が加盟する国連国際動産売買法条約(いわゆるウイーン条約、CISG)はこれについて明文規定を設けており、国際的商事契約に関するユニドロア原則(the UNIDROIT Principles of International Commercial Contracts)もこれを明規している。このような状況のもと で、わが国における国際商事仲裁において仲裁人は損害軽減義務にどのように対処すべきかについて考察するのが本稿の目的である。以下では、まず主要国の国内法において損...
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
―損害軽減義務を素材として―
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1.はじめに
仲裁は仲裁合意を前提とする。その合意は紛争が当事者間に発生してか らでもなしうるが、通常は何らかの取引契約締結に付随する仲裁合意とし てなされる。従って、仲裁によって解決されるべき紛争は契約紛争であり、そこでは契約不履行が主張され損害賠償が求められるのが普通である。損 害賠償以外の救済、例えば物の引渡しや差止め或いは確認等が求められる こともありうるが実際には希な事例に属する。従って、仲裁人としては責 任の有無の認定とともに、責任を肯定した場合には損害額の認定に大きな 精力を注ぎ込まなければならない。この作業は複雑な事実認定とともに困 難な法律問題を含んでいる。つまり、如何なる基準によって損害額を認定 すべきかは法律問題であり、これに関する実体法は国により区々であるか ら、国際商事仲裁事件では如何なる準拠法を適用するかによって損害額の 認定が異なることがある。
これに関してしばしば問題となる事項として、債権者の損害軽減義務
(又は抑止義務、避止義務)がある。この義務(duty to mitigate damages)はもともとxx法に由来するもので、日本民法には規定はなく、学説としては主張されているものの、これを正面から認めた裁判例は存在しない。しかし、xx以外の諸外国では制定法上あるいは判例法上これを認める国はかなりあり、わが国は加盟していないが世界の主要国を含む約 70 か国
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
が加盟する国連国際動産売買法条約(いわゆるウイーン条約、CISG)はこれについてxx規定を設けており、国際的商事契約に関するユニドロア原則(the UNIDROIT Principles of International Commercial Contracts)もこれを明規している。このような状況のもとで、わが国における国際商事仲裁において仲裁人は損害軽減義務にどのように対処すべきかについて考察するのが本稿の目的である。以下では、まず主要国の国内法において損害軽減義務がどのように規定され或いは捉えられているかを概観し、次に条約など国内法以外での損害軽減義務に関する規定を考察し、国際商事仲裁において仲裁人が実体的判断をする場合の判断基準(何らかの「法」によるかxxによるか)について一般論を述べたのち、損害軽減義務の法理を適用するとすれば、どのような理論によりどのような手続を踏むべきか、について考えてみたい。
xx法における損害軽減義務の典型的な適用場面と適用結果は次のよう
なものである。売買契約において売主が目的物を引き渡さないとき、買主は拱手傍観して自らの損害を徒に増大させるべきではなく、同じものが市場で調達可能ならばいち早く他からの調達を実行して損害の軽減に努めるべきであり、もし契約価格と調達価格に差があって損害を生じたならばその差額のみを損害賠償として売主に請求することができる。このような法理はxx合理的でxxxにも合致したものと思われるが、大陸法の諸国ではこのような買主の義務を正面から認めていることは少ない。日本民法には規定がなく、学説はあるが判例の立場は明確ではない。仲裁条項のある契約の準拠法条項において、損害軽減義務を持たない国の法が指定されていた場合に、仲裁人は損害軽減義務の法理に依拠して仲裁判断を下すことができるか、できるとすればどのような根拠により、そのような条件のもとで可能か。この問題を素材として、国際商事仲裁における仲裁人が紛争の解決のために依拠すべき実体法上の基準についてより一般的に考察することが本稿の課題である。
現代法学 第 11 号
2.各国の国内法における損害軽減義務の処遇
(i) xx法系の諸国
a.イギリス法 xx法においては契約不履行(breach of contract)
の責任は損害賠償によって全うされるのが原則であり、いわゆる特定履行
(specific performance)は特にその必要がある場合にのみ認められる例外であるとされている1)。そして、損害賠償は現実の不履行が発生する以前でも、不履行が予期されるときには既に可能である(anticipatory breach)。このことが、損害軽減義務理論が成立した前提として重要であろうと思われる。つまり、まず契約のとおりの履行を求めるのが先決であるならば、それが効を奏しないときに初めて損害賠償が問題となるという関係になるから、そのような損害賠償について予め損害軽減義務を考えるということは念頭に上らないであろうからである。しかし、イギリス法のように不履行ないしそれが予期される時点で直ちに損害賠償が可能となるシステムのもとでは、現に生じ又は生じつつある損害について損害を受ける側にも何らかの対処が要請されると考えるのは自然の成り行きであると言える。かくして、相手方の不履行に直面した契約当事者には、直ちに市場において自らの損失を減少させるための努力が期待されるのである。
この趣旨を示す判例はもちろん存在するが2)、1979 年の動産売買法がこ
の原則を明らかにしている。すなわち、動産の売主が引渡しをせず、或い は引渡しを拒否した場合には、買主が求めうる損害賠償の額は、引渡しが なされるべきであった時点ないし引渡し拒否の時点における当該物の市場 価格と契約価格の差額となる(51 条 3 項)。買主が受領しない場合につい ても同様の規定がある(50 条 3 項)。このような規定が代替物たる動産の 売買を前提としていることはもちろんであるが、相手方の不履行に直ちに 対応して損害を最小限に食い止めるべき義務が当然の前提となっていると 考えられる。つまり、実際に代替物を市場で調達したかどうかに拘わらず、
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一定時点での市場価格を損害賠償額算定の当然の基礎とする点で損害軽減 義務が純粋な形で表現されていると言うことができるであろう。ただ、売 主不履行の場合に、目的物の市価が上昇しつつあるときは直ちに代品を購 入して損害を軽減すべきであるが、下落しつつあれば直ちに行動しないほ うがよい場合もある。この点を捨象して賠償額算定を単純化したものと理 解すれば損害軽減義務も抽象化されて前提となっていると言えるであろう。
b.アメリカ法 今日のアメリカ法は同様の原則に基づきつつ、より洗
練されたアプローチを採っているように見える。今や全州において採用さ れている統一商法典 UCC によれば、売主は買主が受領を拒んだときは目 的物を他に売却し、或いは売主が不履行のときは買主が他から同一品を調 達する(カバーと呼ばれる)ことができる。このような売却ないし調達が、xxに即して遅滞なく取引上合理的に行われたときは、これをした当事者 は約定価格と調達ないし売却価格の差額を不履行当事者に対して請求する ことができる(UCC 2―706 条、2―712 条)3)。条文の表現は「……できる」となっているが、これを適切な方法でしなければ差額請求ができないので あるから、損害軽減義務を適切に履行することが損害賠償の要件となって いるわけであり、イギリス法のように一定時点での市価を基準とするので はなく、現実の調達や売却を前提とし、xxxx、合理性、迅速性などを 勘案して請求額の当否を決めることになっている点で、より洗練されたル ール化であるといえる。損害軽減義務の一層柔軟で適切な適用が可能とな る。なお、アメリカの判例法の集大成ともいうべき契約法リステートメン ト 2 版の 350 条はより一般的に、被害者が不相当なリスク、負担、不名誉 を冒すことなく避けることができたであろう損害については賠償を請求で きず、合理的な回避努力が不成功に終わったとしても損害賠償を妨げられ ない、と規定する4)。
