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令和3年3月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官令和2年(ワ)第23017号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和3年2月16日
判 決
5
x x 株 式 会 社 グ ラ ナ ー ク
同訴訟代理人弁護士 x x x
10 被 告 株 式 会 社 イ ヅ ミ 企 画
(以下「被告会社」という。)
被 告 A
15 ( 以下「被告A 」という。)
主 文
1 被告らは,原告に対し,連帯して,55万円及びこれに対する令和2年6月
1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
20 3 訴訟費用は,これを20分し,その19を原告の負担とし,その余を被告ら
の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
25 被告らは,原告に対し,連帯して,1111万円及びこれに対する令和2年
6月1日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,主に建物損害調査事業及びコンサルティング事業等を営む原告が,同業者である被告会社の代表取締役である被告Aは,インターネット上のブログにおいて,原告が,顧客の保険金から複数社で利益を分け合い,「余ったカネ」
5 で「粗末な工事」を行う「怪しい業者」であるなどという虚偽の内容を含む記
事を投稿し,もって競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為(不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号)をしたことにより,原告は信用毀損及び営業妨害等の損害を被ったなどと主張して,被告Aに対しては民法709条又は不競法4条に基づき,被
10 告会社に対しては会社法350条又は不競法4条に基づき,連帯して,111
1万円(同法5条2項損害)及びこれに対する不法行為の終了日である令和2年6月1日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金を支払うよう求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない事実)
15 ⑴ 当事者
ア 原告は,( 所在地は省略 )に本店を置き,主に建物損害調査事業及びコンサルティング事業等を営む株式会社である。
イ 被告会社は,( 所在地は省略 )に本店を置き,リフォーム工事業等のほか,原告と同様の事業を営む競争関係にある株式会社である。
20 被告Aは,被告会社が設立された平成28年12月1日からその代表取
締役を務めている者である。
⑵ 被告らによる本件記事の投稿
ア 被告会社の代表取締役である被告Aは,令和元年9月21日付けで,「(名称は省略)」と題するインターネット上のブログ(甲3。以下「本件ブログ」
25 という。)において,「A的怪しい業者3選」と題する記事(以下「本件記
事」という。)を投稿した(以下「本件行為」という。)。
イ 本件記事には,「そんなもんで2019年9月時点での『A的怪しい業者
3選』を発表します。 工務店や屋根屋さんではなく, ①ネット集客をしている業者で ②明らかに一社完結で業務を行なっていない。一般社団法人などの法人格を使用している。 ③都内の雑居ビルやマンションの一
5 室が会社所在地だけど本当に建築屋さんかしら? ④そもそも会社名をわ
からせようとしていない(わかりづらい別ページへのリンクでようやく判明するレベル) その他にも日々の動きが全く見えない。会社名で検索しても関連記事が出てこないなど私Aの独断と偏見であることを予め伝えておきます。」などと記載されている。
10 また,本件記事には,「(名称は省略)(株式会社グラナーク)」と記載さ
れ,その下側に,原告の「(名称は省略)」というホームページのURL及び同ページのスクリーンショットが貼り付けられた上で,その下側に,「このような『申請屋』さんが多いのでこの業界のイメージは非常に悪いです。なんとなく想像つきますよね?これらの業者へ依頼した後の流れ。複数社
15 であなたの保険金から利益を分け合い余ったカネで粗末な工事をするので
しょう。 もし近所に一社完結で火災保険活用型修繕・リフォームをできる業者さんがいなければあなた自身が申請の流れを理解し,付き合いのある建築業者さんと一緒に申請に取り組んでみて下さい。奥の手やコツなんてありません。簡単です。せっかくの保険金を無駄にしないためにも依頼
20 する業者の選定にはくれぐれもご注意下さい。」などと記載されている。
⑶ 本件記事の削除
本件記事は,令和2年6月1日をもって削除された。
本件記事の掲載期間は,令和元年9月21日から令和2年6月1日までの
