Contract
多様な入札契約方式の活用動向と将来像
国土交通省 国土技術政策総合研究所 社会資本マネジメント研究センター 社会資本マネジメント研究室
なか す
室長
xx
xx x
xx
xxxに ゆう き
xxxx x x
xx研究官
xx xx 研究官 xx xx
1. はじめに
我が国では,昭和の終わり頃より,公共工事の入札において透明性,xx性,競争性の確保を求める声が強まった。その結果,現在では,国土交通省直轄工事のほとんどで一般競争入札・総合評価落札方式を適用している。一方,平成 26 年の品確法改正を契機として,技術提案・交渉方式,災害復旧における随意契約・指名競争入札,事業促進 PPP,フレームワーク方式等,工事の性格,地域の実情に応じて多様な入札契約方式の適用が進んでいる。
また,海外に目を向けると,欧米主要国を中心に,過剰な競争性の追求や受注者へのリスク移転
図- 1 総合評価落札方式の適用件数の推移
により,費用増加,工期遅延が頻発したことへの反省から,受発注者間のパートナーシップを重視する入札契約方式の適用が広がっている。本稿は,我が国のこれからの建設生産・管理システムの議論の参考となるよう,国内外の多様な入札契約方式の活用動向と将来像について報告する。
2. 総合評価落札方式の課題と対応
⑴ 総合評価落札方式の適用拡大
我が国では,日米建設協議等において建設市場の国際化を求める声が強まったことを背景に,公共工事の入札において透明性,xx性,競争性の確保を求められた。その結果,それまで広く採用されていた指名競争入札を改め,一般競争入札へ
の転換や総合評価落札方式の導入が行われた。平成 17 年の品確法成立を契機に,総合評価落札方式の適用が急速に拡大し,現在では,国土交通省直轄工事のほとんどで一般競争入札・総合評価落札方式を適用しており,技術提案評価型(A 型・S 型),施工能力評
価型(Ⅰ型・Ⅱ型)の契約タイプに区分される(図- 1)。
⑵ 技術提案評価型(A 型)の課題
技術提案評価型(A 型)は,技術的工夫の余地が大きい工事に適用し,目的物の変更を伴う提案を求め,設計・施工一括発注を中心に適用する。設計・施工一括発注は,施工者の高度な技術を設計に反映し,合理的な設計,効率的な施工等を期待して平成 9 年より導入されたものの,関係機関協議,土質・地質条件等,施工者がコントロールできないリスクのある工事には適用できない。
過去,技術提案評価型(A 型)を適用した工事において,関係機関協議,土質・地質等の多くのリスクが発生(図- 2)し,費用増加,工期遅延が課題となった。その結果,国土交通省直轄の設計・施工一括発注の適用件数は限られるのが現状である。
図- 3 技術提案評価型 S 型(WTO)の技術評価点
VFM に基づく評価は,受発注者の負担の大きxx,施工者にコントロールできないリスクを伴う公共工事の性格を踏まえ,品質確保等に関する要素技術を中心とした評価へと改められてきた経緯がある。
⑷ 施工能力評価型(Ⅰ型・Ⅱ型)の課題
施工能力評価型は,技術的工夫の余地が少ない中小規模の工事に多く適用される一方,案件ごとの一般競争となり,確認審査等の手続簡素化が課題である。維持修繕工事等では,一般土木工事と比較して入札不調や 1 者応札が起きやすく,地域インフラを支える体制確保が課題となっている
(図- 4,5)。
図- 2 技術提案評価型(A 型)工事のリスク事例 1)
⑶ 技術提案評価型(S 型)の課題
技術提案評価型(S 型)は,工事の品質確保等に関する提案を求め,目的物の変更や協議を伴う提案は対象外のため,要素技術提案が中心となり,技術評価の得点差が付きづらいことが課題となっている(図- 3)。公共工事では,関係機関協議,土質・地質条件等,施工者がコントロールできないリスクが存在するため,技術提案に履行義務を課す総合評価落札方式において,確実に履行可能な提案の範囲は,品質確保等に関する要素技術が中心となるのが現状である。
また,導入初期の総合評価落札方式は,VFM
(Value for Money)の考え方に基づき,工事品質向上分を金銭換算する評価手法を採用した。
400
工 事 件 数
300
200
100
0
800
工 事 件 数
600
400
200
0
7.3 者
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20~(者
競争参加者数
図- 4 一般土木工事の競争参加者数
3.0 者
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20~(者
競争参加者数
図- 5 維持修繕工事の競争参加者数
⑸ 総合評価落札方式の課題を踏まえた教訓
