Contract
会社分割・事業譲渡・合併における労働者保護のための手続に関するQ&A
これは、会社分割や事業譲渡、合併が行われた場合、労働契約がどのように取り扱われるか等について、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成 12 年法律第 103 号)、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法
律施行規則(平成 12 年労働省令第 48 号)、分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成12 年労働省告示第127 号)及び事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(平成 28 年厚生労働省告示第 318 号)等に基づき、Q&A形式でまとめたものです。
厚生労働省労働基準局 労働関係法課法規第一係
平成 28 年 12 月時点
目 次
第1編 はじめに
第2編 会社分割(承継法)
9
10
Q3 承継法は、事業譲渡や合併の場合には適用されないのですか。
10
Q4 承継法の手続の対象となるのは正社員のみですか。パートや嘱託職員についても同法の手続が必要ですか。
11
Q5 採用内定者の労働契約を分割契約等に記載することはできますか。
11
Q6 会社分割に際して、承継会社等に勤務する労働者を全て分割会社からの在籍出向で対応することとし、分割契約等には労働契約の取扱いを記載しない場合であっても、承継法等による手続は必要ですか。
11
Q7 会社分割を簡易な分割の手続(簡易分割)により行う場合にも、承継法による手続は必要ですか。
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Q7-2 会社法に規定する会社分割の手続とは別に、労働者の個別の合意に基づいて労働者を転籍させる場合については、承継法の手続を省略できますか。
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Q8 会社分割に当たって、なぜ7条措置を行う必要があるのですか。
13
Q8-2 事業に至らない権利義務単位の分割であれば、7条措置は必要ないですか。
13
13
Q10 会社分割の対象となる事業場に複数の労働組合が組織されていますが、いずれの労働組合も単独では労働者の過半数を組織していない場合、どのように対処すればよいですか。
14
Q11 7条措置は、協議事項についての合意まで求めるものですか。
14
Q12 労働組合等との協議対象事項として例示されている「会社分割に当たり、分割会社又は承継会社等と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題」とは何ですか。
14
Q13 7条措置はいつまでに行われなければならないのですか。
15
Q14 7条措置と5条協議との関係はどのようになっていますか。
15
Q15 労働組合法上の団体交渉権との関係はどのようになっていますか。
16
Q15-2 団体交渉の当事者となる労働組合法上の「使用者」の範囲はどのようなものですか。
...........................................................................
17
Q15-3 会社分割に伴う不当労働行為責任及び労働組合法上の使用者の地位の承継に関する裁判例にはどのようなものがありますか。
17
Q16 分割会社は、7条措置を行ったことの証拠等を残す必要はありますか。
18
Q17 5条協議の対象となる労働者の範囲はどのようなものですか。
18
Q18 5条協議においては、どのような事項について協議する必要がありますか。
18
Q19 労働組合法上の団体交渉権との関係はどのようになっていますか。
18
Q20 5条協議時に、労働者は代理人を選定することができますか。また、選定に当たり注意しなければならない点は何ですか。
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Q21 労働者が自らの協議について労働組合を代理人として選定する方法として、どのようなものがありますか。
19
19
Q23 5条協議は、協議事項についての合意まで求めるものなのですか。
20
Q24 5条協議を行ったことの証拠等を残す必要はありますか。
20
Q25 主従事労働者か否かで、承継法の適用関係にどのような違いがありますか。
20
Q25-2 会社法の制定により、従来の「事業」には該当しない(有機的一体性のない)権利義務であっても会社分割の対象にすることが可能になったと言われていますが、承継法における
21
Q25-3 承継法における「主従事労働者」の判断基準となる「事業」とはどのようなものを言うのですか。
21
Q26 主従事労働者であるか否かを判断する時点である「分割契約等を締結し、又は作成する日」とは、具体的にいつのことですか。
22
Q27 「分割契約等を締結し、又は作成する日」に、主従事労働者であるか否かを判断するのが適当でない場合とはどのような場合ですか。また、その場合の主従判断はどのように行うのですか。
22
Q28 会社分割を行う会社において、分割契約等締結時点の直前に、主従事労働者を他の事業に配置転換した場合(逆に、他の事業に従事していた労働者を、当該分割の対象となる事業に配置転換した場合)、主従事労働者であるか否かの判断はどのようになりますか。
22
Q29 いわゆる間接部門において労働者が複数の事業に従事している場合、どのようなことを目安にして、主従事労働者であるか否かを判断するのですか。
23
Q30 主従事労働者に該当するか否かの判断に関し、分割会社と労働者との間で見解の相違がある場合、どのように対応すべきですか。
24
Q31 労働契約が分割契約等に記載された場合、当該労働契約の取扱いはどのようになりますか。
25
Q32 承継される労働契約に基づく権利義務には、どのようなものがありますか。
25
Q33 年次有給休暇の日数や退職金額等の算定の基礎となる勤続年数については、承継会社等において、分割会社におけるものが通算されますか。
25
Q34 分割会社における福利厚生のうち恩恵的性格を有するものについて、承継会社等にお いて、必ずその内容は維持されますか。 2
6
Q35 分割会社における福利厚生のうち、労働者との間で権利義務の内容となっていると認められるものであれば、必ずその内容は維持されるのですか。
26
Q36 受給権が労働契約の内容となっている厚生年金基金及び確定給付企業年金について、会社分割に伴いどのように取り扱うのですか。
26
Q37 会社分割に伴う、健康保険組合への対応はどのように行えばよいですか。
28
Q38 会社分割のみを理由とした解雇を行うことはできますか。
29
Q39 会社分割のみを理由とした労働条件引下げを行うことはできますか。
30
Q40 吸収分割が行われる場合、分割後の承継会社における就業規則について、承継会社において従来から存するものと、分割により分割会社から承継されるものとが併存することが想定されますが、こうした状態を回避するためにはどのようにすればよいですか。
30
Q40-2 分割会社から賃金の支払いを受けていない労働者は、承継会社等に対して未払賃金を請求することはできますか。
31
31
Q42 会社分割時において、労働協約の規範的部分の取扱いはどうなりますか。
33
Q43 労働協約の内容のうち、債務的部分を承継会社等に承継するためにはどのよう
34
34
Q44 債務的部分を承継させるにあたり、分割会社と労働組合の間の合意を求めることとしたのはなぜか。
34
Q45 債務的部分の承継について、分割会社と労働組合との間の合意が得られなかった場合には、どのように取り扱われるのですか。
34
Q46 債務的部分の承継に関する分割会社と労働組合との間の合意(承継法第6条第2項)
35
Q47 債務的部分の承継に関して、分割契約等にはどのように記載すればよいですか。
35
Q48 有効期間が定められている労働協約について、承継法第6条第3項が適用された場合、その有効期間はどのように取り扱われるのですか。
35
Q49 承継法第6条第3項が適用された労働協約については、会社の分割後に書面作成、当 事者の署名等が必要ですか。 3
6
Q50 会社の分割が吸収分割のとき、承継会社において既存の1つの労働組合との間で労働協約を締結していた場合、承継法第6条第3項の規定が適用された結果、承継会社の中に複数の労働協約が存在することになるのですか。
36
Q51 承継会社等に労働契約を承継された労働者が、会社の分割前より加入していた労働組合から脱退し、新たな労働組合を結成した場合、承継法第6条第3項の規定により承継会社等との間で締結されたものとみなされた労働協約は、これらの労働者について引き続き適用されますか。
37
Q52 会社の分割によって、労働協約の一般的拘束力(労働組合法第17 条)やユニオン・ショップ等(労働組合法第7条第1号ただし書)はどのような影響を受けますか。
37
Q53 労働基準法等の労使協定について、会社分割に際しどのような取扱いをする必要がありますか。
38
Q54 2条通知をしなければならない労働者の範囲は、どのようになっていますか。
39
39
Q56 労働者へ2条通知すべき事項としては、どのようなものがありますか。
39
Q57 労働者への2条通知に関し、分割会社に書面交付を義務付けた理由は何ですか。
40
Q58 2条通知を郵便物等により行う場合、いつまでに労働者に通知すればよいですか。
40
Q59 「承継法第2条第1項各号のいずれに該当するかの別」をなぜ記載するのですか。
41
Q60 「債務の履行の見込みに関する事項」は、どのように通知に記載すればよいですか。.
41
Q61 電子メールによって、2条通知をするのは可能ですか。また、ファックスで送付することは可能ですか。
41
Q62 2条通知を適法に受けなかった場合とは、どのようなことを指していますか。
42
Q63 2条通知をしなければならない労働組合の範囲はどのようになっていますか。
42
42
Q65 労働組合へ2条通知すべき事項としては、どのようなものがありますか。
42
Q66 労働組合への2条通知に関し、分割会社に書面交付を義務付けた理由は何ですか。
43
Q67 事前協議等で分割契約等について労働組合の了承を得ている場合でも、改めて労働組合に対して2条通知を行わなければならないのですか。
43
Q68 承継法において、承継会社等への労働契約承継に関して異議を申出ることができるの は、どういった場合ですか。 4
4
Q69 承継会社等への労働契約承継に関して、一定の労働者が異議の申出を行うことができ るとした理由は何ですか。 4
4
Q69-2 労働者は、異議の申出を行ったことによって不利益な取扱いを受けることがありますか。
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Q71 労働者が「書面」により異議の申出を行わなければならない理由は何ですか。
46
Q72 労働者との合意によって、あらかじめ異議の申出を行う権利を放棄させることはできますか。
46
Q73 分割会社からの2条通知がされなければ、労働者は異議の申出を行うことができないのですか。
47
Q74 承継法第4条第1項の異議の申出の書面には、当該労働者が主従事労働者である旨の記載を求めない理由は何ですか。
47
Q75 承継法第5条第1項の異議の申出の書面において、当該労働者が主従事労働者に該当するか否かの記載を求めている理由は何ですか。
47
Q76 分割会社は、労働者に対して異議の申出を行う理由の記載を求めることはできますか。
...........................................................................
48
Q77 異議の申出を郵便で行う場合、いつまでに分割会社に発送すればよいですか。
48
Q78 労働者は異議の申出を電子メールで行うことはできますか。
48
Q79 分割会社から通知を適法に受けなかったため、承継法第5条第1項の異議の申出をすることができなかった場合、労働者はどのような対応をすることが考えられますか。
49
Q80 分割会社(X社)が会社分割により、ある事業部門を分割して別会社(Y社)とする場合、X社から他社(Z社)へ在籍出向中の労働者(W)は、承継法上どのように扱われますか。
49
Q81 分割会社(X社)が会社分割により、ある事業部門を分割して別会社(Y社)とする場合、他社(Z社)からX社へ在籍出向中の労働者(W)について、承継法による手続が必要ですか。
...........................................................................
