Contract
第3章 連鎖販売取引
(定義)
第 33 条 この章並びに第 58 条の 21 第1項及び第3項並びに第 67 条第1項において「連鎖販売業」とは、物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む。以下この章及び第5章において同じ。)の販売(そのあつせんを含む。)又は有償で行う役務の提供(そのあつせんを含む。)の事業であつて、販売の目的物たる物品(以下この章及び第 58 条の
21 第1項第1号イにおいて「商品」という。)の再販売(販売の相手方が商品を買い受けて販売することをいう。以下同じ。)、受託販売(販売の委託を受けて商品を販売することをいう。以下同じ。)若しくは販売のあつせんをする者又は同種役務の提供(その役務と同一の種類の役務の提供をすることをいう。以下同じ。)若しくはその役務の提供のあつせんをする者を特定利益(その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあつせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部をいう。以下この章及び第 58 条の 21 第1項第4号において同じ。)を収受し得ることをもつて誘引し、その者と特定負担(その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供をいう。以下この章及び第 58 条の 21 第1項第4号において同じ。)を伴うその商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。以下「連鎖販売取引」という。)をするものをいう。
2 この章並びに第 58 条の 21、第 58 条の 26 第1項、第 66 条第1項及び第 67 条第1項において「統括者」とは、連鎖販売業に係る商品に自己の商標を付し、若しくは連鎖販売業に係る役務の提供について自己の商号その他特定の表示を使用させ、連鎖販売取引に関する約款を定め、又は連鎖販売業を行う者の経営に関し継続的に指導を行う等一連の連鎖販売業を実質的に統括する者をいう。
3 この章において「取引料」とは、取引料、加盟料、保証金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、取引をするに際し、又は取引条件を変更するに際し提供される金品をいう。
趣 旨
第3章では、連鎖販売取引に係る規定を設けているが、本条は、その前提としての定義規定である。
第1項は、本章の規定の適用を受ける連鎖販売業、連鎖販売取引の定義を規定している。第2項は、本章において連鎖販売業の適正な運営を図らせるため、その組織の最高責任者 に対して各種の義務付けを行うこととしているところ、その当該最高責任者を統括者と定
義している。
第3項は、連鎖販売取引において重要な概念である取引料の定義を規定している。
解 説
1 第1項
(1) 連鎖販売業は、組織の個々の加盟者に着目したものであり、組織全体を一つの連鎖販売業として捉えるものではない。したがって、一つの組織の中に、販売の事業と販売のあっせん事業又は役務の提供の事業と役務の提供のあっせんの事業、というように異なる事業を行う者が混在することもあり得る。
また、組織形態も様々である。例えば、組織の本部が個々の加盟者との連鎖販売取引を全て集中して行う、「取引集中型」とも称すべき場合(図1参照)には、この本部(T)だけが連鎖販売業を行う者で他の加盟者(A、B、…)は連鎖販売業を行う者ではない。一方、本部は最上位のランクの加盟者との間でのみ連鎖販売取引を行い、以下のランクの加盟者は自己の直近上位のランクの
加盟者との間で連鎖販売取引を行う、
「xx取引型」とも称すべき場合(図2参照)には、最下位のランクの加盟者を除きそれぞれの段階の者(T、A、B…)が連鎖販売業を行う者になり得る。この場合には、連鎖販売業を行う加盟者が多数存在し、それらが有機的に構成されて一つの組織が成立していることになる。
さらには、加盟者と組織の本部との取引形態が商品の再販売及び販売のあっせんに係る取引が混在するもの、あるいは役務の提供のあっせんをするもの及び販売のあっせんに係る取引が混在するもの等多岐にわたる取引形態もあり得る。
なお、無限連鎖講と連鎖販売業の相違であるが、無限連鎖講は、組織参加者間の「金 品配当組織」であり、組織参加者の収入は後順位者の支出によってのみ賄われ、組織外 からの収入がないため終局において必然的に破綻する性格のものである。これに対し て連鎖販売業は、物品の販売等の「事業」であり、組織外への販売等の事業活動による 利益が十分に得られるようなものであれば、必ずしも破綻するとは限らない。すなわち、無限連鎖講は、物品・権利の販売や役務の提供という経済活動が伴わない点及び破綻が 必然的である点において、連鎖販売業と区別される。
もっとも、連鎖販売業であるとして物品・権利の販売や役務の提供を標榜している組織であっても、経済活動の実態がなく、単なる金品配当組織として無限連鎖講に該当し
得る場合もあり得ることから、両者の区別については、実態に即した判断が必要となる。
(2) 「連鎖販売業」の内容
イ 連鎖販売業の形態は、物品及び権利の販売に係るものと、役務の提供に係るものに大別される。
① 物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む。)の販売(そのあっせんを含む。)の事業であって、商品の再販売、受託販売又は販売のあっせんをする者を特定利益(その商品の再販売、受託販売又は販売のあっせんをする他の者が提供する取引料等の全部又は一部をいう。)を収受し得ることをもって誘引し、その者と特定負担(その商品の購入又は取引料の提供をいう。)を伴うその商品の販売又はそのあっせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。)をするもの
② 有償で行う役務の提供(そのあっせんを含む。)の事業であって、同種役務の提供又はその役務の提供のあっせんをする者を特定利益(同種役務の提供又はその役務の提供のあっせんをする他の者が提供する取引料等の全部又は一部をいう。)を収受し得ることをもって誘引し、その者と特定負担(その役務の対価の支払又は取引料の提供をいう。)を伴う同種役務の提供又はその役務の提供のあっせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。)をするもの
ロ 「物品(施設を利用し又は役務の提供を受ける権利を含む。……)の販売(そのあつせんを含む。)……の事業」
① 「物品」とはここでは「有体物たる動産」の意昧であり、土地、建物等の不動産が含まれることはないと考えられる。これは、その性質上連鎖販売取引になじみにくいことなどによる。
② 「施設を利用し又は役務の提供を受ける権利」とは、施設を利用し又は役務の提供を受ける私法上の債権である。
「施設」とは、必ずしもビル等の構築物でなくとも、ゴルフ場、公園等自然を活用したものも含む概念である。「施設を利用」することも「役務の提供を受ける」ことの一態様であるが、確認的に規定したものである。
③ 「販売」とは、対価の支払により所有権、債権が相手方に移転することをいう。したがって、リース、レンタルは「販売」に含まれない。売買契約を締結し、代金と引換えに物品の引渡しを行う場合が典型であるが、これらを行うと認識される実態があれば足り、自己が売買契約の唯一の当事者であることや自ら物品の引渡しを行うことまで厳密に求めるものではない。
④ 「あつせん」とは、販売の相手方を見つけ、販売の仲立ちをすることをいう。勧誘等、販売のための何らかの補助を行うことが必要である。
⑤ 「事業」であるためには、反復継続して行うこと又はその意思が必要である。ハ 「商品……の再販売……、受託販売……若しくは販売のあつせんをする者」
① 「再販売」とは、「販売の相手方が商品を買い受けて販売すること」と定義されている。したがって、買い受けてその商品を全て消費してしまう者は単なる購入者であり「再販売をする者」に該当しない。
また、実際に商品を再販売したか否かは問題ではなく、「商品を販売をしないか」と誘われて購入したが、結果的に自己消費しただけに過ぎないという場合であれば、その者は「再販売……をする者」に該当する。
② 「受託販売」とは、「販売の委託を受けて商品を販売すること」と定義されている。取次ぎ、代理等のいかんを問わず、商品の所有者等から販売の委託を受けて行う販売(販売の委託を受けて更に販売の再委託をすることを含む。)は「受託販売」に該当する。
③ 「販売のあつせん」とは販売の仲立ちをするという意味であるから、自ら販売をする必要はなく、商品の購入は専ら自己消費のために行う者であっても、例えば、友人、知人等他の購入者を販売業者に紹介する者は「販売のあつせんをする者」となる。
ニ 「有償で行う役務の提供……の事業」
① 「有償で行う」とは、役務の提供の対価を得ることをいう。
② 「役務」とは、広く労務又は便益一般をいう。物品のリース、レンタルも「役務」に含まれる。「施設を利用」させることも「役務の提供」の一形態である。
「役務の提供」とは、自己で提供することをいう。すなわち、第三者に役務の提供をさせることは該当しない。
ホ 「同種役務の提供……若しくはその役務の提供のあつせんをする者」
① 「同種役務の提供」とは、「その役務と同一の種類の役務の提供をすること」と定義されている。「種類」とは、一般人がいかなる役務なのかを認識できる程度のものであり、例えば、「ダンスのレッスン」、「絵画のレンタル」、「観賞用植物のレンタル」等がこれに当たる。このレベルにおいて「有償で行う役務の提供……の事業」を行う者が提供する役務と同一の役務の提供をする者であれば、「同種役務の提供……をする者」に該当する。
② 「その役務の提供のあつせん」とは「有償で行う役務の提供……の事業」を行う者の役務提供の相手方を見つけ、提供の仲立ちをすることをいう。
役務の提供のあっせん 同種役務の提供
役務提供事業者
(顧客紹介)
役務提供のあっせんをする者
役務の提供
(業者紹介)
役務の提供を受け
る者
役務提供事業者
役務の提供
同種役務の提供を
する者
役務の提供
役務の提供を受け
る者
ヘ なお、連鎖販売業に該当しない場合であっても、営業所等以外の場所において商品、特定権利の販売又は役務の提供を業として行っている場合は、訪問販売に関する規定が適用されることに留意されたい。会員の自宅で販売がなされる場合、当該会員を組織内で「代理店」等と呼んでいるようなケースにおいても、実際上、当該自宅が
「営業所等」の実態を備えていない場合には、訪問販売に係る規定が適用される。(法第2条の解説1(2)ロ参照。)
(3) 「特定利益」については、「その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあつせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部をいう。」と規定し、省令第 24 条において、特定利益とは、次のいずれかの要件に該当するものをいうこととしている。
イ 商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあっせんをする他の者が提供する取引料により生ずるものであること。
ロ 商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者に対する商品の販売又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあっせんをする他の者に対する役務の提供により生ずるものであること。
ハ 商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者が取引料の提供若しくは商品の購入を行う場合又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあっせんをする他の者が取引料の提供若しくは役務の対価の支払を行う場合に当該他の者以外の者が提供する金品により生ずるものであること。
「商品の再販売、受託販売若しくは販売のあつせんをする他の者」及び「同種役務の提供若しくは役務の提供のあつせんをする他の者」とは、組織の他の加盟者(現に加盟している者である必要はなく、加盟しようとする者も含む。)のことである。例えば、「あなたが勧誘して組織に加入する人の提供する取引料の○○パーセントがあなたのものになる。」と勧誘する場合は省令第 24 条第1号に該当し、「あなたが勧誘して組織に加入する人が購入する商品の代金(提供を受ける役務の対価)の○○パーセントがあなたのものになる。」と勧誘する場合は同条第2号に該当し、「あなたが勧誘して組織に加入する人があれば統括者から一定の金銭がもらえる。」と勧誘する場合は同条第3号に該当する。これらの同条に規定する利益は、いずれも組織の外部の者ではなく、組織の内部の者(組織に加入することとなる者を含む。)の提供する金品を源泉とするものであり、いわゆる小売差益(組織への加入の勧誘を伴わない最終消費者に対する小売販売の差益)は含まれない。
(4) 「特定利益……を収受し得ることをもつて誘引」するとは、特定利益を収受し得ることをもって連鎖販売取引をするよう誘うことであるが、特定利益が実現することは要しない。また、特定利益は、相手方が連鎖販売取引をするか否かの意思決定において社会通念上「特定利益……を収受し得ること」が判断要素となり得る程度のものでなければならず、例えば、特定利益が僅少な額であって、相手方がそれをほとんど考慮しないような場合には、特定利益を収受し得ることをもって誘引することには該当しない。
(5) 「連鎖販売取引」
「連鎖販売取引」とは、「販売の目的物たる物品……の再販売……、受託販売……若しくは販売のあつせんをする者又は同種役務の提供……若しくはその役務の提供のあつせんをする者を特定利益……を収受し得ることをもつて誘引し、その者と特定負担
……を伴うその商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。……)」のことである。
(6) 「特定負担」
「特定負担」とは、連鎖販売取引に伴う負担であり、「その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供」と規定している。すなわち、再販売等を始める際又は販売条件、特定利益等の取引条件を変更する際に、商品の購入、役務の対価の支払、取引料の提供のいずれであるかを問わず、その取引に伴う金銭的負担は本法にいう特
定負担となる。
なお、特定負担に該当するのは、商品の購入、役務の対価の支払及び取引料の提供であり、それ以外のもの、例えば、一定額以上の売上げを達成すること、他の者をリクルートすること、研修への参加等が条件とされていても、それ自体は通常金銭的な負担ではないため特定負担には該当しない。ただし、再販売等をするために必要な物品(「ビジネス・ガイド」、「スターター・キット」などと呼ばれる場合もある。)を購入する場合や、再販売等をするための商品を購入する場合であれば、それらの購入代金は特定負担に該当するほか、入会金、保証金、登録料、研修参加費用等が必要であればそれらの費用は「取引料」であり、特定負担に該当する。
特定負担である商品の購入、役務の対価の支払又は取引料の提供の相手方と、それらを伴う取引の相手方が異なる場合であっても、それらは特定負担である。
また、契約書面上には「必要な負担は一切ありません。」や「商品購入はあくまで参加者の自由です。」と記載していても、「自分で商品を購入してみないと他人に勧められないだろう。」などと勧誘する場合等、実質的に商品購入が伴っていれば、その商品購入代金も特定負担に該当する。
なお、当該販売組織に入会する時点で金銭負担をすることが求められていない場合であっても、組織に入会後に実際に商売を始めるために別途商品購入等何らかの金銭負担することが前提となった契約である場合には、その負担が特定負担に該当する(したがって、入会契約の時点で法第 37 条第2項の書面、その契約を締結するまでに同条第1項の書面をそれぞれ交付しなければならない。)。
また、再販売や受託販売、販売のあっせん等を行わない単なる消費者(いわゆる愛用者)として当該商品流通組織に参加する場合は、参加する時点における入会金の支払等は連鎖販売取引に該当しないが、例えば、半年程度経った後「そろそろ販売活動を始めてみないか。」と言われ、商売をするために商品購入をする場合には、その商品購入が自己消費のためのものか再販売等のためのものかを問わず特定負担となり、その時点での取引が商品購入という特定負担を伴う連鎖販売取引となる。
(7) 「その商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引」とは、商品の販売若しくはそのあっせん又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあっせんの取引自体に限らず、これに付随する一切の取引、例えば、販売や提供のための用具の売買(販売のための伝票類の購入等)、特定利益の授受に関する取引も含まれる。
組織の加盟員になり、又は、組織内で昇進するに際し、通常、組織の本部又は上位ランクの者との間で販売員契約が締結され、商品の販売価格、役務の提供価格、販売員の義務等が定められているが、このような取引は、法でいう「その商品の販売若しくはそのあつせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあつせんに係る取引」である。
(8) 「取引条件の変更」
イ 「取引条件の変更」とは、商品の販売若しくはそのあっせん又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあっせんに係る取引についての条件の変更であり、商品の販売価格、役務の提供価格等の条件の変更、特定利益の授受についての条件の変更等のことである。また、販売ノルマを新たに課すような場合も「取引条件の変更」に該当する。
連鎖販売取引を行う組織は、それぞれ資格の異なる多段階の加盟員によって構成されていることが多く、販売実績等の条件をクリアする上位のランクの者ほど商品の購入条件、特定利益の授受等において有利になっており、通常、下位のランクに入った新規加入者は、一定の負担をすることによって上位のランクヘ昇進することができることとされている。例えば、上位ランクへの昇進によって商品の購入条件が変更される場合、法の「取引条件の変更」に該当する。
ロ 「取引条件の変更」が、「連鎖販売取引」となるためには、前述(6)の「特定負担」が伴わなければならない。
組織の上位ランクに昇進する場合は、昇進契約等において一定の商品の購入、役務の対価の支払又は取引料の提供を行うことが求められていたり、あるいは昇進契約等を締結する前提条件として商品の購入、役務の対価の支払又は取引料の提供が必要とされていることが多い。このような場合の昇進契約は、特定負担を伴うものとして、連鎖販売取引となる。例えば、再販売であって購入実績に応じて昇進させる形態においては、一定の購入実績があれば昇進できる旨が別途契約で規定されている場合、又は契約で保証されていない場合であっても、事実上、一定の商品の購入を行えば必ず昇進できる場合には、商品の購入を昇進の条件とする連鎖販売取引に該当する。
なお、入会の際に、昇進の条件や、昇進後の商品の販売価格、販売ノルマ、特定利益の授受についての条件等の取引条件の詳細が契約書に明記されているとともに、十分に内容が説明されて、当該個人が昇進後の条件について入会の際に全てを理解し了解している場合であって、昇進を含む全体が一体の取引と認識され得るものであり、かつ、その契約内容について当事者双方の意思が十分に合致していると考えられるような場合には、次のランクへの昇進が必ずしも「取引条件の変更」に該当しない場合もあり得ると考えられる。しかしながら、契約書やパンフレットに昇進条件等に関する記述が一応なされていて、一定の説明がされていても、実際にはシステムが複雑な場合も多く、当初の取引開始時に、昇進した後の取引条件等について当該個人が十分に理解をしていないようなことが多いと思われる。このため、双方の間で昇進後の取引条件を含めて十分な合意ができていないと考えられる場合には、やはり、昇進は取引条件の変更と認められ、改めて昇進後の取引条件を説明した上で、新たに書面を交付することが必要となる。
2 第2項
第2項は、「統括者」の定義規定である。「統括者」とは、「一連の連鎖販売業を実質的に統括する者」である。
(1) 「統括者」と「連鎖販売業を行う者」との関係について
連鎖販売業に係る契約形態は多種多様であるため、通常一つの連鎖販売業の組織とみられている多段階構造の組織の加盟員のうちいずれの者が第1項に定義する「連鎖販売業」を行う者に該当するかはそれぞれの組織によって異なるが、一般には特定負担を伴う取引(連鎖販売取引)を行う者が誰であるかによって決まる。
その取引についての契約の締結を組織の中心となる者が集中的に行う場合(解説1の図1のような場合)には、この者のみが「連鎖販売業を行う者」となる(この場合、通常その「連鎖販売業を行う者」は統括者であり、組織の各加盟員は「連鎖販売業を行う者」には該当しないと考えられる。)。
また、本部は最上位のランクの者との間でのみ契約を締結し、以下のランクの者は自己の直近上位の者との間で特定負担を伴う取引を行う場合(解説1の図2のような場合)には、最下位のランクの者を除いて、それぞれのランクの者が「連鎖販売業を行う者」となり得る(ただし、最下位のランクの者であっても自分が次の加盟者を勧誘する際には当然「連鎖販売業を行う者」となり得る。)。
なお、本部が最上位のランクの者との間で連鎖販売取引に該当する取引を行っていなかったとしても、その本部が一連の連鎖販売取引を実質的に統括している限り、その者は連鎖販売業を行う者ではないが「統括者」である。
(2) 「一連の連鎖販売業を実質的に統括する者」
一連の連鎖販売業についてその運営の在り方を統括的、実質的に決定している者である。実際の連鎖販売業には多種多様なものが存在し、これを実質的に統括する者の要件を形式的に決定することは困難である。
このため、個々の事例においては、本項に例示された「連鎖販売業に係る商品に自己の商標を付し」、「連鎖販売業に係る役務の提供について自己の商号その他特定の表示を使用させ」、「連鎖販売取引に関する約款を定め」、「連鎖販売業を行う者の経営に関し継続的に指導を行う」等の行為の有無を一応の判断基準としつつ、その組織の実態に即して判断することになる。
3 第3項
(1) 「取引料、加盟料、保証金その他いかなる名義をもつてするかを問わず」
連鎖販売取引では、その組織への加盟又は組織内での昇進に当たって、入会金、入会登録料、リクルート料、出資金、貸付金等様々な名目で金品が提供され、その性格も瞹眛なものが多いが、名称のいかんにかかわらず「取引料」とみなす趣旨である。
(2) 「取引をするに際し、又は取引条件を変更するに際し」
ここで「際し」とは、時間的に同時であることを必要としていない。「取引をする」
こと又は「取引条件を変更する」ことと何らかの関連があればよい。
(3) 「提供される金品」
「提供」とは、他人にとって利益となるものを、その利用に供することをいう。また、無償の提供である必要はなく、物品、役務の対価であっても構わない。したがって、ファクシミリや伝票、カタログ等の販売用具の購入代金、研修費等も含まれる。
「提供される金品」には、例示に「保証金」が掲げられているように、保証金を提供したり、質物を相手方に引き渡す場合の保証金、質物等も含まれる。また、脱会時に全額返還する旨の約定がなされていても、それが取引をするに際し、又は取引条件を変更するに際し提供されるものであれば取引料である。
(連鎖販売取引における氏名等の明示)
第 33 条の2 統括者、勧誘者(統括者がその統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)又は一般連鎖販売業者(統括者又は勧誘者以外の者であつて、連鎖販売業を行う者をいう。以下同じ。)は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の氏名又は名称(勧誘者又は一般連鎖販売業者にあつては、その連鎖販売業に係る統括者の氏名又は名称を含む。)、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る商品又は役務の種類を明らかにしなければならない。
趣 旨
本条は、連鎖販売取引をしようとするときは、その勧誘をするのに先立って、相手方にその旨が明らかになるように一定事項を告げ、相手方が商品の購入等の勧誘を受けているという明確な認識を持ち得るようにするための規定である。
解 説
1 連鎖販売取引が、住居への訪問、ホームパーティー、同窓会、いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスと同様の方法等の形態で行われる場合、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が訪問目的等を偽って相手方に告げ、言葉巧みに取引に誘い込み、その結果その相手方が知らず知らずのうちに特定負担を伴う取引に同意させられてしまうという例がある。このような販売形態は、通常の店舗販売等とは異なり、基本的に相手方は望んでいないにもかかわらず不意に勧誘を受けるものである。相手方は連鎖販売取引に全く関心がない、又は忙しくて時間を取られたくない等の理由から、勧誘そのものを受けることを拒否したいことも多い。訪問目的等を偽って告げることは、相手方が、そのような勧誘を受けるか拒否するかを判断する最初の重要な機会を奪うものであり、こうしたことを放置することは、連鎖販売取引の相手方の利益の保護という観点から問題であるので、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者と連鎖販売取引の相手方との適切なルール
を整備するという観点から本条を規定したものである。
2 「勧誘者(統括者がその統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について勧誘を行わせる者をいう。以下同じ。)」
(1) 勧誘者とは、統括者が勧誘を行わせている者であり、統括者以外の連鎖販売業を行う者が勧誘を行わせている者は該当しない。
具体的に勧誘者に該当するのは、まず統括者から勧誘の委託を受けて、説明会等で専ら勧誘を行う者(例えば、各地域で説明会を主催する地域代理店の地位にいる者)が該当するほか、明示的に勧誘を委託されてはいないが、自分自身の勧誘と併行して、他の者の勧誘を推進している者も該当することとなる。
(2) 統括者の代理人、使用人その他の従業員の行う勧誘行為は、統括者の行う勧誘行為であると考えられるので、統括者自身の行為と同様に扱われることとなる。
(3) 勧誘者であるかどうかは、(1)に述べた要件に合致するか否かによって判断されることになるが、これらは客観的に判断すべきものであり、たとえ勧誘者が自分は統括者が勧誘を行わせる者でないと主張したとしても、本条の適用を免れるものではない。
3 「一般連鎖販売業者(統括者又は勧誘者以外の者であって、連鎖販売業を行う者をいう。以下同じ。)」
一般連鎖販売業者とは、統括者又は勧誘者以外の者であつて、連鎖販売業を行う者全てをいう。法第 37 条等に規定する「連鎖販売業を行う者」(連鎖販売取引についての契約の相手方となる者のことであり、統括者、勧誘者がこれに該当する場合もある。)と区別するため、本項の連鎖販売業を行う者を「一般連鎖販売業者」とすることとしている。