民間企業の優れた技術の活用を期待して, VFM に基づく評価,設計・施工一括発注を導入するに当たり,発注者は工事目的物の性能や機能を提示するにとどめ,構造形式などを含めて施工者の裁量とし,リスク分担に関しても一定程度,施工者にリスクを移転することが,民間企業の創意工夫を引き出す上で有効と考えられた。しかしながら,発注者による予備設計と異なる施工者の提案を仕様に反映するには,追加地質調査,河川管理者,道路管理者,警察等との新たな協議が必要となることが多く,我が国の公共工事において,これらの調査,協議を施工者の裁量だけで進めることは現実的ではなく,発注者との密な連携が必要となる。
このように,施工者の創意工夫を引き出し,設計・施工の仕様を最適化するには,発注者の関与を減らし施工者の裁量を増やすという考え方よりも,発注者と施工者がパートナーシップを組み,双方の情報・知識・経験を融合させながら,協力的に調査,協議を積み重ねていく考え方が重要となる。
平成 26 年 6 月の品確法改正において,工事の性格,地域の実情に応じて,多様な入札契約方式を選択することが示された。その結果,現在では,一般競争入札・総合評価落札方式に限らず,
次章に示す多様な入札契約方式の適用が進んでおり,これらの方式は,発注者と施工者がパートナーシップを組み,官民双方の情報・知識・経験を融合させながら,協力的に取り組む点が共通している。
3. 多様な入札契約方式の活用動向
⑴ 技術提案・交渉方式
技術提案・交渉方式は,平成 26 年の品確法改正により規定され,仕様の確定が困難な工事において施工者が設計段階から関与し,施工者の高度な技術や,手戻りを回避する工夫を設計に反映できる方式である。令和 3 年 8 月現在,国土交通省直轄の 25 工事に適用され,施工者自身が設計する「設計交渉・施工タイプ(図- 6)」,別契約の設計に対して施工者が技術協力を行う「技術協力・施工タイプ(図- 7)」の 2 種類が適用されている。
技術提案・交渉方式を適用した工事において,
①プロセス改善効果,②施工者提案技術活用効果,③リスク低減効果,④施工条件改善効果,⑤ ICT を活用しやすい体制構築の 5 類型の効果が確認されている(図- 8)。
図- 6 設計交渉・施工タイプのフロー
図- 7 技術協力・施工タイプのフロー
図- 8 技術提案・交渉方式の適用効果の例 2)
図- 9 災害復旧における入札契約方式
⑵ 災害復旧における随意契約・指名競争入札等災害時においては,早期の災害復旧・復興のた め,必要なときに随意契約や指名競争入札を適切に適用することが重要である。そのため,平成 29 年 7 月に災害復旧における入札契約方式の適用ガイドラインが策定され,災害復旧における工
事の入札契約方式の適用の考え方が示された。 また,xxxxxxは令和 3 年 5 月に改正さ
れ,災害復旧における業務の入札契約方式の適用の考え方や,随意契約の適用条件の具体化,充実を図るとともに,災害復旧・復興事業における技
術提案・交渉方式,事業促進 PPP の活用等に関する最新知見を反映した(図- 9)。これらの取組により,災害復旧・復興事業の円滑な執行に役立てている。
⑶ 事業促進PPP
事業促進 PPP は,官民の技術者がパートナーシップを組み,官民双方の技術者が持つ情報・知識・経験を融合させながら,事業全体計画の整理,測量・調査・設計業務等の指導・調整,地元及び関係機関等との協議,事業管理,施工管理等
図- 10 事業促進 PPP の概要
を行う方式である(図- 10)。事業促進 PPP は,平成 23 年 3 月の東北地方太平洋沖地震の後,三陸沿岸道路等の復興道路事業等で適用され,豊富な施工経験を有する民間技術者が調査,設計等の事業上流段階から参画し,施工に精通する技術者の新技術に関する豊富な知見や,工事の手戻りを回避する工夫等を取り入れ,円滑な事業執行に役立てている。
⑷ フレームワーク方式
一般競争入札・総合評価落札方式は,発注ごとの公募,競争となるため,xxの経験や地域への精通が欠かせない維持管理に関わる工事・業務を中心に,入札不調や 1 者応札が起きやすく,担い手確保,育成が課題となっている。一方,フレー
図- 11 フレームワーク方式
ムワーク方式(図- 11)を適用すると,受発注者の入札契約手続負担の軽減,受発注者のパートナーシップの構築,長期の受注見通しによる新規投資の誘発(若手採用,資機材保有,新技術活用等),継続的な受注機会の確保による工事・業務
(維持修繕,巡視,パトロール,点検,観測,台帳作成等)の品質xxxの効果が期待される。
4. 海外の入札契約方式の動向
⑴ 弊害を生んだ競争性の追求
英国,米国等の欧米主要国では,我が国よりも一足早い 1980 年代から 90 年代にかけて,財政難への対応,建設産業の国際競争力強化のため,公共事業の削減,インフラ系国営企業の民営化等を強力に進めた。1979 年に誕生した英国のxxxxx政権の改革は有名で,英国で設計・施工一括発注やPFI が導入されたのもこの頃である。
