AI・データの利用に関する契約ガイドラインの概要
資料2
AI・データの利用に関する契約ガイドラインの概要
2021年1月
経済産業省 情報経済課
アウトライン
1.AI・データ契約ガイドライン制定の背景
2.データ編の概要
1.AI・データ契約ガイドライン制定の背景
データ共有・利活用と契約
契約を巡る課題
● 当事者間/関係者間での共通の土台がないことによる多大な 契約コストが発生するおそれ。
● データの保護や利益配分等に関して適切な内容が盛り込まれ ないまま契約が締結されるおそれ。
契約ガイドラインの策定
○ データ契約やAIの開発・利用契約を締結するに当たって、
・ 契約者・関係者が共通で理解しておくべき基礎概念
・ 一般的に検討すべき論点
・ 契約を締結する際の考慮要素
・ モデル契約 等
を、参考として提示。
○ 当事者間/関係者間のギャップを埋め、契約コストを削減するとともに、契約による適切な権利義務の分配を促す。
○ これにより、データ共有・利活用への取組み、及び、その鍵となる
AIの開発・利用の促進を図るもの。
注:本「ガイドライン」は、事業者が従わなければならないルールという意味ではなく、契約の検討・交渉を円滑に進めるために参考としてもらうための手引きである。
(参考)ガイドライン策定メンバー
※肩書はガイドライン公表時のもの
検討会 | ||
期 間:H29/12~H30/3回 数:全3回実施 進め方:①ガイドラインの改訂方針について検討 ②作業部会での検討内容を議論 ③作業部会がまとめたガイドライン(案) について議論、検討 運 営:原則公開 事務局:NTTデータ経営研究所 | ●委員(敬称略) (〇は作業部会併任) 【座長】 xxxx(東京大学教授) 【委員】〇xxxx(xx学院大学准教授) xxxx(ABEJA) xxxx(法政大学教授) ○xxxx(Preferred Networks) 〇xxx (弁護士) xxxx(トヨタ自動車) 〇xxxx(弁護士) xxxx(日本工作機械工業会)xxxx(弁理士) xxxx(JEITA) xxxxxx(弁護士) xxx (日本化学工業協会) xxxxx(経団連) ●オブザーバー 関係省庁、業界団体、NEDO、東京中企投育 等 |
ガイドライン案提出
作業部会 | ||
AI・データ契約ガイドライン検討会 作業部会 ●構成員(xx略) 期 間:H29/12~H30/3 全5回実施 【座長】 xxxx(東京大学教授) 進め方:①事業者が持ち込んだユースケースを議論 (お悩み相談所式) ケ個 【データ班】 【AI班】 運 営 ②議論を踏まえてガイドライン案を作成 ー別 ◎xxx (弁護士) ◎xxxxx(弁護士) :xxx公開 ス ケース数:データ6、AI5 事 持案 xxxxx(弁護士) xxxxx(弁護士)取扱い分野:自動車、産業機械、素材、物流等 業 ち件 xxx (弁護士) xxxx(弁護士) 者 込相 xxxx(弁護士) xxxx(弁護士) みx xxxx(准教授) xxxx(弁護士) ⮚ 構成員の弁護士の多数を公募。企業法務、契約、 xxxx(弁護士) xx外 (弁護士) 知財等を専門とする新進気鋭の弁護士・弁理士・ xxx (弁護士) xxxx(弁理士) 学者で構成 ⮚ 検討した事案(ユースケース)における論点等は (◎は主査) ユースケース集としてガイドラインに収載 |
契約ガイドラインの展開・活用
• 契約ガイドラインの周知、業務での利用が進む
• 個社や業界団体の中における、契約ガイドラインを素材とする勉強会の実施(検討結果の作業部会への
フィードバックも)
• 大学や社会人向けセミナーにおける、教材としての使用
1.民間での活用
個別の業界における特殊性や課題を反映させた分野別の契約ガイドラインの策定も進められている。
(1) 経済産業省「データの利用に関する契約ガイドライン 産業保安版 第2版」(2019.4)
• プラントデータの共有・活用による保守・安全管理の効率化が期待される中、プラント事業者にとっての提供のインセンティブに配慮した枠組みを提供。
• プラントデータの活用スキームのユースケースを設定し、それに沿って論点や契約条項を整理。
(2) 農林水産省「農業分野におけるデータ契約ガイドライン」(2018.12)
• 農業関係者が安心して農業データを提供できる枠組みを提供し、ビッグデータやAIを活用した高生産性農業を推進。