50
第3編 事業譲渡・合併
Q82 事業譲渡時に、労働契約を譲受会社に承継させる場合、どのようにすればよいですか。
...........................................................................
52
Q83 承継予定労働者の承諾を得るに当たり、どのようなことを協議すればよいですか。
52
Q84 承継予定労働者との協議は、いつまでに行えばよいですか。
53
Q85 事業譲渡のみを理由とした解雇を行うことはできますか。
53
Q86 譲渡会社等は、譲渡する事業部門の中から、承継予定労働者の選定を行うことはできますか。
53
Q87 事業譲渡時の労働契約の承継の有無や労働条件の変更に関する裁判例には、どのようなものがありますか。
54
Q88 事業譲渡に当たって、労働組合等と協議する必要はありますか。
54
54
55
Q91 労働組合等との協議と、労働組合法上の団体交渉権との関係はどのようになっているのですか。
55
Q92 団体交渉の当事者となる労働組合法上の「使用者」の範囲はどのようなものですか。
55
Q93 合併に当たって、労働契約の取扱いはどのようになりますか。
55
第1編 はじめに
用語の整理
●承継法―会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成 12 年法律第 103 号)
●承継法施行規則―会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則(平成 12 年労働省令第 48 号)
●承継法指針―分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成 12 年労働省告示第 127 号)
●事業譲渡等指針―事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(平成 28 年厚生労働省告示第 318 号)
●主従事労働者―承継される事業に主として従事する労働者(承継法第2条第1項第1号)
●不従事労働者―承継される事業に従事していない労働者
●2条通知―承継法第2条に基づき、会社分割を行うに当たって、分割会社が労働者及び労働組合に対して行う通知
●5条協議―商法等の一部を改正する法律(平成 12 年法律第 90 号)附則第5条及び承継法指針に基づき、分割会社が、①承継される事業に従事している労働者及び②承継される事業に従事していないが、分割契約等にその労働契約を承継の定めのある労働者と労働契約の承継に関して行う協議
●7条措置―承継法第7条に基づき、会社分割を行うに当たって、分割会社が、雇用する労働者に対して、全ての事業場において、労働者の理解と協力を得るために行う協議等
●承継予定労働者―譲渡会社等から譲受会社等に労働契約が承継されることを予定している労働者
第2編 会社分割(承継法)
第1章 承継法に定める手続の対象
A1 承継法は、商法等における会社分割制度の導入に伴い、分割をした会社の権利義務が分割によって承継する会社又は新規に設立する会社に包括的に承継さ
れることとなることを踏まえて、労働者保護の観点から、労働契約の承継等についての特例を定めるために制定されました。
承継法は、会社分割に伴う労働契約の承継について、会社法の特例として、
2条通知や5条協議、7条措置、異議申出の手続、効力等を定めています。会社分割を行う場合は、承継法の規定に従わなければなりません。
A2 承継法が適用されるのは、会社が会社法(平成 17 年法律第 86 号)に基づく会社分割を行う場合です。
Q3 承継法は、事業譲渡や合併の場合には適用されないのですか。
A3 承継法が適用されるのは、会社が会社法に基づく会社分割を行う場合に限られており、事業譲渡及び合併を行う場合には適用されません。
なお、事業譲渡及び合併が行われる場合については、下記の理由により労働者保護に係る特段の立法措置が講じられていないものの、こうした組織の変動は労働者の雇用や労働条件に大きな影響を与えることも少なくなく、紛争に発展する事例もあることから、事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項について定めた事業譲渡等指針を平成 28 年8月に告示し、平成 28年9月から適用しています。
<事業譲渡の場合>
事業譲渡時に労働者を承継しようとする場合は、譲渡会社及び譲受会社間の合意が必要なだけでなく、民法(明治 29 年法律第 89 号)第 625 条により労働者本人の承諾が必要とされており、労働者の意思に反して労働契約が譲受会社に譲渡されることは認められていません。また、裁判においても、こうした基本ルールに則りつつ、事案の内容により具体的妥当な解決が図られています。
<合併の場合>
合併の場合、労働関係を含めた全ての権利義務が承継されることとなっており(会社法第 750 条、752 条、754 条、756 条)、労働者に不利益が生ずる場合がほとんど想定されません。
Q4 承継法の手続の対象となるのは正社員のみですか。パートや嘱託職員についても同法の手続が必要ですか。
A4 承継法における「労働者」とは、分割会社が雇用する労働者のことであり、分割会社との間で労働契約を締結している労働者全てを指します。
したがって、パートや嘱託職員なども含め、雇用形態や会社での呼称にかかわらず、全ての労働者に対し承継法の手続が必要です。
Q5 採用内定者の労働契約を分割契約等に記載することはできますか。
A5 分割契約等に記載する労働契約は、必ずしも、分割の効力が生じたときに当該労働契約の効力が生じているものに限られるものではなく、分割契約等を締結し又は作成する時点において、締結されていれば記載することができます。
「採用内定」は、内定の通知により労働者と企業との間で解約権を留保した労働契約が成立するという見解が裁判例で確立していることから、採用内定者の労働契約を分割契約等に記載することができます。
(参考)
採用内定により、始期付解約権留保付労働契約が成立したものと認められた事例
○電電公社採用内定取消事件(最高裁第2小法廷昭和 55 年 5 月 30 日判決)
被上告人から上告人に交付された本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったと解することができるから、上告人が被上告人からの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する被上告人からの右採用通知は、右申込みに対する承諾であって、これにより、上告人と被上告人との間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された(略)日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。
Q6 会社分割に際して、承継会社等に勤務する労働者を全て分割会社からの在籍出向で対応することとし、分割契約等には労働契約の取扱いを記載しない場合であっても、承継法等による手続は必要ですか。
A6 承継法は、労働者をどのように承継させるのか(又はさせないのか)につい
て、労働者保護の観点から種々の手続を定めています。
このため、会社分割に際して、承継会社等に勤務する労働者については一人も労働契約を承継せず、全て分割会社からの在籍出向で対応する場合であっても、承継法等による手続が必要です。
なお、この場合について、承継法等に定める各手続と、その対象者は次のとおりです。
手続 | 対象となる労働者 |
7条措置 | 分割会社が雇用する全ての労働者 |
5条協議 | ①承継される事業に従事している労働者 ②承継される事業に従事していないが、分割契約等にその労働契約を承継する定めのある労働者 |
2条通知 | ①主従事労働者 ②主従事労働者以外の労働者であって承継会社等に承継される労働者 |
Q7 会社分割を簡易な分割の手続(簡易分割)により行う場合にも、承継法による手続は必要ですか。
A7 承継法の手続は必要です。会社分割を簡易分割により行う場合であっても、労働者保護を必要とする事態が生じることは、通常の会社分割の場合と変わらないためです。
Q7-2 会社法に規定する会社分割の手続とは別に、労働者の個別の合意に基づいて労働者を転籍させる場合については、承継法の手続を省略できますか。
A7-2 会社は、会社法に規定する会社分割の手続とは別に、労働者の個別の合意に基づいて労働者を転籍させる場合(いわゆる「転籍合意方式」)であっても、2条通知や5条協議等といった承継法の手続を省略することはできません。
また、会社は、労働者等に対し、会社分割を理由に転籍合意方式で労働者を転籍させる場合であってもそのまま労働条件が承継されることや、分割契約等に定めのない主従事労働者は会社分割による承継から除外されていることについて異議申出権を行使できることを含めて、説明すべきです。
さらに、分割契約等に定めのない主従事労働者が異議申出権を行使した場合には、承継法第4条第4項の効果により、労働条件を維持したまま労働契約承
継の効力が生じるため、これに反する転籍合意は無効となります。
なお、分割会社との間の労働契約関係を保ちつつ、新たに承継会社等と労働契約関係を発生させる出向の場合も、2条通知や5条協議等の手続は必要です。
第2章 7条措置
Q8 会社分割に当たって、なぜ7条措置を行う必要があるのですか。
A8 会社の分割は、主従事労働者のみならず、当該分割会社の全労働者に少なからず影響を与えることを考慮して、労働者保護の観点から、分割会社に7条措置を行うことが義務付けられています。
7条措置の具体的な方法として、分割会社は、その全ての事業場において、当該事業場の労働者の過半数を代表する労働組合(過半数組合がない場合には過半数代表者)との協議その他これに準ずる方法によって、7条措置を行う必要があります。
なお、「その他これに準ずる方法」としては、名称のいかんを問わず、労働者の理解と協力を得るために、労使対等の立場に立ち誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議することが含まれます。
Q8-2 事業に至らない権利義務単位の分割であれば、7条措置は必要ないですか。
A8-2 事業に至らない権利義務単位の分割であっても、会社分割を行う限り、7条措置は必要です。また、承継されない不従事労働者のうち、権利義務の分割が、その職務の内容等に影響しうる者については、7条措置とは別に、その説明など一定の情報提供を行うことが望ましいです。
A9 分割会社がその雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める事項としては、次のようなものがあります。
① 会社分割をする背景及び理由
② 効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに
関する事項
③ 承継される事業に主として従事する労働者に該当するか否かの判断基準
④ 労働協約の承継に関する事項
⑤ 会社分割に当たり、労働者との間に生じた問題の解決手続 等
なお、ここに掲げたものはあくまで例示であり、分割会社がその雇用する労働者と7条措置が必要と認められる事項が他にある場合については、その事項についても、当該労働者に対して7条措置を行うよう努めることが必要です。
Q10 会社分割の対象となる事業場に複数の労働組合が組織されていますが、いずれの労働組合も単独では労働者の過半数を組織していない場合、どのように対処すればよいですか。
A10 特定の事業場において労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、例えば、次のような方法を採ることができます。
① 当該事業場の労働者の過半数を代表する者を選出し、その者と協議を行う
② 過半数代表者を選出せず、既存の労働組合それぞれとの間で協議する
Q11 7条措置は、協議事項についての合意まで求めるものですか。
