Contract
レア・メタル事件
請求内容1
レッド社はブルー社に対して、タングステンの供給義務違反による損害賠償として
500 万米ドルを支払え。
≪請求要旨≫
レッド社はブルー社に対し、別添6の合意書(以下、「別添 6 契約」とする)に基づいて、タングステンを供給すべき義務を負う。それにもかかわらず、レッド社は義務を履行しなかった。以上のことから、ブルー社は UNIDROIT 国際商事契約原則 2016 年(以下、「UPICC」とする)7.4.1~7.4.4 条に基づいて、レッド社に損害賠償を請求する。
第1 レッド社はブルー社に対し、別添 6 契約に基づくタングステンの供給義務を負う。
1. 別添 6 契約は、レッド社はブルー社に対し、ネゴランド国以外の国の他の 購入者に優先して、レッド社またはその関係会社が製造したニッケルやチタ ンなどのレア・メタルを供給すべき義務を負う旨を規定する。別添 6 契約に おいて、その供給義務の対象はニッケルやチタンに限定されるものではなく、レッド社の製造したレア・メタル全てに及ぶため、タングステンも別添 6 契 約に含まれる。以下に、その根拠を示す。
2. 1 つ目に、別添 6 契約において、ニッケルとチタンはレア・メタルの範囲を限定するものではない。なぜなら、ニッケルとチタンは、“such as ”という例示表現で示されているからである。English Oxford living Dictionariesによれば、“such as”は“for example”であり、「例えば」を意味する例示的な表現である。よって、ニッケルとチタンはレア・メタルの例示列挙に過ぎず、別添 6 契約の対象となるレア・メタルの範囲をそれらに限定するものではない。このことから、別添 6 契約はレッド社の製造するレア・メタル全てに適用される。
3. 2 つ目に、レッド社においても、ニッケルとチタンは限定列挙であり、レッド社の扱うレア・メタル全てが別添 6 契約の適用を受けると理解している。以下に、その根拠となる事実を挙げる。まず、白金の取引においてレア・メタル危機が発生した際に、ネゴランド国以外の他国企業の注文よりも優先
して、レッド社はブルー社に白金を供給している(¶15)。また、ブルー社のダイアモンド社長が「ニッケルとチタン、白金の取引について引き続きブルー社に優先的に供給してほしい」旨の発言をしたところ、レッド社のホーク総裁は「わかりました」と応答した(¶29)。これらの事実から、レッド社は、別添 6 契約の文言にない白金においても、ブルー社に優先的に供給していると評価できる。次に、ブラック社のノムラとのタングステンに関する交渉において、レッド社の金属資源部長であるオレンジは、「レッド社の扱うレア・メタルについて、輸出分はブルー社に優先して供給する」と発言している(¶22)。この事実から、レッド社においても、レッド社の製造したタングステンを含むレア・メタル全てをブルー社に優先的に供給するとの意思があると評価できる。
4. 以上のことから、レッド社においても、別添 6 契約はレア・メタルの範囲を限定せず、レッド社の製造したレア・メタル全てに及ぶと理解していると判断できる。そして、レッド社がタングステンも扱うようになったため(¶ 21)、別添 6 契約の対象にタングステンは含まれる。したがって、レッド社はブルー社に対し、別添 6 契約に基づくタングステンの供給義務を負う。
(小括)レッド社はブルー社に対して、別添 6 契約に基づくタングステンの供給義務
を負うため、以下に示す 2 つの要件を満たす場合、レッド社は義務違反であると評価できる。1 つ目は、レッド社がブルー社にタングステンを供給しなかったことである
(以下、「要件①」とする)。2 つ目は、レッド社がブルー社にタングステンを供給しなかった際に、レッド社がネゴランド国外の他の購入者にタングステンを供給したことである(以下、「要件②」とする)。
第2 レッド社はブルー社に対し、別添 6 契約に基づくタングステンの供給義務に違反している。
1. 要件①と要件②を満たすため、レッド社は別添 6 契約に基づくタングステンの供給義務に違反している。以下に、要件①と要件②を満たす事実を示す。初めに、要件①について示す。レッド社はブルー社の注文に対して、2015 年 11 月から 2016 年 3 月にかけてタングステンを引き渡さなかった(¶22)。この事実から、要件①を満たす。
