Contract
第10回民法改正ゼミ
平成25年1月29日
第17 保証債務
1 保証債務の付従性(民法第448条関係)
(保証人の負担が主たる債務より重い場合)第448条
保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する
保証債務の付従性に関する民法第448条の規律を維持した上で、新たに次のような規律を付け 加えるものとする。
(1) 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に減縮された場合には、保証人の負担は、主たる債務の限度に減縮されるものとする。
(2) 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重された場合には、保証人の負担は、加重されないものとする。
「概説」
保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が減縮された場合には、保証人の負担もそれに応じて減縮されるとされている判例を明文化。
ex.主債務の弁済期が延期された場合には、その効力は保証債務にも及ぶ。
保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が加重された場合は、一般的な理解を明文化。 ex.主債務の弁済期が短縮された場合には、その効力は保証債務にも及ばない。
2 主たる債務者の有する抗弁(民法第457条第2項関係)
(主たる債務者について生じた事由の効力)第457条
1.主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2.保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
民法第457条第2項の規律を次のように改めるものとする。
(1) 保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができるものとする。
(2) 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の
行使によって主たる債務者が主たる債務の履行を免れる限度で、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができるものとする。
「概説」
主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合について、主たる債務者の相殺のみを定めている民法第457条第2項を改め、規律の明確化を図るものである。
本文(1)は、主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合全般を対象として、一般的な理解を明文化。
一般に、保証人は、保証債務の付従性に基づき、主債務者の有する抗弁を主張することができるとされている。
ex.主債務者が、契約の無効の抗弁(主債務の不発生)、弁済・相殺の抗弁(主債務の消滅)、同時履行の抗弁(主債務の履行請求の阻止)などの抗弁を有する場合には、保証人も、債権者に対してそれらの抗弁を主張することができる。
本文(2)は、主たる債務者が債権者に対して相殺権を有する場合のほか、取消権又は解除権を有する場合に関する近時の一般的な理解を明文化。
一般に、主債務者が取消権又は解除権を有する場合には、保証人は、取消権又は解除権が行使されるかどうかが確定するまでの間、保証債務の履行を拒絶することができると解されているので、主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者が主たる債務の履行を免れる限度で、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができるものとしている。
3 保証人の求償権
(1) 委託を受けた保証人の求償権(民法第459条・第460条関係)
(委託を受けた保証人の求償権)第459条
1.保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する。 2.第442条第2項の規定は、前項の場合について準用する。
(連帯債務者間の求償権)第442条
2.前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第460条
保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。
1.主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
2.債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。
3.債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき。
民法第459条及び第460条の規律を基本的に維持した上で、次のように改めるものとする。
ア 民法第459条第1項の規律に付け加えて、保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務の期限が到来する前に、弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、主たる債務者は、主たる債務の期限が到来した後に、債務が消滅した当時に利益を受けた限度で、同項による求償に応ずれば足りるものとする。
イ 民法第460条第3号を削除するものとする。
「概説」
本文アは、委託を受けた保証人が主たる債務の期限の到来前に弁済等をした場合の求償権について、そのような弁済等は委託の趣旨に反するものと評価できることから、委託を受けない保証人の求償権(民法第462条第1項)と同様の規律とするものである。
(委託を受けない保証人の求償権)第462条
1.主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは、主たる債務者は、その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。
ex.主債務者も保証人も債権者に対する反対債権を有していたところ、債権者の資力が悪化し
たため、保証人が保証債務の期限の利益を放棄して債権者に対して自己の反対債権を自働債権とする相殺を行うことは、保証委託の趣旨に反することがあるとの指摘がされている。
本文イは、そもそも主たる債務の額すら不明であって事前求償になじむ場面ではないという問題点が指摘されていることから、同号を削除するものである。
(2) 保証人の通知義務
(通知を怠った保証人の求償の制限)
第463条
1.第443条の規定は、保証人について準用する。
2.保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、善意で弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、第443条の規定は、主たる債務者についても準用する。