(ii) 大陸法の諸国
a.ドイツ法 大陸法の契約法がxx法のそれと異なる点は、契約本来
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の目的の実現が第xx的であって、損害賠償は第二次的ないし次善の救済 であると考えられている点にある。もし、売主が目的物を引き渡さないな らば、買主は訴訟と強制執行によってあくまでもその引渡しを追及するこ とができる。売主不履行の場合、引渡しの遅延による損害賠償はもちろん 問題となるが、その損害の軽減義務は問題になる余地がない。しかし、ド イツ民法 254 条は過失相殺にあたる共同過失(Mitverschulden)につい て規定し、1 項において「損害の発生に際し被害者の過失が共動したとき は、賠償義務及び給付すべき賠償の範囲は、事情によって、特に、いかな る範囲においていずれの当事者が主として損害を惹起したかによって定ま る」としたのち、2 項において「債務者が知らず、かつ、知ることを要し ない異常に高い損害の危険を被害者が債務者に注意しなかったこと、また は被害者が損害を防止若しくは軽減しなかったことに被害者の過失がある ときも、前項と同様である」と規定する5)。この 2 項は損害軽減義務を定めたものとされ、その解説によると、売買契約の不履行において、売主が 目的物を引き渡さないからといって、他の者から代物を買って損害の発生、拡大を回避する義務を負うものではないが、価格が上昇しているときには、買主にこの義務が課せられる、とされ6)、損害軽減義務を規定しているものと解されている。しかし、この規定は債権法総則上の規定であり、xx の契約法上のそれと厳密にどのように違うのかは十分に明らかではない。
b.フランス法 フランス民法はドイツ民法 254 条のような条文をもた
ないし、他にも過失相殺にあたる条文はない。しかし、民法 1147 条の解釈として同様の結論が学説判例によって導かれている。同条は、債務者は不履行または履行遅滞につき帰責事由のないことを証明しないかぎり損害賠償を命じられる、との趣旨の規定である。学説判例は、不可抗力は完全に債務者を免責するが、被害者(債権者)の過失は部分的な免責をもたらす、と説明し7)、或いは、民法編纂以前のポティエの学説を引用しつつ、損害軽減義務についてxx規定の不存在にかかわらず、民法典編纂以前の
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フランスの学者らが、被害者は自らの損害の発生ないし拡大を防止すべき であり、これを怠ると損害賠償ができなくなる、と考えていたことは疑い ない、とする8)。抽象論としてはともかく、これが損害賠償額の認定において具体的にどのように働くのかは明らかでない。フランス法では損害賠 償額の基準時は判決時とされており、売主不履行の場合において、契約時、不履行時、判決時とxx目的物価格が上昇した場合を考えると、その間に 買主が他から同じものを調達して損害を軽減することができる状況だった とすると、不当な結果となる。フランスでは、売主が早く履行しなかった 以上仕方がないとされているようであるが、これでは損害軽減義務を認め ないのに等しいと批判されている9)。
ところで、フランス法を継受しているカナダのケベック法は 1991 年の民法改正により損害軽減義務を定めるxx規定を採用した10)。
c.日本法 日本法では損害軽減義務を正面から承認した判例はないよ
うである。日本民法はドイツ民法草案を範として起草されたとされるが、債権総論中の損害賠償責任に関する基本条文である 416 条はドイツ法によらず、19 世紀半ばに確立したイギリスの判例法を継受したものであることが今日では広く認められている11)。しかし、xxの損害軽減義務についてはドイツ民法のような規定もなく、過失相殺の規定(418 条)があるにとどまる。しかし、日本においても予ねてから解釈論として損害軽減義務を導入すべきであるとの主張があり12)、論者によれば日本の裁判例には損害軽減義務を前提として判示したと考えるべき先例が見られるという。民法解釈の基本原則であるxxxxxxのもとで過失相殺の原理を適用すれば、適切な事案においては、そのような結果となるであろうことは容易に想像できる。
しかし、日本民法が損害賠償を二次的な救済とし、一次的には契約本来
の履行を求めることを許しているとの前提に立つと、売主不履行の場合においては買主はあくまで目的物の引渡しを求めて訴訟を起こし、執行が不
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成功に終わった場合のために物の価額相当の金銭の支払を求める請求を併 合するというやり方が本来かもしれない。民事訴訟法の通説によると、こ れはいわゆる予備的併合ではなく将来請求との通常併合であるとされる。 目的物の価額相当額は口頭弁論終結時の価格によることになる。このよう な解決を前提として理論を組み立てることは、市場で簡単に調達可能な目 的物に関する限り適切ではない。相手が履行しないからといって、容易に 他から調達できる物の引渡しを求めて訴えを起こすのは訴権の濫用でさえ ある。然るべき時期に契約を解除して、契約の拘束から解放されたうえで 代物の調達を行うべき義務がある、とxxxからも言えるであろう。ただ、契約を解除しておかないと相手が履行してきたときは受領義務があるから 問題が起こる。日本民法の解釈上損害軽減義務が理論的にどのように位置 づけられ、それが損害賠償額の算定の基準時の選択などの重要問題につい てどのような影響を持つことになるのかを論じることは本稿の目的ではな いし、筆者の能力を超える問題である。しかし、適切な事例においては日 本の裁判所は既に多くの事件で損害軽減義務を実質上適用してきたことが 指摘されている。
たとえば、東京地裁昭和 34 年 7 月 22 日判決は、バーの経営者(被告)
が酒のつまみを食料品店(原告)に注文したが、以前からの納品に対する支払がないことを理由に食料品店が取引中止を申し入れ履行せず代金請求訴訟を起こしたのに対し被告が不履行による損害金で相殺を主張した。裁判所は、「注文したツマミ物は原告方に限らず諸所の食料品店で販売しているものであるから、臨機に他店から購入し急場をしのげた筈であり、仮にそれが原告からの仕入れと重複したとしても高々金 4 千円で、これすら翌月分に廻せば済むのであるから速やかに臨機応変の処置をとらなかったことは、損害の拡大防止について被告に不十分のものがあったと考えられること」を 1 つの理由として、「……原告に前記の損害賠償を命ずることはxxxxの上からみて相当でなく、その義務を全部免ずべきものと認め
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る」として、相殺の抗弁を採用しなかった13)。本件が掲載されている判例時報では表題が「過失相殺により全責任が免除された事例」とされているが、判決文中には過失相殺への言及は見当たらない。判決は損害の拡大防止の不十分さとxxxxに言及するのみであるが、恐らく、判示のような結論は過失相殺の適用によって容易に導き出せるであろう。民法 418 条は債権者の過失を考慮して損害賠償の責任と額を決めるものとしており、本件は責任そのものを否定したことになる。名古屋高裁昭和 50 年 9 月 29 日判決は、原告と被告が共同して損害の拡大を防止すべきであった、として損害額を半額にした14)。また、契約解除時点の時価を損害賠償額算定の基準とした判例については、解除によって代替取引が法律上可能となった時点として損害軽減義務と適合性があるとされる15)。
(iii)xx法との比較における大陸法の概観 大陸法についてはドイツ、
フランスと日本のみを見たが、イタリア、オーストリア、ギリシャ、ポル トガル、ベルギー、スペイン、フィンランド等においても概ね同様である と指摘されている16)。大陸法では一般的に損害軽減義務はそのものとしては規定されていない。にも拘わらず、大陸法の判例法は損害軽減義務を実 質上認めてきたことが多くの著作によって指摘されてきた。xxxとxx xxの共同著作は次のような 3 つの場合を区別して分析している。(1)被 害者の行動が相手方の不履行の部分的原因であった場合、(2)被害者は相 手方の不履行そのものについては責任がないが、その行動によって損害を 悪化させた場合、及び(3)不履行から発生する損失が適切な軽減手段を とることによって減少しまたは消滅したであろう場合、の 3 つである。イギリス法は(1)と(2)の場合を寄与過失(contributory negligence) の理論で対処し、(3)を損害軽減義務概念で処理している、という。他方、ほとんどの大陸法では、寄与過失(過失相殺)と損害軽減義務を概念的に 区別せず、因果関係論などの操作により同様の結果を得ているとされる17)。