統括者、勧誘者、一般連鎖販売業者と法第 37 条の連鎖販売業を行う者の関係は以下の図のとおりである。
統括者
勧誘者
一般連鎖
販売業者
連鎖販売業を行う者
4 「連鎖販売取引をしようとするときは、その勧誘に先立つて」
連鎖販売取引についての契約締結のための勧誘行為を始めるに先立ってを意味する。ここでいう勧誘行為を始めるに先立ってとは、先述のとおり本条を規定した趣旨が相
手方が勧誘を受けるか拒否するかを判断する最初の重要な機会を確保することであることを踏まえると、相手方のそのような機会を確保できる時点と解することとなるが、少な
くとも勧誘があったといえる相手方の契約締結の意思の形成に影響を与える行為を開始する前に所定の事項につき告げなければならない。
具体的には、個々のケースごとに判断すべきであるが、例えば、説明会等への来訪を要請する場合であれば、当初から勧誘行為が始められる場合が多いことから、基本的に、直接誘ったり、電話をかけるなど相手方と接触した際に告げることとなる。
5 「氏名又は名称(勧誘者又は一般連鎖販売業者にあつては、その連鎖販売業に係る統括者の氏名又は名称を含む。)」
個人事業者の場合は、戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号、法人にあっては、登記簿上の名称であることを要し、通称や屋号は認められない(例えば、「○○○○」で は不十分であり、「株式会社○○○○」)。
なお、勧誘者や一般連鎖販売業者にあっては、自らの氏名又は名称に加えて統括者の氏名又は名称も告げる必要がある。
6 「特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨」
訪問販売等と異なって「特定負担を伴う取引についての契約」としているのは、連鎖販売取引は、取引の仕組みが複雑なため、それら取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨を告げられても、取引に不慣れな個人は、自分がどのような取引についての勧誘を受けようとしているのか認識することが困難と考えられる。他方、勧誘に先立って、それら取引の内容を統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に説明させるのにも無理がある。このため、勧誘に先立って、相手方である個人にとって最も重要と考えられる何らかの金銭上の負担(特定負担)がある取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨を、統括者や勧誘者等に、明らかにすることを義務付けることとした。
具体的な告げ方としては、以下のような例が考えられる。
○「一定額の健康食品を購入して行うビジネスの勧誘ですが、話を聞いてもらえませんか。」
7 「商品又は役務の種類」
例えば、「健康食品」、「化粧品」等、商品等の具体的なイメージが分かるものでなくてはならない。他方、個々の商品等の名前までを告げる必要はない。
8 「明らかにしなければならない」
明示の方法は、書面でも、口頭でもよいが、相手方に確実に伝わる程度に明らかにしなければならない。
9 本条違反に対する罰則は規定されていないが、本条に違反する行為については、主務大臣による指示(法第 38 条)や取引等停止命令(法第 39 条)等の対象となる。
(禁止行為)
第 34 条 統括者又は勧誘者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の
提供若しくはそのあつせんを店舗その他これに類似する設備(以下「店舗等」という。)によらないで行う個人との契約に限る。以下この条及び第 38 条第3項第2号において同じ。)の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、次の事項につき、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。
一 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして主務省令で定める事項
二 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項
三 当該契約の解除に関する事項(第 40 条第1項から第3項まで及び第 40 条の2第1項から第5項までの規定に関する事項を含む。)
四 その連鎖販売業に係る特定利益に関する事項
五 前各号に掲げるもののほか、その連鎖販売業に関する事項であつて、連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
2 一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、前項各号の事項につき、不実のことを告げる行為をしてはならない。
3 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約を締結させ、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。
4 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに営業所、代理店その他の主務省令で定める場所以外の場所において呼び止めて同行させることその他政令で定める方法により誘引した者に対し、公衆の出入りする場所以外の場所において、当該契約の締結について勧誘をしてはならない。
趣 旨
連鎖販売業に係る連鎖販売取引において、誤った情報や不正確な情報による勧誘や強引な勧誘等、相手方の意思決定を歪めるような方法で取引を行わせることや、同様の方法により契約の解除が妨げられるといった問題もあることから、本条はこのような不当な行為を禁止し、取引相手の損害発生の未然防止を図ることとしている。
解 説
1 統括者及び勧誘者による重要事項の不告知、不実告知(第1項)
第1項は統括者及び勧誘者が行う重要事項の不告知及び不実告知を禁止する規定である。重要事項の不告知については、本条の罰則の重さからみて一般連鎖販売業者を対象と
することはバランス上も過剰であることなどを踏まえ、統括者及び勧誘者を規制対象者としている。
(1) 「店舗その他これに類似する設備(以下「店舗等」という。)」
商品の販売、役務の提供等のための設備である。固定的設備が通常であるが、設備を組み込んだ自動車等もこれに該当する。
(2) 「その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若しくはそのあつせんを……店舗等……によらないで行う個人」
本条、法第 37 条、第 38 条第1項第2号及び第3号並びに第 40 条から第 40 条の3までの規定は、店舗等によらないで営業をする個人を相手方とするものに適用を限定している。
本条は民商法の一般原則に例外を設けるものであり、規制の範囲は必要最小限であるべきである。ところで連鎖販売取引は、商取引に不慣れな個人を独立の事業者に仕立て上げ、多額の出資をさせる点に問題があり、本法もこれらの者を保護することを目的としている。したがって、法人及び店舗等によって営業する個人は、商取引に習熟しており、本法による保護の対象とする必要がないものと推定し、適用から除外している。一般に学生、主婦等は自らの店舗を有していることはあまりなく、この店舗によらな いで販売する個人に該当するものが一般的である。また、勧誘する相手が店舗等を有し
ていても、その連鎖販売業に係る商品の販売、役務の提供等を当該店舗で行わない場合、例えば、居酒屋の店主が洗剤を購入し訪問販売により再販売しようとする場合には、店 舗等によらないで営業する個人となる。
現に店舗等を有しており、かつ、同種の商品の販売、役務の提供等を当該店舗等によって行っており反対の意思表示がない場合、これらの者は店舗等によって営業する個人となる。
(3) 「その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約……の締結について勧誘をするに際し」
イ 勧誘は、連鎖販売取引をさせようとするものでなければならない。
ロ 「契約……の締結について勧誘をするに際し」とは、統括者又は勧誘者が連鎖販売取引の相手方に対し、最初に接触してから契約を締結するまでの時間的経過においてという意味である。
(4) 「その連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため」
「解除を妨げる」とは、通常は、解除を申し出た取引の相手方に対してなされるが、先制攻撃的に解除妨害を行うこと(例えば、「加盟員の登録完了の者は契約の解除ができない。」などと言われている場合等)もあり得る。
(5) 「次の事項につき」
イ 「商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種
類及びこれらの内容その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」(第1号)
商品の性能若しくは品質に関する事項又は権利若しくは役務の内容に関する事項とは、当該商品等の販売等の事業を開始するに当たって、商品等の価値を判断する要素となる事項である。
一般には、商品の品質が類似のものと比較して著しく劣ることを告げないことや、セールストークに用いられるような効能が実際には認められないのに効能があると告げること、根拠もなく商品の品質等について公的機関から認定を受けているかのような説明を行うことなどは、本号に関する事実の不告知又は不実の告知に該当する。
例えば、浄水器の販売をするに当たって、その効果が認められていないにもかかわらず、「病原性大腸菌O-157 が除去できる。」や「アトピー性皮膚炎に効く。」などと告げることは、不実の告知に該当する。
また、「その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」として、省令第 24 条の2で「商品の効能」、「商品の商標又は製造者名」、「商品の販売数量」、「役務又は権利に係る役務の効果」を規定している。
ロ 「当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項」(第2号)
特定負担の内容が商品の購入の場合は、その種類、数量、金額等を告げることとなるが、例えば、商品の種類を問わず5万円分購入する必要がある場合であれば、「当社の商品を5万円分購入すること。」などと告げることになる。取引料の場合には、その性格(例えば、入会金、研修費、保証金等の別)、金額等を告げることとなる。
また、入会金1万円のほかに 15 万円の商品購入が条件となっているにもかかわらず、「このビジネスを始めるために必要な負担は1万円のみで、ほかには一切必要ない。」と告げることは不実の告知に該当する。
ハ 「当該契約の解除に関する事項(第 40 条第1項から第3項まで及び第 40 条の2第1項から第5項までの規定に関する事項を含む。)」(第3号)
法第 40 条に規定するクーリング・オフに関する事項及び法第 40 条の2に規定する連鎖販売契約の中途解約・商品販売契約の解除に関する事項を含め、それ以外について契約の解除ができる場合及びその契約の解除を行ったときの損害賠償又は違約金についての取決め、商品等を紹介した者からキャンセルがあった場合の手数料の取扱い等について告げなければならない。
例えば、本法でクーリング・オフが法第 37 条第2項の書面の受領日(再販売の場
合、商品につき最初の引渡しを受けた日かいずれか遅い日)から 20 日を経過するまで認められているにもかかわらず、8日を経過した場合クーリング・オフができなくなると告げることや、「参加者の個人的な都合によるクーリング・オフは認められません。」と告げることなどは、不実の告知に該当する。
また、契約解除の条件について民商法の一般原則に比し不利なことを告げないことは事実の不告知に該当し得る。
ニ 「その連鎖販売業に係る特定利益に関する事項」(第4号)
勧誘を受ける相手方が当該連鎖販売業により得られる特定利益の内容について、その算定方法、金額等の事実を告げることとなる。
例えば、確実に収入が得られる保証がないにもかかわらず、「このビジネスに参加すると誰でも確実に7桁の月収が得られる。」、「1か月続ければサラリーマンには絶対に手にできない収入が得られる。」等と告げることは不実の告知に該当する。
また、勧誘に際して「年収○千万円も可能」といったトークが用いられることも少なくないが、一般に連鎖販売取引においてはこのような成功例が稀有であることから、たとえ「下位の者を何名加入させ、いくらの商品をどれだけ販売すればその年収になるか」を説明したとしても、下位の者を簡単に勧誘できるかのように説明する場合や、安易に高収入が得られる話のみを強調し、その可能性の乏しさや困難さに全く言及しない場合には、事実の不告知に該当し得る。
ホ 「前各号に掲げるもののほか、その連鎖販売業に関する事項であつて、連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」(第5号)
勧誘に係る連鎖販売取引の内容のみならず、その連鎖販売業に関する事項であって第1号から第4号までに規定されているもの以外の事項全てが対象となるが、事実の不告知については相手方が当該事実を知らずに取引を行うことがその者に不利になる事項が問題となる。また、不実の告知に関しては、対象となる範囲は、事実の不告知に比しより広くなる。具体的には個々の事例に即して判断されるものである。
当該取引が連鎖販売取引であることが重要事項に該当し得るかという点については個別具体の事例によって異なる。取扱商品の内容、再販売の条件や特定負担、特定利益等といった取引内容の詳細が全て告知されている場合に連鎖販売取引である旨を告げなかったという一点をもって直ちに重要事実の不告知に該当するとは必ずしもいえないが、例えば、相手方が連鎖販売取引か否かを尋ねているにもかかわらず
「連鎖販売取引ではない。」と告げる場合には不実の告知に該当する。
また、「○○省に認められた商法である。」と告げることは不実の告知となるほか、統括者や一般連鎖販売業者の経営が破綻の危機にひんしている場合にその財産状況等を告げないことは重要事実の不告知となり得る。
(6) 「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為をしてはならない。」
本項の違反は、事実の不告知、不実の告知をもって足り、相手方が錯誤に陥り、契約を締結し又は解除を行わなかったことは必要としない。
なお、刑事罰との関係では、刑法総則の適用により、事実の不告知、不実の告知が故意になされた場合について処罰されることになる。他方、本項の違反は主務大臣の指示
(法第 38 条)及び取引等停止命令(法第 39 条)といった行政措置の対象行為ともなっ
ているところであるが、事実不告知については「故意に」と明文上規定されていることから、主務大臣の指示、命令はそれが故意になされた場合に限られるのに対し、不実の告知に対する主務大臣の指示、命令は、故意又は過失の有無を問わず法第 38 条、第 39条の要件を満たせば行い得る。
告げる方法については、当該勧誘の行われた状況等を総合的に勘案する必要がある。口頭では重要事項が告知されなかったが書面には記載されている場合、また、口頭による告知事項と書面の記載事項が異なりいずれかに不実があった場合等は、個々の事例に即して違反になるかどうかが判断される。
例えば、商品の性能等についてそれらが記載された書面を提示しながら「この商品の性能はこのとおりです。」と説明を行う場合には通常、商品の性能等を告げていると解されるが、書面の記載内容は事実であっても口頭で虚偽の説明を行えば不実の告知に該当することはいうまでもない。
また、交付書面に「クーリング・オフ期間は8日間であり、それ以降は一切認められない。」と記載しており、「クーリング・オフについては、こちらの書面に記載の内容を参照してください。」などと告げた場合には、解除を妨げるための不実の告知に該当すると考えられる。この場合、刑事罰については、法第 37 条の書面の虚偽記載と本条の違反の観念的競合となる。
なお、不実のことを告げる行為について、刑法の詐欺罪と本条の関係については、訪問販売における禁止行為(法第6条)の解説を参照されたい。
2 一般連鎖販売業者についての不実の告知(第2項)
「その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の締結について勧誘をするに際し」
一般連鎖販売業者が自ら直接締結する連鎖販売取引についての契約についての勧誘をする場合だけでなく、例えば、多段階式構造の組織において他の一般連鎖販売業者が締結する連鎖販売取引についての契約について補助的に勧誘を行う際に不実の告知を行った場合も本条の規定に該当することとなる。
解除を妨げる場合についても同様、自らが直接締結した連鎖販売取引についての契約の解除を妨げる場合だけでなく、他の者の締結した連鎖販売取引についての契約の解除を妨げる場合も含まれる。
3 威迫・困惑(第3項)
(1) 「その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約を締結させ……るため」
「連鎖販売取引についての契約を締結させ……るため」とは、連鎖販売取引についての勧誘の際に、相手方の業務妨害等、契約締結以外の目的から行われる威迫・困惑を含まない趣旨である。
(2) 「その連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を防げるため」
「解除を防げる」とは、通常は、解除を申し出た取引の相手方に対してなされるが、先制攻撃的に解除防害を行うこと(例えば、「後からクーリング・オフをするなどと言ったらたたでは済まさないぞ。」などと言われている場合等)もあり得る。
(3) 「人を威迫して困惑させてはならない」
「威迫」とは脅迫に至らない程度の人に不安を生ぜしめるような行為をいい「困惑させ」とは字義のとおり、困り戸惑わせることをいう。具体的にはどのような行為が該当するかについては個々の事例について、行為が行われた状況等を総合的に考慮しつつ判断すべきである。
4 勧誘目的を告げずに誘引した者に対する公衆の出入りする場所以外の場所での勧誘の禁止(第4項)
第4項は、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、特定負担を伴う取引についての契約の締結についての勧誘をするためのものであることを告げずに、営業所等以外の場所において呼び止めて同行させる等の方法により誘引した者に対して、公衆の出入りする場所以外の場所において、当該契約について勧誘をすることを禁止する規定である。
これは、勧誘目的を告げずに公衆の出入りしない場所に誘い込んで、個人が自発的に離脱できない状況で不意に勧誘が行われることにより、必ずしも強引な勧誘や虚偽の説明による勧誘のような不当行為が行われなくとも個人が冷静な判断を行うことが困難となり不本意に契約を結ばされてしまうことによるトラブルが見受けられたことから、そのような行為を禁止することとしたものである。
(1) 「営業所、代理店、その他の主務省令で定める場所以外の場所」
省令第 24 条の3で訪問販売における「営業所等」と同じ場所を規定し、それ以外の場所としている。
(2) 「営業所、代理店、その他の主務省令で定める場所以外の場所において呼び止めて同行させることその他政令で定める方法により誘引した者」
いわゆるキャッチセールスと同様の方法により誘引した者に加えて、いわゆるアポイントメントセールスと同様の方法により誘引した者を規定している。
具体的には、政令第3条の2において、「電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、若しくはビラ若しくはパンフレットを配布し若しくは拡声器で住居の外から呼び掛けることにより、又は住居を訪問して、営業所その他特定の場所への来訪を要請する方法」を規定している。
(3) 「公衆の出入りする場所以外の場所において」
不特定多数の一般人が自由に出入りしていない場所においての意味である。個々のケースにおいては実態に即して判断されることとなるが、例えば、連鎖販売業を行う者の事務所、個人の住居、ホテルの部屋や会議室、公共施設等の会議室、カラオケボックス、貸し切り状態の飲食店等は該当するものと考えられる。
(4) 「当該契約の締結について勧誘をしてはならない。」
上記(2)及び(3)の要件を共に満たす状況において勧誘をすること、すなわち本項で規定する方法により誘引した者に対して、公衆の出入りしない場所で勧誘をすることは、すべからく本項に違反する行為となる。例えば、誘引した者に対し、公衆の出入りする場所で勧誘を始め、その後公衆の出入りしない場所で勧誘を行った場合でも、本項に違反する行為となる。
公衆の出入りしない場所において勧誘を開始した時点で、本項に違反する行為となり、行政処分及び罰則の対象となる。
5 本条の規定に違反したときは、当該違反行為をした者は、3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 70 条第1号)ほか、主務大臣による指示(法第 38 条)、取引等停止命令(法第 39 条)等の対象となる。
(合理的な根拠を示す資料の提出)
第 34 条の2 主務大臣は、前条第1項第1号又は第4号に掲げる事項につき不実のことを告げる行為をしたか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者に対し、期間を定めて、当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者が当該資料を提出しないときは、第 38 条第1項から
第3項まで及び第 39 条第1項の規定の適用については、当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者は、前条第1項第1号又は第4号に掲げる事項につき不実のことを告げる行為をしたものとみなす。
趣 旨
連鎖販売取引において、商品・役務の「効能」・「効果」や「取引により得られる利益」等に関して虚偽の説明を受けたことによるトラブルが見受けられたことを踏まえ、迅速な行政処分を可能とするため本条が規定された。
解 説
本条は、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、法第 34 条第1項又は第2項に違反して同条第1項第1号に掲げる事項(商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして主務省令で定める事項)又は第4号に掲げる事項(その連鎖販売業に係る特定利益に関する事項)につき不実告知をした疑いがあり、その判断をするために必要な場合には、主務大臣が当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対して、期間を定め、告げたことの裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができることとし、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者がその資料を提出しない場合には、行政処分を行うに際して法第 34 条第1項又は第2項に違反して不実告知をしたものとみなすこととする規定である。
また、得られる根拠のない利益を過大に誇張して告げる場合等も本条の対象となる。
(1) 「前条第1項第1号又は第4号に掲げる事項につき」
統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者による不実告知において、告げる以上は当然、合理的な根拠を保持していて然るべき事項(商品の性能・効能、役務の内容・効果、取引により得られる利益等)につき適用することとした。例えば、健康食品を扱う連鎖販売取引においてその健康食品の痩身効果を告げる場合等が該当する。
(2) 「期間を定めて」
「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針―不実勧誘・誇大広告等の規制に関する指針―」に規定されているとおり、資料の提出を求められた日から原則として 15 日間とする。
(3) 「合理的な根拠を示す資料」
①提出資料が客観的に実証された内容のものであること及び②勧誘に際して告げられた性能、効果、利益等と提出資料によって実証された内容が適切に対応していることの双方の要件を満たすことが必要である。
(4) 「第 38 条第1項から第3項まで及び第 39 条第1項の規定の適用については、」
本条は、法第 38 条第1項から第3項までに基づく指示及び法第 39 条第1項に基づく
取引等停止命令に際して適用される。法第 34 条第1項違反行為は、罰則の対象ともなっているが、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の違反状態を「みなす」という本条の効果にも鑑み、罰則については適用されない。
なお、詳しくは「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針―不実勧誘・誇大広告等の規制に関する指針―」を参照のこと。
(連鎖販売取引についての広告)
第 35 条 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、その連鎖販売業に関する次の事項を表示しなければならない。
一 商品又は役務の種類
二 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項
三 その連鎖販売業に係る特定利益について広告をするときは、その計算の方法四 前3号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項
趣 旨
本条は不特定の者に対する広告について規制するものであり、広告には契約締結に至らしめる前段階として取引に対して興味を抱かせる大きな効果があるため、この段階で過大に期待を抱かせることなどを防止するための必要表示事項を規定している。
解 説
1 広告
(1) 本条でいう「広告」には、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等のいわゆるマスメディアを媒体とするものだけでなく、チラシの配布、店頭の表示やダイレクトメール、インターネット上のウェブサイト、電子メール、SNS等において表示される広告も含まれる。本条でいう「広告」は、例えば、「代理店募集説明会開催」等として連鎖販売取引を 行うよう誘引するものをいい、例えば、連鎖販売業において販売する商品を一般個人に対し宣伝する目的で行う広告及び当該企業のイメージ広告等は本条でいう連鎖販売取
引についての広告に該当しない。
(2) 電子メールやインターネット上のバナー等により広告をする場合は、その本文及び本文中でURLを表示することにより紹介しているサイト(リンク先)を一体として広告とみなしている。したがって、電子メール等の本文中ではURLのみ表示している場合であっても、そのリンク先で連鎖販売取引について広告をしていれば、その電子メールは連鎖販売取引についての広告に該当する。また、電子メール等で連鎖販売取引の紹介をする場合、特に表示場所が限定されていない表示事項については、電子メール等の本文、リンク先のいずれに表示してもよい。