2. 次に、要件②について示す。要件②において、レッド社はタングステンの国内分の供給量が増加し、輸出に回すことができなかったことを理由に要件
②を満たさず、義務違反はないと主張する(¶23)。しかし、その主張は認
められない。2015 年 11 月以降増加したタングステンの国内向けの供給は、メディトリア国のブラック社がネゴランド国に設立した 100%子会社であるブラック・ネゴランド社に対するものである(¶22)。ブラック・ネゴランド社の設立目的とその性質を考慮すると、別添 6 契約において、ブラック・ネゴランド社はメディトリア国のブラック社と同一と見なされるべきである。以下に、その根拠を述べる。
3. まず、ブラック・ネゴランド社の設立目的について述べる。ブラック・ネゴランド社は以下の経緯で設立された。レッド社のオレンジが、「現在ブルー社との間で、当社で扱うレア・メタルについては、輸出分はブルー社に優先して供給する約束をしている」旨の発言をしたことを受けて、ブラック社はタングステンを取引するために、ブラック・ネゴランド社をネゴランド国に設立した。(¶22)。このことから、ブラック・ネゴランド社は、ネゴランド国内分の需要と見せかけて、ブルー社に優先供給されるべきタングステンを奪うために設立されたと評価できる。
4. 次に、ブラック・ネゴランド社の性質について述べる。ブラック・ネゴランド社はブラック社の 100%子会社である。ブラック・ネゴランド社の意思決定は親会社であるブラック社が行い、その利益は親会社であるブラック社に帰属する。つまり、ブラック・ネゴランド社はブラック社の支配の下、ブラック社の利益のために行動する会社である。
5. 以上のことから、ブラック・ネゴランド社はメディトリア国のブラック社と別添 6 契約において同一視されるべきである。つまり、ブラック・ネゴランド社はネゴランド国以外の購入者と評価できる。別添 9 によると、ブラック・ネゴランド社にタングステンの供給がなされていなければ、ブルー社へのタングステンの供給は可能であった。このことから、レッド社がブルー社にタングステンを供給しなかった際に、レッド社がネゴランド国外の他の購入者にタングステンを供給しているため、要件②を満たす。したがって、要件①と要件②を満たすため、レッド社は別添 6 契約に基づく義務に違反したと評価できる。
第3 ブルー社は UPICC7.4.1~7.4.4 条に基づいて、損害賠償を請求する
1. レッド社の債務不履行は明らかであるため、UPICC7.4.1 条(損害賠償請求権)を満たす。そして、ブルー社は、UPICC7.4.2 条(全部賠償)(1)より、レッド社の債務不履行により生じた損害の全部賠償を請求する権利を有
しており、かつ、UPICC7.4.3 条(損害の確実性)及び UPICC7.4.4 条(損害の予見可能性)の要件もすべて満たしている。以下に、その根拠を示す。
2. まず、UPICC7.4.3 条について述べる。レッド社の債務不履行の結果、ブルー社は 500 万米ドルの利益を得る機会を失った。この事実に争いはないため、ブルー社の 500 万米ドルの損害はレッド社の債務不履行に直接起因するものである。次に、UPICC7.4.4 条について述べる。別添 6 契約の締結時点において、レッド社がネゴランド国以外の国の企業をブルー社より優先した結果、ブルー社に不当な損害を負わせることを、レッド社は十分に予見することができる。以上のことから、ブルー社はレッド社に対して 500 万米ドルの損害賠償請求を求める。
請求内容 2
レッド社は白金の精錬に関し、別添 7 契約に基づいて、所定のロイヤリティを支払え
(金額については、後日特定する)。
≪請求要旨≫
レッド社は、ブルー社が有するレア・メタルの特定の精錬技術を、ライセンスする契約(以下、「別添 7 契約」とする)を締結した。レッド社はブルー社に対して、別
添 7 契約 3.2 に基づき白金の精錬に関して、ロイヤリティの支払い義務を負う。
第1 白金の精錬に関して、レッド社はブルー社に対して、別添 7 契約 3.2 に基づきロイヤリティを支払う義務を負う。