A11 7条措置では、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めなければなりませんが、協議事項について必ず合意を得ることまでは求められていません。
Q12 労働組合等との協議対象事項として例示されている「会社分割に当たり、分割会社又は承継会社等と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題」とは何ですか。
A12 「労働関係上の問題」としては、例えば、次のものがあげられます。
① 主従事労働者に該当するか否かの判断に関し、労働者と分割会社との間で見解の相違が生ずること
② 分割会社と労働者との間の権利義務の内容となっていると認められる福利厚生については、分割後も労働契約の内容である労働条件として維持されるが、実際には設立会社等において同一のまま引き継ぐことが困難な福利厚生
について、代替措置等を含め協議すること
③ 労働契約の内容である労働条件として維持されない恩恵的性格を有する福利厚生についての、会社分割後の取扱い
④ 分割会社以外の第三者が、各法令の規定に従い福利厚生の全部又は一部を実施している場合の、会社分割後の当該福利厚生の取扱い
Q13 7条措置はいつまでに行われなければならないのですか。
A13 5条協議と密接な関係を有していることを考慮すれば、遅くとも5条協議の開始(分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日)までには、労働組合等との協議に着手する必要があります。協議事項によって所要時間が様々であると想定されますが、実質的に労働者の理解と協力を得られる時期を考えて開始するのが適当です。
なお、この労働組合等との協議は、会社分割に当たり分割会社と労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題について協議を通じて解決を図るものであることから、当該協議は、必要に応じて複数回行われる必要があります。
Q14 7条措置と5条協議との関係はどのようになっていますか。
A14 7条措置は、会社分割に際し分割会社に勤務する労働者全体の理解と協力を得るための手続です。一方、5条協議は、分割会社が分割契約等を作成するに当たり、労働契約承継に関して個別労働者の希望を聴取することにより、一定の労働者保護を図るものです。したがって、実施時期、対象労働者の範囲、協議事項の範囲、手続等に違いがあります。(下表参照)
7条措置 | 5条協議 | |
実施時期 | 5条協議開始までに開始 | 2条通知をすべき日まで |
対象労働者の範囲 | 分割会社が雇用する労働者 | a)承継される事業に従事している労働者 b)承継される事業に従事していないが、分割契約等にその労働契約 を承継する定めのある労働者 |
協議事項等 | a)会社分割をする背景及び理由 b)分割会社及び承継会社等の債 | a)会社分割の効力発生日以後、当 該労働者が勤務することとなる会 |
務の履行の見込みに関する事項 | 社の概要 | |
c)主従事労働者か否かの判断基 | b)会社分割の効力発生日以後、分 | |
準 | 割会社及び承継会社等の債務の履 | |
d)労働協約の承継に関する事項 | 行の見込みに関する事項 | |
e)会社分割に当たり、分割会社 | c)主従事労働者に該当するか否か | |
又は承継会社等と関係労働組合 | の考え方 等 | |
又は労働者との間に生じた問題 | を十分に説明し、本人の希望を聴 | |
の解決手続 等 | 取した上で、次の事項について協 | |
議をする。 | ||
d)労働契約の承継の有無 | ||
e)承継するとした場合又は承継し | ||
ないとした場合に従事することを | ||
予定する業務の内容、就業場所そ | ||
の他の就業形態 等 | ||
協議手続 | 全ての事業上において、 a)当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合と協議、 b)労働者の過半数を代表する者との協議(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合) c)その他これに準ずる方法※により行う。 | 当該労働者との協議による。ただし、当該労働者が労働組合を代理人に選定した場合、当該労働組合と誠実に交渉する義務あり。 |
※その他これに準ずる方法には、名称のいかんを問わず、労働者の理解と協力を得るために、労使対等の立場に立ち誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議する ことが含まれる。 |
Q15 労働組合法上の団体交渉権との関係はどのようになっていますか。
A15 労働組合法(昭和 24 年法律第 174 号)第6条の団体交渉の対象事項については、分割会社は、7条協議が行われていることを理由に、労働組合による会社分割に係る適法な団体交渉の申し入れを拒否することはできません。
Q15-2 団体交渉の当事者となる労働組合法上の「使用者」の範囲はどのようなものですか。
A15-2 一般的に、団体交渉の当事者となる労働組合法上の「使用者」は、労働契約上の雇用主を指します。
ただし、労働組合法上の「使用者」について、雇用主以外の事業主であっても、
「使用者」に該当するとされた裁判例として、以下のものがありますので留意してください。
① 雇用主以外の事業主であっても、「その労働者の基本的な労働条件について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて」、「使用者」に当たるとした裁判例(朝日放送事件、最高裁平成7年2月 28 日第三小法廷判決)
② 団体交渉の申入れ時点から、「当該労働者と近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性の存する状態」にある場合であれば、
「使用者」に該当するとした裁判例(クボタ事件、東京高裁平成 23 年 12 月
21 日判決)
Q15-3 会社分割に伴う不当労働行為責任及び労働組合法上の使用者の地位の承継に関する裁判例にはどのようなものがありますか。
A15-3 会社分割に伴う不当労働行為責任及び労働組合法上の使用者責任の承継に関する裁判例等として、以下のものがあります。
① 設立会社が労働組合員の労働契約関係を承継したことに伴い、支配介入
(事務所等の貸与についての別組合との異なる取扱い)に関する不当労働行為責任を承継し、また、分割会社が移籍した労働組合員との関係で、使用者の地位を失うことはないとした裁判例(モリタ・モリタエコノス・中央労働委員会事件、東京地裁平成 20 年2月 27 日判決)
② 会社分割による派遣就業関係の承継に伴い、労働組合法上の使用者としての地位も、労働組合員との間の派遣就業関係に付随して承継会社に承継されるとした裁判例(国・中労委(阪急交通社)事件、東京地裁平成 25 年
12 月5日判決)
Q16 分割会社は、7条措置を行ったことの証拠等を残す必要はありますか。
A16 分割会社は、7条措置を行ったことの証拠等を残すことを義務付けられてはいません。
第3章 5条協議
Q17 5条協議の対象となる労働者の範囲はどのようなものですか。
A17 5条協議の対象となる労働者は、承継される事業に従事している労働者とそれ以外の労働者であって分割契約等に労働契約の承継の定めのある労働者です。
Q18 5条協議においては、どのような事項について協議する必要がありますか。
A18 分割会社は、労働者に対し、分割後に当該労働者が勤務することとなる会社の概要、効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項、主従事労働者に該当するか否かの考え方等を十分に説明し、本人の希望を聴取した上で、当該労働者に係る労働契約の承継の有無、承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容、就業場所その他就業形態等について協議する必要があります。
Q19 労働組合法上の団体交渉権との関係はどのようになっていますか。
A19 労働組合法第6条の団体交渉の対象事項については、分割会社は、5条協議が行われていることを理由に、労働組合による会社分割に係る適法な団体交渉の申し入れを拒否することはできません。
Q20 5条協議時に、労働者は代理人を選定することができますか。また、選定に当たり注意しなければならない点は何ですか。
A20 労働者は個別に民法の規定により、代理人を選定することができます。労働者が分割会社との5条協議の全部又は一部に係る代理人を選定した場合には、分割会社は、その代理人と誠実に協議をする必要があります。
なお、「民法の規定により」とは、民法第1編第5章第3節代理の規定によることを指します。したがって、次の事項はいずれも双方代理となり、当該代理人の選定はできません。
① 分割会社の代理人が労働者の代理人となること
② 分割会社の管理・監督的立場の者を代理人にすること
Q21 労働者が自らの協議について労働組合を代理人として選定する方法として、どのようなものがありますか。
A21 労働者が労働組合を代理人として選定する方法としては特段の規定はありません。したがって、個別に委任状を労働組合に提出する方法のほかに、組合集会での賛同や労働組合規約での規定によることも可能です。
ただし、5条協議は、あくまで労働者個人と協議を行うことが原則なので、労働者自身が分割会社と5条協議を行うことを求めている場合は、労働者個人の意思が優先します。
なお、当該労働者が労働組合を代理人として選定する際には、協議を円滑に実施し、トラブルを防止するために、協議に当たって代理人に委ねる事項の範囲を明確にしておくことが重要です。
A22 5条協議は、2条通知をすべき日(通知期限日)までに十分行われていなければなりません。すなわち、通知期限日までに、分割会社が協議事項につき、承継される事業に従事している労働者に対し、当該分割会社の方針を説明し、労働者の希望を聴取した上で、両当事者間で十分協議できるような時間を確保する必要があります。
5条協議に必要な具体的な期間は個別事案ごとに異なりますが、いずれにせ
よ、労働者との間で十分な協議を行うことができるよう、時間的余裕をみて協議を開始することが必要です。
Q23 5条協議は、協議事項についての合意まで求めるものなのですか。
A23 分割会社は協議事項について、承継される事業に従事している労働者に対し、当該分割会社の方針を説明し、労働者の希望を聴取した上で、両当事者間で十分協議することが必要ですが、当該協議の結果、必ず合意を得ることまで求められているものではありません。
しかし、日本アイ・ビー・エム(会社分割)事件(最高裁第2小法廷平成 22
年7月 12 日判決)において、最高裁は、分割会社と主従事労働者との間で、「5条協議が全く行われなかったとき」、また、「5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合」には、当該労働者は承継法第3条に定める労働契約承継の効力を争うことができると判示しています。
また、同事件の中で、7条措置について、「分割会社に対して努力義務を課したものと解され、これに違反したこと自体は労働契約承継の効力を左右する事由になるものではない」とした上で、「7条措置において十分な情報提供等がなされなかったがために5条協議がその実質を欠くことになったといった特段の事情がある場合に、5条協議義務違反の有無を判断する一事情として7条措置のいかんが問題になる」と判示していますので、留意してください。
Q24 5条協議を行ったことの証拠等を残す必要はありますか。
A24 分割会社は、5条協議を行ったことの証拠等を残すことを義務付けられてはいません。
第4章 主従事労働者の範囲
Q25 主従事労働者か否かで、承継法の適用関係にどのような違いがありますか。
A25 承継法の規定のうち、事前通知及び異議申出とその効果に係る規定については、主従事労働者か否かで適用関係が異なります。具体的には以下のとおりです。
