Contract
3 被措置児童に対する適切な養育の確保
⑴ 養育を行う上での親権者等の同意
【制度の概要】
児童養護施設の長や里親等(以下「施設長等」という。)は、その養育する児童の監護、教育及び懲戒に関し、その福祉のために必要な措置(以下「監護措置」という。)を採ることができる(児童福祉法第 47 条第 3 項)。
施設長等の監護措置について親権者等は不当に妨げてはならず(児童福祉法第 47 条
第 4 項)、厚生労働省は「不当に妨げる行為」について、その具体例を示すとともに、
「不当に妨げる行為」があった場合でも、できる限り親権者等の理解を得て監護措置を採ることを求めている 31。
なお、施設長等の監護措置には、親権のうち居所指定権(民法(明治 29 年法律第 89
ただし、児童の生命又は身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときについては、親権者等の意に反しても必要な措置を行うことができる(児童福祉法第 47
条第 5 項)。
厚生労働省は、児童養護施設や里親等の下で養育される児童への医療行為について、保護者が児童に必要とされる医療を受けさせない場合を含めて、施設長等の監護措置として児童に必要とされる医療行為を受けさせることができるとしている。
他方、「予防接種」、「医療保護入院」に関しては、法令上、親権者等の同意が要件として明確に定められており、厚生労働省は、当該行為に正当な理由なく同意しない行
31 「「児童相談所長又は施設長等による監護措置と親権者等との関係に関するガイドライン」について」(平成 24 年 3 月 9 日付け雇児総発 0309 第 1 号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知)(資料 3-⑴-①)
32 第 177 回国会参議院法務委員会(平成 23 年 5 月 24 日)における政府参考人発言(「金融機関におきましては、未xx者の銀行口座の開設について、やはり通常、法定代理人であります親権者の同意を求めておりま す、やはり管理権を持っているということであるわけでございますが。」)参照。
33 「医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」(平成 24 年 3 月 9 日付け雇用均等・児童家庭局総務課長通知)(資料 3-⑴-②)
為を「不当に妨げる行為」に該当する 34としつつも、その実施に当たっては、親権者等の同意が必要 35としている。
【調査結果】
児童養護施設や里親等の下で児童が暮らしていく中で、医療や教育、公的な手続、契約などが必要となるほか、携帯電話や自転車の使用といった日常的な行為が行われる。こうした行為について、養育現場における親権者等の同意の取扱いがどうなっている か、調査した 97 児童養護施設において、その実態を把握したところ、以下のとおり、将来、児童が家庭に戻る、又は、自立した後、家族との関係を再構築する際の支障とならないよう、親権者等との良好な関係を構築しておくため、親権者等との関係に配慮し
対処している実態の一端が垣間見られた。
(医療関係)
今回把握できた事例は 4 件、うち緊急に医学的処置を行う必要があったものは 2 件であった。
表 3-⑴-①のとおり、同じ虫垂の切除であっても、親権者等ないし親族の同意が必要 とする医療機関(No.1 の事例)と施設長の同意があれば認める医療機関(No.2 の事例)と対応が分かれていた。
表 3-⑴-① 緊急の処置が必要とされたケース
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
10 歳・男 | 身体的虐待 | |
【事例の内容】 前年に虫垂炎を患った児童が再発させた。医師は短期間での再発のため、手術を行う必要があると判断し、翌日、手術を行うこととなり、医療機関から親権者等又は (親権者等と連絡が取れないのであれば)児童の親族による同意を求められた。 児童養護施設は、虐待をしていた父親や所在不明で連絡が取れない母親に代わっ て、祖父に手術の詳細を説明し、同意を得た上で、手術を受けさせた。 |
34 前出 31 参照。
35 前出 33 参照。
2 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
11 歳・男 | ネグレクト | |
【事例の内容】 児童の腹痛、発熱等により医療機関を受診したところ、虫垂炎との診断を受け、合併症のリスク等から、医師より即日の手術を勧められた。 児童養護施設は、本児と親権者との良好な関係の構築のため、親権者への説明を試 みたものの、連絡が取れなかったが、医師から緊急性の高い状況との説明もあったことから、施設長の同意により手術を受けさせた。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢は事例発生当時の年齢
また、表 3-⑴-②のとおり、処置に急を要しない場合であっても、医療機関が親権者等ないし親族の同意を必須とし、施設長の同意では処置することはできない、とされたものがみられた(No.1 の事例)。
表 3-⑴-② 緊急ではない処置の事例
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
高校 2 年生・女 | 養育困難 | |
【事例の内容】 りゅう 児童に腫 瘤 ができたことから、医療機関に数回通院したものの、症状が軽減され ず、医師から切除を勧められた。 児童養護施設は、医療機関から親権者等の同意を求められ、また施設長の同意では認められないとされたことから、親権者を説得し同意書を記入してもらうことで手術を受けさせた。 | ||
2 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
19 歳・女 | 実母の行方不明による施設措置 | |
【事例の内容】 生まれつき口唇口蓋裂の児童について、成長に合わせて必要な処置として、手術を行うこととなった。 児童養護施設では、本児と親権者との良好な関係の構築のため、通例は入所時に手術や入院に関する同意書への署名を行うなどしているが、本児の親権者である母親は所在不明となっており、同意が得られない状態であった。 本児は就職により施設を退所する時期が迫っており、自立後に手術を行うことによ る児童の費用面の負担を考慮して、施設長の同意により手術を受けさせた。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢又は学年は事例発生当時の年齢等