1. 別添 7 契約 3.2 の規定によれば、レッド社はブルー社に対して、 “Production Amount” に応じたロイヤリティの支払い義務を負う。 “Production Amount”とは、レッド社が“Licensed Technology”を使用して生産した商品の市場価格を指す。そして、“Licensed Technology”は、レア・メタルの特定の精錬技術(以下、「ブルー社技術」とする)を指すと定義されている(WHEREAS 条項)。つまり、レッド社は、ブルー社技術を使用して商品を生産した場合に、ロイヤリティを支払う義務を負う。
2. 加えて、別添 7 契約の趣旨についても言及する。別添 7 契約は、ブルー社がレッド社に対して、ブルー社技術のライセンスを許諾するための契約である(WHEREAS 条項)。つまり、別添 7 契約の趣旨はブルー社技術をレッド社にライセンスすることである。この契約の趣旨に鑑みれば、タングステン以外の金属の精錬にブルー社技術が使用されたとしても、レッド社がブルー
社技術を使用していることに変わりはないため、レッド社は生産量に応じたロイヤリティを支払うべきである。
第2 仮に、第 1 の主張が認められないとしても、レッド社とブルー社は、単純合意(UPICC3.1.2 条)に基づき別添 7 契約の変更を行ったため、レッド社は白金の精錬に関して、ロイヤリティを支払う義務を負う。
1. UPICC3.1.2 条(単純合意の有効性)は、当事者の合意によって契約の変更が認められる旨を規定している。レッド社とブルー社間で、ライセンス技術を白金の精錬においても利用できるように、レッド社が別添 7 契約の内容を変更することを申し込み、ブルー社がその申し込みに承諾した(¶24)。以上のことから、単純合意による契約の変更が合意されたと評価できる。具体的には、変更前の別添 7 契約 1.1“… Agreement solely to refine Tungsten”に“Platinum” の文言が付け加えられ、“… Agreement solely to refine Tungsten and Platinum”と変更するように合意した。このことから、別添
7契約はレッド社の白金の精錬についても適用されるため、レッド社は白金の精錬に関してブルー社技術を使用した場合、ロイヤリティを支払う義務を負う。
第3 レッド社は、書面による契約変更がなされていないことを理由に別添 7 契約の変更を否定できない
1. レッド社は別添 7 契約 7.10 完結条項規定を援用して単純合意による契約の変更を認めないとの主張することが予想されるが、その主張は認められない。なぜなら、UPICC2.1.18 条(特定の方式による変更)は、原則として完結条項の遵守を規定するが例外として、「当事者は自己の行動を相手方が信頼して合理的に行動した限度において、当該条項の援用を妨げられる」と規定しており、レッド社は別添 7 契約 7.10 を援用できないからである。以下に、その根拠を示す。
2. レッド社はブルー社に対し、別添 7 契約の変更契約書を送付すると述べたにもかかわらず変更契約書を送付せず、グリーン社との間で白金の精錬に関するライセンス契約を締結した(¶25)。ブルー社は、レッド社が契約を変更することを信頼して、変更手続きの確認をレッド社にして、変更契約書の到着を待った。別添 7 契約の変更過程において、それらの行動は合理的であったといえる。よって、レッド社は UPICC2.1.18 条を援用することが出来ない。したがって、別添 7 契約の変更は、口頭での合意によって成立した。
第4 レッド社は、ブルー社技術を使用して白金を精錬したため、ロイヤリティを支払わなければならない。
1. レッド社は、2016 年 3 月 1 日からブルー社技術を使用して白金の精錬を行っているため(¶25)、レッド社はブルー社に別添 7 契約 3.2 に基づいてロイヤリティを支払う義務を負う。この点、レッド社は白金の精錬に関して、グリーン社からライセンスされた技術(以下、「グリーン社技術」とする)を使用しているため、ロイヤリティを支払う義務を負わないと主張するが、その主張は認められない。以下に、その根拠を示す。
2. 2017 年 3 月 1 日、アービトリア仲裁センターにおいて、グリーン技術は ブルー社技術と同一であると判断された(¶27)。また、2017 年 4 月 1 日、 グリーン社があるメディトリア国の特許庁は、グリーン社技術とブルー社技 術は同一であるとの理由で、グリーン社の特許申請を拒絶した(¶27)。そ して、グリーン社はメディトリア国特許庁の判断に不服申し立てを行ったが、 2017 年 5 月 1 日付で退けられた(¶27)。これらの仲裁廷及び特許庁の判 断から、ブルー社技術とグリーン社技術は同一であると判断するべきである。