A25-2 承継法における「主従事労働者」の判断基準としては、労働者の雇用や職務を確保するといった労働者保護の観点から、引き続き「事業」概念によることとしているため、影響はありません。
Q25-3 承継法における「主従事労働者」の判断基準となる「事業」とはどのようなものを言うのですか。
A25-3 「事業」とは、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する権利義務のまとまりであることが基本となります。具体的には、会社の組織、業務分担の体制等からみて、その事業に主として従事する労働者が事業とともに承継されることで、その労働者の雇用や職務が確保されるような権
利義務のまとまりであれば「事業」と捉えます。
Q26 主従事労働者であるか否かを判断する時点である「分割契約等を締結し、又は作成する日」とは、具体的にいつのことですか。
A26 分割会社が作成した分割契約等の記載事項が確定する、分割契約等の本店に備え置く時点と解するのが適当です。
Q27 「分割契約等を締結し、又は作成する日」に、主従事労働者であるか否かを判断するのが適当でない場合とはどのような場合ですか。また、その場合の主従判断はどのように行うのですか。
A27 「分割契約等を締結し、又は作成する日」に、主従事労働者であるか否かを判断するのが適当でない場合及びその場合の主従判断は、以下のとおりです。
① 分割契約等締結時点では、当該事業に従事していないが、分割契約等締結後に当該事業に従事することが明らかな場合
→主従事労働者に該当する
② 分割契約等締結時点では、当該事業に従事しているが、分割契約等締結後に当該事業に従事しないことが明らかな場合
→主従事労働者に該当しない
A28 会社分割時において、分割される事業に主として従事しているか否かの判断は、原則として「分割契約等を締結し、又は作成する日」の時点で行います。
(Q26 参照)。
ただし、分割会社が、合理的理由なく会社分割後に労働者を承継会社等又は分割会社から排除することを目的として、当該分割前に配置転換等を意図的に行った場合については、当該労働者の過去の勤務実態に基づくべきものとされ
ています。
したがって、設問のケースにおいても、原則としては「分割契約等を締結し、又は作成する日」で判断しますが、分割契約等締結時点直前の配置転換が、当該労働者を排除しようとする分割会社の恣意的なものである場合には、当該労働者の過去の勤務実態に基づいて、「主従事労働者であるか否か」を判断することになります。
(なお、設問のようなケースで、主従事労働者であるか否かの判断について、分割会社と当該労働者との間で見解の相違がある場合の対応については、Q30参照)
Q29 いわゆる間接部門において労働者が複数の事業に従事している場合、どのようなことを目安にして、主従事労働者であるか否かを判断するのですか。
A29 いわゆる間接部門については、当該労働者が複数の事業に従事している場合、それぞれの事業に従事する時間、それぞれの事業における当該労働者の果たしている役割等を総合的に判断して決定します。人事部門なら各事業における労働者数、経理部門なら各事業で扱う金銭額、資産運用部なら各事業から資産運用部に回す資産の額、庁舎管理部門なら各事業で占有する庁舎の面積、総合受付なら各事業への来客数で判断することなどが一応の目安として考えられます。
〈ケーススタディ〉
Q 図1に示した会社を分割する場合であって、★の労働者(総務部門にあり、家電製造、コンピューター製造のいずれの事業に主として従事しているかの判断が困難な労働者)は、家電製造、コンピューター製造のいずれの事業に主として従事する労働者となりますか。
A 間接部門に従事している労働者が、いずれの事業のために従事するかの区別がなされていない場合であって、時間、当該労働者の果たしている役割等で判断することが困難な場合は、特段の事情のない限り、当該判断をすることができない労働者を除いた、分割会社の雇用する労働者の過半数の労働者に係る労働契約が承継会社等に承継される場合に限り、当該労働者を主従事労働者と判断することを指針において明らかにしています。この取扱いを図1のケースに適用すると、次のようになります。
○ 分割契約等作成時点における分割会社の総労働者数 100 人+800 人+250 人= 1150 人
○ ★の部分を除いた分割会社の総労働者数
1150 人-60 人=1090 人 → 過半数 = 546 人
○ 承継会社等に承継される労働契約に係る労働者数 = 240 人( < 546 人)
→ 承継会社等に承継される労働契約に係る労働者数が★を除いた分割会社の総労働者数の過半数に満たないため、★は「コンピューター製造部門に主として従事する労働者」には該当しません。すなわち、家電製造部門に主として従事する労働者と判断されることになります。
<図1>
・家電製造部門とコンピューター製造部門を経営している会社がコンピューター製造部門(部分)を分割する。
・労働者については、コンピューター部門の大部分と総務部門の一部( 部分)を承継させることを分割会社は予定している。
・分割契約等作成時点で、総務部門:100 人、家電製造部門:800 人、コンピューター製造部門:250 人が在籍している。
★家電製造、コンピューター製造のい
ずれが主か判断が困難な労働者(60 人) :承継会社に承継される労働者
総務
(合計 100 人)
家電製造
(800 人)
コンピューター製造
(合計 250
人
コンピューター製造が主の労働者と、従の労働者(40 人)
コンピューター製造に従事し、承継される労働者(200 人)
)
コンピューター製造に従事するが、承継されない労働者 50 人
Q30 主従事労働者に該当するか否かの判断に関し、分割会社と労働者との間で見解の相違がある場合、どのように対応すべきですか。
A30 分割会社は、7条措置及び5条協議等によって、見解の相違の解消に努めることが求められます。それでもなお解決しない場合には、最終的には裁判によって解決を図ることができますが、都道府県労働局で実施をしている「個別労働紛争解決制度」により、解決に向けた話合をすることも可能です。
第5章 分割契約等に記載された労働契約の承継
Q31 労働契約が分割契約等に記載された場合、当該労働契約の取扱いはどのようになりますか。
A31 分割契約等に記載された労働契約に関しては、これに基づく権利義務の全てが承継されることになるので、就業規則、労働協約、確立された労働慣行等に基づく使用貸借、金銭消費貸借その他無名契約についても、承継されます。
労働契約の承継により、労働契約に基づき使用者としての地位から生じる分割会社の権利義務の全てが承継会社等に承継されるとともに、労働契約の内容はそのまま変更されることなく、承継会社等と労働者との間の労働契約の内容となります。
Q32 承継される労働契約に基づく権利義務には、どのようなものがありますか。
A32 承継される権利としては、労働契約の本旨に従った労務提供を受ける権利のほか、売掛金等を労働者が代理受領した場合の当該売掛金の引渡請求権、労働契約の一環として貸し付けた金銭の返還請求xxがあります。
一方、承継される義務としては、報酬(諸手当、退職金等を含む。)の支払義務のほか、福利厚生に係る義務、いわゆる社内預金の返還義務、安全配慮義務違反による損害賠償義務(民法第 415 条)等があります。
Q33 年次有給休暇の日数や退職金額等の算定の基礎となる勤続年数については、承継会社等において、分割会社におけるものが通算されますか。
A33 年次有給休暇や退職金制度については、労働者と使用者との間での権利義務関係が認められるため、当該労働者の労働契約が承継会社等に承継される旨分割契約等に記載されることにより、通算されます。他に同様の取扱いとなるものとして、例えば、退職金額等(法定外の休業給付額、xx勤続表彰金が含まれる。)の算定、xx勤続表彰資格(退職金の受給資格、リフレッシュ休暇やストック・オプションの取得資格が含まれる。)に係る勤続年数があります。
Q34 分割会社における福利厚生のうち恩恵的性格を有するものについて、承継会社等において、必ずその内容は維持されますか。
A34 分割会社における福利厚生のうち、分割会社と労働者との間で権利義務の内容となっているもの以外の恩恵的性格を有するものについては、会社分割に伴い当然に、承継会社等においてその内容が維持されるものではありません。
したがって、当該分割会社は、会社分割後における当該恩恵的性格を有する福利厚生の取扱いについて、当該労働者に対し情報提供を行うとともに、7条措置及び5条協議等により、当該労働者との間で協議等を行い、妥当な解決を図る必要があります。
Q35 分割会社における福利厚生のうち、労働者との間で権利義務の内容となっていると認められるものであれば、必ずその内容は維持されるのですか。
A35 分割会社と労働者との間で権利義務の内容となっていると認められる福利厚生であっても、その内容によって承継会社等において同一の内容のまま引き継ぐことが困難なものがあります。そのような福利厚生については、当該分割会社は、当該労働者等(当該労働者がその組合員となっている労働組合が含まれる。)に対し、会社分割後の取扱いについて情報提供を行うとともに、7条措置及び5条協議等により、代替措置等を含め当該労働者との間で協議等を行い、妥当な解決を図る必要があります。
Q36 受給権が労働契約の内容となっている厚生年金基金及び確定給付企業年金について、会社分割に伴いどのように取り扱うのですか。
A36 確定給付企業年金及び厚生年金基金は、それぞれ公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成 25 年法律
第 63 号)附則第5条第1項の規定により、なおその効力を有するものとされた
同法第一条の規定による改正前の厚生年金保険法(昭和 29 年法律第 115 号)及
び確定給付企業年金法(平成 13 年法律第 50 号)の規定に基づいて実施されているものであるため、会社分割に伴う具体的な取扱いについては、各法令の規定に従うことになります。
確定給付企業年金の加入者又は厚生年金基金の加入員である労働者の労働契
約が、分割契約等の記載に基づき、分割会社から承継会社等に承継された場合、この労働者に係る年金又は一時金たる給付の支給に関する権利義務を継続する方法としては、例えば次のような方法があります。ただし、いずれも規約の変更等が必要なため、厚生労働大臣の承認又は認可が必要です。
※ また、分割会社と設立会社等で実施している企業年金の種類が異なる場合であっても、労働者の年金給付等の支給に関する権利義務を移転させる等の方法により、継続して企業年金に加入することは可能です。具体的な方法については、企業年金各法の定めるところによります。
(基金型企業年金の場合)
確定給付企業年金のうち基金型企業年金は、確定給付企業年金法第2章第3節の規定に基づき任意に基金を設立して実施するものです。
1 新設分割の場合
(1) 分割会社に係る基金の規約を一部改正し、会社法の規定による新設分割によって設立する会社(以下「設立会社」という。)を当該基金の適用事業所に追加する方法
(2) その労働契約が設立会社に承継される労働者に関して分割会社に係る基金の分割を行い、設立会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法
2 吸収分割の場合
(1) 承継会社に基金がある場合
分割会社に係る基金の加入員の年金給付等の支給に関する権利義務を会社法の規定による吸収分割によって営業を承継する会社(以下「承継会社」という。)に係る基金に移転させる方法又は分割会社に係る基金と承継会社に係る基金との合併を行う方法
(2) 承継会社に基金がない場合
分割会社に係る基金の規約を一部改正し、承継会社を当該基金の設立事業所に追加する方法又は承継会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法
(規約型企業年金の場合)
確定給付企業年金のうち規約型企業年金は、確定給付企業年金法第9章の規定に基づいて実施するものです。