• 農業分野ではノウハウの流出等を懸念してデータ流通に慎重な農業関係者が多いこと、個人としての農業従事者等 IT関連契約に馴染みがない者も多いこと等に配慮(例:農業現場の具体例を盛り込む)。
2.分野別のガイドラインの策定
3.国際的な展開
• 英訳の公表(2019.4)
• 国際発信(日EU ICT戦略ワークショップ等の国際舞台での紹介)
2.データ編の概要
(参考)データ編の全体構成
第1 総論
第2 ガイドラインの対象・構成・活用
第3 データ契約を締結するにあたっての法的な基礎知識
第4 「データ提供型」契約(一方当事者から他方当事者へのデータの提供)
第5 「データ創出型」契約(複数当事者が関与して創出されるデータの取扱い)
第6 「データ共用型(プラットフォーム型)」契約(プラットフォームを利用したデータの共用) 第7 主な契約条項例
別添1 産業分野別のデータ利活用事例
別添2 作業部会で取り上げたユースケースの紹介
データ編 総論
(1)データ編の基本的な考え方
• データの利用、加工、譲渡その他取扱いに関する契約は、実務の集積が乏しい。
• そこで、類型毎に主な課題や論点を提示しつつ、契約条項例や条項作成時の考慮要素等を示すことで、その取引費用を削減し、データ契約の普 及、ひいてはデータの有効活用の促進を目的とする。
• データの利用権限を設定し、当事者による利用を促進するとともに、デー タの利用によって得られる収益を、投資インセンティブも考慮しながら、当事者間で分配するという考え方が基本。
• 他方、データの流通と利活用には、データの性質上、データの流出・不正利用や、営業秘密・ノウハウの流出等のリスクを伴うため、そうしたリスクに 目配りをする視点も必要。
(2)データ契約の3つの類型
① 「データ提供型」契約
② 「データ創出型」契約
③ 「データ共用型」契約
<一方当事者から他方当事者へのデータの提供>
• 取引の対象となるデータを一方当事者(データ提 供者)のみが保持しているという事実状態について、契約当事者間で争いがない場合において、データ
提供者から他方当事者に対して当該データを提供する際の契約
<複数当事者が関与して創出されるデータの取扱い>
• 複数当事者が関与することにより、従前存在しな
かったデータが新たに創出されるという場面において、データの創出に関与した当事者間で、データの利
用権限について取り決めるための契約
<プラットフォームを利用したデータの共用>
• 複数の事業者がデータをプラットフォームに提供し、プラットフォームが当該データを集約・保管、加工ま
たは分析し、複数の事業者がプラットフォームを通 じて当該データを共用するための契約
データ契約を締結するにあたっての法的な基礎知識
データ・オーナーシップとは
• データは、無体物であり、日本の民法では所有権や占有xxの物 権の対象とならない。
• いわゆる「データ・オーナシップ」とは、データに適法にアクセスし、そ の利用をコントロールできる事実上の地位や契約による債権上の地位を意味するものと考えられる。
• データ創出への寄与度は事案により様々であり、誰が「データ・オー ナシップ」を持つべきかという一律の基準を見出すことは困難。
• 「データ・オーナシップ」がいずれの当事者に帰属するのかというオール・ オア・ナッシングで交渉するよりも、個別事案に応じて《どのデータを、どちらの当事者が、どのような条件で利用できるのか》という利用条件をきめ細やかに調整し設定していくことが重要である。
データ流出や不正利用を防止する手段
①契約による保護 | 秘密保持義務条項 | • 提供データにアクセスできる受領者の従業員を制限する • 高セキュリティのサーバへの保管を義務付ける • 報告や立入検査の受入を義務付ける • 流出した際の損害賠償額の予定を定めておく 等 |
②不正競争防止法による保護 | 営業秘密としての保護 | • ①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つの要件を満たす場合、不正取得・不正使用等に対する措置(差止め、損害賠償請求、刑事罰)が可能 |
限定提供データとしての保護(Ver.1.1) | • 2019年7月1日施行 • ①限定提供性、②電磁的管理性(ID/パスワード等)、 ③相当蓄積性の3つの要件を満たす場合、不正取得・不正使用等に対する措置(差止め、損害賠償請求)が可能 | |