3. 一方、ネゴランド国では、2017 年 4 月 1 日にネゴランド特許庁において、グリーン社が特許権者であることが認められたが(¶27)、ブルー社技術とグリーン社技術が異なるものであると決定づけるものではない。ネゴランド国特許庁に対するブルー社の異議申立ては、ブルー社技術とグリーン社技術の同一性を判断することなく、拒絶された(¶27)。このことから、ネゴランド国特許庁はブルー社技術とグリーン社技術が同一であることを否定していない。したがって、グリーン社がネゴランド国法上特許権者であるとしても、ブルー社技術とグリーン社技術は同一であり、レッド社はブルー社に対して、別添 7 契約 3.2 に基づきロイヤリティを支払う義務を負う。
漁業事件
請求内容①
ブルー社はレッド社に対して守秘義務違反はないため、1000 万米ドルの損害を賠償する義務を負わない。
≪請求要旨≫
レッド社は、別添 20 の守秘義務契約(以下、「別添 20 契約」とする)に基づいて、魚種資源保存条約に反する違法な操業についてネゴランド政府が黙認していた情報(以下、「違法操業情報」とする)を、ブルー社が漏洩したとして債務不履行を主張するが、その主張は認められない。
違法操業情報は、別添 20 契約において守秘義務の対象となる機密情報ではない。
そのため、ブルー社は違法操業情報に対して、別添 20 契約に基づく債務を負わない。したがって、ブルー社はレッド社に対して債務不履行責任を負わない。
なお、レッド社が被った損害は、違法操業情報の公表によって発生した損害であるため、本書面では、違法操業情報に関してのみ主張する。
第1 違法操業情報は、ブルー社が負う守秘義務の対象に当たらない。
1. ブルー社は、別添 20 契約 1 に定義づけされた機密情報に守秘義務を負っているが、違法操業情報は機密情報に該当しないため、守秘義務を負わない。以下に、その根拠を述べる。
2. 機密情報は、「(ⅰ)魚種資源調査プロジェクトの存在、(ⅱ)開示者によって開示され、かつ機密と明確にラベル付けされた情報、もしくは、その情報の性質またはその開示をめぐる状況を考慮して、合理的に機密であるとみなされるべきあらゆる機密、専有または秘密」を指すと定義づけされている。違法操業情報が機密情報の定義に当てはまらないことを示す。
3. まず、違法操業情報は、魚種資源調査プロジェクトと直接関係がないものである(¶35)。そのため、魚種資源調査プロジェクトの存在に関わるものではない。次に、違法操業情報には明確に「機密」とラベル付けされていたとの事実はない。最後に、違法操業情報の性質を述べる。違法操業情報は、魚種資源保存条約に違反するものであり、本条約によれば、違反事実は公表されなければならない(¶35)。この事実から、違法操業情報は公表されなければならない性質をもつ情報である。よって、その性質を考慮すると、合理的に機密であるとはみなされない。したがって、違法操業情報は機密情報の定義に当てはまらず、ブルー社が負う守秘義務の対象に当たらない。
第2 仮に、違法操業情報が機密情報であったとしても、過失がないため守秘義務は適用されない。
1. 違法操業情報が公表されたのは、ブルー社が開示したからではなく、外部からハッキングされたからである(¶34)。ブルー社はこのことに関して過失がないため、守秘義務は適用されない。別添 20 契約 2(2)(ⅱ)は、
「受領者の過失なしに公にアクセス可能である部分には守秘義務が適用されない」との旨を規定する。別添 20 契約において、情報の受領者に対し情報漏洩防止の注意義務を規定するのは別添 20 契約 2(1)(ⅳ)条(以下、
「本条項」とする)である。つまり、過失の有無は本条項の義務を履行したかで判断できる。本条項は、「情報漏洩を防ぐために、自身が所持する同程度の重要性を有する機密情報に対して払うのと同等の、ただし合理的な注意を払わなければならない」との旨を規定する。受領者が本条項の定める注意義務を果たした場合には、受領者は過失がなかったと評価される。そして、その場合に漏洩した情報には守秘義務は適用されない。