(3) なお、連鎖販売取引についての他の規定は、「連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若しくはそのあつせんを店舗等によらないで行う個人」を相手方とするものに適用を限定しているのに対し、本条は、広告の性格上このような限定が不可能であるため、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が連鎖販売取引について広告をするときは、全て本条の適用を受けることとしている。したがって、店舗等によって営業する個人又は法人を対象とすることが明らかである場合であっても本条の適用を免れるものではない。
2 広告における表示事項
広告に表示しなければならない事項については本条及び省令第 25 条で次のように定められている。
(1) 「商品又は役務の種類」
商取引に不慣れな一般個人がいかなる商品、役務であるのかを理解し得る程度に具体的に表示する必要がある。
(2) 「当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項」
特定負担に関する事項については、省令第 26 条第1項で「商品の購入金額若しくは役務の対価の支払の金額又は取引料の金額……を明示しなければならない。」と規定されているので、商品の購入又は役務の対価と取引料の提供とに分けて、それぞれの金額を明示しなければならない。なお、これらの表示については、「明示」しなければならず、はっきりと認識できないような形、例えば、広告の片隅で誰もが見失うような書き方で表示しても、本条でいう「明示」したこととはならない。
(3) 「その連鎖販売業に係る特定利益について広告をするときは、その計算の方法」
この規定は、連鎖販売取引についての広告において、いとも簡単に多額の収入が得られるような誤解を招く広告が見られることに鑑み、特定利益について広告をする場合には、その根拠となる具体的な計算方法の表示を求めるものである。
イ 「連鎖販売業に係る特定利益について広告をする」
「特定利益」についての広告とは、特定利益が得られる旨が分かる表示があるものをいう。
例えば、「年収○百万が可能です。」、「私は月○十万円の収入を得ています。」のように得られる金額を明示したものだけでなく、「簡単で効率的なビジネスの御案内です。」のように、一般個人からみて、収入が得られる取引に関する広告であることが理解できる程度のものであっても、「特定利益」についての広告に当たる。
ロ 「その計算の方法」
「計算の方法」の表示については、省令第 26 条第2項に次のように定められている。
① 商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者に対する商品の販売金額又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあっせんをする他の者に対する役務の対価の支払の金額に対して収受し得る特定利益の金額の割合その他の特定利益の計算の方法の概要を表示すること。
具体的には、特定利益の性質に応じて、取引の相手方がその計算方法を正しく理解できるよう表示しなければならず、例えば、「各販売員に支払う特定利益は、それぞれの者の過去1か月の販売実績の○%」といった計算式を表示しなければならない。
② 前号に掲げるもののほか、特定利益の全部又は一部が支払われないこととなる場合があるときは、その条件を表示すること。
ある一定のノルマを達成しなければ特定利益が支払われないなど、特定利益の支払について特定の条件があるときには、上記の計算方法に加えて、その条件の内容を表示しなければならない。
③ 収受し得る金額その他の特定利益の指標を表示するときは、その指標と同等の水準の特定利益を実際に収受している者が当該連鎖販売業に係る商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする者又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあっせんをする者の多数を占めることを示す数値を表示するなど、特定利益の見込みについて正確に理解できるように、根拠又は説明を表示すること。
例えば、「年収○百万が可能です。」、「私は月○十万円の収入を得ています。」といった表示をする際には、実際に販売員の中で、それと同等以上の額の特定利益を得ている者が多数を占めることなど、事実に基づく根拠を示し、実際以上に高収入が得られるかのような見込みを持たせないようにしなければならない。
(4) 「前3号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項」
省令第 25 条において次のとおり定めている。
① 広告をする統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の氏名又は名称、住所及び電話番号(勧誘者又は一般連鎖販売業者にあっては、その連鎖販売業に係る統括者の氏名又は名称、住所及び電話番号を含む。)
② 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が法人であって、電子情報処理組織を使用する方法により広告をする場合には、当該統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者の代表者又は連鎖販売業に関する業務の責任者の氏名
③ 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が外国法人又は外国に住所を有する個人であって、国内に事務所等を有する場合には、当該事務所等の所在場所及び電話番号
④ 商品名
⑤ 電子メールにより広告をするときは、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の電子メールアドレス
①の「氏名又は名称」については、広告をする者が個人であるときは戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号、法人であるときは登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号、サイト名は認められない。
「住所」については、法人及び個人事業者の別を問わず現に活動している住所(法人 にあっては、通常は登記簿上の住所と同じと思われる。)を正確に表示する必要がある。いわゆるレンタルオフィスやバーチャルオフィスであっても、現に活動している住所 といえる限り、法の要請を満たすと考えられる。また、「電話番号」については、確実 に連絡が取れる番号を表示することを要する。使用されていない電話番号を表示する 場合や発信専用の番号で消費者側から架電しても一切つながらない等のような場合は、確実に連絡が取れる番号とはいえず、使用可能な電話番号を広告上表示している場合 においても、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が意図的に、常に電話を取らない状 態にしている場合等には、確実に連絡が取れる番号を表示していることにはならない。
なお、例えば、広告をする者が法人であって複数の店舗を有する場合、本店の住所及び電話番号に併せて支店の住所及び電話番号を表示することは妨げられない。
なお、広告をする者が勧誘者又は一般連鎖販売業者である場合は、自らの氏名又は名称、住所及び電話番号に加えて、統括者の氏名又は名称、住所及び電話番号を表示しなければならない。
②の「電子情報処理組織を使用する方法」とは、インターネット上のウェブサイト、電子メール等を利用した広告を指すものである。また、「連鎖販売業に関する業務の責任者」とは、連鎖販売業に関する業務の担当役員や担当部長等実務を担当する者の中での責任者を指すものであり、必ずしも代表権を有さなくてもよい。
③の「統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が外国法人又は外国に住所を有する個人であつて、国内に事務所等を有する場合には、当該事務所等の所在場所及び電話番号」については、連鎖販売業を行う外国法人又は外国に住所を有する個人が日本国内に事
務所等を有している場合には、消費者からの問合せ等が容易になるよう、国内事務所等の所在場所及び電話番号についても表示することを義務付けるものである。
なお、「所在場所」とは、省令第 25 条第1号に規定する「住所」と同様、番地等まで正確に表示する必要があり、例えばビルの一室を事務所としている場合には、建物名及び部屋番号も省略せずに表示する必要がある。「電話番号」については前記①同様に、確実に連絡が取れる番号を表示する必要がある。
④の「商品名」とは、他の者の販売する商品と区別するために用いる名称のことで、一般にブランド名と言われるものである(類似したものに商標があるが、商標とは商品に付する標識であって、単なる名称とは異なる。)。商品名は、統括者が付したものである必要はなく、その商品の製造者が付したものであっても、これを記載しなければならない。
3 本条の規定に違反したときは、当該違反行為をした者は、100 万円以下の罰金が科される(法第 72 条第1項第6号)ほか、主務大臣による指示(法第 38 条)や取引等停止命令
(法第 39 条)等の対象となる。
(誇大広告等の禁止)
第 36 条 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について広告をするときは、その連鎖販売業に係る商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の内容、当該連鎖販売取引に伴う特定負担、当該連鎖販売業に係る特定利益その他の主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。
趣 旨
連鎖販売取引における広告も、通信販売と同様、統括者等が一般個人に対して勧誘する際の重要な手段となっており、また、商品の性能・品質、特定負担、特定利益等について誇大な表現を用いた広告がみられるため、虚偽・誇大広告を禁止し、消費者トラブルの未然防止を図るものである。
法制定当初は、専ら口コミで友人や親戚を誘い込むというのが連鎖販売取引の取引実態であったが、その後、個人勧誘員が雑誌やインターネットでの広告を多用して盛んに組織拡張を図る事例が増加したことを踏まえて本条が規定された。
解 説
1 「商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の内容、当該連鎖販売取引に伴う特定負担、当該連鎖販売業に係る特定利益」
トラブル実態に即して例示したものである。例示された事項のうち、「特定負担」と「特定利益」が連鎖販売取引に特有の事項となっている。
2 「その他の主務省令で定める事項」 省令第 27 条で次のように定めている。
① 商品の種類、性能、品質若しくは効能、役務の種類、内容若しくは効果又は権利の種類、内容若しくはその権利に係る役務の種類、内容若しくは効果
「商品の種類」とは、商品の機種等のことである。例えば、既に新型ではなくなっている商品に「最新機種」等の表示を行うことで、取引の相手方に当該商品が最新機種であるかのような誤認をさせるトラブルに対応するためのものである。
「商品の……性能」とは、機械等の性質又は能力のほか商品等の有する安全性も含意する。例えば、国の安全基準を満たす商品であるとして広告上で表示していたにもかかわらず、実際には基準を満たす安全性を有していないような場合も「商品の……性能」について事実に相違する表示又は誤認させるような表示に該当し得る。「品質」とは、品物の性質、しながら(品柄)のことである。また、役務又は権利の「内容」とは、役務又は権利の実質のことであり、それぞれそのもの自身が有する特質のことを意味する。例えば、パソコンの処理能力、健康食品の成分・賞味期限、エステティックにおける具体的施術等がこれに該当する。
一方、「商品の……効能」又は「役務の……効果」とは、商品を使用すること又は役務の提供を受けること等により得られる効き目のことである。例えば、近視眼矯正器による視力回復の程度、ダイエット食品による体重減少の程度、家庭教師による成績の向上等はこれに該当する。
② 商品の原産地若しくは製造地、商標又は製造者名
③ 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項
例えば、入会金1万円のほかに再販売をするためには商品を購入しなければならないにもかかわらず、「このビジネスを始めるために必要な負担は1万円のみで、ほかには一切ない。」といった広告表示は本条に違反することになる。
④ 連鎖販売業に係る特定利益に関する事項
例えば、確実に収入が得られる根拠がないにもかかわらず、「このビジネスに参加すると○○円の月収が得られる。」といった一定額の収入が得られる確率が高いと誤認さ せるような表現の広告表示は本条に違反することになる。また、このような広告表示は、特定利益についての具体的な計算方法を表示していないことから、法第 35 条にも違反 することになる。
⑤ 商品、権利若しくは役務、統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者又は統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者の行う事業についての国、地方公共団体、著名な法人その他の団体又は著名な個人の関与
法令上の権限によるものであるかどうかを問わず、当該商品等への国、地方公共団体
等のかかわりのことであり、例えば、「○○省認定」、「○○省推薦」、「○○県公認」等の表示はこれに該当する。また、商品・権利・役務についての認定等(例えば、「この製品は、○○省認定」等の表示)のほか、事業者についての認定等(例えば、「当社は、
○○省認定事業者」等の表示)、事業についての認定等(例えば、「○○省認定事業」等の表示)が含まれる。
⑥ 連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除に関する事項(法第 40 条第1項から第3項まで及び第 40 条の2第1項から第5項までの規定に関する事項を含む。)
3 「著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」
虚偽・誇大広告の基準として、「事実に相違する」と「実際のものよりも優良・有利であると人を誤認させる」の2点が設けられているが、共に「著しい」場合のみを対象としている。これは、通常の商取引においては取引の相手方を引きつけるためにある程度の誇張がなされ、駆け引きが行われるのが常態であり、取引の相手方の側においても当然に予想し得るところであるので、そのような通常の場合を超えた「著しい」場合のみ適用することとしている。
具体的に何が「著しく」に該当するかの判断は、個々の広告について判断されるべきであるが、例えば、一般個人が広告に書いてあることと事実との相違を知っていれば、当該契約に誘い込まれることはない等の場合は、該当すると考えられる。
また、誇大広告であるかどうかの判断基準は、一般個人から見て誤認するような表示であれば足り、専門的知識を有する者にその基準を求めるものではない。
4 本条に違反して著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良若しくは有利と誤認させるような表示をしたときは、当該違反行為をした者は、100 万円以下の罰金が科される(法第 72 条第1項第1号)ほか、主務大臣による指示(法第 38 条)
や取引等停止命令(法第 39 条)等の対象となる。
(合理的な根拠を示す資料の提出)
第 36 条の2 主務大臣は、前条に規定する表示に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者が当該資料を提出しないときは、第 38 条第1項から第3項まで及び第 39 条第1項の適用については、当該表示は、前条に規定する表示に該当するものとみなす。
趣 旨
連鎖販売取引において、商品・役務の「効能」・「効果」や「取引により得られる利益」等に関して誇大な広告等に起因するトラブルが見受けられたことを踏まえ、迅速な行政処分
を可能とするため本条が規定された。
解 説
本条は、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、法第 36 条の規定に違反して誇大広告等をした疑いがあり、その判断をするために必要な場合には、主務大臣が当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対して、期間を定め、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができることとし、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者がその資料を提出しない場合には、行政処分を行うに際して法第 36 条に違反して誇大広告等をしたものとみなすこととする規定である。
(1) 「前条に規定する表示」
法第 36 条の禁止規定に違反する誇大広告等の表示である。
(2) 「期間を定めて」
「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針―不実勧誘・誇大広告等の規制に関する指針―」に規定されているとおり、資料の提出を求められた日から原則として 15 日間とする。
(3) 「合理的な根拠を示す資料」
①提出資料が客観的に実証された内容のものであること及び②広告において表示された性能、効果、利益等と提出資料によって実証された内容が適切に対応していることの双方の要件を満たすことが必要である。
(4) 「第 38 条第1項から第3項まで及び第 39 条第1項の規定の適用については、」
本条は、法第 38 条第1項から第3項までに基づく指示及び法第 39 条第1項に基づく
取引等停止命令に際して適用される。法第 36 条違反行為は、罰則の対象ともなっているが、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の違反状態を「みなす」という本条の効果にも鑑み、罰則については適用されない。
なお、詳しくは「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針―不実勧誘・誇大広告等の規制に関する指針―」を参照のこと。
(承諾をしていない者に対する電子メール広告の提供の禁止等)
第 36 条の3 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、次に掲げる場合を除き、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について、その相手方となる者の承諾を得ないで電子メール広告をしてはならない。
一 相手方となる者の請求に基づき、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連 鎖販売取引に係る電子メール広告(以下この章において「連鎖販売取引電子メール広告」という。)をするとき。
二 前号に掲げるもののほか、通常連鎖販売取引電子メール広告の提供を受ける者の利益を損なうおそれがないと認められる場合として主務省令で定める場合において、連鎖販売取引電子メール広告をするとき。
2 前項に規定する承諾を得、又は同項第1号に規定する請求を受けた統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、当該連鎖販売取引電子メール広告の相手方から連鎖販売取引電子メール広告の提供を受けない旨の意思の表示を受けたときは、当該相手方に対し、連鎖販売取引電子メール広告をしてはならない。ただし、当該意思の表示を受けた後に再び連鎖販売取引電子メール広告をすることにつき当該相手方から請求を受け、又は当該相手方の承諾を得た場合には、この限りでない。
3 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、連鎖販売取引電子メール広告をするときは、第1項第2号に掲げる場合を除き、当該連鎖販売取引電子メール広告をすることにつきその相手方の承諾を得、又はその相手方から請求を受けたことの記録として主務省令で定めるものを作成し、主務省令で定めるところによりこれを保存しなければならない。
4 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、連鎖販売取引電子メール広告をするときは、第1項第2号に掲げる場合を除き、当該連鎖販売取引電子メール広告に、第 35 条各号に掲げる事項のほか、主務省令で定めるところにより、その相手方が連鎖販売取引電子メール広告の提供を受けない旨の意思の表示をするために必要な事項として主務省令で定めるものを表示しなければならない。
5 前2項の規定は、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が他の者に次に掲げる業務の全てにつき一括して委託しているときは、その委託に係る連鎖販売取引電子メール広告については、適用しない。
一 連鎖販売取引電子メール広告をすることにつきその相手方の承諾を得、又はその相手方から請求を受ける業務
二 第3項に規定する記録を作成し、及び保存する業務
三 前項に規定する連鎖販売取引電子メール広告の提供を受けない旨の意思の表示をするために必要な事項を表示する業務
趣 旨
電子メールによる広告の提供については、その「容易性」や「低廉性」から統括者等が何度もかつ時間に関わりなく送信することが可能という特性があり、相手方の側で開封・廃棄等に時間を浪費させられたり、受信料の負担がかかることもあるなどの問題を有しているほか、広告メールを見て取引に入った消費者がトラブルに巻き込まれる事例も見られた。
このようなトラブルへの実効ある規制として請求や承諾のない電子メール広告を原則禁止(いわゆる「オプトイン規制」)することで、消費者保護を図ることとした。
連鎖販売取引におけるオプトイン規制の骨組みは、通信販売におけるそれと同様に、以下の三つから成っている。
① 相手方から請求や承諾がない限り、原則として連鎖販売取引電子メール広告を行うことはできない(法第 36 条の3第1項)。
② 相手方から請求や承諾があった場合には、当該請求又は承諾があったことの記録とし
て主務省令で定めるものを3年間保存しておかなければならない(法第 36 条の3第3項)
③ 送信する連鎖販売取引電子メール広告には、相手方が連鎖販売取引電子メール広告の提供を受けない旨の意思を表示するための連絡方法を記載し、相手方から拒否の意思表示があった場合には、その相手方に対してその後連鎖販売取引電子メール広告を行ってはならない(法第 36 条の3第2項及び第 36 条の3第4項)。
なお、統括者等が連鎖販売取引電子メール広告に関する一定の業務を他者に一括して委託している場合には、その委託を受けた者(連鎖販売取引電子メール広告受託事業者)が、上記の②(記録保存義務)と③(表示義務等)の義務を負うこととなる。
解 説
本条の解説については、法第 12 条の3の解説を参照されたい。
なお、規制の対象となる「連鎖販売取引電子メール広告」とは、連鎖販売取引を行うよう誘引するものをいう。法第 33 条第1項の定義規定により、連鎖販売取引には、「その取引条件の変更」を含むものである。つまり、一般消費者に対して新たに連鎖販売取引を行うよう誘引する電子メールはもとより、既に連鎖販売取引を行っている者に対して、その取引条件の変更を持ちかけるような電子メールも規制の対象となる。
「取引条件の変更」については、法第 33 条の解説を参照されたい。
第 36 条の4 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者から前条第5項各号に掲げる業務の全てにつき一括して委託を受けた者(以下この章並びに第 66 条第6項及び第 67 条第1項第4号において「連鎖販売取引電子メール広告受託事業者」という。)は、次に掲げる場合を除き、当該業務を委託した統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者(以下この条において「連鎖販売取引電子メール広告委託者」という。)が行うその統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引について、その相手方となる者の承諾を得ないで連鎖販売取引電子メール広告をしてはならない。
一 相手方となる者の請求に基づき、連鎖販売取引電子メール広告委託者に係る連鎖販売取引電子メール広告をするとき。
二 前号に掲げるもののほか、通常連鎖販売取引電子メール広告委託者に係る連鎖販売取引電子メール広告の提供を受ける者の利益を損なうおそれがないと認められる場合として主務省令で定める場合において、連鎖販売取引電子メール広告委託者に係る連鎖販売取引電子メール広告をするとき。
2 前条第2項から第4項までの規定は、連鎖販売取引電子メール広告受託事業者による連鎖販売取引電子メール広告委託者に係る連鎖販売取引電子メール広告について準用する。この場合において、同条第3項及び第4項中「第1項第2号」とあるのは、「次条第
1項第2号」と読み替えるものとする。
趣 旨
統括者等が、電子メールによる広告業務を専門に行う事業者(以下「電子メール広告受託事業者」という。)に委託して電子メール広告をするケースが一般的となっている。この電子メール広告受託事業者が、電子メールによる広告業務について中核的な役割を担っていることを踏まえれば、実質的に統括者等と同等といい得る程度に統括者等の行為を代行する場合には、独立の義務対象として規制体系の中に明確に位置付けることが適切であると考えられたことから、電子メール広告受託事業者を規制対象として規定したものである。解 説
本条は、連鎖販売取引電子メール広告受託事業者(統括者等から法第 36 条の3第5項各号に掲げる業務について一括して委託を受けた者)についての規制内容を規定したものである。どのような者が連鎖販売取引電子メール広告受託事業者に該当するか、また、本条による規制の内容については、法第 12 条の3の解説を参照されたい。
(連鎖販売取引における書面の交付)
第 37 条 連鎖販売業を行う者(連鎖販売業を行う者以外の者がその連鎖販売業に係る連鎖販売取引に伴う特定負担についての契約を締結する者であるときは、その者)は、連鎖販売取引に伴う特定負担をしようとする者(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若しくはそのあつせんを店舗等によらないで行う個人に限る。)とその特定負担についての契約を締結しようとするときは、その契約を締結するまでに、主務省令で定めるところにより、その連鎖販売業の概要について記載した書面をその者に交付しなければならない。
2 連鎖販売業を行う者は、その連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約(以下この章において「連鎖販売契約」という。)を締結した場合において、その連鎖販売契約の相手方がその連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若しくはそのあつせんを店舗等によらないで行う個人であるときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、次の事項についてその連鎖販売契約の内容を明らかにする書面をその者に交付しなければならない。
一 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容に関する事項
