、労働者災害補償保険料及び保証料に相当する額として必要な経費以外 の支払に充当してはならない。 …第32条 | 5、前項の超過額が相当の額に達し、返還することが前払金の使用状況からみて著しく不適当であると認められるときは、発注者と受注者で協議して返還すべき超過額を定める。ただし、請負代金額が減額された日から〇日以内に協議が整わない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。 6、派注射は、受注者が第四項の期間内に超過額を返還しなかったときは、その未返還額につき、同項の期間を経過した日から返還をする日までの期間について、その日数に応じ年〇パーセントの割合で計算した額の遅延利息の支払を請求することができる。 (注)〇の部分には、たとえば、政府契約の支払遅延防止等に関する法律第八条の率 を記入する。 [保証契約の変更] 受注者は、前条第三項の規定により受領済みの前払金に追加してさらに前払金の第三十五条支払を請求する場合には、あらかじめ、保証契約を変更し、変更後の保証証書を発注者に寄託しなければならない。 2、受注者は、前項に定める場合のほか、請負代金額が減額された場合において、保証契約を変更したときは、変更後の保証証書を直ちに発注者に寄託しなければならない。 3、受注者は、前払金額の変更を伴わない工期の変更が行われた場合には、発注者に代わりその旨を保証事業会社に直ちに通知するものとする。 [注]第三項は、発注者が保証事業会社に対する工期変更の通知を受注者に代理させる場合に使用する。 [前払金の使用等] 受注者は、前払金をこの工事の材料費、労務費、機械器具の賃借料、機械購入費第三十六条(この工事において償却される割合に相当する額に限る、動力費、支払運賃)修繕費、仮設費、労働者災害補償保険料及び保証料に相当する額として必要な経費以外 の支払に充当してはならない。 …第36 条 |
比較表-6(3)[証明書および支払い] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[保留金の支払] (a)工事全体についての引渡し証明書の発行にあたり、保留金の半額が、あるいは本設工事の一区間もしくは一部について引渡し証明書を発行するときは、本設工事のかかる区間又は部分に対応する価格を考慮に入れて、エンジニアが決定した保留金の割合が、請負者に対する支払額として、エンジニアにより証明される。 (b)工事欠陥保証責任期間の完了にあたり、保留金の残りの半額が、請負者に対する支払額として、エンジニアにより証明される。ただし、第48条に基づいて、さまざまな区間もしくは部分に対して、さまざまな欠陥保証責任期間が設定されているときは、 「欠陥保証責任期間の満了」という表現は、本条項のために、かかる期間の最も遅い期間の満了を意味するものと見なされる。ただし、かかる時点において、工事に関して、第49条および第50条に基づいて命令された作業を、請負者が未了のまま残しているとき、エンジニアは、かかる作業の完了まで、かかる未了工事の費用に対応するとエンジニアが判断する保留金の残額のうちの、その相当額の証明を留保する権利を有する。 …第60.3 条 [証明書の訂正] エンジニアは、中間証明書により、先に発行した証明書の訂正又は修正を行うことができる。エンジニアは、作業のいずれかが、エンジニアの満足する程度に遂行されていないときは、中間証明書におけるかかる作業の価格を省略(削除)又は減額する権限を有 する。 …第60.4 条 | [部分払] 受注者は工事の完成前に出来形部分並びに工事現場に搬入済みの工事材料及び第三十七条[製造工場等にある工場製品](監督員の検査を要するものにあっては当該検査に合格したもの、監督員の検査を要しないものにあっては設計図書で部分払の対象とすることを指定したものに限る)に相応する請負代。金相当額の○/10以内の額について、次項以下に定めるところにより部分払を請求することができるただしこの請求は工期中〇回を超えることができない。 2、受注者は、部分払を請求しようとするときは、あらかじめ、当該請求に係る出来形部分、工事現場に搬入した工事材料[又は製造工場等にある工場製品]の確認を発注者に求めなければならない。この場合においては、発注者は遅滞なくその確認を行い、その結果を受注者に通知しなければならない。 部分払金の額 ≦ 第1項の請求代金額 × x - 前払金額 10 請負代金額 4、受注者は、第2 項の規定による確認があったときは、書面をもって部分払を請求することができる。この場合においては、発注者は当該請求のあった日から起算して 14 日以内に部分払金を支払わなければならない。 5、前項の規定により部分払金の支払いがあった後、再度部分払の請求をする場合においては、第1 項及び第3 項中「請負代金相当額」とあるのは、「請負代金相当額からすでに部分払の対象となった請負代金相当額を控除した額」とする者である。…第33条 [第三者による代理受理] 受注者は、発注者の承諾を得て請負代金の全部又は一部の受領につき、第三者を代理人とすることができる。 2 、発注者は、前項の規定により乙が第三者を代理人とした場合において、受注者の提出する支払請求書に当該第三者が受注者の代理人である旨の明記がなされているときは、当該第三者に対して第28条(前条において準用する場合を含む)又は第33条の規 定に基づく支払をしなければならない。 …第35 条 | [部分払] 受注者は工事の完成前に出来形部分並びに工事現場に搬入済みの工事材料及び第三十七条[製造工場等にある工場製品](監督員の検査を要するものにあっては当該検査に合格したもの、監督員の検査を要しないものにあっては設計図書で部分払の対象とすることを指定したものに限る)に相応する請負代。