しかしながら,こうした市場原理,自由競争を重視した建設生産・管理システムの改革は,低価格競争,品質低下,受発注者間の紛争の多発という弊害を招いた。特に,海外の公共工事では,受発注者が契約図書の解釈,責任の所在に関して,
対立関係が生じやすいことで知られる。競争激化に伴い,安値で受注した企業が増額変更を求めて訴訟に発展する事案が頻発し,大きな社会的損失となった。
⑵ 競争,対立から信頼,協調への転換
米国,英国では,競争性の追求がもたらす弊害に対応して,受発注者がお互いに信頼し合い,共通の目標に向かって協力的に取り組むパートナーリングの概念を導入するようになった 3)。
パートナーリングの概念は,米国陸軍工兵隊のxxxxx・xxxxによって 1988 年に米軍の公共工事で導入されたのが最初といわれる。英国では,1994 年 7 月,xxxx・xxxxが「チームをつくる(Constructing the team)」4)を発表し,発注者,建設会社等がお互いに信頼し,共通の目標に向かって協力的に取り組むことの重要性を説いた。また,1998 年 7 月,英国のxxx・xxxxが,「建設業再考(Rethinking Construction)」5)を発表し,公共事業の円滑な遂行を阻害する要因の一つに競争入札を挙げ,パートナーリングによる一体的なサプライチェーン構築の重要性を説いた。
⑶ 施工者が設計段階から関与する方式の導入
欧米主要国においても,我が国と同様に,発注者が工事の仕様を定め,発注者が示す仕様に基づき施工する設計・施工分離発注が多く採用されてきた。一方で,設計・施工分離発注は,工事着手後に生じるさまざまな条件変更への対応が課題となっていた。契約図書の解釈,責任の所在に関して,受発注者の対立関係が生じやすい英国,米国では,施工者が設計,施工の責任を一括して負うことで,条件変更等に関する施工者のクレームや訴訟による工事の遅延を回避しつつ,施工者の創意工夫を引き出し,工期短縮,工費縮減が期待できるとして,設計・施工一括発注が適用されるようになった。
設計・施工一括発注は,設計段階から工事を含め契約をするため,不確定要素が大きな工事には
適用できない点,工事の品質等に対する発注者の関与が限定的となる点等が課題として指摘された。そこで,英国,米国において,受発注者がパートナーシップを組み,協力的に取り組むことの重要性を理解した発注者を中心に,ECI(Early Contractor Involvement) 方式,CM/GC
(Construction Management/General Contractor)方式を適用するようになった。
⑷ 包括・個別二段階契約の導入 6)
① 英国のフレームワーク合意方式
英国のフレームワーク合意方式(Framework Agreements)は,2004 年版の EU 公共調達指令
(その後 2014 年版発行)に基づく「長期指名候補者との事前合意制度」であり,2006 年版の英国公共契約規則(その後 2015 年版発行)において規定された。
フレームワーク合意方式は,第一段階として,長期指名候補者を公募により選定し,これらの企業との間で一定期間(通常 4 年間)の個別発注に関する基本条件を合意する。その上で,第二段階の個別発注では,合意内容に基づき受注者を選定する(図- 12)。フレームワーク合意方式は,物品調達,建設コンサルティングの他,建築(公営住宅,学校,市庁舎等),土木(道路,河川等)分野の工事等で,同種の調達を繰り返す場合に多く活用されている。4 年間の合意期間後は,必要
に応じて新たな(仕様は継続的になる)フレームワーク(長期指名候補者)を公募する。従前のフ
フレームワーク合意
図- 12 英国のフレームワーク合意方式(一般)
レームワーク協定者も,要件を満たせば新たな協定公募に参画することができる。
② 米国の数量未確定契約方式
米 国 の 数 量 未 確 定 契 約 方 式( Indefinite- Delivery/Indefinite-Quantity Contracts:ID/IQ )は,1994 年の連邦調達合理化法において法制化され,連邦調達規則では「調達時期,数量ともに未確定で包括的な契約を締結するもの」と規定されている。同方式は,調達にかかる時間短縮と競争関係を両立することを目的として,連邦調達庁が物品やサービスの調達に採用することから始まり,陸軍工兵隊(治水施設等)や連邦道路庁等が行う公共工事でも採用されている。
数量未確定契約方式は,英国のフレームワーク合意方式と同様に,基本契約(第一段階)と基本契約に基づく個別発注(第二段階)に区分される