こうした医療機関からの親権者等ないし親族の同意の求めの有無にかかわらず、児童養護施設では、児童の将来の家族関係を考慮して親権者等との良好な関係を構築しておくことが必要として、まずは親権者等の同意を得るべく相当の労力を費やしていた。
(教育関係)
今回把握できた事例は 4 件、うち、中学・高校進学、転籍に関するもの 2 件、高校卒
業後の進路選択に関するもの 2 件であった。
中学・高校進学、転籍に関しては、表 3-⑴-③のとおり、障害のある児童の就学先については、教育委員会が親権者等の意向を可能な限り尊重し決定する 36こととされており、児童養護施設は親権者等の同意取得に相当の労力を費やしていた。また、親権者等の不同意で特別支援学級への転籍、特別支援学校への進学が叶わず、通常学級に在籍することとなった事例(No.2)では、結果として、児童は授業についていけず、不登校になっていた。
表 3-⑴-③ 中学・高校進学、転籍のケース
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
中学 3 年生・男 | ネグレクト | |
【事例の内容】 中学校の特別支援学級に在籍していた児童について、感情のコントロールを苦手とする本児の特性(精神障害者保健福祉手帳 3 級)や卒業後の支援体制を考慮し、特別支援学校高等部への進学を検討していた。 児童養護施設は、教育委員会から特別支援学校への進学には親権者等の同意を求められていたことから、親権者の同意を取ろうとしたが、進路を本格的に決定する中学 3 年生の時に連絡が取れなくなった。 児童養護施設は、連絡途絶前の段階で親権者から本進学について一応の同意を口頭で得ていたが、進学後に親権者が意を翻すことで、本児の学習環境が不安定になることやその結果、本児の施設生活にも影響が及ぶことを懸念し、本格的な進路選択に際して、改めて親権者の意向を確認しようと考えた。進路選択の時期が迫っていたこともあり、児童相談所から親権者の自宅に、返事がなければ、特別支援学校高等部への進学に同意したこととする旨の手紙を送付した。 これに対して、親権者からは応答はなかったため、児童養護施設は、児童相談所及 び本児が通う中学校と協議し、児童相談所の指導の下、親権者の同意が得られたもの |
36 「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」(平成 25 年 10 月 4 日付け 25
文科初第 756 号文部科学省初等中等教育局長通知)(資料 3-(1)-③)
と判断し、本児を特別支援学校高等部に進学させた。 | ||
2 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
12 歳・女 | 母の精神的不安定による養育困難 | |
【事例の内容】 軽度の知的障害が認められる児童について、本児の特性を考慮し、小学生時には、小学校の通常学級から特別支援学級への転籍及び特別支援学校中学部への進学を、中学生時には、中学校の通常学級から特別支援学級への転籍を検討した。 児童養護施設は、教育委員会から特別支援学級への転籍又は特別支援学校への進学に際して、親権者等の同意を取るよう指示されていたこと、また、本児と親権者との今後の良好な関係構築を考慮し、その都度、親権者への意向確認を行っていた。 しかしながら、親権者は、特別支援学級又は特別支援学校に在籍することにより、本児が将来不利益を被るのではないかとの不安を持っていたことから、特別支援学級への転籍及び特別支援学校への進学いずれにも同意しなかった。 このため、本児は中学校の通常学級に進学したが、授業について行けず、中学校を 不登校となってしまった。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢又は学年は事例発生当時の年齢等
高校卒業後の進路選択に関しては、表 3-⑴-④のとおり、教育委員会の関与はないため、親権者等の同意が必ずしも必須とは考えられないが、児童養護施設では、進学か就職かという重要な決定であり、児童と親権者等の今後の良好な関係構築に配慮し、まずは親権者等の同意取得に努めるなど、相当の労力を費やしていた。
表 3-⑴-④ 高校卒業後の進路選択のケース
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
高校 3 年生・女 | 養育困難 | |
【事例の内容】 児童は、児童養護施設とも相談の上、将来の目標に向け、4 年制大学への進学を検討していた。 児童養護施設は、本児と親権者との良好な関係の構築のため、進学先について親権者の同意を求めたが、親権者は手に職をつけてほしいとの希望で専門学校への進学を主張し、4 年制大学への進学に反対した。 児童養護施設は、親権者に、本児の教育権については施設長にあることや、児童の希望を尊重するために親権者の主張は受け入れられないことなどを伝え、親権者を説 得し、本児が希望する 4 年制大学へ進学させた。 |
2 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
高校 3 年生・女 | ネグレクト | |
【事例の内容】 児童は、将来就きたい職業があり、それに向けて専門学校への推薦入学を予定していた。 児童養護施設は、本児と親権者との良好な関係の構築のため、親権者の同意を求めたが、親権者はそれに反対した。 児童養護施設は、親権者の説得を続けたものの、本児と親権者の関係がこじれてし まうおそれがあることや就職後に改めて専門学校に入学する方法も採り得ることなどを考慮し、専門学校に進学させず就職させることとした。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の学年は事例発生当時の学年
(公的手続関係)
今回把握できた事例は 2 件、いずれも旅券の発給申請に関するものであった。
旅券の発給申請については、原則として法定代理人である親権者等の署名が必要とされているが、親権者等から発給申請に署名することの同意が得られない場合には、旅券申請の窓口で相談し、施設長等が署名することで発給できるものとされている。厚生労働省はこのことを都道府県等に示しており 37、今回の 2 事例は、いずれも厚生労働省が示した対応が採られていた。