金相当額の○/10以内の額について、次項以下に定めるところにより部分払を請求することができるただしこの請求は工期中〇回を超えることができない。 2、受注者は、部分払を請求しようとするときは、あらかじめ、当該請求に係る出来形部分、工事現場に搬入した工事材料[又は製造工場等にある工場製品]の確認を発注者に求めなければならない。この場合においては、発注者は遅滞なくその確認を行い、その結果を受注者に通知しなければならない。 部分払金の額 ≦ 第1項の請求代金額 × x - 前払金額 10 請負代金額 4、受注者は、第2 項の規定による確認があったときは、書面をもって部分払を請求することができる。この場合においては、発注者は当該請求のあった日から起算して 14 日以内に部分払金を支払わなければならない。 5、前項の規定により部分払金の支払いがあった後、再度部分払の請求をする場合においては、第1 項及び第3 項中「請負代金相当額」とあるのは、「請負代金相当額からすでに部分払の対象となった請負代金相当額を控除した額」とする者である。…第33条 [第三者による代理受理] 受注者は、発注者の承諾を得て請負代金の全部又は一部の受領につき、第三者を代理人とすることができる。 2 、発注者は、前項の規定により乙が第三者を代理人とした場合において、受注者の提出する支払請求書に当該第三者が受注者の代理人である旨の明記がなされているときは、当該第三者に対して第28条(前条において準用する場合を含む)又は第33条の規 定に基づく支払をしなければならない。 …第35 条 |
比較表-6(4) [証明書および支払い] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[完成計算書] 工事全体に関する引渡し証明書の発行後84日以内に、請負者は、完成計算書を、エンジニアが承認した書式で、下記についての詳細を記入した証拠書類を添付して、エンジニアに提出する。 (a)かかる引渡し証明書に記載された日付までに、契約書に従って遂行された一切の作業の最終価格。 (b)請負者が、支払われるべきであると考えている追加の金額。 (c)請負者が、契約書に基づいて支払われるべきであると考える見積金額。 見積金額は、かかる完成証明書に別項目として表記される。エンジニアは、第60.2 条に従って支払いの証明を行う。 …第60.5 条 [最終証明書] 第62.1 条に基づいて欠陥保証責任証明書の発行の後56日以内に、請負者は、最終計算書案をエンジニアが承認した様式で、下記の詳細を記入した証拠書類を添付して、エンジニアに検討のために提出する。 (a)契約書に従って遂行されたいっさいの作業の最終価格。 (b)請負者が、契約書に基づいて、支払われるべきであると考えている追加の金額。 最終計算書案の中に、エンジニアが合意できない部分又は証明できない部分があるとき、請負者は、エンジニアが妥当に要求するかかる追加の情報を提出するものとし、また両者の間で合意でき れば、計算書案の修正を行う。請負者は、合意された最終計算書 (本条件書で「最終計算書」と称されるもの)を作成して、エンジニア に提出する。 …第60.6 条 | [前払金等の不払に対する受注者の工事の中止] 受注者は、発注者が第30条、第33条又は第34条において準用される第三第四十三条十二条の規定に基づく支払を遅延し、相当の期間を定めてその支払を請求したにもかかわらず支払をしないときは、工事の全部又は一部の施工を一時中止することができる。この場合においては、受注者は、遅滞なくその理由を明示した書面をもってその旨を発注者に通達しなければならない。 2、第18条3項の規定は、前項の規定により受注者が工事の施工を中止した場合について準用する。 …第36条 [履行遅滞の場合における損害金等] 受注者の責に帰すべき理由により工期内に工事を完成することができない場合おいて、工期経過後相当の期間内に完成する見込みのあるときは、発注者は受注者から損害金を徴収して工期を延長することができる。 2、(a) 前項の損害金の額は、請負代金額から出来形部分に相応する請負代金額を控除した額につき、遅延日数に応じ、年〇パーセントの割合で計算した額とする。 2、(b)前項の損害金の額は、遅滞日数1日につき○円とする。 3、発注者の責に帰すべき事由により、第三十二条第二項(第三十八条において準用する場合を含む)の規定による請負代金の支払が遅れた場合においては、受注者は、未受。領金額につき、遅延日数に応じ、年〇パーセントの割合で計算した額の遅延利息の支払を発注者に請求することができる。 | [前払金等の不払に対する受注者の工事の中止] 受注者は、発注者が第30条、第33条又は第34条において準用される第三第四十三条十二条の規定に基づく支払を遅延し、相当の期間を定めてその支払を請求したにもかかわらず支払をしないときは、工事の全部又は一部の施工を一時中止することができる。この場合においては、受注者は、遅滞なくその理由を明示した書面をもってその旨を発注者に通達しなければならない。 2、第18条3項の規定は、前項の規定により受注者が工事の施工を中止した場合について準用する。 …第36条 [履行遅滞の場合における損害金等] 受注者の責に帰すべき理由により工期内に工事を完成することができない場合おいて、工期経過後相当の期間内に完成する見込みのあるときは、発注者は受注者から損害金を徴収して工期を延長することができる。 2、(a) 前項の損害金の額は、請負代金額から出来形部分に相応する請負代金額を控除した額につき、遅延日数に応じ、年〇パーセントの割合で計算した額とする。 2、(b)前項の損害金の額は、遅滞日数1日につき○円とする。 3、発注者責に帰すべき事由により、第三十二条第二項(第三十八条において準用する場合を含む)の規定による請負代金の支払が遅れた場合においては、受注者は、未受。領金額につき、遅延日数に応じ、年〇パーセントの割合で計算した額の遅延利息の支払を発注者に請求することができる。 |
