が「使って OK です」といった時点で契約が成立する
(1)著作権契約書の基礎
平成 20 年度著作権委員会第 1 部会
xx
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1.はじめに
著作権契約は他の契約と同様に無方式で成立するが,契約書を作成することは必須作業である。なぜなら,たとえ当事者間で一定内容の著作権契約がなされたとしても,著作権の移転や,許諾の範囲,対価,さらに著作者人格権の行使・不行使について,当事者間で合意を欠き,後に争いになることが多いためである。また,著作xxによって著作権者に認められる権利は,著作物の「複製」「公衆伝達」(上演,公衆送信,展示,譲渡,貸与,頒布など)「加工」(翻案,翻訳など)の 3 つに過ぎないが,著作権契約によれば,支分権ではない「プログラムの使用」についての使用者や使用地域,さらに試用期間などの制限を与えたり,権利制限規定により認めている「プログラム複製物の所有者による複製や翻案」を規制することも可能で,著作xxの内外の行為をコントロールすることができるようになる。
我々弁理士は,弁理士法によって「著作物に関する権利(中略)の契約の締結の代理若しくは媒介を行い,又はこれらに関する相談に応ずることを業とする」ことを認められている(弁理士法第 4 条第 3 項)。現在,この著作権契約業務についてもニーズが生じてきている以上,著作権契約書の作成作業について,もう一度,知識を確認し,さらにブラッシュアップすることが大切であろうと考える。
この章においては著作権契約の基礎を解説するとともに,次章以下では具体的な著作権契約の具体例について解説する。
2.著作権契約と著作xx
著作権契約は著作xxの取り決めない事由や著作xxと異なる内容を規定してもよい。
①債権の発生
債権は,次の 4 つの場合に発生する。すなわち,①契約,②不法行為,③不当利得,④事務管理である。従っ
て,著作権契約も著作xxに対する不法行為も債権の発生原因になる点において同じである。
②契約自由の原則
契約を結ぶか結ばないか,契約の内容や形式をどのように決定するかは当事者の自由である。また,契約は法律に対しても優位性を持ち,以下に示す民法 91条により,法律上の公の秩序に関しない規定(任意規定)と異なる内容を規定することは自由である。
民法 第 91 条(任意規定と異なる意思表示)
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは,その意思に従う。
この法律の意味するところは次の 2 つである。
(ⅰ)契約によって,法律上の公の秩序に関しない規定(任意規定)と異なる内容を規定することは自由である。
(ⅱ)公の秩序に関する規定(強行規定)に反する契約は,無効となる。
なお,「公の秩序に関する規定」とは,民法 90 条公序良俗違反や各法律の強行規定,例えば,著作xxでいえば著作者人格権の譲渡条項などが該当する(後述)。
③契約と法律の力関係
原則は,法律に対し契約が優先する(民法第 91 条)。著作xxと著作権契約との関係でいえば,「いかなる場合でも本プログラムを改変できない」(著作xx第 47 条の 2 の否定),「実演家に対し,二次的利用時に使用料を支払う」(著作xx第 91 条 2 項の否定)などの契約がこれに該当し,これを契約が法律の規定を変更することになるため「契約のオーバーライド」という。
しかしながら,法律が強行規定であった場合は,契約に対し法律が優先する(民法第 91 条の例外文言)。例えば,「著作者人格権を譲渡する」などの契約約定は無効である(著作xx 59 条違反)。
④契約あるいは法律のみの記載
契約あるいは法律の一方にのみ記載されている事柄は,当然にそれが適用される。上述したように,著作xxは「プログラムの使用」を著作者の権利とはしていないが,例えば,「本プログラムの使用は日本国内に限る」「本プログラムの使用は契約者当事者に限る」などの契約が結ばれれば契約の締結者はこれに従わなければならない。
一方で,契約締結時に法律の規定を失念した場合には法律の規定が適用されることになり,一方の当事者について後日不利益が生じる場合があり注意が必要である。例えば,譲渡規定において契約当事,著作権者は全ての著作権を譲受人に受け渡す意図があったとしても,「著作権譲渡契約において,翻案権や二次的著作物に関する権利の言及がなかった場合のxxxxxx」(著作xx第 61 条 2 項)があるため,単に「著作権を譲渡する」とのみ述べ,この特掲を失念した場合は著作権者に著作権の一部が残留してしまう。
3.著作権契約の成立から終了まで
著作権契約は,次のように成立し,履行を行い,終了する。
(1)著作権契約の成立
①契約成立の原則
著作権契約は,著作権の譲渡もしくは著作物の利用についての許諾について,申込と承諾が合致した時点で成立する。契約書は必ずしも不要である。
著作物の利用契約の成立について争われた裁判には次の事件がある。
★「懸賞論文事件」H2.11.16 東京地裁 昭和 61(ワ)2867被告である大学の懸賞論文募集に応募した原告 が,大学発行の雑誌に掲載されたことについて許
諾をしていないとの主張に対し,祝賀会において,被告大学懸賞論文の事務担当者が原告に対し原告論文を被告雑誌に掲載することになった旨伝えたという事実は,これをもって,原告論文の出版の 許諾を求めた行為に当たると認定することができ,また,これに対する原告の態度は,右に対する黙示の承諾に当たると認定することができるとして,契約の成立を認定した。
②遠隔地間の契約成立の例外