日本法についても同様の分析が可能であろう。xxなxxxx原則のも
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とで、適切な損害軽減措置をとらなかったことは、過失相殺そのものであるか、或いは不履行当事者の合理的な予見の範囲外と評価されるべきものである。法解釈の幅はあるものの、各々の法体系における契約法理論は歴史的な解釈論上の限界を持っている。理論的な解釈可能性が実務において当然に利用されるとは限らない。依然として、各国法には微妙な相違点があるというのがxxであろう18)。このことが、とくに国際取引との関連で障害となり、次の述べるような超国家的な立法活動に導いたといえる19)。
3.条約法・非国家法における損害軽減義務
(i) 国際物品売買統一法(ULIS)
1964 年にできたこのハーグ条約は、その 88 条において損害軽減義務につき次のように規定していた。
「契約不履行責任を追及しようとする当事者は不履行から生ずる損失を軽減するための合理的なすべての手段を採らなければならない。これを怠った場合には、不履行当事者は損害額の減額を求めることができる。」
この条約は 9 カ国の批准を得たのみで、実際上の重要性を発揮するに至らなかったが、1980 年のいわゆるウイーン条約に至る過程として歴史的な重要性がある。
(ii) 国際物品売買契約に関する国連条約(いわゆるウイーン条約または CISG)
1980 年に成立し、2005 年現在で 68 カ国が批准している。ヨーロッパ大陸の諸国、アメリカ・カナダ・オーストラリア等のxx法諸国、ロシア・中国等の旧東側の諸国がほとんど加盟しているが、イギリス(U.K.)と日本が加盟していない。日本が加盟していない理由は明らかでなく批判されているところであるが、後述のように日本企業も大いに影響を受けてい
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る。大陸法・xx法双方の専門家の共同作業の結果としてできた条約であるだけに、その両要素を取り入れている。損害軽減義務については、先行の ULIS 88 条の規定に由来する 77 条が次のように規定している。
「契約不履行責任を追及しようとする当事者は、不履行から結果する損失(利益の損失を含む)を軽減するため状況下において合理的な手段を採らなければならない。これを怠った場合には、不履行当事者は損失が軽減され得た限度において損害賠償額の減額を求めることができる。」
ULIS の規定と趣旨において変わらないが、若干詳細に規定されている ことがわかる。この条文は損害賠償に関する一連の条文(74 条―77 条) の最後に位置するもので、他の条文と関連していることは言うまでもない。ここに採用されている解決に問題があることはxx法系の識者が指摘する ところではあるが20)、ウイーン条約は大陸法とxx法の妥協の産物として両方の要素を取り入れている。xx法と異なり、ウイーン条約は契約本来 の履行を重視しているし(46 条、62 条)、契約の不履行そのものよりも契 約の解除が損害額の算定において重要な役割を与えられている(75 条、 76 条)。半面で、xx法流に不履行については過失を要求していない。詳 細な考究は契約法の専門家に任せなければならないが、重要なことは、多 数の主要国の参加によりウイーン条約は今や国際取引に関わる紛争におい て各国の裁判所により或いは仲裁人により日常的に解釈され適用されてい るという事実である。
ウイーン条約は、その適用範囲を規定する第 1 条によれば、契約当事者
の双方が異なる締約国に営業所を有する場合、及び法定地国の国際私法が締約国の法を準拠法として指定する場合に適用される。日本は締約国ではないが、日本企業が締約国に営業所を持つことは希ではないから、日本企業がこの条約の規制に服する可能性は高いし21)、国際私法(衝突法規)により締約国法が準拠法とされる場合にも同じ可能性がある。例えば、日本
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とフランスの企業との紛争について日本で訴訟が起こり、日本の国際私法の適用により準拠法はフランス法であるとされた場合には、日本の裁判所はウイーン条約に則って判決しなければならない可能性がある。このことは、ウイーン条約は「締約国においては実定法としての地位を占める」22)と考えれば当然であるが、それでは非締約国である日本が実質上条約に拘束されることとなるという問題があろう。非締約国には条約の適用義務はない、と解することによってその問題が回避されていると言われる23)。日本を含め非締約国の問題はあるにせよ、多くの主要国において CISG が実定法として日々適用されその具体的内容が明らかになりつつある現実は無視することができない24)。
(iii) 国際商事契約のためのユニドロア原則(UNIDROIT 2004)
ユニドロアは法の統一を目指して国際連盟のもとで 1926 年に設立され
た伝統ある国際機関であるが、国際商事契約に関する法原則を 1994 年に発表した25)。CISG と異なり、対象は動産売買に限らずすべての商事契約をカバーする。2004 年に新版が発表され、旧版に含まれていなかった関連事項(代理、xxxx、相殺、不当利得)について多くの規定が加えられた。国際協力によって進められているこのプロジェクトには日本からxxx教授が参画されている。損害軽減義務に関する 7.4.8. 条は次のように規定している。
(1) 不履行当事者は被害者が合理的な手段を採ることによって軽減できたであろう限りにおいて、被害者が被った被害に責任がない。
(2) 被害者は損害の軽減を試みるにあたって支弁した合理的な費用を請求することができる。
この規定の趣旨は CISG 77 条と同様であるが、表現が損害軽減義務の性格をより正確に表すように工夫されており、軽減のための費用について配慮されている。損害軽減義務は「義務」という一般的表現に係らず、それに対応する権利が想定されておらず、損害賠償額を制限する作用しかな
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いことが指摘されてきた。上記の条文はこのことを明らかにしている。2項の軽減費用に関する規定は CISG に存在しない。この問題が CISG ではどのように扱われるのかは不明である。
一般的に、ユニドロア原則と CISG の損害賠償に関する規定には類似性があり、ともに大陸法とxx法の調和を試みている。CISG は条約であるため改定が困難であるが、ユニドロアはモデル法の方式をとるため改定も容易で、2004 年版は国際契約ルールの最先端を示すものと言える。同様の試みは、ヨーロッパ内部でも行われており、ヨーロッパ契約法に関するヨーロッパ委員会によって起草されたヨーロッパ契約法原則(PECL, Principles of European Contract Law)の損害軽減義務に関する条文もユニドロアのそれと酷似している26)。いずれにせよ、これらの条文について詳細な比較を試みることは本稿の目的ではないし、筆者の能力を超える27)。しかし、事の経過からみて、ユニドロア原則が最も新しいものであるだけに、CISG を改善する点が多いであろうことは想像に難くない。ユニドロア原則の前文では、その適用場面が次のように予定されている。まず、ユニドロア原則が契約に適用されることを当事者が合意している場合に適用される。これは、契約自由の原則からして問題はない。つぎに、
(1)法の一般原則、lex mercatoria、あるいはこれに類した原則が契約に
適用されるべく当事者が合意している場合、及び(2)当事者が契約に適用されるべき法を選択していない場合、にも適用される。さらに、(1)国際的統一法を解釈し補充するものとして、(2)国内法を解釈し補充するものとして、利用され得ることになっている。
4.仲裁人による法適用―適用すべき法
(i) 一般原則
当事者が仲裁人に対しいわゆる友誼的仲裁人(amiable compositeur)