比較表-6(5)[証明書および支払い] | 備考 | ||
FIDIC 約款 | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[債務の消滅] 最終計算書の提出にあたり、請負者は、最終計算書の総額が、契約書から発生する又は契約書に関する請負者に対して支払うべきいっさいの金額の全額であり、かつ最終の清算額であることを示すものであることを確認する債務消滅書を、発注者に対して提出するとともに、エンジニアにその写しを送付する。ただし、かかる債務の消滅は、第 60.8 条に基づいて発行された最終証明書における債務の支払いがなされ、そして、第 10.1 条に規定されている履行保証が請負者に返還された後においてのみ有効となる。 …第60.7 条 [最終証明書] 最終計算書および債務消滅書を受領後28日以内に、エンジニアは、発注者に対して、以下の事項を記述した最終証明書を発行し、請負者に対してはその写しを送付する。 (a)契約書に基づく最終の支払いであると、エンジニアが判断する金額。 (b)発注者が既に支払ったいっさいの金額及び第47条を除く契約書において発注者が権利を有するいっさいの総額について発注者に債権を与えた後、発注者から請負者に支払うべきもしくは請負者から発注者に支払うべき金額がもしあれば、その場合に応じて、その残額。 …第60.8 条 [発注者の債務の停止] 発注者は、契約書又は工事遂行から発生する、あるいはそれら に関連する問題もしくは事項について、請負者に対して債務を負わない。ただし、請負者が、彼の最終計算書および(工事全体についての引渡し証明書の発行後発生する諸問題および諸事項を除く)第 60.5 条に規定されている完成計算書に、上述の問題もしくは 事項についてのクレームを含めている場合は除く。 …第60.9 条 |
比較表-6(6)[証明書のおよび支払い] | 備考 | ||
FIDIC 約款 | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[支払期限] 本条又は契約書の他の規定に従って、エンジニアが発行する中間証明書に基づいて請負者に対して支払期限がきている金額は、第47条を条件として、かかる中間証明書が発注者に配達された 後、28日以内に発注者から請負者に支払われる。又、第60.8 条に規定されている最終証明書の場合には、かかる最終証明書が発注者に配達された後、56日以内に、発注者から請負者に支払われ る。 発注者が定められた期限内に支払わなかったとき、発注者は、入札書の添付書類に記載されている金利を、いっさいの未払いの金額に対して、その未払額の支払い期日から、請負者に支払う。 本条の規定は、第69条の請負者の権利を損なうものではない。 …第60.10 条 |
比較表-7(1)[譲渡および下請け] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[契約の譲渡] 受注者は、発注者の事前の同意がない限り(かかる同意は、第 1.5 条の規定にも拘らず、発注者の全くの自由裁量であるものとする。)契約又はその一部あるいは契約上の諸権利を譲渡してはならない。ただし、以下の場合による譲渡はこの限りではない。 (a)契約上支払うべき金額または支払うことになる金額を請負者の取引銀行の債権取り立てに充当する場合。 (b)請負者に対する債務がある第三者からその債務を取り立てる請負者の権利を請負者の保証保険会社(保証保険会社が請負者の損失又は債務を補填する場合)に譲渡する場合。 …第3条 [下請に出すこと] 請負者は、工事全部を一括して下請に出してはいけない。契約書に別段の定めがある場合を除き、受注者は、エンジニアの事前の同意なしに、工事のいかなる部分をも下請に出してはならない。請負者は、かかる同意が与えられても、契約書に定められたいかなる責任または責務をも免れず、その全ての下請者、その代行者、使用人もしくは作業員の行為、怠慢または過失について、受注者自身または受注者の代行者、使用人もしくは作業員の行為、怠慢または過失と同様に、完全な責任を負う。ただし、受注者は下記については、かかる同意を得ることを要求されない。 (a)労務の提供。 (b)契約書に定められた標準の材料(資材)の調達。 (c)契約書に下請者が記名されている工事部分の下請。 …第4.1 条 | [権利義務の譲渡等] 受注者は、この契約により生ずる権利又は義務を第三者に譲渡し、又は承継させては第五条ならない。ただし、あらかじめ、発注者の承諾を得た場合は、この限りでない。 2、受注者は、工事目的物及び第33条第2項の規定による部分払のための確認を受けた工事材料(工場製品を含む。以下同じ。)を第三者に譲渡し、貸与し、または抵当権その他の担保の目的に供してはならない。ただし、発注者の書面による承諾を得た場合は、この限りではない。 …第6章 [一括委任又は一括下請の禁止] 受注者は、工事の全部又は大部分を一括して第三者に委任または請け負わせてはならない。ただし、あらかじめ、発注者の書類による承諾を得た場合は、この限りではない。 | 受注者は、この契約により生ずる権利又は義務を第三者に譲渡 し、又は承継させてはならない。ただし、あらかじめ、発注者の承諾を得た場合は、この限りでない。ただし書の適用については、たとえば、受注者が工事に係る請負代金債権を担保として資金を借り入れようとする場合(受注者が「下請セーフティネット債務保 証事業」平成11年1月28日建設省経振発第8号)により資金を借り入れようとする等の場合が該当する。 2 受注者は、工事目的物並びに工事材料(工場製品を含む。以下同じ)のうち第十三。条第二項の規定による検査に合格したも の及び第三十七条第三項の規定による部分払のための確認を受けたものを第三者に譲渡し、貸与し、又は抵当権その他の担保の目的に供してはならない。ただし、あらかじめ、発注者の承諾を 得た場合は、この限りでない。 | |