(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)第443条
1.連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、過失のある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
2.連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
民法第463条の規律を次のように改めるものとする。
ア 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人が弁済その他自己 の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず、これを主たる債務者に通知することを怠っている間に、主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の 行為をし、これを保証人に通知したときは、主たる債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
イ 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者が弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたにもかかわらず、これを保証人に通知することを怠っている間に、保証人が善意で弁済その他免責のための有償の行為をし、これを主たる債務者に通知したときは、保証人は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
ウ 保証人が主たる債務者の委託を受けないで保証をした場合(主たる債務者の意思に反して保証をした場合を除く。)において、保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせる行為をしたにもかかわらず、これを主たる債務者に通知することを怠っている間に、主たる債務者が善意で弁済その他免責のための有償の行為をしたときは、主たる債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとする。
「概説」
保証人の事前の通知義務は、廃止するものとしている。委託を受けた保証人については、履行を遅滞させてまで主たる債務者への事前の通知をする義務を課すのは相当ではないという問題点が指摘されており、また、委託を受けない保証人については、主たる債務者が債権者に対抗することのできる事由を有していた場合には、事前の通知をしていたとしてもその事由に係る分の金額については求償をすることができない(同法第462条第1項、第2項)のであるから、これを義務づける意義が乏しいという問題点が指摘されていることを考慮したものである。
4 連帯保証人に対する履行の請求の効力(民法第458条関係)
(連帯保証人について生じた事由の効力)第458条
第434条から第440条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。
第434条(連帯債務者の一人に対する履行の請求)第435条(連帯債務者の一人との間の更改)
第436条(連帯債務者の一人による相殺等)第437条(連帯債務者の一人に対する免除)第438条(連帯債務者の一人との間の混同)
第439条(連帯債務者の一人についての時効の完成)第440条(連帯債務者についての破産手続の開始)
連帯保証人に対する履行の請求は、当事者間に別段の合意がある場合を除き、主たる債務者に対してその効力を生じないものとする。
(注)連帯保証人に対する履行の請求が相対的効力事由であることを原則としつつ、主たる債務者と連帯保証人との間に協働関係がある場合に限りこれを絶対的効力事由とするという考え方があ る。
「概説」
連帯保証人に対する履行の請求の効力が主たる債務者にも及ぶことに対しては、連帯保証人は主たる債務者の関与なしに出現し得るのであるから、主たる債務者に不測の損害を与えかねないという問題点が指摘されている。そこで、当事者間に別段の合意がない場合には、連帯保証人に対する履行の請求は、主たる債務者に対してその効力を生じないものとしている。この点に関しては、相対的効力事由であることを原則としつつ、連帯保証人と主たる債務者との間に請求を受けたことの連絡を期待できるような協働関係がある場合に限り絶対的効力事由とする旨の規定に改めるという考え方があり、これを(注)で取り上げている。
5 根保証
(貸金等保証契約の保証人の責任等)第465条の2
1.一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下
「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他そ の債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2.貸金等保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3.第446条第2項及び第3項の規定は、貸金等保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。
(貸金等保証契約の元本確定期日)第465条の3
1.貸金等保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じな
い。
2.貸金等保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その貸金等保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。
3.貸金等保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。
4.第446条第2項及び第3項の規定は、貸金等保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。
(貸金等保証契約の元本の確定事由)第465条の4
次に掲げる場合には、貸金等保証契約における主たる債務の元本は、確定する。
一 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の
開始があったときに限る。
二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
(1) 民法第465条の2(極度額)及び第465条の4(元本確定事由)の規律の適用範囲を拡大し、 保証人が個人である根保証契約一般に適用するものとする。
(2) 民法第465条の3(元本確定期日)の規律の適用範囲を上記(1)と同様に拡大するかどうかについて、引き続き検討する。
(3) 一定の特別な事情がある場合に根保証契約の保証人が主たる債務の元本の確定を請求することができるものとするかどうかについて、引き続き検討する。
「概説」