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として行動するよう求めない限り、仲裁人は「法」に従って本案の判断をしなければならない、というのが今日の一般的な考え方である。 UNCITRAL 仲裁モデル法に準拠して制定された日本の新仲裁法も 36 条においてこのことを明らかにしている。ここで「法」とはいずれかの国の実定実体法を指すものと解されている。このような理解が世界的にみていつ頃から一般的になったのかは明らかでない。かつては、法の一般原則とか取引社会における慣行などが判断の基準であったとされるが(いわゆる lex mercatoria)、第二次大戦後の国際取引xx期にいたり、このような基準は不明確であるとして排斥された。国家の裁判所においてはその国の国家法ないし国際私法によって指定される準拠法によって裁判がなされるのが当然であるが、仲裁においてもこれを踏襲する傾向があった。いわゆる仲裁の訴訟化である。これには次のような理由があったと推測している28)。
国際商事仲裁における仲裁人は当事者の信頼を得て選任されるとはいえ、少なくと第三仲裁人の選任は多くの場合に間接的であり、仲裁機関によっ て選任されることも希ではない。このような仲裁人に重大案件を判断させ るにあたって、当事者双方は自己に有利な主張や証拠を提出しなければな らないが、そのためには判断の準則が予め明白であることが必要である。 そこで、予め内容の明らかな国家法を適用すべきものとして、当事者がこ れに準拠して主張・立証を尽くすとともに、仲裁人もこれに拘束されるこ とを求めるようになったという背景があったと見られる。このような法適 用の効用は、友誼的仲裁の場合と対比すれば明らかである。友誼的仲裁に おいても、仲裁人と両当事者が同じ価値観を共有しているならば、当事者 は仲裁人に説得的な主張や立証が可能であろう。しかし、国際的な仲裁で は仲裁人と各当事者とは 3 者ばらばらの価値観を持つことが多く、その場 合には自分に有利であると考えて行った主張が逆効果を生むこともあり得 る。そこでは、全関係人に共通な何らかの客観的な基準が必要となる。国
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家法は常に万全であるわけではないが、仲裁人の主観的な善とxxよりは 客観性が高い。これは国内仲裁と国際仲裁の顕著な相違点である。いかに、手続面での保障を整備してみても、実体的判断基準を確実なものにしてお かなければ当事者主義の手続は成り立たない。
このように、国家法を適用するという原則はそれなりの必然性と合理性をもっていると見るべきであるが、他の要素とも連動して仲裁の「司法化」をもたらした。しかし、他方では、この原則は維持しつつ、次に見るように、国家の裁判所と同じ方法で適用法を決定するやり方について一定の改革の動向が存在し、さらに、lex mercatoria の再生ともいうべき現象も起こりつつあるように見受けられる。
(ii) 適用すべき国家法の決定
国際商事仲裁人も国家の裁判官と同じように行動しなければならないという伝統的な理解のもとでは、当事者が友誼的仲裁人として善とxxによって裁定することを求めない限り、仲裁地の国際私法(衝突法規)によって指示される「法」を適用して仲裁判断をしなければならない。国際私法のルールは法廷地の強行法によって規制されている分野でない限り当事者の合意による準拠法の選択を認める。そして、契約関係はその典型的場合にあたる。従って、契約当事者は契約に適用されるべき法を自由に選択することができ、そのような準拠法条項(governing law clause)は国際的取引契約において普通に見られるところである。他方で、契約における準拠法の選択が無制限ではないことも一般に承認されている。一般に、仲裁地の公序または強行法に反する選択はできないとされるが、その範囲は必ずしも明確ではない29)。
当事者が予め準拠法について合意している場合は問題は少ない。しかし、
当事者が準拠法について合意をしていないことも希ではない。単なる不注意によることもあるが、契約交渉において準拠法について遂に合意できなかったためのこともある。合意がない場合には仲裁地の国際私法を適用し
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て準拠法を決定するという上記のやり方には問題がある。何故なら、国家の裁判所が自国の国際私法を適用しなければならないのと異なり、出発点たる仲裁地概念が必ずしも重要な意味を持たないうえ、たまたま仲裁地となった国の国際私法が適切な準拠法を指定するとは限らないからである。そのうえ、その国際私法によって指定された国の法律がその国の国際私法をも含むとなれば、さらに第三国法が指定されることになって複雑を極めることになる。このことから、近時の仲裁立法の多くは仲裁人は仲裁地の国際私法に拘束されず、最も適切な衝突法のルール(準拠法選択のルール)を選択すべきものとした。UNCITRAL 仲裁モデル法 28 条はそのような方式を採用している。これからさらに進んで、何らの衝突法を仲介させず直接最も適切な法を適用すべきものとする立法もある。日本の新仲裁法は一般的にはモデル法に依拠しているが、この点についてはモデル法を離れ、「紛争に最も密接な関係がある国の法令」を適用すべきものとしている(36 条 2 項)30)。いずれの場合も、選択される法にはその国の国際私法規定を含まないのはもちろんである。
このような、国際私法の仲介を廃した「直接的アプローチ」を最初に採
用したのはフランス法であった。いわゆる新民事訴訟法は 1981 年改正法
1496 条において、当事者が準拠法について合意していない場合、仲裁人は適切と考える法に従って判断すべきものと規定した。さらに、 同法は同時に仲裁人が商慣行をも考慮すべきことを明規している。この立法の目的は、まず適切な衝突法のルールを選択する負担から仲裁人を解放することにあった。しかし、数年後の 1989 年にはスイス国際私法はこれとは若干異なるアプローチを採用した。よく知られたスイス国際私法(IPRG) 187 条は、当事者による準拠法選択がない場合には、仲裁人は事件と最も密接な関係を有する法に従って仲裁判断をなすべきものとした31)。
日本の新仲裁法は「最も密接な関係」という基準を採用した点ではスイス法に類似するが、密接な関係を有する「法」でなく、「国」の法として
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いる点でスイス法とは基本的な違いがある。日本法と同様の規定は、ドイ ツの 1988 年新仲裁法(ドイツ民訴法 1051 条)及び韓国の 1999 年新仲裁 法(29 条 2 項)によって既に採用されていたところであった32)。スイス法と日本法等のアプローチとが基本的に異なっているというのは、日本法 では、仲裁人はまず事件と密接な関係のある「国」を見出し、その国の法 を適用しなければならないのに対し、スイス法では、仲裁人は「国」を飛 び越えていきなり「密接な関係のある法」を選ぶことができるからである。
「法」が国家の枠を超えて存在し得るとするならば、この違いはいわゆる
非国家法の適用可能性において大きな差異を生むことになるであろう。
(iii) 非国家法の適用―Lex Mercatoria
国際仲裁が実体準拠法の決定において国家の領土という仲裁地の桎梏から解放され始めた頃に、国際仲裁における非国家法の適用可能性が現実味を帯びてきたことは偶然ではない33)。非国家法としての lex mercatoriaは長い歴史を持つ34)。しかし、法実証主義的な近代の法思想と法実務のもとにおいて、理想としては語られても、国際仲裁におけるその現実的適用が正面から問題になることは長らくなかった。問題は、まず、その内容が判断の基準となることができるほど明確ではない点にあった。次に、仮にこれを適用して判断したとしても、そのような仲裁判断が国家裁判所でどのように処遇されるかに不安があった。つまり、そのような仲裁判断は国家裁判所によって承認されず執行できない危険が存在した。その結果として、lex mercatoria は予測可能性を害するものとして当事者からも敬遠されることになったのである。
しかし、lex mercatoria をめぐる状況は変わりつつあるように思われる。