[下請負人の通知] 発注者は、受注者に対して、下請負人の商号又は名称その他必要な事項の通知を請求することができる。 …第8条 [工事関係者に関する措置請求] 発注者又は監督員は、現場代理人、主任技術者(管理技術者)、専門技術者その他受注者が工事を施工するために使用している下請負人、労働者等で工事の施工又は管理につき著しく不適当と認められるものがあるときは、受注者に対して、その理由を明示した書面をもって、必要な措置をとるべきことを求めることができる。 2、受注者は、前項の規定による請求があったときは、当該請求に係る事項について決定し、その結果を請求を受理した日から10日以内に書面をもって発注者に通知しなければならない。 3、受注者は、監督員がその職務の執行につき著しく不適当と認められるときは、発注者に対して、その理由を明示した書面を持って、必要な措置をとるべきことを求めることができる。 | [一括委任又は一括下請の禁止] 受注者は、工事の全部若しくはその主たる部分又は他の部分から独立してその機能第六条、を発揮する工作物の工事を一括 して第三者に委任し又は請け負わせてはならない公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成十二年法律第百二注十七号)の適用を受けない発注者については「ただし、あらかじめ、発注者の承諾を、得た場合は、この限りではない」とのただし書を追記することができる [下請負人の通知] 発注者は、受注者に対して、下請負人の商号又は名称その他必要な事項の通知を請求することができる。 [工事関係者に関する措置請求] 発注者は、現場代理人がその職務(主任技術者(監理技術者)又は専門技術者と兼任する現場代理人にあってはそれらの者の職務を含む)の執行につき著しく不適。当と認められるときは、受注者に対して、その理由を明示した書面により、必要な措置をと るべきことを請求することができる。 |
比較表-7(2)[譲渡および下請け] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[下請者の義務の譲渡] 下請者が請負者に対して請け負って施工した工事、あるいはかかる下請者によって供給された物品類、資材類、プラントあるいは役務に関して、下請者が契約上の瑕疵担保期間を超える期間まで引き続き義務を負っている場合、請負者は、いつでも、瑕疵担保期間完了後、発注者に対して、まだ完了していない期間のかかる(下請者の)義務の利益(恩典)を、発注者の請求と費用負担で、発注者に譲渡する。 …第4.2条 [指定下請者の定義] 発注者又はエンジニアが、指定、選定もしくは承認した専門家、商人職人および契約書にその暫定金額が計上されている作業を遂行し、あるいは物品、材料、プラント又は役務を供給するその他全ての者、ならびに契約書の規定により請負者がなんらかの作業を下請けさせるよう要求される者は、かかる作業の遂行または物品、材料、プラントもしくは役務の供給にあたり請負者の下請者とみなすものとし、この契約書において「指定下請者」という。 …第59.1 条 | 4、発注者は、前項の規定による請求があったときは、当該請求に係る事項について決定し、その結果を請求を受理した日から 10 日以内に書面をもって受注者に通知しなければならない。 …第12 条 | 2 発注者又は監督員は、主任技術者(監理技術者)、専門技術者 (これらの者と現場代理人を兼任する者を除く)その他受注者が工事を施工するために使用している下請負。人、労働者等で工事の施工又は管理につき著しく不適当と認められるものがあるときは、受注者に対して、その理由を明示した書面により、必要な措置をとるべきことを請求することができる。 3 受注者は、前二項の規定による請求があったときは、当該請求に係る事項について決定し、その結果を請求を受けた日から十日以内に発注者に通知しなければならない。 4 受注者は、監督員がその職務の執行につき著しく不適当と認められるときは、発注者に対して、その理由を明示した書面により、必要な措置をとるべきことを請求することができる。 5 発注者は、前項の規定による請求があったときは、当該請求に係る事項について決定し、その結果を請求を受けた日から十日以内に受注者に通知しなければならない。 | |
[指定下請者、指定に対する定義] 請負者は、妥当な異議を申し立てできる指定下請者、または請負者と以下の規定を含む下請契約を締結することに応じない指定下請者を雇用することを、発注者またはエンジニアから要求されることはなく、またこれを雇用すべきいかなる責務をも負うものとはみなされない。 (a)下請契約の対象となる工事、物品、材料、プラントまたは役務に関して、指定下請者は、契約書の規定により発注者に対して負う責務及び債務と同様な責務及び債務を請負者に対して負うものとし、かかる責務及び債務に関連して生じ、またはかかる責務及び債務の不履行に関連して生ずるいっさいのクレーム費用、訴訟費用、損害賠償金、出費、手数料及び経費に対して請負者を免責とする。 |
