RETIO. NO.121 2021 年春号
RETIO. NO.121 2021 xx号
最近の裁判例から
⑵−売買契約及び手付解除期限条項の有効性−
売主業者の売買契約の手付解除期限条項がxx業法違反により無効とされた事例
(東京地判 令 2・1・30 ウエストロー・ジャパン) xx xx
分譲マンションの地下駐車場を保有している売主業者が、買主であるマンション管理会社に対し、残代金支払期限を徒過したとして違約金等を求めたが、売買契約は無権代理により無効であり、仮に有効でも手付解除期限条項はxx業法違反により無効として、その請求を棄却した事例(東京地裁 令和2年1月30日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成21年3月、Ⅹ(原告:xx業者)は、 Y(被告:管理組合法人)が管理する共同住宅(本件マンション)の地下駐車場部分(本件駐車場)の共有持分17分の16とP号室を前所有者より購入した。
Xは、同年10月に、本件駐車場の区分所有権に基づいて、Yに対し、①契約者以外の本件駐車場への立ち入りの禁止、②契約者以外の者が事故に遭遇した場合、Yの責任で解決する義務があることの確認、③不法行為に基づく損害賠償請求等の支払を求める訴訟を提起したが、いずれも却下された。
Y代表者は、平成29年11月頃、本件駐車場が売りに出ていることを知り、新買主とトラブルになることを恐れ、Yにおいて本件駐車場を購入することを考えて、Yの理事2人に連絡したが、同意は得られず、理事会も開催されなかった。
Y代表者は、同年11月28日に、Xに本件駐車場の購入希望を伝えると、別の不動産業者が購入の意向を示しており、決済が12月の予
定であるとのことだった。
そこで、翌日の11月29日に、Y代表者は、 Xを訪れ、本件駐車場の売買代金を9,980万円とすることに合意し、Y代表者の個人資金 100万円を手付金としてYに交付し、売買契約(本契約)を締結した。その際、Yは、Xから重要事項説明書の交付を受けておらず、その説明も行われなかった。
<本契約の概要>
・売買代金:9,980万円( 外税)、手付金: 100万円、残金決済日:12月末日限り
・手付解除期間:契約締結日から5日間
・違約金:売買代金総額の20% Y代表者は、同年12月5日、Yの理事を招
集し、経緯を説明した上で本契約締結について承諾を得ようとしたが、本件マンションの管理費の積立金が9,000万円前後で売買代金に満たず、ローン条項がないため、理事会として認められないとの指摘を受けた。
Y代表者は、ローン条項について、Xとの間で覚書を交わそうと考え、弁護士に相談して覚書案を作成し、Xに相談したが、覚書の締結を断られた。その後、Y代表者は、金融機関7行を回ったが、いずれも融資を断られ、 Xから通知書が届いたため、他の理事と相談して、YからXに対して、手付放棄による契約解除の通知を行った。
Xは、Yに対し、売買契約について理由なく残代金支払期限を徒過したとして、違約金及び遅延損害金の支払を求め、本訴を提起した。
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RETIO. NO.121 2021 xx号
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。
(本契約の有効性) Yの理事会や総会において本契約の締結に
ついて承認決議がなされたと認めるに足りる証拠はなく、Y代表者は、理事会や総会の決議を経ずに、本契約を締結していることからすれば、本契約は、権限を有しないY代表者により締結されたものとして、無権代理により本契約は無効である。
Xは、xx業者であるから、本契約の締結にあたっては高度の注意義務が課されているといえ、本契約の締結にあたり、Yの理事会決議や総会決議の有無について、Y代表者の発言を漫然と信じたということであれば、過失があるといわざるを得ない。
したがって、Y代表者が本契約を締結するについて権限があると信ずべき正当な理由が Xにあったとは認められず、表見代理は成立しない。
(手付解除の有効性)
xx業者は、自らが売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄して契約の解除をすることができる(xx業法39条2項)が、同条2項の規定に反する特約で買主に不利なものは無効とされている。そして、Xはxx業者であり、契約日から5日以内と限定した本契約の手付解除期限条項は、買主に不利な条項であるから、無効である。Xは、5日間という期間は、Y代表者も納得していたと主張するが、xx業法の定めは買主保護の観点から、特にxx業者が売主の場合、手付解除期間を短くする合意があったとしてもそれを無効とする規定であるから、仮にY代表
者が納得していたとしても有効となるものではない。
そして、Yは、平成29年12月28日付の内容証明郵便により、手付金100万円を放棄して本契約を解除する旨の意思表示をしているから、この時点で、本契約は手付解除されたものと認めることができる。Xは、12月28日の手付放棄解除の時点で、Xが「履行の着手」をしていたと主張するが、本契約のように制限物権のない物件の売買においては、予め制限物権を解除しておくといったような準備行為自体しえないことから、Xの主張は採用できない。
3 まとめ
本判決では、売主がxx業者であるにもかかわらず、契約日から5日以内と限定した契約の手付解除期限条項が、xx業法第39条第 3項により、無効と判断されている。
裁判所の判示にあるように、xx業法は、買主保護の観点から、xx業者が売主の場合、手付解除期間を短くする合意があったとしても、それを無効とする規定なので、買主が納得していたとしても有効ではないと判断されることになる。
xx業者は、自らが売主となる取引においては、xx業法の定めに従い、買主保護を念頭に置いて、不動産取引の条項等の取り決めを行うことが重要である。
また、手付解除期限条項を設けたxx業者
(売主・媒介)に対する行政庁の処分事例も見られるので、参考にされたい。
同様に、売主業者の手付解除期限特約がxx業法違反により無効とされた事例として東京地裁 平28.10.11 RETIO117-116がある。
(元調査研究部調査役)
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