表 3-⑴-⑤ 旅券の発給申請のケース
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
高校 2 年生・女 | ネグレクト | |
【事例の内容】 児童養護施設の行事で児童が海外に行くため、行事に参加する児童のパスポートが必要となった。未xxのパスポート取得には法定代理人の同意が必要であることか ら、行事に参加する児童の親権者に対し、児童のパスポート取得について確認を行ったところ、参加児童のうち 1 人の児童については、親権者との連絡が取れなかった。 そのため、旅券申請窓口で親権者の同意が得られない理由について説明したとこ ろ、施設長の同意により申請を行うことができ、当該児童のパスポートも取得するこ とができた。 |
37 「親権者のいない未xx者等に係る旅券申請手続について」(平成 24 年 4 月 2 日付け厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課、同省同局虐待防止対策室事務連絡)では、親権者等がいる場合であっても親権者等が適切な監護措置を行わず、親権者等の署名が得られない場合には、旅券事務所に相談を行うことで、親権者等の署名ではなく、施設長等の署名により旅券の申請ができるとされている(資料 3-(1)-④)。
2 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
高校 2 年生・男 | 養育困難 | |
【事例の内容】 児童が高校の短期留学プログラムに参加するため、パスポートが必要となった。未xxのパスポート取得には法定代理人の同意が必要であるが、本児の親権者とは長期に渡って連絡が取れない状況にあった。 この状況について、児童養護施設が児童相談所に確認したところ、都道府県に施設入所の経緯や親権者から同意を得られない理由等を記載した「事情説明書」を旅券申請の窓口に提出するよう助言を受けた。 このため、同説明書を提出したところ、施設長の同意により申請を行うことがで き、パスポートを取得することができた。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の学年は事例発生当時の学年
(契約関係)
今回把握できた事例は 3 件、うち、携帯電話の契約に関するもの 2 件、就職時の身元
保証に関するもの 1 件であった。
未xx者との契約に関しては、契約の相手方としては、法律関係の安定性を考慮し 38、法定代理人たる親権者等の同意を求めるのが通例である。
このため、携帯電話の契約に関しては、表 3-⑴-⑥のとおり、いずれも親権者等の同意が求められ、親権者等が同意しなかったことから、苦肉の策として、児童の祖父や施設長自らが契約者となって、児童に携帯電話を所持、使用させる対応を採っていた。
表 3-⑴-⑥ 携帯電話の契約のケース
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
18 歳・女 | 身体的虐待 | |
【事例の内容】 児童は自立するに当たり、携帯電話の契約を行うこととした。 携帯電話会社から、施設長ではなく親権者等の同意がなければ未xx個人での契約はできないとされた。 このため、児童養護施設は親権者に相談したものの協力が得られなかったことか ら、児童の祖父に連絡し、祖父が携帯電話の契約をして児童に所有させた。 |
38 未xx者保護のため、法定代理人の同意を得ずに未xx者が行った法律行為は、取り消すことができ(民法第 5 条第 2 項)、取消しがなされたときは、初めから法律行為は無かったものとされる。
2 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
18 歳・男 | 身体的虐待・心理的虐待 | |
【事例の内容】 児童は就職し自立するに当たり、本児が支払っている携帯電話使用料の節約等のため、契約内容の変更を行うこととした。 児童養護施設は、携帯電話の契約者が親権者であったため、親権者の同意を得るために相談を行った。 しかしながら、当該親権者は携帯電話の契約内容の変更を含む児童への関与を拒否 したため、施設長を契約者とした契約に切り替えた。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢は事例発生当時の年齢
就職時に身元保証人を求められることはよくあることであるが、親権者等が拒否したケースで、表 3-⑴-⑦のとおり、施設長自ら身元保証人となっている例がみられた。
表 3-⑴-⑦ 就職時の身元保証のケース
事例の概要 | |
児童の属性 | 措置に至った要因 |
18 歳・男 | 養育困難 |
【事例の内容】 児童は就職に当たって、身元保証人契約が必要となった。 児童養護施設は、本児と親権者との良好な関係の構築のため、親権者に、身元保証人となるか確認を試みたが、連絡自体を拒否され、同意が得られなかった。 そのため、児童養護施設は、身元保証人確保対策事業 39を活用して、施設長が身元保証 人となって身元保証人契約を行った。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢は事例発生当時の年齢
(その他日常の行為)
今回把握できた事例は 6 件、うち、児童単独での外出、自転車通学に関するもの 2 件、
携帯電話の所持に関するもの 1 件、散髪に関するもの 3 件であった。
こうした日常の行為については、施設長等の監護措置の範囲内で、必要な注意、配慮をすることで、特に親権者等の同意を求める必要はないと考えられるものの、表 3-⑴-
⑧のとおり、各施設では、過去に苦情を受けたなどの事情や、児童と親権者等との今後の良好な関係構築に配慮して、まずは親権者等の同意取得に努めるなど、相当の労力を
39 児童養護施設を退所した児童等に対し、就職やアパート等の賃借等の際に施設長等が身元保証人となった場合の損害保険契約を全国福祉協議会が契約者として締結する事業(「身元保証人確保対策事業実施要綱」)
費やしていた。
特に散髪をめぐっては、長期間、親権者等の同意が得られず、日常生活を行う上で支障が出るほど髪が伸びてしまった例(No.5、No.6 の事例)もみられた。
表 3-⑴-⑧ 日常の行為に関するケース
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
11 歳・男 | 身体的虐待 | |