比較表-7(3)[譲渡および下請け] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
(b)指定下請者は、指定下請者自身、その代行者、作業員及び使用人によるいっさいの過失に対し、並びに請負者が契約のために供給する仮設工事のそれらの者による誤用に対し、並びに上述のいっさいのクレームに対し請負者を免責する。…第59.2 条 [設計要件を明示すべきこと] 暫定金額に関連し、提供すべき役務の中に本設工事、又はそれに組み込まれるプラントのいずれかの部分の設計又は仕様に関する事項が含まれるときは、かかる要件を契約書に明示するとともに、指定下請契約書にも含めるものとする。指定下請契約書には、かかる役務を提供する指定下請者は、かかる役務の履行、又はかかる責務および債務の不履行に関して生ずるいっさいのクレーム費用、訴訟費用、損害賠償金、出費、手数料及び経費に対して請負者を保障(免責)する旨を明記するものとする。 …第59.3 条 [指定下請者に対する支払] 指定下請者が遂行したすべての作業又は供給した物品、材料、プラントもしくは役務について、請負者は下記の事項についての権限が与えられているものとする。 (a)エンジニアの指示により、下請契約書に従って請負者が既に支払ったか、又は支払うべき実際の価格。 (b)請負者が供給した労務に関して、数量明細書に金額が記入されているときは、その金額又は第58.2条(a)に従ってエンジニアが指示した場合には第52条に基づいて決定される通りの金額。 (c)その他すべての手数料および利益として、既に支払ったか、又は支払うべき実際の価格に所定の百分率を乗じて算出した金額。かかる金額は、数量明細書中に暫定金額項目に対して百分率を設定するよう定められている場合には、当該項目に対して請負者が記入した百分率により算出するものとし、かかる定めがない場合には、入札書の付属書類中に請負者が記入した百分率により算出するものとするが、この目的のために数量明細書中の所定欄に記入されているものを再掲するものとする。 …第59.4 条 |
比較表-7(4)[譲渡および下請け] | 備考 | ||
FIDIC 約款 | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[指定下請者に対する支払証明書] 指定下請者が施工した工事、又は供給した物品、資材、プラント もしくは役務に関する支払を含む証明書を、エンジニアが、第60 条に基づき発行するに先立ち、エンジニアは、かかる指定下請者の工事、物品、資材、プラントもしくは役務に関する既発行の証明 書に含まれているすべての金額(保留分を差し引いたもの)を請負者が既に支払ったかもしくは弁済した旨の妥当な証拠を提出する ことを、請負者に要求する権利を有するものとし、請負者がかかる証拠を提出できないならば、請負者が、(a)かかる支払を保留し、又は拒否したことに対する妥当な事由を有する旨を書面でエンジニアを満足させ、(b)かかる指定下請者に対してその旨を書面で 通知済みであることの妥当な証拠をエンジニアに提出しない限り において、発注者は、請負者がかかる指定下請者に対し支払わなかったいっさいの金額(下請契約に規定する保留分を差し引いた額)を、エンジニアの証明書により、直接指定下請者に支払い、かかる発注者の支払金額を、発注者が請負者に現在又は将来支払うべき金額から相殺控除する権利を有する。ただし、エンジニアが証明を行いかつ発注者が上述のように直接支払ったときは、エンジ ニアは、それ以降、請負者宛に証明書を発行するにあたり、その 金額から発注者が上述の通り直接に支払った金額を差し引くものとするが、契約書の規定に基づきかかる証明書を発行するに至ったときは、かかる証明書自体の発行を保留したり、又は遅延させては ならない。 …第59.5 条 |
比較表-8(1)[物理的障害又は条件] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[物理的障害又は条件] 工事の遂行期間中において、請負者が現場の気象条件以外の自然障害あるいは自然条件に遭遇し、かかる障害あるいは条件が経験ある請負者が予測できるものではなかったと考えたときは、請負者は直ちにエンジニアにその旨を通知し、その写しを発注者に送付するものとする。 …第12.2 条 (注)請負者は、気象条件以外の、自らが経験豊かな請負者として予測しえない自然障害・自然条件に出会ったときは、直ちにエンジニアに文書で通知し、発注者にもその写しを送付する義務がある。 エンジニアはかかる通知を受け取って、かかる障害または条件は、験ある請負者によって妥当に予測されなかったと考えたときは、発注者及び請負者と協議の後、の項を決定し、請負者のその旨を通知するとともに、その写しを発注者に送付するものとする。 (a)第44条で請負者に権利がある工期の延長。 (b)かかる障害あるいは条件に遭遇したために、請負者に発生したと思われる支出額で、契約金額に追加すべき金額。 …第12.2 条 (注)経験豊かな請負者として予測しえない自然障害・自然条件があるとエンジニアが考えたとき(エンジニア、発注者側が調査をするかどうかについては言及していない)、エンジニアは発注者及び請負者と協議の上、工期延長の必要の有無、追加工事費の必要の有無についてのエンジニアとしての判断を示 す。 かかる決定は、自然的な障害あるいは条件に関連して、エンジニアが請負者に発することができる指示であるものとし、エンジニアからの具体的な指示がないとき、請負者が取ることができる適切かつ妥当な措置でエンジニアにとって受け入れられるものであることを考慮するものとする。 …第12.2 条 (注)発注者からの報告を受けたエンジニアは、請負者が自然的な 障害または条件に対して取るべき措置として、工期の延長、工事費の必要の有無について請負者に適切な判断を示す必要がある。 | [条件変更等] 1、受注者は工事の施工に当たり、次の各号に該当する事実を見つけたときは、書面をもってその旨を監督員に通知し、その確認を求めなければならない。 (1)設計図書と工事現場の状態が一致しないこと。 (2)設計図書の表示が明確でないこと(図面と仕様書が交互符号しないこと及び設計図書に誤謬または脱漏があることを含む)。 (3)工事現場の地質、湧水等の状態、施工上の制約等設計図書に示された自然的又は人為的な施工条件が実際と相違すること。 (4)設計図書で明示されていない施工条件について予期することのできない状態がしょうじたこと。 …第17 条 (注)設計図書に示されている内容、表示、自然的又は人為的な施工条件と相違する場合、設計図書で示されていない施工条件について予期することができない特別の状態が生じたとき、受注者は監督員に通知してその確認を求める義務がある。 2、監督員は、前項の確認を求められたとき又は自ら前項各号に掲げる事実を発見したときは、直ちに調査を行い、その結果(これに対してとるべき措置を指示する必要があるときは当該指示を含む。)を乙に通知しなければならない。 3、第一項に事実が甲乙間において確認された場合において、必要があると認められるときは、次の各号に掲げるところにより、工事内容の変更又は設計図書の訂正が行わなければならない。 (1)第1項第1号、第3号または第4号に該当し工事内容を変更する場合で工事目的物の変更を伴わないもの。 発注者が行う。 (2)第1項第1号、第3号または第4号に該当し工事内容を変更する場合で工事目的物の変更を伴わないもの。 発注者と受注者が協議して行う。 (3)第1項第2号に該当し設計図書を訂正する必要があるもの。 発注者が行う。 4、前項の規定により、工事内容の変更又は設計図書の訂正がなされた場合においては、次条第1項後段及び第2項の規定を準用する。 | [条件変更等] 受注者は、工事の施工に当たり、次の各号の一に該当する事実を発見したときは、第十八条その旨を直ちに監督員に通知し、その確認を請求しなければなない。 (1)図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書が一致しないこと (2)設計図書に誤謬又は脱漏があること (3)設計図書の表示が明確でないこと (4)施工上の制約等設計図書に示された自然的又は人為的な施工条件と実際の工事現場が一致しないこと (5)設計図書で明示されていない施工条件について予期することのできない特別な状態が生じたこと 2、監督員は、前項の規定による確認を請求されたとき又は自ら前項各号に掲げる事実を発見したときは、受注者の立会いの上、直ちに調査を行わなければならない。ただし、受注者が立会いに応じない場合には、受注者の立会いを得ずに行うことができる。 3、発注者は、受注者の意見を聴いて、調査の結果(これに対して とるべき措置を指示する必要があるときは、当該指示を含む)をとりまとめ、調査の終了後〇日以内に、そ。の結果を受注者に通知し なければならない。ただし、その期間内に通知できないやむを得ない理由があるときは、あらかじめ受注者の意見を聴いた上、当該期間を延長することができる。 4、前項の調査の結果において第一項の事実が確認された場合において、必要があると認められるときは、次の各号に掲げるところにより、設計図書の訂正又は変更を行わなければならない。 (1)第一項第一号から第三号までのいずれかに該当し設計図書を訂正する必要があるもの。 発注者が行う。 (2)第一項第四号又は第五号に該当し設計図書を変更する場合で工事目的物の変更を伴うもの。 発注者が行う。 (3)第一項第四号又は第五号に該当し設計図書を変更する場合で発注者と受注者が協議して工事目的物の変更を伴わないもの。 発注者が行う。 |
比較表-8(2)[物理的障害または条件] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
5、受注者は、次の各号に該当するときは、10日以前に発注者に通知して、工事の全部又は一部を一時中止することができる。ただし、発注者がその期間内に合意、変更、訂正又は協議に係る決定を行わないことにつき、やむを得ない理由があるときには、この限りではない。 (1)第1項の規定による確認を求めた後20日以内に確認についての合意が成立しないとき。 (2)第2項の規定についての合意が成立した後、発注者が20日以内に工事内容の変更又は設計図書の訂正を行わないとき。 (3)前項において、準用する次条第2項の規定による協議を申し出た後、20日以内に協議が整わないとき。 | 5、前項の規定により設計図書の訂正又は変更が行われた場合において、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。 |