(ⅰ)遠隔地間の合意は発信主義が取られる(民法第 526 条第 1 項)。
すなわち,コンピュータプログラムを「使わせてください」という使用希望者の申込に対して,提供者
が「使って OK です」といった時点で契約が成立する
(「使って OK です」という,その意思表示が使用希望者に届くかどうかは無関係)。
民法第 526 条(隔地者間の契約の成立時期)
第 1 項 隔地者間の契約は,承諾の通知を発した時に成立する。
(ⅱ)しかし,これを事業者・消費者間(B2C)で行われるインターネット上の契約で行う場合はこの契約成立は到達主義に修正されている。上記事例では,
「使って OK ですよ」という許諾者の承諾の意思表示がメール等により申し込み者に届いたときに契約が成立する。
電子契約法 第 4 条
民法第 526 条第 1 項及び民法 527 条の規定は,隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合については,適用しない。
③承諾の意思表示と認められる行為があった場合
(意思実現)
承諾の意思表示と認められる行為があった場合に契約が成立する(民法第 526 条第 2 項)。
著作権契約においては,プログラムを,「同意」をクリックして自己のコンピュータにインストールした場合の使用許諾契約がこれに該当する(クリックオンライセンス:但し,契約の成立性については議論の余地が残る)。
民法第 526 条(隔地者間の契約の成立時期)
第 2 項 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には,契約は,承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
④契約書の作成
上述の通り,一定の条件を満たせば著作権契約は成立する。しかしながら,契約書を作成しないことにより,次のような問題が生じる場合があり,契約書の作成は必要である。
(事例 1)著作物の原作品の譲渡は著作権の譲渡を意味しない。
→絵画を購入したからといって,勝手にその絵画を自分のHP で公開できない。
(事例 2)お金を払ったからといって著作権が譲渡されたとはみなされない。
→著作物の制作発注者は発注しお金を払ったという事実だけでは著作権者とならない。
(事例 3)たとえ著作権を移転したからといって,著作権者は勝手に改変することはできない。
→著作者人格権は著作者に残るので,著作物の改変は同一性保持権の侵害となる。
(事例 4)著作権の利用許諾をうけたとしても,どの範囲で許諾を受けたのか不明瞭な場合が多い。
→講演録の広報誌掲載を許諾してもらっても,ホームページへの掲載の許可があるのかは不明である。
(2)著作権契約の履行
①著作権の譲渡契約においては,著作権の譲受人は対価の支払いという債務を負い,著作権の譲渡人は著作権の譲渡という債務を負う(双務契約)。双方の債務が弁済されたときに契約が履行されたこととなるが,著作権には特許などの産業財産権と違い原簿が存在せず譲渡は無方式なので,見かけ上は譲受人の支払い債務だけとなる)。
②瑕疵担保責任
民法第 570 条(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,第
566 条の規定を準用する。(後略)
民法第 566 条(地上xxがある場合等における売主の担保責任)
第 1 項 売買の目的物が地上権,永xxx,地役権,留置権又は質権の目的である場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。
第3項 前二項の場合において,契約の解除又は損害賠償の請求は,買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
履行がされた場合であっても,譲渡した著作権が第三者の著作物を模倣したものである場合など,契約の目的物である著作権に瑕疵がある可能性を有する。権利に瑕疵があった場合に,権利の譲受人(買主)は契約の解除,または損害賠償を請求できる(但し,完全履行請求権(民法第 414 条)は認められない)。
(3)著作権契約の終了
①債務の弁済
(ⅰ)著作権の譲渡契約など単発的な契約の場合,当事者双方の債務が弁済されることによって,契約は終了する。
(ⅱ)著作物の利用許諾契約などの継続的な契約の場合,契約書で定めた期間等の契約継続条件が終了した場合に契約は終了する。例えば,契約期間を有限とし,この期間を経過した場合や,著作権が消滅したときに契約は終了するとした場合。
②約定解除権の行使(解約:民法 540 条)
利用許諾契約などの継続的な契約の場合,契約書中に,当事者のいずれか一方から一定の告知期間を決めて行使することができる契約解除権を規定することができる。
民法 第 540 条(解除権の行使)
第 1 項 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは,その解除は,相手方に対する意思表示によってする。
第 2 項 前項の意思表示は,撤回することができない。
③法定解除権の行使(債務不履行等による契約解除:民法 541 条)
たとえ,契約書に予定していなかったとしても,民法所定の条件を満たした場合に契約を解除することができる。
民法 第 541 条(履行遅滞等による解除権)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。
③著作物の利用契約の場合は,契約で定めた契約期間内,著作権者が当該利用者の契約内容での利用について意義を申し立てないことで契約は履行されている。