【事例の内容】 児童養護施設は、友人との交友関係を深めることにつながるため、児童の単独での外出を認めようとした。 児童単独での外出については、外出時に事故が起こる可能性を理解してもらうという理由から親権者等の同意を得ているが、本児については、本児の身の安全を考慮 し、親権者に措置先を伝えておらず、児童養護施設から直接連絡することができない状況であったため、親権者の意向を確認することができなかった。 児童養護施設は、児童相談所に相談の上、施設長の判断により、安全に配慮した上 で、本児を単独でも外出させることにした。 | ||
2 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
12 歳・男 | 養育困難 | |
【事例の内容】 児童養護施設は、平成 30 年度に中学校へ進学した児童について、自転車による通学を行わせようとした。 児童養護施設は、自転車による通学に当たって、通学路の安全上の観点から、親権者に対して同意書を送付したが、それが中学校への通学が始まるまでに返送がなかったため、他の児童は自転車で通学を行う中、本児のみが徒歩で通学した。 その後、親権者に対して、同意書の記入と返送を依頼し続けた結果、半年ほど後に 同意を得ることができた。 | ||
3 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
15 歳・女 | 親の精神疾患による養育困難 | |
【事例の内容】 児童養護施設は、高校に進学した児童について、措置解除後に携帯電話の使用によるトラブルが生じることを未然に防ぐため、あらかじめ携帯電話の適切な使用方法を習得させるべく所持を認めようとした。 携帯電話の所持に当たって、ⅰ)その教育的な目的の趣旨について親権者等にも認 識を共有してもらうこと、ⅱ)年齢に応じた携帯電話の使用方法など、場合によって |
は親権者等にも児童の指導に対して貢献してもらうことを目的として、親権者の同意 を得て所持させた。 | ||
4 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
8 歳・男 | ネグレクト | |
【事例の内容】 新規に入所した児童について、今後、散髪が必要となることが想定された。 本児童養護施設は、以前、散髪は軽微な日常に関する行為であることから書面による親権者等からの同意は得ずに行っていたが、5 年ほど前に、同意を得ずに児童の散髪を行ったことに対して、親権者から苦情があったため、それ以降は親権者から同意 を得ており、本児についても親権者から同意書にサインを得て散髪を行った。 | ||
5 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
3 歳・女 | ネグレクト | |
【事例の内容】 新規に入所した児童について、今後、散髪が必要となることが想定された。 本児童養護施設では、散髪に関する親権者等からの苦情を避けるため、親権者等から同意を得ることとしているが、本児の親権者は本児の髪型に強いこだわりがあったため、散髪への同意が得られなかった。 その結果、髪が腰まで伸び、入浴介助が必要になったり、就寝時にまとわりついたりするなど、生活する上で不便な状態となり、加えて、幼稚園からプール指導が困難との報告を受けた。 このため、児童養護施設は児童相談所に依頼し、再度、親権者に連絡を取ったもの の、連絡がつかなかったため、施設長の判断で散髪を行った。 | ||
6 | 児童の属性 | 措置に至った要因 |
5 歳・女 | 母親の住所不定による養育困難 | |
【事例の内容】 新規に入所した児童について、今後、散髪が必要となることが想定された。 本児童養護施設では、親権者等によっては児童の髪型にこだわりを持ち、同意を得ずに散髪を行うことでトラブルが発生するおそれがあることから、散髪について親権者等の同意を得ることとしているが、本児の親権者は本児の髪型に強いこだわりがあり、本児が乳児院に在籍していた頃から、髪を切らないように主張しており、散髪への同意が得られなかった。 そのため、入所から 5 年ほど髪を切ることができず、髪が腰程度の長さまで伸びており、日常生活を行う上で不便な状態となっていた。その後、髪を切りたいとする本 児の意向を本児童養護施設から親権者に伝えることで散髪を行うことができた。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢は事例発生当時の年齢
今回の調査結果から、児童養護施設においては、親権者等の同意を求めることなく、施設長の監護措置の範囲内で対応できるとみられるケースでも、まずは親権者等の意向を確認したり、同意を求めることとし、そのために相当の労力を費やしていた。その根底には、何か事が起きた際のリスク管理のほか、児童が施設を離れ、家族の元に戻る、自立していくに際し、親権者等との関係を再構築する上で支障が出ないようにとの思いがあるとの声が聴かれた。
児童の生命・身体に侵害があるなどの緊急時を除き、「医療関係」や「契約関係」といった民事に関するものは相手方との関係で、また、将来の進路を決めるようなステップでは、現実的な対応として、親権者等の同意を得ておく、その意向を確認しておくことが必要な場面もあろう。
しかし、児童を養育する役割・責任を持ちながら、児童が日常生活を営む中で直面する行為について、逐一親権者等の同意を得る、意向を確認することが常態では、児童に対する十全な監護措置を求められる施設長等の負担は計り知れない。
他方、「公的手続関係」でみたように、厚生労働省が具体的な対処法を示し、これに沿った対応がなされている実態があることに鑑みれば、施設長等が養育現場で直面している実例を踏まえ、現場の実対応として、親権者等の同意が得られない場合にどのように対処すればよいか具体的に示すことや、法律面・実際面を含めた対処法について相談ができ、また、各地の対処例が容易に参照できる仕組みを設けるなど、施設長等がその監護措置を十全に発揮できるよう支援していく必要があると考える。
【所見】
したがって、厚生労働省は、施設長等が十全に監護措置を採ることができるよう、親権者等との同意をめぐる各地の現場実例を踏まえた支援方策を検討し、所要の措置を講ずる必要がある。
⑵ 被措置児童に対する虐待の発見とその対応
【制度の概要】
