Contract
2-1.契約形態
フリーランスとして受注する仕事にはいくつかの契約形態があります。その契約形態によって報酬が支払われる対象や納品後の対応などが異なります。また、契約する企業や仕事内容によっては、その期間のみ派遣契約や出向契約の締結を要求されることもあります。より重要なのは、どのような内容で契約したかという点ですが、契約内容の違いによるトラブルを防ぐためにも、典型的な契約形態の違いを理解しましょう。
労働契約
「会社員になる」ということは、使用者と労働者が労働契約を結んだ状態を指します。労働契約の締結により、労働者は労務を提供する義務を負い、賃金を請求する権利を持ちます。そして、使用者には労働者から労務の提供を受ける権利が生まれ、それに対し賃金を支払う義務を負います。これを使用従属関係と呼びます。
使用従属関係が生まれることで、労働者は以下のような制約を受けます。
・仕事の依頼に対する諾否の自由がない
・勤務時間や勤務場所の拘束がある
・業務に関して使用者が指揮権を持つ
・報酬が労働の対価的性格を持つ(労働をした分だけ報酬が支払われる)
その一方で労働契約を結ぶことにより、労働者は労働基準法をはじめとした労働関連法規によって守られます。労働基準法は労働者の労働条件や待遇などの最低基準を定めており、週の法定労働時間や時間外労働、年次有給休暇などの規定があります。そしてこの基準に使用者が違反した場合は、使用者に罰則や行政による指導が入るのです。
そのほか、使用者は以下のような点でも労働者に対する制約があります。
・労働条件の明示義務と遵守
・労働者の生命や身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全な配慮義務)
・国籍や信条、社会的身分による労働条件の差別的取扱いの禁止
・労働契約における違約金または損害賠償額を予定する規定の禁止
このように労働契約を結ぶことで使用者との従属関係が生じる一方で、労働関連法規によって守られることになります。
業務委託契約
業務委託は、契約内容によって、主に民法の「請負契約」と「準委任契約」に分けられます。この 2 つは同じ業務委託でも報酬の定め方や発注者と受注者それぞれの権利・義務が異なります。もっとも、業務委託契約には、単純に、「請負契約」と「準委任契約」に分類できる契約と、両者の性質が混合している契約(請負契約の性質が強いものや、準委任契約の性質が強いものなど、その内容はさまざまです。)があり、一番重要なことは、どのような内容で合意したか(=契約内容)である点には注意しましょう。以下、民法の内容を説明しますが、契約において別の取り決めがある場合には、契約が優先しますので、事前に契約書をよく確認するようにしましょう。
請負契約
請負契約は、受注者に仕事の完成義務があり、その仕事の結果に対して報酬が支払われる契約形態です。請負契約における報酬の定め方は、労働時間が考慮されないため、作業にかけた時間にかかわらず、契約において定められた仕事が完成していれば報酬を受け取ることができます。逆に言えば、成果物の完成を目的とする請負契約の場合、仕事を完成させる義務があるため、どれだけ時間をかけたとしても成果物を完成させなければ報酬も支払われないということです。
成果物の引渡しを要する請負契約は、その成果物を引き渡して「納品」となるため、成果物ごとに報酬や納品時期が異なります。
さらに請負契約には契約不適合責任(後述)が伴います。これは受注者が成果物の品質に対して負う責任であり、納品したものが契約内容に適合していなければ、無償で対応する必要があるのです。ただし、その期間は「発注者が不適合を知ったときから1年以内」に受注者に通知しなければならないという期限が設けられています。
請負契約では納品物の最低限の品質の擦り合わせをしておく事が重要です。これを曖昧にすると、納品したのにも関わらず、報酬が支払われないことや、逆に発注をした場合は納得のいかないものに報酬を支払うことになり、トラブルの原因となります。(4 章 2 参照)
改正民法で「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に
2020 年 4 月の民法改正により、請負契約において使われていた「瑕疵」という文言は「契約不適合」という表現に変わりました。
「契約不適合責任」とは、受注者が、種類又は品質に関して契約の内容に適合する仕事を完成させなければならない責任をいいます。
また、契約不適合となる場合、発注者が受注者に対してとれる手段及びその内容も変わります。
受注者の契約履行状況が発注者の求める基準に達しなかった場合、これまで受注者がとり得る手段は、「修補請求」(ただし、瑕疵が重要ではない場合及び過分の費用がかかる場合を除く。)「契約の解除」(ただし、契約の目的を達成できない場合に限る。)と「損害賠償」の 3 通りでした。しかし、改正民法では、新たに「追完請求権」(修補請求を含みます。)と「報酬減額請求権」が加わります。
・追完請求権
追完請求権とは、引き渡された目的物が種類、品質または数量において契約の内容に適合しないものであるとき、発注者は、受注者に対し、目的物の修補や代替物の引渡し、または不足分の引渡しを請求できる権利です。
・報酬減額請求権
発注者が追完請求を催告したうえで、その催告期間を過ぎても受注者による追完がない場合、発注者は代金の減額を請求できます。
準委任契約・委任契約
「委任契約」とは、法律行為に関する事務を相手に依頼する契約を指します。
委任契約の例として、弁護士に訴訟代理を依頼する場合や、不動産業者に自分の土地を売却するよう依頼する場合などがあります。また、法律と関係のないものはおおむね「準委任契約」となります。
「準委任契約」は日常生活において、医師による患者の診察や高齢者介護サービスの依頼などの事務処理が問題となる場面です。事務を遂行するに当たって、一定の知識やスキルが求められる場合もあります。
「準委任契約」は「委任契約」の規定が準用されているため、通常、委任契約と準委任契約を大きく区別することはありません。