8か月12日(255日)である(以下「本件掲載期間」という。)。
25 2 争点及びこれに関する当事者の主張
⑴ 被告Aに関する不競法2条1項21号及び4条又は民法709条に基づく
損害賠償責任の成否並びに被告会社に関する不競法2条1項21号及び4条又は会社法350条に基づく損害賠償責任の成否(争点1)
ア 原告の主張
被告Aが被告会社の代表取締役としてその業務の一環として行った本件
5 記事を投稿する本件行為は,原告が,①「余ったカネ」で「粗末な工事」
を行っている旨の事実,②運営主体や会社所在地を偽り容易に判明しないように工作するなどの行為をしている旨の事実,③そのため「怪しい業者」であり業界のイメージを非常に悪くしている旨の事実を告知又は流布するものである。
10 しかし,①原告が,実際に建物損害調査事業及びコンサルティング事業
を行うに当たっては,その具体的な業務内容や費用の明細を適切に顧客に説明した上で,予め業務委託契約を締結しており,「余ったカネ」が存在する事実や,「粗末な工事」を行った事実は存在しない。また,②原告は,ホームページ上に会社概要や会社ホームページのリンク先を記載するととも
15 に,分かりやすい位置に会社名や会社ロゴも掲載している上,事業やサー
ビスの内容について具体的かつ詳細に記載しており,運営主体や会社所在地を偽り容易に判明しないように工作するなどの行為に及んだ事実も存在しない(甲5,6)。さらに,③原告は,事業開始から現在までの全ての期間において,法令を遵守し,適正な事業活動を行っており,被告らが指摘
20 するような「怪しい業者」であるとか,業界のイメージを非常に悪くした
などという事実も存在しない。このように,本件記事の摘示事実は,全くの虚偽であり,原告の営業上の信用を害するものであるから,本件行為は,不競法2条1項21号の不正競争行為及び不法行為に当たる。
したがって,被告Aは,民法709条又は不競法4条に基づき,被告会
25 社は,会社法350条又は不競法4条に基づき,原告に生じた損害を連帯
して賠償する責任を負う。
x 被告らの主張
原告の主張は,否認ないし争う。
被告Aは,本件記事において,主観的な心情を吐露したにすぎないし,原告のみを特定した評価ではなく,業務の行い方や様式を広く指している
5 ものであり,一般社団法人日本損害保険協会が注意喚起している内容と比
較しても特段強い指摘とは判断できない。そのため,本件記事の内容は,xxであるか虚偽であるかの議論に馴染まないものである。
⑵ 原告の損害の有無及び額(争点2)ア 原告の主張
10 原告は,本件行為によって,信用毀損や営業妨害等の被害を受け,営業
上の損害が生じている。
被告会社は,直近2,3年間で約2億円の売上があったとされているところ(甲7),これを前提とすれば,1年間の売上は約6666万円となる。そのうち,リフォーム工事業,建物損害調査事業及びコンサルティング事
15 業の粗利益率は,少なく見積もって25%程度であると考えられるため,
1年間の粗利益額は,1666万5000円(=6666万円×0.25)となる。そして,本件掲載期間は約8か月間であるから,被告会社は,当該期間中に1111万円(=1666万5000円÷12月×8月)の粗利益を得ていたこととなる。
20 したがって,原告の損害額は,不競法5条2項により,1111万円と
推定される。 x 被告らの主張
原告の主張は,否認する。
被告が管理する本件ブログのアクセス数はわずかであり,本件記事は本
25 件掲載期間中に566回しかアクセスされていない。また,原告訴訟代理
人と被告Aが初めて連絡をとった令和元年5月頃にアクセスが集中してい
るため,原告側のアクセスを除くアクセス数は500回程度と推察できる。このうち,本件記事に対する日本国内からのアクセスは61%であり,残りの39%は海外からのアクセスであるところ,本件記事は国際色のある話題ではない上に外国語での記載もないため,海外からのアクセスは,い
5 わゆるBOTやクローラーと呼ばれる自動循環システムによる無人アクセ
スであると推察できる。したがって,本件記事の実質的閲覧者は,多くみても300人程度であり,この中には管理者である被告ら及びその関係者も含まれる。そして,被告らは,本件ブログを経由した問い合わせを一度も受けたことがない。
10 このように,本件記事に対するアクセス数の少なxx,被告らが原告代
理人の要請に応じて本件記事を即日非公開とした対応に鑑みれば,原告が本件行為によって被った損害は存在しないと考えられるし, 仮に本件記事に対する閲覧数に対して1%の問い合わせ率及び0.5%の成約率があると仮定しても,不競法5条2項によって推定される損害の額は, せいぜい
15 実質的閲覧者の数300に0.005を乗じた1.5件の受注をした際に
得られる利益と考えるのが妥当である。第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認
20 められる。
