Contract
金融庁は、個人であるファンドマネージャーが組合員として運用する組合事業から出資割合を超えて受け取る組合利益の分配(いわゆるキャリード・インタレスト)について定められた組合契約に関し、当該ファンドマネージャーが受け取るキャリード・インタレストが、当該組合契約に定められた分配割合に応じた構成員課税の対象になることの判定について下記のとおりとりまとめた。
本件については、下記Ⅰを踏まえ下記Ⅱについて国税庁に照会し、「xxのとおりで差し支えない。」との回答を得ている。
なお、下記Ⅲにおいて、下記Ⅱの要件を具備した一般的な事例における考え方の整理を行っており、当該考え方についても国税庁に確認を得ている。
また、xxxxx・xxxxxxを受け取るファンドマネージャーの個人所得税の確定申告の際は、本件の内容を満たしている旨を確認する為、当文書と併せて公表しているチェックシートや計算書を確定申告書に添付することに留意する。
記
Ⅰ キャリード・インタレストに対する原則的考え方
個人であるファンドマネージャーが投資組合事業1に金銭等を出資し、その組合の組合員となり、投資意思決定に関して権限を有する場合には、単に資金のみを提供する有限責任組合員に比し、投資組合事業への貢献度合が高い。このため、その貢献度合いに鑑み、組合契約において当該組合事業から生じる利益が一定の水準(以下「ハードルレート」)を超えることを条件に、出資割合を超えて当該ファンドマネージャーに利益を分配すること(いわゆるキャリード・インタレスト)を定めるケースが多い。
任意組合等の組合員の組合事業に係る課税については、組合事業に係る利益等の帰属について定めた所得税基本通達 36・37 共-19(以下「本通達」)において、以下のように定められており、組合員の組合事業に係る利益等の額については、任意組合等の利益等の額のうち、分配割合について経済的合理性を有していないと認められる場合を除き、分配割合に応じて利益の分配2を受けるべき金額等とすること(分配割合に応じた構成員課税)とされている3。
1 租税特別措置法第 37 条の 10 第2項に規定する株式等の取得及び保有を目的とする組合事業をいう。
2 実現益が課税の対象である。
3 組合事業に係る利益等が株式等の譲渡に基づくものである場合には、株式等の譲渡による所得として分離課税の方法により課税されることとなる。
〇 所得税基本通達
(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属)
36・37 共-19 任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(以下
36・37 共-20 までにおいて「組合事業」という。)に係る利益の額又は損失の額は、当該任意組合等の利益の額又は損失の額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。
ただし、当該分配割合が各組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していないと認められる場合には、この限りではない。
(注)1 任意組合等とは、民法第 667 条第1項《組合契約》に規定する組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項《投資事業有限責任組合契約》に規定する投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約に関する法律第3条第1項《有限責任事業組合契約》に規定する有限責任事業組合契約により成立する組合並びに外国におけるこれらに類するものをいう。以下 36・37 共-20 までにおいて同じ。
2 分配割合とは、組合契約に定める損益分配の割合又は民法第 674 条《組合員の損益分配の割合》、投資事業有限責任組合契約に関する法律第 16 条《民法の準用》及び有限責任事業組合契約に関する法律第 33 条《組合員の損益分配の割合》の規定による損益分配の割合をいう。以下 36・37 共-20 まで
において同じ。
キャリード・インタレストが、組合員に対する組合利益の分配として組合契約で定められている場合において、当該分配を受けるべき利益が組合契約で定められた分配割合に応じた構成員課税の対象となるためには、組合員が経済的合理性のある分配割合で組合事業から生じる利益の額の分配を受けることが要件とされる。このため、以下において、本通達の適用に関して、「経済的合理性」等の基本的考え方について検討する。
Ⅱ 「経済的合理性」等の基本的考え方
経済的合理性については、本通達にも記載があるとおり、「分配割合が各組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて」、個々の組合契約について具体的に検討されることとなるが、例えば、次の要件に該当する場合には、本通達の適用に関して、一般的には経済的合理性等を有しているとして、投資組合契約で定められた分配割合に応じた構成員課税の対象になるものと考えられる。
なお、次の要件については、本通達に定める任意組合等に係る組合契約を前提とし、当該組合契約とその運用上の実態に相違はないものとする。
1.任意組合等に係る「組合契約」について
○ 組合契約の締結及び組合財産の運用が各種の法令に基づいて行われていること