4.著作権契約の不履行に対する救済手段
著作権契約者の一方が債務を履行しない場合は,相手側はその不履行に対して次の履行強制,損害賠償,契約解除の 3 つの手段を採ることができる。
(1)契約履行の強制(民法 414 条)
民法 第 414 条(履行の強制)
第 1 項 債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
契約不履行があった場合は,契約当事者は他方の当事者に対して契約内容の履行を求めることができる。
第 2 項 債務の性質が強制履行を許さない場合において,その債務が作為を目的とするときは,債権者は,債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし,法律行為を目的とする債務については,裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
第 3 項 不作為を目的とする債務については,債務者の費用で,債務者がした行為の結果を除去し,又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
第 4 項 前三項の規定は,損害賠償の請求を妨げない。
具体的には,裁判で判決を貰い,この判決に基づいて民事執行手続きを求めることになる。例えば,著作物の利用の対価を支払ってもらえない場合,裁判所で判決(xxxを有する)をもらい,財産を差し押さえることとなる。なお,「債務の性質がこれを許さないとき」とは,「作曲の依頼契約の不履行において,作曲家をホテルに缶詰にしてむりやり作曲させる」ようなことがこれに該当する。
(2)契約違反に基づく損害賠償請求(民法415条,416条)契約違反により,一方の当事者が損害を受けた場合
民法 第 415 条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも,同様とする。
民法 第 416 条(損害賠償の範囲)
第 1 項 債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
第 2 項 特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときは,債権者は,その賠償を請求することができる。
は,その損害を契約の相手方に請求することができる。
民法 第 541 条(履行遅滞等による解除権)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。
民法 第 545 条 (解除の効果)
第 1 項 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を現状に回復させる義務を負う。但し,第三者の権利を害することはできない。
第 2 項 (省略)
第 3 項 解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない。
なお,契約解除の 3 要件は次の通りである。
(a)債務不履行の事実があること。
(b)債務者に帰責事由があること。多数説である。但し不要とする有力説もある。
(c)相当の期間を定めて催告を行なうこと。なお,
「相当の期間」:契約の目的物等によりケースバイケースであるが 2 週間~ 1 ヶ月程度で十分な場合がほとんどである。
また,双方の現状回復義務を有する。例えば,コンピュータプログラムの制作・著作権譲渡契約が解除され,手付金などの支払済み代金があった場合は,それを返還しなければならない。
5.著作権契約の制限
契約自由の原則はあるものの,全ての契約が有効となるわけではない。
(1)法律の強行規定に反する場合の制限
①公序良俗違反(民法 90 条)
民法第 90 条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。
なお,損害賠償請求の 3 要件は次の通りである。
(a)債務不履行の事実があること。
(b)債務者に帰責事由があること。但し,「帰責事由がないこと」=「無過失」は債務者側の抗弁事由である。
(c)その債務不履行によって損害が発生したこと。
(因果関係)
(3)契約の解除(民法 541 条)
債務不履行があった場合など,一定の場合に契約を解除することができる。
著作権に関する裁判例ではないが,商標・不正競争防止法違反の商品に関する売買契約が公序良俗違反で無効となった事件として次のものがある。
★「xxxxxxx事件」H13.6.11 最高裁第xx法廷 平成 12(受)67 (判時 1757 号 62 頁)商標法及び不正競争防止法違反の商品(「XXXXX
LAUREN」の文字とポロの図形を付した衣料品)の卸業者であるXが,その商品を扱った小売業者Yに対して売掛代金の請求を行った事件である。最高裁判所は,「 本件商品の取引は,単に上記各法律
に違反するというだけでなく,経済取引における商 品の信用の保持とxxな経済秩序の確保を害する著しく反社会性の強い行為である」として,公序良俗違反を認定し,民法 90 条によりこの売買契約を無効とした。
②強行規定違反
(ⅰ)著作xxにおける強行規定
著作xxにおける代表的な強行規定は,著作者人格権の譲渡である。著作者人格権は一身専属性を有するため(著作xx 59 条),これに反する約定は無効である。
独占禁止法 第 19 条
事業者は,不xxな取引方法を用いてはならない。
(ⅲ)消費者契約法