⑴ 原告は,インターネット上に会社ホームページ及び建物損害調査事業専用のホームページ(名称は省略)を開設しているところ,前者には冒頭に原告の会社名や会社ロゴを掲載している上,会社情報や事業内容等を記載し,後者には建物損害調査事業やサービスの内容の詳細を記載している(甲5,6)。
25 ⑵ 原告の同業者である被告会社の代表取締役である被告Aは,令和元年9月
21日付けで,本件ブログに本件記事(「A的怪しい業者3選」)を投稿した
ところ,これには,前記前提事実⑵イの内容が記載されているほか, 被告Aの写真が掲載された上で,「弊社では火災保険を活用した非常にお得なリフォームを提案しております。お気軽にお問い合わせ下さい。」などと記載されている(甲3)。また,被告らは,同月22日付けで,「㈱イヅミ企画火災保
5 険活用型リフォームA」名で,ツイッター上で,「#詐欺」等のハッシュタグ
を付けた上で,本件ブログのURLを紹介した(甲14)。
⑶ア 原告訴訟代理人は,令和2年5月13日付け内容証明郵便で,被告らに対し,本件記事の削除,本件行為に関する謝罪記事の投稿,本件行為によって原告に生じた損害(400万円)の賠償等を請求した(甲8)。
10 イ 原告訴訟代理人は,令和2年5月15日付けで,被告らに対し,合意書
案を送付した。同合意書案には,⑴被告らが,本件行為によって原告に対して多大な被害を与えたことを反省しその責任を認め,原告に対して深く陳謝するとともに,原告その他の者に対して将来にわたって二度と本件行為と同様の迷惑行為をしないことを約束する旨の条項(第1条),⑵被告
15 らが,同月末日限り,本件記事等をインターネット上から削除する旨の条
項(第2条),⑶被告らが,同日限り,本件行為に関する謝罪記事を,所定の事項(①本件記事が事実ではないこと,②①についての落ち度や責任が被告Aにあること,③本件行為に関する原告に対する謝罪,④今後本件行為と同様の行為をしないこと)を盛り込み,事前にその内容について原
20 告の校閲を受け,その承諾を得た上で,本件ブログに投稿し,その後3年
間は当該謝罪記事を公開の状態にして削除しない旨の条項(第3条),⑷被告らが,本件行為による原告の営業上の損害について責任があることを認め,その損害賠償金として,原告に対し,連帯して,20万円を支払う義務があることを認め,これを同日限り,原告の指定する銀行口座に振り
25 込む方法により支払う旨の条項(第4条),⑸被告らが,原告に対し,当
該合意成立日以降,将来にわたって,①原告の名誉,信用,プライバシー
を毀損又は侵害しないこと,②原告の業務の妨害となるような一切の言動及び行動をしないこと,③本件紛争の内容,当該合意に至る経緯及びその内容について,上記⑶に定めるほか,正当な理由がある場合を除き,第三者に口外しないこと,④被告らが当該合意に違反した場合,違反した回数
5 毎に違約金として100万円を直ちに支払うことを遵守することを約束す
る旨の条項(第5条),⑹原告及び被告らが,原告と被告らとの間には,当該合意書に定めるほか,何らの債権債務がないことを確認する旨の条項
(第6条)がそれぞれ設けられていた。(甲9)
ウ 被告らは,令和2年5月18日付けで,原告訴訟代理人に対し,上記イ
10 の合意書案について,⑴の条項の文言を,被告らが,本件行為を反省し,
原告に対して深く陳謝するとともに,原告に対して将来にわたって二度と 本件行為と同様の迷惑行為をしないことを約束する旨に修正するとともに,
⑶及び⑸④の条項を削除することを依頼する旨の書面をFAX送信した
(甲10)。
15 エ 原告訴訟代理人は,令和2年5月18日付けで,被告らに対し,上記イ
の合意書案を修正した新たな合意書案を送付した。同合意書案では, ⑴の条項が,被告らが,本件行為を反省し,原告に対して深く陳謝するとともに,原告及びその関係者に対して将来にわたって二度と本件行為と同様の迷惑行為をしないことを約束する旨の文言に修正され,⑶の条項が維持さ
20 れ,⑸④の条項が,被告らが当該合意に違反した場合,原告に生じた損害
(弁護士費用その他実費を含むがこれに限られない。)を賠償しなければならない旨の文言に修正されていた。(甲11)
オ 被告らは,令和2年5月28日付けで,原告訴訟代理人に対し,上記エの合意書案について,⑶の条項の謝罪記事のタイトルを「お詫び」とし,
25 その内容を「一部不適切な表現がありましたので内容を削除します。申し
訳ありませんでした」に編集し,当該記事の内容及び掲載期間を指定する
部分を削除するとともに,当該合意の当事者を原告と被告会社の二者とし,被告Aを削除することを求める書面をFAX送信した(甲12)。
x 原告訴訟代理人は,令和2年5月28日付けで,被告らに対し,合意の当事者から被告Aを外すことはできないとするとともに,上記エの合意書
5 案の⑶の謝罪条項における謝罪文の代案を提示する内容の書面を送付した
が,被告Aは,同書面に応答しなかった(甲13,弁論の全趣旨)。
⑷ 被告らは,令和2年6月1日,本件記事を削除した。