③民法上の不法行為によ る保護 | 営業上の利益の侵害 | • 一定の投資と労力を投じた価値のあるデータをデッドコピーするような行為は、著しく不xxな手段を用いて他人の法的保護に値する営業上の利益を侵害するものとして不法行為が成立する可能性 |
➃不正アクセス禁止法による保護 | 不正アクセス行為 | • 不正ログインやセキュリティ・ホールの攻撃によるデータ取得について、刑事罰の対象となる |
⑤不正利用等を防止する技術 | 技術による流出・不正用の防止 | • 暗号化、アクセス制限、ブロックチェーン技術等 |
データ提供型契約(一方当事者から他方当事者へのデータの提供)
データの利用権限
データの利用権限の付与
(独占/非独占)
データの利用権限
データの利用許諾
受領者
データ
提供者
データ
各国のデータ・ローカライゼーション、越境移転規制に注意
2
データの品質が不十分であった場合誰に責任があるか
5
4
3
クロスボーダー取引の留意点は
目的外利用禁止規定が設けられることが多いが、事案に応じて予め利用範囲を明確にしておかないと、その後の データ利用に支障が生じ得る
提供データはどのような目的で利用可能か
第三者からの知財侵害のクレーム等に備え、契約で、費用・賠償金の分担、責任上限、利用態様による区別等を明確にすることが望ましい
データの利用に起因して生じた費 用・損害は誰が負担するべきか
民法の瑕疵担保責任の適用可能性あるが、契約で、正確性/完全性/有効性等を巡る当事者の責任の範囲を明確にすることが望ましい
ガイドライン
論点の例
データに関する一切の権限を失う
データに関する一切の権限の移転
データの
利用権限
データの譲渡
受領者
データ
提供者
データ
1
受領者が加工・分析した派生データを、データ提供者は利用できるか
必ずしもxx的には定まらない。契約で、派生データの定義、データ提供者の利用権限の有無・条件、派生データから生じる利益の分配方法等を明確にすることが望ましい
データ創出型契約(複数当事者が関与して創出されるデータの取扱い)
ガイドライン
論点の例
保守サービス
に活用
取得
稼働データ
工作機械の製造業者
分析
・製品開発に活用
・統計データを販売
工作機械の使用者
1
誰が創出データの利用権限を有するべきか
利用権限の調整ルールが不明確なことが多い。契約で、創出されるデータのカタログを作成してそれぞれ利用権限を合意し、漏れたデータの扱いについても定めておくことが望ましい
2
派生データの利用権限については、どのような基準で定まるか
3
分析結果を第三者に横展開するに当たって、何が問題となるか
特に競業者への提供の可否・条件については、契約で明確化することが望ましい。横展開事業に対する生データの寄与度の評価は難しいため、利益の分配方法については工夫を要する
①生データの創出に対する各当事者の寄与度(コスト負担、機器の所有権、設置やモニタリングの主体等)、②加工等のための労力・専門知識、③加工等に伴うリスク等を考慮し、契約で定める
<その他の創出型のケース>
データの誤りや継続的に創出されないことにより、損害が生じることがあり得る。契約で責任/保証の有無を定めておくことが望ましいが、責任/保証を求めるのが妥当でない事案もある
4
データの正確性や継続的な創出について、保証は可能か
• 従業員のウェアラブル端末から取得したバイタルデータ及びその分析データを、ヘルスケア サービス業者が活用する事例
• 物流業者の施設・車両に設置した環境センサー から得られた気象データ及びその分析データを、物流業者が活用する事例
データ共用型契約(プラットフォームを利用したデータの共用)
ガイドライン
論点の例
データ提供者
データ利用者
PF
集約 加工保管 分析
1
共用型では、何を検討しておかなければならないか
2
契約はどのような形式で締結するのか
共用型では、個々に契約条件を交渉すると運用が非効率的となるおそれがあるため、提供者・PF間、利用者・PF間の
「利用規約」が用いられることが多い
• データ活用目的(共用型に適しているか)
• 提供者の数・参加者の範囲(オープン型にするか否か)
• 提供するデータの種類・範囲
• 利用データの範囲、目的
• プラットフォーム事業者の選定
• データ提供のインセンティブ設計 等