二 商品の再販売、受託販売若しくは販売のあつせん又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあつせんについての条件に関する事項
三 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項
四 当該連鎖販売契約の解除に関する事項(第 40 条第1項から第3項まで及び第 40 条の2第1項から第5項までの規定に関する事項を含む。)
五 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項
趣 旨
連鎖販売取引を巡るトラブルの発生原因の一つに、商売の経験に乏しい個人が販売組織や契約内容を熟知しないまま契約を締結してしまうことが挙げられる。また、契約内容が不明確であるために契約の相手方が不利益を被る場合も少なくない。本条は、このような実態に鑑み、商売の経験に乏しい個人を保護するため、特定負担についての契約締結前には連鎖販売業の概要について記載した書面を、連鎖販売取引についての契約締結時には契約の内容を明らかにする書面を、それぞれ交付させることとしたものである。
解 説
1 特定負担についての契約締結前の書面交付(第1項)
第1項は、無店舗個人(法第 34 条の解説1(2)を参照)と特定負担についての契約を締結しようとするときは、契約を締結してその者が一定の義務を負う以前に、連鎖販売業の概要について記載した書面を交付しなければならない旨を規定している。
(1) 「連鎖販売業を行う者以外の者が……特定負担についての契約を締結する者であるときは、その者」
連鎖販売取引に伴う特定負担についての契約は、通常、連鎖販売業を行う者が当事者となるが、連鎖販売業を行う者以外の者が特定負担についての契約を締結する場合は、その者が書面交付義務者となる。例えば、業者TがAを誘引し、T以外のBに対して特定負担を負うことを条件としてTとAが連鎖販売取引を行う場合には、特定負担についての契約を締結するBが、連鎖販売業を行う者でなくとも、書面交付義務者となる。
(2) 「特定負担についての契約」
商品の購入若しくは役務の対価の支払又は取引料の提供を行うことを約する契約のことである。
連鎖販売取引についての契約と、特定負担についての契約が同一である場合には、当該連鎖販売取引についての契約が同時に特定負担についての契約でもある。また、他の契約により又は事実上、特定負担を行うことを前提条件として連鎖販売取引が行われる場合(例えば、加盟員の入会契約とは別に、商品購入契約が行われる場合等)にあっては、連鎖販売取引についての契約とは別に商品の売買若しくは役務の提供又は取引料に該当する金品を提供する旨を約する契約が存することとなり、これが特定負担についての契約になる。
例えば、ある商品を愛用している者で、ビジネスをするために特定負担を伴う新たな加盟契約を結ぶ場合、あるいは組織内の会員の昇進契約等に伴い、特定負担をすることを条件とするものは、法第 33 条第1項にいう取引条件の変更に該当し、連鎖販売取引となるため、本条の第1項及び第2項の書面を再交付することが必要となる。
(3) 「特定負担をしようとする者」
連鎖販売取引についての契約と特定負担についての契約が別々の場合、特定負担をしようとする者であるか否かが明らかでない場合がある。すなわち、新規加盟の場合は
明らかであることが多いが、昇進(法第 33 条第1項にいう「取引条件の変更」であり、連鎖販売取引に該当する。)の場合に不明確なことがある。
例えば、一定額の商品購入が昇進の条件とされているような場合に、連鎖販売業を行う者にとっては販売員の商品購入が昇進のためにされているか又は単なる商品の購入であるのかが、明確でない場合があり得る。このような場合には相手方の意思表示及び商品の購入の行われる状況等から昇進のために商品購入をしようとしていることが明らかなときは本項の書面を交付しなければならない。
なお、書面を交付すべき相手方は、法第 34 条と同じ理由で、無店舗個人に限定されている。
(4) 書面の交付の時期及び方法
書面の交付は、特定負担についての契約の相手方を特定して交渉に入ってから契約を締結するまでの間に行わなければならない。
契約の締結以前に相手方に到達するならば自ら交付しても、第三者をして交付せしめてもよく、また、郵送でも構わない。ただし、本法は、書面と電磁的記録を別個のものとして書き分けているため、電磁的記録は書面に含まれない。記載について、本法は国内法であるため、原則として日本語が基準となるが、当事者が合意した場合、日本語以外の言語を使用することも可能である。
また、書面(本紙)上に記載すべき事項を記載しきれない場合は、例えば「別紙による」旨を記載した上で、記載しきれなかった事項を記載した書面(別紙)を別途交付することが必要である。この場合、当該別紙は、本紙との一体性が明らかとなるよう同時に交付することとする。
(5) 書面の内容
交付する書面には、連鎖販売業の概要を記載しなければならない。これは、連鎖販売業についての記載であり、特定負担又は連鎖販売取引に関する事項のみを記載するのでは足りない。
この書面の記載事項については、省令第 28 条第1項で次の事項を列挙している。
① 統括者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
② 連鎖販売業を行う者が統括者でない場合には、当該連鎖販売業を行う者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
③ 商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。⑤において同じ。)の種類及びその性能若しくは品質に関する重要な事項又は権利若しくは役務
の種類及びこれらの内容に関する重要な事項
④ 商品名
⑤ 商品若しくは権利の販売価格、商品若しくは権利の引渡し若しくは移転の時期及び方法その他の商品若しくは権利の販売条件に関する重要な事項又は役務の対価、役務の提供の時期及び方法その他の役務の提供条件に関する重要な事項
⑥ 連鎖販売業に係る特定利益に関する事項
⑦ 連鎖販売取引に伴う特定負担の内容
⑧ 契約の解除の条件その他の当該連鎖販売業に係る契約に関する重要な事項
⑨ 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
⑩ 法第 34 条に規定する禁止行為に関する事項
(6) (5)の記載事項については、次の点に注意が必要である。
イ 「統括者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名」
「氏名又は名称」については、個人事業者の場合は、戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人にあっては、登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号は認められない。「住所」については、法人及び個人事業者の別を問わず、現に活動している住所(法人にあっては、通常は登記簿上の住所と同じと思われる。)を正確に記述する必要がある。いわゆるレンタルオフィスやバーチャルオフィスであっても、現に活動している住所といえる限り、法の要請を満たすと考えられる。また、「電話番号」については、確実に連絡が取れる番号を記載することを要する。使用されていない電話番号を記載する場合や発信専用の番号で消費者側から架電しても一切つながらない等のような場合は、確実に連絡が取れる番号とはいえず、使用可能な電話番号を記載している場合においても、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が意図的に、常に電話を取らない状態にしている場合等には、確実に連絡が取れる番号を記載していることにはならない。
ロ 「商品……の種類及びその性能若しくは品質に関する重要な事項又は権利若しくは役務の種類及びこれらの内容に関する重要な事項」
「商品……の種類及びその性能若しくは品質に関する重要な事項又は権利若しく は役務の種類及びこれらの内容に関する重要な事項」とは、当該商品の販売等の事業 を開始するに当たって、商品等の価値を判断する要素となる事項である。したがって、
「重要な事項」を記載することで足りるものであり、商品の品目数が少ない場合には全ての商品について性能又は品質を記した書面を交付するべきであるが、多くの商品を取り扱う事業者の場合には、主要な商品に係る情報を記載した書面を交付することがあり得る。この場合においても、契約締結前の説明過程において、全ての商品に係る情報を取引の相手方に提供し、その十分な理解を得るべきことは当然であって、契約時に交付するようなパンフレットを取引の相手方に提示し、十分に説明を行い、その内容について理解を得ることが望ましい。なお、契約書面では、全ての商品に係る情報を記載した書面(多くの商品を扱う事業者の場合、通常、製本したパンフレット)を交付することが求められる。
また、記載すべき事項は商品、権利又は役務によりまちまちであるが、あくまで客観的な事実の記載でなければならず、主観的、瞹眛な記載は本号の記載とみなされない。具体的には、商品の成分、役務を提供する者の資質等を記載することとしている。
ハ 「商品若しくは権利の販売価格、商品若しくは権利の引渡し若しくは移転の時期及び方法その他の商品若しくは権利の販売条件に関する重要な事項又は役務の対価、役務の提供の時期及び方法その他の役務の提供条件に関する重要な事項」
「商品若しくは権利の販売価格」及び「役務の対価」については、連鎖販売業を行う者が取引の相手方から消費税を徴収する場合には、消費税を含んだ価格を意味するものとする。
また、当該連鎖販売業に係る連鎖販売取引が数種類ある場合、それぞれ商品の販売条件等が異なるときは、その全てについて記載しなければならない。
なお、例示された事項以外には、代金の支払方法、再販売に関する取決め、引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の責任に関する特約等が考えられる。
ニ 「連鎖販売業に係る特定利益に関する事項」
特定利益の提供方法等は各組織により多種多様であることからその記載方法についても様々な方法が考えられるが、いずれにせよ、当該連鎖販売業において得られる利益の仕組みについて取引の相手方が理解し得る形で記載する必要がある。例えば、
「販売金額と仕入れ金額の差額のほかボーナスとして月間取扱金額の○%があなたの収入になります。」、「あなたが勧誘した販売員の売上額の○%をバックマージンとして支払います。」、「新規販売員を1人紹介する毎に紹介料として○円を支払います。」などが挙げられる。
ホ 「連鎖販売取引に伴う特定負担の内容」
例えば、特定負担の内容が商品購入の場合は、その数量、金額、取引料については、その性格、金額等を記載することとなるが、ハと同様、連鎖販売取引が数種類あるときは、それぞれについて記載しなければならない。
ヘ 「契約の解除の条件その他の当該連鎖販売業に係る契約に関する重要な事項」
「契約の解除の条件」とは、契約の解除ができる場合及びその契約の解除を行ったときの損害賠償又は違約金についての取決め、商品等を紹介した者からキャンセルがあった場合の手数料の取扱いに関すること等について記載することとなる。
ト 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
割賦販売法第2条第2項に規定するローン提携販売の方法又は同条第3項に規定する包括信用購入あっせん若しくは同条第4項に規定する個別信用購入あっせんに係る提供の方法により商品の販売又は役務の提供を行う場合には、同法第 29 条の4
第2項(同条第3項において準用する場合を含む。)又は同法第 30 条の4(同法第 30
条の5第1項において準用する場合を含む。)若しくは同法第 35 条の3の 19 の規定に基づきローン提携販売業者又は包括信用購入あっせん関係販売業者、個別信用購入あっせん関係販売業者、包括信用購入あっせん関係役務提供事業者若しくは個別信用購入あっせん関係役務提供事業者に対して生じている事由をもって、商品の購
入者又は役務の提供を受ける者はローン提供業者又は包括信用購入あっせん業者若しくは個別信用購入あっせん業者に対抗することができる(いわゆる抗弁権の接続)旨を記載する。
チ 「法第 34 条に規定する禁止行為に関する事項」
契約の締結について勧誘をする際又は解除を妨げるために不実のことを告げること、相手方を威迫し困惑させて契約を締結させたり解除を妨げること等が本法により禁止されている旨を記載する必要がある。具体的には次のような記載例が考えられる。
(記載例)
当該ビジネスを行うに当たっては、相手方に以下の事項を十分説明してください。
① 商品の種類、性能、品質等(又は権利、役務の種類及び内容)について
② 入会金や商品購入等この取引に伴う負担について
③ 契約の解除(クーリング・オフ及び中途解約を含む。)について
④ この取引において得られる利益(販売利益、ボーナス、紹介料等)について
⑤ その他、この取引の相手方の判断に影響を及ぼす重要な事項について
勧誘に際して、又は契約の解除を妨げるために上記の事項について、事実と異なることを告げると特定商取引に関する法律により罰せられます。
また、契約を締結させ、契約解除を妨げるため、相手方を威迫して困惑させること、又は
②に掲げる負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに、公衆の出入りしない場所に誘い込み、相手方が自発的に離脱できない状況で勧誘を行うようなことは、同じく特定商取引に関する法律により罰せられます。
(7) 書面の記載方法
書面の記載方法については、省令第 28 条第2項及び第3項において定められている。本項の書面は、契約の相手方の注意を十分喚起させる必要があるところから書面の
内容を十分に読むべき旨を、赤枠の中に赤字で記載しなければならない。使用する文字及び数字の大きさについても日本産業規格Z8305 に規定する8ポイント以上のものと規定している。
2 連鎖販売取引についての契約締結時の書面交付(第2項)
第2項は、連鎖販売業を行う者に、無店舗個人と連鎖販売契約を締結した場合に、契約内容を明らかにする書面を交付しなければならない旨を規定している。
(1) 「連鎖販売業を行う者」(法第 33 条第1項の解説参照。)
(2) 「遅滞なく」
通常3日ないし4日以内をいうが、契約の締結後できるだけ早い時期が望ましい。 なお、勧誘の際に交付した書面、法第 37 条第1項の書面として交付した書面等は、
たとえ本項の必要記載事項の記載があったとしても、本項の書面の交付とはみなされない。本項の書面の交付は、契約内容を明らかにし、後日契約内容を巡るトラブルが生じることを防止するという趣旨に加えて、法第 40 条第1項の規定を前提に、既に契約をした者にその契約についての熟慮を促すという目的をもつものであるから、前項の書面をもって本項の書面に代えることは許されない。
(3) 書面の内容
イ 交付する書面には、連鎖販売契約の内容を記載しなければならない。前項の書面と異なり、連鎖販売業について包括的に記載することは要せず、当事者の契約の内容について記載すればよい。
記載しなければならない事項として、法律では、「商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の種類及びその性能若しくは品質又は施設を利用し若しくは役務の提供を受ける権利若しくは役務の種類及びこれらの内容に関する事項」、
「商品の再販売、受託販売若しくは販売のあつせん又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあつせんについての条件に関する事項」、「当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項」、「当該連鎖販売契約の解除に関する事項(第 40 条第1項から第
3項まで及び第 40 条の2第1項から第5項までの規定に関する事項を含む。)」、「前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項」が定められている。
「当該連鎖販売契約の解除に関する事項」では、解除の方法・効果、業者側からの解除に関する要件・効果等を記載する。
第5号の省令で定める事項として省令第 29 条で次の八つの事項を定めている。
① 統括者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
② 連鎖販売業を行う者が統括者でない場合には、当該連鎖販売業を行う者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
③ 契約年月日
④ 商標、商号その他特定の表示に関する事項
⑤ 連鎖販売業に係る特定利益に関する事項
⑥ 特定負担以外の義務についての定めがあるときは、その内容
⑦ 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
割賦販売法第2条第2項に規定するローン提携販売の方法又は同条第3項に規定する包括信用購入あっせん若しくは同条第4項に規定する個別信用購入あっせんに係る提供の方法により商品の販売又は役務の提供を行う場合には、同法第 29
条の4第2項(同条第3項において準用する場合を含む。)又は同法第 30 条の4
(同法第 30 条の5第1項において準用する場合を含む。)若しくは同法第 35 条の
3の 19 の規定に基づきローン提携販売業者又は包括信用購入あっせん関係販売業者、個別信用購入あっせん関係販売業者、包括信用購入あっせん関係役務提供事業者若しくは個別信用購入あっせん関係役務提供事業者に対して生じている事由を
もって、商品の購入者又は役務の提供を受ける者はローン提供業者又は包括信用購入あっせん業者若しくは個別信用購入あっせん業者に対抗することができる
(いわゆる抗弁権の接続)旨を記載する。
⑧ 法第 34 条に規定する禁止行為に関する事項
なお、これらの記載事項のうち、次の上欄(左)に掲げる事項については、省令第 30 条第1項によりそれぞれ下欄(右)の内容を記載しなければならないこととされている。
事 項 | 内 容 |
一 商品若しくは権利の再販売、受託販売若しくは販売のあつせん又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあつせんについての条件に関する事項 | イ 商品又は権利の再販売については、購入する商品又は権利の価格、代金の支払の時期及び方法、商品又は権利の引渡し又は移転の時期及び方法その他商品又は権利の再販売について条件のあるときは、その内容 ロ 商品又は権利の受託販売については、委託を受けて販売する商品又は権利の価格、その引渡し又は移転の時期及び方法、受け取つた代金の引渡しの時期及び方法その他商品又は権利の受託販売について条件のあるときは、その内容 ハ 同種役務の提供については、役務の対価、その支払の時期及び方法その他同種役務の提供について条件のあるときは、その内容 ニ 商品若しくは権利の販売のあつせん又は役務の提供のあつせんについては、当該あつせんについて条件のあ るときは、その内容 |
二 当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項 | イ 商品の購入については、その購入先、数量、金額、代金の支払の時期及び方法並びに当該商品の引渡しの時期及び方法 ロ 権利の購入については、その購入先、金額、代金の支払の時期及び方法並びに当該権利の移転の時期及び方法 ハ 役務の対価の支払については、その支払先、金額、対価の支払の時期及び方法並びに当該役務の提供の時期及び方法 ニ 取引料の提供については、その提供先、金額、性格並びに提供の時期及び方法 ホ 取引料のうち返還されるものがあるときは、その返還 |
の条件 | |
三 法第 40 条第1項の規定による当該契約の解除に関する事項(同条第2項及び第3項の規定に関する事項を含む。) | イ 契約書面を受領した日(その契約に係る特定負担が再販売をする商品の購入についてのものである場合において、その契約に基づき購入したその商品につき最初の引渡しを受けた日がその受領した日後であるときは、その引渡しを受けた日)から起算して 20 日を経過するまでは、連鎖販売加入者は、書面又は電磁的記録によりその契約の解除を行うことができること。 ロ イに記載した事項にかかわらず、連鎖販売加入者が、統括者若しくは勧誘者が法第 34 条第1項の規定に違反し若しくは一般連鎖販売業者が同条第2項の規定に違反して法第 40 条第1項の規定による連鎖販売契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより誤認をし、又は統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者が法第 34 条第3項の規定に違反して威迫 したことにより困惑し、これらによつて法第 40 条第1項の規定による当該契約の解除を行わなかつた場合には、その連鎖販売業に係る統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が交付した同項の書面を当該連鎖販売加入者が受領した日から起算して 20 日を経過するまでは、当該連鎖販売加入者は、書面又は電磁的記録により当該契約の解除を行うことができること。 ハ イ又はロの契約の解除があつた場合において、その連鎖販売業を行う者は、連鎖販売加入者に対し、その契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができないこと。 ニ イ又はロの契約の解除は、その契約の解除を行う旨の書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずること。 ホ イ又はロの契約の解除があつた場合において、その契約に係る商品の引渡しが既にされているときは、その引取りに要する費用は、その連鎖販売業を行う者の負担とすること。 ヘ イ又はロの契約の解除があつた場合において、当該契約に係る商品若しくは権利の代金若しくは役務の対価 の支払又は取引料の提供が行われているときは、連鎖販 |
売業を行う者は、連鎖販売加入者に対し、速やかに、そ の全額を返還すること。 | |
四 法第 40 条の2第1項の規定による商品に係る連鎖販売契約の解除に関する事項(同条第2項から第5項までの規定に関する事項を含む。) | イ 契約書面を受領した日(その契約に係る特定負担が再販売をする商品の購入についてのものである場合において、その契約に基づき購入したその商品につき最初の引渡しを受けた日がその受領した日後であるときは、その引渡しを受けた日)から起算して 20 日を経過した後においては、連鎖販売加入者は将来に向かつて連鎖販売契約の解除を行うことができること。 ロ イに記載した事項により連鎖販売契約が解除されたときは、連鎖販売業を行う者は、連鎖販売加入者(当該連鎖販売契約を締結した日から1年を経過していない者に限る。以下この号において同じ。)に対し、契約の締結及び履行のために通常要する費用の額及び次に掲げる額を合算した額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を請求することができないこと。 (1) 当該連鎖販売契約に基づき引渡しがされた当該商品(法第 40 条の2第2項の規定により当該商品に係る商品の販売に係る契約(当該連鎖販売契約のうち当該連鎖販売取引に伴う特定負担に係る商品の販売に係る部分を含む。以下この号において「商品販売契約」という。)が解除されたものを除く。)の販売価格に相当する額 (2) 提供された特定利益その他の金品(法第 40 条の2第2項の規定により解除された当該商品販売契約に係る商品に係るものに限る。)に相当する額 ハ イに記載した事項により連鎖販売契約が解除された場合において、その解除がされる前に、連鎖販売業を行う者が、連鎖販売加入者に対し、既に、連鎖販売業に係る商品の販売等を行つているときは、次に掲げる場合を除き、連鎖販売加入者は商品販売契約の解除を行うことができること。 (1) 当該商品の引渡し(当該商品が施設を利用し又は役務の提供を受ける権利である場合にあつては、その 移転。以下この号において同じ。)を受けた日から起 |
算して 90 日を経過したとき。 (2) 当該商品を再販売したとき。 (3) 当該商品を使用し又はその全部若しくは一部を消費したとき(当該連鎖販売業に係る商品の販売を行つた者が当該連鎖販売加入者に当該商品を使用させ、又はその全部若しくは一部を消費させた場合を除く。)。 (4) 令第 10 条の3で定めるとき。 ニ ハに記載した事項により商品販売契約が解除されたときは、連鎖販売業に係る商品の販売を行つた者は、連鎖販売加入者に対し、次の(1)に該当する場合にあつてはその定める額、又は次の(2)に該当する場合にあつてはその定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を請求することができないこと。 (1) 当該商品が返還された場合又は当該商品販売契約の解除が当該商品の引渡し前である場合 当該商品の販売価格の 10 分の1に相当する額 (2) 当該商品が返還されない場合 当該商品の販売価格に相当する額 ホ ハに記載した事項により商品販売契約が解除されたときは、当該商品に係る一連の連鎖販売業の統括者は、連帯して、その解除によつて生ずる当該商品の販売を行つた者の債務の弁済の責めに任ずること。 ヘ 連鎖販売契約又は商品販売契約の解除について特約 がある場合には、その内容 | |
五 法第 40 条の2第1項の規定による役務に係る連鎖販売契約の解除に関する事項(同条第2項から第5項までの規定に関する事項を含む。) | イ 契約書面を受領した日から起算して 20 日を経過した後においては、連鎖販売加入者は将来に向かつて連鎖販売契約の解除を行うことができること。 ロ イに記載した事項により連鎖販売契約が解除されたときは、連鎖販売業を行う者は、連鎖販売加入者に対し、契約の締結及び履行のために通常要する費用の額及び当該連鎖販売契約に基づき提供された役務の対価に相当する額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を請求することができないこと。 ハ 連鎖販売契約の解除について特約がある場合には、そ |
の内容 | |
六 商標、商号その他特定の表示に関する事項 | イ 使用させる商標、商号その他特定の表示 ロ 当該表示の使用について条件があるときは、その内容ハ 商標、商号その他特定の表示の使用を禁じている場合 は、その旨 |
七 特定利益に関する事項 | イ 商品若しくは権利の再販売、受託販売若しくは販売のあつせんをする他の者に対する商品若しくは権利の販売金額又は同種役務の提供若しくは役務の提供のあつせんをする他の者に対する役務の対価の支払の金額に対して収受し得る特定利益の金額の割合その他の特定利益の計算の方法 ロ イに掲げるもののほか、特定利益の全部又は一部が支払われないこととなる場合があるときは、その条件 ハ イ及びロに掲げるもののほか、特定利益の支払の時期 及び方法その他の特定利益の支払の条件 |
ロ また、第1項の表第1号及び第2号の記載事項については、例えば、商品の再販売の場合には次のような注意が必要である。
① 商品の販売条件に関する事項
ⅰ 「代金の支払の時期及び方法」
「時期」は、売買契約の成立、商品引渡しの時期との関係等について、「方法」は、現金、手形、銀行振込等の支払の方法について記載する。
ⅱ 「商品……の引渡し……の時期及び方法」