2. ブルー社は外部からのハッキングを防止するために、外部からの電子メールについてウィルスの有無をチェックする標準的なプログラムを備えており、また、職員に対しては、度々、見知らぬ添付ファイルを開かぬように注意喚起をしていた(¶34)。つまり、ブルー社は情報漏洩を防ぐため に、自身が払うのと同等で、合理的な程度以上の注意を払ったと評価できる。実際に、違法操業情報の漏洩が発生したのは、社外から送られてきた電子メールがブルー社の得意先を騙った自然なものであり、また、xxxxが新種で、ブルー社の有するプログラムをすりぬけたからである(¶ 34)。加えて、ブルー社以外の企業数社がこのウィルスの被害にあった(¶ 34)。つまり、違法操業情報の漏洩を防ぐことは、非常に困難であったと評価できる。
3. 以上のことより、ブルー社に過失はない。したがって、違法操業情報には別添 20 契約に基づく守秘義務は適用されない。
請求内容②
レッド社とブルー社との間の 2012 年 9 月 1 日付契約(以下、「別添 17 契約」とする)は、解消、あるいは、改訂されるべきではない。
≪請求要旨≫
レッド社は、ある出来事をもとに、Super Red Mix の生産能力は従来の半分に落ち込み、生産コストは倍になったと主張している。レッド社は、ハードシップが適用され、別添 17 契約の再交渉を主張している。
しかし、レッド社が主張する事情はハードシップの要件を満たさないため、レッド社の主張は認められない。仮に、ハードシップが認められても、レッド社が求める改訂案や契約の解消は合理的ではないため、認められない。また、ハードシップが認められた場合にブルー社が合理的だと考える改訂案を主張する。
第1 レッド社の主張する事情は、UPICC6.2.2 条の定める要件を満たさない
1. UPICC6.2.2 条(ハードシップの定義)はハードシップの要件として、ある出来事が生じたため、当事者の履行に要する費用が増加し、または当事者の受領する履行の価値が減少し、それにより契約の均衡に重大な変更がもたらされた場合において、(a)~(d)号に定める要件が満たされなければならない。以下に、レッド社が別添 21 において示す契約の改訂または解消理由がハードシップの定義に当てはまらないことを示す。
2. まず、Super Red Mix の生産コストが倍になったことは、契約の均衡に重大な変更をもたらすものではない。ブルー社は変動する定価の 1 割引の値段で Super Red Mix を買うのであり、レッド社のみが過大に生産コストの増加分のリスクを負うものではない。よって、生産コストが倍になったことは、契約に重大な変更をもたらすものではない。
3. 次に、レッド社の主張する出来事(別添 21①~③)が、UPICC6.2.2 条の(a)~(d)号に当てはまらないことを示す。1 つ目に、別添 21①は要件(d)号を満たさない。Super Red Mix の取引交渉に際して、レッド社はネゴランド・フィッシュが豊富にいることを明言した上で、別添 17 契約を締結している(¶32)。別添 17 契約の履行に必要なネゴランド・フィッシュの漁獲量に関して、レッド社が保証して別添 17 契約を締結しているため、レッド社はその漁獲量に関するリスクを引き受けている。
4. 2 つ目に、別添 21②は要件(b)号を満たさない。別添 17 契約は 15 年に及ぶものであるため、レッド社は期間中の為替変動を契約締結時に合理的に考慮できる。
5. 3 つ目に、別添 21③は要件(d)号を満たさない。納入業者が納品を拒否したのは、ブルー社が情報漏洩したことを理由とするものではなく、レッド社が秘匿にしていた違法操業情報によって発生したものである。そのため、違法操業情報を有するレッド社が、違法操業情報によって発生し得るリスクを引き受けている。以上のことより、ハードシップの要件を満た
さないためレッド社の主張は認められない。
第2 仮に、ハードシップの適用が認められても、レッド社の主張する改訂は合理的ではないため、認められない。また、契約の解消も合理的ではないため認められない。