(図- 13)。基本契約の入札案内書では,基本契
約の内容と個別発注の最大,最小の数量等が示される。基本契約者の選定基準は,基本契約が価格と品質の総合評価,個別発注では最低価格が多く用いられている。
発注1
入札
発注2
入札
発注N
随意契約
企業A
企業A
企業A
基本契約者
企業B
企業B
企業B
企業C 企業C 企業C
基本契約
発注者
第一段階 第二段階(個別発注)
権を公共が有し,施設の運営権を民間事業者に設定するコンセッション方式が積極的に適用されている。
PFI 等は,公的財源による初期投資を抑制できる利点が取り上げられる一方で,景気変動による利用者低迷等,民間に移転できないリスクは最終的に公共が負担する例が多い。我が国でも 2009年に病院運営の PFI 事業が破綻し,公共が関与した運営に戻った例があるように,英国でもPFI事業の破綻例があり,英国の PFI 事業採択数は近年,年間数件程度にとどまっている。
アジア等新興国では,熾烈な価格競争の上,発注者が受注者に事業の責任・リスクを移転する傾向が強く,リスク発現に伴う契約変更に消極的な結果,品質の低下や,契約変更を巡る受発注者の対立により事業が停滞する例もある 7)。また,インフラの料金収受等の運営権を民間に委託,売却すると,政府等が収益をプールできず,インフラの性能・機能,リスク分担等が長期にわたり固定化されるため,社会経済情勢の変化に応じた将来のインフラの機能向上,拡張等の新規投資における政府側のコスト,労力が増大し,インフラの性能・機能に対する政府の関与が限定的になるという課題もある。
5. おわりに
図- 13
米国の数量未確定契約方式
我が国,欧米主要国ともに,官民連携の形態の多様化が始まった初期は,民間企業の創意工夫を最大限引き出すため,発注者は性能や機能を示す役割にとどめ,競争的な入札契約方式の採用や,受注者への責任・権限の付与,リスク移転が有効と考えられた。その結果,設計・施工一括発注や
⑸ PFI 等の課題
海外では,設計・施工一括発注に限らず,インフラ事業の資金調達,設計,建設,運営,管理を一体的に発注する PFI 等が積極的に適用される例がある。特に,インフラ事業の公的財源や発注者体制が乏しいアジア等の新興国で,施設の所有
PFI の導入や検討が行われた。
公共事業は,気象,地質等の自然,地元住民,関係行政機関との協議,社会経済情勢の変化等,民間企業のみではコントロールが難しいさまざまなリスクを有している。その結果,近年では我が国,欧米主要国ともに,事業の関係者がパートナ
ーシップを組み,信頼,誠意に基づく行動により,事業の促進を図る方式の採用が増えている。こうした受発注者のパートナーシップを重視する入札契約方式が活用される背景には,受発注者ができるだけ対立せず,協議により紛争を回避し,工期の遵守,高品質の確保等,共通の目標に向かい取り組む日本の建設生産・管理システムの良さが評価されている面がある。
我が国では,日米建設協議,WTO 発効等,建設市場の国際化等を背景に,受発注者の長期にわたる協働は閉鎖的な市場,不正の温床との指摘を受け,一般競争入札・総合評価落札方式の適用を拡大してきた経緯がある。
我が国の建設生産・管理システムの将来像の議論においては,我が国の従来からの建設業界の文化,慣習に誇りを持ち,透明性,xx性,競争性の確保に十分留意しつつも,生産性向上や担い手確保への取組を一層前進させるため,協調性,継続性,効率性の観点とバランスのとれた検討が必要になる。
【参考文献】
1) xxxx,xxxx,xxx,xxxx,xxxx:実工事への適用結果を踏まえた技術提案・交渉方式の手続実施方法の改善,土木学会論文集 F4, Vol.74,No.2,pp.232-243,2018.12
2) xxxx,xxxx,xxxx,xxxx,xxxx:技術提案・交渉方式の適用工事をモデルとした生産性向上への取組,第 1 回 i-construction の推進に関するシンポジウム,2019.7
3) 海外建設協会編:海外に学ぶ建設業のパートナリングの実際,鹿島出版会,2007.3
4) Xxxxxx, X.“, Constructing the Team”, July 1994, UK 5) Xxxx, X.,“Rethinking Construction”, 1998, UK 6) xxxx,xxxx,xxxx,xxxx:英国・
米国における包括・個別二段階契約方式 −フレームワーク合意方式(FA)と数量未確定契約方式(ID/IQ)−,国総研資料 No.908,2016.3
7) xxxx,xxxx,xxxx:インドにおける日本企業の実経験に基づく ODA インフラ事業のリスク低減策,土木学会論文集F4,Vol.77,No.1,pp.57-68, 2020.12