消費者契約法 第 10 条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法,商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。
著作物に関する利用許諾契約(例えば,コンピュータソフトのクリックオンライセンス)についても,それが事業者と消費者との間で為される契約であれば,消費者保護のために設けられた消費者契約法が適用される。
第 59 条(著作者人格権の一身専属性)
著作者人格権は,著作者の一身に専属し,譲渡することができない。
(ⅱ)独占禁止法
独占禁止法となる著作権契約も強行規定違反となるため同様に無効となる。独占禁止法違反となる行為は次の通りである。強い著作権を背景にした利用許諾契約においても該当する場合があり(他のプログラムソフトとの抱き合わせ許諾など)注意が必要である。
(a)「私的独占」(独禁法 3 条前段)
(b)「カルテルなどの不当な取引制限」(独禁法 3
条後段)
(c)「差別的対価,抱き合わせ販売,再販価格拘束,優越的地位の濫用などの不xxな取引方法」(独禁法 19 条)
独占禁止法 第 3 条
事業者は,私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
独占禁止法 第 2 条
第 5 項 この法律において「私的独占」とは,事業者が,単独に,又は他の事業者と結合し,若しくは通謀し,その他いかなる方法をもつてするかを問わず,他の事業者の事業活動を排除し,又は支配することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
第 6 項 この法律において「不当な取引制限」とは,事業者が,契約,協定その他何らの名義をもつてするかを問わず,他の事業者と共同して対価を決定し,維持し,若しくは引き上げ,又は数量,技術,製品,設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し,又は遂行することにより,公共の利益に反して,一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
同法律は,消費者と事業者との間での情報の量と質及び交渉力における格差を考慮し,民法の規定を補完する目的で設けられた特別法である。
平成 17 年 8 月に提出された,文化審議会著作権分科会の契約・利用ワーキングチーム検討結果報告には次の見解が示されている(文化庁HP で閲覧可能)。
「著作権契約との関連では,特に,消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする第 10 条の規定が問題となる。(中略)具体的な判断基準は現時点では必ずしも明確ではないが,例えば,シュリンクラップによるソフトウェア契約等のうち,事業者と消費者との間で法律及び技術面での専門知識の格差を背景として消費者に過剰な制約を強いるようなものは,当該条項に基づき無効と判断される可能性がある。」
(ⅳ)その他
その他,著作権契約上で注意を必要とする強行規定には次のようなものがある。
(a)労働基準法:労働契約の最低条件違反
(b)利息制限法:上限金利を超える金利
(c)下請法(下請代金支払遅延等防止法):親事業者の発注書面(3 条書面)交付義務違反・支払期日を定める義務等違反,買い叩き禁止等違反,下請事業者の給付の内容として成果物に係る知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する,など。
(2)契約成立過程に瑕疵があった場合の制限
①「虚偽表示」「錯誤」があった場合は無効である。
②「詐欺・脅迫」があった場合は取り消すことができる。
民法 第 94 条(虚偽表示)
第 1 項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は,無効とする。
第 2 項 前項の規定による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。
民法第 95 条(錯誤)
意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。
民法 第 96 条(詐欺または強迫)
第 1 項 詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。
第 2 項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知っていたときに限り,その意思表示を取 り消すことができる。
第 3 項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができない。
なお,著作権契約において錯誤無効が争われた下記の事件があるが,いずれも認められていない。
(a)「契約の対象が著作物でなかった」ことを理由とした契約の錯誤無効の主張が認められなかった事件
★「チョコエッグ事件」 H17. 7.28 知財高裁 平成 16(ネ)3893
(原審:大阪地裁 平成 15(ワ)10346 等)
原告はフィギュアの原型を被告に提供することにより対価を受け取る旨の「著作権使用許諾契約」を締結したが,被告は原告に商品の製造数量について実際より過小の虚偽の報告に基づく支払を行ったため,原告がこの契約に基づくロイヤルティ及び約定違約金の支払を求めた事件。