比較表-9(1)[一般的義務] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[請負者の責任] (1)請負者は、契約書の諸規定に基づいて、十分な注意と勤勉さとをもって、工事を設計(契約書に規定されている程度まで)し、施工し、完成させる。そして、工事の瑕疵を手直しする。請負者は、かかる設計、施工、完成および瑕疵の手直しのために必要な、いっさいの現場監督、労務、資材、プラント、請負者の機器及びその他いっさいの物件を、仮設用と本設用とを問わず、これらを供給する必要性が契約書に規定されている限りあるいは契約書から妥当に結論づけられる限りにおいて、供給するものとする。 …第8.1 条 (2)請負者は、いっさいの現場作業及び施工方法の妥当性、安全性及び安全性について、全面的な責任を負うものとする。ただし、請負者は、(以下の条項に規定されている場合あるいは別段の合意がある場合を除き)、本設工事の設計又は仕様又は請負者が作成したものでない仮設工事の設計または仕様については責任を負わないものとする。請負者が本設工事の一部分を設計すべき旨契約書に明示的に規定している場合、請負者は、例えエンジニアがかかる工事部分の承認をしたとしても、かかる工事の部分についての全面的な責任を負う。 …第8.2 条 (注)(1)請負者は、エンジニアが設計した仮設工事に対しては、責任を有しない。請負者又は指名下請者を含む下請者が設計した仮設工事が不適切又は欠陥あるものであるとき、請負者は、本設工事を完成してその契約履行を果たすために、仮設工事を補足又は修正しなければならない。満足すべき仮設工事物を完成する過程で、請負者は余分の支払いを受ける権利を有するようになるかもしれない。 | [総則] 発注者及び受注者は、契約書記載の工事の請負契約に関し、契約書に定めるもののほか、この契約に基づき、別冊の図面及び仕様書(現場説明書及び現場説明に対する質問回答書を含む。以下これらの図面及び仕様書を「設計図書」という。)に従いこれを履行しなければならない。 2、この約款及び設計図書に特別な定めがある場合を除き、仮設工法等工事目的物を完成するために必要な一切の手段については、受注者が決めることができる。 ・・・第1 条 (注)受注者がその責任において定めるものとする。 3、この契約の履行に関し、受注者から発注者に提出する書類は、発注者の指定するものを除き、第9条に規定する監督員(以下 「監督職員」という。)を経由するものとする。 4、前項の書類は、監督職員に提出された日に発注者に提出されたものとみなす。 (注)契約条件の明確化を図るために現場説明及び現場説明に対する質問回答のうち書面によるものに限り、設計図書に含むこととして本契約書を適用するとし、また、仮設、施工方法等についてその責任の所在を明らかにするため、設計図書に特別な定めがある場合を除き、受注者も責任において定めることとされたので、これらの書類の作成又は設計図書における特別の定めにあたっては、その改正の趣旨に十分配慮し、遺憾のないように措置すること。なお第3項にいう「発注者の指定するもの」については、現場説明の際指定すること。 ・・・「工事請負契約書の制定について」 最終改正平成4年2月15日建設省厚発第45号一建設事務次官から各地方建設局長宛 | [総則] 2 乙は、契約書記載の工事を契約書記載の工期内に完成し、工事目的物を甲に引き渡すものとし、甲は、その請負代金を支払うものとする。 3 仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段(「施工方法等」という。以下同じ。)については、この約款及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、乙がその責任において定める。4 乙は、この契約の履行に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。 5 この約款に定める請求、通知、報告、申出、承諾及び解除は、書面により行わなければならない。 6 この契約の履行に関して甲乙間で用いる言語は、日本語とする。 7 この約款に定める金銭の支払に用いる通貨は、日本円とする。 8 この契約の履行に関して甲乙間で用いる計量単位は、設計図書に特別の定めがある場合を除き、計量法(平成四年法律第五十一号)に定めるものとする。 9 この約款及び設計図書における期間の定めについては、民法及び商法の定めるところによるもの とする。 10 この契約は、日本国の法令に準拠するものとする。 11 この契約に係る訴訟については、日本国の裁判所をもって合意による専属的管轄裁判所とする。 12 乙が共同企業体を結成している場合においては、甲は、この契約に基づくすべての行為を共同企業体の代表者に対して行うものとし、甲が当該代表者に対して行ったこの契約に基づくすべての行為は、当該企業体のすべての構成員に対して行ったものとみなし、また、乙は、甲に対して行うこの契約に基づくすべての行為について当該代表者を通じて行わなければならない。 |
比較表-9(2)[欠陥保証責任] | 備考 | ||
FIDIC 約款 | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
(2)エンジニアは完成した本設工事が、請負者の仮設工事に起因する応力により悪影響を受けない旨を、発注者に保証する義務がある。エンジニアの義務は、請負者に仮設工事の設計を任せても満足できるものでない場合には、エンジニアが仮設工事の設計を実際に行うことであり、クレームの口実を与える危険性に留意しながら、エンジニアの管理権限を行使することである。エンジニアは又、少なくとも完成した本設工事に対する害を避けるに必要な限りにおいて、自己の設計又は請負者の設計に従って、仮設工事が実際に建設された旨の保証もしなければならない。発注者は、工事が予定通り完成することを求めているのであり、請負者に対する損害賠償の権利を求めているのではない。仮設工事に重大な失敗があれば、本設工事の完成を遅らせることになるかもしれない。 (3)エンジニアには、仮設工事の過失を探し出したり、予防措置を講じる義務を請負者に対して持たない。 (4)請負者が仮設工事の設計又は建設上その注意義務に違s反したとき、請負者は、その被雇用者及び第三者に対して責任を負うべきである。さらに経験豊かな請負者として、エンジニアの仮設工事の設計・施工に過失があることを知っていたか又は当然知るべきであった場合、その旨をエンジニアに通知し確認を求めるべきである。エンジニアの設計通り に従った場合も責任を負うことになる。 |