未曾有の規模で増大する国際取引、そのでの INCOTERMS などの標準契約の多用、それに国際的商事契約に関する統一ルールを国際協力の下で
「書かれた法」として作り出そうとする努力(前述の CISG や UNIDROIT
原則)などがその背景にある。実際、lex mercatoria は書かれた法という
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形で格段に可視的なものとなっただけでなく、その内容は誰にでも受け入れ易いものとなり、その適用の結果がより予見可能なものとなった。他方において、仲裁人が適用すべき実体的基準について干渉してきたxxの裁判所もこのような干渉を制限する方向に赴いたので35)、この点で予測可能性が害されることもなくなった。
当事者が「善とxx」によって判断すべきことを仲裁人に求めることができるのならば、仲裁人に lex mercatoria に従って判断することを求めることもできない理由はない36)。この場合には、lex mercatoria が内容不明確であるかどうかは問題にならないはずである。善とxxはもっと不明確なものである。ユニドロア原則は通常の意味における「法」とは言えないであろうが、前述のように、ユニドロア原則は、当事者の合意があるときにこの原則が適用されると規定している。このことは仲裁においてのみならず、国家裁判所の訴訟においても同様であろう。契約自由の原則のもとで、当事者がユニドロア原則が規定するところを契約条項に取り入れていると解することができるからである。CISG 加盟国に営業所のない企業にとっては CISG の規定は拘束力がないが、それに任意に服することは自由である。もっとも、このような準拠法の選択は実際には少ないと言われる37)。
困難な問題は、当事者が国家法・非国家法を問わず準拠法について全く合意していない場合である。この場合に仲裁人は何らかの非国家法を適用することができるか。少なくとも仲裁法の規定文言からすれば、前述のスイス法の規定は特定の国家を経由せずに適切な法を選択できるため、その可能性があるが、日本法(及びドイツ法や韓国法)の規定の仕方では、国家法しか準拠法となり得ないので、その可能性が否定されよう。その場合でも、仲裁人が商慣習を考慮すべきものとされている立法のもとにおいては、非国家法の内容が商慣習化していると認められるならば、契約解釈の一部としてこれが影響を持つ可能性がある。日本の新仲裁法にはそのよう
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
な規定がある(36 条 4 項)。さらに、xxxxの原則はいずれの国においても私法における大原則として承認されている。xxxの具体的適用の結果を非国家法の中に見出すという方法によって非国家法が実質上適用されるという取り扱いもあり得るであろう。しかし、国家法の適用を前提とする日本法のもとでは、このような解釈には反対も予想される38)。
当事者の合意をまたずに仲裁人が非国家法を適用しようとする場合における重要な問題は、如何にして法の適用における手続保障(デュープロセス)の要請を満足させ得るかという点にある。先に述べたように、国家法を適用することの利点は、一般的にはその内容が当事者に明らかであり、その内容に則って攻撃防御を尽くすことが期待できる点にある。しかし、国家の裁判所においてさえ、このような前提は常に満足されるわけではない。法律が複雑化し、その解釈がいろいろあり得る場合においては、どのような前提で当事者が弁論をし、証拠を提出すれはよいのかが必ずしも明らかでないこともある。双方当事者が予想もしなかった法的観点から判決がなされるならば、「判決による不意打ち」と呼ばれる問題が起こる。この問題に対する伝統的な解答は、「裁判官は法を知る」とか「我に事実を与えよ、然らば汝に法を与えよう」などという法格言によって表されるように、裁判官が法適用について専権を持つというものである。しかし、今日では、適用されるべき法規範の内容について当事者に十分議論の機会を与えることが要請されている。フランスの民事訴訟法は 1981 年改正において、裁判官が職権によって新たな法的観点を適用しようとするときは、これについて当事者に議論の機会を与えなければならないとのxx規定を置いた39)。ドイツにおいても、同様の趣旨で裁判官と当事者間の法的対話
(Rechtsgespraech)が重要視されている40)。
このような観点からすると、仲裁人は安易に非国家法の適用に走るべきではない。スイス型の立法のもとにおいても、仲裁人が非国家法を適用すべきだと考える場合は、まずどのような非国家法の適用が可能と考えてい
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るのかを当事者に示して当事者の意見を聴くべきである41)。このようなやり方は、CISG やユニドロア原則のように実際の事件に適用された実績があり、内容についての研究と理解が進んでいる非国家法に関する限り、さほどの混乱を生じさせるものとは思われない。国際商事仲裁に携わる多くの弁護士にとっては日常的な体験に属することと思われるからである。このようなやり方はスイス型の法律に限らず、日本・ドイツ型の法律のもとにおいても前述のように慣習やxxxを通じてある程度は可能であると思われる。そうでないとしても、仲裁人と当事者の間で行われるこのようなやり取りを通じて、当事者間に一定の非国家法適用への合意が成立する可能性もある。
5.仲裁人による損害軽減義務の適用
(i) 適用の諸場面
仲裁人が損害軽減義務について判断すべき場合は状況によって異なる。 当事者の合意により、或いは衝突法適用の結果として適用されるべき国家 法が損害軽減義務について明確な規定を有しているならば仲裁人は当該国 家法に従ってこれを適用すればよい。例えば、この原則が確立されている xx法国の国家法が適用されるべき場合である。しかし、適用されるべき 国家法がこの点について沈黙し或いはあいまいである場合には困難が伴う。しかし、既に述べたように日本を含む大陸法諸国においても同様の原則が 何らかの形で承認されているから、損害軽減義務の実質を確保することは 不可能ではない。さらに、CISG の適用がある場合にはその 77 条や関連 条項を適用することができることは言うまでもない。
適用すべき国家法の中にどうしても適切な損害軽減義務を見出せないという希な場合や CISG の適用がない場合で、仲裁人がこの義務を梃子として何らかの結論を導きたいを思うときにどのような方法があるかが次の問
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
題である。スイス法のように、仲裁人が何らの国家を介さないで法を選択できるならば、CISG やユニドロア原則に表現されている法を選択することによって損害軽減義務を利用することが比較的容易である。日本法のような規定の場合にはいずれかの国家実定法によらなければならないが、今日の国家法はいずれもxxxを重要な原則としているので、損害軽減義務を認めた場合と同様の結果をそこから導き出すことは、前述の法適用に関する手続保障を満たせば、状況によりさほど困難ではないと思われる。
では、具体的な仲裁事件において仲裁人が損害軽減義務についてどのよ うな判断を行ってきたかを次に見ることにする。仲裁手続は非公開であり、仲裁人や関係者には守秘義務があるとされるので、仲裁判断も原則として 公表されない。しかし、若干の仲裁機関は当事者の承諾を取り付けて匿名 で仲裁判断を公表しているので、その限りで仲裁判断を検索することが可 能である42)。1992 年刊行のあるフランス文献によると、損害軽減義務は最も争いの少ない国際取引慣行の一つである、とされ、そのため国際商事 仲裁人はこれを lex mercatoria の一般原則と理解しており43)、契約責任について判断する大多数の仲裁判断において、仲裁人は国家法に依拠する ことなく、また、友誼的仲裁人としての権限を与えられているかどうかに 関わりなく、損害軽減義務を適用している、とされる44)。このように単純明快な説明は我々にとってかなりショッキングであるが、国際商事仲裁に おける lex mercatoria の浸透はヨーロッパを中心に我々が考える以上に 進んでいるのかも知れない45)。
(ii)具体的適用例
公表された仲裁判断の中から損害軽減義務が問題となった若干の事例を紹介し検討することにしたい。ほとんどが ICC 仲裁事件である。まず、当該事件における準拠法がどのように選択されたかを確認し、そのもとで損害軽減義務がどのように適用されたかを見る。括弧内の地名は仲裁地、