原審ではすべてのフィギュアについて,また控訴審では一部のフィギュアに著作物性を否定。しかしながら,原審,控訴審とも「模型原型が著作権法上の著作物に該当するか否かにかかわらず,原告がより優れた模型原型を制作し,それによって被告の菓子等の売上が増加した場合に,被告のみならず原告もそれによる利益を享受し得るようにする点に,ロイヤルティ方式を採る趣旨があったとみる方が,前記認定の原被告間の契約をめぐる経緯に合致する」として,契約の対象物が著作物でなかったことにより契約が錯誤無効にならないと判示した。
(b)「契約当事者が著作権法上の権利を有する者ではなかった」ことを理由とした契約の(b)
「契約相手が法律上の権利を有していなかった」ことを理由とした契約の錯誤無効の主張が認められなかった事件
★「実演家の著作権契約事件」H17. 8.30 知財高裁判決 平成 17(ネ)10009
(原審:東京地裁 平成 16 年(ワ)1406 ~ 1408)
本事件では,原告(芸団協)と被告(ケーブルテレビ放送会社各社)間に「著作物使用に対する使用許諾契約」が成立していたが,有線放送に実演家の権利は及ばない(著作xx 92 条 2 項)ことを理由に,この契約が錯誤による無効又は詐欺により取消し得べきものかどうかが争われた(東京地裁における原審ではこの主張が認められた)。
知財高裁は,「著作隣接権を有しない原告芸団協と締結した本件各契約は有効か」について,『著作xx第 92 条2項に「放送される実演を有線放送する場合」に実演家の有線放送権は及ばないと規定されているにもかかわらず実演家の団体である原告芸団協が契約当事者となっている意味,及び本件各契約のうち原告芸団協に係る契約の部分については,著作物の使用料ではなく,第1条2項の「補償金」を支払うものであることについて,認識していたものと認められる。』として,原告が著作人格権を有さないことを理由として契約の無効性を認定した原審を破棄し,契約の有効性を認めた。
(3)契約当事者の能力による制限
当事者が,「未xx者」,「xx被後見人」,「被保佐人」等である場合には契約が取り消すことができる。
民法 第 5 条(未xx者の法律行為)
第 1 項 未xx者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。ただし,単に権利を得,又は義務を免れる法律行為については,この限りでない。
第 2 項 前項の規定に反する法律行為は,取り 消すことができる。
第 3 項 第 1 項の規定にかかわらず,法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未xx者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも,同様とする。
民法 第 9 条(xx被後見人の法律行為)
xx被後見人の法律行為は,取り消すことがで きる。ただし,日用品の購入その他日常生活に関する行為については,この限りでない。
民法 第 12 条(保佐人の同意を要する行為等)
第 4 項 保佐人の同意を得なければならない行為であって,その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができる。
(4)権利行使における制限
xxx違反に該当する場合,権利濫用に該当する場合は,権利行使はできない。
を含み,法人であっても,著作者人格権を有する。
民法 第 1 条(基本原則)
第 2 項 権利の行使及び義務の履行は,xxに従い誠実に行わなければならない。
第 3 項 権利の濫用は,これを許さない。
契約の行使が認められなかった事例ではないが,事実と著作権契約の内容とが異なる場合に主張された著作権の不法行為において次の判決がある。
★「宇宙戦艦ヤマト事件」 H13. 7. 2 東京地裁判決 平成 11(ワ)17262
著作権の譲渡契約と明らかに矛盾する「原告が著作者であり,被告らの行為は原告の有する著作者人格権を侵害する」との主張は,被告らの利用形態が原告の著作人格権を著しく害するなど特段の事情が存在する場合は除き,xxxないし禁反言の原則に反する主張として許されない,と判断された。
著作xx第 15 条(職務上作成する著作物の著作者)第 1 項 法人その他使用者(以下この条におい て「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段
の定めがない限り,その法人等とする。
第 2 項 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。
②著作権者の確認
(ⅰ)原則:著作者が著作権者となる(著作xx第
21 条~ 28 条:「著作者は……」)。
著作xx 第 61 条(著作権の譲渡)
第 1 項 著作権は,その全部又は一部を譲渡することができる。
(ⅱ)例外 1:著作権の全部または一部が他人に譲渡された場合は,その他人となる。
6.著作権契約における権利主体と客体
(1)権利主体確認の必要性
著作権制度においては,著作者が著作者人格権を有し,著作権者が著作権を有する。著作者と著作権者は著作物の創作時において同一であるが,著作権は移転する可能性があるため注意が必要である。また,著作者人格権は著作権のように移転することはないが,職務著作の場合は実際の創作者が権利を有することがないことにも注意が必要である。
①著作者の確認
著作者が有する著作者人格権は,著作物に現れる著作者の思想表現を保護するものであるが,著作物を経済的に利用する場合は同一性保持権など,財産的な価値としても重要な意味を持ってきている。著作権契約において,著作者人格権の取り決めは重要である。