本文(1)は、適用範囲を拡大し、主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれないものにまで及ぼすものである。根保証契約を締結する個人にとって、その責任の上限を予測可能なものとすること(極度額)や、契約締結後に著しい事情変更に該当すると考えられる定型的な事由が生じた場合に、その責任の拡大を防止すべきこと(元本確定事由)は、貸金等債務が含まれない根保証にも一般に当てはまる要請であると考えられるからである。
本文(2)
例えば、建物賃貸借の保証に関して、賃貸借契約が自動更新されるなどして継続しているのに根保証契約のみが終了する場合など。
本文(3)
主債務者と保証人との関係、債権者と主債務者との関係(取引態様)、主債務者の資産状態に著しい事情の変更があった場合などの元本確定請求。
6 保証人保護の方策の拡充
(1) 個人保証の制限
次に掲げる保証契約は、保証人が主たる債務者の[いわゆる経営者]であるものを除き、無効とするかどうかについて、引き続き検討する。
ア 主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれる根保証契約であって、保証人が個人であるもの
イ 債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が個人であるもの
「概説」
保証契約は、不動産等の物的担保の対象となる財産を持たない債務者が自己の信用を補う手段
として、実務上重要な意義を有しているが、その一方で、個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるような事例が後を絶たないことから、原則として個人保証を無効とする規定を設けるべきであるなどの考え方が示されている。これを踏まえ、民法第465条の2第1項にいう貸金等根保証契約(本文ア)と、事業者の貸金等債務
(同項参照)を主たる債務とする個人の保証契約(本文イ)を適用対象として個人保証を原則的に無効とした上で、いわゆる経営者保証をその対象範囲から除外するという案について、引き続き検討すべき課題として取り上げている。適用対象とする保証契約の範囲がアとイに掲げるものでよいかどうか(例えば、イに関しては、債務者が事業者である債務一般を主たる債務とする保証契約であって、保証人が個人であるものにその範囲を拡大すべきであるという意見がある。)、除外すべき
「経営者」をどのように定義するか等について、更に検討を進める必要がある。
例外的に個人保証を許容すべき場合の主たる債務として、例えば、①居住用建物の賃貸借契約に基づく賃借人の債務、②医療契約に基づく患者の債務、③高齢者施設等の利用契約に基づく利用者の債務、④奨学金の貸与に係る契約に基づく借主の債務(分科会資料3第1、2(3)参照)等
(2) 契約締結時の説明義務、情報提供義務
事業者である債権者が、個人を保証人とする保証契約を締結しようとする場合には、保証人に対し、次のような事項を説明しなければならないものとし、債権者がこれを怠ったときは、保証人がその保証契約を取り消すことができるものとするかどうかについて、引き続き検討する。
ア 保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うこと。
イ 連帯保証である場合には、連帯保証人は催告の抗弁、検索の抗弁及び分別の利益を有しないこと。
ウ 主たる債務の内容(元本の額、利息・損害金の内容、条件・期限の定め等)
エ 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合には、主たる債務者の[信用状況]
「概説」
契約締結時の説明義務・情報提供義務に関する規定を設けることについて、引き続き検討すべき課題として取り上げたものであり、前記(1)の検討結果を踏まえた上で、更に検討を進める必要がある。取り分け主たる債務者の「信用状況」(本文エ)に関しては、債権者が主たる債務者の信用状況を把握しているとは限らず、仮に把握していたとしても企業秘密に当たるという意見がある一方で、契約締結時に債権者が知っているか、又は容易に知ることができた主たる債務者の財産状態(資産、収入等)や、主たる債務者が債務を履行することができなくなるおそれに関する事実(弁済計画等)を説明の対象とすることを提案する意見があったことなどを踏まえて、説明すべき要件とその具体的内容等について、更に検討する必要がある。
(3) 主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
事業者である債権者が、個人を保証人とする保証契約を締結した場合には、保証人に対し、以下のような説明義務を負うものとし、債権者がこれを怠ったときは、その義務を怠っている間に発生した遅延損害金に係る保証債務の履行を請求することができないものとするかどうかについて、引き続き検討する。
ア 債権者は、保証人から照会があったときは、保証人に対し、遅滞なく主たる債務の残額[その他の履行の状況]を通知しなければならないものとする。
イ 債権者は、主たる債務の履行が遅延したときは、保証人に対し、遅滞なくその事実を通知しなければならないものとする。
(概要)
主債務についての期限の利益の喪失を回避する機会を保証人に付与するために、主債務者の返済状況を保証人に通知することを債権者に義務付ける等の方策について、引き続き検討すべき課題として取り上げたものである。前記(1)の検討結果を踏まえた上で、主たる債務者の履行状況などに関して説明すべき要件とその具体的内容等について、更に検討を進める必要がある。
(4) その他の方策
保証人が個人である場合におけるその責任制限の方策として、次のような制度を設けるかどうかについて、引き続き検討する。
ア 裁判所は、主たる債務の内容、保証契約の締結に至る経緯やその後の経過、保証期間、保証人の支払能力その他一切の事情を考慮して、保証債務の額を減免することができるものとする。 イ 保証契約を締結した当時における保証債務の内容がその当時における保証人の財産・収入に照らして過大であったときは、債権者は、保証債務の履行を請求する時点におけるその内容がその時点における保証人の財産・収入に照らして過大でないときを除き、保証人に対し、保証債務 の[過大な部分の]履行を請求することができないものとする。
(概要)
保証契約については、特に情義に基づいて行われる場合には、保証人が保証の意味・内容を十 分に理解したとしても、その締結を拒むことができない事態が生じ得ることが指摘されており、保証 人が個人である場合におけるその責任制限の方策を採用すべきであるとの考え方が示されている。これについての立法提案として、本文アでは身元保証に関する法律第5条の規定を参考にした保 証債務の減免に関するものを取り上げている。これは、保証債務履行請求訴訟における認容額の 認定の場面で機能することが想定されている。本文イではいわゆる比例原則に関するものを取り上げている。これらの方策は、個人保証の制限の対象からいわゆる経営者保証を除外した場合(前
記(1)参照)における経営者保証人の保護の方策として機能することが想定されるものである。もっとも、以上については、前記(1)の検討結果を踏まえる必要があるほか、それぞれの具体的な制度設計と判断基準等について、更に検討を進める必要がある。