1 新設分割の場合
その労働契約が設立会社に承継される労働者に関して分割会社に係る規約型企業年金の分割を行い、設立会社を実施事業所とする規約型企業年金を新たに実施する方法
2 吸収分割の場合
(1) 承継会社が規約型企業年金を実施している場合
分割会社に係る規約型企業年金の加入者の年金給付等の支給に関する権
利義務を承継会社に係る規約型企業年金に移転させる方法又は分割会社に係る規約型企業年金と承継会社に係る規約型企業年金との合併を行う方法
(2) 承継会社が規約型企業年金を実施していない場合
承継会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法又は実施事業所とする規約型企業年金を新たに実施する方法
また、分割会社と設立会社等で実施している企業年金の種類が異なる場合であっても、労働者の年金給付等の支給に関する権利義務を移転させる等の方法により、継続して企業年金に加入することは可能です。具体的な方法については、企業年金各法の定めるところによります。
(厚生年金基金制度の場合)
厚生年金基金は、平成 25 年厚生年金等改正法第1条の規定による改正前の厚生年金保険法第9章第1節の規定に基づき、任意に設立され、なお存続するものとされた法人であり、基本的には基金型企業年金の場合と同様の対応となりますが、平成 26 年4月1日以降厚生年金基金の新設はできなくなったため、厚生年金基金の加入員たる分割会社の雇用する労働者であってその労働契約が承継会社等に承継されたものに対する厚生年金基金が支給する年金又は一時金たる給付を継続する方法としては、規約の変更による方法のみ可能となります。
Q37 会社分割に伴う、健康保険組合への対応はどのように行えばよいですか。
A37 健康保険組合は、分割会社又は承継会社等とは異なる法人格を有する団体であることから、会社分割に際しての対応は、例えば、次のように対応することが考えられます。
1 新設分割の場合
(1) 既存の健康保険組合へ編入
分割前の会社が事業所となっていた健康保険組合(又は他の健康保険組合)の事業所として編入します。ただし、事業主及び使用される被保険者の2分の1以上の者の同意等が必要です。
(2) 新しい健康保険組合を設立
① 会社の分割に併せて、分割前の会社が事業所となっていた健康保険組合分割します。ただし、
イ 組合会の議員定数の4分の3以上の議員の賛成による議決
ロ 分割後存続する組合又は分割によって成立する組合の被保険者が一定数以上であること
等の要件を満たすことが必要です。
② 分割後の会社が全く新しい健康保険組合を新設します。ただし、
イ 組合を設立しようとする事業主に使用される被保険者が一定数以上であること
ロ 使用される被保険者のうち2分の1以上の者の同意を得ること
ハ 会社分割後に3年以上事業を継続させ、当該事業の基礎を確立させていること
等の要件を満たすことが必要です。
2 吸収分割の場合
通常、分割会社から承継会社へ被保険者が転籍するだけなので、承継会社が健康保険の適用事業所である場合、当該被保険者は、当該会社に健康保険組合が存在すればその被保険者となります。
Q38 会社分割のみを理由とした解雇を行うことはできますか。
A38 普通解雇や整理解雇については、労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)第
16 条等の規定が定められているとともに、判例法理が確立しており、分割会社又は承継会社等は、会社の分割のみを理由とする解雇を行ってはなりません。
(参考)
○普通解雇について
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります。(労働契約法第 16 条)
○経営上の必要性に基づく解雇(整理解雇)について
整理解雇についても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として、労働契約法の規定により無効となります。また、これまでの裁判例を参考にすれば、労働組合との協議や労働者への説明を行うとともに、次のことについて慎重に検討を行うことが必要です。
・人員削減を行う必要性
・できる限り解雇を回避するための措置を尽くすこと
・解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であること
また、一部の労働者の解雇を目的に、会社分割により、不採算事業を承継した承継会社に労働者を承継させる、又は、不採算事業のみが残った分割会社に労働者を残留させるといったような場合、法人格否認の法理や公序良俗違反の法理等が適用される可能性があります。
Q39 会社分割のみを理由とした労働条件引下げを行うことはできますか。
A39 会社分割に伴い労働契約を承継される労働者の労働条件は、そのまま維持されます。労働契約の内容である労働条件の変更については、労働組合法における労使間の合意や民法の基本原則に基づく契約の両当事者間の合意を必要とすることから、会社分割のみを理由とする一方的な労働条件の不利益変更を行ってはなりません。
また、会社分割の前後において労働条件の変更を行う場合には、法令及び判例に従い、労使間の合意が基本となります。
(参考)
労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第 10 条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第 12 条に該当する場合を除きこの限りでない。
第 12 条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
A40 吸収分割の場合、分割契約に記載された労働契約に関しては、これに基づく権利義務の全てが承継会社に承継されることになるので、労働契約に基づき使用者としての地位から生じる分割会社の権利義務の全てが承継会社に承継され
るとともに、労働契約の内容はそのまま変更されることなく、承継会社と労働者との間の労働契約の内容となります。したがって、分割後の承継会社において、複数の就業規則が併存することは、当然に起こり得ます。
この場合、こうした状態を回避するためには、会社分割前に、分割会社及び承継会社との間で調整の上、就業規則を変更するか、会社分割後に承継会社の就業規則を変更することが考えられますが、その際には、法令及び判例に従い、労働条件の変更を行う場合には、労使間の合意が基本となるものであることに十分留意しなければなりません(Q39 参照)。
Q40-2 分割会社から賃金の支払いを受けていない労働者は、承継会社等に対して未払賃金を請求することはできますか。
A40-2 平成 26 年の会社法改正(平成 27 年5月施行)により、詐害的会社分割
(分割会社が残存債権者を害することを知って行った会社分割をいう。以下同じ。)の場合、残存債権者は、承継会社等に対しても承継した財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができることとなりました(会社法第 759条第4項等)。
未払賃金等といった弁済期の到来した債権を有する場合であれば、労働者も、会社法による詐害的会社分割における残存債権者による請求権を行使できます。
第6章 労働協約の承継
A41 労働協約とは、労働者と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名又は記名捺印したものをいいます。(労働協約の内容等については、次図参照)
規範的部分:規範的効力を特に与えられている部分(*)
労働協約の内容
債務的部分:それ以外の部分
(ex.労働組合への便宜供与、団体交渉の手続・ルール、労使協議制等)
労働協約の承継について、規範的部分と債務的部分では、その取扱いが異なっています。
(*):労働協約は協約当事者間の双務契約ですが、労使関係においてその果たす役割が大きいことから、労働組合法第 16 条により「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」について個々の労働契約を直接規律する規範的効力が与えられています。
<図 労働協約の承継>
分割会社
≪分割前≫
【労働協約】
【労働協約】
○労組法第16条の基準部分
(労働条件その他の労働者の待遇に関する基準)
承継法6Ⅲ
○手続き条項等
組合員
の労働契約が承継
○組合事務所の貸与、組合専
従者の規定等
・分割契約等の記載に伴い承継(承継法 6Ⅰ)
・分割会社と労働組合との合意に基づき、分割契約等の記載に従い承継(承継法 6Ⅱ)
労働組合
承継会社等
≪分割後≫
分割会社
承継会社等
【労働協約】 【労働協約】
○労組法第16条の基準部分
○手続き条項等
分割前の分割会社と労働組合
との労働協約と同一の内容
○組合事務所の貸与、組合専従者の規定等
分割前の分割会社と労働組合との労働協約の記載内容のうち、分割契約等に記載された部分
○労組法第16条の基準部分
○手続き条項等
(分割前と同一の内容)
○組合事務所の貸与、組合専従者の規定等
分割前の内容から,分割契約等に記載された部分を除いた残りの部分
Q42 会社分割時において、労働協約の規範的部分の取扱いはどうなりますか。
労働組合
A42 労働協約の規範的部分とは、労働協約の規定のうち、労働条件その他労働者の待遇を定める部分(労働組合法第 16 条)をいいます。
分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約のうち規範的部分については、承継法第6条第3項の規定により、会社分割時に、労働組合員に係る労働契約が承継会社等に承継されるときは、当該承継会社等と労働組合との間で、同一の内容の労働協約が締結されたものとみなされます。
したがって、当該承継会社等は、当該労働協約と同一の内容を有する労働協約の当事者たる地位に立つことになります。
なお、労働協約の規範的部分については、使用者(分割会社)と労働組合員との間の労働契約に一定の基準を与えるに過ぎないものであり、使用者(分割会社)と労働組合との間の権利義務を規定するものではないことから、会社法の会社分割の規定によって承継されるものではありません。このため、承継法に特別の規定が設けられ、当該承継会社等と労働組合との間で、分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約と同一のものが締結されたものとみなすこととされました。
Q43 労働協約の内容のうち、債務的部分を承継会社等に承継するためにはどのようにすればよいですか。
A43 労働協約の債務的部分とは、労働協約の規定のうち、規範的部分以外の部分をいいます。
<債務的部分を承継会社等に承継するための要件>
労働協約における債務的部分を設立会社等に承継させるためには、規範的部分とは異なり、労働協約の債務的部分を承継させる旨、分割契約等に記載することが必要です。
<債務的部分の承継に関する分割会社と労働組合の間の合意について>
債務的部分を承継させる旨、分割契約等の記載がなされたとしても、分割会社と労働組合との間で合意がなされない部分については承継させることはできません。すなわち、承継会社等には、双方の合意のあった債務的部分が分割契約等の記載に従い承継されます。
Q44 債務的部分を承継させるにあたり、分割会社と労働組合の間の合意を求めることとしたのはなぜか。
A44 分割契約等に記載された債務的部分は、会社法の会社分割に関する規定からすれば、本来、分割会社と労働組合との同意を条件とせず、分割契約等の記載に従い、当然に承継会社等に承継されることとなります。
しかし、この措置のみでは、例えば組合事務所の提供のような場合、労働組合が分割会社又は承継会社等のどちらに対しても、組合事務所の提供を求めることができるという、会社側にとって不合理な事態が生じるおそれがあります。
このため、債務的部分を承継会社等に承継させるためには、双方の合意を求めることとされました。
Q45 債務的部分の承継について、分割会社と労働組合との間の合意が得られなかった場合には、どのように取り扱われるのですか。