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Yearbook は ICCA Yearbook Commercial Arbitration(Kluwer Law International)でローマ数字はその巻数、ICC Collection は Collection of ICC Arbitral Awards を指す。
(1) ICC 1997 年 9917 号事件(パリ)Yearbook XXV p. 355(2000)デンマークの製造業者がスペインの販売業者との間の専属的代理店契約 を解約したことから生じた事件。デンマークとスペインはともにCISG 加盟国であり、同条約 77 条がスペイン当事者の損害賠償請求を制限すべく適用された。契約中には準拠法条項がなかったように見受けられる。仲裁人は準拠法に関する中間命令を発し、CISG 及びユニドロア原則によって補完されたその一般原則が当該紛争の解決のために適切であるとの見解を
明らかにした。
本件では、結局どのように損害軽減義務が適用されたのかは明らかでないが、このように仲裁人が手続の早い段階で準拠法について見解を明らかにすることは法適用についての手続保障の観点から望ましい。ユニドロア原則が言及されているのは、これがCISG 適用における解釈上の補助手段として有用であると考えられているからであろう。
(2) ICC 1997 年 8782 事件(アムステルダム)Yearbook XXVIII p. 39(2003)
デンマークの魚仕分機の製造業者に対し機械を購入したベルギーの魚類販売業者が起こした仲裁事件における部分的仲裁判断。本件契約に含まれる UNECE 条項により請負人国の法が適用されるので、当事者はデンマーク法が適用されることに同意し、加えて CISG が適用されるべき旨の合意も行った。CISG はデンマークが 1990 年に加盟国になったので適用されるのか、当事者が適用に同意したからなのか必ずしも明確でない。仲裁人は、「明らかにデンマークの法原則は本件問題に関する CISG の関連条文を取り入れているか、公式には取り入れていないとしても、デンマーク法はこれらの規定と同一である」とし、とくに77 条に言及することなく、「一
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
般に、損害を被った債権者は損害を軽減する義務があり、デンマーク法のもとでも同様の結論に導く他のルールや原則を見出しうる」とした。
本件では、仲裁人は厳密にはどの法が適用されるのかについて不確かに見受けられる。しかし、この仲裁判断は中間的なものと考えられるので、当事者にこのような法適用を前提にして今後の弁論と立証をすべきことを示唆する趣旨であるならば理解できる。
(3) 1998 年の商人間仲裁(ハンブルグ)Yearbook XXV p. 216
(2000)
本件はコーヒーの売買における売主不履行の事例である。仲裁人は「買主は損害を軽減することを怠り、またxxxxを第三者に再売却する意図のあることを売主に告知していなかった点でハンブルグの慣習的義務に違反した」と結論した。当事者の国籍は不明。
コーヒー取引におけるハンブルグの慣習が損害軽減義務を含んでいることは両当事者にも当然に了解され、仲裁人は準拠法について議論することなく慣習(usage)を適用している。この種の契約関係においては、その業界の慣習に従う旨の暗黙の合意が認められるのであろう。
(4) ICC 1986 年 5053 事件(トリニダードドバゴ)ICC Collection 1986―1990, p. 85
代理店契約破棄をめぐる紛争。アメリカの製造業者が代理店契約の終了したことの宣言を求め、被申立人であるアルゼンチンの代理店が損害賠償の反対申立てをした。契約にはカリフォルニア法を準拠法とする条項があった。仲裁人はカリフォルニアの判例を引用し、「本件には損害軽減義務の規定が当てはまる。この法理は被申立人(反対申立人)がした突然の契約解消から生じる損害を軽減することを要求している。少なくとも、申立人が 1984 年 3 月 29 日にした 2 年間の契約延長の申出は被申立人(反対申立人)に損害を軽減するための適切な機会を与えたのである」と述べた。本件では、損害軽減義務を規定するカリフォルニア法の適用に問題がな
いため、損害軽減義務の適用にも何ら問題はなかった。
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(5) ICC 4761 事件(パリ)ICC Collection 1986―1990, p. 519
リビアにおける建設契約紛争。当事者はイタリアの会社の共同企業体と リビアの会社。契約で準拠法はリビア法と合意されていた。仲裁人は部分 的仲裁判断において、準拠法は原則としてリビア法であること、しかし、 リビア法の内容が立証されない場合又は缺欠があったり不十分である場合 には lex mercatoria を適用することを明らかにした。終局仲裁判断にお いては、「リビア法は、ドイツ法やスイス法或いはlex mercatoria と同様に、 “約束は守られるべし”との原則がよりxxのxxxにより取って代わら れるという原理に由来する予測不可能性の理論を認めている。また、リビ ア法には債権者が損失を軽減すべくできることをしなければならないとい う規定がある(リビア民法 2 章 224 条、この点に関する lex mercatoria については、同様のルールを適用した ICC 2103,2142 事件仲裁判断参照)」
本件での lex mercatoria の役割は明瞭ではない。リビア民法の規定が
不明なので明言できないが、仲裁人は準拠国家法を解釈するにあたりlex mercatoria の内容を参考にすることができると言われているように理解できる。
(6) ICC 1987 年 5418 事件(パリ)ICC Collection 1986―1990, p. 123イギリスの買主とハンガリー貿易会社との間で 1977 年に結ばれたハン ガリーワインの売買契約をめぐる紛争。契約でハンガリー法が準拠法とされている。仲裁人はハンガリー民法 240 条が「被害者は当該状況において一般に期待される適切な損害軽減措置を採らなければならず、かかる義務を怠ったことによる損害は賠償の対象とならない」と規定していることを認定したうえ、「一般ワインの消費拡大は不確実であり、輸入拡大のための新規投資はリスクが大きいので、そうしなかったからといって損害軽減
義務を怠ったとは言えない」と結論づけた。
本件でも、当事者が合意した準拠法に損害軽減義務の規定がある場合で
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
あって問題は少ない。むしろ、当時のハンガリー民法にこのような進歩的な規定が入った沿革に興味がある。
(7) ICC 1983 年 3880 事件(多分パリ)Collection 1974―1985, p. 159ベルギーの会社間のブーツ売買契約で、売主がルーマニアの供給者から 適時にブーツを調達できなかったため紛争となった。被申立人は、申立人は損害軽減義務に即して一定のことをなすべきであった、と主張した。そのような義務が発生する根拠法は明らかにされていない。仲裁人はそのような義務の存在自体を否定することなく、事実上の理由によってこの主張
を斥けた。損害軽減義務の存否そのものは争点となっていない。
本件では、両当事者ともベルギー法人でありベルギー法が準拠法であった可能性が高い。しかし、仲裁人が lex mercatoria に依拠し、当事者がこれに従った可能性もある。
(8) ICC 1974 年 2478 事件(パリ)Journal du Droit International
(Clunet)1975,p. 925
フランスの買主とルーマニアの売主との間の石油製品の売買契約。ルーマニアの売主が引渡しをしなかったので仲裁となった。準拠法については言及されていない。損害額の算定に関し、仲裁人は「我々はスイス連邦債権法 42 条 2 項と 44 条 1 項に反映されている法の一般原則に照らし、被害者は損害を増加させないために必要な方策を採ることを要請される、という点を見失うべきではない」と述べ、当初の不履行を埋め合わせるために売主がした別の石油製品の提供をフランスの買主が受け入れなかったことを非難した。