著作xx 第 2 条 (定義)
第 1 項 第 2 号 著作者 著作物を創作する者をいう。
(ⅰ)原則:著作物を創作した自然人が著作者となる(著作xx第 2 条第 1 項第 2 号)。
著作xx 第 29 条(映画の著作物の著作権の帰属)第 1 項 映画の著作物(第 15 条第 1 項,次項又 は第 3 項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束していると
きは,当該映画製作者に帰属する。
著作xx第 2 条(定義)
第 1 項 第 10 号 「映画製作者」 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。
(ⅲ)例外 2:映画の著作物は,それが職務著作等である場合,第 29 条第 2 項,第 3 項で規定する放送用映画である場合以外は,著作xx 29 条の規定により,著作者の著作権が映画製作者に自動的に移転する。なお,本規定により著作権は移転しても,著作者は著作xx第 16 条の規定により定められるているので,著作者人格権はその著作者が有することとなる。
(ⅱ)例外:職務著作に該当する場合は,法人等の使用者が著作者となる(著作xx第 15 条)。すなわち,本当に著作物を創作した自然人は著作者ではなく,同自然人は著作権者のみならず著作者ともならず,一切の権利を有さない。また,職務著作上の使用者は法人
(2)客体についての注意
契約の対象は著作物であって,著作権でない場合が多い。そして,契約の対象は,必ずしも「著作権法上の著作物」や「著作権法上認められる権利」である必要はない。著作権侵害という不法行為において対象となるものの著作物性は重要な意味を持つが,著作権契約において著作物性は意味がないことに注意が必要である。
例えば,特許権が無効審決などにより消滅すれば,特許のライセンス契約は終了するのが普通である。なぜなら,特許権の契約の対象は特許権であり,特許権が消滅すれば特許権による排他権を期待し得なくなるからである。しかしながら,著作権契約においては,契約対象の著作物性が否定されても,その著作権契約は無効とならない。なぜなら,契約は著作権ではなく創作物を対象とする契約であり,ほとんどの契約は対象となる創作物に対して経済的利用を期待した契約と解されるからであろう。
上述したように,「著作物ではなかった」ことを理由に契約自体が錯誤無効になることもない(前述の
「チョコエッグ事件」)。
7.著作権契約の種類
著作権契約には,大きく分けて譲渡契約,信託契約,利用許諾契約,出版権契約の 4 つが存在する。
(1)譲渡契約
譲渡契約とは,著作権を移転する契約である。著作者が著作物を創作した際に原始的に取得する著作者人格権,著作権,原作品の所有権(美術の著作物,一定の条件下の写真の著作物)のうち,著作権及び原作品の所有権は財産的側面を考慮して移転することができる(著作権の移転については,第 61 条第 1 項(前述))。
①支分権毎の譲渡
著作権は次の通り著作xx 21 条~ 28 条に規定する 11 つの支分権からなるが,これらを個々に分割して譲渡することもできる。例えば,「複製権」のみを譲渡して,その他を留保するなどという譲渡契約も可能である。
(A)複製に関する権利
①複製権(21 条)→ 刊行物の印刷,CD や DVD
の複製など
(B)公衆伝達に関する権利
②上演権・演奏権(22 条)→コンサートでの演奏,演劇の公演など
③上映権(22 条の 2)→公での映画の上映,公での写真の投影など
④公衆送信権(23 条)→ TV 番組の放送,音楽の有線放送,写真のインターネット掲示,ファイル交換
⑤口述権(24 条)→小説の朗読など
⑥展示権(25 条)→絵画や写真の展示
⑦頒布権(26 条)→ DVD の販売,貸ビデオ
⑧譲渡権(26 条の 2)→印刷物の頒布,CD の販売など
⑨貸与権(26 条の 3)→貸レコード,貸本など
(C)加工に関する権利
⑩翻訳・翻案権(27 条)→小説の翻訳の許可,漫画に基づくアニメの製作の許可など
xxx的著作物に関する権利(28 条)→翻訳・映画など二次的著作物についての権利の共有
②原作品の所有権の移転と著作権の移転
著作xxx作品の所有権とは全く別の権利として取り扱われるため,原作品の所有権がその売買契約によって移転しても著作権はこれに付属して移転するものではない。従って,著作権を移転させるには,別途著作権の譲渡契約が必要である。両者の分離を明確に示した判決として,次の「xx卿自書建xx身帖事件」の最高裁判決がある。
★「xx卿自書建xx身帖事件」 S59. 1.20 最高裁判決 昭和 58(オ)171
最高裁判所は,「美術の著作物の原作品は,それ自体有体物であるが,同時に無体物である美術の著作物を体現しているものというべきところ,所有権は有体物をその客体とする権利であるから,美術の著作物の原作品に対する所有権は,その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり,無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないと解するのが相当である。」と判示した。
③著作物の制作委託と著作権の移転
著作物は発明と異なり,他人からの依頼により創作される場合がある。例えば,コンピュータプログラムやキャラクターデザインの請負制作などである。この場合,その請負契約に従ってその制作料の支払いが行われるわけであるが,たとえ制作料が支払われたとしても,それだけでは著作権譲渡の対価とみなされることはないことに注意が必要である。