A45 債務的部分の承継について、分割会社と労働組合との間の合意が得られず、労
働協約を締結している労働組合の組合員に係る労働契約が承継会社等に承継される場合、当該部分に関しては、分割会社は、分割後も労働協約の当事者たる地位にとどまり、また、当該承継会社等は、当該労働協約と同一の内容を有する労働協約の当事者たる地位に立ちます。
したがって、いわゆる平和義務等の不作為に関する規定や団体交渉手続のように一定の規律を定める規定については、分割会社及び承継会社等が当該労働組合との間で、それぞれ、当該規定に沿った不作為や規律遵守についての権利義務を履行し、又は請求することになります。
また、組合員数に応じた一定数の組合専従者の承認、一定面積の組合事務所の貸与等当該分割会社が当該労働組合に対し一定の内容の履行を約している場合にあっては、当該分割会社及び承継会社等は、当該債務の履行に当たって、当該労働組合に対し、不真正連帯債務を負うこととなります。
Q46 債務的部分の承継に関する分割会社と労働組合との間の合意(承継法第6条第2項)は、どの時点で行うべきですか。
A46 承継法第6条第2項の分割会社と労働組合との間の合意の時期については、承継法においては明確な規定はありません。しかし、分割契約等の締結前にあらかじめ労使間で協議をすることにより合意しておくことが望ましいです。
Q47 債務的部分の承継に関して、分割契約等にはどのように記載すればよいですか。
A47 労働協約の債務的部分について、組合事務所の貸与に関する規定を例にご説明します。
この場合、分割契約等には、例えば、「会社は、労働組合に対し 100 平方メー
トルの規模の組合事務所を貸与する。」という労働協約の内容のうち 40 平方メー
トル分の規模の組合事務所を貸与する義務については当該会社に残し、残り 60平方メートル分の規模の組合事務所を貸与する義務については設立会社に承継させる。」という内容の記載をし、それについて合意することも可能です。
Q48 有効期間が定められている労働協約について、承継法第6条第3項が適用された場合、その有効期間はどのように取り扱われるのですか。
A48 労働協約は、承継法第6条第3項の規定の適用によって、承継会社等と労働組合との間で、分割会社と労働組合との間で締結されている労働協約と同一の内容の労働協約が締結されたものとみなされます。この場合の「同一の内容の労働協約」とは、分割の効力が生じる直前の時点において分割会社と労働組合との間で締結されていた労働協約の内容と完全に同一の内容の労働協約という意味です。したがって、当該労働協約の有効期間の終了時期については、会社分割の前後
で変わることはありません。
Q49 承継法第6条第3項が適用された労働協約については、会社の分割後に書面作成、当事者の署名等が必要ですか。
A49 承継法第6条第3項は、労働組合法第 14 条の特例を設けたものであり、同条に定める労働協約の効力発生要件である、書面作成、両当事者の署名又は記名押印は必要ありません。
しかし、後日その協約内容について争いが生じないよう、同条の要件を備えるようにしておくことが望ましいです。
A50 1つの会社に2つ以上の労働組合が存在するとき、それぞれの労働組合が同一の事項に関し異なる内容の労働協約を使用者と結ぶことは可能であることから、複数の労働協約が1つの会社に存在することは当然あり得ます。
したがって、吸収分割の場合で、承継法第6条第3項の規定が適用された結果、分割会社との間で締結されている労働協約と同一の内容の労働協約が承継会社と当該労働組合との間で締結されたものとみなされるときは、当該承継会社が同一の事項に関して複数の労働組合と内容の異なる労働協約を締結したことになります。この結果、異なる組合に属する同種の労働者の間で、労働条件が異なることは起こり得ます。
A51 承継法第6条第3項の規定は、分割会社と労働協約を締結している労働組合の組合員に限り適用されます。したがって、会社の分割前より加入していた労働組合を脱退した者については、承継会社等において労働組合法第 17 条(一般的拘束力)や同法第 18 条(地域的の一般的拘束力)が適用される場合を除いて、それまで適用されていた労働協約は適用されなくなります。
Q52 会社の分割によって、労働協約の一般的拘束力(労働組合法第 17 条)やユニオン・ショップ等(労働組合法第7条第1号ただし書)はどのような影響を受けますか。
A52 <労働協約の一般的拘束力について>
○ 分割会社の場合
労働協約の一般的拘束力については、その要件として、「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」(労働組合法第 17 条)でなければならないとされています。
したがって、会社の分割前に分割会社の工場事業場において労働組合法第 17 条が適用されていた場合であっても、当該分割の際に当該要件を満たさなくなった分割会社又は承継会社等の工場事業場においては、同条は適用されず、一般的拘束力は失われます。
○ 承継会社等の場合
新設分割により、分割会社のある事業所で労働協約の一般的拘束力の要件を満たしているものを設立会社とした場合、分割後の当該設立会社において、労働協約の一般的拘束力の要件は満たされます。
吸収分割により、分割会社のある事業所で労働協約の一般的拘束力の要件を満たしているものを承継会社に承継させる場合、分割後の当該承継会社において、当該承継された事業所における労働協約の一般的拘束力の要件を満たすか否かについては、学説・判例においても見解が分かれており、当然に一般的拘束力の効果が及ぶものではありません。
<ユニオン・ショップ等について>
○ 分割会社の場合
労働組合法第7条第1号ただし書のいわゆるユニオン・ショップ等に係る労働協約については、その要件として、同ただし書において「当該労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表すること」とされています。したがって、会社の分割により、当該労働組合が当該要件を満たさなくなった場合は、ユニオン・ショップ等に係る労働協約は失効します。
○ 承継会社等の場合
新設分割により設立会社に労働協約が承継されるとき、分割会社のある事業所がユニオン・ショップ等を採っていた場合、会社分割後の承継会社においてユニオン・ショップ等が原則採られることになります。
吸収分割により承継会社に労働協約が承継されるとき、分割会社のある事業所がユニオン・ショップ等を採っていた場合、会社分割後の設立会社において、当該事業所については当該ユニオン・ショップ等が採られることになりますが、仮に承継された労働組合員数が承継会社において過半数を占める場合であっても、承継会社において従来から存在する事業所についてまで、当然にユニオン・ショップ等の効果が及ぶものではありません。
Q53 労働基準法等の労使協定について、会社分割に際しどのような取扱いをする必要がありますか。
A53 これらの労使協定は、会社分割によって会社の分割の前後で事業場の同一性が認められる場合には、引き続き有効です。ただし、事業場の同一性が失われた場合は、該当する労働基準法上の免罰効が失われることから、当該分割後に再度、それぞれの規定に基づいて労使協定を締結し届出をする必要があります。
なお、「事業場の同一性がある」とは、一般的に労働者の構成、事業場の場所、事業の実態等が実質的に同一であることを指します。会社分割の場合においては、会社分割による使用者の地位の変更を除くこれらの部分が同一であれば、事業場の同一性があるものと認められます。
第7章 労働者への2条通知
Q54 2条通知をしなければならない労働者の範囲は、どのようになっていますか。
A54 分割会社が2条通知を行う労働者の範囲は、当該分割会社が雇用する労働者のうち、
① 主従事労働者
② 主従事労働者以外の労働者であって、承継会社等に承継される労働者です。
A55 労働者へ行う2条通知は、分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日までにする必要がありますが、分割契約等の本店備置き日又は株主総会等を招集するための通知を発する日のうちいずれか早い日と同じ日に行われることが望ましいです。
Q56 労働者へ2条通知すべき事項としては、どのようなものがありますか。
A56 労働者へ2条通知すべき事項は、次のとおりです。
① 会社分割により承継される場合には労働条件を維持したまま承継されること
② 当該労働者が承継会社等に承継されるという分割契約等の記載の有無
③ 当該労働者が異議を申し出ることができる期限日
④ 当該労働者が承継法第2条第1項各号のいずれに該当するかの別
⑤ 承継される事業の概要
⑥ 分割後の分割会社及び承継会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用することを予定している労働者の数(*1)
⑦ 会社分割がその効力を生ずる日(*2)
⑧ 分割後の分割会社又は承継会社等において当該労働者について予定されている従事する業務の内容、就業場所その他の就業形態(*3)
⑨ 分割後の分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項(*4)
⑩ 承継法第4条第1項又は第5条第1項の異議がある場合はその申出を行うことができる旨及び異議の申出を行う際の当該申出を受理する部門の名称及び所在地又は担当者の氏名、職名及び勤務場所
(*1) 「雇用することを予定している労働者の数」には、正社員に限らず、短時間労働者、新規に雇用される労働者等、会社の分割により労働契約が承継される労働者が含まれます。
出向労働者については、例えば、承継会社等の雇用予定労働者数に含めた上で、「承継会社の雇用予定労働者数○人のうち○人は分割会社からの出向者」等と注記することが考えられます。
(*2) 「会社分割がその効力を生ずる日」とは、吸収分割においては分割契約で
「吸収分割がその効力を生ずる日」と定めた日、新設分割においては新設会社の設立登記の日を指し、会社の分割の日程を明らかにするため通知事項とされました。
(*3) 賃金、労働時間等の労働条件は、会社の分割の際に変更されるものではありませんので通知する必要はないと考えられますが、就業形態については、労働契約に基づき使用者の裁量により決定できる場合が少なくないため、会社の分割後予定されている就業形態について通知事項とされました。なお、
「その他の就業形態」には、交替制勤務における就業時間帯が含まれます。 (*4) 「債務の履行の見込みに関する事項」は、会社法上、会社分割における事前開示事項となっており、労働者にとっても重大な関心事であるため、通知
事項とされました。なお、通知に記載する内容は、会社法の規定に基づき本店に備え置く書類の要旨や、株主招集通知に記載する要領によることも考えられます。
Q57 労働者への2条通知に関し、分割会社に書面交付を義務付けた理由は何ですか。
A57 承継法において、分割会社に対して書面交付を義務付けたのは、個別の労働者に対して確実に到達する方法で提供するとともに、事後にトラブルが生じて労働者の地位が不安定になることを防止する必要があるためです。
Q58 2条通知を郵便物等により行う場合、いつまでに労働者に通知すればよいですか。
A58 通知を郵便等により行う場合は、民法第 97 条第1項により、相手方に到達した時よりその効力を生じます。したがって、株主総会等の日の2週間前の日の前日までに当該労働者に到達する必要があります。なお、労働組合への通知についても同様です。
Q59 「承継法第2条第1項各号のいずれに該当するかの別」をなぜ記載するのですか。
A59 分割契約等に承継会社等に労働契約を承継させる旨の記載がある労働者については、当該承継される事業に主として従事するか否かに関わりなく、通知がなされます。仮に労働者が承継法第2条第1項各号のいずれに該当するかの別を通知しなくても良いものとするならば、当該通知を受けた労働者が、自らの労働契約の承継に関し異議がある場合において、承継法第5条第1項の異議の申出を行うことができるのか否かの判断が困難になる事態が生じます。