児童養護施設の職員等による同施設に入所中の児童等(以下「被措置児童」という。)に対する虐待 40は禁止されている(児童福祉法第 33 条の 11)。このことは、児童福祉 施設の設備及び運営に関する基準 41にも明記され、都道府県知事による報告徴求、立入 検査、改善命令の対象となる(児童福祉法第 46 条)。
当該基準の遵守状況について、都道府県等は、1 年に 1 回以上、実地検査するものとされている(児童福祉法施行令第 38 条)。
40 虐待の種別には、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待がある(資料 3-⑵-①)。
41 昭和 23 年厚生省令第 63 号
被措置児童に対する虐待に関しては、発見者に都道府県、児童相談所、市町村などに通告する義務が課されており(児童福祉法第 33 条の 12 第 1 項)、虐待を受けた被措置
児童本人も届出ができる(同法第 33 条の 12 第 3 項)。
全国の被措置児童等に対する虐待の通告・届出の受理件数は、表 3-⑵-①のとおり、通告・届出は毎年度約 250 件程度で推移している(資料 3-⑵-②、③参照)。
表 3-⑵-① 被措置児童等に対する虐待の通告・届出の受理件数の推移
平成 26 年度 | 27 年度 | 28 年度 | 29 年度 | 30 年度 |
218 件 | 233 件 | 255 件 | 276 件 | 246 件 |
(注)1 厚生労働省の資料に基づき、当省が作成した。
2 受理件数には、被措置児童のほか一時保護所に入所中の児童に関する通告・届出件数が含まれる。
厚生労働省は、被措置児童本人からの届出を促す環境整備の一環として、都道府県等に対し、「子どもの権利ノート」の作成、配布を推奨しており 42 43、こうした取組が被措置児童本人からの届出増加に寄与している可能性がある。
通告・届出を受けた児童相談所を含む各機関は、事実確認等の必要があると認めるときは、速やかに都道府県知事に通知しなければならない(児童福祉法第 33 条の 14 第 3
項及び第 33 条の 15 第 1 項)。
通告・届出又は通知を受けた都道府県等は、事実確認を行い(児童福祉法第 33 条の
14 第 1 項)、被虐待児童等及び生活を共にする児童の保護を図るため、適切な措置を講
ずるものとされている(児童福祉法第 33 条の 14 第 2 項)(資料 3-⑵-④参照)。
通告・届出又は通知を受けて行われた事実確認の結果、虐待の事実が認定されたものは、表 3-⑵-②のとおり、各年度とも、おおむね 3 割強となっている(資料 3-⑵-⑤参照)。
42 「被措置児童等虐待対応ガイドライン」(平成 21 年 3 月 31 日付け雇児xx第 0331002 号厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長/障障発第 0331009 号厚生労働省社会・援護局障害福祉部障害福祉課長通知)
43 子どもの権利ノートは、平成 7 年に大阪府が児童養護施設で生活する子供を対象に作成したものが全国に広がったとされている。その内容について、児童養護施設に措置された児童用には、施設での集団生活やルールなど、里親に委託された児童用には、「里親とはどんな人か」、「里親を何と呼べばよいか」などが記載されているほか、共通して、虐待を受けた場合の対処方法が記載されている。
表 3-⑵-② 事実確認件数、虐待事例数の推移
区 分 | 平成 26 年度 | 27 年度 | 28 年度 | 29 年度 | 30 年度 | |
事実確認件数 | 224 件 | 237 件 | 269 件 | 286 件 | 280 件 | |
うち虐待事例数 | 62 件 (27.7%) | 83 件 (35.0%) | 87 件 (32.3%) | 98 件 (34.3%) | 95 件 (33.9%) |
(注)1 厚生労働省の資料に基づき、当省が作成した。
2 括弧書きの数値は、事実確認件数に占める虐待事例数の割合を示す。
3 当年度中に事実確認を行った件数であり、受理件数とは一致しない。
4 事実確認件数には、被措置児童のほか一時保護所に入所中の児童に関する件数が含まれる。
都道府県知事は、事実確認の結果を含め講じた措置、被虐待児童等の状況については、都道府県児童福祉審議会に報告しなければならず(児童福祉法第 33 条の 15 第 2 項)、
報告を受けた都道府県児童福祉審議会は意見を述べることができる(児童福祉法第 33
条の 15 第 3 項)。
【調査結果】
ア 監査の状況
調査した 34 都道府県等 44(23 都道府県及び 11 市町村)における児童養護施設の設備・運営基準の遵守状況の監査について、被措置児童に対する虐待に係る監査項目をみたところ、被措置児童に対する虐待の有無を確認することとしているものは 14 都道府県等にとどまり、19 都道府県等は施設内虐待の予防方針、発見時の対応など体制面の確認を行うこととしていた。
これは、厚生労働省が示す指導監査の着眼点が、虐待防止体制が整っているか、といった内容となっている 45ことに起因するものと考えられる。
なお、1 都道府県等は、「児童養護施設から被措置児童虐待に関する通告・届出がある都度、当該施設を調査しているため、指導監査の項目を設ける必要性を感じていない」として、監査時には、被措置児童に対する虐待の有無、体制面いずれも確認しないこととしていた。
44 34 都道府県等のうち 2 都道府県等では、指導監査や被措置児童等虐待通告・届出に係る業務を担当する児童相談所を調査した。
45 厚生労働省は、児童養護施設で施設内虐待が多発したことを受け、各都道府県等に対して「児童福祉施設における施設内虐待の防止について」(平成 18 年 10 月 6 日付け雇児総発第 1006001 号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知)を発出し、その中で、児童福祉行政指導監査を実施する場合には、施設内虐待に係る事件及び事故の防止並びに早期発見に努めることとしている(資料 3-(2)-⑥参照)。他方、「「児童福祉行政指導監査の実施について」の着眼点について」(平成 21 年 6 月 29 日付け雇児xx第 0629002 号の 2 厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課長通知)では、次のような着眼が示されている。
ア 施設の規定に懲戒に係る権限の濫用の禁止に関する事項が盛り込まれているか。