「時期」は、売買契約の成立の時期、代金の支払の時期との関係等について、
「方法」は、引渡し場所や運送費の負担等について記載する。
ⅲ 「商品……の再販売について条件のあるときは、その内容」
商品を買い受けた者が、再販売するときの価格、販売先等について拘束するときは、その内容を記載する。
② 「当該連鎖販売取引に伴う特定負担に関する事項」
ⅰ 「商品の購入については、その購入先、数量、金額、代金の支払の時期及び方法並びに当該商品の引渡しの時期及び方法」
「代金の支払の時期及び方法」と「当該商品の引渡しの時期及び方法」については、商品の販売条件に関する事項における記載をもって足りる場合もある(前述①のⅰ及びⅱを参照のこと。)。
ⅱ 「取引料の提供については、その提供先、金額、性格並びに提供の時期及び方法」
「性格」とは、取引料が加盟金、権利金、保証金、登録料、研修費、販売用具代等種々雑多な内容のものを含み得ることを考慮して記載を義務付けたものである。取引料の名義を記載しても、その名義からだけでは性格が明らかでないとき(例えば、「権利金」、「リクルート料」等)は、説明を要する。
ⅲ 「取引料のうち返還されるものがあるときは、その返還の条件」
取引料には、保証金等も含まれるため、一定の条件の下に返還されるものもある。このような場合には、例えば、「契約終了時に債務がなければ返還する。」、
「販売額○○万円を達成すれば返還する。」など、その返還の条件を明示しなければならない。
ハ 法第 37 条第2項第4号の連鎖販売契約の解除に関する事項(省令第 30 条第1項の表第3号、第4号及び第5号の記載事項を含む。)の記載については、次のような注意が必要である。
「連鎖販売契約の解除に関する事項」については、法第 40 条第1項に基づく契約
の解除(クーリング・オフ)、法第 40 条の2第1項に基づく契約の解除(中途解約)及びそれ以外の契約の解除について、その要件、方法等を記載すべきこととされている。
法第 40 条第1項の規定に基づく契約の解除(クーリング・オフ)については、法
第 37 条第2項により、書面の必要的記載事項であり、法第 40 条に規定されている内容を記載することになる。
また、法第 40 条の2第1項の規定に基づく契約の解除(中途解約)についても同
様に、法第 37 条第2項により、書面の必要的記載事項であり、法第 40 条の2第1項から第5項までに規定されている内容を記載することになる。
ニ 第1項の表第6号の記載事項については、次のような注意が必要である。
ⅰ 「使用させる商標、商号その他特定の表示」
商標等の使用を義務付ける場合のほか、使用を認める場合にもその旨を記載する。
なお、「その他特定の表示」とは、商標と類似の標章であるが、商品等に付されるものではないサービスマーク、特別の呼称等のことである。
ⅱ 「当該表示の使用について条件があるときは、その内容」
例えば、使用料を徴収する場合、使用する範囲を限定する場合等が考えられる。ホ 第1項の表第7号の記載事項(「特定利益に関する事項」)については、次のような
注意が必要である。
ⅰ 「特定利益の金額の割合その他の特定利益の計算の方法」
広告の表示事項における「その他の特定利益の計算の方法の概要」とは異なり、契約書面の交付に際しては、概要ではなく全部を記載しなければならない。
ⅱ 「特定利益の全部又は一部が支払われないこととなる場合があるときは、その
条件」
法第 35 条の解説2(3)ロ②を参照。
ⅲ 「特定利益の支払の時期及び方法その他の特定利益の支払の条件」
「支払の条件」とは、各組織により多種多様な条件が考えられるが、例えば、
「新規販売員を○人紹介した場合、○円払います。」などが該当する。
へ 省令第 29 条第6号の「特定負担以外の義務についての定めがあるときは、その内容」の記載については、次のような注意が必要である。
商品若しくは権利の購入、役務の対価の支払又は取引料の提供以外の義務がある場合に記載する必要がある。
例えば、研修会への出席、他の者をリクルートすることが義務付けられている場合等が考えられる。
(4) 記載方法
記載方法は省令第 30 条第2項から第4項までで定められており、この書面には、本条第1項の書面と同様、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載し、日本産業規格Z8305 に規定する8ポイント以上の大きさの文字及び数字を用いなければならない。
また、法第 37 条第2項第4号のうちクーリング・オフに関する事項(省令第 30 条第
1項の表第3号の下欄に掲げる内容)は、赤枠の中に赤字で記載しなければならない。
3 本条の交付義務に違反して、書面を交付せず、又は記載すべき事項が記載されていない書面若しくは虚偽の記載のある書面を交付したときは、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 71 条第1号)ほか、
主務大臣による指示(法第 38 条)や取引等停止命令(法第 39 条)等の対象となる。
(指示等)
第 38 条 主務大臣は、統括者が第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36 条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは前条の規定に違反し若しくは次
に掲げる行為をした場合又は勧誘者が第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第
4項、第 35 条、第 36 条若しくは第 36 条の3(第5項を除く。)の規定に違反し若しくは第2号から第4号までに掲げる行為をした場合において連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その統括者に対し、当該違反又は当該行為の是正のための措置、連鎖販売取引の相手方の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる。
一 その連鎖販売業に係る連鎖販売契約に基づく債務又はその解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること。
二 その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引につき利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してその連鎖販売業に係る連鎖販
売契約(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若し くはそのあつせんを店舗等によらないで行う個人との契約に限る。次号において同じ。)の締結について勧誘をすること。
三 その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結しない旨の意思を表示している者に対し、当該連鎖販売契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘をすること。
四 前3号に掲げるもののほか、その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売契約に関する行為であつて、連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益を害するおそれがあるものとして主務省令で定めるもの
2 主務大臣は、勧誘者が第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36 条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは前条の規定に違反し、又は前項各号に掲げる行為をした場合において連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その勧誘者に対し、当該違反又は当該行為の是正のための措置、連鎖販売取引の相手方の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる。
3 主務大臣は、一般連鎖販売業者が第 33 条の2、第 34 条第2項から第4項まで、第 35
条、第 36 条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは前条の規定に違反し、又は次に掲げる行為をした場合において連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その一般連鎖販売業者に対し、当該違反又は当該行為の是正のための措置、連鎖販売取引の相手方の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる。
一 第1項各号に掲げる行為
二 その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、その連鎖販売業に関する事項であつて、連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げないこと。
4 主務大臣は、連鎖販売取引電子メール広告受託事業者が第 36 条の4第1項又は同条第
2項において準用する第 36 条の3第2項から第4項までの規定に違反した場合において、連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が害されるおそれがあると認める ときは、その連鎖販売取引電子メール広告受託事業者に対し、必要な措置をとるべきこと を指示することができる。
5 主務大臣は、第1項から第3項までの規定による指示をしたときは、その旨を公表しなければならない。
6 主務大臣は、第4項の規定による指示をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
本法の規定に違反する行為は、連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益を害するおそれもある。このような事態を避けるためには所要の対策を講ずる必要があるが、その是正を図らせることで勧誘及び取引を続行することが可能であるならば、取引の相手方にとっても利益となる。本条は、この観点から、主務大臣から統括者ないしは当該行為を行った者に対し、本法の目的に則った必要な措置をとるべき旨を指示することができることを定めるものである。
解 説
1 指示対象者について
本条の指示が行われる場合の違反行為者と指示対象者の関係は、次のとおりである。
(1) 統括者が法第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは第 37 条に違反した場合又は本条第1項各号に掲げる行為をした場合には、統括者に対して指示を行う。
(2) 勧誘者が法第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36条若しくは第 36 条の3(第5項を除く。)に違反した場合又は本条第1項第2号から第
4号までに掲げる行為をした場合には、統括者及び勧誘者に対して指示を行う。
(3) 勧誘者が法第 37 条に違反した場合若しくは本条第1項第1号に掲げる行為をした場合には、勧誘者に対して指示を行う。
(4) 一般連鎖販売業者が法第 33 条の2、第 34 条第2項から第4項まで、第 35 条、第 36条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは第 37 条に違反した場合又は本条第3項各号に掲げる行為をした場合には、その一般連鎖販売業者に対して指示を行う。
勧誘者は統括者が勧誘を行わせる者であるため、勧誘者が違反行為を行った場合であっても、一定の違反行為については統括者及び勧誘者本人の両方に指示を行い得ることとしている。ただし、書面交付違反や債務不履行といった、勧誘者が専ら自己の連鎖販売取引に関して行う行為についてまで統括者に責任を問うことは適当ではないため、これらについては勧誘者本人にのみ指示を行うこととしている。
2 「連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が害されるおそれがあると認めるとき」とは、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者がそれぞれ対象となる規定に違反し、又は本条に掲げる行為をした事実のみならず、それらの行為が本法の保護法益を害するおそれがあると主務大臣が認めるに足りる程度の場合を指す。具体的にいかなる場合がこれに該当するかは、個々の実態に照らして判断することになる。
3 債務不履行(第1項第1号)
(1) 本号は、連鎖販売業を行う者による民事上の債務不履行についての規定である。
(2) 「連鎖販売契約に基づく債務」は、再販売による売買差益や委託、あっせん手数料に相当する金銭の提供が基本的な債務であるが、当事者間で特約が存在すれば、それに基づく債務も含まれる。
「連鎖販売契約……の解除によつて生ずる債務」とは、契約が解除された場合の原状
回復義務等であり、例えば、連鎖販売取引の相手方がクーリング・オフを申し出た場合における受領した金品の返還義務や、脱会時に返還が予定されている保証金の返還義務等である。
(3) 「履行を拒否」は、連鎖販売取引の相手方の請求に対して明示的に拒否する場合のほか、明示的に拒否することはしないまでも、実態上「拒否」と認められる場合(連鎖販売取引の相手方の請求を聞こうとしないなど)も含む。また、拒否は裁判上の意思表示である必要はない。
(4) 「不当に遅延」について、「不当」とあるのは、次の理由による。
イ 同時履行の抗弁権があるなど統括者等に正当事由がある場合もあり得ること。
ロ 解除がなされた時から直ちに本号に該当する状態が発生すると解釈することは現実的でなく、返還すべき金品の調達に要する合理的期間等社会通念上認められた猶予期間の間は、本号には該当しないと解釈することが妥当であること(ただし、この猶予期間は、客観的に判断されるものであって、統括者等の独自の事情のみによって左右されるものではない。)。
4 断定的判断の提供(第1項第2号)
(1) 「その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引につき」
その連鎖販売業を行う者本人の行う連鎖販売取引に関して断定的判断をする場合だけでなく、統括者が統括する一連の連鎖販売業において行われる連鎖販売取引のいずれかについて断定的判断を提供すれば本号に該当する。
(2) 「利益」
必ずしも特定利益に限定されるものではなく、当該連鎖販売業に係る連鎖販売取引に関して生ずる利益一般をいう。
(3) 「誤解させるべき断定的判断を提供」
判断の提供であるから、事実を告げるものは本号の対象とはならない。誤解を生ぜしめるように事実を告げることは法第 34 条第1項若しくは第2項に該当するか否かの問題となる。
(4) 店舗等によらないで営業する個人を相手方とするものに適用を限定していることについては、法第 34 条の解説1(2)を参照されたい。
5 迷惑を覚えさせるような仕方での勧誘(第1項第3号)
「契約を締結しない旨の意思を表示している」とは、明示的に「いらない。」、「やる気はない。」などと告げる場合のみならず、黙示的に契約締結を嫌っていることを示した場合も含むものである。
「迷惑を覚えさせるような仕方」については、法第7条の解説2(5)①を参照されたい。
6 その他省令事項(第1項第4号)
連鎖販売契約に関する行為で連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益を害するおそれがあるものとして、省令第 31 条で次の行為を定めている。
(1) その統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売契約(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあっせん又は役務の提供若しくはそのあっせんを店舗その他これに類似する設備によらないで行う個人との契約に限る。以下この条において「連鎖販売業に係る連鎖販売契約」という。)について迷惑を覚えさせるような仕方で解除を妨げること。
(1)は、本条第1項第3号と同様の仕方で解除を妨げる行為を規定したものである。
(2) 連鎖販売業に係る連鎖販売契約の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売契約の解除を妨げるため、法第 34 条第1項各号に掲げる事項につき、故意に事実を告げないことを唆し、又は不実のことを告げることを唆すこと。
(3) 連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結させ、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売契約の解除を妨げるため、人を威迫して困惑させることを唆すこと。
(2)及び(3)に関して、唆す行為と事実不告知、不実告知、威迫困惑等は時間的に同時又は近接したものであることを要しない。
(4) その連鎖販売業を行う者が法第 37 条に規定する書面を交付しなければならない場合において、その書面を交付しないことを唆し、又は同条に規定する事項が記載されていない書面若しくは虚偽の記載のある書面を交付することを唆すこと。
「その連鎖販売業を行う者」とは、統括者が統括する一連の連鎖販売業を行う者のことである。また、唆す行為と書面の不交付等は時間的に同時又は近接したものであることを要しない。
(5) 若年者、高齢者その他の者の判断力の不足に乗じ、連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結させること。
「若年者、高齢者その他の者」には、未成年者、成年に達したばかりの者、高齢者、精神障害者、知的障害者及び認知障害が認められる者、成年被後見人、被保佐人、被補助人等が該当し得るところ、これらの者に対し、通常の判断力があれば締結しないような、本人にとって利益を害するおそれのあるような契約を締結させることは本号に該当する。なお、一般的に該当し得る者を例示しているが、外形的な要件のみによって判断されるものではなく、上記に限らず該当する場合もある。
(6) 連鎖販売取引の相手方の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行うこと。
取引の相手方の知識、経験及び財産の状況に照らして客観的に見て不適当と認められる勧誘が行われた場合に適用されることとなる。いわゆる適合性原則を定めたものである。具体的には、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が相手方に対して、連鎖販売取引に関する知識や経験の不足につけ込む勧誘や、財産の状況に照らして不相応又は不要な支出を強いる契約の勧誘を行うことは本号に当たる。例えば、大学生に消費者金融業者から借入れをさせてまで連鎖販売取引の勧誘をすることは本号に該当する。
(7) 連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結するに際し、当該契約に係る書面に年齢、職
業その他の事項について虚偽の記載をさせること。
「その他の事項」とは、取引の相手方の信用能力についての情報(持家の有無、勤続年数、収入等)が中心であるが、特にこれに限定するものではない。
(8) 連鎖販売業に係る連鎖販売契約の相手方に当該契約に基づく債務を履行させるため、次に掲げる行為を行うこと。
○ 当該連鎖販売業に係る連鎖販売契約の相手方の年収、預貯金又は借入れの状況その他の支払能力に関する事項について虚偽の申告をさせること。
○ 当該連鎖販売業に係る連鎖販売契約の相手方の意に反して貸金業者の営業所、銀行の支店その他これらに類する場所に連行すること。
○ 当該連鎖販売業に係る連鎖販売契約の相手方に割賦販売法第 35 条の3の3第1項に規定する個別信用購入あっせん関係受領契約若しくは金銭の借入れに係る契約を締結させ、又は預貯金を引き出させるため、迷惑を覚えさせるような仕方でこれを勧誘すること。
「年収、預貯金又は借入れの状況その他の支払能力に関する事項」とは、消費者が連鎖販売業に係る連鎖販売契約の履行に要する金銭を得るための契約を締結する際に、事業者が消費者の支払能力について調査する事項であり、年収、預貯金、借入れの状況のほかに、例えば信用購入あっせんに係る債務の支払の状況なども含まれる。
「その他これらに類する場所」とは、消費者が連鎖販売業に係る連鎖販売契約の履行に要する金銭を得るための契約を締結する営業所等の場所であり、例えばATMなどを指す。
「連行」とは統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が消費者を物理的に連れて行くことを意味しており、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が同行しない場合は対象にはならない。
「迷惑を覚えさせるような仕方」については、第7条の解説2(5)①参照。なお、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が迷惑を覚えさせるような仕方で消費者に対し金銭の借入れ等に関する契約の締結のため貸金業者の支店等に赴くべき旨の勧誘を行う場合は、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者自身が貸金業者の支店等に同行するしないにかかわらず、これに該当することとなる。
(9) 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、電子情報処理組織を使用する方法(電磁的方法を除く。)により電子計算機を用いて送信することにより行われる連鎖販売取引電子メール広告をすることについての承諾を得、又は請求を受ける場合において、顧客の意に反する承諾又は請求が容易に行われないよう、顧客の電子計算機の操作(連鎖販売取引電子メール広告をすることについての承諾又は請求となるものに限る。次号において同じ。)が当該連鎖販売取引電子メール広告を受けることについての承諾又は請求となることを、顧客が当該操作を行う際に容易に認識できるように表示していないこと。
(10) 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、電磁的方法による電磁的記録の送信、書面への記入その他の行為により行われる連鎖販売取引電子メール広告をすることについての承諾を得、又は請求を受ける場合において、当該連鎖販売取引電子メール広告をすることについての承諾を得、又は請求を受けるための表示を行う際に、顧客の意に反する承諾又は請求が容易に行われないよう、顧客の電磁的方法による電磁的記録の送信、書面への記入その他の行為が当該連鎖販売取引電子メール広告を受けることについての承諾又は請求となることを、顧客が容易に認識できるように表示していないこと。
(9)及び(10)は、連鎖販売取引電子メール広告をすることについての承諾を得、又は請 求を受ける際の違反行為について規定したものであるが、(9)はインターネット上のウ ェブサイト等により承諾の取得等を行う場合を、(10)は電子メールや書面等により承諾 の取得等を行う場合をそれぞれ規定している。省令第 31 条第9号及び第 10 号の当該 連鎖販売取引電子メール広告を受けることについての承諾又は請求となることを、顧 客が「容易に認識できるように表示」の解釈について、どのような表示を行うことが「容 易に認識できる(できない)」表示に該当するかの具体例については、「電子メール広告 をすることの承諾・請求の取得等に係る『容易に認識できるように表示していないこと』に係るガイドライン」を参照されたい。
(11) 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、法第 36 条の4第1項及び同条第2項で準用する法第 36 条の3第2項から第4項までの規定のいずれかに違反する行為を行っている者に、法第 36 条の3第5項各号に掲げる業務の全てにつき一括して委託すること。
統括者等が法第 36 条の3第5項各号に掲げる業務の全てを一括して委託する際に、
法第 36 条の4各項に違反する行為を行っている者に対して委託することを指示の対象としたものである。
7 第3項第2号は主務大臣による一般連鎖販売業への指示対象行為に、一般連鎖販売業者が「その統括者が統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の締結について勧誘をするに際し、又はその連鎖販売業に係る連鎖販売取引についての契約の解除を妨げるため、その連鎖販売業に関する事項であつて、連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げないこと」を規定したものである。対象となる「(連鎖販売取引の相手方の)判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」の範囲は、勧誘及び申込みの撤回等のいずれの場面においても同一である。
8 「当該違反又は当該行為の是正のための措置、連鎖販売取引の相手方の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる」
主務大臣が統括者等に対し、違法状態又は不当な状態を改善させたり、消費者利益の保護を図るために必要な措置を具体的に指示して行わせるものである。
「当該違反又は当該行為の是正のための措置」とは、例えば、統括者がその統括者の統
括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結しない旨の意思を表示している者に対し、当該連鎖販売契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘していると認められる場合など、統括者等について認定された具体的違反行為について、違反行為を今後繰り返さないために当該違反に係る規制の遵守を求め、改善のための取組等について報告をさせること等である。
「連鎖販売取引の相手方の利益の保護を図るための措置」とは、例えば、統括者が勧誘 の際に不実告知を行っていた場合に、連鎖販売取引の相手方の誤認を排除するため当該 告知が事実に反していた旨の通知(例:確実に収入が得られる保証がないにもかかわらず、
「このビジネスに参加すると誰でも確実に7桁の月収が得られる。」と告げており、当該統括者の不実告知を認定した場合に、連鎖販売取引の相手方に対し「告げていたような収入の保証はない。」旨の通知)をさせること等である。
上記は主務大臣が指示できる事項の例示であり、これら以外の措置についても、その必要性が認められる限り指示を行うことができるという旨を明らかにするために、「その他の必要な措置」と規定している。
9 なお、主務大臣が本条第1項から第4項までの規定による指示をしたときは、その旨を公表することが義務付けられている(第5項及び第6項)。
10 本条第1項から第4項の規定による指示に違反したとき、当該違反行為をした者は、6月以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 71 条第2号)ほか、取引等停止命令(法第 39 条)等の対象となる。
(統括者等に対する連鎖販売取引の停止等)