• データ等の利用を許諾する範囲
• データ提供者の責任(保証の有無)
• 派生データ等の権利関係
• プラットフォームに対する監査、苦情・紛争処理の手続
• プラットフォーム事業者の義務(セ キュリティ、保管義務、消去義務等)
• プラットフォーム事業者の責任(責任限定の有無)
• 利用規約違反時の制裁措置
• 脱退時の提供データ等の取扱い
等
3
利用規約には何を定めればよいのか
※実際には、データ提供者グループを構成する者とデータ利用者グループを構成する者とが重複することが多いと考えられる
(参考)作業部会で取り上げたユースケース(データ編)の例①
相談者:リース会社 |
事案の概要 |
相談事業者 Y1,Y2の運転者のパーソナ Zによるデータの利用権限の帰ルデータ取得のために個人情 将来的に多目 属に関する主張は妥当なもの 相談者の論点 報に準じた取扱いが必要か。 的活用したい と言えるか。妥当な場合、 Y1,Y2との守秘義務を勘案してどのような条件を付すべきか。 Y2 Y1 リース契約 X Z (リース利用者) (リース利用者) (リース会社) (システム ベンダー) X社DB シス リース物件(センサー付) テム Xは、守秘義務の下でも、Y1 の車両から得られるデータを「匿 各種データ 名化処理」を行い、これを分析した結果について、Y2に提供す 各種データ ることは可能か。 Y1、Y2の同意を促すために、どのような措置 (インセンティブ供与等)が一般的に考えられるか。 |
• リース会社Xは、サービス提供のため、自社の顧客(Y1、Y2)のリース物件に各種データ収集のためのセンサー等取り付け、これをシステム ベンダーZのシステム経由で、自社のデータベースに取り込んでいる。Y1,Y2のデータベースは、顧客ごとに個別管理がなされている。 • X-Y1間では守秘義務契約・目的外利用禁止契約が締結されている。Xは、Y1以外の顧客のデータと合わせて解析し、データ解析の精緻化を図りたいと考えている。現状は、Y1からは、自社向けサービス以外での利用についての同意が得られていない。 • 他方、Zからは、システムサービス提供上利用する本件データに対して、自社においても利用権限が帰属する旨の規約改訂を求められている。 |
(参考)作業部会で取り上げたユースケース(データ編)の例②
相談者:製造業事業者 |
事案の概要 |
相談事業者 各種物流データ データPFの運営体制のあり方、 相談者の論点 X(製造業者) 倉庫業者 データベースの権利帰属の考え方をどのように調整するのがよいか、 製造業者 データPF 卸売業者 運営 主体 運送業者 卸売業者 運送業者 小売業者 本データPFおよび取り込まれた 情報を利用できるようにするの に、規約等でどのような条件を 配送計画 業界横断型物流 納品チェック 設けるべきか 策定に利用 情報連携PF に利用 |
• Xは、市場の物流課題解決、物流コスト・環境負荷の低減化を目的として出荷に際して用いる物流資材利用の効率化を検討していた。本物流資材の利用に際して生じる出荷後の回収費用等や、物流途中での紛失を防ぐための共同利用やトレーサビリティ等を希望している。
• 上記の実現のためには、物流、商流の幅広いステークホルダーと、物流業務から発生する情報を共有し利用する仕組みを整え、上記物流資材の利用の状況を当該仕組みの中に取り込むことで、各ステークホルダーにメリットのある情報連携を実現する事も可能であると、検討している。
• 本構想に際しては、以下のような要件が求められると想定している。
• 競合の取引情報がそれぞれに明らかにならないようにする
• 広いステークホルダーが、随時参入しやすいような仕組みとする
• 既存のシステムには、できるだけ変更を加えず、必要なデータの交換のみを連携対象とするが、データのセキュリティやxxな取扱ルールが
必要であると考えている。
(参考)AI編の概要
AI編の全体構成
第1 総論
本ガイドライン(AI編)の目的や対象を述べる。
第2 AI技術の解説
AI技術の基本的概念やAI技術を利用したソフトウェア開発の特徴について解説する。
第3 基本的な考え方
AIソフトウェアの開発・利用契約について、当事者の立場の違いや権利帰属・
利用条件の際の考慮要素、責任の分配に関する論点の整理等、基本的な考え方を述べる。
第4 AIソフトウェアの開発契約