組合契約の締結のほか、その契約の内容や組合財産の運用については、法的な合理性が担保されていることが前提となる。このため、㋑組合契約の締結及びその内容などがその組合契約の根拠となる各種法令に基づいて行われていることや㋺組合財産の運用に際して無限責任組合員(ゼネラル・パートナー、以下「GP」)が金融商品取引法に基づく投資運用業の届出等をしていることなどが必要である。
○ ファンドマネージャーが金銭等の財産を投資組合に出資していること
構成員課税の対象となるためには、ファンドマネージャーが金銭等の財産を投資組合に出資していることが前提となる。キャリード・インタレストは、投資組合事業への貢献度合に鑑みファンドマネージャーが組合員として受け取る利益の分配であることから、金銭等の財産をその投資組合に出資することにより組合員としての資格を有することが必要である4。
2.「利益の分配」について
○ キャリード・インタレストについて、組合契約上、利益の分配を規定する条項に定められていること
キャリード・インタレストが組合事業から生じる利益の分配として受け取るものであるというためには、キャリード・インタレストの性格が組合契約上明らかにされていることが必要である。このため、xxxxx・xxxxxxについては、組合契約において利益の分配(distribution)や配分
(allocation)を規定する条項5に定められていることが必要であり、キャリード・インタレストが組合員に対する組合利益の分配として配賦される必要がある6。
3. 「経済的合理性」について
○ 組合契約に定めている分配条件が恣意的でないこと
経済的合理性を有するためには、投資組合契約に定める分配条件が恣意的でないことが必要である。投資組合契約に定める分配条件は、有限責任組合員(リミテッド・パートナー)で資金のみを提供する者(以下「一般LP」)とxxxxx・xxxxxxを受け取るファンドマネージャーとの間で最も
4 労務出資については、組合契約の準拠法において、認められないものもあることから、今般の照会の対象としていない。
5 「組合財産の分配」という条項で定める場合も考えられる。
6 キャリード・インタレストは、組合利益の分配であり、役務提供の対価として支払われる報酬(fee)とは異なることに留意が必要である。
利害が対立する事項の一つと考えられる。このため、恣意的な分配条件でないといえるためには、㋑その組合の組合契約はその組合の組合員全員の合意のもとに締結されたものであり、かつ、㋺その組合の組合員は他の組合員と利害の対立する複数の者により構成されていることが必要である。
ただし、キャリード・インタレストに関する規定について、例えば、ファンドマネージャーとその特殊関係者のみで決定・変更可能であるような場合には、分配条件が恣意的でないとはいえないことに留意が必要である。
○ 組合契約の内容が、一般的な商慣行に基づいていること
経済的合理性を有するためには、投資組合契約の内容が国内外における一般的な商慣行に基づいていることが必要である。例えば、組合利益の分配や配分を規定する条項において、一定のハードルレートに達するまで出資割合に応じた分配を行い、これを超えた場合の利益の分配につき、2割をファンドマネージャーに、残り8割をファンドマネージャー以外の組合員に分配するといった内容7が盛り込まれている場合が多い8。このような利益の分配や配分に係る事項(当該分配の割合を含む。)が、多くの組合契約に盛り込まれていることは、一般的な商慣行であることを間接的に裏付けることになると考えられる。
○ ファンドマネージャーが投資組合事業に貢献していること
経済的合理性を有するためには、ファンドマネージャーが投資組合事業に貢献していることが必要である。xxxxx・xxxxxxは、投資組合事業への貢献度合に鑑みファンドマネージャーが組合員として受け取る利益の分配であることから、ファンドマネージャーが投資組合事業に貢献しているかどうかが重視される。例えば、ファンドマネージャーが投資組合事業の投資意思決定に重要な影響を及ぼす権限9を有し、組合事業に係る利益を生じさせるために実際にその権限を行使している場合には、投資組合事業に貢献していると考えられる。
7 ハードルレートまでは優先的にファンドマネージャー以外の組合員に分配した後、まずはハードルレートに相当する額までをファンドマネージャーに分配し(いわゆるキャッチアップ)、キャッチアップ後の利益の2割をファンドマネージャーに、残り8割をファンドマネージャー以外の組合員に分配するケースも多い。
8 平成 30 年3月経済産業省「投資事業有限責任組合契約(例)及びその解説」52 頁以下参照。なお、キャリード・インタレストの分配については、金融庁において複数の専門家(弁護士・公認会計士・税理士等)にヒアリングを行ったところ、ハードルレートを超えた利益の2割をファンドマネージャーが受け取り、残り8割をファンドマネージャー以外の組合員が受け取るというケースが一般的な商慣行として多くの海外のファンド契約で採用されているという意見であった。
9 例えば、租税特別措置法施行令第 26 条の 30 第1項に規定する行為をし得る権限は、投資組合事業の投資意思決定に重要な影響を及ぼす権限の一つといえる。
【用語の定義】
組合契約 | 所得税法施行令第 281 条第5項又は法人税法施行令第 178 条第 5項に規定する次の契約 ① 民法第 667 条第1項に規定する組合契約 ② 投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定する投資事業有限責任組合契約 ③ 有限責任事業組合契約に関する法律第3条第1項に規定する有限責任事業組合契約 ④ 外国における上記①~③の契約に類する契約 |