イ 施設内虐待及び子ども間のいじめの早期発見、予防するための取組方針が明文化されているか。また、適切に取り組むための体制の整備がされているほか、取組状況が記録されているか。
ウ 施設内虐待を発見したときに職員がとるべき対応や手続が定められているか。
エ 施設内虐待や体罰の禁止、その他の子どもの権利擁護に関する研修が実施されているか。オ 第三者評価を受審し、評価結果に基づいた改善計画が作成され、実施されているか。
実際の監査の現場では、職員に対する聞き取りのほか、入所児童のケース記録、施設内の会議録や事故報告などを確認している。その中で、虐待事案の発見につながる端緒を見つけた例が表 3-⑵-③のとおりみられた。
表 3-⑵-③ 指導監査時に虐待事案発見の端緒を見つけた例
№ | 事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 認定された虐待の種別 |
8 歳・女 | 身体的虐待 | |
【事例の内容】 関係を確認するなどして、虐待の認定に至った。 | ||
2 | 児童の属性 | 認定された虐待の種別 |
9 歳・男/9 歳・男 | 身体的虐待/心理的虐待 | |
【事例の内容】 都道府県等の職員が、児童養護施設に保管されていた「会議録」を確認したところ、約 2 か月前に被措置児童らに対する虐待が疑われる事案が発生していたこと (「学校から虐待の連絡あり 47」との記載)を発見した。施設に事実関係を確認す るなどして、虐待の認定に至った。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢は虐待を受けた当時の年齢
厚生労働省は、指導監査の着眼点として、都道府県等が被措置児童に対する個々の虐待事案の有無を確認することを求めていないが、上記のとおり、ケース記録や事故報告などを確認するなどして虐待事案を発見した例もあった。
こうした現場の取組は、被措置児童に対する虐待を発見する一つの手掛かりとなるものと考えられる。
46 当該児童養護施設は虐待の疑いがある行為が発覚した段階で、児童相談所に通告していたが、児童相談所は都道府県知事に通知してなかった(当時の記録がなく、未通知の理由は不明)。
47 虐待された児童と同じ学校に通う児童が、当該施設外で発生した上記の行為を目撃し、学校に報告した。
イ 通告・届出、通知の運用状況
調査した 34 都道府県等における通告・届出の実績をみると、地域によって被措置
児童数の多寡はあるものの、過去 5 年間で 100 件超の都道府県等がある一方で、実績ゼロという都道府県等も存在した。
虐待発見のための取組(今後実施予定のものを含む)をみたところ、
①児童相談所職員による児童との面談、児童に対するアンケートなど(13 都道府県等)
③「子どもの権利ノート」の作成・配布(32 都道府県等)49となっていた。
上記②の例として、例えば、表 3-⑵-④のとおり、「安全委員会方式」と呼ばれ、外部の「目」を取り入れることで、虐待発見の適正化を図ろうとする取組があり、虐待発見につながった実績もある。
表 3-⑵-④ 外部有識者による点検の例
事例の概要 | |
児童の属性 | 認定された虐待の種別 |
13 歳・女/12 歳・女 | 性的虐待/心理的虐待 |
【事例の内容】 1 都道府県等の一部の児童養護施設では、施設の基幹職員が全児童を対象に毎月 1回、個別に聞き取り調査を行い、定期的に、外部委員を含む安全委員会に報告している。報告を受けた安全委員会は事案の調査や対応策を審議する。 実際に、平成 30 年 9 月、施設の基幹職員による聞き取り調査において、被措置児童 本人の申出から施設職員による不適切な行為が発覚し、同年 10 月に安全委員会が調 査、審議した結果、施設から都道府県知事に虐待として通告した例(通告後、虐待として認定)がある。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢は虐待を受けた当時の年齢
上記③の「子どもの権利ノート」については、32 都道府県等 50のうち 8 都道府県等で「子どもの権利ノート」を活用した被措置児童本人からの届出の実績がみられ、一
48 5 都道府県等には、一部の児童養護施設等に外部有識者による点検を実施しているものが含まれる。
49 2 都道府県等は、各児童養護施設において、「子どもの権利ノート」を作成し、配布しているため、都道府県等として作成・配布はしていないとしている。もっとも、そのうち 1 都道府県等の管内の児童養護施設において作成・配布の状況を確認したところ、調査した 3 施設のうち 2 施設で未作成という事実が判明した。
50 32 都道府県等には、「子どもの権利ノート」を活用した被措置児童本人からの届出の実績を「不明」とする
4 都道府県等が含まれる。
定の効果があるとみられるが、里親に養育委託された児童(xx)に対して、必ずしも十分に配布されていない状況がみられた。
具体的には、32 都道府県等のうち 12 都道府県等では、児童養護施設に入所する児童には配布していたが、xxには未配布という実態がみられた。
その主な理由は、ⅰ)xxは乳幼児が多く、内容を理解できない、ⅱ)xxの中には、xxであることを伝えていない(xx告知をしていない)といったやむを得ない事情のほか、ⅲ)xx向けの「子どもの権利ノート」を作成していないとするものであった。
これは、調査日(令和元年 12 月)時点において、厚生労働省が児童養護施設入所児童向けの「子どもの権利ノート」のひな形のみを示し、xx向けを示していないことが一因ではないかと考えられる。
なお、調査した 34 都道府県等の平成 30 年度末時点の要保護児童数(2 万 2,766 人
51)のうち、児童養護施設に入所している就学児童(1 万 3,006 人 52)及び里親に委託
されている就学児童(2,172 人 53)を元に、34 都道府県等における「子どもの権利ノート」の配布状況を踏まえて配布・未配布の人数及び割合を試算すると、表 3-⑵-⑤のとおり、「子どもの権利ノート」の内容を理解できる年齢にもかかわらず、配布されていない里親委託児童が一定数(1,050 人)いることが推察される。
表 3-⑵-⑤ 施設入所又は里親委託の就学児童への権利ノート配布状況(推計)
区 分 | 配布 | 未配布 | 計 | |||
人数 | 割合 | 人数 | 割合 | 人数 | 割合 | |
児童養護施設入所 | 12,930 人 | 99.4% | 76 人 | 0.6% | 13,006 人 | 100% |