学習済みモデルの開発契約について、契約の考え方や契約締結時の考慮要素等を述べる。
第5 AI技術の利用契約
AI技術の利用サービスについて、契約の考え方や考慮要素等を述べる。
第6 国際的取引の視点
外国企業との間で学習済みモデルの開発契約や利用契約を締結する際の考慮要素等を述べる。
第7 本モデル契約について
学習済みモデルの開発契約に関し、段階ごとにモデル契約を示し、その解説を加える。
第8 総括
本ガイドライン(AI編)を総括する。
別添 作業部会で取り上げたユースケースの紹介
作業部会で取り上げたユースケースについて、事案の概要や論点、基本的な考え方を解説する。
AI編 総論
(1)AI編の目的、対象
目的
• AI 技術の特性を踏まえた上で、開発・利用契約を作成するにあたっての考慮要素、トラブルを予防する方法等についての基本的な考え方を提示。
• 当事者の双方が納得する合理的な契約を締結するための情報を示し、契約プラクティスを
形成する一助とすることで、AIソフトウェアの開発・利用を促進する。
対象ソフトウェア
• 統計的機械学習、特にディープラーニングによる開発されるAIソフトウェアを主として想定。
※ ただし、ディープラーニングによる開発には従来型のソフトウェア開発と特に異なる点が存在することから、説明の便宜上、主にディープラーニングを採り上げたものであり、AIの開発手法をディープラーニングに限定する趣旨ではない。
対象契約
①AI開発契約:ベンダが、学習済みモデルを開発し、ユーザに納品する形態のビジネスモデルに
関する契約
②AI利用契約:ベンダが、開発した学習済みモデル等のAI技術を提供し、ユーザがこれを利用する形態のビジネスモデルに関する契約
(2)問題の所在と解決の方向性
問題の所在 | 本ガイドラインが示す解決の方向性 | |
① AI技術の特性を当事者が理解しておらず、当事者の意見の食い違いや誤解が生じやすい。 | AI技術の基本的概念や特性から解説。当事者が共通の認識を前提として契約交渉に臨むことを期待。 | |
② AIソフトウェアについての権利関係・責任関係等の法律関係が不明確であり、予測可能性が低い。 | 契約によって、権利帰属のみならず、 成果物やデータに対する利用条件をきめ細やかに 設定する枠組みを提案。 | |
③ ユーザがベンダに提供するデータに高い経済的価値や秘密性がある場合があり、ユーザのニーズ(流出懸念、成果物へ の権利主張)との調整を要する。 | 当事者の状況や提供するデータの 性質 を反映した利用条件を設定する ことを提案。 | |
➃ AIソフトウェアの開発・利用に関する契約プラクティスが確立しておらず、契約コストが発生。 | AI技術の特性を考慮し、従来型のソフトウェア開発とは違った「探❹的段階型」の開発方 式を提唱。モデル契約も提供。 |
AI技術の解説
(1)AI編が前提とする実用化過程
従来型のソフトウェア | AIソフトウェア | |
技術的性質 | 演繹的アプローチ (動作原理が把握しやすい) | 帰納的アプローチ (動作原理の把握が困難) |
開発対象の確定 | しやすい | 契約初期は困難 |
性能確定・保証 | しやすい | xxの入力データに対する性能保証が技術的に困難 |
事後的な検証等 | しやすい | 困難 |
データへの依存 | 低い | 内容・性能等は学習用データセット に左右される |
ノウハウの重要性 | 高い | より高い (データセットの加工など従来にxxxxxなノウハウが結果に影響。また、 ユーザのノウハウも重要) |
生成物再利用の需要 | 高い | より高い (学習済みパラメータの変更により精 度向上や多目的利用が可能) |
(2)AI技術を利用したソフトウェア開発の一般的特徴
AI編の基本的な考え方
(1)AIを巡る契約当事者の立場や考え方の違い
ユーザ | ベンダ | |