比較表-10(1)[欠陥保証責任] | 備考 | ||
FIDIC | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[請負者の一般的責任] 請負者は、契約書の規定に基づき、工事を設計し、施工し、完成させ、工事の欠陥の手直しを行う。 …第8.1 条 [欠陥保証責任期間] 契約図書に記載された期間で、エンジニアが証明した工事完成日あるいは部分的に証明した場合には、各証明書の日付。 …第49.1 条 [未了作業の完了と欠陥の修復] 欠陥保証責任期間(以下、“期間”という)終了時点もしくはその 後、請負者が工事を発注者に引き渡す場合、引渡し証明書に記載された日にまだ未了作業があれば、請負者は、出来るだけ速やかに完了させる。そして、期間中もしくは期間終了後14日以内に、エンジニア側が指示した欠陥その他の欠陥の手直し、再施工、修復等を行う。 …第49.2 条 [欠陥等の手直し費用] (1)請負者は以下の要因による欠陥の手直し費用を負担する。 (a)契約図書に準拠していない材料の使用、プラント、出来栄え、 (b)請負者が本工事のその部分を設計した場合の設計の間違い、 (c)契約上、請負者が負う明示責務もしくは黙示責務の怠慢もしくは不履行。 (2)上記(1)以外の原因によると、エンジニアが判断した場合は、 発注者が欠陥の手直し費用を負担する。 …第49.3 条 | [瑕疵担保] 工事目的物に瑕疵があるときは、発注者は受注者に対して相当な期間を定めその瑕疵の修補を請求し、その損害賠償を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でなく、その修補に過分の費用がかかるときは、修補を請求できない。 ・・・第37 条 [瑕疵の修補請求期間] 発注者は、瑕疵の修補または損害補償の請求を、工事の引渡しを請けた日から○*年以内に行なうこと。その瑕疵が受注者の故意又は重大な過失により生じた場合は○**年以内とする。 ・・・第37 条2 項 (注) * 木造建築なら 1 年、コンクリート/土木工作物は 2 年、設備は1 年。 **は例えば10 年 [瑕疵の通知と修補及び損害の請求] 発注者は、工事目的物引渡しの際に、瑕疵について受注者に通知しない限り、受注者に対して、その修補及び損害を請求することはできない。ただし、受注者が瑕疵の存在を知っていた時はその限りではない。 ・・・第37 条第3 項 | [瑕疵担保] 発注者は、工事目的物に瑕疵があるときは、受注者に対して相当な期間を定めその瑕疵の修補を請求し、又は修理に代えもしくわ修補とともに損害の賠償をすることができる。ただし、瑕疵が重要でなく、その修補に過分の費用がかかるときは、修補を請求できない。 ・・・第44 条[A] 前項の規定によるかしの修補又は損害賠償の請求は、第三十一条第四項又は第五項(第三十八条においてこれらの規定を準用する場合を含む)の規定による引渡しを受けた日から〇年以内に行わなければならない。ただし、そのかしが乙の故意、又は重大な過失により生じた場合には請求を行うことのできる期間は〇年とする。 ・・・第44 条第2 項 [注]本文の〇の部分には、原則として、木造の建物等の建設工事の場合には一を、コンクリート造等の建物等又は土木工作物等の建設工事の場合には二を、設備工事等の場合には一を記入する。ただし書の〇の部分には、たとえば、一〇と記入する。 [瑕疵の通知と修補及び損害の請求] 発注者は、工事目的物の引渡しの際にかしがあることを知ったときは、第一項の規定にかかわらず、その旨を直ちに受注者に通知しなければ、当該かしの修補又は損害賠償の請求をすることはできない。ただし、受注者がそのかしがあることを知っていたときは、こ の限りでない。 ・・・第44 条第3 項 | |
[請負者の指示不履行] 妥当な期間内に、請負者が欠陥の手直しを行わない場合、発注者は他の者を雇用し、欠陥の手直しを行う権利を有する。欠陥の費用を請負者が負担すべきである場合は、エンジニアがその費用を決定する。その費用は、請負者が負担する。 …第49.4 条 | [工事目的物の滅失や棄損] 工事目的物が滅失したり棄損した場合、発注者は、「瑕疵の修補請求期間」内で、しかもその滅失または棄損の日から 6 ヶ月以内に修補及び損害の請求を行なわなければならない。 ・・・第37 条第4 項 | [工事目的物の滅失や棄損] 発注者は、工事目的物が第一項のかしにより滅失又はき損したときは、第二項又は第四項の定める期間内で、かつ、その滅失又はき損の日から六月以内に第一項の権利を行使しなければならな い。 ・・・第44条第5項 |
比較表-10(1)[欠陥保証責任] | 備考 | ||
FIDIC 約款 | 公共工事標準請負契約約款(旧) | 公共工事標準請負契約約款(現行) | |
[請負者の調査] 期間完了前に、工事に欠陥、欠点等が現れた場合は、エンジニアの監督の下に、請負者はそれらを調査する。それらの欠陥、欠点等について請負者に責任がない場合、その調査費用は発注者が負担する。それらの欠陥、欠点等について請負者に責任がある場合、請負者が負担するものとし、それらの手直しを行い、費用も 負担する。 …第50.1 条 |