里親委託 | 1,122 人 | 51.7% | 1,050 人 | 48.3% | 2,172 人 | 100% |
(注)厚生労働省「福祉行政報告例」及び当省の調査結果による。就学児童数は推計値
上記のような実態であったが、本調査途上の令和 2 年 3 月、厚生労働省は「児童福祉審議会を活用した子どもの権利擁護の取組について」54を発出し、その中で、里親家庭で生活している子供向けの「子どもの権利ノート」の参考例を示した(資料 3- (2)-⑦参照)。
51 乳児院、児童養護施設、児童心理治療施設、児童自立支援施設、里親、ファミリーホームに在籍する児童数の合計
52 児童養護施設入所児童数及び里親委託児童数に、「児童養護施設入所児童等調査の結果(平成 30 年 2 月 1 日現在)」(厚生労働省)における就学児童(児童の年齢:7 歳以上)の割合(児童養護施設入所児童:83.0%、里親委託児童:69.2%)を乗じて推計した児童数
53 前出 52 参照
54 令和 2 年 3 月 31 日付け子家発 0331 第 1 号厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課長通知
表 3-⑵-⑥ 児童相談所が虐待の疑いがある事案を都道府県知事に通知していない事例
№ | 主な事例の概要 | |
1 | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 |
13 歳・男 | 身体的虐待 | |
【事例の内容】 児童養護施設において虐待が疑われる事案が発生し、当該施設は児童相談所に電話で一報した。また、後日、児童福祉司の定期面談時に事案の詳細を伝え、このことにより通告したものと考えていた。 しかし、児童相談所は、上記連絡を被措置児童の行動等に関する相談と捉え、 虐待事案として取り扱わなかったため、都道府県知事に通知しなかった。 | ||
2 | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 |
15 歳・女 | 心理的虐待 | |
【事例の内容】 児童養護施設の近隣住民から児童相談所に、虐待が疑われる事案について通告があった。 しかし、児童相談所は、児童養護施設に事実関係の聴取及び調査結果の提出を依頼し、その結果を確認した上で、ⅰ)被措置児童と施設職員との指導上の行き違いによるトラブルであるとして、虐待に相当する案件とは認められないと判断したこと、ⅱ)既に児童養護施設において被措置児童への対応方法に改善がみら れていることから、都道府県知事に通知しなかった。 | ||
3 | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 |
小学 3 年生・男 | 身体的虐待 | |
【事例の内容】 児童相談所は、児童養護施設に入所する児童との面談において、虐待が疑われる事案を把握し、当該施設に事実関係の確認を依頼した。児童養護施設は、事実関係を確認し、児童相談所に通告した。 しかし、児童相談所は、別途、児童養護施設から都道府県知事に対し、直接、 通告するものと思い込み、都道府県知事に通知しなかった。 |
55 表 3-⑵-⑥に掲げた事例以外の 2 事例については、当時の記録がなく、通知しなかった理由等が不明
4 | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 |
小学 6 年生・男 | 身体的虐待・心理的虐待 | |
【事例の内容】 児童相談所は、ファミリーホームに委託中の児童(虐待が疑われる行為を受けた児童の兄妹)との定期面談において、同じく委託中で広汎性発達障害がある児童への虐待が疑われる事案を把握した。児童相談所は、当該ファミリーホームに委託していた児童 3 人(虐待が疑われる行為を受けた児童を含む。)を一時保護した上で、他の施設に措置変更し、ファミリーホームに対し改善指導を行った。 しかし、児童相談所は、当該ファミリーホームが登録を取り消され、児童の措 置先がなくなることを懸念し、都道府県知事への通知を行わなかった。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢又は学年は虐待が疑われる行為を受けた当時の年齢等
通告・届出については、指導監督権限を有する都道府県等が把握し、通告等事案の確認や都道府県児童福祉審議会への意見聴取などの対応がなされることとなる。
また、通告・届出は、制度上、都道府県知事に対し直接行うことができるばかりでなく、ⅰ)児童が被措置児童と分からない近隣住民等からの通告があった場合を想定したものであり、ⅱ)便宜を考慮して身近な機関に対しても通告・届出を行うことができるよう、児童相談所を含め広く受け付ける仕組みとしたものである。
広く受け付けるとした意図は理解できるものの、上記のとおり、現場では関係者の意思疎通が十分でない、あるいは、児童相談所が自らの役割を理解していない、虐待を受けた被措置児童に寄り添わない態度・思考が伺えるケースがみられた。これらのケースでは、被措置児童の安全確保など一定の対応が採られているが、都道府県等に通知されていないことで、事案処理の客観性を担保し、再発防止策を検証するプロセスを経ていないものとなっている。都道府県等がこうした事案や現場の対応を知り得ないままとなっており、現場対応の客観性担保や再発防止策の検証に支障が生じるおそれがあると考えられる。
こうしたことを踏まえると、単に適正な運用の徹底を要請するにとどまらず、通告・届出、通知の運用実態を把握し、処理フローの見直しを含め、再検証する必要があると考える。
ウ 虐待の認定
調査した 34 都道府県等では、通告等を受け、事実確認を行い、個別事案に即して虐待の有無を判断しているが、都道府県児童福祉審議会からの意見聴取に関して、次のような状況がみられた。
調査した 34 都道府県等のうち 23 都道府県等は、虐待の認定、不認定にかかわらず都道府県児童福祉審議会の意見を聴くとし、今回、当省が抽出調査した事案についても、虐待なしと判断したものを含めて都道府県児童福祉審議会に報告し、その意見を聴いていた。
しかしながら、11 都道府県等は、次のとおり、法令(児童福祉法第 33 条の 15 第 2
項の規定)と異なる取扱い 56となっていた。
① 虐待なしと判断した事案については、都道府県児童福祉審議会の意見を聴かない