この事件では「法の一般原則」が直接適用されている点が特徴的である。 1970 年代までの東西陣営間の取引では、いずれかの実定法にべったりと 依拠することを避けるためにこのような抽象的な原則を拠り所とすること が必要であったのかも知れないと思われる。
6.おわりに
現代法学 第 11 号
損害軽減義務は現代の多くの国々において国家法システムの一部となっているだけでなく、CISG やユニドロア原則のように異なる国家法を調和させて統一法を形成しようとする試みにおいても取り入れられている。かつては漠然としていた lex mercatoria の内容がこのような超国家的立法活動とでもいうべき事業によってその内容が明確かつ詳細となり、lex mercatoria が現実味を帯びてきたと言える。他方で、仲裁人が適用法を選択するための理論と方法論もますます洗練されたものになりつつある。当事者の合意があるならば、lex mercatoria や法の一般原則などというものも仲裁人の判断基準となることは理論的には広く認められている。にも拘わらず、実際にこのような基準が契約の中で合意されることは極めて希であると言われている46)。他方で、いずれかの国家法を指定することも、諸々の事情により必ずしも常に行われるわけではないことが指摘されている47)。かくして、仲裁人は多くの事件において適切な準拠法を選択する重責を担わなければならないことになる。契約紛争において問題となる確率が高い損害軽減義務を如何に適用するかは、仲裁人による準拠法選択の方法論の有効性をはかる一つの試金石とも言える。どのような方法論が採用されるにせよ、重要なことは準拠法の選択と適用における透明性と手続保障である。
たとえば、損害軽減義務概念に馴染みの薄い日本の当事者に対し、いき
なりこの義務の法理によって仲裁判断を行うならば不意打ちの誹りを免れないであろう。仲裁人が損害軽減義務の適用可能性を予知したならば、手続の早い段階でこれを当事者に告知して当事者の対応を促すべきである。その際には、損害軽減義務が適用できる準拠法上の根拠を示唆し、その根拠についても当事者の見解を求めるべきである。もちろん、一方当事者が損害軽減義務について主張をし他方が反論するという形でも同じ結果が得
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
られよう。いずれにせよ、仲裁人による適切なイニシャティブと充実した手続保障によって、今やグローバルな承認を得ている契約法の原則が日本における国際商事仲裁においてもスムースに適用されるようになることを期待したい。
註
1) 例えば、xxxx・イギリス契約法 216 頁(鳳舎、1970)参照。
2) この問題についてはイギリスでもいわゆるリーディングケースというべきものがなく、判例も比較的少ないと言われる。その理由につき、損害軽減は事実問題と考えられたため上級審が第xx裁判所の認定を尊重して介入しなかったためであると説明されている。D. Xxxxxx, X. Campbell &
R. Xxxxxx, Remedies in Contract & Tort(Butterworths, 2002), p. 109. 3) UCC の日本語訳につき、xxx・UCC 2001―アメリカ統一商事法典の全訳 74 頁、78 頁(商事法務、2002)参照。
4) Restatement of Contracts 2d, p. 126(1981).
5) xxx=xxxx編・ドイツ債権法総論 59 頁(1988)の訳による。
6) 同書 67 頁。
7) Xxxx Xxxxx, Xxxxxx Xxxxxxxx, Xxxx Xxxxx & Xxxxx Xxxxxx, eds., Xxxxx, Materials and Text on Contract Law(Hart Publishing, 2002)
p. 834. その趣旨の破毀院判例として、Cass. 1re. civ. 31 jan. 1973, D. 1973. 149.
8) Xxxx Xxxxxxxxx, Damages, Mitigation, and Good Faith, 73 Tulane L. Rev. 1161, 1166(1999).
9) G.H. Treitel, Remedies for Breach of Contract - A Comparative Account, 121(Oxford, 1988); xxx「債務不履行における損害軽減義務―損害賠償算定の基準時との関連において」xx=xx=xx還暦記念論集中巻 51 頁、56 頁(1990)、同「損害軽減義務と損害賠償算定の基準時―動産売買契約不履行の場合に限定して」私法 55 号 204 頁、206 頁(1993)
10) ケベック民法 1479 条は「損害賠償の責に任ずる者は被害者が避け得べき
であった損害増大については責を負わない」と規定する。
現代法学 第 11 号
11) xxx・民法 III 債権総論・担保物権[第 3 版]157 頁(東大出版、
2005)。日本民法の編者が参照したリーディングケースである Xxxxxx
v. Baxendale, 9 Exch. 341(1954)の内容と解説については、同書 158 頁参照。
12) x x x x「損 害 賠 償 算 定 に お け る 損 害 避 抑 x x―Avoidable consequences の理論の示唆」xx還暦記念・損害賠償責任の研究上(有斐閣、1957)235 頁、xxxx「債権者の損害避止義務及び損害拡大防止義務について」ジュリスト 866 号 78 頁(1986)、xxx「強制執行と損害賠償―
「損害軽減義務」の観点から」法曹時報 42 巻 10 号 1 頁(1990)(同・契約の
時代 170 頁以下(岩波書店、2000)に再録)など。
13) 判例時報 195 号 18 頁。
14) 判例時報 802 号 84 頁。価値が下落しつつある執行官保管中の係争自動車
につき現民事保全法 49 条 3 項にあたる旧法による換価を申し出るべきであったとされた。
15) xx・前掲註 9)論文 74 頁、xx・前掲註 12)法曹時報論文 21 頁。
16) Xxx Xxxxx & Xxxx Xxxxx, Principles of European Contract Law Parts I and II p. 447(Kluwer Law International, 2000).
17) Lando & Beale 前 註 at p. 444.
18) xxx・契約の時代 270 頁(岩波書店、2000)によると、他の諸国に比 べて日本の裁判所は近年xxxを多用する傾向があるということであり、か つ、社会の動きに柔軟に対応するものとしてこれが積極的に評価されている。
19) これらの超国家的契約規制の意義につき、xxxxx=xxxxx=xxxx編・注釈国際統一売買法(ウイーン売買条約)I、「CISG の意義と成果―法統一のxxに向けて」(xxx)3 頁以下参照。
20) Xxxxx X. Ziegel, The Remedial Provisions in the Vienna Sales Conventions: Some Common Law Perspectives, in Galston & Xxxx ed., International Sales: The United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods(Xxxxxxx Xxxxxx, 1984), 9―1, 9―43.
21) xxxx・国際動産売買法に関する研究 63 頁(xx書林、1982)。
22) 前掲註 19)注釈国際統一売買法 I、15 頁(xxx)。
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
23) 同上注釈書 27 頁、30 頁(xxx)。
24) ウエッブサイト上において、各国における CISG 適用事例を検索することができる。たとえば、xxxx://xxx.xxxx.xxx.xxxx.xxx 参照。
25) ユニドロア原則の性格については、xx・前掲註 18)契約の時代 249 頁以下参照。
26) ヨーロッパ契約法原則 9 : 505 条。Lando & Xxxxx, 前掲註 16)、p. 445.