1. レッド社の求める改訂案およびその改訂理由が合理的ではないことを示す。1 つ目に、レッド社がブルー社に定価の 1 割引で Super Red Mix を供給することを止めることは、契約の均衡を回復するものではないため、合理的ではない。この割引規定は、ブルー社が一定量以上の Super Red Mixを購入することを約して盛り込まれたものである(¶32)。ブルー社にとって Super Red Mix はなくてはならないものであるため(¶32)、ブルー社は今後も一定量以上の Super Red Mix を継続的に購入すると想定される。よって、ブルー社が一定量以上の Super Red Mix を購入するのに対して、 1 割引がなされないのであれば、ブルー社に一方的に不利なものであり、契約の均衡を回復するものではない。
2. 2 つ目に、レッド社は現在の最大供給額 5000 トンが現実的ではないと述べるが、契約締結時から現在においてのブルー社の年間注文量の増加推移をみれば、十分に現実的である。以下の表は年間注文量の推移である。
注文期間 | 注文量 |
2012 年 9 月から 2013 年 8 月(1 年目) | 1340 トン |
2013 年 9 月から 2014 年 8 月(2 年目) | 1700 トン |
2014 年 9 月から 2015 年 8 月(3 年目) | 2170 トン |
2015 年 9 月から 2016 年 8 月(4 年目) | 2400 トン |
360 トン増加
470 トン増加
230 トン増加
1 年目の注文量 1340 トンと 4 年目の注文量 2400 トンを比較すると、その
増加量は 1060 トンである。ここから 1 年ごとの増加量の平均を割り出す
と、1060÷3=353.33…であるため、これからも 1 年ごとに平均してブル
ー社の注文量は平均約 353.3 トン増加すると考えられる。別添 17 契約は残
り 11 年間にわたって継続するものであるため、最終年度のブルー社の注文量は、2400+353.3×11=6286(トン)となることが予想される。つまり、ブルー社の需要は 5000 トンを裕に超えると考えられる。よって、最大供
給額 5000 トンは十分に現実的な数値である。
3. 3 つ目に、レッド社は最大供給額を 1200 トンに改訂するべきと主張する
が、それは契約の均衡を回復するものではなく、合理的ではない。ブルー社の最近の Super Red Mix の年間注文量は 2400 トンである。この値は現在、ブルー社がブルー・サーモンの養殖において必要な Super Red Mix の量である。仮に、1200 トンまでしかレッド社から Super Red Mix が供給されない場合、ブルー社はブルー・サーモンの養殖を満足に行うことができず、ブルー社に過大な損失を与えることになる。したがって、契約の均衡を回復するものではない。
4. 4 つ目に、レッド社はブルー社の最低購入義務の規定を無くすことで、契約改訂のxx性を保っていると主張しているが、その主張は認められない。上記の表からわかる通り、ブルー社は契約 1 年目から最低購入義務の 1000 トンを超える量を注文しており、注文量も年々増加している。そして、ブルー社にとって、Super Red Mix は不可欠なものである(¶32)。故に、これからもブルー社の注文が最低限度の注文量でなされるとは考えられない。したがって、ブルー社にとって、最低供給義務を撤廃することが契約改訂のxx性を保つものではない。
5. 以上のことより、本件改訂案は合理的な改訂内容ではない。したがっ
て、レッド社の主張する別添 17 契約の改訂は認められない。また、レッド社は契約を解消することについても主張しているが、契約改訂により契約の不均衡を回復する手段が残っているにもかかわらず、契約を解消することは合理的ではない。Super Red Mix は供給不可能になったわけではな
く、現在でも生産している。契約の履行は可能であるため、契約の解消は合理的ではない。
第3 仮に、ハードシップが認められた場合、その改訂内容は、販売価格は定価の
1 割引を維持し、最低購入量の規定も残し、最大供給額は可能な限り引き下げて
も 2400 トンとするのが合理的である。
1. 仮に、別添 17 契約を改定するのであれば、以下に示す改訂内容が合理的である。別添 17 契約は、ブルー社の必要とする量をレッド社が供給するものであるため、少なくとも現在のブルー社の注文量以上の最大供給額の改訂がなされるべきである。よって、最大供給額の改訂は 2400 トンが限度である。また、価格については、ブルー社がこれからも一定量以上の Super Red Mix を継続的に購入するため、1 割引がなされるべきである。