2 争点1(被告Aに関する不競法2条1項21号及び4条又は民法709条に基づく損害賠償責任の成否並びに被告会社に関する不競法2条1項21号及
10 び4条又は会社法350条に基づく損害賠償責任の成否)について
⑴ 原告は,被告Aが被告会社の代表取締役としてその業務の一環として行った本件記事を投稿する本件行為は,原告が,①「余ったカネ」で「粗末な工事」を行っている旨の事実,②運営主体や会社所在地を偽り容易に判明しないように工作するなどの行為をしている旨の事実,③そのため「怪しい業者」
15 であり業界のイメージを非常に悪くしている旨の虚偽の事実を告知又は流
布し,原告の営業上の信用を害するものであり,不競法2条1項21号の不正競争行為及び不法行為に当たる旨を主張する。
⑵ そこで,前記前提事実及び前記1の認定事実を踏まえて検討するに,被告 Aは,被告会社の代表取締役として,その業務の一環として本件記事を投稿
20 したところ,そのタイトルを,「A的怪しい業者3選」として,原告の会社名
を記載し,原告のホームページのスクリーンショット等を貼り付けた上で,
「このような『申請屋』さんが多いのでこの業界のイメージが非常に悪いです。」などとしており,原告を「怪しい業者」のうちの一社として特定していることは明らかである。そして,本件記事は,その記載内容に照らし, 主に
25 建物損害調査事業等を営む原告が,①顧客の保険金から複数社で利益を分け
合い,「余ったカネ」で「粗末な工事」を行っている旨の事実,②運営主体や
会社所在地を分からせないようにしている旨の事実,③そのため「怪しい業者」であり業界のイメージを非常に悪くしている旨の事実を告知又は流布するものであるといえる。(前提事実⑵イ,認定事実⑵)
これについて,原告は,①原告が,実際に建物損害調査事業等を行うに当
5 たっては,その具体的な業務内容や費用の明細を適切に顧客に説明した上で,
予め業務委託契約を締結しており,「余ったカネ」が存在する事実や,「粗末な工事」を行った事実は存在しない,②原告は,ホームページ上に会社概要や会社ホームページのリンク先を記載するとともに,分かりやすい位置に会社名や会社ロゴも掲載している上,事業やサービスの内容について具体的か
10 つ詳細に記載しており,運営主体や会社所在地を偽り容易に判明しないよう
に工作するなどの行為に及んだ事実も存在しない,③原告は,事業開始から現在までの全ての期間において,法令を遵守し,適正な事業活動を行っており,被告らが指摘するような「怪しい業者」であるとか,業界のイメージを非常に悪くしたなどという事実も存在しない旨を主張するところ,少なくと
15 も,原告がインターネット上に開設しているホームページには,原告の会社
名や会社ロゴが掲載されるとともに,会社情報や事業内容等が記載され,また,建物損害調査事業やサービスの内容の詳細が記載されていることが認められる(認定事実⑴)。また,被告らは,令和2年11月2日付け答弁書において,本件記事の内容が被告Aの心情を主観的に吐露したものであるなどと
20 主張するだけで,その内容がxxであることは何ら主張せず,これを裏付け
る資料も何ら提出していない(なお,被告らは,同月10日に指定された第
1回口頭弁論期日に出頭せず,同年12月21日に指定された第1回弁論準備手続期日について,体調不良を理由に出頭できないとして,期日変更を申し立てたが,その後は,裁判所からの連絡に応じず,令和3年2月16日に
25 指定された第2回口頭弁論期日(弁論終結)にも,適式な呼出しを受けなが
ら出頭しなかった。)。さらに,被告らは,本件訴訟前の原告との和解交渉に
おいて,合意の当事者から被告Aを外すことや,謝罪記事の内容や掲載期間を指定しないこと等を求めていたものの,本件記事の内容が虚偽であったことを特に争わず,損害賠償にも応じる姿勢を示し,最終的に自ら本件記事を削除したものである(認定事実⑶,⑷)。
5 ⑶ これに対し,被告Aは,本件記事において,①原告のみを特定した評価で
はないとか,②一般社団法人日本損害保険協会が注意喚起している内容と比較しても特段強い指摘とは判断できないなどと主張する。
しかし,①については,上記説示に照らし,本件記事が原告を対象とするものであることは明らかである。また,②については, 弁論の全趣旨によれ
10 ば,一般社団法人日本損害保険協会は,実際に寄せられた苦情や対応した事
例に基づいて,抽象的な注意喚起や固有名詞を避けながらの具体例の列挙等をしているのに対し,本件記事は,具体的事実に基づくことなく,原告に関する虚偽の事実を告知・流布するものであるし,被告らは,ツイッター上で,
「#詐欺」等のハッシュタグを付けた上で,本件ブログのURLを紹介して
15 いたというのであり(認定事実⑵),両者は,その性質が異なるというべきで
ある。
したがって,被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
⑷ 以上によれば,本件記事の摘示事実は,いずれも虚偽であったと認めるのが相当であり,その内容に照らし,建物損害調査事業等を営む原告の営業上