• 開発費を支払い、学習済みモデル生成のための学習に用いるために価値ある データ・ノウハウを提供したのだから、学習済みモデルに関する権利は全部自社のものとしたい。 • 学習済みモデルを競合事業者に使われ たくない。 • 自社のデータ・ノウハウを外部に流出させたくない。 • 学習済みモデルやこれを用いたシステムは一定レベルのものを完成・納品してもらいたい。 • 自らのデータを使って追加学習させて学習済みモデルの精度をさらに上げたい。 | 相互理解と調整が必要 | • 自社の研究・開発に関する事業自由度を確保したい。 • プログラムやシステムに関する権利は、開発主体である自社に帰属してしかるべきである。 • 学習済みモデルを横展開して一定の範 囲で他社にも提供したい。 • 追加学習して精度を上げた学習済みモデルを生成したい。 • そもそもユーザの求める目的に合致する学習済みモデルを作成できるかどうかはやってみないとわからない。 • 学習済みモデルの完成やxxの入力 (データ)に対して性能の保証はできない。 |
(2)「権利帰属」と「利用条件」の設定
AIの開発過程における材料、成果物
AIの開発においては、従来型のソフトウェア開発に比べると、多様な材料・中間生成物・成果物が想定される。
ノウハウ
↓
ノウハウ→
その法的性質を類型化して分析すると・・・
データ | • 知的財産権の対象とならず、法律上のデフォルトルールがない場合が多い。 • データは所有権の対象とならず、現実にアクセスできる者が利用可能。 |
プログラム | • プログラムの著作物や発明として、知的財産権(著作xx又は特許法)の対象となり得る。知財法のデフォルトルールを踏まえて、契約による修正の要否を検討。 |
ノウハウ | • 知的財産権の対象とならず、法律上のデフォルトルールがない場合が多い。 • ノウハウは所有権の対象とならず、現実にアクセスできる者が利用可能。 |
契約で定めるべき事項
法律によるデフォルトルールの有無 | 契約で定めるべき事項 | |
知的財産権の対象となるもの | 【有】 • 著作xx、特許法等により、誰にどのような権利が発生するのか定められている • そのうえで契約による修正は可能 | 知的財産権の「権利帰属」 +「利用条件」 |
知的財産権の対象とならないもの | 【無】 • 契約で合意したとおりとなる | 「利用条件」 |
<権利帰属や利用条件の設定>
一般的な考慮要素 |
• 対象となるデータやプログラムの生成・作成に寄与した程度(寄与度) • 生成・作成に対する労力 • 必要な専門知識の重要性 • データやプログラムの利用により当事者が受けるリスク 等 |
利用条件の交渉ポイント |
• 利用目的(契約に規定された開発目的に限定するか 否か) • 利用期間 • 利用態様(複製、改変およびリバースエンジニアリングを 認めるか) • 第三者への利用xx・xxの可否・範囲 (他社への提供(横展開)を認めるか、競合事業者への提供を禁じるか) • 利益配分(ライセンスフィー、プロフィットシェア) |
AIソフトウェアの開発契約
テスト
実装
設計
要件定義
• あらかじめ全体の機能設計・要件定義を済ませてから機能を実装
• 当初の要求仕様通りに進むため、契約時に契約内容や責任範囲を 明確に定めることが可能
従来型のソフトウェア開発
(ウォーターフォール型)
• ①契約時に成果が不明瞭な場合が多い
②性能が学習用データセットに左右される
③開発後もさらに再学習する需要がある
• こうしたAI技術の特性を踏まえると、試行錯誤 を繰り返しながら納得できるモデルを生成するという新しいアプローチが考えられる
AIソフトウェア開発
「探❹的段階型」の開発方式を提案
①アセスメント
②PoC
③開発
④追加学習
「探❹的段階型」の開発方式
目的 | 一定量のデータを 用いて学習済みモデルの生成可能性を検証する | 学習用データセットを 用いてユーザが希望する精度の学習済みモデルが生成できるかを検証する | 学習済みモデルを生成 する | ベンダが納品した学習済みモデルについて、追 加の学習用データセットを使って学習をする |
想定される 成果物 | レポート等 | ・レポート ・学習済みモデル (パイロット版) 等 | 学習済みモデル等 | 再利用モデル等 |
締結する契約 | 秘密保持契約書等 | 導入検証契約書 等 | ソフトウェア開発契約書 | 場合による |
段階ごとに、論点や様々なオプションを提示。さらにモデル契約書案を収載
AIソフトウェアの利用契約
<AIソフトウェアの利用契約の例>
製造事業者であるX社(ユーザ)が、自己の工場の機械に設置したセンサから得られる機器の稼動 データを、インターネット経由でY社(ベンダ)のサーバに送信し、当該稼動データを機械制御目的のために開発されたベンダの学習済みモデルに入力し、