② 虐待の認定、不認定にかかわらず都道府県児童福祉審議会の意見を聴くとしながらも、表 3-⑵-⑦のとおり、不認定と判断した事案の一部について、意見を聴いていない(5 都道府県等・6 事例)
表 3-⑵-⑦ 虐待不認定の事案のうち都道府県児童福祉審議会の意見聴取をしなかった例
№ | 事例の概要 | |||
1 | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 | ||
小学 5 年生・男/小学 1 年生・女/4 歳・女 | 心理的虐待 | |||
【事例の内容】 児童養護施設において、虐待が疑われる事案が発覚し、当該施設は都道府県知事に通告した。都道府県等は、当該施設から事案の内容を聞き取ったが、虐待として認定せず、優先度が高い虐待事案への対応やその他の業務が立て込んでいた ため、都道府県児童福祉審議会には報告しなかった。 | ||||
2 | 事例① | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 | |
9 歳・男 | ネグレクト | |||
【事例の内容】 児童養護施設において、虐待が疑われる事案が発生し、警察経由で都道府県知事に通告があった。都道府県等は、事実確認として聞き取り調査等を行ったが、事実関係が確認できなかったため、虐待として 認定せず、都道府県児童福祉審議会には報告しなかった。 | ||||
事例② | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 | ||
14 歳・男 | 心理的虐待 | |||
【事例の内容】 児童養護施設において、虐待が疑われる事案が発生し、被措置児童 |
56 厚生労働省は、事実確認の結果にかかわらず、都道府県児童福祉審議会への報告が必要であるとしている。
57 6 都道府県等のうち 4 都道府県等については、都道府県等が作成する被措置児童等虐待に関する対応方針において、事実確認を行った結果、虐待の事実が認められなかったとき等には、都道府県児童福祉審議会の報告を省略できるとしていた(資料 3-(2)-)。
本人から「子どもの権利ノート」を活用して、都道府県等に届出があった。都道府県等は、事実確認として聞き取り調査等を行ったが、事実関係が確認できなかったため、虐待として認定せず、都道府県児童 福祉審議会には報告しなかった。 | |||
3 | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 | |
18 歳・女 | 心理的虐待 | ||
【事例の内容】 児童養護施設において、虐待が疑われる事案が発覚し、児童養護施設から都道府県知事に通告した。都道府県等は事実確認として聞き取り調査等を行ったが、事実関係が確認できたものの虐待行為とまでは認められないと判断し、虐待とし て認定せず、都道府県児童福祉審議会には報告しなかった。 | |||
4 | 事例① | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 |
7 歳・女 | 身体的虐待 | ||
事例② | 児童の属性 | 疑いがあった虐待の種別 | |
11 歳・男 | 身体的虐待 | ||
【事例の内容】 児童養護施設において、虐待が疑われる事案が発覚し、児童養護施設から都道府県知事に通告した。都道府県等は、事実関係は確認したものの、虐待通告とは捉えず、事故報告として受理したことから、都道府県児童福祉審議会には報告し なかった。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢又は学年は虐待が疑われる行為を受けた当時の年齢等
こうした現場の運用は、厚生労働省の「被措置児童等虐待対応ガイドライン」に、
ⅰ)虐待と判断しなかった事案でも事実確認の結果を都道府県児童福祉審議会に報告すること 58やⅱ)事実確認の結果について都道府県児童福祉審議会に意見を聴くことの目的や意義が明記されておらず、都道府県等がその趣旨を十分理解していないことによるものと考えられる。
しかしながら、今回の当省の調査において、表 3-⑵-のとおり、都道府県児童福祉審議会の意見を聴いた結果、「虐待なし」との都道府県等の原判断が覆り、虐待の認定に至った例があった。
58 「被措置児童等虐待対応ガイドライン」では、事実確認等や被措置児童等の保護等の必要な措置を講じた場合、都道府県(担当部署)は、被措置児童等虐待を受けていた児童の状況や確認できた被措置児童等虐待の状況などを都道府県児童福祉審議会へ報告しながら引き続き対応するとしている(資料 3-(2)-⑨参照)。
表 3-⑵-⑧ 都道府県児童福祉審議会に意見を聞いた結果、虐待なしの判断が覆った例
事例の概要 | |
児童の属性 | 認定された虐待の種別 |
18 歳・男/16 歳・男 | 身体的虐待 |
【事例の内容】 児童養護施設において、虐待が疑われる事案があり、虐待を受けた被措置児童本人から、他の被措置児童への虐待を含めて通告・届出があった。通告等を受けた都道府県等は、聞き取り調査等により事実確認を行ったが、事実関係を確認できたものの虐待事例には当たらないと判断し、虐待「不認定」として、都道府県児童福祉審議会に報告した。 しかし、都道府県児童福祉審議会から報告があった事案は虐待に当たるとの意見が 示されたことから、虐待として認定した。 |
(注)1 当省の調査結果による。
2 児童の年齢は虐待を受けた当時の年齢
虐待の認定・不認定の判断に当たって、都道府県児童福祉審議会は、都道府県知事の虐待の認定・不認定、措置内容の客観性、xx性を担保する仕組みであり、上記のとおり、実際に、虐待なしとの都道府県知事の原判断が覆った事例もある。
このため、都道府県等が虐待なしと判断する事案であっても、都道府県児童福祉審議会からの意見聴取を徹底する必要があると考える。
【所見】
したがって、厚生労働省は、被措置児童に対する虐待の発見とその対応を適切に行うため、次の措置を講ずる必要がある。
① 被措置児童に対する虐待の有無を確認する端緒・機会として、監査の有効性、監査時のチェックポイントを示し、都道府県等に監査時の確認を求めること。
② 虐待に関する通告・届出制度の運用実態を点検すること。その結果を踏まえ、処理フローの見直しを含め、通告・届出が確実に都道府県知事に届く措置を講ずること。
③ 「被措置児童等虐待対応ガイドライン」に、児童福祉法第 33 条の 15 の規定の趣旨・目的、採るべき措置内容を明記し、都道府県児童福祉審議会からの意見聴取の徹底を図ること。