第 39 条 主務大臣は、統括者が第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36 条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは第 37 条の規定に違反し若しく
は前条第1項各号に掲げる行為をした場合若しくは勧誘者が第 33 条の2、第 34 条第1
項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36 条若しくは第 36 条の3(第5項を除く。)の 規定に違反し若しくは前条第1項第2号から第4号までに掲げる行為をした場合におい て連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがある と認めるとき、又は統括者が同項の規定による指示に従わないときは、その統括者に対し、
2年以内の期間を限り、当該連鎖販売業に係る連鎖販売取引について勧誘を行い若しくは勧誘者に行わせることを停止し、又はその行う連鎖販売取引の全部若しくは一部を停止すべきことを命ずることができる。この場合において、主務大臣は、その統括者が個人である場合にあつては、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を併せて命ずることができる。
2 主務大臣は、勧誘者が第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36 条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは第 37 条の規定に違反し若しくは前条第
1項各号に掲げる行為をした場合において連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は勧誘者が同条第2項の規定による指示に従わないときは、その勧誘者に対し、2年以内の期間を限り、当該連鎮販売業に係る連鎖販売取引について勧誘を行うことを停止し、又はその行う連鎖販売取引の全部若しくは一部を停止すべきことを命ずることができる。この場合において、主務大臣は、その勧誘者が個人である場合にあつては、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を併せて命ずることができる。
3 主務大臣は、一般連鎖販売業者が第 33 条の2、第 34 条第2項から第4項まで、第 35
条、第 36 条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは第 37 条の規定に違反し若しくは前条第3項各号に掲げる行為をした場合において連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は一般連鎖販売業者が同項の規定による指示に従わないときは、その一般連鎖販売業者に対し、2年以内の期間を限り、当該連鎖販売業に係る連鎖販売取引について勧誘を行うことを停止し、又はその行う連鎖販売取引の全部若しくは一部を停止すべきことを命ずることができる。この場合において、主務大臣は、その一般連鎖販売業者が個人である場合にあつては、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を併せて命ずることができる。
4 主務大臣は、第1項前段、第2項前段及び前項前段の規定によりその行う連鎖販売取引 の停止を命ずる場合において、当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者が個人 であり、かつ、その特定関係法人(統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者又はその役 員若しくはその使用人(当該命令の日前1年以内において役員又は使用人であつた者を 含む。次条第4項において同じ。)が事業経営を実質的に支配する法人その他の政令で定 める法人をいう。以下この項及び同条第4項第1号において同じ。)において、当該停止 を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務と同一の業務を行つていると認められるときは、当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者に対して、当該停止を命ずる期間と同 一の期間を定めて、その特定関係法人で行つている当該同一の業務を停止すべきことを 命ずることができる。
5 主務大臣は、連鎖販売取引電子メール広告受託事業者が第 36 条の4第1項若しくは同条第2項において準用する第 36 条の3第2項から第4項までの規定に違反した場合において連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は連鎖販売取引電子メール広告受託事業者が前条第4項の規定による指示に従わないときは、その連鎖販売取引電子メール広告受託事業者に対し、一年以内の期間を限り、連鎖販売取引電子メール広告に関する業務の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる。
6 主務大臣は、第1項から第4項までの規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
7 主務大臣は、第5項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
連鎖販売取引をめぐり違法行為等が行われた場合、その行為は罰則の対象となる場合もあるが、悪質な統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者を放置しておくことは被害の拡大を招くものである。このため、主務大臣はこのような統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者を名宛人として、不当な勧誘又は連鎖販売取引自体を停止させる取引等停止命令を発することができることとするとともに、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が個人事業者である場合には、停止命令の範囲の取引に係る業務を営む法人の担当役員等となることを禁止する業務禁止命令を発することができることとしている。さらに、取引等停止命令等の実効性を確保するため、取引等停止命令を受ける統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が個人事業者である場合に、特定関係法人において、当該停止を命ずる範囲の取引に係る業務と同一の業務を行っていると認められるときは、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その特定関係法人で行っている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができることも規定している。
解 説
1 本条の取引等停止命令が行われる場合の違反行為者と命令対象者の関係は次のとおりである。
統括者が法第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36 条、
第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは第 37 条に違反した場合、前条第1項各号に掲げ る行為をした場合又は前条の指示に従わなかった場合には、統括者に対して命令を行う。勧誘者が法第 33 条の2、第 34 条第1項、第3項若しくは第4項、第 35 条、第 36 条若
しくは第 36 条の3(第5項を除く。)に違反した場合又は前条第1項第2号から第4号までに掲げる行為をした場合には、統括者及び勧誘者に対して命令を行う。
勧誘者が法第 37 条に違反した場合若しくは前条第1項第1号に掲げる行為をした場合又は前条の指示に従わなかった場合には、勧誘者に対して命令を行う。
一般連鎖販売業者が法第 33 条の2、第 34 条第2項から第4項まで、第 35 条、第 36
条、第 36 条の3(第5項を除く。)若しくは第 37 条に違反した場合、前条第3項各号に掲げる行為をした場合又は前条の指示に従わなかった場合には、その一般連鎖販売業者に対して命令を行う。
2 法第 38 条第1項から第4項までに規定する「害されるおそれがあると認めるとき」(指示のみが行われる場合)と本条第1項前段、第2項前段、第3項前段及び第5項に規定する「著しく害されるおそれがあると認めるとき」(統括者等に対する取引等停止命令等が行われる場合)の違いについては、当該違反行為の個々の実態に即して、取引の公正及び
連鎖販売取引の相手方の利益の保護を図るために取引等を停止させるまでに至らずとも必要な措置をとることで改善されると判断できる場合と、取引等停止命令を発動しなければ実態が改善されないと判断される場合との違いである。なお、当然のことながら、取引等停止命令を行う場合において、併せて法違反又は不当な状態の改善等のための措置を指示することも可能である。
3 取引等停止命令の内容
第1項前段、第2項前段及び第3項前段の取引等停止命令の内容は、勧誘の停止又は連鎖販売取引の全部又は一部の停止である。
勧誘の停止は、一連の連鎖販売業に係る連鎖販売取引に数種又は複数ある場合には、適正を欠く勧誘が行われた取引のみでなく、全ての連鎖販売取引について行うことができる。
なお、これについては全部又は一部の停止であるので、数種又は複数の連鎖販売取引を行っている場合は、その一部の停止を命ずることもできる。
4 取引等停止命令の実効性をより高めるため、取引等停止命令の対象となる統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が個人である場合は、取引等停止命令と併せて業務禁止命令を発出することができる(本条第1項後段、第2項後段及び第3項後段)。業務禁止命令は、後述(法第 39 条の2)のとおり、①取引等停止命令を受けた範囲の取引に係る業務を新たに開始すること、②同種業務を行う法人の役員となることを禁止するものであるが、個人事業者の場合、取引等停止命令によって当該個人事業者は新たに業務を開始することは禁止されることとなり、①の内容について改めて規定する必要はないことから、②の内容のみを規定している(法人の役員等又は個人事業者の使用人に対する業務禁止命令については法第 39 条の2の解説1を参照のこと。)。
5 個人事業者である統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対する業務禁止命令に係る条文の解釈は以下のとおり。
(1) 「この場合において」
統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対する取引等停止命令を発出する場合においての意である。取引等停止命令の発出がされない場合に業務禁止命令のみを発出することはできない。
(2) 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」
業務禁止命令は、取引等停止命令と同一の期間を定めて発出される。これは単に期間の長さが一致しているというだけでなく、通常、始期と終期についても一致することとなる。そのため、例えば取引等停止命令を発出し、その期間が明けた後に業務禁止命令を発出することはできない。
(3) 「当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止」
「当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務」とは、取引等停止命令によって
停止が命じられる範囲の取引に係る業務であり、その範囲内において業務禁止を命ずることができる。例えば、連鎖販売取引に係る勧誘に関する業務について取引等停止命令が発出されている場合には、業務禁止命令の内容としては、連鎖販売取引に係る勧誘に関する業務を営む法人において、連鎖販売取引に係る勧誘に関する業務を担当する役員となることを禁止する等ということになる。
(4) 「法人」
法第8条第1項後段に規定する「法人」と同様に、いわゆる人格のない社団における役員に相当する者になることについても禁止している。
(5) 「当該業務を担当する役員」
法第8条第1項後段に規定する「役員」と同様に、「業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者」になることも禁止している。
6 第4項は、取引等停止命令を受ける統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が個人事業者である場合に、取引等停止命令の時点で既に、特定関係法人において、当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務と同一の業務を行っていると認められるときは、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その特定関係法人において行っている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができることを規定している。
(1) 「特定関係法人」
「特定関係法人」とは、統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者又はその役員若し くはその使用人(当該命令の日前1年以内において役員又は使用人であった者を含む。)が事業経営を実質的に支配する法人その他の政令で定める法人をいう。具体的には、 政令第 10 条の2において読み替えて準用する政令第3条の4の規定に基づく省令第
7条の3の準用及び読替え規定(省令第 31 条の2)により、以下の法人が該当することとなる。
① 統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が個人である場合においては、次に掲げる法人
イ 当該統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者又はその使用人が代表権を有する役員である法人
ロ 当該統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者又はその使用人がその総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)又は総社員の議決権の 100 分の 20 以上 100 分の 50 以下の議決権を保有する会社その他の法人(外国におけるこれらに相当するものを含む。省令第7条の3において「会社等」という。)
ハ 当該統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者又はその使用人がその総株主又は総社員の議決権の 100 分の 50 を超える議決権を保有する会社等(当該会社等の子会社等及び関連会社等を含む。)
② 上記のほか、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の業務の一部又は当該業務に関連する事業を行っている法人であって、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、当該法人の財務及び営業又は事業の方針の決定を支配しているもの又は当該方針の決定に対して重要な影響を与えることができるもの
(注) 「使用人」については、法第8条の解説5(1)の注釈を参照。
(2) 「当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務と同一の業務を行つていると認められるとき」
「当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務」とは、取引等停止命令によって 停止が命じられる取引に係る業務であり、「同一の業務を行つていると認められるとき」とは、取引等停止命令前から別法人において既に停止を命じられる範囲の取引に係る 業務と同一の業務を開始している場合の意である。
(3) 「当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者に対して」
本条第4項に基づき業務の停止を命ぜられる名宛人は、同条第1項前段、第2項前段又は第3項前段の取引等停止命令を受ける統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者である個人となる(特定関係法人が名宛人となるわけではない。)。すなわち、特定関係法人で行われている業務のうち、同条第1項前段、第2項前段又は第3項前段の取引等停止命令を受ける統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者である個人が当該特定関係法人で行っている業務の範囲で、同条第4項による業務の停止を命ずることができる。
(4) 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」解説5(2)を参照。
(5) 「その特定関係法人で行つている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができる。」
統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対する取引等停止命令前から、(1)に記載した特定関係法人において既に行っている業務であって、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対する取引等停止命令によって停止が命じられる取引に係る業務と同一の業務を停止すべきことを命ずることができるの意である。
なお、業務(取引等)停止命令と業務禁止命令の用語の使い分けについては、既に行っている業務を止めさせることを「業務(取引等)の停止」とし、新たに業務を行ってはならないとすることを「業務の禁止」としている。
7 第5項は、連鎖販売取引電子メール広告受託事業者が業務停止命令の対象となる行為について規定したものである。
8 第6項及び第7項は、主務大臣が本条第1項から第5項までの命令をしたときは、その
旨の公表を義務付けるものである。これは、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の名称等を広く消費者に知らしめて被害の拡大防止を図るとともに、他の事業者が、事情を知らずに、業務禁止を命じられた者に対し業務禁止を命じられた範囲の業務を行わせてしまうことや当該業務の担当役員に就任させてしまうことを防止するためのものである。
9 本条第1項から第5項までの命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 70 条第3号)。
(役員等に対する業務の禁止等)
第 39 条の2 主務大臣は、統括者に対して前条第1項前段の規定によりその行う連鎖販売取引の停止を命ずる場合において、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による連鎖販売取引に係る業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者に該当するときは、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)の禁止を命ずることができる。
一 当該統括者が法人である場合 その役員及び当該命令の日前1年以内においてその役員であつた者並びにその使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
二 当該統括者が個人である場合 その使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
2 主務大臣は、勧誘者に対して前条第2項前段の規定によりその行う連鎖販売取引の停止を命ずる場合において、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による連鎖販売取引に係る業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者に該当するときは、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)の禁止を命ずることができる。
一 当該勧誘者が法人である場合 その役員及び当該命令の日前1年以内においてその役員であつた者並びにその使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
二 当該勧誘者が個人である場合 その使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
3 主務大臣は、一般連鎖販売業者に対して前条第3項前段の規定によりその行う連鎖販売取引の停止を命ずる場合において、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定
める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による連鎖販売取引に係る業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者に該当するときは、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)の禁止を命ずることができる。
一 当該一般連鎖販売業者が法人である場合 その役員及び当該命令の日前1年以内においてその役員であつた者並びにその使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
二 当該一般連鎖販売業者が個人である場合 その使用人及び当該命令の日前1年以内においてその使用人であつた者
4 主務大臣は、前3項の規定により業務の禁止を命ずる役員又は使用人が、次の各号に掲げる者に該当するときは、当該役員又は当該使用人に対して、当該禁止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その行つている当該各号に規定する同一の業務を停止すべきことを命ずることができる。
一 当該命令の理由となつた行為をしたと認められる統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の特定関係法人において、当該命令により禁止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務と同一の業務を行つていると認められる者
二 自ら統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者として当該命令により禁止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務と同一の業務を行つていると認められる者
5 主務大臣は、前各項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
本条においては、連鎖販売取引を行う統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が法人である場合のその役員等及び個人事業者である場合の使用人に対する業務禁止命令等について規定している。
解 説
1 本条第1項から第3項までは、法第 39 条第1項前段、第2項前段又は第3項前段の取引等停止命令と同時に、処分を受けた法人の役員等に対し、新たに業務を開始すること等を禁止し、取引等停止命令が実質的に遵守されるようにするものであり、条文の解釈は以下のとおりである。
(1) 「前条第1項前段(第2項前段/第3項前段)の規定によりその行う連鎖販売取引の停止を命ずる場合において」
法第 39 条第1項後段(第2項後段/第3項後段)と同様に、取引等停止命令を発出する場合においての意である。
(2) 「当該各号に定める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者
が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による連鎖販売取引に係る業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者」
取引等停止命令を受けた法人の役員について、役員であることをもって一律に同種の業務を行う他の法人の役員となること等を禁止することとした場合、問題となった違反行為について責任の軽い者が業務禁止命令の対象となり得ることとなるため、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対する取引等停止命令を発出する事案ごとに業務禁止命令の対象となる者を特定すべく、主務省令で定める者に該当する場合に限って業務禁止命令の対象となることとしている。こうした者について、省令第 31 条の3
において、「法第 39 条第1項前段(第2項前段/第3項前段)の規定により停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしている者」と規定している。
なお、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が個人である場合において業務禁止命令が行われる場合(法第 39 条第1項後段、第2項後段、第3項後段)においては、当該個人が停止を命じられた業務の遂行に主導的な役割を果たしその責任を負うことは明らかであることから、このような要件は規定されていない。
(3) 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」法第 39 条の解説5(2)を参照。
(4) 「当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)」
「当該停止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務」については法第 39 条の解説5
(3)を参照。
例えば連鎖販売取引に係る勧誘に関する業務について取引等停止命令が発出されている場合には、業務禁止が命じられる内容としては、法人を新たに設立し、当該法人において連鎖販売取引に係る勧誘に関する業務を開始する(連鎖販売取引に係る勧誘に関する業務を担当する役員となることを含む。)ことを禁止する等となる。なお、「役員」については法第 39 条の解説5(5)を参照。
(5) 「当該統括者(勧誘者/一般連鎖販売業者)が法人である場合」
法第8条第1項後段で定義している「法人」が該当し、人格のない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。
(6) 「当該命令の日前1年以内においてその役員であつた者」
「役員」とは法第8条第1項後段において定義されている「役員」である。これは、実質的に支配力を有している者も含まれることから、例えば形式的に取締役の立場から退任しながらも実質的にはそれ以後も連鎖販売取引に関する営業活動の具体的な指示を引き続き行っていたような者は、退任の日が当該命令の日前1年以内であったか否かを問うまでもなく、当該命令の日においても「役員」に該当するものと評価されることになる。
(7) 「使用人」