写真の撮影依頼とその写真の著作権の移転について判示した次の判決が存在する。
★「ツーユー評判記事件」 H17. 1.17 大阪地裁 平成 15(ワ)2886
原告は写真家であって,広告代理店たる被告との間で広報誌「ツーユー評判記」に掲載するための写真の撮影に関する請負契約を締結し(両者は,この契約に基づいて原告が撮影した写真の使途の範囲や,その著作権の帰属,そのフィルムの所有権の帰属について,明示的な合意はしていない),
被告は原告に対して金銭を支払っていたが,本事件は,被告が,原告が承諾している以外の範囲について,それら写真の使用が為されていることについて損害賠償等を請求した事件である。裁判所は,金銭を支払っていることを理由として両者間において本件写真の著作権を同被告に譲渡する黙示の合意が存在したと解すべきであるとの被告の主張には,著作権を譲渡することは,元の権利者が,その著作物の使途を管理し,また,その使用者から収益を得る権利と機会を失うことを意味するから,本件写真が宣伝広告を目的とするものであるからといって原告がその著作権を同被告に譲渡することに直接結びつくものとはいえないとして,この主張を退けて原告に対して損害賠償を認めた。
④著作権の一部譲渡と共有の著作権
また,著作権の一部を譲渡し,著作物が共有となった場合には,その著作権の行使について共有者全員の同意が必要であり,共有にかかる特許権(特許xx第 73 条第 2 項)と取り扱いが異なることに注意が必要である。
著作xx 第 65 条(共有著作権の行使)
第 2 項 共有著作権は,その共有者全員の合意によらなければ,行使することができない。
近年,アニメーション作品等が,資金調達の容易さ,著作物の利用分担,さらにリスク分散の観点から製作委員会方式によって製作される場合が多いが,製作委員会への参加者は原始的に著作権を取得しているアニメ制作会社から著作権の一部譲渡を受けて共有者となる。この際,作品の劇場上映,有料放送,TV 放送の他, DVD 販売やキャラクターの商品化においてそれぞれの参加企業が権利行使することになるが,契約によって,予め合意を取っておかないと,この規定により行使ができない場合がある。
⑤翻案xx及び二次的著作物に関する権利の譲渡の特掲
27 条に規定する翻案xxと 28 条に規定する二次的著作物に関する権利は,譲渡契約書に特掲されなければ,著作権の譲渡人に留保したものとみなされる。従って,単に「著作権を譲渡する」との約定があったとしても,これらの権利移転は認められない。
著作物を商業的に利用するため,原著作物を原作として映画やアニメを制作し,玩具やフィギュアを商品化し,また音楽を編曲し,外国語に翻訳することが行われるが,これらは皆,27 条に基づく翻案xxの下
での行為である。従って,著作権の譲渡契約において特掲を失念すると,著作権の譲渡を受けた者は,商業上重要なこれら作業の授権を得ないので注意すべきである。
著作xx 第 61 条(著作権の譲渡)
第 2 項 著作権を譲渡する契約において,第 27条又は第 28 条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は,譲渡した者に留保されたものと推定する。
(2)信託契約
信託契約は譲渡契約の一種である。著作権の譲渡者を委託者,著作権の譲受人を受託者と呼び,委託者が受託者に著作権を移転等し,著作物の利用の許諾その他の当該著作xxの管理を行わせる契約である。著作権の受託者から委託者への受け戻し条項も規定されるのが普通である。
「著作xx管理事業法」が規定する管理委託契約には,かかる信託契約と著作物の利用の許諾の取次ぎ又は代理をさせ,併せて当該取次ぎ又は代理に伴う著作xxの管理を行わせる委任契約とが存在するが
(著作xx管理事業法第 2 条第 1 項),音楽著作権者と JASRAC(日本音楽著作権協会)などの音楽著作権管理団体との間の契約はこの信託契約が採用される。 JASRAC の定型契約書は次のように規定されている。
JASRAC 定型契約書(JASRAC の HP < http:// xxx.xxxxxx.xx.xx/ >よりダウンロード)
(著作権の信託)
第 3 条 委託者は,その有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を,本契約の期間中,信託財産として受託者に移転し,受託者は,委託者のためにその著作権を管理し,その管理によって得た著作物使用料等を受益者に分配する。この場合において,委託者が受託者に移転する著作権には,著作xx第 28 条に規定する権利を含むものとする。
(委託者からの解除)
第 22 条 委託者は,信託期間内においても,書面をもって受託者に通知することにより本契約を解除することができる。この場合,本契約は,通知が到達した日から起算して 3 月を経過した後最初に到来する 3 月 31 日をもって終了する。
著作権管理団体に著作権を信託した元著作権者(委託者)は,代わりに著作物の利用によって得られる収益から一定の金銭を受け取ることができる信託受益権を得るが,当然に著作管理団体(受託者)に個別の著
作物の利用許諾可否を指示することはできない。また,著作権管理団体(受託者)自体も,著作物の利用の申し込みに対して応諾義務を有する(著作xx管理事業法第 16 条)。