27) 日本民法、CISG、UNIDROIT、PECL を条文ごとに比較したものとして、xxxx「日本民法、CISG、UNIDROIT 原則、PECL との比較」(3 版、 1998)がインターネット上で参照可能である。xxxx://xxx.xxxxxxx. xxxxxx-x.xx.xx/”kagayama/civ/contract/compare/ver3/
28) xxxx「国際商事仲裁の国際化と訴訟化」法学論叢 140 巻 5=6 号 1 頁
(1997)。
29) 例えば、最高裁は懲罰的損害賠償を命じたアメリカの判決を日本で承認・執行することを日本の公序に反するとして拒否している(最判平成 9 年
7 月 11 日民集 51 巻 2573 頁)。このことは、仲裁地を日本とする仲裁では当事者がアメリカ法を準拠法として合意していても仲裁人は懲罰的賠償を命じることができないとの結論を導くかどうか。そのような仲裁判断は日本では執行できないとしても、アメリカでは執行できるであろうから無意味ではない。これに関連して、国際商事仲裁では単なる公序ではなく「国際的公序」を基準とすべきであるという議論がフランスを中心に有力である。
W. Xxxxxxxx Xxxxx, Xxxxxxx X. Park & Xxx Xxxxxxxx, International Chamber of Commerce Arbitration, 3rd ed. p. 338(Oceana, 2000).
30) xxxx=xxx=xxxx=xxx=xxxx・仲裁法コメンタール
201 頁(商事法務、2003)参照。
31) 伝統的解釈から近時の立法に至る経過については、Xxxx Xxxxxxxx, Regulations in Arbitration Rules on Choice of Law, in Xxxxxx Xxx Xxx xxx Xxxx, ed., Planning Efficient Arbitration Proceedings―The Law Applicable in International Arbitration(ICCA Congress Series)p. 391,
408 et seq.(Kluwer Law International, 1996). スイス法についての詳細につき、Xxxxxxx X. Frick, Arbitration and Complex International Contracts―With Special Emphasis on the Determination of the
現代法学 第 11 号
Applicable Substantive Law and on the Adaptation of Contracts to Changed Circumstances, p. 68 et seq.(Kluwer Law International, 2001). 32) 韓国新仲裁法については、xxx「韓国改正仲裁法(1)―(4)」JCA
ジャーナル 47 巻 8 号―11 号(2000)。また、諸外国の仲裁法の翻訳につき、仲裁法制研究会・世界の仲裁法規(商事法務、2003 年)参照。
33) 現代国際仲裁理論における「法廷地(lex fori)」概念の不存在につき、 Frick 前掲註 31)、p. 48.
34) 国際商事仲裁と xxx xxxxxxxxxx に関しては、故xxxxx教授の先駆的 業績がある。xxxxx・国際商事仲裁の研究 72 頁以下(東大出版、1978)。
35) イギリス法の展開につき、xxxx=xxx編・注解仲裁法 491 頁以下
(xxxx)参照。
36) xxx「新たな仲裁法と渉外的仲裁」法曹時報 56 巻 7 号 1 頁、21 頁
(2004)、Xxxxxxxx Xxxx, Express and Implied Choice of the Substantive Law in the Practice of International Arbitration, in Xxxxxx Xxx Xxx xxx Xxxx ed., 前掲註 31)、pp. 380, 382.
37) Note, General Principles of Law in International Commercial Arbitration, 101 Harvard Law Review 1816, 1823 は、Redfren & Hunter, Law and Practice of International Commercial Arbitration(1986)を引用して、非国家法の適用に当事者が合意することは希であるとし、その理由として不確実性と予見不可能性を挙げている。実際のところ、もっと最近の 2000 年から 2003 年の ICC 仲裁事件の実態調査によると、1% ないし 2% の仲裁条項が国家法以外の法(EC 法、一般的xx、国際法、国際商事法、 CISG など)の適用を合意していたに過ぎない。Xxxxxxxxxxx X. Xxxxxxxx & Xxxxxxx X. Xxxxxxx, eds., Towards a Science of International Arbitration: Collected Empirical Research, p. 200 (Kluwer Law International, 2005).
38) xx・前掲註 36)、21 頁、23 頁は抵触法は強行法規であり、国家法からの離脱を生じるような解釈は仲裁制度への信頼を損なうので採用できないとする。
39) フランス新民訴法 16 条 3 項。xxxx「フランス民事訴訟法改正と訴訟
促進・審理の充実」ジュリスト 914 号 82 頁、87 頁(1988)。
仲裁人による準拠法の選択とデュープロセス
40) xxxx「民事訴訟におけるいわゆる“Rechtsgespraech”について(1)
―(4)」法学論叢 119 巻 1,3,5 号、120 巻 1 号(1986)参照。
41) Xxxxx X. Xxxxxxx & Xxxxxx Xxxxxxxx, Due Process in International Commercial Arbitration p. 171 seq.(2005)は Jura Novit Arbiter 原則とデュープロセスについて論じる最近の文献であるが、筆者とは少し観点が異なるように思われる。
42) パリに本部のある国際商業会議所仲裁裁判所は仲裁判断集を公刊していたし、日本の国際商事仲裁協会(現在は、日本商事仲裁協会)も仲裁判断集を 刊 行 し た こ と が あ る。現 在 は、ICCA(International Council for Commercial Arbitration)が編纂して毎年刊行されている Yearbook Commercial Arbitration(Kluwer Law International、最近号は 2004 年の XXIX 巻)に各地の仲裁機関(ICC のケースが圧倒的に多い)から寄せられた仲裁判断を掲載している部分があり、その部分の索引が付されているので便利である。その索引のうち Damages の小項目である duty to mitigate から引くとかなりのケースが見つけられる。
43) 確かに、lex mercatoria 論のxxの 1 人であった Xxxxxxx は具体的な lex mercatoria のルールの一つとして損害軽減義務を挙げている。Xxxxxxx Xxxxxxx, La lex mercatoria dans les contrats et l’a rbitrage internationaux: réalité et perspectives, Journal du Droit International
(XXX, Xxxxxx)1979, pp. 475, 495
44) Xxxxx Xxxxx, Les Principes Generaux de la Lex Mercatoria, p. 184
(X.X.X.X., 1992). ここでは、Xxxxxx や Derains の論文の文言が引用されているが、これらを直接参照することはできなかった。
45) Xxxxxxxxx Xxxxx, The Forces of Economic Globalization: Challenges to the Regime of International Commercial Arbitration p. 309 et seq.
(Kluwer Law International, 2003)は近時のグローバリゼーションのもとで lex mercatoria が超国家的な第三の法体系として登場しつつかることを示唆するが、国によってかなり温度差があることも指摘している。フランスは最も積極的であり、ドイツは消極的であるとされる。同書 p. 325. ドイツ法的法思考の伝統を受け継ぐ日本での消極的な傾向はドイツ的なのかもしれない。
46) Xxxxxxxx & Naimark 前掲註 37)、同頁。
現代法学 第 11 号
47) Xxxxxxxx & Naimark 前掲註 37)、p. 197 によれば、1994 年から 2000 年の間のすべての ICC 仲裁事件のうち何らかの準拠法を指定していたのは 77.8% と 82.1% の間であったという。平均五分の一の事件で指定がなかったことになる。Blessing 前掲註 31)、p. 396 によると、準拠法合意がないことは、両当事者が所属する国家の法をともに排除する積極的意思表示であるという。