「使用人」の定義は第8条第2項で規定されており、「その営業所の業務を統括する者その他の政令で定める使用人」である。これは、役員には該当しないものの、これに準ずるような役割を果たす立場にある使用人は法人の業務の中核を担っているものと評価されることから、そのような従業員についても、業務禁止命令の対象となり得ることを規定したものである。具体的には法第8条の解説5(1)の注釈を参照。
2 前条第1項後段、第2項後段及び第3項後段並びに本条第1項から第3項までによる業務禁止命令についてまとめると、以下のとおりとなる。
① 取引等停止命令が法人に対して行われた場合は、当該法人の役員若しくは使用人又は当該命令以前1年以内にこれらの立場にあった者であって、かつ、停止を命じられた業務に主導的な役割を果たしている者に対し、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて当該停止を命ずる範囲の取引に係る業務を新たに開始すること及び当該業務を営む法人の担当する役員となることの禁止を命令できる。
② 個人である統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に対して取引等の停止を命ずる場合は、
イ 当該個人に対し、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて当該停止を命ずる範囲の取引に係る業務を営む法人の担当する役員となることの禁止を命令できるほか、
ロ 当該個人の使用人又は当該命令以前1年以内に使用人であった者であって停止を命じられた業務に主導的な役割を果たしている者に対し、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて当該停止を命ずる範囲の取引に係る業務を新たに開始すること及び当該業務を営む法人の担当する役員となることの禁止を命令できる。
3 第4項は、第1項から第3項までの規定により業務禁止命令を受ける役員又は使用人が、業務禁止命令の時点で既に、特定関係法人において又は自ら統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者として、当該停止を命ずる範囲の業務と同一の業務を行っていると認められるときは、当該役員又は当該使用人に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、その特定関係法人において又は自ら統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者として行っている当該同一の業務を停止すべきことを命ずることができることを規定している。
(1) 「特定関係法人」
本項における特定関係法人は統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が個人である場合、法人である場合の双方があり得るため、法第 39 条の解説6(1)で挙げたものに加えて、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が法人である場合においては以下の法人も特定関係法人に含まれる(省令第7条の3第1項第2号の準用及び読替え(省令第 31 条の2))。
イ 当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の子会社等、当該統括者、勧誘者又は一
般連鎖販売業者を子会社等とする親会社等、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業 者を子会社等とする親会社等の子会社等(当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の子会社等及び当該統括者、勧誘者又は一 般連鎖販売業者を子会社等とする親会社等を除く。)及び当該統括者、勧誘者又は一 般連鎖販売業者の関連会社等
ロ 当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の役員(施行令第3条の4の役員をいう。ハ及びニにおいて同じ。)又はその使用人が代表権を有する役員である法人
ハ 当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の役員又はその使用人がその総株主又は総社員の議決権の 100 分の 20 以上 100 分の 50 以下の議決権を保有する会社等
ニ 当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の役員又はその使用人がその総株主又は総社員の議決権の 100 分の 50 を超える議決権を保有する会社等(当該会社等の子会社等及び関連会社等を含む。)
(注) 「親会社等」、「子会社等」、「関連会社等」については、法第8条の2の解説3
(1)の注釈を参照のこと。
(2) 「当該役員又は当該使用人に対して」
本条第4項に基づき業務の停止を命ぜられる名宛人は、同条第1項から第3項までの業務禁止命令を受ける個人(すなわち、法第 39 条第1項前段、第2項前段又は第3項前段に基づく取引等停止命令を受ける統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の役員又は使用人)となる(本条第4項第1号も、特定関係法人が名宛人となるわけではない。)。
(3) 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」法第 39 条の解説5(2)を参照。
(4) 「当該各号に規定する同一の業務を停止すべきことを命ずることができる。」
各号においては、「当該命令により禁止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務と同一の業務を行つていると認められる者」とあるところ、「当該命令により禁止を命ずる範囲の連鎖販売取引に係る業務」とは、業務禁止命令によって禁止が命じられる業務であり、「同一の業務を行つていると認められる」とは、業務禁止命令前から別法人(特定関係法人)において又は自ら統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者として、禁止を命じられる範囲の業務と同一の業務を既に開始している場合の意である。この場合においては、既に開始している当該同一の業務についても停止を命ずることができる。
4 第5項は、主務大臣が第1項から第4項までの命令をしたときは、その旨の公表を義務付けるものである。(法第 39 条の解説8を参照のこと。)。
5 本条第1項から第4項までの命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 70 条第3号)。
(連鎖販売契約の解除等)
第 40条 連鎖販売業を行う者がその連鎖販売業に係る連鎖販売契約を締結した場合におけるその連鎖販売契約の相手方(その連鎖販売業に係る商品の販売若しくはそのあつせん又は役務の提供若しくはそのあつせんを店舗等によらないで行う個人に限る。以下この章において「連鎖販売加入者」という。)は、第 37 条第2項の書面を受領した日(その連鎖販売契約に係る特定負担が再販売をする商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。以下この項において同じ。)の購入についてのものである場合において、その連鎖販売契約に基づき購入したその商品につき最初の引渡しを受けた日がその受領した日後であるときは、その引渡しを受けた日。次条第1項において同じ。)から起算して 20 日を経過したとき(連鎖販売加入者が、統括者若しくは勧誘者が第 34 条第1項の規定に違反し若しくは一般連鎖販売業者が同条第2項の規定に違反してこの項の規定による連鎖販売契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者が同条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでにこの項の規定による連鎖販売契約の解除を行わなかつた場合には、当該連鎖販売加入者が、その連鎖販売業に係る統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が主務省令で定めるところによりこの項の規定による当該連鎖販売契約の解除を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して 20 日を経過したとき)を除き、書面又は電磁的記録によりその連鎖販売契約の解除を行うことができる。この場合において、その連鎖販売業を行う者は、その連鎖販売契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
2 前項の連鎖販売契約の解除は、その連鎖販売契約の解除を行う旨の書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。
3 第1項の連鎖販売契約の解除があつた場合において、その連鎖販売契約に係る商品の引渡しが既にされているときは、その引取りに要する費用は、その連鎖販売業を行う者の負担とする。
4 前3項の規定に反する特約でその連鎖販売加入者に不利なものは、無効とする。
趣 旨
連鎖販売取引においては、組織、契約内容が複雑なこと、勧誘に当たり巧みな言葉で必ず利益が上がると信じ込まされてしまうこと等により、商取引に不慣れな個人が契約内容を理解しないまま一時的な興奮に駆られて契約し、後日トラブルを生じたり、思わぬ損失を被る場合が少なくない。本条は、このような被害を防止し、商取引に不慣れな個人の保護を図るため、いわゆるクーリング・オフ制度を導入し、契約の締結後一定期間内は無条件で契約の解除を行うことができることとしたものである。
なお、商取引に不慣れな一般消費者が実際に販売活動等を試み当該事業を続けるか否かについて冷静に判断するにはある程度期間を必要とすること、他方、あまりに長期間とする
と取引の安定性を欠くこととなること等の点を踏まえ、期間は 20 日間としている。
解 説
1 第1項は、無店舗個人が連鎖販売契約を締結した場合は、契約締結後一定期間内は契約の解除を行うことができる旨を規定している。
(1) クーリング・オフ期間の起算日
イ クーリング・オフをすることができなくなるまでの期間の起算日は、原則として、
「第 37 条第2項の書面を受領した日」である。したがって、連鎖販売業を行う者が
法第 37 条第2項の書面を交付しなかった場合はもとより、クーリング・オフができる旨が記載されていない等、書面に重要な事項が記載されていない場合、クーリング・オフをすることができなくなるまでの 20 日間の起算日が到来せず、クーリング・オフできる期間が継続することになる(すなわち、クーリング・オフをする権利が消費者側に留保されていることとなる。)。
法第 37 条第2項により、連鎖販売業を行う者は、無店舗個人と連鎖販売契約を締結したときは、遅滞なく、契約の内容を明らかにする書面を交付すべきこととされているが、この書面に、本条第1項から第3項までの規定に関する事項を記載しなければならない(法第 37 条第2項第4号)。記載方法については、法第 37 条の解説2(4)を参照のこと。
ロ ただし、以上の原則の例外として、「その連鎖販売契約に係る特定負担が再販売をする商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。……)の購入についてのものである場合において、……その引渡しを受けた日」が定められている。
すなわち、商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の再販売をする者との連鎖販売取引において条件とされる特定負担が、当該商品の購入である場合又は取引料の提供と当該商品の購入双方である場合には、この例外規定が適用される。
商品(施設を利用し及び役務の提供を受ける権利を除く。)の再販売をする者との連鎖販売取引に伴う特定負担についてのみ例外を設けたのは、商品の購入を伴う連鎖販売取引については、大量の在庫を抱え込む被害が生じたことから、商品在庫を現実に見て、自分が売りさばけそうかどうかを冷静に判断させることに意義があったのに対し、これ以外の場合については、大量の在庫を抱え込むといった被害はほとんどなく、また、権利、役務が無体物であるため現実の引渡し(提供)により取引の妥当性について再考を促すといった効果も期待しにくいことから、同様の規定を設ける実効性が乏しいためである。
商品の引渡しを受けた日が契約内容を明らかにする書面の交付の日よりも後である場合には、書面が交付されても 20 日間の期間は進行せず、商品の引渡しを受けた日から進行することとなる。なお、特定負担が、商品の購入と取引料の提供双方である場合は、取引料を支払った日がいつであるかにかかわらず、特定負担として購入し
た商品の最初の引渡しを受けた日と契約内容を明らかにする書面の交付された日との、いずれか遅い方の日が起算日となる。「再販売をする商品」とは、再販売をする者が取り扱う商品を意味しており、再販売用に購入する商品のみならず、自己消費用に購入する商品も含まれる。
ハ 「商品……の引渡し」とは、現実の引渡しを意味する。このような規定を設けた趣旨は、契約の相手方が自ら販売することとなる商品を実際に手に取ってその品質等を確かめ、販売し得るか否かについて考慮した上で、契約の解除を行うか否かを判断し得るようにすることにある。したがって、民法に定める占有改定、指図による占有移転等の方法によって契約の相手方が占有権を取得しても、引渡しが行われたとみなされない。
ニ 本条に基づく契約の解除は、前述のクーリング・オフをすることができなくなるまでの期間の起算日から 20 日を経過したときを除いて可能である。したがって、法第
37 条第2項の書面の交付や商品の引渡しが行われない場合には、契約の締結後何日経過した後であっても、契約の解除を行うことができる。
ホ 「(連鎖販売加入者が、……書面を受領した日から起算して 20 日を経過したとき)」連鎖販売加入者からのクーリング・オフを妨害するため、統括者、勧誘者又は一般 連鎖販売業者が虚偽の説明を行ったり威迫して困惑させたりする行為は、罰則をもって禁止しており、このような違法行為を受けてクーリング・オフできなくなった連
鎖販売加入者が救済されないのは妥当でない。
したがって、このような統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の違法行為を受けて連鎖販売加入者が誤認又は困惑してクーリング・オフしなかった場合には、その連鎖販売加入者は、当該統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者から法第 37 条第2項の書面の交付(上記ロに該当する場合は当該商品の最初の引渡し)を受けた日から起算して 20 日を経過した場合であってもいつでもクーリング・オフを行使することができることとした。ただし、法律関係の安定性の確保にも配慮して、その統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者がクーリング・オフできる旨を記載した書面を改めて交付し、その連鎖販売加入者がその書面を受領した日から起算して 20 日を経過すると、その連鎖販売加入者は、クーリング・オフをすることができなくなる(法第9条の解説1 (4)ハの図解参照。)。
なお、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が上記の法定書面を交付するに当たっては、「主務省令で定めるところにより」交付する必要があり、省令では、当該書面の記載事項、様式のほか、交付の際の統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の説明義務を定めている(省令第 31 条の4)。よって、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者は、当該書面を交付するとすぐに、連鎖販売加入者が書面を見ていることを確認した上で、その連鎖販売加入者に対して「これから 20 日経過するまではクーリング・オフできる。」などと口頭で告げる必要があり、そのようにして交付されなかった場合
は、交付から 20 日を経過した場合であってもその連鎖販売加入者は依然としてクーリング・オフすることができることとなる。一度、不実告知や威迫といったクーリング・オフ妨害行為を受けた連鎖販売加入者は、クーリング・オフできないと思い込んでいることも多く、「依然としてこれから 20 日経過するまではクーリング・オフできる。」などと記載された書面をただ交付されただけでは、このような連鎖販売加入者の十分な救済とはならないことから、このような説明義務を規定したものである。
また、連鎖販売取引の特性上、勧誘者がクーリング・オフ妨害した場合に統括者がこのクーリング・オフをすることができる旨が記載された書面を交付して連鎖販売加入者に説明するような事態が想定されるため、この連鎖販売取引においては、クーリング・オフ妨害をしたまさにその事業者でなくても、「その連鎖販売業に係る統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者」のいずれかの者が連鎖販売加入者にこの書面を交付し、説明し得ることとした。
(2) 契約の解除の方法
契約の解除は、「書面又は電磁的記録により」行われなければならない。これは、クーリング・オフが契約の相手方からの一方的な契約の解除についての意思表示であるので、「口頭」ではなく「書面又は電磁的記録」によってその意思を表示することにより、当事者間の権利関係を明確にするとともに、後日紛争が生ずることのないようにする趣旨である(仮に書面又は電磁的記録でなく、口頭でクーリング・オフを認めると証拠が残らないため、業者が「聞いていない。」と抗弁すると紛争となるおそれがある。そのため、証拠が残る方法(例えば、「書面」であれば内容証明郵便など)で行うことが望ましい。)。
「電磁的記録」による通知の代表的な例としては、電子メールのほか、USBメモリ等の記録媒体や、連鎖販売業を行う者が自社のウェブサイトに設けるクーリング・オフ専用フォーム等により通知を行う場合が該当する。
電磁的記録によるクーリング・オフについて、消費者が電磁的記録を発したかどうか、また、どの時点でそれを発したかに関する紛争が生じないように、連鎖販売業を行う者 としては、電磁的記録によるクーリング・オフを受けた場合、消費者に対し、クーリン グ・オフを受け付けた旨について電子メール等で連絡をすることが望ましいと考えら れる。また、例えば、「電子メールでクーリング・オフを行う場合には、以下のアドレ スにお送りください。」などと合理的な範囲内でクーリング・オフに係る電磁的記録に よる通知の方法を特定し、それを契約書面等に記載することにより、連鎖販売業を行う 者が確認しやすいクーリング・オフに係る電磁的記録による通知の方法を示すことは 妨げられるものではない。
なお、書面又は電磁的記録でなく口頭で連鎖販売加入者が解除を申し出て統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が異議をとどめずこれを受領した場合には、クーリング・オフと同趣旨の合意解除が成立したものとみなされる場合が多いと考えられる。
(3) 契約の解除の効果
イ 法は契約の解除の効果については第3項の規定に加え、連鎖販売業を行う者は、その契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない旨のみを規定しており、その他は一般法の原則によることとなる。したがって、契約の当事者双方は、原状回復義務を負い、連鎖販売業を行う者は、既に受け取った商品代金、役務の対価及び取引料がある場合には契約の相手方に返還しなければならないし、契約の相手方は、既に引渡しを受けた商品がある場合には連鎖販売業を行う者に返還しなければならない。この場合、契約の相手方が、引渡しを受けた商品を使用したり、消費している場合には、一般法の原則に戻って、連鎖販売業を行う者は相手方が商品の使用又は消費により得た利益相当額の請求を行うことができる。また、既に提供した役務の対価や既に実施した講習会、研修等の費用についても同様である。
ロ 法第 37 条第1項括弧書の場合、すなわち、連鎖販売契約を締結する者とその連鎖販売取引において条件とされる特定負担についての契約を締結する者が異なる場合は、連鎖販売契約の解除が行われたときは、特定負担についての契約の締結を行った者が既に受け取った商品代金、役務の対価又は取引料を返還しなければならない。
2 第2項は、契約解除の意思表示の効力発生時期について、民法の到達主義の原則に対する例外を定めたものである。したがって、連鎖販売加入者は、20 日以内に書面又は電磁的記録による通知を発すればよい。これによって、連鎖販売加入者は、実質 20 日間検討を行うことができ、郵便遅配等のリスクも連鎖販売業を行う者の側が負うこととなる。
3 第3項は、商品の引取りに要する費用の負担について民法の例外を定めたものである。契約の解除を行った者は、既に引渡しを受けた商品があれば、これを連鎖販売業を行う
者に返還しなければならないが、そのために要する費用を連鎖販売業を行う者に請求することができる。
4 第4項は、契約の相手方に不利な特約については、これを無効とする旨を定めたものである。
本条の規定は、連鎖販売取引において、商取引に不慣れな個人を保護するために設けられたものであるが、当事者間の特約を認めると、相手方の無知に乗じて不利な特約が締結され、本条の趣旨がいかされない懸念がある。このため、契約の解除ができる期間を短縮したり、解除の方法について制限するなど、契約の相手方に不利な特約は無効とすることとしたものである。これに対し、相手方にとって有利な特約は有効に成立する。
第 40 条の2 連鎖販売加入者は、第 37 条第2項の書面を受領した日から起算して 20 日を
経過した後(連鎖販売加入者が、統括者若しくは勧誘者が第 34 条第1項の規定に違反し若しくは一般連鎖販売業者が同条第2項の規定に違反して前条第1項の規定による連鎖販売契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は統括者、勧誘者若しくは一般連鎖販売業者が
第 34 条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに前条第1項の規定による連鎖販売契約の解除を行わなかつた場合には、当該連鎖販売加入者が、その連鎖販売業に係る統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が同項の主務省令で定めるところにより同項の規定による当該連鎖販売契約の解除を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して 20 日を経過した後)においては、将来に向かつてその連鎖販売契約の解除を行うことができる。
2 前項の規定により連鎖販売契約が解除された場合において、その解除がされる前に、連 鎖販売業を行う者が連鎖販売加入者(当該連鎖販売契約(取引条件の変更に係る連鎖販売 契約を除く。)を締結した日から1年を経過していない者に限る。以下この条において同 じ。)に対し、既に、連鎖販売業に係る商品の販売(そのあつせんを含む。)を行つている ときは、連鎖販売加入者は、次に掲げる場合を除き、当該商品の販売に係る契約(当該連 鎖販売契約のうち当該連鎖販売取引に伴う特定負担に係る商品の販売に係る部分を含む。以下この条において「商品販売契約」という。)の解除を行うことができる。
一 当該商品の引渡し(当該商品が施設を利用し又は役務の提供を受ける権利である場合にあつては、その移転。以下この条において同じ。)を受けた日から起算して 90 日を経過したとき。
二 当該商品を再販売したとき。
三 当該商品を使用し又はその全部若しくは一部を消費したとき(当該連鎖販売業に係る商品の販売を行つた者が当該連鎖販売加入者に当該商品を使用させ、又はその全部若しくは一部を消費させた場合を除く。)。
四 その他政令で定めるとき。
3 連鎖販売業を行う者は、第1項の規定により連鎖販売契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、契約の締結及び履行のために通常要する費用の額(次の各号のいずれかに該当する場合にあつては、当該額に当該各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額を加算した額)にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を連鎖販売加入者に対して請求することができない。
一 当該連鎖販売契約の解除が当該連鎖販売取引に伴う特定負担に係る商品の引渡し後である場合 次の額を合算した額
イ 引渡しがされた当該商品(当該連鎖販売契約に基づき販売が行われたものに限り、前項の規定により当該商品に係る商品販売契約が解除されたものを除く。)の販売価格に相当する額
ロ 提供された特定利益その他の金品(前項の規定により解除された商品販売契約に係る商品に係るものに限る。)に相当する額
二 当該連鎖販売契約の解除が当該連鎖販売取引に伴う特定負担に係る役務の提供開始後である場合 提供された当該役務(当該連鎖販売契約に基づき提供されたものに限
る。)の対価に相当する額
4 連鎖販売業に係る商品の販売を行つた者は、第2項の規定により商品販売契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を当該連鎖販売加入者に対して請求することができない。
一 当該商品が返還された場合又は当該商品販売契約の解除が当該商品の引渡し前である場合 当該商品の販売価格の 10 分の1に相当する額
二 当該商品が返還されない場合 当該商品の販売価格に相当する額
5 第2項の規定により商品販売契約が解除されたときは、当該商品に係る一連の連鎖販売業の統括者は、連帯して、その解除によつて生ずる当該商品の販売を行つた者の債務の弁済の責めに任ずる。
6 前各項の規定に反する特約で連鎖販売加入者に不利なものは、無効とする。
7 第3項及び第4項の規定は、連鎖販売業に係る商品又は役務を割賦販売により販売し又は提供するものについては、適用しない。
趣 旨
連鎖販売取引においては、組織、契約内容が複雑なこと、勧誘に当たり巧みな言葉で必ず 利益があると信じ込まされてしまうことにより、取引に不慣れな個人が契約内容を理解し ないまま契約し、大量の商品を抱えてしまうといったトラブルが発生することが多い。また、そうやって加盟した個人は、利益を上げ、又は自分の損害を減らすために、新たに取引に不 慣れな別の個人を強引・執ように勧誘し、新たな被害が発生してしまうことになる。本条は、このような被害を防止し、取引に不慣れな個人の保護を図るため、連鎖販売契約を前提とし て商品を購入した場合に、クーリング・オフ期間を経過していても、一定の期間、一定の条 件の下にその購入に係る契約を解除して商品を返品し、適正な額の返金を受けることがで きることとしたものである。
解 説
本条第1項から第4項までの関係について、概略を図示すると以下のとおり。第 40 条の2(第1項~第4項)の構成
第1項 (連鎖販売契約の 中途解約) | 第3項 (中途解約に伴う損害賠償の制限) | 第2項 (商品販売契約の解除) | 第4項 (商品販売契約の解除に伴う損害賠償の制限) | ||