20 の信用を害することは明らかであるから,本件行為は,原告の営業上の信用
を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する不正競争行為(不競法2条1項
21号)に当たるといえるとともに,これが故意又は過失によってされたものであることも明らかであるから,不法行為にも当たるといえる。
そして,本件行為は,被告Aが被告会社の代表者として行った行為であり,
25 被告らは,本件行為という共同の行為によって原告に損害を加えたものとい
うべきであるから,被告らは連帯してその損害を賠償する責任を負う。
したがって, 被告Aは,民法709条又は不競法4条に基づき,被告会社は,会社法350条又は不競法4条に基づき,原告に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。
3 争点2(原告の損害の有無及び額)について
5 ⑴ 前記1の認定事実及び前記2の説示に加え,弁論の全趣旨によれば,原告
の同業者である被告らによって令和元年9月21日から令和2年6月1日までに本件ブログに掲載された本件記事には,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実が記載されるとともに,被告会社への問い合わせを勧誘する文言が記載されており(認定事実⑵,⑷),一定数の者が本件記事を閲覧したこと
10 が認められ,これによれば,本件行為により,建物損害調査事業及びコンサ
ルティング事業等を営む原告においては,受注喪失等の影響を受ける蓋然性があるものといわざるを得ず,それゆえ,本件行為がなければ,原告が利益を得られたであろうとの事情が存するものというべきである。
⑵ また,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,平成31年2月4日付け
15 の「リフォーム産業新聞」において,被告会社の直近2,3年間の売上が約
2億円であったとの記事が掲載されていること,リフォーム工事業,建物損害調査事業及びコンサルティング事業の粗利益率は,25%程度であることが認められ,これによれば,被告会社の本件掲載期間(約8か月間)の粗利益は,1111万円(≒2億円÷3年×0.25÷12月×8月)程度であ
20 ったと認められる。
⑶ しかし,他方,本件における建物損害調査事業及びコンサルティング事業等という事業の性質や,被告らの本件行為の内容に鑑みると,被告会社の上記⑵の粗利益中には,本件行為と関係のない事業によるものも含まれているというべきであるから,被告らの本件行為がなければ,原告において上記粗
25 利益の全てを本件行為による被告利益として取得できていたはずであると
認めるのは困難である。
そして,弁論の全趣旨によれば,被告らが,令和2年11月2日付け答弁書及び書証の写し(乙1~5)を提出したのみで,同月10日に指定された第1回口頭弁論期日に出頭せず,同年12月21日に指定された第1回弁論準備手続期日について,体調不良を理由に出頭できないとして,期日変更を
5 申し立てたが,その後は,裁判所からの連絡に応じず,令和3年2月16日
に指定された第2回口頭弁論期日(弁論終結)にも,適式な呼出しを受けながら出頭せず,原告が求める被告会社の確定申告書や決算書等を提出しなかったという審理経過があることや,本件記事の本件掲載期間中におけるアクセス数が566回(特に令和元年5月頃に集中) であり,本件記事に対する
10 日本国内からのアクセスが61%であることがうかがわれる。
以上に照らし,本件に表れた諸般の事情を併せ考慮すると,原告が本件行為によって受けた損害の額(本件行為による被告利益と認められる額であり,弁論の全趣旨及び本件各証拠によって認められる相当な損害額)は,上記粗利益1111万円の5パーセントに相当する額である55万円(1万円未満
15 切り捨て)であると認めるのが相当である(不競法5条2項,9条。なお,
当事者において, 上記認定を左右するに足りる事由は主張立証されていない。)。
4 原告の請求の当否
前記1ないし3で認定説示したところによれば,原告は,被告Aに対しては
20 民法709条ないし不競法4条に基づき,被告会社に対しては会社法350条
ないし不競法4条に基づき,連帯して,55万円及びこれに対する不法行為の終了日である令和2年6月1日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金を支払うよう求めることができる。
5 結論
25 よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれらをいずれ
も認容し,その余は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
5 裁判長裁判官 x x x x
裁判官 x x x
10
裁判官 x x x 員