出力されたAI生成物を、インターネット経由でユーザが利用するサービス
サービス利用契約において特に考慮すべき事由 | |
学習済みモデルのカスタマイズが伴う場合 | • 開発の場合と同様、カスタマイズに用いられた生データ、学習用データセット、カスタマイズされた学習済みモデル等の権利帰属や利用条件が問題となり 得る。 |
入力データの扱い | • ユーザが入力したデータの扱いを契約で定めるべき(特に、営業秘密やノウハウが含まれる場合、ベンダが入力データをユーザへのサービス提供以外の目的で利用することを望む場合)。 |
入力データを用いた追加学習 (モデルの精度維持・向上) | • 入力データを用いて追加学習を行う場合、再利用モデルの権利帰属や利用条件についても契約で定めるべき(特に、再利用モデルをユーザ以外の第三者へのサービスに利用する場合) |
AI生成物等の権利帰属や利用条件 | • AI 生成物の性質、利用目的、データの提供主体、コストの負担、責任分 担等の各要素を考慮。 29 |
(参考)作業部会で取り上げたユースケース(AI編)の例①
相談者:損害保険会社 | ||||
事案の概要 | ||||
相談事業者 相談者の論点 | X(利用者企業) X社DB 学習済モデルA | 権利化 開発委託契約データ提供 納品 高度化 | Y(データ解析企業) 開発 学習済モデルA | 開発したモデルについてYは、早期にYの単独出願で特許を取得をして、横展開したいとしている。Xは当該モデルのノウハウを一定期間独占的に使用したいので、権利化に対 して慎重である。Yの権利化の主張に対して、どのように対応すべきか |
Xは、開発した学習済モデルAの解析企業側(Y)の貢献をどのように考えるべきか。自社の独占的な権利を主張できるか。 | ||||
Xは、当該学習済モデルAをデータの追加により高度化した場合、高度化されたモデルの権利関係をどのように捉えるべきか | ||||
• Xでは、自社が保有する各種データを機械学習等により活用するために、Y社と開発委託契約を締結し、学習済みモデル開発(学習済モデルA)の委託を行っている。なお一旦PoCとして委託し、その上で本開発に移行する。 • Xとしては、データ自体が自社保有のデータであり、学習済モデルAの開発に係る費用についても開発委託契約において負担していることから、学習済モデルAの権利についても、自社の権利と考えている。Y社は学習済モデルAの開発においては、自社のノウハウも含まれているから、Xの独占的な権利という主張に、異論を持っている。 • またXにおいては、開発した学習モデルAに対して、今後さらにデータを追加して、当該モデルの高度化も検討している。 |
(参考)作業部会で取り上げたユースケース(AI編)の例②
相談者:AI関連システム開発ベンダー |
事案の概要 |
相談事業者 開発した学習済モデルを活用して別業界のSIer(Y2)経由での開発・販売を行う場合に備えて、元のSIer(Y1)との関係で 相談者の論点 どのような条項に盛り込むべきか X 開発委託契約 Y1(SIer) (AI開発事業者) 案件に特化したモデルについては、どの部分 仕様上のノウハウ 物流業界 エ (パラメータセット、プログラム、分析手法 学習済 向けSIer ン 等)に誰の権利が生じると考えるべきか。 モデルP ドソースコード ユ ー 汎用化 ザ 利用 ー 汎用的な分析手法・アルゴリズムを選択につ 学習済 開発委託契約 Y2 企いてのノウハウが公知・自明でない場合は、 モデルQ A業界向けSIer 業当該ノウハウはX社に帰属するか。 |
• Y1は物流業界企業向けに、荷物の積載を自動計算するソフトウェア開発の受注をしている。なお、Y1はXの学習済モデルPを用いて、複数の物流業界の顧客にサービス提供をしている。Xがモデル開発を行うにあたって、仕様上のノウハウ(計算において設定する条件等)は、物流業界に精通しているY1から提供を受けている。 • Xは開発した成果物について、原則としてソースコードなどを含めてY1に納品している。その理由は、従来はモデルPは、再利用可能なケースが限定的であるためである。 • 但し今後、極めて汎用性が高く、再利用が容易に可能なモデルを構築するケースも発生し、これを別の業界に展開する場合には、別のSIer企業経由で開発を受注することを想定した検討をXは行いたいとしている。 |