商品 | 連鎖販売契約基本部分 + 特定負担としての商品販売部分 | 契約の締結及び履行のために通常要する費用 + 引き渡された商品の販売価格 (連鎖販売契約の一部としての販 売に限り、第2項の場合を除く。) + 既に受領した特定利益その他の金品 (第2項により解除された商品販売契約に係るものに限る。) | ①連鎖販売契約 (特定負担としての商品販売部分) + ②商品販売契約 | 返還された場合及び 引渡し前である場合 | 商品販売価格の十分の一に |
相当する額 | |||||
の解除 (将来効) | の解除 (遡及効) | 返還されない場合 | 当該商品の販売価格に 相当する額 | ||
連鎖販売契約 | 契約の締結及び履行のために通常要する費用 + 提供済み役務の対価 | ||||
役務 | 基本部分 + 特定負担としての役務提供部分 | ||||
の解除 (将来効) |
(注)割賦販売の場合には、本条第7項並びに割賦販売法第6条第3項及び第4項により下線部に割賦手数料を合算
1 連鎖販売契約の中途解約(第1項関係)
第1項は、クーリング・オフ期間の経過後も、連鎖販売契約の期間内であれば連鎖販売加入者は将来に向かって連鎖販売契約を解除(中途解約)できることとする法定解除権を規定するものである。すなわち、例えば、連鎖販売契約の期間が5年等長期に定められていても連鎖販売加入者が自由に組織から退会することを認めるものである。この解除権は、クーリング・オフ同様、形成権であって、解除の一方的意思表示をもって効力を生ずるものであり、また、その理由のいかんを問わない。当該解除の意思表示を書面で行うことは明文上定められていないが、後日のトラブルを防止する観点から、書面や電磁的記録をもって(証拠を残すため、書面の場合にはできれば内容証明郵便で)行うことが望ましいと考えられる。
なお、本条の規定は連鎖販売業を行う者の債務不履行等の場合において連鎖販売加入者が民法等の規定に基づき契約を解除することを妨げるものではない。
(1) 「第 37 条第2項の書面を受領した日から起算して 20 日を経過した後(連鎖販売加入者が、……20 日を経過した後)」とは、法第 40 条第1項に規定するクーリング・オフの行使が可能な期間を経過した後という意味である。
(2) 「将来に向かつて」とは、中途解約の効果が遡及しないことを意味する。民法の解除の効果は、原則として遡及する(第 545 条)が、典型契約のうち、賃貸借(第 620 条)、委任(第 652 条)、組合(第 684 条)等については解除の効果が遡及しない。特定継続的役務提供に係る法第 49 条第1項、預託等取引に関する法律第8条第1項も同様であ
る。これは、これらの契約は継続的な役務の提供契約であるため、遡及効を認めると既に提供が終わった部分の原状回復等が複雑になるからである。連鎖販売契約は、これらと同様の継続的な一連の取引に係る契約であるのみならず、その連鎖販売契約を前提に様々な権利義務関係が発生するものであり、これらの規定と同様の扱いをすることが適当であると考えられたことから、解除の効果は遡及しないこととしている。
2 商品販売契約の解除(第2項関係)
第2項は、第1項の規定に基づき連鎖販売契約が解除された場合においては、一定の条件の下で、その連鎖販売契約が解除されるまでに締結した商品販売契約についても解除を行うことができる旨を規定したものである。
(1) 「連鎖販売加入者(当該連鎖販売契約(取引条件の変更に係る連鎖販売契約を除く。)を締結した日から1年を経過していない者に限る。以下この条において同じ。)」
本項の趣旨は、取引に不慣れな個人が大量の在庫を抱えてしまうことによるトラブルを防止することにあり、また、この制度は、一度有効に成立した商品販売契約を一定の条件はあるものの遡及的に無効にするという重大な法効果を伴うものであることから、本項の適用対象を連鎖販売加入者のうち、連鎖販売契約を締結して販売組織に入会してから1年を経過していない者に限ったものである。
なお、取引条件の変更に係る連鎖販売契約については、販売組織に入会後も継続的に締結されるものであるが、本条の保護の対象となるのは取引に不慣れな個人として販売組織入会後1年を経過していないものであり、括弧書きにおいて適用除外とすることとしたものである。
例えば、連鎖販売契約を締結したのが4月1日であれば、翌年の3月 31 日までは上記要件に該当するが、翌年の4月1日からは該当しない。
(2) 「連鎖販売業に係る商品」
その連鎖販売業に関して販売される商品全てのことである。連鎖販売加入者が特定負担として購入する商品かその後追加的に購入する商品かは問わない。
(3) 「(そのあつせんを含む。)」
連鎖販売加入者は、連鎖販売契約を前提に商品の購入をする場合、当該連鎖販売契約の相手方である連鎖販売業を行う者より商品を購入するのが通常であるが、連鎖販売業を行う者のあっせんする第三者より購入する場合もあることから、そのような形態による商品の販売にも本項を適用することとしたものである。
(4) 「次に掲げる場合を除き、」
第1号から第4号までのいずれかに該当する場合以外は、本条に基づく商品販売契約の解除を行うことができるという意味である。したがって、第1号から第4号までのいずれかに該当する場合に、民商法一般原則にのっとって本来できる契約の解除ができなくなるということではない。本項は、これら民商法一般原則による契約の解除とは別に、本項に規定する商品販売契約の解除を強行的に(本条第6項)定めようとするも
のであって、これ以外の契約の解除については、民商法一般原則及び当事者の特約によって規律されることとなる。
また、本項各号に該当するかどうかについては通常販売されている商品の最小単位を基準として判断されるものである。すなわち、仮にある商品販売契約に係る一部の商品がいずれかの号に該当することがあっても、それは当該商品についてのみ解除ができなくなるというものであって、当該商品販売契約に係る商品全てにつき解除できなくなるというものではない。
(5) 「当該商品の販売に係る契約(当該連鎖販売契約のうち当該連鎖販売取引に伴う特定負担に係る商品の販売に係る部分を含む。以下この条において「商品販売契約」という。)」
商品販売契約の定義である。「当該商品」、すなわち、販売又は販売のあっせんをされた連鎖販売業に係る商品の販売に係る契約のことであり、連鎖販売契約の一部である特定負担に係る商品の販売に係る部分についても含むことを規定している。
(6) 第1号は、商品販売契約を解除することができなくなる場合の一つとして、商品の引渡し(権利の移転を含む。)を受けてから 90 日を経過した場合を規定したものである。
したがって、逆に、商品の引渡しから 90 日を経過するまでは商品販売契約を解除することができ、あるいは商品の引渡しがされなかったときは、商品販売契約を解除する権利が留保されていることになる。
「商品の引渡し……を受けた日から起算して 90 日を経過したとき。」とは、商品の引
渡しがされた日を含む 90 日間が経過したときの意である。
(7) 第2号は、商品販売契約を解除することができなくなる場合の一つとして、連鎖販売加入者が商品を再販売してしまった場合を規定したものである。
再販売をした商品についてまで商品販売契約の解除を認めることとすると、法律関係が複雑になってしまうことのほか、本項の趣旨が、取引に不慣れな個人が大量の在庫を抱えてしまうことを防止することとしていることから、それを踏まえこのように規定することとした。
なお、このように一度商品を再販売してしまうと、仮にその商品が自らのもとに返品されてきても、もはや自分が購入した者に対して返品できないこととすることにより、連鎖販売加入者は自らのリスクによって再販売することとなるため、再販売の相手方に大量の在庫を売り付けるような強引・執ような方法による販売勧誘が抑制され、その結果、当該連鎖販売組織自体の健全化にも資することが期待される。
(8) 第3号は、商品販売契約の解除をすることができなくなる場合の一つとして、連鎖販売加入者が商品を使用又は消費してしまった場合を定めたものである。
取引に不慣れな個人が大量の在庫を抱えてしまうことを防止するという本項の趣旨を踏まえ、連鎖販売加入者が自ら使用又は消費した場合にまで解除を認めることは妥
当でないために規定された。ただし、この際の使用又は消費は、連鎖販売加入者の主体的な判断のもとになされる必要があり、当該商品の販売を行った者が、連鎖販売加入者に当該商品を使用又は消費させたような場合は、本号には該当せず、連鎖販売加入者は当該商品販売契約を解除することができる。
(9) 「その他政令で定めるとき。」
政令第 10 条の3では、「連鎖販売加入者の責めに帰すべき事由により、当該商品の全部又は一部を滅失し、又はき損したとき」としている。これは民法の一般原則との関係からいっても、連鎖販売加入者の責めに帰すべき事由により、当該商品を滅失又はき損したような場合にまで商品販売契約の解除を認めるのは妥当ではないと考えられるからである。
3 連鎖販売契約の中途解約の場合の損害賠償等の額の上限(第3項関係)
第3項は、第1項の中途解約がなされた場合に連鎖販売業を行う者が請求し得る金額の上限を定めたものである。あくまで上限を規定したものであり、本項に定める額まで請求できる権利を連鎖販売業を行う者に与えたものと解してはならない。具体的には、契約の締結及び履行のために通常要する費用の額(本項各号に定める場合にあっては、当該各号に掲げる額を合算した額)に、これらの金額の支払遅延があった場合には法定利率(民法第 404 条第2項により令和4年時点では年3パーセント)による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払を請求することができないこととしたものである。
なお、「請求することができない」とは正当に収受することができないということであり、本項に定める上限金額を上回る金銭を既に受け取っている場合には、超過部分を速やかに返還しなければならない。
また、「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」を本文に規定しているが、
「契約の締結……のために通常要する費用」としては、書面作成費、印紙税等があり、「契約の……履行のために通常要する費用」としては、商品の配送料、代金の取立ての費用、催告費用等がある。ただし、当該契約のみに特別に費用をかけた場合でも、それをそのまま請求することはできない。
また、中途解約時にこの「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」を請求するためには、契約締結時の書面において「精算に関する事項」としてその内容が明らかにされており、かつ、中途解約の場合には請求することができる旨を明示しておくことが望ましい。
(1) 特定負担として購入した商品の引渡し後である場合には次の額を合算した額(第1号関係)
イ 「引渡しがされた当該商品(当該連鎖販売契約に基づき販売が行われたものに限り、前項の規定により当該商品に係る商品販売契約が解除されたものを除く。)の販売価 格に相当する額」
第1項の連鎖販売契約の効果が非遡及であることから、中途解約が行われた時点
で当該連鎖販売取引に伴う特定負担に係る商品が連鎖販売業を行う者から既に引き渡されている場合には、当該連鎖販売業を行う者は、中途解約を行った連鎖販売加入者に対して、当該商品の代金として、販売価格相当額を請求可能であることを確認的に記載したものである。
ただし、当該商品に係る商品販売契約が解除された際については、その精算ルールを本条第4項に規定しているため、本号の対象とはしていない。
なお、「連鎖販売契約に基づき販売が行われたものに限り」とは、解除された当該連鎖販売契約の相手方たる連鎖販売業を行う者が自ら販売した商品のことであり、当該連鎖販売取引に伴う特定負担に係る商品の販売であっても、それ以外の者が商品を販売した場合は、当該連鎖販売業を行う者は、請求を行うことができない。
ロ 「提供された特定利益その他の金品(前項の規定により解除された商品販売契約に係る商品に係るものに限る。)に相当する額」
連鎖販売加入者は、連鎖販売契約により、その連鎖販売業に係る商品の購入に基づき一定の特定利益等を得ることとなるが、第2項の規定に基づき商品販売契約が解除された場合、当該商品販売契約に係る商品の購入により得ていた特定利益等を返還させる必要があるため規定したものである。ただし、先述のとおり本項はあくまで連鎖販売業を行う者が請求し得る金額の上限を定めたものであり、本項に定める額まで請求できる権利を連鎖販売業を行う者に与えたものと解してはならない。例えば、本条第4項第2号に規定するような商品が返還されない場合であって、連鎖販売業を行う者が既に商品の販売価格相当額を受け取っているときは、仮に連鎖販売契約及び商品販売契約が解除された場合であっても、連鎖販売業を行う者は当該商品販売契約に係る商品に係る特定利益等に相当する額の金銭の支払を連鎖販売加入者に対して請求することができない。
なお、「特定利益その他の金品」とは、連鎖販売業に係る商品の購入により連鎖販売加入者に提供される利益のことであり、連鎖販売加入者が自己消費のために購入した商品の代金を源泉とするなど、法律上の「特定利益」の定義に当てはまらないものも含まれる。
(2) 特定負担に係る役務の提供開始後である場合(第2号関係)
「提供された当該役務(当該連鎖販売契約に基づき提供されたものに限る。)の対価に相当する額」
第1号同様、第1項の連鎖販売契約の効果が非遡及であることから、中途解約が行われた時点で既に当該連鎖販売契約に基づき提供された役務の対価相当額については連鎖販売業を行う者が請求可能であることを確認的に記載したものである。
なお、「連鎖販売契約に基づき」の解釈については、前記(1)イを参照のこと。
4 商品販売契約の解除の場合の損害賠償等の額の上限(第4項関係)
第4項は、第2項の規定により商品販売契約が解除された場合に、商品の販売を行った
者が請求し得る金額の上限を規定したものである。あくまで上限を規定したものであり、本項に定める額まで請求できる権利を商品の販売を行った者に与えたものと解してはならない。具体的には、次に掲げる額に、これらの金額の支払遅延があった場合には法定利率(民法第 404 条第2項により令和4年時点では年3パーセント)による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払を請求することができないこととしたものである。
なお、「請求することができない」とは正当に収受することができないということであり、本項に定める上限金額を上回る金銭を既に受け取っている場合には、超過部分を速やかに返還しなければならない。
(1) 商品が返還された場合又は商品販売契約の解除が商品の引渡し前である場合(第1号関係)
「当該商品の販売価格の 10 分の1に相当する額」
第2項に基づく商品販売契約の解除は、取引に不慣れな個人が大量の在庫を抱えてしまうことを防止するためとはいえ、商品の引渡しから 90 日という比較的長期間が経過するまでの間、有効に成立した契約の解除を認めるものであることから、商品の販売価格の 10 分の1に相当する額を上限とする損害賠償請求をすることを認めたものである。
(2) 商品が返還されない場合(第2号関係)
「当該商品の販売価格に相当する額」
商品販売契約は解除されたものの、商品が返還されなかった場合であるが、上記のとおり本項はあくまで商品の販売を行った者が請求し得る金額の上限を定めたものである。したがって、その価値に比して不当に高額な商品を購入した連鎖販売加入者が、自らの責めなくその商品が滅失してしまい返還できない場合等においては、民法の一般原則により請求し得る金額の上限が規律されることとなる。
5 商品販売契約が解除された場合における統括者の連帯債務(第5項)
第2項により商品販売契約が解除された場合、両当事者はそれぞれ原状回復義務を負うこととなり、商品の販売を行った者は、既に受け取っていた商品代金を返還しなければならない。第5項は、その際に商品の販売を行った者が負う代金返還債務につき統括者に連帯して弁済の責任を負わせることとしたものである。
商品の販売を行う者と統括者が同じ場合(取引集中型の多く)もあるが、順次取引型ではそのほとんどの場合において両者が異なっている。商品の販売を行う者には、販売組織に加入している一般の個人などもおり、そのような者が無資力や所在不明であった場合、大量の在庫を抱えてしまった連鎖販売加入者の救済という目的が果たされなくなってしまう。そのような事態が発生することはルールを設けた趣旨からも妥当でなく、また、統括者は連鎖販売組織全体を実際上管理運営している立場にあって、連鎖販売加入者が大量の在庫を抱えてしまうといったことの発生を防止する責務があると考えられることから、統括者に連帯して債務弁済の責任を規定することとした。
6 第6項は、本条が連鎖販売加入者に不利な特約についてはこれを排除するいわば片面的強行規定である旨を明らかにしたものである。
7 第7項は、割賦販売法との適用関係を明らかにした規定である。
具体的には、連鎖販売契約又は商品販売契約が解除された際の損害賠償等の額の制限を定めた第3項、第4項の規定は、割賦販売法第2条第1項に規定する割賦販売に当たるものについては適用されない旨を定めている。これは、当該契約に係る代金等の支払が割賦販売の形態をとるものについては、当該取引に係る特殊性を勘案した割賦販売法の規定を適用することが適当であるからである。
なお、割賦販売法第2条第2項に規定するローン提携販売又は同条第3項に規定する包括信用購入あっせん若しくは同条第4項に規定する個別信用購入あっせんにより販売又は提供される場合は、本条第3項、第4項の規定が適用される。
(連鎖販売契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第 40 条の3 連鎖販売加入者は、統括者若しくは勧誘者がその統括者の統括する一連の連鎖販売業に係る連鎖販売契約の締結について勧誘をするに際し第1号若しくは第2号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、又は一般連鎖販売業者がその連鎖販売業に係る連鎖販売契約の締結について勧誘をするに際し第3号に掲げる行為をしたことにより同号に定める誤認をし、これらによつて当該連鎖販売契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該連鎖販売契約の相手方が、当該連鎖販売契約の締結の当時、当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者がこれらの行為をした事実を知らなかつたときは、この限りでない。
一 第 34 条第1項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 第 34 条第1項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認
三 第 34 条第2項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
2 第9条の3第2項から第5項までの規定は、前項の規定による連鎖販売契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しについて準用する。
趣 旨
本法では法第 34 条で、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の不当な勧誘を抑止するた め、不実告知及び事実不告知について罰則をもって禁止しているが、これらの禁止行為が行 われたこと自体は、民事上の契約の効力には直ちに影響を与えないと解されている。統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の行為が民法の詐欺に該当すれば個人は当該契約を取り消し 得ることとなるが、それでは取り消すことのできない場合も多く、トラブルに遭遇した個々
の個人の救済は難しい状況にあった。
そこで、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が不実告知や事実不告知といった特定商取引法上の禁止行為を行った結果として個人が誤認し、そのために契約の申込みあるいはその承諾の意思表示をしたときは、民法では取り消せない場合であっても当該意思表示を取り消せるものとして、被害を受けた個人の救済を図ることとした。
解 説
1 第1項は、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が、連鎖販売契約の締結について勧誘をするに際し、法第 34 条第1項又は第2項の規定に違反して不実のことを告げる行為あるいは故意に事実を告げない行為をした結果、誤認をして申込み又は承諾の意思表示をしてしまった連鎖販売加入者は、その意思表示を取り消すことができることとする規定である。
(1) 「連鎖販売加入者は、統括者若しくは勧誘者が……行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、又は一般連鎖販売業者が……行為をしたことにより同号に定める誤認をし、これらによつて……意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」
連鎖販売加入者が意思表示を取り消すことができるのは、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の違法行為及び連鎖販売加入者が誤認したことの間並びに連鎖販売加入者が誤認をしたこと及び連鎖販売加入者が意思表示したことの間の双方に因果関係が認められる場合であるが、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者の違法行為の事実があれば、この二つの因果関係が認められる事例が多いものと考えられる。
(2) 「統括者若しくは勧誘者が……契約の締結について勧誘をするに際し」法第 34 条の解説1(3)を参照
(3) 「不実のことを告げる行為」法第 34 条の解説1(6)を参照
(4) 「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」
「誤認」とは、違うものをそうだと誤って認めることをいう。例えば、健康食品を扱う連鎖販売取引において、勧誘者が、そのような効果がないにもかかわらず、個人に対して「この健康食品は、食事制限をしなくてもただ毎日飲み続けるだけで1月で5キロ痩せる効果がある。」と告げ、その個人が「この健康食品は、食事制限をしなくても毎日飲み続けるだけで1月で5キロ痩せる効果がある。」という認識を抱いた場合には、その個人は「誤認」しているといえる。
(5) 「故意に事実を告げない行為」法第 34 条の解説1(6)を参照
(6) 「当該事実が存在しないとの誤認」
例えば、化粧品を扱う連鎖販売取引において、勧誘者が、その化粧品には市販のものと比べて肌に負担となる有害成分が多量に含まれているにもかかわらず勧誘に際して個人に告げず、当該個人がそのような有害成分が多量に含まれている化粧品ではない
と認識した場合、その個人は「誤認」しているといえる。
(7) 「これを取り消すことができる」
契約に係る申込み又はその承諾の意思表示が取り消された場合には、その契約は当初からなかったことになる(無効:民法第 121 条本文)。その行使方法、効果等については、本法に特段の定めがない限り、「取消し」に関する民法の規定による。
契約に係る意思表示が取り消された場合、その効果として民法の一般原則により両当事者はそれぞれ不当利得の返還義務を負うことになる。統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者が既に代金を受領している場合には、それを連鎖販売加入者に返還しなければならないとともに、商品の引渡し等が既にされていれば、連鎖販売加入者はその商品等を統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者に返還する義務を負うこととなる。
なお、本条により連鎖販売契約が取り消されたとき、その連鎖販売契約を前提として結ばれていた商品販売契約の効力はどうなるのかについては、商品販売契約の締結が、連鎖販売契約が前提にあることを不可欠の要素としている限りにおいて、連鎖販売契約が取消しの効果として遡及的に無効となるのに伴い、商品販売契約も無効となると考えられる。これは連鎖販売契約がクーリング・オフによって遡及的に無効となる場合も同様である。
(8) 「ただし、当該連鎖販売契約の相手方が、……事実を知らなかつたときは、この限りでない。」
本規定は、統括者、勧誘者、一般連鎖販売業者が、不実告知等の違法行為をしたことにより、連鎖販売加入者が誤認して連鎖販売契約の締結に係る意思表示をした場合に、連鎖販売加入者がその連鎖販売契約の意思表示を取り消すことができることとしている。また、この場合において、不実告知等を行った者と、連鎖販売契約の相手方(統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者)が異なる場合であっても、連鎖販売加入者は、当該意思表示を取り消すことができる(例えば、勧誘者の不実告知により連鎖販売加入者が誤認して統括者との連鎖販売契約の締結に係る意思表示をしたような場合。)。これのみでは、自らの全く預かり知らないところでの第三者の行為により、契約が取り消されてしまうこととなり、民法の一般原則との関係からいっても問題があったため、このただし書を規定することとした。
イ 「当該連鎖販売契約の相手方」
連鎖販売加入者の連鎖販売契約の相手方、すなわち連鎖販売業を行う者(統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者)のことである。
ロ 「当該連鎖販売契約の締結の当時」
連鎖販売加入者と連鎖販売業を行う者(統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者)の間において連鎖販売契約締結に係る申込みと承諾の意思表示が合致した時のことである。
ハ 「当該統括者、当該勧誘者又は当該一般連鎖販売業者」
不実告知等の違法行為をした統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者のことである。ニ 「これらの行為をした事実を知らなかつたときは、この限りでない。」
連鎖販売加入者の連鎖販売契約の相手方たる連鎖販売業を行う者(統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者)が、当該連鎖販売契約の締結時に、統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者がその連鎖販売加入者に対して不実告知等の違法行為をした事実を知らなかったときは、連鎖販売加入者は当該連鎖販売契約を取り消すことができなくなるということを規定している。
ただし、ここで規定する「知らなかつたとき」とは、過失なく知らなかったとき(すなわち、善意かつ無過失のこと)のことであり、連鎖販売業を行う者(統括者、勧誘者又は一般連鎖販売業者)が別の者の違法行為の事実を知らなかったことに過失があったときは、ただし書は適用されず、本文の規定により連鎖販売加入者は連鎖販売契約を取り消すことができることとなる。なお、連鎖販売業を実質的に統括する立場にある統括者は、過失があると認められることが多いと考えられる。
2 第2項は、取消しの第三者効や時効などについて、訪問販売における取消し規定である法第9条の3第2項から第5項までを準用しているものである。これらについては、取引形態の違いによって規定を異にする必要がなく、準用することとした。