このため、承継法施行規則において通知事項として規定されました。
Q60 「債務の履行の見込みに関する事項」は、どのように通知に記載すればよいですか。
A60 例えば、「当社及び承継会社は、効力発生日以後における債務の履行の見込みについて問題がありません」等と記載することが考えられます。このほか、会社法の記載に基づいて事前開示する債務の履行の見込みに関する事項の要旨等を記載することも考えられます。
Q61 電子メールによって、2条通知をするのは可能ですか。また、ファックスで送付することは可能ですか。
A61 2条通知を、電子メールで行うことはできません。また、ホームページやフロッピーディスク等電子媒体を使用する方法によることもできません。(書面媒体のみが認められている理由に関しては、Q57 参照)
ファックスについては、2条通知には、通知者の署名等が要件とされていないため、ファクシミリにより相手方の支配圏内にあるファックス機器に備えられた用紙に印字する方法によることは認められます。(相手方のファックス機器の不調に伴う危険負担は、通知者が負う。)
なお、これらのことは、労働組合への2条通知についても同様です。
Q62 2条通知を適法に受けなかった場合とは、どのようなことを指していますか。
A62 労働者に通知をした時点で株主総会の日まで2週間に満たない場合、通知事項として法令で定められている事項の全部又は一部が欠けた通知がされた場合、又は通知が書面でなく口頭で行われた場合等を指します。
第8章 労働組合への2条通知
Q63 2条通知をしなければならない労働組合の範囲はどのようになっていますか。
A63 分割会社が2条通知を行う労働組合は、当該分割会社との間で労働協約を締結している労働組合です。
しかしながら、分割会社における労働組合との間で労働協約を締結していない場合であっても、通知後の団体交渉の進展によって労働協約が締結される可能性もあること等から、当該分割会社は、当該労働組合に対し、承継法第2条第2項の規定の例により通知を行うことが望ましいです。
A64 労働者への2条通知と同様に、分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日までにする必要がありますが、分割契約等の本店備置き日又は株主総会を招集するための通知を発する日のうちいずれか早い日と同じ日に行われることが望ましいです。
Q65 労働組合へ2条通知すべき事項としては、どのようなものがありますか。
A65 労働組合に2条通知すべき事項は、次のとおりです。
① 承継される事業の概要
② 分割後の分割会社及び承継会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用するこ
とを予定している労働者の数(*1)
③ 会社分割がその効力を生ずる日(*2)
④ 分割後の分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項(*4)
⑤ 分割会社と当該労働組合との間で締結している労働協約が承継会社等に承継されるという分割契約等の記載の有無
⑥ 承継される労働者の範囲(労働組合にとって労働者の氏名が明らかとならない場合には労働者の氏名)
⑦ 労働協約を承継させる場合には、承継会社等が承継する労働協約の内容
なお、②~④の事項の解説については、A56の(*1),(*2),(*4)をご参照ください。
Q66 労働組合への2条通知に関し、分割会社に書面交付を義務付けた理由は何ですか。
A66 承継法において、分割会社に対して書面交付を義務付けたのは、会社の分割の態様によっては現在締結している労働協約の在り方に重大な影響を与えかねないので、会社の分割に関する情報を、分割会社と労働協約を締結している労働組合に対して、確実に到達する方法で提供する必要があるためです。
Q67 事前協議等で分割契約等について労働組合の了承を得ている場合でも、改めて労働組合に対して2条通知を行わなければならないのですか。
A67 分割会社が労働協約を締結している労働組合に対して行う2条通知は、会社の分割が労働組合の活動に対して大きな影響を与えることから、労働者保護の観点から法定された義務であり、事前協議により当該分割に関し了承が得られている場合であっても、行わなければなりません。
第9章 労働契約の承継等に対する労働者の異議
Q68 承継法において、承継会社等への労働契約承継に関して異議を申出ることができるのは、どういった場合ですか。
A68 承継会社等への労働契約承継に関して、異議を申し出ることができるのは、次に該当するときです。
① 主従事労働者の労働契約について、分割契約等の記載により、承継会社等に承継されないこととなっている場合
② 分割会社に雇用される労働者で、主従事労働者以外の労働者の労働契約について、分割契約等の記載により、承継会社等に承継されることとなっている場合
なお、この異議申出は、分割会社に対し書面により行わなければならず、その内容としては、「異議を申し出る労働者の氏名」及び「当該労働者に係る労働契約が当該承継会社等に承継されないこと若しくは承継されることについて反対である旨」を記載すれば足ります。
Q69 承継会社等への労働契約承継に関して、一定の労働者が異議の申出を行うことができるとした理由は何ですか。
A69 A68 の①、②の場合について、一定の労働者が異議を申し出ることができるものとしたのは、分割会社等の意思のみにより、個々の労働者がこれまで従事していた職務と切り離されるおそれがあるためです。すなわち、A68 の①においては、承継会社等への労働契約の承継の対象から特定の労働者が排除されてしまうこと、
②においては、承継会社等への労働契約の承継を望まない労働者が承継を強制されてしまうことの不利益が生じるおそれがあり、こうした事態からこれらの労働者を保護する必要があるためです。
Q69-2 労働者は、異議の申出を行ったことによって不利益な取扱いを受けることがありますか。
A69-2 異議の申出は承継法に基づく労働者の権利であり、会社は、労働者が異議の申出を行おうとしていること又は行ったことを理由として、解雇等の不利益取扱を行ってはなりません。
A70 異議の申出の受付最終日となる期限日は、分割会社が定めることになりますが、期限日の定め方について、以下の2要件の両方を満たさなければなりません。
① 分割契約等を承認する株主総会等の日の2週間前の日から当該株主総会等の日の前日までのいずれかの日とすること、
② 2条通知がされた日と期限日との間に少なくとも 13 日間を置いていること
(「通知がされた日」とは、2条通知が当該労働者に到達した日をいいます。)例えば、当該通知が月曜日になされた場合、翌々週の月曜日(当該月曜日が祝日
で会社が休業の場合は火曜日)以降の日を期限日としなければなりません。
株主総会の日が平成22年6月28日の場合
<図 通知日程のイメージ図>
(法 異
期
が間 x
x 議
設x x
xで 期
) 分
割 限
会 日
社
法定の通知期限日
(第2条第3項)
株主総会の日の前日
株主総会の日の2週間前
株主総会の日
会 社 をがし実た際日に
通
知
6/13
6/14
6/26
6/27
6/28
通知の日と期限日の間に13日間
(第4条第2項)
株主総会の日の
2週間前の起算点
2週間(第2条第1項)
※このケースでは、法定の通知期限日と会社の実際の通知日が偶然一致しています
※簡易分割における異議の申出の期限日
簡易分割の手続により会社の分割が行われる場合は、分割契約等の株主総会による承認が不要とされているため、分割会社が異議の申出の期限日を定める際に、株主総会の会日を基準にしている承継法第4条第1項及び第2項によることができません。このため、これらの規定の適用に関する読替規定を設け、分割契約等に記載することとされている「分割の効力が生ずる日」の前日までの日に限ることとしました。なお、承継法第5条第1項の異議の申出についても同様です。
<図 異議申出期限日について>
原則
異議の申し出ができる期間
2週間以上
通知がなされた日
分割会社が定める
2週間
異議申出期限日
株主総会
簡易分割、合同会社の会社分割の場合
異議の申し出ができる期間
2週間以上
分割会社が定める 分割の効力
通知がなされた日
異議申出期限日 が生ずる日
Q71 労働者が「書面」により異議の申出を行わなければならない理由は何ですか。
A71 一定の労働者が行う異議の申出は、分割会社が作成した分割契約等の内容と反した法律効果を発生させます。このため、労働者が異議を申し出た事実を分割会社に確実に到達させるとともに、事後に紛争が生じて労働者の地位が不安定になることを防止する必要があるため、労働者に対して書面によって異議を申出ることが義務付けられました。
Q72 労働者との合意によって、あらかじめ異議の申出を行う権利を放棄させることはできますか。
A72 承継法の規定に基づく異議の申出は、分割会社からの通知が到達した後において、労働者が判断して行うものであることから、異議の申出を行う権利を事前に放棄させることはできません。
Q73 分割会社からの2条通知がされなければ、労働者は異議の申出を行うことができないのですか。
A73 分割会社からの2条通知がなされなかった場合であっても、例えば、本店に備え置かれた分割契約等の記載や、労働組合等からの正確な情報に基づき、労働者が適法に異議の申出を行うことが可能です。
Q74 承継法第4条第1項の異議の申出の書面には、当該労働者が主従事労働者である旨の記載を求めない理由は何ですか。
A74 この場合、いわゆる主従の判断に関しては、労使で認識が一致していることから、あえて記載する必要がないためです。
すなわち、労働者側から見ると、承継法第4条第1項の異議の申出を行う場合、労働者は自分が承継される事業に主として従事する労働者であると認識していることは明らかです。
また、使用者側から見ると、分割契約等に労働契約の承継についての記載のない労働者に対して承継法第2条第1項の通知をしている以上、分割会社は、当該労働者は主従事労働者であることを承知の上で承継される事業には従事させない
(従来主として従事してきた業務から切り離す)こととしているのは明白です。このため、当該異議申出の書面には、いわゆる主従判断の記載は不要とされました。
Q75 承継法第5条第1項の異議の申出の書面において、当該労働者が主従事労働者に該当するか否かの記載を求めている理由は何ですか。
A75 労働者が承継法第5条第1項の異議の申出を行う場合は、第4条第1項の異議の申出の場合と異なり、いわゆる主従判断について労使で一致している場合と一致していない場合双方が起こり得るためです。
すなわち、分割会社が当該労働者を主従事労働者(承継法第2条第1項第1号)と判断した場合であって、当該労働者が自らを「従として従事する労働者」と考えていた場合、双方の認識が食い違ってしまう事態が予想されます。
主従判断が労使双方で食い違っていた場合、まずその見解の相違の解消が急務であり、労働者自身が、自らが主従事労働者に該当していると考えている旨を明
記することが適当ですので、当該記載を求めています。
Q76 分割会社は、労働者に対して異議の申出を行う理由の記載を求めることはできますか。
A76 分割会社は、労働者が任意に対応することを期待して、労働者に異議の申出を行う理由等の記載を求めることは可能ですが、当該理由等の記載の有無は、承継法の規定に基づく異議の申出の効力に何ら影響を与えるものではありません。
Q77 異議の申出を郵便で行う場合、いつまでに分割会社に発送すればよいですか。
A77 承継法の規定に基づく異議の申出を郵便等により行う場合は、民法第 97 条第1項の規定により、相手方に到達した時よりその効力が生ずるので、承継法第2条第
1項の規定に基づく労働者への通知の際に、分割会社から示された期限日までに当該分割会社に到達する必要があります。
したがって、労働者は、承継法の規定に基づく異議の申出を行う書面を発送するに際して、その書面が期限日までに分割会社に到達するように、十分留意する必要があります。
Q78 労働者は異議の申出を電子メールで行うことはできますか。
