Contract
8 退職・解雇
労使いずれかからの申し出等により、使用者と労働者との合意した労働契約が解約されたとき、労働契約の終了となります。
労働者の意思によるものなのか、使用者の意思によるものなのか、双方の同意によるものなのか、その形態で要件が異なります。
退 職
退職とは、労働者が自発的に、あるいは使用者との合意によって労働契約を解約することをいいます。
退職の種類には、次のようなものがあります。
任意退職 | 労働者の意思に基づくもの(自己都合退職) ①期間の定めのない労働契約の場合は、申込後、原則として2週間後に退職できます。(民法第627条) ただし、月給制のときは、賃金計算期間の前半に退職を申し入れた場合は、その賃金計算期間の末日に雇用契約が終了することになり、賃金計算期間の後半に申し入れた場合は、次の賃金計算期間の末日に雇用契約が終了することになります。 ②期間の定めのある労働契約の場合は、契約期間の満了までは原則として退職することはできませんが、「やむを得ない事由」があるときは退職することができます。(民法第628条) ③期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る)を締結した労働者は、上記②(民法第628条)の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます。(※暫定措置)(労基法附則第137条) |
合意退職 | 労働者と使用者の合意によるもの (即日でも退職することができます。) |
その他の退職 | 契約期間の満了、定年、労働者の死亡等によるもの |
労働者からの退職の申出については、①労働契約の合意解約の申込である場合(退職したいという申出)、②労働契約の一方的解約としての辞職(退職)の意思表示である場合(特定の日に退職するという通知)があります。
②の場合は、一方的解約としての辞職(退職)の意思表示となり、退職届が使用者に到達した時点で退職の届出の効力が生じます。
また、①の場合は、使用者が合意の意思表示をしなければ退職の届出の効力は生じません。
解 雇
解雇とは、使用者が一方的に意思表示をして労働契約を解約することです。
解雇の種類には、次のようなものがあります。
普通解雇 | 勤務不能、勤務成績の不良、協調性の欠如など労働者側の理由による解雇 |
整理解雇 | 会社の経営上の理由により人員削減が必要な場合に行われる解雇 |
懲戒解雇 | 労働者の重大な規律違反に対して労働者を制裁する目的で行う解雇 |
解雇の制限
解雇は自由にできるものではなく、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」としています。(契約法第16条)
このほか、次のような解雇は労働者保護の立場から禁止されています。
①業務上の負傷・疾病による休業期間及びその後30日間(労基法第19条)
②産前産後の休業期間及びその後30日間(同法第19条)
③国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(同法第3条)
④労働基準監督署等に申告したことを理由とする解雇(同法第104条)
⑤労働組合の組合員であることを理由とするなど、労働組合法で不当労働行為とされる不当な理由による解雇(労組法第7条)
⑥女性であることを理由とする解雇(均等法第6条)
⑦婚姻、妊娠、出産したことや産前産後休業の取得等を理由とする解雇(均等法第9条)
⑧育児休業や介護休業、子の看護休暇の申し出や取得したことを理由とする解雇(育児・介護休業法第10条、16条、16条の4、16条の7)
整理解雇の4要件
整理解雇については、これまでの判例から、使用者の解雇理由の正当性を判断する基準として、次の4要件が示されています。
① 人員削減の必要性
・経営上の事情により、人員整理をする必要があると認められること。
② 解雇回避の努力
・解雇を回避するための努力を十分に尽くしたこと。
③ 人選の合理性
・解雇対象者の人選が合理的で、かつ基準に沿った運用が行われていること。
④ 手続の妥当性
・対象社員や労働組合に対し、十分な説明と協議を尽くしていること。
解雇の予告
使用者が労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金(これを「解雇予告手当」といいます)を支払わなければなりません。(労基法第20条)
ただし、天災事変などやむを得ない事情で事業の継続が不可能となったものや、労働者に責任があったもので、労働基準監督署の認定を受けて解雇する場合には、その必要はありません。
また、次に該当する者は解雇予告制度は適用されません。(同法第21条)
①日々雇入れられる者で、継続して使用される期間が1か月以内の者
②2か月以内の期間を定めて使用される者で、その期間を超え、継続して
使用されることのない者
③季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者で、その期間を超え、
継続して使用されることのない者
④ 試の使用期間中の者で、その期間が14日を超えない者
退職・解雇後の使用者の義務
◆退職の証明
退職・解雇にかかわりなく、労働契約が終了した場合、労働者が、その労働者の使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書の交付を請求したときは、使用者は遅滞なく、これを交付しなければなりません。この場合は、請求しない事項を記入してはいけないことになっています。(労基法第22条)
また、解雇を予告された日から退職の日までの間に、労働者が解雇の理由について証明書の交付を請求したときは、使用者は遅滞なくこれを交付しなければなりません。(同法第22条第2項)
◆金品の返還
労働者の死亡又は退職の場合で労働者から請求があった場合には、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金などがあれば、それらを返還しなければなりません。(同法第23条)
懲 戒
懲戒処分とは、服務規律違反等、労働者の企業秩序に違反する行為などに対し、使用者によって課せられる制裁罰とされています。懲戒処分の種類は、「戒告」「減給」「出勤停止」「懲戒解雇」等です。
懲戒処分は、使用者による制裁罰だからといって、使用者が自由勝手に行えるというわけではありません。
懲戒処分の運用や行使にあたり、これまでの判例による守るべきルールは次のとおりです。
① 罪刑法定主義の原則
懲戒事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則に明記されていること(労基法第89条第9号)。また、根拠規定が制定以前の違反に対して遡って適用することはできない。さらに、原則として同一の違反に対し重ねて懲戒処分を行うことはできない。
② 平等取扱いの原則
同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度であること。
③ 相当性の原則
懲戒解雇は、規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものであること。使用者が重すぎる量刑をした場合は、懲戒権を濫用したものとされる。(契約法第15条)
④ 適正手続の原則
懲戒処分を行う際には、就業規則上の手続を遵守すべきはもちろん、そのような規定がない場合にも本人に弁明の機会を与えることは最小限必要とされています。