このように,信託契約によって著作権の利用を行っている団体(例えば,JASRAC)は,同じく著作物の利用を行っているが単純に下記のような利用許諾に基づいて事業を行っている団体(例えば,日本映像ソフト協会や日本書籍出版協会)と異なり,著作権者として法的な手続きを採ることができる。訴訟代理権も有するために,いわゆるカラオケ法理が確立された「クラブキャッツアイ事件」(S63.3.15 最高裁判決 昭和 59
(オ)1204)や「MUTA 事件」(H19.5.25 東京地裁判決 平成 18 年(ワ)10166)等も著作権管理団体であるXXXXXX が訴訟当事者になっている。
(3)利用許諾契約
著作権者は他人に,著作物の利用を許諾することができる(著作xx第 63 条第 1 項)。
著作xx 第 63 条(著作物の利用の許諾)
第 1 項 著作権者は,他人に対し,その著作物の利用を許諾することができる。
第 2 項 前項の許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において,その許諾に係る著作物を利用することができる。
第 3 項 第一項の許諾に係る著作物を利用する権利は,著作権者の承諾を得ない限り,譲渡することができない。
(第 4 項,第 5 項省略)
①許諾範囲
著作権は上述の通り著作xx 21 条~ 28 条に規定する支分権の束であるが,著作権の譲渡と同様にこれらを個々に許諾することが可能であるし,また,支分権に囚われず,許諾地域や許諾期間など自由な設定が可能である。また,禁止行為を明記する契約も可能である。
②支分権を超えた契約内容
著作権者が著作物の利用契約を結ぶメリットは,契約内容を明確にするという以上に次のメリットがある。
(a)著作権の支分権以上の加重を契約者に課すことができる。
例えば,「プログラムの使用」は著作権の支分権の一部ではないが,使用許諾契約において,使用者の特定,使用地域の特定,譲渡回数の制限を契約者に課すことができる。
(b)著作xxが保障する自由利用を禁止するこ
とができる。
例えば,著作xxが関与しない「プログラムのリバースエンジニアリング」(著作xxでは自由に可能と解される),「プログラムの著作物について複製物の所有者による複製・改変の自由」(著作xx第 47 条の 2)を禁止することができる。
なお,これら事例について,契約自由の原則(民法 91 条)の強行規定違反に当たらないか,との検討は,上述した文化審議会著作権分科会の契約・利用ワーキングチーム検討結果報告でなされているが,いずれも強行規定違反に該当せず問題ない,との見解が示されている。但し,利用許諾が事業者対消費者で行われる場合は,その契約内容が消費者契約法第 10 条に違反しないかどうか,検討されるべきであろう。
(4)出版契約
著作権のうち,複製権を有する者は他者に出版権を設定することができる(著作xx第 79 条第 1 項)。小説家やマンガ家などプロの著述者と出版社との間では,この出版権を設定する出版契約が結ばれる。一般に,著作権のことを「版権」と呼ぶことがあるが,本来は著作権のうちの複製権に対して設定されるこの出版権のことを意味し,必ずしも著作権全体のことを意味するものではない。出版権は,出版社からみると一定期間,著作権者から著作物の複製権を取り上げ,書籍としての財産的な支配を可能とする権利であり,著作者からみると出版権契約を取り交わした者の書籍を
「xx版」し,それ以外の「海賊版」から区別して,「xx版」を出版する者の手を借りてそれらを排除するための権利でもあった。
第 79 条(出版権の設定)
第 1 項 第 21 条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は,その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し,出版権を設定することができる。
(以下省略)
出版権者は,「頒布の目的をもつて,その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する」(著作xx第 80 条第 1 項)。出版契約は,利用許諾契約の一形態ではあるが,一度,出版権を設定すると,出版権者の許可がなければ複製権者自らも複製を行うことができなくなってしまう(著作xx 79 条第 2 項)。この点に着目すると,複製権に対す
る「(特許法上の)専用実施権」と考えることができる。但し,専用実施権下に通常実施権を設定できるのとは異なり,出版権者は他人に対して複製を許諾することはできない(著作xx第 80 条第 3 項)。
なお,書籍に文章や図画たる著作物が適法に掲載される場合は,(ⅰ)書籍の出版者に著作権全体が譲渡されている,(ⅱ)書籍の出版者に複製権が譲渡されている,(ⅲ)書籍の出版者に出版権が設定されている,
(ⅳ)書籍の出版者に掲載の許諾を与えている,の 4つのうちのいずれかに該当することになる。出版者からの執筆依頼を受けて文章等の著作物を制作し,それが書籍に掲載された,という単純な事例においては,著作権の全部または一部が移転したわけでも,出版権が設定されたわけでもなく,単に出版者は利用許諾を受けて文章等を掲載している,に過ぎない。出版者はその文章等について経済的な処分権を有するものでないことに注意が必要である。
参考文献
「はじめての契約法」(xxx,xxxxx,xxx
x,xxxx著・有斐閣)
「取引基本契約書の作成と審査の実務(第 2 版)」(xxxx著・民事法研究会)
「民法概説」(司法協会出版)
「キャラクター戦略と商品化権」(xxxx著・発明協会)
「著作xx概説」(xxxxx・有斐閣)
「日本文化の模倣と創造」(xxxx著・角川選書) (原稿受領 2009. 5. 13)