投資運用業 | 次に掲げる運用業 ① 金融商品取引法第 34 条に規定する金融商品取引業者等の同法第 28 条第4項に規定する投資運用業 ② 金融商品取引法第 63 条第5項に規定する特例業務届出者の同条第2項に規定する適格機関投資家等特例業務 ③ 金融商品取引法第 63 条の9第4項に規定する海外投資家等特例業務届出者の同法第 63 条の8第1項に規定する海外投資家等特例業務 ④ 金融商品取引法附則第3条の3第1項(同条第7項において準用する場合を含む。)の規定による届出をした者(同条第 1項ただし書(同条第7項において準用する場合を含む。)の規定の適用がある者を除く。)の同条第5項に規定する移行期間特例業務(同条第7項に規定する行為を業として行うことを含む。) ⑤ 金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第 16 条第1項第 17 号の規定に基づき金融庁長官の承認を受け た者の金融商品取引法第 28 条第4項に規定する投資運用業 |
特殊関係者 | 原則として、組合員の親族など組合員と所得税法施行令第 275 条各号又は法人税法施行令第4条第1項各号に規定する特殊の関係のある個人若しくは同条第2項各号に規定する特殊の関係の ある法人 |
Ⅲ 具体的事例
上記Ⅱの基本的考え方を基にした具体的な事例は、以下の通り。
【留意事項】
⒈ 組合契約とその運用上の実態は、常に一致しているものとする。
⒉ 前提とされた事実関係が異なれば、取扱いも異なりうる。
(事実関係)
Zファンドの概要
Zファンドは、全世界の金融資本市場への投資を目的として、日本の投資運用会社A社(金融商品取引法に基づく投資運用業の登録済み)によって組成されたリミテッド・パートナーシップ(LPS)である。A社は、ZファンドのGPとして、Zファンドの業務執行を行っており、A社の役職員BがファンドマネージャーとしてZファンドにおける投資先の決定及び投資の実行の実質的な決定権限を有している。Zファンドには、国内外の多数の投資家が単に資金のみを提供し、組合の業務執行に関して権限を有さない者が一般LPとして参加しているほか、A社の役職員BがZファンドのファンドマネージャーとして業務執行に関する権限を有する特別なリミテッド・パートナー(以下「特別LP」)として参加している。Zファンドは本通達の任意組合等に該当する。
GP(A社)、特別LP(A社の役職員B)、一般LPは、Zファンドに対して、それぞれ5%、5%、90%を金銭により出資している。
組合契約の内容
Zファンドに係る組合契約において、組合利益の分配の条項を以下のとおり定める。
・ ハードルレートを8%と設定し、組合利益がハードルレートに達するまでは、出資割合に応じて組合利益を分配する。
・ ハードルレートを超えた利益につき、ファンドマネージャーの貢献度合いに鑑み、2割を特別LPに、残り8割を特別LP以外の組合員に分配する。
・ キャリード・インタレストに関する規定に関しては、ファンドマネージャーとその特殊関係者のみで決定・変更することはできない。
その他:
・ 組合契約は、一般LP、A社及び役職員Bの組合員全員の合意のもとに締結されている。
・ 一般LPに、役職員Bの特殊関係者に該当する者はいない。
・ A社の役職員Bは、特別LPとしてZファンドから組合利益の分配を受けるほか、A社の役職員としてA社から雇用契約に基づく給与を受ける。
上記の事実関係を総合的に勘案すれば、A社の役職員Bが受ける組合利益の分配は、組合契約で定められた分配割合に応じた構成員課税の対象になると認められる。
1.任意組合等に係る「組合契約」について
○ Zファンドは、本通達の任意組合等に該当する。
また、A社は、Zファンドにおける投資運用を行うため、金融商品取引法に基づく投資運用業の登録を行っており、金融商品取引法上の善管注意義務・xx義務の規制に服する。
○ 役職員Bは、金銭をZファンドに対する出資の目的としており、Zファンドの組合員として参加している。
2.「利益の分配」について
○ 組合利益の分配の条項でキャリード・インタレスト(ハードルレートを超えた利益のうち2割を特別LPに分配)を規定していることから、組合契約上、ファンドマネージャーが受け取るxxxxx・xxxxxxは、役務提供の対価ではなく、組合利益の分配である。
3.「経済的合理性」について
○ Zファンドの組合契約の条件交渉には、役職員Bとの間で特殊関係にない多数の一般LPが参加しており、役職員Bと利害が対立する複数の者との間で交渉された結果として、出資割合を超えた特別LPに対する利益の分配を認めている。
また、キャリード・インタレストに関する規定の決定・変更に際しては、一般LPを含む組合員の合意が必要であり、ファンマネージャーとその特殊関係者のみでその条件が決定・変更されることはない。
このため、その分配割合が恣意的とは言えない。
○ ハードルレートを超えた利益につき、特別LPに2割、残り8割を特別 LP以外の組合員に分配することは、一般的なキャリード・インタレストの条件であると認められている(脚注8参照)。
○ 役職員Bは、Zファンドにおける投資先の決定及び投資の実行の決定権限を有し、それを行使していることから、組合事業に貢献しているといえる。
以上より、A社の役職員Bが受ける組合利益の分配は、本通達における構成員課税の対象として、契約で定められた分配割合に従った分配額が、役職員Bを含む各組合員に帰属する利益の額になるものと考えられる。
(注) 特別LPである役職員Bは、A社の役職員としてA社から給与を受けるが、これはA社と役職員Bとの雇用契約に基づくものであり、組合契約に基づく分配とは異なる課税関係となる。