A78 2条通知と同様に、承継法の規定に基づく異議の申出も書面によることとされているため、電子メール、ホームページやフロッピーディスク等電子媒体を使用する方法によることはできません。
また、承継法の規定に基づく異議の申出には、異議の申出を行う労働者の署名等が要件とされていないため、ファクシミリにより相手方の支配圏内にあるファックス機器に備えられた用紙に印字する方法によることは認められます。(相手方のファックス機器の不調に伴う危険負担は、当該労働者が負います。)
Q79 分割会社から通知を適法に受けなかったため、承継法第5条第1項の異議の申出をすることができなかった場合、労働者はどのような対応をすることが考えられますか。
A79 労働者は、会社の分割前であれば分割会社との間の協議等によって、会社の分割後においても、分割会社に対してその雇用する労働者たる地位の保全又は確認を求めることができ、また、承継会社等に対してその雇用する労働者でないことの確認を求めることができます。
第 10 章 その他(出向の場合)
Q80 分割会社(X社)が会社分割により、ある事業部門を分割して別会社(Y社)とする場合、X社から他社(Z社)へ在籍出向中の労働者(W)は、承継法上どのように扱われますか。
会社分割
Y社
出向中
労働契約
A80
Z社 | 出向契約 | ||
X社 | |||
労働契約
W
①WはZ社で勤務していますが、会社分割によってY社に承継させることはできますか。
→転籍と異なり出向の場合、労働者は出向元の企業に籍を置いたまま、出向先の業務に従事します。したがって、WとX社の労働契約は存続しているため当該労働契約がX社において分割される事業に関する権利義務に含まれるものであれば、分割契約等に記載することによって、Y社に承継させることができます。
②Wに対して承継法の手続は必要ですか。またWについて、労働者の主従判断はどのようにするのですか。
→WはX社が雇用している労働者ですので、承継法の手続が必要です。分割契約書等作成時点でZ社に在籍出向しているWの主従判断については、在籍出向期間中におけるWの本籍がいずれの部局に置かれているのか、当該在籍出向期間終了後、Wがいずれの部局に戻る予定であったか等の諸事情を総合勘案して判断することになります。
Q81 分割会社(X社)が会社分割により、ある事業部門を分割して別会社(Y社)とする場合、他社(Z社)からX社へ在籍出向中の労働者(W)について、承継法による手続が必要ですか。
A81
Z社 | 出向契約 | ||
X社 | |||
労働契約
出向中
会社分割
Y社
労働契約
W
①Wは他社から出向してX社で勤務していますが、会社分割によってY社に承継させることはできますか。
→Wの出向元会社であるZ社と、出向先会社であるX社の間には、Wに関して出向契約等が結ばれています。したがって、当該契約がX社において分割される事業に関する権利義務に含まれるものであれば、分割契約等に記載することによって、Y社に承継させることができます。
②X社はWに対して承継法上の手続をとる必要がありますか。
→一般的には必要です。在籍出向の場合、一般的には「二重の契約関係」
に立つ者であると考えられ、出向元における従業員としての地位を保ちながら、出向先との間において新たな労働契約を発生させて、出向先の従業員として勤務しています。したがって、一般的には在籍出向労働者であるWと分割会社X社の間にも労働契約が存在するため、WはX社の
「雇用される労働者」に該当し、その者がX社により承継される事業に主として従事している場合には、X社は承継法第2条第1項の規定による通知を行う必要があります。
ただし、賃金の決定・支払のすべてが出向前と同様に出向元企業Z社で行われているような場合等、WとX社の間において労働契約が成立すると認められないような場合については、WはX社の「雇用する労働者」に該当しません。
※③もご参照ください。
③WがX社の会社分割の承継対象となった場合、②に加えて必要な手続はありますか。
→WはZ社からの出向者であるため、別途出向についてのWの同意が必要になります。出向に係る労働者の同意については、個別・具体的な同意でなくても労働協約、就業規則等に定めがあるなど包括的な同意で足りるとする裁判例もありますが、そのような場合の条件として、「密接な関連会社間の日常的な出向であって、出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが出向規定等で労働者の利益に配慮して整備され、当該職場で労働者が通常の人事異動の手段として受容しているものであることを要する」という学説が有力になっています。
労働協約、就業規則等に出向に係る定めがある場合であっても、出向先の変更は労務提供の相手方の変更であり、出向先からさらに勤務先を異にして出向を命じる場合には、分割会社は当該労働者から同意を得る等、慎重な手続が必要です。
なお、労働協約、就業規則等に出向に係る規定の定めがない場合には、分割契約等に記載するだけでは足りず、当該労働者本人の同意を得ることが必要です。
④WはX社において分割対象の事業に主として従事していましたが、当該会社分割で、Wに係る労働契約はY社に承継されないこととなりました。WはX社に対して、労働契約承継法第4条に規定する異議の申出をすることはできますか。
→Wが承継法におけるX社の「雇用される労働者」に該当する場合、Wに対しても承継法が適用されます(②参照)。したがって、上記のケースにおいて、WはX社に対して承継法第4条第1項に基づき異議の申出をすることができます。
第3編 事業譲渡・合併
Q82 事業譲渡時に、労働契約を譲受会社に承継させる場合、どのようにすればよいですか。
A82 事業譲渡時における権利義務関係の承継に関する法的性格は特定承継とされており、譲渡会社等は、譲受会社等へ承継予定労働者の労働契約を譲受会社等へ承継させる場合には、民法第 625 条第1項の規定に基づき、労働契約の承継について、承継予定労働者から個別に同意を得る必要があります。
Q83 承継予定労働者の承諾を得るに当たり、どのようなことを協議すればよいですか。
A83 承継予定労働者の真意による承諾を得るに当たり、円滑な組織再編と労働者の保護といった観点から、譲渡会社等は承継予定労働者との間で以下に十分留意し、協議を行うことが適当です。
① 事業譲渡に関する全体の状況(譲渡会社等及び譲受会社等の債務の履行の見込みに関する事項を含む。)、譲受会社等の概要及び労働条件(譲受会社等において従事する予定の業務内容、就業場所その他就業形態を含む。)等について、協議をすること。
② 特に譲渡会社等が、承継予定労働者の労働条件を変更して、譲受会社等に承継させる場合には、その変更の同意を得る必要があること。
③ 労働者が個別に民法の規定により労働組合を当該協議の全部又は一部に係る代理人として選定した場合は、譲渡会社等は、当該労働組合と誠実に協議をすること。
④ 労働者の労働条件等に関する労働組合法第6条の団体交渉の対象事項について
は、譲渡会社等は、当該労働者との協議が行われていることをもって労働組合による事業譲渡に関する適法な団体交渉の申入れを拒否できないこと。
⑤ 承継予定労働者から真意による承諾を得るまでに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を行うこと。
⑥ 意図的に虚偽の情報を提供すること等により、承継予定労働者から承諾を得た場合には、民法第 96 条第1項の規定に基づく意思表示の取消しができること。
Q84 承継予定労働者との協議は、いつまでに行えばよいですか。
A84 譲渡会社等は、真意による承諾を得るまでに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて当該協議を行うことが適当です。
Q85 事業譲渡のみを理由とした解雇を行うことはできますか。
A85 事業譲渡を理由とする解雇については、整理解雇に関する判例法理の適用があり、承継予定労働者がそれまで働いていた事業が譲渡されたことのみを理由とする解雇など、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められない場合に該当する解雇は、労働契約法第 16 条の規定に基づく解雇権の濫用として認められません。
また、承継予定労働者が譲受会社等に労働契約を承継させることについて承諾をしなかったことのみを理由とする解雇についても同様です。
こうした場合には、譲渡会社等は、承継予定労働者を譲渡する事業部門以外の事業部門に配置転換を行うなど、承継予定労働者との雇用関係を維持するための相応の措置を講ずる必要があることに留意してください。
Q86 譲渡会社等は、譲渡する事業部門の中から、承継予定労働者の選定を行うことはできますか。
A86 譲渡会社等が、譲渡する事業部門の中から、承継予定労働者の選定を行うことはできます。この場合、労働組合員に対する不利益な取扱い等の不当労働行為など法律に違反する取扱いを行ってはならないことに留意してください。
Q87 事業譲渡時の労働契約の承継の有無や労働条件の変更に関する裁判例には、どのようなものがありますか。
A87 事業譲渡時の労働契約の承継の有無や労働条件の変更に関し、労働契約の承継についての黙示の合意の認定、法人格否認の法理や公序良俗違反等の法理等を用いることにより、個別の事案に即して、承継されなかった労働者の承継を認める等の救済がなされている裁判例があります。
Q88 事業譲渡に当たって、労働組合等と協議する必要はありますか。
A88 円滑な組織再編と労働者の保護といった観点から、譲渡会社等の労働者の理解と協力を得るため、譲渡会社等と労働組合等の間で協議がなされることが適当です。
労働者の理解と協力を得るための具体的な方法として、労働者の過半数を代表する労働組合(このような組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)との協議その他これに準ずる方法があります。
なお、「その他これに準ずる方法」としては、名称のいかんを問わず、労働者の理解と協力を得るために、労使対等の立場に立ち誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議することが含まれます。
A89 譲渡会社等がその雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める事項としては、次のようなものがあります。
① 事業譲渡をする背景及び理由
② 事業譲渡がその効力を生ずる日以後における譲渡会社等及び譲受会社等の債務の履行の見込みに関する事項
③ 承継予定労働者に該当するか否かの判断基準
④ 労働協約の承継に関する事項
⑤ 事業譲渡に当たり、譲渡会社等または譲受会社等と労働組合または労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続
A90 労働組合等との協議は、遅くとも承継予定労働者から個別に承諾を取り始める前に開始し、その後も必要に応じて適宜行うことが適当です。
Q91 労働組合等との協議と、労働組合法上の団体交渉権との関係はどのようになっているのですか。
A91 事業譲渡に伴う労働者の労働条件等に関する労働組合法第6条の団体交渉の対象事項については、譲渡会社等は、労働組合等との協議が行われていることをもって労働組合による事業譲渡に関する適法な団体交渉の申し入れを拒否することはできません。
また、A89 の①から④までの事項についての団体交渉の申入れがあった場合には、譲渡会社等は、労働組合と誠意をもって交渉に当たらなければなりません。
Q92 団体交渉の当事者となる労働組合法上の「使用者」の範囲はどのようなものですか。
A92 A15-2参照。
Q93 合併に当たって、労働契約の取扱いはどのようになりますか。
A93 消滅会社等の権利義務については、存続会社等に包括的に承継されるため、消滅会社等の労働者の労働契約についても、存続会社等に包括的に承継されます。
このため、労働契約の内容である労働条件についても、そのまま維持されます。